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  • 特許-熱収縮性多層フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】熱収縮性多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/028 20190101AFI20240822BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B32B7/028
B32B27/20 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020182980
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022073171
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】木林 達也
(72)【発明者】
【氏名】高市 隼
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信弘
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-153475(JP,A)
【文献】国際公開第2014/080777(WO,A1)
【文献】特開2016-182674(JP,A)
【文献】特開2008-062493(JP,A)
【文献】特開2001-072842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を有し、熱可塑性樹脂を含有する基材と、
前記基材の第1面及び第2面の少なくとも一方に積層される中間層と、
前記中間層に積層され、熱可塑性樹脂を含有する表面層と、
を備え、
前記中間層は、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子と、を備え、
前記表面層には、前記中間層の微粒子に沿うように凹凸が形成されており、
前記表面層の厚みは、前記微粒子の最頻粒子径よりも小さい、熱収縮性多層フィルム。
【請求項2】
前記表面層の厚みは、0.1~3μmである、請求項1に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項3】
第1面及び第2面を有し、熱可塑性樹脂を含有する基材と、
前記基材の第1面及び第2面の少なくとも一方に積層される中間層と、
前記中間層に積層され、熱可塑性樹脂を含有する表面層と、
を備え、
前記中間層は、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子と、を備え、
前記表面層には、前記中間層の微粒子に沿うように凹凸が形成されており、
前記中間層、及び前記表面層には、環状オレフィン系樹脂が含有されている、熱収縮性多層フィルム。
【請求項4】
第1面及び第2面を有し、熱可塑性樹脂を含有する基材と、
前記基材の第1面及び第2面のそれぞれに積層される中間層と、
前記中間層のそれぞれに積層され、熱可塑性樹脂を含有する表面層と、
を備え、
前記中間層は、それぞれ、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子と、を備え、
前記表面層のそれぞれには、前記中間層の微粒子に沿うように凹凸が形成されている、熱収縮性多層フィルム。
【請求項5】
第1面及び第2面を有する基材と、
前記基材の第1面及び第2面の少なくとも一方の面に積層される表面層と、
を備え、
前記基材は、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子と、を備え、
前記表面層には、前記基材の微粒子に沿うように凹凸が形成されており、
前記表面層の厚みは、前記微粒子の最頻粒子径よりも小さい、熱収縮性多層フィルム。
【請求項6】
第1面及び第2面を有する基材と、
前記基材の第1面及び第2面の少なくとも一方の面に積層される表面層と、
を備え、
前記基材は、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子と、を備え、
前記表面層には、前記基材の微粒子に沿うように凹凸が形成されており、
前記基材、及び前記表面層には、環状オレフィン系樹脂が含有されている、熱収縮性多層フィルム。
【請求項7】
熱可塑性樹脂を含有する基材用の第1材料、熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子とを含有する中間層用の第2材料、及び熱可塑性樹脂を含有する表面層用の第3材料を準備するステップと、
前記基材の少なくとも一方の面に前記中間層が積層され、さらに前記中間層に前記表面層が積層された中間フィルムを成形するために、前記第1材料、第2材料、及び第3材料を共押出するステップと、
