(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】飛行体、環境音取得システム、環境音抽出プログラム、及び環境音取得方法
(51)【国際特許分類】
B64C 39/02 20060101AFI20240822BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20240822BHJP
B64U 10/13 20230101ALI20240822BHJP
B64U 10/14 20230101ALI20240822BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240822BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240822BHJP
B64U 101/26 20230101ALN20240822BHJP
【FI】
B64C39/02
B64C27/08
B64U10/13
B64U10/14
B64U50/19
H04R3/00 320
B64U101:26
(21)【出願番号】P 2020037974
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】北村 敏也
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502568(JP,A)
【文献】特開2019-053197(JP,A)
【文献】特開2003-233956(JP,A)
【文献】特開2020-015427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64B 1/00 - B64U 101/75
G10K 1/00 - G10K 13/00
H04R 3/00 - H04R 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境音を集音する飛行体であって、
回転体と、集音部と、回転情報計測部とを備え、
前記回転体は、ブレードを有する回転翼を備え、
前記集音部は、前記回転翼からの発生音と環境音とを含む合成音を集音するよう構成され、
前記回転情報計測部は、前記回転体の回転情報を前記集音部による集音と同期して計測するよう構成され、
前記回転情報は、前記回転翼の回転に応じた位相の経時変化の情報を含
み、
前記回転情報計測部は、下記(1)~(4)のいずれかにより、前記回転体の位相の経時変化を計測する、飛行体。
(1)フォトリフレクタ
(2)エンコーダ
(3)同期モータへの出力信号の取得
(4)動画撮影可能なカメラ
【請求項2】
請求項1に記載の飛行体であって、
記録部をさらに備え、
前記記録部は、前記回転情報と、前記合成音とを記録するよう構成される、飛行体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の飛行体であって、
前記回転体が複数設けられ、前記回転情報計測部も複数の回転体に対応して複数設けられており、
前記集音部は、前記複数の回転体からの発生音と環境音とを含む合成音を集音するよう構成され、
複数の回転情報計測部はそれぞれ、対応する回転体の回転情報を計測するよう構成される、飛行体。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れかに記載の飛行体を備えた環境音取得システムであって、
発生音生成部と、環境音抽出部とを備え、
前記発生音生成部は、前記回転情報に基づいて前記回転体から発生したと予測される予測発生音を生成し、
前記環境音抽出部は、前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出する、環境音取得システム。
【請求項5】
環境音を測定する環境音取得システムであって、
集音部と、回転情報計測部と、発生音生成部と、環境音抽出部とを備え、
前記集音部は、回転体からの発生音と前記環境音とを含む合成音を集音するよう構成され、
前記回転体は、ブレードを有する回転翼を備え、
前記回転情報計測部は、前記回転体の回転情報を前記集音部による集音と同期して計測するよう構成され、前記回転情報は、前記回転翼の回転に応じた位相の経時変化の情報を含み、
前記発生音生成部は、前記回転情報に基づいて前記回転体から発生したと予測される予測発生音を生成し、
前記環境音抽出部は、前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出
し、
前記回転情報計測部は、下記(1)~(4)のいずれかにより、前記回転体の位相の経時変化を計測する、環境音取得システム。
(1)フォトリフレクタ
(2)エンコーダ
(3)同期モータへの出力信号の取得
(4)動画撮影可能なカメラ
【請求項6】
回転体からの発生音と環境音とを含む合成音から前記環境音を抽出する環境音抽出プログラムであって、
