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特許7542072貴金属を含むコレクタ合金又は純粋な銀の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】貴金属を含むコレクタ合金又は純粋な銀の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/02 20060101AFI20240822BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240822BHJP
   C22B 9/10 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B7/00 F
C22B9/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022549284
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 EP2020087403
(87)【国際公開番号】W WO2021164931
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】20157810.1
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】レーリッヒ、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】バウアー-シーベンリスト、ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクラー、ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ、カール ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーテン、ディアーナ
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-277792(JP,A)
【文献】特表2014-507564(JP,A)
【文献】米国特許第04427442(US,A)
【文献】国際公開第2004/081243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属銀、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、並びに銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属を含む、コレクタ合金を製造するための方法であって、
(1)3.5~29.5重量%の貴金属銀、0.5~10重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、0~10重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属、並びに70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料を含む、合計で4~30重量%の貴金属を含む貴金属スイープを提供する工程と、
(2)工程(1)で提供される前記貴金属スイープからの前記耐火性無機材料との集合的溶融中に、35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなる溶融スラグを形成することができるフラックスを提供する工程と、
(3)上下に配置された異なる密度の少なくとも2つの相を含む溶融物を形成している、工程(1)及び(2)で提供される材料の、1300~1600℃の範囲の温度での集合的溶融の工程と、
(4)低密度上相と高密度下相とを分離する工程であって、前記上相が、35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなるスラグ相を含み、前記下相が、前記コレクタ合金を含む工程と、を含み、
工程(3)中の、前記1300~1600℃の範囲の温度におけるFactStage(著作権)シミュレーションソフトウェアによって計算された前記溶融スラグの粘度が、0.1~5Pa・Sの範囲であり、
前記方法で使用される前記材料のいずれも、金属銅上の外側酸化銅層として存在する酸化銅を除いて、酸化銅を含まず、
前記貴金属スイープとは、貴金属加工からの貴金属含有残留物を意味し、貴金属割合は、金属として、または金属合金の構成部分として、95%以上、または完全に存在する、方法。
【請求項2】
純粋な銀を製造するための方法であって、
(1)4~30重量%の銀及び70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料からなる銀スイープを提供する工程と、
