(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】血液脳関門モデルとして機能できる装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240822BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240822BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240822BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240822BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20240822BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240822BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12M1/00 A
C12M3/00 A
C12Q1/02
C12N5/079
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2020529822
(86)(22)【出願日】2018-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2018071759
(87)【国際公開番号】W WO2019030380
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-07-09
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508034934
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ポワティエール
(73)【特許権者】
【識別番号】520047565
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニベルシテール ドゥ ポワティエール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ギュイレーヌ パジェ
(72)【発明者】
【氏名】ハニトリニアイナ ラベオニー
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン シャサン
(72)【発明者】
【氏名】エミリー デュガスト
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー ジャネ
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-166915(JP,A)
【文献】特開2001-238681(JP,A)
【文献】国際公開第2017/070224(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/003546(WO,A2)
【文献】Vandenhaute E. et al.,Modelling the neurovascular unit and the blood-brain barrier with the unique function of pericytes.,Current Neurovascular Research,2011年,vol. 8, no. 4,258-269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12M 1/00-3/10
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性合成膜により分離される2つの区画、すなわち内皮細胞及び周皮細胞を含む管腔区画、及び星状細胞及びミクログリアを含む管腔外区画を含み、ミクログリアの星状細胞に対する播種比が約1%~約10%であり、そして当該多孔性合成膜が、各区画の細胞と接触して存在する、装置。
【請求項2】
周皮細胞の内皮細胞に対する播種比が約1/2~1/4である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
周皮細胞及び内皮細胞が、管腔区画における重ねられた層に配置される、請求項1又は2のいずれかに記載の装置。
【請求項4】
周皮細胞が多孔性合成膜上に又は多孔性合成膜と接触して配置され、内皮細胞が周皮細胞の上に配置されることにより、周皮細胞が内皮細胞と密接に接触して存在する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
管腔区画が更に血液細胞を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
管腔外区画が周皮細胞を含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記すべての細胞が、同じ動物種に由来する、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
1又は2以上の細胞型が一次培養に由来する、請求項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
1又は2以上の細胞型が不死細胞の培養物に由来する、請求項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記内皮細胞及び周皮細胞が、同年齢の個人の一次培養に由来する、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
一次培養に由来する前記細胞型の1又は2以上が、疾患モデル細胞型である、請求項8又は10に記載の装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の装置の製造方法であって、以下の工程:
a)多孔性合成膜の片側上に星状細胞及びミクログリアを播種する工程;
b)星状細胞を含む側が表面に面するよう配置されるように、多孔性合成膜を表面上に挿入するか、又は堆積する工程;及び
c)多孔性合成膜の管腔側を内皮細胞及び周皮細胞により播種する工程;
を含む製造方法。
【請求項13】
前記工程a)が更に前記表面上に星状細胞及びミクログリアを播種する工程を更に含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の装置の製造方法であって、以下の工程:
a)多孔性合成膜の片側に星状細胞及びミクログリアを播種する工程;
b)多孔性合成膜の反対側上を内皮細胞及び周皮細胞により播種する工程;
を含む製造方法。
【請求項15】
更に、c)星状細胞を含む側が
表面に面するよう配置されるように、多孔性合成膜を
表面上に堆積する工程;を含む、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記多孔性合成膜が各区画の細胞と接触して存在する、請求項12~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
星状細胞及びミクログリアが播種される前に一緒に培養される、請求項12~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
血液脳関門(HEB)のモデルとしての、請求項1~11のいずれか1項に記載の
装置の使用。
【請求項19】
前記モデルの透過性を試験するためへの、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
化合物に対するモデルの透過性を試験するためへの請求項18に記載の
使用であって、以下の工程:
a)前記装置の区画の1つに前記化合物を添加する工程;
b)前記装置をインキュベートする工程;及び
c)前記化合物の添加が行われていない区画における前記化合物及び/又はその代謝物の存在を検出し、そして分析する工程;
を含む使用。
【請求項21】
疾患の生理病理学を研究し、又はHEBの細胞及び分子アクターを標的とする予防、治療又は診断目的で開発された分子を試験するか、又は物理的状態又は試験プロトコルを試験するためへの、請求項18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の細部型が配置されている2つの区画を含む血液脳関門(HEB)のモデルとして機能できる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は、特定構造の血液脳関門(HEB又は血液脳関門(BBB))により循環血液から分離及び単離される。この関門は、隣接細胞、特に周皮細胞及び星状細胞と相互作用する内皮細胞により主に形成される。後者はミクログリア及びニューロンと相互作用する。HEBは、いくつかの主要機能を実行し、分子及びイオンの通過を細かく制御し、ニューロンの必要に応じて栄養素及び酸素を瞬時に供給し、そして毒素及び病原体から脳を保護することにより、ニューロンの適切な機能を可能にする環境を維持する。
【0003】
脳に作用するように設計された医薬品が効果的であるためには、HEBを簡単に通過できる必要がある。HEBを通しての分子の通過を研究し、そしてそれに応じて、その最適化を可能にするために、この関門のいくつかのインビトロモデルが今日まで開発されて来た。それらのモデルには、多くの場合、内皮細胞が多孔性合成膜により他の細胞型から分離されている多くの異なる細胞型の培養を必要とする。
【0004】
しかしながら、インビトロでHEBにより類似し、そして特定の変性疾患及び障害の病態生理学の研究、HEBに対する老化の影響の研究、及び特に治療又は診断目的のための分子の通過の研究、等の種々の異なる研究を実施するために必要され得る関門モデルの必要性が引き続き存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、周皮細胞と内皮細胞とを直接接触させ、それにより、血管に組織化された構造の出現を促進することに成功し、そして従って、インビボでHEBに非常に類似する不透過性モデルの取得を可能にした。
【0006】
従って、本発明の目的は、多孔性合成膜により分離される2つの区画、すなわち内皮細胞及び周皮細胞を含む管腔区画と呼ばれる1つの区画、及び星状細胞及びミクログロリアを含む管腔外区画と呼ばれる1つの区画を含む装置に関する。さらに、菅腔側に、抹消血単核細胞(PBMC)が堆積され得る。
