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特許7541535車両制御指令が将来の車両安全マニューバを除外するかどうかを判断するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】車両制御指令が将来の車両安全マニューバを除外するかどうかを判断するための方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/00 20060101AFI20240821BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240821BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240821BHJP
   B60W 30/08 20120101ALI20240821BHJP
【FI】
B60W50/00
B60W60/00
G05D1/43
B60W30/08
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021565030
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019061858
(87)【国際公開番号】W WO2020224778
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】サンドブロム,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】ハグヴァル,リーナス
(72)【発明者】
【氏名】ウィグストロム,オスカー
(72)【発明者】
【氏名】クリントベリ,エーミル
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-260473(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129067(WO,A1)
【文献】特表2018-534205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在の車両状態(xk|k)に関連する車両(1)を制御するための車両制御指令(u)を監視し、前記車両(1)による状況回避制御の実行を除外するべきかどうかを決定するために制御ユニットにおいて実行される方法であって、
1つ又は複数の安全集合(S,S,…S)を取得するステップ(S1)であって、各安全集合は、前記状況回避制御を開始して完了できる車両状態の範囲を表す、ステップ(S1)と、
前記現在の車両状態(xk|k)を取得し、前記制御ユニットの外部の基準運転システムユニットから前記制御指令(u)を取得するステップ(S2)と、
前記現在の車両状態(xk|k)及び前記制御指令(u)に基づいて将来の車両状態(xk+1|k)を予測するステップ(S3)と、
前記予測された将来の車両状態(xk+1|k)を前記1つ又は複数の安全集合(S,S,…S)と比較し、前記予測された将来の車両状態(xk+1|k)が前記1つ又は複数の安全集合(S,S,…S)のいずれにも含まれていない場合は、前記制御指令(u)に従うことによって前記状況回避制御を完了することができなくなると判断して前記状況回避制御の実行を除外するべきと決定するステップ(S4)と
を含み、
前記状況回避制御は、安全停止制御であり、
前記1つ又は複数の安全集合(S ,S ,…S )は、前記安全集合をオフラインで生成するように構成された処理装置(14)から少なくとも部分的に得られる、方法。
【請求項2】
前記状況回避制御(23)は、予め決められた前後加速度プロファイル(510)及び前記予め決められた前後加速度プロファイルに関連する横方向制御則によって少なくとも部分的に規定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記状況回避制御は、前記状況回避制御によって到達される車両状態の目標範囲(X)によって少なくとも部分的に決められる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記状況回避制御の実行は、前記車両状態の目標範囲(X)に到達するための予め決められた前後加速度プロファイル(510)及び前記予め決められた前後加速度プロファイルによって補償することができない少なくとも1つの外乱が存在する場合、除外される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ又は複数の安全集合(S,S,…S)は、それぞれ、N段階ロバスト制御可能な集合に再帰的に変更される一段階ロバスト制御可能な集合に基づいて決定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ又は複数の安全集合(S,S,…S)は、線形差分包含モデルに基づいて決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ又は複数のオフラインで生成される安全集合は、予め決められた加速度プロファイル(510)及び前記状況回避制御の最大制御軌道曲率に基づいて生成される基準安全集合である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
現在の運転シナリオに関連する最大軌道曲率値に基づいて、前記1つ又は複数の安全集合(S,S,…,S)を調整し、それぞれ調整された安全集合(S’,S’,…,S’)を生成するステップ(S11)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記予測は、前記車両(1)に関連する車両ダイナミクスのモデルに基づいて前記将来の車両状態(xk+1|k)を予測するステップ(S31)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記車両ダイナミクスのモデルは、所定の状況回避制御に対する前記車両(1)の予め決められた加速度プロファイル(510)によって少なくとも部分的に決定される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記車両ダイナミクスのモデルは、線形単一軌道モデルとして少なくとも部分的に決定され、モデル化されていない車両ダイナミクスに対して加法性雑音が考慮される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記予測は、外乱モデルに基づいて前記将来の車両状態(xk+1|k)を予測するステップ(S32)を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記予測は、前記将来の車両状態(xk+1|k)に関連する不確実性を予測するステップ(S33)を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記予測は、前記将来の車両状態(xk+1|k)に関連する運転可能領域を予測するステップ(S34)を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記制御指令(u)に従うことによって前記状況回避制御の実行を除外するべきと判断された場合、前記制御指令(u)を調整して調整制御指令(u’k)を生成するステップ(S5)を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記制御指令(u)に従うことによって前記状況回避制御の実行を除外するべきと判断された場合、前記予測された将来の車両状態(xk+1|k)が前記1つ又は複数の安全集合(S1,S2,…Sk)のいずれかに含まれていると決定された最後の点から、状況回避制御を起動させるステップ(S6)を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
コンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムが制御ユニットのコンピュータ又は処理回路上で作動するときに、請求項1から16のいずれかの方法を実行するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータプログラム。
【請求項18】
コンピュータプログラムを搭載するコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
