(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ハロゲン化アルコキシエタンの調製
(51)【国際特許分類】
C07C 41/06 20060101AFI20240822BHJP
C07C 43/12 20060101ALI20240822BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C07C41/06
C07C43/12
C07B61/00 C
(21)【出願番号】P 2022537772
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 AU2019051412
(87)【国際公開番号】W WO2021119717
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】590003283
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ツァナクツィディス
(72)【発明者】
【氏名】セシリー エルドリッジ
(72)【発明者】
【氏名】スコット コートニー
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04365097(US,A)
【文献】米国特許第03264356(US,A)
【文献】特公昭38-002854(JP,B2)
【文献】特開2007-039376(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016377(WO,A1)
【文献】特表2023-514477(JP,A)
【文献】特表2005-500350(JP,A)
【文献】特表2020-533330(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222048(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02404666(EP,A1)
【文献】英国特許出願公告第00928786(GB,A)
【文献】有機合成化学協会誌,2012年,Vol. 70, No. 2,Pages 81-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/06
C07C 43/12
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式XClHC-CF
2OR(式中、Xは-Cl又は-Fであり、ORはC
1-4アルコキシである)のハロゲン化アルコキシエタンの連続調製のためのプロセスであって、(i)一般式XClC=CF
2の化合物と、(ii)塩基と、(iii)C
1-4アルカノールとを含む反応成分をフロー反応器に導入する工程を含み、
a)前記フロー反応器が、115mm
2未満の内部断面積を有する1以上の管状フローラインを含み、当該フローラインを通って前記反応成分が反応混合物として流れ、
b)前記ハロゲン化アルコキシエタンが少なくとも前記反応成分の混合時に形成され、そのように形成されたハロゲン化アルコキシエタンが前記フロー反応器から反応器流出液に流出し、
前記塩基が、
40℃以下で、前記C
1-4アルカノールとの溶液で使用され、
前記塩基が、アルカリ金属塩基カチオン、アンモニウム塩基カチオンまたはホスホニウム塩基カチオンを含む、プロセス。
【請求項2】
前記1以上の管状フローラインが、30mm
2未満の内部断面積を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記1以上の管状フローラインが、円形の内部断面を有する、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記1以上の管状フローラインの直径が、0.1~6mmである、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記1以上の管状フローラインが、コイル状配置で提供される、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記1以上の管状フローラインが、少なくとも100mlの総内部体積を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ハロゲン化アルコキシエタンを含む前記反応器流出液が、少なくとも50ml/分の流量で前記反応器から流出する、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記反応器流出液が、少なくとも90体積%の前記ハロゲン化アルコキシエタンを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記フロー反応器が、5分未満の滞留時間を提供する、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記反応混合物が、(i)前記C
1-4アルカノール及び前記塩基の前記溶液のフローと(ii)一般式XClC=CF
2の前記化合物のフローとを1:1~10:1の流量比に従って混合することによって得られる、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記塩基が、塩基及びC
1-4アルカノールの総重量に対して1重量%~30重量%の量で使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
一般式XClC=CF
2の前記化合物が、Cl
2C=CF
2又はFClC=CF
2である、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記C
1-4アルカノールが、メタノール(CH
3OH)、エタノール(CH
3CH
2OH)、1-プロパノール(CH
3CH
2CH
2OH)、2-プロパノール((CH
3)
2CHOH)、1-ブタノール(CH
3CH
2CH
2CH
2OH)、2-ブタノール(CH
3CH
2CHOHCH
3)、2-メチル-1-プロパノール((CH
3)
2CHCH
2OH)、2-メチル-2-プロパノール((CH
3)
3COH)及びこれらの組合せから選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記ハロゲン化アルコキシエタンが、Cl
2HC-CF
2OCH
3(メトキシフルラン)又はClFHC-CF
2OCH
3である、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記塩基が、塩基対一般式XClC=CF
2の化合物の1未満のモル比で使用される、請求項1~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジル(トリメチル)アンモニウム、塩化N-メチル-N,N,N-トリオクチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラメチルホスホニウムから選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記反応器流出液に水を添加する、請求項1~16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記反応器流出液又は前記反応器流出液に由来し前記ハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相を酸で処理する精製工程をさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
以下の順序で:
a)前記反応器流出液と極性溶媒とを混合して、極性相と有機相との相分離を誘導する工程、
b)前記有機相を前記極性相から分離する工程、
c)分離した有機相をアミンで処理する工程、
d)c)で得られた前記有機相を酸溶液で洗浄する工程、
e)d)で得られた前記有機相を乾燥させる工程および
f)e)で得られた前記有機相を蒸留して前記ハロゲン化アルコキシエタンを含む精製留分を回収する工程、
を含む精製手順をさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記酸が、塩酸、硫酸、亜硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、硝酸、亜硝酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸及びこれらの組合せから選択される、請求項18又は19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記酸がメタンスルホン酸である、請求項18又は19に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【本発明の技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ハロゲン化アルコキシエタンの連続調製に関し、特に、一般式XClHC-CF2OR(式中、Xは-Cl又は-Fであり、ORはC1-4アルコキシである)のハロゲン化アルコキシエタンの連続調製のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化アルコキシエタン化合物は、農薬、染料、難燃剤及び造影剤はもちろん、現在の医薬品有効成分のかなりの割合を占めている。
【0003】
医薬品有効成分として使用されるハロゲン化アルコキシエタン化合物の合成には、再現性の高い医薬品グレードの化合物が必要である。従来、ハロゲン化アルコキシエタン化合物は、バッチ法により製造されていた。しかし、バッチごとの品質にばらつきがあり、該方法では高圧装置の使用が求められる場合がある。現在のバッチ法は、通常試薬の混合が不十分で不均一なため、比較的低い変換収率で長い反応時間を余儀なくさせる。その結果、ハロゲン化アルコキシエタン化合物の従来の合成では、医薬品グレードの化合物を商業的に適切な規模で確実に生産するために、高価な後処理精製法がほぼ必然的に必要となる。
【0004】
さらに、ハロゲン化アルコキシエタン化合物を形成する反応は発熱が大きいため、従来のバッチ法における熱制御は特に困難である。また、有毒で反応性の高い中間体及び副生成物(例えばハロゲン化物)が形成される可能性もあり、安全性及び廃棄物管理上の大きな課題となっている。
【0005】
従来のバッチ法とは対照的に、半バッチ又は半連続配置を使用した連続生産では、従来のバッチ法よりも高い収率を得ることができる。しかし、反応副生成物の析出が制御されず、反応器ラインの詰まりを頻繁に取り除き、洗浄する必要があり、プロセスの連続性が損なわれる。また、これらの代替配置は、熱制御、安全性、廃棄物管理、長い反応時間及び低い変換収率の観点から、従来のバッチプロセスの課題に完全に対処することはできない。
【0006】
したがって、従来のハロゲン化アルコキシエタン化合物の合成方法の問題点及び制限を改善する機会が残されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一般式XClHC-CF2OR(式中、Xは-Cl又は-Fであり、ORはC1-4アルコキシである)のハロゲン化アルコキシエタンの連続調製のためのプロセスであって、(i)一般式XClC=CF2の化合物と、(ii)塩基と、(iii)C1-4アルカノールとを含む反応成分をフロー反応器に導入する工程を含み、
a)フロー反応器が、115mm2未満の内部断面積である1以上の管状フローラインを含み、このフローラインを通って反応成分が反応混合物として流れ、
b)ハロゲン化アルコキシエタンが少なくとも反応成分の混合時に形成され、そのように形成されたハロゲン化アルコキシエタンがフロー反応器から反応器流出液に流出する、
プロセスに関する。
【0008】
本発明により、反応成分はフロー反応器に連続的に導入され、そこで目的のハロゲン化アルコキシエタンを含む反応器流出液に変換され得る。流出液は反応器から連続的に流出し、必要に応じてさらなる処理及び/又は精製に利用可能である。このプロセスの連続的な性質により、ハロゲン化アルコキシエタンを商業的に大量生産することが可能となる。
