(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】脈拍診断システム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20240822BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61B5/02 310C
A61B5/0245 B
(21)【出願番号】P 2022188494
(22)【出願日】2022-11-25
【審査請求日】2022-11-25
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】502252839
【氏名又は名称】宏正自動科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 立人
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-074940(JP,A)
【文献】特開2015-112488(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0245880(US,A1)
【文献】特開2017-205147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0037901(US,A1)
【文献】特開平10-262935(JP,A)
【文献】特開2018-033928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/1455
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実行命令に基づいて橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射し、前記赤色光、前記赤外光及び前記緑色光の反射光にそれぞれ対応する第1の光電式容積脈波記録法(Photoplethysmography、PPG)信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信するための送受信モジュ-ルと、
制御命令を受信した後に前記実行命令を前記送受信モジュ-ルに出力し、且つ、前記送受信モジュ-ルが1回毎に受信した当該第1のPPG信号、当該第2のPPG信号及び当該第3のPPG信号に基づいて対応する検出情報を出力するための、前記送受信モジュ-ルに接続された制御モジュ-ルと、
前記制御モジュ-ルに接続され、且つ、前記制御命令を前記制御モジュ-ルに伝送するよう構成され、さらに、前記制御モジュ-ルからの複数の前記検出情報を受信した後に、各前記検出情報における前記第3のPPG信号に基づいて脈の深浅を判断し、且つ、各前記検出情報における前記第1のPPG信号、前記第2のPPG信号及び前記脈の深浅に基づいて脈の強弱を判断する処理装置と、を備える、
脈拍診断システム。
【請求項2】
前記実行命令は前記橈骨動脈に前記赤色光、前記赤外光及び前記緑色光を順に照射する回数、時間の長さ及び光強度、並びに、前記第1のPPG信号、前記第2のPPG信号及び前記第3のPPG信号が生成するサンプリングレ-トを含む、
請求項1に記載の脈拍診断システム。
【請求項3】
前記処理装置はさらに、前記第3のPPG信号をフ-リエ変換して前記第3のPPG信号を時間領域信号から周波数領域信号に変換し、前記周波数領域信号において最大の振幅を有する周波数をベースバンドとして選択し、前記周波数領域信号の正規化を行い、続けて、正規化した後の周波数領域信号を複数の周波数バンドに分割し、前記ベースバンドと対応する各周波数バンドの平均比率を取得し、奇数の前記平均比率を選択し、各前記平均比率をその周波数バンドに対応する所定閾値と比較し、前記平均比率のうちの多数がその周波数バンドに対応する前記所定閾値よりも大きい場合、前記脈は深いと判断し、前記平均比率のうちの多数がその周波数バンドに対応する前記所定閾値よりも小さい場合、前記脈は浅いと判断するために用いられる、
請求項1に記載の脈拍診断システム。
【請求項4】
前記処理装置はさらに、前記脈の深浅、前記第1のPPG信号と前記第2のPPG信号との振幅比、前記第2のPPG信号の立ち上がり時間、及び心拍数と前記第2のPPG信号の立ち上がり勾配との関数関係に基づいて、前記脈の強弱を判断するために用いられるものであって、前記心拍数は、前記第1のPPG信号、前記第2のPPG信号及び/又は前記第3のPPG信号に基づいて取得される、
請求項1に記載の脈拍診断システム。
【請求項5】
制御モジュ-ルが、処理装置からの制御命令を受信した後に実行命令を送受信モジュ-ルに出力するステップと、
前記送受信モジュ-ルが、前記実行命令に基づいて橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射し、前記赤色光、前記赤外光及び前記緑色光の反射光にそれぞれ対応する第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信するステップと、
