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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】木製椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/00 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
A47C7/00 A
A47C7/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020176262
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067520
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-10-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ニトリ店舗 販売日 令和1年12月2日 (2)ウェブサイトの掲載アドレス https://www.nitori-net.jp/ec/product/4008115s/ 掲載日 令和1年12月5日 (3)テレビCM 放送日 令和1年12月9日 (4)新聞折り込みチラシ 頒布日 令和2年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】500560129
【氏名又は名称】株式会社ニトリホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 康一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 紀之
(72)【発明者】
【氏名】岸本 高治
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0015591(US,A1)
【文献】特開2013-252254(JP,A)
【文献】特開2015-8754(JP,A)
【文献】特開2003-299546(JP,A)
【文献】L-leg stool with finger joint construction,Artek 2nd Cycle ウェブサイト, [online],2020年03月04日,[令和6年7月10日検索], インターネット <URL: https://www.artek.fi/2ndcycle/en/available-now/l-leg-stool-with-finger-joint-construction>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 1/00-31/12
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部、前脚及び後脚を備える木製椅子であって、
前記前脚及び前記後脚は、直線部分に、2つの木材要素を長手方向に並べてフィンガージョイントにより接着したジョイント部を有し、前記フィンガージョイントのカット方向が前後方向に略一致するように前記座部と連結されている、
木製椅子。
【請求項2】
前記前脚と前記後脚とを連結する貫を備え、
前記前脚及び前記後脚と前記貫とは、それぞれ、前記座部と前記ジョイント部の間で連結されている、請求項1に記載の木製椅子。
【請求項3】
前記木材要素の2つ以上が、略同一長さである、請求項1又は2に記載の木製椅子。
【請求項4】
前記後脚は、前記木材要素として、前記座部と連結される中間木材要素と、前記中間木材要素の上下に接合される上部木材要素及び下部木材要素と、を有し、
前記中間木材要素は、前記上部木材要素及び前記下部木材要素よりも長く、
前記上部木材要素及び前記下部木材要素は、同一長さである、
請求項3に記載の木製椅子。
【請求項5】
前記木材要素は、他の木材要素の作製工程で発生した端材を用いて形成される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の木製椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材の接合方法の一つとして、木材の接合端部をジグザグに切削して、相互に嵌め込んで接着するフィンガージョイントが知られている。一般に、フィンガージョイントは、集成材を製造する場合や、屈曲形状を形成する場合に用いられる。例えば、特許文献1には、フィンガージョイントを適用して「く」字状に屈曲させた背板を有する長椅子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5390664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、森林資源の保護という観点から、曲木の椅子を製造する過程などで発生する端材の有効活用が検討されている。上述したフィンガージョイントなどを適用して複数の端材を接合することにより、廃棄されるはずの端材から有用な部材を作製することができる。
