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特許7541927薬剤溶解性のイン・ビトロ試験用緩衝液の調製プロセス、緩衝液作製用パッケージ、及び病態試験用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】薬剤溶解性のイン・ビトロ試験用緩衝液の調製プロセス、緩衝液作製用パッケージ、及び病態試験用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
G01N33/15 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020569134
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 GB2019051633
(87)【国際公開番号】W WO2019239133
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】1809627.1
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520483925
【氏名又は名称】バイオリレバント.コム エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】リー,マシュー ルイ スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ドス サントス,ヴァスコ ラファエル フェルナンデス
(72)【発明者】
【氏名】リー,ダリル ルイ ヴァン
(72)【発明者】
【氏名】マカルー,オーフレース テス
(72)【発明者】
【氏名】リー,スティーブン
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-503269(JP,A)
【文献】特表2008-503410(JP,A)
【文献】特表2015-524913(JP,A)
【文献】特表2009-538873(JP,A)
【文献】特表2013-520563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0299113(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108042506(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15,
G01N 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適する緩衝液を調製する方法であって、
前記イン・ビトロの薬剤溶解試験、前記薬剤溶解性試験及び/または前記薬剤プロファイリングは、それぞれ生理学的に適切、すなわち前記緩衝液がpH1.2~8.5の範囲であり、
前記緩衝液は前記イン・ビトロの薬剤溶解試験、前記薬剤溶解性試験及び/または前記薬剤プロファイリングに適する所望の量であって、
ノズルが設けられ、前記ノズルの内部には所定の量の濃縮体を液滴の状態及び/または制御されたストリームの状態で吐出するよう構成されたオリフィスまたは絞り口を備え、前記液滴は0.02g~0.25gの質量を有し、前記液滴の平均質量は0.15g未満の質量であることを特徴とする、変形容器から、別の容器へ、前記緩衝液の前記濃縮体を所定の量(アリコート)だけ吐出する工程(a);と、
所望の量の前記緩衝液を生成するために、所定の量の溶媒で、前記所定の量の濃縮体を希釈する工程(b)、
とを含み、
前記緩衝液の前記濃縮体が、一つまたはそれ以上の緩衝剤を含み、
前記緩衝液が、1~9のpH、及び、0mM/pH~100mM/pHの緩衝能を有するように、前記工程(a)は、前記濃縮体を1g~250gだけ吐出することを含み、前記工程(b)は、3~50倍で、前記濃縮体を希釈することを含むことを特徴とする、調製方法であって、
前記濃縮体は、一つまたはそれ以上の浸透圧調整剤を含む、又は、
前記調製方法は、前記緩衝液が、25mOsm/kg~700mOsm/kgの浸透圧をステップ(b)の希釈の後に有するように、一つまたはそれ以上の浸透圧調整剤を、添加するステップを含む、ことを特徴とする、調製方法。
【請求項2】
前記溶媒は、水、脱気水、蒸留水、脱イオン水、精製水、またはそれらを組み合わせたものあることを特徴とする、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
少なくとも1つの生物系界面活性剤が、前記濃縮体及び/または調製された前記緩衝液に添加されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、10~50倍で、前記濃縮体を希釈することを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項5】
前記一つまたはそれ以上の浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、単糖類、二糖類、ポリオール、炭水化物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の調製方法。
【請求項6】
一つまたはそれ以上の前記緩衝剤は、
第一リン酸ナトリウム;
第二リン酸ナトリウム;
第一リン酸カリウム;
第二リン酸カリウム;
イミダゾール;
炭酸ナトリウム;
炭酸水素ナトリウム;
カコチル酸ナトリウム;
バービタールナトリウム;
塩酸;
水酸化ナトリウム;
水酸化カリウム;
酢酸;
クエン酸三ナトリウム;
酢酸ナトリウム;
リンゴ酸;
コハク酸;
クエン酸三カリウム;
マレイン酸;
クエン酸;
ギ酸;
乳酸;
プロピオン酸;
2-(Nモルフォリノ)エタンスルホン酸(MES);
ビス[2-ヒドロキシエチル]イミノトリス[ヒドロキシメチル]メタン;
2-(2-アミノ-2-オキシエチル)-(カルボキシメチル)アミノ)酢酸(ADA);
N-(2-アセタミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES);
ビストリスプロパン1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン;
ピペラジン-N,N′-ビス(2-エタンスルホン酸)(パイプス);
2-(カルバモイルメチルアミノ)エタンスルホン酸(ACES);
2-ヒドロキシ-3-モルフォリノプロパンスルホン酸(MOPSO);
コラミンクロリド塩酸塩;
3-モルフォリノプロパン-1-スルホン酸(MOPS);
NN-ビス2-ヒドロキシエチル-2-アミノエタンスルホン酸(BES);
