(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】骨治療シート及び動物の骨の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20240822BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20240822BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240822BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20240822BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240822BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240822BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61F2/28
A61C8/00 Z
A61L27/24
A61L27/12
A61L27/54
A61L27/56
A61L27/58
(21)【出願番号】P 2021558482
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043521
(87)【国際公開番号】W WO2021100877
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019210063
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】橋元 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】水野 潤
(72)【発明者】
【氏名】関 康弘
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0168771(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0100508(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0248585(US,A1)
【文献】特開2016-10690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0159070(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
A61C 8/00
A61L 27/24
A61L 27/12
A61L 27/54
A61L 27/56
A61L 27/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷した骨の損傷箇所を覆うように配置することで骨の治療に用いるための骨治療シートであって、
少なくとも一部にナノスケールの凹凸構造が形成されて
おり、
骨治癒促進物質を保持する保持部を有し、
前記保持部は、前記骨治癒促進物質を収容可能な多孔質構造からなり、
前記多孔質構造を構成する細孔の壁面の少なくとも一部には、前記ナノスケールの凹凸構造が形成されていることを特徴とする骨治療シート。
【請求項2】
前記保持部は、骨治癒の足場となる足場材を含有することを特徴とする請求項
1に記載の骨治療シート。
【請求項3】
前記保持部は、少なくとも一部が、前記損傷した骨に配置したときに前記損傷箇所の内部に侵入可能に構成されていることを特徴とする請求項
1又は2に記載の骨治療シート。
【請求項4】
前記保持部は、前記損傷箇所に対応する突出部を有することを特徴とする請求項
3に記載の骨治療シート。
【請求項5】
前記保持部が、前記骨治癒促進物質として、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma)を保持していることを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載の骨治療シート。
【請求項6】
生分解性を有することを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の骨治療シート。
【請求項7】
損傷した骨の損傷箇所を覆うように配置することで骨の治療に用いるための骨治療シートであって、
少なくとも一部にナノスケールの凹凸構造が形成されており、
前記骨治療シートは、前記損傷箇所の外面に配置することで骨の治療に用いるための骨治療シートであ
り、
前記損傷箇所に対応する箇所の少なくとも一部に、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されていることを特徴とす
る骨治療シート。
【請求項8】
前記骨治療シートの主要形状を構成する主構造の少なくとも一部を覆う被覆膜をさらに備えることを特徴とする請求項
7に記載の骨治療シート。
【請求項9】
貫通孔である開口部が形成されていることを特徴とする請求項
7又は8に記載の骨治療シート。
【請求項10】
請求項1
~6のいずれかに記載の骨治療シートを準備する準備工程と、
前記骨治療シートを、損傷した骨における損傷箇所の少なくとも一部を覆うように、前記損傷した骨の表面に配置する配置工程とを含み、
前記配置工程においては、骨治癒促進物質を保持している前記骨治療シートを、前記損傷した骨における損傷箇所の少なくとも一部を覆うように、前記損傷した骨の表面に配置することを特徴とする動物の骨の治療方法。
【請求項11】
前記配置工程においては、前記損傷箇所の内部に前記骨治療シートにおける保持部の少なくとも一部を侵入させることを特徴とする請求項
10に記載の動物の骨の治療方法。
【請求項12】
前記配置工程の後に、固定具を用いて、損傷した骨に前記骨治療シートを固定する固定工程をさらに含むことを特徴とする請求項
10又は11に記載の動物の骨の治療方法。
【請求項13】
請求項7~9のいずれかに記載の骨治療シートを準備する準備工程と、
前記骨治療シートを、損傷した骨における損傷箇所の少なくとも一部を覆うように、前記損傷した骨の表面に配置する配置工程とを含み、
前記配置工程においては、前記骨治療シートのナノ周期構造が前記損傷した骨と接触するように、前記骨治療シートを、前記損傷した骨の表面に配置することを特徴とす
る動物の骨の治療方法。
【請求項14】
前記損傷した骨は、欠損が生じた骨であり、
前記準備工程と前記配置工程との間に、前記欠損が生じた部分に充填材を充填する充填工程をさらに含み、
前記配置工程においては、前記充填材が充填された部分の少なくとも一部を覆うように前記骨治療シートを配置することを特徴とする請求項
10~13のいずれかに記載の動物の骨の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨治療シート及び動物の骨の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長骨に損傷が発生した場合の治療方法として、損傷箇所をシートで覆う方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
強度及び安定性の観点から、上記治療方法においては医療用の金属材料(例えば、チタンやチタン合金)からなるシートが用いられる。このようなシートは生体にとって有害なものではないが、従来のシートは長骨の損傷箇所内に配置された充填材(例えば、自家骨粒・他家骨粒からなる骨補填材を含有するもの)の保持を目的として用いられるものであり、シートそのものは骨の治癒を積極的に促進させる効果を有しない。
【0004】
ところで、近年、物体の表面の物理的な構造が細胞に与える影響が注目されている。例えば、金属表面にナノスケールの構造(例えば、ナノスケールの凹凸構造)を形成することで、その表面上において細胞の増殖等を促進させることが可能であることがわかってきている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-212209号公報
【文献】特開2010-227551号公報
【文献】特表2004-526747号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Akinori Muto、他12名、「Lineage-Committed Osteoclast Precursors Circulate in Blood and Settle Down Into Bone」、Journal of Bone and Mineral Research(JBMR)、(米国)、American Society for Bone and Mineral Research、2011年12月、26巻、12号、p. 2978-2990
【文献】Hiroto Kamoda、他15名、「Platelet-Rich Plasma Combined With Hydroxyapatite for Lumbar Interbody Fusion Promoted Bone Formation and Decreased an Inflammatory Pain Neuropeptide in Rats」、Spine、Wolters Kluwer、2012年9月、37巻、20号、p. 1727-1733
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
医療の現場においては、骨を早期に治癒させることが可能な治療用具が希求されている。上記したようなナノスケールの構造を上記したようなシートに応用することで、従来のシート(ナノスケールの構造が形成されていないシート)と比較して骨の治癒を促進させることが可能なシートを得ることが可能であると考えられるが、そのようなシートの具体的な構造及び使用方法については知られていない。
【0008】
本発明は上記した課題に鑑みてなされたものであり、従来のシート(ナノスケールの構造が形成されていないシート)と比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シート及び本発明の骨治療シートを用いた骨の治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明の骨治療シートは、損傷した骨の損傷箇所を覆うように配置することで骨の治療に用いるための骨治療シートであって、少なくとも一部にナノスケールの凹凸構造が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の骨治療シートは、ナノスケールの凹凸構造が細胞の増殖や分化に影響を与えるため、従来のシート(ナノスケールの構造が形成されていないシート)と比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0011】
[2]本発明の骨治療シートにおいては、骨治癒促進物質を保持する保持部を有し、前記保持部は、前記骨治癒促進物質を収容可能な多孔質構造からなり、前記多孔質構造を構成する細孔の壁面の少なくとも一部には、前記ナノスケールの凹凸構造が形成されていることが好ましい。
【0012】
ところで、医療の分野においては、生体由来の生理活性物質を用いて骨の治癒を促進させることについて、様々な研究がおこなわれてきた。例えば、骨細胞の増殖や分化を促進させる生理活性物質を用いることで、骨の治癒を早めることが可能となると考えられる。このような観点から、有用と考えられる生理活性物質(例えば、骨形成タンパク質類や多血小板血漿等)を骨の損傷箇所に導入することで骨の治癒を促進する試みがなされてきた(例えば、特許文献3及び非特許文献1,2参照。)。
【0013】
上記[2]の骨治療シートによれば、骨の治癒を促進する生理活性物質である骨治癒促進物質を保持する保持部を有するため、保持部で保持した骨治癒促進物質が骨の損傷箇所に接触又は侵入するように使用することで、細胞(特に、骨や骨の周囲の血管のもととなる細胞)の増殖や分化を促進させることが可能となる。このため、上記[2]の骨治療シートによれば、骨自体の治癒力を高めることが可能となる。また、上記[2]の骨治療シートによれば、細胞の増殖や分化を介して骨治療シートと骨とを早期にかつ強固に固着させることが可能となり、その結果、治癒期間中における損傷した骨の損傷箇所のずれや拡大を抑制することが可能となる。したがって、上記[2]の骨治療シートは、従来のシートと比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0014】
また、上記[2]の骨治療シートによれば、保持部の構造や物性を適切に設定することで、骨治癒促進物質の放出の具合を調節して骨の治癒を適切に促進させることが可能となる。例えば、上記[2]の骨治療シートによれば、骨治癒促進物質が長期に渡って継続的に放出され続ける(浸出し続ける)ようにすることもできるし、骨治癒促進物質が速やかに放出されるようにすることもできる。なお、「骨治癒促進物質の離脱しやすさ」は、「骨治癒促進物質に対する保持力」や「保持部と骨治癒促進物質との親和性」ということもできる。
【0015】
また、上記[2]の骨治療シートによれば、保持部は、前記骨治癒促進物質を収容可能な多孔質構造からなるため、骨治癒促進物質を安定して保持することが可能となる。また、上記[2]のような構成とすることにより、骨治癒促進物質が液状である場合には、保持部と骨治癒促進物質とを接触させて保持部に骨治癒促進物質を吸収させるという簡易な手法により、骨治癒促進物質を保持部に保持させることが可能となる。
【0016】
また、上記[2]の骨治療シートにおいては、前記多孔質構造を構成する細孔の壁面の少なくとも一部にはナノスケールの凹凸構造が形成されているため、保持部の内外において細胞の増殖や分化を活性化することが可能となる。
【0017】
なお、上記[2]でいう「ナノスケールの凹凸構造」は、後述するような周期性を有している必要はない。周期性を有しない凹凸構造としては、例えば、ランダムな点状の凹凸からなる構造を挙げることができる。
【0018】
本明細書においては、「骨」には犬、猫、鳥等の動物の骨や人間の骨が含まれる。本発明の骨治療シートにおいては、保持部は、損傷した骨(治療を想定する骨)の損傷箇所に対応する箇所、つまり、損傷箇所に接触させるべき箇所に配置されていることが好ましい。
【0019】
本明細書における「骨治癒促進物質」とは、骨治癒促進に関連する生理活性物質のことをいう。骨治癒促進物質は純物質であってもよいし、混合物であってもよい。また、骨治癒促進物質は、骨治癒促進物質を溶解又は分散させるための物質、骨治癒の促進を補助する物質、骨治癒促進物質の変質を抑制する物質のような他の物質とともに用いてもよい。
【0020】
本明細書における「保持部」とは、何らかの観点(例えば、表面構造や親和性の観点)から骨治癒促進物質を保持しやすい構造を有する骨治療シートの一部のことをいう。保持部は、骨治癒促進物質を内部に保持するものであってもよいし、骨治癒促進物質を表面に保持するものであってもよい。
【0021】
「骨治癒促進物質を収容可能な多孔質構造」としては、例えば、スポンジ状の構造及び細孔を有する無機質を多く含む構造を挙げることができる。本発明に係る骨治療シートは、骨治癒後も体内に残置するものであってもよいし、骨が治癒した後に体内から除去するものであってもよい。