(2)工程(1)で提供される前記銀スイープからの前記耐火性無機材料との集合的溶融中に、35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなる溶融スラグを形成することができるフラックスを提供する工程と、
(3)上下に配置された異なる密度の少なくとも2つの相を含む溶融物を形成している、工程(1)及び(2)で提供される材料の、1300~1600℃の範囲の温度での集合的溶融の工程と、
(4)低密度上相と高密度下相とを分離する工程であって、
前記上相が、35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなるスラグ相を含み、前記下相が、純粋な銀を含む工程と、を含み、
工程(3)中の、前記1300~1600℃の範囲の温度におけるFactStage(著作権)シミュレーションソフトウェアによって計算された前記溶融スラグの粘度が、0.1~5Pa・Sの範囲であり、
前記方法で使用される前記材料のいずれも酸化銅を含まず、
前記銀スイープとは、唯一の貴金属として銀を含む貴金属のスイープを意味し、貴金属割合は、金属として、または金属合金の構成部分として、95%以上、または完全に存在する、方法。
【請求項3】
前記貴金属スイープ及び/又は前記フラックスが、工程(3)における前記集合的溶融の前に粉砕される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記銀スイープ及び/又は前記フラックスが、工程(3)における前記集合的溶融の前に粉砕される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
合計100重量部になる前記上相及び下相の比が、5~60重量部のコレクタ合金:40~95重量部のスラグの範囲になるように製造が行われる、請求項1又はのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
合計100重量部になる前記上相及び下相の比が、5~60重量部の銀:40~95重量部のスラグの範囲になるように製造が行われる、請求項2又はのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
還元剤が、工程(3)中に供給又は添加される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶融プロセスが、回転及び/又は傾斜可能な溶融炉で行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(4)が、密度差を利用することによって、前記相を互いに分離することである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(4)が、炉の内容物が注ぎ出され、分離手段なしで冷却及び固化され、その後、固化相を機械的に分離するような方法で行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属を含むコレクタ合金又は純粋な銀の製造方法に関する。
【0002】
本明細書で使用される「貴金属」という用語は、一般に、元素である銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、及びレニウム(Re)を含む。
【0003】
本明細書で使用される「純粋な銀」という用語は、少なくとも97wt%(重量%)の純度を有する銀を指し、したがって、<97重量%の銀含有量を有する合金とは異なる。
【0004】
溶融冶金法による貴金属含有廃棄物からの貴金属を含むコレクタ合金の製造が知られている。これにより、一方では貴金属を含むコレクタ合金及び他方ではスラグが得られる(例えば、ドイツ特許第3816697(C1)号、及びドイツ特許第3203826(A1)号を参照されたい)。しかしながら、この場合、経済的な観点から、スラグがかなりの貴金属フラクションを含む可能性が依然としてありながら、資源保全の理由のためにスラグが廃棄されることが禁じられ、スラグの多かれ少なかれ精巧な更なる加工を必要とし得る。
【0005】
本発明の目的は、スラグへの貴金属の損失が可能な限り少ない、特定の貴金属スイープを加工するための溶融冶金法を開発することであった。
【0006】
本明細書で使用される「貴金属スイープ」という用語(または「貴金属くず(dross)」として知られる)は、貴金属加工(ジュエリー産業、ジュエリーワークショップ、歯科廃棄物)からの貴金属含有残留物、特に複合物品(consolidated goods)(残留物、ダスト、研削ダスト、研磨ダスト)を意味するが、例えば、選鉱、沈殿残留物、及び灰からの残留物も意味する。唯一の貴金属として銀を含む貴金属スイープは、銀スイープである。
【0007】
