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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ベーカリー製品の香りの官能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20240822BHJP
   G06Q 50/10 20120101ALI20240822BHJP
【FI】
G01N33/02
G06Q50/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019174490
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021051020
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 亜紀
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207595(WO,A1)
【文献】特開2011-000113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0029274(US,A1)
【文献】特開2017-207721(JP,A)
【文献】三浦久美子,色と香りの調和性,におい・かおり環境学会誌,2011年,Vol.42 No.5,Page.327-337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/02
G06Q 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品の香りの評価方法であって、官能評価トレーニングを受けていない一般消費者でも直感的に飲食品の香りを評価できる色彩による官能評価結果と、官能評価トレーニングを受けたパネルで行う官能評価結果が相関しているかどうかを確認する(i)~(v)の工程からなり、その工程が
(i)飲食品の香りの評価を、言語を用いた官能評価で行う工程 、
(ii)XYZ表色系、L*a*b*表色系、L*u*v*表色系、マンセル表色系、オスワル ト表色系、NCS(ナチュラル・カラー・システム)及びABCトーンシステムのいずれか 1以上の表式系を用いて、飲食品の香りの質に合致する色が塗られた色見本カードを少な くとも一つ以上選択する工程 、
(iii)選択された色の数で1を割って得られた数値を選択係数とし、1回の官能評価で 1つの色について全ての官能評価パネルから得られた選択係数を足し合わせて得られる総 和で点数化し、さらに、1つの色に付された選択係数の総和を、全色に付された選択係数 の総和で割り、百分率で表した数値を色が選ばれる割合として、(a式)で算出する工程 a式:色が選ばれる割合=(各色の選択係数の合計値/全色の選択係数の合計値)×100 、
(iv)色相および/またはトーンを変量として、(iii)の工程で算出された色が選 ばれる割合を色彩を用いた官能評価の個体として、分散共分散分析を行って相関性を求め ることにより、飲食品の香りの評価を、色彩を用いた官能評価で行う工程 、
(v)前記(i)の官能評価から得られた言語を用いた官能評価の点数と前(ii)~ (iv)の工程から得られた色彩を用いた官能評価の点数について、分散共分散分析を行 い、相関係数を求めて、言語を用いた官能評価と色彩を用いた官能評価を関連づける工程。
【請求項2】
請求項1に記載の飲食品がベーカリー製品である、請求項1に記載の香りの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンや焼菓子の香りについて、香りの強度や質を色彩で評価する官能評価方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品の品質は、主に外観、香り、食感、風味から、総合的に判断され、その評価方法と
して官能評価が広く行われている。飲食品の官能評価は、パネルの体調や心理状態、評価
時の条件や環境、食べ合わせや喫食量によって、客観性や再現性を失いやすいため、評価
する飲食品や数値化したい品質の種類によって、最適な評価方法が検討されている。特許
文献1では、スポーツドリンクに関する官能評価方法を開示している。官能検査室で行う
評価と屋外で運動した後の評価では、スポーツドリンクの全体の風味(おいしさ)は大き
く異なることが想定されるため、官能評価時の環境を実際の飲用シーンに近づける質問文
書や画像を提示することにより、コントロールする方法が開示されている。当該文献は飲
食品を摂取する際の環境やパネル側の体調や行動心理を重視した評価方法である。特許文
献2では、様々な飲食品を組み合わせた場合に、飲食品を口腔内に入れてから時間動的に
変化する風味について、評価回数や順序等を詳細に設定し、食べ合わせや喫食量を反映し
た評価方法を開示している。以上の先行文献は、実際の喫食シーンを可能な限り官能評価
に反映させた方法を開示しており、評価用語の理解や評価点の強弱については、既にパネ
ル間で共通の認識が持たれ、パネルとしてのレベル差もないことが前提とされる。
【0003】
訓練された評価パネルによる官能評価は、飲食品の品質を評価するうえで優れた評価方法
