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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】回転電機用インサート部材
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/06 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
H02K5/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023159275
(22)【出願日】2023-09-22
【審査請求日】2023-10-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591206120
【氏名又は名称】TPR工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 喬
(72)【発明者】
【氏名】東海林 康智
(72)【発明者】
【氏名】清野 一樹
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/129177(WO,A1)
【文献】特開2012-067740(JP,A)
【文献】特開2010-156003(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041644(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0078950(KR,A)
【文献】特開2012-232583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のアルミニウム合金製モーターケースに鋳込まれる略円筒形状のインサート部材であって、
前記インサート部材の外周面には、複数の突起部が形成され、
前記インサート部材の中心軸を含む仮想平面により前記インサート部材を軸方向に沿って、2分割に切断したときに前記中心軸の両側に一つずつ現れる切断面のうちの一方である一切断面において、前記インサート部材は、所定の軸方向長さの範囲において、前記インサート部材の内周面と平行な線分を前記一切断面に重ねた際に、前記線分上で前記突起部が前記線分に重なる実体部領域と、前記線分上で前記突起部が前記線分に重ならない非実体部領域と、を画定し、
前記線分上において、前記所定の軸方向の長さの範囲のうち、前記実体部領域の割合を示す値を実体部比率として、
前記インサート部材における前記一切断面において、前記線分を、前記突起部の先端部から基端部側に向かって、前記突起部の高さ方向に沿って所定のピッチで移動させた各測定点の前記実体部比率の値を順にプロットし、横軸に前記実体部比率を表し、縦軸に前記高さ方向における前記先端部からの距離を測定高さとして表した図を実体部集計図として、
複数の前記一切断面によって求められる前記各測定点における前記実体部比率の平均を平均実体部比率として、前記平均実体部比率をプロットした前記実体部集計図を平均実体部集計図として、
前記平均実体部集計図において、前記平均実体部比率が0の位置を図上先端部として、前記先端部側から前記基端部側に向かって順にプロットされた前記平均実体部比率が0.98を初めて超えた位置を図上基端部として、
前記図上先端部から前記図上基端部までの距離を前記突起部の平均最大高さとしたとき、前記突起部の平均最大高さが前記インサート部材の外径の0.08%以上であり、
前記平均実体部集計図において、
前記突起部の平均最大高さの中央位置から前記図上先端部までの範囲において、前記図上先端部の位置を除いた前記平均実体部比率の合計値よりも、
前記突起部の平均最大高さの前記中央位置から前記図上基端部までの範囲において、前記図上基端部の位置を除いた前記平均実体部比率の合計値の方が大きい、
回転電機用インサート部材。
【請求項2】
前記突起部の平均最大高さが、前記インサート部材の外径の0.08%以上1%以下の範囲内で形成される、
請求項1に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項3】
前記平均実体部集計図にプロットされる2点以上の測定点であって、
前記2点以上の測定点の前記平均実体部比率の差が0.10以下であり且つ前記2点以上の測定点の前記測定高さの差が0.05mm以上 となる範囲内に、前記2点以上の測
定点を含む、
請求項1又は2に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項4】
前記平均実体部集計図にプロットされる複数の前記平均実体部比率は、
前記平均実体部比率の値が極大ピークと、前記平均実体部比率の値が極小ピークと、を有し、
前記極大ピークの位置は前記極小ピークの位置よりも前記図上先端部側に現れる、
請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項5】
前記平均実体部集計図において、
前記極小ピークにおける前記平均実体部比率の値が0.08以上である、
請求項に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項6】
前記平均実体部集計図において、
前記極大ピークにおける前記平均実体部比率の値と、前記極小ピークにおける前記平均実体部比率の値との差が、0.02以上0.20以下である、
請求項に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項7】
前記平均実体部集計図において、
前記極大ピークにおける前記平均実体部比率の値が0.50以下である、
請求項に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項8】
前記インサート部材の前記外周面において、
前記突起部が、前記外周面の一部領域にのみ形成されている、