前記制御モジュ-ルが、前記送受信モジュ-ルが1回毎に受信した前記第1のPPG信号、前記第2のPPG信号及び前記第3のPPG信号に基づいて対応する検出情報を前記処理装置に出力するステップと、
前記処理装置が、前記制御モジュ-ルからの複数の前記検出情報を受信した後に、各前記検出情報における前記第3のPPG信号に基づいて脈の深浅を判断するステップと、
前記処理装置が、各前記検出情報における前記第1のPPG信号、前記第2のPPG信号及び前記脈の深浅に基づいて脈の強弱を判断するステップと、
を含む、
脈拍診断方法。
【請求項6】
各前記検出情報における前記第3のPPG信号に基づいて前記脈の深浅を判断するステップは、
前記第3のPPG信号をフ-リエ変換して前記第3のPPG信号を時間領域信号から周波数領域信号に変換し、前記周波数領域信号において最大の振幅を有する周波数をベースバンドとして選択し、前記周波数領域信号の正規化を行い、続けて、正規化した後の周波数領域信号を複数の周波数バンドに分割し、前記ベースバンドと対応する各周波数バンドの平均比率を取得するステップと、
奇数の前記平均比率を選択し、各前記平均比率をその周波数バンドに対応する所定閾値と比較するステップと、
前記平均比率のうちの多数がその周波数バンドに対応する前記所定閾値よりも大きい場合、前記脈は深いと判断するステップと、
前記平均比率のうちの多数がその周波数バンドに対応する前記所定閾値よりも小さい場合、前記脈は浅いと判断するステップと、を含む、
請求項5に記載の脈拍診断方法。
【請求項7】
各前記検出情報における前記第1のPPG信号、前記第2のPPG信号及び前記脈の深浅に基づいて前記脈の強弱を判断するステップは、
前記脈の深浅、前記第1のPPG信号と前記第2のPPG信号との振幅比、前記第2のPPG信号の立ち上がり時間、及び心拍数と前記第2のPPG信号の立ち上がり勾配との関数関係に基づいて、前記脈の強弱を判断するステップを含むものであって、
前記心拍数は、前記第1のPPG信号、前記第2のPPG信号及び/又は前記第3のPPG信号に基づいて取得される、
請求項5に記載の脈拍診断方法。
【請求項8】
前記脈の深浅、前記第1のPPG信号と前記第2のPPG信号との前記振幅比、前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間、及び前記心拍数と前記第2のPPG信号の前記立ち上がり勾配との前記関数関係に基づいて、前記脈の強弱を判断するステップは、
前記脈が浅いと判断した場合、前記第1のPPG信号と前記第2のPPG信号との前記振幅比を、第1の所定値と比較するステップと、
前記振幅比が前記第1の所定値よりも小さい場合、前記脈は弱いと判断するステップと、
前記振幅比が前記第1の所定値よりも大きい場合、前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間と第1の立ち上がり時間及び第2の立ち上がり時間それぞれとの大小関係を判断するステップであって、前記第1の立ち上がり時間は前記第2の立ち上がり時間よりも大きいステップと、
前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間が前記第1の立ち上がり時間よりも大きい場合、前記脈は弱いと判断するステップと、
前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間が前記第2の立ち上がり時間よりも小さい場合、前記脈は強いと判断するステップと、
前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間が前記第1の立ち上がり時間と前記第2の立ち上がり時間の間にある場合、前記心拍数と前記第2のPPG信号の前記立ち上がり勾配との第1の分類関数に基づいて、前記脈の強弱を判断するステップと、を含む、
請求項7に記載の脈拍診断方法。
【請求項9】
前記脈の深浅、前記第1のPPG信号と前記第2のPPG信号との前記振幅比、前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間、及び前記心拍数と前記第2のPPG信号の前記立ち上がり勾配との前記関数関係に基づいて、前記脈の強弱を判断するステップは、
前記脈が深いと判断した場合、前記第1のPPG信号と前記第2のPPG信号との前記振幅比を第2の所定値と比較するステップと、
前記振幅比が前記第2の所定値よりも大きい場合、前記脈は強いと判断するステップと、
前記振幅比が前記第2の所定値よりも小さい場合、前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間を第3の立ち上がり時間と比較するステップと、
前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間が前記第3の立ち上がり時間よりも大きい場合、前記脈は強いと判断するステップと、
