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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】蒸着用電子銃装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/30 20060101AFI20240821BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C23C14/30 B
C23C14/24 A
C23C14/30 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023193835
(22)【出願日】2023-11-14
【審査請求日】2023-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 凌
(72)【発明者】
【氏名】尾木 真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-063635(JP,A)
【文献】特開2015-007269(JP,A)
【文献】特開2014-185356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/30
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口し内部に被膜部材に蒸着される蒸発材料が収容された坩堝の側方に設置される、電子ビーム源を備えた装置本体と、
前記装置本体から照射された電子ビームを前記坩堝に設定されたターゲット領域に案内するものであって、基端部が前記装置本体に設置され、先端部が前記坩堝の上方であって且つ前記装置本体から見た前記ターゲット領域の後方に配設され、且つ前記先端部に隣接する部分が前記装置本体と前記ターゲット領域とをつなぐ直線と交差する方向に延びる連結部を備える、一対のポールピースと、
前記ターゲット領域から反射した反射電子を所定の方向に偏向するために、前記一対のポールピースのそれぞれの前記先端部から、又はそれぞれの前記連結部の前記先端部に隣接する部分から前記装置本体から離れる方向に突出した一対の反射電子偏向部材と、を備える、
蒸着用電子銃装置。
【請求項2】
前記一対の反射電子偏向部材の対向する面のそれぞれに、互いに近づく方向に延びる1乃至複数本の磁場調整片が設けられている、
請求項1に記載の蒸着用電子銃装置。
【請求項3】
前記一対の反射電子偏向部材は、前記一対のポールピースのそれぞれの前記先端部又は前記先端部に隣接する位置から前記装置本体から離れる方向であって且つ前記坩堝から離れるあるいは近づく方向に延びる、
請求項1に記載の蒸着用電子銃装置。
【請求項4】
上部が開口し内部に被膜部材に蒸着される蒸発材料が収容された坩堝の側方に設置される、電子ビーム源を備えた装置本体と、
前記装置本体から照射された電子ビームを前記坩堝に設定されたターゲット領域に案内するものであって、基端部が前記装置本体に設置され、先端部が前記坩堝の上方であって且つ前記装置本体から見た前記ターゲット領域の後方に配設された、一対のポールピースと、
前記ターゲット領域から反射した反射電子を所定の方向に偏向するために、前記一対のポールピースのそれぞれの前記先端部又は前記先端部に近接する位置から前記装置本体から離れる方向に延びる一対の反射電子偏向部材と、を備え、
前記一対のポールピースは、前記基端部から前記坩堝の上方に到達する位置までの間の少なくとも一部に、前記ターゲット領域から離れる方向に延びる迂回部を備える、
着用電子銃装置。
【請求項5】
前記迂回部は、前記装置本体と前記ターゲット領域とをつなぐ直線と交差する方向に延びる、
請求項に記載の蒸着用電子銃装置。
【請求項6】
前記基端部は、前記坩堝の前記開口よりも下方に位置し、前記迂回部は、前記坩堝の前記開口よりも下方に延在している、
請求項に記載の蒸着用電子銃装置。
【請求項7】
上部が開口し内部に被膜部材に蒸着される蒸発材料が収容された坩堝の側方に設置される、電子ビーム源を備えた装置本体と、
前記装置本体から照射された電子ビームを前記坩堝に設定されたターゲット領域に案内するものであって、基端部が前記装置本体に設置され、先端部が前記坩堝の上方であって且つ前記装置本体から見た前記ターゲット領域の後方に配設され、且つ前記基端部から前記坩堝の上方に到達する位置までの間の少なくとも一部に、前記ターゲット領域から離れる方向に延びる迂回部を備える、一対のポールピースと、を備える、
蒸着用電子銃装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蒸着用電子銃装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空チャンバ内に置かれた蒸発材料を加熱蒸発させて得られた蒸発粒子を、基板やレンズといった光学デバイスを構成する部品等の被膜部材に付着させることで、被膜部材の成膜を行う真空蒸着装置が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
下記特許文献1には、真空蒸着装置に含まれるものであって、電子ビーム発生手段から発生した電子ビームを、ポールピースを含む偏向磁場発生手段で偏向させて坩堝内の蒸発材料に入射させる電子銃装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-007269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した真空蒸着装置は、光学デバイスの分野における薄膜形成に利用されることが多い。近年の光学デバイスの高性能化に伴い、光学デバイスに生成される光学薄膜の光損失(例えば、散乱や吸収)を抑制することが求められている。これに関連して、真空蒸着装置では、薄膜の成膜精度の向上が求められている。しかしながら、既存の真空蒸着装置、特に真空蒸着装置に利用される蒸着用電子銃装置には、成膜品質の低下を抑制する観点において、未だ改善の余地がある。
【0006】
上述の点を踏まえ、本開示は、成膜品質の低下を抑制した蒸着用電子銃装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上部が開口し内部に被膜部材に蒸着される蒸発材料が収容された坩堝の側方に設置される、電子ビーム源を備えた装置本体と、前記装置本体から照射された電子ビームを前記坩堝に設定されたターゲット領域に案内するものであって、基端部が前記装置本体に設置され、先端部が前記坩堝の上方であって且つ前記装置本体から見た前記ターゲット領域の後方に配設された、一対のポールピースと、前記ターゲット領域から反射した反射電子を所定の方向に偏向するために、前記一対のポールピースのそれぞれの前記先端部又は前記先端部に近接する位置から前記装置本体から離れる方向に延びる一対の反射電子偏向部材と、を含む。