2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES);
2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イレタンスルホン酸(HEPES);
[3-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸](DIPSO);
[4-(N-モルホリノ)ブタンスルホン酸](MOBS);
アセタミドグリシン;
3-[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(TAPSO);
2,2′,2″-ニトリロトリス(エタン-1-オル)(TEA);
ピペラジン-N,N′ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO);
4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO);
4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸(HEPPS);
N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(トリシン);
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス);
グリシナミド;
グリシン;
グリシルグリシン;
ヒスチジン;
N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N′(4-ブタンスルホン酸)(HEPBS);
2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸(ビシン);
[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸(TAPS);
2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMPB);
2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES);
β-アミノイソブチルアルコール(AMP);
N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO);
3-(シクロヘキシルアミノ)-2-ヒドロキシ-1プロパンスルホン酸;
3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸(CAPS);及び
4-(シクロヘキシルアミノ)-1-ブタンスルホン酸(CABS)、の無水物及び/または水和物の中から選択されることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記変形容器は、2.0L未満の内容積を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の調製方法によって、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適する緩衝液を調製するのに使用されるパッケージであって、
(a)
ノズルが設けられ、前記ノズルの内部には容器の内容物を液滴の状態及び/または制御されたストリームの状態で吐出するよう構成されたオリフィスまたは絞り口を備え、前記液滴は0.02g~0.25gの質量を有し、前記液滴の平均質量は0.15g未満の質量であることを特徴とする、変形容器、と、
(b)前記変形容器内の前記緩衝液の濃縮体、
とを備えるパッケージ。
【請求項9】
(a)請求項に記載のパッケージ、と
(b)少なくとも1つの生物系界面活性剤及び/または脂肪酸において化学的に生成された塩、
とを備えるキット。
【請求項10】
前記生物系界面活性剤は、胆汁酸塩及び/またはリン脂質を含み、前記脂肪酸において化学的に生成された塩は、オレイン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適したバッファの分野に関する。特に、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングの使用に適する緩衝液の調製方法と、容器と該容器内の前記緩衝液の濃縮体とを備えるパッケージと、前述の試験及びプロファイリングに有用なその他構成要素とともに、前述のパッケージを備えるキット、とに関する。
【背景技術】
【0002】
標準的なバッファ、例えば米国薬局方(USP)に記載のものが、イン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングといった、剤形調製や分析手法等に広く使われている。バッファは、化学的に明確化され、広いpH範囲(通常、pH1.2~10)をカバーし、既知のイオン強度及び緩衝能を有する。本発明は、特に、空腹時及び摂食時の条件下における胃腸(GI)領域のpHレベルを考慮しつつ、生理学的に適切とされる溶出溶媒及び溶解度検査に焦点を当てたバッファを提供することに関する。したがって、ここで記載される「生理学的に適切とされる」という表現は、pH1.2~8.5の範囲を指し、これは、空腹時及び摂食時の状態の、2つの極端なpH値の範囲であり、胃腸管の同じ領域内の異なる箇所における被検体内の変動に対応する。
【0003】
適切なバッファ構成は、所望のpH目標、試験対象の活性医薬化合物(API)の物理化学的性質、及び試験目的によって、選択される。試験目的としては、例えば、溶解度や異なるpH値間の溶解を評価すること、及び、バッファ構成、生理学的に適切とされる溶出溶媒の濃度、浸透圧、及びイオン濃度(強度)にあわせて、一定のpHにおける(相対的な)溶解率を調整することが含まれる。緩衝能は、バッファの構成や濃度と相関関係にある。濃度が高ければ高いほど、溶媒の薬剤溶解に影響するpHの変化に対する抵抗が大きくなる。溶出溶媒のpHが一定であったとしても、溶解率は通常、バッファ濃度に依存する。生物系界面活性剤が溶媒内に存在する場合においても、生理学的に適切とされるpH範囲内の溶出溶媒(の調製)にとって適正なバッファ構成を選択することが重要となる。
【0004】
標準的なバッファは、イン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに広く使用される。バッファはスクラッチによって作製されるか、あるいは、多くの場合、バッファとして購入、または濃縮体(例えば、10倍)や乾燥粉末として購入し、1.2~10の定められたpH(USP)で、正確に、決まった容積(例えば、1.0L、200ml、及び100ml)となるよう希釈することにより得る。
