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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】マイクロ波熟成方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/64 20060101AFI20240822BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240822BHJP
【FI】
H05B6/64 Z
A23L5/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021006801
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2021114465
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2020007093
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】曽我 博文
(72)【発明者】
【氏名】國井 勝之
(72)【発明者】
【氏名】香川 英二
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093365(WO,A1)
【文献】特開2020-184531(JP,A)
【文献】特開2018-153115(JP,A)
【文献】特開平04-271765(JP,A)
【文献】特開2018-134064(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2360762(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1176779(KR,B1)
【文献】特開2003-068444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/64
A23L 5/00- 5/10
A23L 13/00
A23B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イクロ波照射を行いながら食品を熟成させる食品のマイクロ波熟成方法であって、
食品を密封しない状態で前記食品にマイクロ波を照射し、前記食品を乾燥させながら熟成させる第1熟成工程を行った後に、
前記食品を密封した状態で前記食品にマイクロ波を照射して熟成させる第2熟成工程を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1熟成工程または前記第2熟成工程において、前記食品の内部温度5~10℃制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1熟成工程は、前記食品を透水性シートで覆って行い、細菌の付着および/または増殖を抑制する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記透水性シートは、前記食品表面の自由水を透しやすく、ドリップの発生を抑制する性質をもつ、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1熟成工程は、前記食品表面が固化する程度に乾燥させる工程である、請求項1ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記食品が牛肉、豚肉、塩を含んだ食材、魚介類、豆類からなる群より選ばれる、請求項1ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
熟成期間の合計が10日~15日間である請求項1ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第1熟成工程および前記第2熟成工程において、前記食品の表面温度を-2℃よりも低い温度とする、請求項1ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第2熟成工程において、前記食品を真空包装する、請求項1ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記食品を吸水性シートで覆ってから真空包装で行う、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1熟成工程において、前記食品を透水性シートで包んで熟成を行った後に、当該透水性シートから前記食品を取り出し、前記第2熟成工程において、取り出した前記食品を真空包装して熟成を行う、請求項に記載の方法。
【請求項12】
被照射物を収納する照射室、照射室にマイクロ波を照射する照射口、照射室に送風をする送風ファンおよび被照射物の温度を測定する温度センサを有するマイクロ波照射部と、冷却器により冷却される冷却室を有する冷却部と、照射口に接続されたマイクロ波発振部と、温度センサからの信号に基づきマイクロ波発振器を制御する制御プログラムを格納した制御部と、照射室を減圧する減圧部と、を備え、
前記照射室が前記冷却室内に配置されるマイクロ波照射装置であって、前記制御プログラムが、請求項1ないし11のいずれかに記載の食品のマイクロ波熟成方法を実行するための制御を行うことを特徴とする、食品のマイクロ波熟成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を照射して食品を熟成させる、マイクロ波熟成方法およびマイクロ波熟成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、牛肉を一定期間熟成させることで牛肉の旨みなどを増大させた、いわゆる熟成肉が広く知られるようになり、その需要が増大している。牛肉を熟成させる場合には、牛肉に直接風を当てて乾燥状態として熟成を行うドライ熟成や、真空パックにして熟成を行うウェット熟成などが行われる。ドライ熟成を行う場合も、ウェット熟成を行う場合も、本来40℃程度で熟成することが旨みなどを引き出す点から好ましいが、菌の増殖による腐敗を抑制するために、1~3℃という低温で熟成が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-123057
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、このように低温で熟成を行うため、熟成が完成するまでに長時間(長い場合には90~180日)を要していた。また、熟成期間が長くなるほど、低温でも菌による腐敗が表面から進み、その分、表面をそぎ落とすトリミングの量が多くなり、歩留まりが低く、その改善が求められていた。
【0005】
さらに、ドライ熟成では牛肉が固くなってしまう場合があり、一方、ウェット熟成では熟成中に多量のドリップが出てしまうことも指摘されている。
【0006】
本発明は、マイクロ波熟成装置およびマイクロ波熟成方法において、食品の熟成にかかる時間を短縮する、歩留まりを高くするとともに、品質の高い熟成食品を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、従来法によりドライ熟成(ドライエイジング)を行った後にウェット熟成(ウェットエイジング)を行う方法を試したところ、従来法のドライ熟成では微生物が繁殖しており、その後にウェット熟成を行うと腐敗が進みやすくなってしまうという問題点があることを認識した。そこで、ドライ熟成で微生物が増殖し易いのは、食肉表面には微生物に利用される自由水が多いからであるとの考えのもと、微生物が増殖できないようにするには、自由水を取り除くか、食塩や砂糖を少し加えて自由水と結びつかせて自由水の割合を小さくすることを検討した。しかしながら、自由水の取りすぎは、乾かしすぎであり、表面をそぎ落とすトリミングの量が多くなり、歩留まりが低く、ほどよい表面の乾燥状態をつくることは容易ではなかった。
