(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症の治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240822BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20240822BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P21/02
A61P25/02
(21)【出願番号】P 2021505167
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020012566
(87)【国際公開番号】W WO2020184729
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019046572
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「橋渡し研究戦略的推進プログラム」「筋萎縮性側索硬化症に対する自家培養骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与による細胞療法の検討」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】本望 修
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 優子
(72)【発明者】
【氏名】岡 真一
(72)【発明者】
【氏名】中崎 公仁
(72)【発明者】
【氏名】前澤 理恵
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/034708(WO,A1)
【文献】特表2015-531594(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188457(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/034023(WO,A1)
【文献】UCCELLI, A., et al.,Intravenous mesenchymal stem cells improve survival and motor function in experimental amyotrophic l,Molecular medicine,2012年,Vol.18,pp.794-804,http://dx.doi.org/10.2119/molmed.2011.00498,E-ISSN: 1528-3658. L-ISSN: 1076-1551.
【文献】SUN, H., et al.,Multiple systemic transplantations of human amniotic mesenchymal stem cells exert therapeutic effect,Cell and tissue research,2014年,Vol.357, No.3,pp.571-582,http://dx.doi.org/10.1007/s00441-014-1903-z,E-ISSN: 1432-0878. L-ISSN: 0302-766X.
【文献】GUGLIANDOLO, A., et al.,Mesenchymal Stem Cells: A Potential Therapeutic Approach for Amyotrophic Lateral Sclerosis?,Stem Cells International,2019年03月10日,Vol.2019, Article ID. 3675627,pp.1-16,ISSN:1687-966X
【文献】BURSCH, F., et al.,Analysis of the therapeutic potential of different administration routes and frequencies of human mesenchymal stromal cells in the SOD1G93A mouse model of amyotrophic lateral sclerosis,Journal of Tissue Engineering and Regenerative Medicine,2019年02月,Vol.13, No.4,pp.649-663
【文献】CIERVO, Y., et al.,Advances, challenges and future directions for stem cell therapy in amyotrophic lateral sclerosis,Molecular Neurodegeneration,2017年,Vol.12, No.1, Article 85,pp.1-22,ISSN:1750-1326
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療するための医薬組成物であって、
骨髄又は血液由来の間葉系幹細胞を含み、
