(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】MHC細胞受容体の標的化破壊
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240821BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240821BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240821BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240821BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240821BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240821BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240821BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240821BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240821BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240821BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240821BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/63 Z
C12N5/0775
C12N5/0789
C12N5/0783
C12N5/078
A61K35/17
A61K35/28
A61K35/545
A61P35/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022101756
(22)【出願日】2022-06-24
(62)【分割の表示】P 2020202691の分割
【原出願日】2016-12-15
【審査請求日】2022-06-24
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508241200
【氏名又は名称】サンガモ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー ケー. リー
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド パッション
(72)【発明者】
【氏名】レイ ジャン
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】Cell Stem Cell,2014年,Vol. 15,pp.643-652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA結合ドメインと
CRISPR/Cas系とを含む融合分子であって、
前記DNA結合ドメインが、B2M遺伝子のエクソン1又はエクソン2に結合し、前記DNA結合ドメインが、配列番号105~107もしくは
110~111のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含む単一ガイドRNA(sgRNA)を含む、融合分子。
【請求項2】
請求項1に記載の融合分子をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
ウイルスベクター、プラスミド、又はmRNAである、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1に記載の融合分子を含む単離細胞。
【請求項5】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む単離細胞。
【請求項6】
請求項4の前記細胞に由来する単離細胞であって、ベータ2ミクログロブリン(B2M)遺伝子の発現が、前記B2M遺伝子のエクソン1又はエクソン2のGGCCTTA、TCAAAT、TCAAATT、TTACTGA及び/又はAATTGAA内における挿入及び/又は欠失によって、前記細胞において部分的にもしくは完全に不活性化される、単離細胞。
【請求項7】
不活性化T細胞受容体遺伝子、PD1及び/又はCTLA4遺伝子をさらに含む、請求項6に記載の単離細胞。
【請求項8】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする導入遺伝子、抗体結合T細胞受容体(ACTR)、及び/又は工学技術で作製されたTCRをコードする導入遺伝子をさらに含む、請求項6に記載の単離細胞。
【請求項9】
前記細胞が、リンパ球細胞、幹細胞、又は前駆細胞である、請求項6に記載の単離細胞。
【請求項10】
前記細胞が、T細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、間葉系幹細胞(MSC)又は造血幹細胞(HSC)である、請求項9に記載の細胞。
【請求項11】
請求項6の単離細胞を含む、細胞の単離された集団。
【請求項12】
請求項11に記載の細胞の単離された集団を含む、医薬組成物。
【請求項13】
がんを有する被験体においてがんを処置または予防するための請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2015年12月18日に出願された米国仮出願第62/269,410号、2016年3月8日に出願された米国仮出願第62/305,097号および2016年4月29日に出願された米国仮出願第62/329,439号の利益を主張し、これらの開示は、その全体が本明細書において参考として援用される。
【0002】
技術分野
本開示は、リンパ球および幹細胞を含むヒト細胞のゲノム改変の分野にある。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝子治療は、ヒト治療学の新しい時代の莫大な潜在性を秘める。これらの方法論は、標準医療行為によって対処可能ではなかった状態のための処置を可能にする。遺伝子治療は、遺伝子座の破壊もしくは補正、および導入遺伝子に融合させた特異的外因性プロモーターによって、またはゲノムへの挿入部位で見出される内因性プロモーターによって調節することができる発現可能な導入遺伝子の挿入などの、ゲノム編集技術の多くの変形を含むことができる。
【0004】
導入遺伝子の送達および挿入は、この技術のいかなる真の実施のために解決されなければならない障害物の例である。例えば、様々な遺伝子送達方法が治療的使用のために潜在的に利用可能であるが、全ては安全性、耐久性と発現レベルとの間の実質的なトレードオフを伴う。エピソームとして導入遺伝子を提供する方法(例えば、基本アデノウイルス(Ad)、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびプラスミドをベースとした系)は一般的に安全であり、高い初期の発現レベルを得ることができるが、これらの方法は堅牢なエピソーム複製を欠き、そのことは有糸分裂が活発な組織における発現の持続時間を制限する可能性がある。対照的に、所望の導入遺伝子のランダムな組込みをもたらす送達方法(例えば、レンチウイルス(LV)の組込み)はより永続的な発現を提供するが、ランダムな挿入の非標的化的性質のために、レシピエント細胞における調節されない成長を引き起こすことがあり、ランダムに組み込まれた導入遺伝子カセットの近くでのオンコジーンの活性化を通して悪性疾患をもたらすおそれがある。さらに、導入遺伝子の組込みが、複製によって駆動される喪失を回避するとしても、それは導入遺伝子に融合した外因性プロモーターの最終的なサイレンシングを防止しない。時間がたつと、そのようなサイレンシングは、大多数の非特異的挿入事象の導入遺伝子発現の低減をもたらす。さらに、導入遺伝子の組込みがあらゆる標的細胞において起こることは稀であり、そのことは、所望の治療効果を達成するために目的の導入遺伝子の十分に高い発現レベルを達成することを困難にする可能性がある。
【0005】
近年、選択されたゲノム遺伝子座への挿入を偏らせるための部位特異的ヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクタードメインヌクレアーゼ(TALEN)、特異的切断をガイドするための工学技術で作製された(engineered)crRNA/tracr RNA(「シングルガイドRNA」)によるCRISPR/Cas系およびCfp1/CRISPR系など)による切断を使用する、導入遺伝子組込みのための新しい戦略が開発された。例えば、米国特許第9,255,250号;9,045,763号;9,005,973号;8,956,828号;8,945,868号;8,703,489号;8,586,526号;6,534,261号;6,599,692号;6,503,717号;6,689,558号;7,067,317号;7,262,054号;7,888,121号;7,972,854号;7,914,796号;7,951,925号;8,110,379号;8,409,861号;米国特許出願公開第20030232410号;20050208489号;20050026157号;20050064474号;20060063231号;20080159996号;201000218264号;20120017290号;20110265198号;20130137104号;20130122591号;20130177983号;および20130177960号;および20150056705号を参照のこと。さらに、標的化ヌクレアーゼはアルゴノート系に基づいて開発されており(例えば、T.thermophilusから、「TtAgo」として公知、Swartsら(2014年)Nature 507巻(7491号):258~261頁を参照のこと)、それは、ゲノム編集および遺伝子治療における使用のための可能性も有し得る。古典的な組込みアプローチと比較して、導入遺伝子組込みへのこのヌクレアーゼ媒介アプローチは、改善された導入遺伝子発現、安全性の増加および発現の持続性の見込みを提供するが、その理由は、それが、遺伝子サイレンシングまたは近くのオンコジーンの活性化のリスクが最小限であるために、正確な導入遺伝子の配置を可能にするからである。
【0006】
T細胞受容体(TCR)は、T細胞の選択的活性化の必須の部分である。抗体にある程度の類似性を有して、TCRの抗原認識部分は、ヘテロダイマーを形成するように共集合する、2本鎖、αおよびβから典型的には作製されている。抗体類似性は、TCRアルファおよびベータ複合体をコードする単一の遺伝子が組み立てられている様式にある。TCRアルファ(TCRα)およびベータ(TCRβ)鎖は、それぞれ2つの領域、C末端定常領域およびN末端可変領域で構成されている。TCRアルファおよびベータ鎖をコードするゲノム遺伝子座は、TCRα遺伝子がVおよびJセグメントを含む、その一方でβ鎖遺伝子座がVおよびJセグメントに加えてDセグメントを含むという点で、抗体をコードしている遺伝子座に類似している。TCRβ遺伝子座について、選択プロセスの間から選択される2つの異なる定常領域がさらにある。T細胞発生の間に種々のセグメントは、各T細胞がアルファおよびベータ鎖中に相補性決定領域(CDR)と呼ばれる固有のTCR可変部分を含むように組み換え、身体は、それらの固有のCDRのために抗原提示細胞によって示される固有の抗原と相互作用することが可能であるT細胞の大きなレパートリーを有する。TCRαまたはβ遺伝子再編成が生じると、第2の対応するTCRαまたはTCRβの発現は、各T細胞が「抗原受容体対立遺伝子排除」と呼ばれるプロセスにおいて1つの固有のTCR構造だけを発現するように抑制される(Bradyら、(2010年)J Immunol 185巻:3801~3808頁を参照)。
【0007】
T細胞活性化の間にTCRは、抗原提示細胞の主要組織適合抗原複合体(MHC)上にペプチドとして示される抗原と相互作用する。TCRによる抗原MHC複合体の認識は、T細胞刺激をもたらし、それは次にヘルパーT細胞(CD4+)および細胞傷害性Tリンパ球(CD8+)の両方のメモリーおよびエフェクターリンパ球中での分化をもたらす。次いでこれらの細胞は、ある特定の抗原に反応することが可能である活性化亜集団を全T細胞集団内にもたらすようにクローンの様式で拡張することができる。
【0008】
MHCタンパク質は、2つのクラス、IおよびIIがある。クラスI MHCタンパク質は、2つのタンパク質、MHC1クラスI遺伝子によってコードされる膜貫通タンパク質であるα鎖、およびMHC遺伝子クラスター内には存在しない遺伝子によってコードされる小さな細胞外タンパク質であるβ2ミクログロブリン鎖(B2Mと称されることもある)のヘテロダイマーである。α鎖は、3つの球状ドメイン内にフォールドし、β2ミクログロブリン鎖が会合すると、球状構造複合体は抗体複合体に類似している。外来ペプチドは、最も可変性でもある2つの最もN末端側のドメイン上に存在する。クラスII MHCタンパク質もヘテロダイマーであるが、しかしヘテロダイマーは、MHC複合体内の遺伝子によってコードされる2つの膜貫通タンパク質を含む。クラスI MHC:抗原複合体は、細胞傷害性T細胞と相互作用する一方で、クラスII MHCは、ヘルパーT細胞に抗原を提示する。さらに、クラスI MHCタンパク質は、ほとんど全ての核形成された細胞および血小板(およびマウスでは赤血球)において発現される傾向がある一方で、クラスII MHCタンパク質は、より選択的に発現される。典型的には、クラスII MHCタンパク質は、B細胞、一部のマクロファージおよび単球、ランゲルハンス細胞ならびに樹状細胞で発現される。
【0009】
ヒトにおいてクラスI HLA遺伝子クラスターは、3つの主要な遺伝子座、B、CおよびA、ならびにいくつかのマイナーな遺伝子座(E、GおよびFを含み、第6染色体上のHLA領域に全て見出される)を含む。クラスII HLAクラスターも3つの主要な遺伝子座、DP、DQおよびDRを含み、クラスIおよびクラスIIの両方の遺伝子クラスターは、その集団内でクラスIおよびIIの両方の遺伝子のいくつかの異なる対立遺伝子があるという点で、多形性である。HLA機能において同様に役割を果たすいくつかのアクセサリータンパク質もある。β-2ミクログロブリンはシャペロン(B2Mによってコードされ、第15染色体に配置されている)として機能し、細胞表面上に発現されるHLA A、BまたはCタンパク質を安定化し、クラスI構造上に溝を示す抗原も安定化する。通常それは、血清および尿中で少量見出される。
【0010】
HLAは、移植片拒絶において主要な役割を果たす。移植拒絶の急性期は、約1~3週間以内に生じる場合があり、通常、ドナークラスIおよびクラスII HLA分子への宿主系の感作によるドナー組織への宿主Tリンパ球の作用を含む。多くの場合、誘発抗原はクラスI HLAである。最良の成功のために、ドナーはHLAについて分類され、患者レシピエントに可能な限り完全に適合される。しかし、高いパーセンテージのHLA同一性を共有する可能性があるファミリーメンバー間での提供でさえ、しばしば成功しない。したがって、レシピエント内で移植組織を保つために、患者はしばしば拒絶を予防するための徹底的な免疫抑制療法に供されなければならない。そのような治療は、克服することに患者が困難さを有する場合がある日和見感染のために合併症および顕著な病的状態をもたらす場合がある。クラスIまたはII遺伝子の制御は、一部の腫瘍の存在下で破壊される場合があり、そのような破壊は、患者の予後に因果関係を有する場合がある。例えば、B2M発現の低減は、転移性結腸直腸がんにおいて見出された(Shroutら、(2008年)Br J Canc 98巻:1999頁)。B2MがMHCクラスI複合体の安定化に重要な役割を有することから、ある特定の固形がんにおけるB2Mの減少は、T細胞駆動免疫監視からの免疫エスケープの機構であると仮定された。B2M発現の低下は、正常なIFNガンマB2M発現制御の抑制および/または遺伝ノックアウトをもたらすB2Mコード配列中の特異的変異の結果であると示されている(Shroutら、同書)。混乱させることに、B2Mの増加は、一部の種類のがんとも関連している。尿中のB2Mレベルの増加は、前立腺、慢性リンパ性白血病(CLL)および非ホジキンリンパ腫を含むいくつかのがんの予後因子として役立つ。
【0011】
養子細胞療法(ACT)は、送達された細胞が患者のがんを攻撃し、除去するように腫瘍特異的免疫細胞を患者に送達することに基づくがん治療の発展途上の形態である。ACTは、患者自身の腫瘍塊から単離され、患者に戻して再注入するためにex vivoで拡張されたT細胞である腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の使用を伴い得る。このアプローチは、転移性メラノーマを処置することにおいて有望であり、ある研究では>50%の長期奏効率が観察された(例えば、Rosenbergら、(2011年)Clin Canc Res 17巻(13号):4550頁を参照)。TILは、それらが腫瘍上に存在する腫瘍関連抗原(TAA)に特異的なT細胞受容体(TCR)を有する患者自身の細胞の混合セットであることから、細胞の有望な供給源である(Wuら(2012年)Cancer J 18巻(2号):160頁)。他のアプローチは、患者の血液から単離されたT細胞を何らかの方法で腫瘍に応答性であるように工学技術で作製される(are engineered)ように編集することを含む(Kalosら、(2011年)Sci Transl Med 3巻(95号):95ra73)。
【0012】
キメラ抗原受容体(CAR)は、免疫細胞が細胞表面上に発現される特異的分子標的を標的とするように設計された分子である。それらの最も基本的な形態では、それらは、細胞に導入された受容体であり、その受容体は、特異性ドメインがその標的と相互作用した場合に細胞が活性化するように、細胞の外側に発現される特異性ドメインを細胞の内側のシグナル伝達経路にカップリングさせる。しばしばCARは、scFvまたは一部の種類の受容体などの抗原特異的ドメインが、ITAMおよび他の共刺激ドメインなどのシグナル伝達ドメインに融合されている、T細胞受容体(TCR)の機能的ドメインを模倣することから作製されている。次にこれらの構築物は、ex vivoでT細胞に導入され、T細胞が標的抗原を発現する細胞の存在下で活性化されるようにし、T細胞が患者に再導入された場合に、非MHC依存性様式での活性化T細胞による標的細胞への攻撃をもたらす(Chicaybamら(2011年)Int Rev Immunol 30巻:294~311頁、Kalos、同書を参照)。それにより、工学技術で作製されたTCRまたはCARを用いてex vivoで変更されたT細胞を使用する養子細胞療法は、いくつかの種類の疾患のための非常に有望な臨床アプローチである。例えば、標的化されるがんおよびそれらの抗原には、濾胞性リンパ腫(CD20またはGD2)、神経芽細胞腫(CD171)、非ホジキンリンパ腫(CD19およびCD20)、リンパ腫(CD19)、神経膠芽腫(IL13Rα2)、慢性リンパ性白血病またはCLLならびに急性リンパ性白血病またはALL(両方ともCD19)が含まれる。ウイルス特異的CARもHIVなどのウイルスを有する細胞を攻撃するために開発された。例えば臨床試験は、HIVの処置のためにGp100に特異的なCARを使用して開始された(Chicaybam、同書)。
【0013】
ACTR(抗体結合T細胞受容体)は、外因性に供給された抗体に結合可能である工学技術で作製されたT細胞構成成分である。ACTR構成成分への抗体の結合は、抗体によって認識される抗原と相互作用するようにT細胞を備えさせ、抗原に遭遇すると、ACTRを含むT細胞は、抗原と相互作用するようになる(米国特許出願公開第20150139943号を参照)。
しかし養子細胞療法の欠点の1つは、移植された細胞の潜在的拒絶を回避するために細胞産物の供給源が患者特異的(自己)でなければならないことである。このことがこの拒絶を回避するために研究者に患者自身のT細胞を編集する方法を開発させた。例えば、患者のT細胞または造血幹細胞は、工学技術で作製されたCAR、ACTRおよび/またはT細胞受容体(TCR)の付加によりex vivoで操作することができ、次にPD1および/またはCTLA4などのT細胞チェックポイントインヒビターをノックアウトするために工学技術で作製されたヌクレアーゼによりさらに処置することができる(PCT公開WO2014/059173を参照)。より大きな患者集団へのこの技術の応用のために、細胞(同種)の汎用性集団を開発することは有利である。さらにTCRのノックアウトは、患者に導入されても移植片対宿主病(GVHD)応答を開始することができない細胞をもたらす。
したがって、MHC遺伝子発現を改変(例えば、B2Mをノックアウト)し、および/またはT細胞でのTCR発現をノックアウトするために使用することができる方法および組成物の必要性がまだある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第9,255,250号明細書
【文献】米国特許第9,045,763号明細書
【文献】米国特許第9,005,973号明細書
【文献】米国特許第8,956,828号明細書
【文献】米国特許第8,945,868号明細書
【文献】米国特許第8,703,489号明細書
【文献】米国特許第8,586,526号明細書
【文献】米国特許第6,534,261号明細書
【文献】米国特許第6,599,692号明細書
【文献】米国特許第6,503,717号明細書
【文献】米国特許第6,689,558号明細書
【文献】米国特許第7,067,317号明細書
【文献】米国特許第7,262,054号明細書
【文献】米国特許第7,888,121号明細書
【文献】米国特許第7,972,854号明細書
【文献】米国特許第7,914,796号明細書
【文献】米国特許第7,951,925号明細書
【文献】米国特許第8,110,379号明細書
【文献】米国特許第8,409,861号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/0232410号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0208489号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0026157号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0064474号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0063231号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0159996号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/00218264号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0017290号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0265198号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0137104号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0122591号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0177983号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0177960号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0056705号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0139943号明細書
【非特許文献】
【0015】
【文献】Swartsら(2014年)Nature 507巻(7491号):258~261頁
【文献】Bradyら、(2010年)J Immunol 185巻:3801~3808頁
【文献】Shroutら、(2008年)Br J Canc 98巻:1999頁
【文献】Rosenbergら、(2011年)Clin Canc Res 17巻(13号):4550頁
【文献】Wuら(2012年)Cancer J 18巻(2号):160頁
【文献】Kalosら、(2011年)Sci Transl Med 3巻(95号):95ra73
【文献】Chicaybamら(2011年)Int Rev Immunol 30巻:294~311頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
概要
本明細書で、B2M遺伝子の部分的なまたは完全な不活性化または破壊のための組成物および方法、ならびに内因性TCRおよび/またはB2Mの破壊後もしくは破壊と同時のTリンパ球における外因性TCR、CARまたはACTR導入遺伝子の導入および所望のレベルでの発現のための組成物および方法が開示される。さらに、本明細書で、HLAクラスIヌルT細胞、幹細胞、組織または生物全体、例えばその表面に1つまたは複数のHLA受容体を発現しない細胞、を産生するためにB2M遺伝子を欠失させる(不活性化する)または抑制するための方法および組成物が提供される。ある特定の実施形態ではHLAヌル細胞または組織は、移植における使用のために有利であるヒト細胞または組織である。好ましい実施形態ではHLCヌルT細胞は、養子T細胞療法における使用のために調製される。