前記第2のPPG信号の前記立ち上がり時間が前記第3の立ち上がり時間よりも小さい場合、前記心拍数と前記第2のPPG信号の立ち上がり勾配との第2の分類関数に基づいて、前記脈の強弱を判断するステップと、を含む、
請求項7に記載の脈拍診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈拍診断システム及び方法に関し、特に光検出に基づく脈拍診断システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中医分野において、脈状は脈の強弱、速さ、深浅等の状況を指す。脈状は心臓の鼓動、気血の充足不足及び各臓腑の調整機能に関係し、一般的に中医師が脈をとり、脈状のタイプを判断して、患者の身体の状况を推定する。
【0003】
しかし、人為的に脈状を判断する場合、診断上、中医師個人の経験と主観認識の差異に制限されやすいため、若い中医師は脈状に対する把握レベルが高くないため、脈拍診断システムによる診断を支援する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この状況に鑑み、押圧素子によりユ-ザの橈骨動脈を押圧し、圧力センサーにより脈の打ち方を検出し、ユ-ザの脈状を数値化する圧力検出素子を設けた脈拍診断システムが関連業者により提供されている。しかし、同一ユ-ザがこの脈拍診断システムを使用する時、押圧素子により橈骨動脈を押圧する圧力が異なるために、圧力センサーが異なる検出結果を出し、診断結果が異なる問題が存在する。
【0005】
よって、上記問題を解決できる拍診断システムを提供することは当業者にとって極めて重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施の形態は、同一ユ-ザが圧力センサーを設けた脈拍診断システムを使用する時、押圧素子により橈骨動脈を押圧する圧力が異なるために、診断結果が異なる問題を有効的に解決できる脈拍診断システム及び方法を提供する。
【0007】
本発明は、
実行命令に基づいて橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射し、赤色光、赤外光及び緑色光の反射光にそれぞれ対応して形成される第1の光電式容積脈波記録法(Photoplethysmography、PPG)信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信するための送受信モジュ-ルと、
処理装置からの制御命令を受信した後に実行命令を送受信モジュ-ルに出力し、且つ、送受信モジュ-ルが1回毎に受信した第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号に基づいて対応する検出情報を出力するための、送受信モジュ-ルに接続された制御モジュ-ルと、
制御命令を制御モジュ-ルに伝送し、且つ、制御モジュ-ルからの複数の検出情報を受信し、それから分類プログラムにより脈状の種類を判断するための、制御モジュ-ルに接続された処理装置と、を備える脈拍診断システムを提供する。
【0008】
本発明は、さらに、
制御モジュ-ルが、処理装置からの制御命令を受信した後に実行命令を送受信モジュ-ルに出力するステップと、
送受信モジュ-ルが、実行命令に基づいて橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射し、赤色光、赤外光及び緑色光の反射光にそれぞれ対応する第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信するステップと、
制御モジュ-ルが、送受信モジュ-ルが1回毎に受信した当該第1のPPG信号、当該第2のPPG信号及び当該第3のPPG信号に基づいて対応する検出情報を処理装置に出力するステップと、
処理装置が、当該制御モジュ-ルからの複数の当該検出情報を受信し、それから分類プログラムにより脈状の種類を判断するステップと、
を含む脈拍診断方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施の形態において、脈拍診断システム及び方法は光検出信号(即ち赤色光に対応する第1のPPG信号、赤外光に対応する第2のPPG信号及び緑色光に対応する第3のPPG信号)により脈状を分析でき、圧力検出素子を設けた脈拍診断システムに存在する押圧構造により橈骨動脈を押圧する圧力が異なるために、診断結果に影響を及ぼす問題を解決できる。この他、脈拍診断システムは送受信モジュ-ルにより第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信するため、圧力センサーと押圧素子を設けることなく、構造が簡単で、使い易いという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
