(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】量子波の崩壊、干渉、および選択的吸収を利用する非相反量子デバイス
(51)【国際特許分類】
H04B 10/70 20130101AFI20240822BHJP
【FI】
H04B10/70
(21)【出願番号】P 2023006057
(22)【出願日】2023-01-18
(62)【分割の表示】P 2021512852の分割
【原出願日】2019-09-12
【審査請求日】2023-01-18
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】301033396
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンハルト ヨッヒェン
(72)【発明者】
【氏名】ブラーク ダニエル
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-526794(JP,A)
【文献】特開2016-058566(JP,A)
【文献】特開2007-226076(JP,A)
【文献】SOLLNER I. et al.,Deterministic photon-emitter coupling in chiral photonic circuits,NATURE NANOTECHNOLOGY, LETTERS,2015年09月,vol. 10,pages 775-778
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/70
H04B 10/00
H04B 10/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子デバイスであって、
少なくとも1つの第1のポート(31)および少なくとも1つの第2のポート(32)と、
少なくとも前記第1のポート(31)と前記第2のポート(32)の間に接続されている伝達構造(33,34,35,36)と、
を備えており、
前記伝達構造(33,34,35,36)は、前記
第1のポート(31)と前記第2のポート(32)との間に延びる少なくとも2つの第1の伝達経路を備え、
前記伝達構造(36)が、前記ポート間の量子波の非相反性運動を達成するために、量子波の崩壊、干渉、および選択的吸収を実施するように設計されており、
前記伝達構造(33)が、非対称のトンネル接合により作成されたトンネル障壁(42)で構成され、
前記伝達構造(33)が、前記トンネル障壁(42)に到達する量子波(41.1)を2つの部分波(41.2,41.3)に分割するように構成され、前記2つの部分波(41.2,41.3)間の位相シフトが、前記量子波(41.1)が前記トンネル障壁(42)に衝突する側面により決まる、ように構成されている、
量子デバイス。
【請求項2】
前記トンネル障壁(42)は、物質波に対する非相反性の移送特性を有する2つの異なる材料(42.1,42.2)から作成される、請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項3】
前記トンネル障壁(42)は、両方向における電子の透過率が50%に等しいように選択されている、請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項4】
前記伝達構造(36)が、3端子接合部(45)により構成され、前記接合部(45)における2つの量子波の干渉は、その位相差の関数である、請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項5】
前記伝達構造(33)が、前記
第1のポート(31)と前記第2のポート(32)から発せられた第1の波が、両方の伝達経路を伝搬する第1の部分波に分割され、
前記伝達構造(34,35)から少なくとも部分的に発せられた第2の波が、前記伝達構造(33)によって、両方の伝達経路を伝搬する第2の部分波に分割され、前記第2の部分波が、優先的に一方のポートに到達するように少なくとも一部が干渉する、
請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項6】
部品を動かすかまたは回転させることによって、または、前記伝達経路の伝達特性を変化させることによって、前記伝達構造
(33,34,35,36)の作用が変更される、請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項7】
前記
第1のポート(31)と前記第2のポート(32)との間を移動する波の位相の少なくとも一部が、位相が保存されない散乱イベントの作用を使用して、消失してランダムな位相に置き換わる、請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項8】
- 前記第1の波が、熱源から得られるエネルギーを有する量子、または0<E<100kTであるような次数kTのエネルギーEを有する量子を含み、Tが環境の温度である、デバイス、
- 熱力学の第0法則、第2法則、または第3法則の1つまたは複数からの逸脱を達成するために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
- 熱力学の第0法則、第2法則、または第3法則の1つまたは複数からの逸脱を達成するために、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
- システム内の波または粒子のエネルギー分布の密度の不均一性を発生させるかまたは高めるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
- 熱平衡の状態から脱するようにシステムを移行させるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
- 1つの物体内またはいくつかの物体の間に温度差を発生させるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
- 干渉計を備えたデバイス、
- 加熱、冷却、物質移送、エネルギー移送、または発電を実行するデバイス、
の1つまたは複数における、
請求項5に記載の量子デバイスの使用。
【請求項9】
前記デバイスが、0K~5000Kの範囲内の温度で動作する、
請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記デバイスが、量子領域において浴に結合されていない、または浴と絡み合っていない、
請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記デバイスが、システム内の波または粒子のエネルギー分布の密度の不均一性を発生させるかまたは高めるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用する、
請求項8に記載の使用。
【請求項12】
前記エネルギー分布が、少なくとも部分的に熱エネルギーによって生成される、
請求項11に記載の使用。
【請求項13】
波動関数の前記少なくとも部分的な量子物理学的崩壊が、巨視的物体(macroscopic body)の使用によって達成され、前記巨視的物体が、例えば固体、液体、気体、またはプラズマであってよい、
請求項8に記載の使用。
【請求項14】
