(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】化成皮膜および製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
C23C28/00 C
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023065194
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2021168986の分割
【原出願日】2017-09-01
【審査請求日】2023-04-26
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500149223
【氏名又は名称】サン-ゴバン パフォーマンス プラスティックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Saint-Gobain Performance Plastics, Corporation
【住所又は居所原語表記】31500 Solon Road Solon, 44139 OH USA
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナジラ・ダドヴァンド
(72)【発明者】
【氏名】ナフィウ・メキレフ
(72)【発明者】
【氏名】イー・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド・ジェイ・ホワイト
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-041377(JP,A)
【文献】特開昭50-147442(JP,A)
【文献】国際公開第2007/061011(WO,A1)
【文献】特開2011-032576(JP,A)
【文献】特開2009-120911(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165084(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/064659(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0008645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-30/00
C23F 11/00-11/18
C23F 14/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板を覆い、かつ酸化ジルコニウム
を含む化成皮膜と、を含む複合材であって、
前記化成皮膜が、
オキシ硝酸ジルコニウムを含むジルコニウムイオン源
を、第1の反応において第1のキレート化合物と、次の第2の反応において第2のキレート化合物と反応させることによって得られるジルコニア
系錯体から形成され
、
前記第1のキレート化合物が、EDTAを含み、
前記第2のキレート化合物が、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンを含む、複合材。
【請求項2】
前記第1および第2のキレート化合物のうちの少なくとも1つが、エチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)、エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、グリシネート、アスパラギン酸、アミノポリカルボキシレートニコチアナミン、アミノ酸グリシン、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、またはジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記第2のキレート化合物が、エチレンジアミン
をさらに含む、請求項1に記載の複合材。
【請求項4】
前記ジルコニア
系錯体が、少なくとも1のpHを有する溶液中にある、請求項1に記載の複合材。
【請求項5】
前記ジルコニア
系錯体が、最大11のpHを有する溶液中にある、請求項1に記載の複合材。
【請求項6】
前記ジルコニア
系錯体が、1から11の範囲のpHを有する溶液中にある、請求項1に記載の複合材。
【請求項7】
前記ジルコニウムイオン源が、フッ化ジルコニウム(IV)水和物
を含む塩を
さらに含む、請求項1に記載の複合材。
【請求項8】
前記基板が金属表面を含む、請求項1に記載の複合材。
【請求項9】
前記金属表面が、鋼系金属、アルミナ、亜鉛、またはこれらの組み合わせを含む、請求項
