IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許7541871液晶ポリマー組成物、液晶ポリマー組成物の製造方法、成形品、フィルム、銅張積層板、及び成形品の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物、液晶ポリマー組成物の製造方法、成形品、フィルム、銅張積層板、及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240822BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20240822BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20240822BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20240822BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240822BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240822BHJP
   C08F 255/08 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L51/06
C08K5/3492
C08K5/103
C08J5/00 CFD
C08J5/00 CES
H05K1/03 610H
C08F255/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020139564
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035328
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】秋永 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】今村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】木戸 雅善
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-258491(JP,A)
【文献】特表平08-504874(JP,A)
【文献】特開2003-105178(JP,A)
【文献】特開2004-353000(JP,A)
【文献】特開平10-330602(JP,A)
【文献】特開昭61-016944(JP,A)
【文献】特開2006-152227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)と、架橋剤(C)とを含み、
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)が、モノエンのみを重合したポリオレフィンのグラフト変性物であり、
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンであり、
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)が、ポリメチルペンテンのグラフト変性体である、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
前記架橋剤(C)が、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
前記架橋剤(C)の含有量が、前記グラフト変性ポリオレフィン(B)100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である、請求項1又は2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点が200℃以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
前記液晶ポリマー(A)の融点が250℃以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
前記液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)と、架橋剤(C)とを溶融混錬する、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリマー組成物からなる成形品。
【請求項8】
前記架橋剤(C)による架橋処理が施された、請求項に記載の成形品。
【請求項9】
周波数10GHzにおける誘電率が2.8以下であり、周波数10GHzにおける誘電正接が、0.0025以下である、請求項に記載の成形品。
【請求項10】
フィルムである、請求項のいずれか1項に記載の成形品。
【請求項11】
フィルムである請求項10に記載の成形品を含む、銅張積層板。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリマー組成物を成形して成形品を得ることと、
前記成形品に電子線を照射して、前記成形品に対して前記架橋剤(C)による架橋処理を施すことと、を含む、成形品の製造方法。
【請求項13】
前記電子線の線量が、100kGy以上1200kGy以下である、請求項12に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト変性ポリオレフィンと架橋剤と液晶ポリマーとを含む液晶ポリマー組成物と、当該液晶ポリマー組成物の製造方法と、当該液晶ポリマー組成物からなる成形品及びフィルムと、当該液晶ポリマー組成物からなるフィルムを含む銅張積層板とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の通信機器や、次世代テレビ等の電子機器において、大容量のデータを高速に送受信することが要求されている。これに伴い、電気信号の高周波数化が進んでいる。具体的には、無線通信分野では、2020年頃に、第5世代移動通信システム(5G)の導入が見込まれる。第5世代移動通信システムの導入に際して、10GHz以上の高周波数帯域の使用が検討されている。
【0003】
しかしながら、使用される信号の周波数が高くなるに伴い、情報の誤認識を招きうる出力信号の品質低下、すなわち、伝送損失が大きくなる。この伝送損失は、導体に起因する導体損失と、電子機器や通信機器における基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂に起因する誘電損失とからなるが、導体損失は使用する周波数の0.5乗、誘電損失は周波数の1乗に比例するため、高周波帯、とりわけGHz帯においては、この誘電損失による影響が非常に大きくなる。
【0004】
