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特許7541928磁気抵抗効果素子、記憶素子、及び電子機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】磁気抵抗効果素子、記憶素子、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/10 20230101AFI20240822BHJP
   H10N 52/85 20230101ALI20240822BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20240822BHJP
   H01F 10/08 20060101ALI20240822BHJP
   H01F 10/26 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H10N50/10 M
H10N50/10 Z
H10N52/85
H10B61/00
H01F10/08
H01F10/26
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020569472
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2020000357
(87)【国際公開番号】W WO2020158323
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019014595
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】苅屋田 英嗣
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-069788(JP,A)
【文献】特表2017-505533(JP,A)
【文献】特開2012-160681(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0123025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/10
H10N 52/85
H10B 61/00
H01F 10/08
H01F 10/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、
前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、
前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、
を備え、
前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、
前記第1磁性体又は前記第2磁性体の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、
前記非磁性層又は前記磁性層のいずれかは、異種の材料を交互に積層した多層構造にて形成され、
前記第1磁性体及び前記第2磁性体の各々は、磁性金属材料で形成された磁性金属層をさらに含む、
磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第1磁性体は、非磁性金属材料にて形成された第1非磁性層の直上に、異種の金属材料を交互に積層した第1磁性層を設けることで構成される、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記第1非磁性層を形成する非磁性金属材料は、Mo、W、又はIrのいずれかを含む、請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記第1非磁性層の膜厚は、0.4nm以上2.2nm以下である、請求項2又は3に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
第1電極と、
前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、
前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、
前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、
を備え、
前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、
前記第2磁性体は、3d遷移金属及びBを含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層した第2非磁性層の直上に、3d遷移金属及びBを含む磁性材料にて形成された第2磁性層を設けることで構成される、
磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第2非磁性層の一層を形成する非磁性金属材料は、Mo、W、又はIrのいずれかを含む、請求項5に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記第2非磁性層は、最上層又は最下層の少なくともいずれか一方が非磁性金属材料で形成された層となる積層構造にて設けられる、請求項5又は6に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記第2非磁性層のうち前記非磁性金属材料で形成された層の膜厚は、0.07nm以上0.15nm以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
前記第2非磁性層の全体における前記非磁性金属材料と、前記3d遷移金属及びBを含む磁性材料との体積比は、48.3%:51.7%~75.9%:24.1%である、請求項5~8のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層は、絶縁性の酸化物材料で形成される、請求項1~9のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
前記磁化自由層は、3d遷移金属及びBを含む磁性材料で形成された磁性層を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
第1電極と、
前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、
前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、
前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、
を備え、
前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、