前記回転体は、ブレードを有する回転翼を備え、
前記合成音と同期して計測された前記回転体の回転情報に基づいて、当該回転体から発生したと予測される予測発生音を生成する処理と、
前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出する処理と、を実行させ、
前記回転情報は、
下記(1)~(4)のいずれかにより計測された、前記回転翼の回転に応じた位相の経時変化の情報を含む、プログラム。
(1)フォトリフレクタ
(2)エンコーダ
(3)同期モータへの出力信号の取得
(4)動画撮影可能なカメラ
【請求項7】
回転体からの発生音と環境音とを含む合成音から前記環境音を取得する環境音取得方法であって、
前記回転体は、ブレードを有する回転翼を備え、
前記合成音を集音する工程と、
前記回転体の回転情報を前記集音と同期して計測する工程と、
前記回転体の回転情報に基づいて当該回転体から発生したと予測される予測発生音を生成する工程と、
前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出する工程と、を備え、
前記回転情報は、
下記(1)~(4)のいずれかにより計測された、前記回転翼の回転に応じた位相の経時変化の情報を含む、環境音取得方法。
(1)フォトリフレクタ
(2)エンコーダ
(3)同期モータへの出力信号の取得
(4)動画撮影可能なカメラ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行体及び飛行体により環境音を取得するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、騒音等の評価のため、環境音を集音することが行われている。例えば、引用文献1には、マイク部により周辺の音を集音し、予め記憶された回転体(モータ)の回転音から逆位相となる音波を生成してスピーカから出力し、騒音である回転音をキャンセルすることの可能な無線航空機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、引用文献1に開示される無線航空機は、逆位相となる音波をリアルタイムで生成して出力するため、環境音の取得のためには本来必要ない制御部及びスピーカを機体に搭載する必要があった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、回転体(回転翼)による発生音をスピーカにより実際にキャンセルすることなく、回転体の影響を除いた環境音を取得することの可能な飛行体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、環境音を集音する飛行体であって、回転体と、集音部と、回転情報計測部とを備え、前記集音部は、前記回転体からの発生音と環境音とを含む合成音を集音するよう構成され、前記回転情報計測部は、前記回転体の回転情報を前記集音部による集音と同期して計測するよう構成され、前記回転情報は、前記回転体の位相の経時変化の情報を含む、飛行体が提供される。
【0007】
ところで、回転体の回転により生じる音は、回転体の回転数と、集音部と回転体の位置関係とに依存することがわかっている。回転体の回転数は回転体の位相から導出でき、集音部と回転体の位置関係も回転体の位相から導出することが可能である。したがって、本発明によれば、回転情報計測部が回転体の回転情報を集音と同期して計測することで、回転体の回転により生じる発生音を予測することができ、予測した回転体による騒音(予測発生音)と集音部が集音した合成音とに基づいて、環境音を抽出することが可能となる。したがって、回転体の回転音の録音及びこれの逆位相となる音波のスピーカを用いた出力を行うことなく、回転音の影響を除いた環境音を取得することが可能となっている。
【0008】
好ましくは、記録部をさらに備え、前記記録部は、前記回転情報と、前記合成音とを記録するよう構成される。
【0009】
好ましくは、前記回転体が複数設けられ、前記回転情報計測部も複数の回転体に対応して複数設けられており、前記集音部は、前記複数の回転体からの発生音と環境音とを含む合成音を集音するよう構成され、複数の回転情報計測部はそれぞれ、対応する回転体の回転情報を計測するよう構成される。
【0010】
また、本発明によれば、上記の飛行体を備えた環境音取得システムであって、発生音生成部と、環境音抽出部とを備え、前記発生音生成部は、前記回転情報に基づいて前記回転体から発生したと予測される予測発生音を生成し、前記環境音抽出部は、前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出する、環境音取得システムが提供される。
【0011】