【0007】
この型の装置は、インビボで観察されるものと非常に類似する不透過性及び機能性を示すHEBモデルの取得を可能する。本発明者らは、内皮細胞がこの装置内で血管組織化することさえ観察した。
【0008】
多孔性合成膜は、管状でも、又は平面であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一次細胞の培養物を含む装置の製造の概略図である。 D1日目、星状細胞及びミクログリアを解凍し、そして内皮細胞及び周皮細胞をマウス脳から精製する。PBMCを、マウス抹消血液から抽出する。 D3日目、細胞培養培地を更新し、すなわち内皮細胞の培地中のピューロマイシンの結果を停止し、新しい培地と交換する。 D5日目、細胞培養培地を再び更新する。 D8日目、ドット「.」により表される星状細胞及びミクログロリアを、培養皿に播種する。他の細胞の培養培地を更新する。 D10日目、ミクログリア細胞を観察することが可能である。 D11日目、星状細胞及びミクログリアを、多孔性合成膜上に播種する。 D12日目、多孔性合成膜を、2つの星状細胞培養物が接触して存在するよう培養皿に堆積し、従って管腔外区画を形成する。次に、それぞれ、四角及び円(「□」、「〇」)により表される周皮細胞及び内皮細胞を、多孔性合成膜の上面上に播種し、従って管腔区画を形成する。ヒドロコルチゾンによる装置の処置を開始する。 D15日目、ヒドロコルチゾンによる装置の処置を完結し、十字「+」により表されるPBMCを、菅腔区画に播種する。モデルを使用する準備ができる。
【0010】
【
図2】
図2は、アルツハイマー病(AD)及び野生型(WT)マウスのマウスモデルに由来する一次細胞の培養物を含む本発明の装置上のFITC-デキストランの傍細胞透過性を示す。 装置の透過性の試験を、4kDのFITC-デキストランにより実施する。培養培地を、管腔外区画内のCa
2+/Mg
2+及び管腔区画中の500μlのFITC-デキストラン(すなわち、2.10
-6モル)を含むHBSS1mlにより交換する。管腔及び管腔外区画中の50μlのサンプルを、0分、10分、20分、30分、1時間及び1.5時間で採取し、そして96ウェルブラックプレートに配置し、Varioskanマイクロプレートリーダー(Thermo Scientific)上で読み取る。FITC-デキストランの励起波長(λex)は485nmであり、そして発光波長(λem)は515nmである。
図2は、曲線の形での管腔外区画について得られた結果を示す。細胞を含まないが、しかし研究された他の装置と同じ「コーチング」マトリックスによりコーチングされた装置(AD対WT)に対応する対照装置に関して、*p<0.05、**p<0.01。 装置ADの透過性は、装置WTに比較して高いままであり(46%)、従って、健康な装置に比較して病理関連装置の低い不透過性を示している。使用される統計学的試験は、Kruskal-Wallis試験、続いて多重比較についてのDunn試験である。
【0011】
【
図3】
図3は、野生型マウス(WT)からの一次細胞の培養物を含む本発明の装置上のFITC-デキストランの傍細胞透過係数を示す。 透過係数Peの計算は、以下の式を用いて行われる: Pe = dQ/(dT*A*Co) Pe:透過係数(cm/s) dQ:輸送される量(モル) dT:インキュベーション時間(秒) A:多孔性合成膜の表面積(ここでは、1.12cm
2) Co:初期濃度(4.10
-6モル/cm
3) dQの決定は、以下の計算に基づいて行われる: (1hでの管腔外蛍光強度)*2.10
-6/(T0での管腔蛍光強度) 蛍光強度は、各区画(管腔外及び管腔)に存在するFITC-デキストランの量に比例する。 透過係数は
図3に示され、そして1時間後に計算される。結果は、各グループの3~4の装置の透過係数の平均±SEM(平均標準偏差)を示す。細胞を有さないが、しかし装置WTと同じ「コーチング」マトリックスによりコーチングされた装置に対応する対照装置に関して
*p<0.01。使用される統計学試験は、Mann Whitney試験である。
【0012】
【
図4】
図4は、本発明の装置におけるP-糖タンパク質の機能性を示す。 P-糖タンパク質の基質としてのこの分子は、P-糖タンパク質により管腔区画中に排出され、従って、装置を通してのその通過を制限することが知られているので、この機能性試験はローダミン123により実施される。以下の培養培地を補充する:管腔外区画に1ml、及び5μMのp-タンパク質Pのゾスキダル阻害剤を含むか、又は含まない管腔区画に250μl(Dantzing et al., 1996)。装置をインキュベーター内で2時間インキュベートする。次に、5μMのゾスキダルを含むか又は含まない、2μMのローダミン123を含む培地250μlを、管腔区画中に添加し、そしてインキュベーター内で1時間インキュベートする。管腔及び管腔外区画のサンプル50μlを、ローダミン123を含む培地の添加の直後、及び37℃での1時間のインキュベーションの後、採取する。サンプルを、96ウェルブラックプレートのウェルに配置する。蛍光強度の読み取りを、透過試験(上記)と同じ装置上で行う。ローダミンのλexは500nmであり、そしてλemは524nmである。
図4においては、結果は、ローダミン123と共に細胞を1時間インキュベートした後、蛍光強度の平均±SEMを表す(各グループにおいてn=4~8)。装置WTを通るローダミン123の通過は、細胞を含まない装置と比較して、72.6%減少する(
**p<0.01)。特定のP-糖タンパク質阻害剤の存在は、57.3%流出を抑制する。使用される統計学的試験は、Kruskal-Wallis試験、続いて多重比較のためのDunn試験である。
【0013】
【
図5】
図5は、12及び24ウェルを有する、本発明のネズミ装置における経内皮電気抵抗(TEER)を示す。
図5においては、結果は、平均±SEMを表す。12ウェル形式(
図5A)に関しては、12ウェル形式を有する、n=16の対照及びn=18の装置。24ウェル形式(
図5B)に関しては、24ウェル形式を有する、n=12の対照及びn=74の装置。使用される統計学的試験は、Mann Whitney試験である:
****P<0.0001。
【0014】
【
図6】
図6は、24及び96ウェル形式での本発明のネズミ装置上でのFITC-デキストランの透過係数を示す。
図6においては、結果は、平均±SEMを表す。24ウェル形式(
図6A)に関しては、n=12の対照及びn=50の装置。96ウェル形式(
図6B)に関しては、n=8の対照及びn=54の装置。使用される統計学的試験は、Mann Whitney試験である:
****P<0.0001。
【0015】
【
図7】
図7は、24及び96ウェル形式での本発明のネズミ装置におけるP-糖タンパク質の機能性を示す。
図7においては、結果は平均±SEMを表す。24ウェル形式(
図7A)に関してはn=12の対照、及びゾスキダルを有さない24ウェル形式でのn=9装置及びゾスキダルを有する24ウェル型式でのn=10の装置。96ウェル形式(
図7B)に関しては、n=7の対照、及びズスキダルを有さない96ウェル形式でのn=6の装置及びゾスキダルを有する96ウェル形式でのn=9の装置。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【0016】
【
図8】
図8は、24及び96ウェル形式での本発明のネズミ装置上での8つの分子の透過係数を示す。 分子を、管腔区画中に添加し、そして48時間インキュベートする。次に管腔及び管腔外培地を、分子のアッセイのために集める。
図8においては、計算される異なる透過係数を表し(結果は、平均±SEMを表す)、24ウェル形式について得られる結果は、
図8Aに示され、そして96ウェル形式について得られる結果は
図8Bに示される。
【0017】
【
図9】
図9は、市販の装置におけるFITC-デキストランの経内皮電気抵抗(TEER及び透過係数を示す。
図9Aに表されるものは、経内皮電気抵抗(TEER)である(n=14の対照及びn=36の24ウェル装置)。
図9Bに表されるものは、FITC-デキストランの透過係数である(n=8の対照及びn=23の24ウェル装置)。結果は、平均±SEMを表す。使用される統計学的試験は、Mann Whitney試験である:
****p<0.0001。
【0018】
【
図10】
図10は市販の装置におけるP-糖タンパク質の機能性を示す。
図10においては、結果は、ローダミン123と共に細胞を1時間インキュベートした後の蛍光強度の平均±SEMを表す(各グループにおいてn=4~8)。n=3の対照、及びゾスキダルを有するか、又は有さないn=4の市販の24ウェル装置。使用される統計学的試験は、Kruskal-Wallis試験、続く多重比較のためのDunn試験である:
*p<0.05。
【0019】
【
図11】
図11は、凍結保存後の24ウェル形式での経内皮電気抵抗(TEER)を示す。
図11に表されるものは、経内皮電気抵抗(TEER)である(24ウェル形式でのn=3~4の対照及びn=2~15の装置)。24ウェル形式の装置は、7、15又は30日間、凍結保存され、そして次に、解凍後4、5又は6日で使用される。結果は、平均±SEMを表す。使用される統計学的試験は、Mann Whitney試験である:
*p<0.05、
**p<0.01。
【0020】
【
図12】
図12は、凍結保存後の24ウェル形式でのFITC-デキストランの透過係数を示す。
図12においては、計算された異なる透過係数が示される(24ウェル形式でのn=8の対照及びn=2~5の装置)。結果は、平均±SEMを表す。24ウェル形式での装置は、7、15又は30日間、凍結保存され、そして次に解凍後4、5又は6日で使用される。使用される統計学的試験は、Mann Whiney試験である:
*p<0.05、
**p<0.01。
【0021】
【
図13】
図13は、12及び24ウェル形式での本発明の不死化細胞系を有するネズミ装置における経内皮電気抵抗(TEER)を示す。
図13においては、結果は平均±SEMを表す。12ウェル形式(
図13A)に関しては、12ウェル形式でのn=20の対照及びn=20の装置。24ウェル形式(
図13B)に関しては、24ウェル形式でのn=10の対照及びn=97の装置。使用される統計学的試験は、Mann Whitney試験である:
****p<0.0001.
【0022】
【
図14】
図14は、12、24及び96ウェル形式での本発明の不死化細胞を有するネズミ装置上のFITC-デキストランの透過係数を示す。
図14においては、結果は平均±SEMを表す。12ウェル形式(
図14A)に関しては、12ウェル形式でのn=10の対照及びn=6の装置。24ウェル形式(
図14B)に関しては、24ウェル形式でのn=17の対照及びn=92の装置。96ウェル形式(
図14Co)に関しては、96ウェル形式でのn=12の対照及びn=63の装置。使用される統計学的試験は、Mann Whitney試験である:
**p<0.01、
****p<0.0001。
【0023】
【
図15】
図15は、12、24及び96ウェル形式での本発明の不死化細胞系を有するネズミ装置上のP-糖タンパク質の機能性を示す。
図15においては、結果は平均±SEMを表す。12ウェル形式(
図15A)に関しては、ゾスキダルを有するか又は有さない12ウェル形式でのn=4の対照及びn=2の装置。12ウェル形式(
図15B)に関しては、ゾスキダルを有するか又は有さない24ウェル形式でのn=7の対照及びn=9及び12の装置。96ウェル形式(
図15C)に関しては、ゾスキダルを有するか又は有さない96ウェル形式でのn=127の対照及びn=13及び14の装置。 使用される統計学的試験は、Kruskal-Wallis試験、続く多重比較のためのDunn試験である:
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0024】
用語「管腔区画(luminal compartment)」とは、管状装置の管腔又は平面装置の上部区画により形成された区画を示すと理解される。
【0025】
用語「管腔外区画(abluminal compartment)」とは、管状装置の管腔区画の外側の区画、又は平面装置の下部区画を示すと理解される。
【0026】
HEBの主要な細胞アクターを含む装置は、インビボでHEBを形成する神経血管微小環境を複製し、そして従って、インビボで発生できる複数の細胞及び分子相互作用を考慮し、そして複製する手段を提供する。
【0027】
1つの実施形態によれば、周皮細胞及び内皮細胞は、菅腔区画における重ねられた層に配置される。従って、好ましい方法によれば、周皮細胞は多孔性合成膜上に又はそれと接触して配置され、そして内皮細胞は、周皮細胞が内皮細胞と非常に密接して接触するように、周皮細胞上に配置される。周皮細胞/内皮細胞の播種比は変化でき、そして特に、研究中のHEB、例えばヒトHEBに存在する比に対するように選択され得る。好ましくは、周皮細胞/内皮細胞の播種比は約1/2~1/4であり、そして好ましい基準に基づけば、約1/3である(ヒトHEBにおける周皮細胞/内皮細胞の比に対応する)。
【0028】
1つの特定の実施形態によれば、菅腔区画はまたさらに、血液細胞、及び好ましい手段においては、抹消血単核細胞(PBMC)も含む。次に、それらは、内皮細胞上に配置される。
【0029】
用語「多孔性合成膜(porus synthetic membrane)」とは、小分子又はイオンの通過を可能にし、そして実施1つの特定形態によれば、選択される孔サイズに依存して、細胞拡張又は通過を可能にする透過性支持体を示すと理解される。従って、この支持体は、各区画の細胞の離れての相互作用を可能にする。膜の周りに、播種された細胞の発達の複合作用下で、HEBに類似する細胞構造が徐々に配置され、そしてこの構造は、成熟すると、さらに2つの細胞外マトリックス、すなわち血管基底膜及び実質基底膜を含む。
【0030】
この多孔性合成膜は、ポリエステル(顕微鏡下で細胞の良好な可視性を可能にする透明な支持体)又はポリカーボネート(顕微鏡下で細胞の低い可視性を可能にする半透明な支持体)から製造され得る。この膜は、所望する用途に依存して、細胞外マトリックスの成分、特にコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、又はそれらの混合物により事前にプレコート(コーチング)され得る。孔サイズは、所望する用途に応じて選択される。透過性、分子の輸送、細胞極性、タンパク質及び受容体エンドサイトーシス、及び/又は細胞相互作用に関する研究の実施が求められる場合、孔径は、約0.4μm~約3μmであり、そして好ましくは約0.4μmの孔径である支持体を使用することが好ましい。従って、1つの実施形態によれば、支持体は、約0.4~約3μm、好ましくは約0.4μmの孔径を有する。例えば、PBMCなどの支持体を通る細胞の通過を調査しようとする研究に関しては、約3μm~約8μm、好ましくは約5μm~約8μmの孔径を有する支持体を取ることが好ましい。従って、1つの実施形態によれば、支持体は、約3μm~約8μm、好ましくは約5μm~約8μmの孔径を有する。
【0031】
1つの特定の実施形態によれば、星状細胞を含む管腔外区画はさらに、ミクログリアを含む。ミクログリアの星状細胞への播種比は、変化することができ、そして特に、研究中のHEB、例えばヒトHEBに存在する比に対応するよう選択され得る。星状細胞及びミクログリアが使用される実施形態によれば、好ましい方法においては、星状細胞へのマイクログリアの播種比は、約1%~約10%であり、そして好ましくは約5%である。好ましくは、星状細胞を含む管腔外区画は、周皮細胞を含まない。
【0032】
好ましい方法においては本発明による装置中のすべての細胞は、同じ動物種、特に哺乳類に由来する。本発明の1つの実施形態によれば、細胞は齧歯細胞であり、好ましくはマウス細胞である。本発明の別の実施形態によれば、細胞は霊長類細胞、好ましくはヒト細胞である。
【0033】
1つの実施形態によれば、本発明の装置の1又は2以上の細胞型は、不死細胞培養物に由来し、1つの特定の実施形態によれば、すべての細胞型は、不死細胞に由来する。
【0034】
用語「不死細胞(immortal cells)」とは、腫瘍、自発的不死の細胞、及び/又は少なくとも1つの細胞又はウィルス癌遺伝子の導入により不死にされた(不死化された)細胞に由来する不死化細胞を示すと理解される。1つの特定の実施形態によれば、本発明の装置の1又は2以上の細胞型は、少なくとも1つのウィルス又は細胞癌遺伝子の導入により不死化された細胞の一次培養物に由来する。
【0035】
1つの好ましい実施形態によれば、本発明の装置の1又は2以上の細胞型は、一次培養物に由来し、好ましい方法においては、すべての細胞型は一次培養物に由来する。
【0036】
用語「一次培養物(primary culture)」とは、個人の組織及び/又は細胞に直接由来する細胞の培養物を示すと理解される。異なる実施形態によれば、本発明の装置の1又は2以上の細胞型は、同じ種及び同じ年齢の個人から採取された組織及び/又は細胞の一次培養物に由来し、好ましい方法において、すべての細胞型は、同じ種及び同じ年齢の個人から採取された組織及び/又は細胞の一次培養物に由来する。本発明の1つの実施形態によれば、1又は2以上、及び好ましくは、すべての細胞型は、成人個人に由来する。このような場合、本発明の装置はまた、個人の生涯にわたって発症する疾患の老化又はHEBへの影響による変動の研究を可能にする。不死化細胞とは異なり、一次培養物に由来する細胞は、接触阻害を保持し、そして従って、それらの細胞の使用が、装置における細胞増殖を制限する手段を提供する。さらに、一次培養物の使用はさらに、装置がインビボ状態により密接に近づくことを可能にするのに役立つ。