であるが、その結果をトレーニングされていない一般消費者等に伝えるには、少なくとも
評価用語や評価点について予め理解を得ることが必要である。官能評価項目を香りにのみ
限定し、その強度を色の変化で評価しながら、評価点の強弱の擦り合わせをした例として
、特許文献3が開示されている。当該文献における評価対象は飲食品ではなく、悪臭に対
する消臭剤の消臭効果について記載している。悪臭形成物質が脂肪酸である場合には、p
H指示薬による着色が可能であり、脂肪酸の消長を色調変化により捉えることができる。
当該文献ではpH指示薬による検査条件を最適化し、指示薬による色の変化と官能評価に
よる消臭効果の擦り合わせを行っている。しかしながら、飲食品の香りは、複数種の香気
成分物質で構成されており、全ての香気成分に対して呈色反応を示すような試薬も存在し
ない。
【0004】
非特許文献1には、色と人の心理について、下記のような説明がされている。人は一定の
色から共通したものを連想することがある。連想は、基本的には個人の意識の中にある知
識、経験、思想、願望あるいは気分といった内面的要因にもとづくため、連想によって生
まれるイメージは個人によって異なる。ただ個人といえども、人は、地域や学校、あるい
は企業といったなんらかの社会的集団に属し、そのなかで生活体験を共有しているため、
集団を年齢・性別・職業といった共通点でくくると、連想の内容にも一定のまとまりが見
られると考えられる。連想を呼び起こす刺激には、色の他に音や形などがある。色の連想
には、たとえば、赤に太陽、緑に木の葉のような、現実の事物につながる具体的連想と、
赤に情熱、緑に平和のような抽象的連想がある。また、色には抽象的概念に結び付きやす
い性質があり、これを色の象徴性という。象徴とは、眼には見えない抽象的概念やものご
とを、形や色をもった他のもので直感的にわかりやすく表すことをいう。そのため、色の
象徴は、言語によらないコミュニケーションの重要な一部を形成している。つまり、言語
によるコミュニケーションが難しいシーンにおいて、色の象徴性が言語に代わる役割を果
たすと考えられる。
【0005】
飲食品の開発シーンで行う官能評価では、言語によるコミュニケーションを難しく感じる
場合がある。開発品の特性について官能評価と分析評価の結果を組み合わせても、その結
果からイメージする特性は、個人個人の知識や経験に依存するため食い違うことも多く、
その食い違いを他の言語で補おうとしても適した言語が見当たらず、コミュニケーション
が取れないという課題に直面する。例えば、ベーカリー製品における香りの改良には「こ
うばしい香り」や「甘い香り」の付与、向上を求められる場合がある。しかしながら、「
こうばしい」香りでも、パンとクッキーでは質が異なり、同じクッキーどうしで比較して
も、原料配合により「こうばしい」香りの強度が異なる。このような開発シーンにおいて
は、目標とする「こうばしい」香りの質と強度を的確に開発者間で共有しなければならな
いが、パンの香りは眼には見えない抽象的概念であるため、個人の連想に依存してしまい
、評価用語の統一が難しかったり、評価点が1点上昇する際の香りの強弱をパネル間で一
致させるには、多くの時間を要する。 さらに、官能評価用語や官能評価点は、評価パネルに対して評価前のトレーニング等を必要とする。
【0006】
しかし、色の象徴性を利用して、飲食品の香りという抽象的概念を直感的に色で表すことができれば、色の象徴性は抽象的概念を直感的に色で表すことであるから、パネルの官能評価レベルに依存せず、また、トレーニングされていない一般消費者にも直感的に理解しやすい可能性が高い。さらに、官能評価用語や官能評価点と異なり、色は光の三属性(色相、明度、彩度)または光の三原色(赤、緑、青)で一つの色を特定出来るため、さまざまな表色系の基準に基づき数値で管理できる可能性が高い。このように、抽象的概念であった香りをわかりやすく伝達できる可能性があるが、これまでに、香りの質や強度を色の違いで表すことは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-69416号公報
【文献】特開2018-124106号公報
【文献】特開2012-112880号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】東京商工会議所,カラーコーディネーター検定試験3級 公式テキスト第4版 カラーコーディネーションの基礎,中央経済社,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、飲食品から揮発する複雑な香りを、官能評価や機器分
析以外の方法で一般消費者等にも分かりやすく伝えるための官能評価方法を提供すること
である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究を重ねた結果、従来は言語や数字で表して
きた香りの強度や質を、色相とトーンで構成される色に連想して視覚的に評価することで
、ベーカリー製品の香りの強度や質をより分かりやすく、飲食品の製造業者や一般消費者
等に伝えることが可能になることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、