【0008】
このような蒸着用電子銃装置においては、反射電子偏向部材を設けたことで、反射電子のエネルギーを低減させることができ、反射電子が被膜部材に照射されることに起因する成膜品質の低下を抑制することができる。
【0009】
本開示の第2の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上記本開示の第1の態様に係る蒸着用電子銃装置において、前記一対の反射電子偏向部材は、前記反射電子が前記坩堝の上部において2回目に反射する位置よりも前記装置本体から見た後方に至る位置まで延びている。
【0010】
このような蒸着用電子銃装置においては、反射電子偏向部材により生成される磁場を反射電子に効率的に作用させることができ、反射電子が被膜部材に照射されることを効果的に抑制できる。
【0011】
本開示の第3の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上記本開示の第1又は第2の態様に係る蒸着用電子銃装置において、前記一対の反射電子偏向部材の対向する面のそれぞれに、互いに近づく方向に延びる1乃至複数本の磁場調整片が設けられている。
【0012】
このような蒸着用電子銃装置においては、反射電子偏向部材により発生させる磁場を局所的に強くすることができ、反射電子偏向部材の周囲の磁場の調整が容易になる。
【0013】
本開示の第4の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上記本開示の第1乃至第3の態様のいずれかに係る蒸着用電子銃装置において、前記一対の反射電子偏向部材は、前記一対のポールピースのそれぞれの前記先端部又は前記先端部に隣接する位置から前記装置本体から離れる方向であって且つ前記坩堝から離れるあるいは近づく方向に延びる。
【0014】
このような蒸着用電子銃装置においては、反射電子の進行方向に沿って反射電子偏向部材を延在させることができ、反射電子偏向部材により生成される磁場を反射電子に効率的に作用させることができる。これにより、反射電子のエネルギーを効果的に抑制できる。
【0015】
本開示の第5の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上記本開示の第1乃至第4の態様のいずれかに係る蒸着用電子銃装置において、前記一対のポールピースは、前記基端部から前記坩堝の上方に到達する位置までの間の少なくとも一部に、前記ターゲット領域から離れる方向に延びる迂回部を含む。
【0016】
このような蒸着用電子銃装置においては、ポールピースをターゲット領域から離れた位置に引き回すことができるため、ポールピース表面に蒸発材料が付着することを抑制できる。これにより、ポールピースに付着した蒸発材料の再蒸発に関連した生じる成膜品質の低下を抑制することができる。
【0017】
本開示の第6の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上記本開示の第5の態様に係る蒸着用電子銃装置において、前記迂回部は、前記装置本体と前記ターゲット領域とをつなぐ直線と交差する方向に延びる。
【0018】
このような蒸着用電子銃装置においては、ポールピースへの蒸発材料の付着をより効果的に抑制できる。
【0019】
本開示の第7の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上記本開示の第5又は第6の態様に係る蒸着用電子銃装置において、前記基端部は、前記坩堝の前記開口よりも下方に位置し、前記迂回部は、前記坩堝の前記開口よりも下方に延在している。
【0020】
このような蒸着用電子銃装置においては、ポールピースへの蒸発材料の付着をより効果的に抑制できる。
【0021】
本開示の第8の態様に係る蒸着用電子銃装置は、上部が開口し内部に被膜部材に蒸着される蒸発材料が収容された坩堝の側方に設置される、電子ビーム源を備えた装置本体と、前記装置本体から照射された電子ビームを前記坩堝に設定されたターゲット領域に案内するものであって、基端部が前記装置本体に設置され、先端部が前記坩堝の上方であって且つ前記装置本体から見た前記ターゲット領域の後方に配設され、且つ前記基端部から前記坩堝の上方に到達する位置までの間の少なくとも一部に、前記ターゲット領域から離れる方向に延びる迂回部を備える、一対のポールピースと、を含む。
【0022】
このような蒸着用電子銃装置においては、ポールピースをターゲット領域から離れた位置に引き回すことができるため、ポールピース表面に蒸発材料が付着することを抑制できる。これにより、ポールピースに付着した蒸発材料の再蒸発に関連した生じる成膜品質の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の蒸着用電子銃装置によれば、成膜品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の第1の実施の形態に係る蒸着用電子銃装置の一例を示した概略斜視図である。
図2図1に示す蒸着用電子銃装置の平面図である。
図3図1に示す蒸着用電子銃装置の側面図である。
図4図1に示す蒸着用電子銃装置の反射電子偏向部材の変形例を示した図である。
図5図1に示す蒸着用電子銃装置の反射電子偏向部材の変形例を示した図である。
図6図1に示す蒸着用電子銃装置のポールピースの変形例を示した図である。
図7】本開示の第2の実施の形態に係る蒸着用電子銃装置の一例を示した概略斜視図である。
図8図7に示す蒸着用電子銃装置の平面図である。
図9図7に示す蒸着用電子銃装置のポールピースの変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本開示を実施するための各実施の形態について説明する。なお、以下では本開示の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本開示の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。また、図中の互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。さらに、図中の互いに同一又は相当する部材が複数個含まれている場合には、図を見易くするために、そのうちのいくつかにのみ符号を付している場合がある。
【0026】
<第1の実施の形態>
