(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】シクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20240821BHJP
B29C 39/12 20060101ALI20240821BHJP
B29C 70/28 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C39/12
B29C70/28
(21)【出願番号】P 2021516102
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2020017059
(87)【国際公開番号】W WO2020218242
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019081554
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503423096
【氏名又は名称】RIMTEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正基
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-331547(JP,A)
【文献】特開2003-094454(JP,A)
【文献】特開2003-94454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/16
B29C 39/12
B29C 70/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルコート組成物と、
シクロオレフィンモノマーおよびラジカル発生剤を含むシクロオレフィン重合性組成物とを接触させた状態で、前記ゲルコート組成物を硬化させるとともに、前記シクロオレフィン重合性組成物を重合させることにより、
前記ゲルコート組成物の硬化と前記シクロオレフィン重合性組成物の重合とを進行させ、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とが密着してなるシクロオレフィン樹脂加飾成形品を得る工程を有する、シクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法。
【請求項2】
前記ゲルコート組成物に含まれる硬化促進剤の含有量が1.5質量%以下である請求項1に記載のシクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法。
【請求項3】
前記シクロオレフィン重合性組成物が、充填材を含む請求項1または2に記載のシクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法。
【請求項4】
前記充填材が繊維状および/または粒子状である請求項3に記載のシクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロオレフィン樹脂の加飾成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来シクロオレフィン樹脂成形品の被覆には一般に塗装が用いられている。
【0003】
特許文献1には、金型内で硬化させて得られたシクロオレフィン樹脂成形品の表面に、ラジカル重合性の塗料を該金型内に注入し、被膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2にはラジカル重合性モノマーとラジカル発生剤を共存させたシクロオレフィン重合性組成物が開示されているが、シクロオレフィン樹脂成形品の表面に被膜を形成することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】再表2005/046958号公報
【文献】再表2015/098636号公報
【文献】特開2005-271535号公報
【文献】特開2016-8243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とが密着したシクロオレフィン樹脂加飾成形品を製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ゲルコート組成物と、ラジカル発生剤を含むシクロオレフィン重合性組成物とを接触させた状態で、前記ゲルコート組成物を硬化させるとともに、前記シクロオレフィン重合性組成物を重合させることにより、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とが密着してなるシクロオレフィン樹脂加飾成形品を得る工程を有する、シクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の製造方法において、前記ゲルコート組成物に含まれる硬化促進剤の含有量が1.5質量%以下であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記シクロオレフィン重合性組成物が、充填材を含むことが好ましい。
本発明の製造方法において、前記充填材が繊維状および/または粒子状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とが密着したシクロオレフィン樹脂加飾成形品を製造することができる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、ゲルコート組成物と、ラジカル発生剤を含むシクロオレフィン重合性組成物とを接触させた状態で、ゲルコート組成物を硬化させるとともに、シクロオレフィン重合性組成物を重合させる工程を有する。本発明の製造方法によれば、ゲルコート組成物から形成されるゲルコートと、シクロオレフィン重合性組成物から形成されるシクロオレフィン樹脂層とを備えており、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とが密着したシクロオレフィン樹脂加飾成形品を得ることができる。
なお、本明細書においてゲルコートとシクロオレフィン樹脂層との「密着」とは、JIS K5600に従って付着性を評価した場合に、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とが、6段階の分類のうち、分類0または分類1に分類できる程度で密着していることをいう。
【0011】
本発明の製造方法により得られるシクロオレフィン樹脂加飾成形品は、ゲルコートを備えることにより、シクロオレフィン樹脂成形品に、深みのある高品位の加飾を与えることができる。
【0012】
本発明においてゲルコートはゲルコート組成物を用いて形成される。ゲルコート組成物とは、ベース樹脂としての不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂等の単独もしくはこれらの混合物、硬化剤成分(重合開始剤)、および顔料等の任意の添加剤を含む液状の熱硬化性樹脂組成物または光硬化性樹脂組成物である。ゲルコート組成物は、例えば、スプレーまたは刷毛で、用いる成形型の表面に塗布し、その上にシクロオレフィン樹脂層を形成して、あるいは、逆にシクロオレフィン樹脂層上に塗布して使用される。
【0013】
ゲルコート組成物は、硬化状態でなければ、未硬化状態または半硬化状態のいずれであってもよい。ゲルコートは、シクロオレフィン樹脂層上でゲルコート組成物を硬化させることにより形成することができ、作業性の観点からは、未硬化状態のゲルコート組成物を硬化させて形成するのが好ましい。なお、半硬化状態のゲルコート組成物とは、未硬化状態のゲルコート組成物が部分的に硬化したものであり、本発明の所望の効果の発現が阻害されない限り、硬化の程度は任意である。
【0014】
ゲルコート組成物は、後述するように、硬化促進剤を実質的に含まないのが好ましい。ここで、「硬化促進剤を実質的に含まない」とは、ゲルコート組成物中に含まれる硬化促進剤の含有量が1.5質量%以下であることをいう。硬化促進剤の含有量としては、1.2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。かかるゲルコート組成物から形成されるゲルコートは、実質的に、硬化促進剤を含まないか、硬化促進剤に由来する残渣を含まない。かかる硬化促進剤としては、例えば、マンガン化合物やコバルト化合物などの、金属石けん類、第4級アンモニウム塩、アミン類などが挙げられる。
【0015】
一般にシクロオレフィン樹脂層にゲルコートを密着させることは、その各々の重合反応の特性上極めて困難なことであると予想される。シクロオレフィン樹脂層は特許文献3に記載の通りメタセシス重合触媒を用いたメタセシス重合反応で得られるのに対し、ゲルコートは特許文献4に記載の通り、重合開始剤(硬化剤成分)、硬化促進剤などを用いたラジカル重合反応で得られるからである。一般的なゲルコートには通常、硬化促進剤が1.5質量%超含まれる。
【0016】
しかしながら、鋭意検討の結果、ゲルコート組成物とシクロオレフィン重合性組成物とを接触させた状態で、ゲルコート組成物の硬化とシクロオレフィン重合性組成物の重合とを進行させることにより、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とが密着することが見出された。
