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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】物性値測定方法および汚泥粘度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/16 20060101AFI20240822BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G01N11/16 A
G01N11/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020204641
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2021152522
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020050396
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸和
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓之
(72)【発明者】
【氏名】江崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】王 春暁
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-087725(JP,A)
【文献】特開平03-272464(JP,A)
【文献】実開平04-109354(JP,U)
【文献】特開平11-160218(JP,A)
【文献】特開2013-154257(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00~13/04
C02F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料供給系からチャンバー内に試料とする汚泥を供給する汚泥供給工程と、
チャンバー内に汚泥試料を貯留し、振動式粘度計によりチャンバー内に保持する汚泥試料の粘度を測定する粘度測定工程と、
洗浄液供給系からチャンバー内に洗浄液を供給し、汚泥試料をチャンバーから試料排出系へ排出する洗浄工程と、
洗浄液供給系から供給する洗浄液をチャンバー内に貯留する待機工程を、
この順序で繰り返して半連続的にオンライン測定することを特徴とする汚泥粘度測定方法。
【請求項2】
待機工程において振動式粘度計によりチャンバー内の洗浄液の粘度を測定し、測定した粘度を振動式粘度計のプローブの汚れ度を示す指標粘度とし、指標粘度の基準値からの変化量に基づいてプローブの洗浄時期を判断することを特徴とする請求項1に記載の汚泥粘度測定方法。
【請求項3】
待機工程において振動式粘度計によりチャンバー内の洗浄液の粘度を測定し、測定した粘度を振動式粘度計のプローブの汚れ度を示す指標粘度とし、指標粘度の基準値からの変化量に基づいてプローブの正常性を判断することを特徴とする請求項1に記載の汚泥粘度測定方法。
【請求項4】
汚泥試料を貯留するチャンバーと、チャンバー内の汚泥試料の粘度を測定する振動式粘度計と、チャンバー内に試料とする汚泥を供給する試料供給系と、チャンバー内に洗浄液を供給する洗浄液供給系と、チャンバー内の汚泥試料を排出する試料排出系と、制御装置を備え、
制御装置は、試料供給系からチャンバー内に試料とする汚泥を供給する汚泥供給工程と、チャンバー内に汚泥試料を貯留し、振動式粘度計によりチャンバー内に保持する汚泥試料の粘度を測定する粘度測定工程と、洗浄液供給系からチャンバー内に洗浄液を供給し、汚泥試料をチャンバーから試料排出系へ排出する洗浄工程と、洗浄液供給系から供給する洗浄液をチャンバー内に貯留する待機工程を、この順序で繰り返し実行することを特徴とする汚泥粘度測定装置。
【請求項5】
チャンバーはL字状の内部流路を有し、
内部流路は、斜め下方に伸びる下部域をなす試料供給路と、斜め上方に伸びる上部域をなす試料排出路と、下部域と上部域の接続域をなす屈曲路を有し、
試料排出路が水平方向に対して45°±20°の範囲で斜め上方に向けて傾斜する姿勢にチャンバーを配置し、
下部域の下端に試料供給系および洗浄液供給系が接続し、上部域の先端に試料排出系が接続し、