(1) 飲食品の香りの評価方法であって、
(i)飲食品の香りの評価を行う工程
(ii)官能評価により飲食品の香りを色に置換する工程
(iii)置換した色を点数化し、選択された色の割合を算出する工程
(iv)表色系で色を決定する変数を変量として、前記(iii)で各色が選ばれた割合
を、各パネリストの各試料の色評価の結果を個体として、分散共分散行列を用いた主成分
分析により統計解析する工程
(v)前記(i)の評価と前期(iv)の結果との相関性により関連づける工程
を含む、飲食品の香りを色に置換する評価方法。
(2) (1)に記載の飲食品がベーカリー製品である、前記(1)に記載の評価方法。
(3) (1)または(2)のいずれか1項に記載の評価方法より得られる結果を、広告又は販売用資材として用いる、前記方法。
(4) (1)~(3)のいずれか1項に記載の評価方法より得られる結果を用いた広告又は販売用資材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベーカリー製品等の香りに関する評価を、表色系の色票を用いて官能評価することにより、ベーカリー製品等の香りの強度や質をより分かりやすく提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】表色系
図2】販促資料例
図3】パンの主成分分析
図4】チーズブレッドの主成分分析
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における官能評価は、香りを感じる飲食品であれば利用することができる。例えば
、ベーカリー製品としては、澱粉質原料を主原料として、焼成、油調、蒸し、または蒸し
焼き等の加熱処理をして製造される加工製品であり、例えばパン類、パン類乾燥品、ケー
キ類、ワッフル、シュー、ドーナツ、揚げ菓子、パイ、ピザ、クレープ等が挙げられる。
パン類としては、食事パン(例えば食パン、ライ麦パン、フランスパン、乾パン、バライ
ティブレッド、ロールパン、クロワッサン等)、調理パン(例えばホットドッグ、ハンバ
ーガー、サンドイッチ、カレーパン、ピザパイ等)、菓子パン(例えばジャムパン、あん
ぱん、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、ブリオッシュ、デニ
ッシュ、コロネ等)、蒸しパン(例えば肉まん、中華まん、あんまん、蒸し饅頭等)、特
殊パン(例えば、グリッシーニ、マフィン、ピザ生地、ナン等)が挙げられる。パン類乾
燥品としては、ラスクやパン粉等が挙げられる。ケーキ類としては、蒸しケーキ、スポン
ジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、どらやき、ブッセ、バームクー
ヘン、パウンドケーキ、チーズケーキまたはスナックケーキ等が挙げられる。
【0015】
本発明において、飲食品の香りの評価を行う工程及び官能評価により飲食品の香りを色に
置換する工程にいて、官能評価を行うパネリストは、週1回以上の頻度で約1年間以上に
わたり、飲食品の官能評価に従事した経験を持つものとし、10名以上で評価することが
好ましい。飲食品の香り評価を行う工程は、通常の官能評価であるため、当業者において
採用される方法で行うことができる。
【0016】
本発明において、官能評価に用いる評価試料は、対象となる飲食品において通常行われ
る調整方法で良い。例えば、ベーカリー製品であれば、加熱処理後に90分間室温冷却し
、粗熱がなくなってから包材または容器に保存する。保存時に使用する包材または容器は
、ベーカリー製品の揮発性成分を逃さない、水分を保ち乾燥させない、微生物汚染がない
、色のイメージを誘導しないために無色透明であること、無臭であり、密封できる食品保
存に適した材質と形状であれば良く、例えば包袋の場合には、材質は高圧法低密度ポリエ
チレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中低圧法高密度ポリエ
チレン(HDPE)、インフレーションポリプロピレン(IPP)、二軸延伸ポリプロピ
レン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)が挙げられる。形状は保存するパン類
を密閉できる必要があるため、袋の一辺にファスナーが付されているかヒートシール等で
圧着できるものが好ましい。また、容器を用いる場合には、プラスチック製密閉容器やガ
ラス製密閉容器を用いてよく、プラスチックの種類は熱可逆性樹脂または熱硬化性樹脂の
うち、上記の条件に適合するものを用いる。同様にガラスの種類も上記の条件を満たして
いれば良く、食器として用いられる耐熱強化ガラス(コーニング社登録商標「パイレック
ス」など)や科学用実験器具として使用されるフロートガラスが好ましい。
【0017】
本発明において、官能評価での評価試料の提示方法は、密封または密閉された包袋または
容器に、ベーカリー製品を収納し、官能評価が行われるまでベーカリー製品の香りや水分
が変化しないように25℃のインキュベーターで保存する。1セッションで提示する評価
試料は3種または4種とし、パネルの感度や集中力が低下せず、負担のない数とする。評