【0017】
さらには、硬化促進剤を実質的に含有しないゲルコート組成物を用いることによって、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層とがより一層強固に密着することが見出された。たとえば、硬化促進剤を含まず、硬化剤成分を含有する未硬化状態または半硬化状態のゲルコート組成物を成形型上に塗布したのち、該ゲルコート組成物の塗布膜上に、ラジカル発生剤を含むシクロオレフィン重合性組成物を投入し、未硬化状態または半硬化状態のゲルコート組成物と、ラジカル発生剤を含むシクロオレフィン重合性組成物とを接触させた状態で、前記ゲルコート組成物を硬化させるとともに、前記シクロオレフィン重合性組成物を重合させることにより、シクロオレフィン重合性組成物およびゲルコート組成物双方が硬化し、密着する。
【0018】
ゲルコート組成物が硬化促進剤を実質的に含まない場合に良好な密着性が得られる理由は、次のとおりであると推測される。ゲルコート組成物が硬化促進剤を含み、該硬化促進剤が硬化反応に寄与する場合、ゲルコート組成物の硬化反応速度が、シクロオレフィン重合性組成物の重合反応速度よりも高すぎて、シクロオレフィン重合性組成物中のラジカル開始剤由来のラジカル種が、ゲルコート組成物中のラジカル種と効率的に反応せず、ゲルコートを形成するベース樹脂とシクロオレフィン樹脂層を形成するシクロオレフィン樹脂との間に共有結合などの架橋構造が十分に形成されないと推測される。一方、硬化促進剤を実質的に含まず、硬化剤成分を含有するゲルコート組成物、および、ラジカル発生剤を含むシクロオレフィン重合性組成物を用いると、ゲルコートを形成するベース樹脂とシクロオレフィン樹脂層を形成するシクロオレフィン樹脂との間に密着性を向上させる構造が十分に形成され、両者が密着するものと推測される。
【0019】
ゲルコート組成物ではベース樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂等が単独でまたはこれらを組み合わせて用いることができる。
【0020】
不飽和ポリエステル樹脂は、マレイン酸、フマール酸などの不飽和二塩基酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールとを縮合反応することにより得られる。
【0021】
ビニルエステル樹脂は、エポキシ樹脂にアクリル基もしくはメタクリル基を付加した樹脂であり、不飽和ポリエステル樹脂と同様にビニルモノマーに溶解して得られる。
【0022】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの単独重合体または共重合体からなる。
【0023】
硬化剤成分(重合開始剤)としては、熱硬化剤や光硬化剤が挙げられるが、なかでも、シクロオレフィン重合性組成物の重合反応とともに硬化反応を進行させることが容易であることから、熱硬化剤が好ましい。
【0024】
熱硬化剤としては、有機過酸化物が挙げられ、例えばジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、アルキルパーエステル系、パーカーボネート系等、公知のものが挙げられる。熱硬化剤の添加量は、本発明の目的を達成することのできる範囲であれば特に限定されるものではないが、前記ベース樹脂100質量部に対して、通常0.2~5質量部であり、好ましくは0.5~4質量部であり、より好ましくは0.7~3質量部である。なお、外気温等に応じて硬化温度を適宜調整することによりゲルコートとシクロオレフィン樹脂層との密着性を高めることが可能である。
【0025】
光硬化剤としては、ベンゾインアルキルエーテルのようなベンゾインエーテル系、ベンゾフェノン、ベンジル、メチルオルソベンゾイルベンゾエートなどのベンゾフェノン系、ベンジルジメチルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、4-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン系、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系等が挙げられる。光硬化剤の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、通常、0.1~3質量部である。
【0026】
さらに硬化速度を調整するため、ゲルコート組成物には重合禁止剤などを使用することができる。重合禁止剤としては、例えばトリハイドロベンゼン、トルハイドロキノン、14-ナフトキノン、パラベンゾキノン、ハイドロキノン、ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p-tert-ブチルカテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等を挙げることができる。重合禁止剤の添加量は、ゲルコート組成物中、通常、10~1000ppmであり、50~200ppmであることが好ましい。かかる範囲で使用することでゲルコート組成物の貯蔵安定性、作業性、強度発現性を向上させることができる。
【0027】
本発明で用いるゲルコート組成物には、必要に応じて、従来公知の顔料、体質顔料、染料、着色剤、揺変剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、内部離型剤、ワックス、酸化防止剤、充填材、分散剤、難燃剤等が添加されていてもよい。
【0028】
本発明の製造方法により得られるシクロオレフィン樹脂加飾成形品は、シクロオレフィン樹脂層を備えている。本明細書におけるシクロオレフィン樹脂とは、シクロオレフィン構造を有する1種類の単量体(モノマー)が重合されてなる重合体(ホモポリマー)、又は、シクロオレフィン構造を有する複数種類の単量体(モノマー)が重合されてなる共重合体(コポリマー)を意味する。重合体が、シクロオレフィン構造を有するか否かは、例えば核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)を用いて分析することができる。
【0029】
シクロオレフィン樹脂層は、シクロオレフィン重合性組成物を重合(好適には塊状重合)することにより得られる。シクロオレフィン重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、ラジカル発生剤、並びに所望により配合される触媒の活性剤や充填材等の任意成分を、公知の方法に従って、適宜混合することにより調製される。
【0030】
まず、シクロオレフィン重合性組成物に含有される各成分について説明する。
【0031】
シクロオレフィンモノマー
シクロオレフィンモノマーは、分子内に脂環式構造と炭素-炭素二重結合とを有する化合物である。
【0032】
シクロオレフィンモノマーを構成する脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環およびこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。脂環式構造を構成する炭素数に格別な制限はないが、通常4~30個、好ましくは5~20個、より好ましくは5~15個である。
【0033】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環シクロオレフィンモノマーや、ノルボルネン系モノマーなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーである。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、極性基などによって置換されていてもよい。また、ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、二重結合を有していてもよい。
【0034】
単環シクロオレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、シクロペンタジエン、1,5-シクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0035】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエンなどのジシクロペンタジエン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4-カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4,5-ジカルボン酸無水物などのテトラシクロドデセン類;
2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネン、アクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、メタクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物などのノルボルネン類;
7-オキサ-2-ノルボルネン、5-エチリデン-7-オキサ-2-ノルボルネンなどのオキサノルボルネン類;
