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特許7541682ポリフルオレン系イオノマーを含む電解質膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ポリフルオレン系イオノマーを含む電解質膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1023 20160101AFI20240822BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240822BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20240822BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20240822BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20240822BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240822BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01M8/1023
H01M8/10 101
H01M8/1039
H01M8/1081
C25B9/00 A
C25B13/08 302
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021146360
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2022051691
(43)【公開日】2022-04-01
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】10-2020-0121133
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】516172857
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション キョンサン ナショナル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】チェ、イルソク
(72)【発明者】
【氏名】オ、ジョンキル
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ボキ
(72)【発明者】
【氏名】キム、キヒョン
(72)【発明者】
【氏名】クウォン、スンギ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミジョン
(72)【発明者】
【氏名】コ、ハンソル
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/033182(WO,A1)
【文献】特開2018-135487(JP,A)
【文献】特表2019-501999(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107634248(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105330825(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C25B 1/00- 9/77
C25B 13/00-15/08
H01B 1/06
C08J 5/20- 5/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1aまたは化学式1bで表されるイオノマーを含む電解質膜。
【化1】
化学式1aおよび化学式1bのそれぞれにおいて、
は、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み、
は、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み、
は、水素;置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基;およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含み、
は、炭素数1ないし7のアルキル基を含み、
は、置換されていない炭素数3ないし7のアルキル基;ハロゲン元素に置換された炭素数3ないし7のアルキル基;および前記置換されていないまたは置換されたアルキル基の炭素の一部が酸素に置換されたエーテル基(Ether group)の少なくともいずれか一つを含み、
nは、10ないし2,000の整数である。
【請求項2】
前記イオノマーは、下記化学式2で表されるものである第1項に記載の電解質膜。
【化2】
化学式2において、
nは、10ないし2,000の整数である。
【請求項3】
第1項または第2項に記載の電解質膜を含む、燃料電池。
【請求項4】
第1項または第2項に記載の電解質膜を含む、水電解装置。
【請求項5】
フルオレン系単量体およびハロゲン元素を含む炭素数2ないし10の炭化水素化合物を酸触媒の存在下で反応させて第1前駆体を製造するステップ;
前記第1前駆体とフェノール系化合物とを反応させて第2前駆体を製造するステップ;
前記第2前駆体をスルホン酸系化合物と反応させて化学式1aで表されるイオノマーを製造するステップ;
【化3】