前記少なくとも部分的な量子物理学的崩壊および波動関数の少なくとも部分的な吸収の後、前記物体による波の統計的再放出が起こる、
請求項8に記載の使用。
【請求項15】
少なくとも部分的に量子物理学的に崩壊した波が、ランダムな位相を有する別の波に統計的に置き換わる、
請求項8に記載の使用。
【請求項16】
前記デバイスが、生成された放射密度の不均一性または生成された温度差を、電気、放射、光エネルギー、または他の形態のエネルギーに変換する、
請求項8に記載の使用。
【請求項17】
前記デバイスが、1つの物体内で、またはいくつかの物体の間で、質量、粒子、エネルギー、熱、運動量、角運動量、電荷、または磁気モーメントを移動させる、
請求項8に記載の使用。
【請求項18】
前記デバイスが、エネルギー、波、または物質の格納システムを満たす、
請求項8に記載の使用。
【請求項19】
前記デバイスが、物体、波、または波の集合体(ensembles of waves)を加熱する、または冷却する、
請求項8に記載の使用。
【請求項20】
追加で設けられる加熱機能または冷却機能を使用することによって、前記デバイスの前記物体の1つまたはいくつかが、室温とは別の基準温度において動作する、
請求項8に記載の使用。
【請求項21】
前記デバイスの動作を制御するために、内部または外部で生成される少なくとも1つの信号が使用される、
請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2つ以上の物体(body)を新しい平衡状態に移行させるために、量子波の崩壊、量子波の干渉、および量子波の選択的吸収を利用する、伝達構造を備えた非相反量子デバイスに関する。さらに本開示は、そのような量子デバイスを動作させる方法と、多数の異なるデバイスにおける1つまたは複数のそのような量子デバイスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の説明では、次の文書を参照する。
1. 非特許文献1
2. 特許文献1
3. 特許文献2
4. 非特許文献2
5. 非特許文献3
6. 非特許文献4
7. 非特許文献5
8. 非特許文献6
9. 非特許文献7
10. 非特許文献8
11. 非特許文献9
12. 非特許文献10
13. 非特許文献11
14. 非特許文献12
15. 非特許文献13
16. 非特許文献14
【0003】
特許文献1には、コヒーレンスフィルタを使用して量子波を変化させることによって熱力学の第2法則を破る非相反量子デバイスが開示されている。本発明は、コヒーレンスフィルタの使用に頼るのではなく、量子波の崩壊、量子波の干渉、および量子波の選択的吸収のみを利用する、より単純なデバイスによって、同様に熱力学の第0法則および第2法則、ならびに熱力学の第3法則を破る方法を示す。本明細書に開示されているデバイスは、コヒーレンスフィルタを必要としないにもかかわらず、多くの特徴およびデバイスの機能の多くの部分において、特許文献1に開示されているデバイスに似ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】欧州特許出願第18180759.5号「A Non-reciprocal Device Comprising Asymmetric Phase Transport of Waves」(D. Braak、J. Mannhart)(本出願の優先日の時点ではまだ公開されていない)
【文献】欧州特許出願第18159767.5号「Non-reciprocal Filters for Matter Waves」(J. Mannhart)(本出願の優先日の時点ではまだ公開されていない)
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Mannhart, J. Supercond. Novel. Magn. 31, 1649 (2018)
【文献】M. Planck, Verhandlungen der Deutschen Physikalischen Gesellschaft 2, 245 (1900)
【文献】J.C. Maxwell, Theory of Heat, Longmans, Green, and Co. (1871)
【文献】V. Capek and D.P. Sheehan, “Challenges to the Second Law of Thermodynamics”, Springer 2005
【文献】C. Cohen-Tannoudji, J. Dupont-Roc, G. Grynberg, Atom-Photon Interactions, Basic Processes and Application, Wiley-VCH (2004)
【文献】R. Loudon, The Quantum Theory of Light, Oxford Science Publications, Third Edition (2000)
【文献】Y. Imry, "Introduction to Mesoscopic Physics", Oxford University Press (2002)
【文献】Th. M. Nieuwenhuizen, A.E. Allahverdyan, Phys. Rev. E, 036102 (2002)
【文献】L.E. Reichl, “A Modern Course in Statistical Physics”, E. Arnold, 1980
【文献】Z. Merali, Nature 551, 20, (2017)
【文献】K. Maruyama, F. Nori, V. Vedral, Rev. Mod. Phys. 81, 1 (2009)
【文献】J. Johnson, Phys. Rev. 32, 97 (1928)
【文献】H. Nyquist, Phys. Rev. 32, 110 (1928)
【文献】E. Fermi, "Thermodynamics", Dover Publications, 1956
【文献】I. Soellner et al.: “Deterministic photo-emitter coupling in chiral photonic circuits”, NATURE TECHNOLOGY, vol. 10, no. 9, 1 September 2015, pages 775-778
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様によれば、量子デバイスは、少なくとも第1のポートと第2のポートの間に接続されている伝達構造を備えており、この伝達構造は、ポート間の量子波の非相反性運動を達成するために、量子波の崩壊、干渉、および選択的吸収を実施するように設計されている。
【0007】
本量子デバイスの一実施形態によれば、本量子デバイスはフォトニックデバイスを備えている、またはフォトニックデバイスから構成され、量子は光子である。以下に説明する量子デバイスの実施形態のいくつかは、フォトニックデバイスとしての量子デバイスに関連し、すなわち本デバイスの素子は光学素子からなる。しかしながら本量子デバイスは、後から詳しく示すように例えば電子など別の種類の量子によって実施することもできることを理解されたい。
【0008】
