(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電気コネクタ及びこれを備えた電気コネクタ対
(51)【国際特許分類】
H01R 13/42 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
H01R13/42 F
(21)【出願番号】P 2023564909
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2022043281
(87)【国際公開番号】W WO2023100730
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2021197248
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231822
【氏名又は名称】日本端子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内海 雅之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 渉
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-167835(JP,A)
【文献】特開2006-190696(JP,A)
【文献】実開昭62-040782(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気コネクタであって、
複数の金属端子と、
前記複数の金属端子がそれぞれ挿入される複数の端子収容室、及び前記複数の金属端子の挿入方向に相当する前後方向と直交する左右方向に延びるリテーナ挿入孔を有するハウジングと、
前記リテーナ挿入孔に挿入されることにより、前記複数の端子収容室に挿入された前記複数の金属端子を保持するリテーナと、を備え、
前記複数の端子収容室は、前記左右方向に沿って列をなすように配置されることにより、それぞれ第1の端子収容室群および第2の端子収容室群を構成し、
前記第1の端子収容室群および前記第2の端子収容室群は、前記前後方向及び前記左右方向とそれぞれ直交する上下方向に間隔をおいて配置され、
前記ハウジングは、前記第1の端子収容室群および前記第2の端子収容室群の間に配置された仕切壁を有し、
前記仕切壁には、前記リテーナ挿入孔の一部を構成するリテーナ用開口が形成され、
前記リテーナは、前記リテーナ挿入孔に挿入された状態で前記ハウジングに係止される
突起が設けられた挿入側部と、前記挿入側部に連なる基部とを有し、
前記リテーナ用開口には、前記リテーナの前記
突起を係止する係止部が形成されて
おり、
前記突起は、前記リテーナの前方または後方に向けて突設され、前記突起を含めた前記挿入側部の前後方向幅の大きさは、前記基部の前後方向幅以下である、電気コネクタ。
【請求項2】
前記ハウジングは、その外殻をなす上壁および下壁を有し、
前記ハウジングは、前記仕切壁を介して前記上壁および前記下壁を上下方向にそれぞれ接続するように設けられ、かつ前記左右方向に所定の間隔で配置された複数の内壁を有し、
前記複数の内壁は、前記各端子収容室の左右の側壁を構成し、かつ前記リテーナ挿入孔の一部を構成する切欠き部をそれぞれ有し、
前記複数の内壁のうち前記リテーナの前記挿入側部に対応する内壁における前記切欠き部は、前記リテーナの前記基部に対応する内壁における前記切欠き部よりも小さな前後方向幅を有する、
請求項1に記載の電気コネクタ。
【請求項3】
前記リテーナにおいて、前記挿入側部には、前記突起の内側に配置され、前記挿入側部を上下方向に貫通する長孔が設けられている、
請求項1または
請求項2に記載の電気コネクタ。
【請求項4】
前記リテーナは、前記長孔の貫通方向において、前記長孔の少なくとも一方の開口を覆うように配置されたカバー片を有する、
請求項3に記載の電気コネクタ。
【請求項5】
前記リテーナの前記突起と前記長孔との間には、前記突起が前記係止部に係止される際に弾性変形する弾性変形部が形成され、
前記弾性変形部の上下方向幅は、前記挿入側部全体における上下方向幅の最大値よりも小さい、
請求項3に記載の電気コネクタ。
【請求項6】
前記金属端子は、雄型の金属端子に接続可能な雌型の金属端子であり、
