IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】記録装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240822BHJP
   B41J 25/308 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B41J2/01 303
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J25/308 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020106404
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001413
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智仁
(72)【発明者】
【氏名】黒沼 大悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 龍太朗
(72)【発明者】
【氏名】和田 直晃
(72)【発明者】
【氏名】青木 典之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 遼平
(72)【発明者】
【氏名】長島 匡和
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏明
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-051092(JP,A)
【文献】特開2012-213856(JP,A)
【文献】特開2016-112881(JP,A)
【文献】特開2019-130740(JP,A)
【文献】特開2019-130739(JP,A)
【文献】特開2008-230069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 25/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出する複数のノズルを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドとプラテンとの距離を検知する第1検知手段と、
前記記録ヘッドと前記プラテンとの距離を調整する調整手段と、
を備えた記録装置であって、
記録媒体の搬送方向で上流側の前記ノズル及び下流側の前記ノズルと前記プラテンとの各距離の差に関する差情報を取得する取得手段を備え、
前記調整手段は、前記第1検知手段の検知結果と、前記取得手段が取得した前記差情報と、前記上流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離及び前記下流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離の平均値である距離情報とに基づいて、前記距離を調整する、記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置であって、前記差情報は、前記記録ヘッドによる記録結果に基づく情報である、記録装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の記録装置であって、
ユーザによる入力を受け付ける受付手段をさらに備え、
前記差情報は、ユーザが前記記録ヘッドによる記録結果に基づいて前記受付手段に入力した入力情報である、記録装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記記録ヘッドによる記録結果を検知する第2検知手段をさらに備え、
前記差情報は、前記第2検知手段の検知結果に基づく情報である、記録装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記差情報は、前記記録ヘッドが第1速度で移動しながら記録媒体に記録した第1パターン画像、及び、前記記録ヘッドが第2速度で移動しながら記録媒体に記録した第2パターン画像に基づく情報である、記録装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記第1検知手段の検知結果及び前記取得手段が取得した前記差情報に基づいて、前記距離情報及び前記調整手段の制御パラメータが関連付けられたデータを設定する設定手段をさらに備え、
前記調整手段は、前記設定手段により設定された前記データに基づいて、前記距離の調整を実行する、記録装置。
【請求項7】
請求項6に記載の記録装置であって、
前記差情報は、前記記録ヘッドが第1速度で移動しながら記録媒体に記録した第1パターン画像、及び、前記記録ヘッドが第2速度で移動しながら記録媒体に記録した第2パターン画像に基づく情報であり、
前記記録ヘッドは、記録媒体の前記搬送方向に交差する幅方向に互いに異なる複数の範囲に、前記第1パターン画像及び前記第2パターン画像をそれぞれ記録し、
前記設定手段は、前記複数の範囲のそれぞれの前記差情報に基づいて、前記データを設定する、記録装置。
【請求項8】
請求項に記載の記録装置であって、前記距離情報は、前記複数の範囲のそれぞれにおける、前記上流側の前記ノズル及び前記下流側の前記ノズルと前記プラテンとの各距離の、最大値及び最小値の平均値である、記録装置。
【請求項9】
請求項6ないしのいずれか1項に記載の記録装置であって、前記設定手段は、記録媒体の前記搬送方向に交差する幅方向のサイズに応じた前記検知結果及び前記差情報に基づいて、前記データを設定する、記録装置。
【請求項10】
請求項6ないしのいずれか1項に記載の記録装置であって、前記設定手段は、前記記録装置の電源がオンされたことに応じて、前記データの設定を実行する、記録装置。
【請求項11】
請求項6ないし10のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記データを記憶する記憶手段をさらに備え、
前記設定手段は、前記検知結果及び前記差情報に基づいて、前記記憶手段に予め記憶された前記データを更新する、記録装置。
【請求項12】
請求項6ないし11のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記記録ヘッドを搭載して前記搬送方向と交差する記録媒体の幅方向に往復移動可能なキャリッジをさらに備え、
前記調整手段は、前記記録ヘッドと前記プラテンとの距離を調整可能なモータを有し、
前記制御パラメータは、前記モータの回転角度に関するパラメータである、記録装置。
【請求項13】
請求項3に記載の記録装置であって、前記受付手段は、ユーザによる入力を受け付けるための情報を表示する表示部を有する、記録装置。
【請求項14】
記録媒体にインクを吐出する複数のノズルを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを搭載して前記記録媒体の搬送方向と交差する記録媒体の幅方向に往復移動可能なキャリッジと、
前記記録ヘッドとプラテンとの距離を検知する第1検知手段と、
記録媒体の前記搬送方向で上流側の前記ノズル及び下流側の前記ノズルと前記プラテンとの各距離の差に関する差情報を取得する取得手段と、
を備え、
前記第1検知手段は、前記幅方向において複数の位置で、前記上流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離及び前記下流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離を検知し、
前記取得手段は、前記複数の位置で検知した前記上流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離の最大値と、前記複数の位置で検知した前記下流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離の最小値との平均を取得することを特徴とする、記録装置。
【請求項15】
記録媒体にインクを吐出する複数のノズルを有する記録ヘッドを備えた記録装置の制御方法であって、
前記記録ヘッドとプラテンとの距離を検知する検知工程と、
前記記録ヘッドと前記プラテンとの距離を調整する調整工程と、
記録媒体の搬送方向で上流側の前記ノズル及び下流側の前記ノズルと前記プラテンとの各距離の差に関する差情報を取得する取得工程と、を含み、
