(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】インク循環システムおよびインクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20240822BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240822BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 115
B41J2/175 121
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2020159017
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】安田 友則
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝則
(72)【発明者】
【氏名】村田 章
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014194(JP,A)
【文献】特開2013-071247(JP,A)
【文献】特開2011-140197(JP,A)
【文献】特開2012-030494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0207317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク循環システムであって、
インクが貯留されるとともに、内部のエアの圧力が正圧または負圧とされる供給タンクと、
インクが貯留されるとともに、内部のエアの圧力が負圧とされるリターンタンクと、
前記供給タンクと前記リターンタンクとを接続しており、前記供給タンクのインクを前記リターンタンクに移動させるための第1接続管と、
前記リターンタンクと前記供給タンクとを接続しており、前記リターンタンクのインクを前記供給タンクへ戻すための第2接続管と、
前記第1接続管に介挿されており、
ノズルと、前記ノズルからインクを吐出させるインクジェット素子とを有する、インクを吐出可能なヘッド部と、
前記供給タンクに連通する第1圧力タンクと、前記リターンタンクに連通する第2圧力タンクとを有し、前記第1圧力タンク内および前記第2圧力タンク内の圧力をそれぞれ変更して、前記供給タンクと前記リターンタンクとの間に
エアの圧力差を形成することによって、前記供給タンクから、前記第1接続管を介して、前記リターンタンクへ向けてインクを送る圧力差形成部と、
現時点よりも先の時点において前記ヘッド部が吐出するインクの吐出量を予測する吐出量予測部と、
前記圧力差形成部を、前記吐出量予測部が予測した予測吐出量
の変動に応じ
たタイミングで前記エアの圧力差を調整する、フィードフォワード制御
を実行することにより、前記供給タンクから前記ヘッド部へのインクの供給量を制御する圧力制御部と、
を備える、インク循環システム。
【請求項2】
請求項1に記載のインク循環システムであって、
前記吐出量予測部は、前記ヘッド部が基材に形成する画像を表す画像データに基づいて、前記吐出量を予測する、インク循環システム。
【請求項3】
請求項2に記載のインク循環システムであって、
前記圧力制御部は、前記画像データから印字率を算出し、算出した印字率に基づいて、前記圧力差形成部を制御する、インク循環システム。
【請求項4】
インク循環システムであって、
供給タンクと、
リターンタンクと、
前記供給タンクと前記リターンタンクとを接続しており、前記供給タンクのインクを前記リターンタンクに移動させるための第1接続管と、
前記リターンタンクと前記供給タンクとを接続しており、前記リターンタンクのインクを前記供給タンクへ戻すための第2接続管と、
前記第1接続管に介挿されており、インクを吐出可能なヘッド部と、
前記供給タンクと前記リターンタンクとの間に圧力差を形成することによって、前記供給タンクから、前記第1接続管を介して、前記リターンタンクへ向けてインクを送る圧力差形成部と、
現時点よりも先の時点において前記ヘッド部が吐出するインクの吐出量を予測する吐出量予測部と、
前記吐出量予測部が予測した予測吐出量に応じて、前記圧力差形成部を制御することにより、前記供給タンクから前記ヘッド部へのインクの供給量を制御する圧力制御部と、
を備え、
前記圧力制御部は、
前記予測吐出量と、前記吐出量が前記予測吐出量となるタイミングと、前記圧力差形成部および前記第1接続管に応じたタイムラグとに基づいて、前記圧力差形成部を制御する、インク循環システム。
