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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/50 20060101AFI20240822BHJP
   C07C 47/02 20060101ALI20240822BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021565865
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 GB2020051301
(87)【国際公開番号】W WO2020240194
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】1907659.5
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518329767
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ デイヴィー テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】アーチボルド、フレイザー ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ジョリー、ロバート アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ロペス、マリア デル アモ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルチ、デイヴィッド キース
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-537918(JP,A)
【文献】特表2019-509266(JP,A)
【文献】特表2011-527287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/50
C07C 47/02
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンをアルデヒドにヒドロホルミル化するプロセスであって、
a.配位子-ロジウム触媒の存在下、反応ゾーン内で水素及び一酸化炭素によって1つ以上のオレフィンをヒドロホルミル化することと、
b.前記反応ゾーンから、生成物アルデヒド及び前記配位子-ロジウム触媒を含む反応器流出物を回収することと、
c.前記反応器流出物及びストリップガスを蒸発器へ送ることであって、前記ストリップガスが、一酸化炭素を含み、かつ再利用ストリップガス流及びメークアップストリップガス流から形成され、前記生成物アルデヒドが、前記蒸発器内で前記ストリップガス中に蒸発して、前記ストリップガス及び前記生成物アルデヒドを含む蒸気混合物、並びに前記配位子-ロジウム触媒を含む液体混合物を生じさせる、送ることと、
d.前記液体混合物を回収し、前記配位子-ロジウム触媒を前記反応ゾーンへ再利用することと、
e.前記蒸気混合物を回収し、前記蒸気混合物から前記生成物アルデヒドを分離して、生成物アルデヒド流及び工程(c)に戻すための前記再利用ストリップガス流を生成することと、
f.前記再利用ストリップガスの一部を、パージされたストリップガス流としてパージすることと、
g.前記パージされたストリップガス流を水素含有流と組み合わせて、水素及び一酸化炭素を含む再形成された合成ガス流を生成し、前記再形成された合成ガス流を工程(a)における前記反応ゾーンへフィードすることと、
h.合成ガス流を前記水素含有流及び前記メークアップストリップガス流へ分離することと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記メークアップストリップガス流が、50~100mol%の一酸化炭素である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記反応ゾーンに、前記再形成された合成ガス流及び新鮮な合成ガス流がフィードされる、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記合成ガス流の前記水素含有流及び前記メークアップストリップガス流への前記分離が、膜分離ユニットを使用して行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記メークアップストリップガス流中の一酸化炭素の濃度が、少なくとも95mol%である、請求項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比が、0.5~2.0である、請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記再形成された合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比が、前記合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比と同等である、請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記蒸発器が、60~160℃の温度で作動される、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記蒸発器が、0.1~2000kPaの圧力で作動される、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記再形成された合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比が、0.5~2.0である、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記オレフィンがC~C16オレフィンであり、前記アルデヒドがC~C17アルデヒドである、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンをヒドロホルミル化してアルデヒドを生成するためのプロセスに関する。具体的には、排他的ではないが、本発明は、Cオレフィンをヒドロホルミル化してCアルデヒドを生成するためのプロセスに関する。本発明はまた、配位子-ロジウム触媒を使用してオレフィンをヒドロホルミル化してアルデヒドを生成するためのプロセスにも関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
オレフィンのヒドロホルミル化によるアルデヒドの生成は工業的に、大規模で実施される。アルデヒドは、典型的には、アルコール、酸又はエステルの生成における中間生成物である。かかる生成物を生成するための周知のプロセスは、Dow and Johnson Matthey Davyによって提供された、LP Oxoプロセスである。典型的なフローシートでは、例えば、米国特許第4148830号又は米国特許第5087763号に記載されているように、配位子-ロジウム触媒を使用して液相中でヒドロホルミル化が行われる。液相反応器流出物がヒドロホルミル化反応器から取り出され、触媒分離ユニットにフィードされ、そこで液体触媒溶液が生成物アルデヒドから分離される。次に、液体触媒溶液が反応器に戻される。液体触媒溶液は、典型的には、溶媒、ロジウム、配位子及び反応器内に存在する他の成分を含む。
【0003】
配位子として機能し得る分子の多くのバリエーションが知られている。市販の配位子は、多くの場合、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン、トリメチロールプロパンホスファイト又はトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどのモノホスファイト、ビスホスファイト、又はこれらのうちのいずれかの混合物である。国際公開第2016089602号は、様々な配位子を列挙する。これらの3種の配位子のうち、モノホスファイトは最も活性であると考えられているが、最も弱い配位子対ロジウム相互作用を有すると考えられ、これでは触媒錯体が不安定になると考えられる。
【0004】
典型的な触媒分離ユニットは、そこで反応器流出物の一部を蒸発させる蒸発器を備える。これにより、アルデヒド生成物を含有し、触媒を本質的に含まない蒸気相と、液体触媒溶液を含有する液相とがもたらされる。蒸気相は、更なる処理のために輸送される。更なる処理は、一般に、アルデヒド精製段階を含み、そこで、未変換のオレフィン及びパラフィンが、溶解した合成ガス及び他の軽質成分とともに除去される。このように生成されたアルデヒドは、アルコール、酸又はエステルなどの他の生成物の中間体として使用され、典型的には可塑剤として使用され得る。
【0005】
