(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】電力位相調整機及び無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/20 20160101AFI20240822BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20240822BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J50/40
(21)【出願番号】P 2020096951
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 博之
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇気
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-212849(JP,A)
【文献】特開2012-050183(JP,A)
【文献】特開2005-064867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電機から放射された電力波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として前記アンテナから受電機に対して放射する位相変化部と、
を備え、
前記位相変化部は、前記アンテナをグランドに接続する第1状態と前記アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部を備える、
電力位相調整機。
【請求項2】
送電機から放射された電力波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として前記アンテナから受電機に対して放射する位相変化部と、
を備え、
前記位相変化部は、前記アンテナとグランドとの間のインピーダンスを変化させることにより、前記アンテナをグランドに接続する第1状態と前記アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるインピーダンス変化部を備える、
電力位相調整機。
【請求項3】
前記位相変化部は、前記アンテナで受信された電力波を整流する整流部と、整流された電力を前記スイッチ部の駆動用の電力として蓄える蓄電部と、を備える請求項1に記載の電力位相調整機。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の電力位相調整機と、前記送電機と、前記受電機とを備える無線電力伝送システム。
【請求項5】
送電機から放射された電力波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として前記アンテナから受電機に対して放射する位相変化部と、
を備える
電力位相調整機と、
前記送電機と、
前記受電機と、
を備え、
複数の前記電力位相調整機の全てが、前記アンテナをグランドに接続する第1状態と前記アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替える、
無線電力伝送システム。
【請求項6】
送電機から放射された電力波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として前記アンテナから受電機に対して放射する位相変化部と、
を備える
電力位相調整機と、
前記送電機と、
前記受電機と、
を備え、
複数の前記電力位相調整機の一部は、前記アンテナをグランドに接続する第1状態と前記アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替える、
無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記受電機は、前記送電機及び前記電力位相調整機の何れかから放射された電力波を受信するアンテナと、当該アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として当該アンテナから放射する位相変化部と、を備える請求項4から6の何れか一項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
当該位相変化部は、当該アンテナで受信された電力波を整流する整流部と、当該整流部の出力側に接続され当該アンテナをグランドに接続する第1状態と当該アンテナを当該グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部と、を備える請求項7に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