ここでの図の説明は本発明をさらに理解するために提供され、本発明の一部を構成し、概略的な実施形態及びその説明は本発明を解釈するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【
図1】本出願に係る脈拍診断システムの一実施形態のブロック図である。
【
図2】本出願に係る脈拍診断方法の一実施形態のフローチャートである。
【
図3】
図2におけるステップ240に記載の分類プログラムの一実施形態のフローチャートである。
【
図4】沈脈であると判断した第3のPPG信号である。
【
図5】浮脈であると判断した第3のPPG信号である。
【
図6】
図3におけるステップ242の一実施形態のフローチャートである。
【
図7】脈状が浮脈に属すると既に分かっている複数のユ-ザの検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比と、心拍数との関係の分布図である。
【
図8】
図7における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比が第1の所定値よりも大きい分布図である。
【
図9】
図8のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり時間との関係に変換した分布図である。
【
図10】
図9における第2のPPG信号の立ち上がり時間が第1の立ち上がり時間と第2の立ち上がり時間の間にある分布図である。
【
図11】
図10のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり勾配との関係に変換した分布図である。
【
図12】脈状が沈脈に属すると既に分かっている複数のユ-ザの検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比と、心拍数との関係の分布図である。
【
図13】
図12における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比が第2の所定値よりも小さい分布図である。
【
図14】
図13のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり時間との関係に変換した分布図である。
【
図15】
図14における第2のPPG信号の立ち上がり時間が第3の立ち上がり時間よりも小さい分布図である。
【
図16】
図15のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり勾配との関係に変換した分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に関連図と合わせて本発明の実施形態を説明する。これら図において、同じ符号は同じ又は類似する素子又は方法フロ-を表す。
【0012】
なお、本明細書において使用される「備える」、「含む」等の表現は、特定の技術特徴、数値、方法ステップ、作業処理、素子及び/又は部品が存在することを表すためのものであるが、その上で、さらに多くの技術特徴、数値、方法ステップ、作業処理、素子、部品、又は以上の任意の組み合わせが追加されることを排除するものではないことは言うまでもない。
【0013】
なお、素子が別の素子に「接続」又は「カップリング」されると説明される場合、他の素子に直接接続、又はカップリングしてもよく、中間素子がある可能性がある。逆に、素子が別の素子に「直接接続」又は「直接カップリング」されると説明される場合は、如何なる中間部材も存在しないことは言うまでもない。
【0014】
図1は本出願に係る脈拍診断システムの一実施形態のブロック図である。
図1に示されるように、本実施形態では、脈拍診断システム100は、送受信モジュ-ル112と、制御モジュ-ル114と、処理装置120とを備え、制御モジュ-ル114は送受信モジュ-ル112に接続され、処理装置120は制御モジュ-ル114に接続される。そのうち、送受信モジュ-ル112と制御モジュ-ル114は、ユ-ザが手に装着できるようウェアラブル装置110に設けてもよいし、例えば、測定デバイスやスマ-トブレスレット、ウェアラブル装置110は有線又は無線で処理装置120に接続してもよい。
【0015】
1つの例では、処理装置120はクラウドサ-バとすることができるがこれに限らず、ウェアラブル装置110はネットワ-クで処理装置120に無線接続してもよい。別の例では、処理装置120はコンピュータ装置(例えば、タブレット型パソコン、デスクトップ型パソコン、ノ-ト型パソコン又はスマ-トフォン)とすることができるがこれに限らず、ウェアラブル装置110は有線伝送インターフェースにより処理装置120にバスラインで有線接続してもよい。
【0016】
もう1つの例では、処理装置120は処理ユニット(例えば、中央プロセッサ又は汎用プロセッサ)を有する電子装置とすることができるがこれに限らず、ウェアラブル装置110は無線伝送インターフェース(例えば、ブルートゥース、WiFi、近距離通信インターフェース)により処理装置120に無線接続してもよい。さらに他の例では、処理装置120とウェアラブル装置110を一体とし、ウェアラブル装置110は処理装置120にバスラインで有線接続してもよい。