本発明は、0~<97重量%の貴金属銀、0~75重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、並びに0~75重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属を含む、合計で25~100重量%の貴金属を含むコレクタ合金(以降、略して簡単に「コレクタ合金」とも称される)を製造するための、又は純粋な銀を製造するためのいずれかの方法を提供することによって、問題を解決する。この方法は、
(1)0~30重量%の貴金属銀、0~10重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、0~10重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属、並びに70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料、を含むか又はからなる、合計で4~30重量%の貴金属を含む貴金属スイープを提供する工程と、
(2)工程(1)で提供される貴金属スイープからの耐火性無機材料との集合的溶融中に、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなる溶融スラグを形成することができるフラックスを提供する工程と、
(3)上下に配置された異なる密度の少なくとも2つの相を含む溶融物を形成している工程(1)及び(2)で提供される材料の、1300~1600℃の範囲の温度での集合的溶融の工程と、
(4)低密度上相と高密度下相とを分離する工程であって、
上相が、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなるスラグ相を含むか又はスラグ相であり、下相がコレクタ合金若しくは純粋な銀を含むか、又はコレクタ合金若しくは純粋な銀である、工程と、を含み、
この方法で使用される材料のいずれも、金属銅上の外側酸化銅層として任意選択的に存在する酸化銅を除いて酸化銅(CuO及び/又はCuО)を含まない。
【0008】
本発明による方法で使用される材料のいずれも、バルク中の酸化銅を含まない。この特定の文脈において、「使用される材料」で用いられる「使用される」という用語は、「提供された、供給された、添加された」などの動作を含む。「金属銅上の外側酸化銅層として任意選択的に存在する酸化銅」は、本発明による方法の第1の実施形態において起こり得るのみであり、金属銅が、工程(1)で提供される貴金属スイープ中の構成成分として存在する場合、及び/又は金属銅が当該方法でそれ自体添加剤として使用される場合を指し、該金属銅は任意選択的に外側酸化銅層を有する。本発明による方法の第2の実施形態では、工程(1)で提供される銀スイープ中の構成成分として金属銅は存在せず、金属銅も本方法の任意の時点で添加剤として使用されない。
【0009】
「耐火性無機材料」及び「耐火性無機化合物」という用語が、本明細書で使用される。耐火性無機材料は、例えば、900~2500℃の範囲の高温に耐性がある非金属材料であり、すなわち、物理的及び化学的に非変化若しくは実質的に非変化の材料、又はそのような耐性材料の熱分解性前駆体、例えば、硫酸塩、炭酸塩である。それは、例えば、セラミック耐火材料であり得る。耐火性無機材料の例としては、例えば、元素であるアルミニウム、チタン、ケイ素、マグネシウム、スズ、亜鉛、ジルコニウム、鉄、ニッケル、及びカルシウムの酸化物、水酸化物、及び酸化物水和物;ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、チタン酸塩、及び他の混合酸化物;炭酸カルシウム;炭酸ナトリウム;硫酸カルシウム;硫酸バリウム;リン酸カルシウム;炭化ケイ素及び窒化ケイ素などの無機化合物が挙げられる。当該耐火性無機材料は、それ自体本質的に貴金属を含まない。本発明による方法で使用又は添加される耐火性無機材料又は耐火性無機化合物は、酸化銅を含まず、これは、特に、方法工程(1)及び(2)で提供される材料(スイープ及びフラックス)の構成成分として含まれる耐火性無機材料又は化合物を視野に入れても適用される。
【0010】
本明細書で使用される「貴金属を含まない」という用語は、低貴金属含有量以外の貴金属を含まないとして、例えば、関連する材料にとって技術的に実質的には避けられないものである、>0~25重量ppmの範囲として当業者に理解される。
【0011】
本発明による方法は、特に、貴金属スイープ又は銀スイープを加工するための溶融冶金法の範囲内で行われる。「溶融冶金加工」は、本明細書では、溶融冶金による貴金属又は銀の回収を指す。あるいは、本発明はしたがって、合計で4~30重量%の貴金属を含む貴金属スイープの溶融冶金加工のための工程(1)~(4)を含む方法としても理解され得る。
【0012】