前記第2磁性体は、3d遷移金属及びBを含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層した第2非磁性層の直上に、3d遷移金属及びBを含む磁性材料にて形成された第2磁性層を設けることで構成される、
記憶素子。
【請求項13】
磁気抵抗効果素子を含み、
前記磁気抵抗効果素子は、第1電極と、前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、
を備え、
前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、
前記第2磁性体は、3d遷移金属及びBを含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層した第2非磁性層の直上に、3d遷移金属及びBを含む磁性材料にて形成された第2磁性層を設けることで構成される、
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気抵抗効果素子、記憶素子、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置では、CMOS(Complementary MOS)を用いたロジック回路に大容量の不揮発メモリを混載させることが一般的になっている。
【0003】
例えば、ロジック回路にSRAM(Static Random Access Memory)等を混載させることが行われている。一方で、半導体装置のコスト及び消費電力を低減するために、SRAMを磁気抵抗メモリ(Magnetoresistive Random Access Memory:MRAM)で置換することが検討されている。
【0004】
磁気抵抗メモリ(MRAM)は、絶縁性薄膜を一対の強磁性層で挟持した磁気抵抗効果素子を利用した記憶素子である。磁気抵抗効果素子では、一対の強磁性層の相対的な磁化の向きによってトンネル抵抗の大きさが変化する。これにより、MRAMは、磁気抵抗効果素子の強磁性層の磁化を平行又は反平行のいずれかに制御し、トンネル抵抗の大きさを制御することで、情報を記憶することができる。
【0005】
ここで、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有する垂直磁化型の磁気抵抗効果素子では、強磁性層の垂直磁気異方性を高めるために様々な積層構造が検討されている。
【0006】
例えば、下記の特許文献1には、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有する垂直磁化型の磁気抵抗効果素子において、磁化の向きが可変な記録層の下に、特定の濃度以下のPd(パラジウム)を含む下地層を設けることが開示されている。特許文献1には、記憶層に含まれる強磁性金属であるCo(コバルト)とPdとが合金化することで、より高いMR比を実現することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5148673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1では、強磁性層の結晶配向性については十分な検討がされていなかった。強磁性層の結晶配向性が低い場合、強磁性層の垂直磁気異方性をさらに高めることが困難となる。そのため、強磁性層の結晶配向性に着目することで、強磁性層の垂直磁気異方性をより高めた磁気抵抗効果素子を実現することができる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によれば、第1電極と、前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、を備え、前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、前記第1磁性体又は前記第2磁性体の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、前記非磁性層又は前記磁性層のいずれかは、異種の材料を交互に積層した多層構造にて形成される、磁気抵抗効果素子が提供される。
【0010】
また、本開示によれば、第1電極と、前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、を備え、前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、前記第1磁性体又は前記第2磁性体の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、前記非磁性層又は前記磁性層のいずれかは、異種の材料を交互に積層した多層構造にて形成される、記憶素子が提供される。
【0011】
また、本開示によれば、磁気抵抗効果素子を含み、前記磁気抵抗効果素子は、第1電極と、前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、を備え、前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、前記第1磁性体又は前記第2磁性体の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、前記非磁性層又は前記磁性層のいずれかは、異種の材料を交互に積層した多層構造にて形成される、電子機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の積層構成を説明する模式的な縦断面図である。
図2】同実施形態に係る磁気抵抗効果素子の具体的な構成を説明する模式的な縦断面図である。
図3】同実施形態の実施例に係る磁気抵抗効果素子の積層構造を示す模式的な縦断面図である。
図4A】同実施例に係る磁気抵抗効果素子において、Moにて形成された第1非磁性層の膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hexの変化の一例を示すグラフ図である。
図4B】同実施例に係る磁気抵抗効果素子において、Wにて形成された第1非磁性層の膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hexの変化の一例を示すグラフ図である。
図4C】同実施例に係る磁気抵抗効果素子において、Irにて形成された第1非磁性層の膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hexの変化の一例を示すグラフ図である。
図5】本開示の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の具体的な構成を説明する模式的な縦断面図である。
図6】同実施形態の実施例に係る磁気抵抗効果素子の積層構造を示す模式的な縦断面図である。
図7A】同実施例に係る磁気抵抗効果素子の第2非磁性層において、CoFeB膜厚及びMo膜厚の割合を1:1とした上で、CoFeBで形成された層の膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hex、及びMR比の変化の一例を示すグラフ図である。