【0017】
本実施形態では、制御モジュ-ル114はシリアル通信バス(例えば、集積回路バス(I2C))により送受信モジュ-ル112に接続することができるが、本実施形態は本発明を限定するものではない。
【0018】
例を挙げて言えば、制御モジュ-ル114はパラレル通信バスにより送受信モジュ-ル112に接続してもよい。1つの例では、制御モジュ-ル114はSTM32系列マイクロコントロ-ラとすることができ、送受信モジュ-ル112は例えばMAX30101などの複数の異なる波長の光学送受信器とすることができ、各光学送受信器は異なる波長を有する光学信号(例えば、赤色光、赤外光及び緑色光)をユ-ザの手の橈骨動脈に対応する位置に伝送し、対応する反射光で形成される異なる波長に対応するPPG信号を受信することができる。
【0019】
図2は本出願に係る脈拍診断方法の一実施形態のフローチャートである。説明しやすいように、
図2の脈拍診断方法を
図1の脈拍診断システム100と合わせて説明する。
【0020】
図2に示されるように、脈拍診断方法は、制御モジュ-ル114が、処理装置120からの制御命令を受信した後に実行命令を送受信モジュ-ル112に出力する(ステップ210)と、送受信モジュ-ル112が、実行命令に基づいて橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射し、赤色光、赤外光及び緑色光の反射光にそれぞれに対応する第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信する(ステップ220)と、制御モジュ-ル114が、送受信モジュ-ル112が1回毎に受信した第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号に基づいて対応する検出情報を処理装置120に出力する(ステップ230)と、処理装置120が、制御モジュ-ル114からの複数の検出情報を受信し、それから分類プログラムにより脈状の種類を判断する(ステップ240)と、を含む。
【0021】
ステップ210において、処理装置120は制御命令を制御モジュ-ル114に伝送するために用いられ、これにより制御モジュ-ル114は制御命令に基づいて送受信モジュ-ル112がステップ220を実行するのを制御する。そのうち、処理装置120はユ-ザの操作に基づいて、例えば、ユ-ザは処理装置120のキーボード、タッチパネル、タッチスクリ-ン又はタッチパッド等の入力インターフェースにより、関連パラメ-タ又は命令を入力して、前記制御命令を生成する。
【0022】
なお、ウェアラブル装置110がユ-ザの手に装着される時、送受信モジュ-ル112はユ-ザの手部の橈骨動脈に対応する位置に照準を合わせることができる(例えば、中医師は脈をとる時に患者の手首の位置、即ち経穴の「寸」、「関」、「尺」の位置を押す、経穴の「関」は手首橈骨が突起している位置であり、経穴の「関」の前が経穴の「寸」、経穴の「関」の後が経穴の「尺」である)。
【0023】
ステップ220において、前記実行命令は橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射する回数、時間の長さ、光強度、並びに第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を生成するサンプリングレ-トを含むことができる。そのうち、緑色光の波長範囲は400nm~600nmとすることができ、赤色光の波長範囲は600nm~800nmとすることができ、赤外光の波長範囲は800nm~1000nmとすることができる。
【0024】
この他、橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射する回数は1回の測定毎に6000回とすることができるがこれに限らず、実際のニ-ズに応じて調整してもよい。橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射する時間の長さは一致させても(例えば、10ナノ秒)、実際のニ-ズに応じて、赤色光、赤外光及び緑色光の照射時間の長さを異なるように調整してもよい。
【0025】
照射する赤色光、赤外光及び緑色光の光強度は一致させても、実際のニ-ズに応じて、赤色光、赤外光及び緑色光の光強度が一致しないように調整してもよい(例えば、送受信モジュ-ル112が接收する第1のPPG信号と第2のPPG信号の最大振幅が同じになるように、赤色光と赤外光の光強度を調整することができる)。第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号のサンプリングレ-トについては200ヘルツとすることができるがこれに限らない。
【0026】