【0017】
一態様では本明細書で、ベータ2ミクログロブリン(B2M)遺伝子の発現がB2M遺伝子のエクソン1またはエクソン2の改変によってモジュレートされる、単離細胞(例えば、リンパ系細胞、幹細胞(例えば、iPSC、胚性幹細胞、MSCまたはHSC)または前駆細胞を含む哺乳動物細胞などの真核細胞)が、記載される。ある特定の実施形態では改変は、配列番号6~48および/または137~205の1つもしくは複数に示される配列;配列番号6~48または137~205のいずれかの側(隣接ゲノム配列)の1~5塩基対内、1~10塩基対内もしくは1~20塩基対内;またはGGCCTTA、TCAAAT、TCAAATT、TTACTGAおよび/またはAATTGAA内にある。改変は、機能的ドメイン(例えば、転写制御ドメイン、ヌクレアーゼドメイン)およびDNA結合ドメインを含む外因性融合分子によってであってよく:(i)配列番号6~48および/または137~205のいずれかに示す標的部位に結合するDNA結合ドメインおよび、転写因子がB2M遺伝子発現を改変する転写制御ドメインを含む外因性転写因子を含む細胞、ならびに/あるいは(ii)配列番号6~48および/または137~205の1つまたは複数の中;配列番号6~48および/または137~205のいずれかの側(隣接ゲノム配列)の1~5塩基対内、1~10塩基対内もしくは1~20塩基対内;またはGGCCTTA、TCAAAT、TCAAATT、TTACTGAおよび/またはAATTGAA内に挿入ならびに/もしくは欠失を含む細胞を限定されずに含む。細胞は、さらなる改変、例えば不活性化T細胞受容体遺伝子、PD1および/またはCTLA4遺伝子および/またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする導入遺伝子(a transgene a transgene)、抗体結合T細胞受容体(ACTR)をコードする導入遺伝子および/または抗体をコードする導入遺伝子を含むことができる。本明細書に記載される任意の細胞を含む医薬組成物ならびに被験体における障害(例えば、がん)の処置のためにex vivo治療での細胞および医薬組成物を使用する方法も提供される。
【0018】
したがって一態様では、本明細書でB2M遺伝子の発現がモジュレート(例えば、活性化、抑制または不活性化)される細胞が記載される。好ましい実施形態では、B2M遺伝子のエクソン1またはエクソン2は、モジュレートされる。モジュレーションは、B2M遺伝子に結合し、B2M発現を制御する外因性分子(例えば、DNA結合ドメインおよび、転写活性化または抑制ドメインを含む工学技術で作製された転写因子)によって、ならびに/またはB2M遺伝子の配列改変(例えば、B2M遺伝子を切断し、挿入および/または欠失によって遺伝子配列を改変するヌクレアーゼを使用すること)を介してであってよい。ある特定の実施形態では、1つまたは複数のさらなる遺伝子の発現もモジュレートされる(例えば、TCRA遺伝子などのTCR遺伝子)。一部の実施形態では、クラスI HLA複合体が不安定化されるようなB2M遺伝子のノックアウトを引き起こす工学技術で作製されたヌクレアーゼを含む細胞が記載される。好ましい実施形態では、クラスI HLAの不安定化は、細胞の表面上でのクラスI HLA複合体顕著な減少を生じる。他の実施形態では、B2M遺伝子の発現がモジュレートされるように外因性分子、例えば工学技術で作製された転写因子(TF)を含む細胞が記載される。一部の実施形態では、細胞はT細胞である。B2M遺伝子の発現がモジュレートされる細胞がさらに記載され、ここで細胞は少なくとも(a least)1つの外因性導入遺伝子もしくは少なくとも1つの内因性遺伝子のさらなるノックアウトまたはこれらの組合せを含むようにさらに工学技術で作製される。外因性導入遺伝子は、TCR遺伝子に組み込まれてよく(例えば、TCR遺伝子がノックアウトされる場合)、B2M遺伝子に組み込まれてよく、および/またはセーフハーバー遺伝子座などの非TCR、非B2M遺伝子座に組み込まれてよい。一部の場合では外因性導入遺伝子は、ACTR、工学技術で作製されたTCRおよび/またはCARをコードする。導入遺伝子構築物は、HDRまたはNHEJによって駆動されるプロセスによって挿入することができる。一部の態様ではB2M発現がモジュレートされている細胞は、それらの細胞表面上の重要なクラスI HLAを欠いており、少なくとも外因性ACTRおよび/または外因性CARをさらに含む。B2Mモジュレーターを含む一部の細胞は、1つまたは複数のチェックポイントインヒビター遺伝子のノックアウトをさらに含む。一部の実施形態では、チェックポイントインヒビターはPD1である。他の実施形態ではチェックポイントインヒビターはCTLA4である。さらなる態様では、B2Mモジュレート細胞は、PD1ノックアウトおよびCTLA4ノックアウトを含む。一部の実施形態では、細胞はTCR遺伝子でさらに改変されている。一部の実施形態ではモジュレートされるTCR遺伝子は、TCRβ(TCRB)をコードする遺伝子である。一部の実施形態ではこれは、この遺伝子(TCRβ定常領域、またはTRBC)の定常領域の標的化切断を介して達成される。ある特定の実施形態ではモジュレートされるTCR遺伝子は、TCRα(TCRA)をコードする遺伝子である。さらなる実施形態では挿入は、TCRα遺伝子の定常領域(本明細書で「TRAC」配列と呼ばれる)の標的化切断を含む、TCR遺伝子の定常領域の標的化切断を介して達成される。一部の実施形態ではB2M遺伝子改変細胞は、TCR遺伝子、HLA-A、-B、-C遺伝子もしくはTAP遺伝子またはこれらの任意の組合せでさらに改変される。他の実施形態では、HLAクラスII、CTIIAのための制御因子も改変される。
【0019】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される細胞は、B2M遺伝子への改変(例えば、エクソン1またはエクソン2の改変)(例えば、欠失および/または挿入、B2Mを抑制するための工学技術で作製されたTFの結合)を含む。ある特定の実施形態では改変は、配列番号6~48および/または137~205の改変であり、これらの配列のいずれかの中、および/またはB2M遺伝子中のこれらの配列に隣接する遺伝子(ゲノム)配列の1~50塩基対(1~5、1~10または1~20塩基対などのこれらの間の任意の値を含む)の中の1つまたは複数のヌクレオチドへの結合、切断、挿入および/または欠失による改変を含む。ある特定の実施形態では細胞は、B2M遺伝子内(例えば、エクソン1および/またはエクソン2、
図1を参照)の以下の配列:GGCCTTA、TCAAATT、TCAAAT、TTACTGAおよび/またはAATTGAA、の1つまたは複数の中の改変(それへの結合、切断、挿入および/または欠失)を含む。ある特定の実施形態では改変は、B2M発現がモジュレート、例えば抑制または活性化されるような、本明細書に記載される工学技術で作製されたTFの結合を含む。他の実施形態では改変は、ヌクレアーゼ(複数可)結合(標的)および/または切断部位(複数可)でのまたはその近くでの遺伝子改変(ヌクレオチド配列の変更)であり、切断および/もしくは結合部位の上流、下流ならびに/またはその部位(複数可)の1つもしくは複数の塩基対を含む1~300(またはこれらの間の任意の数の塩基対)塩基対内の配列への改変;結合および/もしくは切断部位(複数可)のいずれかの側を含むならびに/または該いずれかの側の1~100塩基対(またはこれらの間の任意の数の塩基対)内の改変;結合および/もしくは切断部位(複数可)のいずれかの側(例えば、1から5、1から10、1から20またはそれより多い塩基対)を含むならびに/または該いずれかの側の1から50塩基対(またはこれらの間の任意の数の塩基対)内の改変;ならびに/またはヌクレアーゼ結合部位および/または切断部位内の1つまたは複数の塩基対への改変、を限定されずに含む。ある特定の実施形態では改変は、配列番号6~48または137~205のいずれかの周囲のB2M遺伝子配列においてまたはその近くにおいて(例えば、1~300、1~50、1~20、1~10もしくは1~5またはより多くの)塩基対またはそれらの間の任意の数の塩基対)である。ある特定の実施形態では改変は、配列番号6から48もしくは137から205に示す配列の1つまたは複数の内の、あるいはB2M遺伝子のGGCCTTA、TCAAATT、TCAAAT、TTACTGAおよび/またはAATTGAA(例えば、エクソン1および/またはエクソン2)内のB2M遺伝子の改変、例えばこれらの配列の1つまたは複数への1つもしくは複数の塩基対の改変を含む。ある特定の実施形態ではヌクレアーゼ媒介遺伝子改変は、対合した標的部位間である(二量体が標的を切断するために使用される場合)。ヌクレアーゼ媒介遺伝子改変は、任意の長さの非コード配列および/もしくは任意の長さの導入遺伝子の挿入、ならびに/または1塩基対から1000kb超(または1~100塩基対、1~50塩基対、1~30塩基対、1~20、1~10もしくは1~5塩基対を限定されずに含む、これらの間の任意の値)の欠失を含む、任意の数の塩基対の挿入および/もしくは欠失を含むことができる。
【0020】
本発明の改変細胞は、リンパ系細胞(例えば、T細胞)、幹/前駆細胞(例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(例えばヒトES)、間葉系幹細胞(MSC)または造血幹細胞(HSC)であってよい。幹細胞は、全能性または多能性(例えば、多能性骨髄性またはリンパ球系幹細胞であるHSCなど、部分的に分化している)であってよい。他の実施形態では、本発明は、HLA発現についてヌル表現型を有する細胞を産生するための方法を提供する。本明細書に記載されるいずれの改変幹細胞(B2M遺伝子座で改変された)は、次に本明細書に記載される幹細胞由来の分化した(in vivoまたはin vitro)細胞を生成するために分化されてよい。本明細書に記載されるいずれかの改変幹細胞は、目的の他の遺伝子(例えばTCRA、TCRB、PD1、CTLA4など)にさらなる改変を含むことができる。
【0021】
別の態様では、本明細書に記載される組成物(改変細胞)および方法は、例えば障害の処置または予防または改善において使用することができる。典型的には方法は、(a)ヌクレアーゼ(例えばZFNまたはTALEN)もしくは工学技術で作製されたcrRNA/tracr RNAを用いるCRISPR/CasまたはCfp1/CRISPRなどのヌクレアーゼ系を使用して、またはB2M遺伝子が不活性化されるもしくはダウンモジュレートされるように工学技術で作製された転写因子(例えばZFN-TF、TALE-TF、Cfp1-TFまたはCas9-TF)を使用して、単離細胞(例えばT細胞またはリンパ球)中の内因性B2M遺伝子を切断するまたは下方制御すること;ならびに(b)細胞を被験体に導入し、それにより障害を処置することまたは予防することを含む。
【0022】
一部の実施形態では、TCRα(TCRA)および/またはTCRβ(TCRB)をコードする遺伝子もまた不活性化されるまたはダウンモジュレートされる。一部の実施形態では不活性化は、本遺伝子の定常領域(TCRβ定常領域、またはTRBC)の標的化切断を介して達成される。好ましい実施形態では、TCRα(TCRA)をコードする遺伝子は、不活性化またはダウンモジュレートされる。さらに好ましい実施形態では、障害は、がんまたは感染性疾患である。さらに好ましい実施形態では不活性化は、本遺伝子の定常領域(TCRα定常領域、TRACと略される)の標的化切断を介して達成される。
【0023】
転写因子および/またはヌクレアーゼ(複数可)は、mRNAとして、タンパク質形態でおよび/またはヌクレアーゼ(複数可)をコードするDNA配列として細胞に導入することができる。ある特定の実施形態では、被験体に導入される単離細胞は、さらなるゲノム改変、例えば、組み込まれた外因性配列(切断されたB2M、TCR遺伝子または他の遺伝子、例えばセーフハーバー遺伝子もしくは遺伝子座に)および/またはさらなる遺伝子、例えば1つもしくは複数のHLAおよび/またはTAP遺伝子の不活性化(例えば、ヌクレアーゼ媒介)をさらに含む。外因性配列は、ベクター(例えばAd、AAV、LV)を介して、または電気穿孔などの技法を使用することによって導入することができる。一部の実施形態ではタンパク質は、細胞圧縮(cell squeezing)によって細胞に導入される(Kollmannspergerら(2016年)Nat Comm 7巻、10372頁 doi:10.1038/ncomms10372を参照)。一部の態様では組成物は、単離細胞断片および/または分化した(部分的にまたは完全に)細胞を含んでよい。
【0024】
一部の態様では成熟細胞は、細胞療法、例えば養子細胞移入のために使用することができる。他の実施形態では、T細胞移植における使用のための細胞は、目的の別の遺伝子改変を含有する。一態様ではT細胞は、がんマーカーに特異的な、挿入されたキメラ抗原受容体(CAR)を含有する。さらなる態様では挿入されたCARは、B細胞悪性腫瘍に特徴的なCD19マーカーに対して特異的である。そのような細胞は、適合するHLAを有さない患者を処置するための治療用組成物において有用であり、そのため、それを必要とする任意の患者のための「既製の」治療剤として使用可能である。
【0025】
別の態様ではB2Mモジュレート(改変)T細胞は、挿入された抗体結合T細胞受容体(ACTR)ドナー配列を含有する。一部の実施形態ではACTRドナー配列は、ヌクレアーゼ誘導切断に続いてB2MまたはTCR遺伝子の発現を妨害するようにその遺伝子に挿入される。他の実施形態ではドナー配列は、AAVS1、HPRT、アルブミンおよびCCR5遺伝子などの「セーフハーバー」遺伝子座に挿入される。一部の実施形態ではACTR配列は、ACTRドナー配列が工学技術で作製されたヌクレアーゼの切断部位に隣接する配列に相同性を有する隣接相同アームを含む、標的化組み込みを介して挿入される。一部の実施形態ではACTRドナー配列は、プロモーターおよび/または他の転写制御配列をさらに含む。他の実施形態では、ACTRドナー配列はプロモーターを欠いている。一部の実施形態ではACTRドナーは、TCRβコード遺伝子(TCRB)に挿入される。一部の実施形態では、挿入は、この遺伝子(TCRβ定常領域またはTRBC)の定常領域の標的化切断を介して達成される。好ましい実施形態では、ACTRドナーはTCRαコード遺伝子(TCRA)に挿入される。さらに好ましい実施形態では、挿入はこの遺伝子の定常領域(TCRα定常領域、TRACと省略される)の標的化切断を介して達成される。一部の実施形態ではドナーは、TCRA中のエクソン配列に挿入され、一方、他のものではドナーは、TCRA中のイントロン配列に挿入される。一部の実施形態ではTCRモジュレート細胞は、CARをさらに含む。なおさらなる実施形態ではB2Mモジュレート細胞は、HLA遺伝子またはチェックポイントインヒビター遺伝子でさらにモジュレートされる。
【0026】
本明細書に記載される改変細胞(例えば、不活性化B2M遺伝子を有するT細胞または幹細胞)を含む医薬組成物、または本明細書に記載される1つもしくは複数のB2M結合分子(例えば、工学技術で作製された転写因子および/またはヌクレアーゼ)を含む医薬組成物も提供される。ある特定の実施形態では医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。改変細胞、B2M結合分子(またはこれらの分子をコードするポリヌクレオチド)および/またはこれらの細胞もしくは分子を含む医薬組成物は、当技術分野において公知の方法を介して、例えば静脈内注入、肝動脈などの特定の血管への注入を通じて、また直接組織注射(例えば筋肉)を通じて被験体に導入される。一部の実施形態では被験体は、組成物を用いて処置または改善させることができる疾患または状態を有する成人である。他の実施形態では被験体は、組成物が疾患または状態(例えば、がん、移植片対宿主病など)を予防、処置または改善させるために投与される小児被験体である。
【0027】
一部の態様では、組成物(ACTRを含むB2Mモジュレート細胞)は、外因性抗体をさらに含む。米国特許出願第15/357,772号を参照。一部の態様では抗体は、ACTRを含むT細胞を備えて状態を予防または処置するために有用である。一部の実施形態では抗体は、EpCAM、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CAIX、PSMA、葉酸結合抗体、CD19、EGFR、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAP、VEGF、VEGFR、αVβ3およびα5β1インテグリン、CD20、CD30、CD33、CD52、CTLA4およびエナシン(enascin)などの腫瘍細胞に関連するまたはがん関連プロセスに関連する抗原を認識する(Scottら(2012年)Nat Rev Cancer 12巻:278頁)。他の実施形態では抗体は、HIV、HCVなどのような感染性疾患に関連する抗原を認識する。
【0028】
別の態様では、本明細書でB2M遺伝子中の標的部位に結合するB2M DNA結合ドメイン(例えば、ZFP、TALEおよびsgRNA)が提供される。ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、表1の1つの行に示す順序で認識ヘリックス領域を有するZFP;表2の1つの行に示すRVDを有するTALエフェクタードメインDNA結合タンパク質;および/または表2Aの1つの行に示すsgRNA、を含む。これらのDNA結合タンパク質は、B2M発現をモジュレートする工学技術で作製された転写因子を形成するように転写制御ドメインと会合することができる。代替的に、これらのDNA結合タンパク質は、B2M遺伝子に結合し切断する、工学技術で作製されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALENおよび/または、CRISPR/Cas系を形成するように、1つまたは複数のヌクレアーゼドメインと会合し得る。ある特定の実施形態では、ZFN、TALENまたはCRISPR/Cas系の単一ガイドRNA(sgRNA)は、ヒトB2M遺伝子中の標的部位に結合する。転写因子またはヌクレアーゼのDNA結合ドメイン(例えば、ZFP、TALE、sgRNA)は、配列番号6~48または137~205のいずれかの9、10、11 12またはそれより多い(例えば、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多い)ヌクレオチドを含むB2M遺伝子の標的部位に結合することができる。ジンクフィンガータンパク質は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれより多いジンクフィンガーを含む場合があり、各ジンクフィンガーは標的遺伝子中の標的サブサイトと特異的に接触する認識ヘリックスを有する。ある特定の実施形態では、例えば表1に示す通り、ジンクフィンガータンパク質は、4つまたは5つまたは6つのフィンガー(F1、F2、F3、F4、F5およびF6と呼ばれ、N末端からC末端にF1からF4またはF5またはF6の順)を含む。他の実施形態では、単一ガイドRNAまたはTALエフェクターDNA結合ドメインは、配列番号6~48または137~205のいずれかに示される標的部位(または配列番号6~48のいずれかの中の12もしくはそれより多い塩基対)に結合することができる。例示的sgRNA標的部位は、配列番号16~48に示され、例示的TALEN結合部位は、表2B(配列番号137~205)に示される。さらなるTALENは、米国特許第8,586,526号および第9,458,205号に記載されるカノニカルなまたは非カノニカルなRVDを使用して、本明細書に記載される部位を標的化するように設計することができる。本明細書に記載されるヌクレアーゼ(ZFP、TALEまたはsgRNA DNA結合ドメインを含む)は、配列番号6~48または137~205のいずれかを含むB2M遺伝子内に遺伝子改変を作製することが可能であり、これらの配列(配列番号6~48または137~205)のいずれかの中の改変(挿入および/または欠失)ならびに/または配列番号6~48もしくは137~205に示される標的部位配列に隣接するB2M遺伝子配列への改変、例えば以下の配列:GGCCTTA、TCAAATT、TCAAAT、TTACTGAおよび/またはAATTGAAの1つまたは複数の中のB2M遺伝子のエクソン1/またはエクソン2内の改変を含む。
【0029】
B2M遺伝子のエクソン1もしくはエクソン2に結合するDNA結合ドメインおよび転写制御ドメインまたはヌクレアーゼドメインを含む融合分子であって、DNA結合ドメインが表1の1つの行に示すジンクフィンガータンパク質(ZFP)、表2Bの1つの行に示すTALEエフェクタータンパク質または表2Aの1つの行に示す単一ガイドRNA(sgRNA)を含む、融合分子も提供される。
【0030】
本明細書に記載されるいずれのタンパク質も、切断ドメインおよび/または切断半ドメイン(例えば、野生型または工学技術で作製されたFokI切断半ドメイン)をさらに含むことができる。それにより、本明細書に記載されるいずれのヌクレアーゼ(例えば、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas系)においても、ヌクレアーゼドメインは、野生型ヌクレアーゼドメインまたはヌクレアーゼ半ドメイン(例えば、FokI切断半ドメイン)を含むことができる。他の実施形態ではヌクレアーゼ(例えば、ZFN、TALEN、CRISPR/Casヌクレアーゼ)は、工学技術で作製されたヌクレアーゼドメインまたは半ドメイン、例えば偏性ヘテロダイマー(obligate heterodimer)を形成する、工学技術で作製されたFokI切断半ドメインを含む。例えば米国特許出願公開第20080131962号を参照。
【0031】
別の態様では本開示は、本明細書に記載されるタンパク質、融合分子および/またはその構成成分のいずれかをコードするポリヌクレオチド(例えば、sgRNAまたは他のDNA結合ドメイン)を提供する。ポリヌクレオチドは、ウイルスベクター、非ウイルスベクター(例えば、プラスミド)の一部またはmRNA形態であってよい。本明細書に記載されるいずれのポリヌクレオチドも、B2M、TCRαおよび/またはTCRβ遺伝子への標的化挿入のための配列(ドナー、相同アームまたはパッチ配列)を含むことができる。さらに別の態様では、本明細書に記載されるいずれかのポリヌクレオチドを含む遺伝子送達ベクターが提供される。ある特定の実施形態ではベクターは、アデノウイルスベクター(例えば、Ad5/F35ベクター)または、組み込み適格性または組み込み欠損レンチウイルスベクターを含むレンチウイルスベクター(LV)またはアデノ随伴ベクター(AAV)である。したがって同様に本明細書で、ヌクレアーゼ(例えばZFNまたはTALEN)および/またはヌクレアーゼ系(CRISPR/CasまたはTtago)をコードする配列および/または標的遺伝子への標的化組み込みのためのドナー配列を含むウイルスベクターも提供される。一部の実施形態では、ドナー配列およびヌクレアーゼをコードする配列は、異なるベクター上にある。他の実施形態ではヌクレアーゼは、ポリペプチドとして供給される。好ましい実施形態ではポリヌクレオチドは、mRNAである。一部の態様では、mRNAは化学改変されてもよい(例えば、Kormannら、(2011年)Nature Biotechnology 29巻(2号):154~157頁を参照のこと)。他の態様では、mRNAは、ARCAキャップを含むことができる(米国特許第7,074,596号および第8,153,773号を参照のこと)。一部の態様ではmRNAは、酵素的改変によって導入されたcapを含むことができる。酵素によって導入されたcapは、Cap0、Cap1またはCap2を含む場合がある(例えばSmietanskiら、(2014年)Nature Communications 5巻:3004頁を参照)。さらなる態様ではmRNAは、化学的改変によってキャッピングすることができる。さらなる実施形態では、mRNAは、未改変のおよび改変されたヌクレオチドの混合物を含むことができる(米国特許出願公開第2012-0195936号を参照のこと)。なおさらなる実施形態では、mRNAは、WPREエレメントを含むことができる(米国特許出願第15/141,333号を参照のこと)。一部の実施形態ではmRNAは、2本鎖である(例えばKarikoら(2011年)Nucl Acid Res 39巻:e142頁を参照)。
【0032】
さらに別の態様では本開示で、本明細書に記載されるタンパク質、ポリヌクレオチドおよび/またはベクターのいずれかを含む単離細胞が提供される。ある特定の実施形態では細胞は、幹/前駆細胞、またはT細胞(例えば、CD4+T細胞)からなる群から選択される。なおさらなる態様では本開示で、本明細書に記載されるタンパク質、ポリヌクレオチドおよび/もしくはベクターのいずれかを含む細胞または細胞株に由来する細胞または細胞株、すなわちB2Mが1つもしくは複数のZFNによって不活性化されている、および/または、ドナーポリヌクレオチド(例えばACTR、工学技術で作製されたTCRおよび/またはCAR)が細胞のゲノムに安定に組み込まれている細胞に由来する(例えば、培養物中)細胞もしくは細胞株が提供される。それにより本明細書に記載される細胞の子孫は、それら自体で本明細書に記載されるタンパク質、ポリヌクレオチドおよび/またはベクターを含まなくてよいが、これらの細胞では、少なくとも1つのB2M遺伝子が不活性化されているおよび/またはドナーポリヌクレオチドがゲノムに組み込まれているおよび/または発現される。
