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特許7541765うつ病を治療するためのシクロセリン及びリチウム併用療法
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  • 特許-うつ病を治療するためのシクロセリン及びリチウム併用療法 図1
  • 特許-うつ病を治療するためのシクロセリン及びリチウム併用療法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】うつ病を治療するためのシクロセリン及びリチウム併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20240822BHJP
   A61K 31/42 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240822BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K31/42
A61P25/24
A61P43/00 121
A23L33/10
A23L33/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022524090
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 KR2020017101
(87)【国際公開番号】W WO2021107690
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0154218
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522163757
【氏名又は名称】諾羅瑞韋株式会社
【氏名又は名称原語表記】NEURORIVE INC
【住所又は居所原語表記】306, 117-3, Hoegi-ro Dongdaemun-gu Seoul 02455 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李▲ソク▼燦
(72)【発明者】
【氏名】池龍夏
(72)【発明者】
【氏名】張東哲
(72)【発明者】
【氏名】權奇凡
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0018349(US,A1)
【文献】特開平03-148221(JP,A)
【文献】Neuropsychopharmacology,2019年03月,Vol.44,p.1812-1819
【文献】BIOL PSYCHIATRY,2005年,Vol.57,p.430-432
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
うつ病の予防または治療用医薬組成物であって、
(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び
(ii)炭酸リチウム、
を含み、
前記(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩と前記(ii)炭酸リチウムの重量比は、10:5~10:1である、
ことを特徴とする、うつ病の予防または治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩を10~50mg、および、
前記(ii)炭酸リチウムを2.5~10mg、含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
炭酸リチウム5mg当たりD-シクロセリンを12.5~25mg含む、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
経口投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
うつ病の予防または治療用組み合わせ物であって、
(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩を含む第1の製剤;及び
(ii)炭酸リチウムを含む第2の製剤
を含み、
前記(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩と前記(ii)炭酸リチウムの重量比は、10:5~10:1である、
ことを特徴とする、うつ病の予防または治療用組み合わせ物。
【請求項6】
前記第1の製剤および前記第2の製剤は同時にまたは異時に投与されるものである、請求項に記載の組み合わせ物。
【請求項7】
前記第1の製剤および前記第2の製剤を含む複合剤形である、請求項に記載の組み合わせ物。
【請求項8】
経口投与される複合剤形である、請求項に記載の組み合わせ物。
【請求項9】
うつ病の予防または改善用食品組成物であって、
(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び
(ii)炭酸リチウム、
を含み、
前記(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩と前記(ii)炭酸リチウムの重量比は、10:5~10:1である、
ことを特徴とする、うつ病の予防または改善用食品組成物。
【請求項10】
うつ病の予防または治療用医薬品の製造における、(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び(ii)炭酸リチウム、の組み合わせの使用であって、
前記(i)D-シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩と前記(ii)炭酸リチウムの重量比は、10:5~10:1である、
