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特許7541622腸内電位差を測定するための低侵襲装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】腸内電位差を測定するための低侵襲装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0538 20210101AFI20240821BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61B 5/276 20210101ALI20240821BHJP
【FI】
A61B5/0538
A61B1/00 526
A61B5/276 100
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023536810
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 US2022014508
(87)【国際公開番号】W WO2022165309
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】63/143,876
(32)【優先日】2021-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ティアニー ギレルモ
(72)【発明者】
【氏名】オトゥヤ デイヴィッド オデケ
(72)【発明者】
【氏名】ファロッキ ハミド
(72)【発明者】
【氏名】シ セレナ チンユン ズィー
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァ サラ リン
(72)【発明者】
【氏名】ドン ジン
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0297139(US,A1)
【文献】特表2002-526138(JP,A)
【文献】特開2011-078447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0013537(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
A61B 1/00-1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸内電位差を特定するシステムであって、
前記システムは、
測定電極を内部に収容する測定管腔を有する測定チューブを備える測定プローブと、
前記測定管腔と流体的に連通する測定流体送達システムであって、前記測定流体送達システムは、導電性流体が前記測定電極に電気的に結合されるように、前記導電性流体を前記測定管腔内に送達するように構成され、前記測定管腔はその遠位端に出口を含み、前記出口を通って前記導電性流体が前記測定管腔から出て被験者の腸組織に接触して、前記測定電極と前記腸組織との間に電気的結合を提供する、測定流体送達システムと、
前記測定電極に結合され、前記被験者に電気的に結合された基準電極と前記測定電極との間の電位差を測定するように構成されたコントローラと、
を備えることを特徴とするシステムであって、
前記測定プローブは、更に、前記測定チューブの前記遠位端が前記腸組織へ近接することを判定するための近接センサを備え、
前記近接センサは前記測定チューブ内に配置された光ファイバを備え、
前記光ファイバの遠位端は、前記測定チューブの前記遠位端から電磁放射線を放射するように構成されている
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記近接センサの前記光ファイバは光コヒーレンストモグラフィー(Optical Coherence Tomography (OCT))システムを含み、
前記光ファイバは前記OCTシステムのサンプルアームを含み、
前記OCTシステムは更に基準アームを含む
ことを特徴とする請求項に記載のシステム。
【請求項3】
前記OCTシステムは、前記光ファイバの前記遠位端に結合され、光を前記腸組織上に集束させ、前記腸組織から後方散乱した光を受信する光学系を更に備える
ことを特徴とする請求項に記載のシステム。
【請求項4】
前記基準電極は前記被験者の組織に電気的に結合される
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記基準電極は基準プローブ内に収容されており、
前記基準プローブは、前記基準電極を収容する基準管腔を備える
ことを特徴とする請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記基準プローブは、前記基準管腔と連通する基準流体送達システムを更に備え、
