(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用の改善された微多孔膜セパレータおよび関連方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20240822BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240822BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240822BHJP
H01M 50/494 20210101ALI20240822BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240822BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/457
H01M50/494
H01M50/491
(21)【出願番号】P 2022167400
(22)【出願日】2022-10-19
(62)【分割の表示】P 2020185298の分割
【原出願日】2015-11-24
【審査請求日】2022-10-19
(32)【優先日】2014-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598064680
【氏名又は名称】セルガード エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シャオミン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,カン,カレン
(72)【発明者】
【氏名】ナーク,ロバート,エー.
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ロン,イー.
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/090632(WO,A1)
【文献】特開2007-311332(JP,A)
【文献】特開平10-261393(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101000952(CN,A)
【文献】特開2021-036531(JP,A)
【文献】特開2016-022679(JP,A)
【文献】特開2016-060061(JP,A)
【文献】特開2012-011751(JP,A)
【文献】特表2013-527260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.8グラム/10分以下の溶融流動指標(MFI)
を有するホモポリマーポリプロピレン又はポリプロピレンブレンドの乾式膜を含む、リチウム電池用の多層セパレータであって、
前記多層セパレータは、14μm
未満の厚さ、150kgf/cm
2以上のTD(横方向)引張り強度、少なくとも29のCSI(複合裂度指標)を有する
、
リチウム電池用の多層セパレータ。
【請求項2】
0.8グラム/10分以下の
溶融流動指標(MFI)を有するホモポリマーポリプロピレン又はポリプロピレンブレンドの乾式膜を含む、リチウム電池用の多層セパレータであって、
前記多層セパレータは、MFI、14μm
未満の厚さ、130kgf/cm
2以上のTD引張り強度、少なくとも70のCSIを有する
、
リチウム電池用の多層セパレータ。
【請求項3】
前記多層セパレータは、少なくとも130gfの突刺強度(PS)の第1の負荷頂点を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項4】
前記多層セパレータは、少なくとも25%の多孔度を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項5】
前記多層セパレータは、1.5オーム-cm
2以下のER(電気抵抗)を有し、少なくとも25%の多孔度を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項6】
前記多層セパレータは、少なくとも1800kgf/cm
2の縦方向(MD)引張り強度を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項7】
前記多層セパレータは、少なくとも100のCSIを有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項8】
前記多層セパレータは、少なくとも50のCSIを有する、請求項1に記載の多層セパレータ。
【請求項9】
前記多層セパレータは、少なくとも27%の多孔度を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項10】
前記多層セパレータは、少なくとも31%の多孔度を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項11】
前記多層セパレータは、30%~50%の多孔度を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項12】
前記多層セパレータは、31%~40%の多孔度を有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【請求項13】
前記多層セパレータは、8μm未満の厚さを有する、請求項1又は2に記載の多層セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年11月26日に出願された、同時係属の米国仮特許出願第62/084,628号に対する優先権およびその利益を主張し、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、1つ以上の新規または改善された多孔質膜、ベースフィルムもしくは電池用セパレータならびに/またはかかる膜、フィルムもしくはセパレータを作製および/もしくは使用する様々な方法に関する。少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、本出願または発明は、二次もしくは再充電リチウム電池、リチウムイオン二次電池、もしくは同様のものなどの、リチウム電池用の1つ以上の新規もしくは改善された微多孔膜電池用セパレータ、膜ベースフィルムもしくは膜セパレータ、ならびに/またはかかるセパレータおよび/もしくは電池を作製もしくは使用する様々な方法に関する。本明細書で説明する、ある特定の発明の電池用セパレータは、約14μm未満の厚さを示し得、既知の電池用セパレータと比較すると、低減した裂け傾向または裂度によって定義されるような、増大した強度性能を示し得る。裂け破壊モードが調査されていて、裂け傾向または裂度における改善は、本明細書で開示する新規の試験方法により複合裂度指標(CSI:Composite Splittiness Index)として定量化され得る。本明細書で説明する新規または改善された膜、フィルム、またはセパレータは、改善されたガーレーおよび他の改善も示し得る。