【0005】
pH1.2~8.5の間において、薬剤溶解や溶解率を試験する場合、異なるpHや該範囲内の同じpHを有する、溶解槽内における作製直後の溶出溶媒のアリコート(部)が多数必要となる(USP2法)。必要とされ、作製される溶媒の総量は、一回の試験で必要する複製の数、サンプリング間隔、及び実施する試験による。例えば、空腹時の状態での薬剤溶解(放出)及び/または食品効果の検査の際、空腹時人工腸液(FaSSIF)や摂食時人工腸液(FeSSIF)等の溶出溶媒を900ml含む溶解槽から、例えば6時間の期間にわたって、最大10個までサンプルを取り出してもよい。それぞれの溶出溶媒における試験が、n=3を最小とする場合において、必要な複製の数は18であり、溶媒の量は、16.2L(18×900ml)である。二種類の溶媒(FaSSIFおよびFeSSIF)の場合、数も二倍され、32.4L(36×900ml)となる。空腹時及び摂食時の人工胃液(例えば、FaSSGIF及びFeSSGIF)において、それぞれの溶解槽で500mlの溶出溶媒を必要とする試験を追加で実施する場合、18L(36×500ml)の定められたpHに保たれた緩衝液が必要となる。したがって、手間を省くにあたり、同じ及び/または異なるpHの緩衝液を、濃縮体より新たに作製することが道理にかなっている。
【0006】
所望の緩衝液を得るために希釈される緩衝液の濃縮体は、既知のものであり、市販されている。一般的に、濃縮体は、注出用の首部あるいは口部がついた容器に入って提供される。しかし、濃縮体を注出する際に乱流が起こると、濃縮体を複数かつ少量の部単位で、正確に、精度よく、素早く、そしてこぼすことなく、再現性を保って計測することが困難になる。したがって、濃縮体の発展を追求するにあたり、今日にいたるまでの先行技術では、注出を容易にすること、特に、注出時に生じる乱流を最小限にすることに重きが置かれていた。代替案として、濃縮体をアンプルやパウチ、小袋に入れることが採用されたが、注出における再現性、正確さや精度の問題を解決する一方で、濃縮体を様々な量で吐出する際の柔軟性には欠けていた。
【0007】
測定または計量しつつ吐出する手段を備えたボトルやその他容器が知られている。例えば、特許文献1は、計量用クロージャ―を備えたボトルに封入可能な急速核酸ハイブリダイゼーションの構成に言及している。特許文献2は、製品を封入、吐出し、注入ノズルを有する装置を開示しており、特許文献3は、液体をマイクロリットル単位の液滴の状態で吐出する、計量滴ボトルについて記載しており、特許文献4は、点眼液の投与を意図したスポイトボトルと、その付属品に関するものである。特許文献5は、赤血球溶解バッファの作用濃度の調整におけるピペットの使用について記載している。しかし、上記の文献のいずれも、イン・ビトロ薬剤溶解、薬剤溶解度及び/または薬剤プロファイリングといった検査に使用される濃縮体を、複数回にわたり正確な量を吐出する効果を教示、示唆していない。
【0008】
したがって、濃縮体から、イン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適切なバッファを調製する新たな方法、特に、実用的で柔軟性があり、使いやすい方法であって、正確さや精度を保ちつつ、こぼさずに所望の濃縮体量を再現性よく計量して出すことができる方法の需要が未だ満たされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2016/0017405号明細書
【文献】国際公開第2015/124844号
【文献】国際公開第2008/068775号2
【文献】国際公開第2004/013009号
【文献】国際公開第2018/218341号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、pH1.2~8.5の緩衝液の調製に焦点を当てた特定の希釈係数を有する濃縮体と、それに関連した緩衝能とに関するものであり、生理学的に適切とされるイン・ビトロ薬剤溶解試験、薬剤溶解度試験及び/または薬剤プロファイリングを目的とし、生物系界面活性剤もまた、溶出溶媒に添加される。「生理学的に適切とされる」とは、1.2~8.5のpH値を指し、(生体関連の)溶出溶媒が、胆汁酸塩、リン脂質、消化脂肪成分等の生物系界面活性剤をさらに含む状態であると理解されるべきである。緩衝能、浸透圧、及びイオン濃度に関連する、溶出溶媒中の界面活性剤の効果は、さらに考慮される。
【0011】
よって、本発明は、生理学的に適切とされるイン・ビトロの溶解試験、溶解度試験、及び薬剤プロファイリングに適しており、pH1.2~8.5の範囲で、目標とする浸透圧、緩衝能、及びイオン濃度を有するバッファを希釈により得る方法を改良し、それを提供することを目的とするものである。この方法によれば、溶出溶媒の調製に手間がかからず、また、正確さや精度を保ちつつ、こぼさずに、再現性よく、濃縮体の原液を可変的に、あるいは一定量だけ、計量することができる
【0012】
本発明は、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤pHプロファイリングに適し、哺乳類種において生理学的に適切とされるpH範囲(幅広く、pH1.2~8.5の間)を目標値とするバッファを、濃縮体から希釈により調製する実用的方法を提供する。また、本明細書において、p13/14として一般的に説明される物理化学的パラメータに準拠している。本発明によれば、正確さや精度を保ちつつ、こぼすことなく、濃縮体構成を再現性良く所望の量(希釈可能なアリコートとも称する)で計量して出すことができる。特に、濃縮体を液滴として、または制御されたストリームとして吐出するよう構成されたオリフィスまたは絞り口を備える変形容器から、濃縮体が液滴状、あるいは制御されたストリーム状に吐出される。濃縮体を、このような容器から吐出することにより、正確さや精度を保ちつつ、こぼすことなく、濃縮体を複数の部(あるいはアリコート)として再現性よく提供することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適する緩衝液を調製する方法を提供し、該方法は、
濃縮体を液滴の状態及び/または制御されたストリームの状態で吐出するよう構成されたオリフィスまたは絞り口を備える変形容器から、別の容器へ、緩衝液の濃縮体を所定の量だけ吐出する工程(a);と、
緩衝液を生成するために、所定の量の溶媒で、所定の量の濃縮体を希釈する工程(b)、
とを含む。
【0014】
本発明はまた、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適する緩衝液を調製するのに適切なパッケージを提供し、該パッケージは、