好ましくは、集音部と、回転情報計測部と、発生音生成部と、環境音抽出部とを備え、前記集音部は、回転体からの発生音と前記環境音とを含む合成音を集音するよう構成され、前記回転情報計測部は、前記回転体の回転情報を前記集音部による集音と同期して計測するよう構成され、前記回転情報は、前記回転体の位相の経時変化の情報を含み、前記発生音生成部は、前記回転情報に基づいて前記回転体から発生したと予測される予測発生音を生成し、前記環境音抽出部は、前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出する。
【0012】
また、本発明によれば、回転体からの発生音と環境音とを含む合成音から前記環境音を抽出する環境音抽出プログラムであって、前記合成音と同期して計測された前記回転体の回転情報に基づいて、当該回転体から発生したと予測される予測発生音を生成する処理と、前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出する処理と、を実行させる、プログラムが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、回転体からの発生音と環境音とを含む合成音から前記環境音を取得する環境音取得方法であって、前記合成音を集音する工程と、前記回転体の回転情報を前記集音と同期して計測する工程と、前記回転体の回転情報に基づいて当該回転体から発生したと予測される予測発生音を生成する工程と、前記合成音と前記予測発生音とに基づいて、前記環境音を抽出する工程と、を備える、環境音取得方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る環境音取得システム1を示すブロック図である。
【
図2】
図2Aは、
図1の環境音取得システム1の飛行体2を示す上面図であり、
図2Bは、同飛行体2を示す側面図である。
【
図3】飛行体2の構成を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図1の環境音取得システム1において、情報処理装置3が飛行体2の記録した情報から環境音を取得する方法を示す概略図である。
【
図5】飛行体2の1つの回転情報計測部23Aが計測した回転情報I1と、集音部22が集音した音の波形との関係を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0016】
1.環境音取得システム1の構成
本発明の一実施形態に係る環境音取得システム1は、環境音、例えば工場や鉄道等の騒音源から発生する騒音を上空から計測するためのシステムである。本実施形態の環境音取得システム1は、
図1~
図3に示すように、複数の回転体21A~21Dを備えた飛行体2と、情報処理装置3とを備える。飛行体2は、回転体21A~21Dからの発生音N1~N4及び環境音N6を含む合成音N5を集音する。情報処理装置3は、集音した合成音N5から発生音N1~N4を取り除く(キャンセリングする)ことで、環境音N6を抽出する。以下、飛行体2と情報処理装置3の各構成を説明し、その後、環境音取得システム1を用いて環境音(予測環境音n6)を取得する方法を説明する。
【0017】
1.1 飛行体2
本実施形態の飛行体2は、マルチコプター型のドローンであり、
図1~
図3に示すように、飛行体本体20と、複数(本実施形態では4つ)の回転体21A~21Dと、集音部22と、複数(本実施形態では4つ)の回転情報計測部23A~23Dと、記録部24と、制御部25とを備える。また、飛行体2は、上記各構成を動作させるための電力を供給するバッテリ(図示せず)と、飛行体2を無線操縦するための無線伝送部(図示せず)も備えている。
【0018】
飛行体本体20は、
図2A、
図2B及び
図3に示すように、略平板状に形成され、4つの回転体21A~21D、集音部22、4つの回転情報計測部23A~23D、記録部24及び制御部25を支持する。飛行体本体20の形状は任意であり、飛行体2の飛行に適した適宜の形状を採用することができる。
【0019】
4つの回転体21A~21Dは、
図2Aに示すように、飛行体本体20の略縁部に等間隔に配置される。4つの回転体21A~21Dは同一の構成であるため、以下では回転体21Aの構成を説明する。回転体21Aは、
図3に示すように、モータ21mと、ギヤ21gと、回転シャフト21sと、回転翼21pとを備える。モータ21m及びギヤ21gは飛行体本体20の上面に配置され、回転シャフト21sは、飛行体本体20から上方に向かって垂直に延びるよう配置される。回転翼21pは、一対のブレード21p1,21p2を備え、回転シャフト21sの上端部に設けられる。回転体21Aは、モータ21mの回転によりギヤ21gを介して回転シャフト21sが回転し、回転シャフト21sの回転に同期して回転翼21pが回転するよう構成される。ここで、モータ21mは、飛行制御部(図示せず)からの命令を受けてバッテリ(図示せず)の電力により駆動する。回転翼21pが回転することで、飛行体2に揚力が発生する。飛行体2は、4つの回転体21A~21Dそれぞれの回転翼21pの回転を独立して制御することで、上昇・下降及び前進・後進・旋回と、姿勢制御とを行うことができる。
