(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 1/00 20060101AFI20240822BHJP
B41J 29/393 20060101ALI20240822BHJP
H04N 1/00 20060101ALI20240822BHJP
G01N 21/892 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G06T1/00 310Z
B41J29/393 105
H04N1/00 002A
G01N21/892 A
(21)【出願番号】P 2020046694
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】渡部 宏樹
【審査官】渡部 幸和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-071951(JP,A)
【文献】特開2005-322139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00
B41J 29/00
H04N 1/00
G01N 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を検査するための設定に関する情報を取得する第1取得手段と、
目標となる印刷結果を表す参照画像の第1データを取得する第
2取得手段と、
検査対象である印刷物を読み取って得られる印刷画像の第2データを取得する第
3取得手段と、
前記情報と前記第1データ
とに基づいて、前記参照画像と前記印刷画像とのそれぞれにおける同一画素位置に対応する注目画素を含む比較領域を設定する設定手段と、
前記第1データと前記第2データとに基づいて、前記参照画像の前記比較領域と前記印刷画像の前記比較領域との濃度差を算出する第1算出手段と、
前記参照画像の注目画素の画素値と前記印刷画像の注目画素の画素値との差から、前記濃度差を減算する第2算出手段と、
前記減算の結果に基づいて、前記印刷画像を検査する処理手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記設定手段は、検出対象の欠陥のサイズが大きいほど前記比較領域を大きく設定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記設定手段は、検出対象の欠陥と背景とのコントラストが小さいほど前記比較領域を大きく設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記設定手段は、前記参照画像における前記注目画素を含む周辺領域の特徴に基づいて、前記比較領域を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記設定手段は、前記参照画像における前記注目画素を含む周辺領域のエッジが前記比較領域に含まれないように、前記比較領域を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記設定手段は、前記参照画像における前記注目画素を含む周辺領域の画素値のばらつきが小さくなるように、前記比較領域を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記設定手段は、前記比較領域の大きさを設定することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記設定手段は、前記比較領域の形状を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記設定手段は、前記比較領域の位置を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記第1算出手段は、前記濃度差として、前記参照画像の前記比較領域における平均画素値と前記印刷画像の比較領域における平均画素値との差分を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記第1算出手段は、前記濃度差として、前記参照画像の前記比較領域における画素値の中央値と前記印刷画像の前記比較領域における画素値の中央値との差分を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記処理手段は、前記減算の結果が所定の閾値以上であるか否かを判定することにより、前記印刷画像を検査することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記処理手段は、前記印刷画像の各画素について前記減算の結果が前記所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記減算の結果が前記所定の閾値以上であると判定された画素群を欠陥として検出することを特徴とする請求項12に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記処理手段は、前記減算の結果が前記所定の閾値以上であると判定された画素群が円形欠陥領域であるか、又は、線状欠陥領域であるかを判定することを特徴とする請求項13に記載の画像処理装置。