【0022】
[3]本発明の骨治療シートにおいては、前記保持部は、骨治癒の足場となる足場材を含有することが好ましい。
【0023】
このような構成とすることにより、保持部がそのまま骨の表面構造再建の足場となり、骨の早期治癒及び強度向上を図ることが可能となる。
【0024】
本発明の骨治療シートにおいては、骨治癒の足場となる足場材を含有する足場材含有部をさらに有することが好ましい。
【0025】
このような構成とすることにより、足場材含有部が骨の表面構造再建の足場となり、骨の早期治癒及び強度向上を図ることが可能となる。なお、足場材含有部は、保持部が足場材を含有していない場合に特に好適に用いることができる。なお、足場材含有部は、骨治癒促進物質を保持する能力を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0026】
[4]本発明の骨治療シートにおいては、前記保持部は、少なくとも一部が、前記損傷した骨に配置したときに前記損傷箇所の内部に侵入可能に構成されていることが好ましい。
【0027】
このような構成とすることにより、保持部に保持された状態の骨治癒促進物質を損傷箇所の内部に導入することが可能となる。
【0028】
上記のような構成とする場合には、様々な形状の損傷箇所に対応するため、保持部の材料として変形しやすい材料を採用することが好ましい(後述する実施形態1及び実施形態6参照。)。
【0029】
[5]本発明の骨治療シートにおいては、前記保持部は、前記損傷箇所に対応する突出部を有することが好ましい。
【0030】
このような構成とすることにより、保持部に保持された状態の骨治癒促進物質を損傷箇所の内部に導入しやすくすることが可能となる。
【0031】
本明細書における「保持部における突出部」とは、保持部における他の部分よりも骨治療シートの厚さ方向に突出している部分のことをいう。
【0032】
本発明の骨治療シートにおいては、前記保持部が、前記骨治癒促進物質を保持していることが好ましい。
【0033】
このような構成とすることにより、骨治癒促進物質を骨治療シートとは別に準備する手間をかけることなく使用することが可能となる。なお、保持部に骨治癒促進物質が保持されている状態の骨治療シートは、骨治癒促進物質の劣化を抑制可能な環境(例えば、低温環境)で保管することが好ましい。また、骨治療シートの構成材料や骨治癒促進物質の種類にもよるが、保持部に骨治癒促進物質が保持されている状態の骨治療シートを乾燥させ又は凍結させることにより、当該骨治療シートの長期保存が可能となる場合もある。
【0034】
本発明の骨治療シートにおいては、前記保持部が、骨治癒促進物質として、骨形成因子類、多血小板血漿類及び血管増加因子類のうち少なくとも1つを保持していることが好ましい。
【0035】
骨形成因子類、多血小板血漿類及び血管増加因子類は骨治癒との関連性が高い物質であるため、上記のような構成とすることにより、骨の治癒を一層促進することが可能となる。
【0036】
本明細書における「骨形成因子類」は、生体内のシグナル伝達に用いられるタンパク質やポリペプチドであって、骨形成を促進できるもののことをいう。本明細書における「多血小板血漿類」は、血液の遠心分離により得られる、成長因子等を豊富に含む血液由来物質のことをいう。本明細書における「血管増加因子類」とは、生体内のシグナル伝達に用いられるタンパク質やポリペプチドであって、血管や肉芽組織の形成を促進できるもののことをいう。なお、生体内での骨治癒は損傷箇所付近の生体組織の治癒と一体として進行するため、血管増加因子類による血管形成等の促進は、間接的に骨治癒も促進すると考えられる。
【0037】
[6]本発明の骨治療シートにおいては、前記保持部が、前記骨治癒促進物質として、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma)を保持していることが好ましい。
【0038】
このような構成とすることにより、骨の治癒を一層促進することが可能となる。
【0039】
本明細書における「多血小板血漿」は、血液を遠心分離し、比重が所定の範囲である血漿を採取することで得られるものであり、血小板を多く含有する血漿である。
【0040】
[7]本発明の骨治療シートにおいては、生分解性を有することが好ましい。
【0041】
このような構成とすることにより、骨治療シートを治癒後も生体内に残置することに不都合がある場合であっても、取り出しのための手術等を実施することなく骨治療シートを吸収させることが可能となる。
【0042】
本明細書における「生分解性」は、生体内において少なくとも一部が分解され、生体に吸収可能となり、生体内に放置したときに元の構造とは異なる構造となる性質をいう。本発明の骨治療シートにおいては、生体内において分解されるのは一部のみであってもよい。また、本明細書においては、「生分解性」は、元の構造の形状を基にして生体組織等(例えば、骨や血管)が形成される性質、いわゆる「吸収置換性」も含む概念として用いる。
【0043】
[8]本発明の骨治療シートは、前記骨治療シートは、前記損傷箇所の外面に配置することで骨の治療に用いるための骨治療シートであって、前記損傷箇所に対応する箇所の少なくとも一部に、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されていることを特徴とする。
【0044】
上記[8]の骨治療シートによれば、損傷箇所に対応する箇所の少なくとも一部にナノ周期構造が形成されているため、当該ナノ周期構造を骨の損傷箇所やその付近の箇所と接触させて使用することで、骨の細胞(特に骨芽細胞)の増殖や分化を促進させることが可能となる。このため、上記[8]の骨治療シートによれば、骨治療シートと骨とを早期にかつ強固に固着させることで骨の強度を高くすることが可能となる。また、上記[8]の骨治療シートによれば、細胞の増殖や分化を促進させることから、骨自体の治癒力を高めることも可能となる。したがって、上記[8]の骨治療シートは、従来のシートと比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0045】
ここで、本発明の骨治療シートにおける「ナノ周期構造」について説明する。本発明の発明者らは、ナノスケールの構造の中でも、一定の間隔で同じ構造が繰り返すもの、つまり、「周期性を有するナノスケールの凹凸構造であるナノ周期構造」に着目して研究をおこなってきた。
【0046】
本発明の発明者らの研究により、固体表面にナノ周期構造を形成した場合、単に細胞の増殖や分化を促進させることが可能となるだけでなく、細胞の増殖に配向性をもたせることも可能となることが判明している(日本歯科医学会 平成29年8月31日 第33回「歯科医学を中心とした総合的な研究を推進する集い」での発表 「チタン表面の規格化ナノ構造形成による周辺細胞制御技術とこれを応用した次世代インプラントの開発」参照。)。
【0047】
例えば、基材表面への規格化ナノ構造(ナノ周期構造)形成により、当該基材表面で骨髄間質細胞を培養した場合、溝が連続する方向に沿って骨髄間質細胞を増殖させることが可能であることが、本発明の発明者らがおこなった実験により確認できている。
【0048】
なお、固体表面における細胞の増殖に配向性をもたせることで、当該固体(人工物)と生体内の組織(特に骨)との間の細胞接着及び結合が強固となるという効果や、細胞の増殖及び分化を再現性が取れる形で制御することが可能となるという効果が得られると考えられ、それらを支持する実験結果も出つつある。
【0049】
ナノスケールの構造が細胞に影響を与える具体的な原理については、未だ詳細には判明していない。しかしながら、ナノスケールの凹凸構造が細胞の増殖等を促進可能であること、及び、ナノ周期構造により細胞増殖の配向性を制御可能であることについては、上記のような実験結果等から支持されている。上記[8]に係る本発明は上記の研究結果を発展応用したものである。
【0050】
本明細書においては、「損傷箇所に対応する箇所」とは、骨治療シートの使用時において損傷した骨(治療を想定する骨)の損傷箇所に接触させるべき箇所のことをいう。
【0051】
本明細書においては、「周期性を有する」とは、一定の間隔で同じ構造が繰り返すことをいう。また、本明細書においては、「ナノスケール」とは、ナノメートル単位であらわすことが適切な大きさ(1nm~1000nm程度の大きさ)のことをいう。また、本明細書においては、「ナノスケールの凹凸構造」とは、凹凸の幅、高さ、径等、当該構造の基本単位のいずれかが1nm~1000nmの範囲内にあることをいう。このため、本明細書における「ナノ周期構造」とは、ナノスケールの凹凸構造の凹凸等の周期が1nm~1000nmの範囲内のナノスケールの周期的な構造であることをいう。
【0052】
なお、ナノ周期構造は、凹凸の幅、高さ、径が20nm~600nmの範囲内にあり、周期が20nm~600nmの範囲内にあることが好ましい。また、凹凸の幅、高さ、径が50nm~500nmの範囲内にあり、周期が50nm~500nmの範囲内にあることが一層好ましい。また、凹凸の幅、高さ、径が80nm~300nmの範囲内にあり、周期が80nm~300nmの範囲内にあることがより一層好ましい。さらに、凹凸の幅、高さ、径が100nm~200nmの範囲内にあり、周期が100nm~200nmの範囲内にあることがさらに一層好ましい。
【0053】
なお、本発明の骨治療シートは、それぞれ独立した複数の箇所にナノ周期構造を有していてもよい。また、本発明の骨治療シートは、複数種類のナノ周期構造を有していてもよい。さらに、本発明の骨治療シートは、ナノ周期構造の他に周期性を有しないナノスケールの凹凸構造を有していてもよい。周期性を有しないナノスケールの凹凸構造の例としては、ランダムに配置された点状の凹凸構造を挙げることができる。
【0054】
本発明の骨治療シートにおいては、前記ナノ周期構造は、互いに接触しない複数の帯状凹部又は複数の帯状凸部からなることが好ましい。
【0055】
このような構成とすることにより、細胞の増殖や分化が帯状凹部や帯状凸部に沿って発生するように制御することが可能となるため、治癒の方向性を制御することが可能となる。
【0056】
本明細書においては、「帯状凹部」とは、平面視したときに枝分かれせず連続する凹部のことをいう。帯状凹部は、溝状の構造と表現することもできる。また、本明細書においては、「帯状凸部」とは、平面視したときに枝分かれせず連続する凸部のことをいう。帯状凸部は、畝状の構造と表現することもできる。なお、ある構造が凹部からなるか凸部からなるかは、主に基準の高さをどのように設定するかの問題である。このため、実際には、ナノ周期構造が複数の帯状凹部からなるといえると同時に複数の帯状凸部からなるともいえる場合もある(後述する実施形態11参照。)。
【0057】
本明細書においては、「互いに接触しない」とは、複数の帯状凹部に関しては帯状凹部同士が交差したり合流したりしないことをいい、複数の帯状凸部に関しては帯状凸部同士が交差したり合流したりしないことをいう。上記の場合においては、ナノ周期構造は、平面視したときに縞状にみえる構造となることが多い(後述する
図16(c)参照。)。
【0058】
本発明の骨治療シートにおいては、前記ナノ周期構造が形成されている位置を表示する注意表示が付されていることが好ましい。
【0059】
このような構成とすることにより、ナノ周期構造が形成されている位置の把握が容易となるため、使用時における配置ミスを抑制することが可能となる。
【0060】
位置を表示する注意表示の例としては、色、模様、図形、文字、立体的形状等によりナノ周期構造が形成されている位置を明確化することを挙げることができる。注意表示はナノ周期構造が形成されている箇所に付されていてもよいし、ナノ周期構造が形成されていない箇所に付されていてもよい。また、注意表示はナノ周期構造が形成されている箇所又はナノ周期構造が形成されていない箇所の全てに付されていてもよいし、一部のみに付されていてもよい。
【0061】
本発明の骨治療シートにおいては、前記骨治療シートの主要形状を構成する主構造がステンレス鋼からなることが好ましい。
【0062】
このような骨治療シートは、生体内で使用できる他の材料からなる骨治療シートと比較して強度とコストとのバランスに優れ、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0063】
本明細書における「主構造」とは、骨治療シートの主要形状(シート状の形状)を構成する構造のことをいう。「主要形状を構成する主構造」とは、主要形状を構成する主な構造のことをいう。骨治療シートにおける主構造は、骨治療シートの機械的強度を担う構造であるともいえる。ステンレス鋼としては、例として医療用(低ニッケル)のSUS316系ステンレス鋼を挙げることができる。
【0064】
本発明の骨治療シートにおいては、前記骨治療シートの主要形状を構成する主構造がマグネシウム又はマグネシウム合金からなることも好ましい。
【0065】
マグネシウム及びマグネシウム合金には、人体内で分解・吸収されやすいという性質を有するものがある。このため、上記のような骨治療シートは、十分な初期強度を有し、生体により分解・吸収されることが期待でき、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0066】
マグネシウム合金はマグネシウムとマグネシウム以外の元素との合金である。本発明において好適に使用できると考えられるマグネシウム合金としては、Mg-Ca-Zn系合金を例示することができる。
【0067】
本発明の骨治療シートにおいては、前記骨治療シートの主要形状を構成する主構造がチタン又はチタン合金からなることも好ましい。
【0068】
このような骨治療シートは、高い強度を有しつつ毒性が低い性質も有し、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0069】
本発明の骨治療シートにおいては、骨治療シートの主要形状を構成する主構造がコラーゲンを主成分とする非金属材料からなることも好ましい。
【0070】
このような骨治療シートは、生体により速やかに分解・吸収されることが期待でき、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0071】
本明細書においては、構成材料における「主成分」とは、当該構成材料を構成する成分
のうち、最も質量の割合が大きい成分のことをいう。ただし、構成材料の主成分がどの成分なのか決定するときには、当該構成材料の成分のうち水分は除外して評価する。
【0072】
本明細書においては、「非金属材料」とは、主成分として金属の性質を有する物質を含有しない材料のことをいう。このため、上記非金属材料は、金属元素を含む成分を含有していてもよい。
【0073】
コラーゲンの主成分としては、例えば、I型コラーゲン分子、II型コラーゲン分子を用いることができる。また、例えば、V型、XI型、IX型、XII型、XIV型コラーゲン分子を用いることもできる。上記[20]に記載の非金属材料は、可能な限り意図しない不純物(重金属等)を含有しないことが好ましい。また、上記非金属材料は、骨の治癒の促進等に資する成分等を含有していてもよい。
【0074】
なお、骨治療シートの主構造がコラーゲンを主成分とする非金属材料からなる場合には、骨と接触させるときに骨治療シートの表面にナノ周期構造が形成されていればよい。