価試料には識別番号を付し、ランダムで意味のない複数種の数字で提示する。3桁以上が
望ましいが識別番号自体に誤りが発生するほど長い組み合わせは適さない。官能評価は原
則としてパネリストの空腹,満腹時を避け、1日1セッションとし、1セッションは5~
20分で行うのが良い。
【0018】
本発明において、香りとは飲食品から生じる香りであって、加熱処理後に広がる香りや包
材を開けたときに広がる香りを評価する。香りに関する官能評価用語は、特に限定されず
、対象となる食品によって、当業者が用いる用語で良い。例えば、ベーカリー製品では、
小麦粉、脱脂粉乳、砂糖、ショートニング、食塩、イースト、イーストフード、水で構成
された基本配合の食パンは、小麦の香り、穀物の香り、モルトの香り、発酵した香り、ナ
ッツの香り、バター様の香り、トーストした香りまたはクラストの香りといった用語をベ
ーカリー製品の香りとして選定し、用いることができる。さらに、香りを高めるために配
合されるバターやマーガリンなどの油脂、発酵種または発酵風味料、香料、フィリング、
ドライフルーツ、果汁飲料、ヨーグルトやチーズなどの乳製品といった副原料を含む場合
にも、上記の選定方法により、用語を選定することが出来る。例えば、様々な種類のナチ
ュラルチーズを添加した食パンの場合には、基本配合で得られる食パンで用いられる官能
評価用語に加えて、アルコールのような香り、カビのような香り、グリーンな香り、酵母
エキスの香り、乳の甘い香り、スモークの香り、こうばしい香り、チーズを焼いたような
香り、といった用語が選定される。
【0019】
本発明で、飲食品の香りの評価を行う工程とは、飲食品の香りを言葉で特定する工程で
ある。前段の説明のように、食パンを評価する場合は、小麦の香り、穀物の香り、モルト
の香り、発酵した香りといった香りを特定する工程である。香りを特定できれば、方法に
制限はない。もっとも一般的な方法は、例えば、従来行われている飲食品の官能評価方法
と同様に、官能評価パネルにより、飲食品に感じる香りを用語で特定する方法である。当
業者において通常行われる香りセンサー等の分析機器を用いて、飲食品の香りを言葉で特
定してもよい。本工程により、本発明の方法で評価する飲食品、食パンであれば、小麦の
香り、発酵した香りが特に強いなどが特定できれば良い。
【0020】
次に、本発明で、官能評価により飲食品の香りを色に置換する工程は、官能評価パネル
により、飲食品から感じる香りの質と強さなどから、当該香りを色として置換する工程で
ある。官能評価パネルは、ベーカリー製品の入った包袋または容器を開封し、開封時に感
じられる香りの質に合致する色を選択する。選択する色の数は1つ以上であればよい。選
択した色を点数化するには、選択した色の数で1を割った数値を選択係数として用いる。
例えば1色を選択した場合の選択係数は1として、選んだ色に1を加算し、2色を選択し
た場合の選択係数は0.5として、選んだ色に0.5ずつ加算し、同様に4色選択した場
合には、各色に0.25ずつを加算する。
【0021】
本発明において、香りの強度と質を表現するために選択するための色は、表色系を用いる
のが好ましい。表色系は、適宜選択してよく、制限はない。例えば、PCCSを基準とし
て、XYZ表色系、L*a*b*表色系、L*u*v*表色系、マンセル表色系、オスワルト表
色系、NCS(ナチュラル・カラー・システム)及びABCトーンシステムが用いられる。
選択される色は、パネル自身またはパネル間のばらつきが大きくならないように予め選択
肢を絞ったほうが良い。絞り方は例えば、PCCSにリストされる199色より有彩色3
0色(色相6種:赤、橙、黄、緑、青、紫,トーン5色:pale、light、viv
id、deep、dark)と無彩色5色の合計35色を選択するなど、各表色系におい
て一つの色を決定する複数の属性が、均等に偏りなく分布するように色を決定して選択肢
の色を絞ると良い(図1)。PCCS以外の表色系を使用する場合は、各表色系どうしの
色見本対応表を用いて、同色を官能評価に用いても良い。官能評価時には、色見本カード
を色の属性に従って白紙上に配置し、官能評価時に意識的または無意識的に得られる色の
影響を極力減らし、統一させると良い。
【0022】
本発明において、ベーカリー製品の香りのイメージに、その色がどのくらい選ばれたかを
数値化する場合は、各色の選択係数の合計値を全色の選択係数の合計値で割り、百分率で
表した数値で示すことが出来る。当該数式は下記(a式)で表される。
色が選ばれる割合=各色の選択係数の合計値/全色の選択係数の合計値×100・・・(
a式)
以上の方法により、官能評価パネルによる、色選択のバラツキを処理する。実施例に示す
ように、意外にも官能評価パネルによるバラツキが少なく、飲食品の香りの評価を行う工
程で決定した香りの評価と関連させることにより、香りを色に置換することができる。
【0023】
本発明におけるデータ解析は、多変量解析のうち主成分分析を用いることによって解析す
ることが出来る。官能評価項目の相関性は、2変数が連動して変化する傾向とその度合い
を求める方法であればよく、例えばPeasonの相関係数を求めることにより、係数か
ら関係の強度と方向の両方を示すことが可能である。また、データの縮約には、分散共分
散行列を用いた主成分分析を用いて解析することが出来る。主成分分析は統計解析ソフト