中等度から重症のALSを有する対象に2回以上静脈内投与され
、1回の投与で10
6
個以上の間葉系幹細胞が投与される医薬組成物。
【請求項2】
1回の投与で、
10
7
個以上の間葉系幹細胞が投与される、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞が、前記患者の骨髄又は血液由来の間葉系幹細胞である、請求項1
又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞が、CD24陰性である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
凍結保存液を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2019-046572(2019年3月14日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
技術分野
本発明は、筋萎縮性側索硬化症を治療するための医薬組成物に関する。より詳細には、間葉系幹細胞を含み、静脈内投与される、筋萎縮性側索硬化症の治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)は、運動神経が選択的に障害される進行性の神経変性疾患で、根本的な治療法のない原因不明の重症疾病である。ALSは、家族性ALSと孤発性ALSに大別され、全体の約5%を占める家族性ALS患者の約22%ではスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の遺伝子に変異があることが報告されている。SOD1のほかにも、TDP43、FUS/TLS、C9orf72などがALSの原因遺伝子として報告されている。
【0003】
ALS患者と動物のALSモデルに共通したメカニズムの一つとして血管脳関門(BBB)及び血液脊髄関門(BSCB)の破綻が知られている。ALS発症初期から見られるBBB/BSCBの破綻は、様々な神経障害を引き起こすことから、ALSの原因の一つとして注目されている(非特許文献1-4)。ALSは、神経炎症や運動神経の脱落など様々な症状が合併するため、こうした多様な症状に効果のある治療法が望まれている。
【0004】
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)には、神経保護作用やBBB修復作用があることが知られている。発明者らは、脳梗塞患者にMSCを静脈投与することで、運動機能の改善や損傷部位の修復が認められることを報告している(特許文献1-3)。また、脊髄損傷患者にMSCを静脈投与することにより、機能回復、軸索再生の促進、損傷部位の低減が認められることも報告している(特許文献2及び3)。
【0005】
MSCは、さまざまな神経栄養因子を分泌することが分かっており、なかでもグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)には運動神経細胞を保護する効果が確認されている(非特許文献5)。発明者らは、脳梗塞モデルラットの脳組織中(梗塞領域)に含まれるGDNFの量をELISAで測定し、MSC投与群では対照群に比べて有意にGDNFの量が多いことを確認している(非特許文献6)。Gothelfらは、MSCをbFGFやPDGFを含む分化培地で培養して神経栄養因子を分泌する細胞に分化誘導し、これをALS患者のくも膜下又は筋肉内に注入することにより、ALSを治療する方法を開示している(特許文献4)。Lanzaらは、血管芽細胞から分化誘導した間葉系間質細胞を含む不必要な免疫応答を治療するための医薬組成物を開示しており、対象疾患のリストにはALSも記載されているが、具体的な薬理効果は示されていない(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2009/034708号
【文献】WO2017/188457号
【文献】WO2018/034023号
【文献】WO2014/024183号(特表2018-138044号)
【文献】WO2013/082543号(特開2018-27954号)
【非特許文献】
【0007】
【文献】Winkler et al.,2014,Proc.Natl.Acad.Sci.,Vol.111(11):ppE1035-E1042
【文献】Winkler et al.,2013,Acta Neuropathologica,Vol.125(1):pp111-120
【文献】Nicaise et al.,2009,Brain Res.,Vol.1301:pp152-162
【文献】Sasaki et al.,2015,Neuropathology,Vol.35(6):pp518-528
【文献】Kosuge et al.,2009,Neurosci.Letters,Vol.454(2):p165-169