図7B図7Aで示した良好な交換結合磁界Hex及びMR比を実現するMoとCoFeBとの膜厚比率をCoFeBの膜厚ごとにプロットしたグラフ図である。
図7C図7Bの結果を変換することで、図7Aで示した良好な交換結合磁界及びMR比を満たすMoの膜厚をCoFeBの膜厚ごとにプロットしたグラフ図である。
図7D図7CでプロットされたMo及びCoFeBの膜厚の組み合わせを第2非磁性層全体におけるat%に変換した結果を示すグラフ図である。
図8】本開示の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の具体的な構成を説明する模式的な縦断面図である。
図9】同実施形態の実施例に係る磁気抵抗効果素子の積層構造を示す模式的な縦断面図である。
図10A】本開示の一実施形態に係る電子機器の一例を示す外観図である。
図10B】本開示の一実施形態に係る電子機器の他の例を前方から眺めた外観図である。
図10C】本開示の一実施形態に係る電子機器の他の例を後方から眺めた外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
以下の説明にて参照する各図面では、説明の便宜上、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。したがって、各図面において図示される構成部材同士の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材同士の大小関係を正確に表現するものではない。また、以下の説明では、基板及び層の積層方向を上下方向と表現し、基板等に層が積層される方向を上方向と表現する。
【0015】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.第1の実施形態
1.1.構成例
1.2.実施例
2.第2の実施形態
2.1.構成例
2.2.実施例
3.第3の実施形態
3.1.構成例
3.2.実施例
4.適用例
【0016】
<1.第1の実施形態>
(1.1.構成例)
まず、図1を参照して、本開示の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子1の積層構成を説明する模式的な縦断面図である。
【0017】
図1に示すように、磁気抵抗効果素子1は、基板100と、第1電極110と、磁化固定層120と、第1絶縁層130と、磁化自由層140と、第2絶縁層150と、第2電極160と、を備える。また、磁化固定層120は、非磁性金属層122と、非磁性金属層122を積層方向に挟持する第1磁性体121及び第2磁性体123と、によって構成される。
【0018】
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子1は、例えば、第1電極110及び第2電極160の間に電流を流すことで、電子のスピントルクによって磁化自由層140の磁化の向きを制御するいわゆるSTT-MRAM(Spin Transfer Torque-Magnetoresistive Random Access Memory:STT-MRAM)である。
【0019】
基板100は、磁気抵抗効果素子1の各層を支持する部材である。基板100は、半導体、石英、ガラス又は有機樹脂のいずれで形成されてもよい。例えば、基板100は、シリコン(Si)若しくはゲルマニウム(Ge)等の半導体、又はガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)若しくはシリコンカーバイド(SiC)等の化合物半導体で形成されてもよい。または、基板100は、シリコン基板の中にSiO等の絶縁膜を挟み込んだSOI(Silicon On Insulator)基板であってもよい。
【0020】
第1電極110は、各種金属材料又は合金材料にて基板100の上に設けられることで、磁気抵抗効果素子1と各種配線との接続点として機能する。第1電極110は、公知の材料及び積層構造で形成されてもよく、例えば、単層膜で形成されてもよく、複数の膜の積層膜で形成されてもよい。
【0021】
磁化固定層120は、例えば、第1磁性体121と、非磁性金属層122と、第2磁性体123とを積層した積層フェリ構造にて第1電極110の上に設けられる。
【0022】
第1磁性体121及び第2磁性体123は、それぞれ膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有し、強磁性体材料で形成される層を少なくとも1つ以上含む積層構造体である。第1磁性体121及び第2磁性体123は、非磁性金属層122を介して磁気結合することによって、磁化の向きを固定することができる。これにより、磁気抵抗効果素子1は、第1電極110及び第2電極160の間に電流を流した際に、第1磁性体121及び第2磁性体123の磁化の向きを変更させずに、磁化自由層140の磁化の向きだけを変更することができる。
【0023】
例えば、磁気抵抗効果素子1がMRAMとして用いられる場合、第2磁性体123は、磁化自由層140の磁化の向きに対する基準となる参照層として機能し、第1磁性体121は、磁気結合によって第2磁性体123の磁化方向を固定するピン層として機能する。
【0024】
本開示に係る技術では、第1磁性体121及び第2磁性体123の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、かつ非磁性層又は磁性層のいずれかが異種の材料を交互に積層した多層構造となるように構成される。これによれば、磁気抵抗効果素子1は、非磁性層によって磁性層の結晶配向性を向上させ、磁性層の垂直磁気異方性を高めることができる。したがって、磁気抵抗効果素子1は、第1磁性体121及び第2磁性体123の磁気結合力を高めることができる。また、磁化固定層120の磁気特性が向上するため、磁気抵抗効果素子1は、MRAMとして用いられた場合の磁気抵抗変化率(MagnetoResistance ratio:MR比)を向上させることができる。
【0025】
ここで、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1では、第1磁性体121が非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成される。このような第1の実施形態における第1磁性体121の具体的な構成について、図2を参照して説明する。図2は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1の具体的な構成を説明する模式的な縦断面図である。
【0026】
図2に示すように、第1の実施形態では、第1磁性体121は、非磁性金属材料にて形成された第1非磁性層121Aの直上に、異種の金属材料を交互に積層した第1磁性層121Bを設けることで構成される。また、第1磁性層121Bの上には、磁性金属材料で形成された第1磁性金属層121Cがさらに設けられてもよい。
【0027】