前記中間フィルムを延伸するステップと、
を備え
前記表面層の厚みは、前記微粒子の最頻粒子径よりも小さい、熱収縮性多層フィルムの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂を含有する基材用の第1材料、熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子とを含有する中間層用の第2材料、及び熱可塑性樹脂を含有する表面層用の第3材料を準備するステップと、
前記基材の少なくとも一方の面に前記中間層が積層され、さらに前記中間層に前記表面層が積層された中間フィルムを成形するために、前記第1材料、第2材料、及び第3材料を共押出するステップと、
前記中間フィルムを延伸するステップと、
を備え、
前記第2材料、及び前記第3材料には、環状オレフィン系樹脂が含有されている、熱収縮性多層フィルムの製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂を含有する基材用の第1材料、熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子とを含有する中間層用の第2材料、及び熱可塑性樹脂を含有する表面層用の第3材料を準備するステップと、
前記基材の両面に前記中間層が積層され、さらに前記中間層のそれぞれに前記表面層が積層された中間フィルムを成形するために、前記第1材料、第2材料、及び第3材料を共押出するステップと、
前記中間フィルムを延伸するステップと、
を備えている、熱収縮性多層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね刷りの際のトラッピング不良を防止してインキとびを低減することが可能な熱収縮性多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットボトル、金属罐等の容器の多くには、熱可塑性樹脂からなる熱収縮性フィルムに印刷等を施した熱収縮性ラベルが装着されている。熱収縮性フィルムには、低温収縮性に加えて、耐熱性、耐溶剤性、ミシン目カット性等の種々の性能が要求されている。
【0003】
一般的に、熱収縮性フィルムは、フィルムをロール状に巻き取り、所定のサイズにカットし、印刷、溶剤によるシール、熱収縮による容器への装着が行われるが、巻き取ったフィルム同士が密着することで、繰り出しの際にフィルムが破れたり、フィルム同士を剥がすことができなくなるという問題があった。また、熱収縮により容器に装着する際や容器にラベルを装着した状態で保管した場合に、ラベル同士が接着して剥がれなくなったり、容器からラベルが剥がれたりするという問題があった。
【0004】
そのため、フィルムの滑り性やフィルム同士の接着を防止するために、シリカ、タルク等のアンチブロッキング剤を添加する手法が用いられている。しかしながら、これらのアンチブロッキング剤は、フィルム表面を粗くすることで滑り性や耐ブロッキング性を発現させることができるものの、フィルムの汚れが生じて、外観不良の原因になるという問題があった。
【0005】
これに対して、特許文献1では、長期保管下での耐ブロッキング性、耐自然収縮性を向上させるため、ゴム変性スチレン、滑剤、有機系微粒子等を含有するシュリンクフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-161147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、シュリンクフィルムのラベルに重ね刷りを施す際、先に印刷したインキの上に次のインキを転移させるため、先に刷ったインキ層が後に刷るインキをうまく捕らえる必要がある。しかし、先に印刷したインキに後から印刷したインキが、インキの粘度、フィルムの平滑性、濡れ性等により綺麗に転移しないことがあり、このような現象をトラッピング不良と言う。また、トラッピング不良によりインキが転移されずに色が抜けた状態をインキとびと言う。特に階調印刷の場合、階調レベルが低い部分(色が薄い部分)は後に刷る版の版深度が浅いため、転移するインキの量も少なくトラッピング不良によるインキとびが多い。トラッピング不良はインキとび以外に、色むらも発生する。特許文献1に記載のシュリンクフィルムでは、このようなインキとびを充分に防止できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、重ね刷りの際のトラッピング不良を防止してインキとびを軽減することが可能な熱収縮性多層フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
項1.第1面及び第2面を有し、熱可塑性樹脂を含有する基材と、