【背景技術】
【0003】
微多孔質電池用セパレータ膜、および特定の耐裂け性または耐断裂性微多孔膜における裂けを低減させるためのある以前の方法が知られており、米国特許第6,602,593号で説明されている。かかる特許では、とりわけ、インフレーションフィルム法による薄膜前駆体の押出およびインフレーションフィルム押出中の少なくとも約1.5のブローアップ比(BUR)の使用を含む方法を説明している。
【0004】
米国特許第8,795,565号は、とりわけ、制御されたMD緩和工程ステップでの乾式前駆体膜のMDおよびTDの両方の延伸を伴う2軸延伸技術を説明している。特許第8,795,565号の
図1~3に示されている膜などの、2軸延伸膜は、裂けまたは断裂が幾分、低減し得る。2軸で延伸された微多孔膜が突刺強度試験法を使用して強度試験される場合、試験サンプル穿刺場所は、細長い裂けとは対照的に丸い穴であり得る。
【0005】
米国特許第8,486,556号は、とりわけ、セパレータ膜を通して短絡を生じるのに必要とされる力の測定方法である混合貫通力試験法によって明確にされるような改善された強度を備えた多層電池用セパレータ膜を開示している。ある溶融流動指標を有する高分子量のポリプロピレン樹脂を使用して、第8,486,556号特許で説明されている多層セパレータが、約25μmにまで及ぶ厚さ、約37%にまで及ぶ多孔度、13~25秒のASTMガーレー、および約2.5オームcm2にまで及ぶイオン抵抗で作製された。
【0006】
同様に知られているのは、典型的には同様に2軸で延伸されて、正しく均衡の取れたMDおよびTD強度特性を有し得る、湿式微多孔質電池用セパレータ膜である。湿式法を使用して製造される微多孔膜の例は、米国特許第5,051,183号;第6,096,213号;6,153,133号;および第6,666,969号で開示されている可能性がある。
【0007】
湿式電池用セパレータ膜は、500,000を上回る、場合によっては1,000,000を上回る分子量を有し得、可塑剤を使用して溶融押出しを可能にし得る、高分子量のポリマー樹脂を使用して製造され得る。かかる可塑剤、例えば、1つ以上の油は、高分子量の樹脂を溶融押出しするために使用され得る。可塑剤は、製造工程の一部として1つ以上の溶媒を使用して抽出され得る。製造工程の抽出ステップからの油/可塑剤含有溶媒は、抽出された溶媒および油を使用可能な純度品質にするために、再生利用する必要があり得る。これは、高くつき得る追加のエネルギー費用である。従って、電池用セパレータを作製する様々な湿式法は、無溶媒で、「グリーンな(green)」、すなわち環境に優しい、乾式法の電池用セパレータ作製方法(Celgard乾式法とも呼ばれる)に比べると、費用のかかる溶媒処理および様々な処分問題を必要とし得る環境的に問題のある工程であるという不都合を有し得る。
【0008】
BURインフレーションフィルム法、乾式膜のTD延伸を伴う方法、および多孔質膜のための湿式2軸延伸法などの様々な既知の方法は、微多孔セパレータまたは膜セパレータに対して、薄い微多孔セパレータまたは膜セパレータに対して、など、強度または性能特性のバランスを完全には最適化しない可能性がある。
【0009】
また、以前の方法または製品では、リチウム電池、特に高エネルギーリチウムイオン電池における優れたサイクル性能および安全性を備えた微多孔質電池用セパレータまたは膜セパレータを製造するために、強度または性能特性を、無溶媒で環境的に負担の少ない工程と組み合わせない可能性がある。
【0010】
上記状況に鑑み、少なくともある電池技術もしくは用途、エネルギー用途、および/もしくは同様のものなどに対する、新規もしくは改善された多孔質膜、ベースフィルムもしくは電池用セパレータならびに/または、かかる膜、フィルムもしくはセパレータの作製および/もしくは使用方法、様々な湿式製造方法に伴う、考えられる望ましくない問題なしで湿式電池用セパレータもしくは膜セパレータに近づくか、もしくは超える、約14μm未満の厚さ、比較的低いガーレー数、比較的高い多孔度、および強度性能特性を備えた乾式微多孔質電池用セパレータもしくは膜セパレータの必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、本発明は、前述した必要性のうちの1つ以上に対処し得、かつ/または、1つ以上の新規もしくは改善された多孔質膜、ベースフィルムもしくは電池用セパレータならびに/またはかかる膜、フィルムもしくはセパレータを作製および/もしくは使用する様々な方法に関する。少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、本出願または発明は、二次もしくは再充電リチウム電池、リチウムイオン二次電池、もしくは同様のものなどの、リチウム電池用の1つ以上の新規もしくは改善された微多孔膜電池用セパレータ、膜ベースフィルムもしくは膜セパレータ、ならびに/またはかかるセパレータおよび/もしくは電池を作製もしくは使用する様々な方法に関する。本明細書で説明する、ある特定の発明の電池用セパレータは、約14μm未満の厚さを示し得、既知の電池用セパレータと比較すると、低減した裂け傾向または裂度によって定義されるような、増大した強度性能を示し得る。裂け破壊モードが調査されていて、裂けまたは裂度における改善は、本明細書で開示する新規の試験方法により複合裂度指標(CSI)として定量化され得る。本明細書で説明する新規または改善された膜、フィルム、またはセパレータは、改善されたガーレーおよび他の改善も示し得る。
【0012】
少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、本発明は、前述した必要性のうちの1つ以上に対処し、かつ、1つ以上の新規もしくは改善された多孔質膜、ベースフィルムもしくは電池用セパレータ(または膜セパレータ)ならびに/またはかかる膜、フィルムもしくはセパレータを作製および/もしくは使用する様々な方法に関する。少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、本発明は、リチウムイオン二次電池などのリチウム電池用の1つ以上の新規もしくは改善された微多孔膜電池用セパレータ、膜ベースフィルムもしくは膜セパレータ(または電池用セパレータで少なくとも1つの層として機能する膜)、ならびに/またはかかるセパレータもしくはフィルムを作製もしくは使用する様々な方法に関する。本明細書で説明する特定の発明の電池用セパレータは、約14μm未満の厚さを示し得、既知の電池用セパレータと比較すると、低減した裂けまたは裂度によって明確にされるような、増大した強度性能を示し得る。裂け破壊モードが調査されていて、裂け傾向または裂度における改善は、本明細書で開示する新規の試験方法により複合裂度指標(CSI)として定量化され得る。本明細書で説明する新規または改善された膜、フィルム、またはセパレータは、改善されたガーレーおよび他の改善も示し得、特にエネルギー用途に適し得る。