【請求項5】
インク循環システムであって、
供給タンクと、
リターンタンクと、
前記供給タンクと前記リターンタンクとを接続しており、前記供給タンクのインクを前記リターンタンクに移動させるための第1接続管と、
前記リターンタンクと前記供給タンクとを接続しており、前記リターンタンクのインクを前記供給タンクへ戻すための第2接続管と、
前記第1接続管に介挿されており、インクを吐出可能なヘッド部と、
前記供給タンクと前記リターンタンクとの間に圧力差を形成することによって、前記供給タンクから、前記第1接続管を介して、前記リターンタンクへ向けてインクを送る圧力差形成部と、
現時点よりも先の時点において前記ヘッド部が吐出するインクの吐出量を予測する吐出量予測部と、
前記吐出量予測部が予測した予測吐出量に応じて、前記圧力差形成部を制御することにより、前記供給タンクから前記ヘッド部へのインクの供給量を制御する圧力制御部と、
を備え、
前記圧力制御部は、
前記予測吐出量の単位時間当たりの増加量である予測増加速度が、限界供給増加速度を越えるかを判定する判定処理と、
前記判定処理により、前記予測増加速度が前記限界供給増加速度を越えないと判定した場合には、前記予測吐出量と、前記圧力差形成部および前記第1接続管に応じた第1タイムラグとに基づいて、前記圧力差形成部を制御する第1制御処理と、
前記判定処理により、前記予測増加速度が前記限界供給増加速度を越えると判定した場合には、前記予測吐出量と、前記吐出量が前記予測吐出量となるタイミングと、第1タイムラグよりも長い第2タイムラグとに基づいて、前記圧力差形成部を制御する第2制御処理と、
を実行可能である、インク循環システム。
【請求項6】
請求項5に記載のインク循環システムであって、
前記第1制御処理は、前記供給量の単位時間当たりの増加量である供給増加速度が前記予測増加速度に応じた値となるように、前記圧力差形成部を制御する処理を含む、インク循環システム。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のインク循環システムであって、
前記第2制御処理は、前記供給量の単位時間当たりの増加量である供給増加速度が前記限界供給増加速度に応じた値となるように、前記圧力差形成部を制御する処理を含む、インク循環システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のインク循環システムであって、
前記圧力差形成部は、前記供給タンクおよび前記リターンタンクの両方を負圧にした状態で、前記圧力差を形成する、インク循環システム。
【請求項9】
請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載のインク循環システムであって、
前記圧力差形成部は、前記供給タンクを正圧、前記リターンタンクを負圧にした状態で、前記圧力差を形成する、インク循環システム。
【請求項10】
インクジェット印刷装置であって、
基材を搬送方向に搬送する搬送部と、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のインク循環システムと、
を備える、インクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク循環システムおよびインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式で印刷を行うインクジェット印刷装置では、インクを吐出するヘッド部を、インクを循環させる循環経路に介挿したものが知られている(例えば、特許文献1)。ヘッド部をインクの循環経路に接続することによって、ヘッド部のインク切れが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、画像を印刷している間、印刷する画像の濃淡により、インクの吐出量が変動し得る。例えば、インクの吐出量が増大した場合、ヘッド部の出口側の流量が充分に確保できないことによって、ヘッド部内にエアが混入する可能性があった。ヘッド部内にエアが混入すると、ノズルからのインクの吐出不良(ノズル欠け)が発生するおそれがあった。このようなノズル欠けを避けるため、吐出量が多いときに合わせてインクの循環量を設定することが考えられる。しかしながら、この場合、インクの吐出量が少ないときには循環量が過大になるため、インクの劣化が早まったり、ノズルにおけるインクのメニスカスが不安定になったり、循環させるポンプの寿命が縮まったりするおそれがあった。このため、インクの吐出量に合わせて、インクの循環量を適正にする技術が求められている。
【0005】
