(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】トイレ用手摺り装置
(51)【国際特許分類】
A47K 17/02 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
A47K17/02 A
(21)【出願番号】P 2021018248
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000103404
【氏名又は名称】オーエム機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 誠二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 孝一
(72)【発明者】
【氏名】梅田 麻衣
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-346312(JP,A)
【文献】特開2019-051176(JP,A)
【文献】中国実用新案第210541274(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋式の便器周りに設置されるトイレ用手摺り装置であって、
便器の側方の床面に設置されるベース部と、
ベース部から上向きに設けられた支柱部と、
支柱部の上部に設けられた手摺り部と
で構成される躯体が、左右一対に設けられ、
便器の下部前方を横切った状態で配され
た、1本のパイプ材の折り曲げ加工品からなる下側連結部によって、左右の躯体が連結されて、
下側連結部における中央区間の左側部分及び右側部分の上面が、それぞれ左足及び右足を載せるための足載せ面とされるとともに、
左右の足載せ面が、正面視V字状に傾斜され
、
下側連結部における左右の端部区間が、それぞれのベース部から上側に立ち上がる立ち上り区間とされた
ことを特徴とするトイレ用手摺り装置。
【請求項2】
洋式の便器周りに設置されるトイレ用手摺り装置であって、
便器の側方の床面に設置されるベース部と、
ベース部から上向きに設けられた支柱部と、
支柱部の上部に設けられた手摺り部と
で構成される躯体が、左右一対に設けられ、
便器の下部前方を横切った状態で配される下側連結部によって、左右の躯体が連結されて、
下側連結部における中央区間の左側部分及び右側部分の上面が、それぞれ左足及び右足を載せるための足載せ面とされるとともに、
左右の足載せ面が、正面視V字状に傾斜され
、
下側連結部における左右の端部区間が、下側連結部における中央区間よりも後方に控えて配された
ことを特徴とするトイレ用手摺り装置。
【請求項3】
洋式の便器周りに設置されるトイレ用手摺り装置であって、
便器の側方の床面に設置されるベース部と、
ベース部から上向きに設けられた支柱部と、
支柱部の上部に設けられた手摺り部と
で構成される躯体が、左右一対に設けられ、
便器の下部前方を横切った状態で配される下側連結部によって、左右の躯体が連結されて、
下側連結部における中央区間の左側部分及び右側部分の上面が、それぞれ左足及び右足を載せるための足載せ面とされ
、
左右の足載せ面が、正面視V字状に傾斜され
るとともに、
便器における便座蓋の後方を横切った状態で配される後側連結部によって、左右の手摺り部が連結されて、
左側のベース部と、左側の支柱部と、左側の手摺り部と、後側連結部と、右側の手摺り部と、右側の支柱部と、右側のベース部とが、この順で連続する1本のパイプ材の折り曲げ加工品とされた
ことを特徴とするトイレ用手摺り装置。
【請求項4】
左右のベース部が、前後方向に延びる長手状を為し、
左右の支柱部が、それぞれベース部の前端部から上向きに設けられた
請求項1~
3いずれか記載のトイレ用手摺り装置。
【請求項5】
それぞれの支柱部が、下端部よりも上端部が後側となる向きに傾斜された請求項
4記載のトイレ用手摺り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋式の便器周りに設置されるトイレ用手摺り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
洋式の便器周りに設置されるトイレ用手摺り装置としては、例えば特許文献1の
図1に示されるように、便器の側方の床面に設置されるベース部(同図の「ベース部材10」)と、ベース部から上向きに設けられた支柱部(同図の「支柱部材20」)と、支柱部の上部に設けられた手摺り部(同図の「手摺り部材40」)とで構成される躯体が、左右一対に設けられ、便器の下部前方を横切った状態で配される下側連結部(同図の「一体型連結部材30」)によって、左右の躯体が連結されたものが知られている。