を用いてよく、例えばExcel、SPSS Statistic23(日本IBM)、
JMP(SAS)を用いてよい。
【0024】
以上の方法により、飲食品の香りを色に置換することができる。例えば、パンの香りは
橙を連想させ、乳由来の香りは黄、焼成で生じる香りはdeep、darkといったトー
ンで表現できる。本発明により、飲食品の香りを視覚的に表現することが可能となった。
【0025】
本発明における広告または販売用資材とは、本発明で開示される評価方法及び評価結果を用いて、飲食品、ベーカリー製品等の香りの特徴をそれら資材に示すものである。広告または販売用資材の形態は、特に限定されるものでなく、一般的に使用されるもので良い。例えばパンフレット、宣伝広告資材、技術資料、Webサイト、製品案内用動画、製品包装材、製品包材のデザインなど飲食品に使用される資材等である。より具体的なパンフレットの一例としては、図2のように、香りを色で表現した項目を記載することである。
【実施例
【0026】
以下に、本発明の内容について実施例を用いて説明する。ただし、本発明の技術範囲はこ
れらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
―目的―
飲食品として食パンを用い、食パンの香りの質や強度を色に置換して数値化しても、当業
者または官能評価トレーニングを受けた評価者が行う従来の官能評価方法(9段階評定尺
度法および複数回答形式の用語収集)と相関性を有するか検証した。
―材料と試験区―
当該実施例においては、パンの香りの寄与成分として既知のグルタミン酸、アスパラギン
酸、プロリン、オルニチン、酪酸、ジアセチル、乳糖を用い、試験区を表1に示す添加量
で食パンに添加した。これらの寄与成分には食品添加物レベルの製品を用いた。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の試験区に従い、食パンを作製した。食パンの作製方法は、日本イースト工業会のパ
ン用酵母試験法に準じて行い、小麦粉1kg仕込みのストレート法で、ワンローフ型の食
パンを作製した。原料と配合は、強力粉(カメリヤ、日清製粉)1000g、水700g
、砂糖50g、ショートニング50g、生イースト(レギュラーイースト、三菱商事ライ
フサイエンス)30g、食塩20g、脱脂粉乳20g、イーストフード(パンダイヤC-
500、三菱商事ライフサイエンス)1gとした。油脂を除く上記配合の原材料を、縦型
ミキサー(SS型71E、関東混合機工業)を用いて1速3分、2速3分、3速1分でミ
キシングし、次いで油脂を添加し、1速2分、2速3分、さらに最適生地になるまで3速
でミキシングした(6分から8分)。捏ね上げ温度は28±1℃のパン生地を作製した。
パン生地は28℃で60分間1次発酵(フロアタイム)をし、450gに分割して丸め、
室温で20分間のベンチタイムを取った。その後、モルダー(型式WF、オシキリ)を用
いてワンローフ型食パンに成型した。38℃、相対湿度85%の恒温器(KM-62PI
D-C型、協同電熱製作所)で生地の中央部分が型の上端から1.5cm出るまで最終発
酵を行い、リールオーブン(型式SER608MS、三幸機械)で200℃・25分間焼
成した。焼成したパンは直ちに型から取り出し、室温で90分間放置して粗熱をとった後
、ポリ袋の中に入れて25℃で保存した。翌日、官能評価に用いた。
【0030】
官能評価は11名以上の分析型パネルにより行った。パネリストは週1回以上の頻度で約1
年間以上にわたってパンの官能評価に従事した経験を持つ者より選ばれた。当該検証に先
立ち、パネリストは官能評価用語と官能評価点についてパネリスト間で解釈や理解を一致
させ、官能評価レベルは互いに差がない状態で臨んだ。ただし、色に対する情報や認識は
持たなかった。
【0031】
官能評価試料の提示方法は、18mmにスライスしたパンをポリ袋に入れ、袋を開封した
時に感じる香りについて評価するようパネリストに指示した。1セッションにつき提示す
る試料のパンはコントロールと試験区の2種とし、試料にはランダムな3桁の数字を添付
した。原則として1日1セッションとし、パネリストの空腹、満腹時を避け、午前10時
あるいは午後2時に開始した。1セッションは10~20分であった。
【0032】
表1に記載の食パンの香りについて、9段階評定尺度法による官能評価と複数回答形式の
用語収集を行った。当該実施例において、両評価方法は、従来、トレーニングを受けた評
価パネル間で行い、評価結果を評価パネルと同等の官能評価レベルを持つ開発者等に提案
するために利用される官能評価として想定された。具体的には、パンの香りを表す9項目
(アルコールの香り、カビのような香り、小麦の香り、グリーンな香り、酵母エキスの香
り、乳の甘い香り、スモークの香り、こうばしい香り、チーズを焼いたような香り)と香
りに対する嗜好性を含めた計10項目について、-4点(非常に弱い)から+4点(非常
に強い)までの9段階で評価した。同一の試験は日を変えて2回行い、1回目には半数の
パネルにコントロールを先に、他の半数には評価試料を先にテストさせ、2回目にはその
順序を逆にした。いずれの試験においても、先に提示した試料を基準とし、後の試料を評