8に記載の複合材。
【請求項10】
前記金属表面が、亜鉛を含む、請求項
9に記載の複合材。
【請求項11】
前記基板が、前記金属表面の下にある金属バッキングを含む、請求項1に記載の複合材。
【請求項12】
前記金属バッキングが、アルミニウム、鉄、それらの任意の合金、またはこれらの組み合わせを含む、請求項
11に記載の複合材。
【請求項13】
前記金属バッキングが、鉄系合金を含む、請求項
12に記載の複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化成皮膜に関し、より詳細には酸化ジルコニウムおよび酸化ハフニウムのう
ちの少なくとも1つを含む化成皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面用の化成皮膜は、防食、装飾色、および塗装用プライマーなど、様々な用途の
ために使用され得る。既存の化成皮膜は、人間の健康および環境にとって有害である材料
を含んでもよい。化成皮膜用の新規材料が必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0003】
実施形態は、例示のために示されるものであり、添付の図面に限定されない。
【0004】
【
図1】本明細書に記載の別の実施形態によるキレート化合物の図解を含む。
【
図2】本明細書に記載のさらに別の実施形態によるキレート化合物の図解を含む。
【
図3】本明細書に記載の実施形態によるジルコニア系化成皮膜を形成するメカニズムを明示する図解を含む。
【
図4】本明細書に記載の実施形態によるジルコニア系化成皮膜を形成するメカニズムを明示する図解を含む。
【
図5】本明細書に記載の耐食性試験に従って、耐食性を測定するために使用される電気化学システムの図解を含む。
【
図6】本明細書に記載の耐食性試験によるインピーダンスおよび耐食性R
tをプロットした例示的なグラフを含む。
【
図7】本明細書に記載の実施例1の試料の図解を含む。
【
図8】本明細書に記載の実施例1の比較試料の図解を含む。
【
図9】本明細書に記載の実施例2の試料の図解を含む。
【
図10】本明細書に記載の実施例2の比較試料の図解を含む。
【0005】
当業者であれば、図中の要素は、単純性および明瞭性のために例示されるものであり、
必ずしも縮尺通りに描かれているわけではないことを理解している。例えば、図中の要素
のうちのいくつかの寸法は、本発明の実施形態の理解の向上に役立つように他の要素に対
して誇張される場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下の説明は、図と組み合わせて、本明細書において開示される教示の理解を助けるた
めに提供される。以下の考察は、教示の特定の実装形態および実施形態に焦点を合わせる
。この焦点は、教示の説明を助けるために提供され、教示の範囲または適用性を限定する
ものとして解釈されるべきではない。しかしながら、本出願において開示される教示に基
づいて他の実施形態が使用されてもよい。
【0007】
用語「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含
む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、
「有する(having)」、またはこれらの任意の他の変形は、非排他的包含を網羅す
ることを意図される。例えば、特長の列挙を含む方法、物品、または装置は、必ずしもそ
れらの特長のみに限定されるわけではないが、明確には列挙されていないか、またはかか
る方法、物品、もしくは装置に固有である他の特長を含んでもよい。さらに、そうではな
いと明確に記載されない限り、「または(or)」は、包含的なまたは(inclusi
ve-or)を指し、排他的なまたは(exclusive-or)を指すものではない
。例えば、条件AまたはBは、以下のうちのいずれか1つよって満たされる:Aが真であ
り(または存在し)かつBが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在
しない)かつBが真である(または存在する)、およびAとBの両方が真である(または
存在する)。
【0008】
また、「a」または「an」の使用は、本明細書において説明される要素および構成要
素を説明するために用いられる。これは、単に便宜性のために、また本発明の範囲の一般
的な意味を付与するために行われる。この説明は、それがそうではないように意味される
ことが明白でない限り、1つ、少なくとも1つ、または複数形もまた含むような単数形を
含むように読まれるべきであり、逆も同様である。例えば、単一の項目が本明細書に説明
