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特許7541762心腔プロテーゼ、および、これに関連する心臓補助システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】心腔プロテーゼ、および、これに関連する心臓補助システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/17 20210101AFI20240822BHJP
   A61M 60/268 20210101ALI20240822BHJP
   A61M 60/427 20210101ALI20240822BHJP
   A61M 60/837 20210101ALI20240822BHJP
【FI】
A61M60/17
A61M60/268
A61M60/427
A61M60/837
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022500521
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 IB2020056544
(87)【国際公開番号】W WO2021009651
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】102019000011640
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】522004276
【氏名又は名称】ロマーノ サルヴァトーレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロマーノ サルヴァトーレ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05139517(US,A)
【文献】特表2017-518841(JP,A)
【文献】米国特許第07341584(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0246013(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0153010(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/17
A61M 60/268
A61M 60/427
A61M 60/837
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左心室(40)、左心房(20)、右心室(30)、および右心房(10)からなるグループから選択される患者(440)の心腔(10;20;30;40)の中に埋め込まれるように構成される、心腔プロテーゼであって、
心腔(10;20;30;40)は、生体出口弁(50;60;70;80)と、生体入口弁(50;70)および大静脈または肺静脈(120;125;130)の1つまたは複数の出口からなるグループから選択される少なくとも1つの入口開口(50;70)と、を備え、
前記心腔プロテーゼは、
内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)と、基準支持弾性膜構造体(200;205;225;290A;600;700;800)と、を備え、
前記内側弾性膜は、弾性可変容積を画定する内面(254;654;754;854)を有し、第1の境界によって画定される第1の開口と、第2の境界によって画定される少なくとも1つの第2の開口と、を備え、
前記基準支持弾性膜構造(200;205,225,290A;600;700;800)は、外側弾性膜(200;205;600;700;800)を備えるか、または、外側弾性膜(200;205;600;700;800)から構成されており、
前記外側弾性膜は、第1の境界によって画定される第1の開口と、第2の境界によって画定される少なくとも1つの第2の開口と、を備え、前記外側弾性膜(200;205;600;700;800)は、前記心腔(10;20;30;40)の内壁(45)を把持するように構成された複数のクリップ(210)をさらに備え、
前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)の前記第1の境界および前記外側弾性膜(200;205;600;700;800)の前記第1の境界は、互いに一体的に結合され、前記生体出口弁(50;60;70;80)を取り囲み、前記生体出口弁(50;60;70;80)に縫合されるように構成される出口境界(285;675;785;885)を形成し、
前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)の前記第2の境界および前記外側弾性膜(250,200;255,205;260,200;650,600;750,700;850,800)の前記第2の境界は、互いに一体的に結合され、前記少なくとも1つの入口開口(50;70)を取り囲み、前記入口開口(50;70)に縫合されるように構成される少なくとも1つの入口境界(275;685;775;875A,875B)を形成し、
前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)および前記基準支持弾性膜構造(200;205,225,290A;600;700;800)は、複数の第1の可変接続要素(290;290B)によって互いに接続され、これにより、前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)前記基準支持弾性膜構造(200;205、225、290A;600;700;800)との間に第1の間隙(230;230B;630;730;830)画定され、前記第1の間隙(230;230B;630;730;830)は、可変の量及び/又は圧力の流体を受容できるように構成され、これにより、前記第1の間隙(230;230B;630;730;830)、および、前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)の表面(254;654;754;854)により画定される前記弾性可変容積が動的に変化する、心腔プロテーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載の心腔プロテーゼであって、
前記外側弾性膜(200;205;600;700;800)の弾性係数は、前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)の弾性係数よりも大きくない、心腔プロテーゼ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の心腔プロテーゼであって、
前記内側および外側弾性膜(250,200;255,205;260,200;650,600;750,700;850,800)のそれぞれは、可変弾性係数を有する、心腔プロテーゼ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記流体は、液体または気体である、心腔プロテーゼ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記心腔プロテーゼは、さらに、前記出口境界(285;675;785;885)または前記少なくとも1つの入口境界(275;685;775;875A,875B)に一体的に連結される少なくとも1つの人工弁(530,540)を有する、心腔プロテーゼ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記第1の可変接続要素は、第1の弾性タイ(290;290B)であり、その各々は、前記外側弾性膜(200;205;600;700;800)の弾性係数よりも、および、前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)の弾性係数よりも大きい弾性係数を有する、心腔プロテーゼ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記心腔プロテーゼは、カテーテルの内側に収容されるように構成される、心腔プロテーゼ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記外側弾性膜(200;205;600;700;800)及び/又は前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)は、放射線不透過な部分を含む、心腔プロテーゼ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記第1の間隙(230;230B;630;730;830)は、前記プロテーゼが備える少なくとも1つの可変容積弾性袋体、または、外部ポンプ(340A;340B;340C;340D)と流体連通するように構成される、心腔プロテーゼ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記内側弾性膜(260)及び前記外側弾性膜は、少なくとも一部に、不連続構造を備え、
前記不連続構造は、弾性接合線(267)に沿って互いに接続された複数の弾性プレート(265)によって形成されるハニカム不連続構造である、心腔プロテーゼ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)および前記外側弾性膜(200;205;600;700;800)は、それぞれ、前記内側弾性膜(250;255;260;650;750;850)および前記外側弾性膜(200;205;600;700)を電気的及び/又は電磁的に分極させるように構成された複数の電極を備え、制御ケーブル(206,256)のそれぞれを介して前記電極に接続された電子処理ユニット(345A;345B)の制御下にそれぞれある、心腔プロテーゼ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記基準支持弾性膜構造(205,225,290A)は、前記外側弾性膜(205)と前記内側弾性膜(255)との間に介在する中間弾性膜(225)をさらに有し
記中間弾性膜(225)は、それぞれ第1の境界によって画定される第1の開口であって、前記内側および外側弾性膜(255,205)の前記第1の開口の前記第1の境界に一体的に結合される第1の開口と、それぞれ第2の境界によって画定される少なくとも1つの第2の開口であって、前記内側および外側弾性膜(255,205)の前記第2の開口の前記第2の境界に一体的に結合される第2の開口と、を備え、
前記中間弾性膜(225)及び前記外側弾性膜(205)は、複数の第2の可変接続要素(290A)によって互いに接続され、
記第2の弾性タイ(290A)は、前記第2の弾性タイ(290A)が接続される前記中間弾性膜(225)の面積に応じて可変の弾性係数を有し、これにより、前記複数の第1の可変接続要素(290B)は、前記内側弾性膜(255)および前記中間弾性膜(225)を互いに接続し、これにより、前記外側弾性膜(205)および前記中間弾性膜(225)間に、第2の間隙(230A)画定され、前記第2の間隙(230A)は、流体を受容するように構成される、心腔プロテーゼ。
【請求項13】
請求項12に記載の心腔プロテーゼであって、
前記第2の間隙(230A)は、前記第2の間隙(230A)の容量が動的に変化するように、可変の量及び/又は圧力の前記流体を受容するように構成される、心腔プロテーゼ。
【請求項14】
請求項12または13に記載の心腔プロテーゼであって、
前記中間弾性膜(225)は、不連続構造を備え、
前記不連続構造は
性接合線に沿って互いに接続された複数の弾性プレートによって形成されるハニカム不連続構造、を備えるグループから選択される、心腔プロテーゼ。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか1項に記載のプロテーゼであって、
請求項12が請求項11を引用する場合には、前記中間弾性膜(225)は、それぞれ、前記中間弾性膜(225)を電気的及び/又は電磁的に分極させるように構成された複数の電極を備え、複数の制御ケーブル(226)のそれぞれを介して前記電極に接続された前記電子処理ユニット(345B)の制御下にそれぞれある、心腔プロテーゼ。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼであって、
前記心腔プロテーゼは、
左心室(40)に移植され、これにおいて、前記出口境界は、生体大動脈弁(80)を取り囲み、その上で縫合されるように構成された大動脈境界(285)であり、前記少なくとも1つの入口境界は、生体僧帽弁(70)を取り囲み、その上で縫合されるように構成された僧帽弁境界(275)である、または、
