(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】柑橘感のすぐれたぽん酢醤油
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240822BHJP
A23L 27/50 20160101ALI20240822BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L27/50 E
(21)【出願番号】P 2021116500
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨成 浩静
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-169168(JP,A)
【文献】特開2013-215130(JP,A)
【文献】特開2014-147366(JP,A)
【文献】特開2011-045247(JP,A)
【文献】特開2019-208368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00 - 27/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
日経テレコン
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として少なくとも柑橘果汁、醤油および香辛料を含有し、前記香辛料がクローブ(丁子)、シナモン(肉桂)、コリアンダー、カルダモン、フェンネルシード、クミンシードから選ばれる1種または2種以上
であり、前記香辛料の含有量がぽん酢醤油全体に対して0.001~0.05%(w/v)である、ぽん酢醤油。
【請求項2】
香辛料がシナモンおよび/またはクローブである、請求項1記載のぽん酢醤油。
【請求項3】
香辛料を、香辛料抽出液として含有する、請求項1記載のぽん酢醤油。
【請求項4】
原料として柑橘果汁および醤油を含有するぽん酢醤油において、クローブ(丁子)、シナモン(肉桂)、コリアンダー、カルダモン、フェンネルシード、クミンシードから選ばれる1種または2種以上
の香辛料を
、ぽん酢醤油全体に対して0.001~0.05%(w/v)添加することにより、香辛料を添加しないぽん酢醤油と比較して、ぽん酢醤油の柑橘感を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘感のすぐれたぽん酢醤油調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
ぽん酢醤油は、醤油と柑橘果汁を混ぜあわせて調製した日本の代表的な調味料であり、数々のバリエーションが市販されている。その風味としては、柑橘に由来するフレッシュな香りや、好ましい苦みが、いわゆる柑橘感として好ましいとされることも多い。
【0003】
ぽん酢醤油の配合を工夫することにより柑橘感を高める方法は過去にも検討されており、例えば、醤油、食酢および柑橘果汁を含有し、食塩、ナトリウム/カリウム比、酢酸酸度およびクエン酸酸度が特定の数値範囲であるぽん酢醤油(特許文献1)や、ナトリウム、カリウム、イソロイシンおよびメチオニンを特定量含有する調味料(特許文献2)などが知られている。
【0004】
このように、配合上の簡易な工夫により、柑橘感を高めたぽん酢醤油が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-147366号公報
【文献】特開2011-45247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本願発明は、従来ない新規かつ簡易な工夫により、柑橘感を高めたぽん酢醤油を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ぽん酢醤油に少量の香辛料を含有させることにより、柑橘果汁の香りを高め、また果汁に由来するフレッシュ感や好ましい苦みの強化、柑橘の風味持続性を高めることが可能になることを見出し、本願発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本願発明のぽん酢醤油は、ぽん酢醤油にクローブ、シナモン、コリアンダー、カルダモン、フェンネルシードおよびクミンシードから選ばれる1種または複数種の香辛料を、ぽん酢醤油全体に対して0.001~0.5%(w/v)の割合で含有させることにより、香辛料を含有させない場合と比較して柑橘果汁の香りが十分に感じられ、また果汁に由来するフレッシュ感や好ましい苦みが強化され、さらに柑橘の風味持続性も高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、香辛料を添加しないぽん酢醤油の官能評価結果を示す。それぞれのバーは、全パネラー数に対する、それぞれの評価を行ったパネラーの人数の割合を示している。
【
図2】
図2は、シナモン粉末0.1%(w/v)添加したときのぽん酢醤油の官能評価結果を示す。それぞれのバーは、全パネラー数に対する、それぞれの評価を行ったパネラーの人数の割合を示している。