【請求項15】
コンピュータを請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【請求項16】
画像を検査するための設定に関する情報を取得する第1取得ステップと、
目標となる印刷結果を表す参照画像の第1データを取得する第
2取得ステップと、
検査対象である印刷物を読み取って得られる印刷画像の第2データを取得する第
3取得ステップと、
前記情報と前記第1データ
とに基づいて、前記参照画像と前記印刷画像とのそれぞれにおける同一画素位置に対応する注目画素を含む比較領域を設定する設定ステップと、
前記第1データと前記第2データとに基づいて、前記参照画像の前記比較領域と前記印刷画像の前記比較領域との濃度差を算出する第1算出ステップと、
前記参照画像の注目画素の画素値と前記印刷画像の注目画素の画素値との差から、前記濃度差を減算する第2算出ステップと、
前記減算の結果に基づいて、前記印刷画像を検査する処理ステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物における欠陥の有無を検査するための画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷業において、発注主に納品する印刷成果物に欠陥がなく、問題のない品質であることを保証するために、印刷出力後に検査(検品)作業が行われている。人手による検査作業も行われているが、これにはコストがかかることから、近年では検査作業の自動化技術も開発されている。その方法は例えば、予め良品である印刷成果物の画像データ(以下、参照画像データと呼ぶ)を作成しておく。次に、検査対象となる印刷物の画像データ(以下、印刷画像データと呼ぶ)をスキャンや撮像等の手段によって取得する。そしてこの2つの画像データを比較することで検査が行われる。良品を表す参照画像データと検査対象である印刷画像データとに、予め定めた許容範囲を超える大きな差分があれば、それが欠陥であると判定される。
【0003】
同一の入力データに対する出力成果物の濃度や色合いが、出力時の印刷装置の状況に応じて異なって出力される場合がある。このケースを考慮した検査技術として特許文献1がある。特許文献1は、キャリブレーション等の変化が印刷装置に生じた場合に読取画像の欠陥検査に用いる画像を再生成し、読取画像と再生成した画像とを比較する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、印刷装置にキャリブレーション等の明確な変化が生じた場合にのみ欠陥検査に用いる画像の再生成が行われる。このため、トナーの付着量の変動や画像の読み取りに用いる光源の光量の変動など、印刷装置における明確な変化を伴わない濃度変動に対して対応できず、印刷装置の出力に対する検査を高精度に行うことができない場合があった。
【0006】
本発明は、印刷装置に明確な変化が生じない場合であっても、印刷装置の出力に対する検査を高精度に行うための処理を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る画像処理装置は、画像を検査するための設定に関する情報を取得する第1取得手段と、目標となる印刷結果を表す参照画像の第1データを取得する第2取得手段と、検査対象である印刷物を読み取って得られる印刷画像の第2データを取得する第3取得手段と、前記情報と前記第1データとに基づいて、前記参照画像と前記印刷画像とのそれぞれにおける同一画素位置に対応する注目画素を含む比較領域を設定する設定手段と、前記第1データと前記第2データとに基づいて、前記参照画像の前記比較領域と前記印刷画像の前記比較領域との濃度差を算出する第1算出手段と、前記参照画像の注目画素の画素値と前記印刷画像の注目画素の画素値との差から、前記濃度差を減算する第2算出手段と、前記減算の結果に基づいて、前記印刷画像を検査する処理手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印刷装置に明確な変化が生じない場合であっても、印刷装置の出力に対する検査を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】画像処理装置を含む印刷システム全体の構成を示す図
