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特許7542130セメント混和材、セメント組成物、及びコンクリート製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】セメント混和材、セメント組成物、及びコンクリート製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/06 20060101AFI20240822BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240822BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20240822BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240822BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C04B22/06 Z
C04B22/14 A
C04B24/04
C04B22/08 Z
C04B28/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023507101
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2022011308
(87)【国際公開番号】W WO2022196633
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2021044807
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】本間 一也
(72)【発明者】
【氏名】田原 和司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎也
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145173(JP,A)
【文献】特開2019-167272(JP,A)
【文献】特開2010-163323(JP,A)
【文献】特開2009-215110(JP,A)
【文献】特開2008-266108(JP,A)
【文献】特開2001-294460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張材、生石灰、無水石膏、及び、チオ硫酸塩及びギ酸塩のうち少なくともいずれか一方を含有し、950℃強熱減量が3.0質量%以下であって、
前記チオ硫酸塩を含有する場合、該チオ硫酸塩の含有量がセメント混和材100質量部に対して0.5~3質量部であり、
前記ギ酸塩を含有する場合、該ギ酸塩の含有量がセメント混和材100質量部に対して0.5~2質量部であるコンクリート製品用セメント混和材。
【請求項2】
前記チオ硫酸塩を含有し、該チオ硫酸塩が0~5水和物であ請求項1に記載のコンクリート製品用セメント混和材。
【請求項3】
前記ギ酸塩を含有し、該ギ酸塩に含まれる水分率が0.4質量%以下であ請求項1又は2に記載のコンクリート製品用セメント混和材。
【請求項4】
セメント及び請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート製品用セメント混和材を含有するセメント組成物であって、該セメント混和材の含有量が5~20質量%であるセメント組成物。
【請求項5】
セメントに、請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート製品用セメント混和材を添加し、混合する工程を含み、蒸気養生することを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
【請求項6】
前記コンクリート製品用セメント混和材の添加量が5~20質量%である請求項5に記載のコンクリート製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用されるセメント混和材、該セメント混和材を用いたセメント組成物、及び該セメント組成物を用いたコンクリート製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンクリート製品の製造は、常圧における蒸気養生が多く採用されている。この蒸気養生は、型枠に打設したコンクリートを養生室内に存置し、ここにボイラーを用いて発生させた水蒸気を導入して型枠内のコンクリートを加湿条件下で昇温させ、セメントの水和反応を促進して強度発現を早める方法である。
具体的には、コンクリートを型枠に打設し締め固め、常温で2~4時間程度の前養生を行う。次いで、蒸気の通気を開始し、15~20℃/時間の速度で昇温し、50~80℃程度の養生温度にて2~4時間維持して等温養生を行う。その後、蒸気の供給を止め、自然放冷による徐冷期間を経て養生が終了する。
上記のように、蒸気養生期間は通常18~20時間程度必要となるため、1日に1つの型枠で、製品を1体しか製造できない。
【0003】