される場合、複数の項目が単数の項目の代わりに使用されてもよい。同様に、複数の項目
が本明細書に説明される場合、単数の項目がその複数の項目に置き換えられてもよい。
【0009】
別段に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術的および科学的用語は、本
発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。材料、
方法、および実施例は、単に例証的なものであり、限定的であることを意図されない。本
明細書に記載されていない限り、特定の材料および処理行為に関する多くの詳細は、従来
のものであり、皮膜技術における教科書および他の情報源に見出され得る。
【0010】
耐食性、塗料への接着性、またはその両方を呈することができる組成物が本明細書に記
載されている。一実施形態では、組成物は、CrVI化成皮膜などのクロム系化成皮膜を
置き換えるのに十分な性能を呈することができる。例えば、組成物は、ジルコニウムおよ
びハフニウムのうちの少なくとも1つの塩、および溶液中のオキシ水酸化ジルコニウムお
よびオキシ水酸化ハフニウムのうちの少なくとも1つの形成を減らすために後続の反応に
使用される適切なキレート剤の混合物を含み得る。出願人らは、反応中のキレート化合物
および別の反応中の別のキレート化合物を使用して、ジルコニアまたはハフニア系錯体を
形成することによって、接着性および耐食性を改善できることを発見した。概念は、本発
明の範囲を示し、かつ限定しない、後述の実施形態の観点からより良く理解される。
【0011】
一実施形態では、組成物は、ジルコニアまたはハフニア系錯体を含むことができる。ジ
ルコニアまたはハフニア系錯体は、ジルコニウムイオン源、ハフニウムイオン源、または
これらの組み合わせを、第1の反応において第1のキレート化合物と、次の第2の反応に
おいて第2のキレート化合物と反応させることによって製造され得る。特定の実施形態で
は、ジルコニウムイオン源は、フッ化ジルコニウム(IV)水和物、オキシ硝酸ジルコニ
ウム、またはこれらの組み合わせなどのジルコニウムの塩を含むことができる。
【0012】
第1のキレート化合物および第2のキレート化合物のうちの少なくとも1つは、オキシ
アニオンを含んでもよい。オキシアニオンは、例えば有機アミンまたはアミドを含むこと
ができる。一実施形態では、第1のキレート化合物および第2のキレート化合物のうちの
少なくとも1つは、エチレンジアミン、アミノポリカルボン酸、またはポリヒドロキシア
ルキルアルキレンポリアミンを含むことができる。特定の実施形態では、アミノポリカル
ボン酸は、エチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)を含むことができる。EDTAの一
例を
図1に例解する。特定の実施形態では、ポリヒドロキシアルキルアルキレンポリアミ
ンは、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンを
含んでもよい。N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジ
アミンの例を
図2に示す。キレート化合物のさらなる例としては、グリシネート、アスパ
ラギン酸、アミノポリカルボキシレートニコチアナミン、アミノ酸グリシン、1,2-ビ
ス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、1,
4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、エ
チレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(
EGTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、およびジエチレント
リアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。特定の実施形態では、第1のキレート化合物
と第2のキレート化合物とが異なる場合には、第1のキレート化合物としては、エチレン
ジアミン、アミノポリカルボン酸、またはポリヒドロキシアルキルアルキレンポリアミン
を挙げることができ、第2のキレート化合物としては、エチレンジアミン、アミノポリカ
ルボン酸、またはポリヒドロキシアルキルアルキレンポリアミンを挙げることができる。
【0013】
前述のように、上記のキレート化合物のうちの2つ以上の組み合わせは、ジルコニウム
イオン、ハフニウムイオン、これらの組み合わせ、またはそれらの塩と反応して錯体を形