このため、伝送損失を低減するために、誘電損失に係る因子である比誘電率と、誘電正接とが低い低誘電材料が求められている。このような事情から、高周波数帯域で使用される低誘電材料として、例えば、液晶ポリマーの使用が検討されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-077117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液晶ポリマー等の低誘電樹脂又はその組成物について、伝送損失のさらなる低減のために、さらなる低誘電特性が求められている。そして、低誘電特性に優れる材料の好ましい用途としては、フレキシブルプリント配線板が挙げられる。フレキシブルプリント配線板において、低誘電特性を有する材料は、通常、フィルム又はシートとして使用される。
【0007】
しかし、液晶ポリマーには、その異方性に起因してフィルム化又はシート化のような溶融加工が困難である問題がある。例えば、液晶ポリマーを、代表的なフィルム製造方法である押出法によりフィルム化する場合、ダイから吐出される溶融した液晶ポリマーが、吐出方向のせん断力による溶融粘度の低下に起因してすぐに垂れてしまい、フィルムの引き取りが困難である。
【0008】
仮にフィルムを引き取ることができたとしても、フィルムにおける液晶ポリマーの配向に起因して、得られるフィルムは非常に裂けやすい。
【0009】
液晶ポリマーが有する優れた低誘電特性を損なうことなく、液晶ポリマーの溶融加工の困難さを解消する方法として、低誘電特性及び溶融加工性に優れるポリオレフィンを液晶ポリマーにブレンドすることが考えられる。
【0010】
しかし、液晶ポリマーとポリオレフィンとは、互いに相溶しにくく、両者を混合して均一な組成物を形成しにくい問題がある。また、液晶ポリマーとポリオレフィンとを均一に混合できても、ポリオレフィンは耐熱性に劣るため、得られた液晶ポリマー組成物も耐熱性に劣る問題がある。
【0011】
フレキシブルプリント配線基板の材料には、通常、鉛フリーはんだに対応するために高い耐熱性が望まれる。フレキシブルプリント配線板は、通常、銅張積層板(CCL)であることが多い。フレキシブルプリント配線板の耐熱性は、基板の材料としての樹脂の耐熱性のみでは決まらず、熱膨張による基板の変形や皺の発生、及び加熱による銅膜の剥離の生じにくさ等も考慮して判断される。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、低誘電特性、及びフレキシブルプリント配線板用途における耐熱性に優れる成形品を与え、且つ押出法により良好にフィルム化可能である液晶ポリマー組成物と、当該液晶ポリマー組成物の製造方法と、前述の液晶ポリマー組成物からなる成形品と、前述の液晶ポリマー組成物からなるフィルムを含む銅張積層板と、電子線架橋された前述の成形品の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(15)を提供する。
(1)液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)と、架橋剤(C)とを含み、
グラフト変性ポリオレフィン(B)が、モノエンのみを重合したポリオレフィンのグラフト変性物である、液晶ポリマー組成物。
(2)架橋剤(C)が、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、及びトリメタリルイソシアヌレートからなる群から選ばれる1種以上である、(1)に記載の液晶ポリマー組成物。
(3)架橋剤(C)の含有量が、グラフト変性ポリオレフィン(B)100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である、(1)又は(2)に記載の液晶ポリマー組成物。
(4)グラフト変性ポリオレフィン(B)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の液晶ポリマー組成物。
(5)グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点が200℃以上である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の液晶ポリマー組成物。
(6)グラフト変性ポリオレフィン(B)が、ポリメチルペンテンのグラフト変性体である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の液晶ポリマー組成物。
(7)液晶ポリマー(A)の融点が250℃以上である、(1)~(6)の1つに記載の液晶ポリマー組成物。
(8)液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)と、架橋剤(C)とを溶融混錬する、(1)~(7)のいずれか1つに記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
(9)(1)~(7)のいずれか1つに記載の液晶ポリマー組成物からなる成形品。
(10)架橋剤(C)による架橋処理が施された、(9)に記載の成形品。
(11)周波数10GHzにおける誘電率が2.8以下であり、周波数10GHzにおける誘電正接が、0.0025以下である、(10)に記載の成形品。
(12)フィルムである、(9)~(11)のいずれか1つに記載の成形品。
(13)フィルムである(12)に記載の成形品を含む、銅張積層板。
(14)(1)~(7)のいずれか1つに記載の液晶ポリマー組成物を成形して成形品を得ることと、
成形品に電子線を照射して、成形品に対して架橋剤(C)による架橋処理を施すことと、を含む、成形品の製造方法。
(15)電子線の線量が、100kGy以上1200kGy以下である、(14)に記載の成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、低誘電特性、及びフレキシブルプリント配線板用途における耐熱性に優れる成形品を与え、且つ押出法により良好にフィルム化可能である液晶ポリマー組成物と、当該液晶ポリマー組成物の製造方法と、前述の液晶ポリマー組成物からなる成形品と、前述の液晶ポリマー組成物からなるフィルムを含む銅張積層板と、電子線架橋された前述の成形品の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪液晶ポリマー組成物≫
液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー(A)とともに、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)、及び架橋剤(C)を含む。グラフト変性ポリオレフィン(B)は、モノエンのみを重合したポリオレフィンのグラフト変性物である。
ポリオレフィンがモノエンのみの重合体である、つまりジエン等のポリエンを含まないモノマーの重合体であることによって、グラフト変性時にゲル化のような望まない副反応が生じ難く、液晶ポリマー組成物を用いて均一なフィルムを製膜しやすい。