【0008】
本発明者らは、ドライ熟成とウェット熟成を併用した熟成方法で食品表面の自由水の割合を小さくすることを発案し、試行錯誤の末、本発明を創作した。すなわち、ドライ熟成の途中でウェット熟成に切り替える手法であって、ドライ熟成で表面の飛びやすい水分(自由水)を最初に取り除いて、ドリップの発生を抑制する手法を見出した。
また、食材を覆うバリエーションとして、ほどよい表面の乾燥状態をつくるため、最初に行うドライ熟成では、透水性シートで覆うことが有効であることも確認した。すなわち、ドライ熟成中に細菌が肉表面に付着し、増殖するのを抑制する目的で、透水性シートで覆うことにより安全にドライ熟成ができることなども確認した。
【0009】
本発明は、以下の(1)ないし(11)に記載の食品のマイクロ波熟成方法を要旨とする。(1)イクロ波照射を行いながら食品を熟成させる食品のマイクロ波熟成方法であって、食品を密封しない状態で前記食品にマイクロ波を照射し、前記食品を乾燥させながら熟成させる第1熟成工程を行った後に、前記食品を密封した状態で前記食品にマイクロ波を照射して熟成させる第2熟成工程を行うことを特徴とする方法。
(2)前記第1熟成工程または前記第2熟成工程において、前記食品の内部温度5~10℃制御する、上記(1)に記載の方法。
前記第1熟成工程は、前記食品を透水性シートで覆って行い、細菌の付着および/または増殖を抑制する、上記(1)または(2)に記載の方法。
前記透水性シートは、前記食品表面の自由水を透しやすく、ドリップの発生を抑制する性質をもつ、上記()に記載の方法。
前記第1熟成工程は、前記食品表面が固化する程度に乾燥させる工程である、上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法。
前記食品が牛肉、豚肉、塩を含んだ食材、魚介類、豆類からなる群より選ばれる、上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法。
)熟成期間の合計が10日~15日間である、上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法。
前記第1熟成工程および前記第2熟成工程において、前記食品の表面温度を-2℃よりも低い温度とする、上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法。
前記第2熟成工程において、前記食品を真空包装する、上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法。
10前記食品を吸水性シートで覆ってから真空包装で行う、上記()に記載の方法。
11前記第1熟成工程において、前記食品を透水性シートで包んで熟成を行った後に、当該透水性シートから前記食品を取り出し、前記第2熟成工程において、取り出した前記食品を真空包装して熟成を行う、上記()に記載の方法。
【0010】
また、本発明は、以下の(12)に記載の食品のマイクロ波熟成装置を要旨とする。
12)被照射物を収納する照射室、照射室にマイクロ波を照射する照射口、照射室に送風をする送風ファンおよび被照射物の温度を測定する温度センサを有するマイクロ波照射部と、冷却器により冷却される冷却室を有する冷却部と、照射口に接続されたマイクロ波発振部と、温度センサからの信号に基づきマイクロ波発振器を制御する制御プログラムを格納した制御部と、照射室を減圧する減圧部と、を備え、前記照射室が前記冷却室内に配置されるマイクロ波照射装置であって、前記制御プログラムが、上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の食品のマイクロ波熟成方法を実行するための制御を行うことを特徴とする、食品のマイクロ波熟成装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熟成中に、食品の表面温度よりも内部温度を高くすることができるため、熟成期間を短縮することができるとともに、食品表面における菌の増殖を抑制し、トリミングの量を低減することができる。
【0012】
本発明により、マイクロ波熟成装置およびマイクロ波熟成方法において、食品の熟成にかかる時間を短縮する、歩留まりを高くするとともに、品質の高い熟成食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
図2】ウェット熟成で使用される網皿の一例を示す図である。
図3】ドライ熟成工程とウェット熟成工程の両工程を行う本発明のマイクロ波熟成方法のイメージ図である。
図4】ドライ熟成3日・ウェット熟成7日、ドライ熟成5日、ウェット熟成10日を比較した試験例1の官能試験の結果を示すグラフである。
図5】ドライ熟成3日・ウェット熟成7日、ドライ熟成1日・ウェット熟成9日、ドライ熟成5日・ウェット熟成5日、ウェット熟成10日を比較した試験例2の官能試験の結果を示すグラフである。
図6】試験例1の熟成条件ごとのグルタミン酸含量の測定結果を示すグラフである。
図7】試験例4の官能評価の結果を示すグラフである。
図8】試験例5の官能評価の結果を示すグラフである。
図9】試験例6の官能評価の結果を示すグラフである。
図10】(A)は、ドライ熟成5日、0℃5日保管、熟成開始前の肉を比較した参考例1の官能試験の結果を示すグラフである。(B)は、ウェット熟成10日、0℃10日保管、の肉を比較した参考例2の官能試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《熟成の対象となる食品》
本発明において、マイクロ波照射熟成の対象となる食品は、肉類(ハムなどの加工肉食品を含む)、魚介類、チーズなどの乳製品、枝豆(大豆)、コーヒー豆などの豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、ワインなどの酒類、発酵食品(味噌や醤油などの発酵調味料を含む)などである。
【0015】
牛肉を例に挙げると、通常、ドライ熟成は、枝肉、半身、及び部分肉などを冷蔵庫に入れ、温度、湿度、気流速度を管理しながら熟成させるが、ウェット熟成は、肉を真空パックに密閉し、一定の温度で熟成させる。塊ではなくパーツごとに分けて熟成する。肉が外気に触れないように部位ごとに真空パックをして行われる。
【0016】
牛肉が由来する牛の品種等、ならびに、牛肉の部位は特に限定されない。枝肉、半身、および部分肉などであってよいが、好ましくは部分肉である。部分肉の例として、内モモ、外モモなどのモモ肉、サーロイン、テンダーロインなどのロインなどが例示される。
【0017】
《肉の熟成についての一般的な技術常識》
以下、牛肉を例に、肉の熟成についての技術常識を説明する。
1.熟成牛肉の流通
食肉は部分肉流通が大半を占める。特に牛肉は真空包装(シュリンク包装)による「チルドパック」での部分肉流通が主流になっている。熟成は冷蔵(チルド)状態で進むので、チルドパック流通の先駆者である米国では、3週間程度この状態で冷蔵庫に保管し、柔らかさ(テンダーネス)を売り物にした熟成牛肉を流通している。真空包装せずに熟成する「ドライエイジング(ドライ熟成)」との対比で「ウェットエイジング(ウェット熟成)」と言う。
【0018】
ウェット熟成では、塊ではなくパーツごとに分けて熟成する。肉が外気に触れないように部位ごとに真空パックをして0~2℃の貯蔵庫で1~2週間寝かせる。
【0019】
2.ドライ熟成とウェット熟成
ドライ熟成(乾燥熟成)よりもウェット熟成(またはバキュームエイジング)の方が一般的である。大部分の牛肉がこの方法により熟成されるため、単純にエイジングというとウェット熟成のことである。乾燥させずにバキュームパック(真空包装)内で熟成をさせるもので、簡単で歩留りも良いため、コストが低く一般的になっている。北米やオセアニアから輸入されるチルドビーフは、輸送・流通にかかる時間が3~5週間程度とちょうどエイジングに適しており、日本に到着して店頭にならぶ頃には熟成され食べ頃になっている。