第1のポートおよび第2のポートは、第1の量子波を放出し、伝達構造は、第1の量子波のための波スプリッタ(wave splitter)を含むことができる。さらに、本デバイスは、第1の量子波を一部を吸収して第2の量子波として再放出するシステムを備えていることができる。本デバイスは、干渉する第2の量子波が一方のポートに優先して送られるように、波スプリッタとの相互作用を介して第2の量子波の間の干渉を発生させるシステム、をさらに備えていることができる。
【0009】
本量子デバイスの一実施形態によれば、上に述べたシステムは、少なくとも1つの一次元伝達構造または少なくとも一次元伝達構造によって形成することができる。この伝達構造は、その中心に実在物(entity)を含み、この実在物は、単一原子、複数の単一原子または分子、または超放射(superradiance)の有無にかかわらず単一原子の挙動によって特徴付けられる特徴的な挙動を有する多数の原子、分子、または粒子、とすることができる。この実在物は、より大きな質量mに有利に取り付けることができ、したがって量子波の吸収または放出時、運動量の保存および大きな値mの理由で構造の速度変化を無視することができる。実在物は、原子と同じように波を吸収および放出することのできる、例えば色中心などの1つまたは複数の欠陥を含む固体によって形成することができる。いずれにしても実在物は、原子と同じように波を吸収および放出することのできる任意のものとすることができる。したがって以下において用語「原子」は、用語「システム」の代わりに、またはその同義語としても使用される。
【0010】
本量子デバイスの一実施形態によれば、上に述べた波スプリッタは、例えば片面が薄い誘電体膜などのコーティングによって覆われたガラスから作製されている透明板を備えた半透明ミラーによって形成することができる。コーティングの特性は、ミラーが、入射する放射の半分を反射して残りの半分を通過させ、かつ、ミラーが、
図2および以下の付随する説明に詳述されているように位相変化を引き起こすように、選択される。
【0011】
第1の態様に係る量子デバイスの一実施形態によれば、本量子デバイスはフォトニックデバイスから構成され、量子は光子である。本量子デバイスは、第1の黒体放射体および第2の黒体放射体をさらに備えており、黒体放射体の各々は、第1の黒体放射体および第2の黒体放射体から放出された放射が半透明ミラーのそれぞれ反対側の面に入射し、次いで半透明ミラーによって部分的に反射および透過されるように、第1のポートおよび第2のポートの1つに配置されている。本量子デバイスは、第1および第2の(高い反射性または通常の反射性の)ミラーをさらに備えており、これらのミラーは、半透明ミラーから来る透過波および反射波が第1のミラーおよび第2のミラーに入射し、反射ビームがシステム(「原子」)内またはシステムの近くで互いに干渉するように第1のミラーおよび第2のミラーによって反射されるように、配置されている。
【0012】
第1の態様に係る量子デバイスの一実施形態によれば、本量子デバイスは、電子デバイスを備えている、または電子デバイスから構成されており、量子は電子である。波スプリッタは、非対称トンネル接合から構成することができ、原子またはシステムは、3端子接合から構成することができる。第1のポートおよび第2のポートに、抵抗器とキャパシタの第1の直列接続および第2の直列接続を設けることができ、そのような直列接続は、第1の量子波を供給するように構成されている。このような実施形態のさらなる詳細は図示してあり、後から説明する。
【0013】
本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係る量子デバイスを動作させる方法は、量子デバイスに第1の量子波を供給するステップを含み、第1の量子波は、熱源から得られるエネルギーを有する量子、または0<E<100kT(Tは環境の温度)であるような次数(order)kTのエネルギーEを有する量子を含む。
【0014】
第2の態様に係る方法の一実施形態によれば、本量子デバイスは、フォトニックデバイスを備えている、またはフォトニックデバイスから構成されており、量子が光子であり、第1の量子波を供給するステップが、第1のポートに第1の黒体放射体、第2のポートに第2の黒体放射体を設けるステップを含む。
【0015】
第2の態様に係る方法の一実施形態によれば、本量子デバイスは、電子デバイスを備えている、または電子デバイスから構成されており、量子が電子であり、第1の量子波を供給するステップが、抵抗器とキャパシタの第1の直列接続および第2の直列接続をそれぞれ第1のポートおよび第2のポートに設けるステップを含む。
【0016】
本開示の第3の態様によれば、第1の態様に係る1つまたは複数の量子デバイスは、
第1の波が、熱源から得られるエネルギーを有する量子、または0<E<100kT(Tは環境の温度)であるような次数kTのエネルギーEを有する量子を含む、デバイス、
熱力学の第0法則、第2法則、または第3法則の1つまたは複数からの逸脱を達成するために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
熱力学の第0法則、第2法則、または第3法則の1つまたは複数からの逸脱を達成するために、状態の量子力学的重ね合わせ(quantum-mechanical superposition)および波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
システム内の波または粒子のエネルギー分布の密度の不均一性を発生させるかまたは高めるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
熱平衡の状態から脱するようにシステムを移行させるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
1つの物体内またはいくつかの物体の間に温度差を発生させるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
1つの物体内またはいくつかの物体の間に、圧力、運動量、角運動量、電気特性、磁気特性など温度以外のパラメータの差異を発生させるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、
加熱、冷却、物質移送、エネルギー移送、または電力変換を実行するデバイス、
の1つまたは複数において実施または使用される。
【0017】
上の第3の態様の一実施形態によれば、第1の態様の量子デバイスを、量子デバイス内に蓄積する温度差から電力を生成するように構成されているデバイスに結合することができる。そのようなデバイスは、例えば、温度差を電力に変換する目的で、2つのポート、特に、2つのポートに配置された2つの黒体放射体に接続する(すなわち熱的に結合する)ことができる熱電対、を備えていることができる。
【0018】
当業者には、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を考慮することにより、追加の特徴および利点が認識されるであろう。さらに当業者には、開口部、レンズ、ミラーなどのさらなる光学部品を、本デバイスの機能を妨げることなく、あるいは本発明の趣旨を変更することなく、本デバイスに追加できることが理解されるであろう。
【0019】
添付の図面は、例を深く理解できるようにする目的で含まれており、本明細書に組み込まれており、本明細書の一部を構成している。これらの図面は、例を図解しており、明細書の説明と合わせて例の原理を説明する役割を果たす。別の例および例の意図された利点の多くは、以下の詳細な説明を参照することによってこれらが深く理解されるにつれて、容易に認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、導波路または光ファイバなどの一次元伝達構造内に埋め込まれた、量子波(例えば光子またはフォノンとすることができる)の放射体の象徴的な表現を示している。さらに