(a)容器の内容物を液滴の状態及び/または制御されたストリームの状態で吐出するよう構成されたオリフィスまたは絞り口を備える変形容器;と、
(b)変形容器内の緩衝液の濃縮体、
とを備える。
【0015】
本発明はまた、パックの調製方法及び、変形容器を備え、濃縮体を変形容器内に入れること含む方法を提供する。
【0016】
本発明はさらに、生理学的及び/または臨床での成果をイン・ビトロで試験するのに適切なキットを提供し、該キットは、
(a)前述のパッケージ;と
(b)生物系界面活性剤、
とを備える。
【0017】
例えば、3~40倍に濃縮された前述の濃縮体は、浸透剤をさらに含み、パッケージは、pH1.2~pH8.5の範囲で、目標とする緩衝能、浸透圧、及びイオン濃度を正確かつ精度よく有する、生理学的に適切とされる溶出溶媒を調製する際に最適である。出願人が把握する限り、こうした濃縮体やパッケージは、従来において記載がない。
【0018】
本発明に関して、添付の図面を参照しながら、例を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、変形容器が備え得るリブ付きひねり開閉キャップノズルの例を示す。
図2図2は、変形容器が備え得る、カニ爪シールノズルを有するポリプロピレン製ナチュラル平滑円盤型トップキャップの例を示す。
図3図3は、変形容器が備え得る、ボアシールノズルを有するナチュラルリブ付きプッシュプルキャップの例を示す。
図4図4は、変形容器が備え得る、ポリエチレン製拡張ライナーノズルを有するポリプロピレン製平滑フリップ型開閉キャップの例を示す。
図5図5は、変形容器が備え得る、カニ爪シールノズルを有するポリプロピレン製平滑フリップ型トップキャップの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適する、pH1.2~pH8.5、好ましくは、pH1.2~pH7.5、より好ましくは、pH1.6~pH6.8の緩衝液の調製方法に関する。薬剤溶解試験及び薬剤溶解性試験は、通常、薬剤化合物の溶解及び/または溶解度の試験を指す。薬剤プロファイリングは、総じて、例えば、溶解度やpH感受性等の物理化学的特性、Cacо-2細胞ラインにおける薬剤透過性、そして薬剤のバイオ薬学的特性の評価を指す。
【0021】
詳細には、本願における生理学的に適切とされる溶出溶媒は、空腹時溶媒(例えば、FaSSIF)の場合であれば、胆汁酸塩やレシチン等の生物系界面活性剤を含み、摂食時溶媒(例えば、FeSSIF)の場合であれば、消化脂肪成分も追加で含まれており、溶媒は、バッファ構成に応じて、pH1.2~pH8.5の間に緩衝化され、適正な緩衝能、浸透圧、及びイオン濃度を備える。一方、溶解試験に使用される、標準的なUSP SIFバッファは、通常、浸透剤を含まず、塩が添加される。
【0022】
したがって、生理学的に適切とされる溶出溶媒は、一定のpH下で、薬剤化合物や薬品の溶解、溶解率、溶解度及びその他特性に関する有益な情報を提供する際に使用され得る(緩衝化)液である。例えば、緩衝液は、生理学的に適切とされる(生体関連の)溶媒、例えば、FaSSIF及びFeSSIF溶媒といった、空腹時及び摂食時の状態における腸内のイン・ビボ条件を模したものや、胃と結腸内の液体を模した溶出溶媒を得るために利用され得る。こうした溶解試験は、医薬品のイン・ビボ溶解及び溶解度を予測し、食品効果を測るのに有効である。
【0023】
一般的に、緩衝液または生理学的に適切とされる溶出溶媒は、空腹時または摂食時の腸、胃または結腸液を模したものである。このような液の好ましい例としては、空腹時人工腸液(FaSSIF)、摂食時人工腸液(FeSSIF)、空腹時人工胃液(FaSSGF)、摂食時人工胃液(FeSSGF)、空腹時人工結腸液(FaSSCOF)、及び摂食時人工結腸液(FeSSCOF)を含む。また、こうした液は、特に、ヒトやイヌのイン・ビボ環境を再現している。緩衝液は、ヒトのイン・ビボ環境を模していることが好ましい。
【0024】
緩衝液は、バイオ医薬品分類システム(BCSに準拠した活性医薬剤(API)プロファイリング及び指定に有用な液体でも有り得る。
【0025】
本発明の方法、パッケージ、及びキットによると、原液構成は緩衝液の濃縮体である。したがって、濃縮体を液滴の状態で、重量(例えば、重さで100mg)単位で吐出することが可能な構成である。適切に希釈がなされると、緩衝成分の構成にもよるが、目標のpH(1.2~8.5)を有する所望の緩衝液が生成される。なお、濃縮体量及び構成(重量%)により、緩衝液(希釈後)及びその溶出溶媒(生物系界面活性剤の添加後)の緩衝能(例えば、5~50)、浸透圧(例えば、空腹時の状態で25~300mOsm/kg、摂食時の状態で150mOsm/kg~700mOsm/kg)が決定され、適正な目標とする緩衝能、浸透圧、及びイオン含有量を得る。ここに挙げた目標パラメータは、目標のpHにおける、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適するものである。
【0026】
濃縮体は、1.2~8.5のpHを有する所望の最終緩衝液に必要なすべての成分を含み得る(つまり、緩衝液を得るには、溶媒、例えば水を添加するだけでよい)。溶媒で希釈後、必要なpH値を精緻に得るにあたり、場合によっては、得られた緩衝液のpHは、HClまたはNaOHを加えることで調整され得る。浸透圧も、緩衝液及び/または濃縮体に適切な成分として開示される塩や糖のいずれかを添加することで、調整され得る。すべての成分が濃縮体に含まれていることが好ましいが、目標のpHを有する溶出溶媒の緩衝能、浸透圧、及びイオン濃度を得る、もしくは調整するために、構成される緩衝液及び/または溶出溶媒に、成分を添加し得る。
【0027】
変形容器は、容器の外側面から圧力が付加された場合に変形する容器である。こうした変形により、変形容器の内容積が減少し、変形容器の内部圧力が増加して、容器の内容物が、オリフィスまたは絞り口から排出または吐出される。変形は、可塑変形または弾性変形のどちらでも有り得るが、好ましくは、弾性変形、つまり変形容器が弾性的に変形する容器であるとよく、これにより、変形容器が再利用可能となる。
【0028】
変形容器は、濃縮体を液滴の状態で吐出するよう構成される。したがって、(例えば、容器を握ることにより)低い圧力が徐々に変形容器の外側面に付加されると、濃縮体は液滴として吐出される。こうした液滴状での吐出は、総じて、オリフィスまたは絞り口における全長が0.5mm~2mmの、小型のオリフィスまたは絞り口と、低い圧力を徐々に付加することによって実現される。オリフィスまたは絞り口の全長は、通常、オリフィスまたは絞り口の開口部の全長である。