第1の実施形態では、本発明による方法は、0~<97重量%の貴金属銀、0~75重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、並びに0~75重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属を含む、合計で25~100重量%の貴金属を含むコレクタ合金を製造するための方法であって、
(1)0~30重量%の貴金属銀、0~10重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、0~10重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属、並びに70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料を含むか又はからなる、合計で4~30重量%の貴金属を含む貴金属スイープを提供する工程と、
(2)工程(1)で提供される貴金属スイープからの耐火性無機材料との集合的溶融中に、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなる溶融スラグを形成することができるフラックスを提供する工程と、
(3)上下に配置された異なる密度の少なくとも2つの相を含む溶融物を形成している、工程(1)及び(2)で提供される材料の、1300~1600℃の範囲の温度での集合的溶融の工程と、
(4)低密度上相と高密度下相とを分離する工程であって、
上相が、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなるスラグ相を含むか又はスラグ相であり、下相がコレクタ合金を含むか又はコレクタ合金である工程と、を含み、この方法で使用される材料のいずれも、金属銅上の外側酸化銅層として任意選択的に存在する酸化銅を除いて酸化銅を含まない。
【0013】
この第1の実施形態では、工程(3)は、純粋な銅及び/又は純粋な銀を添加することで進行し得る。
【0014】
本明細書で使用される「純粋な銅」という用語は、少なくとも97重量%の純度を有する金属銅を指し、したがって、<97重量%の銅含有量を有する合金とは異なる。純粋な銅は、外側酸化銅層を有することができる。
【0015】
本発明による方法の第2の実施形態では、純粋な銀を製造するための方法であり、貴金属スイープは銀スイープである。次いで、この方法は、
(1)4~30重量%の銀及び70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料からなる銀スイープを提供する工程と、
(2)工程(1)で提供される銀スイープからの耐火性無機材料との集合的溶融中に、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなる溶融スラグを形成することができるフラックスを提供する工程と、
(3)上下に配置された異なる密度の少なくとも2つの相を含む溶融物を形成している、工程(1)及び(2)で提供される材料の、1300~1600℃の範囲の温度での集合的溶融の工程と、
(4)低密度上相と高密度下相とを分離する工程であって、
上相が、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなるスラグ相を含むか又はスラグ相であり、下相が純粋な銀を含むか又は純粋な銀である工程と、を含み、この方法で使用される材料のいずれも酸化銅を含まない。
【0016】
この第2の実施形態では、工程(3)は、純粋な銀をそのままで添加することで、すなわち純粋な銀以外の金属を添加することなく、進行し得る。
【0017】
本発明による方法の両方の実施形態は、選択されるフラックスに関して工程(2)に記載されているものと同じ選択ルールに準拠する。
【0018】
本発明による方法では、工程(3)中に、貴金属(当該方法の第1の実施形態)、又は純粋な銀(当該方法の第2の実施形態)を含むコレクタ合金が形成される。
【0019】
コレクタ合金は、合計で25~100重量%の貴金属を含み、そしてそれにより、0~<97重量%の貴金属銀、0~75重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、並びに0~75重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属を含み、それにより、例えば、合計で最大5重量%の、鉛、亜鉛、及びクロムなどの、1つ以上の他の元素(銀、金、白金、ロジウム、パラジウム、銅、鉄、スズ及びニッケル以外の元素)を更に含むことができる。したがって、コレクタ合金は、例えば、貴金属のみ、すなわち金、白金、ロジウム及びパラジウムから選択される少なくとも2つの貴金属か、又は金、白金、ロジウム及びパラジウムから選択される1つ以上の貴金属と一緒に銀かのどちらかを含んでもよく、しかしながら、コレクタ合金は、銅、鉄、スズ及びニッケルから選択される非貴金属のうちの少なくとも1つを、(i)銀と一緒に、又は(ii)金、白金、ロジウム及びパラジウムから選択される1つ以上の貴金属と一緒に、又は(iii)銀と、金、白金、ロジウム及びパラジウムから選択される1つ以上の貴金属と一緒に含んでもよい。コレクタ合金はまた、前述の変形例(i)~(iii)の各々において、銀、金、白金、ロジウム、パラジウム、銅、鉄、スズ及びニッケル以外の元素を含んでもよい。