【0033】
別の態様では本明細書に、本明細書に記載される細胞に1つもしくは複数のタンパク質、ポリヌクレオチドおよび/またはベクターを導入することによって細胞中のB2M遺伝子を不活性化する方法が記載される。本明細書に記載される方法のいずれにおいてもヌクレアーゼは、標的化変異誘発、細胞性DNA配列の欠失を誘導することができる、および/または所定の染色体の遺伝子座での標的化組換えを促進することができる。それによりある特定の実施形態ではヌクレアーゼは、標的遺伝子から1つもしくは複数のヌクレオチドを欠失させるかまたは標的遺伝子に1つもしくは複数のヌクレオチドを挿入する。一部の実施形態ではB2M遺伝子は、ヌクレアーゼ切断、続く非相同末端結合によって不活性化される。他の実施形態では、標的遺伝子中のゲノム配列は、例えば本明細書に記載されるヌクレアーゼ(または前記ヌクレアーゼをコードするベクター)および、ヌクレアーゼによる標的化切断に続いて遺伝子に挿入される「ドナー」配列を使用して置き換えられる。ドナー配列は、ヌクレアーゼベクターに存在することができ、別々のベクター(例えば、AAV、AdまたはLVベクター)に存在することができ、または異なる核酸送達機構を使用して細胞に導入することができる。
【0034】
さらに、本明細書に記載されるいずれの方法もin vitro、in vivoおよび/またはex vivoで実施することができる。ある特定の実施形態では、方法は、例えばT細胞を改変して、それらを、被験体(例えば、がんを有する被験体)を処置する同種異系の状況(allogenic setting)における治療剤として有用にするために、ex vivoで実施される。処置および/または予防することができるがんの非限定的例には、肺癌、膵臓がん、肝がん、骨がん、乳がん、結腸直腸がん、白血病、卵巣がん、リンパ腫、脳がんなどが含まれる。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
ベータ2ミクログロブリン(B2M)遺伝子の発現が該B2M遺伝子のエクソン1またはエクソン2の改変によってモジュレートされる、単離細胞。
(項目2)
前記改変が配列番号6~48または137から205のいずれかに示される標的部位に結合するDNA結合ドメインおよび機能的ドメインを含む外因性融合分子によって作製される、項目1に記載の細胞。
(項目3)
配列番号6~48もしくは137から205の1つまたは複数の中;配列番号6~48もしくは137から205のいずれかの側(隣接ゲノム配列)の1~10塩基対の中;またはGGCCTTA、TCAAAT、TCAAATT、TTACTGAおよび/もしくはAATTGAAの中に、挿入および/または欠失を含む、項目1に記載の細胞。
(項目4)
不活性T細胞受容体遺伝子、PD1および/またはCTLA4遺伝子をさらに含む、項目1から3のいずれかに記載の細胞。
(項目5)
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする導入遺伝子、抗体結合T細胞受容体(ACTR)をコードする導入遺伝子および/または工学技術で作製されたTCRをコードする導入遺伝子をさらに含む、項目1から4のいずれかに記載の細胞。
(項目6)
リンパ系細胞、幹細胞または前駆細胞である、項目1から5のいずれかに記載の細胞。
(項目7)
T細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞、間葉系幹細胞(MSC)または造血幹細胞(HSC)である、項目6に記載の細胞。
(項目8)
項目1から7のいずれかに記載の細胞を含む、医薬組成物。
(項目9)
B2M遺伝子のエクソン1もしくはエクソン2に結合するDNA結合ドメインと、転写制御ドメインまたはヌクレアーゼドメインとを含む融合分子であって、該DNA結合ドメインが表1の1つの行に示すジンクフィンガータンパク質(ZFP)、表2Bの1つの行に示すTALEエフェクタータンパク質または表2Aの1つの行に示す単一ガイドRNA(sgRNA)を含む、融合分子。
(項目10)
項目9に記載の前記融合分子をコードする、ポリヌクレオチド。
(項目11)
ウイルスベクター、プラスミドまたはmRNAである、項目10に記載のポリヌクレオチド。
(項目12)
項目1から7のいずれかに記載の細胞または項目8に記載の医薬組成物をがんを有する被験体に導入することを含む、がんを処置または予防する方法。
(項目13)
項目1から7のいずれかに記載の細胞、項目8に記載の医薬組成物または項目9に記載の融合分子または項目10に記載のポリヌクレオチドの、がんを有する被験体の処置のための使用。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、ヌクレアーゼによって標的化されるB2M遺伝子のエクソン1およびエクソン2の配列(配列番号1および2)の図である。四角は、ZFN結合(標的)部位に隣接されている5つの異なる切断領域(A(GGCCTTA)、C(TCAAATT)、D(TCAAAT)、E(TTACTGA)およびG(AATTGAA))を示す。
【0036】
【
図2A】
図2Aおよび
図2Bは、ヌクレアーゼ活性を示す。
図2Aは、
図1に示される、B2M部位A、C、D、EおよびGに特異的なZFNを2または6μgの用量で用いて処理したT細胞中の各部位での遺伝子改変のパーセントを示す棒グラフである。
図2Bは、K562細胞におけるB2M遺伝子に対するTALEN活性を示す。
【
図2B】
図2Aおよび
図2Bは、ヌクレアーゼ活性を示す。
図2Aは、
図1に示される、B2M部位A、C、D、EおよびGに特異的なZFNを2または6μgの用量で用いて処理したT細胞中の各部位での遺伝子改変のパーセントを示す棒グラフである。
図2Bは、K562細胞におけるB2M遺伝子に対するTALEN活性を示す。
【0037】
【
図3】
図3は、FACS分析によって分析された、B2M特異的ZFN対を用いる処理後のHLA陰性T細胞のパーセントを示す。
【0038】
【
図4A-4C】
図4Aから4Eは、B2MおよびTCRA特異的ZFNの両方を用いた細胞の処理からのFACS結果を示す。
図4Aは、ZFN未処理の結果を示す。
図4BはTCRA特異的ZFN単独後の結果(CD3シグナルの96%ノックアウト)を示し、
図4CはB2M特異的ZFN単独後の結果(HLAシグナルの92%ノックアウト)を示す。
図4Dは、ダブルノックアウト(HLAマーキングおよびCD3マーキングの両方の減少を生じる)を有する細胞の位置を示す例示である。
図4Eは、TCRA特異的ZFNおよびCD3特異的ZFNの両方を用いた細胞の処理後の結果を示し、82%の細胞でのダブルノックアウトを実証している。
【
図4D-4E】
図4Aから4Eは、B2MおよびTCRA特異的ZFNの両方を用いた細胞の処理からのFACS結果を示す。
図4Aは、ZFN未処理の結果を示す。
図4BはTCRA特異的ZFN単独後の結果(CD3シグナルの96%ノックアウト)を示し、
図4CはB2M特異的ZFN単独後の結果(HLAシグナルの92%ノックアウト)を示す。
図4Dは、ダブルノックアウト(HLAマーキングおよびCD3マーキングの両方の減少を生じる)を有する細胞の位置を示す例示である。
図4Eは、TCRA特異的ZFNおよびCD3特異的ZFNの両方を用いた細胞の処理後の結果を示し、82%の細胞でのダブルノックアウトを実証している。
【0039】
【
図5】
図5は、TRAC(TCRA)およびB2M二重ノックアウトならびにTRAC(TCRA)またはB2M遺伝子座のいずれかへのドナーの標的化組み込みからの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
詳細な説明
本明細書で、細胞表面上にHLAクラスIをもはや含まないようにB2M遺伝子の発現がモジュレートされている細胞を生成するための組成物および方法が開示される。この様式で改変された細胞は、B2M発現の欠如がHLAベースの免疫応答を予防または低減することから治療剤、例えば移植片として使用することができる。さらに目的の他の遺伝子は、B2M遺伝子が操作されている細胞に挿入することができる、および/または目的の他の遺伝子をノックアウトすることができる。
【0041】
一般
本明細書に開示される方法の実施、ならびに組成物の調製および使用は、別途指示がない限り、分子生物学、生化学、クロマチン構造および分析、計算化学、細胞培養、組換えDNAおよび当技術分野の範囲内である関連分野における従来の技術を用いる。これらの技術は、文献において詳細に説明される。例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年および第3版、2001年;Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley & Sons、New York、1987年および定期の最新版;シリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY、Academic Press、San Diego;Wolffe、CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION、第3版、Academic Press、San Diego、1998年;METHODS IN ENZYMOLOGY、第304巻、「Chromatin」(P.M. WassarmanおよびA. P. Wolffe編)、Academic Press、San Diego、1999年;およびMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY、第119巻、「Chromatin Protocols」(P.B. Becker編)、Humana Press、Totowa、1999年を参照のこと。
【0042】
定義
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は互換的に使用され、直鎖状または環状の立体配座の、および一本鎖または二本鎖の形のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示のために、これらの用語は、ポリマーの長さに関して制限するものと解釈されるべきでない。これらの用語は、天然のヌクレオチドならびに塩基、糖および/またはリン酸部分(例えば、ホスホロチオエート骨格)が修飾されるヌクレオチドの公知の類似体を包含することができる。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対合特異性を有する;すなわち、Aの類似体はTと塩基対合する。
【0043】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は互換的に用いられて、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1つまたは複数のアミノ酸が対応する天然に存在するアミノ酸の化学的類似体または改変誘導体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0044】
「結合」は、巨大分子の間(例えば、タンパク質と核酸との間)の配列特異的、非共有結合的相互作用を指す。結合相互作用が全体として配列特異的である限り、該結合相互作用の全ての構成成分が配列特異的である(例えば、DNA骨格中のリン酸残基と接触する)必要があるわけではない。そのような相互作用は、10-6M-1またはそれより低い解離定数(Kd)によって一般的に特徴付けられる。「親和性」は、結合の強さを指す。結合親和性の増加はより低いKdと相関する。「非特異的結合」は、目的の任意の分子(例えば工学技術で作製されたヌクレアーゼ)と巨大分子(例えばDNA)との間に生じる標的配列に依存しない非共有結合的相互作用を指す。
【0045】
「DNA結合分子」は、DNAに結合することができる分子である。そのようなDNA結合分子は、ポリペプチド、タンパク質のドメイン、より大きなタンパク質内のドメインまたはポリヌクレオチドであってよい。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドはDNAであり、一方他の実施形態では、ポリヌクレオチドはRNAである。一部の実施形態では、DNA結合分子はヌクレアーゼのタンパク質ドメイン(例えばFokIドメイン)であり、一方他の実施形態では、DNA結合分子はRNAガイドヌクレアーゼのガイドRNA構成成分(例えばCas9またはCfp1)である。
【0046】
「結合性タンパク質」は、別の分子に非共有結合で結合することができるタンパク質である。結合性タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA結合性タンパク質)、RNA分子(RNA結合性タンパク質)および/またはタンパク質分子(タンパク質結合性タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合性タンパク質の場合、それはそれ自体に結合することができ(ホモダイマー、ホモトリマーなどを形成する)、および/またはそれは1つまたは複数の異なるタンパク質の1つまたは複数の分子に結合することができる。結合性タンパク質は、1つより多いタイプの結合活性を有することができる。例えば、ジンクフィンガータンパク質はDNA結合活性、RNA結合活性およびタンパク質結合活性を有する。
【0047】
「ジンクフィンガーDNA結合性タンパク質」(または、結合ドメイン)は、その構造が亜鉛イオンの配位を通して安定する結合ドメインの中のアミノ酸配列の領域である、1つまたは複数のジンクフィンガーを通して配列特異的な様式でDNAに結合するタンパク質、またはより大きなタンパク質の中のドメインである。用語ジンクフィンガーDNA結合性タンパク質は、ジンクフィンガータンパク質またはZFPとしてしばしば略される。
「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、1つまたは複数のTALE反復ドメイン/単位を含むポリペプチドである。反復ドメインは、それぞれ反復可変性二残基(repeat variable diresidue)(RVD)を含み、そのコグネイト標的DNA配列へのTALEの結合に関与する。単一の「反復単位」(「反復」とも呼ばれる)は、長さが一般的に33~35アミノ酸であり、天然に存在するTALEタンパク質の中の他のTALE反復配列と少なくとも一部の配列相同性を示す。TALEタンパク質は、反復単位内のカノニカルなまたは非カノニカルなRVDを使用して標的部位に結合するように設計することができる。例えば、その全体が本明細書に参考として援用される、米国特許第8,586,526号および第9,458,205号を参照。
【0048】
ジンクフィンガーおよびTALE DNA結合ドメインは、例えば、天然に存在するジンクフィンガータンパク質の認識ヘリックス領域の工学技術(1つまたは複数のアミノ酸を変更)を介して、またはDNA結合(反復可変性二残基またはRVD領域)に関与するアミノ酸の工学技術によって、所定のヌクレオチド配列に結合するように「工学技術で作製する」ことができる。したがって、工学技術で作製されたジンクフィンガータンパク質またはTALEタンパク質は、天然に存在しないタンパク質である。ジンクフィンガータンパク質およびTALEを工学技術で作製するための方法の非限定的例は、設計および選択である。設計されたタンパク質は、その設計/組成が合理的基準から主に生じる、天然に存在しないタンパク質である。設計のための合理的基準には、既存のZFPまたはTALE設計(カノニカルなおよび非カノニカルなRVD)および結合データの情報を保存するデータベース中の情報を処理するための、置換規則およびコンピュータ化アルゴリズムの適用が含まれる。例えば、米国特許第9,458,205号、第8,586,526号、第6,140,081号、第6,453,242号および第6,534,261号を参照、WO98/53058、WO98/53059、WO98/53060、WO02/016536およびWO03/016496も参照。
【0049】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質、TALEタンパク質またはCRISPR/Cas系は、天然には見出されず、その産生がファージディスプレイ、相互作用トラップまたはハイブリッド選択などの実験プロセスから主に生じる。例えば、U.S.5,789,538;U.S.5,925,523;U.S.6,007,988;U.S.6,013,453;U.S.6,200,759;WO95/19431;WO96/06166;WO98/53057;WO98/54311;WO00/27878;WO01/60970;WO01/88197およびWO02/099084を参照のこと。
【0050】
「TtAgo」は、遺伝子サイレンシングに関与すると考えられている原核生物のアルゴノートタンパク質である。TtAgoは、細菌Thermus thermophilus由来である。例えばSwartsら、同書、G. Shengら、(2013年)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111巻、652頁)を参照。「TtAgo系」は、例えばTtAgo酵素による切断のためのガイドDNAを含む要求される構成成分の全てである。
【0051】
「組換え」は、2つのポリヌクレオチドの間での遺伝情報の交換のプロセスを指す。この開示のために、「相同組換え(HR)」は、例えば、相同組換え修復機構による細胞中の二本鎖切断の修復の間に起こるそのような交換の特殊化した形態を指す。このプロセスはヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を経たもの)の鋳型修復に「ドナー」分子を使用し、「非交叉遺伝子変換」または「ショートトラクト遺伝子変換」として様々に公知であるが、その理由は、それがドナーから標的への遺伝情報の伝達をもたらすからである。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むことなく、そのような伝達は、切断された標的とドナーとの間で形成されるヘテロ二本鎖DNAのミスマッチ補正、および/または、ドナーが標的の一部になる遺伝情報を再合成するために使用される「合成依存性鎖アニーリング」、および/または関連したプロセスに関与することができる。そのような特殊化したHRは標的分子の配列の変更をしばしばもたらし、そのため、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全体が標的ポリヌクレオチドに組み入れられる。
【0052】
本開示の方法では、本明細書に記載される1つまたは複数の標的化ヌクレアーゼは、所定部位(例えば、目的の遺伝子または遺伝子座)の標的配列(例えば、細胞クロマチン)において二本鎖切断(DSB)を生じさせ、切断領域のヌクレオチド配列と相同性を有する「ドナー」ポリヌクレオチドを、細胞に導入することができる。DSBの存在により、ドナー配列の組込みを促進することが示された。任意選択で構築物は、切断の領域におけるヌクレオチド配列に相同性を有する。ドナー配列は物理的に組み込まれてもよいし、または代わりに、ドナーポリヌクレオチドを、相同組換えによる切断の修復のための鋳型として使用し、細胞クロマチンへのドナーの場合のようにヌクレオチド配列の全部または一部の導入をもたらす。したがって、細胞クロマチン中の第1の配列を改変することができ、ある特定の実施形態では、ドナーポリヌクレオチドに存在する配列へと変換することができる。したがって、用語「置き換える」または「置き換え」の使用は、1つのヌクレオチド配列の、別のものによる置き換え(すなわち、情報の意味での配列の置き換え)を表し、1つのポリヌクレオチドの、別のものによる物理的または化学的置き換えを必ずしも必要とするものではないことを理解することができる。
【0053】
本明細書に記載される方法のいずれでも、細胞の中のさらなる標的部位のさらなる二本鎖切断のために、ジンクフィンガータンパク質のさらなる対を使用することができる。
【0054】
細胞クロマチン中の目的領域における配列の標的化組換えおよび/または置き換えおよび/または変更のための方法のある特定の実施形態では、染色体配列は、外因性「ドナー」ヌクレオチド配列による相同組換えによって変更される。切断の領域に相同性の配列が存在するならば、そのような相同組換えは細胞クロマチン中の二本鎖切断の存在によって刺激される。
【0055】
本明細書に記載される方法のいずれでも、第1のヌクレオチド配列(「ドナー配列」)は、目的領域のゲノム配列に相同的であるが同一でない配列を含有することができ、それによって相同組換えを刺激して、目的領域の中に同一でない配列を挿入することができる。したがって、ある特定の実施形態では、目的領域の配列に相同性であるドナー配列の部分は、置き換えられたゲノム配列と約80から99%(または、その間の任意の整数)の間の配列同一性を呈示する。他の実施形態では、例えば、100個の連続した塩基対にわたってドナー配列とゲノム配列との間で1ヌクレオチドだけが異なる場合は、ドナー配列とゲノム配列との間の相同性は99%より高い。ある特定の場合には、新しい配列が目的領域に導入されるように、ドナー配列の非相同部分は、目的領域に存在しない配列を含有することができる。これらの場合には、非相同配列は、目的領域の配列に相同性または同一である、50~1,000塩基対(または、その間の任意の整数値)または1,000を超える任意数の塩基対の配列に一般的に隣接する。他の実施形態では、ドナー配列は第1の配列に非相同性であり、非相同組換え機構によってゲノムに挿入されている。
【0056】
本明細書に記載される方法のいずれも、目的の遺伝子(複数可)の発現を破壊するドナー配列の標的化組込みによる、細胞における1つまたは複数の標的配列の部分的または完全な不活性化のために使用することができる。部分的または完全に不活性化された遺伝子を有する細胞株も、提供される。
【0057】
さらに、本明細書に記載される標的化組込みの方法は、1つまたは複数の外因性配列を組み込むために使用することもできる。外因性核酸配列は、例えば、1つまたは複数の遺伝子もしくはcDNA分子、または任意のタイプのコード配列もしくは非コード配列、ならびに1つまたは複数の調節エレメント(例えば、プロモーター)を含むことができる。さらに、外因性核酸配列は、1つまたは複数のRNA分子(例えば、小ヘアピンRNA(shRNA)、阻害性RNA(RNAi)、マイクロRNA(miRNA)など)を産生することができる。
【0058】
「切断」は、DNA分子の共有結合骨格の切断を指す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的加水分解を限定されずに含む、様々な方法によって開始することができる。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能であり、二本鎖切断は2つの異なる一本鎖切断事象の結果として起こり得る。DNA切断は、平滑末端または付着末端のいずれかの産生をもたらし得る。ある特定の実施形態では、標的化二本鎖DNA切断のために融合ポリペプチドが使用される。
【0059】
「切断半ドメイン」は、第2のポリペプチド(同一のまたは異なる)と共に、切断活性(好ましくは二本鎖切断活性)を有する複合体を形成するポリペプチド配列である。用語「第1および第2の切断半ドメイン」、「+および-切断半ドメイン」ならびに「右および左切断半ドメイン」は互換的に使用されて、二量体化する切断半ドメインの対を指す。
【0060】
「工学技術で作製された切断半ドメイン」は、別の切断半ドメイン(例えば、別の工学技術で作製された切断半ドメイン)と絶対ヘテロダイマー(obligate heterodimer)を形成するように改変された切断半ドメインである。参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第7,888,121号;第7,914,796号;第8,034,598号;第8,623,618号および米国特許出願公開第2011/0201055号も参照されたい。
【0061】
用語「配列」は、任意の長さのヌクレオチド配列を指し、それはDNAまたはRNAであってもよく;直鎖状、環状または分枝状であってもよく、一本鎖または二本鎖のいずれかであってもよい。用語「ドナー配列」は、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を指す。ドナー配列は、任意の長さ、例えば2から10,000ヌクレオチド(または、その間のもしくはその上の任意の整数値)の間の長さ、好ましくは約100から1,000ヌクレオチド(または、その間の任意の整数)の間の長さ、より好ましくは約200から500ヌクレオチドの間の長さであってよい。
【0062】
「クロマチン」は、細胞ゲノムを含む核タンパク質構造物である。細胞クロマチンは、核酸、主にDNA、ならびにヒストンおよび非ヒストン染色体タンパク質を含むタンパク質を含む。大多数の真核生物の細胞クロマチンはヌクレオソームの形で存在し、ここで、ヌクレオソームコアはヒストンH2A、H2B、H3およびH4の各々2つを含む八量体に会合した概ね150塩基対のDNAを含み;リンカーDNA(生物体によって様々な長さの)がヌクレオソームコアの間に延びる。ヒストンH1の分子は、リンカーDNAに一般的に会合している。本開示のために、用語「クロマチン」は、原核生物および真核生物の両方の、全てのタイプの細胞核タンパク質の包含を意味するものである。細胞クロマチンには、染色体およびエピソームの両方のクロマチンが含まれる。
