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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】半導体受光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
H01L31/10 H
H01L31/10 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021118892
(22)【出願日】2021-07-19
(62)【分割の表示】P 2021504480の分割
【原出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107496
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】磯村 尚友
(72)【発明者】
【氏名】大村 悦司
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/079763(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0117203(US,A1)
【文献】特開平7-20301(JP,A)
【文献】特開2009-122416(JP,A)
【文献】特開平10-96801(JP,A)
【文献】特開2002-252366(JP,A)
【文献】特開2003-249675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光通信用の赤外光領域の光を受光部で受光して光電流に変換する半導体受光素子であって、光電流を取り出すために半導体基板の光の入射面側に形成された第1電極と、前記半導体基板の裏面側に形成された第2電極を有する半導体受光素子において、
前記第2電極は、前記半導体基板に接続された複素屈折率の実部及び虚部が夫々3以上且つ5以下である第1金属膜と、この第1金属膜を覆う金を主成分とする第2金属膜を有すると共に、前記半導体基板を透過した光がこの第2電極に到達する照射領域に、前記第1金属膜と前記第2金属膜の間に形成された屈折率が2以下の誘電体膜を有する反射防止部を備えたことを特徴とする半導体受光素子。
【請求項2】
前記第2電極は、前記第2金属膜と前記誘電体膜との間に、複素屈折率の実部及び虚部が夫々3以上且つ5以下であると共に前記第1金属膜よりも薄い第3金属膜を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
前記第1金属膜はチタン、クロム、タングステンのうちの1種の元素を主成分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光計測、光通信に用いられる赤外光を受光する半導体受光素子に関し、特に光パルスを受光し終えた後の立下り応答特性を向上させた半導体受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光通信に用いられる光ファイバケーブルの損失状態、欠陥位置を測定する光パルス試験器(Optical Time Domain Reflectometer:OTDR)が広く利用されている。この光パルス試験器は、敷設されている光ファイバケーブルの一端からパルス光を入射し、このパルス光が光ファイバケーブル内を伝搬するときに生じるレイリー散乱光のうちの入射側に戻る後方散乱光を受光する。そして、後方散乱光の量(強度)に基づいて損失を測定し、パルス光を入射してから後方散乱光を受光するまでの時間に基づいて光パルス試験器からの距離を測定する。
【0003】
光パルス試験器と測定対象の光ファイバケーブルの一端を接続した接続点では、光ファイバケーブルにパルス光が入射する際に、フレネル反射が生じることが避けられない。そのため、光パルス試験器からパルス光を出射したときに、この接続点でのフレネル反射光が最初に光パルス試験器に受光され、その後で後方散乱光が受光される。
【0004】
この後方散乱光は、フレネル反射光と比べて光強度が極めて小さい。それ故、パルス光のパルス幅に相当するフレネル反射光の受光時間と、光パルス試験器の受光素子が、フレネル反射光の受光が終わってから後方散乱光を検知可能になるまでの応答時間(立下り時間)が経過するまでは、後方散乱光を検知することができない。従って、後方散乱光を検知することができない時間に相当する光パルス試験器からの光の往復距離内に欠陥が存在していても、この欠陥を検出することができないデッドゾーンが生じる。
【0005】