ことを特徴とする、うつ病の予防または治療用医薬品の製造における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うつ病を治療するためのシクロセリンおよびリチウム併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
うつ病は、客観的状況とは関係なく起こる情緒的病理現象であって、患者のすべての生活が鬱な気分で覆われており、興味が減り、無快感症(anhedonia)になり、精神運動の低下、厭世感、絶望に捕らえられ、自殺念慮に感じ自殺企図にまで至る病気であるが、食欲不振、不眠、便秘、性欲減退など多様な身体的症状を見せる。このようなうつ病は、近年、深刻な社会的問題として台頭している。
【0003】
現在の抗うつ薬は、ほとんど中枢セロトニンまたはノルアドレナリンのシナプスにおける神経伝達物質の濃度を高める薬理作用を有する。抗うつ薬は、神経伝達物質の濃度を高めるメカニズムによって大きく三環系抗うつ薬(TCA;tricyclic antidepressants)、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI;monoamine oxidase inhibitors)、または選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI;selective serotonin reuptake inhibitors)などが多く用いられている。これらの既存の抗うつ薬が比較的効果的ではあるが、一部で重度の副作用及び期待に及ばない効果が現れる場合もある。抗うつ薬に対してあまり反応がなかったり(Thase et al.2001)、再発率が高く(Frank et al.1991)、深刻な副作用によって薬物を服用することが不可能な患者も多い(Gumnick and Nemeroff 2000)。三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressants:TCA)であるイミプラミン(imipramine)、デシプラミン(desipramine)などは、低血圧、心臓機能障害などの厳しい副作用が現れる。最も広く使用されているフルオキセチン(fluoxetine)またはセルトラリン(sertraline)などの選択的セロトニン再取り込み阻害薬は、悪心、胃腸出血または性機能障害などを引き起こす。
【0004】
シクロセリン(D-cycloserine;DCS)は、セロマイシンと呼ばれる医薬品名で承認された抗生物質であり、神経系に関連してNMDA受容体に対する部分的アゴニストとして知られている。医薬品として使用されるシクロセリンであるセロマイシンカプセルは1日2回経口投与し、薬物濃度は体重、医学的状態、セロマイシン血清レベルなどを考慮して決定され、1日最大1,000mg以上を摂取してはならない。
【0005】
リチウム塩中の炭酸リチウム(LiCO)は、双極性障害(bipolar disorder;躁うつ病)の治療に対して承認されている。リチウムは神経細胞中のNa+/K+ATPaseに作用し、神経伝達物質の放出を変更させ、cAMP濃度に影響を及ぼし、イノシト-ルの代謝を阻止することにより、神経細胞を枯渇させ、抑制することが知られている。
【0006】
このようにシクロセリンとリチウム塩は、それぞれ異なる機序を介して中枢神経系に作用することが知られているが、前記薬物を併用してうつ病を効果的に治療できるという点については全く知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、うつ病を治療するためのシクロセリン及びリチウムの併用療法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために本発明者が鋭意研究したところ、シクロセリン及びリチウムを併用投与した場合、単独投与と比較してうつ病の予防または治療効果が著しく改善されたことを初めて確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
一態様において、本発明は、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩、及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩を含む、うつ病の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【0010】
前記医薬組成物において、シクロセリンはD-シクロセリンであってもよく、リチウムの薬学的には許容される塩は、炭酸リチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、クエン酸リチウム、オロチン酸リチウム、グルコン酸リチウム、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0011】
前記医薬組成物において、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩、及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩の重量比は10:5~10:1であってもよく、具体的には約2.5:1または約5:1であってもよい。医薬組成物は、シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩およびリチウムまたはその薬学的に許容される塩をそれぞれ10~50mgおよび2.5~10mg含むことができる。
【0012】
前記医薬組成物において、医薬組成物を経口投与することができる。