価させた。結果はコントロールと比較したときの評価点数となるように修正した。また、
用語収集に用いた用語は、別途事前に行った評価で、パンの香りの質について自由記述を
行い、記述された用語をリストにまとめたものであり、当該官能評価時には評価用紙に5
0音順に列挙して、試料に感じられた香りすべてにチェックを入れるよう指示した。
【0033】
表1に記載の食パンの香りについて、色彩を用いた官能評価を行った。当該実施例におい
て、この官能評価は、官能評価パネルとしてのトレーニング経験の有無に関わらず、パン
の香りについて官能評価結果を情報共有するために準備する評価方法として検討した評価
方法である。当該官能評価を行うための準備として、パンの香りから連想される色を選択
するための色票を作成した。PCCSの新配色カード199より有彩色30色(色相6種
:赤、橙、黄、緑、青、紫, トーン5色:pale、light、vivid、deep
、dark)と無彩色5色(白から黒)の合計35色を、番号をつけたA4白紙に配置した
。パネルはパンの袋を開けた時に感じるこうばしい香りのイメージを、色に置換して色票
から2色以内で選択した。1色選択の場合は1.0と換算し、色が選ばれる割合を(a式
)を用いて求めた。なお無彩色5色は、Wはpale、Gy-7.5はlight、Gy
-4.5はvivid、Gy-3.0はdeep、Bkはdark、として分類し集計し
た。
【0034】
データを一元的に把握するために、各評価項目を変量、各パネリストの各試料の評価を個
体として、分散共分散行列を用いた主成分分析を行った。官能評価用語と色彩評価の結果
の相関性は、Peasonの相関係数により評価した。解析にはSPSS Statis
tic23を用いた。
【0035】
―結果―
表2に9段階評定尺度法による官能評価結果について、各官能評価項目に対する平均値を
示した。コントロールと比較すると、10語中8語に官能評価用語について試料間の有意
差(p<0.05)が見られた。トレーニングを受けた評価パネルで9段階評定尺度法に
よる官能評価を行うと、表1の食パンはパンの香りの強さや質について、有意差があるも
のとして評価され、その差は官能評価項目で示される用語として表された。試料の香りの
嗜好性に有意差はなく、嗜好性の影響は小さいことが分かった。
【0036】
【表2】
【0037】
9段階評定尺度法による官能評価から得られたデータを一元的に把握するために、各評価
項目を変量、各パネリストの各試料に対する評価を個体として、分散共分散行列を用いた
主成分分析を行った。その結果、第4主成分まで意味のある主成分として抽出された。各
評価項目に対する因子負荷量を表3に示した。寄与率は第1主成分21.7%、第2主成
分19.8%、第3主成分13.3%、第4主成分11.2%であった.図3に第1主成
分と第2主成分から構成される散布図を示した。各主成分に対する因子負荷量に着目して
軸の解釈を行った。第1主成分はパンらしいこうばしい香りの因子負荷量が大きいことか
ら「焼成によるパンのこうばしさ」とした。第2主成分はスモークの香りの因子負荷量が
大きいことから、「焼成による焦げ感」とした。第3主成分は乳の甘い香りやチーズを焼
いたような香りの因子負荷量が大きいことから、「乳原料由来の香り」、第4主成分はア
ルコールの香りの因子負荷量が大きいことから、「パンの発酵感」とした。
各試料の主成分得点(表4)と因子負荷量の結果より、パンの香りにおいて、アスパラギ
ン酸は「焼成によるパンのこうばしさ」、グルタミン酸ナトリウムは「焼成による焦げ感
」、酪酸は「乳原料由来の香り」、に寄与しており、これら試料の香りの特徴を把握する
ことができた。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
複数回答形式の用語収集の結果を表5に示した。評価時に選択した回答数(チェック数)
の割合(%)を示した。
コントロールは「小麦の生地のような香り」のチェック率が高く、寄与成分を添加すると
他の香りの占める割合が増え、添加する成分により香りのバランスが異なることがわかっ
た。
グルタミン酸ナトリウムは「焦げたような香り」のチェック率が高く、9段階評定尺度法
の主成分分析で「焼成による焦げ感」に寄与していた結果と一致した。
アスパラギン酸ナトリウムは「焦げたような香り」及び「コーヒーのような香り」のチェ
ック率が高く、主成分分析で「焼成によるパンのこうばしさ」に寄与していた結果と一致
した。
プロリン及びオルニチンはともに、「アーモンドのような香り」と「ポップコーンのよう
な香り」のチェック率が高く、互いに類似した香りであることがわかった。
酪酸は「チーズのような香り」及び「バターのような香り」のチェック率が高く、主成分
分析で「乳原料由来の香り」に寄与していた結果と一致した。
ジアセチルは、「キャラメルのような香り」及び「メープルシロップのような香り」のチ
ェック率が高かった。乳糖は2%添加ではコントロールとの差は小さかったが、5%添加
では「キャラメルのような香り」が感じられることがわかった。
9段階評定尺度法で評価試料の香りの特徴は大まかに解析できたが、当該評価方法で、
さらに詳細に香りの特徴を解析できた。
【0041】
【表5】
【0042】
色彩を用いた官能評価の結果を表6に示した。各試料と選ばれた色との相関係数はすべて