【0020】
好ましい実施形態では、コレクタ合金は、合計で40~100重量%の貴金属を含む。
【0021】
本発明による方法において、コレクタ合金がその第1の実施形態に従って製造される場合、任意の銀含有量は、貴金属スイープ及び/又は工程(3)中に任意選択的に添加される任意の純粋な銀に由来することがあり、金、白金、ロジウム、パラジウム、鉄、スズ及び/又はニッケルの任意の含有量は、貴金属スイープに由来することがあり、任意の銅含有量は、貴金属スイープ及び/又は工程(3)中に任意選択的に添加される純粋な銅に由来することがある。
【0022】
本発明による方法において、純粋な銀がその第2の実施形態に従って製造される場合、銀は、銀スイープ及び任意選択的に工程(3)中に添加される純粋な銀に由来する。
【0023】
その第1の実施形態による本発明による方法の工程(1)では、0~30重量%の貴金属銀、0~10重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、0~10重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属、並びに70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料、を含むか又はからなる、合計で4~30重量%の貴金属を含む貴金属スイープが提供される。貴金属フラクションは、実質的に(>95%)又は完全に、金属として又は金属合金の構成成分として存在する。金属形態ではない貴金属は、一般に酸化物として存在し、耐火性無機材料には属していない。貴金属スイープは、少ない割合の、例えば最大5重量%の、1つ以上の他の元素(銀、金、白金、ロジウム、パラジウム、銅、鉄、スズ、及びニッケル以外の元素)、例えば、鉛、亜鉛、及びクロムなどを更に含み得る。所望であれば、例えば、有機化合物及び/又は炭素などの存在する任意の有機不純物が、工程(3)が実行される前に除去され得る。
【0024】
好ましくは、貴金属スイープは、3.5~29.5重量%の貴金属銀、0.5~10重量%の、金、白金、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つの貴金属、0~10重量%の、銅、鉄、スズ及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの非貴金属、並びに70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料、を含むか又はからなる。
【0025】
耐火性無機材料の種類及び例に関しては、前述のものを参照する。
【0026】
第2の実施形態による本発明による方法の工程(1)では、4~30重量%の銀及び70~96重量%の少なくとも1つの耐火性無機材料からなる銀スイープが提供される。銀含有量は、実質的に(>95%)又は完全に、金属として存在する。金属形態ではない銀は一般に、酸化銀として存在し、耐火性無機材料に属してはいない。
【0027】
耐火性無機材料の種類及び例に関しては、ここでは前述のものを参照する。
【0028】
本発明による方法の工程(2)では、工程(1)で提供される貴金属スイープ又は銀スイープからの耐火性無機材料との集合的溶融中に、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなる溶融スラグを形成することができるフラックスが提供される。具体的には、これは、フラックスが、工程(1)で提供される貴金属スイープ又は銀スイープからの耐火性無機材料と共に、工程(3)中に低密度の上部溶融相として当該組成物の溶融スラグを形成することができることを意味する。
【0029】
当業者は、本明細書に開示される選択ルールを考慮してフラックスを選択することが容易である。この目的のために、当業者は、本発明の方法に従って特定のバッチ(定義されたサイズのバッチ)内で溶融冶金することによって加工されることになる、貴金属スイープ若しくは銀スイープの、又はそれに含まれる耐火性無機材料の絶対量及び組成の知識を単に取得する必要がある。当技術分野で慣習的な混合物計算が使用される場合、好適な組成物を有する適切な量のフラックスを選択することが可能である。これについては、例えば、45.2重量%の酸化アルミニウム、5.7重量%の酸化カルシウム、37.2重量%の二酸化ケイ素、合計で6.6重量%の他の酸化物(酸化チタン、酸化鉄、酸化ジルコニウム)、及び5.2重量%の貴金属(Ag、Au、Pt)の組成を有する貴金属スイープ100kgが、溶融冶金プロセスによって加工される必要があるという例で説明される。例えば、100kgの酸化カルシウム及び63kgの二酸化ケイ素の組成を有する163kgのフラックスを使用して、40.9重量%の酸化カルシウム、39.0重量%の二酸化ケイ素、17.5重量%の酸化アルミニウム、及び2.6重量%の他の酸化物から構成されるスラグが、本発明による方法において得られる。