図1は、本開示の第1の実施の形態に係る蒸着用電子銃装置の一例を示した概略斜視図である。また、図2は、図1に示す蒸着用電子銃装置の平面図である。また、図3は、図1に示す蒸着用電子銃装置の側面図である。なお、以下の説明においては、図1乃至図3中に示した矢印Aで示す方向を左右方向、矢印Bで示す方向を前後方向、矢印Cで示す方向を高さ方向(あるいは上下方向)と仮に規定する。
【0027】
本開示の第1の実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1は、真空蒸着装置の一部として採用され得る。この真空蒸着装置は、例えば、内部を実質的に真空状態にすることが可能な真空チャンバ(図示省略)と、当該真空チャンバ内の上方に支持された被膜部材の一例としての基板(図示省略)と、内部に上述した基板に蒸着される蒸発材料2が収容された坩堝(「ハース」あるいは「ハースライナー」と呼ばれることもある)3と、蒸着用電子銃装置1と、を少なくとも含むものであってよい。なお、本開示の蒸着用電子銃装置1は、上述した構成の真空蒸着装置以外の蒸着装置にも適用可能である。
【0028】
本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1は、図1乃至図3に示すように、坩堝3に隣接するように配設され、坩堝3内に収容された蒸発材料2に電子ビームEBを照射するための装置であってよい。なお、ここでいう隣接とは、坩堝3と隣り合っていればよく、図1に示すもののように坩堝3の側方に配置していてもよいし、坩堝3の下方にその少なくとも一部が配設されたようなものも含み得る。
【0029】
本実施の形態で例示する坩堝3は、図2に示すように、上部が開口した円環状の収容部3Aを有している。当該収容部3Aには、収容部3Aと同様に円環状であって、且つ収容部3Aよりも僅かに小さな蒸発材料2が収容されていてよい。この坩堝3は、ターゲット領域TAに位置する蒸発材料2を変更するために、図示しない回転機構に接続され、水平方向に回転可能となっていてよい。坩堝3の回転速度は、蒸発材料2の容量や蒸発速度等を考慮して調整するとよい。
【0030】
なお、本実施の形態では、坩堝3として円環状の収容部3Aを備えるものを例示したが、坩堝3の形状はこれに限定されない。例えば、ターゲット領域TAと実質的に同じ大きさの開口を有する一のカップ型の坩堝を採用する、あるいは、複数のカップ型の坩堝を円盤状の回転台の上に所定の間隔を空けて複数個円形に配設し、回転台を回転させることで電子ビームが照射される坩堝を変更可能なものを採用するといったこともできる。また、坩堝3のうち、ターゲット領域TAを除く開口部分は、反射電子REの衝突等に伴う意図しない加熱や、外部からの汚染を抑制するために、図示しないカバー部材によって覆われていてもよい。
【0031】
蒸発材料2には、基板に蒸着させたい材料を適宜採用すればよい。具体的に例示すれば、酸化ケイ素(SiO)や酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)といった材料が採用され得る。円環状の蒸発材料2のうちターゲット領域TAに位置する部分に電子ビームEBが照射されることで、当該部分の蒸発材料2は加熱され溶融されて蒸発し、ターゲット領域TAの上方に設置された基板の表面に蒸着される。
【0032】
上記蒸着用電子銃装置1は、少なくとも、坩堝3の側方にその少なくとも一部が設置される装置本体10と、装置本体10から照射された電子ビームEBを坩堝3に設定されたターゲット領域TAに案内する電子ビーム偏向手段20と、ターゲット領域TAから反射した反射電子REを所定の方向に偏向するための一対の反射電子偏向部材30L、30Rと、を含む。
【0033】
装置本体10は、坩堝3の側方に設置されて、電子ビームEBを照射することが可能な部材である。この装置本体10は、筐体11と、筐体11内部に設けられた電子ビーム源12と、筐体11の上部に形成された窓部13と、を含むものであってよい。
【0034】
電子ビーム源12は、例えば、熱電子を放出するフィラメントと、熱電子を加速して電子ビームEBとする加速部と、を含むものであってよい。また、筐体11は、電子ビーム源12を内部に収容し、その上面が平坦に形成され且つ当該上面の一部に貫通孔で構成される窓部13が形成されたものであってよい。さらに、筐体11内における窓部13の周囲には、電子ビームEBをターゲット領域TA内で走査するためのスキャンコイル(図示省略)が配設されていてもよい。前述の構成を含む電子ビーム源12で生成された電子ビームEBは、窓部13を介して筐体11外に放射される。
【0035】
電子ビーム偏向手段20は、装置本体10において生成され筐体11外に放射された電子ビームEBを偏向して、坩堝3に設定されたターゲット領域TAに案内する手段である。電子ビーム偏向手段20は、電場あるいは磁場を用いて電子ビームEBを所定の方向に偏向する。本実施の形態の電子ビーム偏向手段20は、周囲に磁場(磁界)を発生させることで電子ビームEBをターゲット領域TAに案内する一対のポールピース21L、21Rと、一対のポールピース21L、21Rの周囲に磁場を発生させるための磁力源22と、を少なくとも含む。
【0036】
一対のポールピース21L、21Rは、強磁性体で構成された、所定の肉厚を有する帯状の部材で構成することができる。この一対のポールピース21L、21Rは、装置本体10、より詳しくは窓部13とターゲット領域TAとをつなぐ直線Lを間に挟むように配設されていてよい。より好ましくは、一対のポールピース21L、21Rは、当該直線Lを基準に対称な形状となるように、互いに間隔を空けて配設されていてよい。また、一対のポールピース21L、21Rは、少なくとも、その基端部41L、41Rが装置本体10に設置され、先端部42L、42Rが坩堝3の上方であって且つ装置本体10から見たターゲット領域TAの後方に配設される。なお、直線Lは、電子ビームEBの水平方向における進行方向に実質的に一致し得る。また、本実施の形態では、一対のポールピース21L、21Rとして直線Lを基準に対称な形状のものを例示したが、一対のポールピース21L、21Rの形状は対称である必要はなく、それぞれが異なる形状を備えていてよい。
【0037】
基端部41L、41Rは、筐体11上の窓部13を挟む位置に設定されていてよい。また、この基端部41L、41Rには、磁力源22が連結されていてよい。さらに、基端部41L、41Rは、坩堝3の収容部3Aの開口よりも下方に位置していると蒸発した蒸発材料2に晒されることが実質的になく好ましい。
【0038】