【
図3】
図3は、クローブ粉末0.1%(w/v)添加したときのぽん酢醤油の官能評価結果を示す。それぞれのバーは、全パネラー数に対する、それぞれの評価を行ったパネラーの人数の割合を示している。
【
図4】
図4は、クローブ0.1%(w/v)相当を抽出液として添加したときのぽん酢醤油の官能評価結果を示す。それぞれのバーは、全パネラー数に対する、それぞれの評価を行ったパネラーの人数の割合を示している。
【
図5】
図5は、シナモン粉末1.0%(w/v)添加したときのぽん酢醤油の官能評価結果を示す。それぞれのバーは、全パネラー数に対する、それぞれの評価を行ったパネラーの人数の割合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明のぽん酢醤油は、少なくとも柑橘果汁、醤油および香辛料を含有する。
【0011】
柑橘果汁としては、ゆず、すだち、かぼす、レモン、ライム、だいだい、ゆこう、みかん、オレンジ、グレープフルーツ、夏みかん、カラマンシー、シークワーサー等から調製された果汁が例示され、1種の柑橘に由来するものであっても良く、複数の柑橘の果汁を組み合わせて配合しても良い。特にゆず、レモン、オレンジ、だいだい、すだち、かぼすのような甘味の少ない柑橘に由来するものが好ましい。果汁は、天然果汁であっても濃縮果汁であってもよく、また清澄果汁であっても混濁果汁であってもよい。
【0012】
果汁の配合量としては、製造するぽん酢醤油に求められる風味に合わせて適宜決定することが可能であるが、例えば、ぽん酢醤油全体に対し0.1~60%(w/v)程度とすればよく、1~50%であってもよく、また15~55%(w/v)であっても、30~50%(w/v)であっても、左記の数値の間の任意の値であってもよい。本願のぽん酢醤油は、柑橘果汁の風味が強化されていることを特徴とするものであり、果汁の含有量が上記範囲から逸脱する場合には、香辛料に由来する効果が十分に得られなかったり、逆に香辛料の効果が強くなり過ぎたりする恐れがある。
【0013】
醤油としては、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、濃縮醤油、濃厚醤油など任意のものを使用することができる。醤油の配合量としては、製造するぽん酢醤油に求められる風味に合わせて適宜決定することが可能であるが、例えば、ぽん酢醤油全体に対し5~50%(v/v)程度とすればよい。醤油が多すぎると、柑橘の風味が薄くなってしまうなど、好ましくない香味となるおそれがある。
【0014】
本願発明のぽん酢醤油は、香辛料を含むことを特徴とする。香辛料の種類としては、クローブ(丁子)、シナモン(肉桂)、コリアンダー、カルダモン、フェンネルシード、クミンシードなどを使用することができ、1種類を用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。前記香辛料の種類の中でも、クローブおよび/またはシナモンを用いることが好ましく、クローブを用いることがさらに好ましい。これらの香辛料を添加することにより、柑橘感を向上させることが可能となる。
【0015】
香辛料は、直接添加する場合には粉末を使用することが好ましい。また、ぽん酢醤油の製造とは別途、温水中で香辛料の香味成分を抽出し、当該抽出液を添加しても良い。このときの抽出方法としては、例えば温水10mlに香辛料1gを添加し、当該温水中で抽出させた後、固形物を濾過によって除去する方法などを用いることができる。このときの抽出条件として、抽出温度は70~100℃、より好ましくは75~95℃、さらに好ましくは80~90℃とすればよく、抽出時間は15秒~5分、より好ましくは30秒~3分、次に好ましくは1分~2分、さらに好ましくは1分とすればよい。
【0016】
本願発明のぽん酢醤油は、前記香辛料を0.001~0.05%(w/v)、より好ましくは0.005~0.03%、さらに好ましくは0.007~0.02%の割合で含むことを特徴とする。抽出液を添加する場合には、当該抽出に用いる香辛料の重量と、ぽん酢醤油全体の体積の比率が上記の比率であれば良い。
【0017】
香辛料の含有率が上記数値範囲よりも低いと、柑橘感の向上作用を十分に得ることができない。一方、含有率が上記数値範囲よりも高いと、柑橘の柑橘感よりも香辛料そのものの風味が強くなり過ぎてしまい、ぽん酢醤油として好ましくない風味になる恐れがある。
【0018】
本願発明のぽん酢醤油は、上記柑橘果汁、醤油および香辛料のほかにも、通常ぽん酢醤油に配合されうる任意の原料を配合することが可能である。
【0019】
具体的には、醸造酢、穀物酢、米酢、果実酢、黒酢、バルサミコ酢等の食酢類、魚節(かつお節、そうだ節、さば節、まぐろ節、あじ節、あご(とびうお)、いわし節、煮干等)や昆布、干ししいたけ等に由来するだし原料および当該だし原料から抽出されるだし・エキス類、みりん、酒などの調味料、食品用アルコール、食塩(塩化ナトリウム)、塩化カリウム等の食品に使用可能な塩類、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸調味料、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸系調味料のようなうまみ調味料、砂糖、ぶどう糖果糖液糖、水あめなどの糖類、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸などの有機酸類、寒天や澱粉、ペクチン、各種ガム類等の増粘剤などを適宜配合しても良い。