前記ハウジングは、前記雄型の金属端子を保持する雄側のハウジングに接続可能な雌側のハウジングである、請求項1
または請求項2に記載の電気コネクタ。
【請求項7】
請求項1
または請求項2に記載の電気コネクタと、前記電気コネクタと接続可能に設けられた他の電気コネクタと、を備えた電気コネクタ対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに収容された複数の金属端子を保持するリテーナを備えた電気コネクタ及びこれを備えた電気コネクタ対に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングの端子収容室にそれぞれ挿入された複数の金属端子を係止することにより、それら金属端子のハウジングからの抜けを防止するリテーナを備えた電気コネクタが普及している(特許文献1を参照)。そのようなリテーナは、ハウジングの外殻をなす側壁に開口するリテーナ挿入孔に挿入されるが、その反挿入方向に外力が作用すると、リテーナ挿入孔から離脱してしまう可能性がある。
【0003】
ハウジングからのリテーナの離脱を防止するために、例えば、リテーナの可撓アームに形成された係止突起が、ハウジングのリテーナ挿入孔の開口を画定する外壁(すなわち、側壁)に係止される電気コネクタが開発されている(特許文献2を参照)。また例えば、リテーナに形成された係止突起が、ハウジングの複数のキャビティ(すなわち、端子収容室)を仕切る側壁に係止される電気コネクタが開発されている(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平3-097875号公報
【文献】特開平11-16625号公報
【文献】特開2015-133216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2、3に記載された従来技術では、リテーナに形成された係止突起が、リテーナの挿入方向に対して垂直に配置されたハウジングの外壁や内壁(すなわち、金属端子がそれぞれ収容される端子収容室の側壁)に係止されるため、ハウジングに対するリテーナの保持強度(すなわち、ハウジングからのリテーナの離脱を防止する能力)は、ハウジングの外壁や内壁を構成する部材の剛性や強度(すなわち、壁の厚み、形状等)に左右される。
【0006】
したがって、上記従来技術では、ハウジングの設計上、外壁や内壁の厚み等の変更に制約があると、ハウジングに対するリテーナの保持強度を十分に確保することが難しい場合がある。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、ハウジングに対するリテーナの保持強度を安定的に確保できる電気コネクタ及びこれを備えた電気コネクタ対を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様は、電気コネクタ(5)であって、複数の金属端子(31)と、前記複数の金属端子がそれぞれ挿入される複数の端子収容室(47)、及び前記複数の金属端子の挿入方向に相当する前後方向と直交する左右方向に延びるリテーナ挿入孔(51)を有するハウジング(33)と、前記リテーナ挿入孔に挿入されることにより、前記複数の端子収容室に挿入された前記複数の金属端子を保持するリテーナ(35)と、を備え、前記複数の端子収容室は、前記左右方向に沿って列をなすように配置されることにより、それぞれ第1の端子収容室群(101)および第2の端子収容室群(102)を構成し、前記第1の端子収容室群および前記第2の端子収容室群は、前記前後方向及び前記左右方向とそれぞれ直交する上下方向に間隔をおいて配置され、前記ハウジングは、前記第1の端子収容室群および前記第2の端子収容室群の間に配置された仕切壁(48)を有し、前記仕切壁には、前記リテーナ挿入孔の一部を構成するリテーナ用開口(52)が形成され、前記リテーナは、前記リテーナ挿入孔に挿入された状態で前記ハウジングに係止される被係止部(57)を有し、前記リテーナ用開口には、前記リテーナの前記被係止部を係止する係止部(55)が形成されている構成とする。
【0009】
この態様によれば、第1および第2の端子収容室群の間に配置された仕切壁に形成されたリテーナ用開口に、リテーナの被係止部を係止する係止部が形成されているため、ハウジングに対するリテーナの保持強度を安定的に確保することが可能となる。
