(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】角度可変固定機構、およびそれを利用可能な骨治療用具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/80 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
A61B17/80
(21)【出願番号】P 2020188074
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】592118103
【氏名又は名称】メイラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003111
【氏名又は名称】あいそう弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坪川 直人
(72)【発明者】
【氏名】森谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】石井 昂晴
【審査官】近藤 裕之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0096631(US,A1)
【文献】特開2015-027474(JP,A)
【文献】特開2018-011691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とを、任意の角度で固定可能な角度可変固定機構であって、
前記第1部材は、基板部と、前記基板部を貫通する貫通孔と、前記貫通孔内に形成された第1部材側ねじ部と
、前記貫通孔の前記第1部材側ねじ部の上側に形成され、上方に向かって拡がる上側凹部と、を備え、
前記第1部材側ねじ部には、前記貫通孔の内面に形成され、一の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延びる第1ねじ溝と、前記貫通孔の内面に形成され、前記一の回転方向とは逆の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延び、前記第1ねじ溝と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝とが形成されており、
前記第1部材側ねじ部は、前記貫通孔が軸方向において一定の内径とされ、かつ前記第1ねじ溝および前記第2ねじ溝が、それぞれ、同軸的に形成され、軸方向において一定の溝深さとされた平行ねじ部とされており、
前記第2部材は、前記第1部材の前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に第2部材側ねじ部を備えた頭部とを備え、
前記頭部は、前記軸部の基端に連設され、先端側に向かって小径となるテーパ部を備え、前記テーパ部の基端部は、その径方向寸法が、前記第1部材の前記貫通孔よりも大きく、かつ前記上側凹部よりも小さいものとなっており、前記第2部材側ねじ部は、前記第2部材の前記頭部の前記テーパ部に形成されたテーパねじ部であり、
前記第2部材側ねじ部は、前記第1部材側ねじ部の前記第1ねじ溝と螺合可能であり、
かつ、前記第2部材側ねじ部が前記テーパねじ部のため、前記第2部材側ねじ部と前記第1部材側ねじ部の螺合の進行により、前記第2部材側ねじ部と前記第1部材側ねじ部が係合し、前記第2部材を前記第1部材に対して前記貫通孔の軸方向に沿った角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定されるものとなっており、
前記第2部材側ねじ部は、前記第1部材側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記第2部材は、前記第2部材側ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記第1部材に対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される
ものとなっており、かつ、
前記第1部材に対して任意の角度で固定された前記第2部材の前記頭部の基端部は、前記上側凹部に収納されることを特徴とする角度可変固定機構。
【請求項2】
前記上側凹部は、上方に向かって拡がるテーパ面と、前記テーパ面の下端縁部と前記貫通孔の上端縁部とを連結し、前記貫通孔の軸に直交する面上に形成される環状平坦面とを備える請求項1に記載の角度可変固定機構。
【請求項3】
前記ねじ山分断部は、その肉厚が端部に向かって薄くなっている請求項1または2に記載の角度可変固定機構。
【請求項4】
前記第1ねじ溝および前記第2ねじ溝が、それぞれ、複数条の螺旋溝からなる請求項1ないし3のいずれかに記載の角度可変固定機構。
【請求項5】
前記第2ねじ溝のピッチ:P2と、前記第1ねじ溝のピッチ:P1との比:P2/P1が0.5~1.5とされている請求項1ないし4のいずれかに記載の角度可変固定機構。
【請求項6】
前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが、互いに、回転方向が逆で、かつ条数、ピッチ、リード、および溝断面形状が同じものとされている請求項1ないし4のいずれかに記載の角度可変固定機構。
【請求項7】
前記第2部材を、前記第1部材に対して、前記貫通孔の軸方向を基準に0°~15°の角度で固定可能な請求項1ないし6のいずれかに記載の角度可変固定機構。
【請求項8】
前記第1部材の前記貫通孔は、前記第1部材の前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記貫通孔の前記第2ねじ溝と螺合可能な第3部材側ねじ部を有する頭部とを備える第3部材と螺合可能である請求項1ないし7のいずれかに記載の角度可変固定機構。
【請求項9】
前記第3部材側ねじ部は、前記第1部材側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記第3部材は、前記第3部材側ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記第1部材に対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される請求項8に記載の角度可変固定機構。
【請求項10】
骨治療用具であって、前記骨治療用具は、骨用プレートと、骨用ねじとを備え、
前記骨用プレートは、基板部と、前記基板部を貫通する貫通孔と、前記貫通孔内に形成されたプレート側ねじ部と
、前記貫通孔の前記第1部材側ねじ部の上側に形成され、上方に向かって拡がる上側凹部と、を備え、
前記プレート側ねじ部には、前記貫通孔の内面に形成され、一の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延びる第1ねじ溝と、前記貫通孔の内面に形成され、前記一の回転方向とは逆の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延び、前記第1ねじ溝と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝とが形成されており、
前記プレート側ねじ部は、前記貫通孔が軸方向において一定の内径とされ、かつ前記第1ねじ溝および前記第2ねじ溝が、それぞれ、同軸的に形成され、軸方向において一定の溝深さとされた平行ねじ部とされており、
前記骨用ねじは、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に骨用ねじ側ねじ部を備えた頭部とを備え、
前記頭部は、前記軸部の基端に連設され、先端側に向かって小径となるテーパ部を備え、前記テーパ部の基端部は、その径方向寸法が、前記骨用プレートの前記貫通孔よりも大きく、かつ前記上側凹部よりも小さいものとなっており、前記骨用ねじ側ねじ部は、前記骨用ねじの前記頭部の前記テーパ部に形成されたテーパねじ部であり、
前記骨用ねじ側ねじ部は、前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と螺合可能であり、
かつ、前記骨用ねじ側ねじ部が前記テーパねじ部のため、前記骨用ねじ側ねじ部と前記プレート側ねじ部の螺合の進行により、前記骨用ねじ側ねじ部と前記プレート側ねじ部が係合し、前記骨用ねじを前記骨用プレートに対して前記貫通孔の軸方向に沿った角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定されるものとなっており、
前記骨用ねじ側ねじ部は、前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記骨用ねじは、前記骨用ねじ側ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記骨用プレートに対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される
ものとなっており、かつ、
前記骨用プレートに対して任意の角度で固定された前記骨用ねじの前記頭部の基端部は、前記上側凹部に収納されることを特徴とする骨治療用具。
【請求項11】
前記上側凹部は、上方に向かって拡がるテーパ面と、前記テーパ面の下端縁部と前記貫通孔の上端縁部とを連結し、前記貫通孔の軸に直交する面上に形成される環状平坦面とを備える請求項10に記載の骨治療用具。
【請求項12】
前記骨用プレートの前記貫通孔は、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記貫通孔の前記第2ねじ溝と螺合可能な第3ねじ部を備えた頭部とを備える第2の骨用ねじと螺合可能である請求項
10または11に記載の骨治療用具。
【請求項13】
前記第2の骨用ねじの前記第3ねじ部は、前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記第2の骨用ねじは、前記骨用プレートに対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される請求項12に記載の骨治療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材を任意の角度で固定するための角度可変固定機構、およびそれを利用可能な骨折部等の治療に用いられる骨治療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
骨の端部(遠位端部および近位端部)もしくはその近傍における骨折は、再接合を必要とする多くの骨折片を生じることがある。そのような骨折部の治療においては、骨折片の位置や姿勢を修復した後、骨折片と骨本体とを固定するため、骨折片と骨本体とに架橋的に取り付けられる骨用プレートが用いられる。
この骨用プレートには、骨用ねじを固定するための開口を有するものがある。そして、特表2012-502687(特許文献1)、特開2006-130317(特許文献2)のように、骨用プレートとして、ねじ固定用の開口の内面に雌ねじ部を備えるものがあり、このような骨用プレートには、上記雌ねじ部と螺合可能な雄ねじ部を頭部に備えた骨用ねじ(特許文献1の
図29、特許文献2の
図5参照)が用いられる。骨用プレートおよび骨用ねじとしては、上記のような雌ねじ部および雄ねじ部を有するものの方が、骨用プレートおよび骨用ねじともに骨への固定効果は高い。
【0003】
上述のような、骨用プレートおよび骨用ねじにおいては、骨用ねじの長手軸を骨用プレートの開口の軸と合わせて、骨用プレートと骨用ねじとを固定できるが、この角度(骨用プレートと骨用ねじの相対角度)が最適ではない可能性がある。例えば、適用部位における骨の形状、骨が受ける力、その他目的とする固定状態等に応じて、当初の設定とは異なる角度が望まれることがある。
そのため、近年、骨用プレートに対して骨用ねじを刺入方向に自由度を持たせつつ固定できる角度可変固定機構(ポリアクシャルロッキング機構とも言われる)が求められている。当該機構を採用した場合、骨用ねじを任意の角度に挿入ないし固定することが可能であり、骨片を所望の位置に固定することが可能となる。そして、例えば、特表2016-512711(特許文献3)や特表2019-526375(特許文献4)には、骨ねじを骨用プレートに対して角度可変に固定するための構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2012-502687
【文献】特開2006-130317
【文献】特表2016-512711
【文献】特表2019-526375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3および特許文献4に記載の機構においては、プレート側の孔に形成されたねじ部(ねじ山)を、当該孔の軸方向に延びる少なくとも1つの凹部によって分断し、分断されたねじ部と骨用ねじの頭部に形成されたねじ部とを係合させることにより、骨用ねじを骨用プレートに対して任意の角度で固定するようになっている。
しかしながら、このような機構においては、プレート側の孔に形成されたねじ部を分断するために、当該孔と異なる軸において凹部を加工する必要があり、製造が面倒である。また、特に特許文献4においては、プレート側の孔に形成されるねじ部がテーパ状ねじとなっており、ねじ部自体の加工も面倒である。
そこで、本発明は、2つの部材を任意の角度で固定するための角度可変固定機構であって、製造が容易であり、相対角度を細かく調整可能でき、速やかかつ強固に2つの部材を固定できる角度可変固定機構、およびそれを利用可能な骨折部等の治療に用いられる骨治療用具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) 第1部材と第2部材とを、任意の角度で固定可能な角度可変固定機構であって、
前記第1部材は、基板部と、前記基板部を貫通する貫通孔と、前記貫通孔内に形成された第1部材側ねじ部と、前記貫通孔の前記第1部材側ねじ部の上側に形成され、上方に向かって拡がる上側凹部と、を備え、
