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特許7541539三次元ガラス物体の製造方法及びそれに適したガラス繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】三次元ガラス物体の製造方法及びそれに適したガラス繊維
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/20 20060101AFI20240821BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240821BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240821BHJP
   C03B 19/00 20060101ALI20240821BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20240821BHJP
   C03C 25/002 20180101ALI20240821BHJP
   C03C 25/24 20180101ALI20240821BHJP
   C03C 25/32 20180101ALI20240821BHJP
   C03C 25/40 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C03B23/20
B33Y10/00
B33Y70/00
C03B19/00 Z
C03B20/00 Z
C03C25/002
C03C25/24
C03C25/32
C03C25/40
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021576967
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2020062022
(87)【国際公開番号】W WO2020259898
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】19182983.7
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599089712
【氏名又は名称】ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】ヘーナー, ミリアム ソニア
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン, アヒム
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03034480(EP,A1)
【文献】特開平04-313705(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221298(WO,A1)
【文献】特開2014-006344(JP,A)
【文献】特表2018-503592(JP,A)
【文献】特開平05-294676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00 - 23/26
B33Y 10/00 - 99/00
C03B 19/00 - 19/14
C03B 20/00
C03B 35/00 - 35/16
C03C 25/00 - 25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスから三次元物体(1)を製造する方法であって、
ガラス繊維(2)の成形ステップを含み、該ステップでは、保護被膜(22)を備えた前記ガラス繊維(2)が、加熱源(3)に連続的に供給され、前記保護被膜(22)が、熱の影響下で除去され、及び、前記ガラス繊維(2)が軟化され、
前記ガラス繊維(2)が、10nmから10μmの範囲の層厚の保護被膜(22)を有することを特徴とする三次元物体(1)を製造する方法。
【請求項2】
50nmから5μmの範囲の層厚を有する保護被膜(22)を備えたガラス繊維(2)が用いられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガラス繊維(2)が、少なくとも300mm/分の供給速度で前記加熱源(3)に供給されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