【0010】
第2の態様は、上記第1の態様において、前記リテーナの前記被係止部は、前記リテーナの前方または後方に向けて突設された突起(57)であり、前記リテーナは、前記突起が形成された挿入側部(71)、及び前記挿入側部に連なる基部(73)を有し、前記突起を含めた前記挿入側部の前後方向幅の大きさは、前記基部の前後方向幅以下であってもよい。
【0011】
この態様によれば、リテーナの被係止部として突起を設ける場合でも、リテーナの前後方向幅(すなわち、金属端子の挿入方向における幅)の増大を抑制しつつ、基部においてリテーナがハウジングに対して安定的に保持するのに必要な前後方向幅を確保できる。
【0012】
第3の態様は、上記第1または第2の態様において、前記ハウジングは、その外殻をなす上壁(41)および下壁(42)を有し、前記ハウジングは、前記仕切壁を介して前記上壁および前記下壁を上下方向にそれぞれ接続するように設けられ、かつ前記左右方向に所定の間隔で配置された複数の内壁(49)を有し、前記複数の内壁は、前記各端子収容室の左右の側壁を構成し、かつ前記リテーナ挿入孔の一部を構成する切欠き部(59A、59B)をそれぞれ有し、前記複数の内壁のうち前記リテーナの前記挿入側部に対応する内壁における前記切欠き部(59A)は、前記リテーナの前記基部に対応する内壁における前記切欠き部(59B)よりも小さな前後方向幅を有してもよい。
【0013】
この態様によれば、挿入側部および基部に対応するように、前後方向幅の異なる切欠き部を有する内壁を設けることにより、前後方向幅がより小さいリテーナの挿入側部および前後方向幅がより大きいリテーナの基部をそれぞれ安定的に保持できる。
【0014】
第4の態様は、上記第2または第3の態様において、前記リテーナにおいて、前記挿入側部には、前記突起の内側に配置され、前記挿入側部を上下方向に貫通する長孔(87)が設けられていてもよい。
【0015】
この態様によれば、リテーナの突起と長孔との間の部位の変形が容易となるため、突起がハウジングの係止部に対して容易に係止される。
【0016】
第5の態様は、上記第4の態様において、前記リテーナは、前記長孔の貫通方向において、前記長孔の少なくとも一方の開口を覆うように配置されたカバー片(88)を有してもよい。
【0017】
この態様によれば、第1の端子収容室群における端子収容室に挿入され、かつ長孔の付近に位置する金属端子と、第2の端子収容室群における端子収容室に挿入され、かつ長孔の付近に位置する金属端子との間で、長孔を介して意図しない電気的接続(すなわち、短絡)が生じること防止できる。
【0018】
第6の態様は、上記第4または第5の態様において、前記リテーナの前記突起と前記長孔との間には、前記突起が前記係止部に係止される際に弾性変形する弾性変形部(89)が形成され、前記弾性変形部の上下方向幅は、前記挿入側部全体における上下方向幅の最大値よりも小さくてもよい。
【0019】
この態様によれば、弾性変形部の上下方向幅が挿入側部全体における上下方向幅の最大値よりも小さいため、挿入側部の剛性を確保しつつ、リテーナの突起と長孔との間の弾性変形部の変形が阻害されることを回避できる。
【0020】
第7の態様は、上記第1から第6のいずれか1つの態様において、前記金属端子は、雄型の金属端子に接続可能な雌型の金属端子(31)であり、前記ハウジングは、前記雄型の金属端子を保持する雄側のハウジングに接続可能な雌側のハウジング(33)であってもよい。
【0021】
この態様によれば、リテーナと金属端子とが係合するための構造を、雌型の金属端子により容易に確保できるため、リテーナを備えた電気コネクタの構造が簡易となる。
【0022】
上記課題を解決するために本発明の第8の態様は、上記第1から第7の態様のいずれか1つの態様における電気コネクタと、前記電気コネクタ(5)と接続可能に設けられた他の電気コネクタ(3)と、を備えた電気コネクタ対(1)である。
【0023】