(化学式1aにおいて、Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素、置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含み;Rは、炭素数1ないし7のアルキル基を含み;Rは、置換されていない炭素数3ないし7のアルキル基、ハロゲン元素に置換された炭素数3ないし7のアルキル基および前記置換されていないまたは置換されたアルキル基の炭素の一部が酸素に置換されたエーテル基(Ether group)の少なくともいずれか一つを含み、nは、10ないし2,000の整数である。)
前記イオノマーおよび溶媒を含む高分子溶液を用意するステップ;および
前記高分子溶液を基材上に塗布して電解質膜を製造するステップ;を含む電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記第1前駆体は、下記化学式3で表されるものである第5項に記載の電解質膜の製造方法。
【化4】
(化学式3において、Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素、置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含み;Rは、炭素数1ないし7のアルキル基を含み;Xは、ハロゲン元素を含み、nは、10ないし2,000の整数である。)
【請求項7】
前記第2前駆体は、下記化学式4で表されるものである第5項に記載の電解質膜の製造方法。
【化5】
(化学式4において、Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素、置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含み;Rは、炭素数1ないし7のアルキル基を含み;Xは、ハロゲン元素を含み、nは、10ないし2,000の整数である。)
【請求項8】
前記酸触媒は、Aluminium Chloride、Trifluoromethanesulfonic acid、Hydrochloric acid、hydrofluoric acid、Paratoluene acidおよびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含む第5項に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記第1前駆体は、5℃ないし25℃の温度で、1時間ないし2時間の間反応させて製造するものである第5項に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項10】
前記第1前駆体の重量平均分子量は、10,000g/molないし1,000,000g/molである第5項に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項11】
前記第2前駆体の重量平均分子量は、10,000g/molないし1,500,000g/molである第5項に記載の電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフルオレン系イオノマーを含む電解質膜に関するものであって、具体的に前記ポリフルオレン系イオノマーは、炭素-炭素結合のみで構成されたフルオレン主鎖および過フッ素系スルホン酸基(Perfluorosulfonic Acid)で構成された測鎖を有するものである。前記イオノマーを含む電解質膜は、水素イオン伝導度が高く、化学的耐久性、機械的物性、体積安全性に優れる。
【背景技術】
【0002】
水素イオン交換膜燃料電池(PEMFC、Proton Exchange Membrane Fuel Cell)は、燃料極(anode)、酸素極(cathode)および二つの電極の間に配置される高分子電解質膜(polymer electrolyte membrane)を含み、このような構成を膜電極接合体(Membrane-Electrode Assembly)とする。
【0003】
陰極には、燃料である水素が供給され、陽極には、酸化剤である酸素が供給される。
【0004】
陰極に供給される水素は、電子を失って水素イオン(H、proton)となり、高分子電解質膜を介して陽極に移動する。このとき、水素から発生した電子は、電池外部回路で電気的働きをして陽極に移動する。陽極では、水素イオンが酸素および電子と結合して水が生成される。
【0005】
ここで、高分子電解質膜は、陽イオン交換膜(Cation Exchange Membrane)であって、水素イオンのみを選択的に伝達する。高分子電解質膜は、1)高いイオン伝導性(high ion conductivity)、2)優れた物理化学的安全性(outstanding physicochemical stability)、3)大量生産の容易性(easy to scalable)および4)低価の生産費用(low cost for production)などの特性が要求される。
【0006】
現在、代表的な過フッ素系電解質膜である ナフィオン(Nafion(登録商標))、ゴア社の過フッ素系多孔充填構造膜であるゴアセレクト(Gore-Select(登録商標))などはいずれも高いイオン伝導度および化学的安全性を有するメリットがある。しかし、これらは、1)酸素ラジカルによる分解問題、2)焼却過程でフッ酸および汚染物質による環境汚染の発生問題、および、3)複雑な製造工程による高い単価などの問題がある。したがって、これらを環境にやさしく、高効率の低価型エネルギー変換および保存システムに適用するには無理がある。
【0007】