前記基材の第1面及び第2面の少なくとも一方に積層される中間層と、
前記中間層に積層され、熱可塑性樹脂を含有する表面層と、
を備え、
前記中間層は、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子と、を備え、
前記表面層には、前記中間層の微粒子に沿うように凹凸が形成されている、熱収縮性多層フィルム。
【0010】
項2.前記表面層の厚みは、前記微粒子の最頻粒子径よりも小さい、項1に記載の熱収縮性多層フィルム。
【0011】
項3.前記表面層の厚みは、0.1~3μmである、項1または2に記載の熱収縮性多層フィルム。
【0012】
項4.前記中間層、及び前記表面層には、環状オレフィン系樹脂が含有されている、項1から3のいずれかに記載の熱収縮性多層フィルム。
【0013】
項5.前記基材の第1面及び第2面に前記中間層がそれぞれ積層され、
前記各中間層に、前記表面層がそれぞれ積層されている、項1から4のいずれかに記載の熱収縮性多層フィルム。
【0014】
項6.第1面及び第2面を有する基材と、
前記基材の第1面及び第2面の少なくとも一方の面に積層される表面層と、
を備え、
前記基材は、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子と、を備え、
前記表面層には、前記基材の微粒子に沿うように凹凸が形成されている、熱収縮性多層フィルム。
【0015】
項7.熱可塑性樹脂を含有する基材用の第1材料、熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂に保持される微粒子とを含有する中間層用の第2材料、及び熱可塑性樹脂を含有する表面層用の第3材料を準備するステップと、
前記基材の少なくとも一方の面に前記中間層が積層され、さらに前記中間層に前記表面層が積層された中間フィルムを成形するために、前記第1材料、第2材料、及び第3材料を共押出するステップと、
前記中間フィルムを延伸するステップと、
を備えている、熱収縮性多層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る熱収縮性多層フィルムによれば、重ね刷りの際のトラッピング不良を防止してインキとびを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の熱収縮性多層フィルムの一例を示す断面図である。
図2】本発明の熱収縮性多層フィルムの一例を示す断面図である。
図3】本発明の熱収縮性多層フィルムの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る熱収縮性多層フィルムの一実施形態について説明する。この熱収縮性多層フィルムは、第1面及び第2面を有するシート状の基材と、この基材の第1面及び第2面の少なくとも一方に積層される中間層と、この中間層に積層される表面層と、を備えている。したがって、図1に示すように、本実施形態にかかる熱収縮性多層フィルムは、基材1の両面に中間層2が積層され、各中間層2にそれぞれ表面層3が積層される態様と、図2に示すように、基材1の一方の面に中間層2が積層され、この中間層2に表面層3が積層される態様と、を取り得るようになっている。以下、各部材について詳細に説明する。
【0019】
<1.基材>
基材1は、熱可塑性樹脂を含有しており、例えば、プロピレン系樹脂、エチレン系樹脂、またはオレフィン系エラストマーを含有する。その他、必要に応じて、石油樹脂、及び環状オレフィン系樹脂の少なくとも1つを含有することができる。以下、説明する。なお、前記熱可塑性樹脂は、バイオマスを原料としたものも使用できる。
【0020】
<1-1.プロピレン系樹脂>
プロピレン系樹脂としては、熱収縮性を発現する観点から、プロピレンを主成分として、α-オレフィンを共重合成分とする二元、又は、三元ランダム共重合体が好ましい。α-オレフィンとしては、具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等からなるものが好ましく、2種類以上のα-オレフィンを含んでいても良い。共重合成分であるα-オレフィンの比率は1~10モル%であるのが好ましい。また、プロピレン系樹脂としては、異なるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の混合物であってもよい。
【0021】
プロピレン系樹脂のビカット軟化温度は、100℃以上であることが好ましく、130℃以上であることが好ましい。このプロピレン系樹脂が、ビカット軟化温度の異なる2種以上のプロピレン系樹脂を含有する混合樹脂である場合、上記プロピレン系樹脂のビカット軟化温度は、各プロピレン系樹脂のビカット軟化温度と配合割合(重量比)との積を合計して算出した見掛けのビカット軟化温度を意味する。
【0022】
