(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】エピネフリンの安定な水性注射溶液
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20240822BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240822BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240822BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240822BHJP
A61P 9/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/26
A61P9/02
(21)【出願番号】P 2021539932
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 IB2020050148
(87)【国際公開番号】W WO2020148609
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】201921001282
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】503422000
【氏名又は名称】サン ファーマシューティカル インダストリーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SUN PHARMACEUTICAL INDUSTRIES LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ラナ,アマル
(72)【発明者】
【氏名】サマー,ラケシュ
(72)【発明者】
【氏名】アグラワル,スディープ
(72)【発明者】
【氏名】ボウミック,サバス・バララム
(72)【発明者】
【氏名】セナティ,ラジャマンナル
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507915(JP,A)
【文献】特開2016-050205(JP,A)
【文献】特表2014-515400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩と、亜硫酸塩酸化防止剤と、ブチル化ヒドロキシルアニソールと、
酒石酸と、キレート剤とを含み、
亜硫酸塩酸化防止剤以外の無機酸および無機塩基を含まない、安定な水性注射溶液。
【請求項2】
前記溶液のpHが3.4~4.5の範囲内である、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項3】
前記溶液のpHが3.8±0.3の範囲内である、請求項2に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項4】
エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩が、エピネフリン塩基
相当量で約0.05mg/mL~約0.15mg/mLの範囲の量で存在する、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項5】
エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩の量が、エピネフリン塩基
相当量で0.1mg/mLである、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項6】
前記亜硫酸塩酸化防止剤が、約0.1mg/mL~約0.3mg/mLの範囲の量で存在する、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項7】
前記キレート剤がエデト酸二ナトリウム二水和物である、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項8】
前記エデト酸二ナトリウム二水和物が、0.05mg/mL~2.0mg/mLの量で存在する、請求項7に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項9】
前記
キレート剤が、エデト酸二ナトリウム二水和物、エデト酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、ジアミノエタン四酢酸、およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項10】
前記酒石酸が、約0.03mg/mL~約0.5mg/mLの範囲の量で存在する、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項11】
ブチル化ヒドロキシルアニソールが、約0.001mg/mL~0.005mg/mLの範囲の量で存在する、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項12】