デッドゾーンを小さくするために、受光素子の立下り時間を短縮することが要求されている。例えば特許文献1のように、受光素子の立下り時間を短縮するために、受光部の第1光吸収層を透過した光を第2光吸収層で吸収することにより、第1光吸収層に再入射する光を減少させる半導体受光素子が知られている。反射して第1光吸収層に再入射する光が少ないので、第1光吸収層を光が透過し終わると光電流が急激に減少し、立下り時間が短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-8456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の半導体受光素子は、入射した光を電気信号に変換するための第1光吸収層と、第1光吸収層を透過した光を吸収することにより第1光吸収層に再入射しないようにするための第2光吸収層を有する。そのため、構造が複雑になると共に、結晶成長させるため形成することが容易ではない2つの光吸収層を別々に形成する必要があるので、製造コストが上昇してしまう課題がある。
【0008】
本発明の目的は、簡単な構造で光吸収層を透過した光が再入射しないように構成した半導体受光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明の半導体受光素子は、光通信用の赤外光領域の光を受光部で受光して光電流に変換する半導体受光素子であって、光電流を取り出すために半導体基板の光の入射面側に形成された第1電極と、前記半導体基板の裏面側に形成された第2電極を有する半導体受光素子において、前記第2電極は、前記半導体基板に接続された複素屈折率の実部及び虚部が夫々3以上且つ5以下である第1金属膜と、この第1金属膜を覆う金を主成分とする第2金属膜を有すると共に、前記半導体基板を透過した光がこの第2電極に到達する照射領域に、前記第1金属膜と前記第2金属膜の間に形成された屈折率が2以下の誘電体膜を有する反射防止部を備えたことを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、半導体受光素子は、光通信に使用される赤外光領域の光を受光部で受光して光電流に変換し、この光電流を取り出すために、半導体基板の入射面側の第1電極と、裏面側の第2電極を有する。第2電極は、半導体基板に接続された上記範囲内の複素屈折率を有する第1金属膜と、第1金属膜を覆う金を主成分とする第2金属膜によって形成されている。この第2電極は、受光部が受光した光が半導体基板を透過して第2電極に到達する照射領域において、第1金属膜と第2金属膜の間に形成された屈折率が2以下の誘電体膜を有する反射防止部を備えている。従って、反射防止部によって、半導体基板を透過した光の反射を防止することができるので、簡単な構造で反射した光の受光部へ再入射を防ぐことができる。それ故、半導体受光素子の立下り時間が短縮される。
【0011】
請求項2の発明の半導体受光素子は、請求項1の発明において、前記第2電極は、前記第2金属膜と前記誘電体膜との間に、複素屈折率の実部及び虚部が夫々3以上且つ5以下であると共に前記第1金属膜よりも薄い第3金属膜を有することを特徴としている。
上記構成によれば、簡単な構造で反射した光の受光部へ再入射を防ぐことができると共に、第3金属膜によって誘電体膜と第2金属膜の間の密着性を向上させることができる。それ故、誘電体膜と第2金属膜の剥離によって空隙が形成されて反射防止部の反射機能が低下することを防止することができる。
【0012】
請求項3の発明の半導体受光素子は、請求項1又は2の発明において、前記第1金属膜はチタン、クロム、タングステンのうちの1種の元素を主成分とすることを特徴としている。
上記構成によれば、光通信用の赤外光領域において入射光の反射率が低い反射防止部を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体受光素子によれば、受光部に入射して入射面側から半導体基板を透過し、裏面側の第2電極に到達した光の反射を反射防止部が防止するので、簡単な構造で光吸収層を透過した光が再入射しないように反射を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1に係る半導体受光素子の構造を示す断面図である。
図2】実施例1の反射防止部の第1金属膜がTi膜の場合の反射率を示す図である。
図3】反射防止部の第1金属膜の複素屈折率下限値における反射率を示す図である。
図4】反射防止部の第1金属膜の複素屈折率上限値における反射率を示す図である。
図5】光通信用の赤外光領域の光に対する金属材料の複素屈折率を示す図である。
図6】実施例1の反射防止部の第1金属膜がW膜の場合の反射率を示す図である。
図7】実施例1の反射防止部の第1金属膜がAu膜の場合の反射率を示す図である。
図8】実施例1の反射防止部の第1金属膜がAl膜の場合の反射率を示す図である。
図9】実施例1の反射防止部の第1金属膜がPt膜の場合の反射率を示す図である。
図10】実施例1の反射防止部の誘電体膜がSiN膜の場合の反射率を示す図である。
図11】本発明の実施例2に係る半導体受光素子の構造を示す断面図である。
図12】実施例2の反射防止部の第1、3金属膜がTi膜の場合の反射率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