ステップ230において、送受信モジュ-ル112が、橈骨動脈に赤色光、赤外光及び緑色光を順に照射した後、反射光に対応して形成された第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信し、第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を制御モジュ-ル114に送り返し、制御モジュ-ル114が、1回毎の第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を整合し、対応する検出情報を生成し、前記検出情報を処理装置120に出力することができる。そのうち、毎回の検出情報は情報コ-ドタグ及び毎回生成された第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を含むことができる。
【0027】
ステップ240において、処理装置120が、ユ-ザの脈状の種類を判断できるよう、制御モジュ-ル114からの当該検出情報に基づいて分析することができる。
【0028】
このように、上記ステップ210~ステップ240により、脈拍診断システム100は光検出信号(即ち第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号)により脈状を分析することができ、圧力センサーを設けた脈拍診断システムに存在する押圧構造により橈骨動脈を押圧する圧力が異なるために、診断結果が異なる問題を解決することができる。
【0029】
この他、処理装置120はユ-ザの脈状の種類の判断結果を表示するために、さらに表示モジュ-ル122を備えることができる。
【0030】
図2におけるステップ240に記載の分類プログラムの一実施形態のフローチャートは
図3に示される。本実施形態では、ステップ240に記載の分類プログラムは、毎回の検出情報における第3のPPG信号に基づいて脈の深浅を判断する(ステップ242)と、毎回の検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号及び脈の深浅に基づいて脈の強弱を判断する(ステップ244)と、を含むことができ、そのうち、脈が深いと判断した場合、脈状は沈脈に属すことを表し、脈が浅いと判断した場合、脈状は浮脈に属すことを表し、脈が強いと判断した場合、脈状は実脈に属すことを表し、脈が弱いと判断した場合、脈状は虚脈に属すことを表す。言い換えれば、ステップ240で判断されるユ-ザの脈状の種類には沈脈と実脈、沈脈と虚脈、浮脈と実脈、浮脈と虚脈を含むことができる。
【0031】
人体の皮膚、皮下組織及び血液は緑色光をよく吸収するが、赤色光と赤外光の吸收率は0又は低いため、ステップ242において、送受信モジュ-ル112で受信した第3のPPG信号により血管(又は脈)の深浅を判断することができる。血管(又は脈)が深いほど、毛細血管と脂肪に吸収され、緑色光が血管まで到達する光量は少なくなり、第3のPPG信号のノイズ干渉が大きくなり、
図4と
図5に示されるようになる。そのうち、
図4は沈脈であると判断した第3のPPG信号であり、
図5は浮脈であると判断した第3のPPG信号である。
【0032】
ヘモグロビン(酸素を含まない)は赤色光の大部分を吸収し、酸素含有ヘモグロビンは赤外光の大部分を吸収するため、人の橈骨動脈血管中の酸素含有ヘモグロビンはヘモグロビン(酸素を含まない)より多く、且つ、西洋医学の理論に基づき、第2のPPG信号の振幅と第1のPPG信号の振幅との比は高いほど心臓の力が強いことを表すとされている(即ち中医で言う実脈)。このため、脈の強弱を判断する時、送受信モジュ-ル112の1回毎に受信した第1のPPG信号と第2のPPG信号を考慮する必要がある。
【0033】
この他、脈の深浅も第1のPPG信号と第2のPPG信号の波形に影響する(即ち第1のPPG信号と第2のPPG信号の振幅大小、立ち上がり時間の大小(第1のPPG信号と第2のPPG信号のトラフからピ-クに要する時間の大小)、立ち上がり勾配(第1のPPG信号と第2のPPG信号のピ-クからトラフまでの高さの差を第1のPPG信号と第2のPPG信号のトラフからピ-クまで要する時間で割る)の大小に影響する)。このため、脈の強弱を判断する時、ステップ242で判断した結果(即ち脈が深い又は脈が浅い)も考慮する必要がある。
【0034】
以上から分かるように、ステップ244において、脈の強弱を判断する時、同一検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号及びステップ242で判断した結果を同時に考慮しなければならない。
【0035】
図3におけるステップ242の一実施形態のフローチャートについて
図6を参照されたい。本実施形態では、ステップ242は、ベースバンドに対する各周波数バンドの平均比率を得るために第3のPPG信号を複数の周波数バンドに分割してそれぞれ平均を取る(ステップ310)と、奇数の平均比率を取得し、各平均比率をその周波数バンドに対応する所定閾値と比較する(ステップ320)と、多数の平均比率がその周波数バンドに対応する所定閾値よりも大きい場合、脈は深いと判断する(ステップ330)と、多数の平均比率がその周波数バンドに対応する所定閾値よりも小さい場合、脈は浅いと判断する(ステップ340)と、を含むことができる。