【0009】
本発明のフロー反応器は、内部断面積が115mm2未満の1以上の管状フローラインを含むことにより、管状フローラインの比表面積が高いため、高い熱交換効率を確保することが可能である。また、反応成分を反応混合物として流す1以上の管状フローラインの特定の配置により、反応成分の混合を迅速かつ十分に行うことができ、反応時間及び変換収率の点で従来の方法より大幅に改善される。
【0010】
さらに、管状フローラインは、従来のシステムと比較して、より制御された反応環境を提供し、フロー反応器を本質的に安全に操作できるようにし、従来の装置と比較してより純粋な生成物の製造を可能にする。その意味で、本発明の反応器では、温度及び圧力の極限状態を容易に実現し、化学反応性を高めつつ、プロセスパラメータを完全に制御することができる。
【0011】
このため、目的とするハロゲン化アルコキシエタンの形成に関わる非常に高速かつ高発熱の反応においても、高い反応選択性及び安全性を実現することができる。また、小断面管状フローラインによってもたらされる優れた熱性及び物質移動特性と、反応が反応チャネルの長さ方向に沿って分解されるという事実とから、溶液の熱的又は化学的クエンチにより中間体又は生成物の滞留時間を正確に制御することが可能である。
【0012】
また、小断面管状フローラインによってもたらされる制御された反応環境により、有害化学物質の形成も容易に制御できることが保証される。有毒物質はライン上で容易にクエンチできるため、望ましくない暴露を回避し、プロセスの安全性を大幅に向上させることができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、1以上の管状フローラインは、30mm2未満の内部断面積を有する。例えば、1以上の管状フローラインの内部断面積は、約28mm2であり得る。それらの実施形態は、良好な熱制御及び安全性、短い反応時間、高い変換収率及び高いスケールアップ可能性の間の有利な妥協点を、医薬品グレードのハロゲン化アルコキシエタンの高スループット生産のために提供することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、1以上の管状フローラインの内部断面積は5mm2未満であり、これは反応器成分の混合の程度をさらに改善し、したがって、熱制御及び安全性、効率的な廃棄物管理、短い反応時間並びに高い変換収率の点で前述の利点を向上させる。
【0015】
いくつかの特に有利な配置によれば、1以上の管状フローラインは、円形の内部断面を有する。いくつかの実施形態において、円形の内部断面を有する管状フローラインの直径は、0.1~6mm、例えば0.1~2mmである。これらの配置は、反応成分の効率的な混合を得るために特に有効であり、反応時間をさらに短縮し、変換収率を向上させることができる。
【0016】
各管状フローラインの規模は小さいが、複数の管状フローラインで容易に反応器を運転することができるため、大量生産へのスケールアップが比較的容易になる。その結果、反応条件の最適化をほとんど又は全く行うことなくスケールアップを行うことができる。これに関して、同量のハロゲン化アルコキシエタンを製造するために単一のマクロフローラインを開発するよりも、管状フローラインを単に「増大」させて所定量のハロゲン化アルコキシエタンを製造する方がより効果的かつ効率的であり得る。本発明によるプロセスは、1本のフローラインを使用して少量のハロゲン化アルコキシエタン(例えば、1日当たり数グラムの割合)を製造するために行うことができる一方、フローラインは、容易に「増大」されてより商業的に関連する量のハロゲン化アルコキシエタン(例えば、1日当たり数グラム~数キロ)を製造することができ、しかも安全性、生成物の純度、反応時間、反応収率及び安全性に関する同一の基準を維持することができる。
【0017】
また、本発明のプロセスは、商業的に関連するハロゲン化アルコキシエタン化合物の製造に特に有利である。
【0018】
例えば、いくつかの実施形態では、一般式XClC=CF2の化合物は、Cl2C=CF2である。それらの場合、本発明のプロセスでは、C1-4アルカノールがメタノールである場合に得ることができるメトキシフルラン(Cl2HC-CF2OCH3)などのハロゲン化アルコキシエタン化合物を効率的かつスケーラブルに製造することが可能である。反応収率が高いことから、本プロセスは医薬品グレードのメトキシフルランを簡便かつ大規模に合成することが可能である。
【0019】
いくつかの実施形態では、一般式XClC=CF2の化合物は、FClC=CF2である。それらの場合、本発明のプロセスは、C1-4アルカノールがメタノールである場合に得ることができるClFHC-CF2OCH3を効率的かつスケーラブルに製造することが可能である。ClFHC-CF2OCH3は、2-クロロ-1,1,2,-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(エンフルラン)の合成における既知前駆体であるため、高純度で大量の製造が可能なことは特に有利であると考えられる。
【0020】
本発明のさらなる態様及び実施形態は、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
また、本発明は、以下の非限定的な図面を参照して、本明細書において説明される。
【
図1】本発明の実施形態に係るハロゲン化アルコキシエタン化合物を連続的に製造するための適切な設定の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る管状フローラインの配置を示す断面側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るハロゲン化アルコキシエタン化合物を連続的に製造するための適切な設定を示す概略図である。
【
図4】実施例5に記載の手順に従い、サンプル1として得られた反応器流出液/水混合物のガスクロマトグラフィースペクトルを示す図である。
【
図5】実施例5に記載の手順に従い、サンプル2として得られた反応器流出液/水混合物のガスクロマトグラフィースペクトルを示す図である。
【
図6】実施例5に記載の手順に従い、サンプル3として得られた反応器流出液/水混合物のガスクロマトグラフィースペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のプロセスは、一般式XClHC-CF2OR(式中、Xは-Cl又は-Fであり、ORはC1-4アルコキシである)のハロゲン化アルコキシエタンの連続調製のためのプロセスである。
【0023】
本明細書で使用される場合、「C1-4アルコキシ」という表現は、1~4個の炭素を有する直鎖又は分岐アルコキシ基を表す。直鎖及び分岐アルコキシの例には、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ及びt-ブトキシが含まれる。
【0024】
いくつかの実施形態では、Xは-Clであり、ORはメトキシ基であり、この場合、ハロゲン化アルコキシエタンは、式Cl2HC-CF2OCH3(メトキシフルラン)を有する。
【0025】
いくつかの実施形態では、Xは-Fであり、ORはメトキシ基であり、この場合、ハロゲン化アルコキシエタンは、式FClHC-CF2OCH3を有する。そのような化合物は、2-クロロ-1,1,2,-トリフルオロエチル-ジフルオロメチルエーテル(エンフルラン)を合成するための既知の前駆体である。
【0026】
本発明のプロセスは、ハロゲン化アルコキシエタンの連続調製のためのプロセスであり、連続フロー反応器の使用に基づくものである。調製が「連続的」であるということは、反応器成分が混合され、管状フローラインを流れるにつれてハロゲン化アルコキシエタンが連続的に形成されることを意味する。このように、そのように形成されたハロゲン化アルコキシエタンは、フロー反応器から連続的に出る流出液から回収することができる。
【0027】
「フロー反応器」とは、(1)反応成分を1以上の管状フローラインに連続的に導入し、それらを管状フローラインを通して反応混合物として流し、(2)ハロゲン化アルコキシエタンを含む流出液を反応器から連続的に流出させることができるように設計されている反応器を意味する。
【0028】
本発明のプロセスで使用されるフロー反応器は、1以上の管状フローラインを含む。「管状フローライン」という表現は、その主要な長さに沿って内部流体が流れることを可能にする細長い中空管を意味する。
【0029】
いくつかの実施形態では、フロー反応器は、1つの管状フローラインを含む。それらの実施形態において、単一の管状フローラインは、フロー反応器の入口と出口とを接続する。
【0030】
いくつかの実施形態では、フロー反応器は、2以上の管状フローラインを含む。例えば、フロー反応器は、平行フロー配置の2以上の管状フローラインを含み得る。「平行フロー」配置とは、流体が反応器の同じ端部で各管状フローラインに入り、同じ方向に沿って各ライン内を流れ、反応器の同じ端部で各管状フローラインから出ることを意味する。有利には、これらの実施形態は、反応条件を再最適化する必要がなく、管状フローラインの数を単に増加させることによって、反応器出力の直接的なスケールアップを可能にする。それらの実施形態において、フロー反応器は、反応器成分(又は反応混合物)の導入及び反応器流出液の抽出のために、単一の入口及び単一の出口をそれぞれ有し得る。したがって、反応器は、単一の入口から流れる流体が、各単一のフローラインにわたって分配/細分化され、その後、他端で収集されて単一の流出ラインとして反応器から流出することを可能にする内部配置を備え得る。
【0031】
管状フローライン(又は2以上の管状フローラインの一つ一つ)の内部断面積は、115mm2未満である。例えば、管状フローラインの内部断面積は、約100mm2未満、約50mm2未満、25mm2未満、10mm2未満又は5mm2未満であり得る。誤解を避けるため、本明細書において「内部」断面積とは、管状フローライン内を流体が流れる断面積のことを意味する。
【0032】
いくつかの実施形態では、管状フローライン(又は2以上の管状フローラインの一つ一つ)の内部断面積は、約30mm2未満である。例えば、管状フローライン(又は2以上の管状フローラインの一つ一つ)の内部断面積は、約0.2mm2~約30mm2であり得る。いくつかの実施形態では、1以上の管状フローラインの内部断面積は、約28mm2である。これらの寸法は、反応混合物の効果的な混合と効果的な熱制御のための比表面積との特に有利な組合せを提供する。例えば、これらのサイズの管状フローラインは、スタティックミキサーを収容するのに十分な大きさでありながら、効果的な熱制御のために十分に大きな比表面積を提供する。したがって、結果として反応器は、スケールアップに有利なプラットフォームとなる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、値又は質量、重量、時間、体積、濃度、割合などの量に言及する場合、特定の量から、いくつかの実施形態では±20%、いくつかの実施形態では±10%、いくつかの実施形態では±5%、いくつかの実施形態では±1%、いくつかの実施形態では±0.5%及びいくつかの実施形態では±0.1%の変動を包含し得る。
【0034】
有利には、本明細書に記載される種類の1以上の管状フローラインにおけるハロゲン化アルコキシエタンの連続合成は、従来方法に従ってバッチシステムで行われる対応する合成よりも効率的である。その点で、本明細書に記載された種類の流体システムにおける流体挙動は、巨視的環境における流体挙動と大きく異なる。巨視的環境における流体力学は、主に圧力及び重力によって支配されているが、本発明のフロー反応器では、表面張力、エネルギー散逸及び流体抵抗が流体力学を決定し始める。さらに、本明細書に記載された種類の1以上の管状フローラインによってもたらされる混合効率は、従来のプロセスのものよりも優れている。
【0035】