【0013】
一態様において、本発明は、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩を含む第1の製剤;及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩を含む第2の製剤を含む、うつ病の予防または治療用組み合わせ。
【0014】
前記組合物において、第1の製剤および第2の製剤は同時にまたは異時に投与することができる。また、前記組み合わせは、第1の製剤および第2の製剤を含む複合剤形、特に経口投与される複合剤形であってもよい。
【0015】
一態様において、本発明はシクロセリンまたはその薬学的に許容される塩を含む、リチウムのうつ病の予防または治療補助用医薬組成物が提供される。
【0016】
一態様において、本発明は、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩を含む、うつ病の予防または改善用食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるシクロセリン及びリチウムの併用投与は、単独投与に比べてうつ病の予防または治療効果が著しく優れているため、うつ病治療療法または複合剤として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】D-シクロセリン及びリチウム塩の併用処理によるマウス強制水泳試験(FST)結果を示す図である。
図2】それぞれD-シクロセリン及びリチウム塩の併用処理によるマウス オープンフィールド試験(OFT)結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付された図面を参照して本発明の実施形態により本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の例示として提示されるものであり、当業者に周知著名な技術又は構成に対する具体的な説明が本発明の要旨を不要に不明瞭に判断される場合には、その詳細な説明を省略することができる。これによって本発明を限定するものではない。本発明は、後述する特許請求の範囲の記載及びそれから解釈される均等範疇内で種々の変形及び応用が可能である。
【0020】
また、本明細書で使用される用語(terminology)は、本発明の好ましい実施形態を適切に表現するために使用される用語であり、これは使用者、運用者の意図、または本発明が属する分野の慣例などによって変わり得る。したがって、本用語の定義は、本明細書全般にわたる内容に基づいて行われるべきである。本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に断りがない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0021】
本発明で使用されるあらゆる技術用語は、特に断りがない限り、本発明の関連分野で通常の当業者が一般に理解されるものと同じ意味で使用される。また、本明細書には好適な方法または試料が記載されているが、これと類似または同等のものも本発明の範疇に含まれる。本明細書に参考文献として記載されている全ての刊行物の内容は、本発明に組み込まれる。
【0022】
本発明者らは、シクロセリンとリチウム塩の併用投与時、単独投与に比べてうつ病治の療効果が著しく改善されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0023】
一態様において、本発明は、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩を含む、うつ病の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【0024】
本発明の医薬組成物において、シクロセリンは、下記式1で表されるD-シクロセリンであってもよい。
【化1】
【0025】
リチウム塩は、GSK-3阻害剤系の薬物の一つであって、GSK-3阻害剤としては、リチウムに加えて、GSK-3阻害剤は亜鉛、タングステンのような無機原子(これらの薬学的に許容される塩を含む);インジルビン(indirubin)、6-BIO、ヒメニアルジシン(hymenialdisine)、ジブロモカンタレリン(dibromocantharelline)、メリジアニン(meridianin)、アミノピリミジン(aminopyrimidine)、アリールインドリルマレイミド(arylindolemaleimide)、チアゾール、パウロン(paullone)、アロイシン(aloisine)のようなATP-競合的阻害剤;マンザミン(manzamine)、フラノセスキテルペン(furanosesquiterpene)、チアゾリジンジオン(thiadiazolidindione)、ハロメチルケトン(halomethylketone)、L803-mtsなどの非ATP競合的阻害剤などが知られている(文献Finkelman,Hagit,and Ana Martinez.「 GSK-3 inhibitors:preclinical and clinical focus on CNS.」Frontiers in molecular neuroscience 4(2011):32.])。
【0026】
しかし、前記のようなGSK-3阻害剤のうち、リチウム塩をシクロセリンと併用投与する場合、うつ病の治療に相加効果が現れることは、本発明が属する技術分野における技術者にとっても予想することは非常に困難である。しかし、本発明者らは、GSK-3阻害剤の一つであるリチウムまたはその薬学的に許容される塩とシクロセリンの併用療法をマウスモデルを対象に行った結果、うつ病の治療に効果的であり、これはリチウム塩またはシクロセリンそれぞれの治療効果に比べて著しく改善されたことが初めて確認された(図1~2)。