正の方向に有意差(P<0.05)が見られた。9段階評定尺度法による香りの評価と複
数回答形式の用語収集により、個々の試料の香りの違いを確認できたが、選ばれた色どう
しは類似していることがわかった。パンの香りに差があっても、香りに対するイメージで
選ばれる色は類似していることがわかった。
選ばれた色相の割合を比較すると、コントロールの色相は橙が最も高く、橙はパンの香
りから連想する色相であることがわかった。酪酸0.01%を除くすべての試料で、橙の
占める割合が多いことから、コントロールだけでなく、パンの香りから連想する色相は橙
であることがわかった。酪酸はチーズや発酵バターなど乳製品に含まれる成分であり、パ
ンの香りに対して「乳原料由来の香り」を連想させ、色相は黄として評価されることがわ
かった。
選ばれたトーンについて比較すると、コントロールではdeepの割合が最も高く、pa
leが最も低かった。
プロリン、オルニチン、乳糖はコントロールよりもdeepの割合が高く、「アーモンド
のような香り」と「ポップコーンのような香り」との関連があった。
グルタミン酸ナトリウムとアスパラギン酸ナトリウムは、darkの占める割合が高く、
「焼成によるパンのこうばしさ」や「パンの焦げ感」との関連があることがわかった。
酪酸とジアセチルはvividの割合が高く、「チーズのような香り」、「バターのよう
な香り」、「キャラメルのような香り」及び「メープルシロップのような香り」との関連
があった。
パンの香りの色彩評価において,選ばれた色は類似しているが、香りの違いは色相とト
ーンの違いとして捉えられた。
【0043】
【表6】
【0044】
官能評価トレーニングを受けていない一般消費者でも直感的にパンの香りを評価できる官
能評価方法を想定して行った色彩による官能評価と、官能評価トレーニングを受けたパネ
ルで行う9段階評定尺度法および複数回答形式の用語収集について、それぞれから得られ
た官能評価結果が相関しているかどうかを確認した。これらの官能評価結果が互いに相関
していれば、色彩による官能評価は、9段階評定尺度法等の方法と同様に、一般消費者で
も直感的に評価できたり、理解しやすい官能評価結果を提示できる方法として利用できる
と考えられる。
色相別、トーン別に分けた色彩による官能評価の結果と9段階評定尺度法による官能評価
点との相関係数を表7及び表8に示した。色相またはトーンとの相関係数において、両者
ともに有意差(P<0.05)が見られなかった項目は、アルコールの香り、小麦の香り
であり、その他の官能評価用語は色相やトーンと相関が見られた。橙はカビのような香り
、酵母エキスの香り、スモークの香り、チーズを焼いたような香りと負の相関が見られた
。パンの香りは橙の占める割合が多く、橙はパンの香りのイメージの代表的な色相である
が、これらの香りが強すぎないバランスのとれた香りがパンの香りであることがわかった
。黄は酵母エキスの香り、乳の甘い香り、チーズを焼いたような香りと正の相関が見られ
、乳原料に由来する香りを連想させることがわかった。青はグリーンな香りと正の相関、
嗜好性と負の相関が見られた。青は食欲を減退させる色として知られるが、同様にグリー
ンな香りはパンの香りとしては好ましくないことを示した。小麦の香りはdeepと負の
相関があり、スモークの香り、パンらしいこうばしい香りはdarkと相関があることか
ら、焼成によって生じる香りはトーンの強い方向で評価されると読み取れた。また、グリ
ーンな香り、酵母エキスの香り、乳の甘い香り、のような焼成とは関係のない香りはde
ep、darkとは負の相関となり、これらの香りはこうばしい香りを弱めていると考え
られた。以上のことから、パンの香りを表す官能評価用語と色相、トーンとの間には関連
性があることが確認できた(図4)。
当該実施例により、パンの香りの寄与成分を添加したパンの香りは、9段階尺度評点法に
よる評価が可能であることが確認できた。また、パンの香りの評価方法として色彩を用い
た評価方法を検討し、パンの香りの違いが色彩の違いによっても表現できることがわかっ
た。色相とトーンのパターンから香りの相違点を視覚化することが可能であった。パンの
香りは橙を連想させ、乳由来の香りは黄、焼成で生じる香りはdeep、darkといっ
たトーンで表現された。本評価法を利用することにより、パンの香りを言葉だけでなく視
覚化して示すことが可能となり、より消費者にもわかりやすくパンの香りを伝えることが
できることがわかった。
【0045】
【表7】
【0046】
【表8】
【0047】
(実施例2)
―目的―
ベーカリー製品の香りを高めるために副原料を添加した場合にも、実施例1と同様に色彩
を用いた官能評価が可能か調べた。
【0048】
―材料と試験区―
様々なナチュラルチーズを添加したパンの香りについて評価するため、表9に示す7タイ
プ13品のナチュラルチーズを用いた。一般的に,ナチュラルチーズの熟成期間は、フレ
ッシュタイプは熟成なし、白カビタイプ、シェーブルタイプは2週間から4週間、ウォッ
シュタイプ、青カビタイプは2から3か月、セミハード・ハードタイプは4か月から2年
とされており、本願で使用したナチュラルチーズも、この基準から逸脱しない。
【0049】
【表9】
【0050】