基材1を構成する樹脂成分100重量%に対する上記プロピレン系樹脂の含有量は、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましく、65重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。
【0023】
<1-2.エチレン系樹脂>
エチレン系樹脂としては、分岐状低密度ポリエチレン樹脂や直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、又は、これらの混合物が挙げられる。また、エチレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。α-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。上記共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。なかでも、エチレン-ブテン共重合体が好ましく用いられる。
【0024】
上記エチレン系樹脂の密度は、880kg/m3以上であることが好ましく、950kg/m3以下であることが好ましい。
【0025】
エチレン系樹脂のビカット軟化温度は50℃以上であることが好ましく、60℃以下であることが好ましい。また、このエチレン系樹脂のビカット軟化温度は、上述したプロピレン系樹脂のビカット軟化温度よりも低いことが好ましい。エチレン系樹脂のビカット軟化温度とプロピレン系樹脂のビカット軟化温度との差は、45℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、75℃以下であることが好ましく、65℃以下であることがより好ましい。
【0026】
基材1を構成する樹脂成分100重量%に対する上記エチレン系樹脂の含有量は、例えば、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましく、60重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましい。
【0027】
<1-3.石油樹脂>
石油樹脂としては、例えば、シクロペンタジエン又はその二量体からの脂環式石油樹脂やC9成分からの芳香族石油樹脂等が挙げられる。
【0028】
石油樹脂のビカット軟化温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。石油樹脂のビカット軟化温度が上記範囲内であることで、良好な熱収縮性を発現することができる。また、上記プロピレン系樹脂のビカット軟化温度と石油樹脂のビカット軟化温度との差は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。
【0029】
基材1を構成する樹脂成分100重量%に対する上記石油樹脂の含有量は、例えば、5重量%以上、50重量%以下とすることができ、8重量%以上であることが好ましく、45重量%以下であることがより好ましい。含有量がこの範囲であることにより、熱収縮性多層フィルムに高収縮性を付与することができ、且つ高剛性のフィルムを得ることができる。上記上限以下であることにより、低温下における伸度低下、および層間での剥離を抑制することができる。
【0030】
基材1は、テルペン樹脂、ロジン樹脂等の石油樹脂以外の炭化水素樹脂を含んでいてもよい。テルペン樹脂としては、例えば、β-ピネンからのテルペン樹脂やテルペン-フェノール樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン樹脂、グリセリンやペンタエリスリトール等で変性したエステル化ロジン樹脂等が挙げられる。
【0031】
<1-4.オレフィン系エラストマー>
上記オレフィン系エラストマーとしては、プロピレン/α-オレフィンランダム共重合体エラストマー、エチレン/α-オレフィンランダム共重合体エラストマーを用いることが好ましい。上記α-オレフィンランダム共重合体エラストマーとは、炭素数3以上のα-オレフィンの共重合成分が15モル%以上のエラストマーである。ここでα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン-1等が例示できる。
【0032】
基材1を構成する樹脂成分100重量%に対する上記オレフィン系エラストマーの含有量は、60重量%以下であることが好ましい。60重量%を超えると、熱収縮性多層フィルムの腰強度が低下することがある。
【0033】
<1-5.環状オレフィン系樹脂>
環状オレフィン系樹脂を含有することができる。上記環状オレフィン系樹脂の市販品としては、ZEONOR(日本ゼオン社製)、アペル(三井化学社製)、TOPAS(ポリプラスチックス社製)等が挙げられる。具体的には、例えば、後述する中間層2に含有される環状オレフィン系樹脂と同じにすることができる。