【0036】
ステップ310において、処理装置120は、時間領域信号から周波数領域信号へ変換するように第3のPPG信号をフ-リエ変換することができ、その後、第3のPPG信号を周波数領域信号に変換した後の振幅が最大である周波数をベースバンドとして選択し、正規化を行い、続けて、正規化した後の周波数領域信号を複数の周波数バンドにカットし、ベースバンドに対する各周波数バンドの平均比率を取得する。
【0037】
ステップ320において、奇数の平均比率を選び取ってその周波数バンドに対応する所定閾値と大小比較を行い、ステップ330とステップ340において多数决の投票法を用いて脈の深浅を判断できるようにする。1つの例では、各周波数バンドに対応する所定閾値の取得方式は脈状が沈脈又は浮脈を属すると既に分かっている複数のユ-ザがウェアラブル装置110により検出した時に取得した第3のPPG信号を基準とし、ステップ310を実行して取得した平均比率を脈拍診断システム100における所定閾値とすることができる。
【0038】
1つの実施形態では、ステップ244は、脈の深浅、第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比、第2のPPG信号の立ち上がり時間、及び心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり勾配との関数関係に基づいて、脈の強弱を判断することを含むことができ、そのうち、第1のPPG信号、第2のPPG信号及び/又は第3のPPG信号に基づいて心拍数を取得する。なお、第1のPPG信号、第2のPPG信号及び/又は第3のPPG信号により心拍数を取得する方法は当業者にとって周知であるため、ここで詳細の説明は省略する。
【0039】
具体的に言えば、ステップ244は、脈が浅いと判断した場合、第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比を第1の所定値と比較し、振幅比が第1の所定値よりも小さい場合、脈は弱いと判断し、振幅比が第1の所定値より大きい場合、さらに、第2のPPG信号の立ち上がり時間と第1の立ち上がり時間及び第2の立ち上がり時間それぞれとの大小関係を判断し、そのうち、第1の立ち上がり時間は第2の立ち上がり時間よりも大きい。
【0040】
第2のPPG信号の立ち上がり時間が第1の立ち上がり時間よりも大きい場合、脈は弱いと判断し、第2のPPG信号の立ち上がり時間が第2の立ち上がり時間よりも小さい場合、脈は強いと判断する。第2のPPG信号の立ち上がり時間が第1の立ち上がり時間と第2の立ち上がり時間の間にある場合、心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり勾配との第1の分類関数に基づいて、脈の強弱を判断することを含むことができる。
【0041】
図7~
図11を参照し、脈状が既に分かっている複数のユ-ザがウェアラブル装置110により取得した当該検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号及び取得した心拍数を基準値として分析し、前記第1の所定値、前記第1の立ち上がり時間、前記第2の立ち上がり時間、及び前記第1の分類関数を取得するステップを説明する。
【0042】
図7は脈状が浮脈に属すると既に分かっている複数のユ-ザの検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比と、心拍数との関係の分布図であり、
図8は
図7における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比が第1の所定値よりも大きい分布図であり、
図9は
図8のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり時間との関係に変換した分布図であり、
図10は
図9における第2のPPG信号の立ち上がり時間が第1の立ち上がり時間と第2の立ち上がり時間の間にある分布図であり、
図11は
図10のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり勾配との関係に変換した分布図である。
【0043】
そのうち、
図7~
図11における菱形ポイントは脈状が浮脈と虚脈であると既に分かっているユ-ザがウェアラブル装置110により測定したデ-タポイントを表し、三角形ポイントは脈状が浮脈と実脈であると既に分かっているユ-ザがウェアラブル装置110により測定したデ-タポイントを表す。
【0044】
本実施形態では、前記第1の所定値を1.8とし、前記第1の立ち上がり時間を32ミリ秒とし、前記第2の立ち上がり時間を25ミリ秒とし、前記第1の分類関数(
図11における点線に示される)をy=-13.2x+103とすることができ、但し、yは心拍数であり、xは第2のPPG信号の立ち上がり勾配である。この他、