【0037】
用語「個人(individual)」とは、動物種、特に哺乳類からの対象を示すと理解される。本発明の1つの実施形態によれば、1又は2以上の個人は齧歯類であり、そして好ましくは、マウスである。本発明の別の実施形態によれば、個人は霊長類、及び好ましくはヒトである。
【0038】
本発明の装置の1つの異なる実施形態によれば、内皮細胞及び周皮細胞は、マウス細胞の一次培養物に由来し、そして好ましくは、成体マウスに由来する。特に好ましい方法によれば、内皮細胞及び周皮細胞は、少なくとも生後3カ月、より特定には少なくとも生後6カ月、及び1つの好ましい実施形態によれば、少なくとも生後12カ月であるマウスからのマウス細胞の一次培養物に由来する。
【0039】
本発明の方法の1つの変法によれば、すべての細胞型は、マウス細胞の一次培養物に由来し、そして好ましい方法においては、成体マウスに由来する。特に好ましい方法によれば、すべての細胞型は、少なくとも生後3カ月、より特定には少なくとも生後6カ月、及び1つの好ましい実施形態によれば、少なくとも生後12カ月であるマウスからのマウス細胞の一次培養物に由来する。
【0040】
本発明の装置の1又は2以上の細胞型が一次細胞培養物に由来する場合、1つの特定の実施形態によれば、それらの細胞型の1又は2以上が疾患モデル細胞型である。
【0041】
用語「疾患モデル細胞型(disease model cell types)」とは、特定の病状により影響される個人の細胞の特定を再現するために、自発的に発生するか、又は遺伝子工学的方法(例えば、遺伝子導入)により、又は薬理学的ツールにより誘発される病状を再現する動物モデルに由来する細胞型を示すと理解される。例えとして、アルツハイマー病についてのマウスモデルAPPswePS1dE9、ヘミパーキンソン病又はパーキンソン病モデル(MPTP、6-OHDAの毒性注射、又はパーキンソン病のαシヌクレインについて突然変異されたトランスジェニックマウス)、ハンチントン病についてハンチントン遺伝子が変異したトランスジェニックマウスのモデル、筋委縮性側索硬化症(ALS)について遺伝子C90RF72の変異モデルに由来する細胞型について言及することができる。好ましくは、本発明による病状は、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ALSなど)、脳血管障害、脳癌など、HEBに対する効果を有るか、又は効果を有しているか疑われる病状である。
【0042】
1つの可能な実施形態によれば、多孔性合成膜は、菅の形で存在し、その中に流体が導入され、補充され、循環され得る。
【0043】
1つの好ましい実施形態によれば、多孔性合成膜は、水平に配置された平面膜である。この実施形態によれば、チャンバー-が上下に配置される。
【0044】
1つの実施形態によれば、装置は、その輸送を促進するか、又はその使用を遅延するために凍結保存され得る。
【0045】
本発明の目的はまた、本発明の装置を製造するための製造方法にも関する。
【0046】
本発明の1つの実施形態によれば、この方法は、以下の工程:
a)多孔性合成膜の片面及び/又は片側上に星状細胞を播種する工程(管腔外側になるであろう前記側);
b)多孔性合成膜が星状細胞を含む場合、星状細胞を含む片側が片面に面するよう配置されるように、多孔性合成膜を前記片面上に挿入するか、又は堆積する工程;及び
c)多孔性合成膜の管腔側を内皮細胞及び周皮細胞により播種する工程;
を含む。
【0047】
従って、工程b)は、前記片面と前記多孔性合成膜との間に管腔外区画を創造するのに役立つ。
【0048】
本発明のこの実施形態によれば、前記片面は、装置が静置する支持体であり得る。多孔性合成膜が平面である場合、その片面は、例えば培養皿の底部であり得る。
【0049】
本発明の別の実施形態によれば、この方法は、以下の工程:
a)多孔性合成膜の片側に星状細胞を播種する工程;
b)多孔性合成膜の反対側上を内皮細胞及び周皮細胞により播種する工程;及び任意には、
c)星状細胞を含む側が前記片面に面するよう配置されるように、多孔性合成膜を片面上に堆積する工程;
を含む。
【0050】
1つの実施形態によれば、本発明の装置を製造するための方法は、装置の凍結保存の追加の工程を含む。
【0051】
1つの実施形態によれば、周皮細胞及び内皮細胞は、菅腔区画における重ねられた層に配置される。好ましくは、本発明の方法によれば、周皮細胞は、内皮細胞の前に播種される。好ましくは方法によれば、周皮細胞は多孔性合成膜上に又はその膜と接種して配置され、そして内皮細胞は周皮細胞の上に配置され、周皮細胞は、結果として、内皮細胞と密接に接触して存在する。周皮細胞/内皮細胞の播種比は変化することができ、そして特に、研究下でのHEB、例えばヒトHEBに存在する比に対応するよう選択され得る。好ましくは、周皮細胞/内皮細胞の播種比は、約1/2~1/4であり、そして好ましい基準に基づけば、約1/3(ヒトHEBにおける比に対応する)である。
【0052】
好ましくは、多孔性合成膜は、各区画の細胞と接触して存在する。
【0053】
1つの特定の実施形態によれば、周皮細胞及び内皮細胞により多孔性合成膜を播種するための播種工程はさらに、血液細胞、及び好ましい基準に基づけば、抹消血単核細胞(PBMC)の添加を含む。好ましい方法によれば、血液細胞の添加は、周皮細胞及び内皮細胞の播種の後に行われる。
【0054】
1つの特定の実施形態によれば、星状細胞を播種するための1又は2以上の播種工程はまた、ミクログリアによる播種も含む。好ましくは、星状細胞及びミクログリアは、装置における播種の前、一緒に培養される。星状細胞に対するミクログリアの播種比は変化することができ、そして特に、研究下のHEB、例えばヒトHEBに存在する比に対応するよう選択され得る。星状細胞に対するミクログリアの播種比は約5%(ヒトHEBにおける比に対応する)である。
【0055】
好ましくは、星状細胞により播種するための1又は2以上の播種工程は、周皮細胞の播種を含まない。
【0056】
好ましい基準に基づけば、本発明の方法に従って播種されたすべての細胞は、同じ動物種、特に哺乳類に由来する。本発明の1つの実施形態によれば、細胞は、齧歯類、好ましくはマウス細胞である。本発明の別の実施形態によれば、細胞は霊長類細胞、好ましくはヒト細胞である。
【0057】
1つの実施形態によれば、本発明の方法の1又は2以上の細胞型は、不死細胞の培養物に由来する。1つの特定の実施形態によれば、すべての細胞型は、不死細胞に由来する。
【0058】
1つの好ましい実施形態によれば、本発明の方法の1又は2以上の細胞型は、一次培養物に由来し、好ましくは、すべての細胞型は一次培養物に由来する。1つの変法によれば、本発明の方法の1又は2以上の細胞型は、同じ年齢の個人から採取された組織の一次培養物に由来し、好ましくは、すべての細胞型は、同じ年齢の個人から採取された組織の一次培養物に由来する。本発明の1つの実施形態によれば、1又は2以上の、及び好ましくは、すべての細胞型は成人個体に由来する。
【0059】