請求項1に記載の回転電機用インサート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用インサート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターケースにおける構造部材として、アルミニウム合金が多く用いられている。また、当該モーターケースにおいて、ステータを配置する部分には、強度を補うために、鉄系材料により略円筒形状に形成された高強度部材をインサート部材として使用する場合がある。これに関連して、インサート部材の外周面に凹凸を設けることによって、モーターケースに対するインサート部材の固定保持性を向上することが提案されている(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-169500号公報
【文献】特開2011-101513号公報
【文献】特許第6655560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウム合金によりモーターケースを形成する場合、上述のインサート部材を鋳込んで成形することがある。インサート部材は、鋳込み後に、ステータの外周面に嵌合するようにその内周面が加工されることで、ステータホルダとして使用される。このとき、モーターケースとインサート部材との接合強度が不足していると、インサート部材がモーターケースに対して変位することで、モーター軸の振れが生じ、フリクション増加による出力低下や振動増加による耐久性の低下が生じる虞があった。
【0005】
本発明の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モーターケースとの接合強度を向上可能な回転電機用インサート部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の技術は以下の構成を採用した。本発明に係る技術の一側面としての回転電機用インサート部材は、回転電機のアルミニウム合金製モーターケースに鋳込まれる略円筒形状のインサート部材であって、前記インサート部材の外周面には、複数の突起部が形成され、前記インサート部材の中心軸を含む仮想平面により前記インサート部材を軸方向に沿って、2分割に切断したときに前記中心軸の両側に一つずつ現れる切断面のうちの一方である一切断面において、前記インサート部材は、所定の軸方向長さの範囲において、前記インサート部材の内周面と平行な線分を前記一切断面に重ねた際に、前記線分上で前記突起部が前記線分に重なる実体部領域と、前記線分上で前記突起部が前記線分に重ならない非実体部領域と、を画定し、前記線分上において、前記所定の軸方向の長さの範囲のうち、前記実体部領域の割合を示す値を実体部比率として、前記インサート部材における前記一切断面において、前記線分を、前記突起部の先端部から基端部側に向かって、前記突起部の高さ方向に沿って所定のピッチで移動させた各測定点の前記実体部比率の値を順にプロットし、横軸に前記実体部比率を表し、縦軸に前記高さ方向における前記先端部からの距離を測定高さとして表した図を実体部集計図として、複数の前記一切断面によって求められる前記各測定点における前記実体部比率の平均を平均実体部比率として、前記平均実体部比率をプロットした前記実体部集計図を平均実体部集計図として、前記平均実体部集計図において、前記平均実体部比率が0の位置を図上先端部
として、前記先端部側から前記基端部側に向かって順にプロットされた前記平均実体部比率が0.98を初めて超えた位置を図上基端部として、前記図上先端部から前記図上基端部までの距離を前記突起部の平均最大高さとしたとき、前記突起部の平均最大高さが前記インサート部材の外径の0.08%以上である。
【0007】
また、前記インサート部材において、前記突起部の平均最大高さが、前記インサート部材の外径の0.08%以上1%以下の範囲内で形成されていてもよい。
【0008】
また、前記平均実体部集計図において、前記突起部の平均最大高さの中央位置から前記図上先端部までの範囲において前記図上先端部の位置を除いた前記平均実体部比率の合計値よりも、前記突起部の平均最大高さの中央位置から前記図上基端部までの範囲における前記図上基端部の位置を除いた前記平均実体部比率の合計値の方が大きく構成されていてもよい。
【0009】
また、前記平均実体部集計図にプロットされる2点以上の測定点であって、前記2点以上の測定点の前記平均実体部比率の差が0.10以下であり且つ前記2点以上の測定点の前記測定高さの差が0.05mm以上となる範囲内に、前記2点以上の測定点を含んでいてもよい。
【0010】
また、前記平均実体部集計図にプロットされる複数の前記平均実体部比率は、前記平均実体部比率の値が極大ピークと、前記平均実体部比率の値が極小ピークと、を有し、前記極大ピークの位置は前記極小ピークの位置よりも前記図上先端部側に現れるように構成されていてもよい。
【0011】
また、前記平均実体部集計図において、前記極小ピークにおける前記平均実体部比率の値が0.08以上であってもよい。
【0012】
また、前記平均実体部集計図において、前記極大ピークにおける前記平均実体部比率の値と、前記極小ピークにおける前記平均実体部比率の値との差が、0.02以上0.20以下であってもよい。
【0013】
また、前記平均実体部集計図において、前記極大ピークにおける前記平均実体部比率の値が0.50以下であってもよい。
【0014】
前記インサート部材の前記外周面において、前記突起部が、前記外周面の一部領域にのみ形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モーターケースとの接合強度を向上可能な回転電機用インサート部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態に係る回転電機用インサート部材の全体図、及びその外周面の一部を拡大した拡大図である。
