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特許7541788ロボットアーム及びこれを備える無人航空機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ロボットアーム及びこれを備える無人航空機
(51)【国際特許分類】
   B25J 5/00 20060101AFI20240822BHJP
   B25J 9/06 20060101ALI20240822BHJP
   B64U 10/13 20230101ALI20240822BHJP
【FI】
B25J5/00 Z
B25J9/06 B
B64U10/13
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024031750
(22)【出願日】2024-03-01
(62)【分割の表示】P 2023143232の分割
【原出願日】2023-09-04
【審査請求日】2024-03-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523337236
【氏名又は名称】株式会社Kailas Robotics
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アディヤスレン アルタンビレグ
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034284(JP,A)
【文献】特開2017-193331(JP,A)
【文献】特開2019-155505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 5/00
B25J 9/06
B64U 10/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の関節と、これらの関節で直列的に接続された複数のリンク部材と、を有するアーム部を備え、
前記アーム部は、その先端に、エンドエフェクタが装着される接続部である手首部を有し、
前記アーム部は、前記手首部を所望の位置および姿勢に変化させる変位動作と、外因による前記手首部の位置または姿勢の乱れを検知し、これを自動的に補正する静止動作と、を行い、
前記静止動作に用いられる前記関節の数は、前記変位動作に用いられる前記関節の数よりも少なく、前記アーム部の固定端から前記静止動作の対象としての前記手首部に至るまでの前記関節に、前記変位動作にのみ用いられる前記関節を少なくとも一つ有し、
前記静止動作に用いられる前記関節の全部または一部は、前記変位動作にも用いられる、
ロボットアーム。
【請求項2】
6つ以上の関節を備える、
請求項1に記載のロボットアーム。
【請求項3】
前記静止動作には、ロール軸周り、ピッチ軸周り、及びヨー軸周りに回転する3つの前記関節が用いられる、
請求項1に記載のロボットアーム。
【請求項4】
前記手首部またはその近傍に配置される慣性計測装置である第1慣性計測装置を備え、
少なくとも一部の前記関節には、これら関節の角度位置を検知するエンコーダが設けられ、
前記静止動作に用いられる前記各関節の角度位置は、前記第1慣性計測装置により検知される、
請求項1に記載のロボットアーム。
【請求項5】
少なくとも一部の前記関節は、その駆動源が減速機構を備えるモータであり、
前記減速機構には波動歯車が用いられている、
請求項1に記載のロボットアーム。
【請求項6】
作業対象であるワークの位置を特定可能な検知手段を備える、
請求項1に記載のロボットアーム。
【請求項7】
複数のロータを備える飛行体である飛行ユニットと、
請求項1から6のいずれかに記載されたロボットアームと、を備える、
無人航空機。
【請求項8】
前記手首部またはその近傍に配置される慣性計測装置である第1慣性計測装置と、
前記飛行ユニットに又は前記ロボットアームの固定端に配置された慣性計測装置である第2慣性計測装置と、を備える、
請求項7に記載の無人航空機。
【請求項9】
前記第2慣性計測装置は、前記飛行ユニットがその姿勢制御に用いる慣性計測装置とは別の慣性計測装置である、
請求項8に記載の無人航空機。
【請求項10】