前記コンピュータプログラムが制御ユニットのコンピュータ又は処理回路上で作動するときに、請求項1から16のいずれかの方法を実行するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項19】
現在の車両状態(xk|k)に関連して車両(1)を制御するための車両制御指令(u)を監視し、前記車両(1)による状況回避制御の実行を除外するべきかどうかを決定するための制御ユニットであって、
請求項1から16のいずれかに記載の前記方法を実行するように構成されている、制御ユニット。
【請求項20】
請求項19に記載の制御ユニットを備える車両(1)。
【請求項21】
車両(1)を制御するためのシステム(1400)であって、
車両制御指令(u)を生成するように構成された基準運転システムユニット(1410)と、
1つ又は複数の状況回避制御を生成するように構成された状況回避制御生成ユニット(1420)と、
前記車両制御指令(u)を監視し、前記車両(1)による状況回避制御の実行を除外するべきかどうかを決定するように構成された安全集合検証及び選択ユニット(1440)とを備え、
前記システム(1400)は、請求項1から16のいずれかに記載の前記方法を実行するように構成されている、システム(1400)。
【請求項22】
前記制御指令(u)に従うことによって前記状況回避制御の実行を除外するべきと判断された場合に、前記車両(1)が状況回避制御を開始することができるように、前記車両制御指令(uk)を調整して前記車両(1)を制御する調整制御指令(u’)を生成するように構成された中間運転システムユニット(1430)を備える、請求項21に記載のシステム(1400)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、現在の車両状態に関連する車両を制御するための車両制御指令が、何らかの外乱の存在に対して車両による将来の状況回避マニューバを除外するかどうかを決定するための方法、制御ユニット、車両、及びシステムに関する。
【0002】
本発明は、トラック及び建設機械のような大型車両に適用可能である。本発明は、主にセミトレーラー式車両に関して記載されるが、本発明は、この特定の車両に制限されるものではなく、リジッドトラック、建設機械、及びレクリエーション車両のような他の型式の車両に用いられてもよい。
【背景技術】
【0003】
自律車両及び半自律車両は、ナビゲーション及び車両制御のために種々の形式の処理システム及びセンサ入力信号を用いている。先進運転支援システム(advanced driver assistance systems:ADAS)もセンサ入力信号に基づいている。もし車両システムの一部が故障したなら、車両を最小リスク状態に移行する必要がある。この種の措置は、最小リスクマニューバ(minimum risk maneuver:MRM)と呼ばれている。MRMは、より一般的な状況回避マニューバ(situation avoidance maneuver:SAM)の一例である。SAMでは、車両が、望ましくない状況、例えば、検出されたリスク状況又は車両に関連するまさに不都合な状況を回避するための措置を行う。
【0004】
例えば、もし車両の安全操作に必要ないくつかの重要なセンサ信号が失われたなら、安全停止マニューバとしてのSAMが必要である。安全停止マニューバは、例えば、車両を道路の脇に移動し、制御された方法によって車両を停止させる。車両は、安全停止マニューバ中に少なくとも部分的に「ブラインド(blind)」になるため、制御は、場合によっては、代替的な入力信号に基づいて実行されねばならない。このような代替的な信号入力として、車輪の回転が、例えば、移動距離、速度、及び加速度を推定するのに用いられる推測航法(デッドレコニング:dead reckoning)が挙げられる。
【0005】
米国特許出願公開第2018/0224851A1は、GPS信号が失われた場合に安全停止マニューバを実行する際の問題に関するものである。主測位システムが故障した場合に推測航法に基づく位置推定が用いられるようになっている。
Todoran et al., “Just-in-Time Emergency Trajectories: A Formulation Towards Safety in Autonomous Navigation”, 2018 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS), 1 October 2018, p. 3422-3429,は、ロボットナビゲーションに関するものである。制約の下で軌道が生成され、安全位置に向かって車両がいつでも予定された軌道から逸脱することが許容される。
米国特許出願公開第2017/0158205は、いつADAS又はAD機能を作動させ、いつそのような機能を作動停止すべきかを決定するための方法に関する。この方法は、安全運転状態を判定するステップと、それが現在の運転状態から得られるかを検証するステップとを有する。
【0006】
安全停止マニューバのようなSAMを実行することに関連する問題は、車両が安全に、すなわち、成功が見込まれるようにSAMを実行することができない状態にあるかもしれないことである。例えば、車両は、要求されるSAM軌道曲率に従って旋回するには走行速度が速すぎることがある。
【0007】
上記の事実を考慮して、望ましくない車両状況を回避することができる許容可能な車両状態空間を決定する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、現在の車両状態に関連する車両を制御するための車両制御指令が車両による将来の状況回避マニューバ(SAM)を除外(preclude)するかどうかを決定する方法を提供することにある。この方法は、1つ又は複数の安全集合を取得するステップであって、各安全集合は、将来SAMが成功の見込みを伴って初期化され得る車両状態の範囲を表すステップを含んでいる。また、この方法は、現在の車両状態及び制御指令を取得する方法も含んでいる。次いで、この方法は、現在の車両状態及び制御指令に基づいて将来の車両状態を予測し、予測された将来の車両状態を1つ又は複数の安全集合と比較するステップを含んでいる。この方法は、予測された将来の車両状態が1つ又は複数の安全集合のいずれにも含まれていない場合は、制御指令が将来SAMを除外することを決定するステップを含んでいる。
【0009】
この方法は、例えば、制御指令を監視してSAMが常に成功の見込みを伴って実行され得ることを検証するために用いられる。従って、「誰でも(anyone)」車両をシステムによってもたらされる境界内において運転することができるので、有利である。これによって、車両の運転制御システムの要件を緩和することができるので、有利である。
【0010】
有利には、いくつかの態様によれば、この方法論が一連の想定される車両動的モデルに対しても安全であることが実証可能である。
【0011】
この開示される方法によって、自律運転システム(ADS)は、該運転システムが安全であることが知られていない軌道を提示するごとにSAMに頼る必要性をなくすことができる。また、この開示される方法によって、システムが、例えば、MRM又は安全停止マニューバを実行する決定を延ばし、それでも安全であるという妥協点を得ることができ、これによって、基準運転システムが車両の制御を取り戻す機会をもたらすことになる。これは、輸送効率の向上に貢献するので、有利である。
【0012】
いくつかの態様によれば、SAMは、予め決められた前後加速度プロファイル及び関連する横方向制御則によって少なくとも部分的に規定される。従って、有利には、横方向制御則は、所定の加速度プロファイルに条件付けされることが可能である。これによって、有利には、効率的な処理が可能である。何故なら、例えば、車両速度に依存する車両ダイナミクスモデルは、横方向制御則を決定するときに既知であると見なされるからである。
【0013】
いくつかの態様によれば、SAMは、SAMによって到達される車両状態の目標範囲によって少なくとも部分的に規定される。従って、車両を車両状態の目標範囲内に含まれる状態に移行させる限り、SAMは、成功と見なされる。これによって、SAMを決定するときの自由度が得られるので、有利である。また、ある範囲の目標状態を許容することによって、関連する制御則の制約が緩和されるので、有利である。
【0014】