左心房(20)に移植され、これにおいて、前記出口境界は、生体僧帽弁(70)を取り囲み、その上で縫合されるように構成された僧帽弁境界(675)であり、前記少なくとも1つの入口境界は、肺静脈(130)のそれぞれの1つ以上の出口に対応する領域を取り囲み、その上で縫合されるように構成された1つ以上の境界(685)である、また、
右心室(30)に移植され、これにおいて、前記出口境界は、生体肺動脈弁(60)を取り囲み、その上で縫合されるように構成された肺動脈弁境界(785)であり、前記少なくとも1つの入口境界は、生体三尖弁(50)を取り囲み、その上で縫合されるように構成された三尖弁境界(775)である、また、
右心房(10)に移植され、これにおいて、前記出口境界は、生体三尖弁(50)を取り囲み、その上で縫合されるように構成された三尖弁境界(775)であり、前記少なくとも1つの入口境界は、大静脈(120,125)のそれぞれの1つ以上の出口に対応する領域を取り囲み、その上で縫合されるように構成された大静脈の1つ以上の境界(875A,875B)である、心腔プロテーゼ。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼを2乃至4個備え、前記心腔プロテーゼは、患者(440)の2つ以上の心腔(10;20;30;40)のそれぞれに埋め込まれるように構成される、心腔プロテーゼアセンブリ。
【請求項18】
請求項17に記載の心腔プロテーゼアセンブリであって、
前記心腔プロテーゼは、請求項11に記載の心腔プロテーゼ、または、請求項12から16のいずれか1項に記載の2つの心腔プロテーゼを含む、または、それらからなり、
請求項11に従属する場合には、前記心腔プロテーゼは、相互に関連付けられ、
前記心腔プロテーゼは、左心室(40)および左心房(20)、または、右心室(30)および右心房(10)に埋め込まれるように構成され、関連する2つの心腔プロテーゼの前記第1の間隙(230,630;730,830)は、連通ダクトを介して互いに流体連通し、これにより、前記2つの関連する心腔プロテーゼの前記第1の間隙(230,630;730,830)が置き換わることを介して、前記2つの関連する心腔プロテーゼのうちの一方の前記第1の間隙(230;730)の容積は、前記2つの関連する心腔プロテーゼのうちの他方の前記第1の間隙(630;830)の前記容積が減少するときに、増加するように構成され、逆もまた同様である、心腔プロテーゼアセンブリ。
【請求項19】
請求項1から16のいずれか1項に記載の心腔プロテーゼ、または、請求項17または18に記載の心腔プロテーゼアセンブリ、を備える、心腔プロテーゼシステムであって、
少なくとも1つのポンプ(340A;340B;340C;340D)及び/又は電子処理ユニット(345A;345B)は、前記心腔プロテーゼ、または、前記心腔プロテーゼアセンブリの前記心腔プロテーゼの前記第1の間隙(230;230B;630;730;830)に受容される前記流体の量及び/又は圧力を制御し、これにより、前記心腔プロテーゼ、または、前記心腔プロテーゼアセンブリの前記心腔プロテーゼの前記第1の間隙(230;230B;630;730;830)の容積を動的に変化させように構成される、心腔プロテーゼシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左心室、左心房、右心室および右心房からなるグループから選択される心腔プロテーゼ(人工器官)に関し、この心腔プロテーゼは、単純で、適応可能で、効率的で、信頼できる方法で、生理学的形態を有し、この生理学的特性に最も適合する動作に従って動作することができる。本発明はさらに、2つ以上のこのような心腔プロテーゼを有する心腔プロテーゼのアセンブリ、および、このような心腔プロテーゼまたは心腔プロテーゼのそのようなアセンブリを備える心臓補助システムに関する。また、本発明に係る心腔プロテーゼは、サイズおよび重量が低減され、エネルギー消費量の低減を必要とする心臓補助システムへの埋め込みおよび制御を容易にし、重篤な心不全の患者のための治療選択肢を著しく増加させ、より良好な治療結果を得る。さらに、本発明に係る心腔プロテーゼおよび関連する心臓補助システムは、単純な構造で安価で製造できる。
【背景技術】
【0002】
知られているように、心臓は、全身を通る血液をポンピングする筋肉である。心臓の右側は、酸素が消費された血液を全身から受け取り、それを肺に送り込む。そこでは、血液は酸素を取り込み、二酸化炭素が血液から除去される。心臓の左側は、肺から戻る酸素を取り込んだ血液を受け取り、それを全身に送り込み、これにより細胞に酸素および栄養素が供給される。
【0003】
図1を参照すれば、心臓は4つの心室、すなわち2つの上心房および2つの下心室、具体的には、右心房10、左心房20、右心室30および左心室40を有することが示されている。心房10および30は受容心腔であり、心室30および40はポンピング心腔である。
【0004】
また、心臓は4つの心臓弁を有する。具体的には、右心房10と右心室30との間に介在する三尖弁50、右心室30と肺動脈110との間に介在する肺動脈弁60、左心房20と左心室40との間に介在する僧帽弁70、および、左心室40と大動脈100との間に介在する大動脈弁80が設けられている。心臓弁の機能は、(点線の矢印によって示されるように)血液が心臓を通り、正しい方向に流れることを確実にすることである。特に、酸素が消費された血液は、右心室30から肺動脈110の中へ、そして肺へとポンプ輸送される。同様に、酸素が取り込まれた血液は、左心室40から大動脈100の中へ、そして、全身を通るようにポンピングされる。さらに、上大静脈120および下大静脈125は、それぞれ、全身の上半分および下半分から右心房10に酸素が消費された血液を搬送し、肺静脈130は、肺から左心房20に酸素が取り込まれた血液を搬送する。
【0005】
より詳細には、心腔収縮期中、心腔は、関連する心腔が収縮して血液を空にする筋肉収縮の構成をとる。心房収縮期(図1bに示される)では、心房10、20のみが収縮し、三尖弁50および僧帽弁70が開放され、肺動脈弁60および大動脈弁80が閉じられ、血液が心房10、20からそれぞれ心室30、40に送出される。心室収縮期(図1aに示される)では、心室30、40のみが収縮し、三尖弁50および僧帽弁70が閉じられ、肺動脈弁60および大動脈弁80が開放され、血液が心室30、40からそれぞれ肺動脈110および大動脈100に送出される。
【0006】
同様に、心腔拡張期中、心腔は、関連する心腔が拡張して血液で満たされる筋弛緩の構成をとる。心房拡張期(図1aに示す)では、心房10、20が(心房収縮期よりも早く)拡張し、三尖弁50および僧帽弁70が閉じられ、上大静脈120および下大静脈125からの血液、ならびに、肺静脈130からの血液がそれぞれ心房10および20を満たす。心室拡張期(図1bに示す)では、心室30、40は、心室拡張期容積としても知られる最大容積に達するまで(心室収縮期より早く)拡張し、肺動脈弁60および大動脈弁80は閉じられ、心房10および20からの血液は、それぞれ心室30および40を満たす。特に、心房収縮期は心室拡張期と対応して生じ、心房拡張期は心室収縮期に対応して生じる。
【0007】
言い換えれば、洞律動において(すなわち、健康な人の生理機能において)、心房および心室の収縮期ならびに心房および心室の拡張期は正確なタイミングに従って同期され、これにより、心臓が、全身から来る酸素が消費された血液を、肺に向かってポンピングすることによって再酸素化し、その後全身を通らせることが可能になる。
【0008】
心臓のいくつかの疾患は、そのポンピング能力を低下させ得る。心臓が血液を適切にポンピングしないとき、血液は肺および全身の他の部分に蓄積し得る。心不全の症状は、概して、全身の重要な器官に適切な血流を供給することができない心臓に由来する。このような場合において、薬物および他の外科的選択肢が心不全を解決するのに十分でない場合は、心臓補助システムが必要となり得る。
【0009】
従来技術の心臓補助システムの中で、広く使用されている解決策は、重度の心不全を有する患者のために顕著に改善された治療選択肢を有する機械的ポンプを備える軸流心室補助装置(VAD)である。そのようなVADデバイスは、例えば、米国Jarvik Heart,Inc.から入手可能なJarvikデバイスおよび米国MicroMed Technology,Inc.から入手可能なDeBakeyデバイスとして、WO89/07427A1、WO99/49912A1、US2018/0303991A1、および、WO2018/078370A1、ならびに、以下の文献に開示されている。Ootaki Y. et al. in "Phasic coronary blood flow pattern during a continuous flow left ventricular assist support", Eur. J. of Cardio-thorac. Surg. 28 (2005) 711-16、Radovancevic B. et al. in "End- organ Function in Patients on Long-term Circulatory Support With Continuous- or Pulsatile-flow Assist Devices", J. of Heart and Lung Transp. 2007, 815-18、Frazier O.H. et al. in " Multicenter clinical evaluation of the HeartMate vented electric left ventricular assist system in patients awaiting heart transplantation", J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 2001, 122:1186-95、Letsou G.V. et al. in "Continuous axial-flow left ventricular assist device (Jarvik 2000) maintains kidney and liver perfusion for up to 6 months", Ann. Thorac. Surg. 2003; 76:1167-70、Thalmann M. et al. in "Physiology of continuous blood flow in recipients of rotary cardiac assist devices", J. Heart Lung Transplant 2005; 24:237-45、Thohan V. et al. in "Cellular and hemodynamics responses of failing myocardium to continuous flow mechanical circulatory support using the DeBakey - Noon left ventricular assist device: a comparative analysis with pulsatile-type devices", J. Heart Lung Transplant 2005; 24:566-75、および、Hetzer R. et al. in "First experiences with a novel magnetically suspended axial flow left ventricular assist device", Eur. J. Cardiothorac. Surg. 2004; 25:964-70
【0010】
VADデバイスは回転ポンプに基づいており、従来の拍動性デバイスのいくつかの問題、例えばサイズおよび複雑さ等の埋め込みの困難さおよび有害事象(例えば、手術中の出血、感染、血栓症およびデバイスの機能不全)に対応するために開発されたものである。VADデバイスの小型埋込型ポンプは、インペラブレードを有するロータを備える電磁機構を使用することによって、脈動型ポンプの代わりに、連続流を提供する。現在の非脈動軸流ポンプは、コンパクトな設計を備え、単一の可動部品を使用し、エネルギー要件がより小さい傾向がある。例えば、Jarvikデバイスは、左心室の内部に埋め込まれ、流入カニューレを必要としないように構成される。左心室用への回転式VADデバイスの長期間の埋め込みは、末期の心不全患者の治療のためによりいっそう使用されている。
【0011】
しかしながら、現在利用可能なVADデバイスもいくつかの欠点がある。
【0012】