前記第1部材側ねじ部には、前記貫通孔の内面に形成され、一の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延びる第1ねじ溝と、前記貫通孔の内面に形成され、前記一の回転方向とは逆の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延び、前記第1ねじ溝と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝とが形成されており、前記第1部材側ねじ部は、前記貫通孔が軸方向において一定の内径とされ、かつ前記第1ねじ溝および前記第2ねじ溝が、それぞれ、同軸的に形成され、軸方向において一定の溝深さとされた平行ねじ部とされており、
前記第2部材は、前記第1部材の前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に第2部材側ねじ部を備えた頭部とを備え、前記頭部は、前記軸部の基端に連設され、先端側に向かって小径となるテーパ部を備え、前記テーパ部の基端部は、その径方向寸法が、前記第1部材の前記貫通孔よりも大きく、かつ前記上側凹部よりも小さいものとなっており、前記第2部材側ねじ部は、前記第2部材の前記頭部の前記テーパ部に形成されたテーパねじ部であり、
前記第2部材側ねじ部は、前記第1部材側ねじ部の前記第1ねじ溝と螺合可能であり、かつ、前記第2部材側ねじ部が前記テーパねじ部のため、前記第2部材側ねじ部と前記第1部材側ねじ部の螺合の進行により、前記第2部材側ねじ部と前記第1部材側ねじ部が係合し、前記第2部材を前記第1部材に対して前記貫通孔の軸方向に沿った角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定されるものとなっており、
前記第2部材側ねじ部は、前記第1部材側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記第2部材は、前記第2部材側ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記第1部材に対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定されるものとなっており、かつ、
前記第1部材に対して任意の角度で固定された前記第2部材の前記頭部の基端部は、前記上側凹部に収納される角度可変固定機構。
【0007】
(2) 前記上側凹部は、上方に向かって拡がるテーパ面と、前記テーパ面の下端縁部と前記貫通孔の上端縁部とを連結し、前記貫通孔の軸に直交する面上に形成される環状平坦面とを備える上記(1)に記載の角度可変固定機構。
(3) 前記ねじ山分断部は、その肉厚が端部に向かって薄くなっている上記(1)または(2)に記載の角度可変固定機構。
(4) 前記第1ねじ溝および前記第2ねじ溝が、それぞれ、複数条の螺旋溝からなる上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の角度可変固定機構。
(5) 前記第2ねじ溝のピッチ:P2と、前記第1ねじ溝のピッチ:P1との比:P2/P1が0.5~1.5とされている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の角度可変固定機構。
(6) 前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが、互いに、回転方向が逆で、かつ条数、ピッチ、リード、および溝断面形状が同じものとされている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の角度可変固定機構。
(7) 前記第2部材を、前記第1部材に対して、前記貫通孔の軸方向を基準に0°~15°の角度で固定可能な上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の角度可変固定機構。
(8) 前記第1部材の前記貫通孔は、前記第1部材の前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記貫通孔の前記第2ねじ溝と螺合可能な第3部材側ねじ部を有する頭部とを備える第3部材と螺合可能である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の角度可変固定機構。
(9) 前記第3部材側ねじ部は、前記第1部材側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記第3部材は、前記第3部材側ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記第1部材に対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される上記(8)に記載の角度可変固定機構。
【0009】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
(10) 骨治療用具であって、前記骨治療用具は、骨用プレートと、骨用ねじとを備え、
前記骨用プレートは、基板部と、前記基板部を貫通する貫通孔と、前記貫通孔内に形成されたプレート側ねじ部と、前記貫通孔の前記第1部材側ねじ部の上側に形成され、上方に向かって拡がる上側凹部と、を備え、
前記プレート側ねじ部には、前記貫通孔の内面に形成され、一の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延びる第1ねじ溝と、前記貫通孔の内面に形成され、前記一の回転方向とは逆の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延び、前記第1ねじ溝と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝とが形成されており、前記プレート側ねじ部は、前記貫通孔が軸方向において一定の内径とされ、かつ前記第1ねじ溝および前記第2ねじ溝が、それぞれ、同軸的に形成され、軸方向において一定の溝深さとされた平行ねじ部とされており、
前記骨用ねじは、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に骨用ねじ側ねじ部を備えた頭部とを備え、前記頭部は、前記軸部の基端に連設され、先端側に向かって小径となるテーパ部を備え、前記テーパ部の基端部は、その径方向寸法が、前記骨用プレートの前記貫通孔よりも大きく、かつ前記上側凹部よりも小さいものとなっており、前記骨用ねじ側ねじ部は、前記骨用ねじの前記頭部の前記テーパ部に形成されたテーパねじ部であり、
前記骨用ねじ側ねじ部は、前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と螺合可能であり、かつ、前記骨用ねじ側ねじ部が前記テーパねじ部のため、前記骨用ねじ側ねじ部と前記プレート側ねじ部の螺合の進行により、前記骨用ねじ側ねじ部と前記プレート側ねじ部が係合し、前記骨用ねじを前記骨用プレートに対して前記貫通孔の軸方向に沿った角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定されるものとなっており、