従って、本発明の方法の1つの変法によれば、内皮細胞及び周皮細胞は、マウス細胞の一次培養物に由来し、そして好ましくは、成体マウスに由来する。特に好ましい方法によれば、内皮細胞及び周皮細胞は、少なくとも生後3カ月、より特定には少なくとも生後6カ月、及び1つの好ましい実施形態によれば、少なくとも生後12カ月であるマウスからのマウス細胞の一次培養物に由来する。
【0060】
本発明の方法の1つの変法によれば、すべての細胞型は、マウス細胞の一次培養物に由来し、そして好ましくは、成体マウスに由来する。特に好ましい方法によれば、すべての細胞型は、少なくとも生後3カ月、より特定には少なくとも生後6カ月、及び1つの好ましい実施形態によれば、少なくとも生後12カ月であるマウスからのマウス細胞の一次培養物に由来する。
【0061】
本発明の方法の1又は2以上の細胞型が一次培養物に由来する場合、1つの特定の実施形態によれば、1又は2以上のそれらの細胞型は、種々の病状のための疾患モデル細胞型である。
【0062】
本発明の目的はまた、本発明の装置の使用、及び特にHEBのモデルとしてのその使用にも関する。本発明の目的はまた、病理学的HEBモデルとしての本発明の装置の使用にも関する。
【0063】
特に、装置は、モデルの透過性を試験するために使用され得る。実際、装置は、以下に対するその透過性を研究するために使用され得る:
-分子、特に治療用分子(特に、小さな生物学的又は合成分子、抗体、向精神薬など);
-ウィルス(特に、HIV);
-胞子(例えば、特定の髄膜炎などの真菌感染症の研究のための細菌胞子、真菌胞子、植物胞子など);又はさらに、
-エキソソーム(特に、癌の増殖の研究のための);
-リポソーム又はナノ粒子;
-ベクター化された又は裸の核酸;
-細胞(特に、PBMC、癌細胞、細菌など);
この後、「化合物」と呼ばれる。
【0064】
従って、本発明は、化合物に対するモデルの透過性を試験するためへの本発明の装置の使用に関し、ここで前記方法は、以下の工程:
a)前記装置の区画の1つに前記化合物を添加する工程;
b)前記装置をインキュベートする工程;及び
c)前記化合物の添加が行われていない区画における前記化合物及び/又はその代謝物の存在を検出し、そして分析する工程;及びたぶん
d)この化合物に関するモデルの透過性を、それから推定する工程;
を含む。
【0065】
好都合には、工程a)の間、既知量の化合物が添加され、そして工程c)は添加が行われなかった区画における化合物又はその代謝物の量の測定を可能にするよう役立つ。さらに、特に、前記区画に残存するこの化合物の量を決定するために、添加が行われた区画における前記化合物又はその代謝物の存在を検出し、そして分析することも可能である。
【0066】
上記化合物(又はその代謝物)の存在の検出及び分析のための技法は、当業界において周知である。例えば、化合物の存在の検出又は分析は、1又は2つの質量分析技術と組み合されたHPLCを含む、研究中の化合物に存在して、種々の分析化学技法により実施され得る。
【0067】
好都合には、化合物は、その検出を促進するために標識され得る。実際、蛍光又は放射性標識された化合物(特に、診断に使用され、そして18F又は11Cにより放射性標識されるトレーサー)が利用可能な場合、蛍光強度リーダー又は放射能カウンターが、菅腔及び管腔外区画における標識化合物又は標識代謝物を定量化するために、それぞれ使用され得る。
【0068】
さらに、本発明は、疾患の生理病理学の研究、HEBの細胞及び分子アクターを標識とする予防、治療又は診断目的で開発された分子の試験、又は物理的状態の試験又はプロトコルの試験を目的とした本発明の装置の使用に関する。
【0069】
用語「疾患の生理病理学の研究(studying the physiopathology of a disease)」とは、透過性、選択性、電気抵抗、細胞の形態など、HEBの特性に対する疾患の影響を研究することを示すと理解される。この実施形態によれば、装置は、研究中の病状の少なくとも1つのモデル細胞型を含む。1つの実施形態によれば、タンパク質の発現、及び/又はHEBのトランスポーター、例えばP-糖タンパク質(P-gp)又はグルコーストランスポーターGLUT1の機能性が、研究中の病状の少なくとも1つのモデル細胞型を含む装置、及びこの病状のいずれのモデル細胞型を含まない装置において比較される。タンパク質の発現は、ウェスターンブロット、ELISA、又は遺伝子発現(RTqPCR)技法により評価され得る。
【0070】
用語「HEBの細胞及び分子アクターを標的とする予防、治療又は診断目的で開発された試験分子(testing molecules developed with a preventive, therapeutic or diagnostic purpose that target the cellular and molecular actors of the HEB)」とは、HEBに対するそれらの分子の影響、及びたぶん、HEBを通してのその通過の研究を示すと理解される。この実施形態によれば、試験される少なくとも1つの分子が本発明の装置に適用され、そして暴露又はインキュベーションの期間の後、前記少なくとも1つの試験された分子により引き起こされた変化を決定するために、装置が分析される。それらの変化は特に透過性、選択性、電気抵抗、細胞形態などに関連することができる。特に、試験される分子が適用されている装置におけるこの標的の機能性及び/又は発現を、その分子が適用されていない装置におけるその機能性及び/又は発現に対して比較することにより、標的への分子の添加に起因する結果を研究することが可能である。本発明の装置において、及び特に、HEBトランスポーターの少なくとも1つの阻害剤又は物理的状態をさらに追加することにより、HEBを通しての分子の通過を研究することもまた可能である。
【0071】
用語「物理的状態の試験(testing the physical conditions)」とは、HEBに対するそれらの状態の影響、及びたぶん、HEBを通しての化合物の通過のそれらの効果を研究することを示すと理解される。この実施形態によれば、少なくとも1つの物理的状態が、本発明の装置に適用される。暴露又はインキュベーションの期間の後、装置は試験された少なくとも1つの物理的状態により引き起こされた変化を決定するために分析される。それらの変化は特に、透過性、選択性、電気抵抗、細胞形態などに関連する可能性がある。特に、物理的状態が適用されていない装置と、物理的状態が適用されている装置とを比較することにより、物理的状態の追加に起因する結果を研究することが可能である。用語「物理的状態(physical condition)」とは、特に、磁気、電磁波又は超音波などの波の使用を示すと理解される。
【0072】
用語「プロトコルの試験(testing the protocols)」とは、HEBに対する治療工程の影響を研究することを示すと理解される。この実施形態によれば、少なくとも1つの治療、すなわち物理的状態又は分子が、上記で定義された化合物に適用され、そして次に、この化合物はHEBと接触させられる。暴露又はインキュベーションの期間の後、装置は、前記治療により引き起こされた変化を決定するために分析される。それらの変化は特に、透過性、選択性、電気抵抗、細胞形態などに関連する可能性がある。特に、処置されていない化合物と接触された装置と比較することにより、その処置に起因する結果を研究することができる。