本発明の目的は、ヘッド部からのインクの吐出量に合わせて、インクの循環量を適正に制御する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1態様は、インク循環システムであって、インクが貯留されるとともに、内部のエアの圧力が正圧または負圧とされる供給タンクと、インクが貯留されるとともに、内部のエアの圧力が負圧とされるリターンタンクと、前記供給タンクと前記リターンタンクとを接続しており、前記供給タンクのインクを前記リターンタンクに移動させるための第1接続管と、前記リターンタンクと前記供給タンクとを接続しており、前記リターンタンクのインクを前記供給タンクへ戻すための第2接続管と、前記第1接続管に介挿されており、ノズルと、前記ノズルからインクを吐出させるインクジェット素子とを有する、インクを吐出可能なヘッド部と、前記供給タンクに連通する第1圧力タンクと、前記リターンタンクに連通する第2圧力タンクとを有し、前記第1圧力タンク内および前記第2圧力タンク内の圧力をそれぞれ変更して、前記供給タンクと前記リターンタンクとの間にエアの圧力差を形成することによって、前記供給タンクから、前記第1接続管を介して、前記リターンタンクへ向けてインクを送る圧力差形成部と、現時点よりも先の時点において前記ヘッド部が吐出するインクの吐出量を予測する吐出量予測部と、前記圧力差形成部を、前記吐出量予測部が予測した予測吐出量の変動に応じたタイミングで前記エアの圧力差を調整する、フィードフォワード制御を実行することにより、前記供給タンクから前記ヘッド部へのインクの供給量を制御する圧力制御部と、を備える。
【0007】
第2態様は、第1態様のインク循環システムであって、前記吐出量予測部は、前記ヘッド部が基材に形成する画像を表す画像データに基づいて、前記吐出量を予測する。
【0008】
第3態様は、第2態様のインク循環システムであって、前記圧力制御部は、前記画像データから印字率を算出し、算出した印字率に基づいて、前記圧力差形成部を制御する。
【0009】
第4態様は、インク循環システムであって、供給タンクと、リターンタンクと、前記供給タンクと前記リターンタンクとを接続しており、前記供給タンクのインクを前記リターンタンクに移動させるための第1接続管と、前記リターンタンクと前記供給タンクとを接続しており、前記リターンタンクのインクを前記供給タンクへ戻すための第2接続管と、前記第1接続管に介挿されており、インクを吐出可能なヘッド部と、前記供給タンクと前記リターンタンクとの間に圧力差を形成することによって、前記供給タンクから、前記第1接続管を介して、前記リターンタンクへ向けてインクを送る圧力差形成部と、現時点よりも先の時点において前記ヘッド部が吐出するインクの吐出量を予測する吐出量予測部と、前記吐出量予測部が予測した予測吐出量に応じて、前記圧力差形成部を制御することにより、前記供給タンクから前記ヘッド部へのインクの供給量を制御する圧力制御部とを備え、前記圧力制御部は、前記予測吐出量と、前記吐出量が前記予測吐出量となるタイミングと、前記圧力差形成部および前記第1接続管に応じたタイムラグとに基づいて、前記圧力差形成部を制御する。
【0010】
第5態様は、インク循環システムであって、供給タンクと、リターンタンクと、前記供給タンクと前記リターンタンクとを接続しており、前記供給タンクのインクを前記リターンタンクに移動させるための第1接続管と、前記リターンタンクと前記供給タンクとを接続しており、前記リターンタンクのインクを前記供給タンクへ戻すための第2接続管と、前記第1接続管に介挿されており、インクを吐出可能なヘッド部と、前記供給タンクと前記リターンタンクとの間に圧力差を形成することによって、前記供給タンクから、前記第1接続管を介して、前記リターンタンクへ向けてインクを送る圧力差形成部と、現時点よりも先の時点において前記ヘッド部が吐出するインクの吐出量を予測する吐出量予測部と、前記吐出量予測部が予測した予測吐出量に応じて、前記圧力差形成部を制御することにより、前記供給タンクから前記ヘッド部へのインクの供給量を制御する圧力制御部とを備え、前記圧力制御部は、前記予測吐出量の単位時間当たりの増加量である予測増加速度が、限界供給増加速度を越えるかを判定する判定処理と、前記判定処理により、前記予測増加速度が前記限界供給増加速度を越えないと判定した場合には、前記予測吐出量と、前記圧力差形成部および前記第1接続管に応じた第1タイムラグとに基づいて、前記圧力差形成部を制御する第1制御処理と、前記判定処理により、前記予測増加速度が前記限界供給増加速度を越えると判定した場合には、前記予測吐出量と、前記吐出量が前記予測吐出量となるタイミングと、第1タイムラグよりも長い第2タイムラグとに基づいて、前記圧力差形成部を制御する第2制御処理とを実行可能である。