このような状況下、コンクリートセグメント等の二次製品において、生産性向上の観点から、型枠の回転率を上げることが求められている。特に、冬季ではコンクリートの凝結時間が遅れるため、表面仕上げまでの時間が長くなり、回転率が上がらない。また、脱型時の強度発現性も低下する。
【0004】
これに対し、生産性を高めるために、過酷な蒸気養生を施して硬化体の強度発現を促進し、脱型を早める方法がある。しかしながら、このような蒸気養生では脱型後の強度増進が認められず、製品強度が不足することがあった。特に、高温による過酷な蒸気養生ではコンクリート表面にフケやひび割れが発生し、耐久性の低下や美観低下などの品質低下を生じることもあった。また、コンクリートの配合を富配合とする必要があり、コストアップの問題もあった。
また、リチウム塩等の凝結促進剤を添加し、高温養生する方法が提案されているが(例えば、特許文献1参照)、凝結促進剤は短時間で作用し、初期の強度発現に寄与するものの、反応が余りに早いため、型枠に流し込む時間が充分に取れない。したがって、コンクリートを強制的に流し込んだ場合、局所的に充填されていない部分が生じ、耐久性が大幅に低下する場合があった。
一方、凝結促進剤の使用量を少なくし、水和反応を遅らせれば、上記問題はなくなるが、コンクリート自体の硬化も遅れるので、当初の目的である生産性の向上は望めない。
【0005】
蒸気養生の時間を短縮する手段としては、生石灰、無水石膏、あるいはアルカリ金属の硫酸塩を主体とした超早強型膨張材や、グリセリン等の特定化合物とアルカリ金属硫酸塩を併用した水硬性組成物早強材などが知られているが(例えば、特許文献2参照)、その性能は充分ではなかった。
そこで、粉末度がブレーン比表面積2500~9000cm/gである石膏と、グリセリンとの混合粉砕物を含み、石膏とグリセリンの合計100質量部中、グリセリンの含有量が0.1~10質量部であることを特徴とする高強度セメント混和材が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭60-21839号公報
【文献】特開2001-294460号公報
【文献】再表2014/112487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、蒸気養生の時間を短縮する手段として、特定の粉末度を有する石膏とグリセリンを含有する高強度セメント混和材が提案されており、凝結遅延がなく、初期強度の発現低下の小さい高強度セメント混和材およびコンクリート製品の製造方法を提案するものである。
しかしながら、前記高強度セメント混和材は、強熱減量が大きく、JIS規格からはずれる場合があった。
そこで、本発明は、低温においても、凝結の促進効果を有し、初期強度発現性に優れ、強熱減量が低いセメント混和材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決のために、鋭意研究を進めたところ、膨張材、生石灰、無水石膏、チオ硫酸塩及びギ酸塩の少なくともいずれかを含有するコンクリート製品用セメント混和材が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]膨張材、生石灰、無水石膏、及び、チオ硫酸塩及びギ酸塩のうち少なくともいずれか一方を含有し、950℃強熱減量が3.0質量%以下であるコンクリート製品用セメント混和材。
[2]前記チオ硫酸塩を含有し、該チオ硫酸塩が0~5水和物であり、含有量がセメント混和材100質量部に対して0.5~3質量部である上記[1]に記載のコンクリート製品用セメント混和材。
[3]前記ギ酸塩を含有し、該ギ酸塩に含まれる水分率が0.4質量%以下であり、含有量がセメント混和材100質量部に対して0.5~2質量部である[1]又は[2]に記載のコンクリート製品用セメント混和材。
[4]セメント及び上記[1]~[3]のいずれかに記載のコンクリート製品用セメント混和材を含有するセメント組成物であって、該セメント混和材の含有量が5~20質量%であるセメント組成物。
[5]セメントに、上記[1]~[3]のいずれかに記載のコンクリート製品用セメント混和材を添加し、混合する工程を含み、蒸気養生することを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
[6]前記コンクリート製品用セメント混和材の添加量が5~20質量%である上記[5]に記載のコンクリート製品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート製品用セメント混和材は、低温においても、凝結の促進効果を有し、初期強度発現性に優れ、強熱減量が低いセメント混和材を提供することができる。したがって、早期脱型が可能であり、高い生産性でコンクリート製品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
【0011】
[コンクリート製品用セメント混和材]
本発明のコンクリート製品用セメント混和材(以下、単に「セメント混和材」と記載することがある。)は、膨張材、生石灰、無水石膏、及びチオ硫酸塩及びギ酸塩の少なくともいずれか一方を含有する。
【0012】
<膨張材>
