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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】模擬血管及びそれを用いた潰瘍モデル
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20240822BHJP
   B29C 48/09 20190101ALI20240822BHJP
【FI】
G09B23/30
B29C48/09
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023520883
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013431
(87)【国際公開番号】W WO2022239490
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2021079812
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 睦
【審査官】池田 剛志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/045552(WO,A1)
【文献】特開2006-326083(JP,A)
【文献】特開2016-177237(JP,A)
【文献】特開2020-036784(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0020087(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第112309217(CN,A)
【文献】国際公開第2021/132204(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004374(WO,A1)
【文献】特開2018-178069(JP,A)
【文献】特開2010-187878(JP,A)
【文献】特開2018-102423(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110895896(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C39/00-39/24
39/38-39/44
43/00-43/34
43/44-43/48
43/52-43/58
G09B1/00-9/56
17/00-19/26
23/00-29/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の基材層と、前記基材層の外側表面の少なくとも一部に配置された導電層とを有する模擬血管であって、
前記基材層は、0.01~50MPa以下の引張弾性率及び50~200℃の融点を有する熱可塑性樹脂組成物から成形されたものであり、
前記導電層は、導電性ポリマーを含有する、模擬血管。
【請求項2】
前記模擬血管の導電層が配置された箇所における表面抵抗値が1.0×10~1.0×10Ω/□である、請求項1に記載の模擬血管。
【請求項3】
前記模擬血管のJIS K 7136-1に従って測定される全光線透過率が70%以上である、請求項1又は2に記載の模擬血管。
【請求項4】
前記基材層の直径が0.5~10.0mm、厚みが0.1~2.0mmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の模擬血管。
【請求項5】
前記基材層表面の水の接触角45°以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の模擬血管。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物が、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される熱可塑性樹脂を含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の模擬血管。
【請求項7】
前記導電層が、π共役系導電性高分子を含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の模擬血管。
【請求項8】
対向する上面及び下面と、前記上面及び前記下面の間に設けられた請求項1から7のいずれか一項に記載される模擬血管を有する潰瘍モデルであって、止血を含む手技を練習するために用いられる潰瘍モデル。
【請求項9】
前記模擬血管が、模擬血管内へと模擬血液を供給できる装置と接続されている、請求項8に記載の潰瘍モデル。
【請求項10】
前記止血を含む手技が、内視鏡的止血術である、請求項8又は9に記載の潰瘍モデル。
【請求項11】
前記止血が、エネルギーデバイスを用いた熱凝固法による止血である、請求項8から10のいずれか一項に記載の潰瘍モデル。
【請求項12】
前記止血が、止血鉗子又はクリップで前記潰瘍モデル表面を把持することによる止血である、請求項8から10のいずれか一項に記載の潰瘍モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬血管及びそれを用いた潰瘍モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に対する負担が少なく、早期の回復が期待できる低侵襲手術、たとえば内視鏡や腹腔鏡を用いた手術、に対する期待が高まり、その事例が増加している。例えば、消化管内の出血を内視鏡下で止血する(内視鏡的止血術)ことにより、出血によるショックを防ぎ、緊急手術を避けることで、患者にとって身体的な負担が軽くなり、また、短い入院期間で早期の社会復帰が期待される。
【0003】
そのため、止血を伴う手術に対応した、医師や医学生の手技練習モデルに対する需要が高くなってきており、これまでに技術向上および医療行為の品質向上のため、手技訓練用モデルの提案がされている(特許文献1、2、3)。