この態様によれば、電気コネクタ対を構成する電気コネクタにおいて、第1および第2の端子収容室群の間に配置された仕切壁に形成されたリテーナ用開口に、リテーナの被係止部を係止する係止部が形成されているため、ハウジングに対するリテーナの保持強度を安定的に確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上の態様によれば、ハウジングに対するリテーナの保持強度を安定的に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図5】リテーナ35の(A)上面側の斜視図および(B)下面側の斜視図
【
図6】
図5(A)に示したリテーナ35のVI-VI線断面図
【
図7】雌側ハウジング33に対するリテーナ35の装着動作を示す説明図(雌側ハウジング33は、
図3のVII-VII線断面に相当する。)
【
図8】雌側ハウジング33に対するリテーナの装着動作を示す説明図(ここで、雌側ハウジング33は、
図3のVIII-VIII線断面に相当する。)
【
図9】リテーナ35による雌端子31の保持状態を示す説明図(
図3のIX-IX線断面図)
【
図10】リテーナ35による雌端子31の保持状態を示す説明図(
図3のX-X線断面図)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る電気コネクタ及びこれを備えた電気コネクタ対について図面を参照しながら説明する。説明の便宜上、
図1等に矢印で示すように上下、前後、及び左右の方向を定める。ただし、実際に使用される電気コネクタ及びこれを備えた電気コネクタ対の配置は、それらの方向には限定されない。
【0027】
図1に示すように、電気コネクタ対1は、電線同士や、電線と電気器具の回路基板等とを電気的に接続する器具である。電気コネクタ対1は、互いに接続可能な雄側コネクタ3および雌側コネクタ5(電気コネクタの一例)を備える。
【0028】
雄側コネクタ3は、複数の雄型の金属端子(以下、雄端子という。)11と、それら雄端子11を収容する樹脂製の雄側ハウジング13と、を有する。
【0029】
複数の雄端子11は、それぞれピン状の先端部11Aを有し、雄側ハウジング13内において左右方向に沿って列をなすように所定の間隔で配置される。複数の雄端子11は、上下方向に2列に配置されている。
【0030】
雄側ハウジング13は、後側に略矩形の開口13Aを有する箱形の形状を有する。雄側ハウジング13は、その外殻をなす上壁15、下壁16、左壁17、右壁18、及び前壁19を有する。開口13Aは、上壁15、下壁16、左壁17、及び右壁18の後縁によって画成される。雄側ハウジング13は、その下壁16を回路基板21に当接させた状態で、取付金具23によって回路基板21に固定される。回路基板21は、複数の雄端子11に対して電気的に接続されている。なお、複数の雄端子11は、回路基板21の代わりに電線にそれぞれ接続されてもよい。
【0031】
雌側コネクタ5は、
図2にも示すように、複数の雌型の金属端子(以下、雌端子という。)31と、それら雌端子31を収容する樹脂製の雌側ハウジング33と、雌側ハウジング33に取り付けられる樹脂製のリテーナ35と、を有する。
【0032】
各雌端子31は、前側に位置する角形の筒状部31Aと、後側に位置する圧着部31Bとを有する。各圧着部31Bには電線34が接続されている。各雌端子31は、雄側コネクタ3においてそれぞれ対応する位置に配置された雄端子11と電気的に接続可能である。
【0033】
雌側ハウジング33は、略直方体状をなし、その外殻をなす上壁41、下壁42、前壁43(
図3参照)、後壁44、左壁45、及び右壁46を有する。また、雌側ハウジング33は、その内部スペースを区画するように配置された仕切壁48及び内壁49を有する。仕切壁48は、上壁41と下壁42との間において、それらと略平行に配置される。雌側ハウジング33は、雄側ハウジング13と接続可能な相補的構造を有する。雌側ハウジング33は、その一部(すなわち、後部)を除いて雄側ハウジング13の開口13Aから雄側ハウジング13内に挿入されることにより、雄側ハウジング13と嵌合可能である。
【0034】
雌側ハウジング33には、複数の雌端子31がそれぞれ挿入される複数の端子収容室47が形成されている。各端子収容室47は、略直方体状をなす空間を有し、その空間は、前壁43および後壁44を貫通するように前後方向に延在する。複数の端子収容室47は、左右方向に沿って列をなすように配置されることにより、それぞれ第1の端子収容室群101および第2の端子収容室群102を構成する。第1の端子収容室群101および第2の端子収容室群102は、上下方向に間隔をおいて配置される。第1の端子収容室群101および第2の端子収容室群102は、それぞれ同数の端子収容室47を含み、それら端子収容室47は上下方向に重なるように配置される。