触媒分離ユニット内の反応器流出物中のアルデヒドの蒸発は、蒸発器内の圧力低下及び温度上昇によって補助される。しかしながら、液体触媒溶液は、通常、様々な形態で分解を起こしやすく、結果として、活性の損失及びロジウムの損失が生じる。ロジウムは貴重な貴金属であるため、ロジウムの消費を可能な限り低く抑え、プロセスの経済性を維持するのが望ましい。これは、多くの場合、蒸発器内の最大許容温度を規定するものとなる。蒸発器を低圧で作動させることによって、蒸発を増加させることができる。低い総圧力は、アルデヒドの分圧の低下を意味するが、それはアルデヒドの蒸発を増加させるため、比較的重質のアルデヒドに特に有用である。しかしながら、低い総圧力、特に真空は、装置の容積を大きくし、したがってより高価な装置となる。大気圧より低い圧力では、プロセス内部に空気が流入するリスクも生じる。それはアルデヒド及び/又は配位子の酸化をもたらし得、そのいずれもコスト増加につながる。
【0006】
したがって、触媒を安定化させてその損失を防止し、また望ましくは、高い温度及び大気圧を上回る圧力の使用を可能にすることが望ましい。
【0007】
米国特許第6500991号は、触媒を安定化させることを目的とし、それは蒸発器から得られた触媒溶液を冷却し、一酸化炭素含有ガスを液体に添加することによって、又は触媒分離の前に一酸化炭素をフラッシュ容器に添加することによってなされる。
【0008】
欧州特許第2297077号は、循環ストリップガスの使用により、アルデヒドの分圧を低下させ、全体的な陽圧を維持することについて記載している。触媒分離ユニットでは、反応器流出物はストリップガスと一緒に蒸発器にフィードされ、両方とも併流で蒸発器を通って流れる。ストリップガスはアルデヒドを本質的に含まず、したがって蒸発器内のアルデヒド分圧を低減し、それによってアルデヒドの駆動力を増加させて反応器流出物から蒸発させる。また、蒸発を更に促進するために蒸発器を熱してもよい。次いで、アルデヒド及びストリップガスを含む得られた蒸気混合物を、残りの液体触媒溶液から分離する。液体触媒溶液は反応器に戻され、蒸気混合物は凝縮器にフィードされる。凝縮器において、蒸気混合物の温度を低下させ、その結果、本質的に全てのアルデヒドが凝縮し、残りの蒸気から分離される。次いで、残りの蒸気を蒸発器の入口圧力まで再圧縮し、ストリップガスとして再使用する。
【0009】
国際公開第2016089602号は、蒸発器のストリップガスへ一酸化炭素を添加して触媒損失を低減することを記載している。また、ストリップガス中の水素分圧を低下させることが触媒損失の低下に寄与し得ることも示唆している。一酸化炭素は、合成ガスを水素含有流とメークアップストリップガス流とに分離することによって得ることができる。
【0010】
蒸発器のストリップガスへの一酸化炭素の添加により、液体触媒溶液中の一酸化炭素濃度が高くなり、触媒の安定化に役立つと考えられる。しかしながら、十分に純粋な一酸化炭素は、石油化学施設では入手が非常に困難であり、したがって、一酸化炭素を生成させるために合成ガスを使用する必要がある。一酸化炭素リッチなガスを蒸発器に提供しつつ、更なる合成ガス供給原料の必要性を最小限に抑えるプロセスに対するニーズが依然として存在する。
【0011】
本発明は、先行技術に関連する欠点を克服することを課題とする。具体的には、限定されないが、本発明は、オレフィンをヒドロホルミル化してアルデヒドとするための改善された、より費用効率の高いプロセスを提供することを課題とする。
【0012】
したがって、本発明の第1の態様によれば、オレフィンをアルデヒドにヒドロホルミル化するためのプロセスが提供され、プロセスは、
a.配位子-ロジウム触媒の存在下、反応ゾーン内で水素及び一酸化炭素によって1つ以上のオレフィンをヒドロホルミル化することと、
b.反応ゾーンから、生成物アルデヒド及び配位子-ロジウム触媒を含む反応器流出物を回収することと、
c.反応器流出物及びストリップガスを蒸発器へ送ることであって、ストリップガスが、一酸化炭素を含み、かつ再利用ストリップガス流及びメークアップストリップガス流から形成され、生成物アルデヒドが、蒸発器内でストリップガス中に蒸発して、ストリップガス及び生成物アルデヒドを含む蒸気混合物、並びに配位子-ロジウム触媒を含む液体混合物を生じさせる、送ることと、
d.液体混合物を回収し、配位子-ロジウム触媒を反応ゾーンへ再利用することと、
e.蒸気混合物を回収し、蒸気混合物から生成物アルデヒドを分離して、生成物アルデヒド流及び工程(c)に戻すための再利用ストリップガス流を生成することと、
f.再利用ストリップガス流の一部を、パージされたストリップガス流としてパージすることと、