前記調整工程は、前記検知工程での検知結果と、前記取得工程で取得した前記差情報と、前記上流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離及び前記下流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離の平均値である距離情報とに基づいて、前記距離を調整する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録ヘッドと記録媒体の間の距離を調整可能なインクジェット記録装置が知られている。特許文献1では、シリアル式のインクジェット記録装置において、キャリッジを昇降させる機構の駆動量と、記録ヘッド及びプラテンの間の距離との相関データに基づいて、キャリッジの高さを調整する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-112881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような記録装置では、組立誤差等により記録ヘッドがプラテンに対して相対的に傾いて設けられた場合、記録媒体の搬送方向上流側と下流側とで記録ヘッドからプラテン上の記録媒体までの距離に差が生じることがある。上記従来技術では、キャリッジの所定位置に備えられたセンサの検知結果に基づきキャリッジの高さを調整するため、記録ヘッドの上流側及び下流側と記録媒体との各距離の差は考慮されていない。しかしながら、この各距離の差はインクの着弾精度に影響し、記録画像の品質低下を招く場合がある。
【0005】
本発明は、記録ヘッドと記録媒体との間の距離を調整可能な記録装置の記録品質を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、
記録媒体にインクを吐出する複数のノズルを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドとプラテンとの距離を検知する第1検知手段と、
前記記録ヘッドと前記プラテンとの距離を調整する調整手段と、
を備えた記録装置であって、
記録媒体の搬送方向で上流側の前記ノズル及び下流側の前記ノズルと前記プラテンとの各距離の差に関する差情報を取得する取得手段を備え、
前記調整手段は、前記第1検知手段の検知結果と、前記取得手段が取得した前記差情報と、前記上流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離及び前記下流側の前記ノズルと前記プラテンとの距離の平均値である距離情報とに基づいて、前記距離を調整する、記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、記録ヘッドと記録媒体との間の距離を調整可能な記録装置の記録品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係るインクジェット記録装置の構成例を示す概略図。
図2】記録ヘッドのノズル面を示す図。
図3】記録部及びその周辺部を示した概略断面図。
図4】キャリッジの構成を示した概略断面図。
図5】(a)は、リフトカムの形状を示す概略図、(b)はリフトカムの回転角度とリフト量の関係を示す図。
図6】記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図。
図7】(a)及び(b)は、調整工具によるHP間距離の調整工程の構成を示す概略正面図及び概略側面断面図。
図8】リフトカム角度、HP間距離及びマルチセンサ受光量の関係を示す図。
図9】(a)はリフトカム角度に対するHP間距離の関係を示す図、(b)はリフトカム角度に対するマルチセンサ受光量の関係を示す図。
図10】(a)はHP間距離の測定方法を示す概略正面図、(b)はHP間距離の測定方法を示す概略側面図。
図11】工場調整時における本体ROMの保存パラメータの例を示す図。
図12】HP間距離プロファイル導出の概念図。
図13】(a)及び(b)はそれぞれ、記録装置においてマルチセンサがプラテンパッチに対して発受光を行う様子を示した概略正面図及び概略側面断面図。
図14】ユーザ使用時の調整動作を示すフローチャート。
図15】(a)及び(b)はそれぞれ、着荷後のキャリッジ周辺及びプラテン周辺の様子を示した概略正面図及び概略断面図。
図16】ユーザ先着荷時における本体ROMの保存パラメータの例を示す図。
図17】スラントがある場合のキャリッジ往動作のみによる記録結果を示す図。
図18】スラントが無く、上下流差がある場合の印字ズレを示す図。
図19】導出パターンの概略を説明する図。
図20】導出パターンの概略を説明する図。
図21】導出パターンの一例を示す説明図。
図22】導出パターン14の記録媒体への記録方法の例を説明する図。
図23】プラテン高さ固有値更新前後のHP間距離プロファイルの概念図。
図24】ユーザ使用時の調整動作を示すフローチャート。
図25】表示部の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0011】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0012】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0013】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0014】
<第1実施形態>
<インクジェット記録装置の概略>
まず、図1を参照して、一実施形態に係るインクジェット記録装置100(以下、記録装置100)の概略を説明する。図1は、一実施形態に係る記録装置100の構成例を示す概略図である。記録装置100は、記録媒体101に対してインクを吐出することに画像を記録する。本実施形態では、記録媒体101はロールシートである。しかしながら、記録媒体101としてカットシートが用いられてもよい。記録装置100は、収容部100a、操作パネル102、表示部102a、搬送ローラ103、記録部106、プラテン107、カッター108及びバスケット109を含む。
【0015】
収容部100aは、記録媒体101を収容する。操作パネル102は、ユーザからの各種入力を受け付ける。表示部102aは、例えば液晶ディスプレイであり、各種情報を表示する。なお、操作パネル102は、表示部102aとしての機能も備えたタッチパネルであってもよいし、ハードキーを含んでもよい。搬送ローラ103は、記録媒体101を搬送する。本実施形態では、搬送ローラ103は、記録媒体101をプラテン107へと搬送する。
【0016】
記録部106は、プラテン107へと搬送された記録媒体101に対して画像を記録する。記録部106は、記録ヘッド104とキャリッジ105を含む。記録ヘッド104は、記録データに基づいてノズルからインクを吐出する。キャリッジ105は、記録ヘッド104を搭載し、記録媒体101の搬送方向に交差する方向に往復移動する。記録ヘッド104がキャリッジ105により往復移動しながらインクを吐出することにより、記録媒体101に例えば文字や記号などを含む画像が形成される。以下、キャリッジ105の移動方向を主走査方向、記録媒体101の搬送方向を副走査方向という場合がある。
【0017】
プラテン107は、記録部106に対向して記録部106の下方に設けられており、搬送中の記録媒体101を支持する。一実施形態において、プラテン107は、吸引力により記録媒体101をプラテンに密着させることで記録媒体101が搬送中に浮き上がることを抑制可能な吸引プラテンであってもよい。
【0018】
カッター108は、記録後の記録媒体101をカットする。バスケット109は、カッター108によりカットされ、記録装置100の排出口から排出された記録媒体101を保持する。
【0019】
<記録部の構成>
次に、記録部106を構成する記録ヘッド104及びキャリッジ105について説明する。
【0020】
図2は、記録ヘッド104のノズル面104aを示す図である。記録ヘッド104は、異なるインクを吐出するため、1又は複数のノズル列401(吐出口列)が記録ヘッド104の下部のノズル面104aに形成されている。本実施形態では、ノズル列401K,401C,401M,401Yの4つのノズル列が設けられ、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを吐出可能である。例えば、各ノズル列は、副走査方向に1200dpi間隔で1280個の記録素子が配列されている。複数のノズル列401K,401C,401M,401Yはそれぞれ、記録媒体101の副走査方向に共通の領域にドットを記録する際に用いられる。
