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特許7542055変性エラスチンの分解低下の抑制剤、正常なエラスチン線維の維持剤、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤及びこれらを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】変性エラスチンの分解低下の抑制剤、正常なエラスチン線維の維持剤、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤及びこれらを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20240822BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240822BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240822BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P17/00
A61P43/00 107
A61K8/60
A61Q19/00
A23L33/125
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022512144
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013020
(87)【国際公開番号】W WO2021200705
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2020061100
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 壮太
(72)【発明者】
【氏名】北川 小百合
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036276(JP,A)
【文献】特表2004-529958(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0369110(US,A1)
【文献】Experimental Dermatology,2011年,Vol.20,No.11,pp.943-944
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7004
A61P 17/00
A61P 43/00
A61K 8/60
A61Q 19/00
A23L 33/125
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトースを有効成分として含む変性エラスチンの分解低下の抑制剤
【請求項2】
フルクトースを有効成分として含む正常なエラスチン線維の維持剤
【請求項3】
エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
フルクトースを有効成分として含むエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤
【請求項5】
エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、エラスチン線維のターンオーバー促進のために使用される、請求項4に記載のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤。
【請求項6】
請求項1又は3に記載の変性エラスチンの分解低下の抑制剤を含む、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の正常なエラスチン線維の維持剤を含む、正常なエラスチン線維の維持用組成物。
【請求項8】
請求項4又は5のいずれか一項に記載のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤を含む、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物。
【請求項9】
フルクトースが、D-フルクトースである、請求項1~5のいずれか一項に記載の剤、又は、請求項6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
皮膚外用剤である請求項6~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
化粧料である請求項6~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
飲食品である請求項6~のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エラスチンの分解低下の抑制剤、正常なエラスチン線維の維持剤及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤に関する。本発明はまた、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物、正常なエラスチン線維の維持用組成物及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物に関する。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法及び正常なエラスチン線維を維持する方法等に関する。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制するための有効成分の使用、変性エラスチンの分解低下を抑制するための有効成分の使用、正常なエラスチン線維を維持するための有効成分の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エラスチンは、エラスチン線維(弾性線維)の主要な構成成分であり、皮膚、血管、肺等の弾性がその機能の発現に必須である組織に広く発現している。例えば皮膚真皮においては、エラスチン線維は皮膚に弾力性を与え、はりを保持する機能を有するが、加齢、紫外線等の要因によって、変性し伸縮性等が失われる。特に、皮膚が長年にわたり紫外線に曝露すると、真皮に変性エラスチンが蓄積して沈着し、弾力性に乏しく、しわが多い日光弾性線維症の原因となるとされている。
【0003】