【0063】
「染色体」は、細胞のゲノムの全体または一部を含むクロマチン複合体である。細胞のゲノムは、細胞のゲノムを含む全ての染色体の集合である、その核型によってしばしば特徴付けられる。細胞のゲノムは、1つまたは複数の染色体を含むことができる。
【0064】
「エピソーム」は、複製する核酸、核タンパク質複合体、または細胞の染色体核型の一部でない核酸を含む他の構造物である。エピソームの例には、プラスミドおよびある特定のウイルスゲノムが含まれる。
【0065】
「標的部位」または「標的配列」は、結合のための十分な条件が存在することを条件に、結合性分子が結合する核酸の一部を規定する核酸配列である。例えば、配列5’GAATTC3’は、EcoRI制限エンドヌクレアーゼのための標的部位である。
【0066】
「外因性」分子は、細胞に通常は存在しないが、1つまたは複数の遺伝的方法、生化学的方法または他の方法によって細胞に導入することができる分子である。「細胞における正常な存在」は、細胞の特定の発達段階および環境条件に関して決定される。したがって、例えば、筋肉の胚発達の間だけに存在する分子は、成体の筋細胞に関しては外因性分子である。同様に、熱ショックによって誘導される分子は、非熱ショック細胞に関しては外因性分子である。外因性分子は、例えば、機能不全の内因性分子の機能バージョンまたは正常機能内因性分子の機能不全バージョンを含むことができる。
【0067】
外因性分子は、とりわけ、小分子、例えばコンビナトリアル化学プロセスによって生成されるもの、または巨大分子、例えばタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖、上記の分子の任意の改変誘導体、または上記の分子の1つまたは複数を含む任意の複合体であってよい。核酸にはDNAおよびRNAが含まれ、一本鎖または二本鎖であってよく、直鎖状、分枝状または環状であってよく、任意の長さであってよい。例えば、米国特許第8,703,489号および第9,255,259号を参照されたい。核酸には、二重鎖を形成することが可能な核酸ならびに三重鎖形成核酸が含まれる。例えば、米国特許第5,176,996号および第5,422,251号を参照されたい。タンパク質には、DNA結合性タンパク質、転写因子、クロマチンリモデリング因子、メチル化DNA結合性タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、脱アセチル化酵素、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ギラーゼおよびヘリカーゼが限定されずに含まれる。
【0068】
外因性分子は、内因性分子と同じ種類の分子、例えば、外因性タンパク質または核酸であってよい。例えば、外因性核酸は、細胞に導入される感染性のウイルスゲノム、プラスミドもしくはエピソーム、または細胞に通常は存在しない染色体を含むことができる。細胞への外因性分子の導入のための方法は当業者に公知であり、脂質媒介伝達(すなわち、中性およびカチオン性脂質を含むリポソーム)、エレクトロポレーション、直接注入、細胞融合、微粒子銃、リン酸カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介伝達およびウイルスベクター媒介伝達が限定されずに含まれる。外因性分子は内因性分子と同じ種類の分子であってもよいが、細胞が由来する種と異なる種に由来してもよい。例えば、マウスまたはハムスターに本来由来する細胞株に、ヒト核酸配列を導入することができる。
【0069】
対照的に、「内因性」分子は、特定の環境条件下で特定の発達段階の特定の細胞に通常存在するものである。例えば、内因性の核酸は、染色体、ミトコンドリアのゲノム、クロロプラストもしくは他のオルガネラ、または天然に存在するエピソーム核酸を含むことができる。さらなる内因性分子には、タンパク質、例えば、転写因子および酵素を含めることができる。
【0070】
「融合」分子は、2つまたはそれより多いサブユニット分子が、好ましくは共有結合で連結される分子である。サブユニット分子は、同じ化学的タイプの分子であってよいか、または異なる化学的タイプの分子であってよい。第1のタイプの融合分子の例には、融合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインと1つまたは複数の活性化ドメインとの間の融合物)および融合核酸(例えば、上に記載の融合タンパク質をコードする核酸)が限定されずに含まれる。第2のタイプの融合分子の例には、三重鎖形成核酸とポリペプチドとの間の融合物、および副溝バインダーと核酸との間の融合物が限定されずに含まれる。用語には、ポリヌクレオチド構成成分が機能的分子を形成するようにポリペプチド構成成分と会合する系(例えば、単一ガイドRNAが遺伝子発現をモジュレートするために機能的ドメインと会合するCRISPR/Cas系)も含まれる。
【0071】
細胞における融合タンパク質の発現は、細胞への融合タンパク質の送達から、または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの細胞への送達によって生じることができ、ここで、ポリヌクレオチドは転写され、転写物は翻訳されて融合タンパク質を生成する。細胞におけるタンパク質の発現において、トランススプライシング、ポリペプチド切断およびポリペプチドライゲーションが関与することもできる。細胞へのポリヌクレオチドおよびポリペプチドの送達の方法は、本開示の他の場所で提示される。
【0072】
本開示のために、「遺伝子」は、遺伝子生成物(下を参照のこと)をコードするDNA領域、ならびに、そのような調節配列がコード配列および/または転写配列に隣接しているか否かを問わず、遺伝子生成物の産生を調節する全てのDNA領域を含む。したがって、遺伝子は、必ずしも限定されずに、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列、例えばリボソーム結合部位および内部リボソーム侵入部位、エンハンサー、サイレンサー、インシュレータ、境界エレメント、複製起点、マトリックス結合部位および遺伝子座調節領域を含む。
【0073】
「セーフハーバー」遺伝子座は、遺伝子を宿主細胞へのいかなる有害作用もなしに挿入することができるゲノム内の遺伝子座である。最も有益なのは、挿入された遺伝子配列の発現が付近の遺伝子からのいかなるリードスルー発現によっても攪乱されないセーフハーバー遺伝子座である。ヌクレアーゼ(複数可)によって標的化されるセーフハーバー遺伝子座の非限定的例には、CCR5、CCR5、HPRT、AAVS1、Rosaおよびアルブミンが含まれる。例えば、米国特許第8,771,985号;同第8,110,379号;同第7,951,925号;米国特許出願公開第20100218264号;同第20110265198号;同第20130137104号;同第20130122591号;同第20130177983号;同第20130177960号;同第20150056705号および同第20150159172号)を参照されたい。
【0074】
「遺伝子発現」は、遺伝子に含まれる情報の遺伝子生成物への変換を指す。遺伝子生成物は、遺伝子の直接転写生成物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造的RNAまたは任意の他のタイプのRNA)、またはmRNAの翻訳によって生成されるタンパク質であってよい。遺伝子生成物には、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化および編集などのプロセスによって改変されるRNA、ならびに、例えばメチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADPリボシル化、ミリストイル化およびグリコシル化によって改変されるタンパク質も含まれる。
【0075】
遺伝子発現の「モジュレーション」または「改変」は、遺伝子の活性の変化を指す。発現のモジュレーションには、外因性分子(例えば、工学技術で作製された転写因子)の結合を介した遺伝子の改変によるものを含む遺伝子活性化および遺伝子抑制を限定されずに含めることができる。モジュレーションは、ゲノム編集(例えば、切断、変更、不活性化、ランダム変異)を介した遺伝子配列の改変によっても達成することができる。遺伝子不活性化は、本明細書に記載される改変されていない細胞と比較したときの、遺伝子発現のいかなる低減も指す。したがって、遺伝子不活性化は部分的であるか、または完全であってもよい。
【0076】
「目的領域」は、外因性分子を結合させることが望ましい、例えば、遺伝子または遺伝子の中のもしくはそれに隣接した非コード配列などの細胞クロマチンの任意の領域である。結合は、標的化DNA切断および/または標的化組換えのためであってもよい。目的領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官ゲノム(例えば、ミトコンドリア、クロロプラスト)、または、例えば感染性ウイルスゲノムに存在することができる。目的領域は、遺伝子のコード領域の中、例えばリーダー配列、トレーラー配列もしくはイントロンなどの転写された非コード領域の中、または、コード領域の上流もしくは下流のいずれかの非転写領域の中にあってもよい。目的領域は、単一のヌクレオチド対と同じくらい小さくてもよく、または最高2,000ヌクレオチド対の長さ、または任意の整数値のヌクレオチド対であってもよい。
【0077】
「真核生物」細胞には、真菌細胞(酵母など)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞(例えば、T細胞)が限定されずに含まれる。
【0078】
用語「作用的連結」および「作用的に(operatively)連結する」(または、「作動可能に(operably)連結する」)は、2つまたはそれより多い構成成分(配列エレメントなど)の並置に関して互換的に使用され、ここで、構成成分は、両構成成分が正常に機能して、構成成分の少なくとも1つが他の構成成分の少なくとも1つにおいて発現する機能を媒介することができるということを可能にするように配置される。例証として、プロモーターなどの転写調節配列は、その転写調節配列が1つまたは複数の転写調節因子の存在または不在に応答してコード配列の転写のレベルを調節するならば、コード配列に作用的に連結されている。転写調節配列はコード配列と一般的にcisで作用的に連結するが、それと直接的に隣接する必要がない。例えば、たとえそれらが近接していなくても、エンハンサーはコード配列に作用的に連結している転写調節配列である。
【0079】
融合ポリペプチドに関して、用語「作用的に連結する」は、構成成分の各々が、そのように連結していない場合にそれがするだろうものと同じ機能を、他の構成成分と連結して実行するという事実を指すことができる。例えば、DNA結合ドメイン(例えば、ZFP、TALE)が活性化ドメインに融合している融合ポリペプチドに関して、融合ポリペプチドにおいて、DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合することができ、活性化ドメインが遺伝子発現を上方調節することができるならば、DNA結合ドメインおよび活性化ドメインは作用的に連結している。DNA結合ドメインが切断ドメインに融合している融合ポリペプチドの場合は、融合ポリペプチドにおいて、DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合することができ、切断ドメインが標的部位の近くでDNAを切断することができるならば、DNA結合ドメインおよび切断ドメインは作用的に連結している。同様に、DNA結合ドメインが活性化または抑制ドメインに融合されている融合ポリペプチドに関して、DNA結合ドメインおよび活性化または抑制ドメインは、融合ポリペプチドにおいてDNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合でき、一方活性化ドメインが遺伝子発現を上方制御することができるまたは抑制ドメインが遺伝子発現を下方制御することができる場合に、機能的連結(operative linkage)している。
【0080】
タンパク質、ポリペプチドまたは核酸の「機能的断片」は、その配列が完全長タンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一でないが、完全長タンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同じ機能を保持する、タンパク質、ポリペプチドまたは核酸である。機能的断片は対応する天然分子より多くの、より少ないまたは同じ数の残基を保有することができ、および/または1つまたは複数のアミノ酸もしくはヌクレオチド置換を含有することができる。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸にハイブリダイズする能力)を決定するための方法は、当技術分野で周知である。同様に、タンパク質機能を決定するための方法は、周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合性機能は、例えば、フィルター結合性、電気泳動移動性-シフトまたは免疫沈降アッセイによって決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によって試験することができる。上記、Ausubelらを参照のこと。別のタンパク質と相互作用するタンパク質の能力は、例えば、共免疫沈降、2ハイブリッドアッセイまたは遺伝子的および生化学的の両方の相補性によって決定することができる。例えば、Fieldsら(1989年)Nature 340巻:245~246頁;米国特許第5,585,245号およびPCT WO98/44350を参照のこと。
【0081】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に移すことが可能である。典型的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、「発現構築物」、「発現カセット」および「遺伝子導入ベクター」は、目的の遺伝子の発現に誘導することが可能であり、遺伝子配列を標的細胞に移すことができる任意の核酸構築物を意味する。したがって、本用語は、クローニングおよび発現ビヒクルならびに組込みベクターを含む。
【0082】
「レポーター遺伝子」または「レポーター配列」は、好ましくはルーチンのアッセイにおいてとは限らないが、容易に測定されるタンパク質生成物を産生する任意の配列を指す。適するレポーター遺伝子には、抗生物質耐性(例えば、アンピシリン耐性、ネオマイシン耐性、G418耐性、ピューロマイシン耐性)を媒介するタンパク質をコードする配列、着色または蛍光性または発光性のタンパク質(例えば、緑色蛍光性タンパク質、強化された緑色蛍光性タンパク質、赤色蛍光性タンパク質、ルシフェラーゼ)をコードする配列、ならびに強化された細胞増殖および/または遺伝子増幅を媒介するタンパク質(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ)が限定されずに含まれる。エピトープタグには、例えば、FLAG、His、myc、Tap、HAまたは任意の検出可能なアミノ酸配列の1つまたは複数のコピーが含まれる。「発現タグ」には、目的の遺伝子の発現をモニタリングするために所望の遺伝子配列に作動可能に連結することができるレポーターをコードする配列が含まれる。
【0083】
用語「被験体」および「患者」は、互換的に用いられ、ヒト患者および非ヒト霊長類、ならびにウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウスなどの実験動物、ならびに他の動物などの哺乳動物を指す。したがって本明細書において使用される用語「被験体」または「患者」は、本発明の発現カセットを投与することができる任意の哺乳動物患者または被験体を意味する。本発明の被験体は、障害を有する被験体または障害を発症するリスクがある被験体を含む。
【0084】
本明細書において使用される用語「処置する」または「処置」は、症状の重症度および/または頻度の低減、症状および/または根底にある原因の除去、症状の出現および/またはそれらの根底にある原因の予防、ならび損傷の改善または治療を指す。がんおよび移植片対宿主病は、本明細書に記載される組成物および方法を使用して処置することができる状態の非限定的例である。それにより「処置する」および「処置」には:
(i)哺乳動物において、具体的にはそのような哺乳動物が状態になりやすい素因を有するが、それを有するとしてまだ診断されていない場合に、疾患または状態の出現を予防すること;
(ii)疾患または状態を抑制すること、すなわちその発症を抑止すること;
(iii)疾患もしくは状態を緩和すること、すなわち疾患もしくは状態の退縮をもたらすこと;または
(iv)疾患もしくは状態から生じる症状を緩和すること、すなわち根底にある疾患もしくは状態に対処すること無く疼痛を緩和すること
が含まれる。
【0085】
本明細書において使用される、用語「疾患」および「状態」は、互換的に使用することができる、または特定の疾病もしくは状態が公知の原因因子を有さず(そのため病因がまだ解明されていない)、したがってそれはまだ疾患としてではなく、望ましくない状態または症候群としてのみ認識されていて、ある程度の具体的な症状のセットが臨床医によって同定されているという点では、異なっていてよい。
【0086】
「医薬組成物」は、哺乳動物、例えばヒトへの生物学的に活性な化合物の送達のために当技術分野において一般に許容される本発明の化合物および媒体の製剤を指す。そのためのそのような媒体には、全ての薬学的に許容されるキャリア、希釈剤または賦形剤が含まれる。
【0087】
「有効量」または「治療有効量」は、哺乳動物、好ましくはヒトに投与された場合に、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて処置をもたらすために十分である本発明の化合物の量を指す。「治療有効量」を構成する本発明の組成物の量は、化合物、状態およびその重症度、投与の様式ならびに処置される哺乳動物の年齢に応じて変化するが、当業者自身の知識および本開示を考慮して当業者によって日常的に決定することができる。
【0088】
DNA結合ドメイン
本明細書で、HLA遺伝子またはHLA制御因子(B2M遺伝子を含む)を含む任意の遺伝子中の標的部位に特異的に結合するDNA結合ドメインを含む組成物が記載される。任意のDNA結合ドメインは、本明細書で開示される組成物および方法において使用することができ、限定されずにジンクフィンガーDNA結合ドメイン、TALE DNA結合ドメイン、CRISPR/CasヌクレアーゼのDNA結合部分(sgRNA)またはメガヌクレアーゼ由来DNA結合ドメインが含まれる。DNA結合ドメインは、限定されずに、配列番号6~48のいずれかに示す12またはそれより多いヌクレオチドの標的配列を含む、遺伝子内の任意の標的配列に結合することができる。
【0089】
ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質を含む。好ましくは、ジンクフィンガータンパク質は、選択された標的部位に結合するように工学技術で作製されている点で、天然に存在しない。例えば、Beerliら(2002年)Nature Biotechnol.20巻:135~141頁;Paboら(2001年)Ann. Rev. Biochem.70巻:313~340頁;Isalanら(2001年)Nature Biotechnol.19巻:656~660頁;Segalら(2001年)Curr. Opin. Biotechnol.12巻:632~637頁;Chooら(2000年)Curr. Opin. Struct. Biol.10巻:411~416頁;米国特許第6,453,242号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,503,717号;同第6,689,558号;同第7,030,215号;同第6,794,136号;同第7,067,317号;同第7,262,054号;同第7,070,934号;同第7,361,635号;同第7,253,273号;および米国特許出願公開第2005/0064474号;同第2007/0218528号;同第2005/0267061号(すべて本明細書にその全体が参考として援用される)を参照のこと。ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2012/0060230号に開示されているジンクフィンガータンパク質を含む(例えば、表1)。
【0090】
工学技術で作製されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然に存在するジンクフィンガータンパク質と比較して、新規の結合特異性を有することができる。工学技術で作製する方法には、合理的なデザインおよび種々のタイプの選択が限定されずに含まれる。合理的なデザインには、例えば、三つ組(または、四つ組)ヌクレオチド配列および個々のジンクフィンガーアミノ酸配列を含むデータベースを使用することが含まれ、ここで、各三つ組または四つ組ヌクレオチド配列は、特定の三つ組または四つ組配列に結合するジンクフィンガーの1つまたは複数のアミノ酸配列と会合している。例えば、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第6,453,242号および第6,534,261号を参照のこと。
【0091】
ファージディスプレイおよび2ハイブリッド系を含む例示的な選択方法は、米国特許第5,789,538号;5,925,523号;6,007,988号;6,013,453号;6,410,248号;6,140,466号;6,200,759号;および6,242,568号;ならびにWO98/37186;WO98/53057;WO00/27878;WO01/88197およびGB2,338,237に開示されている。さらに、ジンクフィンガー結合ドメインの結合特異性の増強が、例えば、米国特許第6,794,136号に記載されている。
【0092】
さらに、これらおよび他の参考文献に開示されるように、ジンクフィンガードメインおよび/またはマルチフィンガーのジンクフィンガータンパク質は、例えば長さが5またはそれより多くのアミノ酸のリンカーを含む、任意の適するリンカー配列を使用して一緒に連結することができる。長さが6またはそれより多くのアミノ酸の例示的なリンカー配列については、米国特許第6,479,626号;6,903,185号;および7,153,949号も参照されたい。本明細書に記載されるタンパク質には、タンパク質の個々のジンクフィンガーの間の適するリンカーの任意の組合せを含めることができる。さらに、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の増強は、例えば米国特許第6,794,136号に記載されている。
【0093】
標的部位;ZFPの選択および融合タンパク質(およびそれをコードするポリヌクレオチド)の設計および構築のための方法は、当業者に公知であり、米国特許第6,140,081号、第5,789,538号、第6,453,242号、第6,534,261号、第5,925,523号、第6,007,988号、第6,013,453号、第6,200,759号、WO95/19431、WO96/06166、WO98/53057、WO98/54311、WO00/27878、WO01/60970、WO01/88197、WO02/099084、WO98/53058、WO98/53059、WO98/53060、WO02/016536およびWO03/016496に詳細に記載されている。
【0094】
さらに、これらおよび他の参考文献に開示されるように、ジンクフィンガードメインおよび/またはマルチフィンガーのジンクフィンガータンパク質は、例えば5またはそれより多いアミノ酸長のリンカーを含む、任意の適するリンカー配列を使用して一緒に連結することができる。6またはそれより多いアミノ酸長の例示的なリンカー配列については、米国特許第6,479,626号、第6,903,185号および第7,153,949号も参照。本明細書に記載されるタンパク質には、そのタンパク質の個々のジンクフィンガーの間の適するリンカーの任意の組合せを含めることができる。
【0095】
ある特定の実施形態ではDNA結合ドメインは、B2M遺伝子またはB2M制御遺伝子中の標的部位に結合し(配列特異的様式で)、B2M遺伝子の発現をモジュレートする工学技術で作製されたジンクフィンガータンパク質である。一部の実施形態ではジンクフィンガータンパク質は、B2M中の標的部位に結合するが、一方他の実施形態ではジンクフィンガーは、B2M中の標的部位に結合する。
【0096】
通常ZFPは、少なくとも3つのフィンガーを含む。ある特定のZFPは、4つ、5つまたは6つのフィンガーを含む。3つのフィンガーを含むZFPは、9または10ヌクレオチドを含む標的部位を典型的には認識し;4つのフィンガーを含むZFPは、12から14ヌクレオチドを含む標的部位を典型的には認識し;一方6つのフィンガーを有するZFPは、18から21ヌクレオチドを含む標的部位を認識することができる。ZFPは、転写活性化または抑制ドメインであってよい1つまたは複数の制御ドメインを含む融合タンパク質であってもよい。
【0097】