【0004】
【文献】特開2006-116206号公報
【文献】特開2008-197483号公報
【文献】特開2015-085017号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、これらは出血の再現が不十分であったり、内視鏡止血術のエネルギーデバイスによる熱凝固法の練習に用いることができなかった。また、従来の上部消化管及び下部消化管に付属した潰瘍モデルは、内視鏡下での観察用及び内視鏡挿入練習用であり、止血の手技練習に用いることができなかった。
そこで、実際の切除術や剥離術において問題となる出血の再現や内視鏡止血術のエネルギーデバイスによる熱凝固法の練習に用いることができる模擬血管や臓器モデルが求められている。
【0006】
本発明は、出血を再現可能であって、エネルギーデバイスを用いた止血術の練習に用いることができる模擬血管や潰瘍モデルを提供することを課題とする。
【0007】
本発明者は、様々な手段を検討した結果、特定の引張弾性率及び融点を有する熱可塑性樹脂を用いた管状の基材層に導電層を配置することで、出血を再現可能であって、エネルギーデバイスを用いた止血術の練習に用いることができる模擬血管となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下に関するものである。
[1]管状の基材層と、前記基材層の外側表面の少なくとも一部に配置された導電層とを有する模擬血管であって、
前記基材層は、0.01~50MPa以下の引張弾性率及び50~200℃の融点を有する熱可塑性樹脂組成物から成形されたものであり、
前記導電層は、導電性ポリマーを含有する、模擬血管。
[2]前記模擬血管の導電層が配置された箇所における表面抵抗値が1.0×10~1.0×10Ω/□である、[1]に記載の模擬血管。
[3]前記模擬血管のJIS K 7136-1に従って測定される全光線透過率が70%以上である、[1]又は[2]に記載の模擬血管。
[4]前記基材層の直径が0.5~10.0mm、厚みが0.1~2.0mmである、[1]~[3]のいずれかに記載の模擬血管。
[5]前記基材層表面の水の接触角が45°以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の模擬血管。
[6]前記熱可塑性樹脂組成物が、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される熱可塑性樹脂を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の模擬血管。
[7]前記導電層が、π共役系導電性高分子を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の模擬血管。
[8]対向する上面及び下面と、前記上面及び前記下面の間に設けられた[1]~[7]のいずれかに記載される模擬血管を有する潰瘍モデルであって、止血を含む手技を練習するために用いられる潰瘍モデル。
[9]前記模擬血管が、模擬血管内へと模擬血液を供給できる装置と接続されている、[8]に記載の潰瘍モデル。
[10]前記止血を含む手技が、内視鏡的止血術である、[8]又は[9]に記載の潰瘍モデル。
[11]前記止血が、エネルギーデバイスを用いた熱凝固法による止血である、[8]~[10]のいずれかに記載の潰瘍モデル。
[12]前記止血が、止血鉗子又はクリップで前記潰瘍モデル表面を把持することによる止血である、[8]~[10]のいずれか一項に記載の潰瘍モデル。
【0009】
本発明によれば、出血を再現可能であって、エネルギーデバイスを用いた止血術の練習に利用可能な模擬血管及び臓器モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態の模擬血管を示す図である。
図2】本発明の第2実施形態の潰瘍モデルの断面を示す図である。
図3】本発明の第2実施形態の潰瘍モデルの上面図である。
図4】本発明の第2実施形態の潰瘍モデルの変形例の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態の模擬血管を示す図である。本実施形態においては、模擬血管1は、基材層2と、導電層3とを備える。
【0013】
(基材層)
基材層は、0.01~50MPa以下の引張弾性率及び50~200℃の融点を有する熱可塑性樹脂組成物から成形された管状の構造体となっている。基材層は、1種類の熱可塑性樹脂組成物もしくは2種類又は3種類以上の熱可塑性樹脂組成物をアロイした熱可塑性樹脂組成物から成形された単層構造であってもよく、2種類又は3種類以上の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された多層構造であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、基材層の直径、つまり外径は0.5~10.0mmである。本発明の別の実施形態において、基材層の直径は、0.7~5.0mmであることが好ましく、1.0~3.0mmであることがより好ましい。基材層の直径を0.5mm以上とすることで成形時の加工安定性及び潰瘍モデル作製時のハンドリング性が高くなり、基材層の直径を10.0mm以下とすることで人体血管の再現性が高くなり、エネルギーデバイスによる通電不良を抑制できる。
基材層の内径は、0.3~9.8mmであることが好ましく、0.3~3.6mmであることがより好ましく、0.4~2.0mmであることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の一実施形態において、基材層の厚みは、0.1~2.0mmである。基材層の厚みは、0.2~0.7mmであることが好ましく、0.3~0.5mmであることがより好ましい。基材層の厚みが2.0mm以下であれば、エネルギーデバイスにより把持した際に、短時間で熱が伝わり基材層に止血することが可能である。
【0016】