【0029】
オリフィスまたは絞り口は、通常、1~5のアスペクト比を有する。好ましくは、アスペクト比は、1~2、さらに好ましくは、1~1.5である。特に好ましい実施形態において、オリフィスまたは絞り口は、略円形の開口部を有する、つまりアスペクト比が1、またはおおよそ1である。
【0030】
高い圧力が変形容器の外側面に付加された場合、濃縮体は、連続したストリームの状態で排出される。これは、濃縮体がこぼれたり、乱流により無駄になったりすることなく、素早く吐出され得るという点において、優位性がある。
【0031】
濃縮体を液滴の状態、あるいは連続したストリームの状態で吐出するのに、どれくらいの外圧力を加えればよいかということは、当業者にとっては容易に明らかであろう。よって、異なる強さの圧力を利用することで、濃縮体を吐出する割合を制御することができる。また、変形容器から濃縮体を二段階で吐出することができる。一段階として、高い圧力を付加することで、所望の濃縮体量の大部分を素早く吐出する。二段階として、低い圧力を付加することで、最終的な濃縮体量を正確に、液滴の状態で吐出する。これにより、濃縮体を、非常に正確な量で、素早く吐出し得る。
【0032】
変形容器はノズルを備え得る。通常、ノズルを使用することで、濃縮体を連続したストリームの状態で吐出する際、濃縮体は乱流ではなく、ニュートン流動となる点で、優位性がある。ノズルが設けられている場合、オリフィスまたは絞り口は、ノズルに設けられる。ノズルを閉じ、濃縮体が変形容器から逃げることを防ぐために、ノズルは、蓋及び/またはシールを備え得る。総じて、ノズルを使用することで、高精度に信頼性高く、濃縮体を吐出することができる。
【0033】
ノズルは、0.02g~0.25gの質量を有する液滴及び/または0.02ml~0.25mlの体積を有する液滴、さらに好ましくは、0.02g~0.15gの質量を有する液滴及び/または0.02ml~0.15mlの体積を有する液滴を吐出するよう構成されていることが好ましい。濃縮体の質量と体積の関係性が、濃縮体、圧力、及び温度によるということは、当業者も理解するところであろう。
【0034】
ノズルは、一定の質量及び/または体積を常に有する液滴を吐出するよう構成されることが好ましい。この決定手段に関しては、後ほど実施例1に示す。よって、数滴(例えば、10)の液滴がノズルから吐出され得る。一滴の液滴の質量または体積は、計測され得る。したがって、液滴の平均質量または体積は、算出され得る。平均液滴質量からのずれ液滴質量は、通常、0.015g未満であることが好ましい(この場合、正確さは、室温(18~25度)における10滴の液滴のサンプルサイズから得た平均液滴質量からのずれで判断される)。平均液滴質量からのずれ液滴質量は、0.010g未満であることがより好ましい。
【0035】
信頼性が高く、かつ正確に液滴を吐出するのに適していれば、どのような種類のノズルも用いられ得る。こうしたノズルの種類は、当業者にとって既知のものであろう。本発明で使用されるのに適切とされるノズル種類の例としては、下記の(i)~(v)を含む。
(i)ボアシールを有するリブ付きひねり開閉キャップノズル、つまり、孔にリブ部とシールとを有するノズル。シールは、ノズルキャップをひねることにより開閉され得る。
(ii)カニ爪シールを有する円盤型トップキャップ、好ましくは、カニ爪シールを有するポリプロピレン製円盤型トップキャップ、つまり、好ましくはポリプロピレン製の円盤型トップキャップとカニ爪シールを有するノズル。
(iii)ボアシールを有するリブ付きプッシュプルキャップ、つまり、孔にリブ部とシールとを有するノズル。シールは、ノズルキャップを押したり引いたりすることにより開閉され得る。
(iv)好ましくはポリエチレンの拡張ライナーを有する、好ましくはポリプロピレン製の平滑フリップ型開閉キャップ、つまり平滑部とキャップとを有するノズル。キャップは、フリップ機構を介して開閉し、好ましくはポリプロピレン製であり、好ましくはポリエチレン製の拡張ライナーを有する。
(v)カニ爪シールを有するポリプロピレン製平滑フリップ型トップキャップ、好ましくは、カニ爪シールを有するポリプロピレン製平滑フリップ型トップキャップ、つまり平滑部とキャップとを有するノズル。キャップは、フリップ機構を介して開閉し、カニ爪シールを有する。
【0036】
最も好ましくは、ノズルは、ボアシールを有するリブ付きひねり開閉キャップノズル、もしくは、ボアシールを有するリブ付きプッシュプルキャップであり、実施例1で示すように、吐出される液滴間のばらつきをおさえる。前述のノズルは平滑部またはリブ部を有するが、これらの部分はノズルの機能に影響を及ぼすものではなく、平滑部またはリブ部は、異なる質感のものに置き換え得ることは、当業者も知るところであろう。
【0037】
変形容器は、通常、プラスティック素材からなる。例えば、変形容器は、プラスティック素材製であり得る、つまり、実質的にプラスティック素材で構成される、あるいは、プラスティック素材で構成される。変形容器のノズルもまた、実質的にプラスティック素材で構成される、あるいは、プラスティック素材で構成される。ノズルが設けられる場合、ノズルは変形容器とは異なるプラスティック素材からなり得る。
【0038】
プラスティック素材は、通常、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレン共重合体(PPCO)、ポリメチルペンテン(PMP)、フッ素化高密度ポリエチレン(FLPE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、ペルフルオロアルコキシ(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)、およびこれらの組み合わせから選択されるプラスティック素材である。
【0039】
変形容器は、容器内に残存する濃縮体量と吐出された濃縮体量の判別を容易にする目盛りを備え得る。目盛りは、変形容器自体にあってもよく、例えば、目盛りや印を容器につける。あるいは、目盛りは、容器に貼付される他の素材(例えば、ステッカー)上にあってもよい。
【0040】
変形容器のサイズは特に制限されない。変形容器の内容積(つまり、変形容器内におさまる濃縮体の最大体積)は通常、2.0L未満である。好ましくは、内容積は、5ml~1.5L、さらに好ましくは、10ml~1.2L、またさらに好ましくは、50ml~1.0Lである。1.0L未満のサイズであれば、手間がかからず、パッケージやキットに適切である。
【0041】
容器は、液滴状態で、あるいは制御されたストリーム状態での吐出の際、好ましくは片手で、保持・使用できることが好ましい。
【0042】