【
図6】画像処理装置が実行する処理を示すフローチャート
【
図7】参照画像に対する処理を説明するための模式図
【
図8】参照画像及び印刷画像の濃度変動を示す模式図
【
図9】比較領域の大きさを決定する処理を説明するための模式図
【
図10】比較領域の大きさを補正する処理を説明するための模式図
【
図11】比較領域の大きさを補正する処理を説明するための模式図
【
図13】比較領域の形状を補正する処理を説明するための模式図
【
図14】比較領域の位置を補正する処理を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の実施形態は本発明を必ずしも限定するものではない。また、本実施形態において説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0011】
[第1実施形態]
本実施形態においては、
図1に示す参照画像と印刷画像との注目画素の周辺領域(以下、比較領域と呼ぶ)において、それぞれの平均画素値を考慮した検査を行う。尚、本実施形態における検査は、目標となる印刷結果を表す画像(参照画像)と、検査対象である画像(印刷画像)と、の差分の絶対値に基づいて行われる。
【0012】
<印刷システムの構成>
図2は、画像処理装置200を含む、印刷物の出力と検査とを行う印刷システム全体の構成例を示す図である。本実施形態における印刷システムは、画像処理装置200と、印刷用サーバ280と、印刷装置290と、を有する。印刷用サーバ280は、印刷する原稿の印刷ジョブを生成し、印刷装置290へ印刷ジョブを投入する。印刷装置290は、印刷用サーバ280から投入された印刷ジョブに基づき、記録媒体(印刷用紙)上に画像を形成する。印刷装置290は給紙部291を有しており、ユーザは予め印刷用紙を給紙部291にセットしておく。印刷装置290は印刷ジョブが投入されると、給紙部291にセットされた印刷用紙を搬送路292に沿って搬送しながら、その表面又は両面に画像を形成し、画像処理装置200へと送る。
【0013】
画像処理装置200は、印刷が行われた検査対象の印刷物に対して欠陥の検査を行う。印刷装置290が印刷用紙上に画像を形成することにより得られる検査対象の印刷物は、搬送路292に沿って搬送され、画像処理装置200により検査される。画像処理装置200は検査処理装置として機能する。画像処理装置200は、CPU201、RAM202、ROM203を有する。また、画像処理装置200は、記憶装置204、画像読取装置205、印刷インターフェース(I/F)206、汎用インターフェース(I/F)207、ユーザインターフェース(UI)パネル208、メインバス209を有する。さらに、画像処理装置200は、印刷装置290の搬送路292と接続された印刷物の搬送路210、検査において合格した印刷成果物の出力トレー211、欠陥が発見され検査不合格となった印刷物の出力トレー212を有する。尚、印刷システムにおいて、記憶装置204、画像読取装置205、UIパネル208、搬送路210、出力トレー211、出力トレー212は、画像処理装置200の外部に設けられていてもよい。
【0014】
CPU201は、画像処理装置200の各部を統括的に制御するプロセッサである。RAM202は、CPU201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。ROM203は、CPU201によって実行されるプログラム群を格納している。記憶装置204は、CPU201によって実行されるアプリケーションや、画像処理に用いられるデータ等を記憶する。画像読取装置205は、スキャナであり、印刷装置290から送られてきた印刷物の片面又は両面を、搬送路210上で読み取り、画像データとして取得する。
【0015】
印刷I/F206は、印刷装置290と接続されており、画像処理装置200と印刷装置290とにおける印刷物の処理タイミングの同期や、互いの稼働状況の通知を行うためのインターフェースである。汎用I/F207は、USBやIEEE1394等のシリアルバスインターフェースであり、ユーザがログ等のデータを持ち運ぶことを可能にする。UIパネル208は、液晶ディスプレイ等の表示装置であり、
図3(a)のように、現在の画像処理装置200の状況や設定をユーザに伝えるためのユーザインターフェースとして機能する。また、UIパネル208は、タッチパネル又はボタン等の入力装置を備えていてもよく、
図3(b)のように、検査等に関してユーザからの指示を受け付けることができる。尚、入力装置は、マウスやキーボードのようにUIパネル208とは別に設けられていてもよい。メインバス209は、画像処理装置200の各モジュールを接続する伝送路である。