振動式粘度計は、チャンバーの接続域に設置し、プローブとプローブを振動させて粘度を測定する測定部からなり、プローブ先端の振動子のみを接続域の屈曲路内に露出させて汚泥試料中に浸漬配置したことを特徴とする請求項4に記載の汚泥粘度測定装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の汚泥粘度測定装置と、膜分離装置を有する処理槽を備え、処理槽内の汚泥を試料として試料供給系によりチャンバーに供給し、チャンバー内の汚泥試料を試料排出系により処理槽に戻すことを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の物性値を測定する技術に係り、具体的には汚泥粘度測定の技術に係り、膜分離活性汚泥法における曝気槽内の有機汚泥の粘度等を測定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、膜分離装置を用いて生物処理を行う装置、いわゆるMBR(Membrane Bio Reactor)には、例えば特許文献1に記載するものがある。これは、曝気槽内の液の粘性係数又は粘性係数に相関する物理指標を測定し、この測定値に基いて、汚泥引抜手段の汚泥引抜量を制御するものである。
【0003】
ここでは、膜分離装置が浸漬設置された曝気槽内に原水を導入し、槽内で好気性生物処理し、生物処理液を膜濾過している。
【0004】
曝気槽には槽内設置型の粘性係数測定手段と、槽外設置型の粘性係数測定手段を設けており、これらの測定手段の測定値に基いてブロワの曝気量及び汚泥引抜量を制御する。
【0005】
粘性係数測定手段には、熱線流速計、熱膜流速計、ドップラー流速計、超音波流速計、回転粘度計等のトルクメーター等を使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-75938
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MBRにおいて汚泥粘度を汚泥引抜量の管理指標として用いる場合に、膜濾過性能の低下を防止するために、汚泥引抜量を増加させて汚泥粘度を低減させると、汚泥負荷(F/M比 Food/Microorganisms ratio)の急激な増加を招き、汚泥性状が不安定化する。
【0008】
F/M比は、有機物を除去する際に、流入する有機物量と微生物量のバランスをある範囲内に維持する判断に用いられる。F/M比が大きくなるほどに微生物量に対する有機物量が多くなり、微生物が分解・除去できない余剰な有機物量が多くなって処理水のBODが高くなる。逆に、F/M比が小さくなると有機物量が不足して競争力の弱い微生物が死滅し、活性汚泥は、フロック内に凝集していた微生物を維持できず、浮遊する微生物が増えて凝集性の悪い活性汚泥になる。活性汚泥法で用いるF/M比は、BOD-SS負荷が一般的である。
【0009】
また、回転式粘度計は、試料中に入れた円筒形のローターをモーターにより一定の速度で回転させるもので、ローターの回転運動を定常的な状態に維持するのに必要な回転トルクが試料の粘度に比例することを利用した測定法である。
【0010】
しかし、生物処理槽内に回転式粘度計のローターを浸漬して使用すると、ローターが回転するという構造上の特性からし渣の絡みつきやバイオフィルムの付着が即座に起こり、極めて短時間の内に洗浄のメンテナンスを行う必要があり、粘度測定対象の汚泥が連続して流入する生物処理槽の現場において継続してリアルタイムに汚泥の粘度を測定するには実用性に乏しい。このため、現状においては、回転式粘度計を使用して汚泥粘度を測定する場合には、オフラインにより一定期間毎に測定を行い、日単位の汚泥粘度データに基づいて運転管理を行っている。
【0011】
下水のMBRでは、曝気槽内の活性汚泥を膜分離する上で汚泥粘度は主要な影響因子である。一般に、汚泥粘度が低いと膜濾過は容易となり、汚泥粘度が高いと曝気槽内の汚泥の流動性が落ちることで、曝気により生じる上昇流が濾過膜の膜面に沿って流れるクロスフローの洗浄効果が下がり、膜閉塞が生じ易くなる。
【0012】
汚泥性状は原水性状や気象条件の変化により日々刻々と変化しており、これを受けて膜濾過の状況が変化する。このため、汚泥粘度をリアルタイムに捉えることができれば、膜分離装置の運転管理上において的確な時期に的確な対策を講じることできる。