前記基準流体送達システムは、導電性流体が前記基準電極に電気的に結合されるように、前記導電性流体を前記基準管腔内に送達するように構成され、
前記基準管腔は、その遠位端に出口を含み、前記出口を通って前記導電性流体が前記基準管腔から出て前記組織に接触し、前記基準電極と前記組織との間に電気的結合を提供する
ことを特徴とする請求項に記載のシステム。
【請求項7】
前記基準プローブは、前記導電性流体によって前記基準管腔に流体的に結合された皮膚パッチ又は針のうちの少なくとも1つを更に備え、
前記皮膚パッチ又は前記針は、前記組織が前記導電性流体によって前記基準電極に電気
的に結合されるように、前記組織に接触するように構成される
ことを特徴とする請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記皮膚パッチは、前記被験者の皮膚の隣接領域を剥離するための剥離物質を含む
ことを特徴とする請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラは、前記測定電極及び前記基準電極によって取得された電気信号を受信するためのアンプを介して前記測定電極及び前記基準電極に結合され、
前記コントローラは、前記受信信号から前記測定電極と前記基準電極との間の前記電位差を特定するように構成されたプロセッサを備える
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記測定電極は、Ag/AgCl電極を含む
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記測定流体送達システムは、灌流ポンプと灌流チューブを含み、
前記導電性流体は食塩水を含む
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記腸組織は、前記被験者の小腸の上皮腸組織を含む
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記測定プローブは、経鼻導入チューブ(trans-nasal introduction tube、TNIT)を
使用して前記被験者に挿入されるように構成される
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2021年1月31日に出願された、米国特許出願第63/143,876の優先権に基づき、その利益を主張するものであり、その全体は参照により全ての目的のためにここに援用される。
【0002】
<連邦政府の支援による研究に関する言明>
該当なし。
【背景技術】
【0003】
小腸の内層は栄養素と水を吸収し、管腔病原体の体内への移行を防ぐ保護バリアを提供する。腸のバリアには、粘液内層、上皮層、固有層の3つの層が含まれる。上皮層を構成する細胞は、上皮内層を横切るイオン、小分子、及び溶質の流れに選択性を与えることで腸の傍細胞透過性を調節する密着結合(Tight Junction (TJ))タンパク質によって接続されている。様々な管腔病原体は、固有層へのアクセスを獲得するために、TJタンパク質の変化を誘導し、傍細胞透過性の増加を引き起こす。更に、環境要因又は食事要因によって引き起こされる上皮内層の消失によるこのバリアの破壊も、腸の透過性の増加を引き起こす可能性がある。多くの病気の病態生理学は、腸管バリアの機能不全に関連している可能性がある。例えば、クローディン-2タンパク質の発現増加によって証明されるように、バリア機能不全と過敏性腸疾患(Irritable Bowel Disease (IBD))などの症状との関連性が研究で示されている。また、腸関門のTJタンパク質に関連する遺伝的欠陥がクローン病の素因となるとも考えられている。生体外(Ex vivo)研究では、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome (IBS))患者からの結腸生検の透過性が2倍になることが示されている。腸の透過性の変化は、代謝性疾患の発症と進行に関与する血漿リポ多糖類(LPS)の上昇に関連していると考えられている。セリアック病患者は欠陥のあるTJタンパク質を有しており、それに関連して傍細胞透過性が増加していることが示されている。また、腸管透過性の増加と1型糖尿病(T1D)、肝硬変、原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis (PBC))、2型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis (NASH))、慢性腎臓病、及び慢性心不全(chronic heart failure (CHF))とを関連付ける証拠も増えている。