前記溶液が不透過性容器内で、40℃/相対湿度75%で少なくとも6カ月間保存された時に、1.0重量%未満の硫酸エピネフリンを有する、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項13】
前記溶液がプレフィルドガラスシリンジ内で保存される、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項14】
前記溶液が、アルミニウムパウチおよび脱酸素剤を含む二次包装内でさらに包装される、請求項13に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項15】
前記無機酸が塩酸であり、
前記無機塩基が水酸化ナトリウムである、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項16】
さらに約5mg/mL~9mg/mLの範囲の量で塩化ナトリウムを含む、請求項1に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項17】
請求項1に記載の安定な水性注射溶液であって、該水性注射溶液を静脈内投与することによって、敗血症性ショックを処置する方法に使用するための、安定な水性注射溶液。
【請求項18】
前記方法が、敗血症性ショックと関連している低血圧を有する患者において平均動脈圧の増加を提供する、請求項17に記載の安定な水性注射溶液。
【請求項19】
敗血症性ショックを処置することが必要な患者において敗血症性ショックを処置する方法に使用するための、請求項1に記載の安定な水性注射溶液であって、前記方法が、請求項1に記載の水溶液約10mLを、約1000mLの5%w/vのデキストロース溶液に添加し
て希釈溶液を調製することと、カテーテルタイイン技法の使用を回避しながら、
前記希釈溶液を患者の大静脈の中へ静脈内投与することを含む、安定な水性注射溶液。
【請求項20】
静脈内投与が、0.05mcg/kg/分~2mcg/kg/分の注入速度で実施され、かつ所望の平均動脈圧を達成するために滴定され、また前記投与量が、0.05mcg/kg/分~0.2mcg/kg/分の増分で
定期的に調整される、請求項19に記載の安定な水性注射溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピネフリンの安定な水性注射溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
内因性アドレナリン神経伝達物質であるエピネフリンは、アナフィラキシーを含むアレルギー反応(I型)の緊急処置のために、様々な症状のための注射用製剤として利用可能である。例えば、エピペン(登録商標)、Adrenalin(登録商標)、Symjepis(登録商標)、Auvi-Q(登録商標)、Adrenaclick(登録商標)などの数多くの市販製品が利用可能であり、エピネフリンは、0.76mL~2mLの体積で、0.5mg/mLまたは1mg/mLの濃度で、安定剤としてメタ重亜硫酸ナトリウムを有して存在する。これらの製品は、バイアルまたはプレフィルドシリンジのいずれかとして提示されている。これらのうち、直近に承認されたものは、PAR PharmaceuticalsによるAdrenalin(登録商標)である。Adrenalin(登録商標)は、1mg/mLのエピネフリン塩基、塩化ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、酒石酸、エデト酸二ナトリウム、水酸化ナトリウム、および塩酸を含有するpH2.2~5.0の水溶液であり、バイアル中で1mLの体積で単回用量注射溶液として提供される。
【0003】
本発明者らは、改善された安定な水性注射溶液を開発する一方で、塩酸などの無機酸、および水酸化ナトリウムなどの無機塩基の存在が、高濃度の望ましくない不純物を生成することを見出した。生成した望ましくない不純物は、硫酸エピネフリンおよびD-エピネフリンであった。D-エピネフリン(式II)は、L-エピネフリン(式I)より効力が低いことが知られている(米国特許第9,283,197号(以下、米国197号)を参照のこと)。
米国197号特許はエピネフリンおよびアドレナリンの、効力の低いD型(アドレナリン作動活性がほとんどない効力の低いケトン形態)へのエピネフリンのラセミ化および酸化の問題を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明は、エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩、亜硫酸塩酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシルアニソール、有機酸、およびキレート剤を含む安定な水性注射溶液を提供し、溶液は無機酸および無機塩基を含まない。
【0006】