いくつかの態様によれば、SAMは、車両状態の目標範囲に到達するための対応する制御則によって安全に補償することができない少なくとも1つの外乱連鎖が存在する場合に除外される。従って、SAMの除外は、車両を、例えば、車両状態の目標範囲に移行させる制御則が存在しないことを必ずしも意味しない。何故なら、SAMの除外は、外乱連鎖の存在に依存しているからである。除外されるということは、いくつかの態様によれば、外乱連鎖が存在し、この外乱連鎖に対して車両を車両状態の目標範囲にもたらす対応する制御シーケンスが存在しないことを意味している。その結果、仮にSAMが除外されても、おそらく、全ての外乱に対してではないが一部の外乱に対して車両を車両状態の目標範囲に移行させる制御シーケンスが存在する可能性がある。
【0015】
いくつかの態様によれば、1つ又は複数の安全集合は、それぞれ、N段階ロバスト制御可能な集合に再帰的に修正される一段階ロバスト制御可能な集合に基づいて決定される。
【0016】
従って、有利には、安全集合を生成するための効率的な方法が提供される。
【0017】
いくつかの態様によれば、1つ又は複数の安全集合は、安全集合をオフラインで生成するように構成された処理装置から少なくとも部分的に得られる。
【0018】
有利には、必要な計算の一部がオフラインで行われてもよい。何故なら、車両の計算資源は、処理電源の観点から又は処理時間の制約の観点から制限されるからである。また、リアルタイム計算又はオンライン計算の数を減らすことによって、より容易に性能評価が得られることになる。
【0019】
いくつかの態様によれば、1つ又は複数のオフラインで生成された安全集合は、予め決められた加速度プロファイル及び最大マニューバ軌道曲率に基づいて生成された基準安全集合である。従って、車両は、現在の運転条件に対応するオフラインで生成された基準安全集合を選択し、これによって、計算資源を節約することができる。何故なら、車両は、基準安全集合をオンラインで生成する必要がないからである。
【0020】
いくつかの態様によれば、この方法は、現在の運転シナリオに関連する最大軌道曲率値に基づいて、1つ又は複数の安全集合を調整し、それぞれ、調整された安全集合を生成することを含んでいる。このようにして、オフラインで生成された基準安全集合のような既存又は周知の安全集合を現在の運転シナリオに合わせて調整し、これによって、システム全体の精度を向上させることができる。また、運転済みの経路の事前知識を用いることによって、システム内の計算を輸送効率がさらに向上するように適合させることができる。
【0021】
いくつかの態様によれば、予測は、車両に関連する車両ダイナミクスのモデルに基づいて将来の車両状態を予測することを含んでいる。車両ダイナミクスのモデルは、例えば、車両の既知の加速度又は速度プロファイルに基づいて正確に決定される。
【0022】
いくつかの態様によれば、車両ダイナミクスのモデルは、線形化された単一軌道モデルとして少なくとも部分的に決定され、非モデル化車両ダイナミクスに対して加法性雑音が考慮されるようになっている。モデル化されていない車両ダイナミクスが考慮されると、追加的なシステムの安全性とロバスト性がもたらされるため、有利である。
【0023】
いくつかの態様によれば、予測は、有界外乱モデルに基づいて将来の車両状態を予測することを含んでいる。有界外乱モデルを想定することによって、計算を簡略化することができるので、有利である。
【0024】
いくつかの態様によれば、予測は、将来の車両状態に関連する不確実性を予測することを含んでいる。これによって、追加的なシステムのロバスト性がもたらされるので、有利である。
【0025】
いくつかの態様によれば、予測は、将来の車両状態に関連する運転可能領域を予測することを含んでいる。運転可能領域は、道路の形状から必ずしも簡単に導き出せるとは限らない。開示されるこの方法は、有利には、より複雑な運転可能領域に適用可能である。
【0026】
いくつかの態様によれば、この方法は、制御指令が将来SAMを除外する場合に中間運転システム制御指令によって制御指令を調整することを含んでいる。中間運転システム制御指令は、SAMを除外しないように決定することができる。これは、車両が中間運転システムに基づく操作を継続することが可能であることを意味している。これによって、輸送効率が増大される。何故なら、SAMの起動が、場合によっては、回避されるからである。
【0027】
いくつかの態様によれば、この方法は、制御指令が将来SAMを除外する場合にSAMを起動させることを含んでいる。従って、有利には、開示されるこの方法は、SAM指令を作動させ、これによって、安全な車両操作をもたらすために用いられてもよい。
【0028】
いくつかの態様によれば、SAMは、MRMである。開示されるこの方法は、有利には、MRMを起動するために用いられてもよく、MRMを常に成功の見込みを伴って初期化することを確実にするために用いられてもよい。
【0029】
前述の利点に関連付けられる制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ読み取り可能な媒体、コンピュータプログラムプロダクト、システム、及び車両も、本明細書に開示されている。
【0030】
一般的に、請求項に用いられる全ての用語は、本明細書に別段の定めがない限り、技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「ある1つの要素、装置、構成要素、手段、ステップ、等(a or an element,apparatus,component,means,step,etc.)」への全ての言及は、特に明記しない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップ、等の少なくとも1つの実例を指すものとしてオープンに解釈されるべきである。本明細書に開示されるどのような方法のステップであっても、明記されない限り、開示される通りの順序で行われる必要がない。本発明の更なる特徴及び利点は、添付の請求項及び以下の説明を検討すれば、明らかになるであろう。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の互いに異なる特徴を組み合わせることによって、以下に記載されるもの以外の実施形態を作成することができることに想到するだろう。
【0031】
以下、添付の図面を参照して、例として引用される本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】車両を概略的に示す図である。
図2】車両による例示的な状況回避マニューバを示す図である。
図3】例示的な安全集合を概略的に示す図である。
図4】例示的な安全集合を概略的に示す図である。
図5】速度プロファイルを示すグラフである。
図6】状況回避マニューバの横方向制御を示す図である。
図7】車両状態の予測操作の例を概略的に示す図である。
図8】車両状態の予測操作の例を概略的に示す図である。
図9】状況回避マニューバの例示的な集合を示す図である。
図10】調整された安全集合を概略的に示す図である。
図11】方法を説明するフローチャートである。
図12】制御ユニットを概略的に示す図である。
図13】コンピュータプログラムプロダクトの例を示す図である。
図14】車両制御システムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明のいくつかの態様を示す添付の図面を参照して、本発明を更に十分に説明する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に記載される実施形態及び態様に制限されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が十分かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に知らしめるために例示されている。同様の符号は、本明細書の全体を通して同様の構成要素を指すものとする。
【0034】
本発明は、本明細書に記載されかつ図面に示される実施形態に制限されないことを理解されたい。むしろ、当業者は、添付の請求項の範囲内において多くの変更及び修正がなされ得ることを認識するだろう。
【0035】