【0027】
本発明において、薬学的に許容される塩とは、医薬業界で通常使用される塩を意味し、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、銅、マンガン、亜鉛、鉄などを含む無機イオンの塩と塩酸、リン酸、硫酸のような無機酸の塩があり、その他にアスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、グリコ-ル酸、コハク酸、プロピオン酸、酢酸、オロチン酸、グルコン酸、アセチルサリチル酸のような有機酸の塩などと、アルギニン、グアニジンなどのアミノ酸塩がある。また、薬学的反応、精製過程および分離過程で使用できるテトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンゼトニウムなどの有機イオンの塩がある。ただし、列挙されたこれらの塩によって本発明で意味する塩の種類が限定されるものではない。
【0028】
例えば、リチウムの薬学的に許容される塩として好ましいものは、炭酸リチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、クエン酸リチウム、オロチン酸リチウムおよびグルコン酸リチウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の実施形態において、シクロセリン及びリチウム塩の併用投与は、実験動物における強制水泳試験(FST)などの行動実験結果において著しく改善されたことが確認された(図1図2)。したがって、本発明の医薬組成物は、うつ病の予防または治療に有効に利用することができる。前記うつ病は、単一エピソ-ドまたは再現性のある主要うつ病障害であってもよく、不安障害または恐怖症を伴ううつ病であってもよく、躁病うつ病、例えば、双極I型障害、双極II型障害、または循環性障害であってもよい。
【0030】
本発明の医薬組成物は、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩の重量比が10:5~10:1であってもよく、具体的には約2.5:1若しくは約5:1であってもよい。前記医薬組成物は、シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩およびリチウムまたはその薬学的に許容される塩は、それぞれ10~50mgおよび2.5~10mgを含むことができる。一実施形態において、前記医薬組成物は、D-シクロセリン10~50mgおよび炭酸リチウム2.5~10mgを含むことができる。具体的には、前記医薬組成物は、炭酸リチウム5mg当たりD-シクロセリン12.5~25mgを含むことができる。本発明者らは、シクロセリンおよびリチウム塩を前記重量比で併用投与した場合、うつ病の治療に特に有効であることを確認した(図1図2)。
【0031】
本発明の医薬組成物は、治療有効量で投与することができる。前記治療有効量とは、効果的なうつ病の予防または治療効果を発揮する薬物用量を意味する。適切な総1日使用量は、正しい医学的判断範囲内で治療担当医によって決定することができる。特定の患者に対する具体的な治療有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、併用投与される薬物の種類と量、場合によっては他の剤形が使用されるか否かを含む具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別および食餌、投与時間、投与経路、治療期間を含む種々の因子と医薬分野によく知られている類似の因子に応じて異なるように適用することが好ましい。
【0032】
本発明の医薬組成物は、一日一回から数回に分けて投与することができる。例えば、シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩とリチウムまたはその薬学的に許容される塩は、マウス基準でそれぞれ0.2~50mg/kgおよび0.1~100mg/kgの用量で投与することができ、具体的には、リチウムまたはその薬学的に許容される塩1mg/kgの用量当たり2~7.5mg/kgの用量で投与することができる。
【0033】
本発明の実施形態において、シクロセリンおよびリチウム塩を様々な用量範囲で実験動物(マウス)に投与した結果、約2.5mg/kg、あるいは5mg/kgのD-シクロセリンおよび約1mg/kgの炭酸リチウム併用投与群において、強制水泳試験(FST)の結果が著しく改善されることが確認された(図1)。
【0034】
したがって、本発明で確定された最適のマウスへの投与量とマウス-ヒト間容量-反応関係(dose-response relationship)及びNOAEL(No-observed-adverse-effect level)等を考慮して、ヒトにおける好ましい投与量を換算することができる。投与量換算基準は、文献[FDA、US.「 Guidance for Industry,Estimating the maximum safe starting dose in initial clinical trials for therapeutics in adult healthy volunteers.」FDA,ed(2005).」に記載されたHED(Human equivalent dose)計算法を使用することができる。前記文献に提示されたマウス‐ヒト間用量換算係数は12.3であって、マウスで同定された薬物の用量(a)を前記換算係数で除算するとa/12.3(mg/kg)の用量が導出される。一般に錠剤1錠は、60kgの成人を対象に作られるため、前記から導出されたa/12.3(mg/kg)の数値に60kgを乗ずると約5×a(mg)の用量でヒトに投与される薬学組成物を作れるようになる。したがって、本発明の実施形態にて確認されたD-シクロセリンおよび炭酸リチウムの最適マウス用量比を参考にして、ヒトに投与される好ましい薬物用量比を導出することができる。