内部断面積が5mm未満2の管状フローラインを使用することも、特に有利である。管状フローラインの内部断面積が5mm2未満である場合、フローライン内で達成可能な反応成分の混合効率の向上により、ラインを通って流れる反応混合物の均一性が有利に高くなる。さらに、管状フローラインの断面積が小さいため、表面積対体積比が著しく高いことが特徴である。その結果、熱伝達(したがって熱制御)が容易になる。
【0036】
管状フローラインの内部断面積が115mm2未満である場合、内部断面積は任意の形状をとることができる。内部断面積の適切な形状の例としては、円形形状、正方形形状、長方形形状、三角形形状又は当該技術分野で知られている他の形状が挙げられる。これは、当業者に知られているような種類の丸いチューブ及び/又は四角いチューブを使用することによって達成され得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、管状フローラインは、円形の内部断面形状を有する。「円形」形状を有することによって、ラインの内部断面は、平均内径によって特徴付けられる円形形状を有する。例えば、内部断面は、円形状であり得る。
【0038】
そのようなフロー反応器を形成する管状フローラインの平均内径は、0.1mm~12mmの範囲であり得る。反応管直径(内径)は、典型的には、0.2mm以上12mm未満(並びにその間の任意の整数及び/又はその端数、例えば、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mmなどを含む)であり得る。一実施形態では、反応管直径は、2mm以上10mm以下である。いくつかの実施形態では、反応管直径は、2mm以上8mm以下である。いくつかの実施形態では、管状フローラインの平均内径は約6mmである。それらの寸法は、反応混合物の効果的な混合と効果的な熱制御のための比表面積との特に有利な組合せを提供する。例えば、それらのサイズのいずれかの管状フローラインは、本明細書に記載の種類のスタティックミキサーを収容するのに十分に大きく、しかも効果的な熱制御のために十分に大きな比表面積を提供する。その結果、反応器は、ハロゲン化アルコキシエタンを特に高い収率で提供するように操作することができる。したがって、結果として反応器は、医薬品グレードのハロゲン化アルコキシエタンのスケールアップ生産に有利なプラットフォームとなる。
【0039】
いくつかの実施形態では、フロー反応器は、内径が約2mm以下、例えば約1mm以下、約0.5mm以下又は0.1mm以下である1以上の管状フローラインを含む。
【0040】
そのようなフロー反応器が提供する特別な利点は、その高い表面積対体積比であり、その範囲は約1,000~20,000m2/m3をはるかに超えることがある。これは、従来のバッチ反応器の表面積対体積比が通常数百m2/m3のオーダーであることと著しく対照的である。高い表面積対体積比の結果、そのようなフロー反応器は、フローライン壁面での熱伝達に優れ、発熱反応の効率的かつ迅速な冷却及び擬等温プロセス制御を可能にする。
【0041】
したがって、1以上の管状フローラインは、100~40,000m2/m3、200~30,000m2/m3、300~20,000m2/m3、500~15,000m2/m3又は12,000~10,000m2/m3の範囲の比表面積(m2/m3)となるように寸法決めされ得る。いくつかの実施形態では、比表面積は、少なくとも100m2/m3、少なくとも200m2/m3、少なくとも300m2/m3、少なくとも400m2/m3、少なくとも500m2/m3、少なくとも750m2/m3、少なくとも1,000m2/m3、少なくとも2,000m2/m3、少なくとも3,000m2/m3、少なくとも4,000m2/m3、少なくとも5,000m2/m3、少なくとも7,500m2/m3、少なくとも10,000m2/m3、少なくとも12,500m2/m3、少なくとも15,000m2/m3、少なくとも17,500m2/m3又は少なくとも20,000m2/m3である。比表面積はいくつかの技法で測定でき、工業規模の合成に適したいくつかの構成で組み立てられ得ることが理解されよう。
【0042】
また、管状フローラインの内径が8mm以下、例えば6mmである場合、管状ラインを流れる反応混合物の混合効率が向上する。それらの場合、フロー反応器は、内径が約0.1mm~約8mm又は約1mm~約6mmの範囲である1以上の管状フローラインを含み得る。さらなる実施形態では、フロー反応器は、内径が約6mmである1以上の管状フローラインを含む。この寸法は、所望のスループット規模に応じて変更することができる。これらの寸法の管状フローラインを用いた効果的な混合は、本明細書に記載される種類のスタティックミキサーの有無にかかわらず達成され得る。いくつかの実施形態では、1以上の管状フローラインは、ライン内に配置されたスタティックミキサーを含む。
【0043】
1以上の管状フローラインは、反応成分、ハロゲン化アルコキシエタン及び任意の反応中間体又は副生成物に対して化学的に不活性な材料で作られた内面を有し得る。その点で、管状フローライン自体は、前記材料で作られ得るか、又は前記材料で作られた内部ライニングを有し得る。さらに、管状フローラインが作られる材料又は(若しくは内部に裏打ちされる)材料は、それを通過する流体の流量圧力及び体積に耐えるのに適した強度及び構造的完全性を有するものでなければならない。
【0044】
ラインを流れる化合物の性質に応じて、金属、合金及びポリマーが、管状フローラインの内面材料として特に好ましい。したがって、管状フローラインに使用するのに適した材料の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、フルオロカーボン(例えば、テフロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素化エチレンプロピレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオロライド、パーフルオロアルコキシアルカンなど)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ガラス繊維強化プラスチック、Ni基合金及びNo-Mo基合金が挙げられる。当業者であれば、本発明における管状フローラインの内面材料として使用するのに適した他の材料を容易に特定することが可能であろう。
【0045】
本発明のプロセスは、(i)一般式XClC=CF2の化合物と、(ii)塩基と、(iii)C1-4アルカノールとを含む反応成分をフロー反応器に導入する工程を含む。
【0046】
一般式XClC=CF2の化合物は、Xが-Cl又は-Fであるその式の任意の化合物であり得る。いくつかの実施形態では、Xは-Clであり、この場合、一般式XClC=CF2の化合物は、Cl2C=CF2である。いくつかの実施形態では、Xは-Fであり、この場合、一般式XClC=CF2の化合物は、FClC=CF2である。
【0047】
C1-4アルカノールは、一般式XClC=CF2の化合物のC=C結合への付加反応を促進し、結果として第2の炭素に結合したC1-4アルコキシ基をもたらす任意のC1-4アルカノールであり得る。いくつかの実施形態では、C1-4アルカノールは、メタノール(CH3OH)、エタノール(CH3CH2OH)、1-プロパノール(CH3CH2CH2OH)、2-プロパノール((CH3)2CHOH)、1-ブタノール(CH3CH2CH2CH2OH)、2-ブタノール(CH3CH2CHOHCH3)、2-メチル-1-プロパノール((CH3)2CHCH2OH)、2-メチル-2-プロパノール((CH3)3COH)及びこれらの組合せから選択される。いくつかの実施形態では、C1-4アルカノールは、メタノールである。
【0048】
塩基は、本明細書に記載の条件下で、一般式XClC=CF2の化合物へのC1-4アルカノールの付加反応を触媒することができる任意の塩基であり得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、塩基は、アルカリ金属塩基カチオンを含む。例えば、塩基は、アルカリ金属(例えば、Li、Na及びK)、アルカリ金属塩(例えば、炭酸塩、酢酸塩及びシアン化物)、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド(例えば、メチラート、エチラート、フェノラート)及びこれらの組み合わせからなる群より選択され得る。例えば、塩基は、ナトリウムメトキシド及びカリウムメトキシドから選択され得る。いくつかの実施形態では、塩基は、一般式M-OHのアルカリ金属水酸化物であり、式中Mは、Li、Na及びKからなる群より選択されるアルカリ金属である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属水酸化物は、NaOH又はKOHである。いくつかの実施形態では、塩基はKOHである。
【0050】
いくつかの実施形態では、塩基は、アンモニウム又はホスホニウム塩基カチオンを含む。適切なそのような塩基の例には、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジル(トリメチル)アンモニウム、N-メチル-N,N,N-トリオクチルアンモニウムクロリド(アリコート336)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラメチルホスホニウムを含む。
【0051】
ハロゲン化アルコキシエタンの形成中に、塩中間体が管状フローライン内に析出する場合がある。このような場合、中間塩の析出は、管状フローラインの望ましくない閉塞につながる可能性がある。このラインは洗浄を要することとなり、望ましくないプロセスの中断を招く。反応中に析出することが予想される塩中間体の例としては、アルカリ金属の塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)又はハロゲン化物塩(例えば塩化物、フッ化Na又はフッ化Kなどのフッ化物塩)が挙げられる。これらの場合、塩中間体の潜在的な析出に起因する問題を最小限に抑えるために、いくつかの戦略を採用することができる。
【0052】
例えば、塩基は、ハロゲン化アルコキシエタンの形成中にアルカノールに可溶な塩を形成するように選択され得る。これにより、管状フローラインに沿った不溶性析出物の形成が有利に最小限に抑える。その結果、フロー反応器は、ラインを通る流体の流れを中断することなく、従来方法と比較して著しく長い時間運転することができる。さらに、ライン洗浄の頻度及び負担が少なくなり、大幅なコスト削減が可能となる。これに関して、中間塩は、塩が反応条件下で結晶化及び析出しない場合、C1-4アルカノールに「可溶性」であると見なされる。例えば、中間塩は、C1-4アルカノールへの溶解度が反応条件下で少なくとも0.5wt%である場合、C1-4アルカノールに「可溶性」であると見なされ得る。アルカノールに可溶な塩を形成し得る塩基の適切な例としては、アンモニウム又はホスホニウム塩基カチオンを含む塩基、例えば水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジル(トリメチル)アンモニウム、塩化N-メチル-N,N,N-トリオクチルアンモニウム(アリコート336)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラメチルホスホニウムから選択されるものが挙げられる。
【0053】
例えば、一般式XClC=CF2の化合物がCl2C=CF2である場合、塩基は水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジル(トリメチル)アンモニウム、塩化N-メチル-N,N,N-トリオクチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラメチルホスホニウムから選択され得る。それらの場合、塩中間体の形成及び析出を最小限に抑えることができる。
【0054】
塩中間体の潜在的な析出に由来する問題を最小限に抑えるための別の戦略は、1以上の管状フローラインの湾曲した配置、例えば、コイル状配置を採用することであり得る。したがって、いくつかの実施形態では、1以上の管状フローラインは、コイル状配置で提供される。適切なコイル配置の例は、