図1は、牽引車両2及び2つの被牽引車両3,4を備える連結式車両1を概略的に示している。牽引車両は、第五輪を有する商用高速道路用に適合されたレギュラートラック又はトラクターであるとよいが、オフロードトラック、バス、又はレクリエーション車両であってもよい。第1の被牽引車両又はトレーラー3は、図示される例では、トラックのトレーラーカプラに接続された牽引バーを有するドーリー(dolly)である。ドーリーは、2つの車輪軸7を備えている。第2の被牽引車両又はトレーラー4は、ドーリーの第五輪に接続されたキングピン8を備えるセミトレーラーである。この例は、より長い連結式車両の一般的な型式を示しているが、他の型式の牽引車両及び他の型式の多くの被牽引車両を有する他の型式の連結式車両を用いることも可能である。異なる連結式車両の例として、レギュラートレーラーを有するトラック、センターアクスルトレーラーを有するトラック、ドーリー及びセミトレーラーを有するトラック、セミトレーラーを有するトラクター、Bリンク及びセミトレーラーを有するトラクター、セミトレーラー及びレギュラートレーラーを有するトラクター、又はセミトレーラードーリー及びセミトレーラーを有するトラクターが挙げられる。
【0036】
図示される連結式車両では、牽引車両、すなわち、トラックの有効ホイールベースLeg1は、トラックの前車軸12から仮想車軸13までの長さである。第1の被牽引車両、すなわち、ドーリーの有効ホイールベースLeq2は、牽引バー接続部からドーリーの仮想車軸6までの長さである。第2の被牽引トレーラーの有効ホイールベースLeg3は、キングピン8からトレーラー4の仮想後車軸9まで延在している。
【0037】
牽引車両は、処理回路及びセンサシステムを備える種々の自律又は半自律運転機能を備えている。例えば、車両は、図12に関連して以下に更に詳細に検討される制御ユニット1200を備えている。
【0038】
車両は、接続部15を介して、車両制御システムを支援するためにオフライン計算を行うように構成された処理装置14に接続されている。接続部15は、好ましくは、無線接続であるが、有線接続、又はハードディスクドライブ等のようないくつかの記憶モジュールを介する接続であってもよい。
【0039】
車両1の車両ダイナミクスは、車両の速度に依存する。例えば、横加速度又は向心加速度aは、車両の前進速度v及び旋回半径Rに依存し、旋回半径Rが一定の場合、a=v /Rによって表される。また、トレーラーは、異なる速度において異なる挙動を呈する。速度が遅い連結式車両1の場合、トレーラー3,4は、米国特許第9,862,413B2において検討されているように、一定半径の旋回において内側に回り込み、これによって、通過領域(swept area)が内側に、すなわち、旋回を表す円セグメントの中心に向かって拡大することになる。速度が速い連結式車両の場合、横加速度aは、トレーラーの横滑りを引き起こすのに十分大きく、これによって、通過領域が外側に、すなわち、旋回を表す円セグメントの中心から離れる方に拡大することになる。旋回を行わないか又はRが極めて大きい状態(及び車両がジャックナイフ現象を起こしていない状態)にある連結式車両1の場合、通過領域は、牽引車両によって覆われる領域を超えて拡大することがない。何故なら、トレーラーは、牽引車両と同一の軌道を辿るからである。従って、連結式車両1によって通過される領域は、通常、低速で増大する。すなわち、低速で移動する連結式車両は、より高速で移動する同一の連結式車両と比較して、実際にはより広い範囲にわたって通過する。通過領域は、ある「理想的な(ideal)」又は「最適な(optimal)」速度において最小であり、向心加速度の増加に起因して横滑りが生じるのに十分な高速度になると再び増大する。
【0040】
ここで、運転可能領域(drivable area)は、車両が車両の損傷又はドライバーの負傷のリスクをもたらすことなく配置され得る領域である。もちろん、障害物が道路に存在しない限り、道路自体が運転可能領域である。しかし、状況によっては路肩が運転可能領域に含まれることがあり、状況及び車種によっては道路の側方領域も運転可能領域に含まれることがある。例えば、もし比較的平坦な地面が道路との間に側溝のない状態で道路の側方に延びているなら、その平坦な地面は、運転可能領域と見なされてもよい。何故なら、連結式車両は、車両に損傷を与えるか又は車両乗員に負傷を与える著しいリスクをもたらすことなく、その地面上を一時的に運転することができるからである。ダンプカー等のようなオフロード車両は、おそらく、通常の貨物輸送車両よりも大きい運転可能領域に関連付けられる。運転可能領域は、制御ユニット1200によって決定されるとよく、その決定については、以下に更に詳細に説明する。
【0041】
車両状態は、車両が現在どのような状態にあるかを連携して記述する変数の集合である。ここで、車両状態は、車両位置(座標)及び車両方位(例えば、ヨー角、操舵角、及び連結角)に関連する変数を含んでいる。また、車両状態は、車両ダイナミクスの状態、すなわち、車両速度、加速度、旋回速度、等に関連する情報を含んでいる。車両状態は、多くの場合、状態変数xのベクトルとして表される。以下に更に詳細に検討されるように、許容可能な車両状態空間は、一般的に、状態変数の上限及び下限の両方、例えば、マニューバ中の横方向位置を含んでいる。
【0042】
「安全(safe)」という用語は、本明細書において広く解釈される。安全車両状態は、車両及び/又は車両乗員及び/又は他の道路利用者が負傷又は損傷に関するリスクに晒されない状態である。
【0043】
安全な状態と安全でない状態のいくつかの例を以下に挙げる。
【0044】
いくつかの態様によれば、衝突のリスクが起こりそうもない状況は、安全な状態と見なされる。
【0045】
いくつかの他の態様によれば、衝突のリスクが起こりそうもないとは言えない状況も、対象物によっては依然として安全状態と見なされることがある。すなわち、小さな茂み又は木との衝突は、安全と見なされるが、他の車両又はレンガ壁のような大きな対象物との衝突は、安全ではないと見なされる。
【0046】
いくつかの更なる態様によれば、他の車両との衝突であって、衝突が低リスクとして容認されることが車車間通信(V2V)を介して予め分かっていた衝突は、安全と見なされる。
【0047】
いくつかの態様によれば、車両が運転可能領域から外れる状況は、安全ではないと見なされる。
【0048】
他の態様によれば、運転可能領域から外れる状況は、前述したように、運転可能領域の外の地面の特性によっては安全と見なされることもある。
【0049】
状態空間は、車両状態の範囲を表すN次元の空間である。車両の型式に依存して、例えば、最大到達可能な速度及び加速度によって、状態空間は常に物理的に制限される。制御ユニット1200は、状態空間に更なる制約を与え、これによって、車両状態空間をある範囲の値に制限する。
【0050】
自律及び半自律型の連結式車両は、ドライバーの有無に関わらず、車両を制御するためにセンサ信号入力に依存する。自律機能を支援するために車両に配置されたセンサシステムは、無線検出及び測距センサ(レーダーセンサ)、光検出及び測距センサ(ライダーセンサ)、カメラのような視覚系センサ、及び衛生測位システム(GPS)レシーバのいずれかを備えている。これらのセンサは、障害物を検出するために及び例えば、車両の前方の運転可能領域の幾何学的形状を確認するために、車両周辺を監視する。また、車両は、多くの車載センサ、例えば、操舵角センサ、連結角センサ、すなわち、牽引トラックとトレーラーとの間の角度を測定するセンサ、車輪速度センサ、及び慣性測定ユニット(IMU)を備えている。
【0051】
車両が1つ又は複数のセンサシステムからのセンサ入力を失った場合、危機的な状況が生じる可能性がある。例えば、レーダーデータセンサ及びライダーデータセンサが故障することがあり、又はセンサ信号データを処理するための処理ユニットが停止することがある。もし重要なセンサ信号が失われたなら、又はいくつかの重要な操作が妨げられたなら、安全停止マニューバのような自動操作が必要になる。この操作は、車載センサシステムを用いる制御に基づいて、すなわち、車輪速度及びおそらく操舵輪角度センサを用いる推測航法に基づいて行うことができる。
【0052】
ここでは、最小リスクマニューバ(MRM)は、車両を安全状態に移行させる措置である。安全停止マニューバは、MRMの一例である。しかし、MRMは、所定の車線において一定の速度を維持すること、又は障害物回避措置を行うことも含んでいる。
【0053】
MRMは、状況回避マニューバ(SAM)の一例である。状況回避マニューバの分類としては、検出されたリスク状況のような望ましくない状況を回避するために実行される全ての措置を含む。SAMは、例えば、困難な駐車状況等にも関連する。
【0054】