【0003】
この種のトイレ用手摺り装置を設置すると、
[1]立ち座り(便座に座る動作と、便座から立ち上がる動作のこと。以下同じ。)の際に手摺り部を掴むことが可能になり、楽に立ち座りできるようになる。
[2]排便時に、手摺り部に手を置くこと等が可能になり、姿勢を安定させることができる。
[3]便器に座った状態で手摺り部を掴みながら腰を捻る等、便意を催しやすくする効果や、フレイル(加齢によって筋力や活動が低下した状態)を予防する効果があるストレッチ運動を行いやすくなる。
このため、この種のトイレ用手摺り装置は、身体の不自由な人がいる家庭や、そのような人が利用する施設に設置されることが多い。
【0004】
また、排便をする際には、フランスの彫刻家、オーギュスト・ロダンが製作したブロンズ像「考える人」のように、座った状態で前かがみの姿勢をとると、直腸から肛門までが真っ直ぐになって、便が出やすくなる。その姿勢を横から見たときに、太腿と上半身(腹及び胸)とが為す角度が35°前後になっていることが好ましい。この点、特許文献1のトイレ用手摺り装置では、一体型連結部材の中央部を前方に突出して足載せ部として利用できるようにしており、そのような姿勢(以下、「快便姿勢」と呼ぶことがある。)をとりやすくしている。
【0005】
加えて、特許文献1のトイレ用手摺り装置には、便器の着座者の左膝及び右膝の外側に当ててるための膝当て部(同文献の
図1の「膝当て部材50」)が備えられている。このため、同文献のトイレ用手摺り装置では、便器の着座者の両膝を閉じた状態に維持することができるようになっている。このため、着座者の姿勢をより安定しやすくするだけでなく、着座者の臀部が便座に深く落ち込みやすくして、上記の快便姿勢をさらにとりやすくなるという効果も奏されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1のトイレ用手摺り装置では、膝当て部(膝当て部材50)を設ける必要がある。加えて、同文献のトイレ用手摺り装置において、膝当て部(膝当て部材50)が立ち座りの際に邪魔にならないようにするためには、膝当て部(膝当て部材50)の位置を切り替えることができるようにする必要がある。このため、特許文献1のトイレ用装置では、構造が複雑になって部品数が多くなり、製造コストが増大するおそれがある。また、重量が増大して、運搬や設置を行いにくくなるおそれもある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、膝当て部を設けないシンプルな構成で、便器の着座者の両膝を閉じた状態に維持でき、着座者に快便姿勢をとらせやすくすることのできるトイレ用手摺り装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、
洋式の便器周りに設置されるトイレ用手摺り装置であって、
便器の側方の床面に設置されるベース部と、
ベース部から上向きに設けられた支柱部と、
支柱部の上部に設けられた手摺り部と
で構成される躯体が、左右一対に設けられ、
便器の下部前方を横切った状態で配される下側連結部によって、左右の躯体が連結されて、
下側連結部における中央区間の左側部分及び右側部分の上面が、それぞれ左足及び右足を載せるための足載せ面とされるとともに、
左右の足載せ面が、正面視V字状に傾斜された
ことを特徴とするトイレ用手摺り装置
を提供することによって解決される。
【0010】
このように、左右の足載せ面を正面視V字状に傾斜させることにより、足載せ面に左右の足を載せたときに、脚における膝から下の部分(下腿)が自然と正面視「八」の字状になって、両膝が近づくようになる。このため、別途、膝当て部を設けなくても、両膝を閉じた状態とし、上記の快便姿勢をとりやすくすることができる。また、膝当て部を設けないため、立ち座りの際に膝当て部が邪魔になることもない。このため、膝当て部の位置を切り替えるような機構を設ける必要がない。したがって、トイレ用手摺り装置の部品点数を減らしてシンプルな構造とすることができる。よって、トイレ用手摺り装置の製造コストを抑えるだけでなく、トイレ用手摺り装置の軽量化を図り、トイレ用手摺り装置の運搬や設置を行いやすくすることもできる。
【0011】
本発明のトイレ用手摺り装置において、下側連結部は、その形態を限定されるものではないが、1本のパイプ材の折り曲げ加工品とすることが好ましい。これにより、下側連結部の構造をシンプルにして、トイレ用手摺り装置の製造コストを抑えることが可能になる。
【0012】