本発明はまた、エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩、亜硫酸塩酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシルアニソール、有機酸、およびキレート剤を含む安定な水性注射溶液の静脈内投与によって敗血症性ショックを処置する方法を提供し、溶液は無機酸および無機塩基を含まない。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩、亜硫酸塩含有酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシルアニソール、有機酸、およびキレート剤を含む安定な水性注射溶液を提供し、溶液は無機酸および無機塩基を含まない。当該溶液は、敗血症性ショックと関連している低血圧を有する成人の平均動脈圧を増加させるために使用することができる。
【0008】
本明細書で使用される「安定な」という用語は、エピネフリンの水溶液が室温で物理的および化学的に安定なままであり、かつ溶液がガラス容器内で、または酸素もしくは空気に対して不透過性の任意の他の容器内で、40℃/相対湿度75%で1カ月間保存される時、D-エピネフリンまたは硫酸エピネフリンなどの公知の不純物の含有量が0.5%未満であることを意味する。溶液がガラス容器内で、または酸素もしくは空気に対して不透過性の任意の他の容器内で、40℃/相対湿度75%で6カ月間保存される場合、硫酸エピネフリンは1.0%未満であることが好ましい。
【0009】
本明細書で使用される「無機酸」という用語は、水中でアニオンおよびH+イオンに完全に解離する任意の酸を意味する。例えば、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸などである。本明細書で使用される「無機塩基」という用語は、水中でカチオンおよびOH-イオンに完全に解離する任意の塩基を意味する。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウムなどである。
【0010】
エピネフリンの公知の不純物としては、D-エピネフリンおよび硫酸エピネフリンが挙げられる。D-エピネフリンおよび硫酸エピネフリン不純物の化学構造は、それぞれ式IIおよび式IIIによって表される。
【0011】
エピネフリン、またはエピネフリン塩基と同等のその薬学的に許容可能な塩は本発明の水溶液中に、治療的に有効な量で存在する。好ましくは、エピネフリンまたはエピネフリン塩基と同等のその薬学的に許容可能な塩は、水溶液中に0.01mg/mL~0.5mg/mL(例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.012、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.3、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、0.5mg/mLなど)の範囲の量で存在する。特定の一実施形態において、エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩は、約0.10mg/mL~約0.11mg/mLの範囲の量で存在する。
【0012】
一実施形態において、エピネフリンの塩は、任意の適切な有機酸の塩であってもよい。好ましい一実施形態において、エピネフリンの一部の薬学的に許容可能な塩は、酒石酸塩、酒石酸水素塩、ホウ酸塩クエン酸塩等であってもよい。より好ましい一実施形態において、エピネフリンの酒石酸塩が本発明の目的ために使用される。
【0013】
本明細書で使用される用語「亜硫酸塩含有酸化防止剤」とは、水中で亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、またはメタ重亜硫酸塩アニオンを提供する能力を有する任意の酸化防止剤、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、およびこれに類するものを意味する。酸化防止剤を含有する亜硫酸塩は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、またはメタ重亜硫酸ナトリウムから選択されてもよいが、これらに限定されない。一実施形態において、酸化防止剤を含有する亜硫酸塩は、0.1mg/mL~0.5mg/mLの範囲の濃度の水溶液の状態である。好ましい一実施形態において、使用される酸化防止剤を含有する亜硫酸塩は、メタ重亜硫酸ナトリウムであり、これは0.17mg/mLの濃度で水溶液中に存在する。
【0014】
好ましい一実施形態において、本発明の水溶液は、酸化防止剤を含有する亜硫酸塩とブチル化ヒドロキシルアニソールとの独特の混合物を含む。ブチル化ヒドロキシルアニソール(BHA)は、本発明による水溶液中に、約0.0001mg/mL~約0.1mg/mLの範囲の量で、好ましくは約0.001mg/mL~0.005mg/mLの範囲の量で存在してもよい。特に好ましい一実施形態において、ブチル化ヒドロキシルアニソールは、本発明の水溶液中に0.003mg/mLの量で存在してもよい。