前記骨用ねじ側ねじ部は、前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記骨用ねじは、前記骨用ねじ側ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記骨用プレートに対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定されるものとなっており、かつ、
前記骨用プレートに対して任意の角度で固定された前記骨用ねじの前記頭部の基端部は、前記上側凹部に収納される骨治療用具。
【0010】
(11) 前記上側凹部は、上方に向かって拡がるテーパ面と、前記テーパ面の下端縁部と前記貫通孔の上端縁部とを連結し、前記貫通孔の軸に直交する面上に形成される環状平坦面とを備える上記(10)に記載の骨治療用具。
(12) 前記骨用プレートの前記貫通孔は、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記貫通孔の前記第2ねじ溝と螺合可能な第3ねじ部を備えた頭部とを備える第2の骨用ねじと螺合可能である上記(10)または(11)に記載の骨治療用具。
(13) 前記第2の骨用ねじの前記第3ねじ部は、前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能であり、前記第2の骨用ねじは、前記骨用プレートに対して任意の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される上記(12)に記載の骨治療用具。
【発明の効果】
【0011】
本発明の角度可変固定機構は、第1部材は、基板部と、基板部を貫通する貫通孔と、貫通孔内に形成された第1部材側ねじ部とを備え、第1部材側ねじ部には、貫通孔の内面に形成され、一の回転方向において、貫通孔の軸方向に延びる第1ねじ溝と、貫通孔の内面に形成され、一の回転方向とは逆の回転方向において、貫通孔の軸方向に延び、第1ねじ溝と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝とが形成されており、第2部材は、第1部材の貫通孔を貫通可能な軸部と、軸部の基端に設けられ、外面に第2部材側ねじ部を備えた頭部とを備えており、第2部材側ねじ部は、第1部材側ねじ部の第1ねじ溝と螺合可能とされている。
そのため、第2部材側ねじ部と第1部材側ねじ部の第1ねじ溝とを螺合させることにより、第2部材を、第1部材に対して貫通孔の軸方向に沿った角度(貫通孔の軸方向を基準に0°の角度)で、貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定することができる。
さらに、第2部材側ねじ部は、第1部材側ねじ部の第1ねじ溝と第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部に圧接ないしは係合可能とされている。そのため、第2部材を、第1部材に対して任意の角度(例えば、貫通孔の軸方向を基準に15°程度の角度まで)で傾けて挿入した場合、第2部材側ねじ部と第1部材側ねじ部の第1ねじ溝と第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部(言い換えれば、第1ねじ溝の形成により貫通孔の内面に形成されたねじ山が、第2ねじ溝によって分断されることにより形成された部分)とが圧接ないしは係合することにより、第2部材を、第1部材に対して任意の角度で、貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の角度可変固定機構を利用可能な骨用プレートの実施例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の角度可変固定機構を利用可能な
図1に示した骨用プレートを含む骨治療用具の実施例を示す側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した骨用プレートの貫通孔部分を拡大して示す平面説明図である。
【
図6】
図6は、
図1に示した骨用プレートにおけるプレート側ねじ部の形成過程を説明するための、
図5に対応する断面説明図である。
【
図7】
図7は、
図1に示した骨用プレートにおけるプレート側ねじ部の形成過程を説明するための、
図5に対応する断面説明図である。
【
図8】
図8は、
図2に示した骨治療用具において用いられる骨用ねじの実施例を示す正面図である。
【
図10】
図10は、
図2に示した骨治療用具において、骨用ねじを骨用プレートに固定した態様の一例を示す断面説明図である。
【
図11】
図11は、
図2に示した骨治療用具において、骨用ねじを骨用プレートに固定した態様の他の例を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の角度可変固定機構を図面に示した実施例を用いて説明する。
図1ないし
図9に示されるように、本実施例の角度可変固定機構は、第1部材2(骨用プレート2)と第2部材4(骨用ねじ4)とを、任意の角度で固定可能な角度可変固定機構であって、第1部材2は、基板部21と、基板部21を貫通する貫通孔22と、貫通孔22内に形成された第1部材側ねじ部23(プレート側ねじ部23)とを備え、第1部材側ねじ部23には、貫通孔22の内面に形成され、一の回転方向において、貫通孔22の軸方向に延びる第1ねじ溝24と、貫通孔22の内面に形成され、一の回転方向とは逆の回転方向において、貫通孔22の軸方向に延び、第1ねじ溝24と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝25とが形成されており、第2部材4は、第1部材2の貫通孔22を貫通可能な軸部41と、軸部41の基端に設けられ、外面に第2部材側ねじ部43(骨用ねじ側ねじ部43)を備えた頭部42とを備え、第2部材側ねじ部43は、第1部材側ねじ部23の第1ねじ溝24と螺合可能であり、第2部材側ねじ部43は、第1部材側ねじ部23の第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが交差することにより形成されたねじ山分断部26に圧接ないしは係合可能であり、第2部材4は、第2部材側ねじ部43のねじ山分断部26への圧接ないしは係合により、第1部材2に対して任意の角度で、貫通孔22の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される。