【0017】
上記の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)との混合比率、液晶ポリマー(A)の融点、グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点、液晶ポリマー(A)の融点とグラフト変性ポリオレフィン(B)の融点との差、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合する際の温度、グラフト変性ポリオレフィン(B)の変性率等の様々な条件に応じて、種々の相状態を形成し得る。
【0018】
液晶ポリマー組成物において、少なくとも一部に、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とからなる海島構造が形成されているのが好ましい。海島構造について、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とのいずれが海成分であってもよい。
【0019】
かかる相状態である場合、液晶ポリマー(A)の性質に由来する異方性が緩和され、液晶ポリマー組成物の溶融加工性が良好である。
【0020】
液晶ポリマー組成物において上記の海島構造が形成されている場合、液晶ポリマー組成物が、液晶ポリマー(A)が海成分である海島構造を含むか、海島構造とともに、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とがともに連続相を形成する共連続構造を含むのが好ましい。
【0021】
この場合、液晶ポリマー(A)が、海成分、又は共連続構造における連続相を形成していることによって、液晶ポリマー組成物が液晶ポリマー(A)に由来する優れた耐熱性を発現しやすい。
【0022】
極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)、及び架橋剤(C)と液晶ポリマー(A)とがブレンドされると、液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とが、海島構造や、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とがともに連続相を形成する共連続構造を容易に形成できる。
【0023】
上記の液晶ポリマー組成物は、低誘電特性を活かし、高周波数帯域で使用される電気、電子部品、情報通信装置、当該情報通信装置の部品等の用途において好適に使用される。
【0024】
液晶ポリマー組成物の製造方法は特に限定されない。液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)と、架橋剤(C)とを混合することにより製造され得る。
【0025】
液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)及び架橋剤(C)とを混合する方法は特に限定されない。好ましい混合方法としては、一軸押出機や二軸押出機等の溶融混練装置を用いる方法が挙げられる。性状の異なる複数の樹脂等を一定比率で混合するため、搬送性や混練性に優れた二軸押出機を用いる方法が特に好ましい。
【0026】
混合条件は、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)と、架橋剤(C)とを均一に混合でき、液晶ポリマー組成物に含まれる各成分が、過度に熱分解したり、昇華したりしない条件であれば特に限定されない。溶融混練装置を用いる場合、例えば、液晶ポリマー(A)の融点と、グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点とのうちの高い方の融点よりも、好ましくは5℃以上100℃以下高い温度、より好ましくは10℃以上50℃以下高い温度で溶融混練が行われる。
【0027】
液晶ポリマー組成物における、液晶ポリマー(A)の量及びグラフト変性ポリオレフィン(B)の量は、本発明の目的を阻害しない範囲でそれぞれ特に限定されない。
加工性改良に関する所望する効果を得つつ耐熱性に優れる液晶ポリマー組成物を得やすい点から、グラフト変性ポリオレフィン(B)の質量は、液晶ポリマー(A)の質量とグラフト変性ポリオレフィン(B)の質量との合計に対して10質量%以上70質量%以下が好ましく、10質量%以上60質量%以下が好ましい。
【0028】
以下、液晶ポリマー組成物が含み得る、必須、又は任意の成分について説明する。
【0029】
<グラフト変性ポリオレフィン(B)>
グラフト変性ポリオレフィンは、モノエンのみを重合したポリオレフィンがグラフト変性された樹脂であって、極性基を有する樹脂であれば特に限定されない。
【0030】
ここで極性基とは、極性のある原子団のことで、この基が有機化合物中に存在すると、その化合物が極性をもつ基のことである。グラフトによりポリオレフィンに導入され得る極性基の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸に由来するカルボキシ基;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等の前述の不飽和カルボン酸の誘導体に由来する酸無水物基、ハロカルボニル基、カルボン酸アミド基、イミド基、及びカルボン酸エステル基;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体に由来するエポキシ基等が挙げられる。これらの極性基の中では、グラフト変性ポリオレフィン(B)を液晶ポリマー(A)に配合した場合に、好ましい相状態の液晶ポリマー組成物を得やすいことや、液晶ポリマー組成物を他の材料と接触させて用いる場合に、液晶ポリマー組成物と他の材料との密着性が良好であること等からエポキシ基を含有することが好ましい。
【0031】
エポキシ基は、フェノール性水酸基やカルボキシ基等の液晶ポリマー(A)が有する官能基と反応し得る。このため極性基としてエポキシ基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)を液晶ポリマー(A)に配合すると、液晶ポリマー組成物中において両ポリマーが適度に親和し、例えば、海島構造のような好ましい相構造を容易に形成し得る。
【0032】
典型的には、グラフト変性ポリオレフィン(B)は、ポリオレフィンが、ラジカル重合開始剤の存在下で、極性基を有するビニル単量体でグラフト変性された樹脂である。
【0033】
グラフト変性ポリオレフィン(B)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリオレフィンであるのが好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンであるのがより好ましい。
【0034】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン/ブテン-1共重合体、及びエチレン/オクテン共重合体等の鎖状ポリオレフィンが挙げられる。