これに対する対案として、様々な文献等が炭化水素系高分子ベースのイオノマー(hydrocarbon based ionomers)の開発および多くの応用分野における適用可能性に対して報告している。しかし、既存の縮合重合を通じて開発された炭化水素-陽イオン交換膜(Hydrocarbon-cation exchange membrane、HC-CEM)等は、低い結合エネルギーを有する異型元素(hetero atom)が高分子主鎖に存在して化学的安全性が落ちる。また、低い相分離効果によってイオン伝達チャンネルを効率的に形成することができず、イオン伝導度が低い。これに加えて、物理的安全性が落ちるという問題もある。
【0008】
前述の過フッ素化系および炭化水素系ベースのイオノマー等が有している問題点を解決し、高分子電解質膜に要求される特性を満足することができる素材を開発しなければならない。そのためには、素材開発段階で化学的に弱い結合(chemically labilebonds)が主鎖高分子に存在せず、高分子構造内にイオン伝達と物理化学的安全性を担当する部分の微細相分離構造を明らかに形成できる高分子構造を設計しなければならない。また、前記のような高分子等を安価な単量体を使用して比較的容易に合成できる方法を開発しなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Lee et al.、ACS Macro Lett.、2015、4、453-457
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、イオン伝導度が高く、化学的耐久性に優れた電解質膜を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、大量生産に有利な電解質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の目的は、前述した目的に制限されない。本発明の目的は、以下の説明によって明らかになり、特許請求の範囲に記載された手段およびその組み合わせで実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施例に係る電解質膜は、化学式1aまたは化学式1bで表されるイオノマーを含む。
【化1】
化学式1aおよび化学式1bのそれぞれにおいて、
は、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み、
は、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み、
は、水素;置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基;およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含み、
は、炭素数1ないし7のアルキル基を含み、
は、置換されていない炭素数3ないし7のアルキル基;ハロゲン元素に置換された炭素数3ないし7のアルキル基;および前記置換されていないまたは置換されたアルキル基の炭素の一部が酸素に置換されたエーテル基(Ether group)の少なくともいずれか一つを含み、
nは、10ないし2,000の整数である。
【0014】
前記イオノマーは、下記化学式2で表されるものであってもよい。
【化2】
化学式2において、
nは、10ないし2,000の整数である。
【0015】
前記電解質膜は、燃料電池および/または水電解装置に適用することができる。
【0016】
本発明に係る電解質膜の製造方法は、フルオレン系単量体およびハロゲン元素を含む炭素数2ないし10の炭化水素化合物を酸触媒の存在下で反応させて化学式3の第1前駆体を製造するステップ;
【化3】
(化学式3において、Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素、置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含み;Rは、炭素数1ないし7のアルキル基を含み;Xは、ハロゲン元素を含み、nは、10ないし2,000の整数である。)
前記第1前駆体とフェノール系化合物とを反応させて化学式4で表される第2前駆体を製造するステップ;
【化4】
(化学式4において、R、R、RおよびRは、前記化学式3と同一であり、Xは、ハロゲン元素を含み、nは、10ないし2,000の整数である。)
前記第2前駆体をスルホン酸系化合物と反応させて前記化学式1aで表されるイオノマーを製造するステップ;前記イオノマーおよび溶媒を含む高分子溶液を用意するステップ;および前記高分子溶液を基材上に塗布して電解質膜を製造するステップ;を含む。
【0017】
前記酸触媒は、Aluminium Chloride、Trifluoromethanesulfonic acid、Hydrochloric acid、hydrofluoric acid、Paratoluene acidおよびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含んでもよい。
【0018】
前記第1前駆体は、5℃ないし25℃の温度で、1時間ないし2時間の間反応させて製造するものであってもよい。
【0019】
前記第1前駆体の重量平均分子量は、10,000g/molないし1,000,000g/molであってもよい。
【0020】
前記第2前駆体の重量平均分子量は、10,000g/molないし1,500,000g/molであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、イオン伝導度が高く、化学的耐久性に優れた電解質膜が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、容易な方法で前記のような電解質膜を大量生産することができる。
【0023】