緩衝液は通常、水溶液である。一般的に、緩衝液は、濃縮体を水、好ましくは、蒸留水、脱イオン水、精製水、またはそれらを組み合わせたもので希釈して得る。水は脱気されていることが好ましい。
【0043】
吐出された濃縮体量が緩衝液の所望の体積や濃縮率(つまり、所望の緩衝液と比較した際、濃縮体がその何倍濃縮されているか)に依存することは、当業者にとって明らかであろう。当業者であれば、いずれの所望の緩衝液の場合であっても、濃縮体の必要量(質量または体積)及び希釈係数を容易に算出可能であろう。また、当業者であれば、別容器に吐出される濃縮体の必要所定量を容易に算出可能であろう。同様に、当業者であれば、濃縮体を希釈し、緩衝液を作製するのに使用される溶媒の必要所定量を容易に算出可能であろう。
【0044】
容器内の構成は、空腹時及び摂食時GI液に見られるような、pH1.2~8.5の、生物学的に関連するpH範囲内の、生理学的に適切とされる溶出溶媒の特定のpH値を目標としたものである。溶解プロファイリングでは、薬剤(例えば、分類1及び3の帯電化合物(BCS分類))を、バッファ濃度(緩衝能)、電解質含有量(イオン濃度)、及び浸透圧に関連付けて、同じ一定のpH値での効果を把握するうえで、前記pH範囲にわたって試験することが必要である。これにより、同じ及び異なるpH条件において溶解及び溶解率を検討するのに最も適正なpHとpH構成とを選択することができる。
【0045】
総バッファ濃度及び緩衝能は、相対溶解率に影響するよう使用されるパラメータである。
【0046】
吐出される濃縮体の量または体積は、通常、1.0kg未満及び/または1.0L未満である。好ましくは、吐出される濃縮体の体積は、5g~250g及び/または5ml~250mlである。
【0047】
所望の緩衝液を得るのに、濃縮体の質量または体積が最小となるよう、濃縮体は、可能な限り濃縮されることが好ましい。最大濃度は、濃縮体内の成分の溶解度により決まる。濃縮体は通常、緩衝液よりも、2倍~100倍に濃縮される。好ましくは、濃縮体は、緩衝液よりも、3~50倍、さらに好ましくは、10倍~50倍、さらに好ましくは、20倍~40倍、またさらに好ましくは、25倍~35倍に濃縮される。濃縮体に使用される溶媒は、一般的に、水、好ましくは、蒸留水、脱イオン水、精製水、またはそれらを組み合わせたものある。水は脱気されていることが好ましい。
【0048】
本発明の方法により調製される緩衝液の量(つまり、「アリコート」)は、通常、10ml~30L、好ましくは、500ml~10L、さらに好ましくは、100ml~1Lである。溶解試験に使用される容器あたりの体積/量は、300ml~1Lである。一般的に、500~900mlで、n=3~n=12回分、繰り返される。
【0049】
緩衝液は通常、1.2~8.5のpHを有する。pHは、溶解試験における重要パラメータである。これは、溶媒のpHが、特にBCSの分類1及び3に分類されたイオン性化合物の薬剤溶解度及び溶解率に、影響を及ぼすためである。したがって、溶媒のpH制御のためのバッファが必要不可欠である。pHの安定化が図れない場合、特に帯電かつ酸性の塩基性化合物に対する試験結果の信頼性及び再現性が損なわれる。緩衝能により、相対的な薬剤溶解率に影響を及ぼすpHの変化に対する抵抗を備える。
【0050】
目標とする浸透圧、緩衝能及びイオン含有量を有し、生理学的に適切とされる溶出溶媒を調製するために、本発明において使用される好ましいバッファは、例えば、酢酸、クエン酸、リン酸バッファ濃縮体、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0051】
緩衝液のpHは、1.0~9.0、好ましくは、1.2~8.5である。
【0052】
得られた緩衝液は通常、0mM/l/pH~100mM/l/pH、好ましくは、1mM/l/pH~50mM/l/pH、さらに好ましくは、2mM/l/pH~20mM/l/pHの緩衝能を有する。
【0053】
得られた緩衝液は通常、25mOsm/kg~700mOsm/kg、好ましくは、100mOsm/kg~400mOsm/kgの浸透圧を有する。
【0054】
得られた緩衝液は通常、100mN/m未満、好ましくは、30mN/m~90mN/mの表面張力を有する。
【0055】
緩衝液の特性は、食品効果の評価といった緩衝液の利用目的や、胃腸管内の箇所によって異なる。希釈された緩衝液は、下記特性を持つことが好ましい:
(a)1.2~6.0のpH、最大10mMの緩衝能、及び25~140mOsm/kgの浸透圧;
(b)2.2~7.0のpH、10~80mMの緩衝能、及び50~700mOsm/kgの浸透圧、一般的には、pHは3.0~6.5かつ浸透圧は75~650mOsm/kg;
(c)3.0~8.5のpH、5~25mMの緩衝能、及び50~400mOsm/kgの浸透圧、一般的には、pHは4.5~8.0。
【0056】
本発明の方法を利用して調製される好ましい緩衝液について、具体的な実施形態を下記実施例において示す。
【0057】
本願に記載される体積は、特に明記しない限り、25度の温度下で測定した体積である。
【0058】
濃縮体及び対応するバッファは通常、一つかそれ以上の浸透圧調整剤を含む。濃縮体及び対応するバッファは通常、一つかそれ以上の無機系緩衝剤を含む。濃縮体及び対応するバッファは通常、一つかそれ以上の有機系緩衝剤を含む。濃縮体及び対応するバッファは、一つかそれ以上の浸透圧調整剤、一つかそれ以上の無機系緩衝剤、または一つかそれ以上の有機系緩衝剤を含むことが好ましい。
【0059】
濃縮体及び対応するバッファは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、グルコースまたはフルクトースなどの単糖類、スクロースやラクトースなどの二糖類、グリセロールなどのポリオール、マルトデキストリンなどの炭水化物から選択される浸透圧調整剤のうち、一つかそれ以上を含むことが好ましい。
【0060】
濃縮体及び対応するバッファは、下記の無水物及び/または水和物の中から選択された、一つまたはそれ以上の緩衝剤を含む:
リン酸ナトリウム一塩基;
リン酸二分塩基ナトリウム;
リン酸カリウム一塩基;
リン酸カリウム二分塩基;
イミダゾール;
炭酸ナトリウム;
炭酸水素ナトリウム;
カコチル酸ナトリウム;
バービタールナトリウム;
塩酸;
水酸化ナトリウム;
水酸化カリウム;
酢酸;
クエン酸三ナトリウム;
酢酸三水和ナトリウム;
リンゴ酸;
コハク酸;
クエン酸トリボタシウム;
マレイン酸;
クエン酸;
ギ酸;
乳酸;
プロピオン酸;
2-(Nモルフォリノ)エタンスルホン酸(MES);
ビストリスメタン(ビストリス);
2-(2-アミノ-2-オキシエチル)-(カルボキシメチル)アミノ酸(ADA);