第1に、デバイスとともに設けられる回転ポンプの動作する速度は、逆流および過度な吸引の両方を回避するように注意深く調整されなければならない。実際、逆流(還流)は、ポンプ速度(rpm)が低すぎる値に設定された時に生じ、その結果、血液が大動脈100からポンプを通じで左心室40に戻ることになる。一方で、過剰な吸引は、ポンプが、ポンプの高速動作に起因して、左心室40内で許容できる量より多くの血液を引き込もうとしたときに生じ得る。吸引は、左心室40の心室虚脱を引き起こし得、これにより胸痛および心臓組織への損傷を引き起こし得る。その結果として、主に速度により定まり、心拍数により定まり、脈動方式では調節できないポンプの流れは、生理学的に洞律動に適合することができず、末梢循環の変化に追従することができず、その結果、使用中の心臓流出量の適合が欠如する。また、このようなデバイスの移植は、極めて侵襲的であり、これが移植される心腔の不可逆的損傷を必要とし、さらに、不自然な心臓流によって圧迫される他の心腔にストレスを与える。
【0013】
ポンプからの流出ラインは、下行大動脈に接続される。ポンプ速度が速いと、大動脈弁80は閉じたままであり、VADデバイスは心室機能を完全に置き換える。大動脈弁80における血栓の形成の可能性を制限するために、現在のVADシステムは、1分あたり10秒間速度を低下させ、この間において、大動脈弁80は再び開き、拍動流を感知できる。回転ポンプの回転数が再び増加すると、大動脈流の拍動性は減少するが、大動脈弁80を開放し続けるのに十分な最小圧力のおかげで完全には消失しないかもしれない。大動脈弁80が閉じた状態に戻ると、左心室40と大動脈100との間の圧力勾配は、実際には心周期とともに変化する。これは、僧帽弁70の開閉によって引き起こされる圧力の変化(残存心室収縮によってはるかに少ない範囲にまで及ぶ)が、ポンプを通して大動脈100に伝達されるためである。動脈パルスプロファイルの研究により、僧帽弁70の閉鎖(大動脈弁60はこの50秒の間、常に閉鎖される)に応じた圧力曲線の下降部分において、重拍切痕を評価することが可能となる。言い換えれば、連続的な流れを生成するVADデバイスが埋め込まれる心筋の動きは、循環系の結果として生じる流れに残るわずかな拍動に影響する。
【0014】
結論として、VADデバイスは、非拍動性、したがって、非生理学的な流れ(すなわち、洞律動に適合しない)を生成し、それらの血行動態特性は、拍動性デバイスとは異なる。
【0015】
上述のように、所与の回転速度において、回転ポンプを通る流れは、生理学的な流れにおけるような拍動性ではなく、連続的である。
【0016】
また、ポンプ速度が高すぎる場合、動脈圧そのものの波形形態の典型的な変化は消失する傾向があり、(大動脈弁60が閉じていることを示す)重拍切痕は存在しない。
【0017】
最終的に、回転ポンプを有するVADデバイスでは、ポンプ速度が大動脈弁60を閉じた状態を維持するほど十分に速い場合であっても、左心室圧の変動がVAD装置を介して動脈に伝達される。これは、重要な臨床的帰結(例えば、大動脈弁60の弁尖の融合および上行大動脈における血栓症)をもたらす可能性があり、現在の研究は、このような合併症を予防するためにこれらの使用を最適化することを目的としている。
【0018】
これらの欠点を克服するために、US2016/0317729A1、および、US2016/0346085A1の文献に記載されているように、器官全体を封入する他のデバイスが開発されている。自然な心臓と組み合わせて使用される心室内同所性ポンプが、US5139517Aに記載されている。
【0019】
しかしながら、これらのデバイスは、同様に侵襲性が高く、心腔に対して非選択的であり、その結果、経時的に劣化して損傷する可能性があり、生理学的形態に適合できず、電気生理学的性質の問題を伴う可能性がある。
【0020】
したがって、本発明の目的は、左心室だけでなく、任意の心腔の動作を、単純で、適応可能で、効率的かつ信頼できる方法で選択的に支援し、これにより、心腔が生理学的形態およびその生理学的特性に最も適合する動作を有することを確実にすることである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
したがって、本発明の具体的主題によれば、左心室、左心房、右心室、および右心房からなるグループから選択される患者の心腔の中に埋め込まれるように構成される、心腔プロテーゼであって、
心腔は、生体出口弁と、生体入口弁および大静脈または肺静脈の1つまたは複数の出口からなるグループから選択される少なくとも1つの入口開口と、を備え、
プロテーゼは、
弾性可変容積を画定する内面を有し、それぞれの第1の境界によって画定される第1の開口と、それぞれの第2の境界によって画定される少なくとも1つの第2の開口と、を備える内側弾性膜と、
それぞれの第1の境界によって画定される第1の開口と、それぞれの第2の境界によって画定される少なくとも1つの第2の開口と、を備える外側弾性膜、ここで、外側弾性膜は、心腔の内壁を把持するように構成された複数のクリップをさらに備える、を含む、または、それらからなる基準支持弾性膜構造と、を有し、
内側および外側弾性膜の第1の開口の境界は、互いに一体的に結合され、生体出口弁を取り囲み、その上で縫合されるように構成される出口境界を形成し、
内側および外側弾性膜の第2の開口の境界は、互いに一体的に結合され、少なくとも1つの入口開口を取り囲み、その上で縫合されるように構成される少なくとも1つの入口境界を形成し、
内側弾性膜および基準支持弾性膜構造は、複数の第1の可変接続要素によって互いに接続され、これにより、内側弾性膜および基準支持弾性膜構造は、それらの間に第1の間隙を画定し、第1の間隙は、可変の量及び/又は圧力の流体を受容できるように構成され、これにより、第1の間隙、および、内側弾性膜の表面により画定される弾性可変容積が動的に変化する。
【0022】
本発明の他の態様によれば、外側弾性膜の弾性係数は、内側弾性膜の弾性係数よりも大きくなく、任意選択的にそれよりも低くてもよい。
【0023】
本発明のさらなる他の態様によれば、内側および外側弾性膜のそれぞれは、可変弾性係数を有してもよく、内側および外側弾性膜のそれぞれは、任意選択的に、それぞれの弾性係数を有する2つ以上の領域を含む。
【0024】
本発明の追加的な態様によれば、流体は、液体、任意選択的には血液適合性溶液、より任意選択的には滅菌生理食塩水、または、気体、任意選択的にはヘリウムであってもよい。
【0025】
本発明の他の態様によれば、心腔プロテーゼは、さらに、出口境界または少なくとも1つの入口境界に一体的に連結される少なくとも1つの人工弁を有してもよい。
【0026】
本発明のさらなる態様によれば、第1の可変接続要素は、第1の弾性タイであってもよく、その各々は、外側弾性膜の弾性係数よりも、および、内側弾性膜の弾性係数よりも大きい弾性係数を有し、第1の弾性タイは、任意選択的に、それらが接続される内側弾性膜の面積に応じて可変の弾性係数を有する。
【0027】
本発明の追加的な態様によれば、心腔プロテーゼは、カテーテルの内側に収容されるように構成されてもよい。
【0028】
本発明の他の態様によれば、外側弾性膜及び/又は内側弾性膜は、放射線不透過性である部分を含んでもよい。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、第1の間隙は、プロテーゼが備える少なくとも1つの可変容積弾性袋体、または、外部ポンプと流体連通するように構成されてもよい。
【0030】
本発明の追加的な態様によれば、内側弾性膜と外側弾性膜との間の少なくとも1つは、不連続構造を備えてもよく、
不連続構造は、任意選択的に、
弾性接合線に沿って互いに接続された複数の弾性プレートによって形成されるハニカム不連続構造、ここで、より任意選択的に、弾性接合線は、弾性プレートの弾性係数よりも大きい弾性係数を有する、と、
弾性接合線に沿って互いに接続された複数の弾性多角形プレート、より任意選択的には、五角形及び/又は六角形の形状のプレートによって形成された不連続構造、ここで、より任意選択的に、弾性接合線は、弾性多角形プレートの弾性係数よりも大きい弾性係数を有する、と、
を備えるグループから選択される。
【0031】
本発明の他の態様によれば、内側弾性膜および外側弾性膜は、それぞれ、内側弾性膜および外側弾性膜を電気的及び/又は電磁的に分極させるように構成された複数の電極を備えてもよく、制御ケーブルのそれぞれを介して電極に接続された電子処理ユニットの制御下にそれぞれある。
【0032】
本発明のさらなる態様によれば、基準支持弾性膜構造は、外側弾性膜と内側弾性膜との間に介在する中間弾性膜をさらに有してもよく、ここで、任意選択的に、中間弾性膜は、外側弾性膜の弾性係数よりも、および、内側弾性膜の弾性係数よりも大きくなく、任意選択的に低い、弾性係数を有し、
中間弾性膜は、それぞれ第1の境界によって画定される第1の開口であって、内側および外側弾性膜の第1の開口の境界に一体的に結合される第1の開口と、それぞれ第2の境界によって画定される少なくとも1つの第2の開口であって、内側および外側弾性膜の第2の開口の境界に一体的に結合される第2の開口と、を備え、
中間弾性膜及び外側弾性膜は、複数の第2の可変接続要素によって互いに接続され、任意選択的に、第2の可変接続要素は、第2の弾性タイからなり、任意選択的に、それぞれは、外側弾性膜の弾性係数よりも、および、中間弾性膜の弾性係数よりも大きい弾性係数を有し、
第2の弾性タイは、それらが接続される中間弾性膜の面積に応じて可変の弾性係数を有し、これにより、複数の第1の可変接続要素は、内側弾性膜および中間弾性膜を互いに接続し、これにより、外側弾性膜および中間弾性膜は、これらの間に、第2の間隙を画定し、第2の間隙は、流体、任意選択的には液体、より任意選択的には血液適合性溶液、より任意選択には滅菌生理食塩水からなるもの、または、ガス、任意選択的にはヘリウムからなるものを受容するように構成される。
【0033】
本発明の追加的な態様によれば、第2の間隙は、第2の間隙の容量が動的に変化するように、可変の量及び/又は圧力の流体を受容するように構成されてもよく、任意選択的に、第2の間隙は、プロテーゼが備える少なくとも1つの可変容積弾性袋体、または、外部ポンプと流体連通するように構成される。
【0034】
本発明の他の態様によれば、中間弾性膜は、不連続構造を備えてもよく、
不連続構造は、任意選択的に、
弾性接合線に沿って互いに接続された複数の弾性プレート、より任意選択的には、六角形の形状のプレート、によって形成されるハニカム不連続構造、ここで、より任意選択的には、ハニカム不連続構造は、弾性プレートの弾性係数よりも大きい弾性係数を有する、と、
弾性接合線に沿って互いに接続された複数の弾性多角形プレート、より任意選択的には、五角形及び/又は六角形の形状のプレートによって形成される不連続構造体、ここで、より任意選択的には、不連続構造体は、弾性多角形プレートの弾性係数よりも大きい弾性係数を有する、と、
を備えるグループから選択される。
【0035】
本発明のさらなる態様によれば、中間弾性膜は、それぞれ、中間弾性膜を電気的及び/又は電磁的に分極させるように構成された複数の電極を備えてもよく、複数の制御ケーブルのそれぞれを介して電極に接続された電子処理ユニットの制御下にそれぞれある。
【0036】
本発明の追加的な態様によれば、心腔プロテーゼは、
左心室に移植され、これにおいて、出口境界は、生体大動脈弁を取り囲み、その上で縫合されるように構成された大動脈境界であり、少なくとも1つの入口境界は、生体僧帽弁を取り囲み、その上で縫合されるように構成された僧帽弁境界であってもよく、または、
左心房に移植され、これにおいて、出口境界は、生体僧帽弁を取り囲み、その上で縫合されるように構成された僧帽弁境界であり、少なくとも1つの入口境界は、肺静脈のそれぞれの1つ以上の出口に対応する領域を取り囲み、その上で縫合されるように構成された1つ以上の境界であってもよく、また、
右心室に移植され、これにおいて、出口境界は、生体肺動脈弁を取り囲み、その上で縫合されるように構成された肺動脈弁境界であり、少なくとも1つの入口境界は、生体三尖弁を取り囲み、その上で縫合されるように構成された三尖弁境界であってもよく、また、
右心房に移植され、これにおいて、出口境界は、生体三尖弁を取り囲み、その上で縫合されるように構成された三尖弁境界であり、少なくとも1つの入口境界は、大静脈のそれぞれの1つ以上の出口に対応する領域を取り囲み、その上で縫合されるように構成された大静脈の1つ以上の境界であってもよい。
【0037】
本発明の他の具体的主題によれば、前述の心腔プロテーゼを2乃至4個備え、心腔プロテーゼは、患者の2つ以上の心腔のそれぞれに埋め込まれるように構成される。
【0038】
本発明の他の態様によれば、心腔プロテーゼは、相互に関連付けられた2つの心腔プロテーゼを含む、または、それらからなり、
心腔プロテーゼは、左心室および左心房、または、右心室および右心房に埋め込まれるように構成され、関連する2つの心腔プロテーゼの第1の間隙は、連通ダクトを介して互いに流体連通し、これにより、2つの関連する心腔プロテーゼの第1の間隙が置き換わることを介して、2つの関連する心腔プロテーゼのうちの一方の第1の間隙の容積は、2つの関連する心腔プロテーゼのうちの他方の第1の間隙の容積が減少するときに、増加するように構成され、逆もまた同様である。
【0039】