先端部42L、42Rは、ターゲット領域TAの前後方向における後方に所定の間隔を空けて対向するように配設されていてよい。この先端部42L、42Rの形状は、先端部42L、42Rで形成される磁場の向きがターゲット領域TAに向かうよう、図1及び図2に示すように、対向する端面の少なくとも一部が平面視で前方から後方に向かうにしたがって近づくような形状となっていると好ましい。
【0039】
また、本実施の形態に係る一対のポールピース21L、21Rの基端部41L、41Rと先端部42L、42Rとの間は、ターゲット領域TAから離れる方向に延びる迂回部43L、43Rと、迂回部43L、43Rと先端部42L、42Rとの間をつなぐ連結部44L、44Rとで構成することができる。
【0040】
迂回部43L、43Rは、基端部41L、41Rから坩堝3の上方に到達する位置、換言すると、平面視で坩堝3に重なる位置までの間に設けられていてよい。本実施の形態の迂回部43L、43Rは、図1及び図2に示すように、その一端部が基端部41L、41Rに連結し、且つ当該一端部から、上述した直線Lと交差する方向、具体的には左右方向に沿って互いに離れるように延びている。また、迂回部43L、43Rは、その少なくとも一部が坩堝3の収容部3Aの開口よりも下方に延在していると好ましい。ポールピース21L、22Rが上述した迂回部43L、43Rを含むことにより、ポールピース21L、22Rをターゲット領域TAの上方から離れた位置に引き回すことができる。当該迂回部43L、43Rを設けたことによる作用及び効果等については後に詳細に説明する。
【0041】
連結部44L、44Rは、迂回部43L、43Rの他端と先端部42L、42Rとの間をつなぐものである。本実施の形態では、連結部44L、44Rは、ターゲット領域TAから比較的離れた位置を通過するよう、平面視で略L字状に形成されている。
【0042】
磁力源22は、永久磁石あるいは励磁コイル(電磁石)で構成することができる。この磁力源22は、ポールピース21L、21Rや筐体11内の他の部材に接続されることでポールピース21L、21R等を磁化(励磁)することができる。
【0043】
本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1は、上述した構成を含む電子ビーム偏向手段20の作用により、装置本体10から照射された電子ビームEBが、図3に示すように、その進行方向が180~270°偏向され、ターゲット領域TAに照射される。この電子ビームEBが照射されたターゲット領域TAの蒸発材料2は、電子ビームEBによって加熱されて溶融され、蒸発して、ターゲット領域TAの上方に事前に設置された被膜部材としての基板の表面に蒸着されて薄膜を形成する。
【0044】
ところで、既存の蒸着用電子銃装置を含む真空蒸着装置において、被膜部材の成膜品質を低下させる要因の一つに、蒸発材料に反射した反射電子が被膜部材上の薄膜(蒸着膜)へ衝突することが挙げられる。詳しくは、蒸発材料に照射された電子ビームの一部が蒸発材料に吸収されずに飛び出た反射電子が、蒸発材料の上方に設置された被膜部材としての基板の表面に衝突することで、当該衝突した部分の薄膜が破壊あるいは変形されることがある。当該破壊あるいは変形は、反射電子が薄膜に衝突した際の衝撃により、あるいは反射電子が衝突した際に発生する熱に起因して引き起こされる。本実施の形態では、上述した反射電子による成膜品質の低下を抑制するために、上述した一対の反射電子偏向部材30L、30Rを採用している。
【0045】
一対の反射電子偏向部材30L、30Rは、ターゲット領域から反射した反射電子を所定の方向に偏向するための部材である。この一対の反射電子偏向部材30L、30Rは、図1乃至図3に示すように、一対のポールピース21L、21Rのそれぞれの先端部42L、42R、又は先端部42L、42Rに近接する位置から、装置本体10から離れる方向に延びている。一対の反射電子偏向部材30L、30Rは、ポールピース21L、21Rと同様に強磁性体で構成された所定の肉厚を有する帯状の部材で構成することができる。本実施の形態では、一対の反射電子偏向部材30L、30Rは、ポールピース21L、21Rと一体に形成されているものを例示しているが、これに限定されない。例えば、一対の反射電子偏向部材30L、30Rとポールピース21L、21Rとは、別部材で構成した上で連結されていてもよい。
【0046】
上述した一対の反射電子偏向部材30L、30Rが一対のポールピース21L、21Rと一体に形成される、あるいは、別部材で構成された後、両者が連結されることにより、一対の反射電子偏向部材30L、30Rは、一対のポールピース21L、21Rと同様に磁力源22によって磁化される。したがって、本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1では、一対の反射電子偏向部材30L、30Rを磁化させるための磁力源を別途準備する必要がない。
【0047】
また、本実施の形態の一対の反射電子偏向部材30L、30Rは、所定の間隔を空けて実質的に平行に延在している。前述の所定の間隔は、例えばターゲット領域TAの左右方向の幅等を考慮して適宜調整され得る。また、本実施の形態では、一対の反射電子偏向部材30L、30Rが所定の間隔を空けて実質的に平行に延びているものを例示するが、基端部から先端部に向かって上記間隔が狭くなったり、広くなったりしていてもよい。
【0048】
一対の反射電子偏向部材30L、30Rで発生した磁場は、ターゲット領域TAに照射された電子ビームEBが反射して上方に向かって飛び出た反射電子REを下方に偏向させるように主に作用する。一対の反射電子偏向部材30L、30Rで発生した磁場により偏向された反射電子REは、図3に示すように、ターゲット領域TA内の電子ビームEBが照射された任意の位置P1から上方に飛び出た後、一対の反射電子偏向部材30L、30Rの隙間に沿って進みつつ坩堝3の上面に近づくように下方に向かって進み、坩堝3上の任意の位置P2に衝突する。位置P2で坩堝3の上面に衝突した反射電子REは、一部が当該坩堝3の上面に吸収され、他の一部が再び反射電子REとして上方に飛び出る。再び反射した反射電子REは、一対の反射電子偏向部材30L、30Rの隙間に沿ってさらに進みつつ坩堝3の上面に近づくように下方に向かって進み、坩堝3の上面の他の任意の位置P3に衝突する。以降、同様の動作が繰り返され得る。なお、図3においては、反射電子REの軌跡を理解しやすくするために、特定のタイミングにおける電子ビームEBの照射位置(1回目に反射する位置ともいう)P1と、それに関連する反射電子REの反射位置(2回目及び3回目に反射する位置ともいう)P2、P3をそれぞれ任意の一点で図示したものを例示したが、各位置P1~P3は、電子ビームEBの照射位置やエネルギーによって変位し得るものである。したがって、各位置P1~P3は諸条件によって特に前後方向に変位し得る。
【0049】