【0035】
第1の端子収容室群101において、各端子収容室47の上面および下面は、それぞれ上壁41および仕切壁48によって概ね画定される。また、各端子収容室47の左右の側面は、複数の内壁49、左壁45、及び右壁46のいずれかよって概ね画定される。内壁49は、前後方向から見て、仕切壁48を介して上壁41及び下壁42を上下方向に接続するように設けられる。つまり、上壁41及び仕切壁48は、第1の端子収容室群101における複数の端子収容室47の上壁及び下壁としてそれぞれ機能する。また、内壁49、左壁45、及び右壁46は、第1の端子収容室群101における複数の端子収容室47の側壁としてもそれぞれ機能する。
【0036】
同様に、第2の端子収容室群102において、各端子収容室47の上面および下面は、それぞれ仕切壁48及び下壁42によって概ね画定される。また、各端子収容室47の左右の側面は、複数の内壁49、左壁45、及び右壁46のいずれかよって概ね画定される。つまり、仕切壁48及び下壁42は、第2の端子収容室群102における複数の端子収容室47の上壁及び下壁としてそれぞれ機能する。また、内壁49、左壁45、及び右壁46は、第2の端子収容室群102における複数の端子収容室47の側壁としてもそれぞれ機能する。
【0037】
雌側ハウジング33の左壁45には、リテーナ35が挿入されるリテーナ挿入孔51の挿入側の開口45Aが形成されている。リテーナ挿入孔51は、雌側ハウジング33内において左壁45から右壁46まで左右方向に延在する。リテーナ挿入孔51は、雌側ハウジング33の上下方向における略中央に位置する。左壁45に形成された開口45Aは、
図4にも示すように、四隅がR面取りされた略矩形をなす。
【0038】
リテーナ挿入孔51に関し、仕切壁48には、その中央部を切り欠くように左右方向に延びるリテーナ用開口52が形成されている(
図7(A)、(B)参照)。リテーナ用開口52は、左壁45および右壁46を貫くように形成され、リテーナ挿入孔51の一部を構成する。リテーナ用開口52の左右縁は、概ね左右方向に沿ってそれぞれ延びる前側面52A及び後側面52Bによって画定される。後側面52Bから前方に向けて突設された突起55(係止部の一例。以下、ハウジング突起55という。)は、リテーナ35に形成された突起57(被係止部の一例。以下、リテーナ突起57という。)を係止する。
【0039】
ハウジング突起55は、それぞれ矩形状をなす傾斜面55A、平行面55B、及び垂直面55Cを有する。傾斜面55Aは、その左縁が後側面52Bに接続され、その左縁から右前方に(すなわち、後側面52Bに対して斜めに)延びる。平行面55Bは、傾斜面55Aの右縁に連なり、後側面52Bと平行に右方に延びる。垂直面55Cは、平行面55Bの右縁に連なり、後側面52Bに対して垂直に延びることにより、その右縁が後側面52Bに接続される。
【0040】
このように、仕切壁48に設けられたリテーナ用開口52(より厳密には、開口を画定する縁)に、リテーナ突起57を係止するハウジング突起55が形成されているため、雌側ハウジング33に対するリテーナ35の保持強度が安定的に確保される。つまり、雌側ハウジング33では、リテーナ35を離脱させるように作用する力は、略平板状をなす仕切壁48(すなわち、仮想平面)に沿って作用するため、その力が壁に直交する方向に作用する場合と比べて、リテーナ35の保持強度を容易に確保できる(すなわち、壁の厚みの影響を受け難い)。また、仕切壁48のリテーナ用開口52にハウジング突起55が形成されるため、ハウジング突起55の形成が雌側ハウジング33を構成する各壁の厚みに影響を及ぼすことを回避できる。なお、ハウジング突起55は、前側面52Aから後方に向けて突設されてもよい。
【0041】
雌側ハウジング33の右壁46には、リテーナ35の先端を露出する開口46A(
図7(A)、(B)参照)が形成されている。ただし、右壁46の開口46Aは省略されてもよい。すなわち、リテーナ挿入孔51が右壁46を貫通することは必須ではない。