本発明のトイレ用手摺り装置において、下側連結部を1本のパイプ材の折り曲げ加工品とする場合には、下側連結部における左右の端部区間を、それぞれのベース部から上側(鉛直上向きに限らず、斜め上向きであってもよい。)に立ち上がる立ち上り区間とすることが好ましい。というのも、本発明のトイレ用手摺り装置では、上述したように、下側連結部における中央区間の左側部分及び右側部分を正面視V字状に傾斜させる(下側連結部の左右方向中間部に近づくにつれて低くなるように傾斜させる)ため、足載せ面の外側の区間をある程度高く設定する必要があるところ、下側連結部における左右の端部区間を立ち上り区間とすることによって、足載せ面の外側の区間を高くすることができるからである。
【0013】
本発明のトイレ用手摺り装置においては、下側連結部における左右の端部区間を、下側連結部における中央区間よりも後方に控えて配することも好ましい。これにより、便器に対して立ち座りする際に、便器の前側部分における左右の床面に足を置くことが可能になる。したがって、立ち座りの動作をさらに行いやすくなる。また、男性が排尿をする際には、便器に向かって立った状態で行うこともあるところ、このときにも、便器の前側部分における左右の床面に足を置くことが可能となる。したがって、便器に対して深い位置に立って排尿を行いやすくなり、便器の手前側の床面等に小便が零れ落ちにくくすることもできる。
【0014】
本発明のトイレ用手摺り装置においては、左右のベース部を、前後方向に延びる長手状を為すように形成し、左右の支柱部を、それぞれベース部の前端部から上向きに設けることも好ましい。というのも、洋式の便器は、温水洗浄便座の操作パネルが便座の脇に備え付けられたものも多いところ、特許文献1のトイレ用手摺り装置のように、ベース部(同文献の
図1の「ベース部材10」)における前後方向中間部に支柱部(同図の「支柱部材20」)を設けると、操作パネルを操作する際に支柱部が邪魔になりやすい。加えて、操作パネルが便座の脇から外方に大きく張り出している場合には、操作パネルが支柱部に干渉して、トイレ用手摺り装置を所望の位置に設置できないおそれもある。この点、ベース部の前端部に支柱部を設けることによって、支柱部が操作パネルの操作の邪魔にならないようにするだけでなく、操作パネルが大きく張り出している場合であっても、支柱部が操作パネルに干渉しないようにできるからである。
【0015】
本発明のトイレ用手摺り装置において、ベース部の前端部に支柱部を設ける場合には、それぞれの支柱部を、下端部よりも上端部が後側となる向きに傾斜させることが好ましい。これにより、トイレ用手摺り装置の設置安定性を高めることができる。このため、例えば、手摺り部に負荷をかけたときに、トイレ用手摺り装置が倒れにくくすることができる。
【0016】
本発明のトイレ用手摺り装置においては、便器における便座蓋の後方を横切った状態で配される後側連結部を設け、この後側連結部によって、左右の手摺り部が連結された状態とすることも好ましい。これにより、トイレ用手摺り装置の剛性を高めることができる。このため、例えば、手摺り部に負荷をかけたときに、手摺り部が撓みにくくすることができる。
【0017】
本発明のトイレ用手摺り装置においては、左側のベース部と、左側の支柱部と、左側の手摺り部と、後側連結部と、右側の手摺り部と、右側の支柱部と、右側のベース部とを、この順で連続する1本のパイプ材の折り曲げ加工品とすることも好ましい。これにより、トイレ用手摺り装置の部品点数を減らして製造コストを抑えることが可能になる。また、トイレ用手摺り装置を強度があり破損しにくいものとすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によって、膝当て部を設けないシンプルな構成で、便器の着座者の両膝を閉じた状態に維持でき、着座者に快便姿勢をとらせやすくすることのできるトイレ用手摺り装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るトイレ用手摺り装置を便器周りに設置した状態を示した斜視図である。
【
図2】本発明に係るトイレ用手摺り装置を設置した便器に着座した状態を前方(y軸方向負側)から見た図である。
【
図3】本発明に係るトイレ用手摺り装置を示した斜視図である。
【
図4】本発明に係るトイレ用手摺り装置を左側(x軸方向正側)から見た図である。
【
図5】本発明に係るトイレ用手摺り装置を右側(x軸方向負側)から見た図である。
【
図6】本発明に係るトイレ用手摺り装置を前側(y軸方向負側)から見た図である。
【
図7】本発明に係るトイレ用手摺り装置を後側(y軸方向正側)から見た図である。
【
図8】本発明に係るトイレ用手摺り装置を上側(z軸方向正側)から見た図である。
【