【0020】
集音部22は、周囲の音を集音して電気信号に変換する装置であり、例えばマイクロフォンが用いられる。ここで、集音部22が集音する周囲の音は、飛行体2の4つの回転体21A~21Dが発生させる発生音N1~N4と、飛行体2の飛行位置における環境音N6との合成音N5である。集音部22は、飛行体2の下方の音を集音するため、飛行体本体20の下方に配置されることが好ましい。ただし、集音部22は、他の部材の配置条件等に応じて、飛行体本体20の任意の場所に配置することができる。
【0021】
4つの回転情報計測部23A~23Dは、4つの回転体21A~21Dごとに設けられる。回転情報計測部23A~23Dは、回転体21A~21Dの回転情報I1~I4として、各回転シャフト21sの位相の経時変化(回転タイミング)を、集音部22による集音と同期して計測する。ここで、「同期して計測する」とは、集音部22が集音を行う期間と同じ期間中、継続して、又は断続的に回転シャフト21sの位相を計測し、集音データと位相データの時系列の対応をとることである。これにより、集音した合成音N5の時系列データに対応した回転シャフト21sの位相の時系列データを得ることができる。回転情報計測部23A~23Dは、反射型の光センサ(フォトリフレクタ)により構成される。ただし、回転体21A~21Dの位相を計測することができれば、他の任意の構成のエンコーダを用いることが可能である。なお、回転シャフト21sと回転翼21pとは一体的に回転するため、回転情報計測部23A~23Dは回転翼21pの位相を計測しているとも言える。
【0022】
記録部24は、コンピュータで読み取り可能な記録媒体、例えば、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の不揮発性半導体メモリによって実現される。記録部24は、後述する制御部25からの命令に従い、集音部22が集音した上述の合成音N5と、4つの回転情報計測部23A~23Dが計測した回転体21A~21Dの回転情報I1~I4とを記録する。なお、記録部24は、記録した情報を情報処理装置3に読み込ませるため、飛行体2に対して着脱可能なものとすることが好ましい。
【0023】
制御部25は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)等であり、不図示のメモリに記憶されたプログラムを読み出して種々の演算処理を行うことで、回転体21A~21Dの駆動を制御し、飛行体2の飛行を制御する。また、制御部25は、集音部22、4つの回転情報計測部23A~23D及び記録部24の動作も制御する。なお、制御部25の機能の一部をハードウェアで実現することも可能である。
【0024】
上記構成の飛行体2は、無線伝送部(図示せず)を介して操縦されることで、上空の所望の場所において集音を行うことが可能である。飛行体2が飛行するための構成及び飛行の方法については、既知の任意の構成を適用することができるため、その詳細な説明を省略する。
【0025】
1.2 情報処理装置3
情報処理装置3は、飛行体2が取得した合成音N5と回転情報I1~I4とに基づいて、環境音N6を取得するために用いられる。情報処理装置3は、たとえばPC(Personal Computer)によって構築されており、
図1に示すように、データ取得部30と、制御部31と、記憶部32とを備えている。なお、一般的なPCの動作に必要なIOインタフェースやその他のハードウェア・ソフトウェアの構成については、既知のものを適宜用いることができるため、その詳細な説明を省略する。
【0026】
データ取得部30は、飛行体2の記録部24(フラッシュメモリ等)に記録されたデータ、すなわち集音部22により集音された合成音N5及び、回転体21A~21Dの回転情報I1~I4のデータを読み出す。データ取得部30の具体的な例は、フラッシュメモリを読み込むリーダーである。
【0027】
制御部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)等で実現され、情報処理装置3の全体の動作を制御する。また、制御部31は、発生音生成部41と環境音抽出部42とを備える。
【0028】
発生音生成部41及び環境音抽出部42は、記憶部32に記憶されているコンピュータプログラムによって実現される。制御部31の発生音生成部41は、データ取得部30が取得した回転情報I1~I4に基づいて回転体21A~21Dによる発生音を予測し、予測発生音n1~n4を生成する。制御部31の環境音抽出部42は、データ取得部30が取得した合成音N5と発生音生成部41が生成した予測発生音n1~n4とに基づいて、予測される環境音(以下、予測環境音n6と呼ぶ)を抽出する。言い換えると、記憶部32に記憶されたコンピュータプログラムは、合成音N5と同期して計測された回転体21A~21Dの回転情報I1~I4に基づいて予測発生音n1~n4を生成する処理と、合成音N5と予測発生音n1~n4とに基づいて、予測環境音n6を抽出する処理と、を実行させる。予測環境音n6を取得する具体的な方法については、後述する。