図2~3の概略図に示されている。コイル状配置は、析出物が中で蓄積し得るラインの部分を最小化し、より流線形のフローをもたらし得る。また、コイル状に配置されたフローは、線形状に配置されたフローと比較して、より乱流になりやすい。その結果、混合の程度が向上し、不溶性塩が形成される量が少なくなる。その結果、コイル状に配置された管状フローラインの採用により、有利にラインの内側でスタティックミキサーの必要性がなくなり、塩の析出物の蓄積場所をさらに減らすことができる。さらなる利点として、フローラインをコイル状に配置することにより、よりコンパクトな反応器が得られるとともに、より小さな熱制御システムによりラインの熱制御を容易にすることができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、一般式XClC=CF2の化合物はCl2C=CF2であり、C1-4アルカノールはメタノールである。それらの例では、本発明のプロセスは、メトキシフルラン(Cl2HC-CF2OCH3)などのハロゲン化アルコキシエタン化合物を効率的かつスケーラブルに製造することを可能にする。これは、メトキシフルランが急性外傷性疼痛の初期管理及び創傷包帯などの短時間の痛みを伴う処置に有効な即効性短期鎮痛薬であるペンスロックス(登録商標)の有効成分であるため、特に有利である。ペンスロックス(登録商標)は、医療従事者、国防軍、救急救命士、スポーツクラブ及びサーフライフセーバーが、「グリーンホイッスル」として知られる吸入器を介して緊急鎮痛剤を投与するために使用している鎮痛剤である。
【0056】
「ペンスロックス(登録商標)」は、世界の多くの主要な管轄区域で規制当局の承認を受けており、患者(小児を含む)が監督下で薬剤を自己投与できる使い捨ての吸入器として広く使用されることが期待されている。現在、グリーンホイッスルに加えて販売されるペンスロックス(登録商標)を自己投与するための先進的な吸入器の試験が行われている。試験用吸入器は、約3mlのペンスロックス(登録商標)を患者に迅速かつ容易に投与できるよう、完全一体型の鎮痛システムとして開発された。試験用吸入器は、ロックアウトタブ、吸入器を作動させるプランジャー及びユーザーが通常の呼吸で活性ペンスロックス(登録商標)組成物を吸入することができるマウスピースを含む。ロックアウトタブを取り外すと、プランジャーを押し下げることで吸入器を作動させることができる。次いで吸入器は、ユーザーが単に吸入することによって、マウスピースを通して有効成分を放出するように設定される。
【0057】
「ペンスロックス(登録商標)」は、(i)応急処置及び救急サービスを提供できる施設(病院救急、救急車サービス、救命クラブなど)、(ii)移動式で、機敏な、ポイントオブケアの応急処置及び救急サービスを必要とする施設(軍隊など)、(iii)一般大衆に最適な主流の鎮痛薬として販売できる施設(薬局など)で世界的に利用できることを目的としている。
【0058】
いくつかの実施形態において、一般式XClC=CF
2の化合物はFClC=CF
2であり、C
1-4アルカノールはメタノールである。それらの例において、本発明のプロセスは、ClFHC-CF
2OCH
3(2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチルメチルエーテル)の効率的かつスケーラブルな生産を可能にする。高純度で大量のClFHC-CF
2OCH
3の生産の可能性は、その化合物が吸入麻酔薬であるエンフルラン(2-クロロ-1,1,2,-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)の合成における既知前駆体であることから、特に有利になり得る。以下のスキーム1で想定される反応手順に従い、エンフルラン(b)の合成は、ClFHC-CF
2OCH
3を光(例えばUV)中で塩素化し、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチルジクロロメチルエーテル(a)を得て、続いてジクロロメチル基の塩素原子をフッ素で置換することによって可能となる。後者は、例えば、塩化アンチモン(III)の存在下でフッ化水素を用いるか、又は塩化アンチモン(V)とフッ化アンチモン(III)を用いることにより達成される。
【化1】
【0059】
本発明の方法では、塩基は、ハロゲン化アルコキシエタンの形成に資する任意の量で使用され得る。典型的な手順では、塩基は一般式XClC=CF2の化合物に対して触媒量で使用される。「触媒量」で使用されることにより、塩基は、一般式XClC=CF2の化合物に対して、準化学量論量で使用される。いくつかの実施形態では、塩基対XClC=CF2化合物モル比は1の任意の小数である。例えば、塩基対XClC=CF2化合物モル比は、約0.1、約0.15、約0.25、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8又は約0.9であり得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、塩基は、C1-4アルカノールとの溶液で使用される。これらの例において、塩基/アルカノール溶液は、塩基及びC1-4アルカノールの総重量に対して1重量%~30重量%の量の塩基を含み得る。例えば、塩基は、塩基及びC1-4アルカノールの総重量に対して、約1重量%~約15重量%、約1重量%~約15重量%又は約1重量%~約5重量%の量で使用され得る。いくつかの実施形態では、塩基は、塩基及びC1-4アルカノールの総重量に対して約2重量%の量で使用される。いくつかの実施形態では、塩基は、塩基及びC1-4アルカノールの総重量に対して約5重量%の量で使用される。いくつかの実施形態では、塩基は、塩基及びC1-4アルカノールの総重量に対して約25重量%の量で使用される。
【0061】
本発明のプロセスでは、反応成分は、反応混合物として1以上の管状フローラインを流れる。典型的には、各反応成分は別個の成分として提供され、成分は混合されて反応混合物を形成する。成分の混合は、成分が反応混合物として1以上の管状フローラインを通って流れることを確実にするのに適した任意の順序又は手段に従って達成され得る。例えば、各成分は対応する別々のリザーバーに供給されてもよく、そこから抽出され(例えば、ポンプ圧送され)、他の成分と混合されて反応混合物を形成する。前記混合は、任意の適切な混合順序に従って実行され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、塩基及びC
1-4アルカノールは、第1のリザーバーにおいて本明細書に記載される種類の溶液として提供され、XClC=CF
2化合物は、第2のリザーバーにおいて提供される。したがって、それらの例では、反応混合物は、(i)第1のリザーバーから抽出した塩基及びC
1-4アルカノールの溶液を、(ii)第2のリザーバーから抽出した一般式XClC=CF
2の化合物と混合することにより得られる。この混合物は、その後、1以上の管状フローラインに流される(例えば、ポンプ圧送される)。そのような配置の例は、
図1及び
図3の概略図に、それぞれ反応器(2)及び管状フローラインの上流に示されている。
【0063】
塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF2化合物は、当業者に知られている任意の手段で混合して反応混合物を形成し得る。
【0064】
ある実施態様では、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF2化合物は、例えばT-又はY-構成で単一のフローラインを形成するように挿入するラインに単に流すことによって混合される。このような場合、結果として生じる単一のフローラインは、フロー反応器の1以上の管状フローラインの供給口となり得る。
【0065】
他の構成では、塩基/アルカノール溶液ライン及びXClC=CF
2化合物ラインの一方は、フロー反応器の1以上の管状フローラインに供給され、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF
2化合物の他方は、挿入ラインを通じて管状フローラインに供給される。その結果、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF
2化合物が混合し、反応混合物が形成される。そのような構成の一例を
図2に示し、さらに詳しく後述する。
【0066】
さらに別の構成では、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF2化合物は、1以上の管状フローラインの上流に位置する混合ユニットで混合される。これは、有利には、反応混合物として管状フローラインに入る前に、すべての反応成分間の高度な混合を確保することができる。その結果、フローライン内にスタティックミキサーがない場合でも、高純度のアロゲン化アルコキシエタンの高速形成が達成され得る。
【0067】
混合ユニットは、フロー反応器の一体型構成要素である場合とそうでない場合がある。混合ユニットは、外部エネルギーを供給することによって混合が達成される能動的混合ユニットであり得る。本発明のプロセスでの使用に適したそのようなユニットの例には、ポンプエネルギー又は電場の周期的変化による時間パルス流を付与するユニット、音響流体揺動、超音波、エレクトロウェッティングに基づく液滴揺動、マイクロスターラー及び同様のものが含まれる。別の構成では、混合ユニットは、塩基/アルカノール溶液ラインとXClC=CF
2化合物ラインとを1つの単一ラインに合わせることによって混合を達成する、受動混合ユニットであり得る。本発明のプロセスでの使用に適したそのようなユニットの例には、Y型及びT型フロー接合、マルチラミネートミキサー、分割-再結合ミキサー、カオスミキサー、ジェット衝突ミキサー、再循環フローミキサーなどが含まれる。受動混合ユニットの典型的な設計としては、T字型及びY字型フロー構成、インターデジタル及び分岐フロー分配構造、フロー圧縮用集束構造、繰り返しフロー分割及び再結合構造、ライン内のフロー障害、蛇行状又はジグザグチャネル、多孔板、極小ノズルなどがある。1以上の管状フローラインの上流に位置する混合器の使用を含む配置の概略を
図3に示す。
【0068】
いくつかの実施形態では、1以上の管状フローラインは、インラインスタティックミキサーを含む。これは、フローラインの内部断面積が増加する(例えば、5mm2を超える)ため、特に有利である。このような場合、成分がラインを流れる際の拡散駆動の相互混合(これは、内部断面積の小さい管状フローラインにおける混合の主要な推進力となり得る)は、密接な混合を促進するには十分でない可能性がある。したがって、管状フローライン内にスタティックミキサーを設置し、流れる流体のマルチラミネート又は流れる流体の体積内での渦の形成を誘導し、それによって混合効率を向上させることが可能である。
【0069】
適切なスタティックミキサーの例には、バッフル、ヘリカルミキサー、回転ディスク及び回転チューブが含まれる。当業者が理解するように、スタティックミキサーは、反応成分、ハロゲン化アルコキシエタン及び任意の反応副生成物及び/又は中間体に対して化学的に不活性である任意の材料で作られ得る。その点で適切な材料の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、フルオロカーボン(例えば、テフロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素化エチレンプロピレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオロライド、パーフルオロアルコキシアルカンなど)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ガラス繊維強化プラスチック、Ni基合金及びNo-Mo基合金が挙げられる。当業者であれば、スタティックミキサーに使用するのに適した他の材料を容易に特定することが可能であろう。
【0070】