【0035】
これらのポリオレフィンの中でも、変性反応が容易であることから、ポリメチルペンテン、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びプロピレン-エチレン共重合体が好ましく、耐熱性及び低誘電特性の点から、ポリメチルペンテンがより好ましい。
【0036】
ポリオレフィンをグラフト変性する際に使用し得るラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、及びメチルアセトアセテートパーオキサイド等のケトンパーオキサイド;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、及び2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、及びクメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、及びジ-2-メトキシブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシオクテート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、及びジ-tert-ブチルパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル等が挙げられる。上記のラジカル重合開始剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
ラジカル重合開始剤の使用量は、グラフト変性反応が良好に進行する限り特に限定されない。ラジカル重合開始剤の使用量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0038】
グラフト変性に使用され得る極性基を有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等のこれらの不飽和カルボン酸の誘導体;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、エポキシ基含有ビニル単量体が好ましく、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルがより好ましく、メタクリル酸グリシジルが特に好ましい。
【0040】
上記の極性基を有するビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
ポリオレフィンのグラフト変性に使用される極性基を有するビニル単量体の添加量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
【0042】
かかる範囲内の量の極性基を有するビニル単量体を用いて変性されたポリオレフィンを用いることで、グラフト変性ポリオレフィン(B)を液晶ポリマー(A)に配合した場合に、好ましい相状態であり、所望する低誘電特性を示す液晶ポリマー組成物を得やすい。
【0043】
前述の通りグラフト変性ポリオレフィン(B)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリオレフィンであるのが好ましい。
【0044】
極性基を有するビニル単量体と、芳香族ビニル単量体とを併用することにより、グラフト反応が安定化することによって、極性基を有するビニル単量体を所望する量グラフトさせやすいためである。
【0045】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジメチルスチレン、及びトリメチルスチレン等のアルキルスチレン類;o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、α-クロロスチレン、β-クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びトリクロロスチレン等のクロロスチレン類;o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、ジブロモスチレン、及びトリブロモスチレン等のブロモスチレン類;o-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、及びトリフルオロスチレン等のフルオロスチレン類;o-ニトロスチレン、m-ニトロスチレン、p-ニトロスチレン、ジニトロスチレン、及びトリニトロスチレン等のニトロスチレン類;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、及びトリヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類;o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、o-ジイソプロペニルベンゼン、m-ジイソプロペニルベンゼン、及びp-ジイソプロペニルベンゼン等のジアルケニルベンゼン類等が挙げられる。
【0046】
これら芳香族ビニル単量体の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、又はジビニルベンゼン異性体混合物が、安価な点で好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0047】
芳香族ビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
ポリオレフィンのグラフト変性に使用される極性基を有する芳香族ビニル単量体の量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
【0049】
グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点は、特に限定されない。グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上240℃以下がさらに好ましい。
成形品の耐熱性の点から、グラフト変性ポリメチルペンテン(B)の融点は、200℃以上であるのもの好ましい。
グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点が、上記の温度であることにより、グラフト変性ポリオレフィン組成物、及び後述する液晶ポリマー組成物からなる成形品に良好な耐熱性を付与できる。
また、グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点が240℃以下であると、液晶ポリマー組成物を調製したり使用したりする際の、架橋剤(C)の分解や昇華を抑制しやすい。
【0050】
<架橋剤(C)>
液晶ポリマー組成物は、架橋剤(C)を含む。架橋剤(C)は、グラフト変性ポリオレフィン(B)と液晶ポリマー(A)とがブレンドされた際の、液晶ポリマー組成物の耐熱性や機械的特性の向上に寄与する。