成することができる。錯体は、イオンの安定性を改善し、溶液中のジルコニウムまたはハ
フニウム含有化合物の沈殿を減少させることができる。
図3および
図4は、本明細書に記
載の組成物の実施形態を使用した化成皮膜の形成の非限定的な例の図解を含む。特に、図
3は、本明細書に記載の実施形態によるジルコニア系錯体の形成を明示しており、
図4は
、本明細書に記載の実施形態による、亜鉛皮膜20を有する基板10の表面に向かうジル
コニア系錯体の移動を明示している。例解するように、亜鉛皮膜20をジルコニア系錯体
にさらして、亜鉛皮膜20との交換反応に関与させて、基板を覆うジルコニア皮膜を形成
する。
図3および
図4に例解する特定の例では、オキシ硝酸ジルコニウムが最初にEDT
Aアニオンと錯体化合物を形成する。次いで、オキシ硝酸ジルコニウム-EDTA錯体を
エチレンジアミンと反応させて、ジルコニア系錯体の一実施形態が形成される。
【0014】
一実施形態では、組成物は耐食添加剤を含むことができる。耐食添加剤は、モリブデン
酸イオン、タングステン酸イオン、またはこれらの組み合わせを含むことができる。例え
ば、組成物は、モリブデン酸塩の塩およびタングステン酸塩の塩のうちの少なくとも1つ
を含むことができる。一実施形態では、本明細書に記載の錯体は、溶液中にあってもよい
。特定の実施形態では、溶液は水溶液である。例えば、溶液は有機溶媒を含まなくてもよ
い。
【0015】
一実施形態では、ジルコニアまたはハフニア系錯体は、少なくとも1、または少なくと
も2、または少なくとも3、または少なくとも3.5、または少なくとも3.7、または
少なくとも3.9、または少なくとも4のpHを有する溶液中にあり得る。溶液は、最大
11、または最大10、または最大9、または最大8.5、または最大8.3、または最
大8.1、または最大8.0のpHを有することができる。溶液は、1~11、または2
~10、または3~9、または3.5~8.5、または3.7~8.3、または3.9~
8.1、または4~8の範囲のpHを有することができる。例えば、溶液のpHは、1~
11の範囲、例えば2~8の範囲、例えば3~6の範囲、さらには3~5の範囲などであ
り得る。特定の実施形態では、溶液のpHは、5~11、または6~11、または7~1
1、または8~11、または9~11の範囲であり得る。一実施形態では、組成物は、p
H調整添加剤を含むことができる。一実施形態では、pH調整添加剤は、鉱酸を含むこと
ができる。
【0016】
前述のように、組成物は化成皮膜であり得る。一実施形態では、化成皮膜により、基板
表面上に不動態層が形成され得る。不動態層は、腐食環境から基板を保護すること、基板
への塗料の接着性を改善させること、またはその両方を行うことができる。
【0017】
一実施形態では、基板は、金属表面を含むことができる。金属表面は、鋼系金属、アル
ミニウム、亜鉛、またはこれらの酸化物を含むことができる。特定の実施形態では、金属
表面は、亜鉛を含んでもよい。亜鉛は、不十分な耐食性および接着性を明示し得る。例え
ば、亜鉛表面は、反応性であり得、特定の樹脂または塗料は、亜鉛上に皮膜されたときに
鹸化し、その結果、最終的に、樹脂が接着性を失う可能性がある。本明細書に記載の組成
物の利点としては、改善された耐食性、塗料と金属表面との間の改善された接着性、また
は改善された耐食性と接着性との組み合わせを呈し得る化成皮膜としてのその使用が挙げ
られる。
【0018】
基板は、金属表面の下にある金属バッキングを含むことができる。一実施形態では、金属バッキングは、金属表面とは異なる金属を含むことができる。例えば、金属バッキングは、アルミニウム、鉄、それらの合金のうちの少なくとも1つ、またはこれらの組み合わせを含むことができる。特定の実施形態では、金属バッキングは、鋼またはさらに亜鉛メッキ鋼などの鉄系合金を含むことができる。
【0019】
また、上述の化成皮膜を含む複合材が本明細書に記載されている。特定の実施形態では
、複合材は、基板と、基板を覆う化成皮膜と、を含むことができる。基板は、上記の基板
を含んでもよい。特に、複合材は、化成皮膜と基板との間に配置された中間層を含むこと
ができる。中間層は、アルミナ、亜鉛、またはこれらの組み合わせを含む金属表面などの
、上述の金属表面であり得る。さらに、化成皮膜は、上述の組成物から形成することがで
き、ジルコニアおよびハフニアのうちの少なくとも1つ、またはこれらの組み合わせを含
むことができる。特定の実施形態では、上記のように、化成皮膜は、ジルコニウムイオン
源もしくはハフニウムイオン源のうちの少なくとも1つ、またはこれらの組み合わせを、
反応中のキレート化合物と、別の反応における別のキレート化合物と反応させることによ