【文献】Horita et al.,2006,J.Neurosci,Res.Vo.84(7):pp1495-1504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の様々な症状を治療するための新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、ALSモデルラットを用いて、症状の自然経過を運動機能及び組織学的観点から多面的に評価し、中等度及び重症ステージのいずれにおいても、MSCの静脈内投与により症状の進行や軽減が可能なことを確認した。さらに、より効果の高い投与方法を検討し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(6)に関する。
(1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療するための医薬組成物であって、間葉系幹細胞を含み、静脈内投与される医薬組成物。
(2)2回以上投与される、(1)に記載の医薬組成物。
(3)1回の投与で、106個以上の間葉系幹細胞が投与される、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
(4)前記間葉系幹細胞が、骨髄又は血液由来の間葉系幹細胞である、(1)~(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5)前記間葉系幹細胞が、前記患者の骨髄又は血液由来の間葉系幹細胞である、(1)~(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)前記間葉系幹細胞が、CD24陰性である、(1)~(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医薬組成物は、BBB/BSCBの破綻を抑制するとともに、神経栄養因子の発現を高めることで、神経障害を防止することが期待できる。本発明の医薬組成物は、症状の進行の程度によらず、運動機能の低下を抑制し、生存期間を延長することができるため、ALSの有効な治療方法となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ALSモデルラット(SOD1
G93A変異遺伝子導入ラット)の自然経過を行動評価により示す。縦軸はBBBスコア、横軸は日数。
【
図2】
図2は、ALSモデルラットの組織像(KB染色)を示す。紫色:神経細胞及びグリア細胞(小さな細胞)、青色:髄鞘。
【
図3】
図3は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)の行動評価を示す。(A)BBBスコア(実線:MSC投与群、破線:ビヒクル投与群)、(B)BBBスコアの変化量(黒:MSC投与群、白:ビヒクル投与群)。
【
図4】
図4は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)の生存期間の評価を示す。(A)カプランマイヤー曲線(実線:MSC投与群、破線:ビヒクル投与群)、(B)40日後の生存率(黒:MSC投与群、白:ビヒクル投与群)。
【
図5】
図5は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)の脊髄の運動神経細胞数の評価を示す。投与後14日目の脊髄(腰髄)前角の組織像((A)ビヒクル投与群、(B)MSC投与群、矢印は運動神経細胞)、及び(C)運動神経細胞数のグラフ(黒:MSC投与群、白:ビヒクル投与群)。
【
図6】
図6は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)のBBB/BSCB破綻の評価を示す。脳皮質の染色像((A)ビヒクル投与群、(B)MSC投与群)、矢印は運動神経細胞)、(C)エバンスブルー漏出領域の面積(黒:MSC投与群、白:ビヒクル投与群、左から脳皮質、脳幹(延髄)、頸髄、腰髄の各部位の漏出領域を示す)。
【
図7】
図7は、定量的RT-PCRによるNrtn発現量(Fold change)を示す(黒:MSC投与群、白:ビヒクル投与群)。
【
図8】
図8は、ALSモデルラット(Severe-ステージ)の行動評価を示す(実線:MSC投与群、破線:ビヒクル投与群)。
【
図9】
図9は、ALSモデルラット(Severe-ステージ)の生存期間の評価を示す(上:MSC投与群、下:ビヒクル投与群)。
【
図10】
図10は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)におけるMSC複数回投与による行動評価を示す。(A)BBBスコア(実線:複数回MSC投与群、破線:単回MSC投与群、点線:ビヒクル投与群)、(B)BBBスコアの変化量(白:複数回MSC投与群、灰:単回MSC投与群、黒:ビヒクル投与群)。
【
図11】
図11は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)におけるMSC複数回投与による長期的な運動機能評価を示す(実線:複数回MSC投与群、破線:単回MSC投与群、点線:ビヒクル投与群)。
【
図12】
図12は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)におけるMSC複数回投与による生存期間の評価を示す(実線:複数回MSC投与群、破線:単回MSC投与群、点線:ビヒクル投与群)。