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロ-9H-フルオレンともいう)、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ-4,10-ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.02,10.03,8]ペンタデカ-5,12-ジエン、トリシクロペンタジエンなどの四環以上の環状オレフィン類;などが挙げられる。
【0036】
これらのシクロオレフィンモノマーのうち、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーが、低吸水性の成形品を得ることができるので好ましい。またテトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエンなどの芳香族性の縮合環を有するものを用いるとシクロオレフィン重合性組成物の粘度を下げることができる。
【0037】
これらのシクロオレフィンモノマーは一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。組み合わせることで、得られるシクロオレフィン樹脂の物性を適宜調整することができる。
【0038】
なお、本発明で用いるシクロオレフィン重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、上述したシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0039】
メタセシス重合触媒
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーを開環重合できるものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0040】
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオンおよび/または化合物が結合してなる錯体である。遷移金属原子としては、第5,6および8族(長周期型周期表、以下同様)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、たとえばタンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0041】
第6族のタングステンやモリブデンを中心金属とするメタセシス重合触媒としては、六塩化タングステン等の金属ハロゲン化物;タングステン塩素酸化物等の金属オキシハロゲン化物;酸化タングステン等の金属酸化物;及びトリドデシルアンモニウムモリブデートやトリ(トリデシル)アンモニウムモリブデート等の有機金属酸アンモニウム塩等を用いることができる。
【0042】
第8族のルテニウムやオスミウムを中心金属とするメタセシス重合触媒としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。
ルテニウムカルベン錯体としては、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【化1】
【0043】
上記一般式(1)及び(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R1及びR2が互いに結合して環を形成した例としては、フェニルインデニリデン基等の、置換基を有していてもよいインデニリデン基が挙げられる。
【0044】
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~20のアルケニルオキシ基、炭素数2~20のアルキニルオキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~8のアルキルチオ基、カルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数1~20のアルキルスルフィニル基、炭素数1~20のアルキルスルホン酸基、炭素数6~20のアリールスルホン酸基、ホスホン酸基、炭素数6~20のアリールホスホン酸基、炭素数1~20のアルキルアンモニウム基、及び炭素数6~20のアリールアンモニウム基等を挙げることができる。これらの、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、及び炭素数6~10のアリール基等を挙げることができる。
【0045】
X1及びX2は、それぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基等を挙げることができる。
【0046】
L1及びL2は、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ化合物である。触媒活性向上の観点からヘテロ原子含有カルベン化合物が好ましい。ヘテロ原子とは、周期律表第15族及び第16族の原子を意味し、具体的には、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ヒ素原子、及びセレン原子等を挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、及び硫黄原子が好ましく、窒素原子がより好ましい。
【0047】
前記ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(3)又は(4)で示される化合物が好ましく、触媒活性向上の観点から、下記一般式(3)で示される化合物がさらに好ましい。
【化2】
【0048】
上記一般式(3)及び(4)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20個の有機基;を表す。ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
また、R3、R4、R5及びR6は任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0049】
なお、本発明の効果がより一層顕著になることから、R5及びR6が水素原子であることが好ましい。また、R3及びR4は、置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、置換基として炭素数1~10のアルキル基を有するフェニル基がより好ましく、メシチル基がさらに好ましい。
【0050】
前記中性電子供与性化合物としては、例えば、酸素原子、水、カルボニル類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、イミン類、芳香族類、環状ジオレフィン類、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類等が挙げられる。
【0051】
上記一般式(1)及び(2)において、R1、R2、X1、X2、L1及びL2は、それぞれ単独で、及び/又は任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0052】
また、本発明で用いるルテニウムカルベン錯体としては、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物の中でも、本発明の効果がより顕著になるという点より、上記一般式(1)で表される化合物が好ましく、中でも、以下に示す一般式(5)又は一般式(6)で表される化合物であることがより好ましい。
【0053】
【0054】
上記一般式(5)中、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR12、PR12又はAsR12であり、R12は、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、Zとしては酸素原子が好ましい。
【0055】
なお、R1、R2、X1及びL1は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成しても良いが、X1及びL1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R1及びR2は互いに結合して環を形成していることが好ましく、置換基を有していてもよいインデニリデン基であることがより好ましく、フェニルインデニリデン基であることがさらに好ましい。
また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又は珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0056】
上記一般式(5)中、R7及びR8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、又は炭素数6~20のヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基又は炭素数6~10のアリール基を挙げることができ、環を形成する場合の環は、芳香環、脂環及びヘテロ環のいずれであってもよいが、芳香環を形成することが好ましく、炭素数6~20の芳香環を形成することがより好ましく、炭素数6~10の芳香環を形成することがさらに好ましい。
【0057】
上記一般式(5)中、R9、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0058】