日光弾性線維症にみられるような局所に変性エラスチンが蓄積する原因の一つとして、変性エラスチン分解の低下が考えられる。紫外線曝露した真皮において、エラスチン線維とエラフィンとの共局在が観察されており、エラスチンとエラフィンとがタンパク質複合体を形成していることが示唆されている。エラフィンはエラスターゼの阻害剤であり、エラスチンがエラフィンと結合して複合体(エラスチン-エラフィン複合体)を形成すると、エラスターゼによる分解に対して抵抗性を示すようになる。
【0004】
ところで自然界にその存在量が少ない単糖及びその誘導体と定義されている希少糖には、様々な有用な作用が報告されている。例えば特許文献1には、皮膚機能改善組成物として、D-プシコースが開示されている。また、特許文献2には、1種以上のケトヘキソースを含有する化粧品等が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、L-アルギニン、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、フルクトース等は、皮膚バリアー機能回復促進効果を有することが開示されている。また、特許文献4には、フルクトースとL-アルギニン-L-アスパラギン酸塩を含有する皮膚外用剤が開示されており、肌荒れ防止、改善に優れ、べたつき感や丘疹、面疱、濃疱、紅斑等の発生が少ないことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-36276号公報
【文献】特表2004-529958号公報
【文献】特許第3948588号
【文献】特開平5-112442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにエラスチンとエラフィンとが結合してエラスチン-エラフィン複合体を形成すると、該複合体は、エラスターゼに対して抵抗性を示す。従ってエラスチン-エラフィン複合体の形成は、エラスチンの分解を低下させ、エラスチン線維のターンオーバーを遅くする。エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することができれば、例えば、変性エラスチンの分解低下を抑制することができ、エラスチン線維のターンオーバーを促進することができる。また、変性エラスチンの蓄積が抑制又は改善されて、正常なエラスチン線維の維持が可能になると期待される。上述の通り、特許文献1には、D-プシコース及び/又はその誘導体を有効成分とする皮膚機能改善組成物に関し、これを生体の皮膚に適用すると、IV型コラーゲンの増加及びオキシタラン線維とエラウニン線維との両方でエラスチンの増加が認められ、皮膚の弾力性が向上することが開示されている。特許文献2には、ケトヘキソースとしてプシコースが開示されており、これを含んで成る化粧品又は皮膚科学的調整物により、皮膚のバリアー特性の維持回復、乾燥の抑制、色素沈着障害の抑制、老化の抑制等の効果を得られることが開示されている。特許文献3には、フルクトースの皮膚バリアー機能回復効果が開示されている。また、特許文献4には、フルクトースを含む皮膚外用剤が肌荒れ防止効果を有することが開示されている。しかしながら、上記特許文献1~4では、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質は検討されていない。
【0008】
本発明は、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することができるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法及び正常なエラスチン線維を維持する方法等を提供することを目的とする。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、正常なエラスチン線維を維持するための有効成分の使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、プシコース、フルクトース及びこれらの誘導体が、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下に限定されるものではないが、以下のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤等を包含する。
〔1〕下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体を有効成分として含む変性エラスチンの分解低下の抑制剤。
【化1】
(式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。)
〔2〕下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体を有効成分として含む正常なエラスチン線維の維持剤。
【化2】
(式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。)
〔3〕エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する、上記〔1〕又は[2]に記載の剤。
〔4〕下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体を有効成分として含むエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤。
【化3】
(式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。)
〔5〕エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、エラスチン線維のターンオーバー促進のために使用される、上記〔4〕に記載のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤。
〔6〕上記〔1〕又は〔3〕に記載の変性エラスチンの分解低下の抑制剤を含む、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物。
〔7〕上記〔2〕又は〔3〕に記載の正常なエラスチン線維の維持剤を含む、正常なエラスチン線維の維持用組成物。
〔8〕上記〔4〕又は〔5〕のいずれか一項に記載のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤を含む、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物。
