(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】血流依存性血管拡張反応を増強することによって内皮機能を改善するために使用するための組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240822BHJP
A23F 5/02 20060101ALI20240822BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/74 20060101ALI20240822BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20240822BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20240822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
A23L33/105 ZNA
A23F5/02
A23F5/24
A61K36/74
A61K31/192
A61P9/08
A61P43/00 121
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2021558754
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2020060092
(87)【国際公開番号】W WO2020208108
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-04-06
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】アクティス ゴレッタ, ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】ベル‐リリッド, ラシッド
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518569(JP,A)
【文献】特表2011-520429(JP,A)
【文献】Int. J. Food Sci. Nutri.,2019年03月25日,vol.70, no.7,pp.901-908
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A23F 5/00-5/50
A61P 9/00-9/14
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において測定される血流依存性血管拡張反応(FMD)の変化によって測定されるものとして、健康な対象における心血流を改善し、心血管疾患のリスクを低減する方法で使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含む組成物であって、前記対象には、100~400mg/日の量の有効量の前記組成物が投与される、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、機能性食品製品の形態である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記組成物が、少なくとも2:1よりも大きい、コーヒー酸:フェルラ酸の比を含む、請求項1
又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記組成物が、3:1~10:1の範囲の、コーヒー酸:フェルラ酸の比を有する、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記組成物が、30~80mgのコーヒー酸とフェルラ酸との総含有量を有し、前記組成物が、熱処理された組成物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記組成物が、35~60mgのコーヒー酸とフェルラ酸との総含有量を有し、前記組成物が、熱処理された組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記組成物が、液体飲料組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記対象が、HDGCEの投与に加えて、少なくとも200kcalの食事を更に補充される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記対象が、ヒトである、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記心血管疾患が、内皮機能不全である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
(i)コーヒー生豆抽出物を、水、蒸気、有機溶媒、超臨界CO
2及び/又はこれらの混合物と接触させることによって、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を調製する工程
と、
(iii)前記得られた脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、4~7の範囲のpH及び20~50℃の範囲の温度で、1~6時間の範囲のインキュベーション時間で、エステラーゼ酵素と接触させる工程と、
(iv)前記酵素処理されたコーヒー生豆抽出物を、80~120℃の範囲の温度で1~30分間加熱して、前記酵素を不活性化させ、前記抽出物を低温殺菌する工程