N-(2-アセタミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES);
ビストリスプロパン1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン;
ピペラジン-N,N′-ビス(2-エタンスルホン酸)(パイプス);
2-(カルバモイルメチルアンモ)エタンスルホン酸(ACES);
2-ヒドロキシ-3-モルフォリノプロパンスルホン酸(MOPSO);
コラミンクロリド塩酸塩;
3-モルフォリノプロパン-1-スルホン酸(MOPS);
NN-ビス2-ヒドロキシエチル-2-アミノエタンスルホン酸(BES);
2-[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロバン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES);
2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イレタンスルホン酸(HEPES);
[3-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸](DIPSO);
[3-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸]MOBS;
アセタミドグリシン;
3-[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(TAPSO);
2,2′,2″-ニトリロトリス(エタン-1-ol)(TEA);
ピペラジン-N,N′ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO);
4-(2-ヒドロキセチル)ピペラジン-1-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO);
4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸(HEPPS);
N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(トリシン);
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス);
グリシナミド;
グリシン;
グリシルグリシン;
ヒスチジン;
N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N′(4-ブタンスルホン酸)(HEPBS);
2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ酸(ビシン);
[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸(TAPS);
2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMPB);
2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES);
β-アミノイソブチルアルコール(AMP);
N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキジエチル)-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスイフォン酸(AMPSO);
3-(シクロヘキシルミノ)-2-ヒドロキシ-1プロパンスルホン酸、CAPSO遊離酸(カプソ);
3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸(CAPS);及び
4-(シクロヘキシルアミノ)-1-ブタンスルホン酸(CABS)。
【0061】
緩衝液の浸透圧は、希釈後に、一つまたはそれ以上の浸透圧調整剤、好ましくは、上述した浸透圧調整剤を添加することにより調整され得る。
【0062】
FaSSIFバッファ濃縮体は:
最大6M、好ましくは3Mの塩、一般的には、共役酸または共役塩基;及び
最大4M、好ましくは0.8Mの酸または塩基、を通常含む。
【0063】
この濃縮体により調製された、対応する希釈後のFaSSIFバッファは:
80~120mMのNaCl及び25~30mMのNaHPO、好ましくは、約106mMのNaCl及び約28.4mMのNaHPOを含む、25~200mMの塩;及び
1~50mMの酸、を通常含む。
【0064】
希釈後のFeSSIFバッファ濃縮体は:
180~220mMのNaCl、好ましくは、約203mMのNaClを含む、50~300mMの塩;及び
好ましくは、約144mMの酢酸を含む、10~200の酸、を通常含む。
【0065】
本発明はまた、本明細書に記載の緩衝液を調製するのに適切なパッケージを提供する。緩衝液は、生理学的に適切とされるイン・ビトロの薬剤溶解試験、薬剤溶解性試験及び/または薬剤プロファイリングに適するものである。パッケージは、(a)容器の内容物を液滴の状態及び/または制御されたストリームの状態で吐出するよう構成されたオリフィスまたは絞り口を備える、本明細書に記載の変形容器と、(b)本明細書に記載の、変形容器内の緩衝液の濃縮体、とを備える。パッケージは、生体関連、生理学的及び/または臨床での成果をイン・ビトロで試験するのに適切なキットの一部を構成し得る。キットは、こうした試験に有用なその他成分、例えば、生物系界面活性剤、好ましくは、胆汁酸塩及び/またはリン脂質及び/または脂肪酸及びその塩及び/または脂肪分解により得られる物質を含みうる。
【0066】
実施例
下記に示す実施例は、発明を説明するためのものであるが、発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0067】
ノズル試験
液滴サイズの一貫性について、ノズル種類が試験された。ノズルは、図1~5に示される。それぞれのノズルでは、濃縮体(例えば、実施例3のFaSSIF濃縮体)の液滴が10滴、室温で吐出され、それぞれの液滴の質量が算出された。これにより、それぞれのノズル種類における平均及び標準偏差が決定された。標準偏差は可能な限り小さいことが好ましい。これは、液滴サイズが常に一定であることを示すからである。結果は、下記の表1、及び表3~6に示す。表2は、希釈後のバッファの目標体積を得るのに必要とされる、濃縮体の目標量を測定し、吐出するためのリブ付きひねり開閉キャップノズルを使用した場合の結果を表し、またこの方法における再現性を示している。
【0068】