図9】本発明に係るトイレ用手摺り装置を下側(z軸方向負側)から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のトイレ用手摺り装置の好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。以下で述べる実施形態は、飽くまで一例に過ぎず、本発明のトイレ用手摺り装置の技術的範囲は、以下で述べる実施形態に限定されない。本発明のトイレ用手摺り装置には、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0021】
また、説明の便宜を考慮して、後掲する
図1~9には、x軸、y軸及びz軸からなる直交座標系を示しているが、その直交座標系における各座標軸の向きは、異なる図面間においても共通している。さらに、以下の説明文中で登場する「左」及び「右」並びに「前」及び「後」という語は、それぞれ、便器20の着座者30(
図2)から見た「左」及び「右」並びに「前」及び「後」を表わしている。すなわち、x軸方向正側を「左」とし、x軸方向負側を「右」とし、y軸方向負側を「前」とし、y軸方向正側を「後」として説明している。その他、z軸方向正側を「上」とし、z軸方向負側を「下」としている。
【0022】
1.トイレ用手摺り装置の概要
図1は、本発明に係るトイレ用手摺り装置10を便器20周りに設置した状態を示した斜視図である。
図2は、本発明に係るトイレ用手摺り装置10を設置した便器20に着座した状態を前方(y軸方向負側)から見た図である。
図3は、本発明に係るトイレ用手摺り装置10を示した斜視図である。本発明のトイレ用手摺り装置10は、
図1に示すように、洋式の便器20周りに設置して使用するものとなっている。このトイレ用手摺り装置10は、
図2に示すように、便器20の左側(x軸方向正側)に配される左側躯体10Lと、便器20の右側(x軸方向負側)に配される右側躯体10Rとを備えている。
図3に示すように、左側躯体10L及び右側躯体10Rは、左右一対に設けられており、それぞれが、ベース部11と、支柱部12と、手摺り部13とで構成されている。左側躯体10Lと右側躯体10Rは、下側連結部14及び後側連結部15によって互いに連結されて一体化された状態となっている。
【0023】
ベース部11は、床面に設置するための部分となっている。左側躯体10Lのベース部11は、便器20(
図1)の左側(x軸方向正側)の床面に設置され、右側躯体10Rのベース部11は、便器20の右側(x軸方向負側)の床面に設置される。支柱部12は、手摺り部13を支えるための部分となっており、それぞれのベース部11から上向きに設けられている。手摺り部13は、それぞれの支柱部12の上部に設けられている。この手摺り部13は、着座者30(
図2)が立ち座りする際や排便を行う際に、手で掴んだり手を載せたりするための部分となっている。下側連結部14は、便器20(
図1)の下部前方を横切った状態で配されている。
図2に示すように、下側連結部14の中央区間14aの左側部分及び右側部分の上面は、着座者30が左足及び右足をそれぞれ載せるための足載せ面α
L,α
Rとなっている。足載せ面α
Lと足載せ面α
Rは、正面視で(前側(y軸方向負側)から見たときに)V字状を為すように傾斜されている。後側連結部15は、
図1に示すように、便器20における便座蓋21の後方を横切った状態で配される。
【0024】
このトイレ用手摺り装置10を便器20周りに設置することによって、便器20に対して立ち座りする際に手摺り部13を手で掴むことが可能になる。このため、楽に立ち座りできるようになる。また、排便時に、手摺り部13に手を置いたり、手摺り部13を手で掴んだりすることが可能になる。このため、着座者30(
図2)が姿勢を安定させることができる。さらに、着座者30が、手摺り部13を掴みながら腰を捻る等のストレッチ運動を行いやすくなる。この種のストレッチ運動には、便意を催しやすくする効果や、フレイルを予防する効果がある。さらにまた、排便時に、下側連結部14の足載せ面α
L,α
Rに両足を載せることが可能になる。このため、着座者30の臀部が便座に深く落ち込みやすくなっている。
【0025】
加えて、
図2に示すように、足載せ面α
Lと足載せ面α
RとをV字状に傾斜させたことによって、足載せ面α
L,α
Rに左右の足を載せたときに、脚における膝から下の部分(下腿)が自然と正面視「八」の字状になり、同図の矢印A