【0051】
架橋剤(C)が有する後述の反応性官能基の種類に応じて選択される、加熱や電子線照射等の架橋処理によって、架橋剤(C)は、液晶ポリマー(A)同士、グラフト変性ポリオレフィン(B)同士、又は液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを架橋させる。
【0052】
架橋剤(C)は、同一分子内に反応性官能基を2個以上有する化合物である。液晶ポリマー組成物からなる成形品において、架橋剤(C)による分子架橋を生じさせることにより特に耐熱性に優れる成形品を得やすい。
【0053】
架橋剤(C)が有する反応性官能基としては炭素-炭素二重結合含有基、ハロゲン原子、ジカルボン酸無水物基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、及び水酸基が挙げられる。架橋剤の同一分子内に有する複数の反応性官能基は互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
上記の反応性官能基の中では、架橋反応性と、架橋後の架橋構造の安定性とが優れることから、炭素-炭素二重結合含有基が好ましい。
炭素-炭素二重結合含有基としては、ビニル基、アリル基、及びメタリル基等のアルケニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の不飽和アシル基、マレイミド基等が挙げられる。好ましい炭素-炭素二重結合含有基は炭素数2~4のアルケニル基であり、特にアリル基が特に好ましい。
【0054】
架橋剤(C)の好適な具体例としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアリルトリメリテート、m-フェニレンジアミンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラアリルテレフタルアミド、並びにポリメチルビニルシロキサン、及びポリメチルフェニルビニルシロキサン等のビニル基含有ポリシロキサン等が挙げられる。
【0055】
これらの中では、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。特に架橋反応性の点で、架橋剤(C)がトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、及び/又はトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTMA)を含むのが好ましく、架橋剤(C)がTAICであるのが特に好ましい。
【0056】
架橋剤(C)の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。架橋剤(C)の使用量は、液晶ポリマー組成物の組成を勘案して適宜決定できる。
【0057】
グラフト変性ポリオレフィン組成物における、架橋剤(C)の使用量は、例えば、グラフト変性ポリオレフィン100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下が好ましく、5質量部以上80質量部以下がより好ましく、10質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
【0058】
<液晶ポリマー(A)>
液晶ポリマー(A)は、溶融時に光学的異方性を示すポリマーであって、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと認識されているポリマーを特に制限なく用いることができる。溶融時の光学的異方性は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。
【0059】
液晶ポリマー(A)は、典型的にはフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を重縮合することにより製造される。重縮合は、触媒の存在下に行われるのが好ましい。触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。
【0060】
触媒の使用量は、例えば、モノマー混合物の量100質量部に対し、0.1質量部以下が好ましい。
【0061】
前述の通り、モノマー混合物は、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマーの混合物である。モノマー混合物は、テレフタル酸やイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸等のフェノール性水酸基を持たないモノマーを含んでいてもよい。
【0062】
モノマー混合物の調製方法としては、コストや製造時間の点で、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得る方法が好ましい。
【0063】
液晶ポリマー(A)を構成する構成単位としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族アミノオキシ単位、芳香族ジアミノ単位、芳香族アミノカルボニル単位、及び脂肪族ジオキシ単位等が挙げられる。
【0064】
なお、液晶ポリマー(A)は、エステル結合以外の結合として、アミド結合やチオエステル結合を含んでいてもよい。
【0065】
芳香族オキシカルボニル単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する単位である。
【0066】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の好適な具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0067】
芳香ヒドロキシカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ヒドロキシカルボン酸と同様に好適に使用できる。
【0068】
得られる液晶ポリマー(A)の機械的特性や融点を調製しやすいことから、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の中では、p-ヒドロキシ安息香酸、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
【0069】
芳香族ジカルボニル繰返し単位は、芳香族ジカルボン酸に由来する単位である。
【0070】
芳香族ジカルボン酸の好適な具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、及び4,4’-ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0071】
芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ジカルボン酸と同様に好適に使用できる。