って得られるジルコニアまたはハフニア系錯体から形成することができる。
【0020】
ジルコニウムイオン源もしくはハフニウムイオン源のうちの少なくとも1つ、またはこ
れらの組み合わせを、ある反応においてキレート化合物と、その後の反応において、キレ
ート化合物と反応させることによって、ジルコニアまたはハフニア系錯体を調製する方法
もまた本明細書に記載される。基板をジルコニアまたはハフニア系錯体にさらして、基板
を覆い、かつ酸化ジルコニウムもしくは酸化ハフニウムのうちの少なくとも1つ、または
これらの組み合わせを含む化成皮膜を形成することができる。
【0021】
一実施形態では、化成皮膜は、耐食性試験に従って測定したとき、改善された耐食性を
呈することができる。本明細書に記載のように、耐食性試験では、インピーダンス分光法
を用いて耐食性を測定する。試験手順には、電気化学セルを提供することと、腐食性媒体
(pH6.5を有する3.5重量%NaCl溶液)をセルに添加することと、を含む。試
験対象の試料を含む作用電極、グラファイトを含む対電極、および飽和カロメル電極など
の基準電極など、3つの電極をセルに接続する。作用電極を、腐食性媒体にさらして、正
弦波信号がセルに加えられる。得られたインピーダンスをプロットして使用し、耐食性R
tを求める。
図5は、耐食性を測定するために使用される電気化学システムの図解を含み
、
図6は、インピーダンスおよび耐食性Rtをプロットする例示的なグラフを含む。イン
ピーダンス試験は、20mVの正弦波信号を加えて室温で行い、信号の周波数は1MHz
から0.01Hzまでスキャンする。
【0022】
例えば、化成皮膜を含む複合材は、耐食性試験に従って0.01Hzで測定したとき、
少なくとも3000Ω・cm2の耐食性Rtを呈することができる。特定の実施形態では
、複合材は、耐食性試験により0.01Hzで測定したとき、少なくとも3500Ω・c
m2、または少なくとも4000Ω・cm2、または少なくとも4500Ω・cm2、少
なくとも5000Ω・cm2である耐食性Rtを呈する。特定の実施形態では、複合材は
、耐食性試験により0.01Hzで測定したとき、最大10000Ω・cm2、または最
大9000Ω・cm2、または最大8000Ω・cm2、最大7000Ω・cm2の耐食
性Rtを呈する。さらに、複合材は、耐食性試験により0.01Hzで測定したとき、3
500~10000Ω・cm2、または4000~9000Ω・cm2、または4500
~8000Ω・cm2、または5000~7000Ω・cm2など、上記の最小値および
最大値のうちのいずれかの範囲の耐食性Rtを呈することができる。
【0023】
一実施形態では、化成皮膜により、中間層または金属表面の耐食性が改善され得る。例
えば、化成皮膜を含む複合材は、化成皮膜を含まないことを除いて同一の複合材の耐食性
より少なくとも1%高い、少なくとも5%高い、または少なくとも10%高い耐食性を示
すことができる。
【0024】
一実施形態では、複合材は、化成皮膜を覆う処理層を含むことができる。処理層は、樹
脂を含むことができる。例えば、処理層は、塗料を含むことができる。金属表面は、処理
層に対して低下した接着性を呈することができ、化成皮膜により、金属表面と処理層との
間の接着性が改善され得る。
【0025】
一実施形態では、化成皮膜により、剥離強度試験に従って測定したとき、中間層または
金属表面と処理層との間の接着性が改善され得る。剥離強度試験は、1)2つの鋼基板を
提供すること、2)各鋼基板に改変ETFEの接着剤層を塗布し、改変ETFEの層間に
炭素充填ポリテトラフルオロエチレンのテープ層を塗布すること、3)積層温度315℃
、積層圧力0.5MPa下で鋼基板を一緒にプレスし、その後約45℃まで冷却し、かつ
圧力を2MPaまで上昇させること、および4)インストロン引張試験機で標準工業用T
型剥離試験を行って、剥離強度を得ること、を含む。T型剥離試験を実施するために、試
験積層体を上記のように製造した後、試験片を幅1インチ(約2.5cm)および長さ約
7インチ(約17.8cm)を有するように切断する。各試験片の端部(上部および下部
の両方の鋼基板)を角度90°で曲げて、試験試料を挟むことができるように、得られた
試験試料を文字「T」であるように成形した。これにより、試験試料をインストロン引張
試験機の上下のジョーにクランプ留めすることが可能になる。各試験試料を毎分2インチ
(約5cm)の速度で引き離し、試験試料の変位に対応させて、剥離力を測定した(単位
ニュートン)。
【0026】
例えば、複合材は、剥離強度試験に従って測定したとき、少なくとも140Nの剥離強
度を呈することができる。特定の実施形態では、複合材は、剥離強度試験に従って測定し