本発明の効果は、前述した効果に限定されない。本発明の効果は、以下の説明で推論可能なすべての効果を含むものと解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る電解質膜の写真である。
図2】本発明に係る電解質膜の化学的耐久性を評価した結果である。
図3】本発明に係る電解質膜の機械的物性を評価した結果である。
図4】本発明に係る電解質膜の体積安全性を評価した結果である。
図5】本発明に係る電解質膜のイオン伝導度を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以上の本発明の目的等、他の目的等、特徴等および利点等は、添付された図面に関連する以下の好ましい実施例等を通じて容易に解される。しかし、本発明は、ここで説明される実施例等に限定されず、他の形態に具体化することもできる。むしろ、ここで紹介される実施例等は開示された内容が徹底かつ完全になれるように、そして、通常の技術者に本発明の思想が充分に伝えられるようにするために提供されるものである。
【0026】
各図面を説明しながら、類似の参照符号を類似の構成要素に対して使用した。添付された図面において、構造物等の寸法は、本発明の明確性のために実際より拡大して図示したものである。第1、第2等の用語は、様々な構成要素等を説明するために使用できるが、前記構成要素等は、前記用語等によって限定されてはいけない。前記用語等は、一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみで使用される。例えば、本発明の権利範囲を外れることなく、第1構成要素は第2構成要素に命名することができ、同様に第2構成要素も第1構成要素に命名することができる。単数の表現は、文脈上明白に異なる意味でない限り、複数の表現を含む。
【0027】
本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴等や数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性をあらかじめ排除しないものと解されなければならない。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合、これは、他の部分の「真上に」ある場合だけではなく、その中間にまた他の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下部に」あるとする場合、これは、他の部分の「直下に」ある場合だけでなく、その中間にまた他の部分がある場合も含む。
【0028】
特に明示されない限り、本明細書で使用された成分、反応条件、ポリマー組成物および配合物の量を表現するすべての数字、値および/または表現は、このような数字等が、本質的に異なるものの中から、これらの値を得るために発生する測定の様々な不確実性が反映された近似値等であるので、いずれの場合、「略」という用語によって修飾されるものと解されなければならない。また、本記載で数値範囲が開示される場合、このような範囲は連続的であり、特に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までのすべての値を含む。さらに、このような範囲が整数を指称する場合、特に指摘されない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含むすべての整数が含まれる。
【0029】
本発明に係る電解質膜は、化学式1aまたは化学式1bで表されるイオノマーを含む。
【化5】
【0030】
化学式1aおよび化学式1bのそれぞれにおいて、Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含む。
【0031】
また、Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含む。
【0032】
また、Rは、水素;置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基;およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含む。
【0033】
また、Rは、炭素数1ないし7のアルキル基を含む。
【0034】
また、Rは、置換されていない炭素数3ないし7のアルキル基;ハロゲン元素に置換された炭素数3ないし7のアルキル基;および前記置換されていないまたは置換されたアルキル基の炭素の一部が酸素に置換されたエーテル基(Ether group)の少なくともいずれか一つを含む。
【0035】
また、nは、10ないし2,000の整数である。
【0036】
前記イオノマーは、主鎖全体が炭素-炭素結合のみで構成され、化学的安全性に優れる。最近、様々な研究結果でaryl ether結合(Csp2-O)あるいは結合エネルギーが低い結合(benzylic C-H bond)が存在する炭化水素系イオノマーが、その適用先の駆動条件で分解されるという問題が報告されている。本発明に係るイオノマーは、主鎖に弱い結合が存在せず、炭素-炭素結合のみで構成された高分子であるということを技術的特徴とする。
【0037】
また、前記イオノマーは、新水性/疎水性の微細相分離構造を促進するために枝型高分子に設計され、測鎖が柔軟で長いアルキル構造に構成され、その末端に過フッ素系スルホン酸基(Perfluorosulfonic Acid)などの陽イオン交換作用基が導入されたことを特徴とする。炭化水素系イオノマーのイオン伝導に重要な役目をする水分/電解液は殆どイオン交換作用基の周囲に分布する。本発明は、測鎖の鎖長さを様々に調節して水分/電解液が主鎖と相互作用することを遮断したものである。また、イオンの解離度に優れた過フッ素化系スルホン酸を測鎖の末端部分にのみ導入して顕著な新水性/疎水性相分離効果によってイオン伝導の挙動および物理化学的安全性を同時に向上させたことを特徴とする。