【0015】
一実施形態において、水溶液のpHは、有機酸によって所望の範囲内に調整される。好ましい一実施形態において、有機酸は酒石酸である。こうした実施形態において、酒石酸は約0.03mg/mL~約0.11mg/mLの範囲の量で存在し、これはエピネフリンを溶解し、かつその場でのエピネフリン酒石酸塩を形成する。好ましい一実施形態において、本発明の安定な水性注射溶液は、塩酸などの無機酸、および水酸化ナトリウムなどの無機塩基を含まない。本発明のこうした好ましい実施形態において、当該溶液は3.4~4.5の範囲のpHを有する。より好ましい一実施形態において、本発明の安定な水性注射溶液は、3.8±0.3の範囲のpHを有する。水溶液は、無機酸と無機塩基の組、または無機酸もしくは無機塩基を伴う塩である、いかなる緩衝液も含まない。
【0016】
本発明の安定な水性注射溶液は、キレート剤をさらに含む。本発明で使用されてもよいキレート剤は、エデト酸二ナトリウム、エデト酸二ナトリウム二水和物、エチレンジアミン四酢酸(ethylenediamine tertaacetic acid)、ジアミノエタン四酢酸、およびこれに類するもの、またはそれらの混合物から選択されてもよいが、これらに限定されない。キレート剤は、約0.05mg/mL~約2.0mg/mLの範囲の量で水溶液中に存在してもよい。好ましい一実施形態において、エデト酸二ナトリウム二水和物はキレート剤として使用され、0.1mg/mL~0.3mg/mLの範囲の量で水溶液中に存在する。より好ましい一実施形態において、エデト酸二ナトリウム二水和物は、0.2mg/mLの量で水溶液中に存在する。
【0017】
安定な水性注射溶液は、他の非経口的に許容可能な賦形剤をさらに含んでもよい。本発明の水溶液は、溶液の浸透圧を約250~375mOsm/kg、好ましくは270~330mOsm/kgの範囲内に調整するための浸透圧剤または等張化剤を適切な量で含んでもよい。本発明に使用されてもよい浸透圧剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、マンニトール、グリセロール、ソルビトール、プロピレングリコール、デキストロース、スクロース、およびこれに類するもの、ならびにそれらの混合物から選択されてもよいが、これらに限定されない。好ましい一実施形態によると、浸透圧剤は塩化ナトリウムであり、これは約5mg/mL~9mg/mLの範囲の量で溶液で使用されてもよい。最も好ましい実施形態において、安定な水性注射溶液は、無機酸および無機塩基を含まない。
【0018】
本発明の安定な水性注射溶液は、注射用水などの薬学的に許容可能な溶媒を含む。本発明の一実施形態によると、本発明の安定な水性注射溶液は、アルコールまたはグリコールなどの共溶媒を含まないことが好ましい。
【0019】
容器内に充填された安定な水性注射溶液の体積は、約10mL~200mL、好ましくは10mL~100mL、より好ましくは10mL~50mLの範囲内(例えば、20、30、40、または50mLなど)である。好ましい一実施形態によると、容器内に充填されたエピネフリンの水溶液の体積は、約10mLである。
【0020】
本発明の一実施形態において、エピネフリンの安定な水性注射溶液は、プレフィルドシリンジ、オートインジェクター、バイアル、またはアンプルから選択される容器内に充填される。好ましい一実施形態において、容器はプレフィルドシリンジである。別の好ましい一実施形態において、容器はオートインジェクターである。より好ましくは、安定な水性注射溶液は、注入バッグに直接取り付けることができるプレフィルドガラスシリンジの中に充填される。容器がプレフィルドシリンジまたはオートインジェクターである場合、バレルはガラスなどの不透過性材料で作製される。好ましくは、バレルは米国薬局方タイプIシリコン処理ガラスで作製される。別の一実施形態において、バレルは、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリオレフィンポリカーボネート、スチレン-ポリオレフィン系ポリマー、およびそれらのブロックコポリマーから選択される非ガラスポリマー材料で作製される。バレルは、ストッパーまたはストッパー弁を有するプランジャーで一端にてシールされる。一実施形態によると、プランジャーストッパーまたは弁は、非ガラス構成要素で作製される。一実施形態において、ストッパーまたは弁は、非ガラス、ゴム、エラストマー材料、好ましくは熱可塑性エラストマーで作製されるが、高密度ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンなどの他の適切な材料で作製されてもよい。ゴムまたは弾性材料は、ブロモブチルゴム、クロロブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、およびこれに類するものを含んでもよいが、これらに限定されない。好ましくは、先端キャップは、米国薬局方タイプIIゴムで作製される。