【0004】
従って、腸の透過性測定は、これらの疾患を発症する可能性が高い人を予測する能力を向上させ、透過性を回復し、それらの疾患を遅らせたり予防したりする治療法の開発に役立つ可能性がある洞察につながる可能性がある。現在、腸管透過性を評価するために多くの方法が使用されている。最も一般的な方法は二重糖テストである。このテストでは、異なる分子サイズの2つのプローブ糖、つまり、ラクツロース(L)などの高分子糖と、マンニトール(M)などの低分子糖と、を経口投与し、それらの比率(L:M比)を尿中で測定する。この比率は腸の透過性レベルの指標であり、尿中の高分子糖の量の増加は腸の透過性の増加を意味する。この技術は本質的に非侵襲的であるが、分析を実行するにはクロマトグラフィー及び質量分析機能を備えた施設へのアクセスが必要であえる。更に、尿サンプルは頻繁に汚染される可能性があり、その場合には検査が役に立たなくなる可能性がある。更に、乳児や子供から元の状態の尿サンプルを入手することは困難な場合がある。別のアプローチとして、小腸の透過性レベルを評価するために血液バイオマーカーが提案されているが、胃腸の運動性、粘膜血流、体内のバイオマーカーの分布などの要因の影響を受ける可能性があるため、あまり成功していない。最後に、L:M比と血清検査は、小腸全体の透過性の尺度を提供するが、腸に沿った透過性の変動には対応しない。従って、現在の方法の限界は、小腸の透過性を評価するための低侵襲で、より安価で、より迅速な技術の必要性を強調する。
【発明の概要】
【0005】
従って、小腸の透過性を評価するための新しいシステム、方法、及びメディアが望まれる。
【0006】
ここでは、臨床用の光コヒーレンストモグラフィー(Optical Coherence Tomography (OCT))誘導型、経鼻導入チューブ(Trans-Nasal Introduction Tube (TNIT))対応のIPD測定装置の開発について紹介する。特定の実施形態では、装置は、Ag/AgCl電極及び一体化された光ファイバによって終端された外径1.0~1.2mmのプローブを含んでもよい。装置は、TNIT装置の管腔を通して被験者の小腸に導入されてよい。組織とプローブの接触は、MモードOCTイメージングを通じて確認されてもよく、皮下組織を参照してIPD値が測定されてもよい。ヨークシャーブタの生体内で実施された実現可能性実験(feasibility experiment)では、ベースライン十二指腸IPDが-12.16±0.17mVと測定され、これは期待値と一致している。この経鼻画像誘導IPDプローブは、鎮静剤を投与されていない被験者の局所的な腸透過性をリアルタイムで評価するのに適しているかもしれない。
【0007】
従って、一実施形態は、腸内電位差を特定するためのシステムを提供する。前記システムは、測定電極を内部に収容する測定管腔を有する測定チューブを備える測定プローブと、前記測定管腔と流体的に連通する測定流体送達システムであって、前記測定流体送達システムは、導電性流体が前記測定電極に電気的に結合されるように、前記導電性流体を前記測定管腔内に送達するように構成され、前記測定管腔はその遠位端に出口を含み、前記出口を通って前記導電性流体が前記測定管腔から出て被験者の腸組織に接触して、前記測定電極と前記腸組織との間に電気的結合を提供する、測定流体送達システムと、前記測定電極に結合され、前記被験者に電気的に結合された基準電極と前記測定電極との間の電位差を測定するように構成されたコントローラと、を備える。
【0008】
別の実施形態は、腸内電位差を特定するための方法を提供する。前記方法は、測定電極を内部に収容する測定管腔を有する測定チューブを備える測定プローブと、前記測定管腔と流体的に連通する測定流体送達システムとを提供し、前記測定流体送達システムを使って、導電性流体が前記測定電極に電気的に結合されるように、前記導電性流体を前記測定管腔内に送達し、前記測定管腔はその遠位端に出口を含み、前記出口を通って前記導電性流体が前記測定管腔から出て被験者の腸組織に接触して、前記測定電極と前記腸組織との間に電気的結合を提供し、前記測定電極に結合されたコントローラを使用して、前記被験者に電気的に結合された基準電極と前記測定電極との間の電位差を測定する、ことを含む。
【0009】
開示される主題の様々な目的、特徴、及び利点は、同様の参照番号によって同様の要素が識別される、以下の図面と関連して考慮されると、開示される主題についての以下の詳細な説明を参照することにより、より完全に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、経鼻小腸内電位差(intestinal potential difference (IPD))測定スキームを示す。検出ユニットとデータ収集及び表示システムとを含むコンソールは、IPDプローブに接続される。プローブには、小腸壁の近接に関する情報を提供する近接センサを備える。