上記の議論は、1以上の管状フローラインを作る(又は内部に並べる)ために使用される材料という観点からされるが、同様の考察が、プロセスを実行するために使用され、反応成分、生成物、中間体、副生成物及び/又はそれらの混合物のいずれか1つと接触することが予想されるシステム/装置の任意の構成要素(又はその一部)を作る(又は内部に並べる/被覆する)ために用いられる材料にも当てはまることが理解されよう。すなわち、プロセスを実行するために使用されるシステム/器具の、反応成分、生成物、中間体、副生成物及び/又はそれらの混合物のいずれか1つと接触すると予想される任意の構成要素(又はその一部)は、前記反応成分、生成物、中間体、副生成物(HCl又はHFなどの強酸を含む場合がある)及び/又はそれらの混合物に対して化学的に不活性の材料から作られていなければならないであろうことが理解されよう。したがって、任意のそのような構成要素は、本明細書に記載される種類の材料によって作られ(又は、適宜、裏打ちされ)得る。
【0071】
例えば、プロセスを実行するために使用されるシステム/装置の一部である任意のリザーバーは、リザーバーが貯蔵することを意図している化学成分又は混合物に対して化学的に不活性な材料で作られ(若しくは内部に裏打ちされ)得る。同様に、反応成分、生成物、中間体、副生成物及び/又はそれらの混合物をポンプ圧送するために使用され得るポンプの関連部品は、前記反応成分、生成物、中間体、副生成物及び/又はそれらの混合物に対して化学的に不活性な材料から作られ得る。また、反応成分、生成物、中間体、副生成物及び/又はそれらの混合物と接触する可能性がある本明細書に記載の種類の混合ユニットの関連部品は、前記反応成分、生成物、副生成物及び/又はそれらの混合物に対して化学的に不活性な材料から作られ得る。その点で適切な材料の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、フルオロカーボン(例えば、テフロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素化エチレンプロピレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオロライド、パーフルオロアルコキシアルカンなど)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ガラス繊維強化プラスチック、Ni基合金及びNo-Mo基合金が挙げられる。当業者であれば、本発明に関わる全ての混合物及び化合物の安全な取り扱いを保証するために、反応器の構成要素に使用するのに適した他の材料を容易に特定することが可能であろう。
【0072】
本発明のプロセスにおいて、反応混合物中の反応成分の相対量は、各成分を他の成分と混合する際の流量を調整することにより調節することができる。例えば、塩基/アルカノール溶液ラインの流量を、XClC=CF2化合物ラインの流量に対して調整することにより、反応混合物中の反応成分の相対量を調整することが可能である。一般式XClC=CF2の化合物の流量に対する塩基/アルカノール溶液の流量の比は、ハロゲン化アルコキシエタンの形成に資する任意の比であり得る。例えば、反応混合物は、(i)C1-4アルカノール及び塩基の溶液と(ii)一般式XClC=CF2の化合物とを1:1~10:1の流量比に従って合わせることによって得ることができる。いくつかの実施形態では、前記流量比は、1:1~6:1、2:1~6:1、3:1~6:1又は4:1~5:1である。
【0073】
そのような状況で、塩基/アルカノール溶液ライン及びXClC=CF2化合物ラインの各々は、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF2化合物との混合時にハロゲン化アルコキシエタンの形成に資する流量で操作され得る。一実施形態では、個々のラインの流量は少なくとも1ml/分である。例えば、個々のラインの流量は、少なくとも約5ml/分、少なくとも約25ml/分、少なくとも約50ml/分、少なくとも約100ml/分、少なくとも約200ml/分、少なくとも約500ml/分、少なくとも約1,000ml/分、少なくとも約1,500ml/分又は少なくとも約2,000ml/分であり得る。いくつかの実施形態では、個々のラインの流量は約250ml/分である。
【0074】
いくつかの実施形態では、塩基/アルカノール溶液は、5ml/分より大きく2,000ml/分未満の流量で、ミキサーユニット若しくは1以上の管状フローラインにポンプ圧送で、又は他の方法で供給され、XClC=CF2化合物は、5ml/分より大きく2,000ml/分未満の流量で、ミキサーユニット若しくは1以上の管状フローラインにポンプ圧送で、又は他の方法で供給される。一実施形態では、塩基/アルカノール溶液は、50ml/分以上500ml/分以下の流量で、混合器ユニット又は1以上の管状フローライン中にポンプ圧送で、又は他の方法で供給され、XClC=CF2化合物は、50ml/分より大きく500ml/分以下の流量で、混合器ユニット又は1以上の管状フローライン中にポンプ圧送で、又は他の方法で供給される。一実施形態では、塩基/アルカノール溶液は、約250ml/分の流量でミキサーユニット又は1以上の管状フローライン内にポンプ圧送で、又は他の方法で供給され、XClC=CF2化合物は、約50ml/分の流量で、ミキサーユニット又は1以上の管状フローライン内にポンプ圧送で、又は他の方法で供給される。
【0075】
本発明のプロセスにおいて、反応混合物は、ハロゲン化アルコキシエタンの形成に資する任意の流量で、1以上の管状フローラインを流れ得る。いくつかの実施形態では、反応混合物は、少なくとも約1ml/分の流量で1以上の管状フローラインを流れる。例えば、反応混合物は、少なくとも約5ml/分、少なくとも約25ml/分、少なくとも約50ml/分、少なくとも約100ml/分、少なくとも約250ml/分、少なくとも約500ml/分、少なくとも約750ml/分、少なくとも約1L/分又は少なくとも約2L/分の流量で1以上の管状フローラインを流れ得る。
【0076】
1以上の管状フローラインは、ハロゲン化アルコキシエタンの形成に資する任意の内部体積を提供し得る。誤解を避けるために、1以上の管状フローラインの「内部体積」は、反応成分が反応混合物として流れる管状フローラインの内部空洞の体積を意味する。言い換えれば、1以上の管状フローラインの「内部体積」は、反応器が作動しているとき、任意の時点で管状フローラインに存在する流体の総体積に対応する。
【0077】
一実施形態では、1以上の管状フローラインは、少なくとも100mL、少なくとも250mL、少なくとも500mL、少なくとも750mL、少なくとも1L、少なくとも1.5L、少なくとも2Lの総内部体積を有する。例えば、1以上の管状フローラインは、100mL~2Lの範囲、例えば1L以下(並びにその間の任意の整数及び/又はその端数、例えば100mL、100.1mL等を含む)の総内部体積を有し得る。一実施形態では、1以上の管状フローラインは、200ml以上600ml以下の総内部体積を有する。例えば、1以上の管状フローラインは、250ml以上500ml以下の総内部体積を有し得る。一実施形態では、1以上の管状フローラインは、200ml以上350ml以下の総内部体積を有する。
【0078】
1以上の管状フローラインは、ハロゲン化アルコキシエタンを生成することができる任意の長さであり得る。管状フローラインの長さは、内部断面積及び反応に望ましい体積に応じて選択され得る。一実施形態では、管状フローラインは、1メートル以上50メートル以下(並びにその間の任意の整数及び/又はその端数、例えば、1メートル、1.1メートル、1.15メートル、1.2メートル、1.25メートルなどを含む)の長さを有する。一実施形態では、管状フローラインは、5メートル以上25メートル以下の長さを有する。別の実施形態では、管状フローラインは、10メートル以上25メートル以下の長さを有する。いくつかの実施形態では、管状フローラインは、少なくとも0.5メートル、少なくとも1メートル、少なくとも5メートル、少なくとも10メートル又は少なくとも25メートルの長さを有する。
【0079】
1以上の管状フローラインを流れる流体の体積滞留時間は、管状フローラインの総内部体積と管状フローラインを流れる流体の流量の比によって決定され得る。ひいては、後者は、1以上の管状フローラインに収束する全ての試薬成分ラインの流量の合計によって決定され得る。本発明のプロセスにおいて、フロー反応器は、ハロゲン化アルコキシエタンの形成に資する、1以上の管状フローラインを流れる流体の任意の滞留時間を得るように操作され得る。例えば、フロー反応器は、約250分未満の滞留時間を提供するように操作され得る。いくつかの実施形態では、フロー反応器は、約200分未満、約100分未満、約50分未満、約25分未満、約20分未満、約15分未満、約10分未満、約5分未満、約2.5分未満、約2分未満又は約1分未満の滞留時間を提供するように動作される。いくつかの実施形態では、フロー反応器は、約1分の滞留時間を提供するように操作される。
【0080】
本発明のプロセスにおけるフロー反応器は、ハロゲン化アルコキシエタンの形成に資する任意の圧力で操作され得る。例えば、本発明のプロセスにおいて、反応成分は、少なくとも15バールの圧力で1以上の管状フローラインを流れ得る。誤解を避けるために、本明細書で使用される圧力の値はゲージ圧を意味する。
【0081】
その状況において、本発明の方法は、有利には、従来方法よりも有意に低い圧力でハロゲン化アルコキシエタンを製造することを可能にする。例えば、本発明のプロセスでは、反応成分は、30バール未満の圧力で1以上の管状フローラインを流れ得る。いくつかの実施形態では、反応成分は、20バール未満、15バール未満又は10バール未満の圧力で1以上の管状フローラインを流れる。いくつかの実施形態では、反応成分は、10~15バールの圧力で1以上の管状フローラインを流れる。いくつかの実施形態では、反応成分は、約18バールの圧力で1以上の管状フローラインを流れる。
【0082】
本発明のプロセスにおいて、ハロゲン化アルコキシエタンは、少なくとも反応成分の混合時に形成される。この反応は発熱性であり、反応熱は当業者に知られている任意の手段で連続的に取り出すことができる。適切な熱制御戦略には、1以上の管状フローラインの少なくとも一部と熱接触する冷却ジャケット、熱交換器又はそれらの組合せを設けることが含まれる。ジャケットは、冷却ラインによってジャケットに供給される冷却媒体を介して、フローライン内を流れる流体の温度を維持することができる。冷却媒体は、当業者に知られている任意の媒体、例えば水、グリコール、又は水/グリコール混合物であり得る。冷却媒体、冷却ジャケット又は熱交換器は、フローラインが配置される外部ケーシングの一部を形成し得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、ハロゲン化アルコキシエタンはまた、反応混合物を-15℃までの温度に冷却することによって形成される。例えば、反応混合物は、約-10℃まで、約-5℃まで、約-2.5℃まで、約-1℃まで、約0℃まで、約5℃まで又は約-10℃までの温度まで冷却され得る。いくつかの実施形態では、ハロゲン化アルコキシエタンは、0℃~5℃の温度で形成される。
【0084】
また、いずれの試薬化合物の温度も所望の値に制御され得る。例えば、塩基/アルカノール溶液は、室温で使用され得る。いくつかの実施形態では、塩基/アルカノール溶液は、10℃未満、例えば5℃未満又は0℃~5℃の温度で使用される。いくつかの実施形態では、XClC=CF2化合物は、室温で使用される。いくつかの実施形態では、XClC=CF2化合物は、10℃未満、例えば5℃未満又は0℃~5℃の温度で使用される。したがって、いくつかの実施形態では、1以上の試薬化合物は、反応混合物が形成されるときに1以上の試薬化合物が液体形態であるように、混合される前に冷却されて、反応混合物を形成する。試薬成分のいずれかを冷却して、それらがフロー反応器において確実に液体形態で使用されるようにする必要がある場合がある。これは、当業者に知られている任意の手段によって達成され得る。例えば、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF2化合物のいずれか又は両方のリザーバーは、温度制御され得る。いくつかの実施形態では、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF2化合物のいずれか又は両方は、対応する温度制御されたリザーバーに提供される。そのような温度制御は、本明細書に記載される種類の冷却戦略(例えば、冷却ジャケット、熱交換器又はそれらの組合せ)によって達成され得る。代替的に、又は同時に、1以上の試薬成分の冷却は、温度制御されたリザーバーポンプ、例えば、本明細書に記載の種類の冷却システム(例えば、冷却ジャケット、熱交換器又はそれらの組み合わせ)を備えるポンプによって達成され得る。