図1は、放射体によって放出されて、2つの部分波の量子力学的重ね合わせとして伝達構造の左側および右側に同時に移動する量子波も示している。
【
図2】
図2は、
図2A、
図2B、
図2C、および
図2Dを含み、右側面に誘電体コーティングを有する非対称の半透明ミラーを示している。この図は、さまざまな方向からさまざまな位相シフトを伴ってミラーに到達する量子波の透過および反射を示している。
【
図3】
図3は、本発明の第1の態様に係る量子デバイスの一実施形態を示している。このデバイスは、2つの黒体放射体によって提供される2つのポートA,Bと、
図2による非対称の半透明ミラーHTMを含む量子波の伝達構造と、2つの標準ミラーSM1,SM2と、
図1に示したように放射体の役割を果たす位置Rに位置決めされた粒子Mの配置とを備えている。
【
図4】
図4は
図4A~
図4Cを含み、電子波を実施する本発明に係るデバイスを指す。
図4Aは、この例示的なデバイスにおいて非対称のビームスプリッタの役割を果たす非相反トンネル接合の図解を示している。
図4Bは、原子M(登録商標)の類似体として機能する構成Mの実現を示しており、
図4Cは、完全なデバイスの1つの可能な実施形態を示している。
【
図5A-5B】
図5は
図5A~
図5Dを含み、
図3によるデバイスの、時間の関数として計算された挙動を示している。
図5AはポートAおよびポートBの光子密度、
図5Bは粒子配列M(R)における励起状態の数を示している。
【
図5C-5D】
図5は
図5A~
図5Dを含み、
図3によるデバイスの、時間の関数として計算された挙動を示している。
図5CはポートAおよびポートBの対応する温度、
図5Dはシステム全体のエントロピーを示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明では、語「結合された」および語「接続された」が、活用形とともに使用されることがある。これらの語は、2つの要素が物理的または電気的に直接接触しているか、または物理的または電気的に直接接触していない(すなわち2つの要素の間に1つまたは複数の中間要素が存在することができる)かに関係なく、2つの要素が互いに協働するかまたは相互作用することを示すために使用されうることを理解されたい。
【0022】
以下では、用語「吸収体」、「放射体」、または「吸収体/放射体」が使用されることがある。これらの用語は、任意の種類の波、粒子および準粒子、および任意の種類の放射を吸収または放出しうる任意の種類の要素として理解されたい。これらの用語は特に黒体放射体(次段落を参照)を指すが、例えば電子を吸収または放出しうる抵抗器も指す。
【0023】
本開示では、用語「黒体」および用語「黒体放射体」が、派生語とともに使用されることがある。この用語は、熱放射を放出または吸収しうる固体、液体、気体、またはプラズマも含めて、広い意味での物体を指すために使用されるが、必ずしも教科書の意味における黒体ではないことを理解されたい。特に、これらの物体は、必ずしも熱平衡にある必要はなく、キルヒホッフの法則に従う必要もない。これらの物体は100%の黒体でなくてよく(そのような物体は存在しない)、小さい開口部を有する中空体からなる教科書にあるような黒体放射体として設計することができ、そうでなくてもよい。
【0024】
用語「波」は、量子オブジェクトに関連する任意の波(例えば、光子の波、粒子または準粒子のドブロイ波)を表すために使用される。考慮される波は、量子力学的に記述されなければならない基本的な相互作用プロセスにおいて形成/変更され、例えば非特許文献5に詳述されているような条件下で量子力学的崩壊を受けうる。これに加えて、用語「波」は、波束(例えばガウスエンベロープ関数を有する波束)も含む。
【0025】
用語「崩壊」は、量子力学的状態の、少なくとも部分的に位相を破壊するデコヒーレンス(decoherence)を引き起こす任意のプロセスを表すために使用される。
【0026】
以下で量子デバイスを説明および特許請求するとき、用語「量子デバイス」は、広義かつ広範囲に理解されるべきであることに留意されたい。本明細書において明らかにされるデバイスの機能に関しては、そのようなデバイスは、基本的に、物質波または電磁波(例えば、光子、粒子波、準粒子波)のデバイスとして機能する。構造に関しては、そのようなデバイスは、例えば、光伝送経路、電磁導波路、電線または電気の線が、集積回路技術を含むさまざまな技術的方法によって作製される人工構造または人によって作製される構造として理解することができる。しかしながら、そのようなデバイスは、例えば、分子、分子化合物、側基を有するベンゼン環などの分子環のような化学成分からなる、または化学成分を含むものと理解することもできる。さらに、そのようなデバイスは、例えばデバイスの機能を実現する結晶構造を有する固体化合物、またはそのような結晶構造において、または結晶構造から作製される構造を指すことができる。
【0027】
さらに、用語「伝達経路」は、物体(material body)として理解することができるが、必ずしもそのように理解しなくてもよい。いくつかのデバイスでは、物体(例えば1本のワイヤまたは導波路)は、1つの伝達経路を備えることができる。別のいくつかのデバイスでは、そのような物体は、2つの透過経路(すなわち物体を通って伝播する粒子の2つの反対方向)を備えることができる。別のいくつかのデバイスでは、この用語は、特定の材料から作製された有形体または物体として理解されるべきではない。この用語はむしろ、空間内の粒子または波の仮想経路として理解されるべきであり、例えばガス雰囲気中に配置された仮想経路でもよい。
【0028】
同様に、用語「原子」は、単一の原子または分子を指しうるが、超放射の有無にかかわらず、単一原子の挙動によって特徴付けられる特徴的な挙動を有する多数の原子、分子、または粒子を指すこともある。この用語は、原子と同じように波を吸収および放出することのできる固体の欠陥(例えば色中心)も含む。原子は、単一原子の質量よりもずっと大きい質量mに固定することもできる。
【0029】
また用語「ランダム」は、本明細書では、完全にランダムな性質のプロセスを記述する以外にも使用される。この用語は、例えば、不規則な位相を有する波の間の干渉イベントが大幅に抑制されるほどに非常に不規則な位相の分布を記述するためにも使用される。
【0030】
さらに、用語「位相コヒーレント」は、非弾性の位相破壊散乱がデバイス内で起こらないことを必ずしも意味しない。実際に、非特許文献7に示されているように、例えばフォノンによるいくらかの非弾性散乱は、散乱によって影響されない波の部分の位相コヒーレンスと両立し、有益なことがあり、場合によってはデバイスの動作に必要なこともある。したがって用語「位相コヒーレント」は、デバイス内の粒子の透過の非弾性の位相破壊散乱が存在しないことを含むものとして、または位相破壊散乱イベントによって影響されない位相を有する波の一部が残る場合、そのようなイベントの存在も含むものとして、理解されたい。
【0031】
さらに、用語「半透明」は、デバイスの透過率が正確に50%であることを必ずしも意味しない。そうではなく、この用語は、0%から100%の間の透明度を有する部分的に透明な物体を記述するようにも意図されている。