R9、R10及びR11は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0059】
なお、上記一般式(5)で表わされる化合物の具体例及びその製造方法としては、例えば、国際公開第03/062253号(特表2005-515260)に記載のもの等が挙げられる。
【0060】
【0061】
上記一般式(6)中、mは、0又は1である。mは1が好ましく、その場合、Qは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、メチレン基、エチレン基又はカルボニル基であり、好ましくはメチレン基である。
【0062】
上記一般式(6)中、
【化5】
は、単結合又は二重結合であり、好ましくは単結合である。
【0063】
R1、X1、X2及びL1は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよいが、X1、X2及びL1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R1は水素原子であることが好ましい。
【0064】
R13~R21は、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又は珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0065】
R13は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、R14~R17は、好ましくは水素原子であり、R18~R21は、好ましくは水素原子又はハロゲン原子である。
【0066】
なお、上記一般式(6)で表わされる化合物の具体例及びその製造方法としては、例えば、国際公開第11/079799(特表2013-516392)に記載のもの等が挙げられる。
【0067】
本発明に用いられるルテニウムカルベン錯体として一般的な性能を示すものとしては、例えば、後述の実施例で使用した化合物や以下の化合物(7)が挙げられる。化合物(7)において、PCy
3はトリシクロヘキシルホスフィンを示し、Mesはメシチル基を示す。
【化6】
【0068】
メタセシス重合触媒の使用量は、反応に使用する全モノマー1モルに対して、好ましくは0.01ミリモル以上であり、より好ましくは0.1~50ミリモル、さらに好ましくは0.1~20ミリモルである。メタセシス重合触媒の使用量が少なすぎると重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が悪く、使用量が多すぎると反応が激しすぎるため型内に十分に充填される前に硬化したり、触媒が析出したりし易くなり均質に保存することが困難になる。
【0069】
メタセシス重合触媒は、一種類のみを使用しても良く、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
これらのメタセシス重合触媒には、重合活性を制御する目的で、活性剤(共触媒)として有機アルミニウム化合物又は有機スズ化合物を併用することが好ましい。
【0071】
メタセシス重合触媒として周期表第5族または第6族の遷移金属の化合物を用いる場合の活性剤としては、例えば、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリドなどのアルキルアルミニウムハライド;これらのアルキルアルミニウムハライドの、アルキル基の一部をアルコキシ基で置換したアルコキシアルキルアルミニウムハライド;有機スズ化合物;などが用いられる。活性剤の使用量は、特に限定されないが、通常、シクロオレフィン重合性組成物で使用する全メタセシス重合触媒1モルに対して、0.1~100モルが好ましく、より好ましくは1~10モルである。
【0072】
なお、メタセシス重合触媒としてルテニウムカルベン錯体を用いる場合には、活性剤を用いても用いなくてもよい。またルテニウムカルベン錯体を用いた場合には塊状重合時の触媒の活性が優れるため、得られるノルボルネン系樹脂成形品の、未反応のノルボルネン系モノマーに由来する臭気が少ない利点がある。
【0073】
また、シクロオレフィン重合性組成物の成分として、活性調節剤を添加することもできる。活性調節剤は、例えば、成形型内に注入して重合を開始させる際に、注入途中で重合が開始することを防止するために用いられる。
【0074】
メタセシス重合触媒として周期表第5族又は第6族の遷移金属の化合物を用いる場合の活性調節剤としては、メタセシス重合触媒を還元する作用を持つ化合物等が挙げられ、アルコール類、ハロアルコール類、エステル類、エーテル類、ニトリル類等を用いることができる。中でもアルコール類及びハロアルコール類が好ましく、ハロアルコール類がより好ましい。
【0075】
アルコール類の具体例としては、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。ハロアルコール類の具体例としては、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、2-クロロエタノール、1-クロロブタノール等が挙げられる。
【0076】
メタセシス重合触媒として、特にルテニウムカルベン錯体を用いる場合の活性調節剤としては、ルイス塩基化合物が挙げられる。ルイス塩基化合物としては、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、n-ブチルホスフィン等のリン原子を含むルイス塩基化合物;n-ブチルアミン、ピリジン、4-ビニルピリジン、アセトニトリル、エチレンジアミン、N-ベンジリデンメチルアミン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾール等の窒素原子を含むルイス塩基化合物等が挙げられる。また、ビニルノルボルネン、プロペニルノルボルネン及びイソプロペニルノルボルネン等の、アルケニル基で置換されたノルボルネンは、モノマーとして機能すると同時に、活性調節剤としても働く。これらの活性調節剤の使用量は、用いる化合物によって適宜調整すればよい。
【0077】
ラジカル発生剤
ラジカル発生剤は、加熱によってラジカルを発生し、それによりシクロオレフィン樹脂において架橋反応を誘起するとともに、ゲルコート組成物に含まれるベース樹脂とシクロオレフィン樹脂との架橋反応をも誘起して、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層との密着を促す作用を有する。ラジカル発生剤が架橋反応を誘起する部位は、主にゲルコートのベース樹脂やシクロオレフィン樹脂に含まれる炭素-炭素二重結合であるが、飽和結合部分でも架橋が生ずることがある。
【0078】
ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシドなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのペルオキシケタール類;t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t-ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド;などが挙げられる。中でも、特に塊状重合におけるメタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類が好ましい。
【0079】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’-ビスアジドベンザル(4-メチル)シクロヘキサノン、4,4’-ジアジドカルコン、2,6-ビス(4’-アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4’-アジドベンザル)-4-メチルシクロヘキサノン、4,4’-ジアジドジフェニルスルホン、4,4’-ジアジドジフェニルメタン、2,2’-ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0080】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジフェニルブタン、1,4-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、1,1,2,2-テトラフェニルエタン、2,2,3,3-テトラフェニルブタン、3,3,4,4-テトラフェニルヘキサン、1,1,2-トリフェニルプロパン、1,1,2-トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1-トリフェニルエタン、1,1,1-トリフェニルプロパン、1,1,1-トリフェニルブタン、1,1,1-トリフェニルペンタン、1,1,1-トリフェニル-2-プロペン、1,1,1-トリフェニル-4-ペンテン、1,1,1-トリフェニル-2-フェニルエタンなどが挙げられる。
【0081】
シクロオレフィン重合性組成物におけるラジカル発生剤の量としては、使用する全モノマー100質量部に対して、通常、0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部である。ラジカル発生剤の含有量が上記範囲であると、架橋反応が十分に進み得られる成形品の曲げ強度が良好となり、また、ゲルコート組成物との反応が均一に進みシクロオレフィン樹脂層とゲルコートとの密着性が高まり好適である。