本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1によれば、上述した反射の回数に応じて基板表面に衝突する電子線のエネルギーが減少し、以て成膜品質の低下を抑制することができる。なお、本実施の形態では、反射電子REを一対の反射電子偏向部材30L、30Rの周囲に発生した磁場の作用により、坩堝3の上面に衝突させる場合を例示したが、坩堝3の上面に予め図示しないカバー部材を設けておき、当該カバー部材の表面に反射電子REを衝突させるようにしてもよい。当該カバー部材としては、ターゲット領域TA及びターゲット領域TAの周囲の高温領域HAの上部を除く坩堝3の上面を覆うことが可能な板状の部材を採用することができる。また、カバー部材の材料には反射電子のエネルギー等を吸収可能な材料を採用するとよい。このようなカバー部材を採用すれば、反射電子REがターゲット領域TAに位置していない部分の蒸発材料2に衝突することをも抑制できる。
【0050】
一対の反射電子偏向部材30L、30Rの長手方向の長さは、少なくとも、反射電子REが坩堝3の上部において2回目に反射する位置(図3における位置P2)よりも装置本体10から見た後方に至る位置まで延びていると好ましい。より好ましくは、一対の反射電子偏向部材30L、30Rの長手方向の長さは、図3に示すように、反射電子REが坩堝3の上部において3回目に反射する位置(図3における位置P3)よりも装置本体10から見た後方に至る位置まで延びているとよい。一対の反射電子偏向部材30L、30Rを上述した長さに調整することで、反射電子REに一対の反射電子偏向部材30L、30Rによる磁場を効率的に作用させることができる。したがって、一対の反射電子偏向部材30L、30Rの間の領域を通過した後の反射電子REのエネルギーを大幅に低減させることができる。なお、反射電子REが2回目に反射する位置は、電子ビームEBの照射位置やエネルギー、及び反射電子RE自体のエネルギー等によって特に前後方向に変位し得る。したがって、上述した「2回目に反射する位置」とは、種々の環境で飛び出る反射電子REが2回目に坩堝3の上面に反射する位置の前後方向における平均の位置を指すものとする。
【0051】
上述した一実施の形態では、一対の反射電子偏向部材30L、30Rとして、一対のポールピース21L、21Rの先端部42L、42Rから前後方向に沿って実質的に並行に延びる帯状の強磁性体を用いた場合を例示したが、本開示はこれに限定されない。そこで以下には、一対の反射電子偏向部材のいくつかの変形例を例示的に説明する。なお、以下に示す変形例は、一対の反射電子偏向部材に関する構造を除き、上述した第1の実施の形態のものと同様である。したがって、上述した実施の形態と同様の構造には同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を中心に説明を行う。
【0052】
図4及び図5は、図1に示す蒸着用電子銃装置の反射電子偏向部材の変形例を示した図である。なお、図4(A)、図4(B)及び図5(A)は平面図であり、図5(B)は側面図である。上述した蒸着用電子銃装置1においては、一対の反射電子偏向部材30L、30Rが、上述した一対のポールピース21L、21Rの先端部42L、42Rから延びている。これに対し、本変形例に係る蒸着用電子銃装置1Aは、図4(A)に示すように、一対のポールピース21L、21Rの先端部42L、42Rに近接する位置から延びる一対の反射電子偏向部材31L、31Rを有している。
【0053】
本変形例の蒸着用電子銃装置1Aの一対の反射電子偏向部材31L、31Rは、一対のポールピース21L、21Rの先端部42L、42Rからでなく、連結部44L、44Rの先端部42L、42Rに相対的に近い位置から延在するように形成されている。この一対の反射電子偏向部材31L、31Rでは、図4(A)に示すように、一対の反射電子偏向部材31L、31R間の隙間が上述した一対の反射電子偏向部材30L、30R間の隙間に比べて大きくなり得る。そのため、一対の反射電子偏向部材31L、31Rにより生成される磁場は、反射電子REの偏向に支障のない程度にその大きさが調整されるとよい。なお、一対の反射電子偏向部材31L、31Rの基端部と連結部44L、44Rとが連結された位置は、一対の反射電子偏向部材31L、31Rの周囲に生成される磁場の向き及び大きさを考慮して調整するとよい。
【0054】
また、上述した蒸着用電子銃装置1では、一対の反射電子偏向部材30L、30Rとして、実質的に平行に延びるものを採用している。これに対し、本変形例に係る蒸着用電子銃装置1Bは、図4(B)に示すように、基端部から先端部に向かって互いに離れる方向に延びる一対の反射電子偏向部材32L、32Rを採用している。
【0055】
本変形例の蒸着用電子銃装置1Bの一対の反射電子偏向部材32L、32Rは、一対のポールピース21L、21Rの先端部42L、42Rから、装置本体10から離れる方向であって且つ直線Lに対して傾斜した方向に延びている。これにより、一対の反射電子偏向部材32L、32Rは、図4(B)に示すように、基端部同士の間の隙間に比べて先端部同士の間の隙間の方が大きくなっている。一対の反射電子偏向部材32L、32R同士のなす角は、例えば-60°~90°、より好ましくは-30°~60°に調整されていてよい。なお、一対の反射電子偏向部材32L、32Rのなす角が負になる場合(例えば-30°)には、図4(B)に示す形状とは異なり、基端部同士の間の隙間に比べて先端部同士の隙間が小さくなる。このような構成を備える一対の反射電子偏向部材32L、32Rにおいても、上述した一対の反射電子偏向部材30L、30Rにおいて説示したのと同様の効果を奏することができる。上述した一対の反射電子偏向部材32L、32Rは、一対のポールピース21L、21Rの先端部42L、42Rから延びているが、これに代えて、一対のポールピース21L、21Rの先端部42L、42Rに近接する位置から延びるようにしてもよい。
【0056】
さらに、上述した蒸着用電子銃装置1では、一対の反射電子偏向部材30L、30Rとして、帯状の強磁性体を採用している。これに対し、本変形例に係る蒸着用電子銃装置1Cは、互いに対向する面に1乃至複数個の突起(磁場調整片34L、34R)を設けた一対の反射電子偏向部材33L、33Rを含む。
【0057】