【0021】
図3は記録部106及びその周辺部を示した概略断面図であり、図4はキャリッジ105の構成を示した概略断面図である。
【0022】
キャリッジ105は、キャリッジベルト111を介してキャリッジモータ110の駆動力を受けることで、ガイドレールA112、ガイドレールB113に沿って往復移動可能に構成される。
【0023】
また、キャリッジ105には、複数の計測機能を有する光学式のマルチセンサ122が搭載されている。マルチセンサ122は、発光素子及び受光素子などの光学部品を含んで構成され得る。本実施形態では、このマルチセンサ122により、記録媒体101の端部の位置や記録ヘッド104から記録媒体101までの距離、後述するプラテンパッチ149等からの情報等を光学的に検知する。
【0024】
プラテン107には、記録ヘッド104に対向する位置に複数のプラテンパッチ149が設けられている。複数のプラテンパッチ149は、例えば、後述するようにプラテン107に対して測定を行う箇所の近傍に設けられてもよい。一例として、プラテンパッチ149は、具体的にはプラテン107に凹部を設け、その底面に配置される。
【0025】
<記録ヘッドの昇降動作>
次に、記録ヘッド104とプラテン107との間の距離(以下、HP間距離)を調整する記録ヘッド104の昇降動作について説明する。本実施形態では、リフトカム117及びリフトカム117を駆動するリフトモータ121を含む調整部12が設けられている。そして、調整部12がキャリッジ105を介して記録ヘッド104を昇降させることにより、記録媒体101の種類、厚みや記録モード等の所定条件に応じてHP間距離を調整可能に構成されている。なお、記録ヘッド104が吐出するインクの着弾精度に影響するのは記録ヘッド104-記録媒体101間の距離である。しかし、記録ヘッド104-記録媒体101間の距離はHP間距離から記録媒体101の厚みを除いた距離のため、HP間距離を調整することにより実質的に記録ヘッド104-記録媒体101間の距離を調整可能である。
【0026】
キャリッジ105は、記録ヘッド104を搭載するメインキャリッジ114と、キャリッジベルト111と連結するリアキャリッジ115とを含み、これらがリフトシャフト116及びリフトカム117の外周部を介して連結している。また、リフトシャフト116の片端部にはリフトカップリング118が設けられている。リフトカップリング118は、キャリッジ105がガイドレールA112に沿って右端部(X軸方向-側端部)に移動した際に、記録装置筺体119に設けられた駆動側カップリング120に連結される。駆動側カップリング120はリフトモータ121と連結している。リフトカップリング118と駆動側カップリング120とが連結した状態でリフトモータ121がCW方向に回転することにより、リフトカップリング118及びそれに連結されたリフトシャフト116、リフトカム117が共に回転する。
【0027】
図5(a)は、リフトカム117の形状を示す概略図、図5(b)はリフトカム117の回転角度とリフト量の関係を示す図である。
【0028】
リフトカム117は、その外周がリフトシャフト116に対して偏芯した滑らかな円弧状の形状を有しており、リアキャリッジ115に設けられたカム支持面に支持される。この構成により、リフトカム117がリフトモータ121により回転すると、その偏芯量に応じてカム支持面とリフトシャフト116が接近又は離間するので、リアキャリッジ115に対するメインキャリッジ114の相対高さが変化する。これにより、記録ヘッド104とプラテン107との距離も変化する。この点で言えば、リフトモータ121は、リフトカム117及びメインキャリッジ114を介して記録ヘッド104とプラテン107との距離を調整可能なモータである。
【0029】
また、図5(b)に示すように、リフトカム117の形状は、リフト使用区間の回転角度領域において、CW方向(時計回り方向)に回転した際に偏芯量が増加するように構成されている。このため、リフトカム117の角度を制御してリフトカム117を所定の角度で停止させ、その角度を維持することができれば、記録ヘッド104の高さを自在に制御することができる。
【0030】
ここで、リフトカム117の外周とカム支持面は常に角度をもつように構成されているため、リフトカム117が所定の回転角度で停止しても、外部から振動等が加わった場合にその回転角度を維持できず回転してしまうことがある。このため、リフトシャフト116にはワンウェイクラッチ148が取り付けられており、リフトシャフト116が一方向(CW方向)にしか回らない構成になっている。
【0031】
このように構成することで、リフト使用区間においては、リフトカム117がある回転角度で停止した状態からのCW方向への回転は、リフトカム117の偏芯量が増加する方向への回転となる。このため、リフトカム117が停止状態から回転する為にはメインキャリッジ114を上昇させるだけのトルクが必要になり、モータ等の駆動力がないと回転できなくなる。また、CCW方向(反時計回り方向)への回転はワンウェイクラッチが148により阻止される。このように構成することで、外周が滑らかなリフトカム117でも外部からの振動等によるリフトシャフト116の回転を阻止することができる。
【0032】
次にリフトカム117の角度制御について説明する。図4に示すように、リフトカム117には、カム回転時の位相(回転角度)がわかるようにリフトカム117の回転に伴い変位するフラグ134が設けられている。リアキャリッジ115側に設けられたフォトセンサ135の発光素子の光をフラグ134が遮光する時(ON時)、あるいは、遮光から透過に変化する時(OFF時)がリフトカム117の起点となる。
【0033】
リフトカム117の角度制御はこのON、あるいはOFFのタイミングを起点、すなわち0度として、リフトモータ121を任意の量、回転駆動することにより行われる。例えば、リフトモータ121はその内部に光学式エンコーダを搭載し、高解像度でその回転角度が検知されてもよい。そして、リフトモータ121の回転角度に基づいてリフトカム117の回転角度が取得されてもよい。なお、リフトカム117の起点やリフトモータの回転角度の検知には、周知の技術を適宜採用可能である。
【0034】
<制御構成>
図6は、一実施形態における記録装置100の制御系の概略構成を示すブロック図である。本実施形態では、記録装置100は、本体制御基板131と、キャリッジ制御基板132とを含む。本体制御基板131は、CPU124、本体ROM、本体RAM126、本体上ヘッド駆動回路127、キャリッジモータ駆動回路128、及び、本体接続ポート150を含む。また、キャリッジ制御基板132は、キャリッジROM129及びキャリッジ接続ポート144を含む。
【0035】
CPU124は、本体ROM125内に格納された制御プログラム及び本体RAM126に格納された種々のデータなどに基づいて、記録装置100の各部の動作を統括的に制御する。本体ROM125は、CPU124が実行するプログラムや各種情報を記憶する。本体RAM126は、CPU124の作業領域として機能する。本体上ヘッド駆動回路127は、記録ヘッド104のインク吐出を制御する。キャリッジモータ駆動回路128は、キャリッジモータ110の駆動を制御する。CPU124は、本体ROM125、本体RAM126、本体上ヘッド駆動回路127、キャリッジモータ駆動回路128、及び、その他の各種モータの駆動回路(不図示)等と信号の授受を行うことで各種動作を制御する。
【0036】
キャリッジROM129には、キャリッジ105に関する各種パラメータ等のデータが記憶されている。本体制御基板131はキャリッジ制御基板132に接続されており、CPU124はキャリッジ制御基板132上のキャリッジROM129のデータの読み出し、書き込みなどの処理を実行可能である。また、キャリッジ接続ポート144は、外部と電気的に接続することでキャリッジ制御基板132に電源を供給する。キャリッジ接続ポート144から電源が供給されることにより、キャリッジROM129のデータを書き換え可能な構成となっている。
【0037】