【0038】
本発明に係るイオノマーは、下記化学式2で表されてもよい。
【化6】
化学式2において、nは、10ないし2,000の整数である。
【0039】
本発明に係る電解質膜の製造方法は、フルオレン系単量体およびハロゲン元素を含む炭素数2ないし10の炭化水素化合物を酸触媒の存在下で反応させて化学式3の第1前駆体を製造するステップ;
【化7】
(化学式3において、Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素または炭素数1ないし3のアルキル基を含み;Rは、水素、置換されていない炭素数1ないし3のアルキル基およびハロゲン元素に置換された炭素数1ないし3のアルキル基の少なくともいずれか一つを含み;Rは、炭素数1ないし7のアルキル基を含み;Xは、ハロゲン元素を含み、nは、10ないし2,000の整数である。)
前記第1前駆体とフェノール系化合物とを反応させて化学式4で表される第2前駆体を製造するステップ;
【化8】
(化学式4において、R、R、RおよびRは、前記化学式3と同一であり、Xは、ハロゲン元素を含み、nは、10ないし2,000の整数である。)
前記第2前駆体をスルホン酸系化合物と反応させて前記化学式1aで表されるイオノマーを製造するステップ;前記イオノマーおよび溶媒を含む高分子溶液を用意するステップ;および前記高分子溶液を基材上に塗布して電解質膜を製造するステップ;を含む。
【0040】
本発明に係る前記製造方法は、その製造条件が温和(mild)であり、大量化および産業化に有利な単量体を使用して大量生産に適合したことを特徴とする。既存の陽イオン交換膜に使用される炭化水素系高分子は、塩基触媒下で高温、長期間の縮合重合を通じて得られる。一方、本発明に係るイオノマーは、酸触媒下で常温および1時間ないし2時間の縮合重合を通じて得られる。本明細書において、「常温」は0℃ないし40℃、または、5℃ないし25℃の範囲の温度を意味する。
【0041】
前記第1前駆体の製造に使用される酸触媒は、Aluminium Chloride、Trifluoromethanesulfonic acid、Hydrochloric acid、hydrofluoric acid、Paratoluene acidおよびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含んでもよい。
【0042】
また、前記第1前駆体は、フルオレン系単量体および炭化水素化合物を5℃ないし25℃の温度で、1時間ないし2時間の間反応させて得られる。
【0043】
一方、前記第1前駆体の重量平均分子量は、10,000g/molないし1,000,000g/molであってもよい。また、前記第2前駆体の重量平均分子量は、10,000g/molないし1,500,000g/molであってもよい。
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明が次の実施例によって限定されるものではない。
【0045】
製造例-イオノマーの製造
下記反応式1によってイオノマーを製造した。
【化9】
(1)第1前駆体の製造
9,9-Dimethylfluorene(2g、10.40mmol)および7-Bromo-1,1,1-trifluoroheptan-2-one(2.83g、11.44mmol)を単量体として使用した。酸触媒として、Trifluoromethanesulfonic acid(TFSA)(9.2g、104.02mmol)を使用した。前記単量体の重量に対して26.5重量%のDichloromethane(DCM)を反応溶媒として使用した。前記溶媒に単量体および触媒を投入し、略5℃で略1時間反応させて第1前駆体を合成した。反応後、生成物をメタノール(500ml)に沈澱させた後、メタノールで数回洗浄し、50℃の真空オーブンで乾燥した。
【0046】
(2)第2前駆体の製造
前記第1前駆体(2g、4.72mmol)および4-Iodophenol(2.60g、11.81mmol)を原料として使用した。触媒として、Potassium carbonate(1.63g、11.81mmol)を使用した。前記原料の重量に対して8重量%のN,N-Dimethylformamide(DMF)を反応溶媒として使用した。前記溶媒に原料および触媒を投入し、略90℃で略3時間反応させて第2前駆体を合成した。反応後、生成物をメタノール(1,000ml)とHydrochloric acid(100ml、2M)とを混合した溶液に沈澱させた後、蒸溜水で数回洗浄し、50℃の真空オーブンで乾燥した。
【0047】
このとき、前記第1前駆体および第2前駆体の分子量を測定した。Gel permeation chromatography分析を行い、溶媒として、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran、THF)、標準物質としてポリスチレンを使用した。
【0048】
その結果は、下記表1の通りである。
【表1】
【0049】
(3)イオノマーの合成
前記第2前駆体(1g、1.78mmol)およびsodium 1,1,2,2-tetrafluoro-2-(1,1,2,2-tetrafluoro-2-iodoethoxy)ethanesulfonate(ICFCFOCFCFSONa)(2.3g、5.33mmol)を原料として使用した。触媒として、Copper powder(1.13g、17.78mmol)を使用した。前記原料の重量に対して10重量%のN,N-Dimethylacetamide(DMAc)を反応溶媒として使用した。前記溶媒に原料および触媒を投入し、95℃、120℃、165℃に温度を上げながら、それぞれ3時間、24時間、24時間の間反応させてイオノマーを合成した。反応後、生成物をフィルターおよび遠心分離して触媒を除去し、50℃の真空オーブンで乾燥した。以下、前記イオノマーをFL1CArFと指称する。また、前記反応式1では、イオノマーをナトリウム塩の形態に図示しているが、前記イオノマーで電解質膜を製造し、前記電解質膜が水を含めば前記ナトリウムはイオン化する。