〔9〕上記式(I)で表される化合物及びこれの誘導体が、プシコース及び/又はフルクトースである上記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の剤、又は、上記〔6〕~〔8〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔10〕前記式(I)中、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基であって、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基である、上記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の剤、又は、上記〔6〕~〔8〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔11〕前記式(I)中、Rがヒドロキシ基であって、Rが水素原子であって、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基である、上記〔1〕~〔5〕及び〔9〕のいずれか一項に記載の剤、又は、上記〔6〕~〔9〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔12〕皮膚外用剤である〔6〕~〔11〕のいずれかに記載の組成物。
〔13〕化粧料である上記〔6〕~〔11〕のいずれかに記載の組成物。
〔14〕飲食品である上記〔6〕~〔11〕のいずれかに記載の組成物。
〔15〕下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体を有効成分として投与する、エラスチン-エラフィン複合体形成又は変性エラスチンの分解低下を抑制する方法。
【化4】
(式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。)
〔16〕下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体を有効成分として投与する、正常なエラスチン線維を維持する方法。
【化5】
(式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。)
〔17〕エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、正常なエラスチン線維を維持するための下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体の使用。
【化6】
(式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することができるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物等を提供することができる。また、本発明によれば、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法及び正常なエラスチン線維を維持する方法等を提供することができる。また、本発明によれば、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、正常なエラスチン線維を維持するための有効成分の使用を提供することができる。
【0012】
エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、変性エラスチンの分解低下を抑制することが可能となる。また、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制は、正常なエラスチン線維の維持にも寄与し得る。本発明によれば、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法及び正常なエラスチン線維を維持する方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0014】
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤は、下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体を有効成分として含む。
【0015】
【化7】
【0016】
式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。
【0017】
式(I)は、プシコース又はフルクトースの鎖状構造を表す一般式であるが、これらは、例えば、水溶液中で異性化を起こし、環状構造との混合物になる。上記一般式(I)で表される化合物の誘導体には、上記一般式(I)で表される化合物の環状構造物やアルドン酸、ウロン酸、糖アルコール、アミノ糖などが含まれる。また、「一般式(I)で表される化合物及びこれの誘導体」は、プシコース、フルクトース及びこれらの誘導体であることが好ましく、プシコース及び/又はフルクトースであることがより好ましい。本明細書において、「一般式(I)で表される化合物及び/又はこれらの誘導体」は、「プシコース、フルクトース及び/又はこれらの誘導体」の表現に置き換えることができ、以下「プシコース、フルクトース及び/又はこれらの誘導体」の表現で説明する場合もある。
【0018】
後記の実施例に示されるように、上記の有効成分は、エラスチンとエラフィンとが結合して複合体(エラスチン-エラフィン複合体)を形成することを阻害する作用を有する。上記の有効成分は、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のために使用される。エラスチン-エラフィン複合体形成抑制は、エラスチンとエラフィンとの結合阻害ということもできる。
上記のように、エラスチン-エラフィン複合体の形成によりエラスチンの分解が低下する。エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制することにより、変性エラスチンの分解低下を抑制することができる。変性エラスチンの分解低下抑制により、エラスチン線維のターンオーバーが促進され、皮膚等の組織における変性エラスチンの蓄積が抑制又は改善されると期待される。また、正常なエラスチン線維の維持が可能になると期待される。
【0019】
本発明において、正常なエラスチン線維とは、エラスチン線維の本来の機能及び物性(強度、粘弾性等)を有するエラスチン線維を指す。変性エラスチンとは、本来と比べて有する機能や物性が損なわれたエラスチン線維及びその構成因子(トロポエラスチン、エラスチン分解物等)を指す。
本発明において、単にエラスチンという場合、及び、エラスチン-エラフィン複合体におけるエラスチンは、エラスチン線維の元となるトロポエラスチン、エラスチン線維中に含まれるエラスチン、及び加齢又は刺激に伴い、一部構造の変化、分解又は断片化が見られたトロポエラスチンやエラスチン線維を含む。