図2図2は、実施形態に係る回転電機用インサート部材の、所定の切断面の一例を示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係る一実施例における、回転電機用インサート部材の、測定高さと平均実体部比率との関係を説明するための、平均実体部集計図である。
図4図4は、実施形態に係る一実施例における、回転電機用インサート部材の平均実体部集計図である。
図5図5は、実施形態に係る一実施例における、回転電機用インサート部材の平均実体部集計図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。以下の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0018】
<実施形態>
[構造・製造方法]
図1は、実施形態に係る回転電機用インサート部材1(以下、「インサート部材1」と称する)の全体図、及びその外周面の一部を拡大した拡大図である。本実施形態では、インサート部材1の中心軸Cに沿う方向を軸方向とし、軸方向と直交し中心軸Cからインサート部材1の外周面側へ向かう方向を径方向とする。また、インサート部材1の外周面に沿う、中心軸C回りの方向を周方向とする。このような軸方向・径方向・周方向とは、インサート部材1において、各要素における相対的な位置関係を示すための方向に過ぎない。
【0019】
本実施形態に係るインサート部材1は、例えば、中心軸Cを中心とした略円筒形状に形成される鋳鉄材であり、外周面(表面)に複数の突起部10が形成されている。本発明の適用対象となる回転電機とは、例えば、電気自動車等に用いられるモーターである。但し、本発明の適用対象となる回転電機は、これに限定されない。本実施形態における、インサート部材1の外径ODは150mm~300mmの範囲内で形成されているが、使途によって適宜変更してもよい。また、外径ODは互いに平行な二つの平面間にインサート部材の中心軸Cが平行となるようにインサート部材1を置き、インサート部材1の外周面上にある突起部10の先端部11と平行な二つの平面とを夫々接触させたときの、平行な二つの平面間の距離に相当する値である。
【0020】
回転電機は、例えば、回転軸、ローター、ステータ、モーターケース、ベアリング等の部品を含んで構成されている。モーターケースは、内部が円柱状にくり抜かれた筒部を有している。ステータは一般的には電磁鋼板等で形成され、当該筒部の内周部分に嵌合されることになる。ここで、インサート部材1は、アルミニウム合金製のモーターケースの内周部分に鋳込まれて用いられる。これにより、モーターケースとインサート部材1は、インサート部材1の外周面の少なくとも一部がアルミニウム合金で覆われる複合構造体となる。また、インサート部材1の内周部分にステータが嵌入される際、ステータは焼き嵌めされることになるが、ステータの材質の線膨張係数と、インサート部材1の線膨張係数とが近づくことから、モーター稼働時に発熱した際でも、ステータとインサート部材1との嵌合強度が保たれる。
【0021】
一般的に、モーターの使用温度は-30℃~150℃である。また、ステータに用いられる材質は、一般的には電磁鋼板であり、インサート部材1に10.0×10-6/K以上13.0×10-6/K以下の線膨張係数を有する材料を用いて形成すると、嵌合するステータとインサート部材1とで線膨張係数が類似となる。これにより、モーターケースに鋳込んだインサート部材1にステータを嵌合させた後でも、ステータの外周とインサート部材1の内周との嵌合強度を高く維持する一助となる。
【0022】
先述の、インサート部材1の材質は、モーターケースに用いられるアルミニウム合金と比較し十分な強度を有し、線膨張係数が上記範囲内にあるものであれば特に限定されるも
のではない。典型的には、製造性及び加工性を考慮したJIS FC250相当材等の片状黒鉛鋳鉄を用いることができる。
【0023】
インサート部材1の突起部10の形成方法は特段限定されないが、例えば遠心鋳造法を用いることができる。また、鋳鉄製の円筒を機械加工して形成することもできる。
【0024】
図2は、実施形態に係るインサート部材1の所定の切断面の一例を示す断面図である。本実施形態における所定の切断面とは、インサート部材1の中心軸Cを含む仮想平面によりインサート部材1を軸方向に沿って、2分割に切断したときに中心軸Cの両側に一つずつ現れる切断面のうちの一方である一切断面である。一切断面の軸方向における長さは、後述の長さd1以上である。図2では、所定の切断面の一例として、図1におけるA-A’断面が図示されている。また、図2に示す符号40は、インサート部材1の内周面を示している。以下、「内周面40」と称する。以下では、図2を用いて、本実施形態に係るインサート部材1が備える複数の突起部10について説明する。
【0025】
突起部10は、インサート部材1の一部であり、インサート部材1の外周面に形成されている。突起部10は、軸方向及び周方向において、配置位置や配置密度が不連続且つ不規則(ランダム)に、複数配置されていてもよいし、配置位置や配置密度が連続的且つ規則的に、複数配置されていてもよい。また、突起部10は、先端部11と基端部12とを有し、基端部12から先端部11へ、インサート部材1の径方向の外側に向かって突き出るように、形成されている。
【0026】
さらに、インサート部材1の外周面において、複数の突起部10が形成される箇所を一部に限定したり、複数の突起部10のうち一部を削り落とす加工等を行ってもよい。これにより、複数の突起部10は、インサート部材1の外周面の一部領域にのみ形成されている態様でもよい。
【0027】
突起部10は、遠心鋳造法によって遠心力を付与されながら鋳込まれることで形成される場合がある。この際、突起部10の先端部11は、金型の内周面を基準に形成されるため、金型の内周面が真円であれば、インサート部材1の中心軸Cからの距離はほぼ等しくなるのに対し、基端部12は中心軸Cからの距離が不揃いになることがある。そのため、突起部10の高さは、後述の実体部集計図を用いて突起部10の高さを導く過程において、先端部11を基準として測定している。但し、突起部10の形成方法はこれに限らず、例えば、円筒部材の外周面に切削加工等の機械加工を施すことによって形成してもよい。