g.パージされたストリップガス流を水素含有流と組み合わせて、水素及び一酸化炭素を含む再形成された合成ガス流を生成し、再形成された合成ガス流を工程(a)における反応ゾーンへフィードすることと、を含む。
【0013】
したがって、本発明は、ヒドロホルミル化反応ゾーンの流出物から配位子-ロジウム触媒を分離するための触媒分離ユニットを採用し、その際、循環ストリップガスが生成物アルデヒドを配位子-ロジウム触媒から分離する蒸発器内で使用され、その際、循環ストリップガスが、例えば、水素及び他の不活性成分の蓄積を防止するためにパージされ、メークアップの一酸化炭素リッチなガスが、典型的には合成ガス分離ユニットから循環ストリップガスに添加される。未だ一酸化炭素リッチなパージされたストリップガスは、水素含有流、典型的には合成ガス分離ユニットからの水素含有流と組み合わされて、反応ゾーンにフィードされる再形成された合成ガス流を形成する。したがって、循環ストリップガスを生成させるために使用されるメークアップストリップガス流に含まれる一酸化炭素は無駄にならず、循環ストリップガスを使用しないプロセスと比較し、一酸化炭素源としての合成ガスの全体的な必要量の顕著な増加はない。したがって、本発明は、合成ガス供給原料の追加の必要性という欠点を克服する一方で、蒸発器内の一酸化炭素リッチな環境に関連して、配位子-ロジウム触媒の損失を減少させるという利点を実現する。
【0014】
メークアップストリップガス流は一酸化炭素を含み、好ましくは一酸化炭素リッチである。好ましくは、メークアップストリップガス流は50~100mol%の一酸化炭素であり、より好ましくは、メークアップストリップガス流は70~100mol%の一酸化炭素であり、更により好ましくは、メークアップストリップガス流は80~100mol%の一酸化炭素であり、最も好ましくは、メークアップストリップガス流は95~100mol%の一酸化炭素である。高い濃度の一酸化炭素は、ストリップガス中の一酸化炭素濃度を高くできるため、有利である。好ましくは、水素含有流は50~100mol%の水素であり、より好ましくは、水素含有流は70~100mol%の水素であり、更により好ましくは、水素含有流は80~100mol%の水素であり、最も好ましくは、水素含有流は95~100mol%の水素である。いくつかの実施形態では、蒸発器を出る蒸気混合物中の一酸化炭素の分圧は、少なくとも15psi(103kPa)、好ましくは少なくとも20psi(138kPa)であり得る。例えば、蒸発器を出る蒸気混合物中の一酸化炭素の分圧は、少なくとも15psi(103kPa)~50psi(345kPa)以下であり得る。蒸発器を出る蒸気混合物中の水素の分圧は、例えば、10psi(69kPa)以下、好ましくは5psi(34kPa)以下であり得る。
【0015】
好ましくは、本プロセスは、一酸化炭素及び水素を含む合成ガス流を、水素含有流とメークアップストリップガス流とに分離することを含む。したがって、実際に、合成ガス流は反応ゾーンにフィードされ、合成ガス流中の一酸化炭素は、蒸発器内のストリップガスを介してフィードされる。これは、反応ゾーンへの合成ガスの供給のみであってもよく、換言すれば、再形成された合成ガス流は、反応ゾーンへの合成ガスの供給のみであってもよい。しかしながら、任意選択的に、反応ゾーンに、再形成された合成ガス流及び新鮮な合成ガス流をフィードしてもよい。かかる実施形態では、例えば、合成ガスフィードは、プロセスのバッテリーの限界に到達し得、その合成ガスフィードの一部は、メークアップストリップガス流と水素含有流とに分離され得、その合成ガスフィードの一部は、反応ゾーンにフィードされ得る。かかる場合、合成ガスフィードのいくらかは、触媒分離ユニットを効果的にバイパスする。かかる配置は、反応ゾーンに合成ガスをフィードする必要性と、ストリップガスに一酸化炭素をフィードする必要性とのバランスをとるのに有益であり得る。しかしながら、かかる実施形態では、ストリップガス中の一酸化炭素が依然として無駄にならずに、再形成された合成ガス流中、反応ゾーンに依然としてフィードされるという点で、本発明の利益は依然として実現される。かかる実施形態では、メークアップストリップガス流と水素含有流とに分離された合成ガスフィードの部分と、新鮮な合成ガス流として反応ゾーンにフィードされる合成ガスフィードの部分と、のモル比は、好ましくは0.01~1であり得る。より好ましくは、モル比は0.1~0.5であり、最も好ましくは、モル比は0.1~0.3である。このモル比は、分離効率、例えば、膜が分離に使用される場合の膜分離効率、及びストリップガス中の所望の一酸化炭素分圧に基づいて選択され得る。例えば、メークアップストリップガス流が比較的高いレベルの水素を含有する場合、より多い流量のメークアップストリップガス流が使用され得、それに対応して、パージされたストリップガス流の流速が速くなる。