本変形例の蒸着用電子銃装置1Cの一対の反射電子偏向部材33L、33Rは、上述した一対の反射電子偏向部材30L、30Rと同様に、一対のポールピース21L、21Rの連結部44L、44Rの先端部42L、42Rに相対的に近い位置から、実質的に平行に延在している。そして、この一対の反射電子偏向部材33L、33Rのそれぞれの対向する面には、図5(A)に示すように、互いに近づく方向に延びる1乃至複数本(図5(A)では各2本)の磁場調整片34L、34Rが設けられている。当該磁場調整片34L、34Rは、一対の反射電子偏向部材33L、33Rの周囲に生成される磁場の向き及び大きさを調整するために設けられた突起であってよい。磁場調整片34L、34Rが設けられる位置は特に限定されないが、反射電子REを偏向する作用を考慮して配設するとよい。例えば、磁場調整片34L、34Rは、反射電子REが坩堝3の上面に反射する位置、あるいは当該位置の後方に位置するように配設されていてよい。
【0058】
磁場調整片34L、34Rは、周囲に生成される磁場の大きさや向きを変位させることができるため、磁場調整片34L、34Rがないものに比べて、生成される磁場の調整をより容易に実現できる。また、このような構成を備える一対の反射電子偏向部材33L、33Rにおいても、上述した一対の反射電子偏向部材30L、30Rにおいて説示したのと同様の効果を奏することができる。
【0059】
さらにまた、上述した蒸着用電子銃装置1では、一対の反射電子偏向部材30L、30Rが水平方向に延在しているものを例示している。これに対し、本変形例に係る蒸着用電子銃装置1Dは、基端部から先端部に向かって装置本体10から離れる方向であって、且つ坩堝3からも離れる、あるいは坩堝3に近づく方向に延びた一対の反射電子偏向部材35L、35Rを含んでいる。
【0060】
本変形例の蒸着用電子銃装置1Dの一対の反射電子偏向部材35L、35Rは、水平面に対して斜め上方に直線状に延在している。この一対の反射電子偏向部材35L、35Rの水平面に対する傾斜角度は、図5(B)に示すように、例えば-30°~60°、より好ましくは0°~45°に調整されていてよい。このような構成を備える一対の反射電子偏向部材35L、35Rにおいても、上述した一対の反射電子偏向部材30L、30Rにおいて説示したのと同様の効果を奏することができる。なお、上記一対の反射電子偏向部材35L、35Rとしては、直線状に延びるものを例示したが、直線状である必要は必ずしもなく、例えばその一部が湾曲していてもよい。また、一対の反射電子偏向部材35L、35Rが坩堝3に近づく方向に延びる場合には、坩堝3と一対の反射電子偏向部材35L、35Rとが接触しない範囲の角度が選定されるとよい。また、一対の反射電子偏向部材35L、35Rの高さ位置と坩堝3の上端の高さ位置とが近く、所望の角度で一対の反射電子偏向部材35L、35Rを傾斜させることが困難な場合には、迂回部43L、43Rの高さを調整して一対のポールピース21L、21Rの先端の高さを高くするとよい。
【0061】
以上説明した通り、本実施の形態及び各変形例に係る蒸着用電子銃装置によれば、一対のポールピースから一対の反射電子偏向部材を延在させるという比較的簡単な構成で、ターゲット領域から反射して飛び出た反射電子のエネルギーを低減させることができる。これにより、反射電子が被膜部材の表面に衝突することに伴う被膜部材の成膜品質の低下を抑制することができる。
【0062】
他方、既存の蒸着用電子銃装置を含む真空蒸着装置における、被膜部材の成膜品質を低下させる要因は、上述した反射電子の薄膜への衝突以外にも存在する。具体的には、例えばターゲット領域から蒸発した蒸発材料が被膜部材以外の部材に蒸着することに起因する薄膜の汚染(コンタミネーション)を挙げることができる。このような薄膜の汚染は、特にターゲット領域の上方にポールピースが配設されている場合に発生しやすい。これは、坩堝から蒸発した蒸発材料がポールピースに付着・堆積し、堆積した蒸発材料が坩堝内又は坩堝付近に落下して再蒸発する、あるいは堆積した蒸発材料がポールピース表面で加熱されて再蒸発することに起因するものと推測される。再蒸発した材料は坩堝内の蒸発材料とは異なる材料であり得るだけでなく、再蒸発した材料自体が変質していたり、蒸発速度を制御できなかったりするため、成膜品質に影響を与えることが分かっている。
【0063】
加えて、蒸発材料の蒸発は、ターゲット領域だけでなく、ターゲット領域の周囲に位置し、ターゲット領域の加熱に伴って加熱され高温となる領域(以下、「高温領域」と呼ぶ)でも生じ得る。したがって、上述した要因に起因する成膜品質の低下は、ターゲット領域及び高温領域の上方にポールピースが配置していなければ実質的に回避することができる。しかしながら、ターゲット領域及び高温領域の上方にポールピースを配置することなく電子ビームを所望の方向に偏向するためには、電子ビームの周囲の磁場を正確に制御する必要があり、容易ではない。そこで、本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1は、上述した成膜品質の低下の要因をも考慮して、一対のポールピース21L、21Rに上述した迂回部43L、43Rを設けることで、ポールピース21L、21Rに蒸発材料が付着・堆積することを抑制している。
【0064】
本実施の形態における一対のポールピース21L、21Rでは、電子ビームEBをターゲット領域TAへ安定して照射させるために最も有効な磁場を周囲に発生させるために、その先端部42L、42Rをターゲット領域TAに比較的近い位置に配置している。他方で、ポールピース21L、21Rの、先端部42L、42Rと基端部41L、41Rとの間をつなぐ部分がターゲット領域TA及び高温領域HAの上方にできるだけ位置しないようにするために、迂回部43L、43Rを採用している。
【0065】
本実施の形態の一対のポールピース21L、21Rに設けられた迂回部43L、43Rは、上述したように、基端部41L、41Rから坩堝3の上方に到達する位置までの間に設けられている。また、この迂回部43L、43Rは、坩堝3の収容部3Aの開口よりも下方を延在している。したがって、迂回部43L、43Rは、ターゲット領域TA及び高温領域HAの上方に位置していないため、蒸発材料2が付着することが実質的にない。また、迂回部43L、43Rの先端はターゲット領域TAから離れて配置される。
【0066】
連結部44L、44Rは、上述の迂回部43L、43Rと先端部42L、42Rとをつなぐものであるが、迂回部43L、43Rの先端がターゲット領域TAから離れた位置に配置しているため、図2に示すように、ターゲット領域TA及び高温領域HAから離れた位置を引き回すことができる。これにより、蒸発した蒸発材料2が連結部44L、44Rに付着することを抑制できる。
【0067】
以上説明した通り、本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1によれば、一対のポールピース21L、21Rの一部に迂回部43L、43Rを形成することで、一対のポールピース21L、21Rをターゲット領域TAに対して離れた位置に配設できる。これにより、従来のようにポールピースを基端部から坩堝3の上部へ直線的に延在させた場合に比して、蒸発材料のポールピースへの付着を大幅に低減でき、薄膜の汚染を抑制できるようになる。