【0028】
また、突起部10の形状は特に限定されない。突起部10は、例えば、らせん状に連続する形状を有してもよいし、周方向に沿って環状に連続する形状を有してもよい。例えば、インサート部材1の外周面に切削加工等の機械加工を直接施すことで、突起部10をらせん状又は環状に形成することができる。突起部10の形状は、後述の実体切断試験、引張シミュレーション、及びせん断シミュレーションにおいて効果を有するものであればよい。
【0029】
[実体部比率]
インサート部材1の突起部10によって、実体部領域21と非実体部領域22とが画定される。図2に示すように、実体部領域21と非実体部領域22は、長さd1(本発明における「所定の軸方向長さ」の一例)を有する線分20を所定の切断面に重ねたときに当該線分20が突起部10と重なる領域か否かによって特定される。より詳しくは、長さd1の範囲において、線分20が突起部10と重なる領域が実体部領域21として定義され、線分20が突起部10と重ならない領域が非実体部領域22として定義される。なお、線分20は、所定の切断面において内周面40と平行(つまり、中心軸Cと平行)な仮想
の線分であり、実体部領域21や非実体部領域22を特定するために便宜上設けられる線分である。
【0030】
実体部比率とは、長さd1の範囲のうち、実体部領域21が形成されている割合を示す値である。線分20を図2の矢印A20の方向(径方向における先端部11側から基端部12側)に沿って所定のピッチで移動することで、先端部11からの径方向における距離である測定高さのうち、任意の測定点における測定高さでの実体部領域21の長さを取得できる。その際、任意の測定高さにおいて、長さd1に対する、実体部領域21の長さを合計したものの比率を、「実体部比率」と称する。同様の操作を複数の断面で行い、各切断面における突起部10の実体部比率を集約し、各測定点の測定高さにおける実体部比率を平均化することによって、当該任意の測定高さにおける、複数の断面に基づいた実体部比率の平均値である平均実体部比率を求めることができる。
【0031】
[実体部集計図]
図2に示すように、線分20を基端部12側に向かって(線分20を矢印A20の方向に沿って)所定のピッチで移動し、実体部比率が1.00になるまで実体部比率の取得を繰り返し、グラフ上に取得した実体部比率をプロットすることで、所定の切断面に現れる複数の突起部10の形状を集約した一つの形状としてグラフ化できる。これを「実体部集計図」と称する。実体部集計図は、縦軸に突起部10の高さ方向における先端部11からの距離である測定高さを表し、横軸に実体部比率を表したグラフである。また、実体部比率を求める作業を、複数の所定の切断面で行い、平均実体部集計図を作成することで、平均的に、インサート部材1における突起部10の形成状態を把握することができる。この際、何れの所定の切断面においても、高さ方向の基準点は「長さd1(所定の軸方向長さ)の範囲内における複数の突起部10のうち、最も突出している突起部10の先端部11」とし、線分20を移動するピッチも同様のピッチとする。これにより、複数の所定の切断面においても測定高さが一義的に決定されうる。また、本実施形態では、平均実体部集計図に現れるグラフ形状により特定される突起部を、平均実体部集計図における「集約された突起部」と称する。図3は、本実施形態に係るインサート部材1の一例として、所定のピッチを0.05mm、長さd1を14.7mmとし、あるサンプルの6つの所定の切断面から断続的に取得できる平均実体部比率を順にプロットした平均実体部集計図を示している。図3に示すように、平均実体部集計図に現れるグラフ形状により特定される突起部を、集約された突起部30として示している。
【0032】
[測定方法]
以下では、実体部領域21と非実体部領域22の測定方法について、図2を用いて説明する。はじめに、測定用試料の調整方法について説明する。中心軸Cを含み且つ軸方向に沿う方向に切断したインサート部材1を、さらに樹脂包埋と研磨が可能な大きさに切断し、実体部比率を測定する一切断面を下に向け樹脂包埋を行う。樹脂が固化した後、一切断面側を流水中にて耐水エメリー紙を用いて研磨する。このとき、耐水エメリー紙の番手は、#220、#400、#800、#1000、#1500の順で交換する。研磨が終了したら、実体部比率の測定を行う。研磨が終了した後の観察面は、所定の切断面に相当する。
【0033】
本実施形態において、実体部比率の測定には、株式会社ハイロックス社製デジタルマイクロスコープRX-100を使用した。また、測定時の対物レンズ倍率は20倍又は50倍を使用し、マイクロスコープ付属のソフトウェアによるグリッドと自動幅ツールを使用した。上述のように研磨した後の測定用試料をセットし、インサート部材1の内周面40と観察用モニターに表示されるグリッドの横軸とが平行になるように測定用試料をセットする。その後、インサート部材1の外周面の観察が可能な位置に当該測定用試料を平行移動させる。次に、自動幅ツールを用いて、当該測定用試料の横軸方向における測定を行う
。自動幅ツールによる測定は、階調濃度を使用した自動測定のため、実体部領域21に相当するインサート部材エリアと、非実体部領域22に相当する樹脂エリアとの自動識別が妥当となるように都度階調濃度を調整し、所定のピッチ毎に移動し、任意の測定高さにおける実体部領域21の長さを測定する。本実施形態における線分20は、当該自動幅ツールの測定位置を示している。線分20をインサート部材1の径方向に沿って、先端部11側から基端部12側に向かって移動することで、先端部11からの任意の測定高さにおける、実体部領域21の軸方向長さを測定することができる。この際、線分20を、一切断面において、長さd1の範囲内で最も突出している突起部10の先端部11から、基端部12側に向かって、所定のピッチである0.05mm又は0.025mm毎に移動させ、測定を行う。