【0072】
得られる液晶ポリマー(A)の機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから、これらの芳香族ジカルボン酸中ではテレフタル酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0073】
芳香族ジオキシ繰返し単位は、芳香族ジオールに由来する単位である。
【0074】
芳香族ジオールの好適な具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
【0075】
重縮合時の反応性、及び得られる液晶ポリマー(A)の特性等の点から、これらの芳香族ジオールの中ではハイドロキノン、レゾルシン、及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0076】
芳香族アミノオキシ単位は、芳香族ヒドロキシアミンに由来する単位である。
【0077】
芳香族ヒドロキシアミンの好適な具体例としては、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
【0078】
芳香族ジアミノ単位は、芳香族ジアミンに由来する単位である。
【0079】
芳香族ジアミンの好適な具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0080】
芳香族アミノカルボニル単位は、芳香族アミノカルボン酸に由来する単位である。
【0081】
芳香族アミノカルボン酸の好適な具体例としては、p-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0082】
芳香族アミノカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も液晶ポリマー製造用のモノマーとして好適に使用できる。
【0083】
脂肪族ジオキシ単位を与える単量体の具体例としては、例えばエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、並びにそれらのアシル化物が挙げられる。
【0084】
また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレート等の脂肪族ジオキシ単位を含有するポリマーを、前術の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、及びそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等と反応させることによっても、脂肪族ジオキシ単位を含む液晶ポリマー(A)を得ることができる。
【0085】
液晶ポリマー(A)は、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、芳香族ジチオール、及びヒドロキシ芳香族チオール等が挙げられる。
【0086】
これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、及び脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0087】
液晶ポリマー(A)の好適な例としては、以下の1)~25)が挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸共重合体
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
7)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
8)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
10)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
12)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
13)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
15)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
17)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
18)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
19)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/4-アミノフェノール共重合体
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
23)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
24)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
25)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体。
【0088】
前述の通り、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得るのが好ましい。アシル化は、フェノール性水酸基と、脂肪酸無水物とを反応させることにより行われるのが好ましい。脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、及び無水プロピオン酸等を用いること出来る。価格と取り扱い性の点から、無水酢酸が好ましく使用される。
【0089】
脂肪酸無水物の使用量は、フェノール性水酸基の量に対して、1.0倍当量以上1.15倍当量以下が好ましく、1.03倍当量以上1.10倍当量以下がより好ましい。
【0090】
フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物と、上記の脂肪酸無水物とを混合して加熱することによりアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物が得られる。
【0091】
以上のようにして得られたフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を加熱するとともに、重縮合により副生する脂肪酸を留去することにより液晶ポリマー(A)が得られる。
【0092】
溶融重縮合のみにより液晶ポリマー(A)を製造する場合、溶融重縮合の温度は、150℃以上400℃以下が好ましく、250℃以上370℃以下が好ましい。
【0093】