【0068】
本開示の一対のポールピースは、上述した一対のポールピース21L、21Rのような形状のものに限定されない。そこで、以下には本開示に含まれるポールピースの変形例をいくつか説明する。なお、以下に示す変形例は、一対のポールピースに関する構造を除き、上述した第1の実施の形態のものと同様である。したがって、上述した実施の形態と同様の構造には同一の符号を付してその説明を省略し、以下では異なる部分を中心に説明を行う。
【0069】
図6は、図1に示す蒸着用電子銃装置のポールピースの変形例を示した図である。例えば、本変形例に係る蒸着用電子銃装置1Eでは、上述した一対のポールピース21L、21Rに代えて、図6(A)に示すような、一部が円弧状に湾曲した一対のポールピース50L、50Rを採用することができる。
【0070】
本変形例の蒸着用電子銃装置1Eの一対のポールピース50L、50Rは、上述したポールピース21L、21Rと同様に、強磁性体で構成された、所定の肉厚を有する帯状の部材で構成することができる。この一対のポールピース50L、50Rは、図6(A)に示すように、直線Lを基準に対称な形状となるように、互いに間隔を空けて配設されている。また、一対のポールピース50L、50Rは、基端部51L、51Rが装置本体10に設置され、先端部52L、52Rが坩堝3の上方であって且つ装置本体10から見たターゲット領域TAの後方に配設されている。加えて、基端部51L、51Rと先端部52L、52Rとの間に迂回部53L、53R及び連結部54L、54Rが配設されている。
【0071】
基端部51L、51Rは、上述した基端部41L、41Rと同様に、筐体11上の窓部13を挟む位置に配設され、磁力源22に連結されていてよい。また、先端部52L、52Rは、上述した先端部42L、42Rと同様に、ターゲット領域TAの前後方向における後方に所定の間隔を空けて配設されていてよい。
【0072】
迂回部53L、53Rは、図6(A)に示すように、一端が基端部51L、51Rに連結し、先端がターゲット領域TAよりも後方、例えば先端部52L、52Rと同様の前後方向位置に到達する円弧状の部材であってよい。この迂回部53L、53Rは、坩堝3の外側を、坩堝3の外縁に沿って円弧状に延在しており、ターゲット領域TAに対して主に左右方向に離れるように延びている。また、迂回部53L、53Rの上下方向の位置は、その少なくとも一部が坩堝3の収容部3Aの開口よりも下方に延在していると好ましい。そして、連結部54L、54Rは、迂回部53L、53Rの先端と先端部52L、52Rとをつなぐように、左右方向に沿って直線状に延びている。
【0073】
上記変形例の蒸着用電子銃装置1Eにおいても、一対のポールピース50L、50Rに迂回部53L、53Rを設けたことで、ターゲット領域TA及び高温領域HAの上方に一対のポールピース50L、50Rの大部分が配設されない構造とすることができる。これにより、従来のようにポールピースを基端部から先端部へ直線的に延在させた場合に比して、蒸発材料のポールピースへの付着を大幅に低減でき、薄膜の汚染を抑制できるようになる。
【0074】
上述した蒸着用電子銃装置1では、一対のポールピース21L、21Rの連結部44L、44Rを平面視L字状としたものが例示されている。これに対し、本変形例に係る蒸着用電子銃装置1Fは、図6(B)に示すように、複数箇所で屈曲した連結部を含む一対のポールピース60L、60Rを採用している。
【0075】
本変形例の蒸着用電子銃装置1Fの一対のポールピース60L、60Rは、連結部64L、64Rの構造を除き、上述した一対のポールピース21L、21Rと同様である。すなわち、一対のポールピース60L、60Rは、強磁性体で構成された、所定の肉厚を有する帯状の部材で構成でき、直線Lを基準に対称な形状となるように互いに間隔を空けて配設される。また、一対のポールピース60L、60Rは、その基端部61L、61Rが装置本体10に設置され、先端部62L、62Rが坩堝3の上方であって且つ装置本体10から見たターゲット領域TAの後方に配設され、迂回部63L、63Rが基端部61L、61Rから、ターゲット領域TAから離れる方向に、具体的には左右方向に沿って延びている。
【0076】
一対のポールピース60L、60Rの連結部64L、64Rは、図6(B)に示すように、一端側が前後方向に沿って延びると共に迂回部63L、63Rに連結し、他端側が左右方向に沿って延びると共に先端部62L、62Rに連結し、且つ、一端側と他端側の間が円環状の蒸発材料2を横断するように斜め方向に延びている。これにより、一対のポールピース60L、60Rは、上述した一対のポールピース21L、21Rに比べてコンパクトな形状となる。
【0077】
本変形例の蒸着用電子銃装置1Fにおいても、一対のポールピース60L、60Rに迂回部63L、63Rを設けたことで、ターゲット領域TA及び高温領域HAの上方に一対のポールピース60L、60Rの大部分が配設されない構造とすることができる。これにより、従来のようにポールピースを基端部から直線的に延在させた場合に比して、蒸発材料のポールピースへの付着を大幅に低減でき、薄膜の汚染を抑制できるようになる。
【0078】
<第2の実施の形態>
上述した第1の実施の形態では、反射電子REが被膜部材に衝突することによる成膜品質の低下を抑制することに加えて、一対のポールピースに蒸発した蒸発材料が付着することに起因する成膜品質の低下をも抑制したものを例示したが、本開示は上述した2つの成膜品質の低下を共に抑制できるものに限定されない。そこで以下には、上述した成膜品質の低下の要因のうち、一対のポールピースに蒸発した蒸発材料が付着することに起因するものを解決することが可能な蒸着用電子銃装置5について説明する。
【0079】
図7は、本開示の第2の実施の形態に係る蒸着用電子銃装置の一例を示した概略斜視図である。また、図8は、図7に示す蒸着用電子銃装置の平面図である。本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置5は、図7及び図8に示すように、反射電子偏向部材30L、30Rを有しない点を除き、上述した第1の実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1と同様の構成を備えていてよい。したがって、蒸着用電子銃装置5の各部の具体的な構造は、蒸着用電子銃装置1の各部の構造の説明を適宜参照されたい。
【0080】