第1非磁性層121Aは、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、又はイリジウム(Ir)のいずれかを含む非磁性金属材料にて、第1電極110の上に形成される。第1非磁性層121Aは、第1電極110及び第1磁性層121Bの間の結晶配向性のミスマッチを解消することができるため、第1磁性層121Bの結晶配向性、及び垂直磁気異方性を高めることができる。これによれば、第1磁性体121及び第2磁性体123の磁気結合力が高まるため、第2磁性体123の磁化の向きが変更されること(すなわち、誤書き込み)をさらに抑制することができる。したがって、磁気抵抗効果素子1は、MRAMとして用いられた場合にエラーレートを低下させることができる。
【0028】
第1磁性層121Bは、異種の金属材料を交互に積層することで、第1非磁性層121Aの直上に形成される。第1磁性層121Bは、例えば、コバルト(Co)及び白金(Pt)を交互に複数回積層することで形成されてもよい。第1磁性層121Bがコバルト(Co)及び白金(Pt)の積層膜として形成される場合、第1磁性層121Bは、fccの(111)面の結晶配向性にて成膜される。しかしながら、第1磁性体121の下に設けられる第1電極110を構成する金属材料(例えば、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)など)の結晶配向性は、fccの(111)面とは異なる場合がある。第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1では、第1電極110及び第1磁性層121Bの間に第1非磁性層121Aを設けることにより、これらの層間での結晶配向性のミスマッチを解消することができる。
【0029】
第1磁性金属層121Cは、磁性金属材料にて第1磁性層121Bの上に形成され得る。第1磁性金属層121Cは、例えば、コバルト(Co)を含む磁性金属材料で形成されてもよい。第1磁性金属層121Cは、第1磁性体121の磁気特性を磁気抵抗効果素子1により適するように制御するために設けられてもよい。
【0030】
非磁性金属層122は、第1磁性体121の上、かつ第1磁性体121及び第2磁性体123の間に設けられることで、第1磁性体121及び第2磁性体123を磁気的に結合させる。非磁性金属層122は、例えば、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、又はチタン(Ti)などの非磁性金属材料にて、膜厚1nm程度の薄膜層として形成されてもよい。
【0031】
第2磁性体123は、磁性金属材料にて非磁性金属層122の上に設けられる。第2磁性体123は、例えば、コバルト(Co)を含む磁性金属材料、又は3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料にて形成されてもよい。第2磁性体123は、単層膜で形成されてもよく、複数の膜の積層膜で形成されてもよい。例えば、第2磁性体123は、Co、Mo及びCoFeBを順に積層することで形成されてもよい。
【0032】
第1絶縁層130は、絶縁材料にて磁化固定層120の上に設けられる。第1絶縁層130は、磁化固定層120及び磁化自由層140の間に設けられることで、磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)素子のトンネル絶縁膜として機能する。
【0033】
第1絶縁層130は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)又は酸化アルミニウム(Al)などの無機酸化物にて、膜厚1nm程度の薄膜層として形成されてもよい。より詳細には、第1絶縁層130は、酸化マグネシウム(MgO)にて膜厚1nm程度で形成されてもよい。第1絶縁層130が酸化マグネシウム(MgO)で形成される場合、第1絶縁層130は、より低温で結晶性が良好な層となるため、磁化固定層120及び磁化自由層140の間のトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magneto Resistance Effect:TMR効果)をより高めることができる。
【0034】
磁化自由層140は、磁性体材料にて第1絶縁層130の上に設けられる。磁化自由層140は、第1絶縁層130との界面に生じる界面垂直磁気異方性によって膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化の向きが制御可能な磁性層である。具体的には、磁化自由層140は、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料にて形成されてもよい。より詳細には、磁化自由層140は、CoFeBにて膜厚1nm~2nm程度で形成されてもよい。これによれば、磁化自由層140は、垂直磁気異方性をより強めることができる。また、磁化自由層140は、CoFeBと、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、又はチタン(Ti)などの非磁性金属材料との積層構造にて形成されてもよい。
【0035】
本実施形態では、強磁性体である磁化固定層120及び磁化自由層140によって第1絶縁層130が挟持されることで、MTJ素子が構成される。MTJ素子では、磁化固定層120及び磁化自由層140と、第1絶縁層130との接合面に対して垂直に電圧が印加されることで、TMR効果によって第1絶縁層130をトンネルして電流が流れる。このときのTMR効果の大きさは、磁化固定層120及び磁化自由層140の磁化の向きが平行であるのか、又は反平行であるのかによって変化する。したがって、磁気抵抗効果素子1は、磁化自由層140の磁化の向きを制御することで、第1電極110及び第2電極160の間の抵抗値を制御することができる。
【0036】
第2絶縁層150は、絶縁材料にて磁化自由層140の上に設けられる。第2絶縁層150は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)又は酸化アルミニウム(Al)などの無機酸化物にて膜厚1nm程度の薄膜層として形成されてもよい。より詳細には、第2絶縁層150は、酸化マグネシウム(MgO)にて膜厚1nm程度で形成されてもよい。第2絶縁層150は、界面垂直磁気異方性によって、磁化自由層140の磁化容易軸を膜面に垂直な方向に制御することができるため、磁化自由層140の垂直磁気異方性をより高めることができる。
【0037】
第2電極160は、各種金属材料又は合金材料にて第2絶縁層150の上に設けられることで、磁気抵抗効果素子1と各種配線との接続点として機能する。第2電極160は、公知の材料及び積層構造で形成されてもよく、例えば、単層膜で形成されてもよく、複数の膜の積層膜で形成されてもよい。
【0038】
なお、上述した磁気抵抗効果素子1は、スパッタ法等の公知の成膜手段を用いることで、製造することが可能である。
【0039】
(1.2.実施例)