本発明のセメント混和材に使用される膨張材は、遊離石灰と、無水石膏と、アウイン、カルシウムフェライト、カルシウムアルミノフェライト、カルシウムシリケートより選ばれる1種又は2種以上の水硬性化合物(以下、単に「水硬性化合物」と記載することがある。)を主要な構成化合物とする。遊離石灰、無水石膏、水硬性化合物の配合割合については、特に限定されるものではないが、膨張材100質量部中、遊離石灰は20~70質量部が好ましく、40~60質量部がより好ましい。また、水硬性化合物は5~45質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましい。さらに、無水石膏は5~40質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。膨張材中の各化合物の組成割合が前記範囲内であると、優れた膨張性能が得られる。
【0013】
本発明の膨張材中に含まれるアウインとは、CaO-Al-CaSO系化合物を総称するものであり、特に限定されるものではないが、一般的に3CaO・3Al・CaSOで表されるものである。
また、本発明の膨張材中に含まれるカルシウムフェライトとは、CaO-Fe系化合物を総称するものであり、特に限定されるものではないが、上記の標記方法では、CF等の化合物がよく知られている。
同様に、本発明の膨張材中に含まれるカルシウムアルミノフェライトとは、CaO-Al-Fe系化合物を総称するものであり、特に限定されるものではないが、一般的にCaOをC、AlをA、FeをFとすると、CAFやCF等の化合物がよく知られている。通常は、CAFとして存在していると考えてよい。
また、膨張材中に含まれるカルシウムシリケートとは、CaO-SiO系を総称するものであり、特に限定されるものではないが、一般的にCaOをC、SiOをSとすると、CSやCSがよく知られている。通常は、CSとして存在していると考えてよい。
【0014】
本発明のセメント混和材に使用される膨張材を製造する際、CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料及びCaSO原料を熱処理して、遊離石灰、水硬性化合物及び無水石膏からなるクリンカーを合成することが好ましい。遊離石灰、水硬性化合物及び無水石膏を別々に、あるいは一部を別々に合成し、それらを混合した膨張材も使用可能であるが、優れた膨張性能を得るためには全部を一度に焼成することが好ましい。
【0015】
CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料及びCaSO原料を熱処理して膨張材を製造したかどうかは、例えば、粉砕物中の100μm以上の粗粒子の顕微鏡観察を行い、その粒子中に遊離石灰、水硬性化合物及び無水石膏が混在していることを確認することによって判別できる。
【0016】
本発明の膨張材に使用されるクリンカーを製造する際の熱処理温度としては、1100~1600℃の範囲が好ましい。1100℃以上であると、得られたセメント混和材の膨張性能が十分であり、1600℃以下であると無水石膏が分解することがない。以上の観点から、熱処理温度は1200~1500℃の範囲がより好ましい。
【0017】
CaO原料としては、石灰石や消石灰が挙げられ、Al原料としては、ボ-キサイトやアルミ残灰等が挙げられ、Fe原料としては、銅カラミや鉄粉及び市販の酸化鉄等が挙げられ、SiO原料としては、市販の二酸化ケイ素や珪石が挙げられ、CaSO原料としては、二水石膏、半水石膏及び無水石膏等が挙げられる。
これら原料中には各種の不純物が存在し、その具体例としては、MgO、TiO、P、NaO、KO等が挙げられるが、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。
【0018】
本発明の膨張材は、合成されたクリンカーを粉砕することにより製造され、その粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレ-ン比表面積で1500~6000cm/gが好ましい。1500cm/g以上であると、十分な強度発現性が得られ、6000cm/g以下であると優れた膨張性能が得られる。以上の観点から、粒度は2500~4000cm/gの範囲であることがより好ましい。
【0019】
膨張材としては、市販品を用いることができ、例えば、エトリンガイト系膨張材である「デンカCSA#20」(デンカ株式会社製)、エトリンガイト・石灰複合系膨張材である「デンカパワーCSAタイプS」等が挙げられる。
【0020】
<生石灰>
本発明に使用される生石灰は、特に限定されるものではなく、市販されているあらゆるものを用いることが可能である。一般に生石灰はその焼成度によって大きく5種類に分類されており、その評価方法は、日本石灰協会の4N-塩酸による粗粒滴定試験法による。これによると、4N-塩酸の総量が800ml以上では極軟焼生石灰、800~650mlでは軟焼生石灰、650~300mlでは中軟焼生石灰、300~130mlでは硬焼生石灰、130ml以下では極硬焼生石灰である。