20μmから1000μmの範囲の直径を有するガラス繊維(2)が用いられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記保護被膜(22)が除去された、長手方向部(23)は、0.5から2cmの範囲の長さを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記保護被膜(22)は、炭素、珪素、水素、窒素、及び酸素の成分のみで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記保護被膜(22)の分解温度が400℃未満であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記保護被膜(22)は有機材料からなることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記保護被膜(22)は、1つ以上の、フッ素を含まないシラン類及び/又はフッ素を含まない界面活性剤から作製されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記保護被膜(22)は、浸漬又はローラーコーティングによって前記ガラス繊維(2)上に作製されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
石英ガラスから三次元物体(1)を製造するための石英ガラス繊維であって、前記石英ガラス繊維(2)は、10nmから10μmの範囲の層厚の保護被膜(22)を備えており、前記石英ガラス繊維(2)が、50μmから300μmの範囲の直径を有することを特徴とするガラス繊維。
【請求項12】
前記保護被膜(22)が、50nmから5μmの範囲の層厚を有することを特徴とする請求項11に記載のガラス繊維。
【請求項13】
最小巻き取り直径30cm未満の巻き取りリールに巻かれていることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載のガラス繊維。
【請求項14】
前記保護被膜(22)は、分解温度が400℃未満の有機材料を含むことを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか1項に記載のガラス繊維。
【請求項15】
前記保護被膜(22)は有機材料からなることを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか1項に記載のガラス繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、特に石英ガラスから三次元物体を製造する方法であって、ガラス繊維の成形ステップを含み、該ステップでは、保護被膜を備えたガラス繊維が、加熱源に連続的に供給され、保護被膜が、熱の影響下で除去され、及び、ガラス繊維が軟化される方法に関する。
【0002】
本発明はまた、三次元ガラス物体を製造するためのガラス繊維であって、該ガラス繊維が保護被膜を備えているものに関する。
【0003】
複雑なガラス部品は、ガラスプレス技術又は溶融成形法によって工業的に製造されている。これらのプロセスは手間がかかり、高い処理温度と特別な道具や金型が必要であり、ガラス構造内や表面の欠陥や不良をもたらす可能性がある。
【0004】
付加造形技術は、特にモデルやプロトタイプ、又は小さい物体や個数の製造においてますます重要になり、手の込んだ道具を使用せずに複雑な形状を迅速に製造できるようになっている。付加造形技術の例としては、ステレオリソグラフィー、選択的レーザー溶融又は焼結、及び3次元印刷がある。ここで、固体、液体、又は粉末の出発物質が、空間的及び時間的に制御された方法で、ベース(基板、プラットフォーム)に分配され、計算されたモデルに基づいて実際の3次元物体を形成するために層状に結合される。
【背景技術】
【0005】
ガラスを製造するための最初の付加造形技術は、例えばガラス粉末又はガラス溶融物などの、不定形の出発物質を使用した。これと対照的に、Junjie Luo; Luke J. Gilbert; Douglas A. Bristow; Robert G. Landers; Jonathan T. Goldstein; Augustine M. Urbas; Edward C. Kinzelは、“Additive manufacturing of glass for optical applications(光学用途のガラスの付加造形)”(Laser 3D Manufacturing III, Proc. of SPIE, Vol. 9738, 2016)において、石英ガラスフィラメントの連続溶着による石英ガラスからの物体の製造を提案している。公称外径0.5mmのコーティングされていない石英ガラス繊維からなるフィラメントが、COレーザーのビームに直線状に供給され、そこで溶融され、基板上に層状に溶着されてガラス物体を形成する。