続いて、図3を参照して、本開示の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1の実施例について説明する。図3は、実施例に係る磁気抵抗効果素子10の積層構造を示す模式的な縦断面図である。なお、図3において[A/B]という表記は、Bで形成された層の上に、Aで形成された層が設けられていることを表す。
【0040】
図3に示すように、実施例に係る磁気抵抗効果素子10は、シリコン(Si)等からなる基板100の上に、基板100側からPt、及びRuを順に積層した第1電極110と、Moにて形成される第1非磁性層121Aと、Co及びPtを3回繰り返し積層した第1磁性層121Bと、Coにて形成された第1磁性金属層121Cと、Irで形成された非磁性金属層122と、Co及びPtを3回繰り返し積層した上にCo、Mo及びCoFeBを順に積層した第2磁性体123と、MgOで形成された第1絶縁層130と、CoFeB、及びMoを順に積層した磁化自由層140と、MgOで形成された第2絶縁層150と、Ta又はRuで形成された第2電極160と、を順に積層することで形成され得る。
【0041】
実施例に係る磁気抵抗効果素子10では、第1非磁性層121Aは、Mo、W、又はIrのいずれかにて形成され得る。ここで、Mo、W、又はIrの各々にて形成された第1非磁性層121Aの膜厚を変化させた場合の第1磁性体121及び第2磁性体123の交換結合磁界Hexの変化の一例を図4A図4Cにて示す。
【0042】
図4Aは、Moにて形成された第1非磁性層121Aの膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hexの変化の一例を示すグラフ図であり、図4Bは、Wにて形成された第1非磁性層121Aの膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hexの変化の一例を示すグラフ図であり、図4Cは、Irにて形成された第1非磁性層121Aの膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hexの変化の一例を示すグラフ図である。図4A図4Cに示すグラフでは、第1非磁性層121Aの膜厚を横軸に採り、第1磁性体121及び第2磁性体123の交換結合磁界を縦軸に採っている。
【0043】
図4A図4Cを参照すると、第1非磁性層121AがMo、W、又はIrのいずれで形成される場合でも、第1非磁性層121Aの膜厚が0.4nm以上2.2nm以下の範囲で、交換結合磁界が5000Oe(397885A/m)以上となることがわかる。したがって、第1非磁性層121Aの膜厚が上記範囲となる場合に、磁気抵抗効果素子10は、良好な磁気結合力を実現できることがわかる。
【0044】
また、第1非磁性層121AがMo、W、又はIrのいずれで形成される場合でも、第1非磁性層121Aの膜厚が0.6nm以上2.0nm以下の範囲で、交換結合磁界がより高くなることがわかる。したがって、このような第1非磁性層121Aの膜厚範囲において、磁気抵抗効果素子10は、より良好な磁気結合力を実現できることがわかる。
【0045】
さらに、図4A図4Cを参照すると、磁気抵抗効果素子10は、第1非磁性層121AがMo又はWで形成される場合と比較して、第1非磁性層121AがIrで形成される場合に、より高い交換結合磁界を実現できることがわかる。したがって、第1非磁性層121AがIrで形成される場合、磁気抵抗効果素子10は、より良好な磁気結合力を実現できることがわかる。
【0046】
<2.第2の実施形態>
(2.1.構成例)
次に、図5を参照して、本開示の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の具体的な構成について説明する。図5は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子2の具体的な構成を説明する模式的な縦断面図である。
【0047】
図5に示すように、磁気抵抗効果素子2は、基板100と、第1電極110と、磁化固定層120と、第1絶縁層130と、磁化自由層140と、第2絶縁層150と、第2電極160と、を備える。また、磁化固定層120は、非磁性金属層122と、非磁性金属層122を積層方向に挟持する第1磁性体121及び第2磁性体123と、によって構成される。
【0048】
なお、第1磁性体121及び第2磁性体123以外の構成については、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1と、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子2とで実質的に同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0049】
第1磁性体121は、磁性金属材料にて第1電極110の上に設けられる。第1磁性体121は、例えば、例えば、コバルト(Co)を含む磁性金属材料、又は3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料にて形成されてもよい。第1磁性体121は、単層膜で形成されてもよく、複数の膜の積層膜で形成されてもよい。例えば、第1磁性体121は、Co及びPtを3回繰り返し積層した上に、Coを積層することで形成されてもよい。
【0050】
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子2では、第2磁性体123が非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成される。具体的には、図5に示すように、第2磁性体123は、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層した第2非磁性層123Bの直上に、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料にて形成された第2磁性層123Cを設けることで構成される。また、第2非磁性層123Bの下には、磁性金属材料で形成された第2磁性金属層123Aがさらに設けられてもよい。
【0051】
第2磁性金属層123Aは、磁性金属材料にて非磁性金属層122の上に形成され得る。例えば、第2磁性金属層123Aは、コバルト(Co)を含む磁性金属材料で形成されてもよい。第2磁性金属層123Aは、第1磁性体121の磁気特性を磁気抵抗効果素子2により適するように制御するために設けられてもよい。
【0052】
第2非磁性層123Bは、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層することで、第2磁性金属層123Aの上に形成される。第2非磁性層123Bは、例えば、CoFeBを含む磁性材料と、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、又はイリジウム(Ir)のいずれかを含む非磁性金属材料とを交互に複数回積層することで形成されてもよい。
【0053】