本発明のさらに具体的な主題によれば、少なくとも1つのポンプ及び/又は電子処理ユニットは、心腔プロテーゼ、または、心腔プロテーゼアセンブリの心腔プロテーゼの第1の間隙に受容される流体の量及び/又は圧力を制御し、これにより、心腔プロテーゼ、または、心腔プロテーゼアセンブリの心腔プロテーゼの第1の間隙の容積を動的に変化させように構成される。
【0040】
本発明に係る心腔プロテーゼおよび関連するアセンブリは、電気的及び/又は電磁的及び/又は空気圧制御のおかげで異なる状況にも適応可能な生理学的方法で任意の心室(または2つ以上の心腔)の動作を支援することを可能にする。
【0041】
特に、本発明に係る心腔プロテーゼ、関連するアセンブリおよび関連する心臓補助システムは、重篤な心不全を有する患者に対する治療選択肢を有意に改善する。実際、本発明に係る心臓補助システムは、拍動性および生理学的流れを生成することができ、その血行動態特性は、回転ポンプに基づくVADデバイスで得ることができる連続的なものとは異なる。所与の活性化速度において、本発明に係る心腔プロテーゼ、ならびに関連アセンブリは、可変かつ適応可能な方法で動作し、それを通過する圧力勾配(例えば、左心室40に適用される場合、この勾配は、心室収縮期における大動脈100の圧力と左心室40の圧力との間の勾配であり、心房収縮期における左心房20の圧力と左心室40の圧力との間の勾配である)に敏感である。また、得られた動脈圧の波形は、壊死性切痕が存在する(すなわち大動脈弁80が閉じている)人の心臓の生理学的波形に合致する。さらに、本発明に係る心腔プロテーゼ、関連アセンブリ、および関連心臓補助システムは、サイズおよび重量が低減され、埋込および制御が容易であり、エネルギー消費が低減される。
【0042】
最後に、本発明に係る心腔プロテーゼ、関連するアセンブリ、および関連する心臓補助システムは、製造が簡単かつ安価である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
本発明は、その好ましい実施形態に従って、添付の図面を特に参照することによって、限定ではなく例示として説明される。
図1図1は、心臓の概略断面図である。
図2図2は、一部が除去された、本発明に係るプロテーゼの第1の実施形態の概略斜視図である。
図3図3は、図2のプロテーゼが埋め込まれた心臓の概略断面図である。
図4図4は、図3の心臓が可視化された患者の概略正面図である。
図5図5は、一部が除去された本発明に係るプロテーゼの第2の実施形態の概略斜視図(図5a)と、その拡大部分の斜視図(図5b)である。
図6図6は、本発明に係るプロテーゼの第3の実施形態が埋め込まれた心臓の概略断面図である。
図7図7は、図6の心臓が可視化された患者の概略正面図である。
図8図8は、本発明に係るプロテーゼの第4の実施形態が埋め込まれた心臓の概略断面図である。
図9図9は、本発明に係る心腔プロテーゼのアセンブリの第1の実施形態が埋め込まれた心臓の概略断面図である。
図10図10は、本発明に係る心腔プロテーゼのアセンブリの第2の実施形態が埋め込まれた心臓の概略断面図である。
図11図11は、本発明に係る心腔プロテーゼのアセンブリの第3の実施形態が埋め込まれた心臓の概略断面図である。
図12図12は、本発明に係る心腔プロテーゼのアセンブリの第4の実施形態が埋め込まれた心臓の概略断面図である。
【0044】
図面において、同様の要素には同じ参照番号が使用される。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図2および図3を参照すると、本発明に係るプロテーゼ(人工器官)の第1の実施形態が示されている。これは左心室を対象とするものであり、これによれば左心室プロテーゼとなる。左心室プロテーゼは、外側弾性膜200および内側弾性膜250を備え、それぞれ、第1の開口および第2の開口が設けられる。外側弾性膜200及び内側弾性膜250の第1の開口の境界は、互いに一体的に結合されて、大動脈開口280を画定する大動脈境界285を形成する。外側弾性膜200および内側弾性膜250の第2の開口の境界は、互いに一体的に結合されて、僧帽弁開口270を画定する僧帽弁境界275を形成する。有利には、外側弾性膜200及び内側弾性膜250の第1の開口の境界は、大動脈境界285を形成するように互いに電気溶着される。同様に、外側弾性膜200および内側弾性膜250の第2の開口の境界は、僧帽弁境界275を形成するように互いに電気溶着される。
【0046】
外側弾性膜200および内側弾性膜250は、複数の弾性タイ290によって互いに弾性的に連結されており、それぞれ、外側弾性膜200の内面204および内側弾性膜250の外面252に一体的に結合された2つの端部をそれぞれ有する。弾性タイ290のそれぞれは、その端部が静止構成から出発して互いに離れるように移動させる応力を受けると、弾性的に引き伸ばされるように構成される。外側弾性膜200の外面202には、左心室の内壁45に設けられる左心室容積減少プロテーゼを固定するために使用されるものと同様の複数の従来型のフックファスナ210(クリップとしても知られる)が、左心室の組織に刺さることによって左心室の内壁45を把持するように備えられている。そして、図3に示されるように、外側弾性膜200がそこに安定的に埋め込まれることが可能となる。
【0047】
外側弾性膜200および内側弾性膜250の両者は、それぞれ、(プロテーゼが埋め込まれることが意図された)左心室の内壁45の1つに近似した形態を有する。これにより、それらは実質的に3つの領域、すなわち、第1および第2の開口が配置される基部と、心室頂部と、基部と心室頂部とを接合する中間壁とを含み、これらの構成では、中間壁が基部と心室頂部との間の中間位置に配置される。このような構成により、内手袋のように、外側弾性膜200が心室の内壁にぴったりと合うことが可能となる。外側弾性膜200は、クリップ210を通して心室の内壁を把持するように構成される。
【0048】
この点に関して、左心室プロテーゼ、すなわち外側弾性膜200およびその内側弾性膜250は、異なる患者の左心室の特定の容積に適合するように、患者の体表面(BSA Body Surface Area:体表面積)と相関のある種々のサイズで作製することができる。
【0049】
外側弾性膜200および内側弾性膜250のそのような形状のおかげで、プロテーゼは、その組織に適合することによって左心室の内側に埋め込まれるように構成され、その内壁45が、クリップ210を通して把持するように構成される。任意選択的に、2つの外側弾性膜200及び内側弾性膜250の側壁の形状は、2つのノッチ(不図示)を含み、プロテーゼが乳頭筋および腱索筋自体と干渉しないように、前後乳頭筋、および、僧帽弁70に接続された左心室の腱索筋(これも不図示)をクリップなしで受容するように構成されてもよい。
【0050】
いずれの場合においても、2つの外側弾性膜200および内側弾性膜250は、これらの弾性により任意の形態学的差異を補償することが可能となるので、左心室の内壁45(ここにプロテーゼが埋め込まれることが意図される)の1つに正確に適合する形態を必ずしも有する必要はない。特に、外側弾性膜200の弾性により、クリップ210を通して把持する左心室の内壁45の形態に追従することが可能となる。
【0051】
僧帽弁境界275は、生体僧帽弁70を取り囲み、その上で縫合されるように構成され、大動脈境界285は、生体大動脈弁80を取り囲み、その上で縫合されるように構成される。具体的には、僧帽弁境界275は、入口境界として動作し、生体僧帽弁70は、心室の少なくとも1つの入口開口に設けられる生体入口弁として動作し、大動脈境界285は、出口境界として動作し、生体大動脈弁80は、生体出口弁として動作する。
【0052】
外側弾性膜200および内側弾性膜250ならびにタイ290は、生体適合性弾性材料、任意選択的に生体適合性弾性ポリマー材料、さらに任意選択的にポリテトラフルオロエチレン(ePTFEとしても知られる)により作製される。
【0053】
クリップ210は、生体適合性金属材料、任意選択的に形状記憶合金、さらに任意選択的にニッケルチタン形状記憶合金(NITINOLとしても知られる)により作製される。
【0054】
外側弾性膜200および内側弾性膜250は、複数の弾性タイ290によって互いに弾性的に接続され、後で詳細に説明するように、弾性的に可変に構成された容積を有するそれらの間の閉じられた間隙230を画定する。特に、基準支持弾性膜構造は外側弾性膜200からなり、間隙230は第1の間隙として動作し、複数の弾性タイ290は複数の第1の可変接続要素として動作する。
【0055】
有利には、外側弾性膜200の弾性係数は、内側弾性膜250の弾性係数より大きくなく(すなわち、等しいまたはより小さい)、任意選択的に小さい(すなわち、弾性が低い)。また、左心室の生理学的弾性挙動をよりよくシミュレートするために、任意選択的に、内側弾性膜250の弾性係数は、後でより詳細に説明されるように、その面積に従って可変である。
【0056】
有利には、弾性タイ290は、外側弾性膜200および内側弾性膜250のうちの1つよりも大きい弾性係数を有する。さらに、後でより詳細に説明されるように、任意選択的に、左心室の生理学的弾性挙動をよりよくシミュレートするために、弾性タイ290の弾性係数は、それらがその一端で接続される内側弾性膜250の面積に従って可変である。
【0057】
図2および図3に示す左心室プロテーゼは、カテーテルによって大動脈弁80を通して挿入することによって、低侵襲経皮埋め込みによって左心室に移植することができ、任意選択的に、カテーテルは、圧縮されたプロテーゼを内部に含むように、18~24フレンチの範囲、さらなる任意選択的には18~21フレンチの範囲の直径を有する(ここで、フレンチは、シャリエールスケールとしても知られるいわゆるフレンチスケールによるカテーテル直径の測定単位であり、1フレンチは=0.33mmである)。この挿入は、人工大動脈弁、僧帽弁クリップ、および末梢ステント等の他のデバイスの挿入のために従来及び現在において行われているものと同様である。
【0058】
左心室への挿入後、プロテーゼは拡張され、外側弾性膜200の外面202に取り付けられるクリップ210は、プロテーゼを左心室自体の中に安定的に位置決めできるように、左心室の内壁45を把持する。僧帽弁70を取り囲むように位置決めされる僧帽弁境界275は、僧帽弁70自体に近接して縫合される。同様に、大動脈弁80を取り囲むように位置決めされる大動脈境界285は、大動脈弁80自体に近接して縫合される。
【0059】
代替的に、図2および3に示される左心室プロテーゼは、非高侵襲心臓手術(例えば、経心尖または経鎖骨下手術)によって、または侵襲心臓手術によって、左心室の中に埋め込まれてもよい。この場合、クリップ210の左心室組織への挿入によるプロテーゼの位置決めに続いて、プロテーゼは、外科医により左心室の内壁45に縫合することによっても安定化され得る。この場合も、僧帽弁境界275および大動脈境界285は、それぞれ僧帽弁70および大動脈弁80に近接して縫合される。
【0060】
有利には、本発明に係る左心室プロテーゼは、例えば外側弾性膜200及び/又は内側弾性膜250内に、放射線不透過性である部分を含む。従って、左心室内のプロテーゼの設置中には、外科医を支援するために放射線による透視法によって可視化される(例えば、僧帽弁境界275および大動脈境界285は、放射線不透過性であり得る)。
【0061】
外側弾性膜200および内側弾性膜250によって画定される間隙230は、流体、特に血液適合性溶液のような液体、例えば滅菌生理食塩水、または、例えばヘリウム等のガスを、可変の量及び/又は圧力で受容し、間隙230自体の容量が動的に変化され、その結果、内側弾性膜250の内面254によって画定される弾性可変容積が動的に変化されるように構成される。
【0062】
この目的を達成するために、間隙230は、外側弾性膜200上に配置された(少なくとも)1つのアクセス穴を通してアクセス可能であり、左心室へのプロテーゼの埋込後には、その穴上にダクト330が縫合され、ダクト330は、間隙230を(流体または空気圧の)外部ポンプ340Aと接続する。任意選択的に、(少なくとも1つの)このアクセス穴の境界は放射線不透過性材料で作製され、その結果、ダクト330の位置決めのために、容易な識別が可能になる。プロテーゼを左心室に挿入する間、(少なくとも1つの)このアクセス穴は、生体物質が間隙230に入るのを防ぐために閉じられる。(少なくとも1つの)この穴は、外側弾性膜200の任意の位置に配置してもよく、ダクト330は、結果的に心筋の対応する領域を横断するかもしれない(おそらく大動脈100も通過する)。有利には、プロテーゼは、複数の密閉されたアクセス穴を備え得る(または、アクセス穴を形成するために除去され得る外側弾性膜200の領域を画定し得る境界を単に有し、その上でダクト330の境界を縫合してもよい)。複数の密閉されたアクセス穴は、外側弾性膜200上に分散され得る。外科医は、心筋の適切な領域に対応する外側弾性膜200上の位置に基づいて、ダクト330を縫合すべきアクセス穴を選択することができ、そして、選択されたアクセス穴を開けた(もしくは、選択された境界によって区切られた外側弾性膜200の領域を除去してアクセス穴を形成した)後に、ダクト330をその境界で縫合することができる。代替的に、外科医は、外側弾性膜200の領域を除去し、そして、形成された穴の境界上でダクト330を縫合することによって、外側弾性膜200上の(心筋の適切な領域に対応する)任意の位置で穴にアクセスできる。