【0034】
<1-6.基材の厚み>
基材1の厚みは、例えば、10~60μmであることが好ましく、15~50μmであることがさらに好ましい。
【0035】
<2.中間層>
中間層2は、アンチブロッキング性能を発現する層であり、熱可塑性樹脂と、微粒子とを含有している。微粒子が含有されることで、図1及び図2の拡大図に示すように、中間層2の表面に凹凸を形成することができる。熱可塑性樹脂は、環状オレフィン系樹脂を主成分とすることができ、その他、必要に応じて、ポリオレフィン系樹脂、及び石油樹脂の少なくとも1つを含有することができる。これらの成分の詳細は、基材で説明したとおりであるが、以下、基材1と相違する点について、説明する。なお、図1及び図2の拡大図は、微粒子の役割を説明するために誇張した概略図である。この点は、後述する図3も同じである。
【0036】
<2-1.熱可塑性樹脂>
<2-1-1.環状オレフィン系樹脂>
環状オレフィン系樹脂としては、(a)エチレン又はプロピレンと環状オレフィン(例えば、ノルボルネン及びその誘導体やテトラシクロドデセン及びその誘導体等)との共重合体、(b)該環状オレフィンの開環重合体又はα-オレフィンとの共重合体、(c)上記(b)の重合体の水素添加物、(d)不飽和カルボン酸及びその誘導体等による上記(a)~(c)のグラフト変性物等が挙げられる。また、上記環状オレフィン系樹脂の市販品としては、上述した基材1と同様に、ZEONOR(日本ゼオン社製)、アペル(三井化学社製)、TOPAS(ポリプラスチックス社製)等が挙げられる。環状オレフィン系樹脂を主成分とすることで、熱可塑性樹脂の結晶性を低下させ、熱収縮率が高められるとともに、フィルム製膜時の延伸性も向上することができる。
【0037】
環状オレフィンとしては特に限定されず、具体的には、例えば、ノルボルネン、6-メチルノルボルネン、6-エチルノルボルネン、5-プロピルノルボルネン、6-nーブチルノルボルネン、1-メチルノルボルネン、7-メチルノルボルネン、5,6-ジメチルノルボルネン、5-フェニルノルボルネン、5-ベンジルノルボルネン等が挙げられる。また、テトラシクロドデセン及びその誘導体としては、例えば、8-メチルテトラシクロ-3-ドデセン、8-エチルテトラシクロ-3-ドデセン、5,10-ジメチルテトラシクロ-3-ドデセン等が挙げられる。
【0038】
上記環状オレフィン系樹脂のGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定される数平均分子量は1000以上であることが好ましく、100万以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、フィルムの製膜が容易になる。
【0039】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、130℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。上記ガラス転移温度が20℃以上であると、フィルム表面の耐熱性を良好なものとして、装着ライン上で容器同士のブロッキングの発生を抑制することができ、又、自然収縮率を良好な範囲とすることができる。130℃以下であると、横方向の熱収縮率を充分に大きくすることができる。
【0040】
上記環状オレフィン系樹脂の密度は1000kg/m3以上であることが好ましく、1010kg/m3以上であることがより好ましく、1050kg/m以下であることが好ましく、1040kg/m3以下であることがより好ましい。
【0041】
中間層2を構成する樹脂成分100重量%に対する上記環状オレフィン系樹脂の含有量は、例えば、30重量%以上、85重量%以下とすることができ、より好ましくは40重量%以上、80重量%以下、さらに好ましくは55重量%以上、75重量%以下である。上記範囲であると、熱収縮性多層フィルムの取扱い性や透明性を良好なものとすることができる。
【0042】
<2-1-2.ポリオレフィン系樹脂>
中間層2を構成するポリオレフィン系樹脂としては、前述した<1-1.プロピレン系樹脂>と<1-2.エチレン系樹脂>の項と同じものを使用することでき、中間層2の樹脂成分100重量%に対するポリオレフィン系樹脂の含有量は、例えば、1重量%以上、50重量%以下とすることができ、10重量%以上、40重量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
<2-1-3.石油樹脂>
中間層2を構成する石油樹脂としては、前述した基材層に含有する石油樹脂と同じものを使用することができ、樹脂成分100重量%に対する石油樹脂の含有量は、例えば、1重量%以上、50重量%以下とすることができ、10重量%以上、40重量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