【0020】
ウェット熟成では、肉を真空パックして、微生物が一切生えないようにする。これで、20日間から1ヵ月間ほど冷蔵庫で保存すると、肉は腐敗することなく熟成が進む。日本では、このウェット熟成が多いようである。ドライ熟成に比べて短期間で肉が熟成し、美味しくはなるが、ドライ熟成の熟成肉の方が香りが良く、食感も良いと言われている。
【0021】
3.日本獣医生命科学大学 松石昌典氏による熟成肉の説明
通常の牛肉は、牛がと畜(と殺)されてから10日~14日で消費者の手に渡るが、特別に長い期間熟成した牛肉のことを熟成肉とよぶことが多い。ドライ熟成では、真空包装しないで0-4℃の空気中で30-40日間熟成し、ウェット熟成では、真空包装して同じように熟成する。ドライ熟成した牛肉は、軟らかく、味が濃く、独特の香り(発酵臭、ナッツ臭)があることが特徴であると言われている。一方、ウェット熟成した牛肉は軟らかく、味が濃いが、ドライ熟成した牛肉のような独特の香りはないとされている。
【0022】
4.ドライ熟成の特徴
ドライ熟成の特徴としては、(1)熟成に伴う収縮、トリミングによるロス、およびコンタミネーションのリスクがある(微生物が繁殖しやすく、腐敗が進みやすくなってしまう。)ことからコストが高い、(2)肉が固くなってしまう場合がある、(3)ウェット熟成にはない独特の風味や旨みが生じる、例えば、ドライ熟成した牛肉は、軟らかく、味が濃く、独特の香り(発酵臭,ナッツ臭)があることが特徴であると言われている、が挙げられる。
【0023】
5.ウェット熟成の特徴
一方、ウェット熟成の特徴としては、(4)真空包装内で熟成をさせるもので、簡単で歩留りも良いため、コストが低く一般的になっている、(5)ウェット熟成では熟成中に多量のドリップが出てしまう、(6)ウェット熟成した牛肉は軟らかく、味が濃いが、ドライ熟成した牛肉のような独特の香りはないとされている、が挙げられる。
【0024】
《本発明の熟成方法》
本発明者らは、上記(1)のドライ熟成では微生物が繁殖しやすく、腐敗が進みやすくなってしまうという問題点は、微生物に利用される表面の自由水が多いから微生物が増殖し易いのであると考えた。食品中に含まれる水分にはその形態から結合水、自由水に分類される。結合水は食品の構成成分であるタンパク質や炭水化物と固く化学結合した水で、自由水は環境や温度、湿度の変化で容易に移動や蒸発がおこる水である。本発明ではマイクロ波照射ドライ熟成とマイクロ波照射ウェット熟成を併用した熟成方法において、食品表面の自由水の割合を小さくして熟成を行うことを特徴とする。
すなわち、マイクロ波照射ドライ熟成の途中でマイクロ波照射ウェット熟成に切り替えることで、ドライ熟成で表面の飛びやすい水分(自由水)を最初に取り除いて、ウェット熟成におけるドリップの発生を抑制する工夫を行った。マイクロ波照射ドライ熟成とマイクロ波照射ウェット熟成を併用した本発明の熟成方法において、まずマイクロ波照射ドライ熟成を行うことで、食品表面の自由水の割合を小さくして、肉の余分な水分(自由水)を飛ばすことが、肉のタンパク質やミネラルを、コアに濃縮させる熟成に効果があることが判明した。本発明の食品のマイクロ波熟成装置のマイクロ波を当てるドライ熟成の冷蔵庫内のコントロールされた環境によって、肉の余分な水分(自由水)を飛ばすことが、後段のマイクロ波照射ウェット熟成において、肉のタンパク質やミネラルをコアに濃縮させることに大きく寄与することが明らかとなった。
【0025】
該コントロールされた環境とは、肉をマイクロ波照射ドライ熟成させる環境をつくることである。そこから外れると毒素を持つ雑菌やその他の熟成に向かない微生物を育ててしまうことになるため、酸化と腐敗に向かわせないためのシビアな環境作りが求められる。ウェット熟成工程およびドライ熟成工程において、食品の表面温度を-2℃よりも低い温度とし、風量も調節できる。腐敗させずに短期間(熟成期間の合計が10日~15日)で、従来の長期熟成(長い場合には90~180日)の状態を作れるため、表面のガワのトリミングの量は従来法よりも減っているがないわけではない。数日を過ぎると、カビなどは付着していないが従来のドライ熟成に近い状態になる。食材を透水性シートで覆って熟成庫に入れると表面の変化は少なくなり、表面をそぎ落とすトリミングの量が大幅に減る。
【0026】
従来、ドライ熟成した後、その状態をキープするために真空パックする例があるが、本発明では、ドライ熟成工程とウェット熟成工程の両工程を行う方法において、ドライ熟成は、食品を透水性シートで覆って行い、細菌の増殖を抑制するシビアな環境を容易に形成することができる。透水性シートは、食品表面の自由水を蒸気として透しやすく、ドリップの発生を抑制する性質をもつ素材が好ましい。そのようなドライ熟成工程とすることで、食品表面が固化する程度に乾燥させる。
【0027】
ほどよい表面の乾燥状態をつくるためには、ドライ熟成工程で、透水性シートで覆うことが有効である。ドライ熟成中に細菌の付着および/または増殖を抑制する目的で、透水性シートで覆うことにより安全にドライ熟成ができる。
材質としては、たとえば次のものが挙げられる。なお、透水性シートが樹脂系材料からなる場合、食材を覆った後にヒートシールしてもよい。
・阿波製紙株式会社 ALT(アルト) 100%ポリオレフィンシート
・株式会社INOACコーポレーション FOLEC OPN
・日東電工 通気性シート ブレスロン BRN3000E1
・DuPont Tyvek ソフトタイプ 1452A
・金星製紙株式会社 四万十川 鮮度保持シート:不織布
・ミートペーパー 肉の保存シート ミートロール プロ仕様
・浜田紙業株式会社 グリーンパーチペーパー:耐湿紙(魚用)
・リードなどのクッキングシート
なお、透水性シートの色は、特に限定されないが、浜田紙業株式会社のグリーンパーチペーパーのように緑色とすることで、血の色が目立たなくなり好ましい。
【0028】
本発明では、ドライ熟成とウェット熟成の両方を行うことにより、味が劣化することなく短期間(熟成期間の合計が10日~15日)でアミノ酸量を従来の長期間熟成に近づけることが可能となる。ドライ熟成を行って水分を除いた後、ウェット熟成を行う。該ウェット熟成の問題点として、熟成中の多量のドリップの発生があげられる。ウェット熟成に先立って、ドライ熟成を行うことにより食品表面の水分量を減量することで、後段工程のウェット熟成におけるドリップ発生を抑制することができる。すなわち、後段工程はウェット熟成であるのにもかかわらずドリップはあまり発生しない。また、乾燥が進み自由水が少なくなった食品は、マイナス温度下においてウェット熟成を行なうと、食品内部の水分が乾燥が進んだ食品表面に拡散し、食品全体で水分が均一になるようになる。その結果、表面のガワのトリミングの量は少なくなり、食品(肉)のタンパク質やミネラルを濃縮させた大きなコアとして得ることができる。
【0029】
《食品内部から流出するドリップの吸収》
庫内の温度、熟成の温度、風の強さ、肉の部位の種類や大きさ等の変化で熟成の具合が変わるものであるから、熟成期間の合計が10日~15日のうち、ドライ熟成とウェット熟成の期間の振り分けは任意である必要がある。
本発明の好ましい実施態様として、ウェット熟成中に流出するドリップを蒸発させる技術として、3日間のドライ熟成を行う例が挙げられる。ドライ熟成を3日よりも短くするとき、ウェット熟成中ドライ熟成期間を短くしただけのドリップが発生することが想定される。ドライ熟成期間を短くし、ウェット熟成へもっていくときに、安全のために、味が劣化することなく熟成する技術として吸収体を使用することができる。
【0030】