【0063】
本発明をよりよく理解するために、図2および図3に示す左心室プロテーゼの主な動作モードを以下に説明する。心房収縮期の終わりには、内側弾性膜250は、心室拡張期容積まで拡張され、左心房20から来る酸素が取り込まれた血液を取り込む。図3aを参照すると、効率的な心室収縮期を形成するために、ポンプ340Aは、例えば、液体(例えば血液適合性溶液)または気体(例えばヘリウム)を導入することにより、流体を間隙230に注入することが観察され得る。これにより間隙230の容積が増加し、内側弾性膜250が外側弾性膜200から離れるように移動し、すなわち内側弾性膜250が左心室の内側に向かって移動する。これにより、結果的に内側弾性膜250の圧力が上昇し(すなわち、内側弾性膜250内の血液の圧力が増加し)、そして、僧帽弁70が閉鎖され、大動脈弁80が開放され、そして、大動脈開口280を通りSV(Stroke Volume:ストローク容積)としても知られる収縮期ストロークの排出が生じる。特に、内側弾性膜250によって画定される内部容積の全体的変動は、例えば、一般成人に対して約80ミリリットル~約120ミリリットルの範囲であり、これは排出されるSVの容積に等しい。有利には、ポンプ340Aは、約200ミリリットルの容積の液体または気体を変位させるように構成される。
【0064】
図3bを参照すると、心室収縮期の終わりには、大動脈弁80が閉鎖され、心房収縮期が開始することを観察できる。心房収縮期においては、僧帽弁70が開放され、内側弾性膜250の内側が、僧帽弁開口270を通って左心房20から来る血液で充填し始める。効率的な心室拡張期を形成するために、ポンプ340Aは、例えば、液体(例えば、血液適合性溶液)またはガス(例えば、ヘリウム)を吸引することによって、間隙230から流体を除去する。これにより、間隙230の容積が減少し、内側弾性膜250が外側弾性膜200に近づく、すなわち内側弾性膜250が左心室の内壁45に向かって移動する。これにより、内側弾性膜250内の圧力(すなわち、内側弾性膜250に含まれる血液の圧力)は、大動脈100内の血圧および左心房20内の血圧よりも低い値に維持され、大動脈弁80が閉鎖され、僧帽弁70が開放され、内側弾性膜250内における左心房20からの血流が促進される。有利には、内側弾性膜250が外側弾性膜200と実質的に接触してもよく、内側弾性膜250および外側弾性膜200は、適切な拡張期容積に達するまで、左心室の全体容積の増加に伴って拡張し続けてもよい。代替的に、例えば、心室拡張が著しく損なわれていない心筋の場合、内側弾性膜250は、外側弾性膜200の拡張も引き起こすことなく、心室拡張末期容積に達するまで拡張することができる。
【0065】
心房収縮期の終わりに、血液は、内側弾性膜250の内側の左心房20から流れなくなり、僧帽弁70が閉鎖され、大動脈弁80が開放され、したがって新しい心周期を開始する。
【0066】
プロテーゼによれば、流体を間隙230に導入することにより心室収縮期中に内側弾性膜250の内側を効率的に空にすることと、流体を間隙230から除去することにより心房収縮期中に左心房20をより良好に空にし、内側弾性膜250の内側を効率的に充填することとが可能となる。
【0067】
言い換えれば、左心室の内壁45と一体化した外側弾性膜200は、内側弾性膜250の変位起点として作用し、左心室の中心に向かう方向、および左心室の内壁45に向かって反対方向における変位を補助し、間隙230の容積の確実で迅速かつ効率的な変化を可能にする。このため、外側弾性膜200は、有利には、内側弾性膜250の弾性係数よりも低い弾性係数を有し、その結果、内側弾性膜よりも剛性が高く、膨張が制限される。
【0068】
前述のように、左心室の生理学的弾性挙動をよりよくシミュレートするために、任意選択的に、内側弾性膜250の弾性係数を場所によって変化させる。実際、僧帽弁70および大動脈弁80は、前者から後者への流れラインが長くないため最も剛性が高く、心尖部は、中間領域より、さらに僧帽弁70および大動脈弁80の領域に対しても、大きな変位を有する。したがって、任意選択的に、内側弾性膜250の基部は、内側弾性膜250の中間壁の弾性係数よりも低い弾性係数を有し、内側弾性膜250の中間壁の弾性係数は、(最大弾性係数を有する)内側弾性膜250の心尖部の弾性係数よりも低い。これにより、潜在的な乱流及びエネルギー損失が生じることを回避することが可能になる。場合によっては、内側弾性膜250の弾性係数は、内側弾性膜250の基部から心尖部まで連続的に変化(徐々に増加)してもよい。
【0069】
さらに、左心室の生理学的弾性挙動をよりよくシミュレートするために、弾性タイ290の弾性係数は、任意選択的に、弾性タイ290のそれらの端部の一方と接続される内側弾性膜250の面積に応じて可変である。すなわち、内側弾性膜250の基部に接続される弾性タイ290は、内側弾性膜250の中間壁に接続される弾性タイ290の弾性係数よりも低い弾性係数を有する。そして、内側弾性膜250の中間壁に接続される弾性タイ290の弾性係数は、(最大弾性係数を有する)内側弾性膜250の心尖部に連結される弾性タイ290の弾性係数よりも低い。場合によっては、弾性タイ290の弾性係数もまた、内側弾性膜250の基部から心尖部まで連続的に変化(徐々に増加)してもよい。
【0070】
図4に示されるように、ポンプ340Aは、場合によっては再充電可能な電源供給専用のバッテリまたはエネルギー貯蔵源とともに、例えばベルト435に取り付けられた、患者440により搬送可能なボックス(またはバックパック)430内に収容される。ダクト330は、ボックス430内に収容されたポンプ340Aを、患者440の心臓445内に埋め込まれた左心室プロテーゼに接続する。ポンプ340Aは、ポンプ自体の動作を制御する電子処理ユニットを備え、これにより、本発明に係るプロテーゼが埋め込まれた患者440の特定のBSAに適合可能な振幅および速度で内側弾性膜250の膨張および圧縮を調節する。これに関連して、ポンプ340Aの動作、およびその結果生じる間隙230の容積変化は、ペースメーカにおいて行われるものと同様の方法で制御することができる。
【0071】
(電子処理ユニットによって制御される)左心室プロテーゼおよびポンプ340Aを備える心臓補助システムは、半永久的なブリッジ、すなわち、新しい心臓器官が移植により利用可能となるまでの過渡的なサポートシステムとして、または、心臓器官全体の置換を代替する永久的なプロテーゼシステムとして使用することができる。
【0072】
本発明に係るプロテーゼによって提供される先行技術の解決手段に対する有意な点は、患者が、その機能性が低下して制限されているにもかかわらず、自身の心臓器官を有し続けることである。また、本発明に係るプロテーゼの低侵襲性の性質のおかげで、左心室機能不全に起因する機能不全が発症するかもしれない他の心腔の正常機能の維持または回復を可能にする。例として、経時的な左心室機能不全は変性をもたらし、その結果、左心房の病態ももたらし得る。左心室の正常化であっても、左心房、それに加えて右心室、そしてその結果として右心房における適切な機能の再確立が可能となる。このようにして、本発明に係るプロテーゼは、まだ完全に損傷していない臓器の残りの部分を回復することを可能にする。
【0073】
図5は、左心室用にも利用される本発明に係るプロテーゼの第2の実施形態を示す。これによれば、内側弾性膜の形態において、図2及び図3に示された第1の実施形態とは異なる左心室プロテーゼである。特に、第1の実施形態の内側弾性膜250は連続構造を有するが、図5に示す第2の実施形態の内側弾性膜260は、弾性接合線267に沿って互いに接続された複数の弾性プレート265、任意選択的に六角形の弾性プレートによって形成されたハニカム不連続構造を有する。
【0074】
本発明に係るプロテーゼの他の実施形態によれば、例えば、弾性接合線に沿って互いに接続された五角形及び/又は六角形などの形状の複数の多角形の弾性プレートによって形成された、図5に示す構造とは異なる不連続構造を有する内側弾性膜を有してもよい。
【0075】
有利には、外側弾性膜200の内面204を内側弾性膜260の外面に接続する弾性タイ290は、ハニカム不連続構造を形成する弾性プレート265の頂点(例えば、高い位置にある頂点)(この頂点は弾性接合線267の端部と一致する)に、(または、より一般的には、不連続構造を形成する多角形の弾性プレートの頂点に)固定される。
【0076】
任意選択的に、弾性接合線267の弾性係数は、弾性プレート265の弾性係数よりも大きい。このような構成では、内側弾性膜260によって画定される最小容積は常にゼロよりも大きく、プロテーゼの動作の信頼性および効率が高められる。
【0077】
本発明のプロテーゼのさらなる実施形態によれば、互いに接続された複数の弾性プレートによって形成された不連続構造を有する外側弾性膜を有してもよく、このような不連続構造は、例えば六角形プレートを有するハニカム構造、または五角形及び/又は六角形の多角形プレートを有し得る。有利には、外側弾性膜の内面と内側弾性膜の外面とを接続する弾性タイは、外側弾性膜の不連続構造を形成する弾性プレートの頂点(この頂点は弾性接合線の端部と一致する)に固定される。また、外側弾性膜は、場合によっては穿孔され得る。不連続構造を有する外側弾性膜を備える実施形態は、連続構造または不連続構造のいずれかを有する内側弾性膜を備え得る。
【0078】
図6を参照すると、本発明に係るプロテーゼの第3の実施形態が示され、依然として左心室を対象とするものであり、すなわち、左心室プロテーゼである。間隙230(ポンプ340Aは、そこに流体を導入する、または、そこから流体を吸引する)によって画定される容積の液圧または気圧による制御の代わりに、本発明に係るプロテーゼの第3の実施形態は、外側弾性膜205および内側弾性膜255を有する。外側弾性膜205および内側弾性膜255らのそれぞれは、複数の、任意選択的に電気的に絶縁された電極を備え、外側弾性膜205および内側弾性膜255自体を電気的及び/又は電磁的に分極させるように構成され、それぞれの制御ケーブル206および256を介して外側弾性膜205および内側弾性膜255の電極に接続された電子処理ユニット345Aにより制御される。
【0079】
間隙230の容積の変化は、外側弾性膜205及び内側弾性膜255の電気的及び/又は電磁的な極性によって制御される。(図6aに示される)心室収縮期の間、電子処理ユニット345Aは、外側弾性膜205および内側弾性膜255が同じ電気的及び/又は電磁的な極性を有するように電極を制御し、これによって、外側弾性膜205および内側弾性膜255は、互いに反発し、間隙230の容積を増加させ、図3aを参照して説明されるものと同様に、大動脈100の中への収縮期ストロークの放出が引き起こされる。(図6bに示される)心房収縮期の間、電子処理ユニット345Aは、外側弾性膜205および内側弾性膜255が反対の電気的及び/又は電磁的な極性を有するように電極を制御し、これによって、外側弾性膜205および内側弾性膜255は、互いに引き付けあい、間隙230の容積を減少させ(場合によっては、ゼロまで減少する)、図3bを参照して説明されるものと同様に、内側弾性膜255の内側において左心房20から流入する血液が増加する。
【0080】
これに関して、間隙230は、液体(例えば、血液適合性溶液)で充填することができ、少なくとも1つの可変容積弾性袋体(不図示)と流体連通する。可変容積弾性袋体は、液体貯蔵器として動作し、心筋の内側(例えば、大動脈弁80に近接、及び/又は僧帽弁70に近接して)または心筋の外側に配置することができる。心房収縮期の間、液体は、間隙230から(容積が増加している)弾性袋体の中へと置換され、心室収縮期の間、液体は、(容積が減少している)弾性袋体から間隙230の中へと置換される。液体に替えてまたは組み合わせて、間隙230は、ガス(例えば、ヘリウム)で充填することができ、これは、気体が圧縮可能であり、間隙230の圧力を心房収縮期中の高い値から心室収縮期中の低い値に変化させることができるためである。必ずしも間隙230が可変容積弾性袋体と流体連通している必要はない(この場合、従って任意選択的である)。
【0081】