【0011】
第6態様は、第5態様のインク循環システムであって、前記第1制御処理は、前記供給量の単位時間当たりの増加量である供給増加速度が前記予測増加速度に応じた値となるように、前記圧力差形成部を制御する処理を含む。
【0012】
第7態様は、第5態様または第6態様のインク循環システムであって、前記第2制御処理は、前記供給量の単位時間当たりの増加量である供給増加速度が前記限界供給増加速度に応じた値となるように、前記圧力差形成部を制御する処理を含む。
【0013】
第8態様は、第1態様から第7態様のいずれか1つのインク循環システムであって、前記圧力差形成部は、前記供給タンクおよび前記リターンタンクの両方を負圧にした状態で、前記圧力差を形成する。
【0014】
第9態様は、第1態様から第7態様のいずれか1つのインク循環システムであって、前記圧力差形成部は、前記供給タンクを正圧、前記リターンタンクを負圧にした状態で、前記圧力差を形成する。
【0015】
第10態様は、インクジェット印刷装置であって、基材を搬送方向に搬送する搬送部と、第1態様から第9態様のいずれか1つのインク循環システムとを備える。
【発明の効果】
【0016】
第1態様から第9態様のインク循環システムによると、インクの吐出量を予測し、予測した吐出量に応じて、インクの供給量が制御される。これにより、インクの循環量を適切に制御できる。
【0017】
第2態様のインク循環システムによると、画像データに基づいて、吐出量を正確に予測できる。これにより、インクの供給量を適切に制御できるため、循環量を適切に制御できる。
【0018】
第3態様のインク循環システムによると、印字率を算出することにより、吐出量を正確に予測できる。これにより、インクの供給量を適切に制御できるため、循環量を適切に制御できる。
【0019】
第4態様のインク循環システムによると、タイムラグを考慮して圧力差形成部を制御することによって、吐出量の増減に対して、供給量の増減に遅れが生じることを抑制できる。
【0020】
第5態様のインク循環システムによると、予測増加速度が限界供給増加速度を越えない場合には、予測吐出量と、第1タイムラグとに基づいて、圧力差形成部を制御する。これにより、吐出量が予測吐出量となるタイミングに合わせて、供給量を増大させることができる。また、予測増加速度が限界供給増加速度を越える場合には、予測吐出量と第1タイムラグよりも長い第2タイムラグに基づいて、圧力差形成部を制御する。これにより、予測増加速度が限界供給増加速度を越える場合であっても、吐出量が予測吐出量になる時刻に間に合うように、供給量を増大させることができる。
【0021】
第6態様のインク循環システムによると、供給増加速度を予測増加速度に応じた値となるように圧力差形成部を制御する。これにより、吐出量が予測吐出量となる時刻に合わせて、供給量を増加できる。
【0022】
第7態様のインク循環システムによると、第2タイムラグに基づいて、供給増加速度を限界供給増加速度に応じた値となるように圧力差形成部を制御することによって、吐出量が予測吐出量になる時刻に合わせて、供給量を増加できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態のインクジェット印刷装置を示す図である。
【
図3】圧力制御部の制御フローの例を示す図である。
【
図4】予測吐出量の増加に応じた圧力設定値の変化を示す図である。
【
図5】予測吐出量の増加に応じた圧力設定値の変化を示す図である。
【
図6】ヘッド部の出口側の流量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0025】
<1. 実施形態>
図1は、実施形態のインクジェット印刷装置1を示す図である。インクジェット印刷装置1は、所定の搬送方向に搬送される基材9の表面に、インクジェット方式で画像を形成する装置である。
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、搬送部2と、印刷部3と、制御部8とを備える。
【0026】
搬送部2は、所定の搬送方向に長尺帯状の基材9を搬送する。基材9は、用紙やフィルムである。搬送部2は、基材9をロールtoロール方式で搬送する。搬送部2は、第1搬送ローラ21と、第2搬送ローラ22と、エンコーダ23を備える。第2搬送ローラ22は、第1搬送ローラ21に対して、搬送方向の下流側に離れて位置する。エンコーダ23は、例えば第1搬送ローラ21に取り付けられている。エンコーダ23は、第1搬送ローラ21の回転量を検出する。具体的には、エンコーダ23は、第1搬送ローラ21が所定の角度回転するごとに、パルス信号を制御部8へ出力する。後述する制御部8は、パルス信号に基づいて、各ヘッド部31がインクを吐出するタイミングを決定する。なお、エンコーダ23は、第2搬送ローラ22など、第1搬送ローラ21とは異なる搬送ローラの回転量を検出してもよい。