半導体受光素子1Aは、光通信用の赤外光領域(波長λが1100~1600nmの領域)の入射光を受光する例えばPINフォトダイオード又はアバランシェフォトダイオードを備えている。ここでは、図1のようにPINフォトダイオードを備えた半導体受光素子1Aの例を説明する。
【0017】
半導体受光素子1Aは、光通信用の赤外光領域の入射光に対して透明な半導体基板2として例えばn-InP基板の第1面2a側に、第1半導体層3としてn-InP層、入射光を吸収する光吸収層4としてInGaAs層、第2半導体層5としてn-InP層を有する。第2半導体層5には、例えばZnが選択的にドープされたp型拡散領域5aを有する。光吸収層4のp型拡散領域5aに接する領域が光吸収領域4aに相当し、p型拡散領域5aと光吸収領域4aと第1半導体層3によりフォトダイオード(受光部6)が形成されている。第1、第2半導体層3,5、光吸収層4の厚さは夫々適宜設定され、例えば0.5~5μmの厚さに形成されている。
【0018】
第2半導体層5の表面は、p型拡散領域5aに連通する開口部7aを有する保護膜7(例えばSiN膜、SiO2膜等)に覆われている。この開口部7aからp型拡散領域5aに接続するアノード電極8(第1電極)が形成されている。p型拡散領域5aの大きさ、形状は夫々適宜設定され、例えば直径が10~200μmの円形に形成されている。
【0019】
半導体基板2の第1面2aに対向する第2面2b側(裏面側)には、半導体基板2に対して第1面2a側(入射面側)から入射するように受光部6に入射して光吸収層4(光吸収領域4a)を透過した入射光が到達する照射領域10に、反射防止部11を備えている。この反射防止部11は、光吸収層4(光吸収領域4a)を透過した入射光が反射して再び受光部6に入射することを防ぐためのものである。
【0020】
反射防止部11は、半導体基板2の第2面2b側に第1金属膜12と誘電体膜13と第2金属膜14が積層されて形成されている。第1金属膜12は、例えば蒸着により形成された厚さが30nmのチタン膜(Ti膜)である。誘電体膜13は、例えば化学気相成長法によって形成された厚さが300nmのシリコン酸化膜(SiO2膜)であり、照射領域10を覆うように選択的に形成されている。第2金属膜14は、例えば蒸着により形成された厚さが600nmの金膜(Au膜)である。
【0021】
第1金属膜12は半導体基板2に接続されると共に、反射防止部11の外側で第2金属膜14に接続され、第1金属膜12と第2金属膜14によってカソード電極9(第2電極)が形成されている。カソード電極9は、マウント基板18に形成された配線18aに例えば図示外の導電性ペーストによって接続、固定される。また、アノード電極8は、マウント基板18に形成された図示外の別の配線に例えばボンディングワイヤによって接続される。そして、これらの配線の端子部分T1,T2から受光部6で生成された光電流が外部に取り出される。
【0022】
半導体受光素子1Aの立下り時間短縮のためには、光吸収領域4aを透過した入射光が、反射して光吸収領域4aに再入射することを防ぐ必要がある。そのため、照射領域10に形成された反射防止部11の反射率は低い程好ましく、例えば1%以下であることが要求されている。
【0023】
図2は、半導体受光素子1Aの第1金属膜12としてTi膜の膜厚と、誘電体膜13としてSiO2膜の膜厚を夫々パラメータとして、波長λが1550nmの赤外光に対する反射防止部11の反射率についてシミュレーションした結果を等高線プロットした図である。Ti膜の膜厚が30nm程度、且つSiO2膜の膜厚が300nm程度のときに反射率が0.1%程度になるので、低反射率の反射防止部11が形成される。また、Ti膜の膜厚が26~35nm且つSiO2膜の膜厚が220~340nmの場合に、反射率が概ね1%以下になるので、許容できる膜厚の範囲が広く、低反射率の反射防止部11を安定して形成することができる。
【0024】
光通信用の波長λが1100~1600nmの領域の赤外光に対して、Ti膜は、複素屈折率nの実部(Re[n])が3.4~3.6、複素屈折率nの虚部(Im[n])が3.4~3.6である。SiO2膜はこの領域の赤外光に対し屈折率が1.45~1.44である。
【0025】
第1金属膜12としてTi膜以外の金属材料が好ましい場合もある。そのため、本発明者は、低反射率の反射防止部11を形成することが可能な第1金属膜12を特定するために、第1金属膜12の複素屈折率nのRe[n]と、Im[n]をパラメータとして、図2と同様の反射率のシミュレーションを行った。その結果、許容できる膜厚の範囲が広く、低反射率の反射防止部11を安定して形成することができる第1金属膜12の複素屈折率nのRe[n]とIm[n]の範囲を特定することができた。
【0026】
図3は、第1金属膜12の複素屈折率nのRe[n]を3、Im[n]を3とした場合に、反射防止部11の反射率を等高線プロットしたものである。また、図4は、第1金属膜12の複素屈折率nのRe[n]を5、Im[n]を5とした場合に、反射防止部11の反射率を等高線プロットしたものである。