【0013】
本発明は、1つ以上の新規もしくは改善された多孔質膜、ベースフィルムもしくは電池用セパレータならびに/またはかかる膜、フィルムもしくはセパレータを作製および/もしくは使用する様々な方法に関する。少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、本発明は、リチウムイオン二次電池などのリチウム電池用の1つ以上の新規もしくは改善された微多孔膜電池用セパレータ、ならびに/またはかかるセパレータを作製もしくは使用する様々な方法に関する。本明細書で説明する、おそらく好ましい電池用セパレータは、約14μm未満、約13μm未満、または約8μm未満の厚さを示し得、同じ(またはそれ以上の)厚さの既知の電池用セパレータと比較すると、低減した裂度によって明確にされるような、増大した強度性能を驚くほど示し得る。裂けまたは裂度における改善は、本明細書で開示する試験方法により複合裂度指標(CSI)として定量化され得、本明細書で説明する新規または改善されたセパレータは、29~139の間のCSIを有し得、改善されたガーレーおよび他の改善も示し得る。
【0014】
本発明は、少なくとも選択された実施形態では、リチウムイオン二次電池用の新規もしくは改善された微多孔質電池用セパレータ、ならびに/またはかかるセパレータを作製および/もしくは使用する関連方法に関する。特定の発明の乾式電池用セパレータまたは膜セパレータは、約14μm未満の厚さを示し、複合裂度指標(CSI)として知られる新規の試験方法により定量化されるような、裂け抵抗または低減した裂度によって明確にされるような、増大した強度性能を有する。
【0015】
ブローアップ比法は、インフレーションフィルムの環状ダイからの半径方向の膨張を伴い得る。結晶構造配向の横方向(TD)における増加したレベルは、約1.5を超えるブローアップ比を使用する押出し膜で達成され得る。ブロー押出成形前駆体フィルムの半径方向膨張によって達成されたかかるTDでの増加した結晶構造配向は、TD引張り強度およびTD伸長をさらに改善し、その結果、延伸された微多孔膜での裂けが低減され得る。
【0016】
丸い穿刺孔は、膜の低減した裂け傾向または裂度、強化された裂け抵抗、均衡の取れたTDおよびMD強度ならびに良好なTD伸長を示し得、従って、かかる膜が、電池用セパレータ、膜セパレータ、ベースフィルム、またはリチウムイオン電池内の電池用セパレータでの少なくとも1つの層として使用される場合に、優れた強度性能が予測され得る。
【0017】
BURインフレーションフィルム法、乾式膜のTD延伸を伴う方法、および多孔質膜のための湿式2軸延伸法などの様々な既知の方法は、約14μm未満の厚さの微多孔セパレータまたは膜に対して、以下の強度または性能特性のバランスを完全には最適化しない可能性がある:
・優れたMDおよびTD引張り強度;
・優れたTD伸長;
・高い突刺強度;
・望ましいガーレー;および/または
・裂度がない。
追加として、リチウムイオン電池などのリチウム電池における優れたサイクル性能および安全性を有する、微多孔質電池用セパレータ膜を製造するために、上で識別した特性を、無溶媒で環境的に負担の少ない工程の使用と組み合わせることは望ましくあり得る。
【0018】
新規または改善された微多孔質電池用セパレータがリチウムイオン二次電池での使用のために開発されてきた。本発明のセパレータは、好ましくは、押し出し成形される際に、可塑剤の使用を必要とせず、比較的高レベルの結晶ラメラ配向を有する内部微細構造をもつ前駆体膜を作り出す、高分子量で、低溶融流動指標のポリマー樹脂または高分子量で、低溶融流動指標のポリマー樹脂のブレンドを使用して製造された乾式単層または多層の微多孔質電池用セパレータ膜である。この高レベルの結晶ラメラ配向は、既知のセパレータと比較して、本発明のセパレータの改善された強度性能を提供し得る。非多孔性前駆体膜のラメラ構造における結晶化度の程度も、微多孔セパレータ、ベースセパレータもしくはベースフィルム(一方もしくは両方の側にコーティングされるか、または1つ以上の他の層に積層されるように適合された)または膜(セパレータまたはベースフィルムの少なくとも1つの層として働く)の乾式法製造における延伸ステップ中に、微細孔の形成に影響し得る。
【0019】
家電業界向け電池の製造業者は、エネルギー密度を最適化して、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を改善するために、好ましくは約14μm未満の厚さの薄い微多孔膜電池用セパレータまたは膜セパレータを好み得る。本発明の電池用セパレータまたは膜は、約14μm未満の厚さ、および従来型の乾式延伸法などの同じ工程で作製された同じ厚さの他のセパレータと比較すると、低減した裂度によって明確にされるような改善された強度性能、または突刺の結果として低減した断裂を備えた、「薄い」電池用セパレータまたは膜である。
【0020】
少なくとも選択された実施形態の本発明のセパレータまたは膜は、低減した裂度によって特徴付けられる約14μm未満の厚さを有する、薄い乾式セパレータまたは膜を提供するので、以前の電池用セパレータまたは膜に比べて蛙跳び的な改善(leap frog improvement)を達し得る。おそらく好ましい発明のセパレータ膜は、好ましくは、溶媒および抽出ステップを使用することなく、乾式法を使用して押し出し成形される際に、(以前に知られていた前駆体膜と比べて)はるかに高い結晶ラメラ含有量を前駆体膜内に生じる、1つ以上の高分子量で、低溶融流動指標のポリマー樹脂またはブレンドを使用する。より高い結晶ラメラ含有量の前駆体膜を延伸して孔を作る場合、結果として生じる微多孔膜は、裂度挙動における低減、向上した強度、より高い多孔度、より低い電気抵抗およびより低いガーレーを示す。高分子量で、低溶融流動指標(MFI)のポリマー樹脂を使用して製造された本発明の乾式微多孔質電池用セパレータまたは膜は、既知の湿式セパレータの性能特性と等しいか、またはそれに勝り得、乾式電池用セパレータ微多孔膜と湿式電池用セパレータ微多孔膜との間の差を低減するか、または等しくし得、かつリチウムイオン二次電池における電池サイクル寿命および安全性能を強化または改善する。
【0021】