前記方法により示される生石灰の焼成度は、これを配合したコンクリートのコンシステンシーに大きな影響を与える。すなわち、セメント混和材中の生石灰の配合量が同一の場合、滴定量の多い生石灰ほどコンシステンシーの低下が大きくなる。ゆえに本発明に使用される生石灰の4N-塩酸滴定量は800ml以下であることが好ましく、400ml以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明に使用される生石灰の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレ-ン比表面積で3000~7000cm/gが好ましい。3000cm/g以上であると、十分な強度発現性が得られ、7000cm/g以下であると、コンシステンシーが維持される。以上の観点から、生石灰の粒度は、4000~6000cm/gがより好ましい。
【0022】
<無水石膏>
本発明に使用される無水石膏は、特に限定されるものではないが、II型の無水石膏を使用することが好ましく、中でも、pHが4.5以下の酸性無水石膏を利用することが、可使時間の確保のしやすさと、その後の強度増進が良好なことから好ましい。ここで、無水石膏のpHとは、純水100ccに無水石膏1gを入れて撹拌した際の上澄液のpHを意味する。
無水石膏の粒度は、ブレーン比表面積で3000~9000cm/gが好ましく、4000~8000cm/gがより好ましい。
【0023】
<チオ硫酸塩及びギ酸塩>
本発明のコンクリート製品用セメント混和材は、チオ硫酸塩及びギ酸塩の少なくともいずれか一方を含有する。チオ硫酸塩又はギ酸塩を含有することで、強熱減量を低減することができ、かつ冬場などの低温においても凝結促進効果が得られ、さらに十分な初期強度が発現する。
また、JIS A 6202に規定するコンクリート用膨張材に適合するものであり、優れた膨張性能と貯蔵安定性等の長期安定性を有することができる。
なお、チオ硫酸塩及びギ酸塩は併用してもよい。
【0024】
チオ硫酸塩としては、例えば、チオ硫酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、より具体的には、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸リチウム、チオ硫酸カルシウム、及びチオ硫酸マグネシウム等が挙げられる。中でも、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、及びチオ硫酸アンモニウムが好ましく、チオ硫酸ナトリウムが特に好ましい。チオ硫酸塩は、1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
本発明のセメント混和材で用いるチオ硫酸塩としては、水和物数が0~5であることが好ましい。0~5水和物のチオ硫酸塩を用いることで、前記効果を発揮しやすい。なお、0水和物は無水物を意味する。
チオ硫酸塩の添加量(含有量)としては、セメント混和材100質量部に対して0.2~3.2質量部の範囲であることが好ましく、0.5~3質量部の範囲であることがより好ましい。チオ硫酸塩の添加量がこの範囲内であると、上述の効果を発現することができる。
【0025】
ギ酸塩としては、例えば、ギ酸のアルカリ金属塩(K、Na等)、ギ酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、より具体的には、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸カルシウム、ギ酸マグネシウム等が挙げられる。中でも、ギ酸ナトリウム、ギ酸カルシウムが好ましく、特にギ酸カルシウムが好ましい。ギ酸塩は、1種又は2種以上を併用して使用してもよい。
本発明のセメント混和材で用いるギ酸塩としては、水分率が0.5質量%以下であることが好ましい。水分率が0.5質量%以下であると、950℃強熱減量を3.0質量%以下とすることができる。以上の観点から、ギ酸塩の水分率は0.4質量%以下であることがさらに好ましい。ギ酸塩の水分率の下限値としては、特に制限はなく、0質量%以上であればよい。
ギ酸塩の添加量(含有量)としては、セメント混和材100質量部に対して0.2~2.2質量部の範囲であることが好ましく、0.5~2質量部の範囲であることがより好ましい。ギ酸塩の添加量がこの範囲内であると、上述の効果を発現することができる。
【0026】
[セメント組成物]
本発明のセメント組成物は、上記セメント混和材とセメントを含有してなる。
本発明のセメント混和材は、いかなるコンクリートにも使用できる。コンクリートに使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱,及び耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ、又は石灰石微粉等を混合した各種混合セメント、並びに、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられる。中でも、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントとの相性が良い。
【0027】
本発明のセメント組成物におけるセメント混和材の含有量は5~20質量%の範囲である。セメント混和材の含有量が5質量%以上であると、低温においても凝結促進効果が得られ、かつ十分な初期強度が発現する。一方、セメント混和材の含有量が20質量%以下であると、凝結促進が過度になることがない。
【0028】