SAMは、例えば、車両の速度が速すぎる場合又は車両が道路境界に対して不適切な横方向位置にある場合、常に、安全に実行することができるとは限らない。もしSAMが実行中に生じ得る全ての外乱効果に対して有効であるなら、SAMは、成功の見込みを伴って開始可能であると言える。一方、もしそれぞれの制御指令によって補償できない少なくとも1つの外乱事象が存在するなら、SAMは、成功するとは限らない。しかし、これは、MRMが全ての起こり得る外乱に対して実行不可能であることを意味するものではなく、いくつかの起こり得る外乱に対してのみ実行不可能であることを意味するにすぎない。換言すれば、任意の時刻において、実行される単一の安全措置が、安全のための十分な条件を満たすことがある。しかし、もし次の決定点において成功の見込みを伴って開始することができないなら、措置は即時に開始されねばならない。即時の実行は、常に可能である。何故なら、この決定点において安全措置を実行することができるということは、前回の決定点において安全措置を実行しなかったという基準であるからである。
【0055】
いくつかの態様によれば、成功の見込みを伴って初期化される(initialized)とは、マニューバを高確率で首尾よく完了することができることを意味している。いくつかの態様によれば、この確率は、100%に近い、すなわち、マニューバの保証された成功に近いと見なされる。いくつかの他の態様によると、確率は、100%未満である。換言すれば、マニューバが成功の見込みを伴って開始可能と言えるのに必要な確率又は可能性を決定する閾値を設定することができる。
【0056】
図2は、例示的なSAM23を示している。車両1は、2車線の道路21上を走行している。殆どの場合、左側車線は、反対方向の交通によって占められるものであり、回避されるべきである。車両1は、例えば、ある種のシステム障害に起因して、位置(A)においてSAMが必要であると判断する。SAM軌道23は、車両1を、道路22の側方において完全な停止がなされる位置(B)において安全状態に移行するように決定される。SAM23は、車両が軌道に沿った種々の点においていかに強くブレーキをかけるべきかを記述する加速度プロファイルと、車両を位置(B)の安全状態に安全に移行させるために車両をいかに旋回させるべきかを記述する横方向制御則と、によって決定される。
【0057】
車両の安全性を確保するために、「セーフティネット(safety net)」が車両制御機能に含まれていてもよい。セーフティネットの役割は、安全なブラインドストップ(blind stop)が保証されない状態に車両が行き着かないことを確実にするために、車両の制御指令を監視することにある。概念的に、この監視の問題は、前方到達可能性の問題と見なすことができる。前方到達可能性の分析は、一般的に、種々の初期状態及び異なる種類の外乱を考慮するためにオンラインで行わなければならない計算負荷の高い操作である。
【0058】
このセーフティネットの概念における監視の問題は、「もし我々が現在の制御動作を用いるなら、我々は、合理的な確率で次の決定時点にブラインドストップを成功させることを確実にするか又は予測することができるか?」という質問によって要約されるだろう。
【0059】
もしブラインドストップの成功が保証される、以下、「安全集合(safe set)」と呼ばれる一組の状態が存在するなら、候補となる制御入力及びシステムのモデルを用いて、そのような状態が次のサンプリング時に安全集合に属するかどうかを予測することができる。状態ベクトルのロバスト集合の構成部分が確認される場合、その制御入力は、監視によって容認されることになる。その制御入力が容認されない場合、ブラインドストップのようなSAMは、初期化されるとよい。
【0060】
いくつかの態様によれば、一組の安全状態をモデルの状態に関してのみ表すことが可能である。すなわち、車両の安全挙動は、ある安全集合Sに対してx∈Sとして表すことができる。
【0061】
直感的に、もし運行設計領域(Operation Design Domain:ODD)が十分に単純であるなら、(例えば、もし高速道路の運転に制限されるなら)、安全状態を車両の横方向位置に関して表すことが可能である。
【0062】
安全措置の実行は、安全な基準制御が回復するまで、輸送任務の実行を明らかに妨げる。しかし、安全措置は、概して、単一のものではなく、どの操作点においても、事故を回避するいくつかの方法が存在し、複数の方法を知ることが交通状況の変化に対してシステムをよりロバストなものにする。
【0063】
以下、安全集合がいかに決定されるかについていくつかの詳細を説明する。
【0064】
ポリヘドロン(polyhedron)は、有限数の線形不等式に対する解集合として定義される。もしある不等式を解集合を変更することなくポリヘドロンの記述から取り除くことができるなら、その不等式は、余剰である。同様に、もしある不等式が余剰でなかったなら、その不等式は、必要である(又は余剰ではない)。もしポリヘドロンを記述する全ての不等式が必要であるなら、それらの不等式は、ポリヘドロンの最小表現を構成する。
【0065】
ポリトピック(polytopic)線形システムは、x(k+1)=A(k)x(k)+B(k)w(k)の形態にある離散時間線形システムである。x及びwは、それぞれ、状態変数及び外因性外乱を意味する。外因性外乱は、いくつかの他の態様によれば、有界であると見なされる。外因性外乱は、いくつかの他の態様によれば、所定の確率、例えば、100%に近い確率、具体的には、99.999%の確率である範囲内にあると見なされる。ポリトピック線形システムは、一般的に知られており、本明細書において更に詳細には検討しない。
【0066】
図3を参照すると、所定の目標集合Xに対して、一段階ロバスト制御可能な集合(又は原像集合(preimage set))S=Pre(X,W,Δ)は、x(k+1)=A(k)x(k)+B(k)w(k)によって、Xにロバスト的に写像された状態集合として定義される。ここで、Δは、行列対(A,B)の凸包を表し、w∈Wである。原像集合は、例えば、F.Borrelli,A.Bemporad,及びM.Morari著「線形及びハイブリッドシステムに対する予測制御(Predictive Control for linear and hybrid systems)」、ケンブリッジ大学出版局、2015年において検討されているので、ここでは更に詳細に検討しない。
【0067】
原像集合Sは、全てのw∈Wに対して車両状態を目標の状態集合Xに含まれる状態に移行させる(図3に示される)制御信号uが存在する車両状態の集合である。外乱の集合は、有界であると見なされるか又は一定の確率で生じる、ある集合と見なされる。
【0068】
もしXが線形不等式の集合を用いて規定されるなら、すなわち、もしある行列H及びあるベクトルhに対して
【数1】
であるなら、一段階ロバスト制御可能な集合Pre(X,W,Δ)は、
【数2】
として評価される。ここで、
【数3】
の要素jは、
【数4】
によって与えられる。但し、記号
【数5】
は、行列Hのj番目の列を指し、記号hは、ベクトルhのj番目の要素を指す。従って、もし集合Wがポリヘドロンであるなら、一段階ロバスト制御可能な集合は、多くの線形計画(LPs)を解くことによって計算可能である。
【0069】
図4は、SAM23を実行する車両1を示しており、SAM23は車両状態x(T0)の時刻T0に開始する。車両状態xを時間間隔T1-T0の間に状態集合Xに含まれる状態に移行させるのが望ましい。
【0070】
時刻T0に開始した車両状態がある時刻T1に到達することが望まれる所定の目標集合Xに対して、N段階ロバスト制御可能な集合、すなわち、システムx(k+1)=A(k)x(k)+B(k)w(k)のPre(X,W,Δ)は、再帰的に、以下のように規定される。
【0071】
【数6】
【0072】
図5は、図4に示されるSAM23中に車両1が追従する速度プロファイル510を例示するグラフ500を示している。いくつかの態様によれば、この速度プロファイルは、任意のSAMに対して既知であると想定される。従って、SAMを決定するために、この想定された速度プロファイル510に基づき適切な横方向制御則を決定することのみが必要とされる。
【0073】
N段階ロバスト制御可能な集合は、ある時間tについてN=(T1-T0)/tの時間間隔で行われるシステムx(k+1)=A(k)x(k)+B(k)w(k)によってXにロバスト的に写像される状態集合である。N段階ロバスト制御可能な集合は、F.Borrelli,A.Bemporad,及びM.Morari著「線形及びハイブリッドシステムに対する予測制御(Predictive Control for linear and hybrid systems)」、ケンブリッジ大学出版局、2015年において検討されているので、ここでは更に詳細に検討しない。
【0074】
以下、N段階ロバスト制御可能な集合を計算する例示的なアルゴリズムについて説明する。このアルゴリズムは、コンピュータによる計算が必要とされる操作(すなわち、原像集合の評価及び最小表現の計算)によって構成されることを理解されたい。原像集合を評価するコストは、もし単純な有界性の外乱集合しか存在しないなら、著しく低減される。