前記第2慣性計測装置は、防振材を介さずに、前記飛行ユニット又は前記ロボットアームの固定端に設置されている、
請求項8に記載の無人航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロボットアーム技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、複数の関節を有するロボットアームを備える無人航空機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-34284号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無人航空機等の移動体に搭載されるロボットアームは、一般的な産業用ロボットアームとは異なり、その固定端の位置や姿勢が移動体の動きに合わせて変動する。このようなロボットアームで作業を行う場合、移動体の意図せぬ動きに対して、その動きとは反対方向にロボットアームの手先を動かすことで、手先の位置や姿勢の乱れを軽減することが考えられる。一方、このような相殺動作は、アームの関節数が多くなるほど、運動学計算やモーションプランニングの計算量が増え、そのリアルタイム性(即応性)が低下する。
【0005】
また、ロボットアームは、その全長が長くなるほど、各関節のトルクや減速比も大きくする必要があり、また、手先を動かしたときの慣性モーメントも大きくなる。無人航空機に搭載されるロボットアームは、そのロボットアームの重量や慣性モーメントが飛行の安定性や航続時間に直結する。そのため、無人航空機に搭載されるロボットアームは、その重量や動作に対して特に厳しい制約が課される。
【0006】
このような実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、固定端の位置や姿勢が不安定なロボットアームについて、より実用的な構成を見いだすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のロボットアームは、複数の関節を備え、自由端である手先を所望の位置および姿勢に変化させる変位動作と、外因による前記手先の位置または姿勢の乱れを自動的に補正する静止動作と、を行い、前記静止動作に用いられる前記関節の数は、前記変位動作に用いられる前記関節の数よりも少なく、前記静止動作に用いられる前記関節の全部または一部は、前記変位動作にも用いられることを要旨とする。
【0008】
本発明では、ロボットアームが備える複数の関節のうち、その手先の位置や姿勢を能動的に変化させるときに使用する関節と、手先の意図せぬ位置ずれや姿勢の乱れを補正するときに使用する関節とを機能的に分けている。これにより、アームの可動域や動作の柔軟性(動作パターンの豊富さ)の問題と、手先の安定性の問題とが分離される。より具体的には、変位動作には、静止動作に用いる一部または全部の関節を含む、静止動作よりも多くの関節を用いることで、アームの可動域や動作の柔軟性を最大化することができ、一方、手先の安定性については、固定端の不安定さや要求される静止精度に応じて、必要最小限の性能に収めることが可能となる。つまり、ロボットアームが実施可能な作業の種類自体は狭めることなく、その計算量や反応速度を現実的・実用的に最適化することが可能となる。
【0009】
このとき、本発明のロボットアームは、6つ以上の関節を備えることが好ましい。6つ以上の関節を備えることにより、一般的な産業用ロボットアームと同等の種類の作業を行うことができるようになり、本発明のロボットアームをより汎用的に用いることが可能となる。
【0010】
また、本発明のロボットアームでは、前記静止動作に、ロール軸周り、ピッチ軸周り、及びヨー軸周りに回転する3つの前記関節が用いられることが好ましい。互いに直交する3軸周りに回転する関節を静止動作に用いることにより、手先の姿勢や向きを一定に保つことが可能になる。
【0011】