正常なエラスチン線維の維持とは、正常なエラスチン線維の量、並びに本来の機能及び物性の低下を抑制することを意味する。正常なエラスチン線維の量、並びに本来の機能及び物性の低下抑制は、本発明において有効成分として使用されるプシコース、フルクトース及び/又はこれらの誘導体を使用しなかった場合と比較して、正常なエラスチン線維の量、並びにその本来の機能及び物性の低下が抑制されればよい。
【0020】
一態様において、本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤は、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、エラスチン線維のターンオーバー促進のために好適に使用される。また、上記有効成分は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制することから、変性エラスチンの分解低下の抑制及び正常なエラスチン線維の維持のために使用することができる。
そのため、プシコース、フルクトース及び/又はこれらの誘導体を有効成分として含む変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤も、本発明に包含される。
【0021】
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤、変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤を、以下ではまとめて複合体形成抑制剤等ともいう。
【0022】
本発明の複合体形成抑制剤等においては、プシコース、フルクトース及び/又はこれらの誘導体を、有効成分として2以上組み合わせて含んでもよい。中でも、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用が高いことから、プシコースを含むことが好ましい。
【0023】
プシコースは、構造中にケトン基を有するケトースに分類される単糖類である。プシコースは、自然界から抽出されたもの、化学的または生物学的な方法により合成されたもの等を含め、どのような手段によっても入手可能である。例えば、フルクトースに異性化酵素を添加して反応させることによりプシコースを得ることができる。
【0024】
本発明に用いられるプシコースの由来は特に限定されず、所定の含有量に調整するために、市販のプシコース精製品を使用することができる。また、本発明に用いられるプシコースは、D-プシコース(上記式(I)中、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基であって、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基である化合物)であることが好ましい。
【0025】
フルクトースは、プシコースと同様に構造中にケトン基を有するケトースに分類される単糖類である。フルクトースは、自然界から抽出されたもの、化学的または生物学的な方法により合成されたもの等を含め、どのような手段によっても入手可能である。例えば、グルコース等に異性化酵素を添加して反応させることによりフルクトースを得ることができる。
【0026】
本発明に用いられるフルクトースの由来は特に限定されず、所定の含有量に調整するために、市販のフルクトース精製品を使用することができる。また、本発明に用いられるフルクトースは、D-フルクトース(上記式(I)中、Rがヒドロキシ基であって、Rが水素原子であって、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基である化合物)であることが好ましい。
【0027】
プシコースが、フルクトースに異性化酵素を添加して反応させることにより得られる場合、その反応は可逆的な平衡反応であり、プシコースとフルクトースの混合物が得られる。本発明の剤又は組成物が有効成分としてプシコース及びフルクトースを含む場合、プシコースとフルクトースの含有モル比(プシコース:フルクトース)が1:10~10:1であることが好ましい。
【0028】
本発明は、プシコースの誘導体及び/又はフルクトースの誘導体を用いてもよい。
誘導体とは、ある出発化合物から分子の構造を化学反応により変換した化合物の呼称である。例えば、六単糖であれば、糖アルコールやアミノ糖などが誘導体となる。プシコース及びフルクトースの場合、ケトン基がアルコール基となった糖アルコール、アルコール基が酸化したウロン酸、アルコール基がNH基で置換されたアミノ糖がプシコースの誘導体、フルクトースの誘導体となる。本発明に用いられるプシコースの誘導体は、D-プシコースの誘導体であることが好ましい。また、本発明に用いられるフルクトースの誘導体はD-フルクトースの誘導体であることが好ましい。本発明に用いられる有効成分としてD-プシコースの誘導体及びD-フルクトースの誘導体が含まれる場合、これらの含有モル比が1:1であることが好ましい。
【0029】
上述の通り、本発明に用いられるプシコースは、D-プシコース(上記式(I)中、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基であって、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基である化合物)が好ましく、本発明に用いられるフルクトースはD-フルクトース(上記式(I)中、Rがヒドロキシ基であって、Rが水素原子であって、Rが水素原子であって、Rがヒドロキシ基である化合物)が好ましい。本明細書において、「プシコース、フルクトース及び/又はこれらの誘導体」と説明する箇所は、全て、「D-プシコース、D-フルクトース及び/又はこれらの誘導体」を含むものである。
【0030】
本発明の複合体形成抑制剤等は、上記プシコース、フルクトース及び/又はこれらの誘導体である有効成分からなるものであってもよく、さらに他の成分や添加剤等が配合されていてもよい。
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤、変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤は、それ自体をエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤、変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤として使用することができる。また、後述するエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物等に配合して使用することができる。本発明の複合体形成抑制剤等は、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物等の有効成分として好適に使用される。