1に示すように、両膝が自然に近く。このため、着座者30の膝の動きを規制するような膝当て部を別途設けなくても、両膝を閉じた状態に導き、上記の快便姿勢をさらにとりやすくすることができる。また、膝当て部を設けないため、立ち座りの際に膝当て部が邪魔になることもない。このため、膝当て部の位置を切り替えるような機構を設ける必要がない。したがって、トイレ用手摺り装置10の部品点数を減らしてシンプルな構造とすることができ、膝当ての操作も不要となる。よって、トイレ用手摺り装置10の製造コストを抑えるだけでなく、トイレ用手摺り装置10の軽量化を図ることもできる。
【0026】
以下、本実施形態のトイレ用手摺り装置10のより詳細な構成について説明する。
【0027】
2.トイレ用手摺り装置の詳細な構成
トイレ用手摺り装置10を構成する各部(ベース部11、支柱部12、手摺り部13、下側連結部14及び後側連結部15)の形態は、特に限定されない。例えば、ベース部11や手摺り部13等は、棒状や平板状や帯板状やブロック状等に形成することができる。また、下側連結部14等は、棒状や連続壁面状やブロック状等に形成することができる。ベース部11を平板状に形成して、支柱部12を棒状に形成する等、トイレ用手摺り装置10を構成する部分によって、形態を切り替えてもよい。また、下側連結部14の中央区間14aのみをブロック状に形成して、それ以外の区間を棒状に形成する等、同じ部分でも場所(区間)によって形態を切り替えてもよい。しかし、その場合には、別々に形成した部品を一体化する必要が生じる等、トイレ用手摺り装置10の製造コストが高くなるおそれがある。
【0028】
この点、本実施形態のトイレ用手摺り装置10では、
図3に示すように、左右一対のベース部11と、左右一対の支柱部12と、左右一対の手摺り部13と、下側連結部14と、後側連結部15とを、全て金属製のパイプ材10a,10bによって形成している。このうち、左側のベース部11と、左側の支柱部12と、左側の手摺り部13と、後側連結部15と、右側の手摺り部13と、右側の支柱部12と、右側のベース部11は、この順で連続する1本のパイプ材10a(
図3において網掛けハッチングを施した部材)によって形成している。換言すると、1本のパイプ材10aに折り曲げ加工を施すことによって、それらの部分11,12,13,15を連続的に形成している。
【0029】
より具体的には、1本のパイプ材10aを折り曲げることによって、それぞれ前後方向に延びる左右のベース部11と、それぞれ上下方向に延びる左右の支柱部12と、それぞれ前後方向に延びる左右の手摺り部と、湾曲しながら左右方向に延びる後側連結部15とを形成している。左側のベース部11の前端部には、左側の支柱部12の下端部が連続しており、左側の支柱部12の上端部には、左側の手摺り部13の前端部が連続しており、左側の手摺り部13の後端部には、後側連結部15の左端部が連続しており、後側連結部15の右端部には、右側の手摺り部13の後端部が連続しており、右側の手摺り部13の前端部には、右側の支柱部12の上端部が連続しており、右側の支柱部12の下端部には、右側のベース部11の前端部が連続している。
【0030】
これに対し、下側連結部14だけは、他の部分(ベース部11、支柱部12、手摺り部13及び後側連結部15)とは別のパイプ材10bによって形成している。下側連結部14の左端部及び右端部は、それぞれ左右のベース部11に対して、溶接等によって固定されて一体化されている。このため、本実施形態のトイレ用手摺り装置10は、実質的に、2本のパイプ材10a,10bによって形成されている。このため、本実施形態のトイレ用手摺り装置10は、部品点数が少なく、製造コストを抑えやすいだけでなく、強度に優れ、破損しにくいものとなっている。加えて、各部を、中実な棒材によって形成するのではなく、中空な棒材(パイプ材10a,10b)によって形成したことによって、トイレ用手摺り装置10の重量を抑えることも可能となっている。このため、トイレ用手摺り装置10を運搬や設置が容易なものとすることも可能となっている。
【0031】
ただし、ベース部11をパイプ材10aによって形成すると、ベース部11が床面に対してガタついて、トイレ用手摺り装置10の設置安定性が低下するおそれがある。また、手摺り部13をパイプ材10aによって形成すると、手摺り部13に対して肘を安定した状態で載せにくくなるおそれがある。この点、本実施形態のトイレ用手摺り装置10では、それぞれのベース部11の前端部及び後端部に、樹脂又はゴムで形成された台座ピース11a,11bを取り付けており、トイレ用手摺り装置10の設置安定性を高めている。また、手摺り部13の上面に、樹脂又はゴムで形成された手摺りピース13aを取り付けており、手摺り部13に肘を安定して載せやすくしている。
【0032】
加えて、上記のように、1本のパイプ材10aを折り曲げて各部を形成したことによって、支柱部12が、ベース部11の前端部から立ち上がるようになっている。すなわち、支柱部12が、トイレ用手摺り装置10の前側部分に位置している。このため、