【0005】
しかしながら、多数の端材を接合する必要がある場合、材料費を低減できる一方で工程が増えるために、全体として製造コストが増大する虞がある。製造コストを考慮すると、少数の端材を接合して柱状の部材を作製することが考えられるが、作製できる部材はサイズ的に制限される上、ジョイント部に応力が集中するため、強度を要求される部材(例えば、木製椅子の脚)に安易に適用することはできない。
【0006】
本発明の目的は、十分な強度を維持しつつ、端材の発生を抑制して製造コストを低減できる木製椅子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る木製椅子は、
座部、前脚及び後脚を備える木製椅子であって、
前記前脚及び前記後脚は、直線部分に、複数の木材要素を長手方向に並べてフィンガージョイントにより接着したジョイント部を有し、前記フィンガージョイントのカット方向が前後方向に略一致するように前記座部と連結されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、十分な強度を維持しつつ、端材の発生を抑制して木製椅子の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る木製椅子の斜視図である。
図2図2は、木製椅子の正面図である。
図3図3は、木製椅子の側面図である。
図4図4A図4Bは、前脚のフィンガージョイント構造を示す図である。
図5図5A図5Bは、後脚のフィンガージョイント構造を示す図である。
図6図6は、木製椅子の後脚の作製工程の一例を示す図である。
図7図7A図7Cは、脚の曲げ強度試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1図3は、本発明の一実施の形態に係る木製椅子1を示す図である。図1は木製椅子1の斜視図、図2は正面図、図3は右側面図である。
【0012】
図1図3に示すように、木製椅子1は、座枠11、座面12、左右一対の前脚20、左右一対の後脚30、背もたれ40、及び左右一対の貫51等を備える。座枠11及び座面12は、木製椅子1の座部を構成する。なお、図1及び図3では、座面12を省略して示している。
【0013】
座枠11は、前枠板111、後枠板112、及び左右の側枠板113で構成され、全体として略矩形状を呈する。座枠11は、例えば、前脚20及び後脚30に設けられたほぞ穴に、枠板111~113に設けられたほぞを差し込む、いわゆるほぞ組みにより組み付けられる。座枠11の四隅の内側には、隅木52が取り付けられて補強されている。なお、座枠11と前脚20及び後脚30の接合には、例えば、ダボ継ぎ等の他の接合方法を適用してもよい。他の部材(例えば、貫51と前脚20及び後脚30)の接合方法についても同様である。
座面12は、例えば、弾力性を有する素材で形成され、座枠11の上面及び側面を覆うように配置される。
【0014】
前脚20は、木製椅子1の前部において、座部(座枠11及び座面12)を支持する。前脚20は、例えば、細長い円柱形状を有し、木製椅子1の設置面に対して略垂直に延在するように配置される。前脚20の上端部に、前枠板111及び側枠板113が接合される。本実施の形態では、前脚20は、上部木材要素21及び下部木材要素22の接合により形成されている。すなわち、前脚20は、1部材で構成する場合に比較して、小サイズの2部材で構成されている。
【0015】
上部木材要素21と下部木材要素22は、直線状に接合される。上部木材要素21と下部木材要素22の接合には、手指形状にジグザグに切削した端部同士を嵌め併せて接着する、いわゆるフィンガージョイントが適用されている。上部木材要素21及び下部木材要素22の端部の切削加工において、ジグザグの数や高さは、接合強度を考慮して適宜に設定される。
【0016】
具体的には、図4A図4Bに示すように、前脚20は、フィンガージョイントのカット方向が前後方向に一致するように配置され、座枠11と連結される。図4Aは、前脚20の接合前の状態を示し、図4Bは、前脚20の接合後の状態を示す。図4Bに示すように、前脚20のジョイント部20aには、前面と後面に、ジグザグの境界線が現れる。
【0017】
前脚20において、上部木材要素21と下部木材要素22は、同一長さであることが好ましい。これにより、同一長さの縦割り材を、いずれの木材要素にも利用することができるので、フィンガージョイントにより接合される木材要素の作製及び管理が簡易化され、前脚20及び後脚30の作製工程が容易になる。なお、脚部材料となる縦割り材の長さは、厳密に同一長さでなくてもよく、後の製造工程における加工時に、適宜調整できる程度に近似する長さであればよい。
【0018】