【0016】
画像処理装置200は、印刷装置290から送られてきた印刷物を搬送路210で搬送しつつ、画像読取装置205において読み取った印刷物の画像データに基づき、以下に説明する検査処理を行う。印刷物は、検査合格であれば合格の出力トレー211に搬送され、検査不合格であれば不合格の出力トレー212に搬送される。これにより、品質の基準を満たすことが確認された印刷物だけを納品用の印刷物として出力トレー211に集めることができる。
【0017】
<画像処理装置の機能構成>
画像処理装置200の機能構成を
図4に示す。画像処理装置200は、参照画像データ取得部401、印刷画像データ取得部402、画像データ保持部403、検査情報取得部404、比較領域設定部405、変動度合算出部406、検査処理部407を有する。
【0018】
参照画像データ取得部401は、検査の基準となる参照画像を表す参照画像データを取得する。尚、参照画像データは、印刷装置290が出力した印刷物を読み取って得られるスキャン画像を基に予め作成されたものとする。印刷画像データ取得部402は、搬送路210上の印刷物を画像読取装置205が読み取って得られる、検査対象の印刷画像を表す印刷画像データを取得する。参照画像データ取得部401及び印刷画像データ取得部402において取得された画像データは、画像データ保持部403に保持される。検査情報取得部404は、予め設定された検査情報を取得する。比較領域設定部405は、参照画像と印刷画像との比較をするための比較領域を設定する。変動度合算出部406は、参照画像の比較領域と印刷画像の比較領域とのそれぞれから、決められた指標を取得し、2つの指標を比較することによって濃度の変動度合い(濃度差)を算出する。具体的には、変動度合算出部406は、参照画像の注目画素を中心とした比較領域における平均画素値と、印刷画像の注目画素を中心とした比較領域における平均画素値と、の差分を算出する。
【0019】
検査処理部407は、参照画像データ、印刷画像データ、濃度の変動度合いに基づいて、印刷画像データが表す印刷画像の検査を行う。検査処理部407による検査処理の詳細について説明する。トナーの付着量の変動や画像読取装置205が有する光源の光量の変動などにより、印刷画像において一様な濃度変動が生じることがある。
図8に示すように、印刷画像のある領域において一様な濃度変動が生じている場合、印刷画像と参照画像との注目画素値の差分を閾値と比較する方法では、一様な濃度変動により印刷画像において欠陥が検出される。しかし、この一様な濃度変動が小さいために視覚的な影響が少なく、欠陥として検出したくない場合がある。そこで、本実施形態においては、式(1)のように、検査に用いる印刷画像と参照画像との差分D(x,y)を算出する。
【0020】
【0021】
ここで、P(x,y)は印刷画像の注目画素の画素値を表し、R(x,y)は参照画像の注目画素の画素値を表す。mpは印刷画像の注目画素を中心とした比較領域における平均画素値を表し、mrは参照画像の注目画素を中心とした比較領域における平均画素値を表す。式(1)においては、比較領域における平均画素値の差分(mp-mr)を、注目画素の画素値の差分から差し引くことにより差分D(x,y)が算出される。つまり、印刷画像と参照画像との比較領域における平均画素値の差分を注目画素周辺の平均的な濃度の変動度合いとし、この平均的な濃度の変動度合いが検査に影響を与えないように差分D(x,y)が算出される。また、式(1)が変形されることからも分かるように、印刷画像あるいは参照画像を変動度合いで補正し、注目画素の画素値の差分を算出する処理であると解釈できる。また、印刷画像と参照画像とのそれぞれの比較領域における平均画素値を注目画素の画素値から差し引いてから、注目画素の画素値の差分を算出する処理であるとも解釈できる。いずれの処理においても同様に、濃度変動の影響を検査に与えないように印刷画像と参照画像との差分を算出することにより、高精度な検査を行うことができる。
【0022】
<検出対象の欠陥>
図5は検出対象の欠陥の例を示している。
図5(a)に示す欠陥は、円形の欠陥(以下、円形欠陥と呼ぶ)である。
図5(b)に示す欠陥は、線状の欠陥(以下、線状欠陥と呼ぶ)である。本実施形態においては、円形欠陥の直径501と線状欠陥の線幅502とを欠陥サイズと定義し、検査の設定項目として使用する。尚、欠陥サイズとは別に、欠陥と背景との画素値の差分を欠陥コントラストと定義し、検査の設定項目として使用してもよい。
【0023】
<画像処理装置が実行する処理>