図11において、y>-13.2x+103である時、当該デ-タポイントは実脈を表し、y<-13.2x+103である時、当該デ-タポイントは虚脈を表す。
【0045】
この他、ステップ244はさらに、当脈が深いと判断した場合、第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比を第2の所定値と比較し、振幅比が第2の所定値よりも大きい場合、脈は強いと判断し、振幅比が第2の所定値よりも小さい場合、さらに第2のPPG信号の立ち上がり時間を第3の立ち上がり時間と比較し、第2のPPG信号の立ち上がり時間が第3の立ち上がり時間よりも大きい場合、脈は強いと判断し、そして第2のPPG信号の立ち上がり時間が第3の立ち上がり時間よりも小さい場合、再び心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり勾配との第2の分類関数に基づいて、脈の強弱を判断することを含むことができる。
【0046】
図12~
図16を参照し、脈状が既に分かっている複数のユ-ザがウェアラブル装置110により取得した当該検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号及び取得した心拍数を分析して基準値とし、前記第2の所定値、前記第3の立ち上がり時間、及び前記第2の分類関数を取得するステップを説明する。
【0047】
図12は脈状が沈脈に属すると既に分かっている複数のユ-ザの検出情報における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比と、心拍数との関係の分布図である、
図13は
図12における第1のPPG信号と第2のPPG信号との振幅比が第2の所定値よりも小さい分布図であり、
図14は
図13のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり時間との関係に変換した分布図であり、
図15は
図14における第2のPPG信号の立ち上がり時間が第3の立ち上がり時間よりも小さい分布図であり、
図16は
図15のデ-タポイントを心拍数と第2のPPG信号の立ち上がり勾配との関係に変換した分布図である。
【0048】
そのうち、
図12~
図16における菱形ポイントは脈状が沈脈と虚脈であると既に分かっているユ-ザがウェアラブル装置110により測定したデ-タポイントを表し、四角形ポイントは脈状が沈脈と実脈であると既に分かっているユ-ザがウェアラブル装置110により測定したデ-タポイントを表す。
【0049】
図12~
図16から分かるように、前記第2の所定値を1.85とし、前記第3の立ち上がり時間を28.5ミリ秒とし、前記第2の分類関数(
図16における点線に示される)をy=60x-125とすることができ、但し、yは心拍数であり、xは第2のPPG信号の立ち上がり勾配である。この他、
図11において、y>60x-125である時、当該デ-タポイントは虚脈を表し、y<60x-125である時、当該デ-タポイントは実脈を表す。
【0050】
上記ステップにより第1の所定値、第2の所定値、前記第1の立ち上がり時間、前記第2の立ち上がり時間、前記第3の立ち上がり時間、前記第1の分類関数、及び前記第2の分類関数を取得し、当該数値又は関数を処理装置120に設定すれば、本発明の脈拍診断システム100の設定を完成させることができる。
【0051】
以上をまとめ、本発明の実施形態の脈拍診断システム及び方法は光検出信号(即ち第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号)により脈状を分析することができ、圧力検出素子を設けた脈拍診断システムに存在する押圧構造により橈骨動脈を押圧する圧力が異なるために、診断結果に影響する問題を解決することができる。
【0052】
この他、脈拍診断システムは送受信モジュ-ルにより第1のPPG信号、第2のPPG信号及び第3のPPG信号を受信し、圧力検出素子と押圧構造を設けることなく、構造が簡単で、使い易いという利点を有する。この他、第3のPPG信号を分析することにより脈の深浅を判断することができ、また、脈の深浅の判断結果に基づいて搭配第1のPPG信号と第2のPPG信号の分析と組み合わせて脈の強弱を判断することができる。
【0053】
本発明の図は以上説明された素子を含むが、発明の思想を逸脱しない限り、より多くの他の付加的な素子を用いて、より優れた技術效果を実現するものを排除するものではない。本発明は以上の実施形態について説明したが、これに限られるものではなく、如何なる当業者も、本発明の思想及び範囲を逸脱しない範囲で、様々な変更や修正を加えることができる。
【符号の説明】
【0054】
100:脈拍診断システム
110:ウェアラブル装置
112:送受信モジュ-ル
114:制御モジュ-ル
120:処理装置
122:表示モジュ-ル
210~240,242,244,310~340:ステップ