【0029】
記憶部32は、例えば、RAM(Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)等で実現されており、制御部31による各種プログラムに基づく処理の実行時のワークエリア等として用いられる。記憶部32は、さらに、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリ、またはHDD(Hard Disk Drive)を備えていてもよく、制御部31の処理に利用されるプログラム及び各種データを保存する。一例として、記憶部32は、データ取得部30が読み込んだ合成音N5及び回転情報I1~I4のデータを記憶する。
【0030】
2.環境音取得システム1の動作
次に、上記構成の環境音取得システム1によって環境音を取得する動作(環境音取得方法)について説明する。
【0031】
2.1 飛行体2によるデータの取得
まず、飛行体2の制御部25は、自律的に又はラジコン等による操縦によって回転体21A~21D(回転翼21p)の回転を制御し、飛行体2を上空における環境音を取得する所望の場所に移動させる。所望の場所に到達すると、制御部25は、回転体21A~21D(回転翼21p)の回転制御によりホバリングを開始する。そして、制御部25は、自律的に又はラジコン等を介した命令により、集音部22による集音を開始する。集音部22は、
図3に示すように、4つの回転体21A~21Dが発生させる発生音N1~N4と飛行体2の飛行位置における環境音N6の合成音N5を集音する(集音工程)。同時に、制御部25は、集音部22による集音と同期して、回転情報計測部23A~23Dによる回転体21A~21Dの回転情報I1~I4(具体的には、各回転シャフト21sの位相)の計測を開始する(計測工程)。また、制御部25は、集音部22が集音した上述の合成音N5と、4つの回転情報計測部23A~23Dが計測した回転体21A~21Dの回転情報I1~I4とを、記録部24に記録する。
【0032】
ホバリング状態での集音部22による合成音N5の集音と回転情報計測部23A~23Dによる回転体21A~21Dの回転情報I1~I4を必要な時間行った後、制御部25は、自律的に又はラジコン等による操縦によって集音部22による集音と回転情報計測部23A~23Dによる計測を終了し、回転体21A~21D(回転翼21p)の回転制御により、飛行体2を帰還させ、合成音N5と回転情報I1~I4が記録された記録部24を回収する。
【0033】
2.2 情報処理装置3による予測環境音n6の取得
回収された記録部24に記録された合成音N5と回転情報I1~I4のデータは、情報処理装置3のデータ取得部30により読み出され、制御部31の制御により記憶部32に記憶される。
【0034】
発生音生成部41は、記憶部32に記憶された回転情報I1~I4のデータから、回転体21A~21Dによる発生音(騒音)を予測し、予測発生音n1~n4を生成する(予測発生音生成工程、
図4参照)。予測発生音n1~n4は、集音された合成音N5の集音時間に対応して生成される。以下、回転体21A~21Dが発生させる予測発生音n1~n4を生成する方法を説明する。
【0035】
飛行体2の回転体21A~21Dによる発生音は、主に回転翼21pの回転により生じる。回転翼21pの回転による発生音は、回転翼21pの回転数に依存した周期的な音である。また、回転翼21pは一対のブレード21p1,21p2から構成されており、各ブレード21p1,21p2と集音部22との位置関係は回転翼21p(回転シャフト21s)の位相によって周期的に変化する。そのため、各ブレード21p1,21p2が発生させて集音部22に到達する音は、回転翼21p(回転シャフト21s)の位相によって周期的に変化する。
【0036】
加えて、回転体21A~21Dによる発生音は、モータ21m、ギヤ21g及び回転シャフト21sの回転によっても生じる。これらモータ21m、ギヤ21g及び回転シャフト21sによる発生音であって集音部22に到達する音についても、回転翼21pと同様、これらの回転数及び位相によって周期的に変化する。
【0037】
図5は、飛行体2の1つの回転情報計測部23Aが計測した回転シャフト21sの位相(回転情報計測部23Aからの信号)と、環境音の無い状況下で回転体21が発生させ集音部22が集音した音(音圧)の波形との関係を示す実験データである。
図5においては、回転情報計測部23Aからの信号の立下がりタイミングと音波の波形が同期し、音波は回転情報計測部23Aからの信号の1周期の間に概ね2つの大きな波形を示している。これは、回転シャフト21sの位相(回転タイミング)の1周期の間に、2つのブレード21p1,21p2による異なる特徴を持つ発生音が交互に生じていることを示す。また、音の波形における高周波成分は、回転シャフト21sよりも高速に回転するギヤ21gから生じるものである。本図からも、回転シャフト21sの位相(回転タイミング)と発生音には強い関係があることが理解できる。