【0050】
[実施例]
0.5gのFL1CArFと2.0gのDMAcとを混合して溶液を製造した後、ガラス板にキャスティングし、50℃の真空オーブンで6時間乾燥して膜を製造した。
【0051】
製造された膜は、水分浸透法を使用してガラス板から分離させた後、デシケーターに入れて乾燥し、最終的に20μm厚さの電解質膜を得た。その結果は、図1の通りである。
【0052】
実験例1-化学的耐久性評価
本発明に係る電解質膜(FL1CArF)の化学的耐久性を、次のような方法で測定した。
【0053】
3%Hydrogen peroxide水溶液に4ppm Iron(II)sulfateを入れ、Fenton’s reagentを製造する。乾燥した電解質膜を1cm×1cm大きさに切り出し、前記Fenton’s reagentと共にバイアルに入れた後、80℃のオーブンに入れて10分おきに電解質膜の状態を観察した。τ1は、膜が分解され始める時間であり、τ2は、膜が完全に分解されて目視で見られない時間を意味する。
【0054】
比較例では、下記化学式で表される代表的な炭化水素イオノマーであるSPAES65を使用した。
【化10】
【0055】
その結果は、図2の通りである。これを参照すると、本発明に係る電解質膜は、比較例に比べて、τ1は3倍以上、τ2は23倍以上の化学的耐久性を奏する。本発明に係る電解質膜は、主鎖が炭素-炭素結合のみからなっているので、そうでない比較例に比べて、化学的耐久性に優れていることを確認した。
【0056】
実験例2-機械的物性評価
本発明に係る電解質膜(FL1CArF)の機械的物性は、Lloyd LR-10Kを通じて測定し、試片は、ASTM standard D638(Type V specimens)に従って用意した。25℃、RH20~40%条件で分当たり10mmの速度で引張強度を測定した。機械的物性測定実験では、最小5個以上の試片を用意して測定し、これらの平均値を算出した。
【0057】
比較例では、Nafion 212(Aldrich社)を使用した。
【0058】
その結果は、図3の通りである。これを参照すると、本発明に係る電解質膜の引張強度は、略43.8Mpaであり、比較例(30.1MPa)に比べて優れているが分かる。
【0059】
実験例3-体積安全性評価
本発明に係る電解質膜(FL1CArF)の水分吸収度および寸法変化を測定した。電解質膜をデシケーターを通じて乾燥し、1cm×4cm大きさに切り出した後、厚さと重量を測定する。前記電解質膜をバイアルに入れ、蒸溜水を満たした後、30℃の乾燥オーブンに入れる。12時間後に膨潤した膜の面積、厚さ、重量を測定し、下記のような公式を使用して寸法変化を測定した。
Water uptake(WU)[%]=[(Wwet-Wdry)/Wdry]×100
Change in dimension[%]=[((Awet×Twet)-(Adry×Tdry))/(Adry×Tdry)]×100
【0060】
dryとWwetとは、それぞれ乾燥した膜と膨潤した膜の重量であり、AdryとAwetとは、それぞれ乾燥した膜と膨潤した膜の面積であり、TdryとTwetとは、それぞれ乾燥した膜と膨潤した膜の厚さである。
【0061】
比較例では、Nafion 212(Aldrich社)を使用した。
【0062】
その結果は、図4および表2の通りである。
【表2】
【0063】
図4および表2を参照すると、本発明に係る電解質膜の寸法変化がより小さいことが分かる。
【0064】
実験例4-イオン伝導度評価
本発明に係る電解質膜(FL1CArF)の水素イオン伝導度を測定した。1×4cmの電解質膜の試片を製造して4-probeセルに締結した後、BekkTechBT-552MX装備を用いて測定した。
【0065】
測定条件は、80℃、全体湿度区間に設定した。相対湿度は、水の露店(dew point)における蒸気圧P(Td)と80℃におけるガスの飽和蒸気圧との割合を用いて、次の公式を通じて計算した。
RH(%)=P(Td)/P(Ts)×100
【0066】
測定前に、80℃、70%RH条件で2時間の間温度/湿度平衡を維持した後、70%RHから20%RHに湿度を落としながらイオン伝導度を測定した。さらに、20%RHから100%RHに湿度を増加させながら測定した。RH区間は、10%に調節し、10%RHごとに抵抗値を測定し、前記面方向の水素イオン伝導度測定公式を活用して伝導度数値を計算し、各湿度条件で15分間の湿度平衡を維持した。湿度別に抽出されたイオン伝導度数値(reduced proton conductivity)を記録した。
【0067】
比較例では、Nafion 212(Aldrich社)を使用した。
【0068】
その結果は、図5の通りである。これを参照すると、本発明に係る電解質膜は、代表的な電解質膜であるNafion系電解質膜と同等な水準の水素イオン伝導度を示すことが分かる。
【0069】
以上、添付された図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できるということが理解できるでしょう。したがって、以上で記述した実施例は、いずれの面で例示的なものであって限定的なものではないと理解しなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5