図6は画像処理装置200が実行する処理を示すフローチャートである。以下、各ステップ(工程)は符号の前にSを付けて表す。S601において、検査情報取得部404は、予め設定された検査情報を取得する。具体的には、検査情報取得部404は、ユーザがUIパネル208を介して予め設定した検査設定を検査情報として取得する。本実施形態においては、検出対象の欠陥サイズが設定される。
【0024】
S602において、比較領域設定部405は、検査情報として取得された検出対象の欠陥サイズに基づいて、比較領域の大きさを決定する。
図9を用いて、比較領域の大きさを決定する処理の詳細について説明する。
図9は欠陥が存在する印刷画像と参照画像との例を示す。ここでは説明の簡略化のため、画像に画素値のばらつきはないものとし、欠陥に対応する領域の画素のみ画素値が異なるものとする。
図9(a)のように、比較領域が欠陥領域内に収まってしまう場合を考える。この比較領域における平均画素値を算出する場合、印刷画像と参照画像との両方において平均画素値が注目画素値と一致する。これにより、差分D(x,y)が0になるため、欠陥がないと判定されてしまう。そのため、
図9(b)のように、比較領域の大きさは欠陥領域よりも大きく設定する必要がある。この場合、注目画素値と平均画素値とに差が生じるため、
図9に示す欠陥を検出することができる。本実施形態における比較領域設定部405は、設定された検出対象の欠陥サイズよりも十分大きくなるように、比較領域の大きさを決定する。
【0025】
S603において、参照画像データ取得部401は、参照画像を表す参照画像データを取得する。参照画像データは、記憶装置204に予め格納されているものとする。取得された参照画像データは画像データ保持部403が保持する。本実施形態における参照画像は、各画素の画素値(R,G,B)が8ビットで表される画像であるとする。S604において、参照画像データ取得部401は、S603において取得した参照画像データが表す参照画像に対してエッジの抽出処理を行い、エッジの抽出処理を行った参照画像に対して二値化処理を行う。参照画像データ取得部401は、さらに、二値化処理した参照画像に対して膨張処理を行う。膨張処理は、S602において決定された比較領域の大きさと同じ大きさの領域単位で行う。
図7はS604における処理を示す図である。S603において取得した参照画像データが表す参照画像が
図7(a)に示す画像である場合、エッジの抽出処理及び二値化処理により
図7(b)に示す二値画像が得られる。
図7(b)の二値画像に対して膨張処理を行うことにより、
図7(c)に示す画像を得ることができる。
【0026】
S604の処理を終えた後、画像処理装置200は、印刷装置290に稼働を開始させる。印刷装置290が稼働し、印刷物を画像処理装置200に順次流す傍ら、画像処理装置200は印刷装置290が所定枚数の印刷を完了するまで、流れてくる印刷物に対しS605~S613の処理を繰り返す。
【0027】
S606において、印刷画像データ取得部402は、印刷装置290が出力した印刷物を画像読取装置205が読み取って得られる印刷画像データを取得する。取得された印刷画像データは画像データ保持部403が保持する。本実施形態における印刷データが表す印刷画像は、参照画像と同様に、各画素の画素値(R,G,B)が8ビットで表される画像であるとする。
【0028】
全ての画素位置の画素について、上述した印刷画像と参照画像との差分D(x,y)を算出するまで、注目画素(x,y)を更新しながらS607~S611の処理を繰り返す。
【0029】
S608において、比較領域設定部405は、S604において膨張処理された参照画像を基に、S602において決定した比較領域の大きさを補正する。比較領域の大きさを補正する処理の詳細について説明する。印刷画像には、印刷時や画像読み取り時の搬送速度の微小変化等により、局所的な位置ずれが生じることがある。
図10に印刷画像及び参照画像における印字領域と非印字領域との境界付近の領域の例を示す。尚、
図10に示す画像中に濃度変動はないものとする。
図10(a)に示すように、比較領域に印字領域が含まれる場合、局所的な位置ずれにより比較領域に含まれる印字領域の割合が印刷画像と参照画像とで異なる。これにより、実際の平均濃度には差がないにも関わらず、印刷画像と参照画像とで比較領域における平均画素値に差が出てしまう。この平均画素値の差は上述した差分D(x,y)に影響を与え、適切な検査が行えない場合がある。具体的には、注目画素の画素値に差はないにも関わらず、比較領域における平均画素値の差分(mp-mr)により差分D(x,y)の絶対値が閾値を超えてしまい、欠陥があると判定されてしまう。これに対して、S608における比較領域設定部405は、比較領域に印字領域が含まれないように比較領域の大きさを補正する。
【0030】