好ましい一実施形態において、プランジャーストッパーは、エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩を約0.05mg/mL~約0.15mg/mLの範囲の量で含む水性注射溶液、亜硫酸塩酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシルアニソール、酒石酸、およびキレート剤と直接接触するブロモブチルゴムで作製され、溶液は無機酸および無機塩基を含まず、また溶液のpHは3.4~4.5の範囲である。最も好ましい実施形態のうちの一つにおいて、溶液のpHは3.8±0.3の範囲内である。不純物の硫酸エピネフリンは、溶液を上記の不透過性容器内で40℃/相対湿度75%で6カ月間保存した時に1.0%未満であることが見いだされ、これと比較して、pHを3.8±0.3に調整するために無機酸および無機塩基を添加した場合では硫酸エピネフリンは1.7%であった。
【0021】
プレフィルドシリンジの容器閉鎖構成要素は、様々な潜在的溶出物および抽出物を含む。プレフィルドシリンジの先端キャップ構成要素は、フェノール系酸化防止剤、低分子量ポリマー、ブチル化ヒドロキシルトルエン、パルミチン酸塩/ステアリン酸塩、マグネシウム、および亜鉛イオンを潜在的抽出物として含む。当該シリンジは、シリコン酸化物、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ナトリウム、酸化バリウム、酸化カルシウムなどの潜在的な抽出物を含む。ゴムプランジャーストッパーは、低分子量ポリマー、パルミチン酸塩ステアリン酸塩、残留溶媒、マグネシウム、および亜鉛イオンなどの潜在的な抽出物を含む。安定なエピネフリンの水性注射溶液は、抽出物および溶出物を含まないことが見いだされた。
【0022】
一実施形態において、装置は、エピネフリンの注射用水溶液を有する容器を保管する二次包装内に封入されてもよい。二次包装は、不透明であっても、または透明であっても、または窓付きの不透明であってもよいアルミニウムパウチ、ブリスター、および/またはカートンであってもよい。さらに、適切な脱酸素剤が二次包装の中に含まれていてもよい。好ましい一実施形態において、エピネフリンの水性注射溶液で充填された容器は、カートンで供給される。カートンは、容器の構成要素、すなわち針、バレル、またはオートインジェクターの他の部品を運ぶための仕切りを含む。
【0023】
本発明の安定な水性注射溶液は、2ppm未満、より好ましくは1ppm未満の酸素含有量を有してもよい。本発明の水溶液は、酸素レベルが2ppm未満、より好ましくは1ppm未満に維持されるプロセスによって調製されることが好ましい。プロセスは、溶液を調製する間、または溶液が調製された後、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスをパージする工程を含んでもよい。
【0024】
本発明において、エピネフリンの安定な水性注射溶液を、注入バッグに容易に取り付けることができるプレフィルドシリンジ内に充填することができる。これは、急速な流体の蘇生だけでなく、患者に対する平均動脈圧の増加を提供して時間の節約を提供する。本発明の安定な水性注射溶液は、静脈内経路による投与のみに適しており、皮下または筋肉内経路の投与には適さない。
【0025】
別の一態様によると、本発明は、エピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩、亜硫酸塩酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシルアニソール、酒石酸、およびキレート剤を含む安定な水性注射溶液の静脈内投与によって敗血症性ショックを処置する方法を提供し、溶液は無機酸および無機塩基を含まない。好ましい一実施形態において、溶液は、約0.05mg/mL~約0.15mg/mLの範囲の量でエピネフリンを含む。本明細書に提供された通りの方法は、敗血症性ショックと関連している低血圧を有する患者の平均動脈圧を増加するために有用である。より具体的には、本方法は、約0.05mg/mL~約0.15mg/mLの範囲の量のエピネフリンまたはその薬学的に許容可能な塩、亜硫酸塩酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシルアニソール、酒石酸、およびキレート剤を含む安定な水性注射溶液10mLを添加することを含み、溶液は、塩酸などの無機酸、および水酸化ナトリウムなどの無機塩基を含まず、溶液のpHは3.4~4.5の範囲である。最も好ましい実施形態のうちの一つにおいて、溶液のpHは3.8±0.3の範囲であり、1000mLの5%w/vのデキストロース溶液に添加され、溶液は、カテーテルタイイン技法の使用を回避しながら、大静脈の中に注入される。
【0026】