このとき、前記3つの関節は、最も手先側の3つの前記関節であることが好ましい。静止動作は、手先の位置や姿勢の乱れに即応すること、つまり乱れを即座に解消することが望ましい。最も手先側の3つの関節を静止動作に用いることで、慣性モーメントを抑え、より速やかに静止動作を行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明のロボットアームは、前記手先またはその近傍に配置される慣性計測装置である第1慣性計測装置を備え、少なくとも一部の前記関節には、これら関節の角度位置を検知するエンコーダが設けられ、前記静止動作に用いられる前記各関節の角度位置は、前記第1慣性計測装置により検知されることが好ましい。各関節の角度位置を把握するにあたり、慣性計測装置の出力値から算出可能な範囲についてはそれで特定することにより、必要とされるエンコーダの数を減らすことができる。
【0013】
また、本発明のロボットアームにおいて、少なくとも一部の前記関節は、その駆動源が減速機構を備えるモータであり、前記減速機構には波動歯車が用いられていることが好ましい。モータの減速機構として波動歯車装置を用いることにより、バックラッシを抑えた高精度な動作を実現することができる。
【0014】
また、本発明のロボットアームは、その作業対象であるワークの位置を特定可能な検知手段を備えることが好ましい。これによりロボットアームのオペレータや制御プログラムは、ワークの位置情報を基に、より正確に、より確実に作業を行うことができる。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の無人航空機は、複数のロータを備える飛行体である飛行ユニットと、本発明のロボットアームと、を備えることを要旨とする。
【0016】
本発明のロボットアームの利点は上述のとおりである。このロボットアームを飛行ユニットと組み合わせることにより、飛行ユニットの揺動等による手先のブレを抑制しつつ、空中において様々な作業を行うことが可能となる。
【0017】
このとき、本発明の無人航空機は、前記手先またはその近傍に配置される慣性計測装置である第1慣性計測装置と、前記飛行ユニットに又は前記ロボットアームの固定端に配置された慣性計測装置である第2慣性計測装置と、を備えることが好ましい。これにより、例えば第1慣性計測装置で静止動作用の各関節の角度位置を検知し、第2慣性計測装置で飛行ユニットの位置ずれや傾きを検知することが可能となり、ロボットアームの動作精度をより高めることができる。
【0018】
またこのとき、前記第2慣性計測装置は、前記飛行ユニットがその姿勢制御に用いる慣性計測装置とは別の慣性計測装置であることが好ましい。一般に、マルチコプターなどの飛行ユニットは、その姿勢制御のための慣性計測装置を備えている。第2慣性計測装置をこれとは別に用意することにより、慣性計測装置を飛行ユニットの姿勢制御に用いる上での制約とは無関係に、第2慣性計測装置をより合目的的に選択、配置、使用することが可能となる。
【0019】
またこのとき、前記第2慣性計測装置は、防振材を介さずに、前記飛行ユニット又は前記ロボットアームの固定端に設置されていることが好ましい。飛行ユニットがその姿勢制御のために備える慣性計測装置は、機体の振動ノイズを軽減するため、一般に防振材を介して飛行ユニットに取り付けられている。第2慣性計測装置をこれとは別に設け、さらに、防振材を介さずにこれを設置することにより、機体の実際の状態をより正確に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明のロボットアーム及びこれを備える無人航空機によれば、固定端の位置や姿勢が不安定なロボットアームの実用性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のロボットアームの一例を示す斜視図である。
図2】本発明の無人航空機の一例を示す模式図である。
図3】実施形態に係るロボットアームの変位動作を示す模式図である。
図4】実施形態に係るロボットアームの静止動作を示す模式図である。
図5図4に示す静止動作の他の態様を示す模式図である。
図6】実施形態に係るマルチコプターの機能構成を示すブロック図である。
図7】実施形態に係るマルチコプターの変形例を示す模式図である。
図8】本発明の他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態は、本発明のロボットアームを備えた無人航空機についての例である。
【0023】
<ロボットアームの構成>