第2非磁性層123Bは、積層構造中に磁性材料で形成された層を含むものの、全体としてアモルファス化し、非磁性となっている層である。第2非磁性層123Bは、積層構造中に第2磁性層123Cと共通の磁性材料で形成される層を含むことにより、第2磁性層123Cの結晶配向性を向上させることができる。これによれば、第2非磁性層123Bは、第2磁性層123Cの垂直磁気異方性を高めることができるため、磁気抵抗効果素子2のMR比をより高めることができる。
【0054】
ここで、第2非磁性層123Bは、最上層又は最下層の少なくともいずれか一方が非磁性金属材料で形成された層となる積層構造にて設けられてもよい。第2非磁性層123Bは、第2磁性金属層123Aの上、かつ第2磁性層123Cの下に設けられるため、積層方向の両側を磁性材料で形成された層に挟まれることになる。そのため、第2非磁性層123Bは、積層構造の最上層又は最下層の少なくともいずれか一方を非磁性金属材料で形成された層とすることで、第2磁性金属層123A及び第2磁性層123Cの間で、磁性層及び非磁性層の繰り返し構造(すなわち、積層フェリ構造)を形成することができる。これによれば、第2非磁性層123Bは、磁気抵抗効果素子2のMR比をより高めることができる。なお、第2非磁性層123Bは、積層構造の最上層及び最下層の両方が非磁性金属材料で形成されていてもよい。
【0055】
第2磁性層123Cは、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料にて、第2非磁性層123Bの直上に形成される。例えば、第2磁性層123Cは、CoFeBにて膜厚1nm~2nm程度で形成されてもよい。第2磁性層123Cは、直下の第2非磁性層123Bによって結晶配向性を向上させることができるため、磁気抵抗効果素子2のMR比をより高めることができる。
【0056】
なお、上述した磁気抵抗効果素子2は、スパッタ法等の公知の成膜手段を用いることで、製造することが可能である。
【0057】
(2.2.実施例)
続いて、図6を参照して、本開示の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子2の実施例について説明する。図6は、実施例に係る磁気抵抗効果素子20の積層構造を示す模式的な縦断面図である。なお、図6において[A/B]という表記は、Bで形成された層の上に、Aで形成された層が設けられていることを表す。
【0058】
図6に示すように、実施例に係る磁気抵抗効果素子20は、シリコン(Si)等からなる基板100の上に、基板100側からPt、及びRuを順に積層した第1電極110と、Co及びPtを3回繰り返し積層した上にCoを積層した第1磁性体121と、Irで形成された非磁性金属層122と、Co及びPtを3回繰り返し積層した上にCoを積層した第2磁性金属層123Aと、MoとCoFeBとを交互に積層した第2非磁性層123Bと、CoFeBにて形成された第2磁性層123Cと、MgOで形成された第1絶縁層130と、CoFeB、及びMoを順に積層した磁化自由層140と、MgOで形成された第2絶縁層150と、Ta又はRuで形成された第2電極160と、を順に積層することで形成され得る。
【0059】
実施例に係る磁気抵抗効果素子20では、第2非磁性層123Bは、CoFeBを含む磁性材料と、Mo、W、又はIrのいずれかを含む非磁性金属材料との積層構造にて形成され得る。ここで、CoFeBを含む非磁性金属材料で形成された層の膜厚を変化させた場合の第1磁性体121及び第2磁性体123の交換結合磁界Hex、及びMR比の変化の一例を図7Aにて示す。
【0060】
図7Aは、第2非磁性層123Bにおいて、CoFeB膜厚及びMo膜厚の割合を1:1とした上で、CoFeBで形成された層の膜厚を変化させた場合の交換結合磁界Hex、及びMR比の変化の一例を示すグラフ図である。
【0061】
図7Aを参照すると、CoFeBで形成された層の膜厚が薄すぎる場合、MR比が低下し、CoFeBで形成された層の膜厚が厚すぎる場合、交換結合磁界Hexが低下することがわかる。具体的には、CoFeBで形成された層の膜厚が0.07nm以上0.15nm以下の場合に、交換結合磁界Hexが5000Oe(397885A/m)以上、かつMR比が150%以上となることがわかる。したがって、CoFeBで形成された層の膜厚が上記範囲となる場合に、磁気抵抗効果素子20は、良好な特性を実現できることがわかる。
【0062】
また、図7Aに示す結果からMoで形成された層の膜厚と、CoFeBで形成された層の膜厚との適切な範囲を算出した。その結果を図7B及び図7Cに示す。図7Bは、上述した良好な交換結合磁界Hex及びMR比を実現するMoとCoFeBとの膜厚比率をCoFeBの膜厚ごとにプロットしたグラフ図である。また、図7Cは、図7Bの結果を変換して、上述した良好な交換結合磁界及びMR比を満たすMoの膜厚をCoFeBの膜厚ごとにプロットしたグラフ図である。
【0063】
図7B及び図7Cでは、上限及び下限で囲まれた範囲が、上述した良好な交換結合磁界Hex及びMR比を実現するMo及びCoFeBの膜厚の組み合わせを示している。さらに、第2非磁性層123BがMo、CoFeB、Mo、CoFeB、及びMoの積層構造である場合に、図7CでプロットされたMo及びCoFeBの膜厚の組み合わせを第2非磁性層123B全体におけるat%に変換した結果を図7Dに示す。
【0064】
図7Dによれば、第2非磁性層123B全体のCoFeB(磁性材料)と、Mo(非磁性金属材料)との原子割合が、CoFeB:Mo=24.1at%:75.9at%~51.7at%:48.3at%の範囲である場合、磁気抵抗効果素子20は、上述した良好な交換結合磁界Hex及びMR比を実現することができることがわかる。
【0065】
<3.第3の実施形態>
(3.1.構成例)
次に、図8を参照して、本開示の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の具体的な構成について説明する。図8は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子3の具体的な構成を説明する模式的な縦断面図である。なお、図8において[A/B]という表記は、Bで形成された層の上に、Aで形成された層が設けられていることを表す。
【0066】
図8に示すように、磁気抵抗効果素子3は、基板100と、第1電極110と、磁化固定層120と、第1絶縁層130と、磁化自由層140と、第2絶縁層150と、第2電極160と、を備える。また、磁化固定層120は、非磁性金属層122と、非磁性金属層122を積層方向に挟持する第1磁性体121及び第2磁性体123と、によって構成される。
【0067】
第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子3では、第1磁性体121が非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、かつ第2磁性体123が非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成される。すなわち、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子3は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1と、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子2との組み合わせに相当する。