【0032】
さらに、1つまたは複数の量子デバイス、あるいは1つまたは複数の量子デバイスの使用に関連して言及される任意の特徴、注釈、または説明は、量子デバイスを機能させるためのそれぞれの方法の特徴または方法ステップも開示するものとして、または、量子デバイスを任意の種類のより大きなデバイスまたはシステムに実装し、そのようなより大きなデバイスまたはシステムがその所望の機能を果たすように量子デバイスを駆動するためのそれぞれの方法の特徴または方法ステップも開示するものとして、理解されたい。
【0033】
図1は、一次元伝達構造11に埋め込まれた、上に指定した意味における原子10の表現を示しており、一次元伝達構造11は、原子10が2つの反対方向のみに波を放出できるように構成されている。位置Rに配置されている原子Mは、図面に2つの部分波12,13によって描いたように、伝達構造の左側と右側に同時に移動する光子を放出する。これらの部分波は、例えば、平面波または波束(ガウス分布でよい)によって形成することができる。波12および波13は、それぞれ位相
【数1】
および
【数2】
によって特徴付けられ、rは空間座標、tは時間である。2つの位相の差
【数3】
は、測定可能な量である。
【0034】
図2は、非対称の半透明ミラーHTM(20)を示している。
図2に示したケースでは、半透明ミラーは、右側を向いた面が例えば誘電体コーティング20.2によって覆われている例えばガラスから作製された透明板20.1から構成されている。コーティングの特性は、
図2A~
図2Dに示したように、入射する放射の半分をミラーが反射し、残りの半分を通過させるように、選択される。このようなミラーは光学において一般に使用され、例えば非特許文献6や非特許文献5に記載されている。
図2Aは、ポートAからビームスプリッタHTMに入射する位相
【数4】
の波が、同じ位相
【数5】
を有する2つの部分波に分割されることを説明している。
図2Bは、ポートBからビームスプリッタに入射する位相
【数6】
の波が、スプリッタによって、位相差Φ=πを有する2つの部分波に分割されることを示している。
【0035】
図2Cおよび
図2Dは、ポートCおよびポートDからビームスプリッタに到達する2つの部分波が、ビームスプリッタによって合成されることを示している。入射する部分波の位相差ΦがΦ=0であるかΦ=πであるかに応じて、合成された波は、
図Cに示したようにスプリッタからポートAの方に進む、または
図Dに示したようにポートBの方に進む。
【0036】
Φの他の値の場合、波は、Φに依存する透過確率でそれぞれポートAとポートBに分配される。この確率は、等式8によって与えられる。
【0037】
図3は、実際に機能するデバイスの原理を説明している。この図は、2つの同じ黒体放射体A(31)およびB(32)が、
図2に説明したような非対称の半透明ミラーHTM(33)に伝達構造によって結合されていることを示している。半透明ミラー33によって反射された量子波、または半透明ミラー33を通過した量子波は、2つの標準ミラー34,34によって、
図1で説明したような一次元伝達路内に配置されている原子M上に導かれる。原子は、放射の波長よりもずっと高い精度で位置Rに配置されており、位置Rは、例えばデバイスの左右対称面に位置している。位置Rは、HTM(33)から位置Rまでの2本のビーム経路の長さが、放射の波長λよりもずっと小さい精度(例えば1/10λ以下、1/20λ以下、1/50λ以下、)において等しい(またはn×λだけ異なる、n=1,2,...、λは波長)ように決められている。これにより、HTM(33)から放出されてミラー34によって反射される第1の波と、HTM(33)から放出されてミラー35によって反射される第2の波とが、最良の条件で位置Rにおいて干渉する。
【0038】
以下の段落[0038]~段落[0040]では、デバイスの機能について説明する。それに続く段落[0044]~段落[0054]では、デバイスの動作の簡単な概要を説明する。
【0039】
A)デバイスの動作の概要
黒体放射体A(31)の熱放射によって放出される第1の量子波は、半透明ミラーHTM(33)を通過し、
図2Aで説明したように、位相差Φ=0で原子M(R)(36)上に集中する。この波の一部はM(R)によって吸収される。このプロセスにおいて原子M(R)は、誘導によって、および自発的な放射によって、第2の量子波(光子、フォノンなど)を放出する。乱されることなくM(R)(36)を通過する波束と、誘導放出によって生じる波束と、自発的に放出される波束の一部は、位相差Φ=0を有する。これらの波は、半透明ミラーHTM(33)を通過した後に黒体Aに到達する。しかしながらM(R)(36)の自発的な放射によって生じる第2の波束の対の一部は、位相差Φ≠0を有する。したがってこれらの波の一部はポートB(32)に到達する。M(R)(36)による波束の吸収および再放出は、量子力学的崩壊プロセスを表し、半透明ミラーによるこれらの波束の重ね合わせは、状態の量子力学的重ね合わせの作用である。
【0040】
黒体放射体B(32)の熱放射によって放出される量子波は、ミラーを通過し、
図2Bで説明したように、位相差Φ=πで原子36上に集中する。この位相差Φ=πのため、量子波は原子の位置において弱め合うように干渉する。したがってこの波は原子と相互作用することができず、変化することなく原子を通過する。位相差がΦ=πのままであるため、波のすべてが半透明ミラー33によって黒体Bに導かれ、黒体Bにおいて吸収される。
【0041】
AおよびB(すなわちポート31およびポート32)によって放出される波を合計すると、明らかに、A(31)によって放出される波の一部がB(32)に導かれる。しかしながらB(32)によって放出される波のすべては、反射されてB(32)に戻る。Bによって放出された量子波はAに到達しない。AおよびBは等しい数の量子波を放出するため、このデバイスは、AからBへの量子波の完全な移送をもたらす。したがって2つのポート31,32の間の量子波の運動は非相反性である。31に移動する量子波の流れと32に移動する量子波の流れが異なるため、31および32は、異なる量のエネルギーおよび運動量を受け取り、波が中心に当たらない場合に異なる量の角運動量も受け取る。これらの変化に起因して、これらの物体のさらなる特性(温度、圧力、電子的特性、光学特性、磁気特性など)が変化しうる。
【0042】
B)デバイスの動作の説明
黒体AおよびB(31および32)によって周波数
【数7】
で放出される第1の1光子量子波状態(first 1-photon quantum wave states)は、非対称のビームスプリッタHTM(33)によって1光子状態に変換され、したがってRにおいてこれらは次式によって与えられる。
【数8】
量子波の偏光(polarization)はデバイスの動作に何らの役割も果たさないため、偏光指数は削除されている。
【0043】
ビームスプリッタHTM(33)の作用は、2×2ユニタリー行列によって記述される。
【数9】
いま、リザーバーA,B(31,32)から来る、ビームスプリッタの入力モードを、
【数10】
と表す。干渉により、HTMは、
【数11】
によって記述されているように、これらを出力モード
【数12】
にマッピングする[非特許文献6,p212]。
【0044】
2レベルシステムM(R)との量子波モードの相互作用のハミルトニアンは、以下である[非特許文献6,p168]。
【数13】
式中、
【数14】
は、原子j=1...Mを備えた2レベルシステム36の励起(破壊)演算子を表し、