【
図13】
図13は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)におけるMSC投与量の評価を示す(Day3,Day7,Day14:いずれも、グラフ左から、ビヒクル投与群、低用量MSC投与群(1.0×10
5個,n=3)、通常量MSC投与群(1.0×10
6個,n=4)、高用量MSC投与群(1.0×10
7個,n=3))。
【
図14】
図14は、ALSモデルラット(Moderate-ステージ)におけるMSC投与方法の評価を示す(Day3,Day7,Day14:いずれも、グラフ左から、ビヒクル髄腔内投与群、MSC髄腔内投与群、MSC静脈内投与群)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)は、運動神経が選択的に障害される進行性の神経変性疾患である。ALSは家族性ALSと孤発性ALSに大別されるが、大部分は孤発性(95%)である。ALSは進行性であり、罹患すると症状が軽くなることはなく、次第に全身の筋肉が動かなくなり、最終的には呼吸不全により死に至る。現在のところ、ALSの発症原因は不明であり、根本的な治療法も存在しない。
【0014】
最近、血管脳関門(BBB)及び血液脊髄関門(BSCB)の破綻が引き起こす神経障害がALSの原因の一つとして注目されている。MSCはさまざまな神経栄養因子を分泌することが知られているが、発明者らはMSCを静脈内投与により、罹患部位においてGDNF発現が高まることを確認している。さらに、MSCの静脈内投与により、GDNFファミリーの1つであるNeurturin(Nrtn)の発現が患部で増加することを確認している(後掲実施例)。
【0015】
2.間葉系幹細胞
本発明の医薬組成物で使用される「間葉系幹細胞」とは、間葉系組織の間質細胞の中に微量に存在する多分化能及び自己複製能を有する幹細胞であり、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの結合組織細胞に分化するだけでなく、神経細胞や心筋細胞への分化能を有することが知られている。
【0016】
間葉系幹細胞のソースとしては、ES細胞や誘導多能性幹細胞(iPS細胞)から分化誘導した細胞であっても、株化された細胞であっても、生体から単離・増殖させた細胞であってもよい。生体の場合、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児胚、脳などが挙げられるが、骨髄又は血液由来の間葉系幹細胞、とくに骨髄間葉系幹細胞、なかでもヒト骨髄間葉系幹細胞が好ましい。骨髄由来の間葉系幹細胞は、1)顕著な効果が期待できる、2)副作用の危険性が低い、3)充分なドナー細胞の供給が期待できる、4)非侵襲的な治療であり自家移植が可能であるので、5)感染症のリスクが低い、6)免疫拒絶反応の心配がない、7)倫理的問題がない、8)社会的に受け入れられやすい、9)一般的な医療として広く定着しやすいなどの利点がある。さらに、骨髄移植療法は既に臨床の現場で用いられている治療であり、安全性も確認されている。また、骨髄由来の幹細胞は遊走性が高く、局所への移植ばかりか、静脈内投与によっても目的の損傷組織へ到達し、治療効果が期待できる。
【0017】
細胞は、他家細胞由来でも自家細胞由来であってもよいが、自家細胞由来(患者自身の細胞に由来する)間葉系幹細胞が好ましい。
【0018】
本発明で使用される間葉系幹細胞は未分化な状態であることが好ましい。未分化な状態の細胞は増殖率及び生体内導入後の生存率が高いからである。未分化であることは、例えば、分化マーカーであるCD24陰性により確認することができる。発明者らは、そのような細胞の取得方法も開発しており、その詳細はWO2009/034708号に記載されている。
【0019】
発明者らが開発した前記方法では、骨髄液等から抗凝固剤(ヘパリン等)と実質的に接触しない条件で分離した細胞を、同種血清(好ましくは、自家血清;ヒト用医薬組成物ではヒト血清)を含み、かつ、抗凝固剤(ヘパリン等)を含まないかあるいは極めて低濃度で含む培地を用いて増殖させる。「抗凝固剤を含まないかあるいは極めて低濃度で含む」とは、抗凝固剤として有効量の抗凝固剤を含まないことを意味する。具体的には、例えばヘパリンやその誘導体であれば、通常抗凝固剤としての有効量は約20~40μ/mL程度であるが、発明者が開発した方法では、あらかじめ試料採取のための採血管に加える量を最小限とすることで、生体から採取された試料中の量は5U/mL未満、好ましくは2U/mL未満、さらに好ましくは0.2U/mL未満となり、細胞を培養する際に培地中に存在する量は、培地の容積に対して0.5U/mL未満、好ましくは0.2U/mL未満、さらに好ましくは0.02U/mL未満となる(WO2009/034708号参照)。
【0020】
培地における細胞の密度は、細胞の性質及び分化の方向性に影響を与える。間葉系幹細胞の場合、培地中の細胞密度が8,500個/cm2を超えると、細胞の性質が変化してしまうため、最大でも8,500個/cm2以下で継代培養させることが好ましく、より好ましくは、5,500個/cm2以上になった時点で継代培養させる。