電子処理ユニット345Aは、検討中の(外側又は内側)弾性膜(205又は255)の具体的な場所に応じて時間及び振幅が変化する方法で、外側弾性膜205及び内側弾性膜255のそれぞれの電気的及び/又は電磁的な極性を制御することができる。特に、電子処理ユニット345Aは、外側弾性膜205の電極を同じ制御信号(これもまた経時的に可変)で制御できる、または、各々がそれぞれの制御信号(これもまた経時的に可変)によって制御される個々のグループに細分された電極を考慮することにより制御できる(例えば、細分された電極として、基部グループは、外側弾性膜205の基部に配置された1つ以上の電極を含み、中間壁グループは、外側弾性膜205の中間壁に配置された1つ以上の電極を含み、心尖部グループは、外側弾性膜205の心尖部に配置された1つ以上の電極を含む)、または、対応する制御信号(これもまた経時的に可変)を電極の各々に送信することによって行われる(ここで、場合によっては、2つ以上の電極は、互いに個々に対応する制御信号を受信できる)。また、同様に、電子処理ユニット345Aは、内側弾性膜255の電極を同様のモードで、すなわち、同じ制御信号(これもまた経時的に可変)で、または電極が細分された個々のグループに対するそれぞれの制御信号(これもまた経時的に可変)で、または電極の各々に対する対応する制御信号(これもまた経時的に可変)で制御することができる。なお、外側弾性膜205の電極制御モードは、内側弾性膜255の電極制御モードと同じであっても異なっていてもよい。
【0082】
プロテーゼの動作を制御する電子処理ユニット345Aの電源は、任意選択的には再充電可能なバッテリ(またはエネルギー貯蔵源)を介して供給され、(図4に示すものと同様の方法で)患者により搬送可能な外部ボックス(またはバックパック)に収容することができる。代替的に、図7に示されるように、電子処理ユニット345Aは、その電力供給のためのバッテリとともに、従来のペースメーカと同様に、心臓445に左心室プロテーゼが埋め込まれた患者440の皮下に埋め込むことができる。これに関して、外側弾性膜205および内側弾性膜255の電極、及び、その結果としての極性、並びに、その結果生じる間隙230の容積変動は、ペースメーカにおいて行われるものと同様に制御することができる。この場合も、電子処理ユニット345Aは、プロテーゼの動作を制御し、これにより、内側弾性膜255の拡張および圧縮の調節を、本発明に係るプロテーゼが埋め込まれる患者440の具体的なBSAに適合可能な振幅および速度で行う。これは、例えば、電気的及び/又は電磁的な極性の強度を調整して、外側弾性膜205と内側弾性膜255との間に可変の引力及び反発力を生じさせることによって行われる。
【0083】
また、図6の左心室プロテーゼおよびその動作を制御する電子処理ユニット345Aを含む心臓補助システムは、半永久的なブリッジとして、または永久的なプロテーゼシステムとしても使用することができる。
【0084】
図6に示す左心室プロテーゼは、プロテーゼの大動脈開口280を画定する大動脈境界285に一体的に結合された人工大動脈弁530をさらに備える。このような人工大動脈弁530は、不適切なまたは病理学的な生体大動脈弁によって引き起こされる問題を克服することを可能にする。この場合、プロテーゼは、有利には、生体大動脈弁を開放することによって、または代替的に、低侵襲経皮経路によって、または非高侵襲の経心尖もしくは経鎖骨下の経路によって、心臓手術技法を用いて埋め込まれる。いったん移植されると、人工大動脈弁530は、将来的なものを開いたまま維持して押動させる。これにより、プロテーゼの大動脈開口280の開放または閉鎖は、人工大動脈弁530の開放(図6aに示されるように、人工大動脈弁530の開口部は、隆起スラブ535によって概略的に表される)または閉鎖(図6bに示される)に依存する。
【0085】
特に、本発明に係るプロテーゼの大動脈開口280を画定する大動脈境界285に一体的に結合される人工大動脈弁530は、従来技術の人工大動脈弁で得られるものよりも良好な位置決めおよびより高い安定性を有する。特に、人工大動脈弁530の動作はまた、弁自体の構成要素上に存在する特定の電極であって、順に電子処理ユニット345Aによって制御される電極によって制御可能であってもよい。この弁自体は、これらの構成要素の電気的及び/又は電磁的な分極を通して弁を開閉させるように構成される。また、人工大動脈弁530は、TAVI(Trans Aortic Valve Implantation)としても知られる従来の経皮的人工大動脈弁インプラントで起こり得る移植後の残留逆流の問題を回避する。
【0086】
人工大動脈弁530に替えてまたは組み合わせて、本発明に係る他の実施形態のプロテーゼは、人工僧帽弁とともに設けられることが可能であってもよい。また、本発明に係るプロテーゼの実施形態では、間隙230によって画定される容積は、流体をその中に導入する、またはそこから吸引するポンプによって制御され、人工弁を備え得る。
【0087】
本発明に係るプロテーゼの他の実施形態は、図3および図4に示すような流体圧制御または気体圧制御と、図6および図7に示すような電気的及び/又は電磁的制御との両方を使用することができ、これらの2つのタイプの制御は間隙230によって画定される容積を変化させる際に協働する。特に、液圧制御が液体(例えば、血液適合性溶液)を使用する場合、ポンプ340Aは、有利には、電気的及び/又は電磁的制御される(心筋の内側または外側に配置される)可変容積弾性袋体の少なくとも1つに置き換えられ得る。また、ポンプ340Aならびに外側弾性膜205および内側弾性膜255の電極の両方を制御する単一の電子処理ユニットを備えることが可能である。
【0088】
図8を参照すると、本発明に係るプロテーゼの第4の実施形態を観察することが可能であり、これは、依然として左心室に用いられるものであって、左心室の内壁45を充分に効果的かつ信頼できる方法で使用できない病理学的特徴を備える心筋を持つ患者を対象とする左心室プロテーゼである。このような患者においては、外側弾性膜200は、左心室の内壁45と一体的に形成され、内側弾性膜250の変位起点として充分に効果的かつ確実に機能することができない。これは拡張型心筋症の患者の場合であるが、限定ではなく例示として示されたものである。
【0089】
図8に示す左心室プロテーゼは、外側弾性膜205と内側弾性膜255との間に介在する中間弾性膜225をさらに備える点で、図6図7に示すプロテーゼとは異なる。中間弾性膜225は、外側弾性膜205及び内側弾性膜255と同様の形状を有し、これらには第1の開口及び第2の開口が設けられている。外側弾性膜205及び内側弾性膜255は、第1の開口及び第2の開口の境界にそれぞれ一体的に結合されており、これらにより、左心室プロテーゼの大動脈開口を画定する大動脈境界(生体大動脈弁80を取り囲み、その上で縫合されるように構成される)と、左心室プロテーゼの僧帽弁開口を画定する僧帽弁境界(生体僧帽弁70を取り囲み、その上で縫合されるように構成される)とが形成される。この場合においても、有利には、外側弾性膜205、中間弾性膜225、及び内側弾性膜255の第1の開口の境界は、大動脈境界を形成するように互いに電気溶接される。同様に、外側弾性膜205、中間弾性膜225、及び内側弾性膜255の第2の開口の境界は、僧帽弁境界を形成するように互いに電気溶接される。
【0090】
外側弾性膜205および内側弾性膜255と同様に、中間弾性膜225にも複数の電極が設けられる。これらの電極は、任意選択的に電気的に絶縁されており、中間弾性膜225自体を電気的及び/又は電磁的に分極させるように構成された、電子処理ユニット345Bにより制御される。また、電子処理ユニット345Bは、外側弾性膜205および内側弾性膜255の電気的及び/又は電磁的分極を制御し、制御ケーブル206、226、および256のそれぞれを介して外側弾性膜205、中間弾性膜225、及び内側弾性膜255の電極と接続される。
【0091】
中間弾性膜225は、複数の外側弾性タイ290Aおよび複数の内側弾性タイ290Bのそれぞれによって、外側弾性膜205および内側弾性膜255に弾性的に接続される。外側弾性タイ290Aは、各々、外側弾性膜205の内面および中間弾性膜225の外面(すなわち、外側弾性膜205と面する表面)にそれぞれ一体的に結合される2つの端部を有する。同様に、内側弾性タイ290Bは、それぞれ、内側弾性膜255の外面および中間弾性膜225の内面(すなわち、内側弾性膜255と面する表面)にそれぞれ一体的に結合される2つの端部を有する。内側弾性タイ290Bは、それぞれ、その端部が静止構成から出発して互いに離れるように移動させる応力を受けると、弾性的に引き伸ばされるように構成され、有利には、外側弾性タイ290Aのそれぞれもまた、その端部が静止構成から出発して互いに離れるように移動させる応力を受けると、弾性的に引き伸ばされるように構成される。任意選択的に、外側弾性タイ290Aの弾性係数は、中間弾性膜225の弾性係数および外側弾性膜205の弾性係数よりも大きい。より選択的には、外側弾性タイ290Aの弾性係数は、それらが接続される中間弾性膜225の面積に応じて可変である。
【0092】
上述のように、外側弾性膜205および内側弾性膜255は、図6図7に示す実施形態のものと同様であり、これらにおいて、外側弾性膜205の外面には、左心室の組織に刺さることによって左心室の内壁45を把持するように構成された複数の従来型のクリップ210が設けられる。このような構成により、外側弾性膜205を安定的に埋め込むことができる。
【0093】
また、中間弾性膜225は、外側弾性膜205および内側弾性膜255と同様に、有利には、左心室(ここにプロテーゼが埋め込まれることが意図される)の内壁45の1つに近似した形態を有し、任意選択的には、僧帽弁70に接続された左心室の前後乳頭筋ならびに腱索を受容するように構成される2つの切り欠きを備え、このように、患者のBSAと関連する異なる患者の左心室の個々の容積に適合するように、様々なサイズで作製することができる。いずれにしても、2つの外側弾性膜205および内側弾性膜255と同様に、中間弾性膜225は、その弾性が任意の形態的差異を補償することを可能にするので、左心室(ここにプロテーゼが埋め込まれることが意図される)の内壁45の形態に厳密に適合する形態を必ずしも有する必要はない。
【0094】
さらに、外側弾性膜205および内側弾性膜255と同様に、さらに外側弾性タイ290Aおよび内側弾性タイ290Bと同様に、中間弾性膜225は、生体適合性弾性材料、任意選択的に、生体適合性弾性ポリマー材料、より任意選択的に、ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE等としても知られる)から作製される。
【0095】
複数の外側弾性タイ290Aによって互いに弾性的に接続される外側弾性膜205及び中間弾性膜225は、それらの間の閉じられた外側間隙230Aを画定し、外側間隙230Aは、(仮に本発明の本質的な特徴でなくても)弾性的に可変に構成された容積を有する。中間弾性膜225および内側弾性膜255は、複数の内側弾性タイ290Bによって互いに弾性的に接続され、後で詳細に説明されるように、それらの間の閉じられた内側間隙230Bを画定し、内側間隙230Bは、弾性的に可変に構成される容積を有する。
【0096】
特に、基準支持弾性膜構造は、外側弾性膜205と、中間弾性膜225と、複数の外側弾性タイ290Aとを有する。また、内側間隙230Bは第1の間隙として動作し、外側間隙230Aは第2の間隙として動作し、複数の内側弾性タイ290Bは複数の第1の可変接続要素として動作し、複数の外側弾性タイ290Aは複数の第2の可変接続要素として動作する。
【0097】
中間弾性膜225は、互いに接続された複数の弾性プレートによって形成された連続構造及び不連続構造の両方を有することができ、このような不連続構造は、例えば六角形プレートを有するハニカム構造、または五角形及び/又は六角形の多角形プレートを有し得る。有利には、外側弾性膜の内面と中間弾性膜の外面とを接続する弾性タイ、および、内側弾性膜の外面と中間弾性膜の内面とを接続する弾性タイは、中間弾性膜の不連続構造を形成する弾性プレートの頂点(この頂点は弾性接合線の端部と一致する)に固定される。不連続構造を有する中間弾性膜を備える実施形態は、連続構造または不連続構造のいずれかを有する内側弾性膜と、連続構造または不連続構造のいずれかを有する外側弾性膜とを備え得る。
【0098】
また、図8に示されるプロテーゼの第4の実施形態では、図6に示されるものと同様に、電子処理ユニット345Bは、外側弾性膜205、中間弾性膜225、および内側弾性膜255の全てのそれぞれの電気的及び/又は電磁的な分極を制御し、これにより内側間隙230Bの容積を変化させる。特に、中間弾性膜225は、外側弾性膜205の弾性係数より大きくない(すなわち、等しいまたはより小さい)、任意選択的に小さい(すなわち、弾性が低い)、弾性係数を有する。これにより、中間弾性膜225が内側弾性膜255の変位起点として動作することを可能となり、左心室の中心に向かう方向、および左心室の内壁45に向かって反対方向における変位を補助し、内側弾性膜255によって画定される内部容積の確実で迅速かつ効率的な全体の置換を可能にする。特に、実質的に静的(すなわち一定)な基準位置において想定される構成(任意選択的には静止構成)に関して、中間弾性膜225は、任意選択的に、外側弾性膜205及び内側弾性膜255の拡張振幅に対してわずかにのみ拡張し、実質的に全く圧縮しないよう構成される。
【0099】