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、試料の物性値をオンラインで継続してリアルタイムに測定する物性値測定方法であり、具体的には汚泥試料の粘度をオンラインで継続してリアルタイムに測定することができる汚泥粘度測定方法および汚泥粘度測定装置を提供し、汚泥粘度の変化を的確に把握して膜分離装置の運転管理や運転予測を行うことで、汚泥引抜量の急激な変化に伴うF/M比の変動を抑制することができる水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る汚泥粘度測定方法は、試料供給系からチャンバー内に試料とする汚泥を供給する汚泥供給工程と、チャンバー内に汚泥試料を貯留し、振動式粘度計によりチャンバー内に保持する汚泥試料の粘度を測定する粘度測定工程と、洗浄液供給系からチャンバー内に洗浄液を供給し、汚泥試料をチャンバーから試料排出系へ排出する洗浄工程と、洗浄液供給系から供給する洗浄液をチャンバー内に貯留する待機工程を、この順序で繰り返して半連続的にオンライン測定することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る汚泥粘度測定方法において、待機工程において振動式粘度計によりチャンバー内の洗浄液の粘度を測定し、測定した粘度を振動式粘度計のプローブの汚れ度を示す指標粘度とし、指標粘度の基準値からの変化量に基づいてプローブの洗浄時期を判断することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る汚泥粘度測定方法において、待機工程において振動式粘度計によりチャンバー内の洗浄液の粘度を測定し、測定した粘度を振動式粘度計のプローブの汚れ度を示す指標粘度とし、指標粘度の基準値からの変化量に基づいてプローブの正常性を判断することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る汚泥粘度測定装置は、汚泥試料を貯留するチャンバーと、チャンバー内の汚泥試料の粘度を測定する振動式粘度計と、チャンバー内に試料とする汚泥を供給する試料供給系と、チャンバー内に洗浄液を供給する洗浄液供給系と、チャンバー内の汚泥試料を排出する試料排出系と、制御装置を備え、制御装置は、試料供給系からチャンバー内に試料とする汚泥を供給する汚泥供給工程と、チャンバー内に汚泥試料を貯留し、振動式粘度計によりチャンバー内に保持する汚泥試料の粘度を測定する粘度測定工程と、洗浄液供給系からチャンバー内に洗浄液を供給し、汚泥試料をチャンバーから試料排出系へ排出する洗浄工程と、洗浄液供給系から供給する洗浄液をチャンバー内に貯留する待機工程を、この順序で繰り返し実行することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る汚泥粘度測定装置において、チャンバーはL字状の内部流路を有し、内部流路は、斜め下方に伸びる下部域をなす試料供給路と、斜め上方に伸びる上部域をなす試料排出路と、下部域と上部域の接続域をなす屈曲路を有し、試料排出路が水平方向に対して45°±20°の範囲で斜め上方に向けて傾斜する姿勢にチャンバーを配置し、下部域の下端に試料供給系および洗浄液供給系が接続し、上部域の先端に試料排出系が接続し、振動式粘度計は、チャンバーの接続域に設置し、プローブとプローブを振動させて粘度を測定する測定部からなり、プローブ先端の振動子のみを接続域の屈曲路内に露出させて汚泥試料中に浸漬配置したことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る水処理装置は、上記に記載の汚泥粘度測定装置と、膜分離装置を有する処理槽を備え、処理槽内の汚泥を試料として試料供給系によりチャンバーに供給し、チャンバー内の汚泥試料を試料排出系により処理槽に戻すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、チャンバー内に貯留した汚泥試料の粘度を測定することで、粘度測定に影響を及ぼす流速のない環境下で測定を行うことができ、測定精度を確実に確保できる。また、振動式粘度計には、プローブに汚泥試料中のし渣が絡まるなどの測定が阻害される構造的な要因がなく、頻繁なメンテナンスを必要とせずに、継続してリアルタイムに粘度測定を行える。
【0023】
さらに、測定後に洗浄液でプローブを洗浄し、かつ汚泥試料と洗浄液を置換し、測定を行っていない待機時にプローブを洗浄液中に保持することで、毎回の洗浄効果に加え、乾燥による異物の付着や、測定の阻害要因となるバイオフィルムの付着を極力抑制でき、継続してリアルタイムに粘度測定を行える。そして、汚泥供給工程と粘度測定工程と洗浄工程と待機工程を繰り返すことで、半連続的なオンライン測定を実現し、振動式粘度計による高精度な粘度測定を実現できる。
【0024】
また、待機中に測定するチャンバー内の洗浄液の測定粘度の値は、プローブにし渣やバイオフィルムが付着すると高くなるので、振動式粘度計のプローブの汚れ度を示す指標粘度とすることができ、指標粘度の基準値からの変化量に基づいてプローブの洗浄時期を的確に判断して無駄のないプローブの洗浄を実施することができる。
【0025】
また、指標粘度の基準値からの変化量はプローブの正常性を判断する指標であり、プローブの正常性が確認できることは測定精度の保証につながる。