【0038】
以上のことから、回転情報計測部23A~23Dによって回転シャフト21sの位相(位相の経時変化)を計測することで、回転体21A~21Dの回転による発生音、すなわち回転翼21p、モータ21m、ギヤ21g及び回転シャフト21sの回転数及び位相が導出でき、回転体21A~21Dの回転による発生音を予測することができる。具体的に予測発生音n1~n4を生成するには、まず、環境音の無い状況下において回転体21A~21Dを1つずつ回転させ、回転させている回転体21A~21Dの発生音を集音部22に集音させ、回転数及び位相を変化させてゆく。これにより、回転させている回転体21A~21Dの回転数及び位相に応じた発生音のテーブル(発生音テーブル)を作成することができる。発生音生成部41は、飛行体2によるデータの取得後に上記のようにして作成された発生音テーブルを参照することで、回転情報I1~I4のデータから、予測発生音n1~n4を生成することができる。なお、発生音テーブルは、飛行体2による上空における環境音の取得前に事前に行っても良く、環境音の取得後に事後的に行っても良い。
【0039】
次に、環境音抽出部42は、発生音生成部41により生成された予測発生音n1~n4と、記録部24に記録された合成音N5とから、予測環境音n6を抽出する(抽出工程)。具体的には、上空において集音部22が集音した合成音N5は、環境音N6と、回転体21A~21Dから発生した発生音N1~N4とが足し合わされたものであるため、
図4に示すように、合成音N5から予測発生音n1~n4を取り除くことで、予測環境音n6を抽出することができる。
【0040】
3.本実施形態の作用効果
(1)本実施形態の環境音取得システム1によれば、飛行体2により集音を行うことで上空から環境音N6を取得することができるため、周辺構造物による反射音・共鳴の影響を受けず、複雑な音響経路を考慮しなくても環境音を精度良く取得することができる。
(2)回転情報計測部23A~23Dにより、回転体21A~21Dの回転情報I1~I4を集音部22による集音と同期して計測することで、回転体21A~21Dの発生音N1~N4を予測することが可能となる。したがって、回転体21A~21Dの予測発生音n1~n4を集音部22により集音された合成音N5から取り除くことで、回転体21A~21Dによる騒音の影響を除去した環境音N6を得ることができる。
(3)飛行体2が記録部24を備えていることから、記録部24に記録された合成音N5と回転情報I1~I4を用いて、事後的に環境音N6を得ることができる。つまり、情報処理装置3の発生音生成部41による回転情報I1~I4に基づいた予測発生音n1~n4の生成と、環境音抽出部42による合成音N5と予測発生音n1~n4からの環境音N6の抽出はリアルタイムで行う必要はなく、オフラインで行うことができる。したがって、飛行体2により合成音N5と回転情報I1~I4を取得しておけば、当該データの取得後にキャンセリングを演算装置を用いて、又は手動によりきめ細かに調整することも可能となるため、精度の良い予測環境音n6を取得することが可能である。
(4)環境音N6を取得する方法としては、飛行体2にスピーカを搭載し、スピーカから回転体21A~21Dの発生音N1~N4と逆位相の音を発生させ、リアルタイムでキャンセリングした音を集音することも考えられる。しかしながら、当該方法の場合、飛行体2にスピーカを搭載しなければならないため、飛行体2が大型化・重量化してしまう。また、スピーカによる騒音のキャンセリングを精度良く行うには、回転体21A~21D(騒音源)と集音部を結ぶ直線状にスピーカを配置することが好ましいが、飛行体2が複数の回転体21A~21Dを備える構成(例えば、ドローン)である場合、そのような配置はほとんど不可能である。一方、本実施形態の環境音取得システム1は、スピーカが不要であるため、飛行体2が複数の回転体21A~21Dを備える構成であっても、精度良く予測環境音n6を取得することができる。
(5)飛行体2がホバリング中に集音を行うことで、飛行体2の移動による発生音の影響を避けることが可能となる。
【0041】
4.変形例
本発明は、以下の態様でも実施可能である。
【0042】
・上記実施形態では、情報処理装置3を飛行体2とは別体のPC等により構成していたが、情報処理装置3を飛行体2に搭載することも可能である。さらに、この場合、集音部22による集音及び回転情報計測部23A~23Dによる回転情報I1~I4の取得と並行して、リアルタイムで発生音生成部41による予測発生音n1~n4の生成と環境音抽出部42による予測環境音n6の抽出を行い、抽出した予測環境音n6を記録部24に記録することも可能である。
【0043】