【0075】
本発明の骨治療シートにおいては、前記骨治療シートの主要形状を構成する主構造がアガロース又はセルロースを主成分とする非金属材料からなることも好ましい。
【0076】
このような構成とすることにより、天然に存在し生体に対する害がない材料からなり、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0077】
アガロース及びセルロースとしては、一般的に市販されているものを用いることができる。上記に記載の非金属材料は、可能な限り意図しない不純物(重金属等)を含有しないことが好ましい。また、上記非金属材料は、骨の治癒の促進等に資する成分等を含有していてもよい。
【0078】
なお、骨治療シートの主構造がアガロース又はセルロースを主成分とする非金属材料からなる場合には、骨と接触させるときに骨治療シートの表面にナノ周期構造が形成されていればよい。
【0079】
[9]本発明の骨治療シートにおいては、前記主構造の少なくとも一部を覆う被覆膜をさらに備えることが好ましい。
【0080】
このような構成とすることにより、主構造のみでは得ることが難しい性質(例えば、優れた強度、高い生体親和性、製造の容易さ、低い製造コスト等の優れた性質を高いレベルであわせ持つという性質)を有する骨治療シートとすることが可能となる。
【0081】
なお、骨治療シートが主構造及び被覆膜を備える場合には、ナノ周期構造は、主構造の表面のみ又は被覆膜の表面のみに形成されていてもよいし、主構造と被覆膜との両方の表面に形成されていてもよい。また、被覆膜が液状又はゲル状の物質からなる場合や水溶性又は生分解性が高い物質からなる場合のように、被覆膜が生体内において主構造から速やかに離脱する材質からなる場合には、骨治療シートの使用前(保存時)においては、ナノ周期構造が被覆膜の下に埋まっていてもよい。被覆膜を構成する材質の例としては、金属、非金属性無機物質(セラミック等。特に、ハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウムからなるもの。)、コラーゲン、アガロース、セルロース及び合成高分子物質並びにこれらを組み合わせた複合材料を挙げることができる。
【0082】
被覆膜の材料としての合成高分子物質としては、セルロース乳酸ポリマー、乳酸-グリコール酸ポリマー、ラクトン系ポリマー、ジオキサノン系ポリマー及びポリエチレングリコール系ポリマーを好適に用いることができる。特に、乳酸ポリマー、乳酸-グリコール酸ポリマー、ラクトン系ポリマー、ジオキサノン系ポリマー及びポリエチレングリコール系ポリマーは高い生分解性を有するため、骨治療シートの生分解性を高くしたい場合には特に好適に用いることができる。
【0083】
本発明の骨治療シートにおいては、厚さが0.05μm~500μmの範囲内にあることが好ましい。
【0084】
このような構成とすることにより、強度を十分に確保することが可能となり、かつ、曲げやすさを十分に確保することも可能となる。なお、骨治療シートの厚さは、0.08μm~100μmの範囲内にあることが一層好ましく、0.1μm~50μmの範囲内にあることがより一層好ましいと考えられる。
【0085】
本発明の骨治療シートにおいては、前記ナノ周期構造は、前記損傷箇所の外面に配置されたときに前記損傷箇所と交差する凹部又は凸部を含むことが好ましい。
【0086】
このような構成とすることにより、骨の損傷箇所を埋めるように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨の損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0087】
本明細書においては、凹部又は凸部について「損傷箇所と交差する」とは、凹部又は凸部が骨の損傷箇所をまたぐようになることをいう。
【0088】
なお、「損傷箇所の外面に配置されたときに損傷箇所と交差する凹部又は凸部」には、帯状凹部及び帯状凸部が含まれ得る。ただし、損傷箇所の外面に配置されたときに損傷箇所と交差する凹部や凸部は、損傷箇所の外面に配置されたとき骨の損傷箇所と交差するならば、互いに交差したり合流したりしていてもよい。
【0089】
[10]本発明の骨治療シートにおいては、貫通孔である開口部が形成されていることが好ましい。
【0090】
このような構成とすることにより、骨の治癒に有用な物質を含有する体液等が骨の損傷箇所に到達しやすくなるため、骨の治癒を一層促進させることが可能となる。
【0091】
「貫通孔である開口部」の形状、大きさ、形成位置、形成数については、骨治療シートを用いる対象となる骨の形状や損傷の様子等に応じて適宜決定することができる。例えば、骨の損傷箇所に顆粒状の骨補填材を含有する充填材を用いる場合には、骨補填材が開口部からこぼれだすことを抑制することができる程度の形状及び大きさの開口部が形成された骨治療シートを用いることが好ましい。
【0092】
本発明の骨治療シートにおいては、前記損傷した骨に前記骨治療シートを固定するための固定構造を有することが好ましい。
【0093】
このような構成とすることにより、骨治療シートを固定するための部材を別途準備する必要がなくなり、骨治療シートを骨に固定するときの手間を軽減することが可能となる。
【0094】
本発明の骨治療シートにおいては、前記固定構造は、前記骨治療シートのいずれかの箇所から延出する延出部と、前記延出部を通過させることができる固定用孔とを含む構造であることが好ましい。
【0095】
このような構成とすることにより、骨治療シートの重要部分(ナノ周期構造が形成されている部分)と一体として成形することが可能な程度の簡易な構造で、骨治療シートを骨に巻きつけるようにして配置するときに使用できる固定構造を構成することが可能となる。
【0096】
本発明の骨治療シートにおいては、前記固定用孔は、前記延出部の延出方向に沿って複数形成されていることが好ましい。
【0097】
このような構成とすることにより、さまざまな太さの骨に対応することが可能となる。
【0098】
[11]本発明の動物の骨の治療方法は、上記のいずれかに記載の骨治療シートを準備する準備工程と、前記骨治療シートを、損傷した骨における損傷箇所の少なくとも一部を覆うように、前記損傷した骨の表面に配置する配置工程とを含むことを特徴とする。
【0099】
このような方法とすることにより、従来の動物の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0100】
なお、本明細書における「動物の骨の治療方法」は、「人間の骨の治療方法」を含まないものとする。ただし、本発明の動物の骨の治療方法は本質的には骨の治療方法であるため、本発明の動物の骨の治療方法と実質的に同様の方法を人間の骨の治療方法に応用することも可能である。
【0101】
[12]本発明の動物の骨の治療方法においては、前記準備工程においては、上記[2]~[6]のいずれかに記載の骨治療シートを準備し、前記配置工程においては、骨治癒促進物質を保持している前記骨治療シートを、前記損傷した骨における損傷箇所の少なくとも一部を覆うように、前記損傷した骨の表面に配置することが好ましい。
【0102】
上記[12]の動物の骨の治療方法は、上記[2]~[6]のいずれかに記載の骨治療シートを用いるため、従来のシートを用いる動物の骨の治療方法と比較して、骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0103】
[13]本発明の動物の骨の治療方法においては、前記配置工程においては、前記損傷箇所の内部に前記骨治療シートにおける保持部の一部を侵入させることが好ましい。
【0104】
このような方法とすることにより、保持部に保持された状態の骨治癒促進物質を損傷箇所の内部に導入することが可能となる。
【0105】
損傷箇所の内部に保持部の少なくとも一部を侵入させる方法は、発明の効果を損なわない限りにおいて、任意の方法を用いることができる。例えば、骨治療シート自体に柔軟性がある場合には、適度な張力をかけた状態で骨治療シートを骨に配置する(例えば、巻きつける)だけでも、損傷箇所の内部に保持部を侵入させることができる。また、骨治療シートを骨に配置した後、骨治療シートが損傷箇所を覆っている部分に外部から力をかける(例えば、押圧する、又は、ワイヤーや糸を巻きつける)ようにすれば、損傷箇所の内部に保持部を確実に侵入させることが可能となる。また、上記[5]に記載したような損傷箇所に対応する構造(例えば、突出部)を有する骨治療シートを用いる場合には、骨治療シートを適切な位置に配置するだけで損傷箇所の内部に保持部を侵入させることができる。
【0106】
[14]本発明の動物の骨の治療方法においては、前記配置工程の後に、固定具を用いて、損傷した骨に前記骨治療シートを固定する固定工程をさらに含むことが好ましい。
【0107】
このような方法とすることにより、骨治療シートと骨との密着性を高くすることが可能となる。また、上記のような方法とすることにより、骨治療シートの位置ずれや剥離を抑制することが可能となる。さらに、上記のような方法とすることにより、治癒途中の骨の強度を高くすることが可能となる。
【0108】
本発明の動物の骨の治療方法における固定具としては、骨折等の治療のために骨に取り付けて用いる骨固定具の類を広く用いることができる。固定具の具体例としては、ネジ(スクリュー)、ピン、ワイヤー、ステープル及びプレートを挙げることができる。
【0109】
本発明における固定具は、骨治癒後も体内に残置するものであってもよいし、骨が治癒した後に体内から除去するものであってもよい。また、骨治癒後において、骨治療シートは体内に残置し、固定具は体内から除去することとしてもよい。
【0110】
[15]本発明の動物の骨の治療方法においては、前記準備工程においては、上記[11]~[13]のいずれかに記載の骨治療シートを準備し、前記配置工程においては、前記骨治療シートのナノ周期構造が前記損傷した骨と接触するように前記骨治療シートを前記損傷した骨の表面に配置することが好ましい。
【0111】
上記[15]の動物の骨の治療方法は、上記[11]~[13]のいずれかに記載の骨治療シートを用いるため、従来の動物の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0112】
[16]本発明の動物の骨の治療方法においては、前記損傷した骨は、欠損が生じた骨であり、前記準備工程と前記配置工程との間に、前記欠損が生じた部分に充填材を充填する充填工程をさらに含み、前記配置工程においては、前記充填材が充填された部分の少なくとも一部を覆うように前記骨治療シートを配置することが好ましい。
【0113】
このような方法とすることにより、充填材を構成する物質、特に顆粒状の骨補填材のこぼれだしを抑制することが可能となる。また、上記のような方法とすることにより、骨治療シートの表面でも細胞の増殖や分化を促進し、欠損が生じた部分の外側からも骨の治癒を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【
図1】実施形態1に係る骨治療シート1を説明するために示す図。
【
図2】治療対象の骨(損傷した骨B1)を説明するために示す図。
【
図3】実施形態1に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図4】実施形態2に係る骨治療シート1a及び骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図5】実施形態3に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図6】治療対象の骨(損傷した骨B2)を説明するために示す図。
【
図7】実施形態4に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図8】実施形態5に係る骨治療シート2及び骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図9】実施形態6に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図10】実施形態7に係る骨治療シート3及び骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図11】実施形態8に係る骨治療シート4を説明するために示す図。
【
図12】実施形態8に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図13】実施形態9に係る骨治療シート5を説明するために示す図。
【
図14】実施形態9に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図15】実施形態10に係る骨治療シート7,8,7aの断面図。
【
図16】実施形態11に係る骨治療シート201を説明するために示す図。
【
図17】実施形態11に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図18】実施形態12に係る骨の治療方法を説明するために示す図。
【
図19】実施形態13に係る骨治療シート202を説明するために示す図。
【
図20】実施形態13に係る骨治療シート202を骨Bに固定した状態を示す図。
【
図21】実施形態14に係る骨治療シート203を説明するために示す図。
【
図22】実施形態14に係る骨治療シート203を骨Bに固定した状態を示す図。
【
図23】実施形態15に係る骨治療シート201aを説明するために示す図。
【
図24】実施形態15に係る骨治療シート201aを骨Bに固定した状態を示す図。
【
図25】実施形態16に係る骨治療シート(全体を図示せず。)における主構造210及び被覆膜211を示す図。
【
図26】実施形態17に係る骨治療シート6を説明するために示す図。
【
図27】変形例1に係る骨治療シート202aの平面図。
【
図28】変形例2に係る骨治療シート4a,4bの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0115】
以下、本発明の骨治療シート及び骨の治療方法(動物の骨の治療方法)について、図に示す各実施形態に基づいて説明する。各図面は模式図であり、必ずしも実際の構造や構成を厳密に反映するものではない。以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。以下の説明においては、実質的に同等とみなせる構成要素に関しては実施形態をまたいで同じ符号を用い、再度の説明を省略する場合がある。
【0116】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る骨治療シート1を説明するために示す図である。
図1(a)は骨治療シート1の平面図であり、
図1(b)は
図1(a)のA1-A1断面図であり、
図1(c)は
図1(a)のM1で示す部分を拡大して示す図であり、
図1(d)は
図1(b)のM2で示す部分を拡大して示す図である。
図1(c)においては、細孔P1については1つのみに符号を表示し、他の細孔P1への符号の表示を省略している。
図1(d)においては、細孔P2については1つのみに符号を表示し、他の細孔P2への符号の表示を省略している。なお、
図1(c)及び