これに関して、電子処理ユニット345Bは、外側弾性膜205、中間弾性膜225および内側弾性膜255の全てのそれぞれの電気的及び/又は電磁的な分極を制御する。これにより、中間弾性膜225が、患者の生理学的な心室拡張期容積が内部に画定される実質的に静的(すなわち、一定)な位置を取るようになり、そして、内側弾性膜255が中間弾性膜225に対して移動することにより、内側間隙230Bの容積が周期的に変化する。特に、(図8bに示される)心房収縮期の間、電子処理ユニット345Bは、外側弾性膜205、中間弾性膜225および内側弾性膜255の全てのそれぞれの電気的及び/又は電磁的な分極を制御する。これにより、内側弾性膜255および中間弾性膜225は、互いに引き付け合い、内側間隙230Bの容積が(任意選択的に)ゼロに減少し、図3bを参照して説明したのと同様に、内側弾性膜255の内側の左心房20からの血流を促進する。(図8aに示される)心室収縮期の間、電子処理ユニット345Bは、外側弾性膜205、中間弾性膜225および内側弾性膜255の全てのそれぞれの電気的及び/又は電磁的な分極を制御する。これにより、中間弾性膜225および内側弾性膜255が互いに反発し、内側間隙230Bの容積を増加させる。その結果、図3aを参照して説明したのと同様に、収縮期ストロークの大動脈100への排出を引き起こす。
【0100】
第1の動作モードでは、電子処理ユニット345Bは、中間弾性膜225の分極を一定に保ち、外側弾性膜205及び内側弾性膜255の分極を動的に変化させる。特に、心周期中、電子処理ユニット345Bはまた、外側弾性膜205の分極を動的に変化させて、内側弾性膜255の極性変化により、患者の生理学的な心室拡張期容積が内部に画定される、実質的に静的(すなわち、一定)な基準位置に対する中間弾性膜225の変位を引き起こすことを防止する。言い換えれば、そのような第1の動作モードでは、外側間隙230Aの容積は実質的に一定のままである。
【0101】
図8に示すプロテーゼの他の動作モードは、中間弾性膜225の分極を一定に保つ代わりに、その分極を動的に変化させる電子処理ユニット345Bを有してもよい。これらの他の動作モードにおいても、外側間隙230Aの容積は実質的に一定のまま維持できる。
【0102】
さらに、図8に示すプロテーゼのさらなる動作モードは、外側弾性膜205、中間弾性膜225および内側弾性膜255の全てのそれぞれの電気的及び/又は電磁的な分極を制御する電子処理ユニット345Bを有し、内側間隙230Bの容積に加えて外側間隙230Aの容積も変化させることができる。
【0103】
図6のプロテーゼの間隙230と同様に、内側間隙230Bは、液体(例えば、血液適合性溶液)で充填することができ、少なくとも1つの可変容積弾性袋体(不図示)と流体連通して、液体貯留部として動作し、心筋の内側(例えば、大動脈弁80に近接、及び/又は僧帽弁70に近接して)または心筋の外側に配置することができる。心房収縮期の間、液体は、内側間隙230Bから(容積が増加している)弾性袋体の中へ移動させられ、心室収縮期の間、液体は、(容積が減少している)弾性袋体から内側間隙230Bの中へ移動させられる。液体の代わりにまたは組み合わせて、気体が圧縮可能であるため、内側間隙230Bは、ガス(例えば、ヘリウム)で充填することができ、内側間隙230Bの圧力を心房収縮期中の高い値から心室収縮期中の低い値まで変化させることができるためである。必ずしも内側間隙230Bが可変容積弾性袋体と流体連通する必要はない(この場合、従って任意選択的である)。
【0104】
外側間隙230Aの容積が実質的に一定のままである動作モードでは、所定量の液体(例えば、血液適合性溶液)またはガス(例えば、ヘリウム)で充填することができる。
【0105】
図8に示されるプロテーゼの他の動作モードでは、外側間隙230Aの容積も変化する。外側間隙230Aは、液体(例えば、血液適合性溶液)で充填することができ、少なくとも1つの可変容積弾性袋体(不図示)と流体連通し、心筋の内側(例えば、大動脈弁80に近接し、及び/又は僧帽弁70に近接する)または心筋の外側に配置することができる。少なくとも1つの可変容積弾性袋体は、内側間隙230Bが流体連通している少なくとも1つの可変容積弾性袋体と一致してもよい。液体の代わりにまたは組み合わせて、気体が圧縮可能であるため、外側間隙230Aは、ガス(例えば、ヘリウム)で充填することができ、必ずしも外側間隙230Aが可変容積弾性袋体と流体連通する必要はなく(この場合、従って任意選択的である)、その圧力を変化させることができる。
【0106】
依然として左心室を対象とする本発明に係るプロテーゼの第5の実施形態は、図8に示されるものとは異なり、外側弾性膜205、中間弾性膜225および内側弾性膜255の分極による内側間隙230Bの容積(および場合によっては外側間隙230Aの容積)の電気的及び/又は電磁的制御の代わりに、図2図5のプロテーゼについて説明したものと同様に、内側間隙230Bの容積(および場合によっては外側間隙230Aの容積)は、内側間隙230B(および場合によっては外側間隙230A)に対して流体をその中へ導入する、またはそこから吸引するポンプ(または2つのポンプ)を通じた流体圧または空気圧制御を通して変化される。この場合、プロテーゼは、移植される前に既に、内側間隙230Bにアクセスするためのダクトの(少なくとも)1つの部分を備え得る。ダクトは、外側弾性膜205上に存在する(少なくとも)1つの対応するアクセス穴を内側間隙230Bに接続する。移植段階において、外科医は、そのようなアクセス穴の境界(任意選択的に放射線不透過性であってもよい)に、対応するダクトを、ダクト部分とともに縫合する。ダクトは、外部のポンプにより容積変化が制御される内側間隙230Bと接続されている。
【0107】
外側弾性膜205、中間弾性膜225および内側弾性膜255を有する、左心室を対象にした本発明に係るプロテーゼの他の実施形態では、流体圧または空気圧の制御と、電気的及び/又は電磁的制御との両方を使用することができることに留意されたい。この場合、2つのタイプの制御は、内側間隙230Bによって画定される容積(場合によっては、外側間隙230Aによって画定される容積)の変動において協働する。
【0108】
本発明に係るプロテーゼのさらなる実施形態は、他の3つの心室、すなわち左心房20、右心室30、および右心房10のうちの1つを対象とし、図2図8に示されるプロテーゼについて図示されるものと同様であってもよく、すなわち、
左心室40と右心室30との間のものを対象にするプロテーゼは、それらが対象とする心室の2つの生体弁を取り囲み、それらに縫合されるように構成される第1の開口および第2の開口を有する。任意選択的に、プロテーゼの弾性膜の外側表面の形状は、クリップなしで、プロテーゼが乳頭筋自体に干渉しないように、三尖弁50に接続された右心室の乳頭筋を受容するように構成される3つの切り欠きを含んでもよく、
左心房20を対象とするプロテーゼは、生体僧帽弁70を取り囲み、その上で縫合されるように構成される第1の開口と、少なくとも1つのそれぞれの肺静脈130の口に対応して縫合されるように構成される少なくとも1つの第2の開口とを有し、
右心房10を対象とするプロテーゼは、生体三尖弁50を取り囲み、その上で縫合されるように構成された第1の開口と、上大静脈120及び/又は下大静脈125に対応して縫合されるように構成された1つまたは複数の第2の開口とを有し、
プロテーゼは、弾性タイによって互いに弾性的に連結された2つまたは3つの膜を有し、これらにおいて、プロテーゼは、弾性的に可変に構成された容積を有するこれらの膜の間の閉じられた間隙が画定される外側弾性膜および内側弾性膜を備え、あるいは、プロテーゼは、外側弾性膜と内側弾性膜との間に介在する中間弾性膜であって、弾性的に可変に構成された容積を有し、中間弾性膜によって閉じられた外側間隙、および、閉じられた内側間隙とを画定する中間弾性膜を備え、そして、外側弾性膜は、クリップを介して心室の内壁に把持するように構成され、
プロテーゼは、流体圧または空気圧制御を実行するポンプ、および、電極を備える弾性膜の電気的及び/又は電磁的分極を制御するように構成された電子処理ユニットの少なくとも1つを有し、これにより関連する心臓の周期および位相にて可変容積の間隙の容積変化が制御され、
プロテーゼは、図6に示す左心室プロテーゼと同様に、少なくとも1つの人工弁を備え得る。
【0109】
特に、プロテーゼの弾性膜の弾性係数は、各プロテーゼが対象とする具体的な心蔵室の機能に応じても異なり得る。
【0110】
図2図8において左心室プロテーゼについて示すものと同様に、他の3つの心室、すなわち左心房20、右心室30および右心房10のうちの1つを対象とする本発明に係るプロテーゼも、心臓手術技術を用いて、または代替的に、低侵襲経皮経路によって、または非高侵襲経心尖もしくは経鎖骨下経路によって、特定の心腔への特定のアクセスを介して移植することができる。限定するものではなく一例として、右心室を対象とする本発明に係るプロテーゼは、これらにより右心室プロテーゼとなり、三尖弁または肺動脈弁を開くことによって心臓外科手術で移植することができる。
【0111】
本発明に係る心腔プロテーゼのアセンブリはまた、複数の心室を対象とすることもできる。
【0112】
例として、図9は、左心室40および左心房20を対象とする心腔プロテーゼのアセンブリの第1の実施形態を示す。特に、アセンブリは、左心室40に埋め込まれるように構成された図3に示すものと同様の左心室プロテーゼと、左心房20に埋め込まれるように構成された同じく図3に示すプロテーゼと同様の左心房プロテーゼとを備える。特に、図9に示されるアセンブリの左心房プロテーゼは、複数の弾性タイ290によって互いに弾性的に連結された外側弾性膜600および内側弾性膜650を備える。外側弾性膜600および内側弾性膜650は、それらの間に、弾性的に可変に構成された容積を有する、閉じられた間隙630を画定する。外側弾性膜600は、複数のクリップ210を介して左心房20の内壁25を把持するように構成される。左心房プロテーゼの外側弾性膜600および内側弾性膜650は、第1の開口および第2の開口を備え、それらの境界は、それぞれ、僧帽弁境界675、および、肺静脈の境界685と、互いに一体的に結合される。僧帽弁境界675は、生体僧帽弁70を取り囲み、それに縫合されるように構成され、第1の開口との結合により僧帽弁開口が画定される。肺静脈の境界685は、肺静脈130の出口と対応する場所を取り囲み、それに縫合されるように構成され、第2の開口との結合により肺静脈130の出口となる開口が画定される。左心房プロテーゼの他の実施形態は、2つ以上の第2の開口を有してもよく、それらの境界は互いに一体的に結合され、その結果、肺静脈130の出口となる2つ以上の開口をそれぞれ画定する肺静脈の2つ以上の境界が形成され、そのそれぞれが、肺静脈130の出口を取り囲み、それに対応する位置を縫合するように構成される。
【0113】
図3に示される)左心室プロテーゼについて説明されるものと同様に、間隙630は、流体、特に血液適合性溶液のような液体、例えば滅菌生理食塩水、または、例えばヘリウム等のガスを、可変の量で受容するように構成され、これにより、間隙630自体の容積が動的に変化し、その結果、内側弾性膜650の内面654によって画定される弾性可変容積が変化する。この目的のために、間隙630は、外側弾性膜600上に配置された(少なくとも)1つのアクセス穴を通してアクセス可能であり、左心房へのプロテーゼの移植後に、この穴上にはダクト360が縫合され、ダクト360は、間隙630を(流体圧または空気圧の)外部ポンプ340Bと接続する。外部ポンプ340Bは、さらに、ダクト330を介して左心室プロテーゼの間隙230に接続される。代替的に、間隙630は、左心室プロテーゼの間隙230が接続されるポンプから分離された外部ポンプに接続されてもよい。任意選択的に、この(少なくとも1つの)アクセス穴の境界は、放射線不透過性材料により作製可能であり、及び/又は、外科医は、図3に示される左心室プロテーゼについて以前に説明されたものと同様に、アクセス穴を外側弾性膜600上の任意の位置に形成できる。
【0114】
特に、図9の左心房プロテーゼでは、基準支持弾性膜構造は、外側弾性膜600を備え、僧帽弁境界675は、出口境界として動作し、生体僧帽弁70は、生体出口弁として動作し、肺静脈の境界685は、入口境界として動作し、肺静脈130の出口は、心室の入口開口として動作し、間隙630は、第1の間隙として動作し、複数の弾性タイ290は、複数の第1の可変接続要素として動作する。
【0115】