【0075】
N段階ロバスト制御可能な集合の計算のためのアルゴリズムは、Ω=Xとして与えられ、k=1,…,Nに対して、
Ω=Pre(Ωk-1,W,Δ)∩Xを計算し、
次いで、Ωの最小表現を求めることになる。
【0076】
従って、N段階ロバスト制御可能な集合は、Pre(X,W,Δ)=Ωによって与えられることになる。
【0077】
以下、安全集合が車両1によって実際にどのように決定されるかを示す例について説明する。本開示は、安全集合を決定するこの詳細な方法に限定されないことを理解されたい。それどころか、当業者であれば、安全集合は、数学的解析、コンピュータを用いる実験的方法、又は特にこのための研究及び具体的な実験的方法を用いることによって、多くの異なる方法によって決定され得ることを理解するだろう。
【0078】
この例において、車両1の横方向ダイナミクスを記述する線形モデルが道路又はある推定された運転可能領域に関して所定の前進速度510に対して利用可能であると仮定する。更に、時刻kにおける車両状態は、状態変数x(k)によって与えられると仮定する。これによって、以下の式が得られる。
x(k+1)=A(k)x(k)+B(k)u(k)+D(k)w(k)
y(k)=C(k)x(k)+E(k)w(k)
z(k)=F(k)w(k)
上式において、Aは、車両ダイナミクスをモデル化し、Bは、車両状態xへの制御指令uの影響をモデル化し、Dは、外乱wの車両状態xへの影響をモデル化し、yは、Cを介する車両状態xの測定値(measurement)を示し、Eは、Eを介する測定値yへの外乱wの影響をモデル化している。変数zは、任意選択的であり、Fを介する外乱測定値を示す。
【0079】
図6は、位置(A)における初期状態x(T0)から位置(B)における目標状態に移行するSAM軌道23を示している。ここで、例示的な車両状態xは、三次元の位置ベクトルx、速度ベクトルv、及び加速度ベクトルaを含んでいる。時刻Tiにおいて、車両の真の状態は、三角マークによって示されるx(Ti)であるが、この真の状態は、星マークによって示される時刻TiにおけるSAM軌道から大きさe(Ti)だけ異なっている。SAM23制御システムの目的は、誤差e、又は誤差eの関数を最小化することである。速度ベクトルv及び加速度ベクトルaに対する目標値は、いくつかの態様によれば、SAMによって予め決められている。従って、SAM軌道23を十分に規定するためには、横方向制御則のみが必要である。このようにして、図6を参照すると、SAM実行中の前進速度プロファイルが予め定まっているので、ブラインドストップ中の横方向移動が、線形状態フィードバック、すなわち、u(k)=L(k)(y-y(k))+Lff(k)z(k)を用いて制御されることになる。ここで、Lは、時間変化する可能性があるフィードバックゲイン行列であり、yは、出力参照ベクトルであり、Lffは、外乱測定値zに関連するフィードフォワードゲインベクトルである。
【0080】
ブラインドストップ中の閉ループシステムは、x(k+1)=A’(k)x(k)+B’(k)w’(k)として表されることに留意されたい。但し、A’(k)=A(k)-B(k)L(k)C(k)、B’(k)=B(k)Lff(k)F(k)-B(k)L(k)E(k)+D(k)B(k)L(k)、及びw’(k)=[w(k)y(k)である。その結果、この例に対して、前述のN段階ロバスト制御可能な集合を決定するためのアルゴリズムを適用することが可能である。
【0081】
図7は、開示される方法を裏付ける一般的な考え方を示している。車両1は、ある時刻T0-tにおいて車両状態x(k|k)に関連付けられている。tは、自動運転システム1又はADASシステムのある更新期間に関連付けられている。
【0082】
いくらか簡素化された記号x(k|k)は、本明細書では、時刻kにおいて時刻kまでのデータが与えられた車両状態xとして広く解釈されるべきである。表記を簡単にするために、時刻kまでのデータが与えられた車両状態の予測値は、x(k+1|k)として表される。
【0083】
車両1の制御システムが制御指令uを出力したと仮定する。これによって、制御指令u及び車両ダイナミクスのモデルに基づいて時刻k+1における車両1の状態を予測することが可能である。この予測は、図7において、x(k+1|x(k),u)、すなわち、時刻kにおける車両状態x及び制御指令uに関する情報が与えられた時刻k+1における車両状態として示されている。予測された車両状態x(k+1|x(k),u)は、安全集合Sに含まれている。これは、全ての考えられる外乱w∈Wに対して車両1を安全状態に移行させるためのSAMを首尾よく実行することが可能であることを意味している。その結果、制御指令uは、許容され、車両制御が継続可能になる。しかし、制御指令uの場合、予測値x(k+1|x(k),u)は、安全集合Sに含まれていない。これは、少なくとも1つの外乱w∈Wが存在し、この外乱w∈Wのために、車両を安全集合に移行させるために用いられる制御シーケンスが存在しないことを意味している。これは、制御指令uを受け入れることによって、SAM23が時刻k+1において除外されることを意味している。しかし、これは、車両をXに移行させるのが不可能であることを意味するものではない。何故なら、移行を可能にする多くのw∈Wが存在する可能性があるからである。
【0084】
結果的に、本明細書における「除外する(preclude)」という用語は、車両1を状態Xの目標集合内に移行することが不可能であること(例えば、uが容認される場合)を必ずしも意味しない(ことを理解されたい。これは、外乱w∈Wが潜在的に存在し、この外乱w∈Wのために、車両を状態Xの目標集合に移行させるための制御則を式化させることができないことを意味するにすぎない。
【0085】
図8は、車両状態xを予測するいくつかの態様を概略的に示している。時刻kにおいて、車両状態x(k|k)は、車両状態の推定の正確さを記述する車両状態の不確実性測定(uncertainty measure)810に関連付けられている。完全な状態推定は、「真」の車両状態と全体的に一致するが、より現実的な車両状態の推定は、誤差分布によって真の状態と異なっている。車両状態の不確実性を表す一般的な方法は、予期される誤差分散を表す共分散行列又は誤差楕円によるものである。また、不確実性は、ポリトープ又はより一般的な境界構造によっても表すことができる。
【0086】
制御指令u820は、時刻kにおいて発せられ、この制御指令は、時刻k+1における車両状態及び車両状態の不確実性840に影響を与える。不確実性測定は、時刻k+1において安全状態830の集合と比較することができる。このようにして、よりロバストなシステムが得られる。何故なら、制御指令が将来SAMを除外するかどうかを決定する時に、車両状態の不確実性を考慮することができるからである。
【0087】
以下、図9に示されるように車両に対する2つの安全停止が存在する例について考える。この例では、これらの2つの安全停止への車両の移行は、SAMの例として扱われる。各安全停止は、基準安全停止位置の周りの車両状態の集合によって規定される。長手方向において、安全停止位置は、予め決められた加速度プロファイルを用いて達成される。横方向において、安全停止位置は、予め決められた制御則を用いて達成される。従って、SAMは、前後加速度プロファイル及び横方向制御則によって暗黙のうちに規定される。
【0088】
図10は、調整された安全集合S’に修正された基準安全集合Sを示している。ここで、外乱集合Wは、W={w=[αβ|-γ≦α≦γ,Qβ≦r}、(但し、ベクトルγ>0)として表されると仮定する。前述の検討に従って原像集合を評価する時、不等式α-γ≦0及び-α-γ≦0に対応するラグランジュ双対変数に対して、表記μi,j≧0及びπi,j≧0がそれぞれ用いられる。相補的スラックに起因して、ラグランジュ双対変数は、同時に(要素ごとに)ゼロにならないことに留意されたい。ここで、表記λi,j=max(μi,j,πi,j)を導入する。但し、max(a,b)は、その独立変数の要素ごとの最大値を含むベクトルである。更に、
【数7】
であることに留意されたい。従って、原像集合は、以下の式によって簡単に表される。
【数8】
上式において、Δγは、原像集合の評価に用いられたγの値の考えられる偏差を示す。同様に、感度は、以下の式によって示される調整された安全集合を表すために前述の再帰的プロセスを介して伝搬される。
【数9】
【0089】