図1に示すように、手摺り部13の下側に空間S
1を形成し、便座22(温水洗浄便座)の脇に設けられた操作パネル23(温水洗浄便座の操作パネル)を操作する際に、支柱部12が邪魔にならないようになっている。加えて、操作パネル23が外方に大きく突出していても、操作パネル23に支柱部12を干渉させることなく、トイレ用手摺り装置10を所定の位置に設置できるようになっている。
【0033】
また、後側連結部15を後側に大きく湾曲させたため、
図1に示すように、後側連結部15が、開いた状態の便座蓋21の後側を通るようになっている。このため、トイレ用手摺り装置10を設置した状態であっても、便座蓋21を、後側連結部15に干渉させることなく開閉することができるようになっている。便器20の後側には、便器20の洗浄水を貯留するための洗浄水タンク(図示省略)が設けられる場合もあるところ、この場合には、便座蓋21と洗浄水タンクとの隙間に後側連結部15が通される。この点、本実施形態のトイレ用手摺り装置10においては、後掲する
図7に示すように、後側連結部15の後面にクッションピース15aを設けており、洗浄水タンクに対する後側連結部15の当たりを和らげている。
【0034】
支柱部12は、ベース部11に対して垂直に形成(支柱部12を鉛直方向に延びるように形成)してもよい。しかし、その場合には、立ち座りの際に手摺り部13に体重をかけると、トイレ用手摺り装置10が前方に傾き、トイレ用手摺り装置10が前方に倒れやすくなるおそれがある。この点、本実施形態のトイレ用手摺り装置10では、
図4及び
図5に示すように、支柱部12の下端部よりも上端部が後側(y軸方向正側)となるように、支柱部12を傾斜角度θ
1で後方に傾斜させている。
図4は、トイレ用手摺り装置10を左側(x軸方向正側)から見た図である。
図5は、トイレ用手摺り装置10を右側(x軸方向負側)から見た図である。
【0035】
支柱部12の傾斜角度θ
1(
図4及び
図5)は、特に限定されない。しかし、支柱部12の傾斜角度θ
1を小さくしすぎると、上述した効果(トイレ用手摺り装置10の転倒防止効果)が奏されにくくなるおそれがある。このため、支柱部12の傾斜角度θ
1は、1°以上とすることが好ましい。支柱部12の傾斜角度θ
1は、3°以上とすることがより好ましく、5°以上とすることがさらに好ましい。ただし、支柱部12の傾斜角度θ
1を大きくしすぎると、ベース部11を前方に長く形成する必要が生じ、トイレ用手摺り装置10の寸法(前後長)が大きくなってしまう。このため、支柱部12の傾斜角度θ
1は、30°以下とすることが好ましい。支柱部12の傾斜角度θ
1は、20°以下とすることがより好ましく、15°以下とすることがさらに好ましい。本実施形態のトイレ用手摺り装置10において、支柱部12の傾斜角度θ
1は、約8°に設定している。
【0036】
また、既に述べたように、下側連結部14における中央区間14aの左側部分及び右側部分の上面における足載せ面α
L,α
R(
図2)をV字状に傾斜させることによって、足載せ面α
L,α
Rに左右の足を載せたときに、着座者30の両膝が閉じるようにしていた。本実施形態のトイレ用手摺り装置10では、下側連結部14をパイプ材10b(
図3)で形成したところ、
図6及び
図7に示すように、このパイプ材10bの中央区間14aをV字状に折り曲げることによって、足載せ面α
L,α
RをV字状に傾斜させている。
図6は、トイレ用手摺り装置10を前側(y軸方向負側)から見た図である。
図7は、トイレ用手摺り装置10を後側(y軸方向正側)から見た図である。
【0037】
足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2(
図6)は、0°よりも大きく、90°よりも小さければ特に限定されない。しかし、足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2(
図6及び
図7)を小さくしすぎると、上述した効果(着座者30の両膝を自然に閉じさせる効果)が奏されにくくなる。このため、足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2は、5°以上とすることが好ましい。足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2は、10°以上とすることがより好ましく、13°以上とすることがさらに好ましい。ただし、足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2を大きくしすぎると、足載せ面α