第2部材側ねじ部43が第1部材側ねじ部23の第1ねじ溝24と螺合すると、第1のねじ溝24の中心軸は、第2部材側ねじ部43(雄ねじ部)の中心軸と一致する状態となる。両者は、正常な螺合による固定となる。また、第2部材側ねじ部43がねじ山分断部26に圧接ないしは係合すると、第2部材4は、第1部材2に対して任意の角度で、貫通孔22の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される。両者は、圧接ないしは係合による傾斜状態固定となる。
【0014】
本発明の角度可変固定機構は、骨用プレート2と、骨用ねじ4とを備える骨治療用具1において利用可能である。
図1ないし
図9に示されるように、本実施例の角度可変固定機構を利用可能な骨治療用具1は、骨用プレート2(第1部材2)と、骨用ねじ4(第2部材4)とを備え、骨用プレート2は、基板部21と、基板部21を貫通する貫通孔22と、貫通孔22内に形成されたプレート側ねじ部23(第1部材側ねじ部23)とを備え、プレート側ねじ部23には、貫通孔22の内面に形成され、一の回転方向において、貫通孔22の軸方向に延びる第1ねじ溝24と、貫通孔22の内面に形成され、一の回転方向とは逆の回転方向において、貫通孔22の軸方向に延び、第1ねじ溝24と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝25とが形成されており、骨用ねじ4は、骨用プレート2の貫通孔22を貫通可能な軸部41と、軸部41の基端に設けられ、外面に骨用ねじ側ねじ部43(第2部材側ねじ部43)を備えた頭部42とを備え、骨用ねじ側ねじ部43は、プレート側ねじ部23の第1ねじ溝24と螺合可能であり、骨用ねじ側ねじ部43は、プレート側ねじ部23の第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが交差することにより形成されたねじ山分断部26に圧接ないしは係合可能であり、骨用ねじ4は、骨用ねじ側ねじ部43のねじ山分断部26への圧接ないしは係合により、骨用プレート2に対して任意の角度で、貫通孔22の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される。
骨用ねじ側ねじ部43が、プレート側ねじ部23の第1ねじ溝24と螺合すると、第1のねじ溝24の中心軸は、骨用ねじ側ねじ部43(雄ねじ部)の中心軸と一致する状態となる。両者は、正常な螺合による固定となる。また、骨用ねじ側ねじ部43が、ねじ山分断部26に圧接ないしは係合すると、骨用ねじ4は、骨用プレート2に対して任意の角度で、貫通孔22の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される。両者は、圧接ないしは係合による傾斜状態固定となる。
【0015】
骨用プレート2は、
図1および
図2に示すように、基板部21が、平面視において「T」字形状の薄板状に形成されている。基板部21は、ヘッド部27とプレート本体部28を備える。ヘッド部27とプレート本体部28とは、傾斜して連接されており、基板部21は、ヘッド部27とプレート本体部28の境界部において折れ曲がっている。このような骨用プレート
2は、例えば、遠位橈骨における骨折の治療に用いられる。
【0016】
骨用プレート2のプレート本体部28には、平面視において角丸長方形状の固定用孔29が設けられている。固定用孔29は、内面に雌ねじ部を持たないものとなっている。通常の手技では、この固定用孔29と骨ねじ(頭部にねじ部(雄ねじ部)を持たないもの)を用いて骨用プレート2の対象部位に対する初期固定が行われる。
【0017】
プレート本体部28の固定用孔29の長手方向両側には、骨用ねじを固定するための複数(ここでは、2つ)のねじ孔30が設けられている。ねじ孔30の内面には、雌ねじ部が設けられている。雌ねじ部は、ねじ孔30の軸方向に沿って平行に形成されている。雌ねじ部は、図示しない骨用ねじの頭部に設けられた雄ねじ部と螺合可能である。骨用ねじは雌ねじ部に螺合されることにより、骨用プレート2(プレート本体部28)へ取付固定される。
【0018】
骨用プレート2のヘッド部27には、複数(ここでは、7つ)の貫通孔22が設けられている。
図3ないし
図5に示されるように、これらの貫通孔22は、いずれも、軸方向において一定の内径とされ、その軸心が相互に傾斜した角度に形成されている。また、貫通孔22の上側と下側
(具体的には、図4および図5に示すように、貫通孔22のプレート側ねじ部23(第1部材側ねじ部23)の上側と下側)には、それぞれ、上方に向かって拡がる上側凹部31と下方に向かって拡がる下側凹部32が形成されている。上側凹部31や下側凹部32は、後述する骨用ねじ4の頭部42の全体もしくは一部を収納可能とされている。これらの貫通孔22内には、それぞれ、プレート側ねじ部23が形成されている。
【0019】
プレート側ねじ部23においては、貫通孔22の内面に形成され、一の回転方向において、貫通孔22の軸方向に延びる第1ねじ溝24が形成されている。ここでは、第1ねじ溝24は、平面視において右回転で軸方向に進行する、所謂右ねじを構成する螺旋溝からなる。
【0020】
具体的には、
図5に示されるように、第1ねじ溝24は、複数条の螺旋溝からなる。ここでは、第1ねじ溝24は、3つ(3条)のねじ溝(螺旋溝)33,34,35からなる。そのため、第1ねじ溝24においては、リード(ねじが1回転したときに進む距離):L1が、ピッチ(軸方向において隣り合うねじ溝(ねじ山)間の距離):P1の3倍となっている。第1ねじ溝24における螺旋溝の数は、1~4が好ましく、特に、2または3が好ましい。
【0021】
プレート側ねじ部23においては、第1ねじ溝24を構成する3つのねじ溝33,34,35の溝断面形状は同一とされており、ここでは三角形形状とされている。なお、ねじ溝33,34,35の溝断面形状は、三角形形状に限られず、台形形状や矩形形状とされていてもよいが、後述する理由により三角形形状や台形形状とされていることが好ましい。また、第1ねじ溝24は所謂3条ねじを構成するものであり、第1ねじ溝24を構成するねじ溝33,34,35は、それぞれ、貫通孔22の上端部において、周方向に等間隔な位置(貫通孔の中心軸に対して等角度な配置)、具体的には、120°間隔で配置された始端を有する。(
図3において、ねじ溝33,34,35の始端を、それぞれ、S1,S2,S3で示す。)
【0022】
そして、プレート側ねじ部23においては、貫通孔22の内面に形成され、上述した第1ねじ溝24の回転方向(右回転)とは逆の回転方向(左回転)において、貫通孔22の軸方向に延び、第1ねじ溝24と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝25が形成されている。第2ねじ溝25は、平面視において左回転で軸方向に進行する、所謂左ねじを形成する螺旋溝からなる。本実施例では、上述した第1ねじ溝24(第1ねじ溝24の形成により貫通孔22内に形成される雌ねじ部)の中心軸と、第2ねじ溝25(第2ねじ溝25の形成により貫通孔22内に形成される雌ねじ部)の中心軸とは、一致している。
【0023】
具体的には、