【0034】
図2では、線分20が位置20aにある場合と、位置20bにある場合を示している。線分20が位置20aに示す測定高さにある場合、線分20は、長さd1のうち、最も突出している先端部11と重なっている。これを基準とし、線分20を矢印A20方向(基端部12側)へ移動する。位置20bは、線分20を、所定のピッチで任意の回数、移動を繰り返した場合の測定高さの一例である。位置20bが示す位置に線分20がある場合には、インサート部材1は、線分20のうち破線で示す実体部領域21と、実線で示す非実体部領域22とを形成していると言える。線分20を矢印A20に沿って移動し、後述の実体部比率が0.98を初めて超えた位置から、さらに線分20を矢印A20に沿って移動し、線分20における長さd1の範囲のうち、全てが実体部領域21となった場合(つまり、実体部比率が1.00になった場合)に測定を終了する。
【0035】
[平均実体部集計図のパラメータ]
図3には、あるサンプルに基づいた平均実体部比率を順にプロットした平均実体部集計図を示している。図2図3に示すように、平均実体部集計図において「長さd1の範囲内における複数の突起部10のうち、最も突出している突起部10の先端部11」に相当する位置を「図上先端部」と称する。図上先端部は、上述の集約された突起部30の先端部と一致する位置である。図上先端部における測定高さは0mmであり、平均実体部比率は0となる。また、「平均実体部集計図においてプロットされた点のうち、平均実体部比率が0.98を初めて超えた位置」を「図上基端部」と称する。
【0036】
図3に示す平均実体部集計図には、極大ピーク値と極小ピーク値を示している。極大ピーク値は、平均実体部集計図上にプロットされる各測定点を線でつないだものを「平均実体部曲線」と称し、平均実体部曲線におけるピークのうち、極大ピークにおける平均実体部比率を示し、極小ピーク値は、平均実体部集計図上にプロットされる平均実体部曲線におけるピークのうち、極小ピークにおける平均実体部比率を示している。図3に示す平均実体部集計図の一例では、図上先端部から極大ピークまでの測定高さの絶対値は0.20mm、極大ピーク値は0.45であり、図上先端部から極小ピークまでの測定高さの絶対値は0.45mm、極小ピーク値は0.30である。この際、極大ピークは極小ピークよりも、測定高さ方向において図上先端部側に現れている。
【0037】
図3に示す集約された突起部30の平均最大高さh1は、平均実体部集計図の縦軸における、図上先端部から図上基端部までの距離である。実体部集計図の各測定点における実体部比率は、上側に位置する突起部10の先端部11側から下側に位置する中心軸C側に向かって測定するため、各測定点における測定高さはマイナスの値で表示される。複数の実体部集計図から求めた平均実体部集計図においても同様であるが、実際の突起部10の平均最大高さh1は平均実体部集計図上の縦軸の値の絶対値となる。
【0038】
本実施形態における、突起部10は、平均実体部集計図において、極大ピーク値≦0.50となるように形成されている。これによって、突起部10は、基端部12側が先端部
11側よりも幅広になるように形成される。これによると、アルミニウム合金でインサート部材1を鋳込む際に、鋳型内に流し込むアルミニウム合金を、突起部10の基端部12側へ流し込みやすくできるため、インサート部材1とモーターケースとの接合部分に空隙が生じることを防止できる。また、突起部10に負荷が掛かった際に、突起部10が折損しにくくなる。突起部10の先端部11の形状は特に限定されず、極大ピーク値≦0.50となるように形成されていれば、例えば、先端部11が丸形状や角形状やフラット形状に形成されていてもよい。
【0039】
平均実体部集計図に集約された突起部30において、極大ピークが極小ピークよりも図上先端部側に現れるように、複数の突起部10を形成してもよい。また、平均実体部集計図において、集約された突起部30の平均最大高さh1の中央位置から図上先端部までの範囲において図上先端部の位置を除いた平均実体部比率の合計値よりも、集約された突起部30の平均最大高さh1の中央位置から図上基端部までの範囲において図上基端部の位置を除いた平均実体部比率の合計値の方が大きくてもよい。ここで、集約された突起部30の平均最大高さh1の中央位置が、平均実体部比率の測定点と一致する場合は、集約された突起部30の平均最大高さh1の中央位置は図上先端部側に含めるものとする。これらによると、集約された突起部30において図上先端部側が図上基端部側よりも細いか否かを判定することができる。
【0040】
集約された突起部30において、極大ピークの位置は、測定高さが0mmとなる図上先端部よりも、図上基端部側にあってもよい。これによると、集約された突起部30において、図上先端部では極大ピークが形成されていないため、突起部10の先端部11の破損や折損を防ぐことができる。
【0041】
平均実体部比率は、平均実体部集計図にプロットされる複数の測定点のうち、2点以上の測定点の平均実体部比率の差が0.10以下であり且つ2点以上の測定点の測定高さの差が0.05mm以上となる範囲内に、2点以上の測定点を含んでもよい。図3には、この一例として、点N1~点N3のプロットを例示している。点N1~点N3にプロットされる値は、平均実体部比率の差が最大で0.007且つ測定高さの差が最大で0.10mmとなる範囲内にプロットされている。このように、2点以上の測定点において、平均実体部比率の差が0.10以下であり、且つ2点以上の測定点の測定高さの差が0.05mm以上となる場合等には、平均実体部集計図において、平均実体部曲線の傾きが急峻になる。このように、平均実体部集計図における、集約された突起部30の一部において、平均実体部曲線の傾きが急峻な箇所においては、平均的にみて複数の突起部10の一部が、インサート部材1の外周面に対して略垂直に形成されていることとなる。これによると、例えば、集約された突起部30に極大ピークが現れないグラフ形状であった場合でも、集約された突起部30の一部において、グラフの傾きが急峻な箇所を有することで、モーターケースとインサート部材1との接合強度を向上することができる。