【0073】
本発明は、現在非網羅的に考慮される実施例により、より詳細に説明されるであろう。
【実施例】
【0074】
実施例1:本発明の装置の製造:
この装置は、マウス脳から採取された内皮細胞、周皮細胞及びPBMCの一次培養物を含む。
【0075】
この装置の開発と製造は、以下の技術的工程を経ること含む:
内皮細胞及び周皮細胞を、ミエリンを排除するために磁気ビーズを用いて、及び周皮細胞から内皮細胞を解離するためにPercoll勾配を用いて精製した。
【0076】
ヒト医学血液学に使用されるものと同一のFicoll勾配上で同じマウスの抹消血液からPBMCを抽出した。
【0077】
星状細胞及びミクログリアの一次共培養ストックを以下の通りにして創造した。
【0078】
一次マウス星状細胞及びミクログリア培養物を、D1日目とD3日目との間の新生児の脳から得た。脳組織の細胞解離を、機械的に行った。星状細胞及びミクログリアを、選択培養培地により選択した。ポリ-L-リシンにより被覆された75cm2のバイアル中、解離され、そして培養された新生児脳の播種の1週間後、集密的マットを形成する星状細胞をトリプシンを用いて分離し、そして凍結保存した。細胞コーンの融解を、25cm2のバイアルにおいて行い、従って72時間後に星状細胞の装置のアセンブリーへの使用を可能にした。それらの細胞を、3回、継代培養できる。
【0079】
選択された培養皿の全表面を被覆する細胞マットが得られるまで細胞を各細胞型のための選択培地において培養した。
【0080】
星状細胞及びミクログリアを、培養皿に播種した(12ウェル皿の場合、ウェル当たり30,000個の細胞)。
【0081】
次に、星状細胞及びミクログリアをまた、多孔性合成膜下に播種し、そして24時間インキュベートした(
図1を参照のこと)。
【0082】
2つの星状細胞培養物が接触し、それにより、管腔外区画を形成するような態様で、前記膜を、星状細胞及びミクログリアを含む培養皿に堆積した。従って、それらの細胞は、グリア脳実質をモデル化する。
【0083】
内皮細胞及び周皮細胞を、膜上に播種した(12ウェル皿において、内皮細胞=106個の細胞/膜、及び周皮細胞=350,000個の細胞/膜)。
【0084】
内皮細胞におけるP-糖タンパク質発現を促進するために、装置をヒドロコルチゾンの存在下で72時間インキュベートした。実際、P-糖タンパク質は、HEBの機能に関して重要な排出ポンプとして機能する。
【0085】
インキュベーションの後、そのモデルが準備できている。特に、PBMCを受けることができる。
【0086】
実施例2:実施例1に従って製造された装置の免疫標識による観察:
透過性及び機能性試験の後、実施例1に従って開発された装置の多孔性合成膜を、500μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)により5分間、2度洗浄した。これに続いて、500μlのパラホルムアルデヒド溶液(4%PFA)を、管腔外及び管腔区画に15分間、周囲温度で添加する。2回の追加の5分間の洗浄を、500μlのPBSにより実施する。次に、細胞をブロックし、そして周囲温度で1時間、管腔外及び管腔区画内の500μlのPBS/Triton 0.5%/ウシ血清アルブミン(BSA)5%により透過処理する。ペトリ皿上に広げられたパラフィンプラスチックフイルム(パラフィン)上に、30μlの一次抗体(Acl)を堆積する。次に膜を切断し、そして続けて、細胞が一次抗体(Acl)と接触するような態様で堆積する。使用される抗体は、抗ゾヌラオクルーデンスプロテイン1(ZO -1)抗体(1/50希釈度、内皮細胞のマーカーとして使用される、密着結合タンパク質のマーカー)、抗-アルファ平滑筋アクチン(αSMA)(1/50希釈度、周皮細胞のマーカー )、抗フォンウィルブランド因子(vWF)(1/50希釈度、内皮細胞のマーカー)及び抗-グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)(1/100希釈度、星状細胞のマーカー)である。インキュベーションは、湿度チャンバー内で4℃で一晩にわたって行われる。次の日、各膜を、12ウェルの皿に静かに配置し、その側面は上部に研究される細胞を有し、そしてPBSにより5分間の洗浄を、攪拌しないで行った。30μlのアルスロバクター・アウレセンス(Arthrobacter aurescens)コンドロイチナーゼACIIを、新しいパラフィンプラスチックフィルム上に堆積し、その後、膜と共に周囲温度で1時間インキュベートした。ACII溶液は、蛍光色素ローダミンレッド-X(RRX)(赤色蛍光)に結合された抗マウスII二次抗体、及び蛍光色素Alexa488(緑色蛍光)に結合された抗ウサギII二次抗体(それらはすべて1:50に希釈されている)を含む。1時間のインキュベーションの後、上記と同じ条件下で洗浄を行い、そして次に、膜を、細胞の核をマークするために、ウェットチャンバーにおいて、パラフィンプラスチックフィルム上で、光から保護され、周囲温度で15分間、30μlのDAPI溶液(4,6-ジアミン-2-フェニルインドール)と共にインキュベートする。H2O UHQにより3回の5分間の洗浄を行い、塩を除くために、膜を再び回収する。次に、膜を、接着された側が非免疫標識細胞の側に対応するよう、DAPI接着剤によりガラススライド上に接着する。次に、ガラススライドを、膜上に接着する。スライドを、落射蛍光顕微鏡(Olympus BX51)下で観察する。
【0087】
免疫標識は、HEBモデルを構成する細胞型を可視化する。さらに、内皮細胞は、それらの間に形成される密着結合を有する血管に自己組織化し(ZO-1ダギング)、従ってインビボでHEBの重要な特徴を自発的に再現することが観察された。周皮細胞は、接触点を確立することにより、内皮細胞の周りに組織化する。
【0088】
実施例3:アルツハイマー病(AD)のマウスモデル由来の細胞の場合のHEBのモデルとしての本発明の装置の使用:
ここではアルツハイマー装置(装置AD)と呼ばれる装置を、実施例1に従って製造し、ここで内皮細胞及び周皮細胞を生後4~8週のアルツハイマーマウス(APPswePS1dE9、AD)から調製し、そして星状細胞及びミクログリアを野生マウス(WT)から調製した。この装置を、ここで野生装置と呼ばれる、野生マウス(WT)からの細胞から完全に形成された類似装置と、及びここで対照装置と呼ばれる、類似する無細胞装置と比較した。
【0089】
結果は、
図2に示される。
細胞の存在が、FITC-デキストランの通過を低めるよう作用する(
図2)。実際、1時間で野生装置を通してFITC-デキストランの通過に有意な82%の低下、及び次に、細胞を有さない対照装置に比較して、1.5時間で78%の低下が存在したことが観察された。
【0090】
透過性のこの差異はまた、対照と比較して、1及び1.5時間で60%の減少が得られる装置ADでも観察される。しかしながら、それらの結果は統計学的に有意ではない。
【0091】
さらに、ADと野生型装置との間の透過性の観察される差異は、統計学的に有意ではなかったが、1.5時間での装置ADに比較して野生型装置を通してのFITC-デキストランの通過に47%の減少が観察された。