【0082】
本発明において、得られる成形品の特性の改良又は維持のために、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層との密着性を損なわない範囲で、シクロオレフィン重合性組成物に各種添加剤を配合してもよい。
【0083】
かかる添加剤としては、補強材、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填材、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料、エラストマー、シクロオレフィン熱重合樹脂及びその水添物等を挙げることができる。
【0084】
各種添加剤は、後述のシクロオレフィン重合性組成物の調製方法において、触媒や活性剤を含む反応原液に添加して用いる方法;別途反応原液として調製し、反応射出成形時に触媒や活性剤を含む反応原液と混合する方法;予め型内に充填しておく方法;等により添加される。添加方法は、添加剤の種類により適宜選定すればよい。
【0085】
エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物等が挙げられる。エラストマーをシクロオレフィン重合性組成物に溶解させて用いることにより、その粘度を調節することができる。また、エラストマーを添加することで、得られる重合体の耐衝撃性を改良できる。エラストマーの使用量は、シクロオレフィン重合性組成物中の全モノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは2~10質量部である。
【0086】
酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、アミン系等の各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤が挙げられる。
【0087】
シクロオレフィン重合性組成物の調製
本発明で用いるシクロオレフィン重合性組成物は、公知の方法に従って、上記各成分を適宜混合することにより調製されるが、2以上に分液しておき、反応直前に各液を混合することでシクロオレフィン重合性組成物を調製してもよい。各液は、1液のみでは塊状重合しないが、全ての液を混合すると、各成分を所定の割合で含むシクロオレフィン重合性組成物となるように、上記各成分を用いて調製される。かかる2以上の液の組み合わせとしては、用いるメタセシス重合触媒の種類により、下記(a)、(b)の二通りが挙げられる。
【0088】
(a):前記メタセシス重合触媒として、単独では重合反応活性を有しないが、活性剤を併用することで重合反応活性を発現するものを用いることができる。この場合は、シクロオレフィンモノマーおよび活性剤を含む反応原液(A)と、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む反応原液(B)とを用い、これらを混合することでシクロオレフィン重合性組成物を得ることができる。さらに、シクロオレフィンモノマーを含み、かつメタセシス重合触媒および活性剤のいずれも含まない反応原液(C)を併用してもよい。
(b):また、メタセシス重合触媒として、単独で重合反応活性を有するものを用いる場合は、シクロオレフィンモノマーを含む反応原液(a)と、メタセシス重合触媒を含む反応原液(b)とを混合することでシクロオレフィン重合性組成物を得ることができる。このとき反応原液(b)としては、通常、メタセシス重合触媒を少量の不活性溶媒に溶解又は分散させたものが用いられる。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;ジエチルエーテル、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル等が挙げられるが、芳香族炭化水素が好ましく、トルエンがより好ましい。
ラジカル発生剤、及び任意の各種添加剤は、前記反応原液のいずれに含有させてもよいし、又は、前記反応原液以外の混合液の形で添加してもよい。
【0089】
後述のように、本発明のシクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法は、公知の樹脂成形方法を適用して行うことができるが、上記反応原液の混合は、適用する樹脂成形方法に応じて適宜混合装置を選択し、それを使用して行うのが好ましい。当該装置としては、例えば、反応射出成形法で一般的に用いられる衝突混合装置のほか、ダイナミックミキサーやスタティックミキサーなどの低圧混合機などが挙げられる。上記反応原液をそれらの装置に導入すると直ちに混合されてシクロオレフィン重合性組成物が形成される。
【0090】
シクロオレフィン重合性組成物には、適宜、繊維状および/または粒子状の充填材を含有させることができる。繊維状充填材を含有するシクロオレフィン重合性組成物を重合させることによって、繊維強化シクロオレフィン樹脂層を得ることができ、結果として、繊維強化シクロオレフィン樹脂層上にゲルコートを備える繊維強化シクロオレフィン樹脂加飾成形品を得ることができる。
【0091】
一般に、繊維強化プラスチックは、構成する強化繊維とマトリックス樹脂との収縮率、線膨張係数の違いにより、成形後の表面に発生した繊維目なる凹凸により、加飾目的の塗装面上にかかる繊維目が転写される。シクロオレフィン樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチックにおいても繊維目が発生するため通常の塗装による加飾では塗装表面に繊維目が転写され、これまで、より積層厚みがあって転写されにくいゲルコート加飾が望まれていた。
【0092】
本発明の製造方法により得られるシクロオレフィン樹脂加飾成形品は、ゲルコートと繊維強化シクロオレフィン樹脂層とが密着してなることから、ゲルコート面が平滑であり、強化繊維の凹凸に応じた凹凸が表面にほとんど見られない。
【0093】
繊維状充填材としては、本分野で使用されるものであれば特に限定されない。入手性および有用性の観点から、繊維状充填材としては、好ましくは、長繊維としては炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上である。炭素繊維とガラス繊維とを併用する場合、両者の混合比率は限定されないが、混合効果の観点から、炭素繊維1質量部に対してガラス繊維0.1~10質量部が好ましい。
【0094】
繊維状充填材の形態は、特に限定されず、繊維状充填材を一方向に引き揃えた一方向材、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、ロービング、チョップド等から適宜選択すればよい。中でも、一方向材、織物、ロービング等の連続繊維の形態であるのが好ましい。得られる繊維強化シクロオレフィン樹脂は繊維の割合が高いため、機械的強度を高度に向上させることができ、好適である。
【0095】
織物の形態としては、従来公知のものが利用可能であり、例えば、平織、繻子織、綾織、3軸織物などの繊維が交錯する織り構造の全てが利用できる。また、織物の形態としては、2次元だけでなく、織物の厚み方向に繊維が補強されているステッチ織物や3次元織物等も利用できる。
【0096】
繊維状充填材を織物等で使用する場合、通常、繊維束糸条として利用する。繊維束糸条1本中のフィラメント数としては、特に限定はないが、好ましくは1,000~100,000本、より好ましくは5,000~50,000本、さらに好ましくは10,000~30,000本の範囲である。
【0097】
炭素繊維としては、特に限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の、従来公知の方法で製造される各種の炭素繊維を任意に用いることができる。これらのなかでも、ポリアクリロニトリル繊維を原料として製造されるPAN系炭素繊維は、メタセシス重合反応の阻害を起こさず、得られる繊維強化シクロオレフィン樹脂において機械的強度及び耐熱性等の特性を向上させることができ、好適に用いられる。
【0098】
炭素繊維は、その弾性率が高いほど剛性を維持できるため、繊維強化シクロオレフィン樹脂層の厚みを薄くでき、好ましい。一方、弾性率が高すぎると引張伸度が低下する場合がある。炭素繊維としては、樹脂含浸ストランド引張試験(JIS R-7601)による引張弾性率が、200~400GPaの範囲にあるものが好ましく、220~300GPaの範囲にあるものがより好ましい。また、炭素繊維としては、引張伸度が高いものが好ましい。引張伸度としては、好ましくは1.7%以上、より好ましくは1.85%以上、特に好ましくは2%以上である。かかる引張伸度に上限は特にないが、通常、2.5%以下である。炭素繊維の引張伸度は、前記樹脂含浸ストランド引張試験により測定することができる。炭素繊維の引張伸度が高いほど、繊維が強くて扱いやすく、得られる繊維強化シクロオレフィン樹脂の機械的強度が高くなり、好ましい。
【0099】