図1(d)においては、図面をわかりやすくするため、ナノスケールの凹凸構造が壁面に形成されている細孔についてP1という符号を付し、ナノスケールの凹凸構造自体の図示は省略している。
図2は、治療対象の骨(損傷した骨B1)を説明するために示す図である。
図2(a)は損傷した骨B1の平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA2-A2断面図である。
図3は、実施形態1に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図3(a)は配置工程(後述)を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図3(b)は
図3(a)の断面図(
図2(a)に相当する断面図)である。
図3(a)においては、損傷箇所D1の位置等をわかりやすくするため、骨治療シート1の断面、骨B1の輪郭及び損傷箇所D1を破線で表示している。なお、後述する各図面においても、必要に応じて骨治療シート、骨の輪郭及び損傷箇所を破線で表示している。
【0117】
実施形態1に係る骨治療シート1は、損傷した骨B1の損傷箇所D1を覆うように配置することで骨B1の治療に用いるための骨治療シートである(
図3参照。)。骨治療シート1は、シート状の形状からなる主構造10及び骨治癒促進物質を保持する保持部11を有する(
図1参照。)。保持部11は、損傷した骨B1の損傷箇所D1に対応する位置に存在する。骨治療シート1における保持部11は、主構造10の片面全面に配置されている(
図1(b)参照。)。骨治療シート1は、生分解性を有することが好ましい。
【0118】
本明細書の各実施形態においては、1つの骨治療シートの説明における「損傷した骨」と「治療対象の骨」とは同一であり、これらの骨には同じ符号(実施形態1であればB1という符号)を付して説明及び図示をおこなう。なお、各図面に記載した骨及び損傷の形状は模式図であり、これらは本発明の骨治療シート及び治療方法を適用する対象となる骨及び損傷を限定するものではない。なお、後述する治療方法の説明においては、損傷した骨B1(治療対象の骨)が動物の骨であるものとして説明するが、実施形態1に係る骨治療シート1は、人間の骨の治療方法に用いることも可能であるし、動物の骨の治療方法に用いることも可能である。後述する各実施形態において説明する各骨治療シートについても同様である。
【0119】
まず、保持部11について説明する。保持部11は、骨治癒促進物質を収容可能な多孔質構造を有する。保持部11としては、例えば、スポンジ状の構造からなるものを好適に用いることができる。保持部11の材料としては、例えば、コラーゲンや、コラーゲンと非金属性無機物質(生体適合性を有するセラミック)との複合材料を主成分とする、生分解性のものを好適に用いることができる。保持部11は、スポンジ状のコラーゲンや、多孔質構造のコラーゲン・非金属性無機物質複合体からなることが好ましい。
【0120】
保持部11を構成するコラーゲンとしては、例えば、I型コラーゲン分子、II型コラーゲン分子が主成分であるものを用いることができる。また、例えば、V型、XI型、IX型、XII型、XIV型コラーゲン分子を用いることもできる。なお、後述する保持部以外の構成要素においても、材料としてコラーゲンを用いることができる場合には、基本的には上記のコラーゲンを好適に用いることができる。
【0121】
生体適合性を有する非金属性無機物質としては、ハイドロキシアパタイト及びリン酸カルシウム類(リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム等のカルシウムイオンとリン酸イオン又は二リン酸イオンとの塩)を例示することができる。後述する保持部以外の構成要素においても、材料として非金属性無機物質を用いることができる場合には、上記のハイドロキシアパタイト及びリン酸カルシウム類を好適に用いることができる。
【0122】
保持部11は、骨治癒の足場となる足場材を含有することが好ましい。この場合、保持部11は、全体が足場材を兼ねる材料から構成されていてもよいし、保持部としての必須材料と足場材との混合物から構成されていてもよい。足場材としては、生体適合性を有する非金属性無機物質(例えば、ヒドロキシアパタイトやリン酸カルシウム類)や非金属性無機物質とコラーゲン等の有機物との複合材料からなる粒子、粉末、多孔質体を好適に用いることができる。
【0123】
なお、保持部11は、単なる凹凸構造のようなものにより、その表面に骨治癒促進物質を収容するものであってもよい。このような凹凸構造は、切削等による表面加工の他、例えば、表面のエッチング(例えば、プラズマエッチング)によって形成することもできる。
【0124】
骨治療シート1においては、保持部11が骨治癒促進物質を保持していることが好ましい。保持部11が骨治癒促進物質を保持していない場合には、使用前に、保持部11に骨治癒促進物質を保持させる必要がある。
【0125】
骨治療シート1においては、保持部11が、骨治癒促進物質として、骨形成因子類、多血小板血漿類及び血管増加因子類のうち少なくとも1つを保持していることが好ましい。保持部11は、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma)を保持していることが一層好ましい。この場合、治療を受ける対象の血液から得た多血小板血漿を用いることが好ましい。なお、保持部11は、骨治癒促進物質以外の成分(溶媒や添加物等)も保持していてもよい。
【0126】
骨形成因子類の具体例としては、骨形成タンパク質-2(BMP-2)、骨形成タンパク質-4(BMP-4)、骨形成タンパク質-6(BMP-6)、骨形成タンパク質-7(BMP-7)、形質転換成長因子ベータ(TGF-β)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF-1)及びオステオカルシンを挙げることができる。
【0127】
多血小板血漿類の具体例としては、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma、PRP)、PRGF(Plasma Rich in Growth Factors)、PRF(Platelet-Rich Fibrin)、A-PRF(Advanced Platelet-Rich Fibrin)及びCGF(Concentrated Growth Factors)を挙げることができる。骨治療シート1においては、保持部11が、多血小板血漿(platelet-rich plasma)を保持していることが好ましい。
【0128】
血管増加因子類の具体例としては、Bartonella angiogenic factor A(BafA)を挙げることができる。BafAとは、バルトネラ属に分類される病原菌(バルトネラ・ヘンセレ及びバルトネラ・クインタナ)から発見された、血管増加因子(血管新生因子)である。
【0129】
骨治療シート1においては、保持部11における細孔P1の壁面の少なくとも一部には、ナノスケールの凹凸構造が形成されている。ナノスケールの凹凸構造が壁面に形成されている細孔P1は、保持部11の表面に開口している細孔である。こういった細孔は表面に露出しているため、その壁面にナノスケールの凹凸構造を後から形成するのは比較的容易である。なお、
図1(d)において符号P2で示すような、保持部11の表面に直接は開口していない細孔においても、壁面にナノスケールの凹凸構造が形成されていることが好ましい。
【0130】
細孔P1の壁面におけるナノスケールの凹凸構造は、例えば、適当な表面処理(例えば、プラズマエッチング)により形成することができる。また、ナノスケールの凹凸構造は、保持部を形成する際の条件(例えば、使用する溶媒の種類や熱処理条件)により形成することもできると考えられる。
例えば、プラズマエッチングを含む等方性のエッチング加工方法で処理することで、細孔の深さ方向(プラズマエッチングであれば、プラズマの照射方向)のみならず、細孔の側方(照射方向以外の方向)もエッチングすることが可能となり、細孔の側方側の壁面にも容易にナノスケールの凹凸構造を形成することができる。
【0131】
次に、主構造10について説明する。なお、主構造は骨治癒促進物質を保持可能であってもよい。
【0132】
骨治療シート1における主構造10は、全体が単一の材料からなるものであってもよいし、複数の材料からなるものであってもよい。全体が単一の材料からなる主構造としては、単層の薄膜からなるものを例示することができる。複数の材料からなる主構造としては、多層構造のものや、複数種類の粉末状物質が混合された状態で固定されているもの(例えば、粉末をバインダーで固めたもの)を例示することができる。
【0133】
主構造10としては、生体内で使用できる材料からなるものであれば、用途等にあわせて任意の材料からなるものを用いることができる。主構造10の材料としては、例えば、生体適合性を有する高分子物質又は非金属性無機物質を主成分とする材料を用いることができる。この場合、主構造10は、生分解性を有するものであることが一層好ましい。生体適合性を有する高分子物質としては、コラーゲン、ポリ乳酸、アガロース及びセルロースを例示することができる。また、主構造10の材料としては、高分子物質と非金属性無機物質との複合材料(例えば、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンとの複合体からなる人工骨材料)を用いることもできる。
【0134】
また、主構造10の材料としては、金属を主成分とする材料を用いることもできる。金属としては、例えば、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金及び医療用のステンレス鋼を好適に用いることができる。
【0135】
マグネシウム及びマグネシウム合金は人体内で分解・吸収されやすいため、主構造10をマグネシウム又はマグネシウム合金からなるものとすることで、骨治療シート1の生分解性を高くすることができる。本発明において好適に使用できると考えられるマグネシウム合金としては、Mg-Ca-Zn系合金を例示することができる。
【0136】
チタン及びチタン合金には高い強度及び低毒性、ステンレス鋼には高い強度及び低コストという特徴がある。本発明において好適に使用できると考えられるステンレス鋼としては、低ニッケルのSUS316系ステンレス鋼を例示することができる。
【0137】
なお、主構造10の表面には、被覆膜(図示せず。)が形成されていてもよい。このような構成とすることにより、主構造10のみでは得ることが難しい性質(例えば、優れた強度、高い生体親和性、製造の容易さ、低い製造コスト等の優れた性質を高いレベルであわせ持つという性質)を得ることが可能となる。また、被覆膜を用いることで、生体適合性が高くない金属であっても、骨治療シートの主構造の構成材料として用いることができる可能性がある。被覆膜の材料としては、金属、非金属性無機物質(特に、ハイドロキシアパタイト及びリン酸カルシウム類)、コラーゲン、アガロース、セルロース及び合成高分子物質並びにこれらを組み合わせた複合材料を例示することができる。被覆膜の材料としての合成高分子物質としては、セルロース乳酸ポリマー、乳酸-グリコール酸ポリマー、ラクトン系ポリマー、ジオキサノン系ポリマー及びポリエチレングリコール系ポリマーを好適に用いることができる。特に、乳酸ポリマー、乳酸-グリコール酸ポリマー、ラクトン系ポリマー、ジオキサノン系ポリマー及びポリエチレングリコール系ポリマーは高い生分解性を有するため、骨治療シート1の生分解性を高くしたい場合には特に好適に用いることができる。
【0138】
骨治療シート1においては、保持部11の位置を表示する注意表示が付されている。骨治療シート1における注意表示は色(例えば、塗料による色分け)によりなされており、具体的には、保持部11が存在する位置と保持部11が存在しない位置とでは色が異なっている。骨治療シート1においては、主構造10の片面全体に保持部11が存在するため、表裏が異なる色となっている。
【0139】
なお、注意表示は、色の他に、模様、図形、文字、立体的形状等であってもよい。注意表示は保持部が存在する位置に付されていてもよいし、逆に保持部が存在しない位置に付されていてもよい。また、注意表示は保持部が存在する位置又は保持部が存在しない位置の全部に付されていてもよいし、一部のみに付されていてもよい。
【0140】
骨治療シート1の厚さは、治療対象の大きさにもよるが、例えば、0.05μm~50mmの範囲内とすることができる。骨治療シート1の厚さは、0.08μm~5mmの範囲内にあることが一層好ましく、0.1μm~3mmの範囲内にあることがより一層好ましい。なお、骨治療シート1の主構造10が金属からなる場合には、骨治療シート1の厚さが100μm以下であることが好ましい。
【0141】
次に、実施形態1に係る骨の治療方法について説明する。実施形態1に係る動物の骨の治療方法は、実施形態1に係る骨治療シート1(
図1参照。)を準備する準備工程と、骨治癒促進物質を保持している骨治療シート1を、損傷した骨B1における損傷箇所D1の少なくとも一部を覆うように、損傷した骨B1の表面に配置する配置工程(
図3参照。)とを含む。なお、準備工程については、既に説明した骨治療シート1を準備する(例えば、購入又は製造したものを使用可能な状態(例えば、保持部に骨治癒促進物質が保持されており、すぐに使用できる状態)として手元に置く)工程であるため、詳しい説明及び図示は省略する。
【0142】
実施形態1における損傷した骨B1は骨折した骨であり、損傷箇所D1は骨折による破断箇所である(
図2参照。)。なお、骨B1は、皮質骨Ba及び海綿骨Bbを有する(
図2(b)参照。)。
【0143】
配置工程においては、骨治療シート1を損傷した骨B1の表面に巻きつける。骨治療シート1の配置にあたっては、必要に応じて固定具(後述)や、生体接着剤のような介在物を用いてもよい。
【0144】
以下、実施形態1に係る骨治療シート1及び動物の骨の治療方法の効果を記載する。
【0145】
実施形態1に係る骨治療シート1によれば、ナノスケールの凹凸構造が細胞の増殖や分化に影響を与えるため、従来のシート(ナノスケールの構造が形成されていないシート)と比較して骨の治癒を促進させることが可能となる。
【0146】
実施形態1に係る骨治療シート1によれば、骨の治癒を促進する生理活性物質である骨治癒促進物質を保持する保持部11を有するため、保持部11で保持した骨治癒促進物質が骨B1の損傷箇所D1に接触又は侵入するように使用することで、細胞(特に、骨や骨の周囲の血管のもととなる細胞)の増殖や分化を促進させることが可能となる。このため、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、骨自体の治癒力を高めることが可能となる。また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、細胞の増殖や分化を介して骨治療シート1と骨B1とを早期にかつ強固に固着させることが可能となり、その結果、治癒期間中における損傷した骨の損傷箇所のずれや拡大を抑制することが可能となる。したがって、実施形態1に係る骨治療シート1は、従来のシートと比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0147】