S604の処理により、印字領域と非印字領域との境界においては、画素値の不連続な変化がエッジとして抽出される。そこで比較領域設定部405は、膨張処理後の参照画像を参照して、比較領域に印字領域(エッジ)が含まれているか否かを判定する。比較領域設定部405は、比較領域にエッジが含まれていると判定した場合、
図10(b)のように、比較領域の大きさを小さくする。これにより、比較領域に印字領域が含まれることを抑制する。尚、S608における比較領域の補正処理は、印字領域と非印字領域とに応じた検査の精度低下を抑制するだけではなく、比較領域における不連続な色の変化に応じた検査の精度低下も抑制することができる。
【0031】
S609において、変動度合算出部406は、注目画素(x,y)を中心とした比較領域における平均画素値を印刷画像と参照画像とのそれぞれについて算出する。S609における比較領域は、注目画素(x,y)を中心とした、S608において補正された大きさを有する領域である。S610において、検査処理部407は、印刷画像の注目画素の画素値と、参照画像の注目画素の画素値と、比較領域における平均画素値と、に基づいて、印刷画像と参照画像との差分D(x,y)を算出する。検査処理部407は、上述したように式(1)に従って、差分D(x,y)を算出する。
【0032】
S607~S611の処理を全ての画素位置の画素について行った後、処理はS612に移る。S612において、検査処理部407は、S607~S611の処理により算出した差分D(x,y)に基づいて、印刷画像に欠陥があるか否かを判定する。検査処理部407は、欠陥があるか否かの判定を、差分D(x,y)の絶対値と所定の閾値とを比較することによって行う。検査処理部407は、差分D(x,y)の絶対値が閾値以上である画素を抽出し、抽出した画素群から成る領域が円形欠陥領域であるか、又は、線状欠陥領域であるかを判定する。抽出した画素群から成る領域が円形欠陥領域であるか、又は、線状欠陥領域であるかの判定は、公知のパターンマッチングにより行われる。
【0033】
以上、印刷装置290が印刷物を画像処理装置200に順次流す傍ら、画像処理装置200は、S605~S613の処理を印刷成果物が所定の数に達するまで繰り返す。これにより、欠陥が検出されなかった合格品と、欠陥が検出された不合格品と、を分けることができる。最終的な成果物として合格品を採用すれば、一定の品質を確保した所定数の成果物を得ることができる。
【0034】
<第1実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態における画像処理装置は、画像を検査するための設定に関する情報を取得する。目標となる印刷結果を表す参照画像のデータを取得する。検査対象である印刷画像のデータを取得する。設定に関する情報と参照画像のデータとに基づいて、参照画像と印刷画像とのそれぞれにおける同一画素位置に対応する注目画素を含む比較領域を設定する。参照画像のデータと印刷画像のデータとに基づいて、参照画像の比較領域と印刷画像の比較領域との濃度差を算出する。参照画像のデータと印刷画像のデータと濃度差とに基づいて、印刷画像を検査する。これにより、参照画像と印刷画像とを比較するための比較領域を適切に設定することができるため、印刷装置の出力に対する検査を高精度に行うことができる。
【0035】
<変形例>
本実施形態においては、検査設定として、検出対象の欠陥サイズを設定したが、加えて検出対象の欠陥コントラストを設定してもよい。検出対象の欠陥コントラストが小さい場合はより正確な差分を算出することが好ましい。このため、比較領域における平均画素値を算出する際のノイズの影響を低減するために、比較領域の大きさが大きいほうが望ましい。そこで、S602において、比較領域設定部405は、検査情報として取得された検出対象の欠陥コントラストが小さいほど比較領域の大きさを大きく設定する。
図11(a)は欠陥コントラストが大きい場合の比較領域の大きさを示す図であり、
図11(b)は欠陥コントラストが小さい場合の比較領域の大きさを示す図である。
【0036】
印刷物の検査を行う目的は、印刷物が問題のない品質であることを保証するためではあるが、品質を優先するあまり検査の基準を厳格にし過ぎると、不合格品の増加により生産性が悪化してしまう。これに対して、印刷画像における領域ごとに検出対象の欠陥サイズや欠陥コントラストを異ならせて、検査の基準を領域ごとに異ならせることが考えられる。例えば、
図12(a)に示す印刷画像の検査を行う場合を考える。この場合、人物の顔領域においては小さな欠陥も検出したいが、顔領域以外の領域における検査の基準は顔領域に比べて低くしたいという要望が考えられる。これに対して、比較領域設定部405は、