【0042】
図1に示すように、雌側ハウジング33の上壁41には、雄側ハウジング13における上壁15の内面側に設けられた係止部に係止される被係止爪61が設けられている。上壁15の内面側に設けられた係止部には、図示しない開口または係止爪等が含まれ得る。また、上壁41には、ユーザによって操作される操作片63(
図1参照)が設けられている。ユーザは、雄側ハウジング13に対して雌側ハウジング33を嵌合(すなわち、電気的に接続)する際に、操作片63を下方に押圧することにより、上壁41における被係止爪61の周辺を雌側ハウジング33の内側(すなわち、下方)に変位させることができる。これにより、被係止爪61は、雄側ハウジング13の係止部に対して容易に係止される。
【0043】
雌側ハウジング33の上壁41には、複数の雌端子31に対応する位置に複数の弾性係止爪65(
図9参照)が設けられている。複数の弾性係止爪65は、第1の端子収容室群101を構成する複数の端子収容室47にそれぞれ挿入された複数の雌端子31を係止することにより、それらの後方への移動をそれぞれ規制する。これにより、各雌端子31の端子収容室47からの離脱が防止される)。各弾性係止爪65は、弾性変形可能なアームに形成されており、略上下方向に変位可能である。各弾性係止爪65は、各雌端子31が正規の収容位置(すなわち、端子収容室47に雌端子31が完全に挿入された状態)にある場合に、その筒状部31Aの底壁に形成された開口に挿入される。同様に、雌側ハウジング33の下壁42には、複数の弾性係止爪66(
図9参照)が設けられている。複数の弾性係止爪66は、第2の端子収容室群102を構成する複数の端子収容室47にそれぞれ挿入される複数の雌端子31を係止することにより、それらの後方への移動をそれぞれ規制する。各弾性係止爪65は、各弾性係止爪65と同様の構成を有しており、各雌端子31が正規の収容位置にある場合に、その筒状部31Aの底壁に形成された開口に挿入される。
【0044】
リテーナ35は、雌側ハウジング33の端子収容室47に挿入された複数の雌端子31を保持する。より詳細には、リテーナ35は、雌側ハウジング33のリテーナ挿入孔51に挿入された状態で、正規の収容位置にある各雌端子31と係合することにより、各雌端子31の後方への移動を規制する。リテーナ35は、第1の端子収容室群101及び第2の端子収容室群102にそれぞれ挿入される全ての雌端子31の後方への移動を規制することが可能である。これにより、各雌端子31の後方への移動は、雌側ハウジング33の弾性係止爪65、66およびリテーナ35によって二重に規制される。
【0045】
リテーナ35は、
図5(A)、(B)にも示すように、左右方向において、雌側ハウジング33への挿入側に位置する挿入側部71と、挿入側部71の後方に連なる基部73と、基部73の後端に形成されたフランジ部75とに区分され得る。
【0046】
また、リテーナ35は、前後方向において、前部81及び後部82に区分され得る。挿入側部71における後部82は、
図6にも示すように、左右方向に垂直な断面において後方に突出する凸状をなす。つまり、挿入側部71における後部82の後方側(すなわち、凸状の先端側)は、前方側よりも狭い上下方向幅で構成されている。挿入側部71における後部82は、前後方向に直交するように略ね左右方向に沿って延びる後面82Aを含む。リテーナ35には、後面82Aから後方に突設されたリテーナ突起57が設けられている。リテーナ突起57は、ハウジング突起55に係止される。リテーナ突起57は、それぞれ矩形状をなす傾斜面57A、平行面57B、及び垂直面57Cを有する。傾斜面57Aは、その右縁が後面82Aに接続され、その右縁から左後方(すなわち、後面82Aに対して斜めに)に延びる。平行面57Bは、傾斜面57Aの左縁(すなわち、挿入方向後方)に連なり、後面82Aと平行に左方に延びる。垂直面57Cは、平行面57Bの左縁に連なり、後面82Aに対して垂直に延びることにより、その左縁が後面82Aに接続される。
【0047】
また、挿入側部71において、リテーナ突起57の内側(すなわち、前方)には、後部82の後方側(すなわち、狭幅部分)を上下方向に貫通する長孔87が設けられている。これにより、リテーナ突起57と長孔87との間の部位は、リテーナ突起57がハウジング突起55に係止される際に弾性変形する弾性変形部89として機能する。弾性変形部89は、