L,α
Rに足を載せにくくなる。このため、足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2は、45°以下とすることが好ましい。足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2は、30°以下とすることがより好ましく、20°以下とすることがさらに好ましい。本実施形態のトイレ用手摺り装置10においては、足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2を約15°に設定している。
【0038】
ところで、床面から足載せ面α
L,α
Rまでの高さH(
図6)は、ある程度確保する必要がある。というのも、足載せ面α
L,α
Rを低くしすぎると、足載せ面α
L,α
Rに足を載せたときに、着座者30(
図2)が快便姿勢となりにくくなるからである。このため、足載せ面α
L,α
Rの高さHは、5cm以上とすることが好ましく、8cm以上とすることがより好ましい。しかし、その一方で、足載せ面α
L,α
Rを高くしすぎると、足載せ面α
L,α
Rに足を載せたときに、着座者30(
図2)が窮屈な姿勢となるおそれがある。このため、足載せ面α
L,α
Rを高くしすぎるのも良くない。足載せ面α
L,α
Rの高さHは、20cm以下とすることが好ましく、15cm以下とすることがより好ましい。本実施形態のトイレ用手摺り装置10において、足載せ面α
L,α
Rの高さHは、10~12cmの範囲としている。
【0039】
また、床面から足載せ面α
L,α
Rまでの高さH(
図6)を確保するためには、下側連結部14の中央区間14aをベース部11よりも高い位置で支える必要がある。特に、下側連結部14の中央区間14aをV字状に折り曲げる本実施形態のトイレ用手摺り装置10においては、下側連結部14の中央区間14aの両側をより高い位置とする必要がある。この点、本実施形態のトイレ用手摺り装置10では、
図6に示すように、トイレ用手摺り装置10を前側(y軸方向負側)から見たときに、下側連結部14における左右の端部区間14bを、左右のベース部11から斜め上側に立ち上がる立ち上り区間としている。このため、下側連結部14は、前側(y軸方向負側)から見たときに、M字状を為している。下側連結部14は、その略全区間が床面から浮いた状態となっており、下側連結部14の下側の床面を掃除しやすくなっている。
【0040】
トイレ用手摺り装置10を前側(y軸方向負側)から見たときの、下側連結部14の端部区間14bの立ち上りの角度θ
3(
図6)は、通常、足載せ面α
L,α
Rの傾斜角度θ
2(
図6)よりも大きく設定される。下側連結部14の端部区間14bの立ち上りの角度θ
3は、15°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましい。下側連結部14の端部区間14bの立ち上りの角度θ
3に特に上限はないが、通常、90°以下とされる。下側連結部14の端部区間14bの立ち上りの角度θ
3は、60°以下とすることが好ましい。本実施形態のトイレ用手摺り装置10において、下側連結部14の端部区間14bの立ち上りの角度θ
3は、約45°に設定している。
【0041】
さらに、下側連結部14は、
図1に示すように、便器20の下部前方を横切った状態で配されるところ、本実施形態のトイレ用手摺り装置10においては、
図8及び
図9に示すように、下側連結部14における左右の端部区間14bを、下側連結部における中央区間14aよりも後方(y軸方向正側)に控えて配している。逆に言うと、下側連結部14における中央区間14aを、下側連結部14における左右の端部区間14bよりも前方(y軸方向負側)に配している。
図8は、トイレ用手摺り装置10を上側(z軸方向正側)から見た図である。
図9は、トイレ用手摺り装置10を下側(z軸方向負側)から見た図である。
【0042】
上記のように、下側連結部14の中央区間14aを端部区間14bよりも前方(y軸方向負側)に配することによって、下側連結部14の中央区間14a以外の区間には足を載せにくくなっている。逆に言うと、下側連結部14における正しい位置(中央区間14a)に足を載せやすくなっている。また、下側連結部14の中央区間14aの後方に空間S
2(
図8)が形成され、下側連結部14の端部区間14bの前方に空間S
3(
図8)が形成されるようになっている。このため、空間S