前駆体膜でのラメラ構造における結晶化度の量は、乾式延伸微多孔膜の多孔性微細構造の形成に影響し得る。X.M.Zhangらによる「Oriented Structure and Anisotropy Properties of Polymer Blown Films HDPE,LLDPE and LDPE」,POLYMER 45(2004)217-229およびS.Tabatabaeiらによる「Microporous Membranes Obtained from PP/HDPE Multilayer Films by Stretching」,JMS 345(2009)148-159に、結晶相の構造がフィルムの機械的特性に強く影響を及ぼすと記載されている。断裂抵抗は、リチウムイオン電池で使用される微多孔膜にとって重要な機械的特性であり得る。微多孔膜は、電池の厳しい捲回および/または製造ステップ中に裂けに抵抗するために十分な機械的強度を必要とし得、かかる膜は、電池の寿命にわたって繰り返される充電と放電のサイクル中に生じる膨張および収縮力に耐える必要があり得る。
【0022】
微多孔膜の断裂抵抗は、多くの場合、用語「裂度(splittiness)」を使用して説明され、裂度は、MDまたはTDにおいて測定できる。膜の機械的強度を測定するための標準的な試験方法は、突刺強度試験として知られている。
図1は、適切な位置にしっかりと固定された膜サンプルと、試験サンプルを貫通するように配置された検査用針で突刺強度試験を実施している膜サンプルの写真である。突刺強度試験は、圧縮伸長(mm単位)が負荷の関数として(重量グラム単位)示される「破壊時の負荷(load at break)」を測定する。
【0023】
突刺強度試験データは、様々な多孔質膜の機械的強度性能の比較を可能にする。加えて、この試験方法は、力を印加した際の断裂または裂けに対する膜の抵抗を測定するために使用できる。膜試験サンプルが突刺強度を試験される場合、検査用針は試験サンプルを貫通して、貫通位置に印または孔が残る。本発明の膜につながる調査では、穿刺孔の形状は、膜の裂度に対する抵抗を評価するために使用できる手段を提供することが判明している。裂けに対して優れた抵抗を示す膜サンプルは、
図2Aに示すような円形の穿刺孔を有することが明らかになっており、他方、裂けやすい膜は、
図2Bおよび
図2Cに示す孔のような細長い裂けた孔を形成する傾向がある。
【0024】
突刺強度試験中に裂ける電池用セパレータ膜は、リチウムイオン二次電池の製造時における厳しい電池の捲回ステップ中、および/またはかかる電池の使用中に、裂けるか、または破れる傾向があり得る。膜を裂くのに必要な力は、相当であり得る。容易に裂ける電池用セパレータ膜は、電池の電極および/またはセパレータを貫通する電極粒子の間の直接的または間接的な接触に起因した、起こり得る電池故障となり得、内部短絡を引き起こす。さらに、突刺強度試験中に裂けることが観察される電池用セパレータ膜は、おそらく、電池が機械的に故障して、陽極と陰極が接触可能になり、電池で内部短絡を引き起こし得る。
【発明の効果】
【0025】
裂け挙動は、リチウムイオン電池内で電池用セパレータとして使用される一連の膜に対して測定されている。結果として生じるデータは、複合裂度指標(CSI)として知られる発明の試験方法の適用により、ある電池内の微多孔膜セパレータまたはベースフィルムなどの、セパレータの裂度モードまたは潜在的な「裂け破壊」を判断するために使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】突刺強度試験を実施している微多孔膜の写真である。
【
図2】3つの異なる微多孔膜またはセパレータの試験サンプルの穿刺試験の結果として生じた異なる形状の孔の3つの近接光学写真を含み、
図2Aは、発明の膜またはセパレータであり、実質的に円形状の孔を示し、
図2Bおよび
図2Cは、比較サンプルでの細長い裂けのような孔を示す。
【
図3】結晶領域の一様で規則的な構造を2つの倍率で示している、エッチングされた非多孔質ポリプロピレン膜の表面の走査電子顕微鏡写真(SEM)を含む。
【
図4】延伸中のPPおよびHDPEの挙動を示している応力ひずみプロットである。
【
図5】従来技術の微多孔膜、CE6の表面の20,000x倍率でのSEMである。
【
図6】従来技術の微多孔膜、CE5の表面の20,000x倍率でのSEMである。
【
図7】本明細書で説明する様々な例および比較例に従って選択された樹脂および膜のせん断粘度のプロットである。
【
図10】例示的な発明の膜またはセパレータ例5の表面のSEMである。
【
図11】従来技術の膜比較例1の表面のSEMである。
【
図12】実質的に円形の穿刺孔を示している、発明に関する例5の写真である。
【
図13】実質的に円形の穿刺孔を示している、発明に関する例1の写真である。
【
図14】実質的に円形の穿刺孔を示している、発明に関する例2の写真である。
【
図15】実質的に円形の穿刺孔を示している、発明に関する例3の写真である。
【
図16】細長い孔および/またはスリット形状の孔をもつ穿刺孔を示している、従来技術の膜、CE4の写真である。
【
図17】細長い孔および/またはスリット形状の孔をもつ穿刺孔を示している、従来技術の膜、CE2の写真である。
【
図18】細長い孔および/またはスリット形状の孔をもつ穿刺孔を示している、従来技術の膜、CE1の写真である。
【
図19】発明および従来技術の膜の複合裂度指標(CSI)プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
少なくともある実施形態、態様、または目的によれば、新規または改善された微多孔質電池用セパレータが、リチウムイオン二次電池などの、リチウム電池での使用のために開発されてきた。本発明のセパレータ膜は、好ましくは、(後で抽出する必要がある可塑剤を必要とすることなく)押し出し成形される際に、高レベルの結晶ラメラ配向を有する内部微細構造をもつ前駆体膜を作り出す、高分子量で低溶融流動指標のポリマー樹脂または高分子量で低溶融流動指標のポリマー樹脂のブレンドを好ましくは使用して製造された乾式単層または多層の微多孔質電池用セパレータまたは膜である。この高レベルの結晶ラメラ配向は、本発明のセパレータまたは膜の優れた強度性能をもたらし得る。家電業界向け電池の製造業者は、様々なリチウムイオン二次電池、特にエネルギー電池またはセルのエネルギー密度および寿命を最適化するために、約14μm未満の厚さの薄い微多孔質電池用セパレータまたは膜を好み得る。本発明の電池用セパレータまたは膜は好ましくは、約14μm未満の厚さで、例えば、従来型の乾式延伸法で作製された同じ厚さの他のセパレータと比較すると、穿刺の結果として低減した裂度または断裂によって明確にされるような、改善された靭性および優れた強度性能を備えた、「薄い」膜電池用セパレータ、ベースフィルムまたは膜である。かかる微多孔膜および/または電池用セパレータは、高エネルギー電池が使用される様々な用途で特に有用であり得る。
【0028】
前駆体膜における結晶ラメラ構造の量は、微細孔の形成に影響し得る。