【0027】
印刷部3は、複数のヘッド部31と、複数のインク供給部4とを備える。複数のヘッド部31は、搬送方向において、互いに所定の間隔をあけて配置されている。複数のヘッド部31は、例えば、互いに異なる色(例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K))のインクを吐出する。
【0028】
ヘッド部31は、搬送部2によって搬送される基材9の表面と対向する吐出面33を有する。吐出面33には、幅方向に沿って並ぶ複数のノズルが設けられている。各ノズルは、ピエゾ方式またはサーマル方式等のインクジェット素子に接続されている。インクジェット素子は、制御部8の制御に基づいて、ノズルからインクを吐出させる。
【0029】
ヘッド部31は、インクを一時的に貯留するためのインク室35を有する。インク室35は、複数のノズルに連通している。インク室35のインクが、各インクジェット素子の動力によって、各ノズルから吐出される。インク供給部4は、ヘッド部31のインク室35にインクを供給する。
【0030】
図2は、インク供給部4の構成を示す図である。
図2に示すように、インク供給部4は、ヘッド部31とともに、インクを循環させるインク循環システムを構成している。具体的には、
図2に示すように、インク供給部4は、供給タンク41と、リターンタンク43と、圧力差形成部5と、第1接続管61と、第2接続管62と、補充タンク63とを備える。
【0031】
供給タンク41およびリターンタンク43は、それぞれインクを貯留可能である。第1接続管61は、供給タンク41とリターンタンク43と接続する。第1接続管61には、ヘッド部31が介挿されている。すなわち、ヘッド部31は、第1接続管61において、供給タンク41とリターンタンク43との間に位置する。第1接続管61は、供給タンク41とインク室35とを接続する配管部と、インク室35とリターンタンク43とを接続する配管部とを含む。
【0032】
供給タンク41に貯留されているインクは、第1接続管61を通って供給タンク41からヘッド部31のインク室35へ移動可能である。また、インク室35のインクは、第1接続管61を通って、リターンタンク43に移動可能である。
【0033】
第2接続管62は、リターンタンク43と供給タンク41とを接続するバイパスである。リターンタンク43に貯留されたインクは、第2接続管62を通って、供給タンク41に移動が可能である。第2接続管62には、リターンポンプ621が設けられている。リターンポンプ621は、リターンタンク43から供給タンク41へインクを送るための圧力を第2接続管62内に発生させる。なお、リターンタンク43から供給タンク41へのインクの移動に、重力が利用されてもよい。
【0034】
補充タンク63は、インクを貯留している。補充タンク63は、供給管631を介して、供給タンク41と接続されている。供給管631には、送液ポンプ632が介挿されている。送液ポンプ632は、補充タンク63のインクを供給タンク41へ送るための圧力を供給管631内に発生させる。例えば、印刷等によって循環するインクの総量が減少した場合には、送液ポンプ632によって、補充タンク63から供給タンク41にインクが供給される。
【0035】
圧力差形成部5は、供給タンク41内の圧力およびリターンタンク43内の圧力を調整することによって、供給タンク41とリターンタンク43と間に圧力差を形成する。以下、圧力差形成部5が形成する圧力差を、単に「圧力差」と称する。圧力差形成部5は、圧力差を形成することによって、供給タンク41からリターンタンク43へ向けてインクを送る。
【0036】
圧力差形成部5は、第1圧力調整部51aと、第2圧力調整部51bとを備える。第1圧力調整部51aは、供給タンク41内の圧力を調整する。第2圧力調整部51bは、リターンタンク43内の圧力を調整する。
【0037】
第1圧力調整部51aは、第1圧力変更部52と、加圧タンク53とを有する。第1圧力調整部51aは、供給タンク41に接続されており、供給タンク41内の圧力を調整する。第1圧力変更部52は、制御部8が出力する制御信号に基づいて、加圧タンク53内の圧力を変更する。第1圧力変更部52は、具体的には、空圧センサ521と、加圧ポンプ522と、減圧ポンプ523と、吸引ポンプ524とを備える。