また、キャリッジ制御基板132には、記録ヘッド104に関する各種パラメータ等のデータが記憶されている記録ヘッドROM123や、マルチセンサ122の検知結果等のデータが記憶されているマルチセンサROM130が接続されている。本体制御基板131上のCPU124は、キャリッジ制御基板132を介してこれらのROMのデータの読み出し、書き込みなどの制御を実行することができる。
【0038】
また、本体制御基板131上には本体接続ポート150が設けられており、外部と電気的に接続することで本体制御基板131に電源を供給する。本体接続ポート150から電源が供給されることにより、本体ROM125や本体RAM126のデータを書き換え可能な構成となっている。
【0039】
<記録ヘッド-プラテン間の距離調整>
次に、工場などの生産現場において行われる記録装置100のHP間距離の各調整工程の詳細を説明する。本実施形態では、調整工程として、(1)生産現場における調整工具による調整工程、(2)生産現場における記録装置100本体による調整工程及び(3)ユーザ使用時の調整工程が含まれる。
【0040】
<(1)生産現場における調整工具による調整工程>
図7(a)及び図7(b)は、調整工具136によるHP間距離の調整工程の構成を示す概略正面図及び概略側面断面図をそれぞれ示している。調整工具136は、記録装置100のキャリッジ105の支持構成を模した工具である。以下、記録装置100の構成部品に相当するものに対して「ダミーXXX」という名称を付す(例えばダミーガイドレールA138はガイドレールA112に相当する)。
【0041】
キャリッジ調整工具136は、工具フレーム137、ダミーガイドレールA138及びダミーガイドレールB139を有し、記録装置100のガイドレールA112とガイドレールB113と同様にキャリッジ105を支持する。キャリッジ105に対向する位置にはプラテン107に代わりダミープラテン140が設けられており、マルチセンサ122と対向する位置にはダミーパッチ141が設けられている。
【0042】
ダミーガイドレールA138、及びダミーガイドレールB139は、Z方向の相対位置関係が、記録装置100のガイドレールA112、ガイドレールB113の設計上の中心寸法と等しくなるように作成されている。また、これらの外形寸法も同様に設計上の中心寸法で作成されている。またダミープラテン140及びダミーパッチ141についてもダミーガイドレールA138及びダミーガイドレールB139に対してZ方向の相対関係が記録装置100の設計上の中心寸法と等しくなるように製作されている。
【0043】
また、工具フレーム137には工具モータ143に接続された工具カップリング142が設けられており、工具モータ143はキャリッジ105のリフトカップリング118と連結し回転可能に構成されている。
【0044】
また工具フレーム137には制御装置147が設けられており、工具モータ143への電源供給および回転量の制御を行っている。また制御装置147はキャリッジ制御基板132のキャリッジ接続ポート144に接続することでキャリッジROM129やキャリッジRAM(不図示)に対して読み出し、書き込み、書き換えが可能である。またキャリッジ制御基板132を介してフォトセンサ135へも電源供給を行い、センサの検知結果も読み出し可能な構成となっている。
【0045】
また、キャリッジ調整工具136にセットされたキャリッジ105には、記録ヘッド104の代わりにダミーヘッド145が搭載されている。ダミーヘッド145は、その外形が記録ヘッド104の中心寸法と等しく形成されるとともに、その下部には距離測定センサ146が設けられている。
【0046】
距離測定センサ146は、上流側距離測定センサ146a及び下流側距離測定センサ146bを含む。上流側距離測定センサ146aは、記録ヘッド104のノズル列401の上流側端部に相当する位置においてダミープラテン140までの距離を測定する。下流側距離測定センサ146bは、ノズル列401の下流側端部に相当する位置においてダミープラテン140までの距離を測定する。これらにより記録ヘッド104の吐出口に相当する位置からダミープラテン140までの距離を測定することができる。以下の説明において、上流側距離測定センサ146aで測定される距離を「上流側HP間距離」、下流側距離測定センサ146bで測定される距離を「下流側HP間距離」とそれぞれ呼ぶ。なお、HP間距離は、上流側HP間距離と下流側HP間距離の平均値であり得る。また記録装置100における記録ヘッド104のノズル面104aからプラテン107までの距離も同様の名称で呼ぶ。
【0047】
なお、HP間距離は、ノズル面104aから記録媒体101までの距離から記録媒体101の厚さを差し引いたものである。したがって、HP間距離を設計値に近づけることで、ノズル面104aから記録媒体101までの距離も設計値に近づくといえる。
【0048】
次に、キャリッジ調整工具136によるキャリッジ105の具体的な調整動作について説明する。
【0049】
まず、制御装置147により工具モータ143を回転させる。工具モータ143の回転駆動力は工具カップリング142を介してキャリッジ105に搭載されたリフトカム117を回転させ、これによりメインキャリッジ114が昇降する。この過程において、フラグ134がフォトセンサ135を遮る瞬間を制御装置147で検知し、そのときのリフトカム角度を0°と設定する。また、リフトカム角度が0°の場合における距離測定センサ146の検知結果とマルチセンサ122の受光量の各々の値を関連づけてキャリッジROM129に記憶する。
【0050】
次に、この0°からさらにリフトカム117を回していき、所定の角度ごとに、例えば10°おきに、同じく距離測定センサ146の値とマルチセンサ122の受光量の各々の値と上記角度の関係を関連づけてキャリッジROM129に記憶していく。図8は、リフトカム角度、HP間距離及びマルチセンサ受光量の関係を示す図である。このような動作と制御により、図8で示すようにリフトカム117の角度に対してHP間距離とマルチセンサ受光量との相関データを生成し、そのデータをキャリッジROM129に記憶することができる。
【0051】
次に、制御装置147は、記憶された図8に示すデータについて、各角度間を線形補間等で補間する。これにより、図9(a)で示すようにリフトカム角度に対するHP間距離の関係(=以後「リフトカムプロファイル」と呼ぶ)と、図9(b)で示すようにリフトカム角度-マルチセンサ受光量の関係とを取得することができる。例えば、制御装置147は、リフトカムプロファイル及びリフトカム角度-マルチセンサ受光量の関係をキャリッジROMに記憶する。ある側面から見れば、「リフトカムプロファイル」は、記録ヘッド104とプラテン107との距離情報及び調整部12の制御パラメータが関連付けられたデータである。
【0052】
このように、キャリッジ105毎にリフトカムプロファイルを有することにより、記録ヘッド104の高さ、換言すればHP間距離を任意に調整可能になる。例えば、記録装置100に搭載されたキャリッジ105は、HP間距離4.0mmのヘッド高さへ移動する制御指令を受けたとする。CPU124は、キャリッジROM129からリフトカムプロファイルを読み出し、HP間距離が4.0mmになるリフトカム角度(30°)となるようリフトモータ121を制御する。リフトカム角度は、キャリッジ調整工具136における実測に基づくHP間距離と関連付けられたものであるため、部品公差や組立誤差も含んだ高精度なものといえる。また、HP間距離とリフトカム角度の関係はキャリッジ調整工具136によってキャリッジ105ごとに定められる。よって、部品公差や組立誤差の違いにより、HP間距離4.0mmに対応するリフトカム角度は、29°であったり、31°であったりと、キャリッジ105毎に合わせた最適値となる。
【0053】
<(2)生産現場における記録装置本体による調整工程>
次に、キャリッジ調整工具136にて調整されたキャリッジ105を、記録装置100に搭載した後に記録ヘッド104と記録媒体101との間隔が任意の範囲に収まるように、HP間距離を調整する方法について示す。図10(a)はHP間距離の測定方法を示す概略正面図、図10(b)はHP間距離の測定方法を示す概略側面図である。
【0054】