・上記実施形態では、回転体21A~21Dの回転情報I1~I4として各回転シャフト21sの位相を計測していたが、モータ21m、ギヤ21g、回転翼21pのうちの何れかの位相を計測しても良い。モータ21m、ギヤ21g、回転シャフト21s、回転翼21pのうちの何れか1つの位相がわかれば他の位相も導出可能だからである。また、モータ21mが同期モータであれば、飛行体2の制御部25からモータ21mへの出力信号を、回転情報として取得することも可能である。
【0044】
・上記実施形態では、飛行体2が記録部24を備え、記録部24に記録した集音した合成音N5及び回転情報I1~I4は飛行が終了した後に回収され、情報処理装置3に読み取られる構成であった。しかしながら、集音した合成音N5及び回転情報I1~I4を記録部24に記録する代わりに、これら合成音N5及び回転情報I1~I4を情報処理装置3に無線伝送部により無線で送信する構成とすることも可能である。また、有線接続により送信することも可能である。
【0045】
・上記実施形態の飛行体2について、飛行体2が位置情報取得部をさらに備えていることも好適である。位置情報取得部としては、GPSや動画撮影の可能なカメラが考えられる。飛行体2が位置情報取得部を備え、位置情報取得部が飛行体2の位置情報を集音部22による集音と同期して計測することで、飛行エリアにおける建物や風等の影響を考慮して予測環境音n6を取得することが可能となる。
【0046】
・上記実施形態における集音部22としてのマイクロフォンを、指向性マイクとすることも好適である。この場合、制御部25は、指向性マイクの向きの情報を記録部24に記録することが好ましい。これにより、特定方向の環境音を集音することができ、その際の回転体の騒音の影響を抑えることができる。
【0047】
・上記実施形態において、集音部22による集音は飛行体2のホバリング時に行われるが、ホバリング時において4つの回転体21A~21Dの回転は同一とは限らない。つまり、集音位置において風が吹いている場合にも飛行体2が流されないようにするため、制御部25は回転体21A~21Dの駆動(出力)を常に調整している。したがって、ホバリング時(集音時)の回転体21A~21Dの回転情報I1~I4からその瞬間における風向及び風速を推定し、風による騒音の影響を考慮して環境音を測定することも可能である。
【0048】
・上記実施形態において、飛行体2は複数の回転体21A~21Dを備えて構成されていた。しかしながら、環境音取得システム1を構成する飛行体として、単一の回転体を有する飛行体(例えば、ヘリコプタ)を用いることも可能である。
【0049】
・上記実施形態の環境音取得システム1は、飛行体2を備え、飛行体2の回転体21A~21Dによる発生音N1~N4をキャンセリングすることで環境音を抽出する構成であった。しかしながら、環境音取得システム1として、飛行体2を備えず、システム外の他の回転体の発生音をキャンセリングするものも、本発明に含まれる。すなわち、飛行体を備えない変形例に係る環境音取得システムは、上記実施形態と同様の構成の、集音部22と、回転情報計測部23と、発生音生成部41と、環境音抽出部42とを備え、集音部22は、システム外の他の回転体からの発生音と環境音とを含む合成音を集音するよう構成され、回転情報計測部23は、システム外の他の回転体の回転情報(位相の経時変化の情報を含む)を集音部22による集音と同期して計測するよう構成され、発生音生成部41は、回転情報に基づいてシステム外の他の回転体から発生したと予測される予測発生音を生成し、環境音抽出部42は、上記合成音と予測発生音とに基づいて、環境音を抽出するよう構成される。ここでシステム外の他の回転体としては、例えば風車やトンネル内のファン等が挙げられる。この場合、動画撮影可能なカメラにより動画を撮影することにより回転情報を取得してもよい。このような構成であれば、回転体(風車やトンネル内のファン等)の近傍においても、回転体の影響を除いた環境音を取得することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による飛行体、環境音取得システム、環境音取得プログラム、及び環境音取得方法は、鉄道騒音、高架道路の騒音、高層建築物の上層階での騒音等の騒音測定(環境アセスメント)に有用である。また、任意の回転体の近傍における、回転体の騒音の影響を除いた環境音の測定に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 :環境音取得システム
2 :飛行体
3 :情報処理装置
20 :飛行体本体
21 :回転体
21A~21D :回転体
21g :ギヤ
21m :モータ
21p :回転翼
21p1 :ブレード
21p2 :ブレード
21s :回転シャフト
22 :集音部
23 :回転情報計測部
23A~23D :回転情報計測部
24 :記録部
25 :制御部
30 :データ取得部
31 :制御部
32 :記憶部
41 :発生音生成部
42 :環境音抽出部
I1~I4 :回転情報
N1~N4 :発生音
N5 :合成音
N6 :環境音
n1~n4 :予測発生音
n6 :予測環境音