マトリックス樹脂であるシクロオレフィン樹脂と炭素繊維との密着性をより向上させる観点から、炭素繊維の表面に、少なくとも、カルボキシル基又は水酸基等の活性水素含有基を適当量存在させるのが好ましい。炭素繊維の活性水素含有基の量は、X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度(O/C)で定量することができる。炭素繊維の活性水素含有基の量としては、O/Cで、0.02~0.2であるのが好ましい。この範囲にあれば、シクロオレフィンモノマーに含有される活性水素反応性基(例えば、イソシアネート基や(メタ)アクリレート基)の炭素繊維に対する作用性が高まり、炭素繊維表面の酸化の程度も適度であり、好適である。炭素繊維の活性水素含有基の量としては、O/Cで、より好ましくは0.04~0.15、さらに好ましくは0.06~0.1である。
【0100】
活性水素含有基を炭素繊維に導入する方法は、特に限定されず、通常用いられる方法を適宜採用すればよい。オゾン法や酸溶液中での電解酸化などがあるが、好ましくは溶液中の酸化反応が経済的に優れてよい。この際、活性水素含有基の量は、電流量や温度、酸性浴中の滞在時間、酸性度などで適宜調整可能である。
【0101】
炭素繊維の表面状態は、特に限定されず、平滑でも凹凸であってもよい。アンカー効果が期待できることから、凹凸であるのが好ましい。この凹凸の程度は適宜選択すればよい。炭素繊維表面への凹凸の導入は、例えば、上記した溶液中の酸化反応の際に同時に行うことができる。
【0102】
炭素繊維の断面形状としては、特に限定はないが、実質的に円形であるのが好ましい。断面形状が円形であると、シクロオレフィン重合性組成物を含浸させる際、フィラメントの再配列が起こりやすくなり、繊維間への該重合性組成物の浸み込みが容易になる。また、繊維束の厚みを薄くすることが可能となり、ドレープ性に優れた繊維強化シクロオレフィン樹脂を得やすい利点がある。なお、断面形状が実質的に円形であるとは、その断面の外接円半径Rと内接円半径rとの比(R/r)を変形度として定義した場合に、この変形度が1.1以下であることをいう。
【0103】
炭素繊維の長さは、用途に応じて適宜選択すればよく、短繊維及び長繊維のいずれのものも用いることができる。得られる繊維強化シクロオレフィン樹脂の機械的強度をより高める観点から、炭素繊維の長さは、通常、1cm以上、好ましくは2cm以上、より好ましくは3cm以上であり、特に連続繊維である炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0104】
本発明で用いる炭素繊維は、予めサイジング剤を付着してなるものである必要はないが、繊維毛羽立ちによる成形後物性低下の不具合や、マトリックス樹脂であるシクロオレフィン樹脂と炭素繊維との密着性をより向上させる観点から、予めサイジング剤を付着してなる炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0105】
サイジング剤としては、特に限定はなく、公知のものを用いることができる。サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂;ウレタン樹脂;ビニルエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ナイロン樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどポリオレフィン樹脂;ポリエステル樹脂;及びフェノール樹脂;からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。サイジング剤としては、入手が容易であることから、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、及びポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エポキシ樹脂及び/又はビニルエステル樹脂がより好ましい。
【0106】
このようなサイジング剤の具体例としては、いずれも松本油脂製薬社製の製品として、KP-226、KP-0110、KP-136、KP-300、KP-752、及びKP-1005などの、エポキシ樹脂からなるサイジング剤;KP-2816、KP-2817、KP-2807、KP-2820、及びKP-2821などの、ウレタン樹脂からなるサイジング剤;KP-371やKP-372などの、ビニルエステル樹脂からなるサイジング剤;KP-1008などのナイロン樹脂からなるサイジング剤;P-138などのポリエチレン樹脂からなるサイジング剤;TPE-100やTPE-102などの、ポリプロピレン樹脂からなるサイジング剤;KP-880やKP-881などの、ポリエステル樹脂からなるサイジング剤;などが挙げられる。
炭素繊維へのサイジング剤の付着は、サイジング剤を炭素繊維に接触させることにより行うことができる。その際、サイジング剤を水、又はアセトンなどの有機溶剤に分散又は溶解し、分散液又は溶液として使用するのが好ましい。サイジング剤の分散性を高め、液安定性を良好にする観点から、当該分散液又は溶液には適宜界面活性剤を添加するのが好ましい。
【0107】
炭素繊維へのサイジング剤の付着量としては、炭素繊維とサイジング剤との合計量を100質量%として、通常、0.1~5質量%、好ましくは0.2~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%である。付着量がこの範囲にあれば、適度な炭素繊維の収束性が得られ、炭素繊維の充分な耐擦過性が得られて機械的摩擦などによる毛羽の発生が抑制され、また、シクロオレフィン重合性組成物の含浸性が向上し、得られる繊維強化シクロオレフィン樹脂にあっては機械的強度が向上し得る。
【0108】
炭素繊維とサイジング剤との接触は、ローラー浸漬法やローラー接触法など、一般に工業的に用いられている方法により適宜行うことができる。炭素繊維とサイジング剤との接触は、通常、サイジング剤の分散液又は溶液を用いて行われるため、該接触後、乾燥工程に供し、サイジング剤の分散液や溶液に含まれていた水、又は有機溶剤を除去すればよい。乾燥工程は、熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーターなどを熱媒として利用した方法などにより行うことができる。
【0109】
なお、炭素繊維へのサイジング剤の付着は、前記した、炭素繊維表面への活性水素含有基の導入や凹凸の導入の後に行うのが好ましい。
【0110】
本発明で用いるガラス繊維は、特に限定されるものではなく、例えば、連続繊維、織布及び不織布等の形状を有するものが挙げられ、種々の厚みのものが市販品として入手可能である。ガラス繊維の形状や厚みは用途に応じて適宜選択できる。
【0111】
本発明で用いるガラス繊維の目付量は使用目的に応じて適宜選択されるが、600g/m2以上が好ましく、600~2000g/m2がより好ましく、640~1800g/m2がさらに好ましい。ガラス繊維の目付量が上記範囲にあると、隣り合うガラス繊維同士の間隔が適当で、得られる繊維強化シクロオレフィン樹脂の機械的強度が良好となり、また、可撓性が良好で、シクロオレフィン重合性組成物の含浸性が向上し好適である。
【0112】
ガラス繊維は、表面を疎水化処理されていることが好ましい。疎水化処理されたガラス繊維を用いることで、得られる繊維強化シクロオレフィン樹脂中にガラス繊維を均一に分散させることができ、繊維強化シクロオレフィン樹脂の剛性や寸法安定性を均一にでき、さらには異方性を小さくすることができる。疎水化処理に用いられる処理剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、脂肪酸、油脂、界面活性剤、ワックス、その他の高分子などが挙げられる。これらの処理剤はサイジング剤としての機能も果たしうる。
【0113】
また、短繊維としては上記炭素繊維、ガラス繊維を切ったものやウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、塩基性硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、テトラポット型酸化亜鉛、石膏繊維、ホスフェート繊維、アルミナ繊維、針状炭酸カルシウム、針状ベーマイトなどを挙げることができる。
【0114】
繊維状充填材に含浸させるシクロオレフィン重合性組成物と繊維状充填材との量的関係としては、シクロオレフィン重合性組成物1体積部に対して繊維状充填材が0.2~3体積部であることが好ましく、0.5~2.5体積部であることがより好ましく、0.7~2体積部であることがさらに好ましい。かかる範囲にあれば、得られる成形品の曲げ強度が良好に発揮され、好適である。
【0115】
粒子状充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、グラファイト、酸化アンチモン、赤燐、各種金属粉、クレー、各種フェライト、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。
【0116】
上記粒子状充填材は、その表面を疎水化処理したものであることが好ましい。疎水化処理した粒子状充填材を用いることにより、シクロオレフィン重合性組成物中における粒子状充填材の凝集及び沈降を防止でき、また、シクロオレフィン重合性組成物を重合することにより形成されるシクロオレフィン樹脂層中における粒子状充填材の分散を均一にすることができる。
【0117】