当該位相変化部は、当該アンテナをグランドに接続する第1状態と当該アンテナを当該グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部と、当該アンテナで受信された電力波を当該スイッチ部経由で入力して整流する整流部と、を備える請求項7に記載の無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力位相調整機、無線電力伝送システム、及び無線電力調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT化が進む中で、センサをはじめとする多数の情報端末を用いて、様々な情報を収集することが求められている。ただしこのような情報端末が増えると、端末への電力供給が困難になる場合がある。特許文献1には、無線電力伝送技術を活用した電源供給システムが開示される。特許文献1の電源供給システムは、送電機、受電機、及びインピーダンス可変プローブを備え、インピーダンス可変プローブの電気長を変化させることにより、送受信間のインピーダンスを、送電機から受電機への電力伝送に最適な数値へ調整できる。これにより受電機の受電電力を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の従来技術は、送電機、受電機などの位置が変化しない状況を前提としているため、送電機及び受電機の少なくとも一方の位置が変化した場合には、最適なインピーダンスを得ることが困難である。従って、従来技術では、受電機における受電電力を向上させる上での改善の余地がある。
【0005】
本開示の非限定的な実施例は、受電機における受電電力を向上させることができる電力位相調整機、無線電力伝送システム、及び無線電力調整方法の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施例に係る電力位相調整機は、送電機から放射された電力波を受信するアンテナと、前記アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として前記アンテナから受電機に対して放射する位相変化部と、を備え、前記位相変化部は、前記アンテナをグランドに接続する第1状態と前記アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部を備える。
【0007】
本開示の一実施例に係る無線電力伝送システムは、上記の電力位相調整機と、上記の送電機と、上記の受電機とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施例によれば、受電機における受電電力を向上させることができる電力位相調整機、無線電力伝送システム、及び無線電力調整方法を構築できる。
【0009】
本開示の一実施例における更なる利点及び効果は、明細書及び図面から明らかにされる。かかる利点及び/又は効果は、いくつかの実施形態並びに明細書及び図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つ又はそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施の形態1に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図
【
図6】送電機201から放射された電波の様子を示す図
【
図7】電力位相調整機203の動作を説明するためのフローチャート
【
図8】本開示の実施の形態2に係る受電機202Aの構成例を示す図
【
図9】
図8に示す実施の形態2の受電機202Aの変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
[実施の形態1]
<無線電力伝送システム100の構成例>
図1は本開示の実施の形態1に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図である。無線電力伝送システム100は、建物の壁などに囲まれる閉空間300に電波を送電する送電機201と、送電機201から閉空間300に向けて放射された電波を受電する複数の受電機202と、複数の電力位相調整機203とを備える。
【0013】
<送電機201>
次に
図2を参照して送電機201の構成例について説明する。
図2は送電機201の構成例を示す図である。送電機201は、発振部302、制御部303、アンテナ301及び電源部304を備える。
【0014】
発振部302は、例えば、水晶振動子、位相同期回路、増幅回路などで構成される電気回路を備え、当該電気回路により高周波電力(電力波)を生成する。高周波電力の周波数帯は、例えば900MHz帯、2.45GHz帯、5.8GHz帯などのマイクロ波帯である。これらの周波数帯は、送電機201から受電機202までの距離、送電機201のサイズなどに応じて選択される。
【0015】
制御部303は、例えば、メモリ、CPU(Central Processing Unit)、通信デバイスなどの電気回路を備え、当該電気回路により、発振部302で生成した高周波電力の送電量の制御や、発信される高周波電力の周波数帯の切り替えなどを行う。
【0016】
アンテナ301は、発振部302で生成された高周波電力を電波として閉空間300へ放射する。アンテナ301の種類は、例えば、指向性アンテナ、無指向性アンテナなどである。特定の方向へ長距離送電したい場合には指向性アンテナが使用され、近距離で広い範囲に送電したい場合には無指向性アンテナが使用される。指向性アンテナには、例えば、誘電体基板をGND板とアンテナで挟んだ平面形状のパッチアンテナが使用される。無指向性アンテナには、電気を流す導線などを直線状に伸ばした線形状のダイポールアンテナ、モノポールアンテナが使用される。
【0017】
電源部304は、送電機201を動作させるための電源を供給する機能を有し、商用交流電源から直流電力を生成する電力変換回路などで構成される。
【0018】
<受電機202>
次に
図3を参照して受電機202の構成例について説明する。