【0006】
しかしながら、コーティングされていない石英ガラス繊維は脆く、取り扱いや処理中に曲げてはいけない。このことは、例えば、ガラスフィラメントが、巻き取りリールに保管されたり、巻き取りリールから巻き戻されたりすることを阻む。
【0007】
この不利な点は、プラスチックの保護被膜で囲まれたガラスフィラメントが使用される上記のタイプの技術によって回避される。このタイプの方法は、P. von Witzendorff; L. Pohl; O. Suttmann; P. Heinrich; A. Heinrich; J. Zander; H. Bragard及びS. Kaierleによって“Additive manufacturing of glass: CO2-Laser glass deposition printing(ガラスの付加造形:COレーザーガラス蒸着印刷)”、Procedia CIRP 74 (2018), S. 272-275. DOI: https://doi.org/10.1016/j.procir.2018.08.109.に記載されている。
【0008】
ここでは、石英ガラスで構成されたファイバーコアと50μm厚さのプラスチック保護被膜を備えた0.4mm厚さのガラス繊維が、巻き取りリールからCOレーザーの焦点がぼかされたビームに実質的に延々と供給される。この保護被膜は、ファイバーコアの石英ガラスが溶融する前に、ここでレーザービームによって焼失される。
【0009】
EP 3 034 480 A1は、医療及び歯科分野で使用するためのガラス繊維からなる生物活性的な組織や布地の製造に関するものである。この生物活性ガラス繊維は、体内で容易に吸収されるコラーゲンIなどの、少なくとも250nmの厚さの生物活性物質でさらにコーティングすることができる。
【0010】
特開平05-294676号公報から、飽和高級脂肪酸及び/又はアルキルポリシロキサンからなる層を有するガラス繊維が知られている。この層の厚さは約0.1μmである。
【0011】
Leonhard Pohl, Philipp von Witzendorff, Elisavet Chatzizyrli, Oliver Suttmann, Ludger Overmeyerは、“CO2 laser welding of glass: numerical simulation and experimental study(ガラスのCOレーザー溶着:数値シミュレーションと実験的研究)”; The International Journal of Advanced Manufacturing Technology; Vol. 90, (2017); 397-403において、直径が0.4mmであり、厚さ50μmのプラスチック層を備えたガラス繊維を用いたガラスからの三次元物体の製造について記載している。このガラス繊維はCOレーザーのビームに直線状に供給され、そこで溶融される。その送り速度は300mm/分である。
【技術的課題】
【0012】
保護被膜のための約60μmの厚さは、光学ガラス繊維の標準的な厚さであり、例えば、線引きプロセス中にUV硬化コーティングとして被覆される。この厚さは、繊維に劣化に対する長期的な機械的及び光学的な保護を付与するために必要である。
【0013】
しかしながら、保護被膜からのプラスチックの残留物は、3D物体では許容されず、完全に除去する必要がある。このプラスチック保護被膜が焼失すると、大量のガスと不純物が形成され、それらが周囲の表面に析出し、石英ガラス繊維の気泡や内包物のない溶融を阻み又は妨げる。
【0014】
同じレーザー出力において、ガラスの粘度とベース上のガラス繊維の溶融挙動は、レーザービームの加熱期間、したがって繊維の供給速度に依存すると報告されている。この速度が上がるにつれ、ガラス材料の適用は、ガラス材料の気化(温度が高すぎる)、不連続、滴下溶融、連続溶融、及び、溶融接合の欠如(温度が低すぎる)の間で変化する。
【0015】