図6にも示すように、凸状をなす後部82の後方側に設けられているため、弾性変形部89の上下方向幅は、挿入側部71の後部82全体における上下方向幅の最大値よりも小さい。これにより、挿入側部71の剛性を極力確保しつつ、リテーナ突起57と長孔87との間の弾性変形部89の変形が阻害される(すなわち、ユーザに過度な操作力が要求される)ことを回避できる。
【0048】
挿入側部71の後部82において、長孔87の下方には、長孔87を覆うように配置されたカバー片88が設けられている(
図5(B)参照)。カバー片88の後縁88Aは、後部82の後面82Aよりも前方に位置する。カバー片88の後縁88Aは、雌側ハウジング33にリテーナ35が挿入された状態で、一部の内壁49(すなわち、リテーナ挿入孔51を画定する内壁49の切欠き部59A(
図7(A)参照))に当接する。これにより、リテーナ35は、雌端子31の雌側ハウジング33からの離脱をより安定的に防止できる。また、長孔87の一方の開口がカバー片88によって覆われる。これにより、第1の端子収容室群101における端子収容室47に挿入され、かつ長孔87の付近に位置する雌端子31と、第2の端子収容室群102における端子収容室47に挿入され、かつ長孔87の付近に位置する雌端子31との間で、長孔87の貫通方向における意図しない電気的接続(すなわち、短絡)が生じること防止できるという利点もある。なお、リテーナ35では、カバー片88が長孔87の上方に(或いは、上下両方に)設けられてもよい。
【0049】
挿入側部71における前部81は、リテーナ35の左右方向から見た場合(
図6参照)に、後部82から上方かつ前方に突出する第1端子係止部83Aと、後部82から端子収容室47側下方かつ前方に突出する第2端子係止部83Bと、を有する。第1端子係止部83Aは、第1の端子収容室群101を構成する複数の端子収容室47にそれぞれ挿入される複数の雌端子31を係止することにより、それらの後方への移動をそれぞれ規制する。第2端子係止部83Bは、第2の端子収容室群102を構成する複数の端子収容室47にそれぞれ挿入される複数の雌端子31を係止することにより、それらの後方への移動をそれぞれ規制する。
【0050】
基部73における前部81は、挿入側部71における前部81と同様の形状を有し(すなわち、前部81は、挿入側部71から基部73にわたって同様の形状を有し)、第1端子係止部83Aおよび第2端子係止部83Bを含む。
【0051】
基部73における後部82は、挿入側部71における後部82の左方(すなわち、挿入方向後方)に位置する。基部73における後面82B(
図5(B)参照)は、前後方向に直交するように左右方向に沿って延び、挿入側部71における後部82の後面82Aに対してより後方に位置する。また、基部73における後部82は、略直方体状をなす。
【0052】
リテーナ突起57を含む挿入側部71は、平面視において基部73よりも狭い前後方向幅を有する。これにより、雌側ハウジング33に係止されるリテーナ35の被係止部としてリテーナ突起57を設ける場合でも、リテーナ35の前後方向幅の増大を抑制しつつ、基部73においてリテーナ35を雌側ハウジング33に対して安定的に保持するのに必要な前後方向幅を確保できる。ただし、リテーナ突起57を含む挿入側部71の平面視における前後方向幅は、必要に応じて基部73の前後方向幅よりも大きく設定されてもよい。
【0053】
フランジ部75は、雌側ハウジング33の開口45Aに嵌め込み可能であり、その外縁は、四隅がR面取りされた略矩形をなす。
【0054】
次に、ユーザによる雌側ハウジング33に対するリテーナ35の装着動作(すなわち、リテーナ35による複数の雌端子31の係止動作)について説明する。
【0055】
ユーザ(図示せず)は、
図7(A)及び
図8(A)に示す状態から、リテーナ35を右方に移動させることによりリテーナ挿入孔51に対して挿入する。これにより、
図7(B)及び
図8(B)に示すように、リテーナ35がリテーナ挿入孔51に装着される。
【0056】