【0042】
平均実体部集計図において、極大ピーク値と、極小ピーク値との差が、0.02以上0.20以下であってもよい。極大ピーク値と、極小ピーク値との差が0.02未満である場合、極大ピーク値と極小ピーク値との差が0.02以上である場合と比較して、モーターケースとインサート部材1との接合強度が低下する虞がある。また、極大ピーク値と、極小ピーク値との差が0.20を上回る場合、アルミニウム合金でインサート部材1を鋳込む際に、鋳型内に流し込むアルミニウム合金が突起部10の基端部12側に流れ込み難くなったり、形成される突起部10の一部に折損や破損が起こる虞がある。これに対し、極大ピーク値と、極小ピーク値との差を、0.02以上0.20以下とすることで、突起部10の破損を防止しつつ、高い接合強度を確保することができる。
【0043】
平均実体部集計図において、極小ピーク値が0.08以上であってもよい。極小ピーク
値が0.08を下回る場合、インサート部材1の製造過程において突起部10の形成が困難になる虞や、突起部10が折損しやすくなる虞がある。これに対し、極小ピーク値の平均実体部比率を0.08以上とすることで、突起部10の数が過度に少なくなってしまうことを抑制できる。また、突起部10が過度に細くなることに起因する強度不足を解消し、突起部10が破損し難くなる。
【0044】
平均実体部集計図において、極大ピーク値が0.50以下であってもよく、より好ましくは0.45以下であってもよい。極大ピーク値が0.50よりも大きい場合、アルミニウム合金でインサート部材1を鋳込む際に、鋳型内に流し込むアルミニウム合金が複数の突起部10間に行き渡りにくくなる虞がある。特に、基端部12側へアルミニウム合金が行き渡りにくくなる虞がある。さらに、平均実体部比率の値が極大ピークとなる位置付近において突起部10のエッジが欠損したり、平均実体部比率の値が極小ピークとなる位置付近において突起部10が折損しやすくなる虞もある。これに対し、極大ピーク値が0.50以下である場合、より好ましくは0.45以下である場合には、これらの問題を防止することができる。
【0045】
[試験・シミュレーション]
サンプルを用いた試験・シミュレーションにより、本発明の実施例1~13のインサート部材1及び比較例に係るインサート部材を評価した。具体的には、実施例及び比較例のインサート部材(以下、実施例等という)について、各種パラメータの測定・評価、実体切断試験、引張シミュレーション、せん断シミュレーションを行った。
【0046】
[各種パラメータの測定・評価]
各実施例等に係るインサート部材の各種パラメータの測定及び評価を行った。表1には、実施例等に係るインサート部材の各項目の結果を示す。また、実施例等に係るインサート部材は、所定のピッチを0.05mm又は0.025mm、長さd1を14.7mm又は5.57mmとして、突起部の平均最大高さh1が小さい場合は高い対物レンズ倍率を選択し、平均実体部集計図を作成した。なお、参考例として、突起部30を有さないインサート部材の各種パラメータを表1に示す。
【0047】
[1.外径ODに対する突起部の平均最大高さh1の割合]
項目1では、各実施例等における平均実体部集計図において、インサート部材の外径ODに対する集約された突起部30の平均最大高さh1の割合を百分率で求めた。これにより、実施例等における集約された突起部30が、インサート部材の外径ODの0.08%以上1%以下の範囲内で形成されているか否かを確認した。
【0048】
[2.図上先端部側よりも図上基端部側の方が太いか否か]
項目2では、各実施例等における平均実体部集計図を基に、集約された突起部30の平均最大高さh1の中央位置から図上先端部までの範囲において図上基端部の位置を除いた平均実体部比率の合計値よりも、図上先端部の位置を除いた平均実体部比率の合計値の方が大きいか否かの判定を行った。各実施例等における平均実体部集計図を基に、図上基端部側が図上先端部側よりも大きい場合(つまり、図上基端部側の方が太い場合)には「〇」とし、集約された突起部30の図上基端部側が図上先端部側と同等又は図上先端部側よりも小さい場合には「×」とした。
【0049】
[3.平均実体部比率の差が0.10以下、且つ測定高さの差が0.05mm以上となる2点以上の測定点を含むか否か]
項目3では、各実施例等における平均実体部集計図にプロットされる平均実体部比率において、平均実体部比率の差が0.10以下、且つ測定高さの差が0.05mm以上となる2点以上の測定点を含むか否かを判別した。当該条件に合致し得る点を含む場合には「
〇」とし、含まない場合には「×」とした。
【0050】
[4.極大ピーク、極小ピークの有無]
項目4では、各実施例等における平均実体部集計図において、極大ピーク及び極小ピークが存在し、且つ極大ピークが突起部の平均最大高さh1の中央位置よりも図上先端部側に位置し、極小ピークよりも図上先端部側である場合には「〇」とし、極大ピークが突起部の平均最大高さh1の中央位置よりも図上先端部側に位置し、極小ピークよりも図上基端部側である場合又は平均実体部集計図上にピークが現れない場合には「×」とした。
【0051】
[5.極小ピーク値][6.極大ピーク値と極小ピーク値との差]
項目5では、各実施例等における平均実体部集計図を基に、極小ピーク値を求めた。項目6では、各実施例等における平均実体部集計図を基に、極大ピーク値と極小ピーク値との差を求めた。
【0052】
[7.極大ピークの位置]
項目7では、各実施例等における平均実体部集計図を基に、極大ピークが図上先端部よりも図上基端部側に位置している場合には「〇」とし、平均実体部集計図上にピークが現れない場合には「×」とした。
【表1】
【0053】