まず、調整工具による調整工程でリフトカムプロファイルがキャリッジROM129に記憶されたキャリッジ105を記録装置100に取り付ける。次に、調整工具による調整工程で使用したダミーヘッド145を搭載する。この状態で、キャリッジ105のリフトカム回転角度を、リフトカムプロファイルにおける所定のHP間距離(以下、「理想距離H」と呼ぶ)になる理想角度θだけ回転させる。本実施形態では、理想距離Hを4.0mmとし、そのときのリフトカム回転角度を理想角度θ=30°として説明する。リフトカム117をθだけ回転させた状態で、ダミーヘッド145を搭載したキャリッジ105を主走査方向に所定の複数の位置X(n)に移動させ、それぞれの位置における上流側HP間距離Hu(n)及び下流側HP間距離Hd(n)、を測定する。図では、n=1~3の場合について示しているが、測定する位置の数は適宜設定可能である。
【0055】
なお、本実施形態では、X(n)は、図10(a)におけるX方向右側において、記録装置100に設置された不図示のガイド部材に記録媒体101の一端が沿って搬送される場合の、その記録媒体101の端部位置を0とした座標を示す。例えば、X(1)=500mmの場合、X(1)は記録媒体101の端部から主走査方向に500mmの位置(=座標)を表す。なお、本実施形態ではX(1)=500、X(2)=1000、X(3)=1500として、以下の説明を行うが、X(n)の値は適宜設定可能である。
【0056】
図11は、工場調整時における本体ROM125の保存パラメータの例を示す図である。CPU124は、図11に示されるように、X(n)に対するHu(n)及びHd(n)の値を関連づけて本体ROM125に保存する。
【0057】
また、CPU124は、Hu(n)及びHd(n)に基づきHP中間距離Hmを算出する。本実施形態では、HP中間距離Hmは、Hu(n)及びHd(n)の最大値と最小値の和の半分、すなわちHu(n)及びHd(n)の最大値と最小値の平均の距離である。図11の例で言えば、Hu(n)及びHd(n)の最大値は4.6mm、最小値は3.8mmなのでHP中間距離Hmは4.2mmとなる。つまり、このキャリッジ105とこの記録装置100の組み合わせでは、理想距離H=4.0mmに対して平均して0.2mm広いHP間距離になっている。この記録装置100で測定したHP中間距離Hmと理想距離Hの差は、キャリッジ105を除いたプラテン107やガイドレールA112、ガイドレールB113等の本体部品を組み立てることで生じる装置固有の差である。以下、この差をプラテン高さ固有値Pbと呼ぶ。調整工具によるHP間距離測定時には同じキャリッジ105を使用しているため、この固有値Pbは記録装置100の本体側(キャリッジ105以外の構成)に依存するものである。プラテン高さ固有値Pbは、記録装置100の本体制御基板131上の本体ROM125に記憶される。
【0058】
なお、HP中間距離Hmの算出方法は例示であって、他の方法も採用可能である。例えば、測定されたHu(n)及びHd(n)のすべての値の平均を、HP中間距離Hmとしてもよい。
【0059】
次に、CPU124は、キャリッジROM129に記憶されたリフトカムプロファイルと、本体ROM125に記憶されたプラテン高さ固有値Pbとを読み出す。この時点では、HP中間距離Hmは、設計値よりプラテン高さ固有値Pb分広くなっている。よって、広くなっているHP間距離の分だけリフトカムプロファイルをオフセットすることで、HP間距離が設計値になるようなリフトカム角度をθ’として新たに導出する。
【0060】
このリフトカム角度θ’の導出について図12を用いて具体的に説明する。図12は、HP間距離プロファイル導出の概念図である。例えば、このリフトカムプロファイルでは、HP間距離が4.0mmの場合のリフトカム角度は30°である。ここで、この記録装置100のプラテン高さ固有値Pbが0.2mmなので、リフトカム角度30°の場合、この記録装置100の実際のHP中間距離Hmは4.2mmとなる。同様に、この記録装置100では他のリフトカム角度においても実際のHP中間距離Hmがリフトカムプロファイルの値に対して常に0.2mmオフセットされる。このため、この記録装置100でHP間距離を4.0mmにしたい場合、リフトカムプロファイルでHP間距離3.8mmとなるリフトカム角度23°にする必要がある。換言すれば、この記録装置100では、HP間距離を4.0mmにしたい場合、制御上のリフトカム角度を、理想角度θ=30°に対してθ’=23°にオフセットする必要がある。
【0061】
このように、リフトカムプロファイルのHP間距離をプラテン高さ固有値Pb分オフセットすることで、この記録装置100に合わせたHP間距離とリフトカム角度θ’の新しい相関プロファイルができる。これをHP間距離プロファイルと呼ぶ。このHP間距離プロファイルを用いてリフトカム117を回転駆動させることにより、HP間距離を設計値どおりに調整することができる。つまり、この工程を実施することにより、記録装置100の本体側の部品公差や組立誤差で生じるHP間距離誤差をキャンセルすることができる。CPU124は、以上のプラテン高さ固有値Pb、及びそれによりオフセットされた工場調整後の上流側HP間距離Hu(n)’及び工場調整後の下流側HP間距離Hd(n)’の情報を本体ROM125に保存する。
【0062】
次に、マルチセンサ122によるプラテンパッチ149の測定を行う。図13(a)、図13(b)はそれぞれ、記録装置100においてマルチセンサ122がプラテンパッチ149に対して発受光を行う様子を示した概略正面図及び概略側面断面図である。まず、キャリッジ105からダミーヘッド145を外し、記録ヘッド104をキャリッジ105に搭載する。そしてリフトカム117を、角度θ’だけ回転させる。次に、キャリッジ105を主走査方向に移動させ、プラテン107に設けられたプラテンパッチ149に対してマルチセンサ122が発受光できる位置で停止し、発受光を行う。なお、この停止位置は上述したX(1),X(2),X(3)と必ずしも同一である必要は無いが、本実施形態では同一の場合について以下説明する。
【0063】
図11に示すように、CPU124は、プラテンパッチ149a,149b,149cのそれぞれに対するマルチセンサ122の受光量b1,b2,b3を、他のパラメータと関連付けて本体ROM125に保存する。
【0064】
また、CPU124は、図13(b)に示すように、副走査方向においてマルチセンサ122の設置位置と同じ位置となる記録ヘッド吐出口からプラテンまでの距離Hs(n)(n=1,2,3)を算出し、図11のように本体ROM125に保存する。この算出は、副走査方向においてあらかじめ設計値として本体ROM125に記憶されている、最上流側吐出口401aからマルチセンサ122の設置位置までの距離L1と、最上流側吐出口401aから最下流側吐出口の位置401bまでの距離L2を用いる。すなわち、既出の上流側HP間距離Hu(n)’及び下流側HP間距離Hd(n)’を用いればHs(n)は次式で表すことができる。
【0065】
Hs(n)=(L2×Hu(n) ’+L1×Hd(n) ’―L1×Hu(n) ’)/L2 式(1)
具体的な数値例を用いてHs(1)の算出を示すと、L1=0.2mm、L2=2mmとすれば
Hs(1)=(2×3.8+0.2×3.9)-0.2×3.8)/2=3.81mm 式(2)
となる。CPU124は、同様の算出をHs(2),Hs(3)に対しても行い、これらの値を本体ROM125に記憶する。以上までが工場などの生産現場において行われる記録装置の各種調整工程である。これらの工程により、記録装置100生産現場から出荷される際には、図11に示す各パラメータが本体ROM125に記憶された状態となる。
【0066】
<(3)ユーザ使用時の調整工程>
次に、記録装置100がユーザのもとに着荷した際に行う調整動作について説明する。図14はユーザ使用時の調整動作を示すフローチャートであり、製品の搬送等により変動したHP間距離に対して補正を行う処理の例を示す。例えば、本フローチャートは、記録装置100がユーザのもとに着荷した後に記録装置100の電源がオンされたことに基づいて開始する。また、図15(a)及び図15(b)はそれぞれ、着荷後のキャリッジ105周辺及びプラテン107周辺の様子を示した概略正面図、及び概略断面図である。
【0067】
記録装置100が工場などの生産現場からユーザのもとに到着するまでの間には、搬送時の振動や衝撃等の影響で、HP間距離が変動してしまう場合がある。以下では、HP間距離が変動してしまった場合の調整動作を説明する。
【0068】
(S0~S5:マルチセンサ122の設置位置におけるHP間距離Hs(n)’の取得)