と、
を含む、請求項1~10の
いずれか一項に記載の組成物を調製するための方法。
【請求項12】
前記工程(i)と前記工程(iii)との間に、(ii)前記脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を乾燥させる工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記乾燥工程(ii)が、噴霧乾燥又は凍結乾燥である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(iv)の後に、(v)前記抽出物を乾燥させて、前記エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を得る工程を更に含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記エステラーゼ酵素が、1mLの水又は緩衝液中に溶解されたコーヒー生豆抽出物200mgあたり1~20U範囲のW/W濃度のクロロゲネートエステラーゼである、請求項11
~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における血流依存性血管拡張反応を増強することによって内皮機能などの心血管エンドポイントを改善する方法で使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含む組成物であって、対象は、100~400mg/日の量の有効量のHDGCEを投与される、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロゲン酸は、トランス-ケイ皮酸とキナ酸との間に形成されるエステルのファミリーである。クロロゲン酸は、主に、キナ酸と、様々な位置に結合したフェノール基(例えば、コーヒー酸、フェルラ酸、クマリン酸、メトキシケイ皮酸のフェノール基)とのモノ及びジ-エステルとしてコーヒー中に天然に存在する。
【0003】
米国特許第8,481,028号は、カフェオイルキナ酸及びジエステル(例えば、3-カフェオイルキナ酸及びジエステル、4-カフェオイルキナ酸及びジエステル、又は5-カフェオイルキナ酸及びジエステル)並びに/又はフェルロイルキナ酸及びジエステル(例えば、3-フェルロイルキナ酸及びジエステル、4-フェルロイルキナ酸及びジエステル、又は5-フェルロイルキナ酸及びジエステル)を加水分解することができる微生物及び/又は酵素を使用して、加水分解されたクロロゲン酸を得て、コーヒー酸及びフェルラ酸をそれぞれ生成する方法を記載している。
【0004】
内皮とは、血管及びリンパ管の内面を裏打ちし、内腔の循環血又はリンパ液と、血管壁の内皮以外の部分との間に界面を形成する細胞を指す。内皮は多くの血管機能を調節し、血流の仕組み及び凝固の調節において重要な役割を果たす。健康な内皮を有する健康な動脈では、血流が増加した場合に血管は弛緩することができる。内皮機能障害を有する対象は、心血管疾患をより発症しやすいこと(例えば、内皮の損傷は、アテローム性動脈硬化プラーク、並びに脳血管疾患につながる可能性がある)が観察されている。血管機能不全は、血管内の血流依存性血管拡張反応(FMD)を測定することによって監視することができる。
【0005】
Millsら(Clinical Nutrition 36(2017)1520-1529)は、コーヒーがクロロゲン酸及びその代謝産物により誘導する調節により、ヒトの血管機能が改善されることを報告している。この論文では、著者らは、450mg及び900mgの高純度5-CQAが、24人の対象において有意な効果を示さなかったことを報告している。
【0006】
コーヒー及び/又はコーヒー成分を用いて内皮機能不全マーカーを評価する研究は数少ない。興味深いことにこれらの研究のほとんどは、血管の健康に有益な効果を示している。Millsらによって実証されたとおり(Clinical Nutrition 36(2017)1520-1529)、観察された効果は、低クロロゲン酸レベルのコーヒーではなく高クロロゲン酸レベルで最も顕著である。
【0007】
最近の研究(Sanchez-Bridge et al Biofactors 42(3)(2016)259-67)では、様々な焙煎条件によりコーヒーを投与した後のヒトにおけるコーヒーのクロロゲン酸及びフェノール酸の吸収及び代謝について、詳細な報告がなされている。更に、腸管吸収の重要性を評価する目的で、酵素加水分解後に高レベルの遊離フェノール酸を含有する未焙煎のコーヒーも試験飲料として使用されている。酵素により加水分解した未焙煎コーヒーは、固定したラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii(La1,NCC533))エステラーゼ酵素を有するビーズを含有するカラムに、未焙煎コーヒーの抽出物を通すことによって製造した。
【0008】
本発明の目的は、最先端技術を改善し、対象における血流依存性血管拡張反応を増強することによって、内皮機能などの心血管エンドポイントを改善するための、新規でより良好な栄養学的解決策を提供することである。
【0009】
[発明の概要]
したがって、本発明の第1の態様によれば、血管機能の改善により、結果として心臓疾患及び脳血管疾患を改善する方法であって、有効量のエステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)組成物を対象に投与する工程を含み、前記組成物の前記有効量は、加水分解されたコーヒー生豆抽出物の量が100~400mg/日となる量である、方法が提供される。但し、本態様が、本発明の最も広い態様である必要はなく、また実際に唯一の態様である必要もない。