図5に示されるように、第2ねじ溝25は、複数条の螺旋溝からなる。ここでは、第2ねじ溝25は、3つ(3条)のねじ溝(螺旋溝)36,37,38からなる。そのため、第2ねじ溝25においては、リード(ねじが1回転したときに進む距離):L2が、ピッチ(軸方向において隣り合うねじ溝(ねじ山)間の距離):P2の3倍となっている。第2ねじ溝25における螺旋溝の数は、1~4が好ましく、特に、2または3が好ましい。
【0024】
プレート側ねじ部23においては、第2ねじ溝25を構成する3つのねじ溝36,37,38の溝断面形状は同一とされており、ここでは三角形形状とされている。なお、ねじ溝36,37,38の溝断面形状は、三角形形状に限られず、台形形状や矩形形状とされていてもよいが、後述する理由により三角形形状や台形形状とされていることが好ましい。また、第2ねじ溝25は所謂3条ねじを構成するものであり、第2ねじ溝25を構成するねじ溝36,37,38は、それぞれ、貫通孔22の上端部において、周方向に等間隔な位置(貫通孔の中心軸に対して等角度な配置)、具体的には、120°間隔で配置された始端S4,S5,S6を有する。(
図3において、ねじ溝36,37,38の始端を、それぞれ、S4,S5,S6で示す。)この実施例では、ねじ溝33の始端S1とねじ溝36の始端S4、ねじ溝34の始端S2とねじ溝37の始端S5、ねじ溝35の始端S3とねじ溝38の始端S6が、それぞれ、同じ位置とされている。なお、ねじ溝33,34,35の始端S1,S2,S3に対するねじ溝36,37,38の始端S4,S5,S6の位置は、周方向においてずれていてもよい。
【0025】
そして、本実施例においては、第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが、互いに、回転方向が逆で、かつ条数、ピッチ、リード、および溝断面形状が同じものとされている。
【0026】
さらに、本実施例においては、骨用プレート2のプレート側ねじ部23は、上述のように、貫通孔22が軸方向において一定の内径とされており、かつ第1ねじ溝24および第2ねじ溝25が、それぞれ、同軸的かつ軸方向において一定の溝深さとされることにより、所謂平行ねじ部(ストレートねじ部)とされている。
【0027】
骨用プレート2においては、
図4および
図5に示されるように、貫通孔22内において、第1部材側ねじ部23の第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが交差することにより、複数のねじ山分断部26が形成されている。すなわち、ねじ山分断部26は、貫通孔22の内面に第1ねじ溝24を形成することによって形成されるねじ山が、第2ねじ溝25によって分断されることにより形成される。言い換えれば、ねじ山分断部26は、貫通孔22の内面に第1ねじ溝24を形成することによって形成されるねじ山のうち、第2ねじ溝25が形成された後も残った部分と言うこともできる。本実施例では、第1ねじ溝24および第2ねじ溝25が三角形形状の溝断面形状とされているため、このようなねじ山分断部26は、その周方向(回転方向)の端部に向かって貫通孔22の軸方向における厚さ(肉厚)が薄く(強度が弱く)なっている。
【0028】
骨用プレート2の形成材料としては、チタン合金(具体的には、JIST7401-2のTi-6Al-4V、ASTM F-136 Ti-6Al-4V ELI)、純チタン(具体的には、JIST7401-1)、ステンレス鋼(具体的には、JISG4303のSUS304、SUS316)などが好ましい。
【0029】
より具体的に、ねじ山分断部26の態様について説明するために、
図5ないし
図7に示されるように、骨用プレート2にプレート側ねじ部23を形成する過程を説明する。
【0030】
まず、
図6に示されるように、骨用プレート2の基板部21(ヘッド部27)に下孔としての円孔状の貫通孔22を形成する。次いで、
図7に示されるように、貫通孔22の内面に第1ねじ溝24(ねじ溝33,34,35)を形成する。第1ねじ溝24の形成は、公知のタップを用いた切削加工にて行うことができる。
【0031】
第1ねじ溝24の形成に伴い、隣り合うねじ溝33,34,35の間にねじ山51,52,53が形成される。ねじ山51,52,53は、その断面形状が、貫通孔22の内周面を上底とするような台形形状とされている。この時点では、貫通孔22には、ねじ溝33,34,35と、ねじ山51,52,53を有する雌ねじ部が形成されているといえる。第1ねじ溝24(言い換えれば、第1ねじ溝24の形成により貫通孔22内に形成される雌ねじ部)は、後述する骨用ねじ4の骨用ねじ側ねじ部43(雄ねじ部)と螺合可能とされている。
【0032】
次いで、
図5に示されるように、貫通孔22の内面に第2ねじ溝25(ねじ溝36,37,38)を形成する。第2ねじ溝25の形成も、公知のタップを用いた切削加工にて行うことができる。また、本実施例では、第1ねじ溝24および第2ねじ溝25が、ともに貫通孔22に対して同軸的に形成されている。そのため、第1ねじ溝24と第2ねじ溝25を形成する際に加工軸(切削加工用のタップの回転軸)を変更することが不要であり、加工が容易になる。なお、第1ねじ溝24と第2ねじ溝25を、同じ加工軸を用い、タップの回転を逆にすることにより形成してもよく、この場合も加工は容易である。
【0033】
貫通孔22内において、第2ねじ溝25は少なくとも一箇所で第1ねじ溝24と交差する。本実施例では、第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが複数箇所において交差することにより複数のねじ山分断部26が形成されている。言い換えれば、第2ねじ溝25のねじ溝36,37,38により、第1ねじ溝24(ねじ溝33,34,35)の形成に伴い形成されたねじ山51,52,53が分断され、ねじ山分断部26が形成される。ねじ山分断部26の端部は第1ねじ溝24と第2ねじ溝25との交差部に露出する。ねじ山分断部26は、第1ねじ溝24および第2ねじ溝25を形成した際に貫通孔22内に残った(ねじ溝が形成されなかった)部分ということもできる。
【0034】
本実施例では、第1ねじ溝24および第2ねじ溝25が、その溝断面形状が三角形形状となるように形成されている。そのため、ねじ山分断部26においては、その周方向(回転方向)の端部に向かって貫通孔22の軸方向における厚さ(肉厚)が薄く(強度が弱く)なっている。言い換えれば、ねじ山分断部26は、第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが交差する部分に向かってその肉厚が薄くなっている。このような態様は、第1ねじ溝24および/または第2ねじ溝25の溝断面形状が三角形形状または台形形状である場合に実現可能であり、そのため、第1ねじ溝24および/または第2ねじ溝25の溝断面形状は三角形形状または台形形状であることが好ましい。
【0035】