図1は、本形態に係るロボットアーム20の斜視図である。以下、図1を参照して、ロボットアーム20の基本的な構成について説明する。
【0024】
本形態のロボットアーム20は、6つの関節(自由度)J1-J6を有する多関節マニピュレータアームであり、その手先(自由端)にはエンドエフェクタであるグリッパ61が装着されている。詳しくは後段で述べるが、ロボットアーム20は、グリッパ61の位置や姿勢をその全ての関節J1-J6を用いて能動的に変化させるとともに、手先側の3関節J4-J6のみを用いてグリッパ61の意図せぬ位置ずれや姿勢の乱れを補正する。これにより、ロボットアーム20が実施可能な作業の種類自体は狭めることなく、その計算量や反応速度を現実的・実用的に許容可能な程度に調節している。
【0025】
ロボットアーム20の各関節とその回転方向・旋回方向の関係は以下の通りである。

J1:ヨー
J2:ピッチ
J3:ピッチ
J4:ヨー
J5:ロール
J6:ヨー
【0026】
このうち、関節J1が最も固定端側に配置された関節であり、関節J6が最も手先側に配置された関節である。尚、図1に描かれた座標軸が示すY,P,Rは、それぞれ、ヨー軸、ピッチ軸、及びロール軸の方向を表わしている。ロボットアーム20は、リンク部材50がこれら関節J1-J6により順次連結されることで構成されている。また、ロボットアーム20の固定端には、後述する飛行ユニット10に固定されるフランジ状の接合部51が設けられている。
【0027】
各関節J1-J6(以下、関節J1-J6を総称して「関節J」ともいう。)は、それぞれ、駆動源であるモータ41と、その減速機構である波動歯車装置42とを有している。例えば市販されているカメラ用3軸スタビライザー(いわゆるカメラジンバル)では、ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸周りに回転する3つのリンク部材を連結し、これらリンク部材をブラシレスモータでダイレクトドライブする構成が広く採用されている。このようなスタビライザーは、主に撮影時の手ブレを補正することを目的としたものであり、ペイロードの重心と各関節との距離は基本的に一定である。つまりいずれかの関節と重心との距離が近づいたり遠ざかったりすることはない。また、動作中にペイロードの重量が増減することもない。一方、本形態のロボットアーム20は、動作中にその重心と各関節Jとの位置関係が流動的に変化する。さらに、本形態のようにエンドエフェクタがグリッパ61の場合には、その把持するワーク69の重量も各関節Jにかかる負荷となる。本形態のロボットアーム20は、各関節Jに減速機構が設けられていることで、その自重や、重心位置の移動、重量の変動に対して安定した動作を維持することができる。
【0028】
上でも述べたように、本形態の各関節Jには、モータ41の減速機構として波動歯車装置42が採用されている。波動歯車装置42は波動歯車を用いた減速機構である。波動歯車は、その動作原理上バックラッシを必要とせず、動作精度に優れている。また、部品点数も少なく、一段で大きな減速比を得ることができる。特に、本形態のロボットアーム20のように、比較的多数の関節Jが直列的に接続された機構では、バックラッシによる累積誤差は無視できないものとなる。そしてその影響は関節数が増えるほど顕著になる。
【0029】
本形態のロボットアーム20は、その全ての関節Jに波動歯車装置42を採用することでロボットアーム20の動作精度を高めるとともに、関節構造の小型化・軽量化を図っている。尚、関節Jの駆動機構は本形態のものには限られず、自重や関節数、要求される動作精度に応じて、固定端寄りの関節Jにのみ波動歯車装置42を採用したり、又は波動歯車装置42よりも簡易な減速機構を採用したりしてもよい。又はロボットアーム20が十分に小型かつ軽量である場合は、各関節Jをモータ41でダイレクトドライブすることも考えられる。
【0030】
尚、グリッパ61も、その爪を構成するリンク部材や関節、駆動源であるモータ等を有しているが、グリッパ61は単にエンドエフェクタの一例を示すにすぎない。よって、グリッパ61の細部についての説明は省略する。グリッパ61は、ロボットアーム20の用途に応じて、例えばカメラ等のセンサ、溶接機器、塗装機器、吸着装置、打音検査ハンマー、その他工具など、任意のエンドエフェクタに置き換えてもよい。