表1のように測定された実施例等に係るインサート部材について、更に、実体切断試験、引張シミュレーション、せん断シミュレーションを行った。以下では試験・シミュレーションについて説明する。
【0054】
[実体切断試験]
実体切断試験では、実施例等におけるインサート部材をモーターケースに相当するアルミニウム合金で鋳込んだ。また、インサート部材とアルミニウム合金とが接合した状態で、20mm四方になるようにテストピースを切り出すことで接合強度を確認した。この際、インサート部材とアルミニウム合金との接合が、実体切断試験を行った6個全てのテストピースにおいて維持されている場合はA0とし、一部のテストピースにおいてインサート部材とアルミニウム合金とが剥離した場合にはB0とし、実体切断試験を行った6個全てのテストピースにおいてインサート部材とアルミニウム合金とが剥離した場合にはC0
とした。その結果を表4に示し、詳細については後述する。
【0055】
[引張シミュレーション]
通常、アルミニウム合金で鋳込まれたインサート部材を、鋳込まれた状態から切り出した場合、インサート部材の外部に位置するアルミニウム合金がダイキャスト後の冷却過程で凝固収縮及び熱収縮することで、インサート部材の外周面に形成されている突起部を締め付け、インサート部材とアルミニウム合金とが接合していた状態から、締め付け力の一部が解放されてしまう。そのため、実際の接合強度を測定することは困難である。これに対し、本シミュレーションでは、平均実体部集計図を基に複数の突起部を1つに集約した形状の突起を形成し、アルミニウム合金と鋳鉄製のインサート部材との線膨張係数差により膨張量に差が生じた時の、突起部の径方向における変位差をCAE解析によるシミュレーションにて評価した。この際、温度条件として、高温時:150℃、中温時:85℃の条件で評価を行った。代表例として、図3を参照しながら説明する。
【0056】
上述のように、図3には、平均実体部集計図を基に複数の突起部10を1つに集約した形状である、集約された突起部30を示している。集約された突起部30は、平均実体部集計図において、縦軸方向をインサート部材1における径方向として、横軸方向をインサート部材1における軸方向として、みなすことができる領域で画定されている。集約された突起部30を、縦軸方向の長さは保持しつつ、且つ集約された突起部30の平均実体部集計図における横軸方向の長さが1/2となるように縮小し(「縮小集約突起部」と称する)、さらに平均実体部集計図の縦軸を対称軸として回転させることで、インサート部材1の突起形状を一つにまとめた突起部のモデル(「モデル突起部」と称する)を求めることができる。ここで、集約された突起部30の横軸方向の長さを1/2に縮小する理由は、長さd1の範囲に存在する突起形状を一つにまとめたモデル突起部を定義し、モデル突起部を用いてシミュレーションを行うためである。縮小集約突起部の横軸方向の長さを長さd1に換算することで、縮小集約突起部の太さが求められる。本シミュレーションでは、2つのモデル突起部が互いに180°対向して外周面に形成されたインサート部材をアルミニウム合金で鋳込んだモデルを作成し、当該モデルに上記温度条件の温度変化を与えた際の径方向における変位をCAE解析によりシミュレーションすることで、熱膨張を模擬した引張評価を行う。この際、アルミニウム合金とインサート部材の径方向の変位差と、その変位差の突起部の平均最大高さh1に対する割合に基づき、表2のように判定を行った。
【表2】
【0057】
[せん断シミュレーション]
せん断シミュレーションでは、1つのモデル突起部が外周面に形成されたインサート部材をアルミニウム合金で鋳込んだモデルを作成しインサート部材に掛かる軸トルクを想定したせん断評価を行った。本シミュレーションでは、軸方向及び周方向に発生するせん断を想定した荷重を、アルミニウム合金で鋳込んだ当該モデル突起部に加えた。この際、せん断荷重はモーター軸トルク相当の荷重がインサート外周面に作用したと仮定して、アルミニウム合金とインサート部材の径方向の変位差について、その変位差の突起部の平均最大高さh1に対する割合に基づき、表3のように判定を行った。
【表3】
【0058】
上述のように測定した実体切断試験、引張シミュレーション、せん断シミュレーションの結果と、これらの結果を踏まえた総合判定を表4に示す。
【表4】
【0059】
総合判定では、実体切断試験、引張シミュレーション、せん断シミュレーションの何れもがA判定である場合に総合判定Aとし、実体切断試験、引張シミュレーション、せん断シミュレーションの何れかにC判定がある場合に総合判定Cとし、これら以外の結果の場合には総合判定Bとした。
【0060】
以上の結果より、実施例等を参照すると、集約された突起部30の平均最大高さh1は、外径ODの0.08%以上1%以下の範囲内で形成されていることが好ましく、集約された突起部30の平均最大高さh1が、外径ODの0.26%以上で形成されていることがより好ましいことが確認できた。また、集約された突起部30の平均最大高さh1が0.26%未満であるとインサート部材とモーターケースとの接合強度が低下することが確認できた。
【0061】
以上の結果より、実施例1~5、8と実施例6、7、9~13及び比較例とを比較することで、極小ピーク値が0.08以上であれば、高温条件でも引張シミュレーション及びせん断シミュレーションの結果に優れることが確認できた。同様に、極大ピーク値と極小ピーク値との差が0.02以上であることが好ましいことが確認できた。
【0062】
これらの結果に鑑みると、本実施形態に係るインサート部材1は、モーターケースとの接合強度が不足することを防止できると言える。
【0063】
次に、上述の試験・シミュレーションのうち、実施例13、実施例11、実施例2を例示して、夫々の実施例における平均実体部集計図、及びインサート部材1の態様について夫々説明する。図4は、本実施形態に係る実施例13における、インサート部材1の平均実体部集計図である。図5は、本実施形態に係る実施例11における、インサート部材1の平均実体部集計図である。図3は、本実施形態に係る実施例2における、インサート部材1の平均実体部集計図である。以下では、実施例13には図4を参照し、実施例11には図5を参照し、実施例2には図3を参照して、本実施形態に係る各実施例における平均実体部集計図、及びインサート部材1について夫々説明する。