また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、保持部11の構造や物性を適切に設定することで、骨治癒促進物質の放出の具合を調節して骨の治癒を適切に促進させることが可能となる。
【0148】
また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、保持部11は、骨治癒促進物質を収容可能な多孔質構造からなるため、骨治癒促進物質を安定して保持することが可能となる。また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、骨治癒促進物質が液状である場合には、保持部11と骨治癒促進物質とを接触させて保持部11に骨治癒促進物質を吸収させるという簡易な手法により、骨治癒促進物質を保持部11に保持させることが可能となる。
【0149】
また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、多孔質構造に形成されたナノスケールの凹凸構造により、保持部11の内外において細胞の増殖や分化を活性化することが可能となる。
【0150】
なお、細胞の増殖や分化を活性化するという観点、及び、表面積が大きくなるという観点からは、保持部11が生分解性である場合には、多孔質構造とナノスケールの凹凸構造との組み合わせは、保持部11の分解や置換を促進すると考えられる。
【0151】
また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、保持部11が骨治癒の足場となる足場材を含有する場合には、保持部11がそのまま骨の表面構造再建の足場となり、骨の早期治癒及び強度向上を図ることが可能となる。
【0152】
また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、保持部11に骨治癒促進物質が保持されている場合には、骨治癒促進物質を骨治療シート1とは別に準備する手間をかけることなく使用することが可能となる。
【0153】
また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、保持部11が、骨治癒促進物質として、骨形成因子類、多血小板血漿類及び血管増加因子類のうち少なくとも1つ、例えば、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma)を保持している場合には、骨の治癒を一層促進することが可能となる。
【0154】
また、実施形態1に係る骨治療シート1によれば、生分解性を有するため、骨治療シート1を治癒後も生体内に残置することに不都合がある場合であっても、取り出しのための手術等を実施することなく骨治療シート1を吸収させることが可能となる。
【0155】
実施形態1に係る動物の骨の治療方法は、実施形態1に係る骨治療シート1を準備する準備工程と、骨治療シート1を、損傷した骨B1における損傷箇所D1の少なくとも一部を覆うように、損傷した骨B1の表面に配置する配置工程とを含むため(実施形態1に係る骨治療シート1を用いるため)、従来の動物の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0156】
実施形態1に係る動物の骨の治療方法は、実施形態1に係る骨治療シート1を用いるため、従来のシートを用いる動物の骨の治療方法と比較して、骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0157】
なお、本発明の骨治療シートは人間の骨の治療方法に用いることもできるため、実施形態1に係る動物の骨の治療方法と実質的に同様の方法を、人間の骨の治療方法に応用することも可能である。これは、後述する各実施形態においても同様である。
【0158】
[実施形態2]
図4は、実施形態2に係る骨治療シート1a及び骨の治療方法を説明するために示す図である。
図4(a)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図4(b)は
図4(a)の断面図(
図3(b)に相当する断面図)である。
【0159】
実施形態2に係る骨治療シート1aは、基本的には実施形態1に係る骨治療シート1と同様の構成を有するが、実施形態1に係る骨治療シート1よりも小さい。このため、実施形態2に係る動物の骨の治療方法においては、配置工程において骨治療シート1aを骨B1に巻きつけるのではなく、骨B1に乗せるように配置する(
図4参照。)。骨治療シート1aは、もともと骨治療シート1よりも小さいものであってもよいが、骨治療シート1を適切な大きさとなるように切断したものであってもよい。
【0160】
実施形態2に係る骨治療シート1aは、大きさが実施形態1に係る骨治療シート1とは異なるが、保持部11を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、従来のシートと比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態2に係る骨治療シート1aは、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0161】
実施形態2に係る動物の骨の治療方法は、配置工程における骨治療シート1aの配置方法が実施形態1に係る動物の骨の治療方法とは異なるが、実施形態2に係る骨治療シート1aを用いるため、従来のシートを用いる動物の骨の治療方法と比較して、骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0162】
なお、実施形態2で説明した内容以外の点については、実施形態2においても実施形態1で説明した態様がそのまま適用できる。
【0163】
[実施形態3]
図5は、実施形態3に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図5(a)はは固定工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図5(b)は
図5(a)のA3-A3断面図である。なお、
図5(b)においては、骨治療シート1aの位置や向きをわかりやすくするために、固定具100による圧力等を無視して骨治療シート1aを大きく表示している。このため、
図5(b)においては、固定具100と骨B1との間に隙間が生じている。実際に骨の治療方法を実施する場合には、固定具100と骨B1との間に隙間が生じないように骨治療シート1a及び固定具100を配置してもよい。
【0164】
実施形態3に係る動物の骨の治療方法は、基本的には実施形態2に係る動物の骨の治療方法と同様の方法であるが、配置工程の後に固定工程をさらに含む点で実施形態2に係る動物の骨の治療方法とは異なる。なお、実施形態3に係る動物の骨の治療方法における準備工程及び配置工程は、実施形態2に係る動物の骨の治療方法における準備工程及び配置工程と同様の工程であるため、説明は省略する。
【0165】
実施形態3に係る固定工程は、固定具100を用いて、損傷した骨B1に骨治療シート1aを固定する工程である(
図5参照。)。固定具100は、骨固定用のプレートである。固定具100においては、板状の本体部110に取付孔(符号を図示せず)が形成されており、当該取付孔に留め具120(例えば、骨固定用のネジ)を通すことで、骨B1に固定することができる。
【0166】
固定具100は、骨治療シート1aに圧力をかけることで、骨治療シート1aを骨B1に固定する。なお、固定具100によって骨治療シート1aが固定されている位置はあくまで例示である。例えば、実施形態3においては、骨治療シート1aは固定具100の下に隠れているが、固定具100の外側に骨治療シート1aが露出していてもよい。また、骨治療シート1aよりも大きな骨治療シート、例えば、実施形態1に係る骨治療シート1のようなものであっても、固定具100とともに用いることができる。
【0167】
実施形態3に係る動物の骨の治療方法は、配置工程の後に固定工程をさらに含む点で実施形態2に係る動物の骨の治療方法とは異なるが、実施形態2に係る動物の骨の治療方法と同様に骨治療シート1aを用いるため、従来のシートを用いる動物の骨の治療方法と比較して、骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0168】
また、実施形態3に係る動物の骨の治療方法によれば、配置工程の後に、固定具100を用いて損傷した骨B1に骨治療シート1aを固定する固定工程をさらに含むため、骨治療シート1aと骨B1との密着性を高くすることが可能となる。また、実施形態3に係る動物の骨の治療方法によれば、骨治療シート1aの位置ずれや剥離を抑制することが可能となる。さらに、実施形態3に係る動物の骨の治療方法によれば、治癒途中の骨B1の強度を高くすることが可能となる。
【0169】
なお、実施形態3で説明した内容以外の点については、実施形態3においても実施形態1又は2で説明した態様がそのまま適用できる。
【0170】
[実施形態4]
図6は、治療対象の骨(損傷した骨B2)を説明するために示す図(平面図)である。
図7は、実施形態4に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図7(a)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図7(b)は
図7(a)のA4-A4断面図である。
図7(a)においては、骨B2の輪郭、及び損傷箇所D2の他に、充填材Sを破線で表示する。なお、後述する各図面においても、必要に応じて充填材も破線で表示している。
【0171】
実施形態4に係る動物の骨の治療方法は、基本的には実施形態1に係る動物の骨の治療方法と同様の方法であるが、充填材を用いる点で実施形態1に係る動物の骨の治療方法の場合とは異なる。実施形態4における損傷した骨B2は、損傷箇所D2に欠損が生じている骨である(
図6参照。)。実施形態4に係る動物の骨の治療方法は、準備工程と配置工程との間に、損傷箇所D2の内部に充填材Sを充填する充填工程を含む。また、実施形態4における配置工程においては、充填材Sが充填された箇所の少なくとも一部(実施形態4においては全部)を覆うように骨治療シート1を配置する(
図7参照。)。
【0172】
充填材Sは、例えば、顆粒状又はブロック状の骨補填材(骨材)を含むものである。骨補填材を構成する材料としては、自家骨、他家骨、非金属性無機物質(例えば、ハイドロキシアパタイトやリン酸カルシウム類)、高分子物質(例えば、コラーゲン)及び高分子物質と非金属性無機物質との複合材料を例示することができる。また、充填材は、骨補填材の他に添加剤等(例えば、骨治癒促進物質)を含有していてもよい。また、骨補填材の表面には、ナノスケールの凹凸構造やナノ周期構造が形成されていてもよい。
【0173】
充填工程においては、骨治療シート1を損傷箇所D2付近に部分的に巻き付け(例えば、半周ほど巻き付け)、その後充填材Sの充填を実施してもよい。この場合、その後の配置工程において、骨治療シート1を骨B2の周囲に完全に巻き付ける。
【0174】
実施形態4に係る動物の骨の治療方法は、充填材を用いる点で実施形態1に係る動物の骨の治療方法の場合とは異なるが、実施形態1に係る動物の骨の治療方法と同様に骨治療シート1を用いるため、従来の動物の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0175】
また、実施形態4に係る動物の骨の治療方法によれば、充填材Sのこぼれだしを抑制することが可能となる。また、実施形態4に係る動物の骨の治療方法によれば、欠損の外側からも骨の治癒を促進することが可能となる。
【0176】
なお、実施形態4で説明した内容以外の点については、実施形態4においても実施形態1又は2で説明した態様がそのまま適用できる。
【0177】
[実施形態5]
図8は、実施形態5に係る骨治療シート2及び骨の治療方法を説明するために示す図である。
図8(a)は骨治療シート2の断面図(
図1(b)に相当する断面図)であり、
図8(b)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図8(c)は
図8(b)の断面図(
図7(b)に相当する断面図。)である。
【0178】
実施形態5に係る骨治療シート2は、基本的には実施形態1に係る骨治療シート1と同様の構成を有するが、足場材含有部をさらに有する点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なる。骨治療シート2は、主構造10及び保持部11の他に、骨治癒の足場となる足場材を含有する足場材含有部20を有する(
図8参照。)。
【0179】
足場材含有部20は、骨治療シート2の表面に、層状に配置されている。また、足場材含有部20は、保持部11よりも外側(使用時に骨B2の中心に近くなる側)に配置されている(
図8(b),(c)参照。)。足場材含有部20は、骨治癒促進物質を直接的に又は間接的に通過させることができる構造からなることが好ましい。足場材としては、生体適合性を有する非金属性無機物質(例えば、ヒドロキシアパタイトやリン酸カルシウム類)や非金属性無機物質とコラーゲン等の有機物との複合材料からなる粒子、粉末、多孔質体を好適に用いることができる。
【0180】
実施形態5に係る骨治療シート2は、足場材含有部をさらに有する点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なるが、保持部11を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態5に係る骨治療シート2は、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0181】
また、実施形態5に係る骨治療シート2によれば、骨治癒の足場となる足場材を含有する足場材含有部20をさらに有するため、足場材含有部20が骨B2の表面構造再建の足場となり、骨B2の早期治癒及び強度向上を図ることが可能となる。
【0182】
なお、実施形態5で説明した内容以外の点については、実施形態5においても実施形態1、2又は4で説明した態様がそのまま適用できる。
【0183】
[実施形態6]
図9は、実施形態6に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図9は、配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であるともいえる。
【0184】
実施形態6に係る動物の骨の治療方法は、基本的には実施形態4に係る動物の骨の治療方法と同様の方法であるが、配置工程において損傷箇所の内部に骨治療シートにおける保持部の少なくとも一部を侵入させる点で実施形態4に係る動物の骨の治療方法とは異なる。
【0185】
実施形態6に係る骨治療シート1は、実施形態1に係る骨治療シート1と同様のものである。ただし、骨治療シート1は、実施形態6における配置工程(後述)に耐えられる構造を有している必要がある。つまり、実施形態1における保持部11は、少なくとも一部が、損傷した骨B2に配置したときに損傷箇所D2の内部に侵入可能に構成されている。
このため、配置時における破断等を避けるため、実施形態6における保持部11は、十分な柔軟性又は流動性を有する材料からなることが好ましい。上記のような観点からも、保持部11は、スポンジ状のコラーゲンや、多孔質構造のコラーゲン・非金属性無機物質複合体からなることが好ましい。