なお、第1ねじ溝24および第2ねじ溝25の形成(加工)は、上述したような公知のタップを用いた切削加工に限られず、例えば、転造加工や旋削加工、または切削加工を含めたこれらの加工を組み合わせて形成してもよい。また、本実施例においては、ねじ山分断部26が形成される過程を分かりやすく説明するために、貫通孔22の内面に、先に第1ねじ溝24を形成し、後に第2ねじ溝25を形成することとしたが、第2ねじ溝25を先に形成してもよい。この場合であっても、先に第2ねじ溝25が形成された部分において、第1ねじ溝24の形成に伴い形成されるねじ山51,52,53が分断されることとなり、プレート側ねじ部23は、最終的にねじ山分断部26を含め同じ形状になる。
【0036】
本実施例で用いられる骨用ねじ4は、
図8および
図9に示されるように、軸部41と頭部42を有している。軸部41は、その表面が滑らかにされており、骨用プレート2の貫通孔22を貫通可能とされている。また、軸部41は、骨内(対象となる骨に形成された下孔)に進入可能となっており、その外径は、治療対象となる部位により相違するが、2.0mm~7.5mmが好ましく、特に、2.5~4.0mmが好ましい。
【0037】
骨用ねじ4の頭部42は、軸部41の基端に連設されるテーパ部45を備えている。テーパ部45は先端側(軸部41側)に向かって小径となっている。
図10に示すように、テーパ部45の基端部は、その径方向寸法が、貫通孔22よりも大きく、かつ上側凹部32よりも小さいものとなっており、骨用ねじ側ねじ部43(第2部材側ねじ部)は、骨用ねじ4(第2部材)の頭部42のテーパ部45に形成されたテーパねじ部となっている。また、頭部42は、
図9に示すように、回動治具(例えば、ドライバ)接続用の凹部46を備えている。凹部46は、回動治具の先端形状に対応した形状に形成されている。
【0038】
骨用ねじ4の頭部42は、外面に骨用ねじ側ねじ部43を備える。本実施例では、骨用ねじ側ねじ部43は、頭部42のテーパ部45に形成されている。骨用ねじ側ねじ部43は、平面視(骨用ねじ4の軸方向において頭部42の側から見た場合)において右回転で軸方向に進行する、所謂右ねじを構成する螺旋状の山部(ねじ山)からなる。骨用ねじ側ねじ部43は、骨用ねじ4の頭部42に形成された先端側に向かって小径となるテーパ部45に形成されたテーパねじ部とされている。また、骨用ねじ側ねじ部43は、骨用プレート2のプレート側ねじ部23の第1ねじ溝24と螺合可能である。言い換えれば、骨用ねじ側ねじ部43は、第1ねじ溝24の形成によりプレート側ねじ部23において構成される雌ねじ部内に進入ないしは螺合可能とされており、骨用ねじ4(骨用ねじ側ねじ部43)の軸心(中心軸)と骨用プレート2の貫通孔22の軸心(中心軸)とを略一致させた状態で、骨用ねじ4を回転(ここでは、平面視で右回転)させることにより、骨用ねじ側ねじ部43は、プレート側ねじ部23の第1ねじ溝24内に進入ないし螺合する。
【0039】
より具体的には、
図8に示されるように、骨用ねじ側ねじ部43は、複数条(ここでは、3条)のねじ山47,48,49を有する。そのため、骨用ねじ側ねじ部43においては、リード(ねじが1回転したときに進む距離):L3が、ピッチ(軸方向において隣り合うねじ山(ねじ溝)間の距離):P3の3倍となっている。骨用ねじ側ねじ部43における条数は、第1ねじ溝24における螺旋溝の数と同一であることが好ましく、1~4が好ましく、特に、2または3が好ましい。
【0040】
骨用ねじ側ねじ部43構成する3つのねじ山47,48,49の断面形状は同一とされており、ここではプレート側ねじ部23の第1ねじ溝24(ねじ溝33,34,35)の溝断面形状に対応する三角形形状とされている。なお、ねじ山47,48,49の断面形状は、三角形形状に限られず、台形形状や矩形形状とされていてもよいが、三角形形状や台形形状とされていることが好ましい。また、骨用ねじ側ねじ部43を構成する、ねじ山47,48,49は、それぞれ、骨用ねじ側ねじ部43の先端部(軸部41との連結部)において、周方向に等間隔な位置(骨用ねじの中心軸に対して等角度な配置)、具体的には、120°間隔で配置された始端を有する。
【0041】
骨用ねじ4の形成材料としては、骨用プレート2と同じく、チタン合金(具体的には、JIST7401-2のTi-6Al-4V、ASTM F-136 Ti-6Al-4V ELI)、純チタン(具体的には、JIST7401-1)、ステンレス鋼(具体的には、JISG4303のSUS304、SUS316)などが好ましい。
【0042】
次に、骨用ねじ4を、骨用プレート2に対して固定する態様について説明する。
図10に示されるように、骨用ねじ4(
第2部材:骨用ねじ側ねじ部43)の軸心(中心軸)と骨用プレート2
(第1部材)の貫通孔22の軸心(中心軸)とを略一致させた状態で、骨用ねじ4を回転(ここでは、平面視で右回転)させることにより、骨用ねじ側ねじ部43
(第2部材側ねじ部)は、プレート側ねじ部23
(第1部材側ねじ部)の第1ねじ溝24内に進入ないし螺合する。本実施例では、骨用ねじ側ねじ部43
(第2部材側ねじ部)がテーパねじ部とされているため、骨用ねじ側ねじ部43
(第2部材側ねじ部)が第1ねじ溝24内を進入していくと、骨用ねじ側ねじ部43
(第2部材側ねじ部)が第1ねじ溝24においてプレート側ねじ部23と係合する。このように、骨用ねじ側ねじ部43とプレート側ねじ部23の第1ねじ溝24を螺合させることにより、骨用ねじ4
(第2部材)を、骨用プレート2
(第1部材)に対して貫通孔22の軸方向に沿った角度(貫通孔22の軸方向を基準に0°の角度)で、貫通孔22の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定することができる。
【0043】
また、
図11に示されるように、骨用ねじ4を、骨用プレート2に対して任意の角度:θ(θは、貫通孔22の軸心:Pと骨用ねじ4の軸心:Oとのなす角度とする)で挿入した場合、骨用ねじ側ねじ部43と、プレート側ねじ部23の第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが交差することにより形成されたねじ山分断部26とが圧接ないしは係合することにより、骨用ねじ4を、骨用プレート2に対して任意の角度で、貫通孔22の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定することができる。ここで、骨用ねじ4を、骨用プレート2に対して、貫通孔22の軸方向を基準に0°~15°の角度で固定可能であることが好ましい。
【0044】
より具体的には、骨用プレート2の貫通孔22内では、第1ねじ溝24と第2ねじ溝25とが交差しており、またそれによりねじ山分断部26が形成されている。そのため、骨用ねじ4を、骨用プレート2に対して任意の角度で傾けて挿入した場合、骨用ねじ4は、頭部42(テーパ部45)の比較的小径な先端側部分において貫通孔22内に進入するとともに、あるところで骨用ねじ側ねじ部43(ねじ山47,48,49)が第1ねじ溝24と第2ねじ溝25との交差部分に進入し、骨用ねじ側ねじ部43(ねじ山47,48,49)は、ねじ山分断部26に対して、その端部側から圧接ないし係合することとなる。
【0045】