【数15】
は、モードkの消滅(生成)演算子を表す。原子の励起(基底)状態は
【数16】
であり、
【数17】
と
【数18】
の間のエネルギー差は
【数19】
に等しく、光モードの周波数は
【数20】
である。ショートカットh.c.は、随伴行列(hermitian conjugate)を設計する。
【0045】
Mの原子jが、A(またはB)から来る波によって照射される場合の吸収の確率は、次の行列要素によって与えられる。
【数21】
したがって
【数22】
かつ
【数23】
である。初期状態が
【数24】
または
【数25】
(誘導放出に対応する)に等しい場合、類似する結果が得られる。量子波の吸収により崩壊プロセスが起こる。
【0046】
Aからの放射(第1の波)は原子M(R)と相互作用するのに対して、Bからの光は、乱されることなくM(R)(36)を通過する。状態
【数26】
がビームスプリッタに再び到達し、ビームスプリッタにおいて(逆の運動量の)状態
【数27】
に変換される(なぜなら
【数28】
)。
【0047】
この考察から明らかであるように、Bによって放出されるすべての放射は、M(R)(36)の存在によって影響されることなく、再びBに達する。対照的に、
【数29】
である場合、Aからの放射はM(R)と相互作用する。
【0048】
状態
【数30】
は、自発的な放出によって、周波数
【数31】
の1光子状態(すなわち第2の波を形成する状態)に減衰する(decay)。
【数32】
ここで、
【数33】
かつ
【数34】
である。
【0049】
【0050】
これらの考察から明らかであるように、モード
【数36】
への放出は存在しない。この挙動は、このような量子波がM(R)によって吸収されないという事実に一致しており、この独特な重ね合わせの個別釣合い条件(detailed balance condition)に対応する。
【0051】
【0052】
しかしながら、各コヒーレント重ね合わせに対して個別釣り合いが個別に満たされるが、ビームスプリッタ33は、AとBの間で状態
【数38】
を次のように分配する。
【数39】
結果として、M(R)によって自発的に放出される量子波の19/30が黒体Aに到達し、11/30が黒体Bに到達する。
【0053】
これらの考察から明らかであるように、Aによって励起される2レベルシステムM(R)を介して、エネルギーがAからBに優先的に転送される。
【0054】
システムの対応する反応速度式は次式によって与えられる。
【数40】
【数41】
【数42】
ここでA
12、B
12、およびB
21はアインシュタイン係数である。M
eはM(R)(36)の励起原子の数を表し、cは光速である。黒体31および黒体32の両方が導波路に結合されて波路に結合されており、単位時間あたり周波数
【数43】
の割合
【数44】
の量子波を放出する。
【0055】
容易に理解されるように、これらの方程式の唯一の定常状態解は
【数45】
であり、これは、最終状態においてリザーバーA(31)が完全に空であり、M(R)のすべての原子が基底状態を占めているのに対して、放射エネルギーおよび励起エネルギーが完全にリザーバー(B)(32)に流れていることを意味する。したがって、AおよびM(R)(36)の温度は0であるのに対して、リザーバーBの温度は0より高い。
【0056】
提示したデバイスの基本原理は、量子波の干渉、崩壊、および集合的吸収に依存しているため、電磁波ではなく物質波を利用するデバイスを実施することができる。以下では、
図3のデバイスに類似する方法で動作する電子デバイスの1つの可能な実施形態を、
図4に関連して例示的に提示する。物質波のための非相反デバイスが、非特許文献1および特許文献2に紹介されている。
図3の31,32の役割を果たす電子源は、抵抗器とキャパシタの直列接続の各々から構成されている。抵抗器は、ジョンソン-ナイキストの式に従う電圧ノイズおよび電流ノイズを発生させる(非特許文献12、非特許文献13)。
図3に示したデバイスの光子数の保存との類似性を促進するために、キャパシタが、回路内の電子数が一定であることを保証し、ただしこの要件は場合によっては厳密でなくてもよい。
【0057】
非対称のビームスプリッタHTM(33)の機能は、
図4Aに示したように非対称のトンネル接合によって達成されている。トンネル障壁は、両方向における電子の透過率が50%に等しいように選択されている。
図4Aは、例として、左から障壁に到達する電子波41.1を示しており、この電子波が2つの部分波に分割される。部分波41.2は障壁42を通過し、部分波41.3は障壁によって反射される。(この例では)物質波に対する非相反性の移送特性を有する2つの異なる材料42.1および42.2からトンネル障壁42が作製されていることと、結果として生じる界面43の特性により、出ていく電子波41.2と41.3の間の位相シフトΦが、HTM(33)の場合と同様に、量子波41.1が(描画されているように)左から障壁に衝突するか、または右から衝突するかによって決まることが保証される。
【0058】
原子M(R)の機能は、
図4Bに示したように3端子接合部45によって生成される。接合部45における量子波44.1および44.2の干渉は、その位相差Φの関数である。Φ=πの場合には、44.1および44.2は45において弱め合うように干渉し、したがってこれらの量子波は途切れずに流れ続ける。Φ≠nπ(n=...,-1,1,3,...)の場合には、波の一部が抵抗器Rに到達し、そこで崩壊する。崩壊イベントの数は、干渉の強め合う特性が増すにつれて増加する。熱雑音によって制御されるように、電子はRによっても放出されて接合部45に到達し、接合部45はこれらを、導体45.1によって与えられる連続状態を占める2つの部分波に分割する。フェルミの黄金律に従うと、これら2つの部分波が位相差Φを有する確率は1+cosΦである。したがって
図4Cに示したデバイスは、
図3に示したフォトニックデバイスと同様に動作する電子デバイスの一例である。
【0059】
標準的なパラメータ(t=0でのAおよびBにおける光子数:5×10
5、M(R)における原子数:100、t=0でのM(R)内の励起された原子の数:1、γ=10
-4、A
21=B
12=B
21=10
-3)の場合に数値計算された反応速度式(等式9~11)の解は、
図5A~
図5Dに示してある。
【0060】
図5Aは、時間の関数としての、黒体Aおよび黒体Bにおける光子の数n
Aおよびn
Bを示している。図に示されているように、AとBの量子波の数が等しい標準的な熱平衡に対応する初期状態は、システムによって維持されない。そうではなく、Aのすべての光子がBに移動する。
【0061】
図5Bは、時間の関数としての、M(R)内の励起された原子の数n
Mを示している。図から明らかであるように、この数は1から飽和値50まで上昇する。この時間の間、M(R)は光子をAからBに優先的に移動させる。Aの光子がなくなると、M(R)内の励起された原子の数は0まで減少する。
【0062】
図5Cは、時間の関数としての、黒体Aおよび黒体Bにおける光子分布の温度T
AおよびT
Bを示している。図に示されているように、AとBの温度が等しい標準的な熱平衡に対応する初期状態は、システムによって維持されない。そうではなく、Aが0Kまで冷え、それに応じてBが暖まる。
【0063】