図12(b)のように顔領域と顔領域以外の領域とをそれぞれ検査領域に設定し、検査領域ごとに検出対象の欠陥サイズや欠陥コントラストを設定してもよい。この場合、比較領域設定部405は、S602において検査領域ごとに比較領域の大きさを決定し、S608の前に注目画素がどの検査領域に属するかを判定し、属する検査領域に応じた比較領域の大きさを取得する。この処理により、印刷物の品質と生産性とを両立することができる。
【0037】
本実施形態における参照画像データ取得部401は、予め記憶装置204に格納されている参照画像データを取得したが、検査処理の前に生成してもよい。例えば、S603において記憶装置204に格納されている参照画像データを取得する代わりに、印刷装置290を稼働させて任意の枚数の印刷画像データを取得し、取得した印刷画像データを基に参照画像データを生成してもよい。
【0038】
本実施形態においては、平均的な濃度の変動度合いとして比較領域における平均画素値を算出したが、平均画素値の代わりに比較領域における画素値の中央値を算出してもよい。
【0039】
本実施形態においては、参照画像に対してエッジの抽出処理を行って得られるエッジ画像を用いて、比較領域の大きさを補正したが、エッジ以外の特徴を用いてもよい。例えば、比較領域における画素値の分散(ばらつき)を算出し、分散が所定の閾値以上である場合に比較領域の大きさを小さくする処理を行う。この処理を比較領域における画素値の分散が所定の閾値未満になるまで繰り返すことにより、比較領域の大きさを補正してもよい。
【0040】
本実施形態においては、比較領域の大きさを小さくすることにより、比較領域に印字領域が含まれることを抑制したが、大きさを変える代わりに比較領域の形状を変えてもよい。例えば、
図13(a)、
図13(b)、
図13(c)、
図13(d)に示すように、参照画像に対応するエッジ画像に基づいて、予め定められた複数の形状からエッジ領域を含まないように比較領域の形状を選択してもよい。また、エッジ領域を含まないように、比較領域の大きさと形状との両方を変えてもよい。
【0041】
本実施形態においては、比較領域の大きさを小さくすることにより、比較領域に印字領域が含まれることを抑制したが、大きさを変える代わりに比較領域の位置をずらしてもよい。エッジ画像におけるエッジの位置に基づいて、
図14(a)に示す比較領域を
図14(b)に示す比較領域に移動させることより、比較領域に印字領域が含まれることを抑制することができる。
【0042】
本実施形態においては、差分D(x,y)は注目画素の画素値の差分から比較領域における平均的な濃度の変動度合いを減算して算出されるが、変動度合いが所定の閾値より大きい場合に減算を行わないようにしてもよい。これにより、変動度合いが視覚的に無視できない場合に、変動度合いを欠陥として検出することができる。
【0043】
本実施形態においては、比較領域における平均的な濃度の変動度合が検査に影響を与えないように注目画素の画素値の差分から比較領域における平均画素値の差分を減算したが、減算処理の代わりにS612の検査処理に用いる閾値を補正してもよい。例えば、差分D(x,y)を注目画素の画素値の差分とし、S612における検査処理部407は所定の閾値に比較領域における平均画素値の差分を加算するなどして、閾値を平均画素値の差分より大きな値に設定するようにしてもよい。
【0044】
本実施形態における検査処理部407は、S610において差分D(x,y)を算出したが、S610を複数のステップに分けてもよい。例えば、式(2)に示すように、まず注目画素の画素値の差分を算出し、その後に注目画素の画素値の差分から比較領域における平均画素値の差分を減算してもよい。また、式(3)に示すように、まず印刷画像の注目画素の画素値から比較領域における平均画素値の差分を減算し、その後に減算の結果から参照画像の注目画素の画素値を減算してもよい。また、式(4)に示すように、まず参照画像の注目画素の画素値から比較領域における平均画素値の差分を減算し、その後に減算の結果から印刷画像の注目画素の画素値を減算してもよい。また、式(5)に示すように、まず印刷画像と参照画像とのそれぞれについて注目画素の画素値から比較領域における平均画素値を減算し、減算処理後に注目画素の画素値の差分を算出してもよい。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
本実施形態における画像読取装置205は、画像を読み取るスキャナであるが、撮像により画像データを生成する撮像装置であってもよい。
【0050】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0051】
200 画像処理装置
401 参照画像データ取得部
402 印刷画像データ取得部
404 検査情報取得部
405 比較領域設定部
406 変動度合算出部
407 検査処理部