本発明の一実施形態において、基材層の表面の接触角は、45°以下である。本発明の別の実施形態において、基材層の表面の接触角は、30°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。基材層の表面の接触角を45°以下とすることでπ共役系導電性高分子成分を含む導電層を形成する塗工組成物のハジキやピンホールといった欠点発生や基材層からの脱離が抑制される。
JIS K 6768に従い、英弘精機株式会社製の自動接触角測定装置OCA20を用いて、プライマー層表面に水(純水)を1μL滴下し、30秒後に測定した場合の接触角を本実施形態における接触角とした。なお、接触角の測定は、基材層の材料である熱可塑性樹脂組成物を160~200℃にてプレス成型した厚さ1.0mm厚の樹脂シートに加工した検体を用いて測定することができる。
【0017】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、主として熱可塑性樹脂を含有する。ここで、「主として含有する」とは、熱可塑性樹脂組成物中に熱可塑性樹脂を50質量%以上含有することを意味する。別の実施形態においては、70質量%以上、もしくは90質量%以上含有するか、その熱可塑性樹脂のみからなってもよい。
【0018】
ここで用いられる熱可塑性樹脂組成物は、0.01~50MPaの引張弾性率を有する。本発明は一実施形態において、熱可塑性樹脂組成物の引張弾性率は、0.05~30MPaであることが好ましく、0.1~15MPaであることがより好ましい。引張弾性率を50MPa以下とすることで、エネルギーデバイスによる把持によって模擬血管を押しつぶし、模擬血管を流れる疑似血液の出血を止めることが可能となる。
引張弾性率は、JIS K7127のプラスチックの引張試験方法に従って、1.0mm厚シートを試験片タイプ5の形状に打ち抜き、23±1℃の環境下にて、引張試験機(島津製作所製、オートグラフAG-Xplus)を用い、引張速度50.0mm/minの条件にて測定し、応力-ひずみ曲線における初期の直線の傾きから算出される。
【0019】
本実施形態で用いられる熱可塑性樹脂組成物は、50~200℃の融点を有する。本発明の一実施形態において、熱可塑性樹脂組成物の融点は、50~150℃であることが好ましく、50~120℃であることがより好ましい。融点が50℃以上の熱可塑性樹脂組成物を用いることで気温影響による樹脂組成物の形状変化を抑制することが可能であり、融点が200℃以下の熱可塑性樹脂組成物を用いることでエネルギーデバイスを用いた熱凝固法による材料変形が可能となる。
本実施形態においては、融点は、示差走査熱量計(DSC;METTLER TOLEDO社製、DSC 3+)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて測定される。
【0020】
本実施形態で用いられる熱可塑性樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂組成物として上記引張弾性率及び融点を満たし得るものであれば特に限定されないが、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂及び熱可塑性エラストマーからなる群から選択されることが好ましい。中でも、エチレン-酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ポリウレタン、塩化ビニル系樹脂、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、水添スチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される熱可塑性樹脂を好適に用いることができる。
【0021】
本実施形態において、エチレン-酢酸ビニル系樹脂とは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有してもかまわない。エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとを共重合させたものであるが、塩素化エチレン、塩化ビニル、フッ化ビニリデン等が共重合されていてもよい。エチレン-酢酸ビニル系樹脂の酢酸ビニル含有量は、10~35質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましく、20~35質量%がさらに好ましい。酢酸ビニル含有量を10質量%以上とすることで、模擬血管の柔軟性が向上する。また、酢酸ビニル含有量を35質量%以下とすることで、樹脂組成物の耐熱性が向上する。
【0022】
ウレタン系樹脂としては、原料であるイソシアネートとポリオールの組み合わせとして、イソシアネートがMDI系、H12MDI系、HDI系、TDI系、IPDI系、NDI系、XDI系、HXDI系、NBDI系、ポリオールがポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のいずれの組み合わせを選択しても良く、また複数を組み合わせても良い。これらのウレタン系樹脂としては熱可塑性ポリウレタンが好適に用いられ、一般的に市販されているものの中から選択して用いることが出来る。
【0023】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体または塩化ビニルと他の共単量体との共重合体を用いることができる。ポリ塩化ビニルが共重合体である場合は、ランダム共重合体であってもよく、またグラフト共重合体であってもよい。グラフト共重合体の一例として、たとえばエチレン-酢酸ビニル共重合体や熱可塑性ウレタン重合体を幹ポリマーとし、これに塩化ビニルがグラフト重合されたものを挙げることができる。本実施形態のポリ塩化ビニルは、押出成形可能な軟質ポリ塩化ビニルを示し、高分子可塑剤などの添加物を含有している組成物である。高分子可塑剤としては、公知の高分子可塑剤を用いることができるが、たとえばエチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体、酢酸ビニル含有量の多いエチレン-酢酸ビニル共重合体などのエチレン共重合体高分子可塑剤を好ましい例として挙げることができる。