<2-2.微粒子>
中間層2に含有される微粒子は、有機系微粒子または無機系微粒子のいずれも用いることができる。有機系微粒子としては、アクリル系樹脂微粒子、スチレン系樹脂微粒子、スチレン―アクリル系樹脂微粒子、ウレタン系樹脂微粒子、シリコーン系樹脂微粒子等の有機系微粒子を用いることができる。これらは架橋されていても架橋されてなくてもよいが、微粒子の耐熱性を高めるために架橋されていることが望ましい。中でも上記環状オレフィン系樹脂との相溶性の観点からアクリル系樹脂微粒子が好ましく、ポリメタクリル酸メチル系架橋微粒子がさらに好ましい。また、上記有機系微粒子のうち、市販品としては、例えば、テクポリマー(積水化成品工業社製)、ファインスフェア(日本ペイント社製)、ガンツパール(アイカ工業社製)、アートパール(根上工業社製)等が挙げられる。
【0045】
無機系微粒子としては、例えば、シリカ、ゼオライト、アルミナ等を用いることができる。
【0046】
上記微粒子の最頻粒子径は、例えば、1.0~7.0μmであることが好ましく、1.2~6.7μmであることが好ましく、1.5~6.5μmであることがさらに好ましく、2.0~6.3μmであることが特に好ましい。上記最頻粒子径が上記範囲であると、凝集を抑えてトラッピング不良によるインキとびを効果的に抑制することができる。上記最頻粒子径は、公知のレーザー回折・散乱法等により測定した。
【0047】
上記微粒子の含有量は、例えば、中間層2を構成する樹脂成分100重量部に対して、0.01~0.10重量部であることが好ましく、0.03~0.08重量部であることがさらに好ましい。上記含有量が上記範囲であると、上述したように、中間層2の表面に形成された凹凸により、熱収縮性多層フィルムの耐ブロッキング性に加え、トラッピング不良によるインキとびを抑制することができる。また、微粒子は、後述する表面層3よりも硬度が高いことが好ましい。
【0048】
<2-3.厚み>
中間層2の熱可塑性樹脂の厚みは、例えば、1~5μmであることが好ましく、1.5~4.5μmであることがさらに好ましい。
【0049】
<3.表面層>
表面層3は、熱可塑性樹脂で形成されている。熱可塑性樹脂としては、例えば、環状オレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、スチレン系樹脂等、またはこれらの少なくとも1つを混合したものを用いることができる。スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンブタジエン共重合体、水添スチレン系熱可塑性エラストマーを用いることができる。環状オレフィン系樹脂の詳細については、上述したとおりである。また、環状オレフィン系樹脂を用いると、光沢性が増し表面性状をよくすることができる。なお、基材1、中間層2、及び表面層3のうち、隣接する部材において環状オレフィン系樹脂が含有されていると、層間密着性を向上することができる。
【0050】
表面層3の厚みは、例えば、0.1~3μmであることが好ましく、0.2~2μmであることがより好ましく、0.3~1μmであることがさらに好ましい。また、この表面層3の厚みは、上述した中間層2の微粒子の最頻粒子径よりも小さいことが好ましい。このようにすることで、図1及び図2の拡大図に示すように、表面層3が、中間層2の微粒子による凹凸に沿い、表面層3の表面に凹凸が形成される。この凹凸により、アンチブロッキング性能が発現する。アンチブロッキング性能のためには、表面層3の表面粗さRzは、例えば、1~5μmであることが好ましく、1.5~4.5μmであることがより好ましく、1.8~4μmであることがさらに好ましく、2~3.5μmであることが特に好ましい。
【0051】
<4.熱収縮性多層フィルムの厚み>
本発明の熱収縮性多層フィルム全体の厚さは、例えば、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。熱収縮性多層フィルム全体の厚さが上記範囲内であると、優れた熱収縮性、印刷又はセンターシール等の優れたコンバーティング性、優れた装着性が得られる。
【0052】
表面層3には、<2-2.微粒子>の項で記載した微粒子を含有させてもよい。また、表面層3は単層または多層で構成することができる。
【0053】
<5.その他の成分>
上記基材1、中間層2、及び表面層3には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0054】
<6.熱収縮性多層フィルムの熱収縮性能>