【0068】
なお、第1磁性体121及び第2磁性体123以外の構成については、第1又は第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子3とで実質的に同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0069】
具体的には、図8に示すように、第1磁性体121は、非磁性金属材料にて形成された第1非磁性層121Aの直上に、異種の金属材料を交互に積層した第1磁性層121Bを設けることで構成される。また、第2磁性体123は、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層した第2非磁性層123Bの直上に、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料にて形成された第2磁性層123Cを設けることで構成される。なお、第1磁性層121Bの上、及び第2非磁性層123Bの下には、磁性金属材料で形成された第1磁性金属層121C、及び第2磁性金属層123Aがそれぞれさらに設けられてもよい。
【0070】
例えば、第1非磁性層121Aは、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、又はイリジウム(Ir)のいずれかを含む非磁性金属材料にて、第1電極110の上に形成される。第1非磁性層121Aは、第1電極110及び第1磁性層121Bの間の結晶配向性のミスマッチを解消することができるため、第1磁性層121Bの結晶配向性、及び垂直磁気異方性を高めることができる。
【0071】
第1磁性層121Bは、異種の金属材料を交互に積層することで、第1非磁性層121Aの直上に形成される。第1磁性層121Bは、例えば、コバルト(Co)及び白金(Pt)を交互に複数回積層することで形成されてもよい。
【0072】
第1磁性金属層121Cは、磁性金属材料にて第1磁性層121Bの上に形成され得る。第1磁性金属層121Cは、例えば、コバルト(Co)を含む磁性金属材料で形成されてもよい。
【0073】
第2磁性金属層123Aは、磁性金属材料にて非磁性金属層122の上に形成され得る。例えば、第2磁性金属層123Aは、コバルト(Co)を含む磁性金属材料で形成されてもよい。
【0074】
第2非磁性層123Bは、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層することで、第2磁性金属層123Aの上に形成される。第2非磁性層123Bは、例えば、CoFeBを含む磁性材料と、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、又はイリジウム(Ir)のいずれかを含む非磁性金属材料とを交互に複数回積層することで形成されてもよい。第2非磁性層123Bは、積層構造中に磁性材料で形成された層を含むものの、全体としてアモルファス化し、非磁性となっている層である。第2非磁性層123Bは、積層構造中に第2磁性層123Cと共通の磁性材料で形成される層を含むことにより、第2磁性層123Cの結晶配向性を向上させることができる。
【0075】
第2磁性層123Cは、3d遷移金属及びホウ素(B)を含む磁性材料にて、第2非磁性層123Bの直上に形成される。例えば、第2磁性層123Cは、CoFeBにて膜厚1nm~2nm程度で形成されてもよい。第2磁性層123Cは、直下の第2非磁性層123Bによって結晶配向性を向上させることができるため、磁気抵抗効果素子2のMR比をより高めることができる。
【0076】
第3の実施形態によれば、第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1、2に対して、第1磁性体121及び第2磁性体123の交換結合磁界Hex、及び磁気抵抗効果素子3のMR比をさらに向上させることが可能である。
【0077】
なお、上述した磁気抵抗効果素子3は、それぞれスパッタ法等の公知の成膜手段を用いることで、製造することが可能である。
【0078】
(3.2.実施例)
続いて、図9を参照して、本開示の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子3の実施例について説明する。図9は、実施例に係る磁気抵抗効果素子30の積層構造を示す模式的な縦断面図である。なお、図9において[A/B]という表記は、Bで形成された層の上に、Aで形成された層が設けられていることを表す。
【0079】
図9に示すように、実施例に係る磁気抵抗効果素子30は、シリコン(Si)等からなる基板100の上に、基板100側からPt、及びRuを順に積層した第1電極110と、Moにて形成される第1非磁性層121Aと、Co及びPtを3回繰り返し積層した第1磁性層121Bと、Coにて形成された第1磁性金属層121Cと、Irで形成された非磁性金属層122と、Coにて形成された第2磁性金属層123Aと、MoとCoFeBとを交互に積層した第2非磁性層123Bと、Coにて形成された第2磁性層123Cと、MgOで形成された第1絶縁層130と、CoFeB、及びMoを順に積層した磁化自由層140と、MgOで形成された第2絶縁層150と、Ta又はRuで形成された第2電極160と、を順に積層することで形成され得る。本開示の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子3は、このような積層構造にて形成されてもよい。
【0080】
<4.適用例>
続いて、本開示の一実施形態に係る電子機器について説明する。本開示の一実施形態に係る電子機器は、上述した磁気抵抗効果素子を含む回路が搭載された種々の電子機器である。図10A図10Cを参照して、このような本実施形態に係る電子機器の例について説明する。図10A図10Cは、本実施形態に係る電子機器の一例を示す外観図である。
【0081】
例えば、本実施形態に係る電子機器は、スマートフォンなどの電子機器であってもよい。具体的には、図10Aに示すように、スマートフォン900は、各種情報を表示する表示部901と、ユーザによる操作入力を受け付けるボタン等から構成される操作部903と、を備える。ここで、スマートフォン900に搭載される回路には、例えば、MRAM等として上述した磁気抵抗効果素子が設けられてもよい。
【0082】