【0021】
発明者らが開発した前記方法ではヒト血清含有培地を使用するため、血清ドナーの負担を考慮して、培地交換はなるべく少ない回数であることが望ましく、例えば、少なくとも週1回、より好ましくは週1~2回の培地交換を行う。
【0022】
培養は、細胞の総数が108個以上になるまで継代培養を繰り返し行う。必要とされる細胞数は、使用目的に応じて変化し得るが、例えば、脳梗塞などの虚血性脳疾患の治療のための移植に必要とされる間葉系幹細胞の数は107個以上、本発明では106個以上と考えられる。発明者らが開発した方法によれば、12日間程度で107個の間葉系幹細胞を得ることができる。
【0023】
増殖した間葉系幹細胞は、必要に応じて、使用されるまで凍結保存などの手法で(例えば、-152℃のディープフリーザーにて)保存してもよい。凍結保存には、血清(好ましくはヒト血清、より好ましくは自家血清)、デキストラン、DMSOを含む培地(RPMI等の哺乳動物細胞用の培地)を凍結保存液として使用する。例えば、通常の濾過滅菌したRPMI20.5mLと、患者から採取した自己血清20.5mL、デキストラン5mL、DMSO5mLを含む凍結保存液に細胞を懸濁して-150℃で凍結保存することができる。例えば、DMSOとしては、ニプロ株式会社製のクライオザーブ、デキストランは大塚製薬製の低分子デキストランL注を使用できるが、これらに限定されない。
【0024】
上記のようにして調製した間葉系幹細胞は、a)間葉系幹細胞を含む培養物にサイトカインを添加し、間葉系幹細胞がCX3CL1を発現していることを確認し、あるいは、b)間葉系幹細胞がEGFR及び/又はITGA4を発現していることを確認することにより、当該間葉系幹細胞の品質・機能を確認してもよい。
【0025】
使用する「炎症性サイトカイン」としては、TNF-α、INFγ、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、IL-18が挙げられ、なかでもTNF-α、INF-γ、及びIL-6を含むことが好ましく、TNF-α、INFγ、及びIL-6の混合物を使用することがより好ましい。
【0026】
前記方法は、(サイトカイン未添加)培養物中におけるBDNF、VEGF、及びHGFから選ばれるいずれか1以上の存在を確認する工程をさらに含んでいてもよい。とくに、BDNF及び/又はVEGFの存在を確認することが重要であり、BDNFの存在を確認することが最も重要である。
【0027】
炎症性サイトカインの添加により間葉系幹細胞がCX3CL1を発現すれば、当該間葉系幹細胞は炎症調整作用(免疫調整作用)に優れることが期待でき、間葉系幹細胞の90%以上がEGFR及び/又はITGA4を発現していれば、当該間葉系幹細胞は損傷部位への集積能に優れることが期待できる。また、培地中にBDNF、VEGF、及びHGFなどの栄養因子のいずれかが存在すれば神経保護作用の高い間葉系幹細胞を含むことが期待でき、なかでもBDNF及び/又はVEGFの存在、とくにBDNFの存在は神経保護作用の高いMSCの重要な指標であり得る。間葉系幹細胞は未刺激でもBDNF、VEGF及び/又はHGFを分泌するが、分泌能の確認は、未刺激の細胞からの分泌を評価してもよいし、炎症性サイトカイン刺激後の細胞からの分泌を評価してもよい。
【0028】
上記CX3CL1、EGFR、ITGA4、BDNF、VEGF、HGFの発現は、遺伝子レベルよりも、タンパクレベルでの発現を指標とすることが好ましく、EGFRやITGA4などの細胞表面タンパクの場合は、簡便さと感受性の点からフローサイトメトリー(FCM)を用いて測定することが好ましく、CX3CL1、BDNF、VEGF、HGFなどの分泌タンパクの場合は、簡便さと感受性の点からビーズアッセイを用いることが好ましい。
【0029】
3.本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物は、ALSを治療するための医薬組成物であって、間葉系幹細胞を含み、静脈内投与されることを特徴とする。
【0030】
本発明の医薬組成物に含まれる間葉系幹細胞の細胞数は多い程好ましいが、患者への投与時期や、培養に要する時間を勘案すると、効果を示す最小量であることが実用的である。したがって、本発明の医薬組成物の好ましい態様において、1回の投与に含まれる間葉系幹細胞の細胞数は、106個以上、好ましくは5×106個以上、より好ましくは107個以上、より好ましくは5×107個以上、より好ましくは108個以上、さらに好ましくは5×108個以上である。
【0031】
本発明の医薬組成物は、静脈内投与製剤である。静脈内投与製剤は、水性又は非水性の等張性無菌溶液又は懸濁液の形態であり、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、培地(とくに、RPMI等の哺乳動物細胞の培養に用いられる培地)、PBSなどの生理緩衝液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤等とを適宜組み合わせて、適切な単位投与形態に製剤化される。
【0032】