【0186】
実施形態6に係る動物の骨の治療方法における配置工程においては、例えば、骨治療シート1を骨B2に巻きつけた後、骨治療シート1が損傷箇所D2を覆っている部分を外部から押圧することで、損傷箇所の内部に保持部を侵入させることができる。また、骨治療シート1が損傷箇所D2を覆っている部分にワイヤーや糸(図示せず。)を巻きつける等して内向きの圧力をかけることによっても、損傷箇所の内部に保持部を侵入させることができる。
【0187】
実施形態6に係る骨治療シート1は、保持部11を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態6に係る骨治療シート1は、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0188】
また、実施形態6に係る骨治療シート1によれば、保持部11は、少なくとも一部が、損傷した骨B2に配置したときに損傷箇所D2の内部に侵入可能に構成されているため、保持部11に保持された状態の骨治癒促進物質を損傷箇所D2の内部に導入することが可能となる。
【0189】
実施形態6に係る動物の骨の治療方法は、配置工程において損傷箇所の内部に骨治療シートにおける保持部の少なくとも一部を侵入させる点で実施形態4に係る動物の骨の治療方法の場合とは異なるが、実施形態4に係る動物の骨の治療方法と同様に骨治療シート1を用いるため、従来の動物の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0190】
また、実施形態6に係る動物の骨の治療方法によれば、配置工程においては、損傷箇所D2の内部に骨治療シート1における保持部11の一部を侵入させるため、保持部11に保持された状態の骨治癒促進物質を損傷箇所D2の内部に導入することが可能となる。
【0191】
なお、実施形態6で説明した内容以外の点については、実施形態6においても実施形態1、2又は4で説明した態様がそのまま適用できる。
【0192】
[実施形態7]
図10は、実施形態7に係る骨治療シート3及び骨の治療方法を説明するために示す図である。
図10(a)は骨治療シート3の平面図であり、
図10(b)は
図10(a)のA5-A5断面図であり、
図10(c)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図である。
【0193】
実施形態7に係る骨治療シート3は、基本的には実施形態1に係る骨治療シート1と同様の構成を有するが、保持部が突出部を有する点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なる。骨治療シート3における保持部31は、損傷箇所D2に対応する突出部32を有する(
図10(a)及び
図10(b)参照。)。突出部32は、保持部31が局所的に厚くなっている部分ということもできる。保持部31は、突出部32を有すること以外については、実施形態1における保持部11と同様の構成を有する。
【0194】
また、実施形態7に係る動物の骨の治療方法は、基本的には実施形態4に係る動物の骨の治療方法と同様の方法であるが、配置工程において損傷箇所の内部に骨治療シートにおける保持部の少なくとも一部を侵入させる点で実施形態4に係る動物の骨の治療方法とは異なる。
【0195】
実施形態7に係る動物の骨の治療方法における配置工程においては、骨治療シート3の突出部32が損傷箇所D2に入り込むように、骨治療シート3を骨B2に巻きつける。なお、骨治療シート3には突出部32が存在するため、実施形態7における配置工程においては、押圧やワイヤー等の巻き付けは必須とはならない。
【0196】
実施形態7に係る骨治療シート3は、保持部が突出部を有する点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なるが、保持部31を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態7に係る骨治療シート1は、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0197】
また、実施形態7に係る骨治療シート3によれば、保持部31は、少なくとも一部が、損傷した骨B2に配置したときに損傷箇所D2の内部に侵入可能に構成されているため、保持部31に保持された状態の骨治癒促進物質を損傷箇所D2の内部に導入することが可能となる。
【0198】
また、実施形態7に係る骨治療シート1によれば、保持部31は、損傷箇所D2に対応する突出部32を有するため、保持部31に保持された状態の骨治癒促進物質を損傷箇所D2の内部に導入しやすくすることが可能となる。
【0199】
実施形態7に係る動物の骨の治療方法は、配置工程において損傷箇所の内部に骨治療シートにおける保持部の少なくとも一部を侵入させる点で実施形態4に係る動物の骨の治療方法の場合とは異なるが、骨治療シート4を用いるため、従来の動物の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。
【0200】
また、実施形態7に係る動物の骨の治療方法によれば、配置工程においては、損傷箇所D2の内部に骨治療シート1における保持部31の一部を侵入させるため、保持部31により骨治癒促進物質を保持したまま、骨治癒促進物質を損傷箇所D2の内部に導入することが可能となる。
【0201】
なお、実施形態7で説明した内容以外の点については、実施形態7においても実施形態1、2又は4で説明した態様がそのまま適用できる。
【0202】
[実施形態8]
図11は、実施形態8に係る骨治療シート4を説明するために示す図である。
図11(a)は骨治療シート4の平面図であり、
図11(b)は
図11(a)のA6-A6断面図である。
図11及び後述する
図12においては、1つの開口部40にのみ符号を表示し、他の開口部40については符号の表示を省略している。
図12は、実施形態8に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図12(a)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図12(b)は
図12(a)のA7-A7断面図である。
【0203】
実施形態8に係る骨治療シート4は、基本的には実施形態1に係る骨治療シート1と同様の構成を有するが、貫通孔である開口部40が形成されている点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なる(
図11及び
図12参照。)。
【0204】
骨治療シート4における開口部40は、平面視したときに四角形状(正方形状)の形状からなる。開口部40の数、大きさ及び形状は、種々の事情に応じて任意に決定することができる。例えば、開口部40の大きさは、充填材Sが含有する骨補填材の大きさや形状に応じて決定することができる。例えば、骨補填材の粒径が0.5mm以上である場合には、骨補填材の流出を抑制するために、開口部40の最大幅を0.5mm程度とすることができる。また、この場合における開口部40同士の間隔は、例えば、1mm~1.25mm程度とすることができる。
【0205】
実施形態8に係る骨治療シート4は、開口部40が形成されている点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なるが、保持部11を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態8に係る骨治療シート4は、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0206】
また、実施形態8に係る骨治療シート4によれば、骨の治癒に有用な物質を含有する体液等を、骨B2の損傷箇所D2に到達させやすくすることが可能となる。
【0207】
なお、実施形態8で説明した内容以外の点については、実施形態8においても実施形態1、2又は4で説明した態様がそのまま適用できる。
【0208】
[実施形態9]
図13は、実施形態9に係る骨治療シート5を説明するために示す図である。
図13(a)は骨治療シート5の平面図であり、
図13(b)は
図13(a)のA8-A8断面図である。
図13及び後述する
図14においては、1つのまとまり(1列)につき1つの固定用孔52にのみ符号を表示し、他の固定用孔52については符号の表示を省略している。
図14は、実施形態9に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図14(a)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図14(b)は
図14(a)のA9-A9断面図である。
【0209】
実施形態9に係る骨治療シート5は、基本的には実施形態1に係る骨治療シート1と同様の構成を有するが、損傷した骨B2に骨治療シート5を固定するための固定構造を有する点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なる(
図14参照。)。
【0210】
実施形態9における固定構造は、骨治療シート5のいずれかの箇所から延出する延出部50と、延出部50を通過させることができる固定用孔52とを含む。実施形態9においては、延出部50は保持部11の端から延出し、固定用孔52は延出部50が延出する端部とは反対側の端付近に形成されている。
【0211】
実施形態9においては、延出部50には保持部11は配置されていない。なお、延出部50にも保持部11が配置されていてもよい。固定用孔52は、対応する延出部50の延出方向に沿って並ぶように、それぞれ複数形成されている。
【0212】
図14に示すように、骨治療シート5を骨B2に巻き付けた後、固定用孔52から延出部50を引き出すようにして通過させ、その後に延出部50を折り返すことで、骨B2に骨治療シート5を固定することができる。延出部50については、折り返した後に適切な長さとなるように切断してもよい。
【0213】
実施形態9に係る骨治療シート5は、固定構造を有する点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なるが、保持部11を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態9に係る骨治療シート5は、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0214】
また、実施形態9に係る骨治療シート5によれば、損傷した骨B2に骨治療シート5を固定するための固定構造を有するため、骨治療シート5を固定するための部材(固定具等)を別途準備する必要がなくなり、骨治療シート5を骨B2に固定するときの手間を軽減することが可能となる。
【0215】
なお、実施形態9で説明した内容以外の点については、実施形態9においても実施形態1、2又は4で説明した態様がそのまま適用できる。
【0216】
[実施形態10]
図15は、実施形態10に係る骨治療シート7,8,7aの断面図である。
図15(a)は骨治療シート7の断面図であり、
図15(b)は骨治療シート8の断面図であり、
図15(c)は骨治療シート7aの断面図である。
図15(a)~
図15(c)は、
図1(b)に相当する断面図である。
【0217】
実施形態10に係る骨治療シート7,8は、基本的には実施形態1に係る骨治療シート1と同様の構成を有するが、保持部が少なくとも一部において主構造を兼ねる(保持部のみからなる部分がある)点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なる。骨治療シート7においては、骨治療シート7の全体が保持部81からなる(
図15(a)参照。)。骨治療シート8においては、保持部91は骨治療シート8の中央付近における主構造を兼ねており、主構造90(実施形態1における主構造10と同様の構成を有するもの)は保持部91の外側に配置されている(
図15(b)参照。)。骨治療シート7,8の破断を抑制するため、保持部81,91には、実施形態1における保持部11よりも高い強度が求められる。
【0218】
また、実施形態10に係る骨治療シート7aは、実施形態5に係る骨治療シート2のように足場材含有部20を有する(
図15(c)参照。)。このように、実施形態11に係る骨治療シート7,8は、これまでに説明してきた保持部及び主構造を有する骨治療シートと同様の追加の特徴を有しうる。
【0219】
実施形態10に係る骨治療シート7,8,7aは、保持部が少なくとも一部において主構造を兼ねる点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なるが、保持部81,91を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態10に係る骨治療シート7,8,7aも、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0220】
なお、実施形態10で説明した内容以外の点については、実施形態10においても実施形態1又は5で説明した態様がそのまま適用できる。
【0221】
[実施形態11]
図16は、実施形態11に係る骨治療シート201を説明するために示す図である。
図16(a)は骨治療シート201の平面図であり、
図16(b)は
図16(a)のA15-A15断面図であり、
図16(c)は
図16(a)のA14で示す部分を拡大して示す図であり、
図16(d)は
図16(b)のA16で示す部分を拡大して示す図である。
図16(a)における両矢印は、ナノ周期構造における複数の帯状凹部S1又は複数の帯状凸部S2が連続する方向を示すものである。後述する図における両矢印も、
図16(a)における両矢印と同様のものである。
【0222】
図17は、実施形態11に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図17(a)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図17(b)は
図17(a)のA17-A17断面図である。
【0223】
実施形態11に係る骨治療シート201は、損傷した骨B1の損傷箇所D1の外面に配置することで骨の治療に用いるための骨治療シートである。骨治療シート201は、
図17に示すように、損傷箇所D1に対応する箇所に、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されている。骨治療シート201においては、骨治療シート201の主要形状を構成する主構造210の一方の表面212にナノ周期構造が形成されている。また、骨治療シート201の他方の表面214にはナノ周期構造は形成されていない。
【0224】
骨治療シート201におけるナノ周期構造は、
図16(c)及び
図16(d)に示すように、互いに接触しない複数の帯状凹部S1からなる。なお、ナノ周期構造は互いに接触しない複数の帯状凸部S2からなるということもできる。
【0225】
帯状凹部S1及び帯状凸部S2の幅や帯状凹部S1の深さ(帯状凸部S2の高さ)については、骨治療シート201の用途等に応じて、ナノスケールであれば任意の値を取ることができる。