【0016】
反応ゾーンにフィードされる一酸化炭素対反応ゾーンにフィードされるオレフィンのモル比は、好ましくは約1である。実際には、全てのオレフィンが変換可能ではなく、一酸化炭素は、変換可能なオレフィンを変換するためにのみ消費される。したがって、モル比は1未満であってもよいが、一方で、全ての変換可能なオレフィンを変換するのに十分な一酸化炭素を提供する。しかしながら、作動上の理由から、一酸化炭素のモル比が過剰であることが望ましい場合があり、より貴重なオレフィン供給原料の高効率での変換を可能にするため、モル比が1超であることが望ましい。モル比は、好ましくは0.1~10、より好ましくは1~2であり得る。
【0017】
合成ガス流の水素含有流及びメークアップストリップガス流への分離は、好ましくは膜分離ユニットを使用して行われる。かかる膜分離ユニットは、MTR及びAir Productsなどの企業から市販されている。膜分離ユニットは、経済的な方法で、メークアップストリップガス流中の一酸化炭素濃度を少なくとも95mol%、又は好ましくは少なくとも99mol%に高めることができる。しかしながら、かかる高純度は、膜分離ユニットへの速い流速の合成ガスが必要となる場合があり、したがって、一酸化炭素が無駄にならないことが重要である。これは、本発明において、パージされたストリップガス流と水素リッチ流とを再結合させて再形成された合成ガス流を生成させ、反応ゾーンに送ることにより実現される。あるいは、又はそれに加えて、合成ガス流の水素含有流及びメークアップストリップガス流への分離は、例えばThe absorption of carbon monoxide in COSORB solutions:absorption rate and capacity J.A.Hogendoorn,W.P.M.van Swaaij,G.F.Versteeg,Chem.Eng.Journ.59(1995)243-252又は米国特許第4950462号又は米国特許第5382417号に記載されるように、COSORBプロセス又はそのバリエーションを使用して実施してもよい。あるいは、又はそれに加えて、合成ガス流の水素含有流及びメークアップストリップガス流への分離は、液体窒素による低温吸収を使用して実施してもよい。
【0018】
好ましくは、蒸発器は、60~160℃、より好ましくは100~130℃の温度で作動される。かかる温度は、蒸発器内の生成物アルデヒドの蒸発を促進するのを補助し得る。本発明のプロセスは、蒸発器内の高い一酸化炭素分圧を伴うため、配位子-ロジウム触媒は安定化され得、かかる温度であっても損失が防止される。
【0019】
好ましくは、蒸発器は、0.1~2000kPa、より好ましくは100~2000kPa、最も好ましくは100~300kPaの圧力で作動される。大気圧を超える圧力は、真空を生成するための高価な設備が必要なくなり、また蒸発器への空気侵入のリスクが低減されるため、特に好ましい。
【0020】
合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比は、好ましくは0.5~2.0である。水素対一酸化炭素の最も望ましい比率は、反応ゾーンにおける所望の水素及び一酸化炭素の分圧に依存し得る。好ましくは、再形成された合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比は、例えば、合成ガス流中の水素対一酸化炭素とのモル比と同等であり、その10%以内の変動幅である。再形成された合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比は、好ましくは0.5~2.0であり得る。反応ゾーン内の水素及び一酸化炭素分圧は、ヒドロホルミル化反応、速度及び選択性に影響を及ぼし得る。再形成された合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比が、合成ガス流中の水素対一酸化炭素のモル比と同等である場合、反応ゾーンにおける一酸化炭素及び水素の分圧の制御がより簡便になり、有利であり得る。
【0021】
蒸発器は、好ましくは流下薄膜蒸発器であるが、例えば、構造化又はランダム充填を有する容器など、他の種類の蒸発器でもあり得る。ストリップガスは、反応器流出物と並流又は逆流の流れで蒸発器にフィードされ得る。
【0022】
