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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】安定なイブプロフェン注射製剤用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20240822BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240822BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/26
A61P29/00
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022057943
(22)【出願日】2022-03-31
(62)【分割の表示】P 2019506368の分割
【原出願日】2017-07-27
(65)【公開番号】P2022089867
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】468/2016
(32)【優先日】2016-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PK
(73)【特許権者】
【識別番号】519036547
【氏名又は名称】アンバー アイピー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャミル、イルファン
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】スペイン国特許出願公開第2422563(ES,A1)
【文献】中国特許出願公開第103284985(CN,A)
【文献】特開2008-285499(JP,A)
【文献】特表2008-528638(JP,A)
【文献】特表2009-528390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性の注射可能な組成物であって、
この水性の注射可能な組成物が、
マンニトールの注射用水(WFI)溶液中のイブプロフェンおよびアルギニンであって、4.05%~4.25%w/vの間のマンニトールを含み、ここで、イブプロフェン:アルギニンのモル比が1:1.22388~1:1.9908または1:1.22~1.99の間である、マンニトールの注射用水溶液中のイブプロフェンおよびアルギニンからなり、
イブプロフェンの濃度が、25mg/ml~200mg/mlの間であり、
この水性の注射可能な組成物が、ナトリウムを含まず、デキストロースを含まず、バッファーを含まず、かつpH調整剤を含まない
上記水性の注射可能な組成物。
【請求項2】
前記水性の注射可能な組成物のpHが、20℃から39℃の間の温度範囲で7.4から8.2の間に含まれる、請求項1に記載の水性の注射可能な組成物。
【請求項3】
前記水性の注射可能な組成物のpHが、欧州薬局方の要求事項に従った測定により、38℃で7.41であり、39℃で7.38である、請求項1に記載の水性の注射可能な組成物。
【請求項4】
前記水性の注射可能な組成物が無菌注射製剤である、請求項1に記載の水性の注射可能な組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の水性の注射可能な組成物を含む医薬組成物であって、
無菌的に調製される、医薬組成物。
【請求項6】
治療用量のイブプロフェンを調製するための、請求項5に記載の医薬組成物の使用。
【請求項7】
患者の鎮痛治療において使用するための、請求項1に記載の水性の注射可能な組成物または請求項5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射製剤用の組成物およびそれを含む医薬組成物に関する。本発明はまた、組成物および医薬組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
通常、呼吸器系、心臓循環系、消化器系、代謝系、免疫系、泌尿器系、筋骨格系および心理学的合併症が原因である術後疼痛および発熱に関連する様々な問題がある。
【0003】
イブプロフェンは、解熱作用および鎮痛作用を有する周知の非ステロイド系抗炎症薬である。水中でのイブプロフェンの不十分な溶解度は、常に安定な注射製剤を開発するための障害となっている。
【0004】
イブプロフェンとアミノ酸との様々な組み合わせが、イブプロフェンを水中で可溶化するために開発されてきた。
【0005】
イブプロフェン注射製剤に利用可能な既存の特許請求された製剤は、濃縮物およびすぐに使用できる製品のための種々のモル比のイブプロフェンとアルギニンとの組み合わせを含む。
【0006】
主要製品のCardolorは、100mg/mLのイブプロフェン濃縮物であり、モル比1:0.92のイブプロフェンとアルギニンの組み合わせであって、これは、4mg/mLのイブプロフェン等張静脈注射液を作るために0.9%塩化ナトリウム、5%デキストロースまたはリンゲル乳酸液を必要とする。特許請求されたpHは約7.6であるが、0.9%塩化ナトリウムおよび5%デキストロース中の希釈溶液の安定性は最大約24時間であり、そして希釈溶液のpHは室温で約6である。
【0007】
他のすぐ使用できる製剤はまた、種々のモル比のイブプロフェンおよびアルギニンを含み、浸透剤として0.9%塩化ナトリウムを使用する。トロメタモールまたはナトリウムおよびカリウムの塩が緩衝剤(バッファー)として使用される。
【0008】
血流中の余分なナトリウムは血圧を上昇させる可能性があり、ナトリウム摂取量が少ない患者には適していない。血流中のナトリウム量が増えると、心臓病や脳卒中のリスクが高まる可能性がある。
【0009】
緩衝剤は医薬液体製剤を安定化するために使用される。すぐ使用できるイブプロフェン製剤の全ては7.8~9.0のpHで実際に安定であり、結果的に血液のpHを高める。血中pHが上昇すると、血液凝固時間が長くなる可能性がある。そのような静脈注射液を使用することは、血管周囲浸潤を避けるために細心の注意が必要である。血管外溢出が起こると、局所的な組織の損傷とそれに続く腐肉の形成が起こることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、可溶化イブプロフェンを含む既知の組成物はいくつかの欠点を提示する。それゆえ、本発明の1つの目的は、可溶化イブプロフェンを含み、既知の組成物の欠点を排除するか、または最小限に抑える組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、水性、ナトリウムフリー、デキストロースフリーおよびバッファーフリーの安定なイブプロフェン注射製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