ガラス繊維が溶融する前にプラスチック保護被膜を完全に焼失させる必要があるため、繊維供給速度の範囲に上限が設定され、そのため、質量堆積速度(g/分で)が遅くなる。これは、特に、空間分解能の高い3D物体が必要な場合に顕著になり、これにより、例えば100μm未満の小さな繊維径を用いることが求められ、質量堆積速度がもはや経済的に実行不可能な低い値に制限される可能性がある。
【0016】
また、標準的なプラスチック保護被膜を備えたガラス繊維は、加熱すると変形する傾向が顕著であることが示されている。特に、ガラス繊維を繊維の長手方向軸の周りの捻りは、モデルによって事前定義されたガラス物体の望ましい輪郭を維持することが困難になり、例えば、基板への直線的な溶着がさらに困難になる。
【0017】
したがって、本発明は、ガラスフィラメント、特に石英ガラス繊維を使用する製造プロセスを提供するという目的に基づいており、これは経済的であり、線条細工ガラス物体又は光学的に可能な限り歪みがなく透明であるガラス物体の製造を容易にし、特に、高い空間分解能で光学的及び機械的特性の調整を可能にする。
【0018】
本発明はまた、ガラス繊維、特に石英ガラスからなるガラス繊維であって、特に本発明による製造方法での使用に特に適合し適切であるものを提供するという目的に基づいている。
【発明の概要】
【0019】
この方法に関して、本発明によれば、この目的は、上記のタイプの方法から出発し、ガラス繊維が10nmから10μmの範囲の層厚の保護被膜を有するということによって達成される。
【0020】
このガラス繊維は、特に石英ガラスから、三次元ガラス物体を製造するために用いることができる。以下、ガラスフィラメントを用いた製造方法を「ビルドアップ溶着法」ともいう。本発明による保護被膜を備えたガラス繊維の使用には、多くの利点がある:
【0021】
(1)ここでのように、中間製品として使用する場合、ガラス繊維を機械的損傷から保護するには、少なくとも10nm、好ましくは少なくとも50nmの保護被膜の厚さで十分である。その結果として、好ましい方法の変形によれば、ガラス繊維は、例えば、巻き取り直径が30cm未満の巻き取りリールに保管され、そこから連続的に巻き戻され、ビルドアップ溶着プロセス中に加熱源に供給され得る。
【0022】
ガラス繊維は、例えば、20μmから1000μmの範囲の直径、好ましくは50μmから300μmの範囲の直径を有する。ガラス繊維の直径に関するデータは、ここにおいて及び以下において、保護被膜なしの直径を参照する。非円形(例えば、楕円形又は多角形)の断面輪郭を有するガラス繊維の場合、ガラス繊維の直径に関連するデータは、輪郭を囲む外接円の直径を参照する。
【0023】
(2) 保護被膜は、ガラス繊維が加熱源の熱の影響下で溶融する直前に、工具と機械的に接触することなく、ガラス繊維から除去される。この除去は、例えば、保護被膜の構成成分の燃焼(熱分解)によって任意に支援される、気化によって行われる。最も単純な場合では、保護被膜の除去は、ガラス繊維を軟化させるためにも使用される加熱源の影響下のみで行われる。しかしながら、例えば、保護被膜の酸化的燃焼に特別に適合された追加の加熱源又は他の補助手段を使用することもできる。
【0024】
この場合、10μm未満、好ましくは5μm未満、特に好ましくは1μm未満という薄い厚さは、可能な限り残留物が無く、短時間で、保護被膜を気化及び/又は熱分解できるということに寄与する。これにより、ガラス繊維の直径が小さい場合でも、十分に高い質量堆積速度を伴う、ガラス繊維の高い供給速度が可能になる。
【0025】
(3)保護被膜の厚さが薄いため、加熱源の作用により保護被膜が除去される長手方向部を短く保つこともできる。ガラス繊維は曲がったり、この長手方向部で接触したりすることができなくなるため、損傷を受けたり破損したりすることがない。したがって、この長手方向部は可能な限り短く、好ましくは0.5から2cmの範囲の長さを有する。
【0026】
(4)低厚さの保護被膜から解放されたガラス繊維は、大きな変形傾向を示さないことが示され、これにより、繊維の誘導が容易になり、より高い位置決め精度と繊維層の正確な輪郭の成形又は溶着、特にベースの直線的な溶着が可能になる。これにより、光学的に可能な限り歪みのないガラス物体の製造が容易になり、それとともに、モデルによって定義された光学的及び機械的特性を順守することができる。
【0027】
低厚さの保護被膜を備えたガラス繊維を用いる本発明による方法は、加熱源へのガラス繊維の比較的高い供給速度を可能にし、これは、好ましくは少なくとも300mm/分、好ましくは少なくとも450mm/分である。
【0028】
薄い保護被膜によって可能になる高い供給速度は、ビルドアップ溶着法が高い質量堆積速度で経済的に実行されることを保証する。