図3は受電機202の構成例を示す図である。受電機202は、送電機201から放射された電波を受電し、電源として活用する機能として、アンテナ401、整流部402、制御部403、及び蓄電部501を備える。
【0019】
アンテナ401は、送電機201から放射された電波を受電し、当該電波を高周波電力として整流部402へ入力する機能を有する。アンテナ401の種類は、前述したアンテナ301と同様に、例えば、指向性アンテナ、無指向性アンテナなどである。
【0020】
整流部402は、アンテナ401が受信した電波を直流電力へ変換する。整流部402は、例えば、整流ダイオード、インピーダンス整合回路、フィルタ回路などによって構成される。
【0021】
制御部403は、アンテナ401で受信された電波(高周波電力)の負荷404への供給制御と、当該電波による蓄電部501への充電制御と、蓄電部501の放電制御とを行う。
【0022】
負荷404は、当該電波で動作する機器である。負荷404は、例えばIoT(Internet of Things)で活用されるセンサなどである。なお、負荷404はこれに限定されるものではない。
【0023】
蓄電部501は、制御部403を駆動させるのに必要な電力を蓄える蓄電手段である。蓄電部501は、例えば二次電池である。蓄電部501は、制御部403による充電制御により、整流部402から出力される直流電力を蓄える。また蓄電部501は、負荷404の消費電力が整流部402から出力される直流電力を超過する場合、制御部403による放電制御により、蓄電電力を負荷404へ供給する。
【0024】
<電力位相調整機203>
次に
図4を参照して電力位相調整機203の構成例について説明する。
図4は電力位相調整機203の構成例を示す図である。電力位相調整機203は、複数のアンテナ601及び位相変化部602を備える。
【0025】
アンテナ601は、位相変化部602を介して、壁などのGND(グランド)204に接続されている。アンテナ601は、送電機201から放射された電波を受電し、当該電波を位相変化部602に伝送し、位相変化部602で位相が調整された電力を反射電力として閉空間300へ放射する機能を有する。アンテナ601の種類は、前述したアンテナ301と同様に、指向性アンテナ、無指向性アンテナなどである。
【0026】
次に
図5を参照して位相変化部602の構成について説明する。
図5は位相変化部602の構成例を示す図である。
【0027】
位相変化部602は、スイッチ部701、スイッチ部702、整流部703、制御部704及び蓄電部705を備える。
【0028】
スイッチ部701は、アンテナ601で受信された電波の供給先をスイッチ部702又は整流部703に切り替える切り替え手段である。スイッチ部701は、例えば、ソレノイド式の開閉手段、半導体スイッチング素子などである。
【0029】
なお、実施の形態1では、スイッチ部701が整流部703に接続された状態で整流部703からの直流電力が蓄電部705に供給される状態を「給電モード」と称する。また、実施の形態1では、スイッチ部701がスイッチ部702に接続された状態で、スイッチ部702の動作が制御されることで、受信した電波を同位相で全反射し、又は、受信した電波を逆位相で全反射する状態を「反射モード」と称する。
【0030】
スイッチ部702は、反射モードのとき、アンテナ601をGND204から開放(オープン)する状態、又は、アンテナ601をGND204に短絡(ショート)する状態に切り替える、切り替え手段である。スイッチ部702は、例えば、ソレノイド式の開閉手段、半導体スイッチング素子などである。
【0031】
開放とは、アンテナ601の接続先が無く、アンテナ601に接続される回路のインピーダンスが無限大となる状態である。短絡とは、アンテナ601をGND204に接続することで、アンテナ601に接続される回路のインピーダンスがゼロとなる状態である。
【0032】
整流部703は、アンテナ601が受信した電波を直流電力へ変換する。整流部703は、例えば、整流ダイオード、インピーダンス整合回路、フィルタ回路などによって構成される。当該直流電力は、蓄電部705への充電に利用され、またスイッチ部701及びスイッチ部702の切り替え制御のための電源として利用される。
【0033】
制御部704は、アンテナ601で受信された電波による蓄電部705への充電制御と、蓄電部705の放電制御と、スイッチ部701及びスイッチ部702の切り替え制御とを行う。
【0034】
蓄電部705は、制御部704、スイッチ部701及びスイッチ部702などの動作に必要な電力を蓄える蓄電手段である。蓄電部705は、例えば二次電池などである。蓄電部705は、制御部704による充電制御により、整流部703から出力される直流電力を蓄える。
【0035】
次に
図6及び
図7などを参照して、本実施の形態に係る無線電力伝送システム100の動作について説明する。
【0036】
図6は送電機201から放射された電波の様子を示す図である。閉空間300内の特定の箇所400に設置される受電機202は、送電機201から放射されて反射することなく受電機202に到来する電波である直接波と、送電機201から放射後にGND204で反射して受電機202に到来する電波である反射波とを受信する。このように複数の電波を受信する受電機202では、受信した複数の電波が重ね合わされる。このように重ね合わされる複数の電波が互いに逆位相の場合、複数の電波が互いに弱め合う(打ち消し合う)ため、受電機200で受信される電波強度が低下し得る。
【0037】
電力位相調整機203は、アンテナ601(