ウェット熟成中に流出する水分は、食品に直接接触させた吸液性等を有するシート状素材で食品を包皮して吸い取ることができる。余分な液体を吸い取る吸液性等を有する素材が好ましく、一例として可食紙が適用される。またこの包被体は、食品に適用できるシート状であっても良いし、食品を容易に受け入れ得るように予め袋状に形成してあっても構わない。食品と一体化して食品にあたかも外皮を形成するかのように用いられるシートによって、自由水の幾分かが除かれた食品の表面は身が締まり、全体的にほぼ同程度の硬さになるため、次の工程で、食品から剥がされたり、あるいはさらに包皮したりする際に、該食品は形崩れがほとんど起こらない。このため、食品の歩留りが向上し、食品の有効利用を達成し得るものである。
【0031】
吸液性等を有するシート状素材として紙を適用するものが例示できるが、この種の紙は、熟成工程後に引き剥がされるのが一般的である。しかしながら、熟成工程においてやや多めの液体が滲み出た場合、このような液体によって適宜の時間後に溶解する可食紙(例えば海藻紙や厚手のオブラートなど)を適用することも可能である。更に包被体は、必ずしも紙に限定されるものではなく、吸液性、通気性等を有するものであれば、布等の適用も可能である。
【0032】
さらにまたシート状素材としては、例えばローリエ等のハーブの葉、ニッキの葉、竹の子の皮等を適用することが可能であり、この場合には熟成工程を行いながら、これら植物特有の香りを食品に付与することができる。なおシート状素材として植物の葉や皮を適用した場合、これが通気性、吸液性の点で、充分な効果が得られないような場合には、まず食品を紙でくるんだ後、その外側から部分的に植物の葉等を付着させることが可能である。もちろん、植物の葉や皮を細かく刻んで、食品の表面に直接付着させた後、紙でくるむようにすることも可能である。
【0033】
なお、細かく刻んだものを食品の表面に直接付着させる場合には、必ずしもハーブのような植物である必要はなく、塩、胡椒等の香辛料を直接ふりかけることも可能である。また竹炭や備長炭あるいは活性炭の微細粒を食品にまぶし、臭みの消臭、調湿、抗菌作用等を付与することも可能である。消費者の嗜好の多様化や、より一層の高級化等に対応すべく、人間の心身のリラックス等、人体に良い影響を与えるとされる種々の効果も併せて期待できる。
【0034】
吸液性等を有するシート状素材は、二つの工程が終了するまで、食品表面に付着した状態で処理され得る。シート状素材(紙)は、熱の伝達が阻害されない程度の薄さで存在するため、処理が全体的にほぼ均等に行える。シート状素材あるいは包皮体は紙であるため、処理が低コストでかつ安定して行なうことができる。それらは肉類を長期保存するための一手法として知られており、二つの工程あるいは一つの工程においては、食品をシート状素材あるいは包皮体にくるんで処理するものである。食品全体に一様に付着させ表面の硬さが部分的に異なることがないようにする。表面に一体化させ、その後、シート状素材あるいは包皮体(例、プラスチックフィルム)を剥離することを行うものである。こうしたシート状素材あるいは包皮体の適用は手作業で付すことができるとともに単純な作業であるため、迅速に量産することも可能である。これらのシート状素材あるいは包皮体は残していても取り外してもよく、取り外した際は簡単に操作でき、かつ、視覚的に見苦しくない出来栄えとなる。
【0035】
シート状素材あるいは包皮体は、食品の水分が二つの工程あるいは一つの工程中に少しずつ滲み出し、長時間かかって完成品にしあげることができる。たとえば、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用いてシート状成形体をつくると、このシート状成形体は、食品に含まれる水分を利用して、表面に一体化する。食用植物は、食用になる植物一般であり、いわゆる果物類だけでなく、ほうれん草、人参、かぼちゃ等の野菜類をも含む。ペースト状組成物に対する食用植物の割合が、50重量%以上占める食用植物を主原料とするものが好ましい。ゲル化剤としては、液体のものをゼリー状に固める作用(ゲル化)もつ、冷やすと固まる性質のゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン等を用いる。厚みは0.4~1.0mmの範囲でもちいることができる。
【0036】
食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物のシート状成形体からなる柔軟な可食シートであるため、シート自体が溶解することがなく、溶解残りのシートによって貼付される部分が汚されたりして視覚的に見苦しくなることがない。また、可食シート自体が、食用植物を主原料とするペースト状組成物からなるため、これを食品に載置した際に、その食品自体の味を損ねる心配がない。可食シート状食品を食品に載置すると、徐々に食品の水分を吸収するため、比較的長い時間シート状の形態を保つことができる。そして、可食シートが、ゲル化剤に起因するゲル骨格を有しているため、食品の水分によって溶解せずに、膨潤した状態で各自その位置に留まるようになっている。このため、長時間に渡って、食品と一体化した後も美麗な状態に保つことができる。それ自体が食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物からなるため、食品が冷凍食品でなくても、その食品の有する水分を利用して容易に一体化することができるので使い勝手がよい。
【0037】
ドライ熟成を行って水分を除いた後、ウェット熟成を行うが、ウェット熟成の問題点として、熟成中の多量のドリップの発生があげられる。ドライ熟成により表面の水分を除くことにより、ドリップの発生を抑制できる。従来のドライ熟成は微生物を繁殖させる場合が多く、そのままウェット熟成には適用できなかった。本発明の前段工程のドライ熟成は5日程度で完了する(それ以上の長期間熟成は味が劣化する)が、旨み成分であるアミノ酸の生成量が従来法による長期間熟成よりも少なかった。ドライ熟成工程とウェット熟成工程の両工程を行うことにより、味が劣化することなく約10日間でアミノ酸量を従来の長期間熟成に近づけることが可能となる。肉を熟成し旨みが増すメカニズムの上で大きな割合を占めているのが、タンパク質分解酵素の働きである。該酵素によりタンパク質を分解し、牛肉中の旨みアミノ酸を増加させて柔らかでジューシーなテクスチャーになる。熟成はこのメカニズムによって成り立っている。
【0038】
≪マイクロ波熟成装置≫
図1は、第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、図1に示すように、冷却部10、マイクロ波発振部20、マイクロ波熟成部30、制御部50、およびUVランプ60を備える。マイクロ波熟成装置1は、冷却部10の内部にマイクロ波熟成部30、操作部40、制御部50、およびUVランプ60を内蔵している。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1においては、牛肉のみならず、肉類(ハムなどの加工肉食品を含む)、魚介類、チーズなどの乳製品、枝豆(大豆)、コーヒー豆などの豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、ワインなどの酒類、発酵食品(味噌や醤油などの発酵調味料を含む)なども熟成の対象とすることができる。
【0039】
冷却部10は、冷却部10の内部空間を冷却する装置である。冷却部10は、図1に示すように、冷却器11、第1ファン12、冷却室13、および不図示の冷却室扉14を有している。本実施形態では、冷却器11が外部との熱交換を行うことで冷気を発生させ、発生した冷気を第1ファン12により冷却部10の内部の冷却室13内に送風する。これにより、冷却室13内を低温とすることがきできる。なお、後述するように、熟成させる食品の表面温度が内部温度よりも低くなるように、制御部50により、マイクロ波発振部20等の動作や冷却室13内の温度が適宜制御されている。また、ユーザは、冷却室扉14を開くことで、冷却室13内に設置されているマイクロ波熟成部30に、熟成させる食品を出し入れすることができる。