【0010】
一実施形態では、組成物は、少なくとも2:1を超えるコーヒー酸:フェルラ酸の比を含む。別の実施形態では、組成物は、3:1~10:1の範囲にあるコーヒー酸:フェルラ酸の比を含む。
【0011】
本発明者らは、驚くべきことに、HDGCE(173.1mgのHDGCE用量)を含む組成物の摂取により、プラセボ処置と比較して、1時間(p値=0.036)及び6時間(p値=0.017608)の時点でFMDが有意に増加することを見出した。これらの時点におけるFMDの増加は、FMDの1%単位よりも高かった。内皮機能不全の改善(血流依存性血管拡張反応の値の1%)により、心血管イベントのリスクが13%低下することが判明している(Inaba et al.,2010,Int J Cardiovas Imaging 26:621-640)。
【0012】
一態様では、本発明は、対象において測定される血流依存性血管拡張反応(FMD)の変化によって測定されるものとして、健康な対象における心血流を改善し、心血管疾患のリスクを低減する方法で使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含む組成物であって、対象には100~400mg/日の量の有効量の組成物が投与される、組成物に関する。
【0013】
なお更なる態様では、本発明は、エステラーゼ処理された脱カフェイン処理後コーヒー抽出物(HDGCE)を含む組成物を調製するための方法であって、
コーヒー生豆抽出物を水、蒸気、有機溶媒、超臨界CO2、及び/又はこれらの混合物と接触させることによって、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を調製する工程と、
任意選択的に、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を乾燥させる、好ましくは噴霧乾燥又は凍結乾燥させる工程と、
得られた脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、pH4~7及び20~50℃の範囲の温度で、1~6時間の範囲のインキュベーション時間にわたり、エステラーゼ酵素と接触させる工程であって、前記エステラーゼ酵素が、好ましくは1mLの水又は緩衝液に溶解した、好ましくはコーヒー生豆抽出物200mgあたり1~20U範囲のW/W濃度の好ましくはクロロゲネートエステラーゼである、接触させる工程と、
上記の酵素処理したコーヒー生豆抽出物を、80~120℃の範囲の温度で1~30分間加熱して、酵素を不活性化させ、抽出物を低温殺菌する工程と、
任意選択的に、抽出物を乾燥させて、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を得る工程と、を含む、HDGCEを製造するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】約34KDaの分子量(Mw)を有するラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)由来の精製エステラーゼを示す。
【
図2】ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼ活性に対するpHの影響を示す。
【
図3】ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼ活性に対するpHの影響を示す。
【
図4】ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼの基質特異性を示す。4-ニトロフェニルブチレート(黒丸)、4-ニトロフェニルアセテート(黒ひし形)、4-ニトロフェニルデカノエート(黒三角)、4-ニトロフェニルテトラデカノエート(黒四角)、4-ニトロフェニルドデカノエート(横棒)。
【
図5】時間経過に対応させて、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼ(16.5U/mL)による、脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(200g/L)からの、CQAs(黒丸)、FQAs(黒四角)、及びジ-CQAs(横棒)の変換速度(Kinetic transformation)、並びにコーヒー酸(黒三角)及びフェルラ酸(黒ひし形)の形成を示す。反応体積は1mLとした。反応は2連で実施した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
心血管疾患という用語は、例えば、冠動脈疾患(冠動脈性心疾患及び虚血性心疾患としても知られる)、末梢動脈疾患(例えば、末梢内皮機能不全)、腎動脈狭窄、及び大動脈瘤、アテローム性動脈硬化性プラーク形成を含み得る。心臓、例えば、心筋症、高血圧性心疾患、心不全、肺性心、不整脈、心内膜炎を伴う多くの心血管疾患も存在する。最も一般的に関与する構造は、心臓弁、炎症性心臓肥大、心筋炎、ある特定の薬物療法、毒素、及び自己免疫疾患、好酸球性心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、及びリウマチ性心疾患である。好ましくは、心血管疾患は、アテローム性動脈硬化性プラーク形成、冠動脈疾患、及び内皮機能不全から選択され、好ましくは内皮機能不全である。より好ましくは、心血管疾患は、内皮機能不全であり、好ましくは末梢内皮機能不全である。