図5参照)で受信された電波の位相を変化させ(変調し)、位相変化後の電波を反射波としてアンテナ601から閉空間300内に放射することで、当該受電機202で受信される電波強度の低下を抑制するように構成されている。
図7を参照して。電力位相調整機203の動作を具体的に説明する。
図7は電力位相調整機203の動作を説明するためのフローチャートである。
【0038】
まず制御部704は、蓄電部705の電力により、スイッチ部701の接続先を整流部703側へ切り替えることで、給電モードの状態にする(ステップS1)。これにより、アンテナ601で受信された電波は、整流部703で直流電力へ変換され、蓄電部705に蓄電される。
【0039】
制御部704は、給電モードにより、蓄電部705が十分に充電されたか否かを判定する(ステップS2)。例えば、蓄電部705の充電率(State Of Charge)が所定値(例えば80%)未満のとき、又は、充電開始時点から一定時間経過していないとき、制御部704は、蓄電部705が十分に充電されていないと判定し(ステップS2、NO)、ステップS1以降の処理を繰り返す。
【0040】
蓄電部705の充電率が所定値(例えば80%)を超えたとき、又は、充電開始時点から一定時間経過したとき、制御部704は、蓄電部705が十分に充電されたと判定し(ステップS2、YES)、ステップS3の処理を実行する。
【0041】
次に、制御部704は、蓄電部705に蓄えられた電力により、スイッチ部701の接続先をスイッチ部702側に切り替えることで、反射モードの状態にする(ステップS3)。
【0042】
制御部704は、蓄電部705から供給される電力を利用してスイッチ部702を制御することによって、例えば、アンテナ601をGND204から開放する状態と、アンテナ601をGND204に接地する状態とを一定周期で交互に切り替える(ステップS4)。なお、制御部704によるスイッチ部702の切り替え間隔は、一定周期に限定されず、ランダムな周期でもよい。
【0043】
この切り替え動作によって、開放時に受信された電波は同位相で全反射され、接地時に受信された電波は逆位相で全反射される。全反射された電波は、経時的に位相が変化する反射波として、閉空間300に向けて放射される。
【0044】
反射モードにより蓄電部705の蓄電電力が低下するため、制御部704は、蓄電部705が充電を要する状態であるか否かをモニタする(ステップS5)。
【0045】
例えば、蓄電部705の充電率が所定値(例えば30%)以上のとき、又は、放電開始時点から一定時間経過していないとき、制御部704は、蓄電部705が充電を要する状態ではないと判定し(ステップS5、NO)、ステップS3以降の処理を繰り返す。
【0046】
蓄電部705の充電率が所定値(例えば30%)未満になるまで低下し、又は、放電開始時点から一定時間経過したとき、制御部704は、蓄電部705が充電を要する状態であると判定する(ステップS5、YES)。そして、制御部704は、給電モードの状態にするため、ステップS1の処理を実行する。制御部704は、蓄電部705に蓄えられた電力により、スイッチ部701の接続先を整流部703側に切り替えることで、給電モードの状態にする。
【0047】
なお、これらの処理は、複数の電力位相調整機203の全てにおいて実行されてもよいし、複数の電力位相調整機203の一部(1又は複数)において実行されてもよい。
【0048】
複数の電力位相調整機203の全てにおいてこれらの処理が実行されることで、閉空間300内の何れの箇所においても安定した強度の電波を受信し得る。
【0049】
複数の電力位相調整機203の一部においてこれらの処理が実行されることで、スイッチ部702の切り替え動作などにより消費される電力が抑制されるため、無線電力伝送システム100全体での電力消費量を抑えながら、これらの処理が実行されない場合に比べて安定した強度の電波を受信し得る。
【0050】
なお、これらの処理は、複数の電力位相調整機203の全部又は一部が、互いに同期しながら実行してもよいし、非同期で実行しても良い。
【0051】
複数の電力位相調整機203の全部又は一部が、互いに同期しながらこれらの処理を実行することで、これらの処理が実行されない場合に比べて安定した強度の電波を受信し得る。
【0052】
複数の電力位相調整機203の全部又は一部が、非同期でこれらの処理を実行することで、同期を行うための回路及び制御が不要になるため、電力位相調整機203の構成が簡素化され、信頼性を向上させつつ、閉空間300内の何れの箇所においても安定した強度の電波を受信し得る。複数の電力位相調整機203の全部又は一部が、例えば、スイッチ部702の切り替えクロックをランダムに発生する乱数発生器を備えることで、スイッチ部702の切り替えタイミングを非同期にさせることができる。これにより、複数の電力位相調整機203を統括して制御する必要がなく、簡易な構成で、安定した強度の電波環境を構築できる。
【0053】
以上に説明したように本実施の形態に係る電力位相調整機203は、位相変化部602を備えることにより、反射波の位相を、一定周期又はランダムな周期で変化させることができる。このため、複数の電波が重ね合わせられることで、電波強度が弱くなる箇所400を含め、閉空間300内の何れの箇所においても安定した強度の電波を受信し得る。その結果、送電機201及び受電機202の少なくとも一方の位置が変化した場合でも、位相変化部602の切り替え動作だけで、移動後の受電機202における受電電力を向上させることができる。
【0054】