【0024】
熱可塑性エラストマーとしては、軟質高分子物質と硬質高分子物質を組み合わせた構造を有するものが含まれる。具体的には、スチレン系エラストマー、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらエラストマーは一般的に市販されているものの中から選択して用いることが出来る。
【0025】
本発明の一実施形態において、基材層は、熱可塑性樹脂組成物を押出成形することによって形成される。別の実施形態については、基材層は注型成形や射出成形、圧縮成形することによって形成される。
【0026】
(導電層)
導電層は、基材層の外側表面の少なくとも一部に配置された層であって、導電性ポリマーを含有する。本実施形態において「少なくとも一部に配置されている」とは、導電層が、少なくともエネルギーデバイスによる熱凝固法に用いるために必要な面積を有するように配置されていることを意味している。本発明の一実施形態において、導電層は、基材層の外側表面の5%未満、5%以上、10%以上、30%以上、50%以上、70%以上もしくは90%以上の面積を有している。
【0027】
本発明の一実施形態において、導電層の厚みは、20~2000nmである。導電層の厚みは、50~1000nmであることが好ましく、150~500nmであることがより好ましい。導電層の厚みを20nm以上とすることで、充分に高い導電性を発揮でき、かつ、基材層表面の平滑性が向上する。導電層の厚みを2000nm以下とすることで、導電層の塗工厚みが薄くなり、基材層の全光線透過率の低下を抑制することができる。
【0028】
(導電性ポリマー)
本発明の一実施形態において、導電性ポリマーは、π共役系導電性高分子である。π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0029】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子の中でも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
前記π共役系導電性高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の別の実施形態における導電性ポリマーは、ポリアニオンをさらに含有する。
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、帯電防止性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。
本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定し、標準物質をポリスチレンとして求めた値である。
【0031】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下の範囲であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値未満であると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがあり、また、分散液における導電性複合体の分散性が低くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値を超えると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0032】
導電性複合体は、ポリアニオンが、π共役系導電性高分子に配位してドープすることによって形成される。
ただし、本態様におけるポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープすることはなく、ドープに寄与しない余剰のアニオン基を有するようになっている。
【0033】
[分散媒]
本発明の一実施形態において使用される分散媒としては、水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合液が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、窒素原子含有溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、オクタン、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
前記有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記分散媒のなかでも、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤、N-メチルピロリドンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤が好ましい。さらには、前記分散媒のなかでも、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘプタン、トルエン、ジエチレングリコールジエチルエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0034】
本実施形態の分散液における導電性ポリマーの含有量は、分散液の総質量に対して、0.1質量%以上80質量%以下が好ましく、0.5質量%以上50質量%以下がより好ましく、1質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。分散液における導電性ポリマーの含有量が前記下限値以上であれば、1回の塗工で厚みのある導電層を容易に形成できる。分散液における導電性ポリマーの含有量が前記上限値以下であれば、散液中の導電性ポリマーの分散性を高くすることができる。