再利用ストリップガスは、プロセスの圧力低下に起因してストリップガスよりも低い圧力であるため、好ましくは圧縮機を設けて、再利用ストリップガスを、それがメークアップストリップガスと組み合わされる前に圧縮する。また、反応ゾーンにフィードされる前に再形成された合成ガス流を圧縮するためにも、圧縮機を設けるのが好ましい。好ましくは、パージされたストリップガス流は、再利用ストリップガスが圧縮された後に、再利用ストリップガスからパージされる。この方法では、パージされたストリップガス流は、水素含有流と組み合わせて再形成された合成ガス流を形成するのに好適な圧力であり得、それは次に反応ゾーンにフィードする前に圧縮され得、再利用ストリップガス及びパージされたストリップガス流へ別個の圧縮機を設ける必要が回避される。
【0023】
典型的には、反応ゾーンは、約20bar(2MPa)、例えば15~25bar(1.5~2.5MPa)で作動され、蒸発器は、約1.5bar(150kPa)、例えば1~2bar(100~200kPa)で作動される。しかしながら、50~235bar(5~23.5MPa)の圧力は、反応ゾーンを作動するためにも知られている。
【0024】
好ましくは、オレフィンは、C~C16オレフィンであり、より好ましくはC~C12オレフィンであり、最も好ましくはCオレフィンである。オレフィンは、好ましくはモノオレフィンである。オレフィンは、好ましくは、非環式オレフィン、例えば直鎖オレフィン又は分岐鎖状オレフィンである。例えば、オレフィンはプロピレン又はノルマルブテンであり得る。オレフィンは、好ましくはCオレフィンであるが、例えばオクテン、二量体化ブテン、又はオリゴマー化エチレンである。好ましくは、アルデヒドは、オレフィンよりも1つ多くの炭素を有する。したがって、アルデヒドは、好ましくはC~C17アルデヒド、より好ましくはC~C13アルデヒド、最も好ましくはCアルデヒドである。当業者であれば、生成されるアルデヒドが使用されるオレフィンに依存することを理解するであろう。
【0025】
本発明は、一酸化炭素リッチなストリップガスにより利益を受ける任意の好適な配位子系とともに使用することができる。好ましくは、配位子はトリフェニルホスフィンなどのホスフィン、トリメチロールプロパンホスファイト又はトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどのモノホスファイト、ビスホスファイト、又はこれらのうちのいずれかの混合物である。
【0026】
反応器流出物は、典型的には、生成物アルデヒド及び配位子-ロジウム触媒に加えて、更なる成分を含む。かかる更なる成分としては、オレフィン及びパラフィン、配位子分解生成物、配位子安定化剤、アルデヒドオリゴマー(「重質」と呼ばれる場合もある)、水及び溶解ガスが挙げられ得る。蒸発器を出る蒸気混合物は、典型的には、生成物アルデヒド及びストリップガスに加えて、更なる成分を含む。かかる更なる成分としては、オレフィン、パラフィン及び他の軽質成分が挙げられ得る。オレフィン及びパラフィンは、典型的には、凝縮器内で凝縮し、一方、軽質成分は、再利用ストリップガス中に残留し、そのレベルはパージされたストリップガス流のパージによって制御される。
【0027】
生成物アルデヒド流は、好ましくは液体生成アルデヒド流である。
【0028】
反応ゾーンは、1つ以上のヒドロホルミル化反応器を意味するものとして理解されるであろう。典型的には、反応ゾーンは、1つ、2つ又は3つの反応器を備える。反応器は、例えば直列に連結され得る。新鮮な合成ガス流及び再形成された合成ガス流などのフィード流は、反応器のうちの1つ以上に提供され得、蒸発器に送られた反応器流出物は、反応器のうちの1つ以上から収集され得る。
【0029】
生成物アルデヒドなどの成分が、ストリップガスなどに蒸発すると言われる場合、成分の大部分がそのように蒸発することが理解されるであろう。成分の微量部分は、例えば蒸気相中の蒸気成分と平衡状態で、液相中に残留し得る。成分の少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも60mol%、より好ましくは少なくとも70mol%がそのように蒸発し得る。本質的に全ての成分が、そのように蒸発され得る。同様に、生成物アルデヒドなどの成分が、蒸気混合物などから分離されると言われる場合、成分の大部分がそのように分離されることが理解されるであろう。成分の微量部分は残留し得る。成分の少なくとも75mol%、好ましくは少なくとも90mol%、より好ましくは少なくとも95mol%がそのように分離され得る。本質的に全ての成分が分離され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