【0016】
脳血管疾患は、脳の血管及び脳循環に影響を及ぼす様々な医学的状態を含む。脳に酸素及び栄養素を供給する動脈は、これらの障害において損傷又は変形していることが多い。脳血管疾患の最も一般的な症状は、虚血性脳卒中又はミニ脳卒中であり、出血性脳卒中である場合もある。高血圧症(高血圧)は、血管の構造を変化させ、アテローム性動脈硬化症を引き起こす可能性があるため、脳卒中及び脳血管疾患の最も重要な原因となるリスク因子である。アテローム性動脈硬化症は、脳内の血管を狭くし、脳灌流の減少をもたらす。脳卒中に関与する他のリスク因子としては、喫煙及び糖尿病が挙げられる。脳動脈が狭窄すると、虚血性脳卒中となる恐れがある他、血圧の上昇が継続すると、血管が断裂して出血性脳卒中につながる場合がある。好ましくは、脳血管疾患は、虚血性脳卒中、ミニ脳卒中、及び出血性脳卒中から選択される。
【0017】
「機能性食品製品」という用語は、加水分解処理後コーヒー生豆抽出物の量を100~400mgの範囲にしてHDGCE組成物を含む、飲料又は食品組成物を意味する。食品組成物は、チョコレート又は麦芽ベースの組成物などの粉末形態であり得る。食品組成物はまた、HDGCEを含むシリアルバーなどのスナックでもあり得る。
【0018】
用語「エステラーゼ処理された」は、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、精製されたクロロゲネートエステラーゼ又はこのようなエステラーゼを含有する微生物と共にインキュベーションすることを指す。例えば、クロロゲネートエステラーゼは、米国特許第8,481,028号、又は、例えば、Bel-Rhlid et al.:Biotranformation of caffeoyl quinic acids from green coffee extracts by Lactobacillus johnsonii NCC 533(2013):AMB express vol 3:28に記載されている。
【0019】
エステラーゼは、水との、加水分解と呼ばれる化学反応により、エステルを酸及びアルコールへと分解する加水分解酵素である。インキュベーション時間は、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物中に存在するクロロゲン酸全体の少なくとも80%で加水分解が達成されるよう、酵素の濃度を参照して20~50℃の範囲の温度で30分~6時間とすることができる。一実施形態では、エステラーゼは、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)由来である。
【0020】
用語「脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物/脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物」は、例えば、熱湯により、又は当業者に良く知られている有機溶媒若しくは超臨界CO2を用いた抽出により脱カフェイン処理したコーヒー生豆を指す。カフェイン含有量は5%W/W未満であり、2~3%W/Wであり得る。
【0021】
用語「100~400mg/日の量」は、乾燥重量100~400mgの、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物を指し、この量の抽出物は、例えば、水に溶解させることができ、あるいは摂取可能な食品製品に、例えば、シリアル、可溶性コーヒー、チョコレート、若しくは食事を補完するもの(food complement)、例えば、対象による摂取に適したカプセル若しくは錠剤に、組み込むことができる。一実施形態では、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物は、乾燥重量で100~400mgの量が、約200mLの水に溶解される。
【0022】
用語「血流依存性血管拡張反応の変化によって測定される」は、プラセボを投与した対象(HDGCEを有しない組成物を投与した対象)と、活性組成物を投与した対象(100~400mg/日のHDGCEを含む組成物)との間のデルタFMD値の変化を指している。一実施形態では、その変化は、p値0.02未満で少なくとも1%である。
【0023】
一実施形態では、当該HDGCE組成物中のコーヒー酸とフェルラ酸との総含有量は、30~80mgであり、組成物は熱処理後の組成物であってもよい。別の実施形態では、当該HDGCE組成物中のコーヒー酸とフェルラ酸との総含有量は、35~60mgであり、組成物は熱処理後の組成物であってもよい。
【0024】
本発明により使用するための組成物は、任意の好適なフォーマットであってよく、例えば、組成物は、液体組成物の形態、飲料の形態、例えば、液体飲料、シェイクドリンク、栄養組成物又は置換用流動食の形態であり得る。
【0025】
食品の衛生リスクを管理する重要な方法は、食物病原体又は腐敗生物が潜んでいる可能性のある食用組成物を熱処理することである。このような熱処理の良く知られている例には、例えば食用材料を、70℃に2分間、又は75℃に26秒間、又は80℃に5秒間加熱する低温殺菌、並びに例えば、食用材料を135℃超に少なくとも2秒間加熱する超高温(UHT)処理がある。
【0026】
本発明により使用するための組成物は、個体に対し1日あたり乾燥重量で100mg~400mgのHDGCEを提供する1日用量で投与することができる。この用量は、少なくとも中期間の間、所望の効果を確実に提供するのに十分な1日用量であるべきである。一実施形態では、対象は、組成物が投与されるときに空腹である。