いくらか興味深いことだが、γの選択は、線形不等式の方位に影響を与えず、原点からの距離のみに影響を与えることに留意されたい。
【0090】
もしγが更新されたなら、冗長不等式が必要になることを理解されたい。従って、最小表現は、注意して計算されるべきであり、名目上冗長であるいくつかの不等式は、集合の記述に残されねばならない。
【0091】
【数10】
上記の形式の安全集合に対して、運転条件が異なるγの選択を動機付ける時に安全集合の大きさを調整することは、原理的に簡単である。しかし、集合の大きさが小さくなる時、図10に示されるように、車両ダイナミクスの現在の一段階予測が依然として安全集合に含まれることを確認する必要がある。以下、αがスカラーの場合、いかに最大Δγをオンラインで計算することができるかについて説明する。システムダイナミクスの一段階予測は、点の集合の凸包、すなわち、x(k+1)∈Co(x,…,x)によって表されると想定される。
【0092】
このような各点に対する安全集合を規定する不等式の残余、ε=Qx-r,j=1,…,pを計算する。次いで、εの要素iについて、Δγを計算することによって、(ε)=0が得られる。次に、最大許容Δγがその結果の最小値として得られる。
【0093】
図11は、前述の態様を要約する方法を例示するフローチャートを示している。現在の車両状態xk|kに関連する車両1を制御するための車両制御指令uが車両1による将来の状況回避マニューバ(SAM)23を除外するかどうかを決定するための方法が、示されている。この方法は、
1つ又は複数の安全集合S,S,…Sを取得するステップS1であって、各安全集合は、車両状態の範囲を表し、この範囲から将来SAM23が成功の見込みを伴って初期化され得る、ステップS1と、
現在の車両状態Xk|k及び制御指令Uを取得するステップS2と、
現在の車両状態Xk|k及び制御指令Uに基づいて将来の車両状態Xk+1|kを予測するステップS3と、
予測された将来の車両状態Xk+1|kを1つ又は複数の安全集合S,S,…Sと比較し、予測された将来の車両状態Xk+1|kが1つ又は複数の安全集合S,S,…Sのいずれにも含まれていない場合、制御指令uが将来SAM23を除外することを決定するステップS4と、
を含んでいる。
【0094】
前述したように、この開示される方法を用いて、制御指令を監視し、SAMが任意の時刻において成功の見込みを伴って実行され得ることを検証することができる。従って、「誰でも(anyone)」車両をシステムによってもたらされる境界内において運転することができるので、有利である。これによって、車両の運転制御システムの要件を緩和することができるので、有利である。
【0095】
また、この開示される方法によって、自律運転システム(ADS)は、該運転システムが安全であることが知られていない軌道を提示するごとにSAMに頼る必要をなくすことができる。システムがSAMを実行する決断を延ばすことができ、それでも安全である妥協点が得られ、これによって、基準運転システムが車両の制御を再開する機会をもたらすことができる。これは、輸送効率を高めるので、有利である。
【0096】
いくつかの態様によれば、将来SAMは、所定数Nの離散時間更新期間t内に初期化されるSAMである。従って、SAMは、次の更新操作時に又は場合によっては将来のある時点において初期化されるSAMであってもよい。一例によれば、N=1である。
【0097】
SAM23は、任意選択的に予め決められた前後加速度プロファイル510及び関連する横方向制御則によって少なくとも部分的に規定されてもよい。加速度プロファイルを固定することによって、横方向制御則を既知の車両ダイナミクスに基づいて決定することができる。これは、横方向制御則の決定を容易にする。
【0098】
SAM23は、SAMによって到達されるべき車両状態Xの目標範囲によって少なくとも部分的に規定されてもよい。
【0099】
いくつかの態様によれば、SAM23は、車両状態Xの目標範囲に到達するための対応する制御則によって補償できない少なくとも1つの外乱連鎖が存在する場合に、除外される。従って、SAMの除外は、車両を、例えば、車両状態の目標範囲内に移行させる制御則が存在しないことを必ずしも意味しない。何故なら、SAMの除外は、外乱連鎖wの存在に依存しているからである。いくつかの態様によれば、除外されるということは、外乱連鎖wが存在し、この外乱連鎖wに対して車両を車両状態の目標範囲内にもたらす対応する制御シーケンスが存在しないことを意味している。その結果、仮にSAMが除外されても、おそらく、車両を状態の目標範囲内に移行くさせる制御シーケンスが存在する可能性がある。
【0100】
いくつかの態様によれば、1つ又は複数の安全集合S,S,…,Sは、それぞれ、N段階ロバスト制御可能な集合に再帰的に修正される一段階ロバスト制御可能な集合に基づいて決定される。一段階ロバスト制御可能な集合は、前述の通りである。これらの形式の集合は、F.Borrelli,A.Bemporad,及びM.Morari著「線形及びハイブリッドシステムに対する予測制御(Predictive Control for linear and hybrid systems)、ケンブリッジ大学出版局、2015年において検討されている。
【0101】
いくつかの態様によれば、1つ又は複数の安全集合S,S,…,Sは、線形差分包含モデルに基づいて決定される。
【0102】
いくつかの態様によれば、1つ又は複数の安全集合S,S,…,Sは、安全集合をオフラインで生成するために配置された処理装置14から少なくとも部分的に得られる。この処理装置14は、図1に示されている。必要な計算の一部がオフラインでなされると、有利である。何故なら、車両計算資源は、処理電源の観点から又は処理時間の制約の観点から制限されるからである。また、リアルタイム計算又はオンライン計算の数を低減させることによって、より容易な性能評価が得られることになる。
【0103】
いくつかの態様によれば、1つ又は複数のオフラインで生成された安全集合は、予め決められた加速度プロファイル510及び最大マニューバ軌道曲率に基づいて生成される基準安全集合である。安全集合の生成の例は、前述の通りである。この開示される方法は、前述の具体例に限定されるものでないことを理解されたい。
【0104】
いくつかの態様によれば、この方法は、現在の運転シナリオに関連する最大軌道曲率値に基づいて、1つ又は複数の安全集合S,S,…,Sを調整し、それぞれ調整された安全集合S’,S’,…,S’を生成するステップS11を含んでいる。安全集合の調整は、図10に関連して検討した通りである。
【0105】
いくつかの態様によれば、予測は、車両1に関連する車両ダイナミクスのモデルに基づいて将来の車両状態xk+1|kを予測するステップS31を含んでいる。車両ダイナミクスのモデルは、車両速度に依存する傾向があるが、これが、SAMを決定する時に既知の加速度プロファイルを想定すると有利になる理由である。換言すれば、車両ダイナミクスのモデルは、所定のSAM23に対する車両1の予め決められた加速度プロファイル510によって少なくとも部分的に決定される。
【0106】
いくつかの態様によれば、車両ダイナミクスのモデルは、線形単一軌道モデルとして少なくとも部分的に決定され、非モデル化車両ダイナミクスに対して加法性雑音が考慮される。
【0107】
いくつかの態様によれば、予測は、有界外乱モデルに基づいて将来の車両状態xk+1|kを予測するステップS32を含んでいる。前述したように、外因性外乱wは、いくつかの態様によれば、所定の確率、例えば、100%に近い確率、又は99.999%の確率である範囲内にあると見なされる。いくつかの他の態様によれば、外乱wは、一組の線形不等式によって囲まれている。
【0108】
いくつかの態様によれば、予測は、将来の車両状態xk+1|kに関連する不確実性を予測するステップS33を含んでいる。
【0109】
車両状態の予測は、図7,8に関連して前述した通りである。
【0110】
いくつかの態様によれば、予測は、将来の車両状態xk+1|kに関連する運転可能領域を予測するステップS34を含んでいる。
【0111】
安全性を確保するために、車両状態xが予測可能であるのみならず、運転可能領域も予測可能であるとよい。車両に用いられるモデルと同様、運転可能領域のモデルもダイナミクスであり、状態を含んでいる。車両状態及び運転可能領域を組合せることによって、車両が運転可能領域内にあるかどうかを決定することができる。多くの運転可能領域のモデルが同時に用いられてもよく、これによって、真の運転可能領域、例えば、車道、路肩、一般経路、等を近似することができる。
【0112】