下記のデータは、リブ付きひねり開閉キャップノズルと、ボアシールを有するナチュラルリブ付きプッシュプルキャップが、常に一定の質量の液滴を吐出していることを示している。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
実施例2及び3は、本発明のプロセスに準拠して調製可能な緩衝液の例を示す。
【実施例2】
【0076】
緩衝液の調製方法
5.0L以上の容積、例えば、100Lのバッファ濃縮体が、ステンレス鋼製の容器内に生成される。選定された成分は、正確に計量され、スターラーを使って、脱塩水、脱イオン化水、蒸留水などの精製水等に溶解する。
【0077】
個々の成分は、pHや比重等、定量的かつ定性的に分析される。
【0078】
1.0Lの濃縮体100部は、1Lの内容積を有する変形容器に入れられ、好ましくはボアシールノズルで栓をする。
【0079】
容器外側の目盛りがある場合は、それを参考しながら、バッファ濃縮体を、制御されたストリームの状態で、ノズルから素早く絞り出すことができる。液は、目標量に到達するまで液滴状に添加された。0.02g~0.25gの量が、(例えば、実施例1のノズルを使用して)予測通り高精度に液滴下で制御された。変形容器の内容物は、複数のアリコートあるいは単量で吐出され、吐出された濃縮体は、変形容器を使用して、正確に計量され、配分された。濃縮体の吐出量として好ましい範囲は、容器内のバッファ濃縮体の比重(SG)を考慮に入れると、5ml~250ml、もしくは、25度で同等の質量である。
【0080】
希釈係数に応じて、精製水等を、正確に計測されたアリコートに添加し、目標とするpH及び緩衝能を有する所望の緩衝液を得た。
【0081】
必要体積に対して計量されたアリコートの総量によって、緩衝能は増減し得る。浸透圧は、成分一覧より選択された塩または糖を含むことで、調整され得る。一つまたはそれ以上の塩が含まれることが好ましい。
【0082】
空腹時及び摂食時人工胃液溶媒や、結腸液等の、胃腸内の異なる箇所を模した溶媒を作製するための専用緩衝液を調製するにあたり、上記に開示したものから適切な成分を選択することにより、実施例3及び4のさらなる例を示し得る。
【実施例3】
【0083】
空腹時人工腸液(FaSSIF)バッファ
【0084】
【表7】
【0085】
FaSSIFバッファ濃縮体は、31倍に希釈された。3.23ml(3.88gと同等)のFaSSIFバッファは、1.108gの非水成分を含む。
【0086】
【表8】
【0087】
FaSSIFバッファ特性 値
pH 6.5±0.1
緩衝能(mM/l/pH) 約10
浸透圧(mOsm/kg) 270
【実施例4】
【0088】
摂食時人工腸液(FeSSIF)バッファ
【0089】
【表9】
【0090】
FaSSIFバッファ濃縮体は、15倍に希釈された。6.67ml(7.72gと同等)のFeSSIFバッファは、2.454gの非水成分を含む。
【0091】
【表10】
【0092】
FeSSIF値のパラメータ 値
pH 5.0±0.1
緩衝能(mM/l/pH) 約75
浸透圧(mOsm/kg) 670
【実施例5】
【0093】
空腹時人工胃液(FaSSGF)
本発明の方法にしたがい、FaSSGF濃縮体は30倍に希釈され得る。これにより、FaSSGFバッファ(pH1.6±0.1;緩衝能:非緩衝化;浸透圧120mOsm/kg)を得た。
【実施例6】
【0094】
空腹時人工腸液V2(FaSSIF-V2)
本発明の方法にしたがい、FaSSIF-V2濃縮体は3倍に希釈され得る。これにより、FaSSIFV2緩衝液(pH6.5±0.1;緩衝能10mM/L/ΔpH;浸透圧180mOsm/kg)を得た。
【実施例7】
【0095】
摂食時人工腸液V2(FeSSIF-V2)
本発明の方法にしたがい、FeSSIF-V2(マレイン酸)濃縮体は、3倍に希釈され得る。これにより、FeSSIF-V2バッファ(pH5.8±0.1;緩衝能25mM/L/ΔpH;浸透圧390mOsm/kg)を得た。
【実施例8】
【0096】
空腹時人工結腸液(FaSSCOF)
本発明の方法にしたがい、FaSSCоF濃縮体は20倍に希釈され得る。これにより、FaSSCоFバッファ(pH7.8±0.1;緩衝能16mM/L/ΔpH;浸透圧196mOsm/kgを得た。
【実施例9】
【0097】
摂食時人工結腸液(FeSSCOF)
本発明の方法にしたがい、FeSSCоF濃縮体は、20倍に希釈され得る。これにより、FeSSCоF液(pH6.0±0.1;緩衝能15mM/L/ΔpH;浸透圧207mOsm/kg)を得た。
【実施例10】
【0098】
イヌ空腹時人工腸液(FaSSIF)
本発明の方法にしたがい、希釈可能なイヌFaSSIF濃縮体は、30倍に希釈され得る。これにより、イヌFaSSIFバッファ(pH7.5±0.1;緩衝能13.8mM/L/ΔpH;浸透圧181.6mOsm/kg)を得た。
【実施例11】
【0099】
FaSSIF溶出溶媒の調製
表8(実施例3)の構成に、0.224gのFaSSIF/FeSSIF/FaSSGF粉末が添加され、溶出溶媒を得た。
【実施例12】
【0100】
FeSSIF溶出溶媒の調製
表9(実施例4)の構成に、1.120gのFaSSIF/FeSSIF/FaSSGF粉末が添加され、溶出溶媒を得た。
【実施例13】
【0101】
二段階希釈
31倍希釈は、二段階希釈により実行され得る。二段階希釈では、中間希釈物(たとえば、×2希釈)がさらに希釈され、第二段階において求めるバッファを得る。
【0102】
バッファ濃縮体は、「摂食時胃~小腸内溶解試験」を実施するのに、非常に利便性が高く有用である。この試験は、処方薬が胃から小腸内を通過する際の薬剤の反応を検討するのに利用することができる。この実験は、特に、薬剤が過飽和する難溶性塩基性薬剤及び処方薬、及び胃の内容物が小腸上部に到達する際の析出物試験に有用である。
【0103】
本手法は、Delayed Release Forms-Acid Step USP<711>に記載の遅延放出型製品向けのMethod Aに類似性が高いUSP II溶解装置を利用する。
【0104】
「摂食時胃~小腸内溶解試験」に際して、剤形(例えば、錠剤)の溶解を、まず、pH1.8のFaSSGF(例えば、300ml)で行い、続いて、二段階目として、300mlのFaSSIFの2.0倍濃縮体(×2.0)を、300mlのFaSSGFに添加し、合計600mlを得る。この2.0倍FaSSIF濃縮体は、2.016gのFaSSIF/FeSSIF/FaSSGF粉末を溶かした300mlの精製水で、29.03mlの31倍濃縮体を希釈し、前述の300mlのFaSSGF溶媒及び薬品で最大600ml生成することで、生成される。これにより、必要とされるFaSSIF溶媒を得る。
図1
図2
図3
図4
図5