【0030】
工程(1)及び(2)で提供される材料、すなわち貴金属スイープ若しくは銀スイープ及び/又はフラックスは、工程(3)における集合的溶融の前に、便宜上、粉砕、例えば、細粉され得る。この場合、当業者は、良好な扱いやすさを考慮に入れ、例えば、粉塵の問題をもたらす粉砕を回避するであろう。
【0031】
その第1の実施形態による本発明による方法の工程(3)では、工程(1)及び(2)で提供される材料は、任意選択的に、純粋な銅及び/又は純粋な銀を添加して、1300~1600℃の範囲の温度で一緒に溶融される。対照的に、その第2の実施形態による本発明による方法の工程(3)において、工程(1)及び(2)で提供される材料は、任意選択的に純粋な銀の添加を伴うが、銅又は他の金属の添加を伴うことは決してなく、1300~1600℃の範囲の温度で一緒に溶融される。両方の実施形態では、溶融物は、上下(垂直方向)に配置された異なる密度の2つ以上の相から形成される。上下に配置された相は、既に上述したように構成される溶融スラグ、を含むか若しくはからなる上相と、既に上述した(本発明による方法の第1の実施形態)ように構成される溶融コレクタ合金、を含むか若しくはからなる、又は純粋な溶融銀(本発明による方法の第2の実施形態)、を含むか若しくはからなる下相と、を含む。本発明による方法では、合計100重量部になる上相及び下相の比が、例えば、5~60重量部、好ましくは10~50重量部のコレクタ合金、又は純粋な銀:40~95重量部、好ましくは50~90重量部のスラグの範囲になるような製造が好ましい。
【0032】
工程(3)中に、純粋な銅及び/若しくは純粋な銀、又は純粋な銀のみを添加する場合、それは、発生する下相の構成成分になる。
【0033】
工程(3)中、プロパンなどの還元剤、それより、より可能性の高いコークス、グラファイト、及び/又はプラスチック(プラスチック残渣、プラスチックリサイクレート)の形態の固体還元剤が任意選択的に供給又は添加され得る。これは、特に、工程(1)で提供される材料が、貴金属酸化物(複数可)及び/又は例えば、酸化スズなどの酸化銅以外の非貴金属酸化物を含む場合に、好都合であり得る。したがって、金属酸化物を金属に還元し、下相の構成成分になることができる。
【0034】
工程(3)の溶融プロセス中に、貴金属スイープ又は銀スイープは、それらの構成成分、すなわち、貴金属若しくは銀、スイープによって構成される任意の非貴金属、及び耐火性無機材料に分離される。
【0035】
第1の実施形態による本発明による方法においてコレクタ合金が製造される場合、当該コレクタ合金は、例えば、10~18g/cmの範囲の高密度のために、溶融炉の下部領域に集合する。コレクタ合金の貴金属含有量は、必ずしもより高いわけではないが、貴金属スイープよりも一般的に高く、その後、コレクタ合金の適切な加工後に、貴金属(単数又は複数)の金属としての調製、又は貴金属化合物としての調製を可能にする。
【0036】
本発明による方法において、純粋な銀が第2の実施形態に従って製造される場合、当該純粋な銀もまた、その高密度のために、溶融炉の下部領域に集合する。
【0037】
耐火性無機材料は、工程(2)で提供されるフラックスと混合し、当該溶融スラグを形成し、溶融スラグは溶融炉の上部領域に蓄積し、例えば、2.5~4g/cmの密度の領域での低い密度を有する。
【0038】
誤解を回避するために、本明細書で与えられる密度仕様は、20℃でのそれぞれの固体を参照する。
【0039】
結果として、溶融スラグは上部に浮遊し、同様に溶融コレクタ合金又は溶融した純粋な銀は底部に集合し、すなわち上下に配置された少なくともこれらの2つの溶融相を含む液体系が発生する。
【0040】
実質的に、溶融スラグは、工程(2)で提供されるフラックスと貴金属スイープ又は銀スイープからの耐火性無機材料の融合の結果である。この場合、溶融スラグは、それを形成する当該物質の化学的に変化しない混合物であり得るか、又は後者は化学的変化を受けたかもしれない。
【0041】
溶融プロセスは、慣習的に、例えば、ガス燃焼溶融炉で実行することができる。好都合な実施形態では、それは、回転及び/又は傾斜可能な溶融炉、例えば、ショートロータリーファーネスである。一般に、製造は、還元性又は不活性な炉内雰囲気で行われる。
【0042】