疎水化処理に用いられる処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、油脂、界面活性剤、ワックス等を挙げることができる。粒子状充填材の疎水化処理は、シクロオレフィン重合性組成物を調製する際に、疎水化処理剤を同時に混合することにより行ってもよいし、用いる粒子状充填材に対し予め行ってもよい。
【0118】
シクロオレフィン重合性組成物中に添加する充填材との密着性を高めるため必要に応じてイソシアネート化合物や多官能アクリレート化合物などの極性を持った化合物を添加することもできる。
【0119】
イソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル(MDI)、トルエン-2,4-ジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、及び4,4’-ジイソシアネートジベンジルなどの芳香族ジイソシアネート化合物;メチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、及び1,10-デカメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート化合物;4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI、及び水添XDIなどの脂環式ジイソシアネート化合物;などや、これらのジイソシアネート化合物と低分子量のポリオールやポリアミンを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマーなどが挙げられる。
【0120】
シクロオレフィン重合性組成物へのジイソシアネート化合物の配合量は、使用する全モノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。
【0121】
シクロオレフィン重合性組成物への多官能アクリレート化合物の配合量は、使用する全モノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。多官能アクリレート化合物としてエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート(トリメチルプロパントリメタクリレート)及びネオペンチルグリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0122】
シクロオレフィン重合性組成物中の粒子状充填材の含有量としては、使用する全モノマー100質量部に対して、通常、10~1000質量部が好ましく、100~500質量部がより好ましい。かかる範囲にあれば、得られる成形品の強度を高めることができ、好適である。
【0123】
以上の充填材は、予めシクロオレフィン重合性組成物の中に含有させて成形型に一緒に注入してもよいし、予め充填材を成形型に設置しておき、その中へシクロオレフィン重合性組成物を注入してもよく、適宜選択すればよい。
【0124】
成形法
本発明の製造方法において、シクロオレフィン樹脂加飾成形品を得るための成形法は、特に限定されず、所望する成形品の形状に応じて、適宜、公知の樹脂成形方法を適用して行うことができる。当該樹脂成形方法としては、例えば、反応射出成形法(RIM法)、レジントランスファー成形法(RTM法)及びインフュージョン成形法が挙げられる。
【0125】
たとえば、本発明の製造方法により得られるシクロオレフィン樹脂加飾成形品が、ゲルコートおよび繊維強化シクロオレフィン樹脂層を備える場合には、成形型の表面にゲルコート組成物を塗布し、ゲルコート組成物の塗布膜が未硬化または半硬化の状態で、ゲルコート組成物の塗布膜上に繊維状充填材を積層し、繊維状充填材にシクロオレフィン重合性組成物を含浸させた後、該塗布膜と含浸させたシクロオレフィン重合性組成物とを接触させた状態で、ゲルコート組成物を硬化させるとともに、シクロオレフィン重合性組成物を重合させる方法により、シクロオレフィン樹脂加飾成形品を製造することができる。シクロオレフィン重合性組成物を重合させる前に、ゲルコート組成物の塗布膜を完全硬化させると、十分な密着性が得られない。
【0126】
また、成形型の表面にゲルコート組成物を塗布してから、ゲルコート組成物の塗布膜上にシクロオレフィン重合性組成物を投入することによって、成形型表面がゲルコートに高品位で転写され、ゲルコート面が平滑であり、強化繊維の凹凸に応じた凹凸が表面にほとんど見られないシクロオレフィン樹脂加飾成形品を得ることができる。
【0127】
成形型への供給前のシクロオレフィン重合性組成物の温度は、好ましくは10~60℃であり、シクロオレフィン重合性組成物の粘度は、例えば30℃において、通常、5~3,000mPa・s、好ましくは50~1,000mPa・s程度である。得られるゲルコートの厚みは、加飾性および強度の観点から、好ましくは10~500μmであり、より好ましくは30~100μmである。
【0128】
成形型
使用する型の材質は、特に限定されず、その具体例としては、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅、クロム等金属材、又は樹脂等が挙げられ、金属材は鍛造、鋳造のほか、電鋳、溶射、メッキなどの工法を所望する成形品の形状を考慮し、型の構造とともに適用する樹脂成形方法に従って、適宜選択すればよい。
繊維状充填材を予め型内に載置する場合は、適用する樹脂成形方法に応じ、選択された型内に当該方法の実施に好適な様式で適宜載置すればよい。適宜、型内を窒素ガスなどの不活性ガスで置換しておくか、又は型内を減圧しておいてもよい。
【0129】
RIM法
本法では、特に限定されないが、通常、割型構造、すなわち、雄型と雌型を有する成形型が用いられる。雄型と雌型は、所望する成形品の形状にあった空隙部(キャビティー)を形成するように作製される。繊維状充填材は、該成形型の空隙部に載置される。シクロオレフィン重合性組成物の繊維状充填材への含浸は型内にシクロオレフィン重合性組成物を注入して行われる。本発明で用いるシクロオレフィン重合性組成物は低粘度であり基材への含浸性に優れるので、繊維状充填材に均一に含浸させることができる。
【0130】
RIM法による2液反応型樹脂の成形では、成形時に型内へ原料(シクロオレフィン重合性組成物)を注入する圧力が、樹脂を注入する射出成形の1/30~1/500程度である。このため、型内への充填性が非常に良好であり、多様な形状を容易に成形することが可能である。型内への注入圧が非常に小さいため、型内に発生する内部圧力も非常に小さく、このため、射出成形に使用する成形型に比べて、型に要求される強度が大幅に低減されることとなり、型の設計が容易になる。従って、大型成形品の型も設計が容易となり、樹脂製配管部材の展開が困難な大口径の配管部材への展開も容易となる。また、常温域での成形が可能であるという特徴を有する。
【0131】
シクロオレフィン重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常0.01~9.8MPa、好ましくは0.02~5MPaである。また、型締圧力は通常0.01~10MPaの範囲内である。
【0132】
RTM法
RTM(レジントランスファー成形)法では、繊維状充填材を敷き詰めた合わせ型にシクロオレフィン重合性組成物を注入することにより、該組成物を繊維状充填材に含浸させることができる。
【0133】
RTM法による成形は、RIM法と同様に型内に発生する圧力が小さいことに加え、シクロオレフィン重合性組成物を混合する際、RIM法ほど混合圧力を必要としないため、混合設備を比較的簡易化することが可能である。また、一般に重合の速度もRIM法よりも緩やかであることから含浸の面で有利となることが多い。
【0134】
シクロオレフィン重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常0.01~9.8MPa、好ましくは0.02~5MPaである。また、型締圧力は通常0.01~10MPaの範囲内である。
【0135】
インフュージョン成形法
インフュージョン成形法では、真空圧(0.1~100Pa程度)によって、シクロオレフィン重合性組成物を型内に充填し、繊維状充填材(例えば、ガラス繊維)に含浸させる。具体的には、成形型の上に繊維状充填材を置き、所望により、離型シート及び樹脂拡散材を配置した状態で、繊維状充填材を気密性フィルムで覆い、気密空間内の空気を吸引排気し、減圧状態にする。この減圧状態で、気密空間内にシクロオレフィン重合性組成物を注入して、シクロオレフィン重合性組成物を繊維状充填材に含浸させる。この方法は、汚れない、臭気のない成形法で、大型成形品、厚物成形品等、高強度の成形品の成形に適している。
【0136】
本発明のシクロオレフィン樹脂加飾成形品の製造方法には、さらに、上記方法のほか、改良された方法として、ライト-レジントランスファー成形(L-RTM)成形法を適用することもできる。基本的には、インフュージョン成形法とRTM法を組み合わせた成形方法であって、凹凸で構成された型の凹型に繊維状充填材を載置し、凸型を被せ、外周フランジ部と型の中央部にて減圧する。型の内部を真空(0.1~100Pa程度)にして型締めを行い、外周からシクロオレフィン重合性組成物を注入し、該組成物を繊維状充填材に含浸させる。余分なシクロオレフィン重合性組成物は型中央のポットに溜まる。シクロオレフィン重合性組成物は、外周から押し込む状態となり、該組成物の注入は、減圧と加圧により行われることになる。シクロオレフィン重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常0.01~10MPa、好ましくは0.02~5MPaである。また、型締圧力は通常0.01~10MPaの範囲内である。