図2図2は、腸壁との接触がないことを示す腸プローブからのMモードOCT画像を示し(パネルA)、プローブに近づくほど(信号の内側部分の暗い領域として見られ、アスタリスク*でマークされている)組織散乱が増加していることが分かる、腸壁に接触している腸プローブのMモードOCT画像を示す(パネルB)。
図3図3A図3Bは、本システムで使用する光干渉断層撮影システムの例を示す。
図4図4は、腸内電位差(intestinal potential difference (IPD))測定プローブの拡大図を示す(パネルA)。プローブは、乳酸リンゲル液のミニウェルに浸漬されたAg/AgCl電極を含む。ミニウェルには、微量灌流チューブを介して灌流リンゲル液が連続的に満たされる。リンゲル液は灌流チャネルを通って流出し、粘膜とイオン接触する。接触検知用のMモードOCTプローブには、光を粘膜に集束させるボールレンズに光を導く光ファイバが含まれている。基準プローブには、リンゲル液で満たされたミニウェルに浸漬されたAg/AgCl電極も含まれている(パネルB及びC)。リンゲル液はチューブを通って擦過された皮膚に貼付された皮膚パッチに送られるか(パネルB)、又は針を通って皮下空間に送られる(パネルC)。
図5図5A及び図5Bは、ブタ十二指腸に挿入されたAg/AgClベースの測定プローブの内視鏡図を示す。プローブが組織に接触していない場合、MモードOCTダークリングは見えない(図5A、挿入図を参照)。組織に接触すると、OCTは内側の円に暗いリングを示す(図5B、挿入図を参照)。
図6A図6Aは、ブタの皮下(SC)組織を基準とした、鼻のIPD測定を示す。IPDの有意な変化は、プローブが組織に対して「接触していない」(黄色)から「接触している」(緑色)まで見られ、SCに対する鼻では、-8.5mVであった。
図6B図6Bは、ブタの皮下(SC)組織を基準とした、皮膚のIPD測定を示す。IPDの有意な変化は、プローブが組織に対して「接触していない」(黄色)から「接触している」(緑色)まで見られ、SCに対する皮膚では、-15mVであった。
図6C図6Cは、ブタの皮下(SC)組織を基準とした、十二指腸のIPD測定を示す。IPDの有意な変化は、プローブが組織に対して「接触していない」(黄色)から「接触している」(緑色)まで見られ、安静時の十二指腸IPDは、-12.3mVであった。
図7図7は、測定プローブが組織に接触していないとき(左)と、接触が確立されたとき(右)とにおける、測定電極と基準電極の間で得られた電位差(mV)を示し、この場合、電位差は、プローブが接触していないときの約-3mVから、プローブが組織と接触しているときの約-10mVまで低下することを示す。
図8図8は、開示された主題の幾つかの実施形態に従って腸内電位差を特定するためのプロセスの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示された主題の幾つかの実施形態によれば、小腸透過性を評価するための機構(装置、システム、方法、及び媒体を含むことができる)が提供される。
【0012】
様々な実施形態において、開示された手順は、鎮静、麻酔、内視鏡検査を必要とせず、低コスト且つ低リスクで手順を実施することができ、測定プローブは再利用可能な装置であるように、腸空間への経鼻アクセスを提供する。従って、この手順は、子供、乳児、妊娠中の母親、及び鎮静関連の問題を抱えた被験者をサンプリングする能力を提供する。様々な実施形態において、この手順は、電位差測定値を取得するときにプローブが粘膜と接触していることを保証する接触センシング能力を提供する。最後に、他の手順とは対照的に、現在開示されている手順は、腸をリンゲル液又は他の生理食塩水で満たす必要がない。これは、プローブの組織への近接性が近接センサで確認できるため、イオン結合を維持するために少量の生理食塩水だけが必要とされるからである。
【0013】
手順の特定の実施形態は、臨床又は研究の設定で使用されてもよい。臨床用途では、この手順は、セリアック病、IBS、及びその他の腸疾患の患者における薬物療法及び治療に対する反応を監視するために使われてもよい。研究の設定では、この手順は、食事、病気、又は腸内毒素症と、腸の透過性と、の関連を研究するために使うことができる。
【0014】