図3は、MDまたはTD延伸されていないエッチングされた非多孔質ポリプロピレン膜の積層ラメラ構造の表面SEMを示す。エッチング工程は、非結晶質部分を除去するために実行されて、結晶ラメラ構造のより良い可視化を可能にする。一般に知られている膜での孔形成のモードは、当技術分野で周知であり、X.M.Zhangらによる「Oriented Structure and Anisotropy Properties of Polymer Blown Films HDPE,LLDPE and LDPE」,POLYMER 45(2004)217-229およびS.Tabatabaeiらによる「Microporous Membranes Obtained from PP/HDPE Multilayer Films by Stretching」,JMS 345(2009)148-159で発表されている。
図4は、非多孔質膜の印加された応力に対する応答を示している典型的な応力/歪みプロットであり、応力の初期印加での積層結晶ラメラ板の引離しが示されている。ラメラ板のこの初期の分離に続いて、ポリマー鎖がラメラからさらに引き離されてフィブリルを形成する。孔の壁を形成するための、ポリマーフィブリルのさらなる伸長が
図4に示されている。
【0029】
図5および
図6は、それぞれ、従来技術のポリプロピレン(PP)微多孔膜CE6およびCE5の表面のマイクロスケール外観を示しているSEM画像であり、結晶ラメラおよびフィブリル構造が見えている。CE6およびCE5膜の結晶ラメラ領域の比較で、CE6の方が厚い結晶ラメラ領域を有することが示されている。加えて、CE6の孔径は、CE5における孔径のおよそ2倍である。CE6およびCE5膜は、異なる溶融流動指標をもつ(表1を参照)異なる分子量のポリプロピレン樹脂を使用して製造されており、溶融流動指標は、前駆体膜の溶融押出中に形成する結晶ラメラの量に影響を与え得る。
【表1】
前駆体膜でのラメラ構造における結晶化度の量は、乾式延伸微多孔膜の内部多孔性微細構造の形成における要因であり得る。結晶相の構造はフィルムの機械的特性に影響を及ぼし得ると述べられている(X.M.Zhangらによる「Oriented Structure and Anisotropy Properties of Polymer Blown Films HDPE,LLDPE and LDPE」,POLYMER 45(2004)217-229)。
【0030】
少なくとも選択された実施形態の本発明のセパレータ膜は、乾式法または乾式延伸法(CELGARD(登録商標)乾式法としても知られる)によって準備でき、本発明の膜は、単層または多層であり得る。多層膜またはセパレータの場合、工程は:PPおよび/またはポリエチレン(PE)非多孔性前駆体を押し出し成形すること、非多孔性前駆体を、例えば、PP/PE/PP積層構成に一緒に結合して、結合された非多孔性PP/PE/PP前駆体を形成すること、およびかかる前駆体を延伸して微多孔多層膜を形成することを含み得、ここで、孔形成は、非多孔性、半結晶の押出ポリマー前駆体の縦方向での延伸から生じる。追加の(例えば、TDでの)延伸も起こり得る。
【0031】
リチウムイオン電池で使用される微多孔膜に対して重要な機械的特性は断裂抵抗である。微多孔膜は、電池の捲回中に裂けたり破れたりせず、また電池の寿命にわたって繰り返される充電と放電のサイクル中に生じる膨張および収縮力に耐えることができるように、十分な断裂抵抗を持つべきである。
【0032】
微多孔膜の断裂抵抗は、多くの場合、用語「裂度」を使用して説明され、裂度は、MDまたはTDにおいて測定できる。膜の機械的強度を測定するための標準的な試験方法は、突刺強度試験として知られている。
図1は、試験サンプルを貫通するように配置された検査用針と共にセットアップされた突刺強度検査機器内の適切な位置にしっかりと固定された膜サンプルの写真を示す。突刺強度試験は、負荷(応力)を印加して、ミリメートル単位での圧縮伸長(変位)を測定する。
図8は、「破壊時の負荷」が、サンプルに孔が開いた時点における最大負荷として判断される、突刺強度プロットの例を示す。このプロット例では、試験サンプル上の15の位置で穿刺試験が実施されたが、通常30の位置で試験されて、破壊時の最大負荷が平均として定義される。この例では、試験膜サンプルが下方に約6mm変位した時点でそのサンプルに孔が開いた時、印加された負荷は、約350グラム重量まで増加した。印加された負荷と結果として生じた試験用膜の変位との間で認められた直線関係は、「単」峰性プロットを生じた。
【0033】
突刺強度試験データは、様々な多孔質膜の強度性能の比較を可能にする。
図9は、本発明の多層膜セパレータまたは膜の例であり、検査用針で最初に膜の1つの層に孔を開け、下方負荷を印加し続けて、さらに試験サンプルに完全に孔を開けて、二峰性プロットを生じる。最初の穿刺は、「第1の負荷頂点」として定義され、他方、第2の穿刺は、「第2の負荷頂点」として定義される。
【0034】
破るための負荷の測定に加えて、この試験方法は、力を印加して、断裂または裂けに対する膜の抵抗を査定するために使用できる。突刺強度試験中、針は試験サンプルを貫通して、貫通位置に印または孔が残る。孔を測定するために必要な負荷だけでなく、穿刺孔の形状も、断裂もしくは裂けに対する比較抵抗を測定するか、または膜の裂度を測定するために使用できる手段を提供する。孔の長さ(または穿刺孔の形状が円形の場合は直径)は、市販の微多孔膜、および本発明に従った様々な膜について、定規を使用して最も近いミリメートルで測定された。裂けに対して優れた抵抗を示す膜サンプルは、
図2Aに示すような円形の孔を有することが分かっている。それに対して、
図2Bは、突刺強度試験の結果、1つの試験で直線状に3.5cmの長さに裂け、繰返し試験で9mm裂けた膜を示す。このように機械的に裂けて破損する膜は、電池の製造時における厳しい電池の捲回ステップ中に裂け、かつ/または、電池の使用中に陽極と陰極電極が接触するのを防ぐことができない可能性が高く、少なくともある電池または用途において内部短絡が生じる。
【0035】
多孔質膜の機械的強度も縦方向(MD)および横方向(TD)における引張り強度を測定することにより一般に評価される。縦方向は、シート製造時における長手方向として定義され、他方、横方向は、シート製造時における幅方向として定義される。加えて、膜が、その元のサイズから破損する時点まで延伸する距離は、伸長率として定義されて、膜が、破損することなく被る歪みの量を査定する際に重要であり得る。伸長率は、MDおよびTDにおいて測定できる。
【0036】
機械的強度試験データは、裂度モードまたは「裂け破壊」傾向を調査するために使用されてきた。複合裂度指標(CSI)として知られる発明の試験方法は、CSI値が式1(以下に記述)によって定義される場合に開発されてきており、式1では、CSIは、突刺強度試験中に測定された、第1の負荷頂点、第2の負荷頂点、TD引張り強度、MD引張り強度、およびTD伸長の関数である。
CSI=(A-|B-A|1.8)×C×(D×E)/106 式1
式中:
A=第1の負荷頂点/厚さ×(1-多孔度率)
B=第2の負荷頂点/厚さ
C=TD伸長
D=MD引張り強度