食パンの作製方法は、実施例1と同様に行った。食塩量は、ナチュラルチーズに含まれる
食塩分を裏面表示の数値を参考にして、パンに添加する食塩量から除いた。
【0051】
官能評価は、実施例1と同様に行った。
官能評価試料の提示方法は、実施例1と同様に行った。
【0052】
9段階評定尺度法を用いた官能評価と色彩を用いた官能評価は、実施例1と同様に行った
【0053】
データ解析は、実施例1と同様に行った。
【0054】
―結果―
ナチュラルチーズを添加した食パンについて、色彩を用いた官能評価の結果を表10に示
した。選ばれた色相別に見ると、コントロールは橙の割合が多く、パンの香りは橙として
表現されることがわかった。チーズブレッドにおいても橙、黄の占める割合が多いが、試
料1、2、3、4、5、6、9、10、11の9試料は橙よりも黄の占める割合が高かっ
た。チーズブレッドはコントロールよりも黄のイメージが強いことがわかった。また、試
料6のみ緑の占める割合が14.6%と高く、シェーブルタイプの香りの特徴が色相に表
れたことがわかった。チーズブレッドの香りはどの試料においても橙、黄が中心であった
。このことはパンの香りの差が小さいことを表していた。しかし、色相の割合には違いが
あることから、パンの香りの違いは小さいものの、色相で評価できていることがわかった

トーン別の割合を見たところ、コントロールはvividの割合が13.1%と最も低く
、darkの割合が26.8%と高かった.しかしその差は13.7%と小さく、コント
ロールはトーン別の割合の差が小さいことが特徴であった。チーズブレッドにおいてトー
ン別の割合を見たところ、5%以下のトーンの割合があったのは試料5、6、8、10、
13のpaleと試料5のlight、試料1、7のdarkであった。パンの香りとし
て感じられる一部分がこれらの試料は少なかったことがわかった。40%以上のトーンの
割合があったのは試料5、8、9、13のdeepであり,deepのうち色相としては
黄の占める割合が一番多くなっていた。黄はチーズブレッドの香りの特徴を表している色
だった。
表11に各試料の色彩の相関係数を示した。相関係数はすべて正の方向であり、負の方
向となる試料はなかった.また有意差が見られなかったのは試料7に対する試料4、試料
5、試料6、試料13のみであり、その他の試料間には有意に正の相関が見られた。「パ
ンの香り」としては香りの質や強度が類似しているため、色も類似していると考えられた
。試料7はその他の試料と比較してpaleとlightの割合が多いことが色として異
なっていた。試料7はウォッシュタイプであることからウォッシュタイプの香りの特徴が
表れたと考えられた。
【0055】
【表10】
【0056】
【表11】
【0057】
チーズブレットについて、色相とトーンを変量、各パネリストの各試料の評価を個体とし
て、分散共分散行列を用いた主成分分析を行った。その結果、第3主成分まで意味のある
主成分として抽出された。各色相とトーンに対する因子負荷量を表12に示した。寄与率
は第1主成分28.2%、第2主成分19.1%、第3主成分16.8%であった。図4
に第1主成分と第2主成分から構成される散布図を図4に示し、各主成分に対する因子負
荷量に着目して軸の解釈を行った。第1主成分については、pale(0.87)、li
ght(0.86)の因子負荷量が大きかった。paleとlightの占める割合が4
0%以上と多かった試料は試料1、試料2、試料3、試料7であり、これらは遊離アミノ
酸量が少ないチーズ(表2)を使用したチーズブレッドである。これらチーズブレッドの
香りはアミノ酸由来のイーストによる発酵成分や焼成によるメイラード反応が少ないと想
定されるため第1主成分は「チーズブレッドのこうばしい香りの強弱」を表していること
がわかった。第2主成分については,橙(0.86)の因子負荷量が大きく、橙はコント
ロールのパンに多く含まれたことから、「小麦のパンらしい香りの強弱」であることがわ
かった。
以上からチーズブレッドの香りは色彩評価により、トーンと色相の2成分により平面上で
表現できることがわかり、トーンは「チーズブレッドのこうばしい香りの強弱」、色相は
「小麦パンらしい香り」と、2成分で香りの質と強弱を示していることがわかった。色彩
を利用した香りの官能評価方法はチーズブレッドの香りの評価法として利用できることが
明らかとなった。よって、香りを高めるために副材料を参加したパンにおいても、色彩を
利用した香りの官能評価方法は利用できることがわかった。
【0058】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明してきたように、ベーカリー製品の香りは、定量的記述法による官能評価や機器
分析による分析結果だけでは、専門家以外の第三者に香りの特徴を伝えることが困難だっ
た。本発明では、ベーカリー製品から揮発するする複雑な香りを、色彩に置き換えて示す
ことにより、従来の評価方法では見出しにくかった違いを色彩における色相とトーンで視
覚的に分けて識別することを可能にすることを明らかにした。当該評価方法は、ベーカリ
ー製品に止まらず、おいしさと品質が香りで判断される食品全般に用いることが出来る可
能性があり、様々な食品の品質向上の判断に利用できる可能性が高い。
図1
図2
図3
図4