注射用の水溶液としては、例えば、生理食塩水、培地、PBSなどの生理緩衝液、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールや非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO-50等と併用してもよい。
【0033】
本発明の医薬組成物の投与対象となるALSは、家族性か孤発性かを問わず、軽症か重症かも問わない。軽症のALSの場合には、本発明の医薬組成物の投与により症状の改善と進行抑制が期待でき、中等度から重症のALSの場合には進行抑制が期待できる。
【0034】
本発明の医薬組成物の投与回数や投与間隔は、特に限定されない。例えば、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、治療効果が期待できる限り、複数回繰り返して投与することができる。初回投与の後、症状が進行する毎に投与してもよいし、定期的に投与してもよい。したがって、投与間隔は、症状に応じて、1ヶ月から10数年、例えば、1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、6カ月、1年、2年、3年~10数年であり得る。投与を繰り返すことで、症状を良い状態に保て、生存期間も伸ばすことができる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、公知のALS治療薬、例えば、リソゾール、エダラボン、ペニシリン、βラクタム系抗生物質などと併用することもできる。
【0036】
本発明の医薬組成物は、BBB/BSCBの破綻を抑制するとともに、神経栄養因子の発現を促し、神経障害を抑制することができる。本発明の医薬組成物は、症状の進行程度によらず、運動機能の低下を抑え、生存期間を延長することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
参考例1:ラット骨髄由来間葉系幹細胞の調製
以下の実施例で使用するMSCは、既報にしたがい、以下の手順で調製した。
実験は、札幌医科大学の動物実験管理規定にしたがって実施した。既報に従い、成熟SDラットの大腿骨から得た骨髄をダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)で25mlに希釈し、加熱不活化した10%FBS,2mM 1-グルタミン、100U/mlペニシリン,0.1mg/mlストレプトマイシンを添加し、5%CO2雰囲気下37℃で3日間インキュベートした(Kim S.et al.,Brain Res.2006;1123:27-33.Ukai R.et al.,J.Neurotrauma.2007;24:508-520.)。コンフルエントになるまで培養し、接着細胞をトリプシン-EDTAで剥離し、1x104個/mlの密度で3回継代培養して間葉系幹細胞(MSC)を得た。
【0039】
実施例1:ALSモデルラットの自然経過
1.行動評価
方法
ALSモデルラット(SOD1ラット(SD Tg(SOD1G93A)L26H))は、タコニックバイオサイエンスより購入し、行動評価を行った。SOD1ラットは、SOD1遺伝子変異(SOD1G93A)を有し、ヒトALSの病態を非常によく再現することが知られている
(https://www.taconic.com/rat-model/sod1-rat)。
【0040】
結果
発症はテールダウン、又は後肢異常歩行として現れ、急速に(約10日間)後肢麻痺へと進行した。中等度(Moderate-ステージ:BBBスコア15~11)では、ラットは典型的には片肢に最初の麻痺が現れた。重度(Severe-ステージ:BBBスコア10~8)では、両足が麻痺するが、前肢を使って歩くことができた。末期(End-ステージ)では、ラットは立ち直り反射ができなくなった(
図1)。
【0041】
2.組織学的評価
方法
ALSモデルラットの自然経過を組織学的に評価するため、後肢運動機能評価の指標であるBBBスコアが21点、11点、0点のラットの脊髄を、Kluver-Barrera染色(以下KB染色)により神経細胞と髄鞘を染色し、運動神経細胞数の変化を観察した。BBBスコアはオープンフィールドにラットを入れて5分間自由に動き回らせ、後肢の運動機能を評価する方法である(正常21点、症状悪化により点数が下がり11点で歩行困難、0点がもっとも悪く歩行不可)。
【0042】
ALSモデルラットを麻酔薬(ケタミン100mg/kg、キシラジン20mg/kg)で深く麻酔をかけ、PBS及び4%paraformaldehydeを含む0.1M phosphate buffer(4%PFA)で灌流固定を行なった。脊髄を取り出しそれぞれC1,T6,L4領域に切り分け4%PFAで一晩固定した。固定後パラフィン包埋を行い、10μm厚の切片を切り出しスライドガラスに貼り付けた。その後、KB染色を行い蛍光顕微鏡(KEYENCE BZ9000)で撮影を行なった。
【0043】
結果
図2に染色像を示す。Normal(BBBスコア21)から、Moderate(BBBスコア11)へと症状が進行すると頚髄(C1)、胸髄(T6)、腰髄(L4)のいずれにおいても運動神経細胞(700μm