【0027】
反射率が低くなる第1金属膜12の膜厚範囲及び誘電体膜13としてSiO2膜の膜厚範囲は図2と異なるが、図3図4の何れの場合も反射率が概ね1%以下になる許容できる膜厚の範囲が広く、低反射率の反射防止部11を安定して形成することができる。図示を省略するが、第1金属膜12の複素屈折率nのRe[n]が3~5且つIm[n]が3~5であれば、反射率を1%以下にすることが可能な膜厚の範囲が広く、低反射率の反射防止部11を安定して形成することができる。
【0028】
以上の検討から、複素屈折率nのRe[n]及びIm[n]が夫々下限値として3以上且つ上限値として5以下の金属材料を用いた金属膜を反射防止部11の第1金属膜12にすることによって、低反射率の反射防止部11が得られることが判明した。次に、複素屈折率nのRe[n]及びIm[n]が夫々3以上且つ5以下の金属材料について、光通信に用いられる波長λが1100~1600nmの領域の赤外光に対して検討した結果を図5に示す。
【0029】
図5は、波長λが1100~1600nmの赤外光に対する種々の金属材料の複素屈折率をプロットしたものである。複素屈折率nのRe[n]及びIm[n]が夫々3以上且つ5以下の領域が、ターゲット領域TAとして示されている。Tiの場合は、波長λが1100~1600nmの赤外光に対してターゲット領域TA内に入る。クロム(Cr)の場合は、波長λが1100~1580nmの赤外光に対してターゲット領域TA内に入る。タングステン(W)の場合は、波長λが1100~1450nmの赤外光に対してターゲット領域TA内に入る。
【0030】
図6は波長λが1305nmの赤外光に対して第1金属膜12がW膜の場合の反射率を示している。W膜の膜厚が22+/-4nm程度、誘電体膜13としてSiO2膜の膜厚が310+/-30nm程度のときに、低反射率の反射防止部11を形成することができる。尚、図示を省略するが、第1金属膜12がCr膜の場合も同様に、低反射率の反射防止部11を形成することができる。
【0031】
図5のターゲット領域TA外には、Ti、Cr、W以外の他の金属材料の複素屈折率がプロットされている。波長λが1550nmの赤外光に対して、図7のように第1金属膜12を金膜(Au膜)とした場合、図8のように第1金属膜12をアルミニウム膜(Al膜)とした場合には、低反射率となるSiO2膜の膜厚の範囲が、ターゲット領域TA内の金属材料と比べて狭い。また、SiO2膜の膜厚とAu膜の膜厚との組み合わせが反射率に大きく影響する。
【0032】
そのため、ターゲット領域TA外の金属材料の第1金属膜12と誘電体膜13の精密な膜厚制御が要求され、ターゲット領域TA内の金属材料と比べて、低反射率の反射防止部11を安定して形成することが困難である。また、第1金属膜12がAl膜の場合には、この膜厚が10nm程度で低反射率になるが、ターゲット領域TA内の金属材料と比べて膜厚が薄いことも、低反射率の反射防止部を安定して形成することが困難な要因の1つである。
【0033】
図9のように第1金属膜12を白金膜(Pt膜)とした場合には、Pt膜の膜厚が10nm程度のときに低反射率になる。しかし、ターゲット領域TA内の金属材料と比べて膜厚が薄く且つ許容される膜厚範囲も+/-2nm程度と狭いので、ターゲット領域TA内の金属材料と比べて、低反射率の反射防止部11を安定して形成することが困難である。
【0034】
反射防止部11の誘電体膜13は、SiO2膜だけでなくSiN膜を用いることもできる。SiN膜の屈折率は1.99程度であり、SiO2膜の屈折率1.44よりも大きい。この場合でも、例えば図10に示すように、Ti膜の膜厚が30+/-5nmの範囲内且つSiNの膜厚が195+/-30nmの範囲内で1%以下の反射率の反射防止部11が形成される。反射率が概ね1%以下になる許容できる膜厚の範囲が広いので、低反射率の反射防止部11を安定して形成することができる。
【実施例2】
【0035】
上記実施例1を部分的に変更した半導体受光素子1Bについて説明する。実施例1と同等の部分には実施例1と同じ符号を付して説明を省略する。
【0036】
図11に示すように、半導体受光素子1Bは、光通信用の赤外光領域の入射光に対して透明な半導体基板2の第1面2a側に、第1半導体層3と、光吸収層4と、第2半導体層5を有する。第2半導体層5はp型拡散領域5aを有する。光吸収層4のp型拡散領域5aに接する領域が光吸収領域4aに相当し、p型拡散領域5aと光吸収領域4aと第1半導体層3によりフォトダイオード(受光部6)が形成されている。
【0037】
半導体基板2の第2面2b側(裏面側)には、第1面2a側(入射面側)から受光部6に入射して光吸収層4(光吸収領域4a)を透過した入射光が到達する照射領域10に反射防止部21を備えている。この反射防止部21は、光吸収層4(光吸収領域4a)を透過した入射光が反射して再び受光部6に入射することを防ぐためのものである。
【0038】