本明細書では、臨床用の光コヒーレンストモグラフィー(Optical Coherence Tomography (OCT))誘導型であって、経鼻導入チューブ(Trans-Nasal Introduction Tube (TNIT))対応である、腸内電位差(Intestinal Potential Difference (IPD))測定装置の実施形態を開示する。様々な実施形態において、装置は、Ag/AgCl電極及び一体化された光ファイバによって終端された外径1.0mmのプローブを含んでもよい。装置は、TNIT装置の管腔を通して被験者の小腸に導入されてもよい。組織とプローブの接触は、MモードOCTイメージングを通じて確認されてもよく、皮下組織を参照してIPD値が測定されてもよい。ヨークシャーブタの生体内で実施された実現可能性実験(Feasibility Experiment)では、ベースライン十二指腸IPDが-12.16±0.17mVと測定され、これは期待値と一致している。この経鼻画像誘導IPDプローブの様々な実施形態は、鎮静剤を投与されていない被験者の局所的な腸透過性をリアルタイムで評価するのに適しているかもしれない。
【0015】
図1は、経鼻導入チューブ(TNIT)が小腸に受動的に展開されるIPD測定のための装置の実施形態を示す。次に、腸内電位差(IPD)測定プローブ(OD1.2m)をTNIT(ID1.5mm)の作業チャネルに通される。幾つかの実施形態では、測定プローブは、プローブが腸粘膜と接触しているかどうかに関する情報を提供する、先端に取り付けられた近接センサを含んでもよい。基準プローブは、擦過された皮膚上に配置されるパッチに接続されてもよい。測定プローブと基準プローブの両方に等張食塩水(標準リンゲル液など)が継続的に灌流され、プローブに埋め込まれたミニ電極と被験者の組織内の体液との間にイオン接触が生じる。プローブはアイソレーション・ヘッドステージとバイオアンプに接続されており、バイオアンプは信号を増幅し、信号はアナログデジタルコンバーターでデジタル化され、コンピューターで記録される。近接センシングは、IPDプローブが腸又は腸管腔内の液体と確実に接触していることを確認するのに役立つ。
【0016】
近接センサを提供することは、ユーザ(臨床医など)が、測定プローブが単に組織の近くにあるのではなく、腸組織に接触していることを確認するのに役立つ。これにより、組織に接触している測定電極がプローブの端から流れる生理食塩水を介して強いイオン結合を行うため、得られる測定結果の一貫性と信頼性が高まる。
【0017】
特定の実施形態では、近接センサは光コヒーレンストモグラフィー(Optical Coherence Tomography (OCT))プローブを含む。MモードOCTとして知られるOCTイメージングの方法は、IPDプローブに近接センシングの機能を与えるために使うことができる。IPDプローブ内の光ファイバは、OCT光をその最遠位端まで導く。ファイバからの光は腸を照らし、その後散乱してファイバを通って同じTNIT OCTイメージングシステムに戻る。OCTシステムから返される画像は円形パターンであるが、IPDプローブの先端にあるOCTプローブは回転しない。その代わりに、プローブの遠位端から発せられる光ビームは常に一方向に照射される。組織表面から後方に散乱した光は、IPDプローブによって収集され、OCTシステムに戻され、OCTシステムにおいて、散乱が発生する組織表面の位置に対応する暗いリングが干渉分光法によって作成される。非接触(図2A)又は接触有り(図2B)で形成された画像を示す図2に示すように、この技術により、オペレータは、プローブが周囲の管腔内容物と接触しているか腸自体と接触しているかを判断することができる。プローブが腸内壁と確実に接触するようにすることで、ガイドのある技術は、プローブが空気に囲まれている、つまり接触していないときに発生する誤った電位差値の測定を防止する。本明細書で提供される例はOCTプローブの使用を対象としているが、他の実施形態では、近接センシングは、インピーダンス測定値を生成するセンサ又は圧力センサによって提供されてもよい。
【0018】
図3A及び3Bは、開示されたシステムの実施形態とともに使用できる光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography (OCT))システムの例100及び150を示すが、他のOCTシステムも使用することができる。いずれの場合も、コリメート光学系116-1及び集束光学系118は、図4Aに示すようなIPD基準プローブの遠位端に収容されることになる。
【0019】