E=TD引張り強度
ここで、第1および第2の負荷頂点は重量グラム単位、厚さ値はミクロン単位、MDおよびTD引張り強度は重量グラム単位であり、TD伸長は百分率で表される。高CSI値により、製造工程における電池の捲回ステップ中、および電池の寿命にわたって繰り返される充電と放電のサイクル中に生じ得る膜の膨張と収縮中の両方で、リチウムイオン電池において優れた強度性能を有し得る微多孔膜が予測される。
【0037】
例
本発明に従って、様々な微多孔膜またはセパレータが作製された。特に、例1~例5は、単層PP膜または3層(PP/PE/PP)膜のいずれかとして製造され、様々な低MFI(溶融流動指標)ポリプロピレン樹脂を使用して作製された。例のいくつかは(表2に示すように)わずかに異なる(低い)MFI値を有するポリプロピレン樹脂のブレンドを含んでいた。
【0038】
表2は、発明の膜例1~例5の樹脂および膜特性をリストする。加えて、比較例CE1~CE6が、本発明の膜と従来型の膜との比較を可能にするために提供される。
【表2】
A=第1の負荷頂点/厚さ×(1-多孔度率)
B=第2の負荷頂点/厚さ
C=TD伸長
D=MD引張り強度
E=TD引張り強度
【0039】
例1~例3は、単層PP微多孔膜であり、他方、例4および例5は、3層PP/PE/PP微多孔膜の例である。本発明の膜は、約13.5μm以下の厚さを有し、他方、比較膜は約16μm~約25μmまでのもっと高い厚さ値を有し、CE4~CE6は例1~例3よりも3倍以上厚い。本発明の電池用セパレータ例の例1、例2および例3は、多孔度率の比較レベルにおいて、比較の従来技術例よりも46%以上薄く、CSI数によって明確にされる機械的強度において著しい増加を示す。CSI数は、式1を使用して計算され、厚さ、多孔度率、突刺強度、TD伸長、ならびにMDおよびTD引張り強度の関数である。
【0040】
本発明の単層膜の例1~例3は、各々が約7μmの厚さで、極めて薄い電池用セパレータまたは膜である。例えば、発明のPP単層膜の例2は、7μmの厚さで138のCSI値を有する。16μmの厚さ(例1~例3の厚さの2倍以上)の比較PP単層例CE1は、わずか16のずっと低いCSI値を有する。さらに、発明の3層膜の例5は、13.5μmの厚さで141のCSI値を有する。3層の例5での外側のPP層は、0.3g/10分のMFI値をもつPP樹脂を使用して製造されて、低MFI、高分子量、PP樹脂が多孔質セパレータ膜のCSI値に寄与できる利点を示している。厚さ16.7μmの比較従来技術の3層CE2は、-100のずっと低いCSI値を有しており、このセパレータは、本発明のセパレータと比較すると、ある電池に対して、製造工程における電池の捲回ステップ中、および電池の寿命にわたって繰り返される充電と放電のサイクル中に生じ得る膜の膨張と収縮中に、低い強度性能しか有しない可能性があることが予測される。低CSI値を有する膜は、ある電池に対して、裂けて、陽極と陰極電極が接触するのを機械的に防ぐことができない可能性があり、電池で内部短絡が生じ得る。
【0041】
本発明の膜は、1つ以上の低溶融流動指標(MFI)、より高いせん断粘度、高分子量のポリプロピレン重合体樹脂を使用して製造されるので、より高いレベルの結晶ラメラを有し得る。
図7は、比較例と比べた、発明に関する例のせん断粘度を示す。例1~例5の膜は、CE1、CE3、CE4、CE5,およびCE6と比較すると、より高いせん断粘度曲線を有する。より高いせん断粘度値は、発明に関する例の製造に使用された、より低いMFI、より高い分子量PP樹脂の直接の結果である。
【0042】
図10に示す本発明の膜の例5に対する、
図5に示すCE6の膜のSEMでの比較により、本発明の膜の例5では、CE6と比較して、結晶ラメラ層のより広く認められる、均一の厚さ領域、およびこれらの結晶ラメラ領域のより高い均一性が示されている。本発明の膜では孔径がより小さいことにも留意されたい。
図11は、別の比較例CE1の表面のSEMであり、
図10の本発明の膜と比べて、少ない量の結晶ラメラおよび大きな孔を示している。本発明の膜における高レベルの結晶ラメラ配向は、本発明の多孔質膜および/またはセパレータの改善された強度性能に影響を及ぼし得る。加えて、非多孔性前駆体膜の高度な結晶ラメラ構造の均一性は、本発明の多孔質膜および/またはセパレータの改善された強度性能に影響を及ぼし得る。さらに、非多孔性前駆体膜の高レベルの結晶ラメラ配向および高度な結晶ラメラ構造の均一性の両方は、延伸ステップ中に微細孔の形成に影響し得る。より高度で、より均一な結晶ラメラ前駆体膜が延伸されて孔を作り出す場合、結果として生じる微多孔膜は、裂度挙動における低減およびより高いCSI値を示す。
【0043】
裂度モードの調査中、突刺強度試験で、本発明の膜は、比較膜とは異なる形状の穿刺孔を有することが示される。本発明の膜は円形状の穿刺孔を有するが、他方、比較従来技術の膜は、裂けて、細長い穴および/またはスリット形状の穴を有する傾向があり得る。突刺強度試験中の穿刺場所での穴の形状は、裂け破壊モードを理解する上での手掛かりとなる。
図12は、突刺強度試験後の例5の穿刺場所での円形状の穴を示す。
図13、
図14、および
図15に示す、本発明の膜の例1、例2、および例3も、突刺強度試験後に穿刺場所で円形状の穴を有する。それに対して、
図16、
図17、および
図18に示す、比較例CE4、CE2、およびCE1は、それぞれ、細長い穴および/またはスリット形状の穴を有しており、ある電池に対して、電池の厳しい捲回製造ステップ中、および/または使用中に、おそらく裂け得る、機械的により弱い膜であることを示す。加えて、この突刺強度試験中に裂ける傾向を示す膜は、ある電池に対して、リチウムイオン電池の寿命にわたって繰り返される充電と放電のサイクル中に生じる膨張および収縮力に耐えることができないであろう。裂度または断裂抵抗は、リチウムイオン二次電池、特に、高エネルギー電池またはセル内の微多孔膜に対する機械的性能において重要な要件であり得る。
【0044】
図19は、式1を使用して計算されて、突刺強度試験サンプルから測定された穴のスリット長(ミリメートル単位)に対してプロットされた、複合裂度指標(CSI)のプロットである。本発明の膜の例1、例2、例3、例4、および例5は、比較例CE2よりも高いCSI値および小さい穿刺孔径(裂度)を有しており、それは、本発明の膜の優れた機械的強度性能を示し、より高分子量で低溶融流動指標のPP樹脂の選択によって、リチウムイオン電池用の微多孔膜の機械的特性を調整する新規の経路が提供されることを示している。
【0045】
試験方法
厚さ
厚さは、試験手順ASTM D374に従い、Emveco Microgage 210-A精密マイクロメーター厚さ測定器を使用して測定する。厚さ値は、マイクロメートルの単位、μmで報告される。
【0046】
突刺強度