一部の実施形態ではDNA結合ドメインは、ヌクレアーゼ由来であってよい。例えば、ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼ(例えば、I-SceI、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevIIおよびI-TevIII)の認識配列が公知である。米国特許第5,420,032号;米国特許第6,833,252号;Belfortら(1997年)Nucleic Acids Res.25巻:3379~3388頁;Dujonら(1989年)Gene 82巻:115~118頁;Perlerら(1994年)Nucleic Acids Res.22巻、1125~1127頁;Jasin(1996年)Trends Genet.12巻:224~228頁;Gimbleら(1996年)J. Mol. Biol.263巻:163~180頁;Argastら(1998年)J. Mol. Biol.280巻:345~353頁およびNew England Biolabsカタログも参照。さらに、ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼのDNA結合特異性は、非天然の標的部位に結合するように工学技術で作製することができる。例えば、Chevalierら(2002年)Molec. Cell 10巻:895~905頁;Epinatら(2003年)Nucleic Acids Res.31巻:2952~2962頁;Ashworthら(2006年)Nature 441巻:656~659頁;Paquesら(2007年)Current Gene Therapy 7巻:49~66頁;米国特許出願公開第20070117128号を参照のこと。
【0098】
他の実施形態ではDNA結合ドメインは、植物病原体Xanthomonas(Bochら、(2009年)Science 326巻:1509~1512頁ならびにMoscouおよびBogdanove、(2009年)Science 326巻:1501頁を参照)ならびにRalstonia(Heuerら(2007年)Applied and Environmental Microbiology 73巻(13号):4379~4384頁を参照);米国特許出願第20110301073号および第20110145940号由来のものに類似するTALエフェクター由来の工学技術で作製されたドメインを含む。Xanthomonas属の植物病原細菌は、重要な作物植物における多くの疾患を引き起こすことが公知である。Xanthomonasの病原性は、植物細胞に25を超える異なるエフェクタータンパク質を注入する、保存されたIII型分泌(T3S)系に依存する。植物転写活性化因子を模倣して植物トランスクリプトームを操作する、転写活性化因子様エフェクター(TALE)は、これらの注入されるタンパク質の1つである(Kayら(2007年)Science 318巻:648~651頁を参照のこと)。これらのタンパク質は、DNA結合ドメインおよび転写活性化ドメインを含有する。最も良く特徴付けられたTALEの1つは、Xanthomonas campestgris pv.VesicatoriaからのAvrBs3である(Bonasら(1989年)Mol Gen Genet 218巻:127~136頁およびWO2010079430を参照のこと)。TALEはタンデムリピートの集中型ドメイン(centralized domain)を含有し、各リピートは概ね34アミノ酸を含有し、それらはこれらのタンパク質のDNA結合特異性にとって重要である。さらに、それらは核局在化配列および酸性転写活性化ドメインを含有する(レビューについては、Schornack Sら(2006年)J Plant Physiol 163巻(3号):256~272頁を参照のこと)。さらに、植物病原細菌Ralstonia solanacearumでは、R.solanacearum生物型(biovar)1菌株GMI1000および生物型4菌株RS1000において、XanthomonasのAvrBs3ファミリーに相同性である、brg11およびhpx17と呼ばれる2つの遺伝子が見出された(Heuerら(2007年)Appl and Envir Micro 73巻(13号):4379~4384頁を参照のこと)。これらの遺伝子はヌクレオチド配列がお互いと98.9%同一であるが、hpx17の反復配列ドメインにおける1,575bpが欠失している点で異なる。しかし、両遺伝子生成物は、XanthomonasのAvrBs3ファミリータンパク質と40%未満の配列同一性を有する。
【0099】
これらのTALエフェクターの特異性は、タンデムリピートに見出される配列に依存する。反復配列は概ね102塩基対を含み、そのリピートはお互いと典型的にはに91~100%相同である(Bonasら、同上)。そのリピートの多型は通常12位および13位に位置し、12位および13位の超可変二残基(hypervariable diresidues)(リピート可変二残基またはRVD領域)の同一性とTALエフェクターの標的配列の中の近接したヌクレオチドの同一性の間に1対1の対応があるようである(MoscouおよびBogdanove、(2009年)Science 326巻:1501頁およびBochら(2009年)Science 326巻:1509~1512頁を参照のこと)。実験的に、12位および13位のHD配列(リピート可変二残基またはRVD領域)がシトシン(C)への結合をもたらし、NGがTに結合し、NIがA、C、GまたはTに、NNがAまたはGに結合し、INGがTに結合するように、これらのTALエフェクターのDNA認識のための天然のコードを決定した。これらのDNA結合リピートは、新しい配列と相互作用して、植物細胞中の非内因性レポーター遺伝子の発現を活性化することができる人工転写因子を作製するために、新しい組合せおよび多数のリピートを有するタンパク質に組み立てられた(Bochら、同上)。非定型RVDを伴うTALENを包含する、TALエフェクタードメインヌクレアーゼ融合物(TALEN)を得るために、工学技術で作製されたTALタンパク質をFokI切断半ドメインに連結した。例えば、米国特許第8,586,526号を参照のこと。
【0100】
一部の実施形態ではTALENは、エンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)切断ドメインまたは切断半ドメインを含む。他の実施形態ではTALEヌクレアーゼは、メガTALである。これらのメガTALヌクレアーゼは、TALE DNA結合ドメインおよびメガヌクレアーゼ切断ドメインを含む融合タンパク質である。メガヌクレアーゼ切断ドメインは、単量体として活性であり、活性のために二量体化を必要としない(Boisselら、(2013年)Nucl Acid Res:1~13頁、doi: 10.1093/nar/gkt1224を参照)。
【0101】
なおさらなる実施形態では、ヌクレアーゼは、コンパクトなTALENを含む。これらは、TALE DNA結合ドメインをTevIヌクレアーゼドメインに連結する単鎖融合タンパク質である。TALE DNA結合ドメインがTevIヌクレアーゼドメインに関してどこに配置されるかに応じて、融合タンパク質は、TALE領域によって局在化されたニッカーゼとして作用することができるか、または二本鎖切断を引き起こすことができる(Beurdeleyら(2013年)Nat Comm:1~8頁、DOI: 10.1038/ncomms2782を参照)。さらに、ヌクレアーゼドメインは、DNA結合機能性も示すことができる。任意のTALENを、1つまたは複数のメガTALEを含むさらなるTALEN(例えば、1つまたは複数のTALEN(cTALENまたはFokI-TALEN)と組み合わせて使用することができる。
【0102】
さらに、これらおよび他の参考文献に開示されるように、ジンクフィンガードメインおよび/またはマルチフィンガーのジンクフィンガータンパク質またはTALEは、例えば5またはそれより多くのアミノ酸長のリンカーを含む、任意の適するリンカー配列を使用して一緒に連結することができる。6またはそれより多くのアミノ酸長の例示的なリンカー配列については、米国特許第6,479,626号、第6,903,185号;および第7,153,949号も参照。本明細書に記載されるタンパク質には、そのタンパク質の個々のジンクフィンガーの間の適するリンカーの任意の組合せを含めることができる。さらに、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の増強は、例えば米国特許第6,794,136号に記載されている。
【0103】
ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、DNAに結合するシングルガイドRNA(sgRNA)を包含する、CRISPR/Casヌクレアーゼ系の一部である。例えば、米国特許第8,697,359号ならびに米国特許出願公開第20150056705号および20150159172号を参照のこと。その系のRNA構成成分をコードするCRISPR(クラスター化規則的散在性ショートパリンドロームリピート)遺伝子座、およびタンパク質をコードするcas(CRISPR関連)遺伝子座(Jansenら、2002年、Mol. Microbiol.43巻:1565~1575頁;Makarovaら、2002年、Nucleic Acids Res.30巻:482~496頁;Makarovaら、2006年、Biol. Direct 1巻:7頁;Haftら、2005年、PLoS Comput. Biol.1巻:e60頁)が、CRISPR/Casヌクレアーゼ系の遺伝子配列を構成する。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子の組合せ、ならびにCRISPR媒介核酸切断の特異性をプログラムすることが可能な非コードRNAエレメントを含有する。
【0104】
II型CRISPRは最も良く特徴付けられた系の1つであり、4つの逐次的ステップで標的化DNA二本鎖切断を実行する。先ず、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAが、CRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAはプレcrRNAの反復配列領域(repeat region)にハイブリダイズし、個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAへのプレcrRNAのプロセシングを媒介する。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体は、crRNA上のスペーサーとプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的DNAの上のプロトスペーサーとの間のワトソン-クリック塩基対合を介して、機能的ドメイン(例えば、Casなどのヌクレアーゼ)を標的DNAに誘導する、これは、標的認識のためのさらなる要件である。最後に、プロトスペーサーの中で二本鎖切断を引き起こすために、Cas9は標的DNAの切断を媒介する。CRISPR/Cas系の活性は、3つのステップで構成される:(i)「適応」と呼ばれるプロセスにおける、将来の攻撃を防止するためのCRISPRアレイへのエイリアンDNA配列の挿入、(ii)関連するタンパク質の発現、ならびにアレイの発現およびプロセシング、続いて(iii)エイリアン核酸に対するRNA媒介干渉。したがって、細菌細胞では、いわゆる「Cas」タンパク質のいくつかはCRISPR/Cas系の天然の機能に関与し、エイリアンDNAなどの挿入などの機能における役割を果たしている。
【0105】
ある特定の実施形態では、Casタンパク質は、天然に存在するCasタンパク質の「機能的誘導体」であってよい。天然配列ポリペプチドの「機能的誘導体」は、天然配列のポリペプチドと共通した定性的生物学的特性を有する化合物である。「機能的誘導体」には、天然配列の断片、ならびに天然配列ポリペプチドの誘導体およびその断片が限定されずに含まれるが、ただし、それらは対応する天然配列ポリペプチドと共通する生物学的活性を有する。本明細書で企図される生物学的活性は、DNA基質を断片に加水分解する機能的誘導体の能力である。用語「誘導体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアント、共有結合性改変および誘導体Casタンパク質などのその融合物を包含する。Casポリペプチドの適する誘導体またはその断片には、Casタンパク質の変異体、融合物、共有結合性改変またはそれらの断片が限定されずに含まれる。Casタンパク質またはその断片、ならびにCasタンパク質の誘導体またはその断片を含むCasタンパク質は、細胞から得ることができるか、または化学的に合成するか、もしくはこれらの2つの手順の組合せによって得ることができる。細胞は、Casタンパク質を天然に産生する細胞、または、Casタンパク質を天然に産生し、内因性Casタンパク質をより高い発現レベルで産生するように遺伝子操作されているか、または、内因性Casと同じであるか異なるCasをコードする、外因的に導入される核酸からCasタンパク質を産生するように遺伝子操作されている細胞であってよい。一部の場合には、細胞はCasタンパク質を天然に産生せず、Casタンパク質を産生するように遺伝子操作される。一部の実施形態ではCasタンパク質は、AAVベクターを介した送達のための小さなCas9オルソログである(Ranら(2015年)Nature 510巻、186頁)。
【0106】
一部の実施形態では、DNA結合ドメインは、TtAgo系の一部である(Swartsら、同上;Shengら、同上を参照のこと)。真核生物では、遺伝子サイレンシングはアルゴノート(Ago)ファミリーのタンパク質によって媒介される。このパラダイムでは、Agoは小さい(19~31nt)RNAに結合する。このタンパク質-RNAサイレンシング複合体は、小RNAと標的の間のワトソン-クリック型塩基対を通して標的RNAを認識し、標的RNAをエンドヌクレアーゼ的分解で(endonucleolytically)切断する(Vogel(2014年)Science 344巻:972~973頁)。対照的に、原核生物のAgoタンパク質は小さい一本鎖DNA断片に結合し、外来の(しばしばウイルスの)DNAを検出し、除去する機能をおそらく果たす(Yuanら、(2005年)Mol. Cell 19巻、405頁;Olovnikovら、(2013年)Mol. Cell 51巻、594頁;Swartsら、同上)。例示的な原核生物Agoタンパク質には、Aquifex aeolicus、Rhodobacter sphaeroidesおよびThermus thermophilusからのものが含まれる。
【0107】
最も良く特徴付けられた原核生物Agoタンパク質の1つは、T.thermophilusからのものである(TtAgo;Swartsら、同上)。TtAgoは、5’リン酸基で15ntまたは13~25ntの一本鎖DNA断片と会合する。TtAgoに結合するこの「ガイドDNA」は、タンパク質-DNA複合体がDNAの第三者分子中のワトソン-クリック相補的DNA配列に結合するように誘導する役目をする。これらのガイドDNA中の配列情報が標的DNAの同定を可能にしたら、TtAgo-ガイドDNA複合体は標的DNAを切断する。そのような機構は、その標的DNAに結合する間、TtAgo-ガイドDNA複合体の構造によっても支持される(G. Shengら、同上)。Rhodobacter sphaeroidesからのAgo(RsAgo)は、類似の特性を有する(Olivnikovら、同上)。
【0108】
任意のDNA配列の外因性ガイドDNAを、TtAgoタンパク質にロードすることができる(Swartsら、同上)。TtAgo切断の特異性はガイドDNAによって方向づけられるので、外因性の、調査者によって指定されたガイドDNAで形成されるTtAgo-DNA複合体は、したがって、TtAgo標的DNA切断を相補的な調査者によって指定された標的DNAに導く。この様に、DNAにおいて標的化二本鎖切断を生じさせることができる。TtAgo-ガイドDNA系(または、他の生物体からのオルソログのAgo-ガイドDNA系)の使用は、細胞の中でゲノムDNAの標的化切断を可能にする。そのような切断は、一本鎖または二本鎖であってよい。哺乳動物のゲノムDNAの切断のために、哺乳動物細胞での発現のために最適化されるバージョンのTtAgoコドンを使用するのが好ましいであろう。さらに、in vitroで形成されるTtAgo-DNA複合体で細胞を処理することが好ましい場合があり、ここで、TtAgoタンパク質は細胞貫通性ペプチドに融合される。さらに、37℃で改善された活性を有するように変異誘発を通して変更された、TtAgoタンパク質のバージョンを使用することが好ましい場合がある。Ago-RNA媒介DNA切断は、遺伝子ノックアウト、標的化遺伝子付加、遺伝子補正、DNA切断の活用のための当技術分野で標準の技術を使用した標的化遺伝子欠失を含む転帰の一式(a panopoly of outcomes)に影響をもたらすために使用できた。
【0109】
したがって任意のDNA結合ドメインを使用することができる。
【0110】
融合分子
本明細書に記載されるDNA結合ドメイン(例えば、ZFPまたはTALE、単一ガイドRNAなどのCRISPR/Cas構成成分)を含み異種制御(機能的)ドメイン(またはその機能性断片)と会合する融合分子も提供される。共通ドメインには、例えば、転写因子ドメイン(活性化因子、抑制因子、共活性化因子、共抑制因子)、サイレンサー、オンコジーン(例えば、myc、jun、fos、myb、max、mad、rel、ets、bcl、myb、mosファミリーメンバーなど);DNA修復酵素およびそれらの関連因子およびモディファイヤー;DNA再編成酵素およびそれらの関連因子およびモディファイヤー;クロマチン関連タンパク質およびそれらのモディファイヤー(例えばキナーゼ、アセチラーゼおよび脱アセチル化酵素);ならびにDNA改変酵素(例えば、メチル基転移酵素、トポイソメラーゼ、ヘリカーゼ、リガーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ポリメラーゼ、エンドヌクレアーゼ)およびそれらの関連因子およびモディファイヤーが含まれる。そのような融合分子には、本明細書に記載されるDNA結合ドメインを含む転写因子および転写制御ドメインならびにDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼおよび1つまたは複数のヌクレアーゼドメインが含まれる。
【0111】
活性化を達成するために適するドメイン(転写活性化ドメイン)には、HSV VP16活性化ドメイン(例えばHagmannら、J. Virol. 71巻、5952~5962頁(1997年)を参照)核内ホルモン受容体(例えばTorchiaら、Curr. Opin. Cell. Biol. 10巻:373~383頁(1998年)を参照);核内因子カッパBのp65サブユニット(Bitko & Barik、J. Virol. 72巻:5610~5618頁(1998年)およびDoyle & Hunt、Neuroreport 8巻:2937~2942頁(1997年))、Liuら、Cancer Gene Ther. 5巻:3~28頁(1998年))、またはVP64などの人工キメラ機能的ドメイン(Beerliら、(1998年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95巻:14623~33頁)、およびデグロン(Molinariら、(1999年)EMBO J. 18巻、6439~6447頁)が含まれる。さらなる例示的活性化ドメインには、Oct 1、Oct-2A、Sp1、AP-2およびCTF1(Seipelら、EMBO J. 11巻、4961~4968頁(1992年)ならびにp300、CBP、PCAF、SRC1 PvALF、AtHD2AおよびERF-2が含まれる。例えばRobyrら(2000年)Mol. Endocrinol. 14巻:329~347頁、Collingwoodら(1999年)J. Mol. Endocrinol. 23巻:255~275頁、Leoら(2000年)Gene 245巻:1~11頁、Manteuffel-Cymborowska (1999年)Acta Biochim. Pol. 46巻:77~89頁、McKennaら(1999年)J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 69巻:3~12頁、Malikら(2000年)Trends Biochem. Sci. 25巻:277~283頁およびLemonら(1999年)Curr. Opin. Genet. Dev. 9巻:499~504頁を参照。さらなる例示的活性化ドメインには、OsGAI、HALF-1、C1、AP1、ARF-5、-6、-7および-8、CPRF1、CPRF4、MYC-RP/GPならびにTRAB1が限定されずに含まれる。例えばOgawaら(2000年)Gene 245巻:21~29頁、Okanamiら(1996年)Genes Cells 1巻:87~99頁、Goffら(1991年)Genes Dev. 5巻:298~309頁、Choら(1999年)Plant Mol. Biol. 40巻:419~429頁、Ulmasonら(1999年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96巻:5844~5849頁、Sprenger-Hausselsら(2000年)Plant J. 22巻:1~8頁、Gongら(1999年)Plant Mol. Biol. 41巻:33~44頁およびHoboら(1999年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96巻:15,348~15,353頁を参照。
【0112】
DNA結合ドメインと機能的ドメインとの間の融合タンパク質(またはそれをコードする核酸)形成において、活性化ドメインまたは活性化ドメインと相互作用する分子のいずれかが機能的ドメインとして好適であることは、当業者に明らかである。本質的に、活性化複合体および/または活性化活性(例えば、ヒストンアセチル化など)を標的遺伝子にリクルートすることが可能な任意の分子は、融合タンパク質の活性化ドメインとして有用である。融合分子での機能的ドメインとしての使用のために適する、インシュレータードメイン、局在性ドメインならびに、ISWI含有ドメインなどのクロマチンリモデリングタンパク質および/またはメチル結合ドメインタンパク質は、例えば米国特許第7,053,264号において記載されている。
【0113】
例示的抑制ドメインには、KRAB A/B、KOX、TGFベータ誘導性初期遺伝子(TIEG)、v-erbA、SID、MBD2、MBD3、DNMTファミリーのメンバー(例えばDNMT1、DNMT3A、DNMT3B)、RbおよびMeCP2が限定されずに含まれる。例えばBirdら(1999年)Cell 99巻:451~454頁、Tylerら(1999年)Cell 99巻:443~446頁、Knoepflerら(1999年)Cell 99巻:447~450頁およびRobertsonら(2000年)Nature Genet. 25巻:338~342頁を参照。さらなる例示的抑制ドメインには、ROM2およびAtHD2Aが限定されずに含まれる。例えばChemら(1996年)Plant Cell 8巻:305~321頁およびWuら(2000年)Plant J. 22巻:19~27頁を参照。
【0114】
融合分子は、当業者に周知であるクローニングおよび生化学的コンジュゲーションの方法によって構築される。融合分子は、DNA結合ドメイン(例えば、ZFP、TALE、sgRNA)および機能的ドメイン(例えば、転写活性化または抑制ドメイン)を含む。融合分子は、核局在化シグナル(例えばSV40中型T抗原(SV40 medium T-antigen)由来のものなど)およびエピトープタグ(例えばFLAGおよびヘマグルチニンなど)も任意選択で含む。融合タンパク質(およびそれらをコードする核酸)は、翻訳リーディングフレームが融合物の構成成分内で保存されるように設計される。
【0115】
一方が機能的ドメイン(またはその機能性断片)と、他方が非タンパク質DNA結合ドメイン(例えば、抗生物質、干渉物質、副溝バインダー、核酸)のポリペプチド構成成分の間の融合は、当業者に公知の生化学コンジュゲーションの方法によって構築される。例えばthe Pierce Chemical Company (Rockford、IL) Catalogueを参照。副溝バインダーとポリペプチドとの間の融合を作製するための方法および組成物が、記載されている。Mappら(2000年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97巻:3930~3935頁。さらにCRISPR/Cas系の単一ガイドRNAは、活性転写制御因子およびヌクレアーゼを形成するように機能的ドメインと会合する。
【0116】
ある特定の実施形態では標的部位は、細胞性クロマチンの到達可能な領域中に存在する。到達可能領域は、例えば米国特許第7,217,509号および第7,923,542号に記載の通り決定することができる。標的部位が細胞性クロマチンの到達可能領域に存在しない場合、1つまたは複数の到達可能領域を、米国特許第7,785,792号および第8,071,370号に記載の通り生成することができる。さらなる実施形態では融合分子のDNA結合ドメインは、その標的部位が到達可能領域中にあるかどうかに関わらず、細胞性クロマチンに結合することができる。例えばそのようなDNA結合ドメインは、リンカーDNAおよび/またはヌクレオソームDNAに結合可能である。この種類の「先駆」DNA結合ドメインの例は、ある特定のステロイド受容体において、および肝細胞核因子3(HNF3)において見出される(Cordingleyら(1987年)Cell 48巻:261~270頁、Pinaら(1990年)Cell 60巻:719~731頁およびCirilloら(1998年)EMBO J. 17巻:244~254頁)。