【0038】
空圧センサ521は、加圧タンク53内に連通する配管内の圧力を計測する。空圧センサ521は計測した圧力を示す測定信号を、制御部8に出力する。
【0039】
加圧ポンプ522および減圧ポンプ523は、加圧タンク53内に接続される配管に設けられている。加圧ポンプ522は、加圧タンク53にエアを送ることによって、加圧タンク53内の圧力を増大させる。減圧ポンプ523は、加圧タンク53のエアを吸引することによって、加圧タンク53内の圧力を低下させる。
【0040】
吸引ポンプ524は、一端が加圧タンク53内に接続され、他端が大気開放された配管の途中に設けられている。吸引ポンプ524は、加圧タンク53内のエアを大気に放出する圧力を配管内に発生させる。
【0041】
加圧タンク53は、供給タンク41と連通している。加圧タンク53内の圧力が変更されることによって、供給タンク41の圧力が変更される。
【0042】
第2圧力調整部51bは、第2圧力変更部54と、負圧タンク55とを有する。第2圧力調整部51bは、負圧タンク55に接続されており、負圧タンク55内の圧力を調整する。第2圧力変更部54は、制御部8が出力する制御信号に基づいて、負圧タンク55内の圧力を変更する。第2圧力変更部54は、第1圧力変更部52と同じ構成を備えるため、説明を省略する。負圧タンク55は、リターンタンク43と連通している。負圧タンク55内の圧力が変更されることによって、リターンタンク43内の圧力が変更される。
【0043】
圧力差形成部5は、供給タンク41内およびリターンタンク43内の両方を負圧にした状態で、圧力差を形成してもよい。また、圧力差形成部5は、供給タンク41内を正圧、リターンタンク43内を負圧にした状態で、圧力差を形成するようにしてもよい。
【0044】
制御部8は、CPUなどのプロセッサ、プログラムを記憶するROM、および、各種情報を記憶するRAMなど、コンピュータとしての構成を有する。制御部8は、画像データと、エンコーダ23が出力するパルス信号とに基づいて、各ヘッド部31からインクを吐出させる。これにより、基材9の表面に、画像データが表現する画像が形成される。
【0045】
図2に示すように、制御部8は、吐出量予測部81と、圧力制御部83とを備える。吐出量予測部81および圧力制御部83は、制御部8のプロセッサがプログラムにしたがって動作することにより実現される機能である。
【0046】
吐出量予測部81は、画像データに基づいて、現時点よりも先の時点においてヘッド部31が吐出するインクの単位時間当たりの吐出量を予測する。吐出量予測部81は、例えば、画像データから印字率を算出する。印字率は、基材9に付与する単位面積当たりのインクの量を表す。吐出量予測部81は、印字率に基づいて、吐出量の予測値である予測吐出量を算出する。なお、吐出量予測部81は、印字率を予測吐出量としてもよい。
【0047】
圧力制御部83は、吐出量予測部81が予測した予測吐出量に応じて、圧力差形成部5を制御することにより、供給タンク41からリターンタンク43へのインクの供給量を制御する。
【0048】
圧力制御部83は、例えば、フィードフォワード制御を行う。より具体的には、後述するように、圧力制御部83は、予測吐出量と、タイムラグ(後述する第1タイムラグT1および第2タイムラグT2)とに基づいて、圧力差形成部5を制御する。圧力制御部83による圧力差形成部5の制御によって、予測吐出量の変動に応じたタイミングで、圧力差が調整される。タイムラグは、圧力制御部83が、第1圧力調整部51aまたは第2圧力調整部51bに対して、圧力差を変更するための制御信号を出力した時刻から、実際に圧力差が変更される時刻までの差(時間差)である。タイムラグの大きさは、例えば、圧力差形成部5および第1接続管61に応じて適宜決定される。より具体的には、タイムラグの大きさは、例えば、第1圧力調整部51aまたは第2圧力調整部51bが有する加圧ポンプ522、減圧ポンプ523の特性、加圧タンク53の大きさや形状、または、第1接続管61の長さや断面の大きさ等に応じて適宜決定される。また、タイムラグの大きさは、インクの粘性や温度などに応じて決定されてもよい。
【0049】
図3は、圧力制御部83の制御例を示す図である。印刷処理が開始されると、吐出量予測部81は、現時点よりも先の時点の予測吐出量を、所定のタイミングで適宜取得する。圧力制御部83は、吐出量予測部81が取得した予測吐出量を監視しつつ、
図3に示す制御フローを実行する。
【0050】