【0026】
この汚泥粘度測定装置により膜分離装置を有する処理槽内の汚泥粘度を測定することで、汚泥粘度の変化を的確に把握して膜分離装置の運転管理や運転予測を行うことができ、膜洗浄を適時に実施して、汚泥引抜量の急激な変化に伴うF/M比の変動を抑制することができる。
【0027】
また、L字状のチャンバーを、試料排出路が水平方向に対して45°±20°の範囲で斜め上方に向けて傾斜する姿勢に配置し、プローブ先端の振動子のみを接続域の屈曲路内に露出させているので、チャンバー内に汚泥試料を貯留して粘度測定を行う際に、上部域で重力沈降する汚泥成分は、プローブの振動子に積もることなく、チャンバーの下部域に移動する。よって、粘度測定時に汚泥の重力沈降による影響を回避できる。
【0028】
また、運転を停止する時に汚泥が試料排出路に留まらず、流路内に汚泥中のし渣等が固着するなどして障害となることがない。
【0029】
また、チャンバー内の空気は試料排出路の斜め上方に向けて傾斜する流路に沿ってチャンバー外へ排出されるので、測定時にエアー噛みを抑制できる。
【0030】
プローブ先端の振動子のみを接続域の屈曲路内に露出させて汚泥試料中に浸漬配置しているので、し渣がプローブに絡まず、長期間、6か月以上にわたってメンテナンス洗浄を行わずに運転が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施の形態おける水処理装置を示す模式図
図2】本実施の形態の汚泥粘度測定装置により測定した粘度値と回転式粘度計で測定した粘度値の比較を示すグラフ図
図3】振動式粘度計と回転式粘度計で連続測定したときの粘度値の相関を示すグラフ図
図4】振動式粘度計と回転式粘度計でバッチ測定したときの粘度値の相関を示すグラフ図
図5】振動式粘度計と回転式粘度計で半連続測定したときの粘度値の相関を示すグラフ図
図6】本発明の他の実施の形態おける水処理装置を示す模式図
図7】本発明のさらに他の実施の形態おける汚泥粘度測定装置を示す模式図
図8】本発明のさらに他の実施の形態おける汚泥粘度測定装置を示す模式図
図9】同実施の形態におけるチャンバーの傾斜姿勢を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。以下においては、汚泥粘度を測定する例を示すが、本発明は本実施の形態に限らず、チャンバー内で試料の物性値を測定する構成に広く適用可能である。
【0033】
本実施の形態においては、図1に示すように、水処理装置は、曝気槽1に浸漬型膜分離装置2を配置したものであり、MBRを構成している。浸漬型膜分離装置2は、例えば複数の平板状の平膜モジュールをケーシング3の内部に平行に配置し、隣接する平膜モジュールの相互の膜面間に上向流が流れる流路を形成したものである。各平膜モジュールは、外部の一次側と内部の二次側を濾過膜で隔てた構造をなし、二次側が吸引ポンプ4に接続している。平膜モジュールの下方には、散気装置5が配置してあり、散気装置5にブロア6が接続している。
【0034】
曝気槽1には処理対象の下水等の有機廃水を供給する原水供給系7が接続し、原水供給系7は原水供給ポンプ8を備えている。曝気槽1では供給された原水中の有機分を餌として活性汚泥が増殖する。
【0035】
曝気槽1は汚泥粘度測定装置9を備えている。汚泥粘度測定装置9は、汚泥試料を貯留するL字状のチャンバー10と、チャンバー10に貯留した汚泥試料の粘度を測定する振動式粘度計11と、チャンバー10に試料とする汚泥を曝気槽1から供給する試料供給系12と、チャンバー10に洗浄液を供給する洗浄液供給系13と、チャンバー10の汚泥試料を曝気槽1に排出する試料排出系14と、制御装置15を備えている。
【0036】
チャンバー10はL字状に曲がった形状をなし、縦方向に伸びる下部域の試料供給路101の下端に試料供給系12および洗浄液供給系13が接続し、横方向に伸びる上部域の試料排出路102の先端に試料排出系14が接続している。
【0037】
振動式粘度計11は、チャンバー10の屈曲路103、つまり下部域と上部域の接続域に設置している。振動式粘度計11は、チャンバー10の内部に配置して汚泥試料中に挿入するプローブ16と、プローブ16を振動させて粘度を測定する測定部17からなる。プローブ16は振動子161を、バイオフィルムの付着を抑制するためにポリテトラフルオロエチレンを塗布したカバーで覆ったものであり、チャンバー10の下部域に下方へ向けて垂下している。
【0038】
洗浄液供給系13は、ここでは、洗浄液として水道水を供給するが、洗浄液として薬剤を供給することも可能である。洗浄液供給系13は、水源側に給水ポンプ18を備え、下流側がチャンバー10に接続しており、給水ポンプ18とチャンバー10の間に上流側の第1バルブ19と下流側の第2バルブ20を有している。