【0040】
マイクロ波発振部20は、食品Mに照射するためのマイクロ波を発振する。マイクロ波発振部20として、マグネトロンを使用した発振器を用いることもできるが、本実施形態では、マグネトロンと比べて高い周波数および出力安定度が得られる、半導体素子を用いたソリッドステート方式の発振器を用いる。マイクロ波発振部20は、周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させて、マイクロ波を発振する。マイクロ波発振部20で発振されたマイクロ波は、ケーブル21を介して、マイクロ波熟成部30の照射口31から照射される。なお、マイクロ波の周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させることでマイクロ波熟成部30での電磁界の分布が均一化されるため、食品Mにも均一な分布でマイクロ波が照射され、食品Mの均一加熱(均一熟成)を促進することができる。
【0041】
マイクロ波熟成部30は、図1に示すように、照射口31、第2ファン32、熟成室33、および不図示の熟成室扉34を備える。ユーザは、熟成室扉34を開けることで、熟成を行う食品Mを熟成室33に出し入れすることができる。
【0042】
熟成室33は、内面(内壁)の全ての面にマイクロ波を反射するための反射板が設置されたキャビティである。熟成室33の上部内面には、マイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波を、熟成室33内に照射する照射口31が設置されている。本実施形態においては、照射口31に、小型で利得が高いパッチアンテナ(平面アンテナ)が取り付けられ、これによりマイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波が熟成室33内に照射される。熟成室33には、テフロン(登録商標)やポリプロピレンなどのマイクロ波透過性材により構成された任意の形状の棚を設置してもよい。またステンレスなどの金属材料を使用する場合は、間隔が20mm以上の格子状の棚や、直径20mm以上の開口部を持つパンチングメタル形状の棚を設置しても良い。
【0043】
第2ファン32は、冷却室13内の冷気を熟成室33に送風する。第2ファン32は、ドライ熟成に適した風量(たとえば0.5~10.0m/秒)で送風を行うことができるものを採用することができる。なお、ウェット熟成では、第2ファン32を停止させることも可能である。本実施形態では、図1に示すように、第2ファン32が熟成室33の外側に取り付けられており、第2ファン32が取り付けられた熟成室33の側壁には、第1微小開口35が設けられている。第1微小開口35は、マイクロ波の波長よりも短い大きさで開口されており、たとえば本実施形態では、第1微小開口35の大きさを直径10mm以下としている。第1微小開口35により、熟成室33内に照射されたマイクロ波は遮断され、第2ファン32により送風された冷気のみが通過される。また、第1微小開口35と対向する熟成室33の側壁には、第1微小開口35と同様の径の、第2微小開口36が設けられている。第2微小開口36により、熟成室33に照射されたマイクロ波は遮断されるが、食品Mとの熱交換により温められた熟成室33内の空気が、第2微小開口36を通過して、冷却室13内へと排出される。第1微小開口35および第2微小開口36を、1または複数の側壁の大部分を占める面積に設け、通気性を高めてもよい。また、熟成室33を第1微小開口35および第2微小開口36が予め形成されたパンチングメタルを用いて構成することもでき、このようなパンチングメタルとして、φ10mmのステンレス板を用いることもできる。
【0044】
制御部50には、熟成させる食品Mの表面温度および内部温度がそれぞれ所定の温度となるように温度制御を行うプログラムが組み込まれている。具体的には、制御部50は、マイクロ波発振部20、冷却器11、第1ファン12、第2ファン32の動作を制御することで、マイクロ波発振部20によるマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御して温度制御を行う。たとえば、制御部50は、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力を高くすることで食品Mの内部温度を高くすることができ、また、冷却器11による冷気の温度を低くし、あるいは、第1ファン12および第2ファン32の風量を高くすることで食品Mの表面温度を低くすることができる。
【0045】
また、制御部50は、マイクロ波発振部20によるマイクロ波の発振を制御することができる。たとえば、制御部50は、マイクロ波発振部20を一定の出力値および一定の周波数に固定して発振させる固定照射に加えて、短い周期(たとえば数ミリ秒周期)でマイクロ波発振部20に発振と停止とを繰り返させる間欠照射や、マイクロ波発振部20の周波数を経時的に変化させる掃引照射や、マイクロ波発振部20の出力値を経時的に変化させる連続照射を行わせることができる。また、制御部50は、食品Mを熟成させている間、マイクロ波を連続して照射する必要もなく、少なくとも1時間以上(好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上)、マイクロ波の照射が行なわれる構成とすることができる。さらに、制御部50は、マイクロ波の照射のON-OFFを一定時間(たとえば数時間)ごとに切り替えるように(間欠照射の場合は、間欠照射を行う期間と間欠照射を行わない期間とを一定時間ごとに切り替えるように)、マイクロ波発振部20を制御する構成とすることもできる。たとえば、制御部50は、マイクロ波を3時間照射した後、マイクロ波の照射を3時間停止し、同様に、マイクロ波の照射と停止とを3時間ごとに、たとえば熟成期間である7日間ずっと繰り返すように、マイクロ波発振部20を制御することができる。
【0046】
また、制御部50は、食品Mの内部温度や表面温度を測定する温度センサ(例えば、マイクロ波環境下においても接触式で温度計測が可能な蛍光式光ファイバー温度計(安立計器株式会社製)や、非接触により赤外線や可視光線の強度を測定する放射型温度センサ)と接続し、温度センサの計測結果に基づいて、適宜温度制御を行う構成とすることもできる。
【0047】
さらに、制御部50は、予め試験により、食品Mの重量および水分量と、食品Mの表面温度および内部温度を所定の温度とするための、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量との関係を記憶しておき、熟成室33内に設置された重量計や非接触式の水分計から得た食品Mの重量や水分量に応じて、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御する構成とすることもできる。この場合、ユーザが操作ボタンやタッチパネル等の入力装置である操作部40を操作して、食品の種類(たとえば、牛肉、豚肉、鶏肉)や大きさなどの熟成対象食品情報を入力することで、制御部50は、食品の表面温度が凍結温度よりも低くなるような制御を自動で行うことができる。
【0048】
ここで、マイクロ波は誘電加熱により食品内部まで加熱するため、マイクロ波熟成部30でマイクロ波を照射した場合、食品Mの表面に加えて食品Mの内部まで加熱することができる。食品Mの内部を温めることで食品Mの熟成を促進することができるが、食品Mの表面を温めることは食品Mの表面に付着した菌の増殖を促すこととなる。これに対して、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、冷却機構、すなわち、冷却部10および第2ファン32の動作により食品Mの表面を冷却することで、食品Mの表面に付着した菌の増殖を抑制することができる。
【0049】