これから、添付の図を参照して、限定的な意味ではなく例として、本発明の実施形態を説明する。
図1】本発明を実施するときのフローシートのブロック図である。
図2】本発明を実施するときの図1のプロセスの一部のプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1において、オレフィンフィード1は、ヒドロホルミル化反応ゾーン100にフィードされる。反応ゾーン100は、少なくとも1つの反応器、及び場合によっては2つ又は3つの反応器を備え、反応器流出物11は触媒分離ユニット101に送られる。液体配位子-ロジウム触媒溶液12は、典型的には二量体又は三量体などの重質を含み、触媒分離ユニット101から反応ゾーン100へと再利用される。生成物アルデヒド流13は、触媒分離ユニット101から回収され、アルデヒド精製ユニット102に送られ、そこから精製アルデヒド15が回収される。オレフィン及びパラフィン14もまた、アルデヒド精製ユニット102から回収される。
【0032】
合成ガスフィード2は、混合合成ガスフィード流10の一部として反応ゾーン100に直接フィードされる新鮮な合成ガス流4と、膜分離ユニット200にフィードされる合成ガス流3と、に分割される。膜分離ユニット200では、合成ガス流3は、メークアップストリップガス流5及び水素含有流6に分離され、前者は触媒分離ユニット101に送られ、後者はパージされたストリップガス流7と組み合わされて再形成された合成ガス流8を形成し、これが圧縮機201で圧縮され、混合合成ガスフィード流10の一部として反応ゾーン100にフィードされる9。パージは、例えば、流れ6、7、8又は9のうちの1つ以上から作動上の理由のために含まれ得るが、再形成された合成ガスの損失を回避するために、回避されることが好ましい。
【0033】
触媒分離ユニット101を図2により詳細に示す。図2では、水素のストリッピングを補助するために、反応器流出物11及び任意選択の少量の窒素の流れ20が、フラッシュ容器207にフィードされる。フラッシュ容器207は、凝縮器208への通気孔21を有する。凝縮器208は、通気口22、及びフラッシュ容器207に戻る液体出口流23を有する。フラッシュ容器207及び凝縮器208は、液体反応器流出物11から、溶解した合成ガス、特に溶解した水素を除去するように作動する。フラッシュ容器207からの液体出口24は、再利用ストリップガス27及び一酸化炭素リッチ流5を含むストリップガス28とともに、流下薄膜蒸発器202の頂部にフィードされる。メークアップストリップガス流5は、合成ガス流3を膜分離器200にフィードし、メークアップストリップガス流5及び水素含有流6を生成させることによって生成される。蒸発器202の出口25は、蒸気/液体分離容器203にフィードされ、そこから、液体配位子-ロジウム触媒溶液12が回収され、反応ゾーン100に再利用される。蒸気/液体分離容器203からの蒸気混合物26を凝縮器204にフィードし、次いで更なる蒸気/液体分離容器205にフィードする。生成物アルデヒド流13は、更なる蒸気/液体分離容器205の底部から回収され、再利用ストリップガス27は、頂部から回収される。再利用ストリップガス27は、ストリップガス28の一部として流下薄膜蒸発器202にフィードバックされる前に再利用圧縮機206で圧縮される。パージされたストリップガス流7は、再利用圧縮機206の後に、再利用ガス流27からパージされ、水素含有流6と組み合わされて、再形成された合成ガス流8を形成する。再形成された合成ガス流8は、合成ガス圧縮機201で圧縮され、反応ゾーン100にフィードされる9。図2は、流下薄膜蒸発器202とともに記載されているが、他の種類の蒸発器も同様に適用可能である。
【0034】
以下の実施例は、市販のシミュレーションパッケージSimSci ProII v9.3を使用して作成した。シミュレーションを使用して新たなプロセスを評価することは、化学工学技術分野において十分に確立されている。
【実施例1】
【0035】