【0039】
試料供給系12は、上流側が曝気槽1に接続し、下流側が洗浄液供給系13に第1バルブ19と第2バルブ20の間で接続しており、試料供給ポンプ21を有している。
【0040】
制御装置15は、汚泥供給工程Aと粘度測定工程Bと洗浄工程Cと待機工程Dを、この順序A、B、C、Dの順序で繰り返し実行する。
【0041】
汚泥供給工程Aでは、第1バルブ19を閉栓し、第2バルブ20を開栓する状態で、試料供給ポンプ21を駆動し、試料供給系12を通して曝気槽1からチャンバー10に試料とする汚泥を供給する。汚泥供給工程Aは、例えば1時間毎に1回実施し、1回の実施において試料供給ポンプ21を1分間稼働させる。
【0042】
粘度測定工程Bでは、チャンバー10の内部に汚泥試料を満たした状態で、第2バルブ20を閉栓し、試料供給ポンプ21を停止してチャンバー10に汚泥試料を貯留し、1分間保持する。次に、振動式粘度計11によりチャンバー10の内部に保持する汚泥試料の粘度を測定する。プローブ16を一定の振動数(周波数)で振動させると、プローブ16と汚泥試料の間には粘性による抵抗が働き、抵抗の大きさにより振幅が変化する。測定部17は、プローブ16を一定の振動数、一定の振幅で振動させるのに必要な駆動電力と汚泥粘度の相関に基づいて汚泥粘度を測定する。測定した粘度値を真粘度値とする。
【0043】
洗浄工程Cでは、第1バルブ19と第2バルブ20を開栓する状態で、給水ポンプ18を稼働させて洗浄液の水道水を1分間注入し、水道水によってチャンバー10の内部の汚泥試料を試料排出系14へ押し出して排出するとともに、チャンバー10の内部とプローブ16を洗浄する。このとき、チャンバー10の内部に垂下したプローブ16が軸心方向において洗浄液の水道水流と接触し、プローブ16の全体が洗浄される。
【0044】
待機工程Dでは、第1バルブ19と第2バルブ20を閉栓し、給水ポンプ18を停止させて水道水をチャンバー10の内部に貯留し、プローブ16を水道水の洗浄液中に保持する。そして、振動式粘度計11によりチャンバー10の洗浄液の粘度を測定し、測定した粘度を振動式粘度計11のプローブ16の汚れ度を示す指標粘度とし、指標粘度の基準値からの変化量に基づいてプローブの洗浄時期を判断する。
【0045】
上記の工程をA、B、C、Dの順序で1時間毎に繰り返し実行する。
【0046】
図2は、振動式粘度計と回転式粘度計で測定した粘度経時変化を示しており、上述した半連続測定式において振動式粘度計により粘度測定工程Bで測定した汚泥保持時の汚泥粘度値と、曝気槽1から汚泥試料をサンプリングしてバッチ測定式において回転式粘度計により測定した回転式の汚泥粘度値と、半連続測定式において振動式粘度計により待機工程Dで測定した水保持時の汚泥粘度値を示している。
【0047】
図2において、測定期間の前半では、粘度測定工程Bで測定した汚泥保持時の汚泥粘度値と回転式の汚泥粘度値の相関が良く、期間の後半では両者の間に多少の乖離がみられる。また、水保持時の汚泥粘度値は、期間の前半と後半において安定しているが、期間の前半に比べて期間の後半において全体として上昇しているように見られる。
【0048】
期間の後半の水保持時の汚泥粘度値の上昇は、プローブ16の汚れ度を示す指標粘度の上昇と見ることもでき、プローブ16の汚れが汚泥保持時の汚泥粘度値の測定に影響を与えていると見ることができる。
【0049】
以下においては、連続測定式(オンライン測定)、バッチ測定式(オフライン測定)、半連続測定式(オンライン測定)の各方式において振動式粘度計で測定した振動式粘度値と、サンプリングした汚泥試料をバッチ測定式において回転式粘度計で測定した回転式粘度値の相関について説明する。
【0050】
図3は、連続測定式で測定した振動式粘度値と、バッチ測定式で測定した回転式粘度値との相関を示すものであり、相関係数R=0.5247であった。
【0051】
図4は、バッチ測定式で測定した振動式粘度値と、バッチ測定式で測定した回転式粘度値との相関を示すものであり、相関係数R=0.774であった。
【0052】
バッチ測定式の相関係数が連続測定式の相関係数より高かい理由として以下のことが考えられる。
1.連続測定式では、MLSS濃度の高い汚泥(MBR汚泥)が流れる状態において振動式粘度計で測定を行ったので、汚泥の流速の影響を受けて振動式粘度値の測定精度が安定せず、再現性が悪い測定値となった。
2.MLSS濃度が高い環境下では低粘度範囲の振動式粘度値の測定精度が低い。
【0053】
図5は、半連続測定式で測定した振動式粘度値と、バッチ測定式で測定した回転式粘度値との相関を示すものであり、相関係数R=0.7938であった。