工程(1)及び(2)で提供される材料は混合され、次いで、高温溶解炉に部分的に又は別々の部分で、例えば、交互部分で添加されて溶融されることが可能である。添加される任意の純粋な銅及び/又は純粋な銀若しくは純粋な銀のみを、例えば、この途中又はその後に、部分的に溶融物に添加することができる。部分的に添加することは、部分サイズ及び添加頻度が溶融プロセスの進行によって誘導され、したがって溶融物への添加が、溶融材料への良好な熱伝達を確実にするように行われることを意味する。
【0043】
工程(3)の成功に不可欠であることは、特に工程(2)におけるフラックスの正確な選択である。工程(3)の成功は、その過程で、低い貴金属若しくは銀含有量のみを有するスラグが形成されることを意味し、言い換えれば、貴金属スイープに含まれる貴金属の可能な限り多くが工程(3)中に形成される下部コレクタ合金相にあるか、又は銀スイープに含まれる銀の可能な限り多くが工程(3)中に形成される純粋な銀の下部相にあることを意味する。フラックスの正確な選択とは、フラックスの種類及び量、すなわち、貴金属スイープ又は銀スイープの量に対するフラックスの総量を指し、並びにその構成成分の種類及び量に応じるフラックスそれ自体の組成を指す。言い換えれば、工程(1)で提供される貴金属スイープ若しくは銀スイープからの耐火性無機材料との集合的溶融中に、>35~45重量%の酸化カルシウム、35~45重量%の二酸化ケイ素、15~<20重量%の酸化アルミニウム、並びに0~<15重量%の、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び酸化アルミニウム以外の1つ以上の耐火性無機化合物からなる溶融スラグを形成することができるフラックスを提供するという選択ルールの考慮が、工程(3)の成功のための必須の前提条件である。工程(3)中における支配的な温度でのそのような溶融スラグは、溶融貴金属又は銀が、スラグ相を出て下に位置する溶融相に向かうのに好適な低い粘度を有すると想定される。したがって、工程(3)中における支配的な温度範囲での上述したように構成されたスラグのFactSage(著作権)シミュレーションソフトウェアによって計算された粘度は、例えば、わずか0.1~5Pa・sの範囲である。
【0044】
工程(3)の完了後、すなわち、二相又は多相系が形成された後、本発明による方法の工程(4)が実行され、すなわち、低密度上相と高密度下相との分離が実行される。
【0045】
好ましくは、工程(4)による相の分離は、密度差を利用することによって、高密度下相から低密度上相を分離することである。この目的のために、既知のデカント原理に従って溶融炉の内容物は、例えば、注意深く注ぎ出され得るか、又は上方に位置するスラグ相又は底部に位置する金属相が取り出される(tapped off)。次いで、下相からの溶融コレクタ合金又は溶融した純粋な銀は冷たくなり得、例えば、好適な容器内で固化させることができる。
【0046】
コレクタ合金又は純粋な銀の冷却及び固化後、固化した金属を収集することができる。特にコレクタ合金の場合、後者は次いで、貴金属若しくは個々の貴金属を金属として若しくは貴金属化合物としてのいずれかとして、又は例えば、その溶液として最終的に得るために、更なる従来の精錬、例えば、電気冶金及び/又は湿式冶金精錬に供され得る。
【0047】
しかしながら、工程(4)による相の分離はまた、炉の内容物、すなわち二相又は多相溶融物が注ぎ出され、分離手段なしで冷却及び固化できるような方法で行うことができる。その後、固化相の機械的分離が行われることができ、その後に固化金属の収集が続く。特にコレクタ合金の場合、後者は次いで、貴金属若しくは個々の貴金属を金属として若しくは貴金属化合物としてのいずれかとして、又は例えば、その溶液として最終的に得るために、更なる従来の精錬、例えば、電気冶金及び/又は湿式冶金精錬に供され得る。
【実施例
【0048】
実施例1:
表1による組成を有する500kgの貴金属スイープを、498kgの酸化カルシウム及び316kgの二酸化ケイ素と予混合した。この混合物を、1500℃で溶融炉に5時間にわたって添加し、溶融させた。続いて、40kgの銅金属及び2kgのコークスを添加し、溶融物をこの温度で60分間保持した。形成されたホットスラグ及び同様に形成されたコレクタ合金を、好適な容器に注ぎ入れた。コレクタ合金及びスラグの化学組成を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例2
表2による組成を有する225kgの銀スイープを、453kgの酸化カルシウム及び465kgの二酸化ケイ素と予混合した。この混合物を、1500℃で溶融炉に4時間にわたって添加し、溶融させた。続いて、10kgのコークスを添加し、溶融物をこの温度で60分間保持した。形成されたホットスラグ及び同様に形成された銀を好適な容器に注ぎ入れた。スラグの化学組成を表2に示す。銀は99.97重量%の純度を有した。
【0051】
【表2】