【0117】
融合分子は、当業者に公知である通り薬学的に許容されるキャリアを用いて製剤化することができる。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版、1985年ならびに米国特許第6,453,242号および第6,534,261号を参照。
【0118】
融合分子の機能的構成成分/ドメインは、融合分子がそのDNA結合ドメインを介して標的配列に結合すると、遺伝子の転写に影響を与えることが可能である種々の異なる構成成分のいずれかから選択することができる。それにより機能的構成成分には、活性化因子、抑制因子、共活性化因子、共抑制因子およびサイレンサーなどの種々の転写因子ドメインが限定されずに含まれる。
【0119】
さらなる例示的機能的ドメインは、例えば米国特許第6,534,261号および第6,933,113号に開示されている。
【0120】
外因性小分子またはリガンドによって制御される機能的ドメインはまた、選択することができる。例えばRheoSwitch(登録商標)技術を用いることができ、ここで機能的ドメインは、外部RheoChem(商標)リガンド(例えばUS20090136465を参照)の存在下でその活性なコンフォーメーションだけを想定する。したがってZFPは、調節可能な機能的ドメインに作動可能に連結でき、生じたZFP-TFの活性は、外部リガンドによって調節される。
【0121】
ヌクレアーゼ
ある特定の実施形態では融合分子は、切断(ヌクレアーゼ)ドメインと会合しているDNA結合ドメインを含む。そのように遺伝子改変は、ヌクレアーゼ、例えば工学技術で作製されたヌクレアーゼを使用して達成することができる。工学技術で作製されるヌクレアーゼ技術は、天然に存在するDNA結合タンパク質の工学技術に基づいている。例えば、目的に合わせたDNA結合特異性を有するホーミングエンドヌクレアーゼの工学技術は記載されている。Chamesら(2005年)Nucleic Acids Res 33巻(20号):e178頁、Arnouldら(2006年)J. Mol. Biol. 355巻:443~458頁。さらに、ZFPの工学技術も記載されている。例えば米国特許第6,534,261号、第6,607,882号、第6,824,978号、第6,979,539号、第6,933,113号、第7,163,824号および第7,013,219号を参照。
【0122】
さらにZFPおよび/またはTALEは、ZFNおよびTALEN-その工学技術で作製された(ZFPまたはTALE)DNA結合ドメインを通じてその所期の核酸標的を認識することができ、ヌクレアーゼ活性を介してDNA結合部位近くでDNAが切断されるようにする機能的実体、を作り出すようにヌクレアーゼドメインに融合することができる。
【0123】
したがって本明細書に記載される方法および組成物は、広範に適用可能であり、目的の任意のヌクレアーゼを含むことができる。ヌクレアーゼの非限定的例には、メガヌクレアーゼ、TALENおよびジンクフィンガーヌクレアーゼが含まれる。ヌクレアーゼは、異種DNA結合および切断ドメイン(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、異種切断ドメインを含むメガヌクレアーゼDNA結合ドメイン)を含むことができる、または代替的に、天然に存在するヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、選択された標的部位に結合するように変更することができる(例えば、コグネイト結合部位とは異なる部位に結合するように工学技術で作製されたメガヌクレアーゼ)。
【0124】
本明細書に記載されるいずれのヌクレアーゼでも、ヌクレアーゼは、TALENとも呼ばれる、工学技術で作製されたTALE DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼドメイン(例えば、エンドヌクレアーゼおよび/またはメガヌクレアーゼドメイン)を含むことができる。使用者が選択した標的配列との堅牢な、部位特異的相互作用のためにこれらのTALENタンパク質を工学技術で作製するための方法および組成物は公開されている(米国特許第8,586,526号を参照)。一部の実施形態ではTALENは、エンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)切断ドメインまたは切断半ドメインを含む。他の実施形態ではTALEヌクレアーゼは、メガTALである。これらのメガTALヌクレアーゼは、TALE DNA結合ドメインおよびメガヌクレアーゼ切断ドメインを含む融合タンパク質である。メガヌクレアーゼ切断ドメインは、単量体として活性であり、活性のために二量体化を必要としない(Boisselら、(2013年)Nucl Acid Res:1~13頁、doi: 10.1093/nar/gkt1224を参照)。さらにヌクレアーゼドメインは、DNA結合機能性を示すこともできる。
【0125】
なおさらなる実施形態では、ヌクレアーゼは、コンパクトなTALEN(cTALEN)を含む。これらは、TALE DNA結合ドメインをTevIヌクレアーゼドメインに連結する単鎖融合タンパク質である。融合タンパク質は、TALE DNA結合ドメインがTevIヌクレアーゼドメインに関してどこに配置されるかに応じて、TALE領域によって局在化されたニッカーゼとして作用することができるか、または二本鎖切断を引き起こすことができる(Beurdeleyら(2013年)Nat Comm:1~8頁、DOI: 10.1038/ncomms2782を参照)。任意のTALENを、さらなるTALEN(例えば、1つもしくは複数のメガTALによる1つもしくは複数のTALEN(cTALENまたはFokI-TALEN))または他のDNA切断酵素と組み合わせて使用することができる。
【0126】
ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼ(ホーミングエンドヌクレアーゼ)または切断活性を示すその一部を含む。天然に存在するメガヌクレアーゼは15~40塩基対の切断部位を認識し、4つのファミリー:LAGLIDADGファミリー、GIY-YIGファミリー、His-CystボックスファミリーおよびHNHファミリーに一般的に分類される。例示的なホーミングエンドヌクレアーゼには、I-SceI、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevIIおよびI-TevIIIが含まれる。それらの認識配列は公知である。米国特許第5,420,032号;米国特許第6,833,252号;Belfortら(1997年)Nucleic Acids Res.25巻:3379~3388頁;Dujonら(1989年)Gene 82巻:115~118頁;Perlerら(1994年)Nucleic Acids Res.22巻、1125~1127頁;Jasin(1996年)Trends Genet.12巻:224~228頁;Gimbleら(1996年)J. Mol. Biol.263巻:163~180頁;Argastら(1998年)J. Mol. Biol.280巻:345~353頁およびNew England Biolabsカタログも参照。
【0127】
天然に存在するメガヌクレアーゼ由来、主にLAGLIDADGファミリー由来のDNA結合ドメインは、植物、酵母、Drosophila、哺乳動物細胞およびマウスにおける部位特異的ゲノム改変を促進するために使用されているが、このアプローチは、メガヌクレアーゼ認識配列を保存するいずれかの相同性遺伝子の改変(Monetら(1999年)、Biochem. Biophysics. Res. Common. 255巻:88~93頁)または認識配列が導入される工学技術で作製される前のゲノムへの改変(Routeら(1994年)、Mol. Cell. Biol. 14巻:8096~106頁、Chiltonら(2003年)、Plant Physiology. 133巻:956~65頁、Puchtaら(1996年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93巻:5055~60頁、Rongら(2002年)、Genes Dev. 16巻:1568~81頁、Goubleら(2006年)、J. Gene Med. 8巻(5号):616~622頁)に限定されている。したがって、医学的にまたは生物工学的に関連する部位で新規結合特異性を示すメガヌクレアーゼを工学技術で作製する試みがなされている(Porteusら(2005年)、Nat. Biotechnol. 23巻:967~73頁、Sussmanら(2004年)、J. Mol. Biol. 342巻:31~41頁、Epinatら(2003年)、Nucleic Acids Res. 31巻:2952~62頁、Chevalierら(2002年)Molec. Cell 10巻:895~905頁、Epinatら(2003年)Nucleic Acids Res. 31巻:2952~2962頁、Ashworthら(2006年)Nature 441巻:656~659頁、Paquesら(2007年)Current Gene Therapy 7巻:49~66頁、米国特許出願公開第20070117128号、第20060206949号、第20060153826号、第20060078552号および第20040002092)。さらに、メガヌクレアーゼ由来の天然に存在するまたは工学技術で作製されたDNA結合ドメインは、異種ヌクレアーゼ由来の切断ドメイン(例えば、FokI)と作動可能に連結することができる、および/またはメガヌクレアーゼ由来の切断ドメインは異種DNA結合ドメイン(例えば、ZFPまたはTALE)と作動可能に連結することができる。
【0128】
他の実施形態では、ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)またはTALE DNA結合ドメインヌクレアーゼ融合物(TALEN)である。ZFNおよびTALENは、選り抜きの遺伝子中の標的部位に結合するように工学技術で作製されたDNA結合ドメイン(ジンクフィンガータンパク質またはTALE DNA結合ドメイン)および切断ドメインまたは切断半ドメイン(例えば、本明細書に記載される制限および/またはメガヌクレアーゼ由来)を含む。
【0129】
上で詳述されているように、ジンクフィンガー結合ドメインおよびTALE DNA結合ドメインは、選り抜きの配列に結合するように工学技術で作製することができる。例えばBeerliら(2002年)Nature Biotechnol. 20巻:135~141頁、Paboら(2001年)Ann. Rev. Biochem. 70巻:313~340頁、Isalanら(2001年)Nature Biotechnol. 19巻:656~660頁、Segalら(2001年)Curr. Opin. Biotechnol. 12巻:632~637頁、Chooら(2000年)Curr. Opin. Struct. Biol. 10巻:411~416頁を参照。工学技術で作製されたジンクフィンガー結合ドメインまたはTALEタンパク質は、天然に存在するタンパク質と比較して、新規の結合特異性を有することができる。工学技術方法には、合理的な設計および様々な種類の選択が限定されずに含まれる。合理的な設計には、例えば、トリプレット(または、クアドルプレット)ヌクレオチド配列および個々の、ジンクフィンガーまたはTALEアミノ酸配列を含むデータベースを使用することが含まれ、ここで、各トリプレットまたはクアドルプレットヌクレオチド配列は、特定のトリプレットまたはクアドルプレット配列に結合するジンクフィンガーまたはTALE反復単位の1つまたは複数のアミノ酸配列と会合している。例えば、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,453,242号および第6,534,261号を参照。
【0130】
標的部位の選択;および融合タンパク質(および、それをコードするポリヌクレオチド)の設計および構築のための方法は当業者に公知であり、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれている、米国特許第7,888,121号および第8,409,861号に詳細に記載されている。
【0131】
さらに、これらおよび他の参考文献に開示されるように、ジンクフィンガードメイン、TALEおよび/またはマルチフィンガーのジンクフィンガータンパク質は、例えば5またはそれより多くのアミノ酸長のリンカーを含む、任意の適するリンカー配列を使用して一緒に連結することができる。長さが6またはそれより多くのアミノ酸の例示的なリンカー配列については、例えば、米国特許第6,479,626号;同第6,903,185号;および同第7,153,949号を参照のこと。本明細書に記載されるタンパク質には、タンパク質の個々のジンクフィンガーの間の適するリンカーの任意の組合せを含めることができる。米国特許第8,772,453号も参照されたい。
【0132】
それによりZFN、TALENおよび/またはメガヌクレアーゼなどのヌクレアーゼは、任意のDNA結合ドメインおよび任意のヌクレアーゼ(切断)ドメイン(切断ドメイン、切断半ドメイン)を含むことができる。上記したように、切断ドメインは、DNA結合ドメインに対して異種であってもよく、例として、ジンクフィンガーもしくはTALエフェクターDNA結合ドメインとヌクレアーゼ由来切断ドメイン、またはメガヌクレアーゼDNA結合ドメインと異なるヌクレアーゼ由来の切断ドメインである。異種切断ドメインは、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。切断ドメインを誘導することができる例示的なエンドヌクレアーゼとしては、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼが挙げられるがこれらに限定されない。例えば、2002~2003年のカタログ、New England Biolabs、Beverly、MA;およびBelfortら(1997年)Nucleic Acids Res.25巻:3379~3388頁を参照のこと。DNAを切断するさらなる酵素は公知である(例えば、S1ヌクレアーゼ;リョクトウヌクレアーゼ;膵臓のDNアーゼI;ミクロコッカルヌクレアーゼ;酵母HOエンドヌクレアーゼ;Linnら(編)Nucleases、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1993年も参照)。これらの酵素の1つまたは複数(または、それらの機能的断片)は、切断ドメインおよび切断半ドメインの供給源として使用することができる。
【0133】
同様に、上記のように、切断活性のために二量体化を必要とする切断半ドメインは、任意のヌクレアーゼまたはその部分に由来することができる。一般に、2つの融合タンパク質が切断半ドメインを含む場合は、該2つの融合タンパク質が切断のために必要とされる。あるいは、2つの切断半ドメインを含む単一のタンパク質を使用することができる。2つの切断半ドメインは同じエンドヌクレアーゼ(または、その機能的断片)に由来することができ、または、各切断半ドメインは異なるエンドヌクレアーゼ(または、その機能的断片)に由来することができる。さらに、2つの融合タンパク質のそれらのそれぞれの標的部位への結合が、切断半ドメインを、お互いとの空間配向に置き、切断半ドメインが、例えば二量体化によって機能的切断ドメインを形成することを可能にするように、2つの融合タンパク質のための標的部位が、好ましくはお互いに関して配置される。したがって、ある特定の実施形態では、標的部位の近端は、5~8ヌクレオチドまたは15~18ヌクレオチド分離している。しかし、任意の整数のヌクレオチドまたはヌクレオチド対が、2つの標的部位の間に介入することができる(例えば、2から50ヌクレオチド対、またはそれより多い)。一般に、切断部位は標的部位の間にあるが、切断部位から1~50塩基対の間(または、1~5、1~10および1~20塩基対を含むその間の任意の値)、1~100塩基対の間(または、その間の任意の値)、100~500塩基対の間(または、その間の任意の値)、500~1000塩基対の間(または、その間の任意の値)またはさらには1kb超を含む、切断部位から1またはそれより大きいキロベース離れて存在することができる。
【0134】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は多くの種に存在し、DNA(認識部位で)に配列特異的に結合すること、および結合部位またはその近くでDNAを切断することが可能である。ある特定の制限酵素(例えば、IIS型)は、認識部位から離れた部位でDNAを切断し、分離可能な結合ドメインおよび切断ドメインを有する。例えば、IIS型酵素Fok Iは、1本の鎖の上のその認識部位から9ヌクレオチドの位置、および他の鎖の上のその認識部位から13ヌクレオチドの位置で、DNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号;第5,436,150号および第5,487,994号;ならびにLiら(1992年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89巻:4275~4279頁;Liら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:2764~2768頁;Kimら(1994a)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91巻:883~887頁;Kimら(1994b)J. Biol. Chem.269巻:31,978~31,982頁を参照のこと。したがって、一実施形態では、融合タンパク質は、工学技術で作製されてもされなくてもよい、少なくとも1つのIIS型制限酵素からの切断ドメイン(または、切断半ドメイン)、および1つまたは複数のジンクフィンガー結合ドメインを含む。
【0135】
その切断ドメインは結合ドメインと分離できる例示的なIIS型制限酵素は、Fok Iである。この特定の酵素は、ダイマーとして活性である。Bitinaiteら(1998年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95巻:10,570~10,575頁。したがって、本開示のために、開示される融合タンパク質で使用されるFok I酵素の部分は、切断半ドメインと考えられる。したがって、ジンクフィンガー-Fok I融合物を使用した標的化二本鎖切断および/または細胞配列の標的化置き換えのために、各々Fok I切断半ドメインを含む2つの融合タンパク質を、触媒活性切断ドメインを再構成するために使用することができる。あるいは、ジンクフィンガー結合ドメインおよび2つのFokI切断半ドメインを含有する単一のポリペプチド分子を使用することもできる。ジンクフィンガー-FokI融合物を使用した標的化切断および標的化配列変更のパラメータは、この開示の他の場所で提供される。
【0136】
切断ドメインまたは切断半ドメインは、切断活性を保持する、または多量体化(例えば、二量体化)して機能的切断ドメインを形成する能力を保持するタンパク質の任意の部分であってよい。
【0137】
例示的なIIS型制限酵素は、その全体が本明細書に組み入れられる、国際公開WO07/014275に記載される。さらなる制限酵素も分離可能な結合ドメインおよび切断ドメインを含有し、これらは本開示によって企図される。例えば、Robertsら(2003年)Nucleic Acids Res.31巻:418~420頁を参照のこと。
【0138】
ある特定の実施形態では、切断ドメインは、例えば、その全ての開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第7,914,796号;同第8,034,598号および同第8,623,618号ならびに米国特許出願公開第20110201055号に記載される通り、ホモ二量体化を最小にするかまたは防止する1つまたは複数の工学技術で作製された切断半ドメイン(二量体化ドメイン変異体とも呼ばれる)を含む。Fok Iの446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537および538位のアミノ酸残基は、全て、Fok I切断半ドメインの二量体化に影響を与えるための標的である。
【0139】
絶対ヘテロダイマーを形成するFok Iの例示的な工学技術で作製された切断半ドメインは、第1の切断半ドメインがFok Iの490および538位のアミノ酸残基の変異を含み、第2の切断半ドメインがアミノ酸残基486および499の変異を含む対を含む。
【0140】
したがって、一実施形態では、490での変異はGlu(E)をLys(K)で置き換え;538での変異はIso(I)をLys(K)で置き換え;486での変異はGln(Q)をGlu(E)で置き換え;499位での変異はIso(I)をLys(K)で置き換える。具体的には、本明細書に記載される工学技術で作製された切断半ドメインは、1つの切断半ドメインの490位(E→K)および538位(I→K)を変異させて、「E490K:I538K」と呼ばれる工学技術で作製された切断半ドメインを産生すること、ならびに、別の切断半ドメインの486位(Q→E)および499位(I→L)を変異させて、「Q486E:I499L」と呼ばれる工学技術で作製された切断半ドメインを産生することによって調製された。本明細書に記載される工学技術で作製された切断半ドメインは、異常な切断を最小にするかまたは無効にする絶対ヘテロダイマー変異体である。例えば、その開示は全ての目的のために参照によりその全体が組み込まれる、米国特許第7,914,796号および同第8,034,598号を参照のこと。特定の実施形態では、工学技術で作製された切断半ドメインは、(野生型FokIに対して番号付けされる)486位、499位および496位における変異、例えば、486位の野生型Gln(Q)残基をGlu(E)残基で、499位の野生型Iso(I)残基をLeu(L)残基で、および496位の野生型Asn(N)残基をAsp(D)またはGlu(E)残基で置き換える変異(それぞれ、「ELD」ドメインおよび「ELE」ドメインとも呼ばれる)を含む。他の実施形態では、工学技術で作製された切断半ドメインは、490位、538位および537位(野生型FokIに対して番号付けされる)における変異;例えば、例えば、490位の野生型Glu(E)残基をLys(K)残基で、538位の野生型Iso(I)残基をLys(K)残基で、および、537位の野生型His(H)残基をLys(K)残基またはArg(R)残基で置き換える変異(それぞれ、「KKK」ドメインおよび「KKR」ドメインとも呼ばれる)を含む。他の実施形態では、工学技術で作製された切断半ドメインは、490位および537位(野生型FokIに対して番号付けされる)における変異、例えば、490位の野生型Glu(E)残基をLys(K)残基で、および、537位の野生型His(H)残基をLys(K)残基またはArg(R)残基で置き換える変異(それぞれ、「KIK」ドメインおよび「KIR」ドメインとも呼ばれる)を含む。例えば、その開示は全ての目的のために参照によりその全体が組み込まれる、米国特許第7,914,796号;第8,034,598号および第8,623,618号を参照のこと。他の実施形態では、工学技術で作製された切断半ドメインは、「Sharkey」および/または「Sharkey」変異を含む(Guoら、(2010年)J. Mol. Biol.400巻(1号):96~107頁を参照のこと)。
【0141】
あるいは、ヌクレアーゼを、いわゆる「スプリット酵素」技術を使用して核酸標的部位にin vivoで組み立てることができる(例えば、米国特許出願公開第20090068164号を参照のこと)。そのようなスプリット酵素の構成成分は、別個の発現構築物の上で発現させることができるか、または1つのオープンリーディングフレームの中に連結させることもでき、ここで、個々の構成成分は、例えば、自己切断2AペプチドまたはIRES配列によって分離される。構成成分は、個々のジンクフィンガー結合ドメインまたはメガヌクレアーゼ核酸結合ドメインのドメインであってよい。
【0142】
ヌクレアーゼ(例えば、ZFNおよび/またはTALEN)は、使用前に、例えば米国特許第8,563,314号に記載されるとおりに、酵母をベースとした染色体系において、活性についてスクリーニングすることができる。
【0143】
ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼはCRISPR/Cas系を含む。系のRNA構成成分をコードするCRISPR(規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列)遺伝子座、およびタンパク質をコードするCas(CRISPR関連)遺伝子座(Jansenら、2002年、Mol. Microbiol.43巻:1565~1575頁;Makarovaら、2002年、Nucleic Acids Res.30巻:482~496頁;Makarovaら、2006年、Biol. Direct 1巻:7頁;Haftら、2005年、PLoS Comput. Biol.1巻:e60頁)が、CRISPR/Casヌクレアーゼ系の遺伝子配列を構成する。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子の組合せ、ならびにCRISPR媒介核酸切断の特異性をプログラムすることが可能な非コードRNAエレメントを含有する。