本方法の特定の一実施形態において、エピネフリンの静脈内投与の注入速度は、0.05mcg/kg/分~2mcg/kg/分であり、所望の平均動脈圧を達成するように滴定され、投与量は、例えば0.05mcg/kg/分~0.2mcg/kg/分の増分で10~15分ごとなど定期的に調整され、患者の血行動態が改善されるまで、数時間から数日間注入される。本方法において、エピネフリンの静脈内投与の注入速度は、0.05mcg/kg/分~2mcg/kg/分であり、所望の平均動脈圧を達成するように滴定され、投与量は、例えば0.05mcg/kg/分~0.2mcg/kg/分の増分で10~15分ごとなど定期的に調整され、注入は、患者の血行動態が改善するまで数時間~数日の間行われ、血行動態の安定後、エピネフリン用量は30分ごとに12~24時間の期間にわたって減少される。
【0027】
好ましい一実施形態において、エピネフリンは、5%デキストロース含有溶液の1000mLのプレフィルドシリンジを使用して、10mLのエピネフリン(1mg)を添加することによって患者に投与され、この希釈物の各mLは、敗血症性ショックと関連している低血圧を有する成人の平均動脈圧を増加するために使用される1μgのエピネフリンを含有する。
【0028】
以下、本発明は実施例によって、より具体的に記述される。実施例は、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、単に例示として用いられる。
【0029】
【0030】
調製方法 - 比較例:注射用水をガラスベッセルに取り、窒素をその中に連続的にパージして、1ppm未満の溶解酸素レベルを達成し、かつこれを維持した。溶液を2~8℃に冷却した。秤量された量のブチル化ヒドロキシルアニソール、エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、エピネフリン、塩酸、およびメタ重亜硫酸ナトリウムが、攪拌および連続的な窒素パージを有して上記ベッセルに添加された。pHは、1%w/vの水酸化ナトリウムおよび塩酸の溶液を使用して、連続的な窒素パージを有して約4.0に調整された。注射用水を使用して体積を作り上げた。溶液を、0.2マイクロメートルのPVDFカプセルフィルターを通して濾過した。10mLの濾過溶液を、10.5mLの標準充填体積を有するカートリッジの中に充填した。充填されたカートリッジをプランジャーで止めた。プレフィルドシリンジを、ポリエチレン袋に入れた。プレフィルドシリンジを包含するポリエチレン袋を、段ボール箱に入れた。
【0031】
実施例1の調製方法:注射用水をガラスベッセルに取り、窒素をその中に連続的にパージして、1ppm未満の溶解酸素レベルを達成し、かつこれを維持した。溶液を2~8℃に冷却した。秤量された量のブチル化ヒドロキシルアニソール、エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、酒石酸、エピネフリン、およびメタ重亜硫酸ナトリウムが、攪拌および連続的な窒素パージを有して上記ベッセルに添加された。注射用水を使用して体積を作り上げた。溶液を、0.2マイクロメートルのPVDFカプセルフィルターを通して濾過した。10mLの濾過溶液を、10.5mLの標準充填体積を有するカートリッジの中に充填した。溶液のpHは約3.85であった。充填されたカートリッジをプランジャーで止めた。プレフィルドシリンジを、ポリエチレン袋に入れた。プレフィルドシリンジを包含するポリエチレン袋を、段ボール箱に入れた。
【0032】
実施例2
段ボール箱に入れられたポリエチレン袋に入れられたプレフィルドシリンジ内に充填された、比較例および実施例1のエピネフリンの安定な水性注射溶液を、40℃/相対湿度75%で保存した。溶液を1M、3M、および6Mの時点で、化学的安定性について評価した。これらの分析物は標準的な分析手順によって測定された。結果を下記の表2に示す。
【0033】
実施例3
プレフィルドシリンジ内に充填された比較例および実施例1のエピネフリンの安定な水性注射溶液を、脱酸素剤を含有するアルミニウムパウチ内にパックし、段ボール箱に入れ、40℃/相対湿度75%で保存した。溶液を1M、3M、および6Mの時点で、化学的安定性について評価した。これらの分析物は標準的な分析手順によって測定された。結果を下記の表2に示す。
【表2】
【0034】
安定性データから、本発明による溶液の場合、不純物(硫酸塩不純物およびD-エピネフリン)のレベルの変化が最小限である一方で、比較例の場合において、保存後に不純物レベルの相当な増加が生じたと結論付けることができる。比較例において、無機酸の存在が、D-エピネフリンおよび硫酸エピネフリンなどの公知の不純物の増加を引き起こすことが見いだされた。安定性の結果は、塩酸(pH調整用の無機酸)を有する比較例の水溶液が、40℃/75%RHで保存された時にわずか2か月で、D-エピネフリンおよび硫酸エピネフリンの不純物を示した(0.5%超)ことを表している。上記の安定性データから、提案された生成物が脱酸素剤を包含するアルミニウムパウチ内に保存された時に、D-エピネフリンおよび硫酸エピネフリンの形成がさらに制御されることも分かる。
【0035】
実施例4
プレフィルドシリンジ内に充填された実施例1のエピネフリンの安定な水性注射溶液を、脱酸素剤を含有するアルミニウムパウチ内にパックし、段ボール箱に入れ、下記の表3で保存した。分析物は標準的な分析手順によって測定された。結果を下記の表3に示す。
【表3】