たとき、少なくとも142N、または少なくとも144N、または少なくとも146N、
または少なくとも148N、または少なくとも150Nの剥離強度を呈する。特定の実施
形態では、複合材は、剥離強度試験に従って測定したとき、最大250N、または最大2
40N、または最大230N、または少なくとも220N、または少なくとも210Nの
剥離強度を呈する。さらに、複合材は、剥離強度試験に従って測定したとき、140~2
50N、または142~240N、または144~230N、または146~220N、
または148~210N、または150~210Nなど、上記の最小値および最大値のい
ずれかの範囲の剥離強度を呈し得る。
【0027】
多くの異なる態様および実施形態が可能である。それらの態様および実施形態のいくつ
かを以下に記載する。本明細書を読んだ後、当業者は、それらの態様および実施形態が単
に例示的なものであり、本発明の範囲を限定しないことを認識するであろう。実施形態は
、下記に列挙される実施形態のうちのいずれか1つ以上に従い得る。
【0028】
実施形態1.基板と、
基板を覆い、かつ酸化ジルコニウムもしくは酸化ハフニウムのうちの少なくとも1つ、
またはこれらの組み合わせを含む化成皮膜と、を含む複合材であって、
耐食性試験に従って0.01Hzで測定したとき、少なくとも3000Ω・cm2の耐
食性Rtを呈し、かつ
剥離強度試験に従って測定したとき、少なくとも140Nの剥離強度を呈する、複合材
。
【0029】
実施形態2.基板と、
基板を覆い、かつ酸化ジルコニウムもしくは酸化ハフニウムのうちの少なくとも1つ、
またはこれらの組み合わせを含む化成皮膜と、を含む複合材であって、
前記化成皮膜が、ジルコニウムイオン源、ハフニウムイオン源、またはこれらの組み合
わせを、第1の反応において第1のキレート化合物と、次の第2の反応において第2のキ
レート化合物と反応させることによって得られるジルコニアまたはハフニア系錯体から形
成される、複合材。
【0030】
実施形態3.複合材を形成する方法であって、
ジルコニウムイオン源もしくはハフニウムイオン源のうちの少なくとも1つ、またはこ
れらの組み合わせを、第1の反応において第1のキレート化合物と、次の第2の反応にお
いて第2のキレート化合物と反応させることによって、ジルコニアまたはハフニア系錯体
を調製することと、
基板をジルコニアまたはハフニア系錯体にさらして、基板を覆い、かつ酸化ジルコニウ
ムもしくは酸化ハフニウムのうちの少なくとも1つ、またはこれらの組み合わせを含む化
成皮膜を形成することと、を含む、方法。
【0031】
実施形態4.第1および第2のキレート化合物のうちの少なくとも1つが、エチレンジ
アミン四酢酸(「EDTA」)、エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(
2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、グリシネート、アスパラギン酸、アミノポ
リカルボキシレートニコチアナミン、アミノ酸グリシン、1,2-ビス(o-アミノフェ
ノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、1,4,7,10-テト
ラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、エチレングリコール-
ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、ニトリ
ロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、およびジエチレントリアミン五酢酸(D
TPA)のうちの少なくとも1つを含む、実施形態2または3に記載の複合材または方法
。
【0032】
実施形態5.第1のキレート化合物が、EDTA、またはEDTA二ナトリウム塩二水
和物さえも含む、実施形態2~4のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0033】
実施形態6.第2のキレート化合物が、エチレンジアミンおよびN,N,N’,N’-
テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンのうちの少なくとも1つを含む
、実施形態2~5のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0034】
実施形態7.ジルコニアまたはハフニア系錯体が水溶液中にある、実施形態2~6のい
ずれか1つに記載の複合材または方法。
【0035】
実施形態8.水溶液が有機溶媒を含まない、実施形態7に記載の複合材または方法。