特に、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、加熱機構(マイクロ波発振部20およびマイクロ波熟成部30)による食品Mの加熱と、冷却機構(冷却部10および第2ファン32)による食品Mの表面の冷却とを同時に行うことで、食品Mの表面温度を低くしながらも、食品Mの内部温度を高くすることができる。具体的には、食品Mの表面温度よりも、食品Mの内部温度を高くすることができる。
【0050】
また、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、ユーザが操作するための操作部40を備えており、ユーザは操作部40を操作することで、食品Mの凍結温度よりも低い温度条件下で食品Mを熟成させる超低温熟成モードや、通常の熟成温度よりも高い温度で熟成させる高温熟成モードを指示することができる。ユーザにより超低温熟成モードが指示された場合、制御部50は、食品Mの表面温度が食品Mの凍結温度よりも低い温度となるように、加熱機構および冷却機構の動作を制御する。また、ユーザにより高温熟成モードが指示された場合、制御部50は、食品Mの内部温度が15℃以上となり、食品Mの表面温度が5℃以下となるように(食品Mの表面温度と内部温度との差が10℃以上となるように)、加熱機構および冷却機構の動作を制御する。
【0051】
たとえば、超低温熟成モードにおいて、ユーザが操作部40を操作して熟成させる食品Mの情報を入力することで、制御部50は、入力された食品Mの情報から食品Mの凍結温度を取得し、食品Mの表面温度が予め定めた食品Mの凍結温度よりも低い温度(たとえば-3℃未満、好ましくは-5~-10℃)となるように、マイクロ波発振部20の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32による風量を制御することができる。たとえば、牛肉は通常-2℃で凍結するため、制御部50は、牛肉を熟成させる場合には、牛肉の表面温度が予め定めた牛肉の凍結温度(-2℃)よりも低い温度となるように、加熱機構および冷却機構の動作を制御することができる。また、制御部50は、食品Mの種類に関わらず、食品Mの凍結温度を-2℃などと固定して、食品Mの表面温度が予め定めた凍結温度(-2℃など)よりも低くなるように、マイクロ波発振部20の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32による風量を制御することもできる。
【0052】
なお、通常、食品Mの表面温度を-2℃よりも低い温度または食品Mの凍結温度よりも低い温度とした場合、食品Mの内部も凍結してしまい、却って、熟成が進行しないこととなる。しかしながら、本実施形態では、マイクロ波発振部20により食品Mにマイクロ波を照射して食品Mの内部まで同時に加熱することで、食品Mの表面温度を-2℃よりも低い温度または食品Mの凍結温度よりも低い温度とした場合でも、食品Mの内部の温度を高くすることができ、熟成を進行させることができる。
【0053】
さらに、本実施形態において、制御部50は、超低温熟成モードが指示されている場合、食品Mの内部温度が表面温度以上、好ましくは内部温度が0℃よりも高い温度、より好ましくは内部温度が5℃以上、10℃以下となるように、マイクロ波発振部20、冷却器11、第1ファン12、および第2ファン32の動作を制御する。また、超低温熟成モードにおいては、食品Mの種類に応じて衛生上許容される範囲において、食品Mの内部温度を10℃以上、または、内部温度を20℃以上とすることもできる。たとえば、食品Mが食肉である場合、制御部50は、食肉の表面温度が食肉の凍結温度よりも低い温度となり、かつ、食肉の内部温度が4℃以上、10℃以下となるように、加熱機構および冷却機構の動作を制御することができる。本実施形態では、食品Mの表面温度を凍結温度よりも低くすることができるため、内部温度を熟成が促進する高い温度としても、菌の繁殖を抑制することができる。また、食品Mの内部温度を高い温度として熟成させることで、食品Mを高速で熟成させることもできる。
【0054】
また、制御部50は、高温熟成モードが指示されている場合、食品Mの内部温度が表面温度以上、好ましくは内部温度が10℃以上、より好ましくは内部温度が15℃以上、さらに好ましくは内部温度が20℃以上となるように、マイクロ波発振部20の出力、冷却器11による冷気の温度、並びに、第1ファン12および第2ファン32による風量を制御する。また、高温熟成モードにおいて、制御部50は、食品Mの表面温度と内部温度との温度差が10℃以上となるように、加熱機構および冷却機構の動作を制御する。これにより、内部温度を熟成が促進する10℃以上としても、菌の繁殖を抑制することができる。また、食品Mの内部温度を10℃以上にして熟成させることで、食品Mを高速で熟成させることもできる。たとえば、チーズを熟成させる場合には、高温熟成モードを用いてチーズを熟成させることが好適である。
【0055】
UVランプ60は、紫外線を発生させる装置である。本実施形態では、冷却室13や熟成室33を循環する冷気に紫外線を照射することで、冷気中に浮遊する菌を殺菌することができ、食品Mの表面や冷却室13や熟成室33に存在する菌の増殖をより抑制することができる。また、熟成室33の一部(少なくともUVランプ60側の一部)の壁部において紫外線が通過する構成としたり、UVランプを熟成室33に直接設置したりすることもでき、その場合は、食品Mの熟成中に、UVランプ60で発生させた紫外線を、熟成室33内に置かれた食品Mの表面に直接照射することができる。このように、熟成中に、紫外線を食品Mの表面に照射することで、食品Mの表面に存在する菌の増殖をより抑制することができる。なお、制御部50は、UVランプ60の動作も制御することができる。たとえば、制御部50は、熟成を開始したタイミングまたは熟成室扉34を(開けた後に)閉じたタイミングから、一定時間(たとえば数時間)、UVランプ60に紫外線を照射させるように制御を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、食品Mをそのまま熟成室33内に載置し表面を乾燥させながら熟成させるドライ熟成と、食品Mを真空包装するなどして乾燥させずに熟成させるウェット熟成のいずれも行うことができる。また、本実施形態では、第2ファン32による送風を停止させたまま食品Mを熟成させることでウェット熟成を行うこともできる。なお、後述するように、超低温熟成モードで食品Mをウェット熟成させる場合には、他の熟成方法と比べて、食品Mから排出される水分の量が多くなる傾向にある。そのため、超低温熟成モードでウェット熟成を行う場合、たとえば図2に示すように、一定の高さの突起部を有する網皿に食品Mを載置し、食品Mを網皿に載せた状態で網皿ごと真空包装することで、食品Mと食品Mから排出された水分とを効率良く分離することが可能となる。また、食品Mを網皿に載せた状態で真空包装した場合、食品Mから排出された水分を分離するためのスペースが確保できない場合があるため、さらに、網皿の下にトレイを敷いて(または網皿とトレイとを一体とした部材を用いて)、食品M、網皿およびトレイごと真空包装した方が好ましい。なお、図2は、超低温熟成モードでウェット熟成を行う際に使用される網皿の一例を示す図である。
【0057】
また、ウェット熟成において食品Mを真空包装する場合には、食品Mを吸水性シートで覆ってから真空包装を行うことも有効である。吸水性シートを用いることで、食品Mから排出される水分を食品Mからより効率的に分離することができる。吸水性シートとしては、特に限定されないが、たとえば、下記の材質を用いることができる。
・金星製紙株式会社 クッキングシート まる鮮ロール ドリップ吸収シート
・ユニ・チャーム フレッシュマスター 魚・肉のための保鮮シート
【0058】