上に述べたように、Aが冷えてBが暖まり、したがってAとBの間に温度差が生じる。この温度差を利用して、例えば電力を生成することができる。これは例えば、熱電対デバイスを使用することによって、特に、異なる温度における電気接合を形成する2つの異なる導電体を備えた電気デバイスを使用することによって、行うことができる。したがってこのような熱電対デバイスは、熱電効果の結果として温度に依存する電圧を生成しうる。
【0064】
最後に
図5Dは、システム全体のエントロピーを示している。システムはその環境から熱的に隔離されており、開始条件はシステム全体で均一な温度である。それにもかかわらず、エントロピーが時間の関数として減少し、熱力学の第2法則の明らかな違反を示している。
【0065】
なお、本発明の趣旨によって、本量子デバイスは、
図3に示した以外の多数の構造を有し得ることをここで言及しておく。半透明ミラー、黒体、または原子は、別の方法で実施することができる。黒体は、例えば、熱的に励起されたフォノンを提供する物体など、熱的に励起された量子波の別のリザーバーによって提供することができる。半透明ミラーは、例えば、伝達経路の接合部を使用して量子波を分割して再合成する別のデバイスに置き換える、または例えばフォノンに作用するメタマテリアルに置き換えることができる。原子Mは、例えば、隣接するフォーク型接合部または分割部を有する導体中に粒子を放出するノイジーなリザーバーなど、量子波の崩壊および再放出を提供する別のシステムによって与えることもできる。デバイス全体が、例えば、分子または結晶性の固体または複雑な構造を有する固体内に実施されることも、現実的であると考えられる。
【0066】
さらに、
図3に示した伝達経路の形状も、1つの単純な実施形態を提示しているにすぎないことを言及しておく。経路はより複雑であってもよく、例えば空間の第3の次元を使用するいくつかのループを備えていてよい。さらに、追加の散乱体、非相反フィルター、またはさらなる黒体など、別の構成要素を含めることもできる。
【0067】
本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係る量子デバイスを動作させる方法は、第1の波を量子デバイスに供給するステップを含み、第1の波は、熱源から得られるエネルギーを有する量子、または0<E<100kT(Tは環境の温度)であるような次数kTのエネルギーEを有する量子を含む。
【0068】
第1の態様に係る量子デバイスを動作させる方法は、上記に代えて、または上記に加えて、第1の波の供給源を備えているとして定義することができ、第1の波の供給源の少なくとも1つは、環境に熱的に接触して保持されている。環境は、室温にある部屋のような自然な環境、または自由な自然の場所とすることができる。また、デバイスを含む空洞など、あるいは例えば水浴(water bath)や加熱炉によって提供される熱浴(thermal bath)などの人工的な環境とすることもできる。
【0069】
第1の態様に係る量子デバイスを動作させる方法は、上記に代えて、または上記に加えて、第1の波の供給源を備えているとして定義することができ、第1の波の供給源は能動的に刺激されず、特に、熱以外のエネルギーによって能動的に刺激されず、したがって供給源を能動的に加熱または冷却することが可能である。
【0070】
本デバイスの挙動は、熱力学の第0法則、第2法則、および第3法則が今日一般に理解されて非特許文献9などの教科書に提示されているようには、これらの法則に従わないことに留意されたい。第0法則に違反するのは、本デバイスを介して熱的に接触する2つの物体31および32が等しい温度を確立せずに温度差が生じるためである。一様な温度分布(すなわち最大エントロピーの状態)は不安定であり、したがってシステムはより低いエネルギー状態に移行し、これは第2法則に矛盾する。本デバイスは第3法則にも矛盾し、なぜなら物体31が温度0Kを達成することができ、これは第3法則により物体において不可能であると理解されてきたためである。なお本デバイスは、縮退していないシステムのエントロピーが0Kにおいて0に等しいという第3法則の記述には矛盾しないことに留意されたい。第2法則との不一致は、例えば有名な物理学者であるエンリコ・フェルミなど何人かの専門家によって予測されていた(例えば非特許文献14を参照)。非特許文献8には、量子物理学と熱力学の第2法則との間にいくらかの不一致を示すと主張されている仮想システムが記載されている。しかしながらこれらの著者によって指摘されているように、これらの状態はデコヒーレンスプロセスによって破壊されるため、不一致は極めて低い温度でのみ存在する量子力学的に絡み合った状態(quantum-mechanically entangled state)に限定される。さらに、絡み合い(entanglement)は多粒子タイプ(multi-particle type)でなければならない。これらの要件により、提案されたシステムは、実際に実施するには非現実的である。対照的に、本発明は、絡み合いに依存せず、単一粒子のコヒーレンス、崩壊プロセス、および干渉に依存する。
【0071】
実際に何十年にもわたり、熱力学の第2法則に違反する、当時まだ架空のデバイスがどのような利点をもたらすかについて空想されてきた(非特許文献4)。
【0072】
それにもかかわらず、専門家および一般の人によって知られているように(例えば非特許文献3、非特許文献11、非特許文献4、非特許文献9を参照)、一般に第2種の永久機関として知られている、熱力学の第2法則を破る実用的な装置は、推測されているにすぎない。現在の議論は、非特許文献10に要約されているように、絶対零度に近い温度で起こる量子効果(特に量子もつれ)を利用するデバイスが中心となっている。実用的なデバイスがどのように機能するかに関する発想が不足しているため、これらの研究では、推測から、実際に機能するデバイスに移行したことはない。実際、科学界のほとんどのメンバーは、そのようなデバイスは原則として構築されることはないと確信している。
さらに言及しておくべき点として、上に説明した量子デバイスおよびその用途は、熱浴(heat bath)への何らかの結合を必要としうる。単純なケースでは、熱浴は黒体31,32によって与えることができる。このような熱浴の媒体は、固体、液体、または気体とすることができる。デバイスは、熱浴の1つまたはいくつかからエネルギーを抽出し、その熱エネルギーを例えば1つまたはいくつかの別の熱浴に転送することができる。
【0073】
さらに明らかな点として、上に説明したデバイスは、任意の有用な方法で一緒に接続することができる。これらのデバイスは、おそらくは、その出力を高めるために並列に動作するように実施することができる。同様に、デバイスを直列に動作させることができる。例えば、第1のデバイスによって冷却される、第1のデバイスの黒体B1に、第2のデバイスを熱的に接続することができ、したがって第2のデバイスの黒体B2は、黒体B1よりもさらに高い温度に加熱される。
【0074】
量子崩壊によって駆動されるプロセスを容易に制御できることは、本発明のさらなる有用な面である。例えば、伝達経路の一部を遮断することによって、あるいは光学要素の1つまたは複数を動かす、または回転させることによって、プロセスを制御することができる。したがってシステムは、プロセスを制御するための1つまたは複数の入力端子を備えることができる。
【0075】
本開示は、以下のさらなる態様にさらに関する。これらの態様は、以下に概説するようにそれぞれのデバイスが特定の機能を果たすように、第1の態様に係る量子デバイスを実施することのできるデバイスを指す。
【0076】