【0036】
実施形態9.ジルコニアまたはハフニア系錯体が、少なくとも1、または少なくとも2
、または少なくとも3、または少なくとも3.5、または少なくとも3.7、または少な
くとも3.9、または少なくとも4のpHを有する溶液中にある、実施形態2~8のいず
れか1つに記載の複合材または方法。
【0037】
実施形態10.ジルコニアまたはハフニア系錯体が、最大11、または最大10、また
は最大9、または最大8.5、または最大8.3、または最大8.1、または最大8.0
のpHを有する溶液中にある、実施形態2~9のいずれか1つに記載の複合材または方法
。
【0038】
実施形態11.ジルコニアまたはハフニア系錯体が、1~11、または3~9、または
4~8、または6~7の範囲のpHを有する溶液中にある、実施形態2~10のいずれか
1つに記載の複合材または方法。
【0039】
実施形態12.ジルコニウムイオン源が、フッ化ジルコニウム(IV)水和物、オキシ
硝酸ジルコニウム、またはこれらの組み合わせを含む塩を含む、実施形態2~11のいず
れか1つに記載の複合材または方法。
【0040】
実施形態13.基板が金属表面を含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載の複合
材または方法。
【0041】
実施形態14.金属表面が、鋼系金属、アルミナ、亜鉛、またはこれらの組み合わせを
含む、実施形態13に記載の複合材または方法。
【0042】
実施形態15.金属表面が亜鉛を含む、実施形態13に記載の複合材または方法。
【0043】
実施形態16.金属表面が、処理層に対して低下した接着性を呈する、実施形態13~
15のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0044】
実施形態17.処理層が塗料を含む、実施形態16に記載の複合材または方法。
【0045】
実施形態18.化成皮膜により、金属表面と処理層との間の接着性が改善する、実施形
態13~17のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0046】
実施形態19.基板が、金属表面の下にある金属バッキングを含む、実施形態1~18のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0047】
実施形態20.金属バッキングが、アルミニウム、鉄、それらの任意の合金、またはこれらの組み合わせを含む、実施形態19に記載の複合材または方法。
【0048】
実施形態21.金属バッキングが鉄系合金を含む、実施形態19および20のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0049】
実施形態22.金属が、鋼または亜鉛メッキ鋼さえも含む、実施形態19~21のいず
れか1つに記載の複合材または方法。
【0050】
実施形態23.複合材が、耐食性試験により0.01Hzで測定したとき、少なくとも
3500Ω・cm2、または少なくとも4000Ω・cm2、または少なくとも4500
Ω・cm2、少なくとも5000Ω・cm2である耐食性Rtを呈する、実施形態1~2
2のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0051】
実施形態24.複合材が、耐食性試験により0.01Hzで測定したとき、最大100
00Ω・cm2、または最大9000Ω・cm2、または最大8000Ω・cm2、最大
7000Ω・cm2の耐食性Rtを呈する、実施形態1~23のいずれか1つに記載の複
合材または方法。
【0052】
実施形態25.複合材が、耐食性試験により0.01Hzで測定したとき、3500~
10000Ω・cm2、または4000~9000Ω・cm2、または4500~800
0Ω・cm2、または5000~7000Ω・cm2の耐食性Rtを呈する、実施形態1
~24のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0053】
実施形態26.複合材が、剥離強度試験に従って測定したとき、少なくとも142N、
または少なくとも144N、または少なくとも146N、または少なくとも148N、ま
たは少なくとも150Nの剥離強度を呈する、実施形態1~25のいずれか1つに記載の
複合材または方法。
【0054】
実施形態27.複合材が、剥離強度試験に従って測定したとき、最大250N、または
最大240N、または最大230N、または少なくとも220N、または少なくとも21
0Nの剥離強度を呈する、実施形態1~26のいずれか1つに記載の複合材または方法。