セメント組成物には、通常、水が混合されるが、水の含有量としては、水/結合材比(質量比)で、25/75~70/30(25~70質量%)の範囲であることが好ましく、30/70~65/35(30~65質量%)の範囲であることがより好ましい。水の配合量が上記下限値以上であると、ポンプ圧送性や施工性が良好となり、また収縮等の問題もない。一方、上記上限値以下であると、十分な強度が得られる。
【0029】
本発明のセメント混和材やセメント組成物は、それぞれの材料を蒸気養生の直前に混合してもよいし、あらかじめ一部あるいは全部を混合しておいてもよい。
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、モルタルミキサー、傾胴ミキサー、オムニミキサー、V型ミキサー、ヘンシェルミキサー、強制二軸ミキサー、及びナウターミキサー等が利用可能である。混練の条件としても特に限定されるものではなく、例えば、5~50℃の温度で、1~10分程度、低速撹拌若しくは高速撹拌するとよい。
【0030】
本発明のセメント組成物は、セメント、セメント混和材、及び砂等の細骨材や砂利等の粗骨材の他に、膨張材、急硬材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、従来の防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、ベントナイト等の粘土鉱物、ハイドロタルサイト等のアニオン交換体、高炉徐冷スラグ微粉末等のスラグ、石灰石微粉末等の混和材料からなる群のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0031】
[コンクリート製品の製造方法]
本発明のコンクリート製品の製造方法は、セメントに、上記コンクリート製品用セメント混和材を添加し、混合する工程を含み、蒸気養生することを特徴とする。
より詳細には、本発明のセメント組成物、水、細骨材、及び粗骨材を混練してコンクリートを製造し、その後蒸気養生して、コンクリート硬化体を製造する。
【0032】
(蒸気養生)
本発明のセメント組成物は、使用するセメントの種類にもよるが、例えば、20℃程度で1~3時間前置き養生を行い、その後昇温して、最高温度を40~70℃として、2~5時間蒸気養生を行い、次いで20℃程度で封緘養生する方法により、強度特性に優れた硬化体が得られる。
最高温度については、40℃以上とすることで、短い養生時間で、優れた遮蔽効果を有するコンクリートを得ることができる。一方、最高温度を70℃以下とすることで、塩化物イオンの浸透を抑制することができる。以上の観点から、蒸気養生の最高温度は、50~65℃の範囲であることがより好ましく、52~63℃の範囲であることがさらに好ましい。
また、蒸気養生における養生時間としては、2~5時間の範囲であることが好ましい。当該範囲であれば、十分な養生時間であり、コンクリート硬化体の強度が十分となる。以上の観点から、養生時間としては2~4時間の範囲であることがより好ましい。
【実施例
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
[評価方法]
<950℃強熱減量>
各実施例及び比較例で得られるコンクリート製品を空気中で950℃で強熱し、コンクリート製品の質量が恒量になるまで強熱する。コンクリート製品の減量を量り、次の式により求める。なお、式中、mは試料の質量(g)、m’は強熱後の試料の質量(g)である。
強熱減量=((m-m’)/m)×100
【0035】
<凝結始発時間>
各実施例及び比較例で得られるコンクリート製品を、JIS A 1147に準拠し、丸東社製「油圧式プロクター貫入試験機」を用いて、凝結始発時間を測定した。
【0036】
<脱型時圧縮強度>
各実施例及び比較例で得られるコンクリート製品を、JIS A 1108に準拠して、マルイ社製「全自動圧縮試験機」を用いて測定した。
<14日圧縮強度>
各実施例及び比較例のコンクリート製品を、気中で14日間養生した後、JIS A 1108に準拠して、マルイ社製「全自動圧縮試験機」を用いて測定した。
【0037】
<貯蔵安定性>
各実施例及び比較例のコンクリート製品を、40℃、90%RH環境下にて、7日間ビニール袋に封入した。7日経過後の試料について、JIS A 6202に準拠して膨張率を測定し、貯蔵安定性の指標とした。数値が大きいほど膨張率が高く、安定性は良好である。
【0038】
<1日膨張率>
各実施例及び比較例のコンクリート製品を成形した後、気中で1日間養生した後、JIS A 6202B法に準拠して、膨張率を測定した。
【0039】
(使用材料)
セメント:市販の普通ポルトランドセメント
水:水道水
膨張材:エトリンガイト系膨張材(デンカ株式会社製「デンカCSA#20」)
細骨材:新潟県糸魚川市姫川水系川砂、比重2.62、最大粒径5mm
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川水系川砂利、比重2.64、最大粒径25mm
【0040】
実施例1
(セメント混和材の調製)
膨張材52質量部、生石灰24質量部、無水石膏24質量部を配合し、これに無水チオ硫酸ナトリウムを0.5質量%となるように配合してセメント混和材を調製した。
(コンクリートの調製)
水150kg/m、セメント350kg/m、セメント混和材50kg/m、細骨材824kg/m、及び粗骨材1018kg/mを配合してコンクリートを得た。