【0085】
本明細書で使用する「室温」とは、例えば、10℃~40℃の間であり得るが、より典型的には15℃~30℃の周囲温度のことをいう。例えば、室温は、20℃~25℃の温度であり得る。
【0086】
本発明のプロセスにおいて、ハロゲン化アルコキシエタンは、フロー反応器から反応器流出液に流出する。これは、当業者に知られている任意の手段によって達成され得る。フロー反応器が2本以上の管状フローラインを含む場合、ラインは通常収束して単一の出口を形成し、そこから流出液が反応器を出ることになる。流出液は、反応器の操作パラメータに依存する流量で反応器から流出し得る。例えば、ハロゲン化アルコキシエタンを含む反応器流出液は、少なくとも5ml/分の流量で反応器から流出し得る。いくつかの実施形態では、ハロゲン化アルコキシエタンを含む反応器流出液は、少なくとも10ml/分、少なくとも25ml/分、少なくとも50ml/分、少なくとも100ml/分、少なくとも250ml/分、少なくとも500ml/分、少なくとも750ml/分、少なくとも1L/分、少なくとも1.5L/分又は少なくとも2L/分の流量で反応器から流出する。
【0087】
流出液は、反応器の操作パラメータに依存する量のハロゲン化アルコキシエタンを含み得る。いくつかの実施形態では、反応器流出液は、少なくとも70体積%、少なくとも80体積%、少なくとも90体積%又は少なくとも95体積%のハロゲン化アルコキシエタンを含有する。有利なことに、本発明のプロセスは、従来方法よりも高い変換収率をもたらす。したがって、いくつかの実施形態では、反応器流出液は、少なくとも90体積%のハロゲン化アルコキシエタンを含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、プロセスはまた、反応器流出液を極性溶媒と混合する工程を含む。例えば、プロセスは、反応器流出液を水と混合する工程を含み得る。これにより、本明細書に記載の精製手順の状況で使用できる二相性混合物が提供され得る。極性溶媒(例えば、水)は、本明細書に記載される混合手順のいずれかによって反応器流出液と混合され得る。例えば、リザーバーから極性溶媒(例えば水)を運ぶ1以上のラインを作製して、反応器流出ラインを挿入し、極性溶媒を専用リザーバーから流す(例えばポンプ搬送する)ようにし得る。あるいは、極性溶媒(例えば水)を、本明細書に記載の混合器によって反応器流出液と混合し得る。
【0089】
極性溶媒(例えば水)は、反応器流出液との二相性混合物を得るのに適した任意の流量に従って提供され得る。いくつかの実施形態では、極性溶媒(例えば水)は、少なくとも5ml/分、少なくとも25ml/分、少なくとも50ml/分、少なくとも100ml/分、少なくとも250ml/分、少なくとも500ml/分、少なくとも750ml/分、少なくとも1,000ml/分、少なくとも1,500ml/分、少なくとも2,000ml/分、少なくとも2,500ml/分、少なくとも3,000ml/分、少なくとも4,000ml/分又は少なくとも5,000ml/分の流量に従って供給される。いくつかの実施形態では、極性溶媒(例えば、水)は、5ml/分以上5,000ml/分以下の流量に従って提供される。例えば、極性溶媒(例えば、水)は、5ml/分~500ml/分の範囲の整数、例えば25ml/分~250ml/分の範囲の整数から選択される流量に従って提供され得る。いくつかの実施形態では、極性溶媒(例えば、水)は、250ml/分の流量に従って提供される。いくつかの実施形態では、極性溶媒(例えば、水)は、反応器流出液との効果的な混合に適した任意の圧力で提供され得る。例えば、極性溶媒(例えば水)は、>15バールの圧力でポンプ圧送され得る。いくつかの実施形態では、極性溶媒(例えば、水)はまた、<15バールの圧力でポンプ圧送され得る。いくつかの実施態様では、極性溶媒(例えば、水)は、10~15バールの圧力でポンプ圧送され得る。典型的には、極性溶媒(例えば、水)は、室温でポンプ圧送され得る。
【0090】
反応器流出液はまた、流出液中に不純物として存在する追加の化合物を含み得る。反応器の条件及び/又は反応成分の性質に応じて、前記不純物は、1以上の反応副生成物及び/又は1以上の未反応反応成分を含み得る。不純物の性質は、反応条件及び/又は反応成分の性質による。例えば、本発明のプロセスがメトキシフルランを生成するために行われる場合、不純物は、メタノール、ジクロロジフルオロエチレン(DCDFE)、ハロマー(2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチルメチルエーテル)、クロロホルム及び/又は1,1-ジクロロ-2-フルオロ-2-メトキシエテン(ビニルエーテル)を含み得る。そのような一実施形態では、不純物は、1,1-ジクロロ-2-フルオロ-2-メトキシエテンを含む。
【0091】
反応器の条件及び/又は反応成分の性質に応じて、前記不純物はまた、流出液の5体積%未満~約30体積%の範囲であり得る量で存在し得る。有利には、本発明のプロセスは、ハロゲン化アルコキシエタンが、従来の合成手順と比較して著しく高い純度(すなわち、流出液の90体積%超)で生成され得ることを保証し得る。いくつかの実施形態では、反応器流出液は、5体積%未満の不純物を含む。
【0092】
必要に応じて、本発明のプロセスの一部として、流出液中のフロー反応器を出るハロゲン化アルコキシエタンを精製に付すことができる。これらは、便宜的に、反応器流出液をインライン精製技術にかける(すなわち、精製技術がプロセスに統合される)ことによって達成され得る。
【0093】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明のプロセスは、a)反応器流出液と極性溶媒とを混合して、極性相とハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相との相分離を誘導する工程と、b)有機相を極性相から分離する工程と、c)有機相をアミンで処理する工程と、d)有機相を酸溶液で洗浄する工程と、e)有機相を乾燥させる工程と、f)有機相を蒸留してハロゲン化アルコキシエタンを含む精製留分を得る工程とを含む精製手順もさらに含む。
【0094】
精製手順はインラインであり得る。この場合、反応器流出液は、フロー反応器の下流で精製手順に供される。インライン精製手順を含むことにより、本発明のプロセスは、有利には、精製されたハロゲン化アルコキシエタンの連続生産を提供する。代替的に、精製手順は別個に実施され得、その場合、反応器流出液は、床反応器から流出するときに、さらなる処理を行わずに最初に収集され、任意選択で貯蔵され、その後精製される。
【0095】
精製手順の工程a)で使用される極性溶媒は、極性相とハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相との間の流出液の相分離を誘導することができる任意の極性溶媒であり得る。例えば、極性溶媒は水であり得る。当業者であれば、この目的に適した他の極性溶媒を特定することが可能であろう。
【0096】
極性相からの有機相の分離は、当業者に知られている任意の手段に従って行われ得る。例えば、極性相からの有機相の分離は、重力分離器(例えば、相分離槽)、超疎水性メッシュ、超疎水性メッシュなどの方法によって達成され得る。当業者であれば、この工程の目的のために、極性相から有機相を効果的に分離するための適切な手段及び手順を特定することが可能であろう。
【0097】
精製手順の工程c)において、ハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相は、アミンで処理される。典型的には、有機相は過剰なアミンで処理されるであろう。不純物の性質に応じて、アミンは第一級アミン又は第二級アミンであり得る。この目的に適したアミンの例としては、エチレンジアミン(1,2-ジアミノエタン)、1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、ジ-n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、エタノールアミン、ピロリジン、2-アミノブタン及びこれらの混合物が含まれる。いくつかの実施形態では、アミンは、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン及びこれらの混合物から選択される。
【0098】
精製手順の工程d)では、アミンで処理した後、有機相を酸溶液で洗浄する。これにより、メトキシフルランを製造するためにこのプロセスを使用する場合に通常形成されるであろうビニルエーテルなどの不純物の効果的な除去が保証される。酸溶液は、酸水溶液であり得る。酸溶液に使用される酸は、ビニルエーテルなどの不純物を除去するのに有効な任意の酸であり得る。精製手順で使用するのに適した酸の例としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、硝酸、亜硝酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸及びこれらの組合せが挙げられる。一実施形態では、酸はメタンスルホン酸(MSA)である。いくつかの実施形態では、酸溶液は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%又は少なくとも40%の酸溶液である。有機相は、任意の有効量の酸溶液で洗浄され得る。例えば、酸溶液は、0.25:1、0.5:1、1:1又は2:1の体積比(酸溶液対有機相)に従って有機相に添加され得る。
【0099】
精製手順における有機相の酸処理は、驚くべきことに、医薬品グレードのハロゲン化アルコキシエタン(例えば、99.9%)を得るのに有効であることが判明している。その点、酸は、ハロゲン化アルコキシエタンに対して不活性なまま、不純物を効率的に除去するのに特に有効である。例えば、医薬品グレードのメトキシフルランを得るための精製手順において、本明細書に記載の種類の酸の使用は、反応において形成されたメトキシフルランを保持しながら、ビニルエーテル不純物(例えば1,1-ジクロロ-2-フルオロ-2-メトキシエテン)の選択的除去に特に有効であり得る。これは、純度が99%を超える、例えば純度が99.9%までのメトキシフルランの合成に特に有利であることが判明している。その点で、メタンスルホン酸は特に有効であることが判明している。
【0100】