【0031】
上記の本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤を含む、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物も本発明の1つである。本発明の変性エラスチンの分解低下の抑制剤を含む、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物も本発明の1つである。本発明の正常なエラスチン線維の維持剤を含む、正常なエラスチン線維の維持用組成物も本発明の1つである。
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物及び正常なエラスチン線維の維持用組成物を、まとめて複合体形成抑制用組成物等ともいう。本発明の複合体形成抑制用組成物等は、上記有効成分を含有するものである。
本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、例えば、皮膚におけるエラスチン-エラフィン複合体の形成抑制のため、皮膚における変性エラスチンの分解低下の抑制のため、又は、皮膚において正常なエラスチン線維を維持するために好適に使用することができる。
【0032】
本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、治療用途(医療用途)又は非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。
上記の有効成分を含む本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、例えばエラスチン-エラフィン複合体形成抑制が所望される状態又は症状の予防又は改善に用いることができる。一態様において、本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、例えば、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、日光弾性症等の予防又は改善に用いることができる。また、本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、皮膚の弾性の維持、しわ及び/又はたるみの予防又は改善等の美容目的のためにも有用である。予防は、発症の防止、発症の遅延、発症率の低下等を包含する。改善は、症状の軽快、症状の好転、症状の進行抑制、症状の治癒等を包含する。
【0033】
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、化粧料、飲食品、医薬品、医薬部外品等の様々な用途に使用することができる。本発明の複合体形成抑制用組成物等は、それ自体が、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、正常なエラスチン線維を維持するための化粧料、飲食品、医薬品又は医薬部外品であってもよく、又は、該化粧料、飲食品、医薬品又は医薬部外品等に配合して使用される素材又は製剤等であってもよい。
【0034】
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、例えば、皮膚外用剤として好適に使用される。皮膚外用剤は、化粧料、医薬品、医薬部外品を含み、好ましくは化粧料である。一実施態様において、皮膚におけるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、皮膚における変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、皮膚において正常なエラスチン線維を維持するために使用する場合は、複合体形成抑制用組成物等を、皮膚外用剤とすることが好ましく、化粧料がより好ましい。
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、皮膚外用剤以外の医薬品又は医薬部外品として使用することもできる。
別の実施態様においては、複合体形成抑制用組成物等を飲食品とすることもできる。本発明の複合体形成抑制用組成物等を化粧料、医薬品、医薬部外品等の皮膚外用剤、飲食品等とする場合について以下に説明する。
【0035】
本発明の複合体形成抑制用組成物等を皮膚外用剤とする場合、剤形等は特に限定されず、例えば溶液、乳液、クリーム、ゲル、粉末、エアゾール、ミスト、カプセル及びシート等任意の形態とすることができる。皮膚外用剤は、好ましくは化粧料である。化粧料の製品形態も特に限定されず、例えば、洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、パック、乳液、クリーム、日焼け止め等のスキンケア化粧料;ファンデーション、化粧下地、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、アイブロー、頬紅、ネイルエナメル等のメイクアップ化粧料;ヘアシャンプー、ヘアリンス、整髪料、染毛料、育毛剤等の毛髪化粧料;石けん、ボディソープ等の洗浄料;入浴剤等が挙げられる。
【0036】
上記化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に許容される担体、添加剤等の成分、例えば、水、アルコール類、油剤、界面活性剤、増粘剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、キレート剤、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、包接化合物、抗菌剤、消臭剤、塩類、pH調整剤、紫外線吸収剤、上記以外の動植物・微生物由来の抽出物、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、他のビタミン類、保湿剤、殺菌剤、抗炎症剤、香料等の1又は2以上を適宜含有させることができる。化粧料は、一般的な製造法により製造することができる。例えば、上記有効成分と、上記の化粧料に使用し得る成分1又は2以上とを混合した後、所望の形態に加工することによって得ることができる。
【0037】
皮膚外用剤を医薬品又は医薬部外品とする場合、本発明の効果を損なわない範囲で、医薬品又は医薬部外品に許容される担体、添加剤等の成分を使用してもよい。そのような成分として、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられ、これらは必要に応じて使用できる。
【0038】