【0092】
実施例4:本発明の装置の透過性及び機能性の試験:
本発明の装置の透過性を試験するために、装置を実施例1に従って調製し、そしてFITC-デキストランを、装置の管腔区画に添加した。FITC-デキストランの存在を検出し、そして蛍光により分析した。
【0093】
図3においては、透過係数が対照装置に関してが高いことを注意してください。98%の透過係数の有意な減少が装置WTで観察された。この差異は統計学的に有意である。それは、本発明の装置の相対的透過性を実証している。
【0094】
本発明の装置の機能性を試験するために、装置を実施例1に従って調製し、そしてローダミン123を、ゾスキダルの存在又は不在下で前記装置の管腔区画に添加した。実際、糖タンパク質Pの装置としてのローダミン123が糖タンパク質Pにより管腔区画に排出され、それが装置を通してのその通過を制限することは知られている。ゾスキダルはP-糖タンパク質の阻害剤であり、従って、その使用は、ローダミン123の管腔区画への流出を制限するはずである。
【0095】
図4においては、ローダミン123の管腔外区画への通過が、対照装置(無細胞挿入体)と比較して、野生型装置に関して72.6%減少することが観察されている。それらの結果は統計学的に有意である。糖タンパク質Pの特定の阻害剤の存在は、57.3%流出を抑制する。それらの結果は、本発明の装置の機能性を実証する。
【0096】
実施例5:24及び96ウェルプレート形式での本発明の装置の検証:
それらの新しいHEB形式に基づく装置の調製方法は、実施例1に記載されるのと同一である。各細胞型の密度のみを適合する必要があった。
【0097】
【0098】
それらの形式の関連性を以下の4種の試験により検証した:経内皮電気抵抗(TEER)、傍細胞透過性、糖タンパク質G(P -gp)機能及び8分子に関する選択性。
【0099】
1-経内皮電気抵抗(TEER)
電極が96ウェル形式に適していないので、経内皮電気抵抗を、12及び24ウェル形式HEBでのみ測定した。これは、以下の挿入体の表面積を考慮してオーム・cm2で表される:それぞれ12及び24ウェルの挿入体について1.12及び0.33cm2。それを2つのSTX01電極を用いて、オームメーター(Millicell Electrical Resistance System -2, Millipore - [Molsheim] France)で測定した:大きい方の電極は管腔外区画に配置され、そして少ない方の電極は管腔区画に配置される。2つの電極を備えたシステムを、2つの区画間の電気抵抗を測定するためにオームメーターに接続する。装置上に表されている値は、オームで表され、そして次に、挿入体の表面積を掛け、結果をオーム・cm2で得る。
【0100】
図5は、TEERが、対照(すなわち、いずれの細胞も含まない装置)に対して、本発明の装置において有意に高められることを示す。
【0101】
2-傍細胞透過性
実施例4におけるように、FITC-デキストランの通過を研究し、そして傍細胞透過性についての対照としてのこの分子透過係数(Pe)を計算した(
図6)。
【0102】
24ウェル及び96ウェル形式の両方で得られた結果は、12ウェル形式と同様に、4.10
-6cm/s未満の透過係数を示す(
図3を参照のこと)。
【0103】
3-P-糖タンパク質(P-gp)の機能性
実施例4におけるように、ゾスキダルの存在又は不在下でのローダミン123の通過を研究した。
【0104】
ローダミン123は管腔側に向かって有意に流出し、そして従って、管腔外側にはほとんど流れないので、P-gpポンプは、24及び96ウェル形式の両装置において機能する。この機能性は、P-gpの特異的阻害剤として知られているゾスキダルにより、実際、阻害される。これは、12ウェル形式に関してのように、P-gpを発現する内皮細胞が実際に極性化され、ローダミン123の管腔外区画への添加が、無細胞HEBに匹敵する管腔側へのその通過をもたらすことを示す。
結果は、
図7に示される。
【0105】
4-8つの分子に関する選択性
24及び96ウェル装置上で、HEBを通過できるか又は通過できないことが知られている8つの分子通過を研究した。
【0106】
ドーパミン(DA)、レボドパ(L -DOPA)、ブロマゼパム(BROMO)、カフェイン(CAF)、スクロース(SUC)、シクロスポリンA(CYCLA)、ゾスキダル(ZOSU)、及びミトタン(MITO)を、文献において知られている生理学的及び/又は治療的濃度でヒトにおいて試験した。
【0107】
以下の表2に示されているものは、各分子に対して選択された濃度であり、そしてそれらはHEBを通過できるか(+)、又はHEBを通過できない(-)ことが知られているかどうかである。
【0108】
【0109】
分子を、指示濃度で管腔区画に添加し、そして48時間インキュベートした。次に、分子のアッセイのために、管腔及び管腔外培地を除いた。
【0110】
各分子について、透過係数を計算した。結果は
図8に示されている。結果は、ここでネズミHEBのモデルとして機能する本発明の装置を通してのそれらの分子の通過を検証し、すなわち最初の4種の分子は通過し、ところが最後の4種の分子は通過しない(従って、最後の4種の分子については、透過係数が非常に低い)。
【0111】
実施例6:市販の装置と本発明の装置との比較:
24ウェル形式での実施例1における装置を、ラット脳細胞から調製された一次HEBモデルに対応する市販のモデル(Pharmaco -Cell からのBBB Kit(登録商標) (RBT -24H))と比較した。この市販の装置においては、内皮細胞が、挿入体、挿入体下の周波細胞、及びウェルの底でのラット星状細胞に播種される。
【0112】
このモデルのTEERの測定は、平均247±17.76Ω・cm
2の良好な経内皮電気抵抗を示す(
図9Aを参照のこと)。しかしながら、FITC-デキストランの透過係数は、本発明の装置の透過係数よりも高い(
図9Bを参照のこと)(25.850±2.308×10
-6cm/s対3.867±0.333×10
-6cm/sの本発明の装置)。従って、不透過性は、市販のモデルの不透過性に比較して、6.7倍、本発明の装置の方が良好である。
【0113】
ここで再び、市販のモデルの機能性を、P-gp糖タンパク質の特異的阻害剤であるゾスキダルの存在又は不在下でローダミン123の通過を研究することにより評価した。
【0114】
結果は、ポンプが管腔及び管腔外側の両方に存在し、従って細胞が適切に分極化されることを示す。従って、ローダミン123が管腔区画又は管腔外区画のいずれかに堆積される場合、管腔側と管腔外側の両方にローダミン123が流出される(堆積される側に関係なく97%の流出)。
【0115】
従って、本発明の装置に反して、
図10に示されるような市販のモデルにおいてP-gpポンプをゾスキダルが阻害する場合、効果は観察されない(
図7を参照のこと)。従って、本発明の装置は、ここで試験された市販のモデルよりもHEBに対して高い類似性を有するモデルの入手を可能にする。
【0116】
実施例7:24ウェル形式での本発明の装置の凍結保存:
装置の凍結保存は、凍結された装置のオンデマンド準備及びそれのクライアントへの送達のための手段を提供する。