【0226】
また、骨治療シート201におけるナノ周期構造は、損傷箇所D1の外面に配置されたときに損傷箇所D1と交差する凹部又は凸部を含む。実施形態11においては、帯状凹部S1及び帯状凸部S2が、損傷箇所D1の外面に配置されたときに損傷箇所D1と交差する凹部及び凸部となる。
【0227】
ナノ周期構造は、ナノスケールの構造を形成可能なあらゆる方法を用いて形成することが可能である。ナノ周期構造を形成可能な方法としては、刃物やレーザーによる切削、金型による押圧(例えば、プレス成型)及びイオンや薬液によるエッチングを例示することができる。
【0228】
骨治療シート201においては、ナノ周期構造が形成されている位置を表示する注意表示が付されている。骨治療シート201における注意表示は色によりなされており、具体的には、ナノ周期構造が形成されている部分(表面212)とナノ周期構造が形成されてない部分とでは色が異なっている。なお、色による注意表示は、例えば、塗料を用いて付すことができる。骨治療シート201においては表面212全体にナノ周期構造が形成されているため、表面212全体が他の部分(例えば、表面214)とは異なる色となっている。
【0229】
骨治療シート201の厚さは、例えば、0.05μm~500μmの範囲内にある。
【0230】
骨治療シート201の主要形状を構成する主構造210としては、生体内で用いることができる材料からなるものであれば、用途等にあわせて任意の材料からなるものを用いることができる。主構造210は、例えば、ステンレス鋼からなることが好ましい。また、主構造210は、例えば、マグネシウム又はマグネシウム合金からなることも好ましい。また、主構造210は、例えば、チタン又はチタン合金からなることも好ましい。また、主構造210は、コラーゲンを主成分とする非金属材料からなることも好ましい。さらに、主構造210は、アガロース又はセルロースを主成分とする非金属材料からなることも好ましい。
【0231】
次に、実施形態11に係る骨の治療方法について説明する。なお、実施形態11に係る骨の治療方法は動物の骨の治療方法であるが、同様の方法を人間の骨の治療方法に応用することも可能である。
【0232】
実施形態11に係る骨の治療方法は、実施形態11に係る骨治療シート201を準備する準備工程と、骨治療シート201のナノ周期構造が治療対象の骨B1と接触するように骨治療シート201を治療対象の骨B1の表面に配置する配置工程(
図17参照。)とを含む。
【0233】
配置工程においては、
図17に示すように、骨治療シート201のナノ周期構造が治療対象の骨B1と接触するように骨治療シート201を治療対象の骨B1の表面に配置する。骨治療シート201のナノ周期構造は表面212に形成されているため、表面212が治療対象の骨B1と接触するようにする。
【0234】
配置工程においては、骨治療シート201を切断する等の手段により、ちょうどよい大きさとしてもよい。なお、
図17においては、骨治療シート201は骨B1の周囲をちょうど一周巻くように配置されているが、本発明はこれに限定されるものではない。配置工程においては、骨治療シート201を、骨B1の周囲の一部のみを被覆するように配置してもよい。
【0235】
配置工程においては、骨治療シート201は、任意の手段で骨に固定することができる。当該固定は、例えば、ネジやワイヤー等の固定具を用いておこなうこととしてもよいし、接着剤のような介在物を用いておこなうこととしてもよい。また、骨治療シート201を配置するだけで十分な固定力を得られる場合には、特に固定具や介在物を用いなくてもよい。
【0236】
以下、実施形態11に係る骨治療シート201及び骨の治療方法の効果を記載する。
【0237】
実施形態11に係る骨治療シート201によれば、ナノスケールの凹凸構造が細胞の増殖や分化に影響を与えるため、従来のシート(ナノスケールの構造が形成されていないシート)と比較して骨の治癒を促進させることが可能となる。
【0238】
実施形態11に係る骨治療シート201によれば、損傷箇所D1に対応する箇所にナノ周期構造が形成されているため、当該ナノ周期構造を骨B1の損傷箇所D1やその付近の箇所と接触させて使用することで、骨の細胞(特に骨芽細胞)の増殖や分化を促進させることが可能となる。このため、実施形態11に係る骨治療シート201によれば、骨治療シート201と骨B1とを早期にかつ強固に固着させることで骨B1の強度を高くすることが可能となる。また、実施形態11に係る骨治療シート201によれば、細胞の増殖や分化を促進させることから、骨B1自体の治癒力を高めることも可能となる。したがって、実施形態12に係る骨治療シート201は、従来のシートと比較して骨B1の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0239】
また、実施形態11に係る骨治療シート201によれば、ナノ周期構造は、互いに接触しない複数の帯状凹部S1又は複数の帯状凸部S2からなるため、細胞の増殖や分化が帯状凹部S1や帯状凸部S2に沿って発生するように制御することが可能となり、治癒の方向性を制御することが可能となる。
【0240】
また、実施形態11に係る骨治療シート201によれば、ナノ周期構造が形成されている位置を表示する注意表示が付されているため、ナノ周期構造が形成されている位置の把握が容易となり、使用時における配置ミスを抑制することが可能となる。
【0241】
実施形態11に係る骨治療シート201の主構造がステンレス鋼からなる場合には、骨治療シート201は、生体内で使用できる他の材料からなる骨治療シートと比較して強度とコストとのバランスに優れ、かつ、骨B1の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0242】
実施形態11に係る骨治療シート201の主構造がマグネシウム又はマグネシウム合金からなる場合には、骨治療シート201は、十分な初期強度を有し、生体により分解・吸収されることが期待でき、かつ、骨B1の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0243】
実施形態11に係る骨治療シート201の主構造がチタン又はチタン合金からなる場合には、骨治療シート201は、高い強度を有しつつ毒性が低い性質も有し、かつ、骨B1の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0244】
実施形態11に係る骨治療シート201の主構造がコラーゲンを主成分とする非金属材料からなる場合には、骨治療シート201は、生体により速やかに分解・吸収されることが期待でき、かつ、骨B1の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0245】
実施形態11に係る骨治療シート201の主構造がアガロース又はセルロースを主成分とする非金属材料からなる場合には、天然に存在し生体に対する害がない材料からなり、かつ、骨B1の治癒を積極的に促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0246】
また、実施形態11に係る骨治療シート201によれば、厚さが0.05μm~500μmの範囲内にあるため、強度を十分に確保することが可能となり、かつ、曲げやすさを十分に確保することも可能となる。
【0247】
また、実施形態11に係る骨治療シート201によれば、ナノ周期構造は、損傷箇所D1の外面に配置されたときに損傷箇所D1と交差する凹部又は凸部を含むため、骨B1の損傷箇所D1を埋めるように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨B1の損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0248】
実施形態11に係る動物の骨の治療方法は、骨治療シート201を準備する準備工程と、骨治療シート201のナノ周期構造が治療対象の骨と接触するように骨治療シート201を治療対象の骨B1の表面に配置する配置工程とを含むため、従来の動物の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な動物の骨の治療方法となる。なお、実施形態11に係る骨の治療方法は、人間の骨の治療方法に応用することも可能である。
【0249】
[実施形態12]
図18は、実施形態12に係る骨の治療方法を説明するために示す図である。
図18(a)は配置工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図18(b)は
図18(a)のA18-A18断面図である。
【0250】
実施形態12に係る骨の治療方法は、基本的には実施形態11に係る骨の治療方法と同様であるが、治療対象の骨の損傷が実施形態に係る骨の治療方法の場合とは異なる。実施形態12においては、治療対象の骨B2は欠損が生じた骨であり、当該欠損が生じた部分が損傷箇所D2である。実施形態12に係る骨の治療方法においては、準備工程と配置工程との間に、欠損が生じた部分(損傷箇所D2)に充填材Sを充填する充填工程をさらに含み、配置工程においては、治療対象の骨B2と接し、かつ、充填材Sが充填された部分を覆うように骨治療シート201を配置する。充填材Sとしては、上記実施形態4で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0251】
充填工程においては、骨治療シート201を骨B1の欠損が生じた部分付近において部分的に巻き付ける(例えば、半周ほど巻き付ける)ように配置し、その後充填材Sの充填を実施してもよい。この場合、配置工程において骨治療シート201を骨Bの周囲に完全に巻き付け、
図18に示すような状態となるようにする。
【0252】
実施形態12に係る骨の治療方法は、治療対象の骨が実施形態11に係る骨の治療方法の場合とは異なるが、実施形態12に係る骨の治療方法は、骨治療シート201を準備する準備工程と骨治療シート201のナノ周期構造が治療対象の骨B2と接触するように骨治療シート201を治療対象の骨B2の表面に配置する配置工程とを含むため、実施形態12に係る骨の治療方法と同様に、従来の骨の治療方法と比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨の治療方法となる。なお、実施形態12に係る骨の治療方法についても、動物の骨の治療方法と人間の骨の治療方法との両方に適用することが可能である。
【0253】
また、実施形態12に係る骨の治療方法によれば、治療対象の骨B2は、欠損が生じた骨であり、準備工程と配置工程との間に、欠損が生じた部分(損傷箇所D2)に充填材Sを充填する充填工程をさらに含み、配置工程においては、治療対象の骨B2と接し、かつ、充填材Sが充填された部分を覆うように骨治療シート201を配置するため、充填材Sを構成する物質、特に顆粒状の骨補填材のこぼれだしを抑制することが可能となる。また、実施形態12に係る骨の治療方法によれば、骨治療シート201の表面でも細胞の増殖や分化を促進して、欠損が生じた部分の外側からも骨B2の治癒を促進することが可能となる。
【0254】
[実施形態13]
図19は、実施形態13に係る骨治療シート202を説明するために示す図である。
図19(a)は骨治療シート202の平面図であり、
図19(b)は
図19(a)のA19-A19断面図である。なお、
図19及び後述する
図20においては、開口部226については、1つの開口部226にのみ符号を表示し、他の開口部226についての符号の表示は省略している。また、
図19及び
図20において示す開口部226の数及び大きさは、必ずしも本発明の骨治療シートの実際の構成を反映するものではない。
【0255】
図20は、実施形態13に係る骨治療シート202を骨B2に固定した状態を示す図である。
図20(a)は実施形態13に係る骨の治療方法における配置工程に相当する工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図20(b)は
図20(a)のA20-A20断面図である。
【0256】
実施形態13に係る骨治療シート202は、基本的には実施形態11に係る骨治療シート201と同様の構成を有するが、貫通孔である開口部226が形成されている点で実施形態11に係る骨治療シート201とは異なる。なお、骨治療シート202においては、骨治療シート202の主要形状を構成する主構造220の一方の表面222にナノ周期構造が形成されている。また、骨治療シート202の他方の表面224にはナノ周期構造は形成されていない。実施形態13における主構造220、一方の表面222及び他方の表面224は、実施形態11における主構造210、一方の表面212及び他方の表面214と、それぞれ実質的に同様の構成を有する。
【0257】
骨治療シート202における開口部226は、平面視したときに四角形状の形状からなる。開口部226の大きさは種々の事情に応じて任意に決定することができるが、例えば、充填材Sが含有する骨補填材の大きさや形状に応じた大きさとすることができる。例えば、骨補填材が0.5mm以上の粒径を有するものである場合には、開口部226の最大幅を0.5mm程度とすることができる。また、この場合、開口部226同士の間隔は、例えば1mm~1.25mm程度とすることができる。
【0258】
実施形態13に係る骨治療シート202は、貫通孔である開口部226が形成されている点で実施形態12に係る骨治療シート201とは異なるが、損傷箇所D2(欠損が生じた部分)に対応する箇所にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態13に係る骨治療シート202は、実施形態11に係る骨治療シート201と同様に、骨B2の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0259】
また、実施形態13に係る骨治療シート202によれば、骨B2の治癒に有用な物質を含有する体液等が骨B2の損傷箇所D2に到達しやすくなるため、骨B2の治癒を一層促進させることが可能となる。
【0260】
なお、実施形態13に係る骨治療シート202は、貫通孔である開口部226が形成されている点以外の点においては実施形態11に係る骨治療シート201と実質的に同様の構成を有するため、実施形態11に係る骨治療シート201が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0261】
[実施形態14]
図21は、実施形態14に係る骨治療シート203を説明するために示す図である。
図21(a)は骨治療シート203の平面図であり、
図21(b)は
図21(a)のA21-A21断面図である。なお、
図21及び後述する
図22においては、開口部236については、1つの開口部236にのみ符号を表示し、他の開口部236についての符号の表示は省略している。また、
図21及び
図22において示す開口部236の数及び大きさは、必ずしも本発明の骨治療シートの実際の構成を反映するものではない。
【0262】
図22は、実施形態14に係る骨治療シート203を骨B2に固定した状態を示す図である。
図22は実施形態14に係る骨の治療方法における配置工程に相当する工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図22(b)は