運転可能領域の例示的なモデルは、道路中心線の湾曲に沿った一定幅の回廊から構成される。ダイナミクスモデルは、湾曲の境界及びその変化率を含んでいる。従って、車両モデルは、道路座標に関して生成され、道路と車両の間の距離を用いて安全状態を規定することができる。より複雑な運転可能領域のモデルは、道路中心の湾曲に加えて、(トラックの既知の幾何学的形状に依存する)道路に関する(連結角を含む)安全車両方位を含んでいる。
【0113】
いくつかの態様によれば、この方法は、制御指令uが将来SAM23を除外する場合に中間運転システム制御指令u’によって、制御指令uを調整するステップS5を含んでいる。中間運転システム制御に関する態様については、以下、図14に関連して説明する。
【0114】
いくつかの態様によれば、この方法は、制御指令uが将来SAM23を除外する場合にSAM23を起動させるステップS6を含んでいる。
【0115】
図12は、本明細書において検討した実施形態による制御ユニット1200の構成要素を、多くの機能ユニットに関して概略的に示している。この制御ユニット1200は、連結式車両1内に含まれている。適切な中央処理ユニットCPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSP、等の1つ又は複数の任意の組合せを用いる処理回路1210が設けられている。処理回路1210は、例えば、記憶媒体1230の形態にあるコンピュータプログラムプロダクト内に記憶されたソフトウエア命令を実行することができる。処理回路1210は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC又はフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして、更に設けられていてもよい。
【0116】
具体的には、処理回路1210は、制御ユニット1200が一組の操作、又はステップ、例えば、図10に関連して検討した方法を行えるように構成されている。例えば、記憶媒体1230は、一組の演算を記憶し、処理回路1210は、一組の演算を記憶媒体1230から取り出し、制御ユニット1200によって該一組の演算を行うように構成されている。一組の演算は、一組の実行可能な命令として与えられるとよい。従って、処理回路1210は、本明細書に開示される方法を実行するために構成されていることになる。
【0117】
記憶媒体1230は、永続記憶装置であってもよい。永続記憶装置は、例えば、磁気メモリ、光学メモリ、固体メモリ、又は遠隔取付メモリのいずれか1つ又は組合せであってもよい。
【0118】
制御ユニット1200は、少なくとも1つの外部装置、例えば、オフラインで安全集合を生成するために配置された外部処理装置と通信するためのインターフェイス1220を更に備えているとよい。このようなインターフェイス1220は、アナログ及びデジタル構成要素及び有線又は無線通信のための適切な数のポートを備える1つ又は複数の送信機及び受信機を備えている。
【0119】
処理回路1210は、例えば、データ及び制御信号をインターフェイス1220及び記憶媒体1230に送信することによって、データ及びレポートをインターフェイス1220から受信することによって、及びデータ及び命令を記憶媒体1230から引き出すことによって、制御ユニット1200の全体的な操作を制御する。制御ノードの他の構成要素及び関連する機能については、本明細書の概念を不明瞭としないように、省略する。
【0120】
図13は、コンピュータプログラムを搭載するコンピュータ読み取り可能な媒体1310を示している。媒体1310は、前記プログラムプロダクトがコンピュータ上で作動する時に図10に示される方法を行うためのプログラムコード手段1320を備えている。コンピュータ読み取り可能な媒体及びコード手段は、協働してコンピュータプログラムプロダクト1300を形成している。
【0121】
図14は、車両1を制御するためのシステム1400を示している。このシステムは、
車両制御指令uを生成するように構成された基準運転システムユニット1410又はユニットAと、
1つ又は複数のSAMを生成するように構成された状況回避マニューバSAM23生成ユニット1420又はユニットBと、
車両制御指令uが車両1による将来の状況回避マニューバSAM23を除外するかどうかを決定するように構成された安全集合検証及び選択ユニット1440又はユニットDと、を備えている。このユニットDは、図1~11に関連して前述した原理に従って作動する。
【0122】
いくつかの態様によれば、システム1400は、中間運転システムユニット1430又はユニットCも備えている。中間運転システムユニット1430は、制御指令uが将来SAM23を除外する場合に車両1が将来SAM23を開始することができるように、車両1を制御する制御指令u’kを生成するように構成されている。
【0123】
以下、種々のユニットについて詳細に説明する。
【0124】
1410,ユニットA:基準運転システム(Nominal Driving System:NDS)は、輸送を目的として開発され、「正常な運転(normal driving)」、すなわち、車線維持、車線変更、始動及び停止、等を担っている。現在の構成では、新規な構成であって、NDSに対して有効性及び正確さのいずれの要件も要求されないが、広範囲の車両ダイナミクスの能力を用いて高稼働率で車両を運転することがなお認められている。その出力は、制御信号u、例えば,[曲率、加速度]である。
【0125】
1420,ユニットB:安全マニューバ生成(Safe Maneuver Generation:SMG)機能としても知られるSAM生成ユニットは、いくつかの安全軌道、すなわち、いくつかの状況回避マニューバの計算を担っている。各状況回避マニューバは、次の決定点から(交通状況に関して)安全に実行されるものである。軌道は、経時的な状態空間における位置によって規定され、このような全ての軌道が、SAM出力に含まれている。
【0126】
1430,ユニットC:中間運転システム(Intermediate Driving System:IDS)は、状況回避マニューバへの不必要な移行を回避することによって輸送効率を高めるための任意選択的な構成要素である。その唯一の任務は、現在の操作モードに対する最小ダイナミクス変更によって、車両が次の決定点において状況回避マニューバを開始することが可能になるように、車両を制御する軌道を提案することである。例えば、これは、一定速度での車道への追従に対応する。
【0127】
1440,ユニットD:安全集合検証及び選択部(Safe Set Check and Selection:SSCS)は、安全制御信号を選択し、該信号をユニットEに送信することを担っている。更に、SSCSは、制御uが安全である場合、制御uの選択を制御u’よりも優先し、制御u’が安全である場合、制御u’の選択をいずれのSAMよりも優先する。制御u及びu’のいずれもが安全でない場合、先の決定点において安全であると判断された全てのSAMの1つを取り上げ、対応する制御信号をユニットEに送信する。
【0128】
一例によれば、以下の動作がオンラインで行われる。
-基準運転システム(及び任意選択的に中間運転システム)は、制御信号を安全集合検証及び選択部に送信する。
-SAM生成ユニットは、交通状態を監視し、予め決められた前後加速度プロファイルに対応する有効安全停止及びオフラインで計算された安全集合を安全集合検証及び選択部に送信する。
-安全集合検証及び選択部は、車両ダイナミクスのモデルと基準運転システムから得られた制御信号とを用いて状態ベクトルのロバスト一段階前方予測を行う。その予測が、安全集合検証及び選択部がSAM生成ユニットから得た有効安全停止に対応する安全集合のいずれかに含まれている場合、基準運転システムから得られた制御信号が動作制御部1450に送信される。その予測がどの安全集合にも含まれていない場合、同様の予測が中間運転システムから得られた制御信号を用いて行われる。その予測が安全集合のいずれかに含まれてい場合、ユニットCから得られた制御信号が動作制御部に送信される。その予測がどの安全集合にも含まれていない場合、(最後の決定点においてユニットB,Dによって安全であると検証された)SAMが開始される。更に、ユニットBが有効安全停止を提示できない場合、(最後の決定点において安全であると検証された)SAMが開始される。
【0129】
ユニットA~Eの一部又は全ては、制御ユニット1200に含まれている。ユニットA~Eの一部又は全ては、前述の処理ユニット14に接続部15を介して接続されていてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14