【0029】
保護被膜は、好ましくは、炭素、珪素、水素、窒素、及び酸素の成分のみを含む。
【0030】
これらの成分は、気相を通じて残留物なしで除去することができる。ガラス物体の汚染につながる、有毒物質、又は、望ましくないカーボンブラック粒子及び固体の形成が回避される。
【0031】
保護被膜に分解温度が400℃未満の有機材料が含まれていると都合が良いことが証明された。
【0032】
保護被膜の除去は、例えば、一般に酸化反応と組み合わせて、保護被膜材料の熱分解によって完全に又は少なくとも部分的に行われる。分解温度が低いほど、保護被膜材料がより迅速に除去される。
【0033】
低い分解温度によって区別される適切な有機材料は、多糖類若しくは界面活性剤、特にカチオン性界面活性剤、又は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシド、及び/若しくは、ポリアルキレンオキシドなどの、ポリエーテルポリマーである。
【0034】
あるいは、保護被膜は、1つ以上の、フッ素を含まないシラン類から、及び/又は、フッ素を含まない界面活性剤、特にカチオン性のフッ素を含まない界面活性剤から作製される。
【0035】
これらの出発物質はフッ素を含まないため、保護被膜の除去中のフッ素の放出、及び、ガラス繊維又は三次元ガラス物体のガラスへの腐食攻撃を伴う、フッ化水素酸を形成する反応が回避される。
【0036】
電気通信用の市販の光ファイバーでは、保護被膜は、従来、繊維延伸プロセス中に、保護被膜材料がモノマーの液体形態で含まれるコーティングカップに前記ガラス繊維を通過させることによって、新たに延伸されたガラス繊維に直接被覆される。モノマーで湿らせたガラス繊維は、ダイを介してコーティングカップを離れ、このダイは、付着しているモノマー層の厚さを決定し、余分なモノマー材料を除去する。ガラス繊維表面の損傷を避けるために、ダイ壁とガラス繊維の間の最小の距離を観察する必要があり、これにより、モノマー層が硬化した後の保護被膜の最小の厚さが決定する。
【0037】
本発明による方法では、ガラス繊維上に薄い厚さの保護被膜が作製され、この最小の距離の要件のため、ダイを介して厚さを調整することが困難である。したがって、保護被膜は、好ましくは浸漬又はローラーコーティングによってガラス繊維上に作製される。
【0038】
この場合の保護被膜は、ダイではなく、例えば、保護被膜が作製されるコーティング溶液を含む浴にガラス繊維を浸漬することによって、又は、コーティング溶液の膜が配置されているローラー表面上にガラス繊維を通すことによって、ガラス繊維に被覆される。保護被膜は一時的な機械的保護を提供するだけでよいので、薄い、例えば水性のコーティング溶液でさえ作製することができる。
【0039】
加熱源は、ガラス繊維を溶融するのに役立ち、保護被膜の除去を支援又は引き起こし、ビルドアップ溶着中に存在し得るベースの表面を軟化して、それにより、ガラス繊維の溶融ガラスとベースとの間の接着を促進する。レーザービームを加熱源として使用する場合、ガラス繊維の長手方向軸がレーザービームの主な延長方向と30から100度の範囲の角度を形成することが適切であることが判明した。この角度は、保護被膜に対するレーザービームの作用の領域の開始に影響を与える。この角度が鋭角であるほど、レーザービームが保護被膜を速く加熱する。
【0040】
三次元ガラス物体を製造するためのガラス繊維に関して、前述の技術的問題は、上記のタイプのガラス繊維から出発して、ガラス繊維が10nmから10μmの範囲の層厚の保護被膜を有するということによって、本発明によって解決される。
【0041】
本発明による保護被膜を備えたガラス繊維は、例えば、ビルドアップ溶着プロセスなどの付加造形法、特に、上記でより詳細に説明されるような本発明による方法において使用するための中間製品として特に適している:
【0042】
(1)中間製品としてガラス繊維を機械的損傷から保護するには、少なくとも10nm、好ましくは少なくとも50nmの保護被膜の厚さで十分である。その結果として、好ましい実施形態によれば、ガラス繊維は、20μmから1000μmの範囲の直径、好ましくは50から300μmの範囲の直径の場合、例えば、巻き取り直径が30cm未満の巻き取りリールに保管され、そこからビルドアップ溶着プロセス中に連続的に巻き戻される。
【0043】
(2)保護被膜の厚さは、10μm未満、好ましくは5μm未満、特に好ましくは1μm未満である。それは比較的薄く、可能な限り残留物が無く、短時間で気化及び/又は熱分解することができる。