また、ウェット熟成を行う場合に、上述した透水性シートを用いる構成とすることもできる。たとえば、透水性シートで食品Mを包んだ状態のままウェット熟成を行うことができる。また、透水性シートで包んだ状態で食品Mをウェット熟成した後に、透水性シートから食品Mを取り出し、食品Mを真空包装して再度ウェット熟成を行う構成とすることもできる。
【0059】
(実施例)
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
1.実施例で用いたマイクロ波熟成装置は、前記の第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置1と同様の構成の試作機を製作して行った。
2.熟成肉のL-グルタミン酸の測定は以下の手順で行った。
遊離L-グルタミン酸の濃度は、L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEO(ヤマサ醤油株式会社製)を使用して測定した。
(1)調製した試料液、上記L-グルタミン酸測定キットに含まれるL-グルタミン酸
標準液、蒸留水を各試験管に10μLずつ分注し、
(2)上記L-グルタミン酸測定キットに含まれるR1酵素試薬液を各試験管に450
μLずつ分注して混和し、20℃~30℃で20分間静置し、
(3)上記L-グルタミン酸測定キットに含まれるR2酵素試薬液を各試験管に450
μLずつ分注して混和し、20℃~30℃で20分間静置した後、蒸留水を対照にして5
55nmの吸光度を測定した。
(4)また、試料の色が吸光度に影響する場合があるため、試料色検体として試料10
μLに蒸留水900μLを分注して混和し、20℃~30℃で20分間静置した後、蒸留
水を対照にして555nmの吸光度を測定した。
(5)測定した吸光度に基づいて、各試料の遊離L-グルタミン酸の濃度を下記式1に
基づいて算出した。
L-グルタミン酸(mg/L)の濃度=(A-B-R)÷(S-R)×250×希釈倍
率 …(1)
なお、上記式1において、Aは試料の吸光度、SはL-グルタミン酸標準液の吸光度、Rは蒸留水の吸光度、Bは試料色の吸光度である。
3.試験の目的
本発明に係るマイクロ波熟成方法による食品の熟成効果(高温熟成モードおよび超低温熟成モードでの熟成効果)を確認するために以下の試験を実施した。
【0060】
(試験例1)
試験例1では、1本の内もも肉を分割したホルスタイン内もも肉を使用して、熟成条件:庫内温度-5℃、肉の中心温度10℃で、(A)ドライ熟成を行って水分を除いた後、ウェット熟成を行う本発明の方法と、(B)ドライ熟成を行なう方法、または(C)ウェット熟成を行う方法を比較した。
(A1)ドライ熟成3日実施後、ウェット熟成7日実施する(図3参照)。
(B1)ドライ熟成5日実施する。予備実験でドライ熟成の最適熟成条件である5日を採用した。
(C1)ウェット熟成10日実施する。予備実験でウェット熟成の最適熟成条件である10日を採用した。
図4に、試験例1の官能試験の結果を示す。
ドライ熟成のほうが熟成風味、コクは優るが、新規熟成法は軟らかさ、旨みが増しており、総合評価も高い結果となった。
【0061】
官能試験は、一般社団法人食肉科学技術研究所において専門家3名により実施した。また、当該官能試験においては、ウェット熟成10日の牛モモ肉を基準(ゼロ点)とし、不快臭なし、異味なし、熟成風味、コク、旨み、ジューシーさ、軟らかさ、総合の各項目について、0点を含む-3点から+3点の7段階評価を行った。図4における評価点は、3名の専門家(パネラー)の評価点の平均値を示している。官能試験の結果、(B)のドライ熟成のほうが熟成風味、コクは優るが、(A)の本発明の熟成法は軟らかさ、旨みが増しており、総合評価も高い結果となった。
【0062】
(試験例2)
目的:熟成期間の最適化
試験例2では、試験例1と同様に、1本の内もも肉を分割したホルスタイン内もも肉を使用して、熟成条件:庫内温度-5℃、肉の中心温度10℃で、(A)ドライ熟成を行って水分を除いた後、ウェット熟成を行う本発明の方法において、ドライ熟成期間、ウェット熟成期間を変えて、トータル10日間で実施(A2-1)~(A2-3)を、(C)ウェット熟成を行う方法において、ウェット熟成10日(C2)を基準として比較し、試験例1と同様に、官能評価を実施した。
(A2-1)ドライ熟成3日実施後、ウェット熟成7日実施する。
(A2-2)ドライ熟成1日実施後、ウェット熟成9日実施する。
(A2-3)ドライ熟成5日実施後、ウェット熟成5日実施する。
(C2)ウェット熟成10日実施する。
【0063】
図5に、試験例2の官能試験の結果を示す。
(A2-2)のドライ1日、ウェット9日では、ドライ熟成の効果が現れていない。
(A2-3)のドライ5日、ウェット5日では、最初の熟成で熟成が完了しており、追熟の効果が得られていない。
それらの結果から、ドライ熟成2~4日、ウェット熟成6~8日が最適と推測される。ただし、ウェット熟成はもう少し長期間できる可能性はある。
【0064】
(試験例3)
試験例3では、試験例1の(A1)、(B1)、(C1)の評価結果の内もも肉の遊離L-グルタミン酸の濃度を測定した。内もも肉約100gに蒸留水200mlを添加し、ミキサーでホモジナイズして、得られた懸濁液を遠心管に全量移し、8000rpmで15分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を取り出し、定容したものを試料液として、遊離L-グルタミン酸の濃度を測定した。測定結果を図6に示す。
図6は、ウェット熟成10日(C1)の遊離グルタミン酸濃度を1としてその割合をプロットして表した図面である。本発明の実施例である(A1)は、基準(ウェット熟成10日)よりも遊離グルタミン酸濃度が約1.5倍増加している。ドライ熟成はそのままでウェット熟成期間を長くすれば、さらに遊離グルタミン酸濃度を高くできる可能性がある結果が得られた。
【0065】
(試験例4)
ホルスタイン内もも肉のウェット熟成において、透水性シートを使用した場合と、透水性シートを使用しない場合との比較を行った。具体的には、透水性シートを使用した場合の例として、下記(1)~(4)の手順で内もも肉の熟成を行った。
(1)内もも肉を、透水性シート(阿波製紙株式会社、ALT(アルト) 100%ポリオレフィンシート)で包み、シールする。
(2)マイクロ波熟成装置により、庫内温度が-5℃、肉の中心温度が10℃となるように、マイクロ波を連続照射し、3日間熟成(ウェット熟成)させる。
(3)透水性シートから内もも肉を取り出し、取り出した内もも肉を真空包装する。
(4)マイクロ波熟成装置により、真空状態で、庫内温度が-5℃、肉の中心温度が10℃となるように、マイクロ波を連続照射し、7日間熟成(ウェット熟成)させる。
なお、透水性シートを使用しない場合の比較例として、内もも肉をそのまま真空包装し、マイクロ波を照射しないで、庫内温度0℃で10日間保存した。
【0066】
そして、透水性シートを使用した場合と、透水性シートを使用しない場合とで、官能評価と、遊離グルタミン酸濃度の測定とを行った。なお、官能試験は、試験例1と同様に、食肉科学技術研究所の専門家3名により実施した。また、遊離グルタミン酸濃度の測定はアミノ酸分析計を用いて実施した。図7は、試験例4の官能評価の結果を示すグラフであり、透水性シートを使用しない場合を基準(0)として、透水性シートを使用した場合の内もも肉を官能評価した結果を示している。図7に示すように、透水性シートを使用した場合では、透水性シートを使用しない場合と比べて、コクや熟成感が強くなり、肉の味の濃厚感や持続性が高くなることがわかった。また、肉の旨みもやや強くなることがわかった。さらに、遊離グルタミン酸濃度の測定の結果、透水性シートを使用した場合の遊離グルタミン酸濃度は、透水性シートを使用しない場合と比べて、遊離グルタミン酸濃度が約2.4倍に増加し、試験例1の(C)ウェット熟成と比較して約3倍に増加することがわかった。
【0067】
(試験例5)