【0035】
これにより、本発明の医薬組成物に含まれるD-シクロセリンおよび炭酸リチウムは、好ましくはそれぞれ10~50mgおよび2.5~10mgであり、より好ましくは炭酸リチウム5mg当たりD-シクロセリン12.5~25mgである。また、発明者は、D-シクロセリンおよび炭酸リチウムの用量群が前記範囲より高用量である場合に比べて、前記範囲でうつ病の治療効果が極大化されることを確認した。これは、D-シクロセリンまたは炭酸リチウムの用量群が前記範囲より高用量である場合に比べて、前記範囲でうつ病の治療効果が極大化されることを確認した。これは、D-シクロセリンまたは炭酸リチウム単一剤形に用いられる用量よりもはるかに低い用量を組み合わせて投与した場合、うつ病の治療効果が改善されることを初めて確認した。
【0036】
本発明の医薬組成物は、経口または非経口投与することができ、好ましくは経口投与する。また、本発明の医薬組成物は、1つ以上の中枢神経系薬物と併用することができる。例えば、前記医薬組成物は、効果的なうつ病の治療のために追加の医薬抗うつ薬、ハーブ抗うつ薬、抗痙攣薬、気分安定薬、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、またはそれらの組み合わせと併用することができる。
【0037】
本発明の医薬組成物は、投与のために薬学的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤などを含むことができる。前記担体、賦形剤および/または希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知の方法を使用して薬学的剤形に調製することができる。剤形の調製において、活性成分を担体と共に混合または希釈するか、または容器形態の担体に封入させることができる。本発明の医薬組成物を経口投与用剤形として調製する場合、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水溶性または油性懸濁液、調製粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップまたはエリキシル剤に剤形化することができる。
【0039】
一態様において、本発明は、治療有効量の(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩を患者に投与する工程を含む、うつ病の予防または治療方法を提供する。もう一つの一態様において、本発明は、うつ病の予防または治療用医薬の製造において、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩;及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。前記シクロセリン、リチウム、塩などは前述した通りである。
【0040】
一態様において、本発明は、(i)シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩を含む第1の製剤;及び(ii)リチウムまたはその薬学的に許容される塩を含む第2の製剤を含む、うつ病疾患の予防または治療用の、組み合わせを提供する。
【0041】
本発明において、「組み合わせ」という用語は、一つの剤形中に2つ以上の活性物質が組み合わせされた物、および、治療において互いに明示された間隔で投与される活性物質の別々の剤形の意味での組み合わせを意味する。したがって、「組み合わせ」という用語は、本発明に関連して記載される場合、2つ以上の治療的に有効な化合物の共投与の臨床的実現を含む。
【0042】
本発明の組み合わせにおいて、シクロセリンはD-シクロセリンであってもよく、リチウムの薬学的に許容される塩、具体的には炭酸リチウムを選択することができる。
【0043】
本発明の組み合わせは、第1の製剤中のシクロセリンまたはその薬学的に許容される塩と第2の製剤中のリチウムまたはその薬学的に許容される塩がそれぞれ10~50mgおよび2.5~10mgであり、より好ましくは炭酸リチウム5mg当たりD-シクロセリン12.5~25mgである。本発明の組み合わせにおいて、第1の製剤および/または第2の製剤をそれぞれ非経口または経口投与することができ、好ましくは経口投与することができる。
【0044】
本発明の組み合わせにおいて、第1の製剤および第2の製剤は同時投与または異時投与することができる。
【0045】
本発明の組み合わせは、第1の製剤および第2の製剤を含む複合剤形、特に経口投与される複合剤形であってもよい。
【0046】
本発明の組み合わせにおいて、第1の製剤に含まれるシクロセリンまたはその薬学的に許容される塩および第2の製剤中に含まれるリチウムまたはその薬学的に許容される塩の重量比は10:5~10:1であり、具体的には約2.5:1または約5:1であってもよい。この場合、前記第1の製剤中に含まれるシクロセリンまたはその薬学的に許容される塩および前記第2の製剤中に含まれるリチウムまたはその薬学的に許容される塩は、それぞれ10~50mgおよび2.5~10mgであり、より好ましくは炭酸リチウム5mg当たりD-シクロセリン12.5~25mgである。
【0047】
一態様において、本発明は、シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩を含む、リチウムのうつ病の予防または治療補助用医薬組成物を提供する。
【0048】