圧力制御部83は、まず、吐出量予測部81が取得した予測吐出量が、現時点の吐出量よりも増加するかを判定する(増加判定処理S1)。圧力制御部83は、増加判定処理S1において、予測吐出量が増加すると判定した場合(Yesの場合)、後述する増加速度判定処理S2を実行する。圧力制御部83は、増加判定処理S1において、予測吐出量が増加しないと判定した場合(Noの場合)、先の時点の予測吐出量が現時点の吐出量から減少するかを判定する(減少判定処理S3)。
【0051】
増加速度判定処理S2は、圧力制御部83が、予測増加速度が限界供給増加速度を越えるかを判定する(増加速度判定処理S2)。なお、予測増加速度は、予測吐出量が増加する速度(単位時間当たりの増加量)である。また、限界供給増加速度は、供給増加速度の最大値であり、供給増加速度は、圧力差形成部5によって、供給タンク41からヘッド部31に供給されるインクの供給量の増加速度(単位時間あたりの増加量)である。供給増加速度は、圧力差形成部5が形成する圧力差の増加速度に対応する値である。供給増加速度と、圧力差の増加速度との関係は、予め、試験に基づいて定められてもよい。限界供給増加速度は、例えば、圧力差形成部5の特性、第1接続管61を含む各配管の大きさ(配管径)、マージンなど諸条件に基づいて定められる。
【0052】
圧力制御部83は、増加速度判定処理S2において、予測増加速度が限界供給増加速度を越えないと判定した場合(NOの場合)、第1制御処理S4を実行する。圧力制御部83は増加速度判定処理S2において、予測増加速度が限界供給増加速度を越えると判定した場合(YES)、圧力制御部83は第2制御処理S5を実行する。第1制御処理S4および第2制御処理S5については、
図4および
図5を参照しつつ説明する。
【0053】
図4および
図5は、予測吐出量の増加に応じた圧力設定値の変化を示す図である。
図4および
図5中、横軸は時間を示し、縦軸は、予測吐出量および圧力差設定値を示す。また、
図4および
図5中、実線で示すグラフG1aは、予測吐出量を示しており、破線で示すグラフG1bは、圧力設定値の変化を示す。圧力差設定値は、圧力制御部83が圧力差形成部5に対して出力する制御信号が示す圧力差の設定値である。圧力差設定値が圧力差形成部5に付与されると、圧力差形成部5は、圧力差が付与された圧力差設定値となるように動作する。
図4及び
図5に示す例では、予測吐出量が、時刻t1にV1から増大し始め、時刻t2にV2となるものとする。
図4は、第1制御処理S4に対応し、
図5は、第2制御処理S5に対応する。
【0054】
図4に示すように、圧力制御部83は、第1制御処理S4において、予測吐出量と、第1タイムラグT1とに基づいて、圧力差形成部5を制御する。また、圧力制御部83は、第1制御処理S4において、供給増加速度が予測増加速度に応じた値となるように、圧力差形成部5を制御する。時刻t1から時刻t2までの間の予測増加速度は、予測吐出量の傾きm(=(V2-V1)/(t2-t1))で表される。この予測増加速度mが、限界供給増加速度Mよりも小さい場合(m<M)、
図4に示すように、圧力制御部83は、時刻t1よりも第1タイムラグT1だけ早い時刻t3から圧力設定値を変更し始める。また、圧力制御部83は、圧力差設定値の増加速度(傾き)を、予測増加速度mと一致させる。これにより、時刻t2において、時刻t2よりも第1タイムラグT1だけ早い時刻t4に、吐出量V1に対応する圧力差設定値が圧力差形成部5に付与される。したがって、時刻t4から第1タイムラグT1だけ遅れた時刻t2に、圧力差を予測吐出量V1に対応した大きさとすることができる。すなわち、予測吐出量V1になる時刻t2に合わせて、供給量を予測吐出量V1に変更できる。
【0055】
一方、予測増加速度mが、限界供給増加速度Mよりも大きい場合、圧力制御部83は、
図5に示す第2制御処理S5を行う。第2制御処理S5では、圧力制御部83は、時刻t1よりも第2タイムラグT2だけ早い時刻t3′から圧力設定値を変更し始める。第2タイムラグT2は、第1タイムラグT1よりも調整時間ΔTだけ長い
時間である。また、圧力制御部83は、圧力設定値の増加速度を限界供給増加速度Mに一致させる。これにより、圧力制御部83は、時刻t2よりも第1タイムラグT1だけ早い時刻t4に、吐出量V1に対応する圧力差設定値を圧力差形成部5に付与する。したがって、時刻t4から第1タイムラグT1だけ遅れた時刻t2において、圧力差を予測吐出量V1に対応した大きさとなる。すなわち、予測吐出量V1になる時刻t2に合わせて、供給量が予測吐出量V1に変更される。なお、調整時間ΔTは、次式で求められる。
【0056】
ΔT=(t4-t3)-(t2-t1)=(V2-V1)/M-(t2-t1)
【0057】