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、上述した皮膚外用剤以外の医薬品、医薬部外品とすることもできる。このような医薬品又は医薬部外品は、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。医薬品又は医薬部外品は経口投与製剤(内服剤)又は非経口投与製剤の形態とすることができる。経口投与製剤の剤形としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与製剤の剤形としては、注射剤、輸液剤等が挙げられる。このような医薬品又は医薬部外品には、医薬品又は医薬部外品に許容される担体、添加剤等の成分を使用してもよい。そのような成分として、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤等の1又は2以上が挙げられ、これらは必要に応じて使用できる。医薬品、医薬部外品は、一般的な製造法により製造することができる。例えば、上記有効成分と、医薬品又は医薬部外品において使用し得る成分の1又は2以上とを混合した後、所望の形態に加工することによって得ることができる。
【0039】
本発明の複合体形成抑制用組成物等を飲食品とする場合、飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品、病者用飲食品等が挙げられる。飲食品の形態も特に限定されない。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品等は、例えば、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤、流動食等の各種製剤形態とすることもできる。
【0040】
上記飲食品には、本発明の効果を損なわない範囲で、飲食品に許容される成分、例えば、他の飲食品材料、飲食品に配合される添加剤等を配合してもよい。このような飲食品は、一般的な製造法により製造することができる。例えば、飲食品の製造において、飲食品材料等に上記有効成分を配合すればよい。
【0041】
本発明の複合体形成抑制用組成物等が、皮膚外用剤、皮膚外用剤以外の医薬品又は医薬部外品、飲食品のいずれの形態の場合も、上記有効成分の含有量は、該組成物中に、例えば、上記有効成分の重量として、0.0000001~100重量%が好ましく、0.000001~100重量%がより好ましく、0.000001~10重量%がさらに好ましく、0.000001~5重量%がよりさらに好ましく、0.000001~4.5重量%が特に好ましい。上記含有量は、2種以上の上記有効成分を含む場合は、その合計の含有量である。
【0042】
本発明の複合体形成抑制用組成物等の使用量は、特に限定されず、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する効果が得られるような量であればよく、対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って適宜設定することができる。化粧料等の皮膚外用剤であれば、例えば、成人(60kg)1人当たり1日当たり、上記有効成分として、例えば、0.00001~10gが好ましく、0.0001~1gがより好ましい。また、0.00001~500mgであってもよい。医薬品又は医薬部外品を経口投与する場合の投与量は、例えば、成人(60kg)1人当たり1日当たり、上記有効成分として、例えば、0.00001~10gが好ましく、0.0001~1gがより好ましい。また、0.00001~500mgであってもよい。飲食品であれば、その摂取量は、例えば、成人(60kg)1人当たり1日当たり、上記有効成分として、例えば、0.00001~100gが好ましく、0.0001~10gがより好ましく、0.001~1gが特に好ましい。また、0.00001~500mgであってもよい。上記量の有効成分を、単回又は複数回に分けて摂取又は投与することができる。上記有効成分を含む皮膚外用剤を皮膚に適用(投与)するタイミング、飲食品、医薬品又は医薬部外品を摂取又は投与するタイミングは特に限定されない。
【0043】
本発明の複合体形成抑制用組成物等の適用対象(投与対象ということもできる)としては、特に限定されず、ヒト又は非ヒト哺乳動物等に適用することができるが、ヒトが好ましい。適用対象としては、例えば、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制を希望する又は必要とする対象、変性エラスチンの分解低下の抑制を希望する又は必要とする対象、正常なエラスチン維持を希望する又は必要とする対象等が挙げられる。このような対象として、例えば、紫外線曝露(特に過剰な紫外線への曝露)や、加齢に伴う望まない皮膚変化、特にしわ及び/又はたるみに悩む男性及び女性が挙げられる。
【0044】
本発明は、以下の使用及び方法も包含する。
エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、正常なエラスチン線維を維持するための下記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体の使用。
【0045】
【化8】
【0046】
式(I)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシ基であり、Rが水素原子の場合Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子であり、Rが水素原子の場合、Rはヒドロキシ基であり、Rがヒドロキシ基の場合Rは水素原子である。
【0047】
上記一般式(I)で表される化合物及び/又はこれの誘導体にかかる有効成分を投与する、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制する方法;上記有効成分を投与する、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法;上記有効成分を投与する、正常なエラスチン線維を維持する方法。
上記有効成分は、好ましくは皮膚に適用され、皮膚におけるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、皮膚において変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、皮膚における正常なエラスチン線維を維持するために好適に使用される。
【0048】
上記使用及び方法において、上記有効成分、これを投与する対象及びこれらの好ましい態様等は、上述した本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等におけるものと同じである。上記有効成分は、そのまま使用してもよく、その他の成分と組み合わせて使用してもよい。本発明の複合体形成抑制剤等又は複合体形成抑制用組成物等を使用してもよい。上記有効成分は上述した皮膚外用剤、飲食品等の形態で使用することができる。