本開示は、熱力学の第0法則、第2法則、または第3法則の1つまたは複数からの逸脱を達成するために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイスにさらに関する。
【0077】
本開示は、熱力学の第0法則、第2法則、または第3法則の1つまたは複数からの逸脱を達成するために、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイスにさらに関する。
【0078】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスは、0K~5000Kの範囲内の温度で動作しうる。
【0079】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスは、量子領域において浴(bath)に結合する、または浴と絡み合うことができ、またはそうでなくてもよい。
【0080】
本開示は、システム内の波または粒子のエネルギー分布の密度の不均一性を発生させるかまたは高めるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子力学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、にさらに関する。エネルギー分布は、熱エネルギーによって少なくとも部分的に生成されるエネルギー分布とすることができる。
【0081】
本開示は、熱平衡の状態から脱するようにシステムを移行させるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、にさらに関する。
【0082】
本開示は、1つの物体内またはいくつかの物体の間に温度差を発生させるために、コヒーレント放射および波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊、または、状態の量子力学的重ね合わせおよび波動関数の少なくとも部分的な崩壊を利用するデバイス、にさらに関する。
【0083】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、位相シフトは、本デバイスの少なくとも1つの非相反要素によって引き起こすことができる。
【0084】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、波動関数の少なくとも部分的な量子物理学的崩壊は、巨視的物体の使用によって達成され、巨視的物体は、例えば固体、液体、気体、またはプラズマとすることができる。
【0085】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、少なくとも部分的な量子物理学的崩壊および波動関数の少なくとも部分的な吸収の後、物体による波の統計的再放出(statistical reemission)が起こる。
【0086】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、少なくとも部分的に量子物理学的に崩壊した波は、ランダムな位相を有する別の波に統計的に置き換わる、または波の位相がランダムな値に変化する。
【0087】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、本デバイスは、生成された放射密度の不均一性または生成された温度差を、電気、放射、光エネルギー、または他の形態のエネルギーに変換することによって、または達成された秩序(order)を別の方法で使用することによって、有用な仕事を生み出す。
【0088】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、本デバイスは、1つの物体内で、またはいくつかの物体の間で、質量、粒子、エネルギー、熱、運動量、角運動量、電荷、または磁気モーメントを移動させる。
【0089】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、本デバイスは、エネルギー、波、または物質の格納システム(例えばキャパシタまたはバッテリ)を満たす。
【0090】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、本デバイスは物体を加熱する、または冷却する。
【0091】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、例えば追加で設けられる加熱機能または冷却機能を使用することによって、本デバイスの物体の1つまたはいくつかが、室温とは別の基準温度において動作する。
【0092】
上の態様のいずれか1つに係るデバイスにおいては、プロセスを制御するために、内部または外部で生成される1つまたは複数の信号が使用される。
【0093】
第2法則の明らかな違反に寄与する重要な要素は、複数の波束に分割された粒子状態の生成と、複数の波束状態の少なくともいくつかの量子力学的崩壊と、単一および複数の波束状態を干渉によって仕分けるステップであり、後者のステップは、波束のコヒーレンス特性を有用な出力信号に変換する。これらの堅牢な単一粒子プロセスは、スケーラブルであり、高温を含む広い温度範囲において機能し、標準的な部屋型の環境と互換性があり、多くの種類の量子波(電磁波、粒子波、準粒子波を含む)に作用する多種多様なデバイスにおいて実施することができる。
【0094】
なお文献では、本明細書に開示されているデバイスに表面的に類似する偽のフォトニックデバイスの説明を見つけ得ることに留意されたい。これらのデバイスのいずれも、本開示に記載されている原理メカニズムを使用しておらず、したがって第2法則の違反を達成することもできない。説明を目的とした例として、Soellnerによってその出版物(非特許文献15)の
図3に提示されているデバイスが挙げられる。開示した本デバイスにおいて原子M(36)が能動的な役割を果たすように、ここでは、このデバイスにおいて能動的な役割を果たす量子ドットが提示されている。しかしながら、これらの役割は根本的に異なり、したがってデバイスは大きく異なって機能する。Soellnerらの量子ドットは、統計的プロセス、崩壊、吸収、または放出を伴うことなく、方向に依存する位相シフトを導入するにすぎない。量子ドットの状態は時間の関数として変化せず、したがって、その出版物のタイトルからすでに明らかであるように、デバイス全体が決定論的な方法で動作する。また例えばBallestroによって提示されているデバイスの場合、4端子デバイスが単一散乱行列によって記述される。しかしながら本明細書に開示されているデバイスは、2つのポートのみで機能することができ、統計的崩壊プロセスによってユニタリー性を破ることによって非相反性が達成される。
【0095】
ここまで本発明について1つまたは複数の実施形態に関連して図解および説明してきたが、添付の請求項の趣旨および範囲から逸脱することなく、示した例に変更および/または修正を行うことができる。特に、上に説明した構成要素または構造(アセンブリ、デバイス、回路、システムなど)によって実行される様々な機能に関して、このような構成要素を説明するために使用されている用語(「手段」の言及を含む)は、特に明記していない限り、たとえ本明細書で説明されている本発明の例示的な実施形態における機能を実行する開示された構造とは構造的に等しくなくても、説明されている構成要素の指定された機能を実行する(すなわち例えば機能的に等価である)任意の構成要素または構造に対応するように意図されている。