試験サンプルを、まず、最低20分間、73.4℃および相対湿度50%の前提条件にする。Instron Model 4442を使用して、試験サンプルの突刺強度を測定する。1 1/4″×40″の連続サンプル試料の対角方向にわたって30回測定して、平均値を求める。針の半径は0.5mmである。降下率は、25mm/分である。Oリングを利用して試験サンプルを所定の位置にしっかりと保持する締め付け装置にフィルムをしっかりと取り付ける。この固定された領域の直径は25mmである。針で穴を開けたフィルムの変位(mm単位)を、試験されたフィルムによって生じた抵抗力(重量グラム単位)に対して記録する。最大抵抗力が、重量グラム(gf)単位での突刺強度である。負荷対変位プロットがこの試験方法で作成される。
【0047】
裂度
試験サンプルの裂度は、(最も近いmm単位で印が付けられた)定規を使用して測定して、突刺強度試験中に、試験サンプルに針を突き刺したか、または貫通させた結果として生じた穴(またはスリット)の長さを測定する。裂度は、ミリメートル(mm)で表されて、上の表2に「穴サイズ」として示されている。
【0048】
孔径
孔径は、Porous Materials,Inc(PMI)から入手可能なAquaporeを使用して、測定する。孔径はμmで表される。
【0049】
多孔度
微多孔フィルムサンプルの多孔度は、ASTM法D-2873を使用して測定し、微多孔膜における空隙率(percent void spaces)として定義される。
【0050】
TDおよびMD引張り強度
MDおよびTDに沿った引張り強度は、ASTM D-882法に従い、Instron Model 4201を使用して測定する。
【0051】
溶融流動指標(MFI)
ポリマー樹脂の溶融流動指標は、ASTM DS 1238を使用して測定する;ポリエチレンのMFIを測定するには:温度=190℃で重さ2.16Kgを使用;ポリプロピレンについては:温度=230℃で重さ2.16Kgを使用。MFIはグラム/10分として測定する。
【0052】
電気抵抗(ER)(イオン抵抗IRとしても知られる)
電気抵抗は、電解液で満たされたセパレータのオーム-cm2での抵抗値として定義される。電気抵抗の単位はオーム-cm2である。セパレータ抵抗は、製品原材料からセパレータの小片を切り出し、次いでそれらを2つのブロッキング電極の間に置くことによって特徴付けられる。セパレータを容積で3:7比のEC/EMC溶媒中に1.0MのLiPF6塩を用いた電池の電解液を用いて飽和させる。セパレータの抵抗値R(オーム(Ω)単位)を、4プローブACインピーダンス法により測定する。電極/セパレータ界面での測定誤差を抑制するために、さらに多くの層を加えることによる多重測定を必要とする。次いで、多重層測定に基づき、電解液を用いて飽和されたセパレータの電気(イオン)抵抗Rs(Ω)を、式Rs=ρsl/Aにより計算し、式中、ρsはセパレータのイオン抵抗率(Ω-cm単位)であり、Aは電極面積(cm2単位)、lはセパレータの厚さ(cm単位)である。ρs/Aの比率は、多重層(Δδ)に対するセパレータ抵抗値(ΔR)の変化率について計算した勾配であって、勾配=ρs/A=ΔR/Δδで与えられる。
【0053】
ガーレー
ガーレーは、日本工業規格(JIS)によって定義され、OHKEN透過性試験装置を使用して測定する。JISガーレーは、100ccの空気を、4.9インチの一定水圧下で、1平方インチのフィルムを通過させるのに必要な時間(秒単位)として定義される。
【0054】
少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、1つ以上の新規もしくは改善された多孔質膜、ベースフィルムもしくは電池用セパレータならびに/またはかかる膜、フィルムもしくはセパレータを作製および/もしくは使用する様々な方法が提供される。少なくともある実施形態、態様または目的によれば、本発明は、リチウムイオン二次電池などのリチウム電池用の1つ以上の新規もしくは改善された微多孔膜電池用セパレータ、ならびにかかるセパレータを作製もしくは使用する様々な方法に関する。本明細書で説明する電池用セパレータは、約14μm未満の厚さを示し得、既知の電池用セパレータと比較すると、低減した裂度によって明確にされるような、増大した強度性能を示し得る。裂け破壊モードが調査されていて、裂度における改善は、本明細書で開示する試験方法により複合裂度指標(CSI)として定量化され得る。本明細書で説明する新規または改善されたセパレータは、改善されたガーレーおよび他の改善も示し得る。
【0055】
本発明は、少なくとも選択された実施形態では、リチウムイオン二次電池用の新規もしくは改善された微多孔質電池用セパレータ、ならびに/またはかかるセパレータを作製および/もしくは使用する関連方法に関する。特定の発明の乾式電池用セパレータまたは膜セパレータは、約14μm未満の厚さを示し、低減した裂度によって明確にされるような、増大した強度性能を有する。裂け破壊モードが調査されていて、裂度における改善は、複合裂度指標(CSI)として知られている新規の試験方法によって定量化された。
【0056】
好ましい実施形態は、電池製造業者の必要性を満足するように設計された発明の堅牢なCelgard(登録商標)ブランドの電池用セパレータを含み、リチウム電池用途における優れたエネルギーおよび/または電力性能、寸法完全性、ならびに化学および熱的安定性を提供する。
【0057】
本発明は、1つ以上の新規もしくは改善された多孔質膜、ベースフィルムもしくは電池用セパレータならびに/またはかかる膜、フィルムもしくはセパレータを作製および/もしくは使用する様々な方法に関し得る。少なくとも選択された実施形態、態様または目的によれば、本出願または発明は、二次もしくは再充電リチウム電池、リチウムイオン二次電池、もしくは同様のものなどの、リチウム電池用の1つ以上の新規もしくは改善された微多孔膜電池用セパレータ、膜ベースフィルムもしくは膜セパレータ、ならびに/またはかかるセパレータおよび/もしくは電池を作製もしくは使用する様々な方法に関する。本明細書で説明する、ある特定の発明の電池用セパレータは、約14μm未満の厚さを示し得、既知の電池用セパレータと比較すると、低減した裂け傾向または裂度によって明確にされるような、増大した強度性能を示し得る。裂け破壊モードが調査されていて、裂け傾向または裂度における改善は、本明細書で開示する新規の試験方法により複合裂度指標(CSI)として定量化され得る。本明細書で説明する新規または改善された膜、フィルム、またはセパレータは、改善されたガーレーおよび他の改善も示し得る。
【0058】
本発明は、少なくとも選択された実施形態では、リチウムイオン二次電池用の新規もしくは改善された微多孔質電池用セパレータ、ならびに/またはかかるセパレータを作製および/もしくは使用する関連方法に関する。特定の発明の乾式電池用セパレータまたは膜セパレータは、約14μm未満の厚さを示し、低減した裂度によって明確にされるような、増大した強度性能を有する。裂け破壊モードが調査されていて、裂度における改善は、複合裂度指標(CSI)として知られている新規の試験方法によって定量化された。