上記使用は、治療的使用であってもよく、非治療的使用であってもよい。
上記方法は、治療的な方法であってもよく、非治療的な方法であってもよい。
非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
【0049】
本発明の別の態様は、上記有効成分のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物を製造するための使用;上記有効成分の、変性エラスチンの分解低下抑制用組成物を製造するための使用;上記有効成分の、正常なエラスチン線維維持用組成物を製造するための使用でもある。上記有効成分及びこれらの好ましい態様等は、上述した本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等におけるものと同じものである。
なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全ては、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
サンプルには、以下の有効成分を使用した。
(1)D-プシコース(東京化成工業(株)製)
(2)D-フルクトース(東京化成工業(株)製)
【0052】
Solid phase binding assayにより、サンプルのエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を評価した。Solid phase binding assayは、以下の方法で行った。希釈バッファーには、0.5%血清アルブミン含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用した。有効成分(D-プシコース又はD-フルクトースの粉末)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させて使用した。
トロポエラスチン及び血清アルブミンを重炭酸バッファー(14mM 炭酸水素ナトリウム、6mM 炭酸ナトリウム)にて20μg/mLに希釈したものを、96穴プレートに100μLずつ添加した。
パラフィルムで蓋を密閉した後、4℃で24時間反応させた。反応液を除去し、各ウェルあたり150μLのウォッシュバッファー(0.5% Tween20 in PBS)を添加した後、ウォッシュバッファーを除去した。これを3回繰り返した。このステップを以下「洗浄」とする。次いで、各ウェルあたり100μLのブロッキングバッファー(5% スキムミルク in PBS)を添加した後、室温で1時間反応させた。ブロッキングバッファーの洗浄を行った後、複合体形成反応を行った。サンプルの複合体形成反応においては、各ウェルあたり50μLの複合体反応液(エラフィン(終濃度1μg/mL)、上記の有効成分(D-プシコース又はD-フルクトース)(終濃度0.1~100μg/mL)及びDMSO(終濃度0.1%)を希釈バッファー中に含む)を添加し、37℃で1時間反応させた。
【0053】
複合体反応液を洗浄した後、エラフィン認識1次抗体反応液を添加し、37℃で1時間反応させた。1次抗体反応液を洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識特異的2次抗体反応液を添加し、室温で1時間反応させた。2次抗体反応液を洗浄した後、各ウェルあたり100μLのTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)溶液を添加し、室温で30分間反応させた。各ウェルあたり100μLの1M リン酸を添加し反応を停止した後、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定した(波長450nm)。
【0054】
陰性対照として、複合体形成反応において、上記のエラフィン及びD-プシコース又はD-フルクトースを含む複合体反応液の代わりに、エラフィン(終濃度1μg/mL)及びDMSO(終濃度0.1%)を含む希釈バッファーを各ウェルあたり50μL添加して反応を行った。バックグラウンドとして、複合体形成反応において、上記のエラフィン及び有効成分(D-プシコース又はD-フルクトース)を含む複合体反応液の代わりに、DMSO(終濃度0.1%)を含む希釈バッファー(エラフィン及び有効成分を含まない)を各ウェルあたり50μL添加して反応を行った。上記以外は、有効成分を添加したサンプルと同じ方法で抗体反応液との反応を行い、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定した(波長450nm)。
【0055】
上記アッセイで使用した試薬等はいずれも市販品を使用した。
トロポエラスチンには、非修飾の全長ヒトトロポエラスチン(Sigma-Aldrich社、#T0706)を、エラフィンには、C末端にポリヒスチジンタグ(Hisタグ)が付加した全長ヒトエラフィン(Sino Biological Inc. #12187-H08H)を使用した。
【0056】
D-プシコース又はD-フルクトース(サンプル)、陰性対照及びバックグラウンドの450nmの吸光度から、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制率(%)を、下記の計算式により算出した。なお、上記の試験は、D-プシコース又はD-フルクトース(サンプル)、陰性対照及びバックグラウンドについて各n=4~6で試験を行い、450nmの吸光度の平均から複合体形成抑制率を求めた。
複合体形成抑制率(%)=100-100×(Ab(S)-Ab(NC))/(Ab(PC)-Ab(NC))
【0057】
上記式中、Ab(S)はD-プシコース又はD-フルクトース(サンプル)の波長450nm吸光度、Ab(NC)はバックグラウンドの波長450nm吸光度、Ab(PC)は、陰性対照の波長450nm吸光度を示す。有意差検定は、Dunnett’s testにより行った(vs.陰性対照)(有意水準:p<0.05)。
【0058】
D-プシコース又はD-フルクトースのエラスチン-エラフィン複合体形成抑制率を、表1に示す。なお、下記表1では、いずれも2回同様の試験を行い、抑制率の大きい結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1より、被検物質(D-プシコース、D-フルクトース)は、変性エラスチンの分解低下の抑制、正常なエラスチン線維の維持又はエラスチン-エラフィン複合体形成抑制のための有効成分として使用できることが確認された。