独立請求項による組成物は、上記の問題を有する既知の組成物の欠点が排除されているか、またはその欠点を最小限にする組成物または医薬組成物を提供する。従属請求項は、任意選択の構成を規定している。
【0013】
本発明は、イブプロフェン:アルギニンのモル比が1:1.1~1:2.1のイブプロフェンおよびアルギニンの水溶液と、3.9%~4.35%w/vの間の利尿剤化合物(diuretic compound)の水溶液との組み合わせにより、可溶化イブプロフェンを含む組成物を提供する。
【0014】
有利には、本発明による組成物は、利尿剤化合物溶液中にイブプロフェンとアルギニンとの完全な配合比を含み、これは、いかなるバッファーおよびpH調整剤または他の添加剤の必要性ならびにそれに関連する既知の欠点を排除する。
【0015】
本発明による組成物はまた、注射製剤用の安定なイブプロフェン組成物を提供する。
【0016】
本発明は、病院での使用、術後の疼痛および発熱のための優れた鎮痛治療法である。本発明は、その投与経路のために、患者に早期の回復を提供し、ならびに入院の時間および患者のケアに関連する費用を減少させることができる。
【0017】
本発明は、ナトリウムフリー、デキストロースフリーおよびバッファーフリーの安定なイブプロフェン静脈注射または点滴に関する。ナトリウムフリー、デキストロースフリーおよびバッファーフリーの安定なイブプロフェン静脈注射または点滴により、既存の市販のイブプロフェン注射製剤の製品よりも本発明の適用範囲が拡大され、ひいては、患者の安全性および臨床効果を最適化し、ならびに障害のリスク(心血管系、高血圧、糖尿病、血管周囲浸潤および局所組織損傷に関連し得る)を低減するのに役立てることができる。
【0018】
本発明を高熱および通常の体温で使用するために、溶液のpHは血液のpHに非常に近い。37℃ではpHは7.47であり、38℃ではpHは7.41であり、39℃ではpHは7.38である。本発明は、ICHガイドラインに従ってリアルタイムで安定しており、安定性条件が加速されている。
【0019】
一実施形態では、当該組成物は、本発明をナトリウムフリーおよびデキストロースフリーにする浸透剤としてマンニトールを含む。
【0020】
一実施形態では、安定性のためのpHは、20℃で8.20(European Pharmacopeiaの要件に従って測定)、25℃で8.04、および30℃で7.87である。
【0021】
一実施形態では、当該組成物は、4.05%~4.25%w/vのマンニトールWFI溶液におけるイブプロフェンのアルギニンに対するモル濃度(1:1.9908~1:1.22388)を有すると共に、温度依存性のpHを有する、ナトリウムフリー、デキストロースフリーおよびバッファーフリーの安定な水系イブプロフェン注射製剤である。
【0022】
一実施形態では、アルギニンは他の亜酸化窒素または一酸化窒素前駆体によって置き換えられる。
【0023】
一実施形態では、イブプロフェンは、他の鎮痛化合物、例えばイブプロフェン誘導体、または同様の溶解特性を有する鎮痛化合物によって置き換えられる。
本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1]
注射製剤用の組成物であって、
イブプロフェン:アルギニンのモル比が1:1.1から1:2.1の間のイブプロフェンおよびアルギニンの水溶液、ならびに
3.9%~4.35%w/vの間の利尿剤化合物を含む利尿剤化合物の水溶液
を含む、上記組成物。
[2]
前記組成物のpHが、20℃から39℃の間の温度範囲で7.4から8.2の間に含まれる、上記項目1に記載の組成物。
[3]
イブプロフェン:アルギニンのモル比が1:1.2~1:2.0の間、好ましくは1:1.22~1:1.99の間、より好ましくは1:1.22388~1:1.9908の間に含まれる、上記項目1または2に記載の組成物。
[4]
前記利尿剤化合物の水溶液が、4.05%~4.25%w/vの間の利尿剤化合物を含む、上記項目1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5]
前記利尿剤化合物がマンニトールである、上記項目1~4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]
前記利尿剤化合物の水溶液が注射用水(WFI)を含む、上記項目1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]
前記組成物が温度依存性pHである、上記項目1~6のいずれか1項に記載の組成物。
[8]
前記組成物が無菌注射製剤である、上記項目1~7のいずれか1項に記載の組成物。
[9]
上記項目1~8のいずれか1項に記載の組成物を含む医薬組成物であって、
1mg/mL~8mg/mLの間のイブプロフェンおよび4.05%~4.25%w/vのマンニトール溶液を含む、上記医薬組成物。
[10]
上記項目1~8のいずれか1項に記載の組成物を含む医薬組成物であって、
4.05%~4.25%w/vのマンニトール溶液中に25mg/mL~200mg/mLの間のイブプロフェンを含む、上記医薬組成物。
[11]
前記イブプロフェンおよび前記マンニトールが注射用水(WFI)中に存在する、上記項目9または10に記載の医薬組成物。
[12]
前記医薬組成物が、例えばゴム製キャップおよびアルミニウム製キャップであるストッパー付きガラス瓶中で48ヶ月間安定である、上記項目9~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[13]
前記医薬組成物がプラスチックボトル、例えばLDPE、HDPE、PPまたはCOC製のボトル中で48ヶ月間安定である、上記項目9~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[14]
前記医薬組成物がポリマーバッグ中で48ヶ月間安定である、上記項目9~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[15]
前記医薬組成物が無菌的に調製される、上記項目9~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[16]
前記医薬組成物が、例えば約121℃の温度でオートクレーブ中で使用可能である、上記項目9~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[17]
治療用量のイブプロフェン、特にすぐに使用できる用量のイブプロフェンを調製するための、上記項目9~16のいずれか1項に記載の医薬組成物の使用。
[18]
患者の鎮痛治療において使用するための、上記項目1~8のいずれか1項に記載の組成物または上記項目9~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。