したがって、上記に基づき、反応器流出液(又はその有機相)を酸で処理することは、それ自体が独特で有利であり得ると考えられている。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のプロセスは、反応器流出液又は反応器流出液に由来しハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相を酸で処理する精製工程をさらに含む。前記有機相は、例えば、管状フローラインの下流で反応器流出液を極性溶媒(例えば、水)と混合することによって得られる有機相であり得る。酸は、本明細書に記載される種類の酸であり得る。例えば、本発明のプロセスが、反応器流出液又は反応器流出液に由来しハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相を酸で処理する精製工程をさらに含む場合、前記酸は、塩酸、硫酸、亜硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、硝酸、亜硝酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸及びこれらの組合せから選択され得る。いくつかの実施態様において、酸はメタンスルホン酸である。これらの例では、精製工程は、本明細書に記載される精製条件のいずれで実施され得る。例えば、本発明のプロセスが、反応器流出液又は反応器流出液に由来しハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相を酸で処理する精製工程をさらに含む場合、酸は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%又は少なくとも40%の酸溶液(例えば酸水溶液)である酸溶液として提供される。これらの実施態様において、有機相は、任意の有効量の酸溶液で洗浄され得る。例えば、酸溶液は、0.25:1、0.5:1、1:1又は2:1の体積比(酸溶液対ハロゲン化アルコキシエタンを含む反応器流出液の部分)に従ってハロゲン化アルコキシエタンを含む反応器流出液の部分に添加され得る。有利には、本発明のプロセスが、反応器流出液又は反応器流出液に由来しハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相を酸で処理する精製工程をさらに含む場合、ハロゲン化アルコキシエタンを、99%を超える純度、例えば最大で99.9%の純度で得ることができる。
【0101】
精製手順の工程c)においてそのように形成された有機相の乾燥は、当業者に知られている任意の手段に従って行われ得る。
【0102】
精製手順は、乾燥した有機相を蒸留する工程をさらに含む。これは、当業者に知られている任意の手段に従って実施され得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、精製手順は、酸化剤を添加することを含む。前記酸化剤は、ビニル不純物(例えばビニルエーテル)などの不純物の除去に有効であることが判明している。したがって、酸化剤は、酸溶液に加えて、又はその代替物として使用され得る。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のプロセスは、a)反応器流出液を極性溶媒と混合し、極性相とハロゲン化アルコキシエタンを含む有機相との間の相分離を誘導する工程と、b)有機相を極性相から分離する工程と、c)有機相をアミンで処理する工程と、d)有機相を酸化剤で洗浄する工程と、e)有機相を乾燥させる工程と、f)有機相を蒸留してハロゲン化アルコキシエタンを含む精製留分を得る工程とを含む精製手順をさらに含む。精製手順では、ビニルエーテルなどの不純物の除去に有効な任意の酸化剤を使用することができる。適切な酸化剤の例としては、酸素、オゾン、オキソン(水を含む、又は含まない)、過酸化物、ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム)及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0104】
有機相は、ビニルエーテルなどの不純物がガスクロマトグラフィーによってもはや検出されないことを確実にするのに有効な任意の時間、酸溶液及び/又は酸化剤と反応するように放置され得る。例えば、有機相は、ビニルエーテルなどの純度を0.01重量%未満に低下させるのに十分な時間の長さ、酸溶液及び/又は酸化剤と反応するように放置され得る。いくつかの実施形態では、有機相は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも5時間、少なくとも10時間、少なくとも24時間、少なくとも48時間又は少なくとも72時間、酸溶液及び/又は酸化剤と反応させるために放置される。
【0105】
本発明のプロセスを実行するために使用され得る設定例を、
図1の概略図に示す。装置(1)は、フロー反応器(2)からなり、その中に1以上の管状フローラインが配置されている(例えば
図2を参照)。装置(1)は、塩基/アルカノール溶液(5)を貯蔵することができるリザーバー(7)と、XClC=CF
2化合物(6)を貯蔵することができるリザーバー(8)とを含む。概略図では、リザーバー(8)は逆ガスボンベの形で表されており、必要に応じてガス状のXClC=CF
2化合物(例えばジクロロジフルオロエチレン)を貯蔵するために使用することができる。あるいは、リザーバー(8)は、貯蔵する温度で液体形態であるXClHC-CF
2化合物の液槽であり得る。個々のポンプ(3)及び(4)は、塩基/アルカノール溶液(5)及びXClC=CF
2化合物(6)を抽出し、それぞれライン(14)及び(15)を介してフロー反応器(2)に送液する。概略図では、冷却ジャケット(9)及び(10)は、冷却媒体冷却ユニット(11)からポンプジャケット冷却ライン(12)を介して供給することができる冷却媒体によって、反応成分を室温未満、例えば約5℃に冷却するために使用される。回路図では、冷却媒体冷却ユニット(11)がフロー反応器(2)に接続されていることも示されている。背圧システム(13)を開位置と閉位置との間で操作し、1以上の管状フローライン内に所望の圧力を設定することができる。
【0106】
運転中、塩基/アルカノール溶液(5)及びXClC=CF
2化合物(6)は、それぞれ入口ポート(19)及び(18)からフロー反応器(2)に入る。これらは、内部に入ると、それぞれのラインが挿入されることで混合され、反応混合物を形成する(
図2の概略図に詳しく示す)。ハロゲン化アルコキシエタンを含む反応器流出液は、出口ポート(20)を介してフロー反応器(2)から出て、リザーバー(17)に貯蔵された水と混合され、ライン(21)を介してポンプ(16)により圧送され得る。反応器流出液と水の混合物は、その後、スタティックミキサー(22)を通って流れ、混合物はライン(23)からさらに精製するために回収され得る。
【0107】
図2は、本発明のプロセスで使用するのに適した例示的な実施形態のフロー反応器の断面側面図である。塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF
2化合物の一方は、入口(25)を通じて管状フローラインの端部に、例えばポンプ圧送で供給される。塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF
2化合物の他方は、入口(26)を通じて、混合ポート(MP)で管状フローラインを挿入するラインに、例えばポンプ圧送で供給される。その結果、塩基/アルカノール溶液及びXClC=CF
2化合物が混合して反応混合物を形成し、混合ポートの下流にコイル状管状フローライン(27)を通って流れる。ケーシング(28)には、ポート(29)から導入可能な冷却媒体(例えば冷水)が充填され得る。ハロゲン化アルコキシエタンは、混合物がフローラインを流れるときにフローラインに沿って形成され、ハロゲン化アルコキシエタンを含む流出液は、出口(30)から収集することができる。流出液は、その後、スタティックミキサー(32)において、ライン(31)を通じて供給される水と混合され得る。反応器は、1以上の温度プローブ(TP)、混合ポート(MP)、圧力変換器(PT)及び/又は背圧調節器(BPR)を含み得る。
【0108】
有利には、本発明のプロセスは、ハロゲン化アルコキシエタンの商業規模の製造のために効率的にスケールアップすることができる。これは、例えば、フロー反応器内の管状フローラインの数を増加させることによって達成され得る。各フローラインの内部形状が維持され、各フローライン内で反応条件が同一であるため、反応条件の再最適化を最小限に抑えながら、より大量のハロゲン化アルコキシエタン製造に対応することができる。これは、有利には、ラボスケール試験から製造への迅速かつシームレスな移行を保証する。したがって、いくつかの実施形態では、フロー反応器は、少なくとも5本の管状フローライン、少なくとも10本の管状フローライン、少なくとも25本の管状フローライン、少なくとも50本の管状フローライン又は少なくとも100本の管状フローラインを含む。代替的に、又は上記に加えて、多数のフロー反応器を並行して運転することによって、生産をスケールアップすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、プロセスは、平行フロー配置で接続された少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20のフロー反応器に本明細書に記載の種類の反応器成分を導入する段階を含む。
【0109】
次に、本発明の具体的な実施形態について、以下の非限定的な例を参照しながら説明する。
【実施例】
【0110】
(実施例1)
まず、約1.67kgのKOHを約66.7Lのメタノール(分析グレード)に溶解して、2.5%KOHメタノール溶液を調製した。すべての固体が溶解し、その溶解は発熱性であることが観察された。KOH/メタノール溶液には、以下のパラメータを採用した。
KOH/メタノール溶液量:66.67L
リザーバー:青色プラスチック製マウザードラム
KOH/メタノール溶液ポンプ流量:250ml/分
ポンプの補充速度:400ml/分
冷却ジャケット:あり、水冷却ユニットに接続。
【0111】
ジクロロジフルオロエチレン(DCDFE)(ガス)を用いて逆ガスボトルを形成した(DCDFEは時間の経過とともに水分と反応し、非常に腐食性の高いHFを放出するため、システムを乾燥状態に保つように注意する必要があった)。DCDFEラインには、以下のパラメータを採用した。
DCDFEリザーバー容量:13.10L
リザーバー:ガスボンベ
DCDFEポンプ流量:50ml/分
ポンプの補充速度:70ml/分
冷却ジャケット:あり、水冷却ユニットに接続。
【0112】
反応器流出液(すなわちフロー反応器の下流)を挿入する水ラインを使用し、反応器流出液がフロー反応器から出るときに、反応器流出液と水(例えば飲料水)を混合した。水ラインのパラメータは、以下のものを採用した。
水:水(飲用可)
水リザーバー容量:80.0L
水ポンプ流量:250ml/分
【0113】
反応成分を混合して反応混合物を形成し、反応器内で平行フローを提供するように配置された管状フローラインを通ってフロー反応器内を流れるようにした。フロー反応器及び各管状フローラインのパラメータは以下の通りであった。
フローラインの総量:1L
個々の管状フローラインの直径(内径):1/4インチ(6.35mm)
管状フローラインの配置:5×5の線形配列
反応混合物の総流量:300ml/分
滞留時間:約3.33分
スタティックミキサー(フロー反応器内に設置):あり
【0114】
本実施例のために採用した装置及び手順の詳細は以下の通りである。
1.本実施例に従って使用するためのフロー反応器(2)を含む適切な装置(1)の一例を
図1に示す。
2.ポンプ(3)及び(4)は、KOH/メタノール溶液(メタノール中2.5%KOH)(5)及びDCDFE(6)をそれぞれ第一リザーバー(7)及び第二リザーバー(逆ガスボンベ)(8)から充填/注入する前に、メタノール(試薬グレード)でプライミングした。
3.望ましい温度で反応を行うために、ポンプには冷却ジャケット(9)及び(10)が設けられ、ポンプジャケット冷却ライン(12)を介して水冷却ユニット(11)から送られる冷水によって5℃未満に冷却される。冷却ユニット(11)は0℃~5℃の間に設定されたものである。なお、水冷却ユニット(11)は、必要に応じてフロー反応器に接続することも可能である。
4.すべての配管は,背圧システム(13)を開位置に設定し,約10バールの圧力を供給することによってプライミングされた(連続フロー運転中、導管システムの圧力は約12~14バールで運転されることに留意されたい)。
5.運転中、KOH/メタノール溶液(5)は、所望の流量(250ml/分)に従って、リザーバー(7)からポンプライン(14)を介してフロー反応器に送液された。
6.操作中、DCDFE(6)を所望の流量(50ml/分)でリザーバー(8)からポンプライン(15)を介してフロー反応器に連続的に送液した。
7.ポンプ(16)を用いて、リザーバー(17)から250ml/分の流量で連続的に水を送液した。
8.ポンプ(3)及び(4)は同時に始動し,ポンプ(16)は最大 60秒間遅延させた.