後脚30は、木製椅子1の後部において、座部(座枠11及び座面12)を支持する。後脚30は、例えば、細長い円柱形状を有し、木製椅子1の設置面に対して略垂直に延在するように配置される。本実施の形態では、後脚30は、右側方から見て座部の上方で緩やかに屈曲する「く」字形状を呈している。後脚30の中間部(中間木材要素32)に後枠板112及び側枠板113が接合される。本実施の形態では、後脚30は、上部木材要素31、中間木材要素32及び下部木材要素33の接合により形成されている。すなわち、後脚30の下側の直線部分は、1部材で構成する場合に比較して、小サイズの2部材(中間木材要素32及び下部木材要素33)で構成されている。
【0019】
上部木材要素31と中間木材要素32は、屈曲形状を呈するように接合される。中間木材要素32と下部木材要素33は、直線状に接合される。上部木材要素31と中間木材要素32の接合、及び中間木材要素32と下部木材要素33の接合には、前脚20と同様に、フィンガージョイントが適用されている。具体的には、図5A図5Bに示すように、後脚30は、フィンガージョイントのカット方向が前後方向に一致するように配置され、座枠11と連結される。図5Aは、後脚30の接合前の状態を示し、図5Bは、後脚30の接合後の状態を示す。図5Bに示すように、後脚のジョイント部30a、30bには、前面と後面に、ジグザグの境界線が現れる。
【0020】
後脚30において、上部木材要素31と下部木材要素33は、中間木材要素32よりも短く、同一長さであることが好ましい。これにより、同一長さに切断した縦割り材を、いずれの木材要素にも利用することができるので、フィンガージョイントにより接合される木材要素の作製及び管理が簡易化され、前脚20及び後脚30の作製工程が容易になる。また、上部木材要素31及び下部木材要素33の長さを、前脚20の上部木材要素21及び下部木材要素22と同一長さとすることにより、フィンガージョイントにより接合される木材要素の作製及び管理をさらに容易化することができる。
【0021】
背もたれ40は、2つの後脚30における座部よりも上方の部分に、例えば、ほぞ組みにより架設される。ここでは、上部木材要素31を連結するように、背もたれ40が配置されている。背もたれ40は、例えば、後方に向かって凸状の湾曲面を有する曲木によって形成される。
【0022】
貫51は、右側の前脚20と後脚30、及び左側の前脚20と後脚30に、例えば、ほぞ組みにより架設される。貫51の上下方向の位置は、強度や利便性を考慮して、適宜に設定される。前脚20及び後脚30の直線部分におけるジョイント部分20a、30aの位置は、貫51が取り付けられるほぞ穴の位置を避けるように設定される。
【0023】
貫51は、本実施の形態のように、前脚20及び後脚30のジョイント部20a、30aと座枠11との間、すなわち、前脚20の上部木材要素21と後脚30の中間木材要素32とを連結するように設けられるのが好ましい。これにより、前後方向に作用する荷重に対する曲げ強度が向上する。
【0024】
前脚20及び後脚30は、以下のようにして作製される。図6は、後脚30の作製工程の一例を示す図である。
図6に示すように、後脚30の作製には、接合治具100が用いられる。接合治具100は、固定ガイド101、押さえ板102及び付勢装置103を備える。固定ガイド101は、後脚30の形状に応じて長手方向に屈曲して延在し、上部木材要素31、中間木材要素32及び下部木材要素33を嵌め併せた状態で収容する凹部を有する。押さえ板102は、固定ガイド101の凹部に、長手方向に移動可能に配置される。付勢装置103は、押さえ板102を介して、固定ガイド101に収容された後脚30をガイド端101aに向けて押し付ける。付勢装置103は、例えば、トグルクランプで構成される。なお、図示を省略するが、固定ガイド101には、収容された後脚30を幅方向に押し付けて姿勢を安定させる、ボルト等の固定部材が、長手方向に所定の間隔で配置される。
【0025】
上部木材要素31、中間木材要素32及び下部木材要素33は、ジョイント部30a、30bの接合面が木製椅子1の前後方向となるように、接合端部に切削加工が施される。切削加工には、公知のフィンガージョイント用の切削治具が用いられる。そして、上部木材要素31、中間木材要素32及び下部木材要素33は、接合面に接着剤を塗布され、嵌め合わされる。接着剤の塗布に関して、接合面に予め接着剤をしみこませて膜を形成した後、改めて接着剤を塗布して相手材と嵌め併せることにより、強固に接合することができる。
【0026】
この状態で固定ガイド101に収容され、下部木材要素33の端部がガイド端101aに当接し、上部木材要素31の端部が押さえ板102に当接した状態で、付勢装置103によって所定圧力で押圧される。また、固定部材(図示略)によって幅方向に押圧されることにより、縦方向の圧力が端部で幅方向に逃げてずれることなく、安定した姿勢で保持される。これにより、後脚30のジョイント部30a、30bは、強固に接合される。そして、接合後に適宜丸め加工等が施され、所定形状の後脚30が作製される。
【0027】
前脚20も、後脚30と同様にして作製される。前脚20の作製には、長手方向に直線状に延在する固定ガイドを備える接合治具が用いられる。
【0028】