リテーナ挿入孔51に対するリテーナ35の挿入途中において、リテーナ突起57の傾斜面57Aが、ハウジング突起55の傾斜面55Aに当接する。その状態において、ユーザが更にリテーナ35を右方に押し込むことにより、リテーナ突起57は、内側(すなわち、前方)に変位しつつ、ハウジング突起55を乗り越えるようにしてハウジング突起55の右方に移動する。これにより、リテーナ突起57の垂直面57Cが、ハウジング突起55の垂直面55Cに当接した状態となり、リテーナ35の左方への移動が規制される。これにより、リテーナ35のリテーナ挿入孔51からの離脱が防止される。
【0057】
図7(B)に示すように、リテーナ挿入孔51を構成するリテーナ用開口52の前後方向幅(すなわち、ハウジング突起55を除いた前側面52Aおよび後側面52Bの間隔)は、リテーナ35の挿入側部71に対応する部位(すなわち、右側に位置する部位)において、リテーナ突起57を含めたリテーナ35の挿入側部71における前後方向幅と略同一か、または挿入側部71の前後方向幅よりも僅かに大きい。また、リテーナ用開口52の前後方向幅は、リテーナ35の基部73に対応する部位(すなわち、中央及び左側に位置する部位)において、挿入側部71に対応する部位の前後方向幅よりも大きいか、または挿入側部71に対応する部位の前後方向幅と同一である。これにより、リテーナ突起57の傾斜面57Aがハウジング突起55の傾斜面55Aに当接するまでは、リテーナ挿入孔51に対するリテーナ35の挿入が阻害されることはない。
【0058】
また、雌側ハウジング33の各内壁49は、
図7(A)に示すように、リテーナ挿入孔51に対応する部位において、リテーナ35の断面形状に対応するように形成された切欠き部59A、59Bを有する。リテーナ35の挿入側部71に対応するリテーナ挿入孔51の部分を構成する内壁49の切欠き部59Aは、基部73に対応するリテーナ挿入孔51の部分を構成する内壁49の切欠き部59Bよりも小さな前後方向幅を有する。このように、リテーナ35の挿入側部71および基部73にそれぞれ対応するように、前後方向幅の異なる切欠き部59A、59Bを有する内壁49を設けることにより、前後方向幅がより小さいリテーナ35の挿入側部71と、前後方向幅がより大きいリテーナの基部73とをそれぞれ安定的に保持できる。
【0059】
雌側ハウジング33に対するリテーナ35の装着が完了すると、
図9および
図10に示すように、第1の端子収容室群101を構成する端子収容室47に挿入される雌端子31の筒状部31Aの後端にリテーナ35の第1端子係止部83Aが当接することにより、雌端子31の後方への移動(すなわち、端子収容室47からの離脱)が防止される。同様に、第2の端子収容室群102を構成する端子収容室47に挿入される雌端子31の筒状部31Aの後端にリテーナ35の第2端子係止部83Bが当接することにより、雌端子31の後方への移動が防止される。
【0060】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。上述の実施形態に示した電気コネクタ及びこれを備えた電気コネクタ対の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも当業者であれば本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 :電気コネクタ対
3 :雄側コネクタ(他の電気コネクタの一例)
5 :雌側コネクタ(電気コネクタの一例)
11 :雄端子
13 :雄側ハウジング
15 :上壁
16 :下壁
17 :左壁
18 :右壁
19 :前壁
21 :回路基板
23 :取付金具
31 :雌端子(金属端子の一例)
33 :雌側ハウジング
34 :電線
35 :リテーナ
41 :上壁
42 :下壁
43 :前壁
44 :後壁
45 :左壁
46 :右壁
46A:開口
47 :端子収容室
48 :仕切壁
49 :内壁
51 :リテーナ挿入孔
52 :リテーナ用開口
52A:前側面
52B:後側面
55 :ハウジング突起(係止部の一例)
57 :リテーナ突起(被係止部の一例)
59A、59B:切欠き部
61 :被係止爪
63 :操作片
65 :弾性係止爪
71 :挿入側部
73 :基部
75 :フランジ部
81 :前部
82 :後部
83A:第1端子係止部
83B:第2端子係止部
85 :係止突起
87 :長孔
88 :カバー片
89 :弾性変形部
101:第1の端子収容室群
102:第2の端子収容室群