【0055】
実施形態28.複合材が、剥離強度試験に従って測定したとき、140~250N、ま
たは142~240N、または144~230N、または146~220N、または14
8~210N、または150~210Nの範囲の剥離強度を呈する、実施形態1~27の
いずれか1つに記載の複合材または方法。
【0056】
上記の一般的説明または下記の実施例において記載された行為の全てが必要とされるも
のではないこと、特定の行為のうちの一部分は必要とされない場合があること、および記
載されたものに加えて1つ以上のさらなる行為が実施され得ることに留意されたい。また
さらに、行為が列挙される順序は、必ずしもそれらが実施される順序ではない。
【実施例】
【0057】
実施例1-剥離強度
本明細書に記載の実施形態によるジルコニア化成皮膜亜鉛メッキ鋼の3つの試料(試料
1、2、および3)を試験して、剥離強度を評価し、非改変亜鉛メッキ鋼の3つの試料(
試料4、5、および6)と比較した。試料1~6は、各鋼基板上に改変ETFEの接着剤
層を塗布し、改変ETFEの層間に炭素充填ポリテトラフルオロエチレンのテープ層を塗
布することによって形成した。次に、積層温度315℃、積層圧力0.5MPa下で基板
を一緒にプレスし、その後約45℃まで冷却し、圧力を2MPaまで上昇させた。試料1
、2、および3の最終組成を
図7に例解し、試料4、5、および6の組成を
図8に例解す
る。
【0058】
試料の各々を、上記の剥離強度試験に供した。特に、試験片は、1インチ(約2.5c
m)の幅および約7インチ(約17.8cm)の長さを有するように切断した。各試験片
の端部(上部および下部の両方の鋼基板)を角度90°で曲げて、試験試料を挟むことが
できるように、得られた試験試料を文字「T」のように成形した。これにより、試験試料
をインストロン引張試験機の上下のジョーにクランプ留めすることが可能になる。各試験
試料を毎分2インチ(約5cm)の速度で引き離し、試験試料の変位に対応させて剥離力
を測定した(単位ニュートン)。
【0059】
剥離強度試験中、試料1、2および3は、剥離試験中に主に凝集破壊を示したが、試料
4、5および6は示さなかった。また、試料1、2、および3の平均剥離強度は、150
~220Nの範囲内であり、試料4、5、および6の平均剥離強度は、100~170N
の範囲内であった。
【0060】
実施例2-耐食性
本明細書に記載の実施形態によるジルコニア化成皮膜亜鉛メッキ鋼の2つの試料(試料
7および8)を試験して、耐食性を評価し、非改変亜鉛メッキ鋼の2つの試料(試料9お
よび10)の耐食性と比較した。試料7および8の組成を
図9に例解し、試料9および1
0の組成を
図10に例解する。
【0061】
試料7および9は、室温で28時間、5重量%塩化ナトリウム/DI水溶液に浸漬した
。試料9は、試料7と比較して濃い白色腐食を示した。
【0062】
次に試料8および10は、90℃で4時間、16重量%塩化ナトリウム/DI水溶液中
に浸漬した。試料10は、試料8と比較して濃い赤色腐食を示した。
【0063】
本明細書に記載の実施形態による酸化ジルコニウム系化成皮膜では、標準対照試料と比
較して、剥離強度の改善が示された。同様に、本明細書に記載の実施形態による酸化ジル
コニウム系化成皮膜では、耐食性の改善が明示された。
【0064】
利益、他の利点、および問題の解決策が、特定の実施形態に関して上記に説明されてき
た。しかしながら、利益、利点、課題の解決策、および任意の利益、利点、もしくは解決
策を生じさせるか、またはより明白にすることができる任意の特徴(複数可)は、実施形
態のうちのいずれかまたは全ての、決定的な、必須の、または本質的な特徴と解釈される
ものではない。
【0065】
本明細書に記載の実施形態の明細書および例示は、様々な実施形態の構造の一般的な理
解をもたらすことが意図される。明細書および例示は、本明細書に記載の構造または方法
を使用する装置およびシステムの要素および特徴の全ての徹底的および包括的説明として
機能することを意図しない。別個の実施形態はまた、単一の実施形態において組み合わせ
て提供されてもよく、反対に、簡潔さのために単一の実施形態の文脈に記載の様々な特徴
もまた、別個にまたは任意の下位組み合わせで提供されてもよい。さらに、範囲内に記載
の値への言及は、その範囲内の各値および全ての値を含む。多数の他の実施形態は、本明
細書を単に読んだ後にのみ当業者に明らかとなり得る。構造的置換、論理的置換、または
別の変更が本開示の範囲から逸脱することなくなされることができるように、他の実施形
態が使用されかつそれから派生してもよい。したがって、本開示は、制限的であるよりも
むしろ例証的であるとみなされるべきである。