ここで、本実施例においては、上述したように、ねじ山分断部26は、その周方向(回転方向)の端部に向かって貫通孔22の軸方向における厚さ(肉厚)が薄く(強度が弱く)なっている。そのため、骨用ねじ側ねじ部43(ねじ山47,48,49)が第1ねじ溝24と第2ねじ溝25との交差部分に進入し、ねじ山分断部26の端部と当接した際、抵抗力(骨用ねじ側ねじ部43がねじ山分断部26と当接することにより生じる反力)が最初は小さく、徐々に大きくなっていき、最終的に圧接ないしは係合状態に至るようになっている。従って、骨用ねじ側ねじ部43とねじ山分断部26との当接時に、抵抗力によって骨用ねじ4の挿入角度がずれることがなく、より精密に骨用ねじ4の挿入角度を調整可能である。なお、骨用ねじ側ねじ部43とねじ山分断部26とが圧接ないしは係合する過程で、ねじ山分断部26の塑性変形(弾性変形を超えた領域での変形)を生じることもある。
【0046】
また、骨用プレート2の貫通孔22の上側と下側には、それぞれ、上方に向かって拡がる上側凹部31と下方に向かって拡がる下側凹部32が形成されている。そのため、骨用ねじ4を、骨用プレート2に対して任意の角度で傾けて挿入した場合であっても、骨用ねじ4の頭部42の全体もしくは一部が、上側凹部31や下側凹部32において収納され、それらの骨用プレート2の上面および下面からの突出が抑制される。
【0047】
なお、整形外科用ねじ製品では想定される荷重に対してねじの左右の違いで生体内での挙動が違うことが知られている。すなわち、適用部位や骨用ねじの挿入方向によっては、ゆるみやバックアウト(引き抜け)を防止するために、特定の回転方向が適する場合がある。そのため、骨用プレートや骨用ねじを含む骨治療用手術セットには、頭部のねじ部(雄ねじ部)回転方向のみが異なる2種類の(右ねじと左ねじの)骨用ねじが含まれることがある。
【0048】
上記の事情に対し、本実施例の骨用プレート2は、どちらの回転方向の骨用ねじにも対応できる。すなわち、本実施例の骨用プレート2においては、第1ねじ溝24と、第2ねじ溝25とが、回転方向のみが異なり(第1ねじ溝24は右ねじ、第2ねじ溝25は左ねじ)、条数、ピッチ、リード、溝断面形状は同じものとされている。そのため、右ねじ仕様の骨用ねじを用いた場合、骨用ねじの頭部(骨用ねじ側ねじ部)は第1ねじ溝24内を進入し、第1ねじ溝24と螺合するかねじ山分断部26と圧接もしくは係合する。一方、左ねじ仕様の骨用ねじを用いた場合、骨用ねじの頭部(骨用ねじ側ねじ部)は第2ねじ溝25内を進入し、第2ねじ溝25と螺合するかねじ山分断部26と圧接もしくは係合する。
【0049】
すなわち、本実施例の角度可変固定機構を利用可能な骨治療用具(1)においては、第1部材(骨用プレート2)の貫通孔(22)は、第1部材の貫通孔を貫通可能な軸部と、軸部の基端に設けられ、外面に貫通孔の第2ねじ溝(25)と螺合可能な第3部材側ねじ部(左ねじ部)を有する頭部とを備える第3部材(左ねじ仕様の骨用ねじ)と螺合可能である。そして、第3部材側ねじ部は、第1部材側ねじ部(プレート側ねじ部23)の第1ねじ溝(24)と第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部(26)に圧接ないしは係合可能であり、第3部材は、第3部材側ねじ部のねじ山分断部への圧接ないしは係合により、第1部材に対して任意の角度で、貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される。
第3部材側ねじ部が第1部材側ねじ部(23)の第2ねじ溝(25)と螺合すると、第2のねじ溝(25)の中心軸は、第3部材側ねじ部(雄ねじ部)の中心軸と一致する状態となる。両者は、正常な螺合による固定となる。また、第3部材側ねじ部がねじ山分断部(26)に圧接ないしは係合すると、第3部材は、第1部材(2)に対して任意の角度で、貫通孔(22)の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定される。両者は、圧接ないしは係合による傾斜状態固定となる。
【0050】
なお、骨用プレート(第1部材)における第1ねじ溝と第2ねじ溝の条数、ピッチ、リード、溝断面形状は異なるものとされていてもよい。その場合、第2ねじ溝のピッチ:P2と、第1ねじ溝のピッチ:P1との比:P2/P1が0.5~1.5とされていることが好ましい。
【0051】
また、第1ねじ溝と回転方向が異なるねじ溝として、複数のねじ溝が形成されていてもよい。その場合、第1ねじ溝の形成により形成されたねじ山がそれらのねじ溝に分断され、そこに形成されるねじ山分断部の端部が、第2部材側ねじ部と圧接ないしは係合することにより、第2部材を第1部材に対して任意の角度で固定することができる。
【0052】
また、第2ねじ溝は、一般的なねじを構成しない、単に螺旋状に貫通孔の軸方向に延びる溝にて構成されていてもよい。その場合でも、第1ねじ溝と第2ねじ溝とが少なくとも一箇所で交差することにより、第1ねじ溝の形成により形成されたねじ山が第2ねじ溝に分断され、そこにねじ山分断部の端部が形成される。
【0053】
また、本実施例においては、第1ねじ溝24を、平面視において右回転で軸方向に進行する、所謂右ねじを構成する螺旋溝からなるものとしたが、第1ねじ溝を、平面視において左回転で軸方向に進行する、所謂左ねじを構成する螺旋溝からなるものとしてもよい。
【0055】
また、本実施例では、軸部の表面が滑らかな骨用ねじを用いたが、軸部にねじ部(タッピングねじ部)が形成された骨用ねじを用いてもよい。この場合、当該軸部のねじ部は、骨用プレートの貫通孔を、その内面に形成されたプレート側ねじ部と干渉しないように貫通可能とされていることが好ましい。
【0056】
なお、上記の実施例では、本発明の角度可変固定機構、およびそれを利用可能な骨治療用具および骨用プレートについて、遠位頭骨用の骨治療用具1および骨用プレート2を例示して、説明した。これに限られず、例えば、CHS(大腿骨近位部骨折用)や脊椎用、その他手足の指、歯の形成用、人口関節用の骨治療用具において、本発明の角度可変固定機構を利用することができる。
【0057】
また、本発明の角度可変固定機構は、医療分野以外にも、建築分野等で利用可能である。例えば、建築関係の作業で、比較的柔らかい部材(樹脂部材)に板状部材を取り付ける場合、斜めにスクリュー(タッピングねじ)を挿入することで圧迫力を上げられる。しかし、板状部材に予め挿入角度を異ならせたねじ孔を形成するのは面倒であり、また、金属用のスクリューを用いた場合、スクリューの樹脂部材からの引き抜き強度を上げる工夫が必要となる場合がある。本発明の角度可変固定機構を利用すれば、ねじ孔の形成角度を異ならせることなくスクリューを任意の角度に挿入可能であり、さらにねじ孔にてスクリューの頭部を固定できるため有利である。
【符号の説明】
【0058】
1 骨治療用具
2 骨用プレート(第1部材)
21 基板部
22 貫通孔
23 プレート側ねじ部(第1部材側ねじ部)
24 第1ねじ溝
25 第2ねじ溝
26 ねじ山分断部
4 骨用ねじ(第2部材)
41 軸部
42 頭部
43 骨用ねじ側ねじ部(第2部材側ねじ部)
45 テーパ部