図3Aは、OCT用のマッハツェンダー干渉計(Mach-Zehnder Interferometer)を使用するOCTシステムについての、広く使用されている構成を示す。図3Bは、OCTにマイケルソン干渉計(Michelson Interferometer)を使用するOCTシステムについての、別の広く使用されている構成である。様々な実施形態において、OCTシステムは、SS-OCT又はSD-OCTシステム、又は他のOCTモダリティに基づくシステムであることができる。従来のSD-OCTシステムでは、広帯域光源と線形検出器を使用して、特定の時間に利用可能なスペクトル全体を取得する。イメージング深度の範囲は、スペクトルの取得に使用される線形検出器のピクセル数とピクセルの幅の両方によって決まる。従来のSS-OCTシステムでは、波長掃引光源と単一点検出器(光検出器、フォトダイオード、光電子増倍管など)を使用して、時間の関数としてスペクトルを取得する。イメージング深度の範囲は、スペクトルの取得に使用される光源の帯域幅と検出器のサンプリングレートの両方によって決まる。
【0020】
図3Aに示されるように、光源102は、ファイバカプラ108を介してサンプルアーム及び基準アームに光を提供することができる。光の一部はサンプルアームに導かれ(例えば80%)、光の第2の部分は基準アームに導かれる(例えば20%)。光サーキュレータ110-1は、ファイバカプラ108から受け取った光を(サンプルアーム内の)サンプル112に向けて導き、第2の光サーキュレータ110-2は、光を(基準アーム内の)基準反射器114に向けて導く。サンプルアーム内の光は、コリメート光学系116-1及び集束光学系118(例えば、図4Aに示すボールレンズなどのレンズ)を介してサンプルに導くことができ、これは、サンプル112の表面近くを中心とした焦点深度でビームを投影できる。ビームの一部は、サンプルの反射率の関数としてサンプルの様々な深さで反射され、その後、集束光学系118によって受信され、反射光を導くコリメート光学系116-1を介して光サーキュレータ110-1に導かれ、反射光はファイバカプラ120に導かれ、基準アームからの光と結合される。コリメート光学系116-2は、基準アームからのビームを基準反射器114に向け、基準反射器114はコリメート光学系116-2を介してビームを光サーキュレータ110-2に向けて反射し、光サーキュレータ110-2は、基準反射器114によって反射された光を、偏光コントローラ122を介してファイバカプラ120に導き、サンプルアームからの光と結合させる。ファイバカプラ120は、サンプルアームと基準アームの両方からの光を結合し、その光を検出器124に導き、プローブに隣接するサンプルの構造を表す信号を生成する。
【0021】
図3Bに示すシステム150は、図3Aに示すシステム100と同様の原理を使用して動作するが、サンプルアームと基準アームの両方に光サーキュレータを使用するのではなく、ファイバカプラ108の前に単一の光サーキュレータ110-3のみを含む。システム100及びシステム150の両方において、基準アームの長さは、基準反射器114の位置を調整してサンプル112に対するゼロ遅延点の深さを設定することによって設定することができる。
【0022】
図4A、4B、及び4Cは、IPD測定プローブ及び基準プローブの拡大図を示す。測定プローブ(図4A)は、リンゲル液のミニウェルに浸漬されたAg/AgClペレット電極を含む。電極は、アイソレーション・ヘッドステージに接続されたワイヤに(例えば、はんだ付けによって)電気的に結合されてもよい。灌流ポンプに接続された灌流チューブは、ミニウェルにリンゲル液を継続的に供給する。ミニウェルからのリンゲル液は、灌流チャネルを通って粘膜に浸透し、電極と粘膜の間にイオン接触を提供する。ボールレンズに接続された光ファイバを含むMモードOCTプローブは、プローブに接触センシング能力を提供するために使用される。
【0023】
図4B及び図4Cに示されるような基準プローブは、リンゲル液のミニウェル(流体チャンバ)内に浸漬されたAg/AgCl電極を含む。ミニウェルは、擦過された皮膚の位置に取り付け可能な皮膚パッチ(図4B)、又は皮下空間に挿入可能な針(図4C)に接続されてもよい。いずれの場合も、シリンジポンプに接続された灌流チューブを介してミニウェルにリンゲル液が注入され、基準プローブの端からパッチ又は針のいずれかに放出され、組織とのイオン接触を提供し、これによって、流体チャンバを通ってAg/AgCl電極までの電気経路を提供する。
【0024】
様々な実施形態において、測定プローブ(図4A)と基準プローブ(図4B図4C)の構造は類似していてもよい。各プローブは、比較的小さい外径、例えば、1.2mmを有する円筒管から形成されてもよい。測定電極の場合、プローブの円筒形本体は、TNITのチャネルを介したプローブの挿入を容易にするために十分に小さくてもよく(図1を参照)、1.5mm程度の内径を持つ。従って、図4Aに1.2mmとして示される最終的な外径は、プローブが被験者に導入される挿入チャネルのサイズを含む特定の用途の条件に応じて、変更又は調整することができる。
【0025】