【0137】
その他の含浸法
その他の含浸法として、例えば、フィラメントワインディング法などにより任意の円筒にドライの状態で繊維状充填材を巻き付けたものを用意し、該繊維状充填材をシクロオレフィン重合性組成物中に浸漬して該組成物を含浸させる方法、該繊維状充填材に対しシクロオレフィン重合性組成物をスプレーして該組成物を含浸させる方法、該繊維状充填材に対し前記反応原液の組み合わせで個々の反応原液を個別にスプレーし、スプレーと同時に該反応原液を混合してシクロオレフィン重合性組成物を含浸させる方法などを用いることができる。
【0138】
塊状重合は、シクロオレフィン重合性組成物が注入等された型を予めあるいは注入後に加熱することで行われる。加熱の方法はシクロオレフィン重合性組成物で使用するメタセシス重合触媒により適宜決めればよい。
【0139】
雄型及び雌型を対とする成形型で形成されるキャビティー内にシクロオレフィン重合性組成物を供給して塊状重合させる場合において、メタセシス重合触媒が、例えばモリブデンやタングステンなどの第6族の遷移金属原子を中心原子とする場合には、成形品におけるゲルコートが形成される面を、ヒケや気泡のない表面外観の美麗な面とするために成形型の雄型または雌型のどちらか一方の温度は30℃以上80℃以下が好ましく、40℃以上75℃以下が好ましく、45℃以上70℃以下がより好ましい。成形型の雄型または雌型のどちらかもう一方の温度は、50℃以上100℃以下が好ましく、60℃以上95℃以下が好ましく、70℃以上90℃以下がより好ましい。雄型と雌型の温度の差は10℃以上50℃以下が好ましく、15℃以上45℃以下がより好ましく、20℃以上40℃以下がさらにより好ましい。
【0140】
メタセシス重合触媒が、例えばルテニウムやオスミウムを中心金属とする第8族のメタセシス重合触媒である場合には、成形型の温度としては、最高温度が90℃以上300℃以下であることが好ましい。該最高温度は、より好ましくは100~270℃、さらに好ましくは120~250℃である。また、塊状重合時の最低温度としては、好ましくは40~90℃、より好ましくは50~85℃である。塊状重合の開始温度は、通常、0~40℃の範囲、好ましくは10~30℃の範囲である。
【0141】
メタセシス重合触媒が、例えばルテニウムやオスミウムを中心金属とする第8族のメタセシス重合触媒とする場合には、ヒケや気泡のない表面外観の美麗な面とするために雄型と雌型の温度の差は30℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらにより好ましい。
【0142】
成形型の温度を調整する方法としては、例えば、ヒーターによる成形型温度の調整;成形型内部に埋設した配管中に循環させる、温調水、油等の熱媒体の温度調整、等が挙げられる。
【0143】
塊状重合は、シクロオレフィン重合性組成物を型内に注入等するか、又はシクロオレフィン重合性組成物を所定の混合装置に導入した後、好ましくは20秒~60分、より好ましくは20秒~40分で完了するが、そのまま60~200分程度維持してもよい。また、加熱は一段階で行っても二段階以上の複数段階で行ってもよい。
【0144】
塊状重合の終了後、例えば、型枠を型開きして脱型することにより、成形品を得ることができる。本明細書において脱型とは、用いた成形型から、得られた成形品を取り出すことをいう。製造直後の成形品は高温状態にあるため、脱型は、常温まで冷却した後に行うのが好ましい。
【0145】
以上のようにして、シクロオレフィン樹脂加飾成形品が得られる。シクロオレフィン樹脂加飾成形品は、ゲルコート加飾面(ゲルコート)がシクロオレフィン樹脂層に密着した成形品であり、そのゲルコート加飾面とシクロオレフィン樹脂層との密着性は通常、JIS K5600の方法による付着性試験で合格基準である分類0または1である。
【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に何ら限定されるものではない。また本実施例では、金型を用い、炭素繊維にシクロオレフィン重合性組成物を含侵させるRTM法について述べる。その他公知のRIM法、インフュージョン成形法についても同様に実施することができる。
【0147】
実施例1
シクロオレフィン重合性組成物を注入可能な側面雄雌割り部を備えており、内部寸法が縦300mm、横200mm、厚み2mmのアルミニウム製金型の内面に、離型剤としてケムリース社製AF7-EZを塗布した。雌型側を50℃に加熱し、内面底面に後述のゲルコート組成物1を、噴霧塗装器を用い、膜厚が約50μmとなるように噴霧した。
【0148】
噴霧したゲルコート組成物1を、その表面がべたつく程度に50℃で30分間加熱して半硬化させたのち、繊維に沿って縦290mm、横190mmに切断した東レ社製平織炭素繊維マットCK6240Eを広げて、かかる雌型内部に10枚積層した。雄型を雌型に設置したのち全体を50℃に加熱し、後述のシクロオレフィン重合性組成物1を型内一杯に注入した。
【0149】
50℃で10分間放置後、該型全体を90℃で30分間加熱し、さらに120℃で1時間加熱したのち、雄型、雌型を分離して内部よりゲルコート加飾した繊維強化シクロオレフィン樹脂層を備えるシクロオレフィン樹脂加飾成形品を取り出した。
【0150】
得られた繊維強化シクロオレフィン樹脂層は炭素繊維が51体積部、シクロオレフィン樹脂が49体積部からなり、JIS K7017を準拠して測定した曲げ強さは640MPaであった。
【0151】
また、かかる繊維強化シクロオレフィン樹脂層のゲルコート加飾面をJIS K5600の方法により密着を確認したところ試験結果の分類は1であった。試験結果の分類が0または1は合格であり、得られたゲルコート加飾シクロオレフィン樹脂加飾成形品は、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層との密着が合格であった。
【0152】
ゲルコート組成物1の調製
23℃の室内にて東罐マテリアル社製NR-AC0001Pの100質量部に対し、メチルエチルケトンパーオキサイド2質量部を添加して混合した。調製したゲルコート組成物1を調製後直ちに使用した。なお、ゲルコート組成物1中、コバルト化合物やマンガン化合物などの硬化促進剤は1質量%以下であった。
【0153】
シクロオレフィン重合性組成物1の調製
23℃の室内にてジシクロペンタジエン93質量部とトリシクロペンタジエン7質量部を含むシクロオレフィン混合物にトリメチルプロパントリメタクリレート5質量部とヘキサメチレンジイソシアネート5質量部、ジ-t-ブチルペルオキシド2質量部を混合し、混合液(A)を調製した。
【0154】
23℃の室内にて[1,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]ジクロロ(フェニルメチレン)(トリクロロヘキシルホスフィン)ルテニウム0.03質量部をシクロペンタノン1質量部に溶解し、混合液(B)を調製した。
【0155】
混合液(A)および(B)を調製後、直ちに混合液(A)および(B)を均一に混合してシクロオレフィン重合性組成物1を調製した。調製したシクロオレフィン重合性組成物1を直ちに使用した。
【0156】
実施例2
ゲルコート組成物1に代えて、ゲルコート組成物2を噴霧したほかは実施例1と同様にしてゲルコート加飾した繊維強化シクロオレフィン樹脂層を備えるシクロオレフィン樹脂加飾成形品を得た。得られた繊維強化シクロオレフィン樹脂層は炭素繊維が51体積部、シクロオレフィン樹脂が49体積部からなり、JIS K7017を準拠して測定した曲げ強さは635MPaであった。
【0157】
また、かかる繊維強化シクロオレフィン樹脂層のゲルコート加飾面をJIS K5600の方法により密着を確認したところ試験結果の分類は1であった。試験結果の分類が0または1は合格であり、得られたゲルコート加飾シクロオレフィン樹脂加飾成形品は、ゲルコートとシクロオレフィン樹脂層との密着が合格であった。
【0158】
ゲルコート組成物2の調製
23℃の室内にて1質量部のジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートと1質量部の2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチラートを混合しペースト状にし、該ペーストを東罐マテリアル社製NR-AC0001Pの100質量部に添加して混合した。調製したゲルコート組成物2を調製後直ちに使用した。なお、ゲルコート組成物2中、コバルト化合物やマンガン化合物などの硬化促進剤は1質量%以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の製造方法により得られるシクロオレフィン樹脂加飾成形品は、シクロオレフィン樹脂の特性をもつと同時に通常塗装を超えた高品位の加飾性能を有し、優れたものであるので、一般にシクロオレフィン樹脂が使用される分野、例えば、動体や移動体の筐体や住設などの部材に好適に用いることができる。