溶融重縮合と、後述する固相重合との二段階で液晶ポリマー(A)を製造する場合、溶融重縮合の温度は120℃以上350℃以下が好ましく、200℃以上300℃以下が好ましい。重縮合反応の時間は、所望する融点、又は所望する分子量の液晶ポリマー(A)が得られる限り特に限定されない。例えば、重縮合の反応時間としては30分以上5時間以下が好ましい。
【0094】
上記方法により製造される液晶ポリマー(A)は、必要に応じて、さらに高分子量化するために、固化された状態(固相)で加熱する重縮合に供されてもよい。
【0095】
上記方法により、液晶ポリマー(A)が得られる。液晶ポリマー(A)の融点は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。液晶ポリマー(A)の融点は、250℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましい。他方、加工性の観点や、液晶ポリマー組成物製造時のグラフト変性ポリオレフィン(B)、及び架橋剤(C)の分解の抑制の点等から、液晶ポリマー(A)の融点は、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましい。
【0096】
なお、液晶ポリマー(A)の融点は、例えば、示差走査熱量計(Differential scanning calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/minで測定した際の結晶融解ピークから求めた温度である。より具体的には、液晶ポリマー(A)の試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20℃以上50℃以下高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマー(A)の融点とする。測定用機器としては、例えば、TA Instruments社製DSC Q1000等を使用することができる。
【0097】
液晶ポリマー組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、液晶ポリマー(A)、及びグラフト変性ポリオレフィン(B)以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。液晶ポリマー組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、液晶ポリマー(A)の質量とグラフト変性ポリオレフィン(B)の質量との合計の割合は、典型的には、80質量%が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0098】
その他の樹脂の例としては、グラフト変性されていないポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の非液晶性のポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂等が挙げられる。
【0099】
液晶ポリマー組成物には、必要に応じて、無機充填剤を配合できる。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、及びチタン酸カリウム繊維等が挙げられる。無機充填剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0100】
これらの無機充填剤の使用量は、液晶ポリマー組成物の低誘電特性を損なわない範囲で、液晶ポリマー組成物の用途に応じて適宜決定される。例えば、液晶ポリマー組成物を用いてフィルムを形成する場合には、フィルムの機械強度を著しく損なわない範囲で、無機充填剤の使用量の上限が定められる。
【0101】
液晶ポリマー組成物には、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、及び離型改良剤等の各種の添加剤を配合できる。
【0102】
これらの添加剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0103】
以上説明した液晶ポリマー組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形等の公知の種々の製造方法により種々の成形品に加工される。
【0104】
液晶ポリマー組成物からなる成形品に対して、架橋剤(C)による架橋処理が施されるのが好ましい。架橋処理の方法は特に限定されず、架橋剤(C)が有する反応性官能基の種類に応じて適宜選択される。架橋処理の方法としては、電子線照射、加熱、光照射等が挙げられる。
加熱により架橋する方法では、架橋温度が過度に高いと、成形品を架橋させる際に成形品が熱劣化したり変形したりするおそれがある。逆に架橋温度が過度に低いと、押出機内で液晶ポリマー組成物が架橋してしまうおそれがある。この場合、液晶ポリマー組成物の押出機内での増粘により成形品の外観不良が生じやすいため、液晶ポリマー組成物の成形方法として、溶融成形法の適用が難しい。光照射による方法では、特別な場合以外は、光酸発生剤等の開始剤が液晶ポリマー組成物に添加される必要がある。しかし、このような開始剤は、高温の押出機内で分解しやすい。以上の点を考慮すると、種々の不具合を生じさせることなく、フィルム等の成形品に架橋構造を容易に形成可能である点で電子線照射が好ましい。
つまり、架橋剤(C)により架橋処理された成形品の製造方法としては、
前述の液晶ポリマー組成物を上述の方法等により成形して成形品を得ることと、
得られた成形品に電子線を照射して、成形品に対して架橋剤(C)による架橋処理を行うことと、を含む方法が好ましい。
電子線照射を行う場合の電子線の線量としては、100kGy以上1200kGy以下が好ましく、200kGy以上800kGy以下がより好ましい。
【0105】
以上説明した液晶ポリマー組成物は、高周波帯域における低誘電特性と、フィルム等を加工する際の溶融加工性とに優れるため、好ましくはフィルムに加工され、当該フィルムを含む銅張積層板を用いて伝送損失の少ないフレキシブルプリント配線板が製造される。
【0106】
また、液晶ポリマー組成物からなる成形品に架橋剤(C)による架橋処理を施すことにより、良好な低誘電特性を示し、且つフレキシブルプリント配線板として好適な耐熱性を有するフィルムやシート等の成形品が得られる。
【0107】
架橋処理を施された成形品の10GHzにおける比誘電率は、液晶ポリマー(A)の周波数10GHzにおける比誘電率より低い値であるのが好ましい。また、架橋処理をほどこされた成形品の10GHzにおける誘電正接は、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)の周波数10GHzにおける誘電正接のうちの低い値以下であるのが好ましい。
【0108】
また、架橋処理を施された成形品の10GHzにおける誘電正接は、0.0025以下が好ましい。
【0109】
架橋処理を施された成形品の周波数10GHzにおける比誘電率は、好ましくは2.8以下である。
【実施例