各プローブは、灌流チューブを介して連続的に満たされる流体チャンバ(図4)を含んでもよい。それぞれの電極をプローブ内の生理食塩水に浸した状態に保つことに加えて、流体チャンバへの生理食塩水の連続的な流れにより、プローブから接触領域への生理食塩水の定常流も生じる。測定プローブの場合、生理食塩水は灌流チャネルを介して流体チャンバから出て、隣接する組織領域を灌流して組織にイオン結合をもたらし、電極(Ag/AgClペレット)への電気接続を提供する。基準プローブの場合、プローブの流体チャンバから出る流体は、(例えばチューブを介して)皮膚パッチに運ばれ、パッチを灌流してプローブとのイオン結合を維持するか(図4B)、あるいは、被験者の皮下空間へ針を通して運ばれ(図4C)、組織からプローブへのイオン結合を維持する。
【0026】
一実施形態では、電極、OCTファイバ(測定プローブ用)、及び灌流チューブは、例えばUV硬化性エポキシを使用して、流体密封方式で近位端においてプローブ内に固定されてもよい。測定電極の遠位端では、液密接続も提供しながら、灌流チューブ及びOCT光学系を収容するカラー(例えば、機械加工されたカラー)が使用されてもよい。基準電極の先端には、プローブ本体の端への液密接続を確立し、針又はチューブへのアクセスを提供するコネクタが提供されてもよい。針又はチューブは、被験者の組織へのイオン結合を確立するためのパッチ、針、又はその他の機構につながる。
【0027】
使用時、臨床医又は技術者などのユーザは、測定プローブを被験者(例えば、患者、又は、他の人間若しくは動物の被験者)に導入する。測定プローブは、例えばTNITを使用して、被験者の鼻腔を通して導入されてもよい(図1を参照)。次に、測定プローブは食道及び胃を通って小腸又は胃腸管の他の部分に送られ、測定値が得られる。
【0028】
測定プローブを被験者に導入する前、導入中、又は導入後のある時点で、基準電極も、例えば皮膚の表面又はその近くで被験者に接続される。幾つかの実施形態では、基準電極は、被験者の皮下空間に挿入できる針(図4C)を含んでもよく、生理食塩水が針の先端から組織内に流れると、組織とプローブ内の電極の間にイオン結合が形成され、維持される。
【0029】
他の実施形態では、基準電極を皮膚パッチに接続してもよく(図4B)、これにより対象の組織とのイオン結合が確立される。皮膚パッチは、プローブからの生理食塩水が表皮に浸透し、その下にある真皮及び組織とのイオン結合を確立できるように、擦過された皮膚表面上に取り付けられてもよい。幾つかの実施形態では、皮膚パッチは、例えば、被験者に心電図検査を実施するために、生物医学的皮膚電極を取り付けるために使用されるものと同様であってもよく、真皮又は皮下組織との電気的接続の形成を容易にするために、皮膚を剥離するためのパッチの一部として剥離材を含んでもよい。様々な実施形態において、皮膚パッチは、電極からパッチまで生理食塩水を運ぶチューブの入力部を備えることを含め、基準プローブから生理食塩水の流れを受け取るように適合されてもよい。特定の実施形態では、パッチは、外側部分では流体に対して比較的不透過性であってもよく、擦過された皮膚に隣接して生理食塩水を保持し、それによって対象の組織へのイオン結合を促進するように内側部分に流体吸収性材料を含んでもよい。様々な実施形態において、皮膚パッチは、被験者の身体の表面、例えば腕又は脚の領域に取り付けられてもよい。
【0030】
測定プローブが被験者の小腸又は他の胃腸領域に導入され、基準電極が被験者の皮膚表面又は皮下領域に結合され、イオン結合が確立されると、測定プローブの位置は、近接センサを使用して判定できる。一実施形態では、測定プローブは、近接センサとしてOCTシステムを含むことができる(図1~3を参照)。OCTシステムは、図4Aに示されるように前向きの方式で動作してもよい。これにより、電磁放射が測定プローブの遠位端から近くの組織に放射される(図3A、3B)。ユーザは、OCTシステムから得られた画像(図2A、2B)を見ることによって、例えば、プローブが組織と接触しているときに見られる干渉信号のより暗い内部領域の存在に基づいて、プローブの端がGI組織に接触しているか(図2B)、接触していないか(図2A)を判断することができる。(図2B参照。図2Bにおいて、信号の暗い内部領域はアスタリスク(*)で識別されている。図5Aも参照。図5Aにおいては、組織との接触がない。図5Bにおいては、測定プローブが組織に接触している。)
【0031】
前述したように、手順全体を通して生理食塩水を各プローブに流し、各電極(Ag/AgCl電極など)が生理食塩水に浸され、それにより、プローブに隣接する溶液及び環境との電気的接触が維持されることを確実にする。基準電極が被験者の皮膚表面内又は皮膚表面上に配置され、測定電極が胃腸管内の適切な位置(通常、近接センサの使用によって決められるように、胃腸組織と接触する位置)に誘導された後、電気測定は、測定プローブと基準プローブとの間で取得されてもよい。