S0で、CPU124は、記録装置100の電源がオンされたことに基づき装置を起動する。S1で、CPU124は、リフトモータ121を制御してリフトカム117を角度θ’分回転させる。本実施形態では、θ’は、工場調整時に取得された23°である。S2で、CPU124は、キャリッジモータ駆動回路128によりキャリッジ105を移動させ、S3で、CPU124は、マルチセンサ122により、X1,X2,X3の位置でプラテンパッチ149a,149b,149cに対してそれぞれ発受光を行う。なお、本実施形態では、記録媒体101の端部を検知するマルチセンサ122によりプラテンパッチ149a,149b,149cに対して発受光を行うが、マルチセンサ122とは別に設けたセンサが用いられてもよい。
【0069】
S4で、CPU124は、S3でマルチセンサ122が検知したそれぞれの受光量b’1,b’2,b’3と、本体ROM125に記憶されている工場調整時の受光量b1,b2,b3同士を比較して、それぞれの受光量の差を取得する。つまりCPU124は、「b’1-b1」、「b’2-b2」、「b’3-b3」を取得する。この受光量の差は、図8に示されるようなセンサ受光量とHP間距離の関係を用いればHP間距離の差に置き換えることができる。具体的には、CPU124は、本体ROM125に記憶されているHs(n)に対して、受光量の差に基づくHP間距離の差に対応する値を加える演算を行う。これにより、副走査方向でマルチセンサ122の設置位置と同じ位置における、物流後(ユーザのもとに着荷した後)のノズル面104aからプラテンまでの距離Hs(n)’が求まる。
【0070】
なお、本実施形態では、本体ROM125に記憶されている工場調整時の受光量と今回検知した受光量の差、及びHs(n)に基づいて距離Hs(n)’を求めている。しかしながら、CPU124は、図11に示す受光量b1~b3とセンサ位置HP間距離Hs(n)との関係を線形補間する等により受光量とセンサ位置HP間距離Hs(n)との相関データを求めてもよい。そして、CPU124は、この相関データとS2での受光量b’1,b’2,b’3により、センサ位置HP間距離Hs(n)’を算出してもよい。すなわち、CPU124は、受光量b1~b3とb‘1~b’3との差を取らずに、マルチセンサ122の検知結果に基づいて直接的にセンサ位置HP間距離Hs(n)’を取得してもよい。
【0071】
S5で、CPU124は、求めた距離Hs(n)’を他のパラメータに関連付けて本体ROM125に記憶する。図16に、ユーザ先着荷時における本体ROM125の保存パラメータを示す。
【0072】
(S6~S13:上流側HP間距離Hu(n)’’及び下流側HP間距離Hd(n)’’の取得)
次に、図15(b)に示すように物流後の上流側HP間距離Hu(n)’’及び下流側HP間距離Hd(n)’’を求めるため、これらの差となる物流後の記録ヘッド104-記録媒体101間距離の上下流差ΔQを導出する方法について説明する。この上下流差ΔQの導出は、記録ヘッド104の上流側ノズルが吐出するインクと下流側ノズルが吐出するインクによる記録結果に基づいて行われる。また、本実施形態では、記録媒体101に対して、後述する導出パターン14(パターン画像)の記録結果を用いて上下流差ΔQが導出される。
【0073】
まず、導出パターン14を構成するにあたり基本的な考え方となる、キャリッジ105の傾き及び上下流差ΔQの記録への影響について図17図18を用いて説明する。
【0074】
図17は、上下流差ΔQが無く、記録ヘッドノズル列のノズル面内での記録媒体搬送方向に対する傾き(以下、スラントと呼ぶ)がある場合のキャリッジ往動作のみ(以下片方向記録と呼ぶ)による記録結果を示したものである。片方向記録の繰り返しにより、罫線13のつなぎ目にはスラントによる印字ズレΔxθが記録画像として現れる。このΔxθは記録ヘッド104の副走査方向上流側ノズルと下流側ノズルが主走査方向にずれた量そのものである。
【0075】
図18は、スラントが無く、上下流差ΔQがある場合の印字ズレΔxhを示したものである。記録ヘッド104-記録媒体101の上流側距離をHu、記録ヘッド104-記録媒体101の下流側距離をHd、上下流差をΔQ、キャリッジ105の走査速度をVc、インクの吐出速度をViとする。この場合、記録ヘッド104の上流側ノズルから吐出されたインクと下流側ノズルから吐出されたインクでは下記の式よりΔxhの印字ズレが生じる。
【0076】
ΔQ=Hu-Hd 式(3)
Δxh=ΔQ/Vi×Vc 式(4)
すなわち罫線13のつなぎ目には上下流差ΔQによる印字ズレΔxhが記録画像として現れる。例として、Hu=1mm、Hd=1.3mm、Vc=2000mm/s、Vi=10000mm/sとすると、キャリッジ105が片方向記録する場合のΔxhは、
Δxh=(1-1.3)/10000×2000
=-0.06mm
=-60μm 式(5)
となる。このとき、図18で示すように上流側ノズルの印刷位置に対して下流側ノズルの印刷位置が右側(X軸-方向)に60μmずれたような状態となる。
【0077】
以上説明したように、スラント及び上下流差ΔQがある場合に片方向記録を行った場合、スラントによるΔxθと上下流差ΔQによるΔxhが足し合わされ、ズレΔxとして記録画像に現れることになる。このΔxを罫線ずれと呼び、本実施形態では、2つのキャリッジ速度で導出パターン14を記録媒体101に記録し、記録画像に現れた罫線ずれΔxの量を用いることにより、上下流差ΔQを取得する。
【0078】
この導出パターン14について図19図20を用いて説明する。図19は、導出パターン14の概略を説明する図であって、罫線ずれが発生してない状態を示している。図20は、導出パターン14の概略を説明図であって、罫線ずれが発生している状態を示している。
【0079】
この導出パターン14は、11種類の罫線の組み合わせで構成されており、右側を+方向、左側を-方向として、-5、-4、-3、-2、-1、±0、+1、+2、+3、+4、+5と数値が振られている。導出パターン14の下半分の罫線は1回目のキャリッジ105の走査で記録媒体搬送方向の上流側ノズルを使って記録する。また上半分の罫線は2回目のキャリッジ105の走査で記録媒体搬送方向の下流側ノズルを使って記録する。キャリッジ105の双方向での印字ズレを防止するため、往方向のみで導出パターン14の記録を行う。
【0080】
この導出パターン14では、下半分の罫線の間隔よりも上半分の罫線の間隔の方が20μm広く設定されている。したがって、図19の例で見ると、上半分の罫線は0から右に行くにしたがって20μmずつ主走査方向の右側にずれて記録されている。また、上半分の罫線は0から左に行くにしたがって20μmずつ主走査方向の左側にずれて記録されている。つまり、上半分の罫線は、左側を-(負)、右側を+(正)として、±0の位置に対して-5は-100μm、+5は+100μmずれた位置に記録されている。また、印字ズレが無い場合には±0の位置で上半分の罫線と下半分の罫線とが一致するようになっている。このように段階的にずらして上下の罫線が記録されるため、実際の記録結果の上側半分と下側半分の罫線が一致したところが印字ズレΔxを表している。例えば、導出パターン14を印字して図19のように罫線が一致した位置が0だった場合、罫線ズレ量Δx=0μmとなり、図20のように罫線が一致した位置が+3だった場合、罫線ズレ量Δx=60μmということになる。このように、導出パターン14から、罫線ズレ量Δxが取得される。
【0081】
次に、この導出パターン14を用いた上流側HP間距離Hu(n)’’及び下流側HP間距離Hd(n)’’の処理フローについて図14図15及び図21を用いて説明する。図21は、導出パターン14の一例を示す説明図である。
【0082】
S6で、CPU124は、例えば搬送用のローラを駆動して記録媒体101の給紙を実行させる。S7で、CPU124は、キャリッジ105をキャリッジ速度Vc1で移動させながら記録ヘッド104により第一導出パターン16を記録する。続けて、S8で、CPU124は、キャリッジ105をキャリッジ速度Vc1と異なるキャリッジ速度Vc2で移送させながら記録ヘッド104により第二導出パターン17を記録する。
【0083】