【0144】
II型CRISPRは最も良く特徴付けられた系の1つであり、4つの逐次的ステップで標的化DNA二本鎖切断を実行する。先ず、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAが、CRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAはプレcrRNAのリピート領域にハイブリダイズし、個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAへのプレcrRNAのプロセシングを媒介する。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体は、crRNA上のスペーサーとプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的DNA上のプロトスペーサーとの間のワトソン-クリック塩基対合を通して、Cas9を標的DNAに向けるが、これは、標的認識のためのさらなる要件である。最後に、Cas9は標的DNAの切断を媒介して、プロトスペーサー内に二本鎖切断を生じさせる。CRISPR/Cas系の活性は、3つのステップで構成される:(i)「適応」と呼ばれるプロセスにおける、将来の攻撃を防止するためのCRISPRアレイへのエイリアンDNA配列の挿入、(ii)関連するタンパク質の発現、ならびにアレイの発現およびプロセシング、続いて(iii)エイリアン核酸に対するRNA媒介干渉。したがって、細菌細胞では、いわゆる「Cas」タンパク質のいくつかはCRISPR/Cas系の天然の機能に関与し、エイリアンDNAの挿入などの機能における役割を果たすなどである。
【0145】
一部の実施形態では、CRISPR-Cpf1系が使用される。Francisella sppにおいて同定されたCRISPR-Cpf1系は、ヒト細胞において堅牢なDNA干渉を媒介するクラス2CRISPR-Cas系である。機能は保存されているが、Cpf1とCas9とは、それらのガイドRNAおよび基質特異性を含む多くの態様において異なっている(Fagerlundら、(2015年)Genom Bio 16巻:251頁を参照)。Cas9とCpf1タンパク質との間の主な差異は、Cpf1がtracrRNAを利用せず、そのためcrRNAのみを必要とすることである。FnCpf1 crRNAは、42~44ヌクレオチド長(19ヌクレオチド反復および23~25ヌクレオチドスペーサー)であり、二次構造を保持する配列変化を許容する単一のステムループを含有する。さらにCpf1 crRNAは、Cas9によって必要とされる工学技術で作製されたsgRNAより約100ヌクレオチド超有意に短く、FnCpflについてのPAM要件は置換鎖(displaced strand)上の5’-TTN-3’および5’-CTA-3’である。Cas9およびCpf1の両方は、標的DNA中に二重鎖切断を作製するが、Cas9はガイドRNAのシード配列内に平滑末端切断を作製するためにそのRuvC様ドメインおよびHNH様ドメインを使用する一方で、Cpf1はシードの外側に互い違いの切断を産生するためにRuvC様ドメインを使用する。Cpf1が重要なシード領域から離れて、互い違いの切断を作製することから、NHEJは標的部位を破壊せず、したがってCpf1が、所望のHDR組換え事象が生じるまで同じ部位を切断し続けることができることを確実にする。それにより、本明細書に記載される方法および組成物において、用語「Cas」がCas9およびCpf1タンパク質の両方を含むことが理解される。それにより、本明細書において使用される「CRISPR/Casシステム」は、ヌクレアーゼおよび/または転写因子システムの両方を含む、CRISPR/Casおよび/またはCRISPR/Cpf1システムの両方を指す。
【0146】
ある特定の実施形態では、Casタンパク質は、天然に存在するCasタンパク質の「機能的誘導体」であってよい。天然配列ポリペプチドの「機能的誘導体」は、天然配列ポリペプチドと共通した定性的生物学的特性を有する化合物である。「機能的誘導体」には、天然配列の断片、天然配列ポリペプチドの誘導体およびその断片が限定されずに含まれるが、ただし、それらは対応する天然配列ポリペプチドと共通する生物学的活性を有する。本明細書で企図される生物学的活性は、DNA基質を断片に加水分解する機能的誘導体の能力である。用語「誘導体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアント、共有結合性改変物およびその融合物を包含する。Casポリペプチドの適する誘導体またはその断片には、Casタンパク質の変異体、融合物、共有結合性改変物またはその断片が限定されずに含まれる。Casタンパク質またはその断片、ならびにCasタンパク質の誘導体またはその断片を含むCasタンパク質は、細胞から、または化学して得ることができるか、あるいはこれらの2つの手順を組み合わせて得ることができる。細胞は、Casタンパク質を天然に産生する細胞、または、Casタンパク質を天然に産生し、内因性Casタンパク質をより高い発現レベルで産生するように遺伝子操作されているか、もしくは、内因性Casと同じであるかまたは異なるCasをコードする、外因的に導入された核酸からCasタンパク質を産生するように遺伝子操作されている細胞であってよい。一部の場合には、細胞はCasタンパク質を天然に産生せず、Casタンパク質を産生するように遺伝子操作される。
【0147】
TCR遺伝子および他の遺伝子を標的化する例示的CRISPR/Casヌクレアーゼ系は、例えば米国特許出願公開第20150056705号に開示されている。
【0148】
ヌクレアーゼ(複数可)は、標的部位で1つまたは複数の2本鎖および/または1本鎖切断を作製することができる。ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、触媒として不活性な切断ドメインを含む(例えば、FokIおよび/またはCasタンパク質)。例えば、米国特許第9,200,266号、第8,703,489号およびGuillingerら(2014年)Nature Biotech. 32巻(6号):577~582頁を参照。触媒として不活性な切断ドメインは、触媒として活性なドメインと組み合わせて1本鎖切断を作製するためのニッカーゼとして作用することができる。したがって、2つのニッカーゼは特異的領域において2本鎖切断を作製するために組み合わせて使用することができる。さらなるニッカーゼも、当技術分野において公知であり、例えばMcCafferyら(2016年)Nucleic Acids Res. 44巻(2号):e11頁. doi: 10.1093/nar/gkv878. Epub 2015 Oct 19において公知である。
【0149】
送達
タンパク質(例えば、転写因子、ヌクレアーゼ、TCRおよびCAR分子)、ポリヌクレオチドならびに/または本明細書に記載されるタンパク質および/もしくポリヌクレオチドを含む組成物は、例えばタンパク質および/またはmRNA構成成分の注射によってを含む任意の適する手段によって標的細胞に送達することができる。
【0150】
適する細胞には、真核および原核細胞ならびに/または細胞株が限定されずに含まれる。そのような細胞またはそのような細胞から生成された細胞株の非限定的例は、T細胞、COS、CHO(例えば、CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11、CHO-DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)およびperC6細胞、ならびにSpodoptera fugiperda(Sf)などの昆虫細胞、またはSaccharomyces、PichiaおよびSchizosaccharomycesなどの真菌細胞を含む。ある特定の実施形態では細胞株は、CHO-K1、MDCKまたはHEK293細胞株である。適する細胞は、例として、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、造血幹細胞、ニューロン幹細胞および間葉系幹細胞などの幹細胞も含む。
【0151】
本明細書に記載されるDNA結合ドメインを含むタンパク質を送達する方法は、例えば、その全ての開示は参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第6,453,242号;同第6,503,717号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,607,882号;同第6,689,558号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;および同第7,163,824号に記載される。
【0152】
DNA結合ドメインおよび本明細書に記載されるこれらのDNA結合ドメインを含む融合タンパク質も、1つまたは複数のDNA結合タンパク質をコードする配列を含有するベクターを使用して送達することができる。さらに、さらなる核酸(例えば、ドナー)もこれらのベクターを介して送達することができる。プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター;ヘルペスウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターなどを限定されずに含む、任意のベクター系を使用することができる。参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第6,534,261号;同第6,607,882号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;および同第7,163,824号も参照。さらに、これらのベクターのいずれもが1つもしくは複数のDNA結合タンパク質コード配列および/またはさらなる核酸を必要に応じて含むことができることは明らかである。それにより、本明細書に記載される1つまたは複数のDNA結合タンパク質、および必要に応じてさらなるDNAが細胞に導入される場合、それらは同じベクター上でまたは異なるベクター上で運ばれ得る。複数のベクターが使用される場合、各ベクターは1つまたは複数のDNA結合タンパク質をコードする配列および所望のさらなる核酸を含むことができる。
【0153】
従来のウイルスおよび非ウイルスベースの遺伝子移行法は、工学技術で作製されたDNA結合タンパク質をコードする核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)および標的組織に導入するために、ならびに所望のさらなるヌクレオチド配列を共導入するために使用することができる。そのような方法は、核酸(例えば、DNA結合タンパク質および/またはドナーをコードする)を細胞にin vitro投与するために使用できる。ある特定の実施形態では、核酸は、in vivoまたはex vivo遺伝子治療用途のために投与される。非ウイルス性のベクター送達系には、DNAプラスミド、裸の核酸、およびリポソーム、脂質ナノ粒子またはポロキサマーなどの送達ビヒクルと複合体を形成した核酸が含まれる。ウイルスベクター送達系にはDNAウイルスおよびRNAウイルスが含まれ、それらは、細胞への送達後にエピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有する。遺伝子治療手順のレビューについては、Anderson、Science 256巻:808~813頁(1992年);NabelおよびFelgner、TIBTECH 11巻:211~217頁(1993年);MitaniおよびCaskey、TIBTECH 11巻:162~166頁(1993年);Dillon、TIBTECH 11巻:167~175頁(1993年);Miller、Nature 357巻:455~460頁(1992年);Van Brunt、Biotechnology 6巻(10号):1149~1154頁(1988年);Vigne、Restorative Neurology and Neuroscience 8巻:35~36頁(1995年);KremerおよびPerricaudet、British Medical Bulletin 51巻(1号):31~44頁(1995年);Haddadaら、Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Boehm(編)(1995年);およびYuら、Gene Therapy 1巻:13~26頁(1994年)を参照のこと。
【0154】
核酸の非ウイルス性の送達方法には、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、バイオリスティック、ビロソーム、リポソーム、脂質ナノ粒子、免疫リポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、裸のDNA、mRNA、人工ビリオンおよび作用物質によって強化されたDNAの取込みが含まれる。例えばSonitron 2000システム(Rich-Mar)を使用するソノポレーションを、核酸の送達のために使用することもできる。好ましい実施形態では、1つまたは複数の核酸は、mRNAとして送達される。同様に好ましいのは、翻訳効率の増加のためおよび/またはmRNA安定性のためのキャッピングされたmRNAの使用である。特に好ましいのは、ARCA(抗リバースキャップ類似物)キャップまたはそのバリアントである。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,074,596号および第8,153,773号を参照。
【0155】
さらなる例示的な核酸送達系には、Amaxa Biosystems(Cologne、Germany)、Maxcyte,Inc.(Rockville、Maryland)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston、MA)およびCopernicus Therapeutics Inc.によって提供されるものが含まれる、(例えば、US6008336を参照のこと)。リポフェクションは、例えば、US5,049,386;US4,946,787;およびUS4,897,355に記載され、リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)、Lipofectin(商標)およびLipofectamine(商標)RNAiMAX))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションのために適するカチオン性および中性脂質には、Felgner、WO91/17424、WO91/16024のものが含まれる。送達は、細胞に対して(ex vivo投与)、または標的組織に対して(in vivo投与)であり得る。
【0156】
免疫脂質複合体などの標的化リポソームを含む脂質:核酸複合体の調製は、当業者に周知である(例えば、Crystal、Science 270巻:404~410頁(1995年);Blaeseら、Cancer Gene Ther.2巻:291~297頁(1995年);Behrら、Bioconjugate Chem.5巻:382~389頁(1994年);Remyら、Bioconjugate Chem.5巻:647~654頁(1994年);Gaoら、Gene Therapy 2巻:710~722頁(1995年);Ahmadら、Cancer Res.52巻:4817~4820頁(1992年);米国特許第4,186,183号、4,217,344号、4,235,871号、4,261,975号、4,485,054号、4,501,728号、4,774,085号、4,837,028号および4,946,787号を参照のこと)。
【0157】
送達のさらなる方法には、送達する核酸をEnGeneIC送達ビヒクル(EDV)にパッケージすることの使用が含まれる。これらのEDVは、二重特異的抗体の1つのアームが標的組織への特異性を有し、他方がEDVへの特異性を有する二重特異的抗体を使用して、標的組織に特異的に送達される。抗体はEDVを標的細胞表面に運び、次に、EDVはエンドサイトーシスによって細胞に運ばれる。細胞に入ると、内容物は放出される(MacDiarmidら(2009年)Nature Biotechnology 27巻(7号):643頁を参照されたい)。
【0158】
所望により、工学技術で作製されたDNA結合タンパク質、および/またはドナー(例えば、CARまたはACTR)をコードする核酸の送達のための、RNAウイルスベースのまたはDNAウイルスベースの系の使用は、体内の特異的細胞にウイルスを向かわせて、核にウイルスのペイロードを輸送するための高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者に直接的に(in vivoで)投与することができるか、または、それらは細胞をin vitroで処置するために使用することができ、改変された細胞は患者に(ex vivoで)投与される。核酸の送達のための従来のウイルスベースの系には、遺伝子導入のためのレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター、ワクシニアベクターおよび単純ヘルペスウイルスベクターが限定されずに含まれる。宿主ゲノムへの組込みは、レトロウイルス、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルス遺伝子導入方法で可能であり、挿入される導入遺伝子の長期発現をしばしばもたらす。さらに、多くの異なる細胞型および標的組織において、高い形質導入効率が観察された。
【0159】
外来のエンベロープタンパク質を組み込み、標的細胞の潜在的標的集団を拡張することによって、レトロウイルスの向性を変更することができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞を形質導入または感染させ、高いウイルス力価を一般的にもたらすことができるレトロウイルスベクターである。レトロウイルス遺伝子導入系の選択は、標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、最高6~10kbの外来配列のためのパッケージング能力を有するシス作用性ロングターミナルリピートで構成される。ベクターの複製およびパッケージングのために最小限のシス作用性LTRが十分であり、それらは次に、恒久的導入遺伝子発現を提供するために標的細胞の中に治療的遺伝子を組み込むために使用される。広く使用されているレトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に基づくものおよびそれらの組合せが含まれる(例えば、Buchscherら、J. Virol.66巻:2731~2739頁(1992年);Johannら、J. Virol.66巻:1635~1640頁(1992年);Sommerfeltら、Virol.176巻:58~59頁(1990年);Wilsonら、J. Virol.63巻:2374~2378頁(1989年);Millerら、J. Virol.65巻:2220~2224頁(1991年);PCT/US94/05700を参照のこと)。
【0160】
一過性の発現が好まれる適用では、アデノウイルスをベースにした系を使用することができる。アデノウイルスをベースにしたベクターは、多くの細胞型において非常に高い形質導入効率が可能であり、細胞分裂を必要としない。そのようなベクターで、高い力価および高レベルの発現が得られた。このベクターは、比較的単純な系において大量に産生することができる。アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターは、例えば、核酸およびペプチドのin vitro産生において、ならびにin vivoおよびex vivoの遺伝子治療手順のために、標的核酸で細胞を形質導入するためにも使用される(例えば、Westら、Virology 160巻:38~47頁(1987年);米国特許第4,797,368号;WO93/24641;Kotin、Human Gene Therapy 5巻:793~801頁(1994年);Muzyczka、J. Clin. Invest.94巻:1351頁(1994年)を参照のこと。組換えAAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414号;Tratschinら、Mol. Cell. Biol.5巻:3251~3260頁(1985年);Tratschinら、Mol. Cell. Biol.4巻:2072~2081頁(1984年);HermonatおよびMuzyczka、PNAS USA 81巻:6466~6470頁(1984年);およびSamulskiら、J. Virol.63巻:03822~3828頁(1989年)を含む、いくつかの刊行物に記載されている。
【0161】
臨床試験での遺伝子導入のために少なくとも6つのウイルスベクターアプローチが今日利用でき、それらは、形質導入剤を生成するためにヘルパー細胞株に挿入された遺伝子による欠損ベクターの補完を含むアプローチを利用する。
【0162】
pLASNおよびMFG-Sは、臨床試験で使用されたレトロウイルスベクターの例である(Dunbarら、Blood 85巻:3048~305頁(1995年);Kohnら、Nat. Med.1巻:1017~102頁(1995年);Malechら、PNAS USA 94巻:22 12133~12138頁(1997年))。PA317/pLASNは、遺伝子治療治験で使用された最初の治療的ベクターであった。(Blaeseら、Science 270巻:475~480頁(1995年))。MFG-Sパッケージベクターで、50%またはそれより高い形質導入効率が観察された。(Ellemら、Immunol Immunother.44巻(1号):10~20頁(1997年);Dranoffら、Hum. Gene Ther.1巻:111~2頁(1997年)。
【0163】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、欠損非病原性パルボウイルスアデノ随伴2型ウイルスに基づく有望な代替遺伝子送達系である。全てのベクターは、導入遺伝子発現カセットに隣接するAAV 145bp逆方向末端反復だけを保持するプラスミドに由来する。形質導入細胞のゲノムへの組込みに起因する効率的な遺伝子導入および安定した導入遺伝子送達は、このベクター系の鍵となる特徴である。(Wagnerら、Lancet 351巻:9117 1702~3頁(1998年)、Kearnsら、Gene Ther.9巻:748~55頁(1996年))。AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV8.2、AAV9、AAVrh10ならびにAAV2/8、AAV2/5およびAAV2/6などの偽型化AAVを含む他のAAV血清型を、本発明に従って使用することもできる。
【0164】
複製欠損組換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高い力価で産生することができ、いくつかの異なる細胞型を容易に感染させることができる。ほとんどのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd E1a、E1bおよび/またはE3遺伝子を置き換えるように工学技術で作製され、その後、複製欠損ベクターは欠失した遺伝子機能をトランスで供給するヒト293細胞において増殖する。Adベクターは、肝臓、腎臓および筋肉において見出されるものなどの非分裂、分化細胞を含む、複数の種類の組織をin vivoで形質導入させることができる。従来のAdベクターは、大きな運搬能力を有する。臨床試験におけるAdベクターの使用例は、筋肉内注射による抗腫瘍免疫のためのポリヌクレオチド治療を含んだ(Stermanら、Hum. Gene Ther.7巻:1083~9頁(1998年))。臨床試験における遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターの使用のさらなる例には、Roseneckerら、Infection 24巻:1 5~10頁(1996年);Stermanら、Hum. Gene Ther.9巻:7号、1083~1089頁(1998年);Welshら、Hum. Gene Ther.2巻:205~18頁(1995年);Alvarezら、Hum. Gene Ther.5巻:597~613頁(1997年);Topfら、Gene Ther.5巻:507~513頁(1998年);Stermanら、Hum. Gene Ther.7巻:1083~1089頁(1998年)が含まれる。
【0165】