【0054】
この結果は、半連続測定式(オンライン測定)において振動式粘度計により行う測定値は、バッチ測定式(オフライン測定)において回転式粘度計により行う測定値と同様に測定精度の高いものであることを示唆している。
【0055】
以上のことから、本実施の形態によれば、チャンバー10に貯留した汚泥試料の粘度を測定することで、粘度測定に影響を及ぼす流速のない環境下で測定を行うことができ、測定精度を確実に確保できる。また、振動式粘度計11には、プローブ16に汚泥試料中のし渣が絡まるなどの測定が阻害される構造的な要因がなく、頻繁なメンテナンスを必要とせずに、継続してリアルタイムにオンラインで粘度測定を行える。
【0056】
さらに、測定後に洗浄液でプローブ16を洗浄し、かつ汚泥試料と洗浄液を置換し、測定を行っていない待機時にプローブ16を洗浄液中に保持することで、毎回の洗浄効果に加え、乾燥による異物の付着や、測定の阻害要因となるバイオフィルムの付着を極力抑制でき、継続してリアルタイムに粘度測定を行える。そして、汚泥供給工程Aと粘度測定工B程と洗浄工程Cと待機工程Dを繰り返すことで、半連続的なオンライン測定を実現し、振動式粘度計11による高精度な粘度測定を実現できる。
【0057】
また、待機工程において測定するチャンバー10の内部の洗浄液の測定粘度値は、振動式粘度計11のプローブ16の汚れ度を示す指標粘度とすることができ、指標粘度の基準値からの変化量に基づいてプローブ16の洗浄時期を的確に判断して無駄のないプローブ16の洗浄を実施することができる。
【0058】
また、指標粘度の基準値からの変化量はプローブ16の正常性を判断する指標であり、プローブ16の正常性が確認できることは測定精度の保証につながる。
【0059】
したがって、汚泥粘度測定装置9の振動式粘度計11により浸漬型膜分離装置2を有する曝気槽1の内部の汚泥粘度を測定することで、汚泥粘度の変化を的確に把握して浸漬型膜分離装置2の運転管理や運転予測を行うことができ、膜洗浄を適時に実施して、汚泥引抜量の急激な変化に伴うF/M比の変動を抑制することができる。
【0060】
上述した実施の形態では、プローブ16が上下方向に向くように汚泥粘度測定装置9を配置した。しかし、汚泥粘度測定装置9の設置向きは任意であり、例えば図6に示すように、プローブ16が左右横方向に向くように汚泥粘度測定装置9を配置することも可能である。
【0061】
また、上述した汚泥粘度測定装置9は、チャンバー10の形がL字状であり、汚泥試料がプローブ16の軸心方向に沿って並流に流れる構成であった。しかし、図7に示すようにチャンバー10は、逆T字状でも、あるいはT字状でも可能である。この場合、直線状の流路の途中にプローブ16を、汚泥試料の流れを横切るように配置する。
【0062】
また、図8および図9に示すように、チャンバー10は、試料排出路102が水平方向に対して45°±20°の範囲で斜め上方に向けて傾斜する姿勢にチャンバーを配置することも可能である。そして、プローブ先端の振動子161のみを接続域の屈曲路103の内部に露出させて汚泥試料中に浸漬配置する。
【0063】
この構成により、チャンバー10の内部流路に汚泥試料を貯留して粘度測定を行う際に、上部域の試料排出路102で重力沈降する汚泥成分は、プローブ16の振動子16に積もることなく、チャンバー10の斜め下方に向けて傾斜する下部域の試料供給路101に移動する。よって、粘度測定時に汚泥の重力沈降による影響を回避できる。
【0064】
また、運転を停止する時に汚泥が試料排出路102に留まらず、流路内に汚泥中のし渣等が固着するなどして障害となることがない。
【0065】
また、チャンバー10の内部の空気は試料排出路102の斜め上方に向けて傾斜する流路に沿ってチャンバー10の外へ排出されるので、測定時にエアー噛みを抑制できる。
【0066】
プローブ先端の振動子161のみを接続域の屈曲路103内に露出させて汚泥試料中に浸漬配置しているので、し渣がプローブ16に絡まず、長期間、6か月以上にわたってメンテナンス洗浄を行わずに運転が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 曝気槽
2 浸漬型膜分離装置
9 汚泥粘度測定装置
10 チャンバー
11 振動式粘度計
12 試料供給系
13 洗浄液供給系
14 試料排出系
15 制御装置
16 プローブ
17 測定部
101 試料供給路
102 試料排出路
103 屈曲路
161 振動子
A 汚泥供給工程
B 粘度測定工程
C 洗浄工程
D 待機工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9