図22(a)のA22-A22断面図である。
【0263】
実施形態14に係る骨治療シート203は、基本的には実施形態13に係る骨治療シート202と同様の構成を有するが、開口部の形状が実施形態13に係る骨治療シート202とは異なる。なお、骨治療シート203においては、骨治療シート203の主要形状を構成する主構造230の一方の表面232にナノ周期構造が形成されている。また、骨治療シート203の他方の表面234にはナノ周期構造は形成されていない。実施形態14における主構造230、一方の表面232及び他方の表面234は、実施形態14における主構造220、一方の表面222及び他方の表面224と、それぞれ実質的に同様の構成を有する。
【0264】
骨治療シート203における開口部236は、平面視したときに四角形状の形状からなるが、実施形態13に係る骨治療シート202における開口部226よりも細長い形状からなる。開口部236は、いわゆるスリット状の形状からなるということもできる。開口部236の大きさも、開口部226の場合と同様に、種々の事情に応じて任意に決定することができる。
【0265】
実施形態14に係る骨治療シート203は、開口部の形状が実施形態13に係る骨治療シート202とは異なるが、損傷箇所D2(欠損が生じた部分)に対応する箇所にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態14に係る骨治療シート203は、実施形態13に係る骨治療シート202と同様に、骨B2の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0266】
なお、実施形態14に係る骨治療シート203は、開口部の形状以外は実施形態13に係る骨治療シート202と実質的に同様の構成を有するため、実施形態13に係る骨治療シート202が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0267】
[実施形態15]
図23は、実施形態15に係る骨治療シート201aを説明するために示す図である。なお、
図23及び後述する
図24においては、固定用孔218については、1つのまとまりにつき1つの固定用孔218にのみ符号を表示し、他の固定用孔218についての符号の表示は省略している。また、
図23及び
図24において示す延出部216及び固定用孔218の数及び大きさは、必ずしも本発明の骨治療シートの実際の構成を反映するものではない。
【0268】
図24は、実施形態15に係る骨治療シート201aを骨B2に固定した状態を示す図である。
図24(a)は実施形態15に係る骨の治療方法における配置工程に相当する工程を実施したあとの様子を示す平面図であり、
図24(b)は
図24(a)のA23-A23断面図である。
【0269】
実施形態15に係る骨治療シート201aは、基本的には実施形態11に係る骨治療シート201と同様の構成を有するが、損傷した骨(治療を想定する骨)B2に骨治療シート201aを固定するための固定構造を有する点で実施形態11に係る骨治療シート201とは異なる。
【0270】
実施形態15における固定構造は、骨治療シート201aのいずれかの箇所から延出する延出部216と、延出部216を通過させることができる固定用孔218とを含む構造である。実施形態15においては、延出部216は骨治療シート201aの端部から延出し、固定用孔218は延出部216が存在する側とは反対側の端部付近に形成されている。なお、実施形態15においては延出部216にはナノ周期構造は形成されていないが、延出部216にもナノ周期構造が形成されていてもよい。固定用孔218は、
図23に示すように、延出部216の延出方向に沿って複数形成されている。
【0271】
実施形態15における固定構造は、
図24に示すように、骨治療シート201aを骨B2に巻き付けた後、固定用孔218から延出部216を引き出すようにして通過させ、その後に延出部216を折り返すことで、損傷した骨B2に骨治療シート201aを固定することができる。なお、延出部216については、折り返した後に適切な長さとなるように切断してもよい。
【0272】
実施形態15に係る骨治療シート201aは、上記した固定構造を有する点で実施形態12に係る骨治療シート201とは異なるが、損傷箇所D2(欠損が生じた部分)に対応する箇所にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態15に係る骨治療シート201aは、実施形態12に係る骨治療シート201と同様に、骨B2の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0273】
また、実施形態15に係る骨治療シート201aによれば、損傷した骨B2に骨治療シート201aを固定するための固定構造を有するため、骨治療シート201aを固定するための部材を別途準備する必要がなくなり、骨治療シート201aを骨B2に固定するときの手間を軽減することが可能となる。
【0274】
また、実施形態15に係る骨治療シート201aによれば、固定構造は、骨治療シート201aのいずれかの箇所から延出する延出部216と、延出部216を通過させることができる固定用孔218とを含む構造であるため、骨治療シート201aを形成する際に一体として成形することが可能な程度の簡易な構造で、骨治療シート201aを骨B2に巻きつけるようにするときに使用できる固定構造を構成することが可能となる。
【0275】
また、実施形態15に係る骨治療シート201aによれば、固定用孔218は、延出部216の延出方向に沿って複数形成されているため、さまざまな太さの骨に対応することが可能となる。
【0276】
なお、実施形態15に係る骨治療シート201aは、固定構造を有する点以外の点については実施形態11に係る骨治療シート201と実質的に同様の構成を有するため、実施形態11に係る骨治療シート201が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0277】
[実施形態16]
図25は、実施形態16に係る骨治療シート(全体を図示せず。)における主構造210及び被覆膜211を示す図である。
図25は、
図16(d)に相当する図(
図16(a)のA16で示す部分に相当する部分を拡大して示す図)である。
【0278】
実施形態16に係る骨治療シートは、実施形態11に係る骨治療シート201と基本的に同様の構成を有するが、主構造210の少なくとも一部を覆う被覆膜211を備える点で実施形態11に係る骨治療シート201の場合とは異なる。
【0279】
なお、被覆膜211は、骨治療シート全体に配置されていてもよいし、骨治療シートの一部のみに配置されていてもよい。被覆膜211としては、骨治療シートの用途等に応じて種々の材料や厚さからなるものを用いることができる。
【0280】
実施形態16に係る骨治療シートは、被覆膜211を備える点で実施形態11に係る骨治療シート201とは異なるが、損傷箇所に対応する箇所にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態16に係る骨治療シートは、実施形態11に係る骨治療シート201と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。
【0281】
また、実施形態16に係る骨治療シートは、主構造210の少なくとも一部を覆う被覆膜211をさらに備えるため、主構造のみでは得ることが難しい性質を有する骨治療シートとすることが可能となる。
【0282】
なお、実施形態16に係る骨治療シートは、被覆膜211を備える点以外の点については実施形態11に係る骨治療シート201と実質的に同様の構成を有するため、実施形態11に係る骨治療シート201が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0283】
[実施形態17]
図26は、実施形態17に係る骨治療シート6を説明するために示す図である。
図26(a)は骨治療シート6の平面図であり、
図26(b)は
図26(a)の断面図(
図1(b)に相当する断面図)であり、
図26(c)は
図26(a)のA10で示す部分を拡大して示す図であり、
図26(d)は
図26(b)のA11で示す部分を拡大して示す図である。
【0284】
実施形態17に係る骨治療シート6は、基本的には実施形態1に係る骨治療シート1と同様の構成を有するが、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されている点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なる(
図26参照。)。
【0285】
骨治療シート6においては、保持部61の表面にナノ周期構造が形成されている。主構造10の表面には、ナノ周期構造は形成されていない。なお、主構造10の表面にナノ周期構造が形成されていてもよい。
【0286】
骨治療シート6におけるナノ周期構造は、実施形態11に係る骨治療シート201におけるナノ周期構造と同様のものであるため、再度の説明は省略する。骨治療シート6におけるナノ周期構造は、ナノスケールの構造を形成可能なあらゆる方法を用いて形成することが可能である。ナノ周期構造を形成可能な方法としては、刃物やレーザーによる切削、金型による押圧(例えば、プレス成型)及びガス、イオン、薬液等によるエッチング(プラズマエッチングを含む)を例示することができる。
【0287】
実施形態17に係る骨治療シート6は、ナノ周期構造が形成されている点で実施形態1に係る骨治療シート1とは異なるが、保持部61を有するため、実施形態1に係る骨治療シート1と同様に、骨の治癒を促進させることが可能な骨治療シートとなる。また、実施形態17に係る骨治療シート6は、実施形態1に係る骨治療シート1が有する効果のうち、該当する効果を有する。
【0288】
また、実施形態17に係る骨治療シート6によれば、ナノ周期構造を骨の損傷箇所やその付近に配置して使用することで、表面形状の面からも骨の細胞(特に骨芽細胞)の増殖や分化を促進させることが可能となる。
【0289】
なお、実施形態17で説明した内容以外の点については、実施形態17においても実施形態1で説明した態様がそのまま適用できる。
【0290】
以上、本発明を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0291】
(1)上記各実施形態において説明した構成要素の形状、数、位置等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0292】
(2)上記実施形態13,14で説明した開口部の構成は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
図27は、変形例1に係る骨治療シート202aの平面図である。
図28に示す開口部226aのように、開口部は平面視したときに円形に見える形状であってもよい。また、四角形や円形以外の形状であってもよい。また、開口部の配列も行列状の配列に限られるものではなく、例えば、千鳥状の配列としてもよい。
【0293】
(3)上記実施形態8で説明した開口部40の構成も例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
図28は、変形例2に係る骨治療シート4a,4bの平面図である。
図28(a)に示す開口部40aのように、保持部11を有するような骨治療シートにおいても、開口部は平面視したときに円形に見える形状であってもよい。また、四角形や円形以外の形状であってもよい。また、開口部の配列も行列状の配列に限られるものではなく、例えば、千鳥状の配列としてもよい。また、
図28(b)に示す開口部40bのように、保持部11を有するような骨治療シートにおいても、開口部はいわゆるスリット状の形状であってもよい。
【0294】
(4)本発明におけるナノ周期構造は、上記した帯状凹部S1又は帯状凸部S2からなるものに限定されるものではない。帯状凹部及び帯状凸部が連続する方向は、上記した帯状凹部S1又は帯状凸部S2の場合とは異なる方向であってもよい。また、例えば、帯状凹部及び帯状凸部は屈曲した形状や蛇行するような形状からなる構造であってもよい。また、ナノ周期構造は、格子状の凹部又は凸部を含む構造や、円形の凹凸を含む構造であってもよい。
【0295】
(5)上記実施形態13~15においては、骨治療シートを実施形態12に係る骨の治療方法に適用した場合を例に挙げて説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。上記実施形態13~15において説明したような骨治療シートであっても、実施形態11に係る骨の治療方法に適用することができる。つまり、上記実施形態において、損傷した骨として骨B1及び骨B2のうち一方のみを示して説明した骨治療シート及び骨の治療方法についても、基本的には、骨B1及び骨B2の両方に適用することが可能である。
【0296】
(6)上記実施形態15において説明した骨治療シート201aには開口部が形成されていないが、本発明はこれに限定されるものではない。骨治療シート201aのような固定構造を有する骨治療シートにおいて開口部が形成されていてもよい。
【0297】
(7)上記実施形態8以外の実施形態において説明した保持部を有する骨治療シートにおいては、実施形態8における開口部40、又は、変形例における開口部40a,40bのような開口部は形成されていないが、本発明はこれに限定されるものではない。保持部を有する骨治療シートに開口部が形成されていてもよい。
【0298】
(8)上記実施形態16において説明した被覆膜を備える構成は、他の上記実施形態に記載したような骨治療シートにおいても適用可能である。
【0299】
(9)上記実施形態3における固定具100は骨固定用のプレートであったが、本発明はこれに限定されるものではない。プレート以外の固定具(例えば、ネジ、ピン、ワイヤー及びステープル)を単独で又は組み合わせて用いることもできる。
【0300】
(10)本明細書における「骨の治癒」には「骨折の治癒」が含まれる。また、本明細書における「骨の治療方法」には「骨折の治療方法」が含まれる。例えば、実施形態1のように骨折した骨である骨B1が治療対象(骨治療シートを用いる対象)である場合には、「骨の治癒」は「骨折の治癒」であり、「骨の治療方法」は「骨折の治療方法」である。
【0301】
(11)上記実施形態11~16及び変形例1で説明したような骨治療シートにおいて、ナノ周期構造の代わりに周期性を有しないナノスケールの凹凸構造が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0302】
1,1a,2,3,4,4a,4b,5,6,7,7a,8,201,201a,202,202a,203…骨治療シート、10,90,210,220,230…主構造、11,31,61,71,81,91…保持部、20…足場材含有部、32…突出部、40,40a,40b,226,226a,236…開口部、50,216…延出部、52,218…固定用孔、100…固定具、110…本体部、120…留め具、211…被覆膜、212,214,222,224,232,234…表面、B1,B2…骨、Ba…皮質骨、Bb…海綿骨、D1,D2…損傷箇所、P1,P2…細孔、S…充填材、S1…帯状凹部、S2…帯状凸部