また、閉空間300内の何れの箇所において、電力が供給できない箇所を減らすことができるため、送電機201から放射され電波によって、各受電機202の動作に必要な電力を確保できる。また、各受電機202へ電力を供給するための配線、各受電機202への定期的な充電作業、各受電機202の電池交換作業などを削減できる。
【0055】
また、本実施の形態に係る無線電力伝送システム100によれば、閉空間300内に複数の受電機202が複数存在する場合でも、それぞれの受電機202に対して送受信間のインピーダンスを調整する必要がなく、インピーダンス調整に要する作業時間が大幅に削減される。
【0056】
[実施の形態2]
図8は本開示の実施の形態2に係る受電機202Aの構成例を示す図である。
図8に示す受電機202Aは、実施の形態1の受電機202の構成要素に加え、スイッチ部706を備える。
【0057】
スイッチ部706は、反射モードのとき、アンテナ401を開放又は接地の状態に切り替え、給電モードのとき、アンテナ401を負荷404に接続するための切り替え手段である。
【0058】
実施の形態2の反射モードは、アンテナ401から見た回路側のインピーダンスを切替えることによって、アンテナ401が受信した電波を同位相で全反射し、又は、受信した電波を逆位相で全反射するモードである。実施の形態2の給電モードは、スイッチ部706を介して整流部402が負荷404に接続された状態で、整流部402の直流電力を負荷404に供給するモードである。
【0059】
開放とは、アンテナ401の接続先が無く、アンテナ401に接続される回路のインピーダンスが無限大となる状態である。接地とは、アンテナ401をGND204に接続することで、アンテナ401に接続される回路のインピーダンスがゼロとなる状態である。短絡とは、アンテナ401を負荷404に接続することであり、アンテナ401とアンテナ401に接続される回路と負荷404とのインピーダンス整合がなされている状態である。
【0060】
アンテナ401は、送電機201から放射された電波を受電し、受電した電波を高周波電力として整流部402に入力する機能と、位相変化後の電波を反射波として閉空間300へ放射する機能とを有する。
【0061】
制御部403は、アンテナ401で受信された電波による蓄電部501への充電制御と、蓄電部501の放電制御と、スイッチ部706の切り替え制御とを行う。
【0062】
なお、実施の形態2に係る受電機202Aでは、整流部402の出力側にスイッチ部706が設けられているため、アンテナ401と整流部402との間にスイッチ部706が設けられる場合に比べて電力損失を低減できる。
【0063】
次に受電機202Aの動作を説明する。まず制御部403は、スイッチ部706の接続先を負荷404側へ切り替えることで、給電モードの状態にする。これにより、アンテナ401で受信された電波が整流部402で直流電力へ変換され、負荷404に供給される。制御部403は、負荷404に供給される電力をモニタして、電力量が一定値以上である場合には、負荷404に十分な電力が供給されていると判断し、反射モードに移行する。これにより、アンテナ401の開放状態とアンテナ401の接地状態とを一定周期又はランダムな周期で交互に切り替える。
【0064】
この切り替え動作によって、開放時に受信された電波は同位相で全反射され、接地時に受信された電波は逆位相で全反射される。全反射された電波は、経時的に位相が変化する反射波として、閉空間300に向けて放射される。閉空間300に放射された反射波は、受電機202A以外の、1又は複数の受電機202で受信される。このように、受電機202Aが他の受電機202に対して、位相変調後の反射波を送信することにより、他の受電機202で受信される電波の位相が一定時間毎に変化するため、他の受電機202における電波強度の低下を抑制できる。
【0065】
図9は
図8に示す実施の形態2の受電機202Aの変形例を示す図である。
図9に示される受電機202Bでは、スイッチ部706と整流部703が逆に配置されている。
図9に示すように、整流部703の入力側にスイッチ部706を配置することにより、アンテナ401に直接接続されるスイッチ部706により切り替え動作が行われるため、反射波の伝達効率が向上する。
【0066】
なお、本実施の形態に係る位相変化部602は、スイッチ部702の代わりに、アンテナ601とGND204との間のインピーダンスを変化させることにより、アンテナ601をGND204に接続する第1状態とアンテナ601をGND204から開放する第2状態とを交互に切り替えるインピーダンス変化部を備えるように構成してもよい。インピーダンス変化部は、例えば、可変コンデンサ、可変コイル、可変抵抗、移相器などにより構成されており、アンテナ601が接続される回路の複素インピーダンスを経時的に変化させる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示の一実施例は、電力位相調整機及び無線電力伝送システムに好適である。
【符号の説明】
【0068】
100 :無線電力伝送システム
200 :受電機
201 :送電機
202 :受電機
202A :受電機
202B :受電機
203 :電力位相調整機
300 :閉空間
301 :アンテナ
302 :発振部
303 :制御部
304 :電源部
401 :アンテナ
402 :整流部
403 :制御部
404 :負荷
501 :蓄電部
601 :アンテナ
602 :位相変化部
701 :スイッチ部
702 :スイッチ部
703 :整流部
704 :制御部
705 :蓄電部
706 :スイッチ部