2以上の大きな細胞)の数が少なくなった。さらに末期症状(BBBスコア0)になったラットの頚髄、胸髄には神経細胞の残存が確認できたが、腰髄では神経細胞がほぼ完全に失われていた。
【0044】
実施例2:ALSモデルラットにおけるMSC静脈投与の効果(Study 1:Moderate-ステージ)
1.行動評価
方法
BBBスコアが15点に低下したALSモデルラットを、MSC投与群(n=6)とビヒクル投与群(n=13)の2群に分け、MSC投与群には1mLのビヒクル(fresh DMEM)にMSCを(1.0×106個)溶解させた溶液を、経静脈的に大腿静脈から投与した。ビヒクル投与群には1mLのDMEMを経静脈的に投与した。免疫抑制剤であるシクロスポリンA(10mg/kg)を全てのラットに対してMSC及びビヒクル投与の前日からEnd-ステージになるまで毎日腹腔内投与した。
行動評価はBBBスコアを用いて行い、週に2回以上、オープンフィールドにラットを入れて5分間自由に動き回らせ後肢の運動機能を評価した。評価者はラットがどの治療群に属するか分からないようにした。
【0045】
結果
BBBスコアの低下はMSC投与群で有意に抑制された(
図3(A))。特に投与3日目の評価ではMSC投与群で症状の改善が観察された。BBBスコアの変化量を示す。BBBスコアの変化量は、MSC投与群ではビヒクル投与群よりも小さかった(
図3(B))。
【0046】
2.生存期間
方法
行動評価を実施したラットについて、MSCあるいはビヒクル投与後40日間の生存率をカプランマイヤー曲線を用いて評価した。
【0047】
結果
40日後にビヒクル投与群では半数以上が死亡したが、MSC投与群では80%以上が生き残った(
図4)。
【0048】
3.脊髄運動神経細胞数
方法
BBBスコアが15点に低下したALSモデルラットを、MSC投与群(n=3)とビヒクル投与群(n=6)の2群に分け、上記と同様にMSCあるいはビヒクルを投与し、投与後14日目に脊髄(腰髄)前角運動神経細胞を比較した。免疫抑制剤のシクロスポリンA(10mg/kg)を全てのラットに対してMSC及びビヒクル投与の前日から投与14日後の最終評価日まで毎日腹腔内投与した。運動神経細胞の定義は面積が700μm2以上の細胞とした。
【0049】
結果
MSC投与群はビヒクル投与群に比較して有意に多くの運動神経細胞が保存されていた(
図5)。
【0050】
4.血液脳関門/血液脳脊髄関門(BBB/BSCB)の破綻
方法
BBBスコアが15点に低下したALSモデルラットを、MSC投与群(n=4)とビヒクル投与群(n=4)の2群に分け、上記と同様にMSCあるいはビヒクルを投与し、投与後14日目に、血液脳関門/血液脳脊髄関門(BBB/BSCB)の破綻を評価するため、それぞれのラットに4%エバンスブルー(EvB,Sigma,4ml/kg)を尾静脈から投与した。1時間後に麻酔薬(ケタミン100mg/kg、キシラジン20mg/kg)で深く麻酔をかけて、PBS及び4%PFAで灌流固定した。脳及び脊髄を取り出した後、脳、脳幹(延髄)、頸髄、腰髄の4部位に分けてそれぞれOCT compoundで包埋し-80℃に冷却したアセトン中で凍結させた。Cryostatを用いて20μm切片を100μm間隔で9枚切り出しスライドガラスに貼り付けた。DAPIで対比染色を行いVECTASHIELD(Vector Laboratories)を用いてカバースライドをかけた。切片は共焦点顕微鏡を用いて観察し、血管外に漏出したエバンスブルーの面積をImage Jソフトウェア(NIH)を用いて測定した。Ex/Em(405nm for DAPI,488nm for FITC-lectin,and 561nm for EvB;LSM780 ELYRA S.1 system,Zeiss)。
【0051】
結果
脳皮質、脳幹(延髄)、頚髄、腰髄いずれにおいても、MSC投与群では有意にエバンスブルーの漏出が少ないことが確認され、BBB/BSCBの破綻が抑制又は修復されていることが確認できた(
図7)。
【0052】
5.Nrtnの発現解析(定量的RT-PCR)
方法
BBBスコアが15点に低下したALSモデルラットを、MSC投与群(n=4)とビヒクル投与群(n=4)の2群に分け、上記と同様にMSCあるいはビヒクルを投与し、24時間後に麻酔薬で深く麻酔をかけた後、脊髄(腰髄)を取り出し、RNeasy Plus mini kit(QIAGEN,Venlo,The Netherlands)を用いてRNAを抽出した。RNAの品質はBioanalyzer RNA 6000nano kit(Agilent Technologies,Santa Clara,CA,USA)でRIN numberを確認し、RIN>8.0のサンプルのみを用いた。定量はqRT-PCR法で行い、TaqMan(登録商標)Universal Master Mix II with Uracil-N glycosylase(UNG)及びTaqMan(登録商標)Gene Expression assays(Gapdh,Rn01775763_g1;Nrtn)、PRISM7500 with 7500 software v2.3(Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用した。ΔΔCt法を用いて、内因性コントロールはGapdhとし、ビヒクル投与群に対するMSC投与群の遺伝子発現比を比較した(n=4)。サーマルサイクラーのプロトコルは以下の通り。