反射防止部21は、第1金属膜12、誘電体膜13、第2金属膜14、第3金属膜22を有する。第1金属膜12は、例えば厚さが27nmのTi膜である。誘電体膜13は、例えば厚さが270nmのSiO2膜であり、照射領域10に選択的に形成されている。第2金属膜14は、例えば厚さが600nmのAu膜である。第3金属膜22は、例えば厚さが3nmのTi膜であり、誘電体膜13と第2金属膜14との間の密着性を向上させるために、誘電体膜13の形成後且つ第2金属膜14の形成前に形成される。この第3金属膜22は、誘電体膜13と同じ領域に選択的に形成されてもよい。
【0039】
第1金属膜12は半導体基板2に接続されると共に、反射防止部21の外側で第3金属膜22を介して第2金属膜14に接続され、第1金属膜12と第3金属膜22と第2金属膜14によってカソード電極19(第2電極)が形成されている。カソード電極19は、マウント基板18に形成された配線18aに例えば図示外の導電性ペーストによって接続、固定される。また、アノード電極8(第1電極)は、マウント基板18に形成された図示外の別の配線に例えばボンディングワイヤによって接続される。そして、これらの配線の端子部分T1,T2から、受光部6で生成された光電流が外部に取り出される。
【0040】
図12は、半導体受光素子1Bの第1金属膜12としてTi膜の膜厚と、誘電体膜13としてSiO2膜の膜厚を夫々パラメータとして、波長λが1550nmの赤外光に対する反射防止部21の反射率についてシミュレーションした結果を等高線プロットした図である。Ti膜の膜厚が27nm程度、且つSiO2膜の膜厚が270nm程度のときに反射率が0.1%程度になって、非常に反射率が低い反射防止部21が形成される。また、Ti膜の膜厚が22~34nm且つSiO2膜の膜厚が200~330nmの場合に、反射率が概ね1%以下になるので、許容できる膜厚の範囲が広く、低反射率の反射防止部21を安定して形成することができる。
【0041】
上記半導体受光素子1A,1Bの作用、効果について説明する。
半導体受光素子1A,1Bの受光部6は、光通信に使用される赤外光領域(波長λ=1100~1600nm)の光を受光して光電流に変換する。そして、この光電流を出力するために、第1電極として半導体基板2の入射面側のアノード電極8と、第2電極として半導体基板2の裏面側を覆うように形成されたカソード電極9,19を有する。カソード電極9,19は、半導体基板2に接続された複素屈折率nの実部(Re[n])及び虚部(Im[n])が夫々3以上且つ5以下の複素屈折率を有する第1金属膜12と、第1金属膜12を覆う金を主成分とする第2金属膜14によって形成されている。受光部6が受光した光が半導体基板2を透過してカソード電極9,19に到達する照射領域10において、カソード電極9,19は、第1金属膜12と第2金属膜14の間に屈折率が2以下の誘電体膜13を有する。これにより、半導体基板2を透過した光の反射を防止する反射防止部11,21が、カソード電極9,19に形成される。
【0042】
従って、簡単な構造で反射した光の受光部6への再入射を防ぐことができ、カソード電極9,19で反射された光が光電流に変換されることを防止することができる。それ故、半導体受光素子1A,1Bの立下り時間が短縮される。
【0043】
また、カソード電極19は、誘電体膜13と第2金属膜14の間に、複素屈折率nの実部(Re[n])及び虚部(Im[n])が夫々3以上且つ5以下であると共に第1金属膜12よりも薄い第3金属膜22を有する。従って、第3金属膜22によって誘電体膜13と第2金属膜14の間の密着性を向上させることができる。それ故、誘電体膜13と第2金属膜14の剥離によってこれらの間に空隙が形成されて、カソード電極19の反射防止部21の反射機能が低下することを防止することができる。
【0044】
第1金属膜12はチタン、クロム、タングステンのうちの1種の元素を主成分としている。チタン、クロム、タングステンは、光通信に使用される波長域の光に対して、複素屈折率nの実部(Re[n])及び虚部(Im[n])が夫々3以上且つ5以下の金属材料なので、光通信用の波長域の入射光に対して反射率が低い反射防止部11,21を形成することができる。
【0045】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0046】
1A,1B :半導体受光素子
2 :半導体基板
2a :第1面
2b :第2面
3 :第1半導体層
4 :光吸収層
4a :光吸収領域
5 :第2半導体層
5a :p型拡散領域
6 :受光部
7 :保護膜
7a :開口部
8 :アノード電極(第1電極)
9,19 :カソード電極(第2電極)
10 :照射領域
11,21 :反射防止部
12 :第1金属膜
13 :誘電体膜
14 :第2金属膜
18 :マウント基板
18a:配線
22 :第3金属膜
T1,T2 :端子部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12