左心室40および左心房20を対象とする心腔プロテーゼのアセンブリの他の実施形態は、(少なくとも)1つのポンプ340Bを通じた流体圧または空気圧制御の代わりにまたは組み合わせて、図6にプロテーゼとして示したものと同様の左心室40および左心房20のプロテーゼの、電極が設けられる弾性膜の電気的及び/又は電磁的な分極を制御するように構成される電子処理ユニットによって行われる電気的及び/又は電磁的制御が行われてもよい。この場合、間隙230および630は、液体(例えば、血液適合性溶液)で充填することができ、(少なくとも1つの可変容積弾性袋体に代えてまたはそれとともに)連通ダクトを通して互いに流体連通することができる。心房収縮期の間、電気的及び/又は電磁的制御により、間隙630の容量を増加させ、間隙230の容量を減少させ、液体を後者から前者に移動させる。心室収縮期の間、電気的及び/又は電磁的制御により、間隙630の容量を減少させ、間隙230の容量を増加させ、液体を前者から後者に移動させる。任意選択的に、間隙230と630との間のそのような連通ダクトは、間隙230および630と対応する左心室40および左心房20のプロテーゼへの埋込中において、これらの少なくとも1つが液体で充填された後に、外科医によって縫合されることができる。
【0116】
心腔プロテーゼのアセンブリのさらなる実施形態はまた、1つ以上の人工心臓弁を備えてもよい。限定するものではなく一例として、図10は、左心室40および左心房20を対象とする心腔プロテーゼのアセンブリの第2の実施形態を示し、左心房プロテーゼが、プロテーゼの僧帽弁開口を画定する僧帽弁境界675に一体的に結合された人工僧帽弁540を備えるという点で、図9に示されるものとは異なる。このような人工僧帽弁540は、不適切または病理学的な生体己僧帽弁によって引き起こされる問題を克服することを可能にする。この場合、プロテーゼの僧帽弁開口の開放または閉鎖は、人工僧帽弁540の開放(図10bに示されるように、人工僧帽弁540の開口部は、隆起スラブ545によって概略的に表される)または閉鎖(図10aに示される)に依存する。左心室40および左心房20を対象とする2つのプロテーゼは、僧帽弁境界275および675のそれぞれに対応して互いに連結することができことに留意されたい。この場合、心腔プロテーゼのアセンブリはまた、生体僧帽弁70における僧帽弁境界275及び/又は僧帽弁境界675を縫合することなく埋め込め得る。
【0117】
図11は、左心室40、右心室30、および右心房10を対象とする心腔プロテーゼのアセンブリの第3の実施形態を示す。具体的には、アセンブリは、図9に示されるものに類似する左心室プロテーゼおよび左心房プロテーゼと、図3に示されるプロテーゼに類似し、右心室30に埋め込まれるように構成される右心室プロテーゼとを備える。特に、図11に示されるアセンブリの右心室プロテーゼは、複数の弾性タイ290によって相互に弾性的に接続される外側弾性膜700および内側弾性膜750を有し、これらの間において、弾性的に可変に構成された容積を有する閉じられた間隙730が画定され、外側弾性膜700は、複数のクリップ210を介して右心室30の内壁35を把持するように構成される。右心室プロテーゼの外側弾性膜700および内側弾性膜750は、第1の開口および第2の開口を備え、それらの境界は、それぞれ、肺動脈弁境界785、および、三尖弁境界775と互いに一体的に結合される。肺動脈弁境界785は、生体肺動脈弁60を取り囲み、その上で縫合されるように構成され、肺動脈弁開口を画定する。三尖弁境界775は、生体三尖弁50を取り囲み、それを覆って縫合されるように構成され、三尖弁開口を画定する。
【0118】
特に、図11の右心室プロテーゼに関して、基準支持弾性膜構造は、外側弾性膜700を備え、肺動脈弁境界785は、出口境界として動作し、生体肺動脈弁60は、生体出口弁として動作し、三尖弁境界775は、入口境界として動作し、三尖弁は、心室の少なくとも1つの入口開口から成る生体入口弁として動作し、間隙730は、第1の間隙として動作し、複数の弾性タイ290は、複数の第1の可変接続要素として動作する。
【0119】
図3に示される)左心室プロテーゼについて説明されるものと同様に、間隙730は、流体、特に血液適合性溶液のような液体、例えば滅菌生理食塩水、または、例えばヘリウム等のガスを、可変の量で受容するように構成され、これにより、間隙730自体の容積が動的に変化し、その結果、内側弾性膜750の内面754によって画定される弾性可変容積が変化する。この目的のために、間隙730は、外側弾性膜700上に配置された(少なくとも)1つのアクセス穴を通してアクセス可能であり、右心房へのプロテーゼの移植後に、この穴上にはダクト370が縫合され、ダクト370は、間隙730を(流体圧または空気圧の)外部ポンプ340Cと接続する。任意選択的に、この(少なくとも1つの)アクセス穴の境界は、放射線不透過性材料により作製可能であり、及び/又は外科医は、図3に示される左心室プロテーゼについて以前に説明されたものと同様に、アクセス穴を外側弾性膜700上の任意の位置に形成できる。
【0120】
この場合も、流体または空気圧の制御に替えてまたは組み合わせて、図11のプロテーゼのアセンブリは、電極が設けられる内側弾性膜750および外側弾性膜700の電気的及び/又は電磁的な分極を制御するように構成された電子処理ユニットによって実行される電気的及び/又は電磁的制御が行われてもよい。この場合、間隙730は、液体(例えば、血液適合性溶液)で充填することができ、(少なくとも)1つの可変容積弾性袋体と流体連通することができる。心室収縮期の間、電気的及び/又は電磁的制御により、間隙730の容積を増加させ、液体を弾性袋体から同じ間隙730に移動させる。心房収縮期の間、電気的及び/又は電磁的制御により、間隙730の容積を減少させ、液体を間隙から弾性袋体に移動させる。
【0121】
さらに、図11のプロテーゼアセンブリはまた、1つ以上の人工心臓弁を備えてもよい。
【0122】
図12は、左心室40、左心房20、右心室30、および右心房10を対象とする心腔プロテーゼのアセンブリの第4の実施形態を示す。具体的には、アセンブリは、図9に示されるものに類似する右心房プロテーゼおよび左心房プロテーゼと、図11に示されるプロテーゼに類似する右心室プロテーゼと、右心房10に埋め込まれるように構成される右心房プロテーゼとを備える。特に、図12に示されるアセンブリの右心房プロテーゼは、複数の弾性タイ290によって互いに弾性的に接続された外側弾性膜800および内側弾性膜850を有し、これらの間に弾性的に可変に構成された容積を有する閉じられた間隙830を画定する。外側弾性膜800は、複数のクリップ210を介して心房10の内壁15を把持するように構成される。右心房プロテーゼの外側弾性膜800および内側弾性膜850は、第1の開口および2つの第2の開口を備え、それらの境界は、それぞれ、一体的に連結されて、三尖弁開口を画定し、生体三尖弁50を取り囲み、それを覆って縫合されるように構成される三尖弁境界885を形成する。すなわち、上大静脈開口部を画定し、上大静脈120の出口を取り囲み、その上で縫合されるように構成される上大静脈境界875A、および、下大静脈開口を画定し、下大静脈125の出口を取り囲み、その上で縫合されるように構成される下大静脈境界875Bが形成される。
【0123】
特に、図12の右心房プロテーゼに関して、基準支持弾性膜構造は、外側弾性膜800を備え、三尖弁境界885は、出口境界として動作し、生体三尖弁50は、生体出口弁として動作し、上大静脈境界875Aおよび下大静脈境界875Bは、入口境界として動作し、上大静脈120および下大静脈125の出口開口は、心室の入口開口として動作し、間隙830は、第1の間隙として動作し、複数の弾性タイ290は、複数の第1の可変接続要素として動作する。
【0124】
図3に示される)左心室プロテーゼについて図示されるものと同様に、間隙830は、流体、特に血液適合性溶液のような液体、例えば滅菌生理食塩水、または、例えばヘリウム等のガスを、可変の量で受容するように構成され、これにより、間隙830自体の容積が動的に変化し、その結果、内側弾性膜850の内面854によって画定される弾性可変容積が変化する。この目的のために、間隙830は、外側弾性膜800上に配置された(少なくとも)1つのアクセス穴を通してアクセス可能であり、右心房へのプロテーゼの移植後に、その穴上にはダクト380が縫合され、ダクト380は、間隙830を、(流体圧または空気圧の)外部ポンプ340Dに接続する。外部ポンプ340Dは、さらに、ダクト370を介して右心室プロテーゼの間隙730に接続される。代替的に、間隙830は、右心室プロテーゼの間隙730が接続されるポンプから分離された外部ポンプに接続されてもよい。任意選択的に、この(少なくとも1つの)アクセス穴の境界は、放射線不透過性材料により作製可能であり、及び/又は、外科医は、図3に示される左心室プロテーゼについて以前に説明されたものと同様に、アクセス穴を外側弾性膜800上の任意の位置に形成できる。
【0125】
この場合も、液体圧または空気圧制御に替えてまたは組み合わせて、図12のプロテーゼアセンブリは、電極を備える内側弾性膜850および外側弾性膜800の電気的及び/又は電磁的分極を制御するように構成された電子処理ユニットによって実行される電気的及び/又は電磁的制御が行われてもよい。この場合、間隙730および830は、液体(例えば、血液適合性溶液)で充填することができ、(少なくとも1つの可変容積弾性袋体の代わりにまたはそれとともに)連通ダクトを通して互いに流体連通することができる。心房収縮期の間、電気的及び/又は電磁的制御により、間隙830の容量を増加させ、間隙730の容量を減少させ、液体を後者から前者に移動させる。心室収縮期の間、電気的及び/又は電磁的制御は、間隙830の容量を減少させ、間隙730の容量を増加させ、液体を前者から後者に移動させる。
【0126】
また、図12のプロテーゼアセンブリはまた、1つ以上の人工心臓弁を備えてもよい。この点に関して、プロテーゼアセンブリが人工三尖弁を備える場合、右心室30および右心房10を対象とする2つのプロテーゼは、それらのそれぞれの三尖弁境界775および885に対応して互いに結合され得ることに留意されたい。心腔プロテーゼのアセンブリは、生体三尖弁50上の三尖弁境界775及び/又は三尖弁境界885を縫合することなく、埋め込むこともできる。
【0127】
図9図12に示す心腔プロテーゼのアセンブリの実施形態は、内側弾性膜および外側弾性膜のみを有するプロテーゼだけにより構成されるが、本発明に係る心腔プロテーゼのアセンブリの他の実施形態は、2つの膜のプロテーゼに替えてまたは組み合わせて、心腔プロテーゼもまた、図8にプロテーゼについて示すものと同様に、内側弾性膜と外側弾性膜との間に介在する中間弾性膜を有し得ることに留意されたい。間隙の容積変化は、流体圧または空気圧制御及び/又は電気的及び/又は電磁的制御によって制御される。例えば、拡張した心房を有する肥大病変を有する患者では、2つの膜を有する左心室プロテーゼおよび3つの膜を有する左心房プロテーゼを備えるプロテーゼアセンブリを埋め込むことができる。
【0128】
本発明に係る心腔プロテーゼの他の実施形態は、膜を相互に接続する第1(および第2)の可変接続要素、任意選択的に、弾性要素を備えてもよいことに留意されたい。例えば、可変接続要素は、ナノ技術的構造であって、この構造は、接続された膜が第1の限界距離にある収縮構成と、接続された膜が第1の限界距離よりも大きい第2の限界距離にある拡張構成との間に含まれる。例として、このようなナノテクノロジー構造は、2つのバーを含むことができ、その各々は、それ自体の端部が膜のそれぞれに接続され、互いにヒンジで連結される(任意選択で、バーの中央領域において接続されてもよい)。
【0129】
本発明に係る心腔プロテーゼおよびそれに関連するアセンブリは、心周期の様々な段階中に圧力変動および心電図を検出するように構成されたそれぞれの弾性膜上のセンサ(例えば、機械的センサ、圧電センサ、または電気的センサ)を備えてもよい。このようにすることで、可変容量間隙の容量変動制御の調整は、より良好な全体的な生理学的性能のために駆動され得る。例えば、左心室内では、圧力センサは、PRAM(文献WO00/64339に開示されている)として知られる技術によって制御信号を処理することを可能にすることができる。この処理を使用して、関連するプロテーゼが埋め込まれる特定の心腔内の内膜によって区切られる容積の変動の時間および振幅を決定することができる。
【0130】
上述のように、本発明に係る心腔プロテーゼおよび関連するアセンブリは、有利には、液体圧または空気圧制御及び/又は電気的及び/又は電磁的制御によって、有利には、ペースメーカ内に埋め込まれたEPROMサポートメモリによって制御される。これにより、4つの心腔のそれぞれ1つ以上の中に埋め込まれた1つのプロテーゼまたは複数のプロテーゼのいずれかを制御することができる。
【0131】
本発明の好ましい実施形態を説明し、多数の変形例を本明細書で提案したが、当業者は、添付の特許請求の範囲によって定義されるその保護範囲から逸脱することなく、他の変形および変更を行うことができると理解されるべきである。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5(a)】
図5(b)】
図6(a)】
図6(b)】
図7
図8(a)】
図8(b)】
図9(a)】
図9(b)】
図10(a)】
図10(b)】
図11(a)】
図11(b)】
図12(a)】
図12(b)】