【0027】
本発明の更なる態様は、血流依存性血管拡張反応(FMD)を増加させるための、100~400mg/日の量でHDGCEを含む組成物の非治療的な使用であり、コーヒー酸及びフェルラ酸の量は、コーヒー酸:フェルラ酸の比が少なくとも2:1を超える、例えば、少なくとも3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1又は10:1を超えるものである。
【0028】
一実施形態では、当該対象は、HDGCEの投与に加えて、少なくとも200kcalの食事を更に補充される。
【0029】
一実施形態では、対象は、ヒト対象である。一実施形態では、対象は、健康なヒト対象である。
【0030】
コーヒー抽出物
コーヒー抽出物を製造するための数多くの方法が、例えば、欧州特許第0916267号により既知である。コーヒー抽出物は、例えば、ピュア(pure)な可溶性コーヒーであってもよい。ピュアな可溶性コーヒー製品は容易に入手可能であり、ピュアな可溶性コーヒー製品を製造するための多くの方法が、当該技術分野において、例えば、欧州特許第106930号により既知である。
【0031】
本発明の別の態様は、(i)コーヒー生豆抽出物を水、蒸気、有機溶媒、超臨界CO2、及び/又はこれらの混合物と接触させることによって、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を調製する工程と、(ii)任意選択的に、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を乾燥させる工程と、(iii)得られた脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、エステラーゼ酵素と、4~7の範囲のpH及び20~50℃の範囲の温度で、1~6時間の範囲のインキュベーション時間にわたり接触させる工程と、(iv)上記の酵素処理されたコーヒー生豆抽出物を、80~120℃の範囲の温度で1~30分間加熱して、酵素を不活性化させ、抽出物を低温殺菌する工程と、(v)任意選択的に、抽出物を乾燥させて、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を得る工程と、を含む、HDGCE組成物を調製するための方法を提供する。一実施形態では、乾燥工程(ii)は、噴霧乾燥又は凍結乾燥である。別の実施形態では、エステラーゼ酵素は、好ましくは1mLの水又は緩衝液中に溶解された、好ましくはコーヒー生豆抽出物200mgあたり1~20U範囲のW/W濃度の好ましくはクロロゲネートエステラーゼである。
【0032】
当業者であれば、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解されたい。特に、組成物の治療的使用について記載された特徴を非治療的使用と組み合わせることができ、逆もまた同様である。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。本発明の更なる利点及び特徴は、図面及び実施例から明らかである。
実施例
【0033】
実施例1
ラクトバチルス・ジョンソニイ(NCC 533)からのエステラーゼの精製、特性評価及びクローニング
ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)の全細胞においてエステラーゼ活性があることが確認された。酵素を精製し、特性評価した。遺伝子にアノテーションを行った(LJ-1228、遺伝子=1158601 1159347 逆転写産物(Reversed Product)=アルファ/ベータ加水分解酵素、以下の配列を参照されたい)。次に、この遺伝子を食品グレードの大腸菌において過剰発現させ、HPLCによって酵素を精製した(HICカラム TSKゲル フェニル-5PW、NaPO4(50mM)pH7.0+1mM EDTA中の1~0mol(NH4)2SO4/Lの直線勾配。流量0.8mL/分)。
【0034】
DNA配列/ヌクレオチド配列
Atggagactacaattaaacgtgatggtctaaacttacatggtttacttgaaggaaccgataagattgaaaatgatacgattgctattttaatgcatggttttaaaggtgatttgggttatgatgacagcaagattttgtatgctctctctcactacttaaatgatcaaggcctcccaacaattcgttttgactttgatggatgcggaaaaagtgatggtaaatttgaagatatgactgtctatagcgaaatcctagatgggataaaaatattagattatgttcgtaatactgttaaggcaaaacatatctatttagtgggacactcccaaggtggagtagtagcgtcaatgctggctggatattatcgagatgttattgaaaaattggctttactctctcctgcagcaactcttaagtctgatgctttagatggagtttgtcagggtagtacttatgatccaacgcatatccctgaaactgtcaatgttagtggctttgaagtaggaggagcttactttagaacggctcaattattgcctatttatcaaacagcggaacattataatagggaaactttattgattcatggcttagcagataaagtcgtgtcacctaatgcttcaagaaaatttcatacacttttgcctaaaagtgagctccatttaattccagatgagggtcacatgtttaacggaaaaaatagacctgaagtattaaaattagttggtgagtttttaataaaataa