本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置5は、上述した真空蒸着装置の一部として採用され得る。また、この蒸着用電子銃装置5は、図7及び図8に示すように、坩堝3に隣接するように配設され、坩堝3内に収容された蒸発材料2に電子ビームEBを照射する。
【0081】
上記蒸着用電子銃装置5は、少なくとも、坩堝3の側方にその少なくとも一部が設置される装置本体10と、装置本体10から照射された電子ビームEBを坩堝3に設定されたターゲット領域TAに案内する電子ビーム偏向手段20と、を含む。このうち、電子ビーム偏向手段20は、周囲に磁場を発生させる一対のポールピース21L、21Rと、磁力源22と、を少なくとも含む。
【0082】
そして、一対のポールピース21L、21Rは、基端部41L、41Rが装置本体10に設置され、先端部42L、42Rが坩堝3の上方であって且つ装置本体10から見たターゲット領域TAの後方に配設され、且つ基端部41L、41Rから坩堝3の上方に到達する位置までの間の少なくとも一部に、ターゲット領域TAから離れる方向に延びる迂回部43L、43Rを含む。
【0083】
本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置5においても、第1の実施の形態に係る蒸着用電子銃装置1と同様に、一対のポールピース21L、21Rが迂回部43L、43Rを含むことで、一対のポールピース21L、21Rをターゲット領域TA及び高温領域HAに対して離れた位置に配設できる。これにより、従来のようにポールピースを基端部から直線的に延在させた場合に比して、蒸発材料のポールピースへの付着を大幅に低減でき、薄膜の汚染を抑制できるようになる。
【0084】
また、本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置5の一対のポールピース21L、21Rの具体的な形状は、例えば上述した一変形例に係る一対のポールピース50L、50Rや他の変形例に係る一対のポールピース60L、60Rと同様の形状に変更することができるが、本実施の形態に係る蒸着用電子銃装置5の一対のポールピースの形状は、これらにも限定されない。
【0085】
図9は、図7に示す蒸着用電子銃装置のポールピースの変形例を示した図である。例えば、本変形例に係る蒸着用電子銃装置5Aは、図9に示すように、上述した一対のポールピース21L、21Rに代えて、一部が坩堝3の外周囲に引き回された一対のポールピース70L、70Rを採用している。
【0086】
本変形例の蒸着用電子銃装置5Aの一対のポールピース70L、70Rは、上述したポールピース21L、21Rと同様に、強磁性体で構成された、所定の肉厚を有する帯状の部材で構成することができる。この一対のポールピース70L、70Rは、図9に示すように、直線Lを基準に対称な形状となるように、互いに間隔を空けて配設されている。また、一対のポールピース70L、70Rは、基端部71L、71Rが装置本体10に設置され、先端部72L、72Rが坩堝3の上方であって且つ装置本体10から見たターゲット領域TAの後方に配設されている。加えて、基端部71L、71Rと先端部72L、72Rとの間に迂回部73L、73R及び連結部74L、74Rが配設されている。
【0087】
基端部71L、71Rは、上述した基端部41L、41Rと同様に、筐体11上の窓部13を挟む位置に配設され、磁力源22に連結されていてよい。また、先端部72L、72Rは、上述した先端部42L、42Rと同様に、ターゲット領域TAの前後方向における後方に所定の間隔を空けて配設されていてよい。
【0088】
迂回部73L、73Rは、図9に示すように、一端が基端部71L、71Rに連結し、先端が坩堝3の後方まで引き回されている。この迂回部73L、73Rは、坩堝3の外側を部分的に囲むように、平面視で略U字状に延びている。また、迂回部73L、73Rの上下方向の位置は、その少なくとも一部が坩堝3の収容部3Aの開口よりも下方に延在していると好ましい。
【0089】
連結部74L、74Rは、迂回部73L、73Rの先端と先端部52L、52Rとをつなぐように、前後方向に沿って直線状に延びている。なお、図9から分かるように、本変形例に係る連結部74L、74Rは、第1の実施の形態において説示した一対の反射電子偏向部材30L、30Rと同様の機能を奏し得る。
【0090】
上記変形例の蒸着用電子銃装置5Aにおいても、一対のポールピース70L、70Rに迂回部73L、73Rを設けたことで、ターゲット領域TA及び高温領域HAの上方に一対のポールピース70L、70Rの大部分が配設されない構造とすることができる。これにより、従来のようにポールピースを基端部から直線的に延在させた場合に比して、蒸発材料のポールピースへの付着を大幅に低減でき、薄膜の汚染を抑制できるようになる。
【0091】
なお、上述した各実施の形態においては、ポールピースや反射電子偏向部材の形状についていくつかの変形例を例示しているが、当該変形例はあくまで一例であって、ポールピースや反射電子偏向部の形状が変形例に示したものに限定されることを意図しない。したがって、ポールピース及び反射電子偏向部材の形状は、各部材の機能を維持し得る範囲内において、変形例として示した形状以外の形状にも変更することができる。
【0092】
本開示は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本開示の技術思想に含まれるものである。
【符号の説明】
【0093】
1、1A~1F、5、5A 蒸着用電子銃装置
2 蒸発材料
3 坩堝
10 装置本体
11 筐体
12 電子ビーム源
13 窓部
20 電子ビーム偏向手段
21L、21R ポールピース
22 磁力源
30L、30R 反射電子偏向部材
41L、41R 基端部
42L、42R 先端部
43L、43R 迂回部
44L、44R 連結部
EB 電子ビーム
RE 反射電子
TA ターゲット領域
L 直線
【要約】
【課題】成膜品質の低下を抑制した蒸着用電子銃装置を提供すること。
【解決手段】本開示の蒸着用電子銃装置は、上部が開口し内部に被膜部材に蒸着される蒸発材料が収容された坩堝の側方に設置される、電子ビーム源を備えた装置本体と、前記装置本体から照射された電子ビームを前記坩堝に設定されたターゲット領域に案内するものであって、基端部が前記装置本体に設置され、先端部が前記坩堝の上方であって且つ前記装置本体から見た前記ターゲット領域の後方に配設された、一対のポールピースと、前記ターゲット領域から反射した反射電子を所定の方向に偏向するために、前記一対のポールピースのそれぞれの前記先端部又は前記先端部に近接する位置から前記装置本体から離れる方向に延びる一対の反射電子偏向部材と、を含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9