本発明の熱収縮性多層フィルムを70℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率は、5%以上であることが好ましく、30%以下であることが好ましい。また、80℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率は、30%以上であることが好ましく、60%以下であることが好ましい。また、100℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率は、60%以上であることが好ましく、76%以下であることが好ましい。熱収縮率が上記範囲内であると、収縮不良等の問題を起こすことがなく、熱収縮性多層フィルムとして好適に使用することができる。
【0055】
<7.熱収縮性多層フィルムの製造方法>
本発明の熱収縮性多層フィルムを製造する方法は特に限定されないが、共押出法により各層を同時に成形する方法が好ましい。上記共押出法がTダイによる共押出である場合、積層の方法は、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式、又は、これらを併用した方法のいずれであってもよい。
【0056】
本発明の熱収縮性多層フィルムを製造する方法としては、具体的には、例えば、上記基材、中間層、及び表面層を構成する原料(それぞれ第1、第2、及び第3材料に相当)をそれぞれ押出機に投入し、ダイスによりシート状に押出し(中間フィルムに相当)、引き取りロールにて冷却固化した後、1軸又は2軸に延伸する方法が挙げられる。上記延伸の方法としては、例えば、ロール延伸法、テンター延伸法又はこれらの組み合わせを用いることができる。延伸温度は、フィルムを構成する樹脂の軟化温度、熱収縮性多層フィルムに要求される収縮特性等に応じて変更されるが、65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、120℃以下であることが好ましく、115℃以下であることがより好ましい。
【0057】
主収縮方向の延伸倍率は、フィルムを構成する樹脂、延伸手段、延伸温度等に応じて変更されるが、3倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましく、7倍以下が好ましく、6倍以下がより好ましい。
【0058】
このような延伸温度及び延伸倍率とすることにより、特に、表面層3及び中間層2の延伸によって、微粒子周囲の樹脂が薄くなり、微粒子による凹凸を中間層2及び表面層3に生じさせることができる。
【0059】
<8.熱収縮性多層フィルムの用途>
本発明の熱収縮性多層フィルムの用途は特に限定されないが、本発明の熱収縮性多層フィルムは、ミシン目のカット性に優れ、耐落下衝撃性に優れるとともに、透明性にも優れることから、例えば、ペットボトル、金属罐等の容器に装着される熱収縮性ラベルのベースフィルムとして好適に用いられる。
【0060】
<9.熱収縮性多層フィルムの他の態様>
上記の説明では、基材1、中間層2、及び表面層3により、熱収縮性多層フィルムを構成しているが、基材1と中間層2を一体化した第2基材を形成し、図3に示すように、この第2基材4の両面に上記と同様の構成の表面層3を形成することで、熱収縮性多層フィルムを構成することができる。なお、第2基材4の一方の面にのみ表面層3を形成することもできる。
【0061】
この熱収縮性多層フィルムの第2基材4は、上述した中間層2と同じ材料で形成することができる。製造方法は、上述した方法とおおむね同じであり、2つの材料(第2基材用及び表面層用の材料)を共押出した後、冷却し延伸することで形成することができる。この第2基材4の厚みは、例えば、10~60μmとすることができる。また、微粒子を表面層3側に偏在させた第2基材層4と表面層3からなる構成も本願の発明の範疇である。具体的には、基材と、<1.基材>の項で説明したのと同じ組成の樹脂組成物と微粒子から成る層と、表面層とを共押出により設けることで製造することが可能である。このような場合、断面写真では2層として観察される。
【0062】
<10.特徴>
本発明によれば、中間層2に微粒子が含有されているため、この微粒子により中間層2に凹凸を形成することができる。そして、この中間層2の凹凸がその表面を覆う表面層3にも形成されるため、表面層3の凹凸によってアンチブロッキング性能を発現することができる。
【0063】
中間層2は、表面層3によって覆われているため、中間層2の微粒子が熱収縮性多層フィルムから離脱するのを防止することができ、表面粗さRzを低くすることができる。これにより、重ね刷りの際のトラッピング不良を防止してインキとびを軽減することが可能となる。また、例えば、微粒子が凝集した場合には、この凝集体が中間層2から突出しやすいが、このような突部も表面層3によって覆われるため、突出の程度を緩和することができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0065】
<1.実施例及び比較例の準備>