【0032】
図5A及び5Bは、粘膜と接触していないとき(図5A)及び粘膜と接触しているとき(図5B)のIPDプローブの内視鏡図、及びそれぞれの挿入図内の対応するMモードOCT画像を示す。MモードOCT画像からわかるように、オペレータは、内視鏡以外の手順でプローブが粘膜に接触していることを明確に確認できる。
【0033】
図6A~6Cは、IPDプローブを使用した電位差測定曲線を示す。図6Aは、ブタの鼻のPD値を示し、図6Bは、ブタ皮膚のPD値を示し、図6Cは、ブタ十二指腸のIPD値を示す。いずれの場合も、プローブが特定の組織に接触したときに記録される電圧には明らかな違いがある。
【0034】
測定プローブが消化管組織と接触していないとき、電位差は比較的低くなる(図7、左)、つまり、0mVに近づく。一方、接触が行われると(例えば、MモードOCTなどの近接センサを使用して接触が行われると)、測定された電位差は、非接触時の約-3mVからプローブが組織に接触している時の約-10mVに、増加する(つまり、もっとマイナスになる;図7の右を参照)。消化管組織の傍細胞透過性が増加すると、無傷の組織と比較して電位差が低くなる(つまり、マイナスが小さくなり、0mVに近づく)。無傷のTJを持つ典型的な腸組織では、電位差は-8mV~-15mVの範囲になると予想される。一方、電位差が低い組織(例えば、-5mV以下の値)は、漏れやすい可能性があると考えられ、更に調査する必要がある。従って、消化管組織の測定値を取得することにより、特定の領域の上皮の密着結合が健康で無傷であるか、損傷を受けて透過性であるかを確認することができる。更に、胃腸管の特定のセクションの長さに沿って測定プローブを移動させることによって、組織の完全性(integrity)の局所的な違いを判断でき、これにより消化管組織の完全性に関するより詳細な情報が得られ、状態の診断に役立つ。
【0035】
従って、侵襲性が最小限であり、コスト効率が高く、局所的なリアルタイムの腸内電位差測定を提供する、堅牢なTNIT互換のIPDプローブシステムの実施形態が本明細書に開示される。IPDプローブが測定した十二指腸IPD-12は一貫しており、-12.16±0.17mVであった。これは、文献値の-12±1.3mVに近く、寒天プローブ(agar probe)測定から改善している。様々な実施形態において、IPDプローブは、接触感知のための信頼できる方法であることが証明されているMモードOCTイメージングを実行するためのOCT機能を含む。IPDプローブの様々な実施形態は、腸の透過性に影響を及ぼす疾患の診断及びモニタリングに使用されてもよい。特定の実施形態では、システムは、基準プローブを被験者の身体に電気的に結合するための皮膚パッチを含んでもよく、これによりシステムの低侵襲性プロファイルが大幅に向上する。
【0036】
図8は、開示された主題の幾つかの実施形態に従って腸内電位差を特定するためのプロセスの例800を示す。図8に示すように、802で、プロセス800は、測定プローブ及び測定流体送達システムを提供することができる。測定プローブは、内部に測定電極を収容する測定管腔を有する測定チューブを含んでもよく、測定流体送達システムは測定管腔と流体連通してもよい。804において、プロセス800は、導電性流体を測定管腔内に送達することができる。導電性流体は、測定流体送達システムを使用して送達されてもよい。測定管腔内に導電性流体を送達することにより、流体が測定電極に電気的に結合されることが保証されてもよい。測定管腔はその遠位端に出口を含み、出口を通って導電性流体が測定管腔から出て被験者の腸組織に接触して、測定電極と腸組織との間に電気的結合を提供する。最後に、806で、プロセス800は、測定電極と被験者に電気的に結合された基準電極との間の電位差を測定することができる。 電位差の測定は、測定電極に結合されたコントローラを使用して実行されてもよい。
【0037】
図8のプロセスの上記のステップは、図に示し説明した順序及びシーケンスに限定されず、任意の順序又はシーケンスで実行又は行われることができることを理解されたい。また、図8のプロセスの上記のステップの幾つかは、適切である場合は実質的に同時に実行若しくは行われることができ、又は、平行して実行若しくは行われることができ、これによってレイテンシー(latency)や処理時間を短縮できる。
【0038】
従って、本発明を特定の実施形態及び例に関連して説明してきたが、本発明は必ずしもそれに限定されるものではなく、他の多くの実施形態、例、使用、修正、並びに、実施形態、実施例及び使用からの逸脱は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8