【0031】
<ロボットアームの動作>
図2は、本形態の無人航空機であるマルチコプター91の模式図である。図3は、ロボットアーム20の変位動作を示す模式図である。図4は、ロボットアーム20の静止動作を示す模式図である。図5は、図4で示す静止動作の他の態様を示す模式図である。以下、図2から図5を参照してロボットアーム20の変位動作および静止動作について説明する。
【0032】
本形態のマルチコプター91は、複数のロータ(水平プロペラ)で空中を飛行可能な飛行ユニット10を備えており、ロボットアーム20はその下面に接続されている。上でも述べたように、ロボットアーム20は、グリッパ61を所望の位置および姿勢に変化させる変位動作(図3)と、グリッパ61の位置または姿勢の乱れを自動的に補正する静止動作(図4,図5)とを行う。
【0033】
ここで「変位動作」とは、例えばオペレータからの操縦信号により、又はロボットアーム20のプログラム(ファームウェアやアプリケーション)によって自動的に、グリッパ61の位置や姿勢を現在の位置や姿勢から意識的・能動的に変化させる動作である。例えばグリッパ61をワーク69の位置に移動させ、これを把持できるようにグリッパ61の姿勢を変化させるような動作である。
【0034】
本形態のロボットアーム20は、その全ての関節Jを用いて変位動作を行う。そのため、ロボットアーム20の関節Jの数が増えるほど、変位動作における可動域は広くなり、また動作の柔軟性も向上する。本形態のロボットアーム20は6つの関節Jを備えており、空中において一般的な産業用ロボットアームと同等の作業を行うことができる。一方、ロボットアーム20に汎用性が求められず、これを所定の単純な作業にのみ用いる場合には、逆に関節数を減らすことも考えられる。
【0035】
そして「静止動作」とは、外因によるグリッパ61の位置または姿勢の乱れを自動的に補正する動作である。ここでいう「外因」とは、字義通りの意味であり、例えばグリッパ61の位置や姿勢の乱れに関していえば、飛行ユニット10の揺動や、飛行ユニット10が横風に抗して位置を保つ際の傾きなど、その原因がロボットアーム20の外部にあることをいう。
【0036】
また、静止動作は、例えば図4に示すように、飛行ユニット10の位置や姿勢の乱れに対して、ロボットアーム20がグリッパ61の現在位置および現在の姿勢の両方を一定に保とうとする動作の他、図5に示すような態様が考えられる。尚、図4は静止動作の内容を視覚的に表すための便宜上の図面であり、後段で説明するように、本形態のロボットアーム20が実際に静止動作に用いる関節は図4で用いられている関節とは異なる。図5の例では、説明の便宜上、エンドエフェクタをグリッパ61からカメラ62に代えて説明する。静止動作の他の態様としては、例えば図5(a)に示すように、カメラ62を向ける方向を一点に保つ動作、つまりカメラ62が常に空間中の一点(ここでは撮影対象であるワーク69)を向くように、その一点に対する相対的な向きを制御する動作や、又は、図5(b)に示すように、カメラ62の姿勢を一定に保つ動作、つまり、ワーク69の位置とは無関係に、空間中のカメラ62の絶対的な姿勢が一定となるように制御する動作が考えられる。
【0037】
また、本形態のロボットアーム20は、最も手先側の3つの関節である関節J4-J6を用いて静止動作を行う。これら関節J4-J6は、それぞれ、互いに直交する3軸であるヨー軸、ロール軸、ピッチ軸周りに回転する関節である。つまりこれらの関節J4-J6によれば、グリッパ61の位置のずれは完全には相殺できないものの、少なくともグリッパ61の絶対的な姿勢やワーク69に対する相対的な向きについては理論上一定に保つことができる。本形態のロボットアーム20は、グリッパ61の向き又は姿勢を一定に保ちつつ、グリッパ61の位置ずれについては、そのずれに対して可能な範囲でグリッパ61を逆方向に移動させることで、これを相殺する。
【0038】
ここで、静止動作は、グリッパ61の位置や姿勢の乱れに即応すること、つまり乱れを即座に解消することが望ましい。一方、静止動作は、ロボットアーム20の関節数が多くなるほど、運動学計算やモーションプランニングの計算量が増え、そのリアルタイム性が低下する。本形態のロボットアーム20は、最も手先側の3つの関節J4-J6のみを静止動作に用いることで、慣性モーメントを軽減しつつ、速やかな静止動作を実現している。一方、慣性モーメントの影響や、計算処理の遅延、ジンバルロックの懸念等が特にないのであれば、固定端側の関節や非連続の関節を静止動作に使うことも考えられる。