木製椅子1において、各部材は、例えば、1枚の板材を縦方向に沿って切断して幅方向に分割し、さらに節や木目などの外観や強度が劣る部位を除去した正常な縦割り材から切り出される。背もたれ40は、縦割り材を並べて接着して一枚の板材にした後、切り出して形成されてもよい。
【0029】
本実施の形態では、後脚30の上部木材要素31と中間木材要素32を屈曲形状に接合するジョイント部30bだけでなく、前脚20及び後脚30の直線部分においても、フィンガージョイントが適用されている。前脚20及び後脚30の直線部分は、1部材で構成する場合に比較して小サイズの2部材で構成されるので、従来は廃棄されていた小サイズの縦割り材(端材)からも切り出すことが可能となり、無駄になる端材の発生を抑制することができる。例えば、座枠11、背もたれ40及び貫51等の他の木材要素の作製時に除外された端材を利用して、前脚20及び後脚30の上部木材要素21、31と下部木材要素22、33を作製することができる。したがって、木製椅子1の材料コストを低減することができる。
また、前脚20及び後脚30の上部木材要素21、31及び下部木材要素22、33のいずれの部位にも利用可能とするために、端材を同一長さに切断して準備しておくことにより、製造工程全体の効率も向上する。
【0030】
ここで、木製椅子1のように、前脚20及び後脚30の直線部分を、2つの木材要素をフィンガージョイントにより接合して作製する場合、1つの木材要素(いわゆる無垢材)で作製する場合に比較して強度が低下する。ジョイント部20a、30aは、フィンガー部分が嵌め合わされて接着されているため、圧縮/引張方向(接合面に略垂直な方向)には拘束されており変位しにくい(折曲しにくい)が、せん断方向(接合面に略平行)には拘束されておらず変位しやすい(折曲しやすい)構造であるといえる。そのため、フィンガージョイントのカット方向、すなわちジョイント部の接合面を左右方向に一致させて、木製椅子1の前後方向における出し引き動作時に、圧縮方向に荷重が作用するようにした方が好ましいと考えられる。
しかしながら、本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、実際には、ジョイント部20a、30aの接合面を前後方向に一致させた方が、左右方向に一致させた場合に比較して、曲げ強度が大きくなることが判明した。
【0031】
具体的には、図7A図7Cに示すように、前脚20及び後脚30を模擬した試験片200を、2つの支持体201上に懸架して、ジョイント部200aを挟む2箇所に支持体201とは反対側から荷重Lずつ作用させた4点曲げ試験により、試験片200が破壊に至るまでの最大荷重を測定し、曲げ強度を評価した。
【0032】
図7Aは、曲げ強度試験の概要を説明する図である。図7Bは、ジョイント部200aの接合面に略垂直に荷重Lを作用させたときの試験例であり、フィンガー部のジグザグの境界線が現れていない面が荷重作用面となっている。また、図7Cは、ジョイント部200aの接合面に略平行に荷重Lを作用させたときの試験例であり、フィンガー部のジグザグの境界線が現れている面が荷重作用面となっている。
図7Bに示す試験例により、フィンガージョイントのカット方向を左右方向に一致させたときの前脚20及び後脚30の曲げ強度を評価することができ、図7Cに示す試験例により、フィンガージョイントのカット方向を前後方向に一致させたときの前脚20及び後脚30の曲げ強度を評価することができる。
【0033】
図7B図7Cに示すように、荷重Lをかけると試験片200が撓み、応力中立点(図7B図7Cの破線)を境界にして、ジョイント部200aの上部に圧縮応力CSが生じ、下部に引張応力TSが生じる。図7B図7Cにおいて、圧縮応力CS及び引張応力TSを示す矢印の長さは、応力の大きさを表している。
【0034】
図7Bに示す試験例では、フィンガー部分ごとに、異なる大きさの引張応力又は圧縮応力が生じ、最下段に位置する一つのフィンガー部分に大きな引張応力が集中する。そして、最下段のフィンガー部分が剥離すると、残りのフィンガー部分で荷重を支えることとなるが、支えきれずに次段(下から二段目)のフィンガー部分が剥離する。同様に、下から三段目、四段目のフィンガー部が順に剥離していき、最終的に破壊に至った。
一方、図7Cに示す試験例では、下部から順に剥離する点は図7Bに示す試験例と同様であるが、すべてのフィンガー部分に引張応力及び圧縮応力が均等に分散されるため、剥離し始める荷重は、図7Bに示す試験例よりも大きくなった。
【0035】
このように、ジョイント部200aの接合面に略平行に荷重Lを作用させた場合(図7C参照)、接合面に略垂直に荷重Lを作用させた場合(図7B参照)に比較して、曲げ強度が大きくなるという結果が得られた。したがって、木製椅子1の前脚20及び後脚30を、フィンガージョイントのカット方向を前後方向に一致するように配置した方が、左右方向に一致するように配置した場合に比較して、曲げ強度が大きく、耐用年数(疲労強度)の面でも有利となる。