【0059】
少なくとも選択された実施形態は、改善されたベースフィルムもしくは電池用セパレータならびに/または、かかる膜、フィルムもしくはセパレータの作製および/または使用方法、少なくともある電池技術もしくは用途、エネルギー用途、および/または同様のものなどに対して、様々な湿式製造方法に伴う、考えられる望ましくない問題なしで、湿式電池用セパレータもしくは膜セパレータに近づくか、もしくは超える、約14μm未満の厚さ、比較的低いガーレー数、比較的高い多孔度、および強度性能特性を備えた、乾式微多孔質電池用セパレータもしくは膜セパレータに関し得る。
【0060】
本発明は、その精神および本質的な特質から逸脱することなく、他の形式で具現化され得、それに応じて、前述の明細書ではなく、添付の特許請求の範囲が、本発明の範囲を示しているとして、参照されるべきである。追加として、本明細書で開示する本発明は、本明細書では具体的には開示していない、任意の要素がなくても、適切に実施され得る。
【0061】
本発明は、下記の態様も包含する。
(1)
少なくとも29のCSIを有する、リチウム電池用の改善されたセパレータ、膜またはベースフィルム。
(2)
前記セパレータは、単層のセパレータ、膜またはベースフィルムである、(1)に記載のセパレータ。
(3)
前記セパレータは、多層のセパレータ、膜またはベースフィルムである、(1)に記載のセパレータ。
(4)
前記セパレータは、3層のセパレータ、膜またはベースフィルムである、(1)に記載のセパレータ。
(5)
前記セパレータは、乾式延伸法で作製される、(1)に記載のセパレータ。
(6)
前記セパレータは、積層工程で作製される、(1)に記載のセパレータ。
(7)
前記セパレータは、少なくとも130gfの突刺強度(PS)の第1の負荷頂点を有する、(1)に記載のセパレータ。
(8)
前記セパレータは、少なくとも130gfの突刺強度(PS)の第1の負荷頂点を有し、かつ少なくとも7μmの厚さを有する、(1)に記載のセパレータ。
(9)
前記セパレータは、少なくとも25%の多孔度を有する、(1)に記載のセパレータ。
(10)
前記セパレータは、少なくとも27%の多孔度を有する、(1)に記載のセパレータ。
(11)
前記セパレータは、少なくとも31%の多孔度を有する、(1)に記載のセパレータ。
(12)
前記セパレータは、約30%~50%の範囲内の多孔度を有する、(1)に記載のセパレータ。
(13)
前記セパレータは、約31%~40%の範囲内の多孔度を有する、(1)に記載のセパレータ。
(14)
前記セパレータは、家庭用電化製品で使用されるような、エネルギー電池に特に良く適している、(1)に記載のセパレータ。
(15)
前記セパレータは、1.5オーム-cm2以下のERを有し、少なくとも25%の多孔度を有し、かつ高エネルギーセルまたは電池に適している、(1)に記載のセパレータ。
(16)
前記セパレータは、少なくとも150kgf/cm2のTD引張り強度を有する、(1)に記載のセパレータ。
(17)
前記セパレータは、30より高いCSIを有する、(1)に記載のセパレータ。
(18)
前記セパレータは、少なくとも50のCSIを有する、(1)に記載のセパレータ。
(19)
前記セパレータは、少なくとも100のCSIを有する、(1)に記載のセパレータ。
(20)
前記CSIは、複合裂度指標(CSI)として知られている発明の試験方法に基づき、前記CSI値は、CSIが、突刺強度試験中に測定された、前記第1の負荷頂点、前記第2の負荷頂点、TD引張り強度、MD引張り強度、およびTD伸長の関数である、式1(以下に記載)によって定義され:
CSI=(A-|B-A|1.8)×C×(D×E)/106 式1
式中:
A=第1の負荷頂点/厚さ×(1-多孔度率)
B=第2の負荷頂点/厚さ
C=TD伸長
D=MD引張り強度
E=TD引張り強度
であり、第1および第2の負荷頂点は重量グラム単位、厚さ値はミクロン単位、MDおよびTD引張り強度は重量グラム単位であり、TD伸長は百分率で表され、かつ、高CSI値は、二次リチウム電池において優れた強度性能を有し得る微多孔膜を予測し得る、(1)に記載のセパレータ。
(21)
前記セパレータは、ポリオレフィン樹脂が押し出されて前記膜を形成する乾式法に従って製造された少なくとも1つの微多孔ポリオレフィン膜を含み、前記樹脂は約0.8グラム/10分以下の溶融流動指標(MFI)を有する、(1)に記載のセパレータ。
(22)
前記セパレータは、ポリオレフィン樹脂が押し出されて前記膜を形成する乾式法に従って製造された少なくとも1つの微多孔ポリオレフィン膜を含み、前記樹脂は約0.5グラム/10分以下の溶融流動指標(MFI)を有する、(1)に記載のセパレータ。
(23)
ポリオレフィン樹脂、混合物またはブレンドが押し出されて前記膜を形成する乾式法に従って製造された少なくとも1つの微多孔膜であって、前記樹脂は約0.8グラム/10分以下の溶融流動指標(MFI)を有し、かつ
前記セパレータは、約7μm以上の厚さと、約30%~約50%の範囲内の多孔度と、約1.5オーム-cm2以下の電気抵抗(ER)とを有し、かつ
任意選択で、前記セパレータは、単層、多層、2層または3層のセパレータまたはベースフィルムであり、乾式法で作製され、積層工程で作製され、少なくとも130gfの突刺強度(PS)を有し、かつ少なくとも約7μmの厚さを有し、少なくとも200gfの突刺強度(PS)を有し、かつ少なくとも約7μmの厚さを有し、少なくとも390gfの突刺強度(PS)を有し、かつ少なくとも約13μmの厚さを有し、少なくとも200gfの突刺強度(PS)を有し、かつ少なくとも約7μmの厚さを有し、少なくとも25%の多孔度を有し、少なくとも27%の多孔度を有し、少なくとも31%の多孔度を有し、約30%~50%の範囲内で多孔度を有し、約31%~40%の範囲内で多孔度を有し、家庭用電化製品で使用されるような、エネルギー電池に特に良く適しており、1.5オーム-cm2以下のERを有し、少なくとも25%の多孔度を有し、かつ高エネルギーセルまたは電池に適しており、ポリオレフィン樹脂が押し出されて前記膜を形成する乾式法に従って製造された少なくとも2つの微多孔ポリオレフィン膜を含み、前記樹脂は約0.8グラム/10分以下の溶融流動指標(MFI)を有し、ポリオレフィン樹脂が押し出されて前記膜を形成する乾式法に従って製造された少なくとも3つの微多孔ポリオレフィン膜を含み、前記樹脂は約0.8グラム/10分以下の溶融流動指標(MFI)を有し、少なくとも1つのポリエチレンもしくはポリプロピレン膜を含み、少なくとも2つのポリプロピレン膜を含み、ならびに/または同じ厚さの従来技術のセパレータ、多層セパレータ、もしくは3層セパレータと比較して改善された突刺強度もしくはTD引張り強度を有する、
少なくとも1つの微多孔膜を含む、改善された多層セパレータまたはベースフィルム。