例えば、本実施形態に係る電子機器は、デジタルカメラなどの電子機器であってもよい。具体的には、図10B及び図10Cに示すように、デジタルカメラ910は、本体部(カメラボディ)911と、交換式のレンズユニット913と、撮影時にユーザによって把持されるグリップ部915と、各種情報を表示するモニタ部917と、撮影時にユーザによって観察されるスルー画を表示するEVF(Electronic View Finder)919と、を備える。なお、図10Bは、デジタルカメラ910を前方(すなわち、被写体側)から眺めた外観図であり、図10Cは、デジタルカメラ910を後方(すなわち、撮影者側)から眺めた外観図である。ここで、デジタルカメラ910に搭載される回路には、例えば、MRAM等として上述した磁気抵抗効果素子が設けられてもよい。
【0083】
ただし、本実施形態に係る電子機器は、上記例示に限定されない。本実施形態に係る電子機器は、あらゆる分野の電子機器であってもよい。このような電子機器としては、例えば、眼鏡型ウェアラブルデバイス、HMD(Head Mounted Display)、テレビジョン装置、電子ブック、PDA(Personal Digital Assistant)、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ又はゲーム機器等を例示することができる。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0085】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0086】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)
第1電極と、
前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、
前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、
前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、
を備え、
前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、
前記第1磁性体又は前記第2磁性体の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、
前記非磁性層又は前記磁性層のいずれかは、異種の材料を交互に積層した多層構造にて形成される、磁気抵抗効果素子。
(2)
前記第1磁性体は、非磁性金属材料にて形成された第1非磁性層の直上に、異種の金属材料を交互に積層した第1磁性層を設けることで構成される、前記(1)に記載の磁気抵抗効果素子。
(3)
前記第1非磁性層を形成する非磁性金属材料は、Mo、W、又はIrのいずれかを含む、前記(2)に記載の磁気抵抗効果素子。
(4)
前記第1非磁性層の膜厚は、0.4nm以上2.2nm以下である、前記(2)又は(3)に記載の磁気抵抗効果素子。
(5)
前記第2磁性体は、3d遷移金属及びBを含む磁性材料と非磁性金属材料とを交互に積層した第2非磁性層の直上に、3d遷移金属及びBを含む磁性材料にて形成された第2磁性層を設けることで構成される、前記(1)に記載の磁気抵抗効果素子。
(6)
前記第2非磁性層の一層を形成する非磁性金属材料は、Mo、W、又はIrのいずれかを含む、前記(5)に記載の磁気抵抗効果素子。
(7)
前記第2非磁性層は、最上層又は最下層の少なくともいずれか一方が非磁性金属材料で形成された層となる積層構造にて設けられる、前記(5)又は(6)に記載の磁気抵抗効果素子。
(8)
前記第2非磁性層のうち前記非磁性金属材料で形成された層の膜厚は、0.07nm以上0.15nm以下である、前記(5)~(7)のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
(9)
前記第2非磁性層の全体における前記非磁性金属材料と、前記3d遷移金属及びBを含む磁性材料との体積比は、48.3%:51.7%~75.9%:24.1%である、前記(5)~(8)のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
(10)
前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層は、絶縁性の酸化物材料で形成される、前記(1)~(9)のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
(11)
前記磁化自由層は、3d遷移金属及びBを含む磁性材料で形成された磁性層を含む、前記(1)~(10)のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
(12)
前記第1磁性体及び前記第2磁性体の各々は、磁性金属材料で形成された磁性層をさらに含む、前記(1)~(11)のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
(13)
第1電極と、
前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、
前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、
前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、
を備え、
前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、
前記第1磁性体又は前記第2磁性体の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、
前記非磁性層又は前記磁性層のいずれかは、異種の材料を交互に積層した多層構造にて形成される、記憶素子。
(14)
磁気抵抗効果素子を含み、
前記磁気抵抗効果素子は、第1電極と、前記第1電極の上に設けられ、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記磁化固定層の上に設けられた第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に設けられ、磁化方向が可変な磁化自由層と、前記磁化自由層の上に設けられた第2絶縁層と、前記第2絶縁層の上に設けられた第2電極と、
を備え、
前記磁化固定層は、前記第1電極の上に設けられた第1磁性体と、前記第1磁性体の上に非磁性金属層を介して設けられた第2磁性体と、を有し、
前記第1磁性体又は前記第2磁性体の少なくともいずれかは、非磁性層の直上に磁性層を設けることで構成され、
前記非磁性層又は前記磁性層のいずれかは、異種の材料を交互に積層した多層構造にて形成される、電子機器。
【符号の説明】
【0087】
1、2、3、10、20、30 磁気抵抗効果素子
100 基板
110 第1電極
120 磁化固定層
121 第1磁性体
121A 第1非磁性層
121B 第1磁性層
121C 第1磁性金属層
122 非磁性金属層
123 第2磁性体
123A 第2磁性金属層
123B 第2非磁性層
123C 第2磁性層
130 第1絶縁層
140 磁化自由層
150 第2絶縁層
160 第2電極
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10A
図10B
図10C