本発明において、用語「補助用」は、補助用に投与される薬物単独の予防または治療効果は比較的低いが、他の中枢神経系薬物と併用投与される場合、うつ病の予防または治療効果が著しく改善される効果を発揮する使用を意味する。
【0049】
前記組成物において、シクロセリンはD-シクロセリンであってもよく、リチウムの薬学的に許容される塩、具体的には炭酸リチウムを選択することができる。
【0050】
前記リチウムのうつ病の予防または治療補助用医薬組成物において、シクロセリンまたはその薬学的に許容される塩の重量は、うつ病の予防または治療に使用されるリチウムまたはその薬学的に許容される塩の重量の2~10倍であってもよく、2.25~7.5倍であってもよく、具体的には約2.5倍、5倍または7.5倍であってもよい。この場合、前記リチウムのうつ病の予防または治療補助用医薬組成物に含まれるシクロセリンまたはその薬学的に許容される塩は約10~50mg含まれ、うつ病の予防または治療に使用されるリチウムまたはその薬学的に許容される塩の重量を約2.5~10mgまで減少させることができる。
【0051】
本発明の組成物は、医薬組成物または食品組成物であってもよい。前記組成物を食品組成物として使用する場合、シクロセリンおよびリチウムまたはそれらの薬学的に許容される塩をそのまま添加したり、他の食品または食品成分とともに使用することができ、通常の方法に従って適宜使用することができる。前記組成物は有効成分の他に、食品学的に許容される食品補助添加剤を含むことができ、有効成分の混合量は使用目的(予防、健康または治療的処置)によって適宜決定することができる。
【0052】
本発明の食品組成物は、栄養補助食品を含むことができる。本発明で使用される用語「栄養補助食品」とは、人体に有用な機能性を有する原料や成分を用いて錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、及び丸薬などの形態で製造及び加工した食品のことをいう。ここで「機能性」とは、人体の構造および機能に対して栄養素を調節したり、生理学的な作用などの健康用途に有効な効果を得ることを意味する。
【0053】
また、本発明の組成物を用いることができる健康食品の種類には制限がない。併せて、本発明のシクロセリンおよび/またはリチウムを活性成分として含む組成物は、当業者の選択によって栄養補助食品に含まれ得る適切なその他の補助成分と公知の添加剤とを混合して製造することができる。添加できる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類 、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料、ビタミン複合剤などがあり、本発明による抽出物を主成分として製造した搾汁、茶、ゼリー、及びジュースなどに添加して製造することができる。
【0054】
本発明の全ての組成物、治療および使用の方法において言及された事項は、互いに矛盾しない限り一様に適用される。
【0055】
以下の実施形態により本発明をより詳細に説明する。しかし、以下の実施形態は、本発明の内容を具体化するものに過ぎず、これによって本発明が限定されるものではない。
【0056】
<実施形態1>シクロセリン及びリチウムの併用投与による強制水泳試験(FST)結果の確認
【0057】
本発明の医薬組成物の投与によるうつ病の減少効果等を試験するために、マウスに対して強制水泳試験(forced swim test;FST)を行った。FSTは、必然的に起こる急性ストレスに対する対処戦略(coping strategy)を測定するためのものであり、抗うつ薬の効果を測定するために通常用いられる動物行動実験である。
【0058】
D-シクロセリン(D-cycloserine,DCS)及びリチウムの併用投与によるうつ病の減少効果を確認するために、全てのマウス群(C57BL6)に対して10ml/kgの調剤物を投与した。ビヒクル(DW投与、対照群、n=22)、DCS1+LiCO1(DCS 1mg/kgおよびLiCO1mg/kg併用処理群、n=13)、DCS2.5+LiCO1(DCS2.5mg/kgおよびLiCO1mg/kg併用処理群、n=14)、DCS5+LiCO1(DCS 5mg/kgおよびLiCO1mg/kg併用処理群、n=14)、DCS10+LiCO1(DCS 10mg/kgおよびLiCO1mg/kg併用処置群、n=14)を各マウス群に投与して1時間後にうつ病様行動を反映するFST(Forced swimming test)を行った。
【0059】
具体的には、各群のマウスを3L Pyrexビ-カ-(直径13cm、高さ24cm)に個別に置き、9cmの深さで27.5±1.5℃の水を満たした。全てのマウスを6分間強制的に泳がせ、実験最後の4分間の不動時間を測定した。不動時間は、マウスが泳いだりしないで浮いていたり、水面から頭を出すのを維持するために必要な動きだけをする所要のRNR時間と定義する。
【0060】
その結果、DCSまたはLiCOを単独でそれぞれ投与した群の場合、ビヒクルを投与した対照群と統計的有意性を示さなかったが、DCSおよびLi CO を併用投与して1時間後にFSTを行った群は、immobilityが著しく減少したものと示された(図1および図2)。また、DCS及びLiCOを併用投与し、1週間後もimmobilityが著しく減少したことが示された(図1)。
【0061】
また、Open field testの結果、実験を行った一定時間(15分)の間移動した距離など、動物の活動性に影響を与えないことが確認された(図2)。これは、FST実験の結果から確認された特定の割合の併用投与群の不動時間の減少が、その群の活動性の増加によるものではないことを証明する。
【0062】
前記の結果は、シクロセリン及びリチウムの併用投与が抗うつ薬としての相乗効果を含むうつ病予防または治療薬として有効に利用できることを示している。
図1
図2