予測増加速度mが限界供給増加速度Mより大きい場合、時刻t1よりも第1タイムラグT1だけ早くから制御を開始したとしても、時刻t2までに供給量を予測吐出量V1に到達させることができない。そこで、時刻t1よりも、第1タイムラグT1に調整時間ΔTを付加した第2タイムラグT2だけ早く制御を開始する。このようにすることで、時刻t2までに、供給量を予測吐出量V2まで増大させることができる。
【0058】
図3に戻って、減少判定処理S3が行われた場合について説明する。圧力制御部83は、減少判定処理S3により、予測吐出量が減少すると判定した場合(YESの場合)、第3制御処理S6を実行する。
【0059】
第3制御処理S6は、圧力制御部83が、予測吐出量と、第1タイムラグT1とに基づいて、圧力差形成部5を制御する処理である。より具体的には、圧力制御部83は、第3制御処理S6において、予測吐出量が減少し始めるタイミングと、予測吐出量の減少速度(予測減少速度)に基づいて、圧力差形成部5を制御する。より具体的には、
図4にて説明した第1制御処理S4と同様に、圧力制御部83は、予測吐出量が減少する時刻よりも第1タイムラグT1だけ早い時刻から、圧力設定値を変更し始める。また、圧力制御部83は、予測減少速度が、限界供給減少速度を超えない場合には、供給減少速度が予測減少速度と一致するように、圧力差形成部5を制御する。ここで、供給減少速度は、圧力差形成部5が供給量を減らすときの、単位時間あたりの減少量である。また、限界供給減少速度は、供給減少速度の最大値である。圧力制御部83は、予測減少速度が限界供給減少速度を越える場合には、供給減少速度が限界供給減少速度となるように、圧力差形成部5を制御する。
【0060】
なお、予測減少速度が限界供給減少速度を越える場合には、圧力制御部83は、第1タイムラグT1よりも長いタイムラグに基づいて、圧力差形成部5を制御してもよい。例えば、
図5で説明した第2制御処理S5と同様に、圧力制御部83は、予測吐出量が減少し始める時刻よりも、第1タイムラグT1に調整時間ΔTを付加した時間だけ早い時刻から、圧力設定値を変更し始めてもよい。
【0061】
図4に戻って、圧力制御部83は、減少判定処理S3において予測吐出量が減少しないと判定した場合(Noの場合)、または、第1制御処理S4、第2制御処理S5および第3制御処理S6のいずれかを完了した場合、印刷処理を終了するかを判定する(終了判定処理S7)。例えば、インクジェット印刷装置1において、すべての印刷ジョブが終了した場合には、圧力制御部83は、終了判定処理S7において印刷処理を終了すると判定する。この場合、圧力制御部83は、
図4に示す制御フローを終了する。また、インクジェット印刷装置1において、印刷が継続されている場合には、圧力制御部83は、終了判定処理S7において印刷処理を継続すると判定する。この場合、圧力制御部83は、増加判定処理S1を再び実行する。
【0062】
図6は、ヘッド部31の出口側の流量の変化を示す図である。
図6において、グラフG1cは、ヘッド部31の出口側の流量を示す。ヘッド部31の出口側の流量は、例えば、第1接続管61におけるヘッド部31とリターンタンク43との間の配管部における流量である。
【0063】
予測吐出量が増加する場合には、上述したように、圧力制御部83は、第1制御処理S4(
図4参照)または第2制御処理S5(
図5参照)を実行する。これらの制御により、ヘッド部31の吐出量が上昇する時刻に遅れることなく、供給量が増大される。したがって、ヘッド部31の出口側の流量の低下が抑制されるため、ヘッド部31にエアが混入することを抑制できる。また、インクの循環量を小さくできるため、インクの劣化が進むことを抑制できる。また、ノズルのメニスカスが不安定になることを抑制できる。さらに、加圧ポンプ522、減圧ポンプ523、リターンポンプ621等の寿命が短くなることを抑制できる。
【0064】
図6に示すように予測吐出量が減少する場合には、圧力制御部83は、予測吐出量が減少し始める時刻よりも第1タイムラグT1だけ早い時刻から圧力設定値を変更し始める。
図6に示す例では、予測減少速度が限界供給減少速度よりも大きい。このため、一時的に吐出量よりも供給量が上回るため、ヘッド部31の出口側の流量も一時的に増加する。ただし、ヘッド部31には充分な量のインクが供給されるため、ヘッド部31からの吐出にはほとんど影響しない。
【0065】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェット印刷装置
2 搬送部
3 印刷部
4 インク供給部
5 圧力差形成部
8 制御部
9 基材
31 ヘッド部
41 供給タンク
43 リターンタンク
61 第1接続管
62 第2接続管
81 吐出量予測部
83 圧力制御部