【0064】
図4には、実施例13の集約された突起部30が、平均実体部集計図の横軸方向の長さにおいて1/2となるように縮小した縮小集約突起部301を示している。縮小集約突起部301を基にしたモデル突起部に鑑みると、図4に示す平均実体部集計図に係るインサート部材1においては、集約された突起部30は、断面形状が径方向に突出した略三角形状の形を成し、先端部11から基端部12へ広がる形状となっていることが確認できた。また、インサート部材1に形成される突起部10は、一つ一つが単独で存在していてもよく、また、周方向に沿うように連続して形成されていてもよい。さらに、周方向に沿うように連続して形成されている場合は、インサート部材1の外周面において、らせん状に配置されていてもよく、環状に且つ周方向に連続して形成されてもよい。実施例13では、集約された突起部30の最大高さが、インサート部材1の外径ODの0.08%以上に形成されており、インサート部材1とその外周面側のモーターケースが実用的な接合強度であることを確認できた。
【0065】
図5には、実施例11の集約された突起部30が、平均実体部集計図の横軸方向の長さにおいて1/2となるように縮小した縮小集約突起部302を示している。縮小集約突起部302を基にしたモデル突起部に鑑みると、図5に示す平均実体部集計図に係るインサート部材1において、平均実体部曲線が切り立った部分を有していることが確認できた。平均実体部曲線の傾きが急峻な部分を有するように形成されていると、周方向に生じたアルミニウム合金の凝固収縮及び熱収縮による力が周方向に生じやすく、実体切断試験においても剥離が生じず優れた結果が得られたことからインサート部材1とその外周面側のモーターケースとの接合強度が向上する一助となることが確認できた。
【0066】
図3には、実施例2の集約された突起部30が、平均実体部集計図の横軸方向の長さにおいて1/2となるように縮小した縮小集約突起部303を示している。これによると、図3に示す平均実体部集計図に係るインサート部材1において、集約された突起部30は、例えば、図2に示すような、先端部11と基端部12との中途部分に極大ピークと極小ピークとが形成された、フック形状を有している。また、この場合、平均実体部集計図において、極大ピークは極小ピークよりも図上先端部側に現れることが確認できた。
【0067】
上述のように、実施例2の態様では、統計的に見てインサート部材1の外周面に形成される突起部10が、フック形状を有していることとなる。これによると、突起部10のフック形状が外周面側のモーターケースと強固に噛み合い、インサート部材1とその外周面側のモーターケースとの接合強度が大幅に向上する。
【0068】
[作用効果]
インサート部材1の外周面に突起部10を形成することで、インサート部材1とその外周面側のモーターケースとの接合強度を向上させることができる。また、モーターケース
に対するインサート部材1の軸方向、周方向及び径方向における変位やずれを防止することができる。
【0069】
複数の突起部10は、インサート部材1の外周面において、互いに隣り合う突起部10が適度に間隔を有するように配置されていれば、鋳型内に流し込まれるアルミニウム合金が複数の突起部10間に好適に行き渡る。その結果、モーターケースとインサート部材1との間に生じる空隙を抑制することが可能となり、モーターケースとインサート部材1との間の接合強度を改善できる。特に、アルミニウム合金が隅々まで行き渡り難いとされる重力鋳造法により製造されたモーターケースであっても、アルミニウム合金がインサート部材1の外周面の突起間にも行き渡り易い。
【0070】
また、インサート部材1は、モーターケースに対して、軸方向、周方向及び径方向において強固に固定される。これにより、インサート部材1の内周を加工しステータホルダとして内周面40にステータを嵌合させ、モーターを稼働した時にも、ステータの各方向への変位を抑制することができる。その結果、モーターの信頼性、耐久性や連続使用時間の向上、フリクション低減による損失低減及び性能向上を期待できる。
【0071】
本発明のインサート部材1は、モーターケースとインサート部材1との接合強度を保つことができるため、インサート部材1とモーターケースとの間のずれや、わずかなすき間が生じることを防止できる。また、モーター稼働時においては、当該ずれやすき間を防止することで、当該すき間の面同士が、微振動によりたたかれ摩耗が生じ、モーター自体の耐久性が低下することを防止できる。
【0072】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 :回転電機用インサート部材
10 :突起部
20 :線分
30 :集約された突起部
C :インサート部材の中心軸
【要約】
【課題】モーターケースとの接合強度を向上可能な回転電機用インサート部材を提供する。
【解決手段】略円筒形状のインサート部材の外周面には、複数の突起部が形成される。インサート部材を切断した一切断面において、インサート部材の内周面と平行な、所定の軸方向長さの線分を一切断面に重ねた際には、線分上で突起部が線分に重なる実体部領域と、線分上で突起部が線分に重ならない非実体部領域とが画定される。線分上において、実体部領域の割合を示す値を実体部比率とした場合、複数の実体部比率の値を順にプロットした図を実体部集計図とする。複数の断面から求められる平均実体部集計図において、平均実体部比率が0の位置を図上先端部として、平均実体部比率が0.98を初めて超えた位置を図上基端部としたとき、図上先端部から図上基端部までの距離である突起部の平均最大高さはインサート部材の外径の0.08%以上である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5