【0039】
尚、静止動作に用いる関節には、ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸周りに回転する3つの関節を常に含めなければならないわけではない。例えば関節J4-J6による静止動作をリアルタイムに処理できないときには、これら3軸のうちいずれか2軸(2関節)のみで静止動作を行った方が、全体として見たときの作業精度が高められることもあり得る。逆に、静止動作の処理能力に余裕がある場合には、静止動作に用いる関節数を増やして、位置ずれの相殺可能範囲を広げてもよい。
【0040】
このように、本形態のロボットアーム20は、その6つの関節Jのうち、グリッパ61の位置や姿勢を能動的に変化させるときに使用する関節(関節J1-J6)と、グリッパ61の意図せぬ位置ずれや姿勢の乱れを補正するときに使用する関節(関節J4-J6)とを機能的に分けている。これにより、ロボットアーム20の可動域や動作の柔軟性の問題と、グリッパ61の安定性の問題とを分離している。より具体的には、ロボットアーム20の変位動作には、静止動作に用いる全ての関節J4-J6を含む、静止動作よりも多くの関節が用いられることで、ロボットアーム20の可動域や動作の柔軟性が最大化されており、一方、グリッパ61の安定性については、少なくともその姿勢や向きが維持できる程度に調節されている。つまり変位動作と同じ関節、同じアルゴリズムを静止動作にも転用するのではなく、これらを別々に定義することでそのバランスを最適化している。
【0041】
尚、ロボットアーム20の関節Jの総数や、その変位動作に用いられる関節Jの数は本形態の6関節には限られず、その用途において必要とされる可動域や動作の柔軟性に応じて様々な関節数とすることが考えられる。また、ロボットアーム20がその静止動作に用いる関節Jの数も本形態の3関節には限られず、要求される手先の安定性に応じて様々な関節数となり得る。本発明のロボットアームの最小構成は、変位動作を2関節で行い、そのうちの1関節が静止動作にも用いられる構成である。どのような構成・形態であっても、静止動作に用いられる関節の数が変位動作に用いられる関節の数よりも少なく、静止動作に用いられる関節の全部または一部が変位動作にも用いられていれば、本形態のロボットアーム20と同様の効果を得ることは可能である。つまり、ロボットアームが実施可能な作業の種類自体は狭めることなく、その計算量や反応速度を現実的・実用的に最適化することが可能である。
【0042】
(マルチコプターの機能構成)
図6は、マルチコプター91の機能構成を示すブロック図である。以下、図6を参照して、飛行ユニット10及びロボットアーム20の機能構成について説明する。
【0043】
図6に示すように、本形態の飛行ユニット10の機能は、いわゆるフライトコントローラである制御装置11、複数のロータ15、及び、オペレータの操縦装置80と通信を行う通信装置16により構成されている。
【0044】
制御装置11は、飛行制御プログラム(いわゆるフライトソフトウェア)を実行するマイクロコントローラである。制御装置11は単体のマイクロコントローラには限られず、いわゆるコンパニオンコンピュータとの組み合わせであってもよい。その他、これを例えばFPGA(field-programmable gate array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などで構成することも考えられる。飛行ユニット10はさらに、3軸加速度センサ及び3軸角速度センサを有する慣性計測装置であるIMU12(Inertial Measurement Unit)、高度計である気圧センサ14、GPS13(正確には航法衛星システムの受信器)、及び電子コンパス15を有しており、これらは制御装置11に接続されている。制御装置11は、これらのセンサにより、機体の傾きや回転のほか、水平面上の位置(経緯度)、海抜高度(標高)、及び機首の方位角を含む位置情報を取得し、各ロータ15の回転数を制御して飛行ユニット10を飛行させる。