50℃2分、95℃10分の後、95℃15秒、60℃1分を40サイクル。
【0053】
結果
MSC投与群で有意にNrtnの発現量が高かった(
図7)。NrtnはGDNFファミリーの1つであり、そのmRNA発現が有意にMSC投与群で増加することが確認された。この結果から、MSC移植により、脊髄前角の運動神経細胞に対する神経栄養作用が発揮され、組織学的には残存神経細胞数が多くなり、それにより神経症状での治療効果に結びついたと考えられる。
【0054】
実施例3:ALSモデルラットにおけるMSC静脈投与の効果(Study 2:Severe-ステージ)
方法
BBB scoreが11点に低下した重度運動機能障害を呈したALSモデルラットを2群に分け、MSC投与群(n=6)には1mLのビヒクル(fresh DMEM)にMSC(1.0×106個)を溶解させ、経静脈的に大腿静脈から投与した。ビヒクル投与群(n=7)には1mLのビヒクル(fresh DMEM)を経静脈的に投与し、運動機能及び生存期間を評価した。免疫抑制剤のシクロスポリンA(10mg/kg)を全てのラットに対してMSC及びビヒクル投与の前日からEnd-stageになるまで毎日腹腔内投与した。
【0055】
結果
運動機能の低下はビヒクル投与群(n=7)に比べてMSC投与群(n=6)で有意に抑制され(
図8)、生存期間も有意に延長された(
図9)。
【0056】
実施例4:ALSモデルラットにおけるMSC複数回投与の効果
1.行動評価
方法
BBBスコアが15点に低下した中程度の運動機能障害を呈したALSモデルラットに対して、MSC(1.0×106個)を1週間おきに1回ずつ、複数回静脈内投与を行なった。複数回投与群(n=9)の運動機能をBBBスコアで評価し、単回投与群(n=5)及び、ビヒクル投与群(n=6)と比較した。免疫抑制剤のシクロスポリンA(10mg/kg)を全てのラットに対してMSC及びビヒクル投与の前日から最終評価日まで毎日腹腔内投与した。
【0057】
結果
MSCの複数回投与群では1回目だけでなく2回目の投与でも運動機能の改善が見られた(
図10)。投与7日目、14日目いずれもビヒクル投与群に比べて有意に運動機能を抑制した。
【0058】
2.長期的運動機能
方法
MSC複数回投与群(n=7)の長期的な運動機能の変化をMSC単回投与群(n=6)及びビヒクル投与群(n=13)と比較した。免疫抑制剤のシクロスポリンA(10mg/kg)を全てのラットに対してMSC及びビヒクル投与の前日からEnd-ステージになるまで毎日腹腔内投与した。
【0059】
結果
複数回投与群では単回投与群、ビヒクル投与群よりも長期間運動機能を維持することができた(
図11)。
【0060】
3.生存期間
方法
MSC複数回投与群(n=7)の生存期間をMSC単回投与群(n=6)及びビヒクル投与群(n=13)と比較した。
【0061】
結果
複数回投与群では単回投与群、ビヒクル投与群よりも有意に生存期間が延長された(
図12)。
【0062】
実施例5:ALSモデルラットにおけるMSC投与量による効果の違い
方法
MSC投与量を低用量群(1.0×105個,n=3)、通常量(1.0×106個,n=4)、高用量(1.0×107個,n=3)の3群に分け、BBBスコアが15点に低下したALSモデルラットに経静脈内投与し、BBBスコアの変化量をビヒクル投与群(n=6)と比較した。
免疫抑制剤のシクロスポリンA(10mg/kg)を全てのラットに対してMSC及びビヒクル投与の前日から最終評価日まで毎日腹腔内投与した。
【0063】
結果
通常量及び高用量投与群で有意に運動機能低下が抑制された(
図13)。
【0064】
実施例6:ALSモデルラットにおけるMSC投与方法による効果の違い
方法
MSCの投与方法を静脈内投与(n=3)と髄腔内投与(n=3)の2群に分け、後肢運動機能の変化をビヒクル髄腔内投与群(n=3)と比較した。静脈内投与群は1mLのDMEMに溶解したMSC 1.0×106個を大腿静脈から投与し、髄腔内投与群は1.0×105個のMSCをハミルトンシリンジ(HAMILTON)を用いて大槽内に投与した。免疫抑制剤のシクロスポリンA(10mg/kg)を全てのラットに対してMSC及びビヒクル投与の前日から最終評価日まで毎日腹腔内投与した。
【0065】
結果
投与14日目の評価では静脈内投与群で有意に運動機能低下が抑制された。また、投与3日目には静脈内投与群で症状の改善が確認された(
図14)。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の医薬組成物は、BBB/BSCBの破綻を防ぐとともに、神経栄養因子の分泌を促し、神経障害を抑制することで、ALSの進行を抑え、生存期間を延長することができる。本発明によれば、これまで有効な治療手段がなかったALSの治療が可能になる。
【0067】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。