アミノ酸配列
1 mettikrdgl nlhgllegtd kiendtiail mhgfkgdldy ddskilyals hylndqglpt
61 irfdfdgcgk sdgkfedmtv yseildgiki ldyvrntvka k
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181 iyqtaehynr etllihglad kvvspnasrk fhtllpksel hlipdeghmf ngknrpevlk
241 lvgeflik
【0035】
ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼの最適pHの特定
最適pHは、グリシン緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液及び水を使用して決定した。基質には5-CQAを使用した(50μmol/mL)。
図2に見ることができるように、酵素の最適pHは4.0~6.0であった。この反応は、精製したエステラーゼ(0.01U/mg基質)を使用して37℃で30分間実施した。
【0036】
ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼの最適温度の特定
最適温度は、10℃~90℃の様々な温度で、基質として5-CQA(50μmol/mL)を使用して決定した。
図3に見ることができるように、酵素の最適温度は30℃~40℃であった。反応は、精製されたエステラーゼ(0.01U/mg基質)を使用してpH5.0で30分間実施した。
【0037】
基質特異性
様々な4-ニトロフェニル誘導体を使用して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼの基質特異性を試験した。
図4に見ることができるように、4-ニトロフェニルブチレートが最良の基質である一方で、4-ニトロフェニルドデカノエートの変換は観察されなかった。反応は、pH6.0のリン酸ナトリウム緩衝液で37℃で10分間実施した。基質は0.2mMの濃度で使用し、酵素は基質1mg当たり0.01Uで使用した。測定は30秒ごとにモニターした。吸光度は410nmに設定した。
【0038】
脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物の、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼによる処理
反応速度論:実験室規模での試験
200mg/mLの脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(DGCE)に対して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼを様々な濃度(1.65、3.3、4.95、8.25及び16.25U/mL)で使用して、反応速度試験を実施した。反応は、pH4.5及び37℃で1mLの体積で実施した。結果を以下の表に要約する。各化合物の濃度はmg/mL単位である。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
時間経過と反応速度との対応
脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(200mg/mL)に対して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼを、16.25U/mLの濃度で使用して反応速度試験を実施した。反応は、1mLの反応体積でpH4.5及び37℃で実施した。反応速度試験は1、2、3及び4時間実施した。各化合物の濃度はmg/mL単位である。
【0045】
酵素濃度と反応速度との対応
脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(200mg/mL)に対して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼを様々な濃度(5、10、15、25及び50μL/mLがそれぞれ1.65、3.3、4.95、8.25及び16.5U/mLに対応)で使用して反応速度試験を実施した。反応は、1mLの体積でpH4.5及び37℃で実施した(
図5を参照されたい)。反応時間は4時間とした。各化合物の濃度はmg/mL単位である。
【0046】
パイロットプラント試験
脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物の、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼによる処理
脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(1.76Kg)を、撹拌下で水(8.8Kg)に溶解した。次に、pHを、塩酸(HCl、0.36Kg)を添加することによって、pH4.5に調整した。この溶液に、0.024kgの酵素(ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)由来のエストラーゼ)を2回に分けて添加した。すなわち、T=0hの時点で0.016kgの酵素を添加し、及び3時間反応させた後に0.008kgの酵素を添加した。反応を37℃で6時間行った。次に、混合物を98℃で10分間加熱して、酵素を不活性化した。遠心分離(5000gで2分)及び濾過(0.45μm)後に、混合物を凍結乾燥した。得られた粉末を、臨床試験に使用する飲料の調製に使用した。