【0045】
一方、本形態のロボットアーム20の機能は、主に、制御装置31、複数のモータ41、グリッパ61、及び、通信装置35により構成されている。
【0046】
制御装置31も制御装置11と同じくマイクロコントローラである。制御装置31はそのプログラムにより運動学計算やモーションプランニングを行いながら各関節J(モータ41)を駆動する。制御装置31の実装形態がマイクロコントローラに限られない点も制御装置11と同様である。ロボットアーム20はさらに、3軸加速度センサ及び3軸角速度センサを有する2つの慣性計測装置であるIMU32(第1慣性計測装置)及びIMU33(第2慣性計測装置)、並びに、関節J1-J3の角度位置を検知するエンコーダ34を有しており、これらは制御装置31に接続されている。制御装置31は、これらのセンサにより、ロボットアーム20の各部の状態を把握し、各モータ41を制御してロボットアーム20の変位動作および静止動作を行う。
【0047】
本形態では、IMU32はグリッパ61の非可動部に配置されており、IMU33は飛行ユニット10の内部に配置されている。つまりロボットアーム20の根元と先端にIMUが配置されている。そして、IMU32は、静止動作を行う各関節J4-J6の角度位置を検知するために用いられ、IMU33は、飛行ユニット10の位置ずれや傾きを検知するために用いられる。
【0048】
本形態のロボットアーム20では、関節J1-J3のリンク駆動部(モータ41の回転を減速した後の最終的な出力部)にエンコーダ34が設けられている。制御装置31は、関節J1-J3の角度位置をエンコーダ34の出力値から特定し、そして、関節J4-J6の角度位置をIMU32の出力値から特定する。本形態のロボットアーム20は、各関節Jの角度位置を把握するにあたり、IMU32の出力値から算出可能な範囲についてはIMU32によって特定することで、必要とされるエンコーダ34の数を抑えている。本形態のロボットアーム20は、その始動時に、まず関節J1-J3のキャリブレーションを行い、関節J1-J3の角度位置を自動的に初期化する、次にIMU32の出力値から関節J4-J6の状態を特定し、これらの角度位置を自動的に初期化する。尚、各関節Jの角度位置の特定方法は本形態のものには限られず、例えば全ての関節の角度位置をエンコーダで特定することも可能であり、これらをIMUで特定することも可能である。又、各関節の初期化は手動で行ってもよい。
【0049】
図6に示されるように、飛行ユニット10に設置されているIMU33は、飛行ユニット10がその姿勢制御に用いるIMU12とは別の慣性計測装置である。一般に、マルチコプターなどの飛行ユニットは、その姿勢制御のための慣性計測装置を備えている。本形態では、飛行ユニット10側に設置するIMU33を飛行ユニット10のIMU12とは別に用意することで、IMUを飛行ユニット10の姿勢制御に用いるうえでの制約とは無関係に、IMU33をより合目的的に選択、配置、使用している。
【0050】
また、本形態のIMU33は、防振材を介さずに、飛行ユニット10内に設置されている。ここでいう「防振材」とは、例えばゴムや発泡材などを用いた緩衝材・振動吸収材である。一般に、飛行ユニットがその姿勢制御のために備える慣性計測装置は、静止動作するため、防振材を介して機体に設置されている。本形態においても、IMU12は防振材を介して飛行ユニット10に設置されている。これによりIMU12が検知する振動ノイズが鈍化し、IMU12の出力値が飛行ユニット10の姿勢制御により適したものとなる。一方、ロボットアーム20はその固定端と手先との間に距離があり、固定端の僅かな傾き(つまり飛行ユニット10の僅かな傾き)でも、手先ではその影響が大きく表れる。そこで、本形態では、飛行ユニット10のIMU12とは別にIMU33を設け、さらにこれを、防振材を介さずに飛行ユニット10に設置することにより、飛行ユニット10の傾きをより正確に把握している。尚、IMU33は飛行ユニット10の姿勢を直接取得できる位置に配置されていればよく、飛行ユニット10内でなくとも、例えばロボットアーム20の接合部51に設置されてもよい。
【0051】