試験例5では、ホルスタイン内もも肉のウェット熟成を、ミートペーパーを使用して行った。具体的には、下記(1)~(4)の手順で内もも肉の熟成を行った。
(1)内もも肉を、ミートペーパー(肉の保存シート ミートロール プロ仕様)で包む。
(2)マイクロ波熟成装置により、庫内温度が-5℃、肉の中心温度が10℃となるように、マイクロ波を連続照射し、3日間熟成(ウェット熟成)させる。
(3)ミートペーパーから内もも肉を取り出し、取り出した内もも肉を真空包装する。
(4)マイクロ波熟成装置により、真空状態で、庫内温度が-5℃、肉の中心温度が10℃となるように、マイクロ波を連続照射し、7日間熟成(ウェット熟成)させる。
なお、ミートペーパーを使用しない場合の比較例として、内もも肉をそのまま庫内温度0℃の冷蔵庫で3日間保存した後、真空包装し、マイクロ波を照射しないで、庫内温度0℃でさらに7日間保存した。
【0068】
そして、ミートペーパーを使用した場合と、ミートペーパーを使用しない場合とで、官能評価と、遊離グルタミン酸濃度の測定とを行った。なお、官能試験は、試験例1,4と同様に、食肉科学技術研究所の専門家3名により実施した。また、遊離グルタミン酸濃度の測定はアミノ酸分析計を用いて実施した。図8は、試験例5の官能評価の結果を示すグラフであり、熟成前の内もも肉を基準(0)として、ミートペーパーを使用した実施例の内もも肉とミートペーパーを使用していない比較例の内もも肉を官能評価した結果を示している。図8に示すように、ミートペーパーを使用した実施例では、ミートペーパーを使用しない比較例と比べて、軟らかく、旨み、ジューシーさ、コク、熟成風味が高くなることがわかった。さらに、遊離グルタミン酸濃度の測定の結果、ミートペーパーを使用した場合の遊離グルタミン酸濃度は、ミートペーパーを使用しない場合と比べて、遊離グルタミン酸濃度が約2.4倍に増加することがわかった。
【0069】
(試験例6)
試験例6では、ホルスタイン内もも肉のウェット熟成を、不織布を使用して行った。具体的には、下記(1)~(4)の手順で内もも肉の熟成を行った。
(1)内もも肉を、不織布(金星製紙株式会社製 四万十川 鮮度保持シート)で包む。
(2)マイクロ波熟成装置により、庫内温度が-5℃、肉の中心温度が10℃となるように、マイクロ波を連続照射し、3日間熟成(ウェット熟成)させる。
(3)不織布から内もも肉を取り出し、取り出した内もも肉を真空包装する。
(4)マイクロ波熟成装置により、真空状態で、庫内温度が-5℃、肉の中心温度が10℃となるように、マイクロ波を連続照射し、7日間熟成(ウェット熟成)させる。
なお、不織布を使用しない場合の比較例として、内もも肉をそのまま庫内温度0℃の冷蔵庫で3日間保存した後、真空包装し、マイクロ波を照射しないで、庫内温度0℃でさらに7日間保存した。
【0070】
そして、不織布を使用した場合と、不織布を使用しない場合とで、官能評価と、遊離グルタミン酸濃度の測定とを行った。なお、官能試験は、試験例1,4,5と同様に、食肉科学技術研究所の専門家3名により実施した。また、遊離グルタミン酸濃度の測定はアミノ酸分析計を用いて実施した。図9は、試験例6の官能評価の結果を示すグラフであり、熟成前の内もも肉を基準(0)として、不織布を使用した実施例の内もも肉と不織布を使用していない比較例の内もも肉を官能評価した結果を示している。図9に示すように、不織布を使用した実施例では、不織布を使用しない比較例と比べて、軟らかさとジューシーさでは劣るものの、旨み、コク、熟成風味が高くなることがわかった。さらに、遊離グルタミン酸濃度の測定の結果、不織布を使用した実施例の遊離グルタミン酸濃度は、不織布を使用しない比較例と比べて、遊離グルタミン酸濃度が約1.2倍に増加することがわかった。
【0071】
[参考例]
以下では、参考例1(ドライ熟成5日)および参考例2(ウェット熟成10日)を説明する。
図10には、その左側(A)に、(ドライ熟成5日)、(0℃5日保管)、(熟成開始前)の肉を比較した参考例1の官能試験結果のグラフが、右側(B)に、(ウェット熟成10日)、(0℃10日保管)の肉を比較した参考例2の官能試験結果のグラフが、それぞれ示されている。
【0072】
《参考例1》
図10の左側(A)のグラフは、本発明の実施例と同一のマイクロ波照射装置を用いて超低温熟成モードでマイクロ波を連続照射して5日間熟成させた牛モモ肉と、マイクロ波を照射せずに低温下で5日間保管した牛モモ肉とについて、官能試験を行った結果である。
【0073】
(ドライ熟成5日)超低温熟成モードでマイクロ波を連続照射して、冷却室の温度が-6℃、牛モモ肉の内部温度が10℃となるように温度制御して5日間熟成させた。
(比較:0℃、5日間保管)マイクロ波を照射せずに、冷却室の温度が0℃で5日間保管した。
【0074】
官能試験は、実施例と同一の方法で行った。官能試験の結果、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べ(ドライ熟成5日)および(比較:0℃、5日間保管)では、熟成風味、コク、旨み、およびジューシーさの各項目が高くなり(ゼロ点よりも高い評価となり)、総合評価も高くなった。すなわち、(ドライ熟成5日)と(比較:0℃、5日間保管)とを比べると、図10には、その左側(A)に示すように、(ドライ熟成5日)では、熟成風味、コク、旨み、軟らかさの各項目がより高く評価され、総合評価もより高くなった。特に、(ドライ熟成5日)では、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べて、熟成風味や旨み、軟らかさが、大幅に高い評価となった。
【0075】
《参考例2》
図10の右側(B)の条件は以下の通りである。
本実施形態に係るマイクロ波照射装置を用いてマイクロ波を連続照射し、冷却室の温度が-6℃、牛モモ肉の内部温度が10℃となるように温度制御して10日間熟成させた牛モモ肉と、マイクロ波を照射せずに冷却室の温度が0℃、牛モモ肉の内部温度が0℃となるように温度制御して10日間熟成させた牛モモ肉とについて、官能試験を行った結果である。
【0076】
(ウェット熟成10日)超低温熟成モードでマイクロ波を連続照射して、冷却室の温度が-6℃、牛モモ肉の内部温度が10℃となるように温度制御して10日間ウェット熟成させた牛モモ肉。
(比較:0℃、10日間保管)マイクロ波を照射せずに、冷却室の温度(牛モモ肉の表面温度)を0℃とし、牛モモ肉の内部温度も0℃として保管した牛モモ肉。
ドライ熟成、ウェット熟成の熟成期間は最適化されており、これ以上熟成すれば味のバランスが崩れる。
【0077】
官能試験は、実施例と同一の方法で行った。官能試験の結果、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べ(ウェット熟成10日)および(比較:0℃、10日間保管)では、熟成風味および旨みの項目が高くなった(ゼロ点よりも高い評価となった)。また、(ウェット熟成10日)と(比較:0℃、10日間保管)とを比べると、図10には、その右側(B)に示すように、(ウェット熟成10日)では、熟成風味、コク、旨み、ジューシーさ、および軟らかさの各項目がより高く評価され、総合評価もより高くなった。特に、(ウェット熟成10日)では、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べて、コクや旨み、ジューシーさ、軟らかさが、大幅に高い評価となった。
【符号の説明】
【0078】
1,1a,1b…マイクロ波熟成装置
10…冷却部
11…冷却器
12…第1ファン
13…冷却室
20…マイクロ波発振部
21…ケーブル
30,30a…マイクロ波熟成部
31…照射口
32…第2ファン
33…熟成室
34…熟成室扉
35…第1微小開口
36…第2微小開口
37…網皿
38…チョーク構造
39…照明部
40…操作部
50…制御部
60…UVランプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10