【0110】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0111】
〔製造例1〕
(変性ポリオレフィン1(mPO1)の製造)
(a1)ポリメチルペンテン樹脂(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.5質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン1質量部、(d1)グリシジルメタクリレート1質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
【0112】
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン1(mPO1)のグリシジルメタクリレート変性量は0.75質量%だった。
【0113】
〔製造例2〕
(変性ポリオレフィン2(mPO2)の製造)
(a1)α-オレフィンコポリマー樹脂(三井化学製ABSORTOMER(商標)EP1013)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.5質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン1質量部、(d1)グリシジルメタクリレート1質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
【0114】
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン2(mPO2)のグリシジルメタクリレート変性量は0.23質量%だった。
【0115】
〔実施例1~8、及び比較例1〕
実施例1~8、及び比較例1において、液晶ポリマー(A)((A)成分)として、融点280℃の全芳香族液晶ポリエステル樹脂を用いた。
また、実施例1~8、及び比較例1において、グラフト変性ポリオレフィン(B)((B)成分)として、製造例1及び製造例2で得た、変性ポリオレフィン1(mPO1)、及び変性ポリオレフィン2(mPO2)を用いた。
さらに、比較例1において、他の樹脂としてα-オレフィンコポリマー樹脂(三井化学製ABSORTOMER(商標)EP1013)を用いた。
【0116】
表1に記載の量の液晶ポリマー(A)と、表1に記載の種類及び量のポリオレフィンとを、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(25mmφ、L/D=40、テクノベル製)にホッパー口から供給して、溶融混錬した。
次いで、溶融混錬された液晶ポリマー(A)及びポリオレフィンと、表1に記載の量の架橋剤(C)(トリアリルイソシアヌレート)とを、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(25mmφ、L/D=40、テクノベル製)にホッパー口から供給して、溶融混錬して、液晶ポリマー組成物を得た。
【0117】
上記のようにして得られた実施例1~8の液晶ポリマー組成物、又は比較例1の液晶ポリマー組成物を230℃で溶融させ、溶融した液晶ポリマー組成物を140mm幅のTダイから概ね100μmの厚さで押出して液晶ポリマー組成物からなるフィルムを得た。
さらに溶融させる温度を300℃に変更した以外は同様にして参考例の液晶ポリマーフィルムを得た。
【0118】
得られたフィルムに、加速電圧200kVで吸収線量400kGyの条件で電子線を照射して、架橋剤による架橋を行った。
【0119】
架橋されたフィルムについて、以下の方法に従い、誘電特性(Dk(比誘電率)、Df(誘電正接))、線膨張係数(CTE)、耐熱性(DMA)、及びリフロー耐熱性を評価した。これらの評価結果を表1に記す。
【0120】
[誘電特性(Dk(比誘電率)、Df(誘電正接))]
測定装置として、空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用い、得られたフィルムの比誘電率及び誘電正接を下記周波数で測定した。なお、参考例として、液晶ポリマーの誘電特性を表1に記す。
測定周波数:10GHz
測定条件:温度22℃~24℃、湿度45%~55%
測定試料:前記測定条件下で、24時間放置した試料を使用した。
【0121】
[線膨張係数(CTE)]
線膨張係数は、引張荷重法による熱機械分析装置(Bruker社製、TMA 4000SA)で評価した。フィルムから10mm×3mmの試料をTダイからの押出方向(MD)に平行に切り出した。この試料の長辺に29.4mNの荷重を加え、10℃/分で20℃から200℃まで一旦昇温させた後、0℃まで冷却し、再び200℃まで10℃/minで昇温した。この2回目の昇温時の試料の50℃と150℃の間の歪の変化量を線膨張係数とした。表1に記載の線膨張係数(CTE)の単位はppm/Kである。
【0122】
[耐熱性(DMA)]
測定装置として、動的粘弾性測定装置を用い、貯蔵弾性率が10MPa以下になる温度を測定した。測定条件の詳細は以下の通りである。
サンプル測定範囲:幅5mm、つかみ具間距離20mm
測定温度範囲:25℃~260℃
昇温速度:5℃/分
歪み振幅:0.1%
測定周波数:1Hz
最小張力/圧縮力:0.1g
力振幅初期値:100g
【0123】
[リフロー耐熱試験]
銅張積層板としての耐熱性を評価するために、リフロー耐熱試験を行った。
フィルムの試料の両面を電解銅箔(CF-T49A-DS-HD2-12(福田金属箔粉工業(株)社製))で挟み、180℃で真空プレスを行い模擬的な銅張積層板(CCL)を作製した。
得られたCCLを、鉛フリーはんだの使用を想定した条件で高温リフロー炉(アントム社、UNI6116S)を通過させ、高温リフロー炉通過後のCCL試料を観察した。高温リフロー炉の通過条件は、ピーク温度288±3℃、通過時間60秒、通過サイクル数3である。
観察の結果に基づき、以下の基準に従いリフロー耐熱性を評価した。リフロー耐熱性についての合格の許容範囲は、下記のA~C評価である。
A:外観に変化なし
B:試料の端部にわずかにシワ発生
C:銅箔が部分的に剥離し、銅箔にわずかにシワ生成
D:銅箔が著しく剥離し銅箔表面に凹凸が生じ、フィルムにボイドが発生した。
【0124】
【表1】
【0125】
実施例1~8より、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)と架橋剤(C)と液晶ポリマー(A)とを混合して得られる液晶ポリマー組成物は、良好にフィルム化できることが分かる。また、実施例1~8で得た液晶ポリマー組成物からなるフィルムを架橋することで、低誘電特性に優れるフィルムを含み、リフロー耐熱性に優れる銅張積層板(CCL)を製造できることが分かる。
他方、比較例1によれば、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)を液晶ポリマーと混合しても、リフロー耐熱性に優れる銅張積層板(CCL)を製造できないことが分かる。