このように、本形態のマルチコプター91は、複数のロータ15で飛行する飛行ユニット10とロボットアーム20とを組み合わせたことにより、飛行ユニット10の揺動等によるグリッパ61のブレを抑えつつ、空中において様々な作業を行うことができる。
【0052】
また、本形態のマルチコプター91は、図6に示されるように、飛行ユニット10とロボットアーム20とが、互いに機能的に独立している。上でも述べたように、IMU33は飛行ユニット10内でなくロボットアーム20の接合部51に設置されてもよい。つまりロボットアーム20はその動作に関して飛行ユニット10には依存しておらず、飛行ユニット10を他の機能構成の飛行ユニットに変えてもロボットアーム20の動作への影響はない。このことは、ロボットアーム20が他の飛行ユニットや、陸上、水上を移動する他の移動体にも適用可能であることを意味している。つまりロボットアーム20は、その固定端の位置や姿勢が不安定となる移動体であればどのような移動体にも適用することができる。一方で、ロボットアーム20と飛行ユニット10とを一体不可分なものとして設計することで、全体としての構造効率やコスト効率を高めることも可能である。
【0053】
<変形例および他の実施形態>
図7及び図8は、マルチコプター91の変形例を示す模式図である。図7は、機外に別途カメラ70を備える構成を示す模式図である。図8は、ロボットアーム20を搭載した陸上移動体92の例を示す模式図である。以下、図7及び図8を参照してマルチコプター91の変形例および他の実施形態について説明する。
【0054】
図7のマルチコプター91aは、グリッパ61又はその作業対象であるワーク69の位置を特定するカメラ70を備えている。カメラ70はライト(照明装置)付きのカメラ70であってもよい。これによりロボットアーム20のオペレータやプログラムは、視覚的な情報を基に、より正確に、より確実に作業を行うことができる。本形態のカメラ70はいわゆる深度カメラである。ワーク69の位置検知手段としては、深度カメラの他にも、例えば一般的な可視光カメラ、ステレオカメラ、赤外線センサ、超音波センサ、レーザースキャナ、LRF(Laser rangefinder)、ミリ波レーダー、LiDAR(Light Detection And Ranging)、及びこれらの組み合わせ等が考えられる。
【0055】
そして、上記実施形態ではロボットアーム20と飛行ユニット10とが組み合わされているが、ロボットアーム20は、飛行体だけでなく、陸上・水上を移動する移動体に適用することもできる。例えば図8に示す陸上移動体92が備える陸上移動ユニット19としては、例えば車両や、2足歩行・4足歩行ロボット等が考えられる。ロボットアーム20は、このような陸上移動ユニット19に適用された場合でも、ロボットアーム20が実施可能な作業の種類自体を狭めることなく、その計算量や反応速度を現実的・実用的に最適化することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0057】
10:飛行ユニット,11:制御装置,12:IMU,13:GPS,14:気圧センサ,15:ロータ,16:通信装置,19:陸上移動ユニット,20:ロボットアーム,31:制御装置,32:IMU(第1慣性計測装置),33:IMU(第2慣性計測装置),34:エンコーダ,35:通信装置,41:モータ,42:波動歯車装置(減速機構),J1-J6:関節,50:リンク部材,51:接合部,61:グリッパ(手先),62:カメラ,69:ワーク,70:カメラ,80:操縦装置,91,91a:マルチコプター(無人航空機),92:陸上移動体
【要約】
【課題】固定端の位置や姿勢が不安定なロボットアームについて、より実用的な構成を見いだす。
【解決手段】複数の関節を備え、自由端である手先を所望の位置および姿勢に変化させる変位動作と、外因による前記手先の位置または姿勢の乱れを自動的に補正する静止動作と、を行い、前記静止動作に用いられる前記関節の数は、前記変位動作に用いられる前記関節の数よりも少なく、前記静止動作に用いられる前記関節の全部または一部は、前記変位動作にも用いられるロボットアーム、及びこれを備える無人航空機により上記課題を解決する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8