【0117】
24ウェル形式での装置を、Sigma(REF:C2874-100ML)で販売されているCRYOSTOR(登録商標)溶液により凍結保存した。TEERの測定を装置のアセンブリーのD15日目に凍結保存する前に実施した。それぞれ、管腔及び管腔外区画における細胞の凍結保存のために、100及び200μlのCRYOSTOR容量を選択した。
【0118】
以下のプロトコルに従って、凍結保存後のD7、D15及びD30日目に凍結を行い、そして解凍された配置の不透過性を、解凍の4、5及び6日目に調査した(TEER、及びFITC-デキストランの透過係数)。
【0119】
-解凍の日、血清を含む完全EndogoTM培養培地を37℃に予熱し、
-全体の解凍工程の間、パスツールピペット又はチップによる挿入体の膜を触れない。挿入体を動かさない。装置ごとに装置を取り扱い、そして処置し、
-培養培地を加熱したら、直ちに、管腔及び管腔外側に、それぞれ、血清を有するEndgroTM完全培養培地150及び300μlを添加し、
-5%CO
2下で37℃で3時間インキュベートし、
-3時間後、管腔及び管腔外側から培養培地(CM)を静かに吸引して、そして管腔外側からそれぞれ200及び500μlのCMを添加し、
-5%CO2下で37℃でインキュベートし、
-解凍の翌日、培養培地を交換し、
-D4、D5及びD6日目、試験を実施し、TEER及び傍細胞透過性の係数を測定した。結果は、それぞれ、
図11及び12に示される。
【0120】
凍結保存されていない24ウェル形式の装置に比較して、7日間の凍結の後のTEER耐性が、凍結直前に測定されたその耐性と同じ大きさであることが観察される。15日及び30日間の凍結に関しては、平均26%の減少が観察されるが、有意でないままである。
【0121】
傍細胞透過性に関しては、凍結保存されなかったHEBで得られたものと、7日間の凍結の後の透過係数は同じ大きさのものであることがわかった(それぞれ、3.278±0.925対3.867±0.333 10-6cm/s)。15及び30日間の凍結に関しては、透過係数は、6~20.10-6cm/sである。
【0122】
実施例8:不死化細胞系を有するネズミHEB装置:
一次細胞の不死化の後、ネズミ内皮細胞及びネズミ周皮細胞の細胞系を、すでに文献で公開されている方法を用いることにより得た(Burek et al. 2012)。
【0123】
それらの細胞系の不滅の性質を、染色体の数の変化を示す核型の実行により検証した。通常の環境及び条件下で、マウスでは、2n=40染色体である。不死系においては、16のメタフェースプレートの読み取りが、読み取られたプレートに依存して2n=39~77の染色体の不死化を検証する染色体数にいくつかの異常を示す。
【0124】
それらの系は、48時間の複製時間を有する。それらの系は凍結保有され得る。使用される培養培地は、一次培養に使用されるものと同じである。それらの不滅の性質は、非常に高い細胞接着をもたらす。
【0125】
それらの細胞による装置のアセンブリーは、以下の動態の通りである:
-挿入体の下及びウェルの底に星状細胞/ミクログリアIのDI播種、
-挿入体上への内皮細胞及び周皮細胞のD2播種、
-インキュベーターにおける48時間のモデルのD3-D4インキュベーター、
-D4で、装置は実験の準備ができている。
【0126】
下記表3に示されるものは、各細胞型及び装置の各形式(12、24及び96ウェル)のために使用される細胞密度である。
【0127】
【0128】
12及び24ウェルプレート形式で、TEERを測定し(
図13を参照のこと)、そしてすべての形式で、傍細胞透過性(
図14を参照のこと)及びP-gp排出ポンプの機能性(
図15を参照のこと)を評価した。
【0129】
このHEBモデルに関しては、各細胞型に対して特異的な分子マーカーの発現を可視化するために、共免疫標識を実施した。従って、発明者らは、不死化された内皮細胞が装置内で以下を発現することを観察した:
-P-糖タンパク質、
-タイトジャンクションタンパク質:ZO-1、Claudine-5、
-vonWillebrand 因子因子(rWF)、
-LRP-1受容体、及び
-トランスフェリン受容体。
【0130】
それらは、周皮細胞マーカーα-SMA、NG2、血小板由来成長因子β受容体(PDGFβR)を発現せず、このことは、培養物が純粋であることを示唆する。それどころか、周皮細胞は実際、それらの3つのマーカー及びLRP-1を発現し、そしてGFAP及びvWFを発現せず、このことは、内皮細胞及び星状細胞により汚染されていない周皮細胞の純粋培養を示す。
【0131】
HEBの不透過性:
図13は、12及び24ウェルプレート形式でのTEERの結果を示す。
12ウェル形式でのTEERは、一次培養物を有する装置上で得られたそのTEERに非常に匹敵する(
図5を参照のこと:12ウェルの平均TEERは218±7.17Ω.cm
2であり、そしてここで、不死細胞系を有する装置モデルに関しては、平均TEERは184.60±6.65Ω.cm
2である)。24ウェル形式に関しては、その平均は63.30±1.35Ω.cm
2であり、ところが一次培養物を有するHEBモデルは、125.50±2.34Ω.cm
2の平均TEERを有した。
【0132】
傍細胞透過性に関しては、FITC-デキストランの透過係数の値が、3つの形式(12、24及び96ウェル、それぞれ
図14A、B及びC)の個々について
図14に示される。一次培養物の代わりに不死化内皮細胞系及び周皮細胞で使用される形式に関係なく、結果は、装置が不透過性であり、そして平均透過係数が、12、24及び96ウェル形式でそれぞれ12.15±0.92、10.19±0.44、9.66±0.50.10
-6cm/sであることを示す。
【0133】
HEBの機能性:
12、24及び96ウェルプレート形式は、管腔外側上でのローダミン123の通過を60%以上、有意に制限するので、機能的である(
図15を参照のこと)。一次培養により調製されたHEBとは異なり、特定の糖タンパク質P阻害剤はすべての形式に対していずれの効果を示さず、これは細胞系において非常に頻繁に発生する「多剤耐性」型の異なる排出ポンプに関連する可能性がある。
【0134】
参考文献:
Burek M, Salvador E, Forster CY. Generation of an immortalised murine brain microvascular endothelial cell line as an in vitro blood brain barrier model. J Vis Exp. 2012 Aug 29;(66) :e4022. doi : 10.3791/4022;
Dantzig AH, Shepard RL, Cao J, Law KL, Ehlhardt WJ, Baughman TM, Bumol TF, Starling JJ. Reversal of P-glycoprotein-mediated multidrug resistance by a potent cyclopropyldibenzosuberane modulator, LY335979. Cancer Res. 1996 Sep 15;56(18) :4171 -9。