9.KOH/メタノール溶液(メタノール中2.5%KOH)(5)及びDCDFE(6)は、入口ポート(18)及び(19)を介してフロー反応器(2)に入った。
10.反応器流出液及び相分離容器(図示せず)中の反応器成分及び反応生成物の混合物の組成をガスクロマトグラフィーでモニターし、T=10分から開始して20分間隔で記録した。反応実行時間中にサンプリングされた所望のエーテル生成物メトキシフルラン及びビニル不純物(メトキシエテン)の生成に関する結果は、以下の表1及び2にそれぞれ再現される。
11.反応器流出液が出口ポート(20)を介してフロー反応器から出る際、それはリザーバー(17)からポンプ圧送された水(21)と混合される。
12.スタティックミキサー(22)を通過した後、水/流出液混合物を、総反応時間270分にわたってライン(23)を通して約57.4 ml/分の速度で回収した。約90%の粗収率による所望のエーテル生成物(メトキシフルラン)を含む総反応容量15.44Lが回収された。
13.粗メトキシフルラン生成物混合物は、必要に応じて、精製前に1週間まで保持することができる。
【表1】
表中、RT=保持時間、spec=仕様(%総ピーク面積、すなわちTPA%として)
【表2】
表中、RT=保持時間、spec=仕様(%総ピーク面積、すなわちTPA%として)
【0115】
(実施例2-精製)
以下のスキーム6は、メトキシフルランのさらなる反応による不純物の形成を伴う想定されるメカニズムを示す。
【化2】
【0116】
実施例1の手順によって得られた有機相からの不純物は、主にメトキシエテン不純物によって作られた。この不純物は、有機相の粗メトキシフルラン生成物から以下のようにして除去した。
【0117】
10%v/vメタンスルホン酸(MSA)溶液(20Lの粗メトキシフルラン生成物に対して2LのMSAを基準)を、粗メトキシフルラン生成物(実施例1で得られた15.44L)に制御しながらゆっくりと加えた(この反応は潜在的に発熱性であるため)。初期反応温度は35℃±5℃であった。この混合物を約45分間撹拌した後、ガスクロマトグラフィーでメトキシエテン(ビニルエーテル)不純物が検出されなくなった。
【0118】
(実施例3)
実施例1に記載した種類の装置の設定を用いて、以下に記載するように、異なるパラメータを用いて多数の反応を実施した。フロー反応器及びそれぞれの管状フローラインの具体的なパラメータは以下の通りであった。
管状フローラインの総内部体積:100ml
個々の管状フローラインの直径(内径):1/4インチ(6.35mm)
管状フローラインの配置:4×3の線形配列
スタティックミキサー(フロー反応器内に設置):あり
塩基/MeOH溶液ポンプ冷却ジャケット:あり、<15℃
DCDFEポンプ冷却ジャケット:あり、<15℃
【0119】
反応器流出液に対して行われたガスクロマトグラフィーによって決定されたプロセスパラメータ及び反応器流出液の組成は、以下の表3に詳述されている。
【表3】
表中、GCはガスクロマトグラフィー、RTはコンジットシステムでの滞留時間である。
【0120】
(実施例4)
粗メトキシフルラン生成物を10%v/vメタンスルホン酸(MSA)溶液で処理してメトキシエテン(ビニルエーテル)不純物を除去することに加え(実施例2、工程(A)に準じる)、以下の薬剤が同様の効果を示すことが確認された。
【0121】
(塩化水素(37%))
HCl(37%)の約50%v/v溶液(すなわち、粗メトキシフルラン生成物に対して)を粗メトキシフルラン生成物に加え、約3時間45分にわたってモニターした後、メトキシエテン(ビニルエーテル)不純物はガスクロマトグラフィーによって実質的にもはや検出できなくなり、すなわちビニル不純物0.01%となった。
時間0分:5.96%ビニルエーテル不純物
時間1時間18分:0.15%ビニルエーテル不純物
時間2時間:0.05%ビニルエーテル不純物
時間3時間45分:0.01%ビニルエーテル不純物
【0122】
(漂白剤)
約5.6%v/vの漂白剤(粗メトキシフルラン生成物の体積に対して)を粗メトキシフルラン生成物に加え、約72時間かけて撹拌した後、メトキシエテン(ビニルエーテル)不純物は20ガスクロマトグラフィーによって実質的にもはや検出できなくなり、すなわちビニル不純物0.01%となった。
【0123】
(水がある場合とない場合のオキソン)
オキソン4g/水10mLの約33%v/v水溶液(すなわち粗メトキシフルラン生成物20mLに対して)を粗メトキシフルランに加え、約2.5時間かけて撹拌した後、メトキシエテン(ビニルエーテル)不純物はガスクロマトグラフィーによって実質的にもはや検出できなくなった。
時間0:0.9%ビニルエーテル不純物
時間1時間:0.002%ビニルエーテル不純物
時間2.5時間:0.001%ビニルエーテル不純物
【0124】
別の試験では、オキソン2g/水10mLの約33%v/v水溶液(すなわち、粗メトキシフルラン生成物20mLに対して)を粗メトキシフルランに加え、約2.5時間かけて撹拌した後、メトキシエテン(ビニルエーテル)不純物はガスクロマトグラフィーによって実質的にもはや検出できなくなった。
時間0:0.9%ビニルエーテル不純物
時間1時間:0.1%ビニルエーテル不純物
時間2.5時間:5 0.06%ビニルエーテル不純物
【0125】
別の試験では、オキソン4g/水20mLの約50%v/v水溶液(すなわち、粗メトキシフルラン生成物20mLに対して)を粗メトキシフルランに加え、約2時間かけて撹拌した後、メトキシエテン(ビニルエーテル)不純物はガスクロマトグラフィーによって実質的にもはや検出できなくなり、すなわち0.06%となった。
【0126】
別の試験では、オキソン(2g)を粗メトキシフルラン(10mL)に加え、約3.25時間かけて撹拌した後、メトキシエテン(ビニルエーテル)不純物はガスクロマトグラフィーによって実質的にもはや検出できなくなり、すなわち0.03%となった。
【0127】
(実施例5)
さらに、以下のパラメータをもとに、いくつかの合成テストを行った。
KOH/メタノール溶液:メタノール中2.5%KOH、流量250ml/分、予冷0℃~5℃
DCDFE:流量50ml/分、予冷0℃~5℃。
水:水(飲用可)、流量250ml/分、室温
管状フローラインの総内部体積:約200mL~350mL(例えば350mL)
個々の管状フローラインの直径(内径):約2~10mm(例えば4.5mm)
個々の管状フローラインの長さ:約12m~21m(例えば21m)
管状フローラインの配置:コイル
フロー反応器内の総流量(例えば流出液の流量):約50ml/分~500ml/分(例えば300ml/分)
フロー反応器内の滞留時間:約>0分~<5分(例えば、>1分~<2分、例えば約1分)
スタティックミキサー(フロー反応器内に設置):なし
シェル(フロー反応器の外部ケーシング)ジャケット冷却:0℃~45℃(例えば5℃以下に冷却)
冷却液:水中15%グリコール
【0128】
この実施例の目的で採用した手順の詳細は、以下の通りである。
【0129】
KOH/メタノール溶液とDCDFEは混合ポイント(T-セクション)にポンプで送られ、そこで混合されてから管状フローラインに入った。管状フローライン内のライン圧力は、反応の過程で1.5~3.5バールの範囲で記録され、フロー反応器の下流の背圧レギュレータによって調節された。フロー反応器を出た反応器流出液は水と混合され、混合物は線形スタティックミキサーを通過した後、収集容器/リザーバーに収集された。
【0130】
スタティックミキサーの下流にある反応器流出液/水混合物の3つのサンプル(すなわちサンプル1、2及び3)を分析し、結果を以下の表5、6及び7に示す(それぞれ
図4、5及び6に示すガスクロマトグラフィースペクトルに対応する)。
【0131】
サンプル1は、スタティックミキサー通過後の粗反応生成物を「インフロー」サンプルとして分析用に収集され、15分の実行時間における導管システムでの反応進行のリアルタイム分析を提供した。サンプル2及び3は、スタティックミキサーを通過し、収集容器/リザーバーに収集された後、粗反応生成物の「バルク」サンプルとして分析用に収集され、それぞれ15分及び30分の実行時間における粗反応生成物の累積平均値を提供した。提示された結果は、粗反応生成物(メトキシフルラン/DCDFE)の純度/変換率が97.431%/2.016 %(サンプル1:インフロー、15分)、96.956%/2.296%(サンプル2:収集バルク、15分)及び97.989%/1.311%(サンプル3、収集バルク、30分)であることを示した。
【表4】
表中、RT=保持時間、RRT=相対的保持時間
【表5】
表中、RT=保持時間、RRT=相対的保持時間
【表6】
表中、RT=保持時間、RRT=相対的保持時間
【0132】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の定めがない限り、「含む」という単語、及び「含む」及び「含んでいる」などの変形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むことを意味するが、他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を排除しないものと理解されるであろう。
【0133】
本明細書における先行出版物(若しくはそこから派生した情報)又は既知の事項への言及は、その先行出版物(若しくはそこから派生した情報)又は既知の事項が本明細書に関連する同種の技術分野における通常の一般知識の一部を形成することの同意又は承認、あるいはいかなる形式の示唆としても解釈されず、また解釈されてはならない。
【0134】
本発明の範囲を逸脱することなく、多くの改変が当業者には明らかであろう。