【0044】
(3)低厚さの保護被膜から解放されたガラス繊維は、大きな変形傾向を示さず、これにより、ビルドアップ溶着方法での繊維の誘導が容易になり、より高い位置決め精度と繊維層の正確な輪郭の成形又は溶着、特にベースの直線的な溶着又は空気中での正確な硬化が可能になる。
【0045】
ビルドアップ溶着法における本発明によるガラス繊維の使用は、モデルによって定義された光学的及び機械的特性への順守だけでなく、可能な限り光学的に歪みのないガラス物体の製造を容易にする。また、加熱源へのガラス繊維の供給速度が比較的高いため、ビルドアップ溶着法を高い質量堆積速度で経済的に行うことができる。
【0046】
本発明によるガラス繊維の有利な実施形態は、下位請求項から得ることができる。下位請求項で特定されたガラス繊維の実施形態が、本発明による方法に関連する下位請求項で言及された手順に基づく限り、補足説明のために、対応する方法請求項に関連する上記の陳述が参照されるべきである。
【定義】
【0047】
[ガラス繊維]
ガラス繊維(「ガラスフィラメント」と同義)はガラスで構成される。このガラスは、例えば、石英ガラスなどの一成分ガラス、又はホウケイ酸ガラスなどの多成分ガラスである。この一成分ガラスには、追加のドーパントを含めることができる。石英ガラスは、ここでは少なくとも90重量%のSiO含有量を有するガラスであると理解される。
【0048】
ガラス繊維は中実であるか、1つ若しくは複数の中空チャネル(以下「キャピラリー」とも称される)又はドープされたコアを含む。中空チャネルを備えたガラス繊維では、中空チャネルの中心軸は、好ましくは、繊維の長手方向軸に延びる。
【0049】
ガラス繊維(又はキャピラリー)の断面(繊維の長手方向軸に沿って見た場合)は、円形又は非円形である。非円形の断面は、例えば、楕円形、多角形、特に正方形、長方形、六角形、八角形であるか、それは、台形、リブを有するもの、星形であるか、1つ又は複数の側面に平坦な領域又は内向き(凹)若しくは外向き(凸)の湾曲した領域を有する。
【例示的な実施の形態】
【0050】
本発明は、例示的な実施形態及び図面を参照して、以下でより詳細に説明される。詳細には、以下の概略図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明によるガラスフィラメントを用いてビルドアップ溶着の試験を行うための実験構成の第1の実施形態である。
図2】参照ガラス繊維を用いた予備的なビルドアップ溶着試験の顕微鏡画像である。
図3】本発明によるガラス繊維を用いた予備的なビルドアップ溶着試験の顕微鏡画像である。
図4】本発明によるガラスフィラメントを用いてビルドアップ溶着の試験を行うための実験構成のさらなる実施形態である。
【0052】
[予備試験]
取り扱い特性、溶着可能性、及び一般的な挙動を調べるために、さまざまな保護被膜を備えた石英ガラス繊維に対して予備的なビルドアップ溶着試験を行った。結果は、図2及び図3の顕微鏡画像に示される。スケールバー25は、それぞれ1mmの長さを示している。
【0053】
これらの試験では、直径が220μmであり、厚さ約62.5μmの標準プラスチック被膜を備えた石英ガラス繊維を参照繊維「R」として採用し、また、同じ直径であるが本発明による薄い被膜を備えた石英ガラス繊維(ガラス繊維2)を用いて行った。その被膜の厚さは50nm未満である。その構成と製造については、以下で詳しく説明する。
【0054】
石英ガラス繊維(R;2)をそれぞれ石英ガラスシート上に直接配置し、粘着テープで貼り付けた。いずれの場合も、石英ガラス繊維を軟化し、コーティングを焼失させるための加熱源として、酸水素加熱トーチを使用した。この酸水素トーチは、石英ガラス繊維を溶融するのに必要な熱を提供すると同時に、酸水素炎の超化学量論的酸素により保護被膜の熱分解のための酸素を提供した。
【0055】
[観察と結果]
参照ガラス繊維「R」は、加熱トーチの影響下で常に移動及びねじれていることが示された。これは、発生するガス、及び、コーティングの不均一な燃焼によって引き起こされる非軸方向の応力によって説明できる。このため、少なくともこの動きを制限するために、溶着前に繊維の端を粘着テープで石英ガラスシートに固定した。
【0056】
この挙動は、薄いコーティングを施したガラス繊維2では示されなかった。このガラス繊維2は、溶着時の取り扱いが非常に簡単で、固定する必要もなかった。
【0057】