2に便器20の前側部分を挿入することで、便器20の深い位置(奥側)にトイレ用手摺り装置10を設置できるようになっており、本実施形態のトイレ用手摺り装置10のように、トイレ用手摺り装置10の前側部分に手摺り部13を配置しても、便器20の側方の適切な位置に手摺り部13を位置させることが可能となっている。また、便器20に対して立ち座りする際には、空間S
3に足を入れることもできる。したがって、立ち座りの動作をさらに行いやすくなる。さらに、男性が排尿をする際には、便器20に向かって立った状態で行うこともあるところ、このときにも、空間S
3に足を入れることができる。したがって、便器20に対して深い位置に立って排尿を行いやすくなり、便器20の手前側の床面等に小便が零れ落ちにくくすることもできる。
【0043】
図8に示すように、トイレ用手摺り装置10を上側(z軸方向正側)から見たときの、下側連結部14の端部区間14bがベース部11に対して為す角度θ
4(
図8)は、特に限定されない。しかし、この角度θ
4が小さい(鋭角である)と、下側連結部14の端部区間14bとベース部11との接続点P
1が、ベース部11における後寄りの位置となる。このため、
図4に示すように、トイレ用手摺り装置10を側方(x軸方向正側)から見たときの、接続点P
1から、下側連結部14の中央区間14aにおける足が載せられる点P
2までの距離Lが長くなる。したがって、下側連結部14における点P
2に足が載せられて、点P
2に下向きの力F(
図4)が加わったときに生ずる点P
1回りのモーメントM(
図4)が大きくなり、トイレ用手摺り装置10が前側に倒れやすくなる。このため、角度θ
4(
図8)は、45°以上とすることが好ましく、60°以上とすることがより好ましく、80°以上とすることがさらに好ましい。
【0044】
ただし、角度θ
4(
図8)を大きくしすぎると、下側連結部14の端部区間14bが後ろ向きとなるため、下側連結部14の端部区間14bとベース部11との接続点P
1を、ベース部11における前寄りの位置とする必要が生じ、その結果、空間S
3の左右幅が狭くなる。このため、便器20に立ち座りする際や、男性が便器20に向かって立った状態で排尿をする際に、空間S
3に足を入れにくくなる。したがって、角度θ
4は、大きくしすぎるのも良くない。角度θ
4は、135°以下とすることが好ましく、120°以下とすることがより好ましく、100°以下とすることがさらに好ましい。本実施形態のトイレ用手摺り装置10においては、角度θ
4を、略垂直(約90°)としている。
【0045】
3.まとめ
上述した実施形態のトイレ用手摺り装置10は、
図2に示すように、便器20周りに置くだけで(トイレ用手摺り装置10を便器20や床や壁に固定することなく)簡単に設置することができる。このトイレ用手摺り装置10を設置することによって、便器20に対して楽に立ち座りできるようになるだけでなく、排便時の姿勢を安定させることができる。また、便意を催す効果やフレイルの予防効果があるストレッチ運動を行いやすくなる。さらに、排便時に、下側連結部14の足載せ面α
L,α
Rに両足を載せることによって、着座者30が前かがみの快便姿勢をとりやすくなる。加えて、足載せ面α
L,α
RをV字状に傾斜させたことによって、足載せ面α
L,α
Rに足を載せたときに膝が自然と閉じるようになる。このため、着座者30の膝の動きを規制するような膝当て部を別途設ける必要がない。したがって、トイレ用手摺り装置10の部品点数を減らしてシンプルな構造とすることができる。特に、上述した実施形態のトイレ用手摺り装置10は、実質的に2本のパイプ材10a,10bで構成されているため、非常にシンプルな構造となっている。このため、製造コストが安いだけでなく、軽量で、運搬や設置がさらに容易となっている。
【符号の説明】
【0046】
10 トイレ用手摺り装置
10a パイプ材
10b パイプ材
10L 左側躯体
10R 右側躯体
11 ベース部
11a 台座ピース(前)
11b 台座ピース(後)
12 支柱部
13 手摺り部
13a 手摺りピース
14 下側連結部
14a 中央区間
14b 端部区間(立ち上り区間)
15 後側連結部
15a クッションピース
20 便器
21 便座蓋
22 便座
23 操作パネル
30 着座者
H 床面から足載せ面までの高さ
L 下側連結部の端部区間とベース部との接続点から、下側連結部の中央区間における足が載せられる点までの距離
S1 手摺り部の下側の空間
S2 下側連結部の中央区間の後方の空間
S3 下側連結部の中央区間の前方の空間
αL 足載せ面(左足)
αR 足載せ面(右足)
θ1 支柱部を傾斜角度
θ2 足載せ面の傾斜角度
θ3 トイレ用手摺り装置を前側から見たときの、下側連結部の端部区間の立ち上りの角度
θ4 トイレ用手摺り装置を上側から見たときの、下側連結部の端部区間がベース部に対して為す角度