パッケージング細胞は、宿主細胞を感染させることが可能であるウイルス粒子を形成するために使用される。そのような細胞には、アデノウイルスおよびAAVをパッケージする293細胞、およびレトロウイルスをパッケージするψ2細胞またはPA317細胞が含まれる。遺伝子治療で使用されるウイルスベクターは、ウイルス粒子に核酸ベクターをパッケージするプロデューサー細胞株によって通常生成される。ベクターは、パッケージングおよび以降の宿主への組込み(適用可能な場合)のために必要とされる最小限のウイルス配列を一般的に含有し、他のウイルス配列は発現させるタンパク質をコードする発現カセットによって置き換えられる。欠落しているウイルスの機能は、パッケージング細胞株によってトランスで供給される。例えば、遺伝子治療で使用されるAAVベクターは、宿主ゲノムへのパッケージングおよび組込みのために必要であるAAVゲノムからの逆方向末端反復(ITR)配列を一般的に所有するだけである。ウイルスDNAは、他のAAV遺伝子、すなわちrepおよびcapをコードするが、ITR配列を欠いているヘルパープラスミドを含有する細胞株にパッケージされる。細胞株は、ヘルパーとしてアデノウイルスにも感染する。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製およびヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列の欠如に起因して、有意な量でパッケージされない。アデノウイルスによる汚染は、例えば、アデノウイルスがAAVより感受性である熱処理によって低減することができる。さらに、AAVは、バキュロウイルス系を使用して製造することができる(例えば米国特許第6,723,551号および第7,271,002号を参照)。
【0166】
293またはバキュロウイルス系からのAAV粒子の精製は、典型的にはウイルスを産生する細胞の成長、続く細胞上清からのウイルス粒子の回収または、細胞を溶解することおよび粗溶解物からウイルスを回収することを含む。次にAAVは、イオン交換クロマトグラフィー(例えば米国特許第7,419,817号および第6,989,264号を参照)、イオン交換クロマトグラフィーならびにCsCl密度遠心分離(例えばPCT公開WO2011094198A10)、免疫親和性クロマトグラフィー(例えばWO2016128408)またはAVBセファロース(例えばGE Healthcare Life Sciences)を使用する精製を含む、当技術分野において公知の方法によって精製される。
【0167】
多くの遺伝子治療適用では、遺伝子治療ベクターが特定の組織型に高度の特異性で送達されることが望ましい。したがって、ウイルスベクターは、ウイルスの外部表面のウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現することによって所与の細胞型に対して特異性を有するように改変することができる。リガンドは、目的の細胞型に存在することが公知である受容体に親和性を有するように選択される。例えば、Hanら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92巻:9747~9751頁(1995年))は、モロニーマウス白血病ウイルスは、gp70に融合したヒトヘレグリンを発現するように改変することができること、および組換えウイルスは、ヒト上皮増殖因子受容体を発現するある特定のヒト乳がん細胞を感染させることを報告した。この原理は、標的細胞が受容体を発現し、ウイルスが細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する、他のウイルス-標的細胞対に拡張することができる。例えば、繊維状ファージは、選択される事実上いかなる細胞受容体に特異的結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)を提示するように、工学技術で作製することができる。上の記載はウイルスベクターに主に適用されるが、同じ原理を非ウイルスベクターに適用することができる。そのようなベクターは、特異的標的細胞による取込みを有利にする、特異的取込み配列を含有するように工学技術で作製することができる。
【0168】
遺伝子治療ベクターは、下記のように、一般的に全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または頭蓋内注入)または局所適用による、個々の患者への投与によってin vivoで送達することができる。あるいは、ベクターは、細胞に、例えば個々の患者から外植される細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引物、組織生検)、または汎用性ドナー造血幹細胞にex vivoで送達することができ、続いて、通常ベクターを取り込んだ細胞の選択の後に、細胞を患者に再移植することができる。
【0169】
診断、研究、移植のための、または遺伝子治療のためのex vivo細胞トランスフェクション(例えば、宿主生物へのトランスフェクトした細胞の再注入を介して)は、当業者に周知である。好ましい実施形態では、細胞は、被験体生物から単離され、DNA結合タンパク質核酸(DNA-binding proteins nucleic acid)(遺伝子またはcDNA)を用いてトランスフェクトされ、被験体生物(例えば、患者)に再注入されて戻される。ex vivoトランスフェクションに適する種々の細胞型は、当業者に周知である(例えば、Freshneyら、Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique(第3版、1994年))および患者から細胞をどのように単離および培養するかについての考察について、それに引用される参考文献を参照)。
【0170】
一実施形態では、幹細胞は、細胞トランスフェクションおよび遺伝子治療のためにex vivo手順で使用される。幹細胞を使用する有利な点は、in vitroで幹細胞は他の細胞型に分化できること、または哺乳動物(細胞のドナーなど)に導入することができ、そこで幹細胞が骨髄中で生着することである。GM-CSF、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインを使用して臨床に重要な免疫細胞型にCD34+細胞をin vitroで分化させるための方法は公知である(Inabaら、J. Exp. Med. 176巻:1693~1702頁(1992年)を参照)。
【0171】
幹細胞は、形質導入および分化のために公知の方法を使用して単離される。例えば、幹細胞は、CD4+およびCD8+(T細胞)、CD45+(panB細胞)、GR-1(顆粒球)ならびにIad(分化した抗原提示細胞)などの不必要な細胞に結合する抗体を用いて骨髄細胞をパニングすることによって骨髄細胞から単離される(Inabaら、J. Exp. Med. 176巻:1693~1702頁(1992年)を参照)。
【0172】
改変された幹細胞はまた、一部の実施形態において使用することができる。例えば、アポトーシスに対して抵抗性にされたニューロン幹細胞は、幹細胞が本発明のZFP TFも含有する場合、治療用組成物として使用することができる。アポトーシへの抵抗性は、幹細胞において、例えば、BAX-特異的ZFNまたはBAK-特異的ZFNを使用して(米国特許出願第12/456,043号を参照)、または、カスパーゼ中で破壊されているもの、例えば再度カスパーゼ6特異的ZFNを使用して、BAXおよび/またはBAKをノックアウトすることによって生じさせることができる。これらの細胞を、TCRを制御することが公知であるZFP TFを用いてトランスフェクトすることができる。
【0173】
治療用DNA結合タンパク質(またはこれらのタンパク質をコードする核酸)を含有するベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)は、in vivoでの細胞の形質導入のために生物に直接投与することもできる。代替的に、裸のDNAを投与することができる。投与は、分子を導入して血液または組織細胞と最終的に接触させるために通常使用される、注射、注入、局所適用およびエレクトロポレーションを限定されずに含む経路のいずれかによる。そのような核酸を投与する好適な方法は、当業者に利用可能であり、周知であり、特定の組成物を投与するために2つ以上の経路を使用することができるが、特定の経路が別の経路より速く(immediate)、より有効な反応をしばしば提供することができる。
【0174】
DNAの造血幹細胞への導入のための方法は、例えば米国特許第5,928,638号に開示されている。造血幹細胞、例えばCD34+細胞への導入遺伝子の導入のために有用なベクターには、35型アデノウイルスが含まれる。
【0175】
免疫細胞(例えば、T細胞)への導入遺伝子の導入のために適切なベクターには、非組込み型のレンチウイルスベクターが含まれる。例えば、Oryら(1996年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93巻:11382~11388頁;Dullら(1998年)J. Virol.72巻:8463~8471頁;Zufferyら(1998年)J. Virol.72巻:9873~9880頁;Follenziら(2000年)Nature Genetics 25巻:217~222頁を参照のこと。
【0176】
薬学的に許容されるキャリアは、一部において、投与される特定の組成物によって、ならびに組成物を投与するために使用される特定の方法によって決定される。したがって、下記のように、医薬組成物の多様な、適する製剤が利用可能である(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版、1989年を参照のこと)。
【0177】
上記したように、開示された方法および組成物は、限定されずに、原核細胞、真菌細胞、古細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞、脊椎動物細胞、哺乳動物細胞ならびに、T細胞および任意の種類の幹細胞を含むヒト細胞を含む、任意の種類の細胞において使用することができる。タンパク質発現のために適する細胞株は当業者に公知であり、限定されずにCOS、CHO(例えば、CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)、perC6、Spodoptera fugiperda(Sf)などの昆虫細胞、ならびにSaccharomyces、PichiaおよびSchizosaccharomycesなどの真菌細胞を含む。これらの細胞株の後代、バリアントおよび派生物も使用することができる。
【0178】
応用
開示される組成物および方法は、限定されずに、B2Mモジュレーションが望ましい治療用および研究用応用を含む、B2M発現および/または機能性をモジュレートすることが望ましい任意の応用のために使用することができる。例えば、開示される組成物は、養子細胞療法のために1つもしくは複数の外因性CAR、外因性TCR、外因性ACTRまたは他のがん特異的受容体分子を発現し、それによりがんを処置および/または予防するように改変されたT細胞において、内因性B2Mの発現を破壊するためにin vivoおよび/またはex vivo(細胞治療)で使用することができる。さらにそのような状況において、細胞内でのB2M発現のモジュレーションは、健康な、非標的化組織との不必要な交差反応(すなわち移植片対宿主応答)の危険を除去または実質的に低減することができる。
【0179】
方法および組成物は、幹細胞組成物も含み、ここで幹細胞内のB2M遺伝子は、モジュレートされ(改変され)、細胞は、ACTRおよび/もしくはCARならびに/または単離されたもしくは工学技術で作製されたTCRをさらに含む。例えば、B2Mノックアウトまたはノックダウンモジュレートされた同種異系造血幹細胞は、骨髄アブレーション後にHLA適合患者に導入することができる。これらの変更されたHSCは、患者での再定着を可能にするが、潜在的GvHDを生じない。導入された細胞は、根底にある疾患を処置するための続く治療の間に役立つ他の変更(例えば、化学療法耐性)も有することができる。HLAヌル細胞は、外傷患者での緊急治療室の場所における「既製の」治療としての用途も有する。
【0180】
本発明の方法および組成物は、in vitroおよびin vivoモデル、例えばB2Mおよび/またはHLAならびに関連障害の動物モデルの設計および実行のためにも有用であり、これらの障害の研究を可能にする。
【0181】
本明細書で指摘される全ての特許、特許出願および公開は、参照によりそれらの全体が本明細書によって組み込まれる。
【0182】
理解の明快性のために開示は例証および例として多少詳細に提供されたが、本開示の精神または範囲から逸脱せずに様々な変更および改変を実施することができることは当業者に明らかである。したがって、前述の開示および以下の実施例は限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0183】
(実施例1)
B2M特異的ヌクレアーゼの設計
B2M特異的ZFNをB2M遺伝子での二本鎖切断の部位特異的導入を可能にするために構築した。ZFNをUrnovら(2005年)Nature 435巻(7042号):646~651頁、Lombardoら(2007年)Nat Biotechnol. Nov;25巻(11号):1298~306頁および米国特許出願公開第2008-0131962号、第2015-016495号、第2014-0120622号、第2014-0301990号および米国特許第8,956,828号に本質的に記載の通り設計した。ZFN対は、B2M遺伝子の定常領域中の異なる部位を標的とした(
図1を参照)。例示的ZFN対に対する認識ヘリックスならびに標的配列を下の表1に示す。B2Mジンクフィンガー設計の標的部位を第1カラムに示す。ZFP認識ヘリックスによって標的化される標的部位中のヌクレオチドを大文字で示し;非標的化ヌクレオチドを小文字で示す。FokIヌクレアーゼドメインとZFP DNA結合ドメインとを繋ぐために使用されるリンカーも示す(米国特許出願公開第20150132269号を参照)。例えばドメインリンカーL0のアミノ酸配列は、DNA結合ドメイン-QLVKS-FokIヌクレアーゼドメイン(配列番号3)である。同様にドメインリンカーN7aについてのアミノ酸配列は、FokIヌクレアーゼドメイン-SGTPHEVGVYTL-DNA結合ドメイン(配列番号4)であり、N6aはFokIヌクレアーゼドメイン-SGAQGSTLDF-DNA結合ドメイン(配列番号5)である。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0184】
全てのZFNを検査し、それらの標的部位に結合することを見出し、ヌクレアーゼとして活性であることを見出した。
【0185】
B2M遺伝子を標的にするために、S.pyogenesのCRISPR/Cas9系のためのガイドRNAも構築した。下の表2Aに、B2M遺伝子中の標的配列ならびにガイドRNA配列が示される。全てのガイドRNAをCRISPR/Cas9系で検査し、活性であることを見出す。一部のガイド配列の5’末端での小文字「g」は、PAM配列において役割を果たす付加されたGヌクレオチドを示している。
【表2A-1】
【表2A-2】
【0186】
TALENは、B2M遺伝子座を標的化するために作製され、下の表2Bに示されている。全てのTALENを、K562細胞において検査し、活性であることを見出した(表2Cおよび
図2Bを参照)。
【表2B-1】
【表2B-2】
【表2B-3】
【表2B-4】
【表2B-5】
【0187】
表2BからのTALENを、反応一回につき各TALENの25、100または400ngのいずれかの3つの異なる濃度で検査した。検査した全てのTALENは、それらの標的部位に結合することが見出され、ヌクレアーゼとして活性であることが見出された;例示的データを表2Cおよび
図2Bに示す。
【表2C-1】
【表2C-2】
【0188】
したがって、本明細書に記載されるヌクレアーゼ(例えば、ZFP、TALEまたはsgRNA DNA結合ドメインを含むヌクレアーゼ)は、それらの標的部位に結合し、B2M遺伝子を切断し、それにより配列番号6~48もしくは137~205のいずれかを含むB2M遺伝子内に、これらの配列(配列番号6~48もしくは137~205)のいずれかの中の改変(挿入および/または欠失);これらの遺伝子配列の1~50(例えば、1から10)塩基対内の改変;対合した標的部位(二量体について)の標的部位間の改変;および/または以下の配列:GGCCTTA、TCAAATT、TCAAAT、TTACTGAおよび/またはAATTGAAの1つもしくは複数の中の改変(
図1を参照)が挙げられる、遺伝子改変を作製する。
【0189】
さらに、DNA結合ドメイン(ZFP、TALEおよびsgRNA)はまた、全てそれらの標的部位に結合し、1つまたは複数の転写制御ドメインと会合するときに、活性な工学技術で作製転写因子へと組み立てられる。
【0190】
(実施例2)
T細胞におけるB2M特異的ZFN活性
B2M特異的ZFN対をヌクレアーゼ活性についてヒトT細胞において検査した。ZFNをコードするmRNAを精製T細胞にトランスフェクトした。簡潔には、T細胞を白血球フェレーシス産物から得て、Miltenyi CliniMACSシステム(CD4およびCD8二重選択)を使用して精製した。次いで、Dynabeads(ThermoFisher)を製造者のプロトコールに従って使用して、これらの細胞を活性化した。活性化3日後、細胞を2種の用量のmRNA(2つのZFNの合計で2または6μg)を用いてBTX96ウェルエレクトロポレーター(BTX)を使用して、標準的プロトコールに従ってトランスフェクトした。次いでさらに7日間、活性化後合計10日間細胞を拡張させた。細胞を7日目に取り出し、ディープシークエンシング(Miseq、Illumina)を使用して標的B2M改変について、ならびに10日目にHLA-A、-Bおよび-C染色を使用してFACs分析で分析した。
【0191】
B2M特異的ZFN対は、T細胞において全て活性であり、6μgおよび2μg mRNA用量についてそれぞれ平均89%および83%をもたらした(
図2を参照)。使用した対および位置(
図1に示す)を下の表3に列挙する。
【表3】
【0192】
同様にZFNを用いて処理したT細胞は、HLA A、BおよびCの発現を喪失し、ここでFACS分析は、6μgおよび2μg mRNA用量でそれぞれ平均81%および67%のHLA陰性T細胞を示した(
図3を参照)。
【0193】
(実施例3)
B2Mに対するガイドRNAのin vitro活性
これらの実験において、Cas9はpVAXプラスミドに供給され、sgRNAはU6プロモーターの調節下でプラスミドに供給された。プラスミドは各々100ngまたは各々400ngのいずれかで混合し、一回の操作につき2e5細胞と混合した。細胞を、Amaxa系を使用してトランスフェクトした。簡潔には、Amaxaトランスフェクションキットを使用し、標準のAmaxaシャトルプロトコールを使用して核酸をトランスフェクトした。トランスフェクションの後、細胞を室温で10分の間静止させ、その後予め温めたRPMIに再懸濁した。次に、細胞を、37℃の標準条件で成長させた。トランスフェクションの7日後にゲノムDNAを単離し、MiSeq分析にかけた。
【0194】
下に示すデータ(表4)は、2つの用量のガイドRNAで検出されたインデル(挿入および欠失)のパーセントを示しており、さまざまなガイドRNAが標的化部位での切断を誘導することを示していた。数字は、2回の実験の平均を表している。全てのガイドは活性であった。
【表4】
【0195】
(実施例4)
初代T細胞におけるB2MおよびTCRのダブルノックアウト
本明細書に記載されるB2M対をTCRAに特異的なZFNとの組合せでも検査した(下の表5および米国仮特許出願第62/269,365号および第62/306,500号を参照)。細胞を実施例2に記載の通りに得て、処理した。ZFN対をコードするmRNA(B2MについてSBS番号57017/SBS番号57327およびTCRAについてSBS番号55254/SBS番号55248)をMaxcyte instrumentを製造者の指示に従って使用して細胞に電気穿孔した。簡潔には、T細胞を0日目に活性化し、ZFNコードmRNAを用いて3日目に処理し、細胞密度は3e7細胞/mLであった。電気穿孔には、電気穿孔後、一晩の30℃低温ショックが続いた。4日目に細胞をカウントし、生存率についてアッセイし、0.5e6細胞/mLに希釈し、37℃に移した。7日目に、細胞をカウントし、再びアッセイし、0.5e6細胞/mLに再希釈した。10日目および14日目に、細胞の一部をFACSおよびMiSeqディープシークエンシングのために採取した。
【表5】
【0196】
細胞を4つの群:ZFNなしの対照、TCRA ZFNのみ、B2M ZFNのみおよびTCRA ZFN+B2M ZFNに分けた。FACS分析によって、TCRA単独に対するZFN(180μg/μL ZFN mRNA)またはB2M単独(180μg/μLのZFN mRNA)のセットは、高率の切断をもたらした(TCRA ZFNについて96% CD3マーキング、およびB2M ZFNについてHLAマーキングの92%ノックアウト(
図4))。細胞を両方の種類のZFN対(両方とも180μg/μL)を用いて処理すると、82%の細胞がCD3およびHLAマーキングの両方を失った。
【0197】
同様の細胞の群を、種々の量の示した通りのTCRA特異的ZFN(60~250ug/uL)に加えて60ug/mLのB2M ZFNを用いて処理し、10日目および14日目にMiSeqディープシークエンシング(Illumina)およびFACs分析にかけ、結果は下の表6に示す。結果は、NHEJ媒介挿入および欠失によって検出される高率のダブルノックアウトがこれらのZFNで観察されたことを示す。
【表6】
【0198】
したがって、このデータは、標的もしくはその付近での、ならびに/または本明細書中に記載されたヌクレアーゼの標的配列および/または切断部位の1~50(例えば、1~10)塩基対(対合した標的部位間を含む)内(SBS#55254/SBS#55248 TCRA特異的対についての2つの標的配列の間のB2M配列TCAAAT(
図1中の部位D)およびTCRA配列CCTTCを含む)での、B2MおよびTCRAのダブルノックアウトが、両方の遺伝子を不活性化したことを実証する。
【0199】
(実施例5)
標的化組み込みによるB2MおよびTCRAのダブルノックアウト
この実験ではTCRA特異的ZFN対は、TCRA特異的ZFN標的部位間に配列TTGAAAを含む、SBS番号55266/SBS番号53853であり(表5)、B2M対は、B2M特異的ZFN標的部位間に配列TCAAATを含む、SBS番号57332/SBS番号57327(表1)であった。
【0200】
簡潔には、T細胞(AC-TC-006)を解凍し、X-vivo15 T細胞培養培地中でCD3/28 dynabead(1:3、細胞:ビーズ比)を用いて活性化した(0日目)。培養2日後(2日目)、AAVドナー(GFP導入遺伝子およびTCRAまたはB2M遺伝子に対する相同アームを含む)を、ドナーを含まない対照群はまた維持されていることを除いて、細胞培養物に加えた。翌日(3日目)、TCRAおよびB2M ZFNを、mRNA送達を介して以下の5群において付加した:
(a)群1(TCRAおよびB2M ZFNのみ、ドナーなし):TCRA 120ug/mL:B2Mのみ60ug/mL;
(b)群2(TCRAおよびB2M ZFNならびにTCRA相同アームを有するドナー):TCRA 120ug/mL;B2M 60ug/mLおよびAAV(TCRA-hPGK-eGFP-Clone E2)1E5vg/細胞;
(c)群3(TCRAおよびB2M ZFNならびにTCRA相同アームを有するドナー):TCRA 120ug/mL;B2M 60ug/mL;およびAAV(TCRA-hPGK-eGFP-Clone E2)3E4vg/細胞;
(d)群4(TCRAおよびB2M ZFNならびにB2M相同アームを有するドナー):TCRA 120ug/mL;B2M 60ug/mLおよびAAV(pAAV B2M-site D-hPGK GFP)1E5vg/細胞
(e)群5(TCRAおよびB2M ZFNならびにB2M相同アームを有するドナー):TCRA 120ug/mL;B2M 60ug/mLおよびAAV(pAAV B2M-site D-hPGK GFP)3E4vg/細胞。
全ての実験は、3e7細胞/mlの細胞密度で米国特許出願第15/347,182号に記載のプロトコール(超低温ショック(extreme cold shock))を使用して実施し、電気穿孔後に、30℃、一晩の低温ショックのために培養した。
【0201】
翌日(4日目)、細胞を0.5e6細胞/mlに希釈し、37℃での培養に移した。3日後(7日目)、細胞を0.5e6細胞/mlに再度希釈した。さらに3日および7日培養後(それぞれ10日目および14日目)、細胞をFACSおよびMiSeq分析のために採取した(0.5e6細胞/mlに希釈)。
【0202】
図5に示す通り、GFP発現は、標的組み込みが成功したこと、およびヌクレアーゼ部位内(またはヌクレアーゼ標的部位の1から50塩基対内、例えばTTGAAAおよびTCAAAT内、ならびに/または対合した標的部位間)に、B2MおよびTCRA改変(挿入および/または欠失)を含む遺伝子改変細胞が得られたことを示した。
【0203】
実験は、CARを発現する二重B2M/TCRAノックアウトを作製するためにCAR導入遺伝子がB2Mおよび/またはTCRA遺伝子座に組み込まれているものでも実施される。
【0204】
本明細書で言及される全ての特許、特許出願および公開は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。
【0205】
理解の明快性のために開示は例証および例として多少詳細に提供されたが、本開示の精神または範囲から逸脱せずに様々な変更および改変を実施することができることは当業者に明らかである。したがって、上記の記載および実施例は限定するものと解釈されるべきでない。
【配列表】