図2のプロセスでは、333kmol/時の反応器流出物11が、20bara(2MPa)及び85℃で、10bara(1MPa)で作動するフラッシュ容器207にフィードされ、そこで溶解した合成ガス成分の大部分はフラッシュオフするであろう。反応器流出物11は、主に溶解した合成ガス、Cオレフィン、Cパラフィン、Cアルデヒド、及び触媒溶液を含有する。窒素の1kmol/時の少量の流れ20もまた、溶解した水素の除去を補助するためにフラッシュ容器207にフィードされる。フラッシュ容器207からの通気孔21は、凝縮器208にフィードされ、重質のC及びC成分が回収される。凝縮器208からの液体出口流23は、フラッシュ容器207に戻される。フラッシュ容器207からの液体出口24は、1.5bara(0.15MPa)で作動する流下薄膜蒸発器202の頂部にフィードされる。また、ストリップガス28は、流下薄膜蒸発器202の頂部にフィードされる。液体反応器流出物及びストリップガスは、流下薄膜蒸発器202を併流で通過する。C及びC成分の大部分を蒸発させるために、流下薄膜蒸発器202は加熱される。流下薄膜蒸発器202の出口25は、蒸気/液体分離容器203にフィードされる。蒸気/液体分離容器203内に収集された液体は、液体配位子-ロジウム触媒溶液12、並びにC及びC成分の微量画分を含む。蒸気/液体分離容器203からの蒸気混合物26は凝縮器204にフィードされ、C及びC成分の大部分は凝縮され、続いて更なる蒸気/液体分離容器205において残りの蒸気相から分離される。このようにして得られたCアルデヒド、オレフィン及びパラフィンを含有する液体は、更なる蒸気/液体分離容器205から除去され、更なる処理のために生成物アルデヒド流13に送られる。更なる蒸気/液体分離容器205からの通気孔は、再利用圧縮機206にフィードされる再利用ストリップガス27である。再利用圧縮機206は、ストリップガスの循環における若干の圧力低下を解消する役割を果たす。パージされた再利用ガス流7は、ストリップガスループ内の一定の流量を維持するために再利用ストリップガス27から取り出される。メークアップストリップガス流5によって提供されるメークアップの流れを加え、ストリップガス28を生成させる。
【0036】
2mol%のメタンと、モル比1/1の残りの水素及び一酸化炭素と、を有する合成ガス流3を、30bara(3MPa)で100kmol/時の合成ガスの流量で膜分離器200にフィードする。膜分離器200は、透過の流れとしての流量45.6kmol/時を有する水素含有流6、及び非透過の流れとしてのメークアップストリップガス流5を生成させる。水素含有流6は96.77mol%の水素を含有し、一方、メークアップストリップガス流5は87.3mol%の一酸化炭素を含有する。ストリップガス再利用の流れは、パージされたストリップガス流7のパージを行った後、及びメークアップとしてメークアップストリップガス流5を導入する前に、2050kmol/時の一定の流れに制御される。凝縮器204を40℃に冷却することにより、ストリップガス28中の一酸化炭素分圧は17.5psi(120kPa)となり、水素分圧は2.2psi(15kPa)となる。再形成された合成ガス8中の水素対一酸化炭素の比は、0.99mol/molである。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同様に行うが、合成ガス流3の流量を50kmol/時に減少させる。得られたストリップガス28中の一酸化炭素分圧は、ここで17.0psi(117kPa)であり、水素分圧は2.5psi(17kPa)である。再形成された合成ガス8中の水素対一酸化炭素の比は、0.97mol/molである。
【実施例3】
【0038】
実施例1と同様に行うが、合成ガス流3の流量を20kmol/時に減少させる。得られたストリップガス28中の一酸化炭素分圧は、ここで16.1psi(111kPa)であり、水素分圧は3.2psi(22kPa)である。再形成された合成ガス8中の水素対一酸化炭素の比は、0.93mol/molである。
【0039】
実施例は、本発明のプロセスが、ストリップガス28中では高い一酸化炭素分圧及び低い水素分圧を生成させつつ、膜分離器200にフィードされる合成ガス流3と同等の水素対一酸化炭素比を有する再形成された合成ガス8を供給できることを実証する。したがって、合成ガス流3中の一酸化炭素は、プロセスにおいて2回効果的に使用され、最初はストリップガス28において、次にヒドロホルミル化反応ゾーンにフィードされる再形成された合成ガス8において、効果的に使用される。その結果、ストリップガス28中の高い一酸化炭素分圧の利点が活かされる一方で、合成ガス流3中の一酸化炭素の消耗がなくなる。
【0040】
上記の実施形態は、任意の限定的な意味ではなく、あくまで例として記載されており、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正が可能であることが当業者には理解されるであろう。
図1
図2