両方のタイプの繊維を基板7に溶着することができた。しかしながら、固定されているにもかかわらず、参照ガラス繊維Rを基板7に直線的に溶着することができなかった。溶着繊維のうねりは、参照ガラス繊維の溶着長さ120mmあたり5mmであり、本発明によるガラス繊維2の場合、大きなうねりなしに高度に直線的な溶着が得られた。
【0058】
図2の画像の明るい反射26により、ベース上の参照ガラス繊維のねじれが明確になる。黒い点27はさらに、本発明によるガラス繊維2よりも、参照ガラス繊維Rにおいて、溶着長さに沿ってより多くの気泡が形成されたことを示している。長さ5cmごとに、参照ガラス繊維Rで21個の気泡がカウントされた。
【0059】
図3は、本発明によるガラス繊維2を用いた溶着試験の結果を示している。これは、溶着長さに沿った直線的なコースを示しており、さらに、5cmの長さに対してわずか6つの気泡という、数が少ないことを示している。
【0060】
図1は、予備試験によって適切であると決定されたガラス繊維2を用いるビルドアップ溶着によってガラス物体1の付加造形を行うための実験構成の図である。
【0061】
ここで、最小直径30cmの巻き取りリールに巻かれたガラス繊維2は、繊維誘導システム(図には示されていない)によって巻き取りリールから連続的に巻き戻され、ガイドスリーブ24を通って溶融領域6aに供給される。溶融領域6aでは、焦点がぼかされたレーザービーム3が加熱源として機能する。熱分布のピークは、レーザービーム3の周りの破線として図に示されている焦点ぼけによって補償される。理想的には、レーザービーム3は、衝突点で、溶融されるガラス繊維の直径の約2倍の幅であり、そのため、ガラス繊維とその周辺領域の両方、特に基板7が加熱される。
【0062】
ここでのガラス繊維の長手方向軸21は、レーザービーム3の主な延長方向31と約90度の角度を形成する。このレーザーとして、最大出力120WのCOレーザーが用いられる。レーザービーム3は、ガラス繊維2の端部を連続的に溶融し、ガラス繊維の保護被膜22を加熱して、これを熱分解させる。さらに、それは基板7の表面を軟化し、それによりガラス繊維2の溶融ガラスとガラス基板7との間の接着を促進する。レーザービーム3によって生成される加熱領域は、図1に灰色に陰が付けられた領域6bによって概略的に示されている。
【0063】
吸引管5は、溶融領域6aのできるだけ近くに突出している。ガラス基板7からなるプラットフォームは、デジタル制御された並進ステージ(座標4のx-y-zシステムによって示される)上にあり、すべての空間方向に変位可能である。
【0064】
ガラス繊維2は、断面が円形で、直径が220μmである。それは、100nm未満の厚さを有する非常に薄い被膜22を備えている。
【0065】
(薄い)層22は、セチルトリメチルアンモニウムクロリドの10%水溶液を通してガラス繊維2を引くことによって生成される。
【0066】
層22の分解温度は400℃未満である。それは非常に薄いので、溶融領域6aのすぐ上流で、流れ作業中に迅速かつ効率的に完全に燃焼することができ、一方、ガラス繊維2は、溶融領域6aにさらに連続的に供給される。
【0067】
これにより、高い処理速度が可能になる。溶融領域6aへのガラス繊維の供給速度は、ガラス繊維2が溶融領域6aに到達する前に被膜22が常に完全に除去されるように、及び、さらに、被膜22がすでに完全に除去されている長手方向部分23は、2cm未満の長さを有するように、300から600mm/分の範囲の値に調整される。結果として、コーティングされていないガラス繊維2への機械的損傷が防止される。
【0068】
さらに、被膜22の層の厚さが薄いため、わずかな燃焼生成物しか得られず、これは吸引5によって容易に除去することができる。これにより、ガラス繊維2と基板7との気泡のない融合が可能になる。
【0069】
ガラス繊維2と基板7を溶着した結果、欠陥や気泡のない三次元ガラス物体1が得られた。
【0070】
図4は、ガラス物体の付加造形を実行するための実験構成の変形例の図である。ここで用いた図1と同じ参照番号は、構成の同一又は等価の構成要素を示す。
【0071】
図1の構成とは対照的に、ここでのガラス繊維の長手方向軸21は、レーザービーム3の主な延長方向31と45度のやや鋭角を形成する。図1と比較してレーザービーム3の方向が異なるため、加熱領域6bもまた、異なる延長及び異なる焦点を示す。それは、ガラス繊維2のより広い領域をカバーし、したがって、同じ温度でガラス繊維2及び保護被膜22のより効果的な加熱をもたらす。
【0072】
この場合も、吸引管5を溶融領域6aに可能な限り近づける。
図1
図2
図3
図4