次に、S9で、CPU124は、上流側ノズル及び下流側ノズルとプラテン107との各距離の差に関する差情報を取得する。具体的には、CPU124は、ユーザによる、罫線が一致しているポイントの入力を受け付ける。つまり、本実施形態では、差情報は、罫線が一致しているポイントについての情報である。例えば、ユーザは、各導出パターンの罫線が一致しているポイントを選び、操作パネル102で入力する。この罫線が一致しているポイントはユーザが記録ヘッド104による記録結果を見て入力するものであるため、差情報は記録ヘッド104の記録結果に基づく情報であるといえる。図25は、各導出パターンの罫線が一致しているポイントをユーザが入力する際の表示部102aの表示例を示す図である。本実施形態では、操作パネル102が、ユーザの入力情報の受付部として機能する。CPU124は、操作パネル102により、導出パターン16及び導出パターン17の両方の入力を受け付ける。図21の例では、ユーザは、導出パターン16については+2を、導出パターン17については+4を、それぞれ入力する。なお、ユーザの入力情報の受付態様はこれに限られない。例えば、CPU124は、不図示の通信インタフェースを介して、ホストPCや、スマートフォン、タブレット等の情報処理端末から情報を受信することにより、入力情報を受け付けてもよい。
【0084】
上述のように、ユーザにより入力されたポイントが、それぞれのキャリッジ速度Vc1、Vc2での印字ズレの量Δx1、Δx2を表している。このときスラントによる印字ズレをΔxθ、紙間上下流差をΔQ、インクの吐出速度をViとすると、それぞれのキャリッジ速度における印字ズレ量Δx1、Δx2は
Δx1=Δxθ+ΔQ/Vi×Vc1 式(6)
Δx2=Δxθ+ΔQ/Vi×Vc2 式(7)
と表すことができる。印字ズレ量Δx1、Δx2が導出パターン記録結果により求められたため、ΔQは、
ΔQ=(Δx1-Δx2)×Vi/(Vc1-Vc2) 式(8)
で導出することができる。S10で、CPU124は、式(6)~式(8)により記録装置100の上下流差ΔQを算出する。このように、CPU124は、ユーザからの入力を受け付けることにより取得した差情報に基づいて、印字ズレ量Δx1、Δx2から上下流差ΔQを算出することができる。
【0085】
図22は、導出パターン14の記録媒体101への記録方法の例を説明する図である。なお、本実施形態では、図22に示すように、この導出パターン14を、プラテンパッチ149a,149b,149cに対応するように、これらの近傍の3か所に記録媒体101に対して記録する。すなわち、記録ヘッド104主走査方向(幅方向)に互いに異なる複数の範囲にそれぞれ、上下2パターンのパターン画像を異なる搬送速度で記録する。そして、ユーザは、それぞれの導出パターン14に対して上下2パターンずつ、合計6回の入力を行う。これにより、先に求めたHs(n)’のそれぞれの測定位置近傍に対応した上下流差ΔQ(n) (n=1,2,3)が導出される。
【0086】
上下流差ΔQ(n)の算出の具体例として、プラテンパッチ149a近傍に記録されたパターンに対してΔQ(1)を求める場合について説明する。Vc1=300mm/s、Vc2=2600mm/s、Vi=10000mm/sとして、Vc1で印字した第一導出パターン16の罫線が合う位置を+2、Vc2で印字した第二導出パターン17の罫線が合う位置を+4だった場合、紙間上下流差ΔQ(1)は
ΔQ(1)=(0.04-0.08)×10000/(300-2600)
=(0.08×300-0.04×2600)/(300-2600)
≒0.17(mm)
=170(μm)) 式(9)
となる。
【0087】
S11で、CPU124は、導出されたΔQ(n) (n=1,2,3)を他のパラメータと関連付けで本体ROM125に記憶する(図16参照)。
【0088】
S12で、CPU124は、上記で得られた上下流差ΔQ(n)を用いて、物流後の上流側HP間距離Hu(n)’’及び下流側HP間距離Hd(n)’’を求める。また、S13で、CPU124は、求めたそれぞれの値を図16に示すように他のパラメータと関連付けで本体ROM125に記憶する。CPU124は、具体的には、図14に示す関係から上流側HP間距離Hu(n)’’及び下流側HP間距離Hd(n)’’を次式で求める。
【0089】
Hu(n)’ ’=L1×ΔQ(n)/L2+Hs(n)’ 式(10)
Hd(n)’ ’= Hu(n)’ ’― ΔQ(n) 式(11)
例えばHu(1)’’、Hd(1)’’を求める例を示すと、先述したようにL1=0.2mm、L2=2mmなので
Hu(1)’’=0.2×0.17/2+3.22≒3.24mm 式(12)
Hd(1)’’=3.24-0.17=3.07mm 式(13)
となる。Hu(2)’’、Hd(2)’’、Hu(3)’’、Hd(3)’’も同様に求めることができる。
【0090】
(S14~S15:物流後HP中間距離Hm’、プラテン高さ固有値Pb’を演算)
S14で、CPU124は、Hd(n)’’及びHu(n)’’の最大値と最小値の和の半分の距離を物流後中間距離Hm’として求め、理想距離Hに対する物流後のプラテン高さ固有値Pb’を得る。
【0091】
本実施形態では、中間距離Hm’(θ’)=(3.8+2.95)/2=3.375である。これは、リフトカム回転角度θ’=23°における距離である。よって、リフトカム回転角度θ=30°における中間距離Hm’(θ)は、リフトカムプロファイルの傾きを考慮すると、図12より中間距離Hm’(θ)=3.375+0.2=3.575となる。よって、物流後のプラテン高さ固有値Pb’は、Pb’=3.575-4=-0.425となる。また、CPU124は、算出したプラテン高さ固有値Pb’を本体ROM125に保存する。
【0092】
S15で、CPU124は、HP間距離プロファイルを更新し、最終的に新たなHP間距離プロファイルを作成して本体にROM125に記憶させる。図23は、記録装置100がユーザのもとに着荷した後(物流後)のプラテン高さ固有値更新前後のHP間距離プロファイルの概念図である。リフトカムプロファイルをプラテン高さ固有値Pb’分だけ下側にオフセットすることにより、データ上のリフトカム角度に対するHP間距離を実際のHP間距離と一致させることができる。
【0093】
(S16:調整部によるHP間距離の調整)
S16で、CPU124は、記録ヘッド104とプラテン107との距離を調整する。具体的には、CPU124は、リフトモータ121によりリフトカム117を回転させる。さらに言えば、CPU124は、S15で記憶したHP間距離プロファイルに基づいて、HP間距離が設計値になるように、調整部12によりHP間距離の調整を実行する。以上により、ユーザ先に着荷した際に行うHP間距離の調整動作が完了する。
【0094】
以上説明したように、本実施形態によれば、ユーザのもとへ着荷した後のHP間距離プロファイルの設定を、マルチセンサ122の検知結果、及び上流側ノズル及び下流側ノズルとプラテン107の各距離の差に関する差情報に基づいて行う。したがって、上下流差ΔQに起因したインクの着弾精度の低下を抑制でき、記録ヘッド104と記録媒体101との間の距離を調整可能な記録装置100の記録品質を向上することができる。
【0095】
また、製造現場からユーザの使用場所までの物流段階で記録装置100が受けた振動や衝撃等により装置に変形等が生じ、上下流差ΔQを含めた記録ヘッド104-記録媒体101間の距離が変動してしまう場合があった。しかしながら、本実施形態では、そのような変動が生じても、マルチセンサ122が検知するセンサ位置でのHP間距離の変化量及び導出パターン14による上下流差ΔQに基づいて、制御上のリフトカム角度とHP間距離との関係を修正することができる。したがって、物流後においても記録ヘッド104-記録媒体101間距離を高精度に維持し、記録画像の品質を維持・向上することができる。
【0096】
なお、本実施形態では、上下流差ΔQを求める際に、罫線が一致するポイントをユーザに入力させているが、その他の態様も採用可能である。つまり、上下流差ΔQを求めるための、上流側ノズル及び下流側ノズルとプラテン107との各距離の差に関する差情報が他の態様で取得されてもよい。例えば、記録させたパターンをイメージセンサ等によって検知し、その検知結果に基づいて上下流差ΔQを取得する等、ユーザを介さない態様であってもよい。例えば、基準となる記録ノズル列の最下段のノズル列の記録に対し、最上段のノズル列の記録タイミングを段階的に変動させながら複数個の調整用パターンを重ねて記録し、そのパターンをセンサ等で検知して濃度判定してもよい。すなわち、差情報は、この濃度判定の結果等、記録ヘッド104による記録結果に対するセンサ等の検知結果に基づく情報であってもよい。
【0097】