本実施の形態の木製椅子1は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、前脚20及び後脚30を、フィンガージョイントのカット方向が前後方向に一致するように座枠11と連結することで、フィンガージョイントによる強度の低下が効果的に抑制されている。
【0036】
さらに、本実施の形態では、座枠11とジョイント部20a、30aの間に貫51を設けることにより、前後方向に作用する荷重に対する曲げ強度が補強されている。すなわち、前脚20及び後脚30の前後方向の動きが、貫51と前脚20及び後脚30の設置面により規制されるようにすることで、貫51がない場合に比較してジョイント部20a、30aに生じる曲げ応力を小さくし、曲げ強度の向上が図られている。前後方向に作用する荷重に対する前脚20及び後脚30の曲げ強度の観点からは、貫51は、ジョイント部20a、30aの近くに配置するのが好ましい。
【0037】
このように、本実施の形態に係る木製椅子1は、座部(座枠11及び座面12)、前脚20及び後脚30を備える木製椅子であって、前脚20は、直線部分に、上部木材要素21と下部木材要素22(2つの木材要素)を長手方向に並べてフィンガージョイントにより接着したジョイント部20aを有し、フィンガージョイントのカット方向が前後方向に一致するように座枠11と連結されている。また、後脚30は、直線部分に、中間木材要素32と下部木材要素33(2つの木材要素)を長手方向に並べてフィンガージョイントにより接着したジョイント部30aを有し、フィンガージョイントのカット方向が前後方向に一致するように座部と連結されている。
これにより、椅子として十分な強度を維持しつつ、端材の発生を抑制することができ、製造コストを低減することができる。
【0038】
また、木製椅子1は、前脚20と後脚30とを連結する貫51を備え、前脚20及び後脚30と貫51とは、それぞれ、座枠11(座部)とジョイント部20a、30aの間で連結されている。
これにより、前脚20及び後脚30の前後方向の荷重に対する曲げ強度が高まるので、木製椅子1の信頼性が向上する。
【0039】
また、木製椅子1において、前脚20の上部木材要素21及び下部木材要素22、並びに後脚30の下部木材要素33(フィンガージョイントにより接合される木材要素のうちの少なくとも2つ)は、略同一長さである。
これにより、フィンガージョイントにより接合される木材要素の作製及び管理が簡易化され、前脚20及び後脚30の作製工程が容易になるとともに、様々なサイズの端材を有効利用することができる。
【0040】
また、木製椅子1において、後脚30は、木材要素として、座枠11(座部)と連結される中間木材要素32と、中間木材要素32の上下に接合される上部木材要素31及び下部木材要素33と、を有し、中間木材要素32は、上部木材要素31及び下部木材要素33よりも長く、上部木材要素31及び下部木材要素33は、略同一長さである。
これにより、後脚30の作製工程がさらに容易になる上、ジョイント部30aが、座枠11の連結部と干渉するのを容易に回避できる。
【0041】
また、木製椅子1において、前脚20及び後脚30の上部木材要素21、31及び下部木材要素22、33(フィンガージョイントにより接合される木材要素)は、座枠11等の他の木材要素の作製工程で発生した端材を用いて形成される。
これにより、従来は破棄されていた端材を無駄なく有効活用して、材料コストを低減することができる。
【0042】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0043】
例えば、実施の形態では、前脚20及び後脚30の直線部分を、2つの木材要素の接合により形成しているが、所定の強度を確保できる範囲で、3つ以上の木材要素の接合により形成してもよい。
【0044】
また、実施の形態では、前脚20の上部木材要素21と後脚30の中間木材要素32とを連結するように貫51が配置されているが、前脚20及び後脚30の下部木材要素22、33を連結するように貫51を配置するようにしてもよい。また、左右の貫51に加えて、又は左右の貫51に代えて、左右の前脚20同士、又は後脚30同士を連結する貫を設けてもよい。
【0045】
また、実施の形態では、前脚20の上部木材要素21及び下部木材要素22、並びに後脚30の上部木材要素31及び下部木材要素33を同一長さとしているが、これらの部材の長さは異なっていてもよい。これらの部材のうち、少なくとも2つを同一長さとすることにより、部材の作製及び管理を簡易化することができる。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 木製椅子
11 座枠(座部)
12 座面(座部)
20 前脚
21 上部木材要素
22 下部木材要素
30 後脚
31 上部木材要素
32 中間木材要素
33 下部木材要素
40 背もたれ
51 貫
20a、30a、30b ジョイント部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7