以下の通り、実施例1~6,比較例1に係る熱収縮性多層フィルムを作製した。実施例1~3は、図1に示す5層構造、実施例4~6は図2に示す3層構造とした。比較例1は、基材と中間層を有し、表面層を有さない構造とした。
【0066】
基材、中間層、及び表面層を構成する原料として表1に示す成分を用い、これらを表1に示す割合で混合することで、実施例1~6,比較例1に係る基材、中間層、及び表面層を構成する原料組成物を得た。
【0067】
続いて、上記基材、中間層、及び表面層を構成する原料組成物を、別の押出機を用いて、基材はバレル温度180℃、中間層はバレル温度210℃、表面層はバレル温度210℃で溶融させ、Tダイから押出し、30℃に冷却したロールで冷却固化し、未延伸シートを作製した。これを温度90℃のテンター式延伸機でTD方向に5倍延伸し、表1に示す厚みの熱収縮性多層フィルムを作製した。
【0068】
【表1】
表面層、中間層、及び基材を構成する各材料の単位は、質量%である。
【0069】
<2.評価>
上記実施例1~6及び比較例1について、以下の評価を行った。
【0070】
<2-1.光沢度>
ASTM D523に準ずる方法により、日本電色工業社製のVG-2000型を用いて、実施例1~6及び比較例1に対し、入射角45°における光沢度を測定した。
【0071】
<2-2.表面粗さ>
実施例1~6及び比較例1を、東京精密株式会社製サーフコム570Aにセットし、ISO13565-1規格に準拠して、十点平均粗さRzを測定した。測定条件は次のとおりであった。
・カットオフ:0.8mm
・測定端子の駆動速度:0.3mm/秒
・測定長さ:20.0mm
・測定倍率:縦倍率×10,000、横倍率×5
【0072】
<2-3.ブロッキング>
実施例1~6及び比較例1それぞれの任意の箇所から、縦100mm×横30mm(フィルムの流れ方向を縦方向、幅方向を横方向としてサンプルを切り出した)の大きさの測定用サンプルを2枚ずつ切り出した。次に、2枚の測定用サンプルを、同一面(冷却ロールと接する面)同士が縦40mm×横30mmの面積で重なり合うようにした。続いて、この重なり合った測定用サンプルを2枚のガラス板で挟み、その上から、サンプルが重なり合っている部分に5kgの重りを載せた。このようにセットされたサンプルを40℃の恒温槽の中に入れ、48時間放置した。その後、恒温槽より取り出したサンプルを、新東科学株式会社製剥離試験器(Peeling TESTER HEIDON-17)にセットし、引張り速度200mm/minでブロッキングの強度を測定した。
【0073】
ブロックキング強度は低いほどよく、2.0N/cm以上であれば製造上問題が生じる。一方、ブロッキング強度が1.5N/cm以下であれば、製造上問題がなく、1.3N/cm以下であれば、ブロッキングが発生しないことを発明者は確認している。
【0074】
<2-4.トラッピング(印刷適性)>
実施例1~6及び比較例1の表面層に対し、以下の条件で、5色のグラビア印刷機を用いて印刷を行った。印刷の条件は以下の通りであった。
・フィルム幅:900mm
・印刷インキ:大日精化工業株式会社製 OSMタイプ 墨、赤、黄、青、白(下地部分)
・インキ粘度:ザーンカップ法 #3のザーンカップで15秒
・版:彫刻製版により作成したカラーチャート版
・印刷速度:150m/min
【0075】
印刷後、欠点検出器(FUTEC社製)を用いて、実施例1~6及び比較例1の1m2当たりのインキ抜けの個数を測定し、以下の基準で評価した。
・A:5個以下
・B:6個~10個
・C:11個以上
【0076】
<2-5.碁盤目剥離試験(層間密着性)>
温度23℃、相対湿度53%の環境下で、表面層側に縦1mm、横1mm、25マスになるようカットラインを入れた後、セロファンテープを貼り付けて90°剥離を実施した。碁盤目剥離試験の評価は、以下のとおり、25マス中の剥離したマスの数とした。
・A:0~3
・B:4~11
・C:12以上
【0077】
<2-6.評価結果>
評価結果は以下の通りである。
【表2】
【0078】
以上の結果によると、実施例1~6は、表面層を有しているものの、表面粗さが比較例1と同程度になっている。これによって、ブロッキング強度はいずれも1.5N/cm以下となっており、製造上問題がないことが分かった。但し、1種類の化合物により表面層が形成されている実施例1~5の方が、2種類の化合物により表面層が形成されている実施例6に比べ、ブロッキング強度が低いことが分かった。また、比較例1は表面層を有していないため、中間層の微粒子が離脱したおそれがあり、また、表面粗度Rzが実施例に比べて大きいことによってインク抜けの個数が多くなったと考えられる。さらに、実施例1~3,6は、表面層と中間層に環状オレフィン系樹脂が含有されているため、中間層にしか環状オレフィン系樹脂が含有されていない実施例4,5に比べ、層間密着性が向上している。
【符号の説明】
【0079】
1 基材
2 中間層
3 表面層
図1
図2
図3