本実施形態では、マルチセンサ122による物流後の距離測定を行った後に、続けて上下流差ΔQの導出のための導出パターンの記録を行うが、これに限定されるものではない。例えば、マルチセンサ122による物流後の距離測定を行った後、その結果のみを用いて出荷前のマルチセンサ122の検知結果との差に基づきHP間距離プロファイルを更新し、調整動作自体を一旦終了してもよい。そして、記録ジョブの実行時やユーザの任意のタイミングで上下流差ΔQの導出を行うための動作を実行させてもよい。
【0098】
また、本実施形態では、物流後HP中間距離Hm’、プラテン高さ固有値Pb’を演算し、その結果を本体ROM125に記憶した後に調整部12による調整を実行しているが、他の態様も採用可能である。例えば、物流後HP中間距離Hm’、プラテン高さ固有値Pb’を本体ROM125に記憶し、調整動作を一旦終了してもよい。そして、記録ジョブの実行時等に調整部12による調整を実行してもよい。
【0099】
また、HP間距離プロファイルの更新は、ユーザのもとへ着荷した後のみではなく、適宜実行してもよい。例えば、ユーザが操作パネル102を介してHP間距離プロファイルの更新の実行を記録装置100に指示したタイミングでHP間距離プロファイルの更新が行われてもよい。また、定期的にHP間距離プロファイルの更新が行われてもよい。
【0100】
また、記録ジョブの実行中に上下流差ΔQを取得し、HP間距離プロファイルを都度更新してもよい。例えば、記録媒体101の余白部分等にパターンを記録し、そのパターンを上述の方法等によってセンサで検知し、検知結果に基づいて取得された上下流差ΔQに基づいてHP間距離プロファイルが更新されてもよい。また、この場合のパターンは、人間が視覚で知覚し得るように顕在化されたパターンに限られない。さらに、記録ジョブの実行中に上下流差ΔQを取得する場合、記録データ自体の記録結果から上流側ノズル及び下流側ノズルとプラテン107との距離の差に関する差情報を取得してもよい。
【0101】
また、本実施形態では、工場調整時に設定されたHP間距離プロファイルをユーザのもとへ着荷した後に更新しているが、工場調整時にHP間距離プロファイルが設定されない構成も採用可能である。例えば、工場調整時にはリフトカムプロファイル及びマルチセンサ122の受光量に対するセンサ位置HP間距離Hs(n)の関係が本体ROM125に記憶されてもよい。そして、ユーザのもとへ着荷した後に、本体ROM125に記憶された情報、着荷後のマルチセンサ122の受光量及び上述の差情報に基づいてHP間距離プロファイルが設定されてもよい。
【0102】
<第2実施形態>
第2実施形態は、主に、記録のジョブが実行される前に、記録領域の幅方向のサイズに応じてHP間距離プロファイルを設定する点で第1実施形態と異なる。具体的には、第1実施形態では、主走査方向において記録装置100の記録可能領域の全域からHP中間距離Hmを算出する。これにより、当該全域に対して理想距離Hとの差が小さくなるように物流後プラテン高さ固有値Pb’を求め、これを元にHP間距離プロファイルの調整を行う。これは、記録が実行される記録媒体101の幅が記録可能領域全域に近しい幅の時には特に有効である。一方、第2実施形態では、実行するジョブにおける記録領域の幅によって物流後プラテン高さ固有値の算出方法を変更し、これによりHP間距離プロファイルを記録媒体幅に応じて最適化している。
【0103】
図24は、一実施形態に係るユーザ使用時の調整動作を示すフローチャートである。この動作フローは、例えば図14の動作フローが完了し、HP間距離プロファイルが更新された後に実行される。また、以下の説明おいて図15図16図23も適宜参照する。以下、第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略する。
【0104】
S100で、CPU124は、不図示の通信インタフェースを介してユーザ操作によりホストPCなどから記録指令及び記録データを受信する。
【0105】
S101で、CPU124は、受信した記録データから主走査方向における記録領域Wの情報を取得する。ここで記録領域Wは、X(n)と同様に記録媒体101の端部位置を0とした座標を示すものとする。
【0106】
S102で、CPU124は、記録領域Wの数値に応じて図16に示す本体ROMに保存されたパラメータであるHu(n)’’、Hd(n)’’のうち、どのパラメータを使用するかを選択する。具体的な例を示すと、キャリッジ位置X(n)情報を元に、記録領域Wが0mm以上かつ、X(1)とX(2)の中間値である750mm未満であればHu(1)’’、Hd(1)’’の情報が選択される。また、記録領域Wが750mm以上かつ、X(2)とX(3)の中間値である1250mm未満の場合は、Hu(1)’’、Hd(1)’’、Hu(2)’’、Hd(2)’’の情報が選択される。また、記録領域Wが1250mm以上かつ1500mm未満の場合は、Hu(1)’’、Hd(1)’’、Hu(2)’’、Hd(2)’’、Hu(3)’’、Hd(3)’’の情報が選択される。つまり、CPU124は、記録領域Wに合わせて、その領域の近傍を含むX(n)のデータのみを参照し、それと関連したHu(n)’’、Hd(n)’’のパラメータを選択する。
【0107】
S103で、CPU124は、選択されたHd(n)’’及びHu(n)’’の情報を用いて、最大値と最小値の和の半分の距離を物流後中間距離Hm’’として求め、理想距離Hである物流後のプラテン高さ固有値Pb’’を得る。具体例を述べると、記録領域Wが0mm以上750mm未満の場合、Hm’’=(3.24+3.07)/2≒3.16、Pb’’=3.16+0.2-4=―0.64となる。
【0108】
S104で、CPU124は、図23に示すように物流によるHP間距離変動量に伴いHP間距離プロファイルを更新し、最終的に新たなHP間距離プロファイルを作成して本体にROM125に記憶させる。
【0109】
S105で、CPU124は、このプロファイルに則り、リフトカムの角度を所定量回転させる。S106で、CPU124は、記録を開始する。
【0110】
本実施形態では、例えば記録領域Wが0mm以上750mm以下の場合Pb’’=-0.64となる。よって、HP間距離プロファイル上でHP間距離が4.0mmになるような角度にリフトカム117を回転させた場合、Hu=3.24+0.64+0.2=4.08mm、Hd=3.07+0.64+0.2=3.91となる。そのため、理想距離H(=4mm)との誤差は最大で0.09mmとなる。
【0111】
一方、第1実施形態のHP間距離プロファイルの更新方法では、Pb=―0.425のため、Hu=3.24+0.425+0.2=3.865、Hd=3.07+0.425+0.2=3.695となる。よって、理想距離H(=4mm)との誤差は最大で0.305mmとなる。
【0112】
このように、本実施形態では、記録領域Wに合わせたパラメータを選択することで、記録ヘッド104-記録媒体101距離の誤差をさらに軽減でき、記録画像の品質を向上することができる。
【0113】
なお、本実施形態では、記録指令ごとにパラメータの選択及びプラテン高さ固有値の演算を行うが、他の態様であってもよい。例えば、予め記録領域Wの大きさに応じた複数のプラテン高さ固有値Pb’’を演算して本体ROM125に記憶させておき、記録指令によって記録領域Wの大きさに合わせて単にPb”を選択し、以後の調整動作を行ってよい。また例えば、この複数のプラテン高さ固有値Pb”の演算を、ユーザのもとに記録装置100が着荷してから最初に記録装置100の電源がオンされた際に実行してもよい。
【0114】
また、より細かな調整を行うために、図16で示すデータから各X(n)間に対するHu(n)’’、Hd(n)’’の値を直線近似として求め、記録領域WにおけるHu(n)’’、Hd(n)’’を演算して用いてもよい。例えば、W=750mであれば、X(1)とX(2)の中間値であることから、Hu”=(3.24+3.8)/2=3.52、Hd”=(3.07+3.6)/2≒3.34となる。これらの値から、Hm’’=(3.52+3.07)/2≒3.3、Pb’’=3.3+0.2-4=―0.5としてもよい。これによって、より記録領域Wに合わせた高精度な調整をすることができる。
【0115】
<その他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0116】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0117】
100 記録装置、104 記録ヘッド、107 プラテン、124 CPU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25