(コンクリートの養生)
上記で調製したコンクリートを20℃で2時間前置き養生し、その後20℃/時の昇温速度で、最高温度50℃まで昇温した。最高温度での保持時間を2.5時間とし、室温まで徐冷してコンクリート硬化体を得た。
(評価結果)
上述の950℃強熱減量、凝結始発時間、脱型時圧縮強度、及び貯蔵安定性について評価した。評価結果を表1に示す。
【0041】
実施例2及び3
実施例1において、チオ硫酸ナトリウムの含有量を表1に記載するように変えたこと以外は、実施例1と同様にしてコンクリート硬化体を得た。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
実施例3において、無水チオ硫酸ナトリウムに代えて、チオ硫酸ナトリウム5水和物を用いたこと以外は実施例3と同様にしてコンクリート硬化体を得た。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0043】
実施例5~7
実施例1~3において、無水チオ硫酸ナトリウムに代えて、ギ酸カルシウム(水分量0質量%)を用いたこと以外は実施例1~3と同様にしてコンクリート硬化体を得た。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0044】
実施例8
実施例7において、ギ酸カルシウム(水分量0質量%)に代えて、水分量0.4質量%のギ酸カルシウムを用いたこと以外は実施例7と同様にしてコンクリート硬化体を得た。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
実施例1及び4において、セメント混和材中にチオ硫酸塩及びギ酸塩を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、コンクリート硬化体を得た。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0046】
比較例2
実施例1において、無水チオ硫酸ナトリウムの添加量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてコンクリート硬化体を得た。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0047】
比較例3
実施例4において、チオ硫酸ナトリウムの添加量を変更したこと以外は実施例4と同様にしてコンクリート硬化体を得た。実施例4と同様に評価した結果を表1に示す。
【0048】
比較例4~6
実施例5において、ギ酸カルシウムの添加量及び水分率を表1に記載されるように変更したこと以外は実施例5と同様にしてコンクリート硬化体を得た。実施例5と同様に評価した結果を表1に示す。
【0049】
実施例9
(セメント混和材の調製)
実施例2と同じセメント混和材を用いた。すなわち、膨張材52質量部、生石灰24質量部、無水石膏24質量部を配合し、これに無水チオ硫酸ナトリウムを1質量部配合してセメント混和材を調製した。950℃強熱減量は1.6質量%であった。
(コンクリートの調製)
水150kg/m、セメント350kg/m、細骨材824kg/m、及び粗骨材1018kg/mを配合し、これにセメント混和材を5質量%となるように配合してコンクリートを得た。
(コンクリートの養生)
上記で調製したコンクリートを20℃で2時間前置き養生し、その後20℃/時の昇温速度で、最高温度50℃まで昇温した。最高温度での保持時間を2.5時間とし、室温まで徐冷してコンクリート硬化体を得た。
(評価結果)
上述の凝結始発時間、1日膨張率、14日圧縮強度ついて評価した。評価結果を表2に示す。
【0050】
実施例10、11、比較例7及び8
セメント混和材の添加量を表2に記載するように変更したこと以外は実施例9と同様にコンクリート硬化体を得た。実施例9と同様に評価した結果を表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1に示す結果からわかるように、チオ硫酸塩及びギ酸塩を適当量添加することで、950℃強熱減量を3.0質量%以下とすることができる。また、凝結始発時間を大幅に短縮することができ、早期脱型を可能とする。さらに、脱型時の圧縮強度が高く、初期強度が確保されており、貯蔵安定性にも優れることがわかる。
また、表2に示す結果から明らかなように、混和材の含有量が5~20質量%の範囲であると、凝結始発時間及び1日膨張率が適度であって、本発明のセメント組成物が優れた効果を示すことがわかる(実施例9~11)。
一方、混和材を配合していないセメント組成物では、凝結始発時間が遅く、1日膨張率も極端に低い値を示す。また、混和材の含有量が過度に多い比較例8では、1日膨張率が過度に大きくなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のコンクリート製品用セメント混和材は、低温においても、凝結の促進効果を有し、初期強度発現性に優れ、強熱減量が低いコンクリート製品を製造することを可能とする。すなわち、短い養生時間で、優れたコンクリートセグメント等の二次製品を製造することができ、型枠の回転率を向上させ、生産性を向上させることができる。