【0047】
UPLC分析
試料の分析には、焙煎豆又は生豆のいずれかから抽出された、コーヒー抽出液及びピュアな可溶性コーヒー中の、コーヒー酸、クロロゲン酸異性体(5-CQA、4-CQA、3-CQA、4-FQA、5-FQA、3,4-ジCQA、3,5-ジCQA及び4,5-ジCQA)及びカフェインを定量的に測定することができる方法を使用した。試料を15℃で5分間遠心分離した(5000g)。得られた上清100μLを900μLのメタノール/水(80:20)に加え、分析前に0.2μmで濾過した。分析は、ポンプ、脱気システム、5μLを超える注入ループを有する試料インジェクタ、フォトダイオードアレイ検出器(波長325nm及び275nm)及び適切なデータソフトウェアを備えたUPLCで行った。分子の分離は、ACQUITY UPLC BEH Shield RP 18カラム、1.7μm、2.1x100mm(Waters)で行った。移動相Aは、0.1%リン酸を添加した5%アセトニトリル水溶液とし、移動相Bは、0.1%リン酸を添加した100%アセトニトリルとした。流量0.4mL/分、カラム温度35℃、注入量2μLとした。
【0048】
臨床試験
主要目的
本試験は、健康なボランティアに、フェノール酸に富む加水分解された脱カフェイン処理後コーヒー生豆を経口投与することにより、内皮機能の改善における有効性を調べることを主要目的とした。内皮機能は、反応性充血時の上腕動脈の内径の、ベースラインからの変化率(%FMD)として定義される。
【0049】
主要評価項目(Primary endpoint)
主要結果(primary outcome)は、処置後の任意の時点におけるFMD(%)のベースライン(すなわち、投与前)からの平均変化とした。上腕動脈径のベースラインからの変化率(%)として応答を計算した。
【0050】
【0051】
本試験は、20人の健康な被験者における、加水分解処理後コーヒー生豆抽出物の、プラセボ対照、二重盲検、ランダム化、単一施設、クロスオーバー試験とした。被験者は、各群(group sequence)に無作為に割り付けられた。試験は1つの施設で実施し、4日間(非連続)の処置期間を含んだ。
【0052】
統計的分析
主要評価項目では、主に、ベースラインより後の各時点における、様々な用量のフェノール酸と対照との間のピークにおけるFMDのベースライン平均からの変化の差を分析した。1%の差を臨床的に関連があるものとみなし、p値0.05未満を統計的に有意であるものとみなした。
【0053】
組成物の説明
フェノール酸及び約2%のカフェインを含有している加水分解処理後コーヒー生豆抽出物を、試験に使用した。この試験では、フェノール酸に富むコーヒー抽出物を1日あたりに1回用量のみ対象に与えた。脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物、マルトデキストリン及びアロマを湿式混合し、次いで凍結乾燥して、最終プレミックスの均質性を確保した。
【0054】
プラセボは、マルトデキストリン及びアロマのみを含有している。マルトデキストリン及びアロマの量は、これらの成分が試験結果に対して何らかの潜在的な作用を示すことを回避するために、4つの群間で同量とした。
【0055】
以下の表は、凍結乾燥後の4つの治験薬の組成を示す(乾燥後の残留水2%を考慮している)。
【0056】
【表6】
治験薬又は対応するプラセボの各用量を、投与直前に、不透明なコップ中の200mLのミネラルウォーターに入れて蓋をし、室温で溶解させた。治験薬は、朝の空腹状態の時に投与された。
【0057】
被験者の内訳
23人の対象をスクリーニングし、そのうちの3人は、組み入れ基準違反及び/又は除外基準違反によってスクリーニングに不適格であるとした。試験に登録された残り20人の対象全てにおいて、全4回の訪問を継続した。
【0058】
最大の解析対象集団(FASと呼ぶ、又は治療企図解析に関してはITTと呼ぶ)
最大の解析対象集団には、無作為化した全ての対象を含めた。このデータセットの被験者の総数は20人であった。その中で19人の対象のみが、一次分析に利用可能なデータを有した。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
p値は、様々な用量のiAUCとプラセボのiAUCとの比較に関するものである。いずれの用量も、プラセボと統計的に異なることが見出されなかった。これは、観察された極めて高い変動性に起因している可能性がある。
【0066】
本発明者らは、173.1mgのHDGCE用量が、プラセボ処置と比較して、1時間(p値=0.036)及び6時間(p値=0.017608)の時点においてFMDの有意な増加を示したことを見出した。これらの時点でのFMDの増加は、FMDの1%単位よりも高かった。内皮機能不全の改善(血流依存性血管拡張反応値において1%)により、心血管イベントのリスクが13%低下することが判明した(Inaba et al.(2010)Int J Cardiovas Imaging 26:621-640)。
【0067】
結論
173.1mgのHDGCE(用量40)とプラセボとの間で、1時間及び6時間の時点において、統計的有意性が観察された。
【配列表】