【0020】
さらに、本願発明のぽん酢醤油には、大根、玉ねぎ、生姜、にんにく、長ねぎ、かぶ、にんじん、セロリ、トマト、唐辛子等の野菜や、りんご、梨、パイナップル、ゆず、すだち、かぼす、レモン等の果実類等を具材として添加することもできる。前記具材類は、液体調味料に添加する前に、常法により、フードカッター、サイレントカッター、マスコロイダー、チョッパー、ダイサー、コミトロール等の粉砕処理装置や、回転すりおろし盤を備えたすりおろし装置等で、目的とする粒度に破砕して添加すればよい。
【0021】
ぽん酢醤油の製造においては、上記原料を混合した後、必要に応じて70~120℃、2秒~10分程度の加熱殺菌処理を行った後、適当な容器に充填することで製品とすることができる。
【0022】
本願発明のぽん酢醤油は、香辛料を添加することにより、香辛料を含有させない場合と比較して柑橘感が向上しているものである。柑橘感の向上とは、すなわち、柑橘果汁の香りがより十分に感じられ、また果汁に由来するフレッシュ感や好ましい苦みがより強化され、さらに柑橘の風味持続性もより高くなる等の、柑橘由来の好ましい風味がより強化されていることを言う。
【実施例】
【0023】
以下、本願発明を実施例等により説明するが、本願発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0024】
(実施例1:香辛料の添加による柑橘感の向上)
下記表1の配合によるぽん酢醤油A~Cを製造した。すなわち、A(対照)は香辛料の添加なし、Bは香辛料としてシナモン粉末を0.01%(w/v)、Cはクローブ粉末を0.01%(w/v)添加した。ただし、配合Cではクローブ粉末をそのままぽん酢醤油に添加したのに対し、配合Dは、クローブ粉末をそのままぽん酢醤油に配合するのではなく、クローブ粉末1gを80~90℃の温水10mL中に1分間浸漬した後、濾過により固形物を除去することで得た抽出液を1mL、すなわち、ぽん酢醤油中の使用量クローブ粉末換算で0.01%(w/v)となるよう、ぽん酢醤油に添加した。Eは、クローブ粉末をぽん酢醤油に0.1%(w/v)添加した。
【0025】
【0026】
前記ぽん酢醤油A~Cの官能評価を実施した。評価は、訓練された社内パネラー14名(配合Eは16名)によって行った。
官能評価では、ぽん酢醤油の「酸味」、「柑橘の香り」、「柑橘の苦み」、「柑橘のフレッシュ感」、「柑橘の風味持続性」の5つの項目について、「弱い」「やや弱い」「並」「やや強い」「強い」の5段階にて評価を実施した。各段階の評価についてはパネラー間の認識は、事前にすり合わせを行った。
【0027】
評価結果を、パネラー全人数に対して、各段階と評価したパネラー人数の割合(%)として算出し、グラフにした結果を表2~6および
図1~5に示す。なお、有効数字の関係から割合を総計しても100%とならない場合がある。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
当該結果から分かるように、香辛料としてシナモンまたはクローブを0.01%(w/v)配合したぽん酢醤油B~Dでは、香辛料を含有しない対照のぽん酢醤油Aと比較して、酸味をやや強いと感じるパネラーの割合が増加していた。また、柑橘の香りや好ましい苦み、柑橘のフレッシュ感をより強く感じられるパネラーの割合が増加する結果となった。また、風味の持続性も、シナモンやクローブを添加することによって強化され、とくにクローブを使用した際に強化されていた。
【0034】
また、香辛料無添加の場合(A)とシナモンを添加した場合(B)、クローブを添加した場合(C、D)をさらに詳細に検討すると、香辛料無添加のぽん酢醤油(A)では、さっぱりとした柑橘感は感じられたが、後味が長続きせず、味が切れやすい印象であった。これに対し、シナモン添加ぽん酢醤油(B)は、香りにおいて甘い風味が増し、この風味が長く持続した。一方、クローブ添加ぽん酢醤油(C)は、すべての要素において向上がみられ、香りの華やかさが増すと共に、風味についても長く余韻を感じられる味となっていて、好ましいものであった。
【0035】
次に、クローブの添加量および添加方法の異なる(C)~(E)について比較した。クローブ0.01%(w/v)を粉末として添加した場合(C)と、クローブ抽出液として添加した場合(D)を比較すると、柑橘の香り、フレッシュ感、苦み、風味持続性とも、クローブを抽出液として添加したDのほうが、より強い傾向がみられた。
これに対し、クローブを0.1%(w/v)添加したぽん酢醤油Eでは、柑橘のフレッシュ感や香りが損なわれていた。また、香辛料に由来する独特の風味が強く感じられてしまい、ぽん酢醤油としては風味が変わってしまっていて不適であった。