【0035】
(透明バインダ成分)
本発明の一実施形態における分散液は、前記導電性ポリマーと共に透明バインダ成分を含有する。透明バインダ成分は、熱可塑性樹脂、熱硬化性化合物、光硬化性化合物等であって、透明な化合物が挙げられる。熱可塑性樹脂はそのままで後述のバインダ樹脂となる。熱硬化性化合物及び光硬化性化合物は、各々、モノマー又はオリゴマーであり、熱硬化性化合物は熱硬化することで後述のバインダ樹脂となり、光硬化性化合物は光硬化することで後述のバインダ樹脂となる。
導電性ポリマーと共に透明バインダ成分を含有する分散液であれば、透明性、導電性及び反射防止性を有する導電層を容易に形成できる。
【0036】
透明バインダ成分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン-アクリル共重合体、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、環状ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、アクリロイル基を1つ以上有するアクリル化合物、エポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物等が挙げられる。
前記透明バインダ成分のうち、熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン-アクリル共重合体、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、環状ポリオレフィンが挙げられる。
前記透明バインダ成分のうち、熱硬化性化合物としては、アクリル化合物、エポキシ化合物が挙げられる。
光硬化性化合物としては、アクリル化合物が挙げられる。
前記透明バインダ成分のなかでも、透明性が高く、容易に硬化でき、低コストであることから、光硬化性のアクリル化合物が好ましい。
透明バインダ成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
透明バインダ成分が熱硬化性化合物である場合、導電性粒子分散液に熱重合開始剤を含有させることが好ましく、透明バインダ成分が光硬化性化合物である場合、分散液に光重合開始剤を含有させることが好ましい。
【0037】
本実施形態の分散液における透明バインダ成分の含有量は、導電性ポリマー100質量部に対して0.1質量部以上1000質部以下であることが好ましく、10質量部以上800質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下であることがさらに好ましい。本態様の導電性粒子分散液における透明バインダ成分の含有量が前記下限値以上であれば、導電層の強度を向上させることができる。本態様の導電性粒子分散液における透明バインダ成分の含有量が、前記上限値以下であれば、導電性複合体の含有量が少なくなることによる導電性の低下を防ぐことができる。
【0038】
本実施形態の分散液は、無機化合物粒子、ポリマー粒子(但し、導電性粒子を除く)、金属粒子及びカーボンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有しないことが好ましい。本実施形態の分散液が、無機化合物粒子及びポリマー粒子の少なくとも一方を含むと、導電性ポリマーの透明性及び導電性が低下することがある。本実施形態の分散液が、金属粒子及びカーボンの少なくとも一方を含むと、導電性ポリマーの透明性が低下することがある。
【0039】
本発明の一実施形態において、導電層は、導電性ポリマーが分散媒中に分散された分散液を、基材層の外側表面に塗工することによって形成される。別の実施形態にいては、導電性ポリマー分散液に浸漬させる方法等することによって形成される。
導電性ポリマー分散液を塗工するに前には、前記基材層にコロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理等を施し、基材層表面の親水基(ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基等)を形成させることが好ましい。基材層が親水化処理されていると、導電層の接着性をさらに向上させることができる。
【0040】
(模擬血管)
本実施形態において、模擬血管は、管状の基材層と、基材層の外側表面に配置された導電層とを有する。本発明の一実施形態において、模擬血管の直径、つまり外径は0.5~10.0mmである。本発明の別の実施形態において、模擬血管の直径は、0.7~5.0mmであることが好ましく、1.0~3.0mmであることがより好ましい。基材層の直径を0.5mm以上とすることで成形時の加工安定性及び潰瘍モデル作製時のハンドリング性が高くなり、模擬血管の直径を10.0mm以下とすることで人体血管の再現性が高くなり、エネルギーデバイスによる通電不良を抑制できる。
模擬血管の内径は、0.3~8.0mmであることが好ましく、0.3~3.6mmであることがより好ましく、0.4~2.0mmであることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態において、模擬血管の厚みは、0.1~1.0mmである。本発明の別の実施形態において、模擬血管の厚みは、0.2~0.7mmであることが好ましく、0.3~0.5mmであることがより好ましい。模擬血管の厚みを1.0mm以下とすることで、エネルギーデバイスで把持した際に、熱伝導性が向上し、より短時間で熱が伝わるようになる。
【0042】
本発明の一実施形態の模擬血管は、導電層が配置された箇所において1.0×10Ω/□以上、1.0×10Ω/□以下の表面抵抗率を有する。より好ましくは、模擬血管は、導電層が配置された箇所において1.0×10Ω/□以上、1.0×10Ω/□以下の表面抵抗率を有しており、さらに好ましくは1.0×10Ω/□以上、1.0×10Ω/□以下の表面抵抗率を有している。
本実施形態において、表面抵抗値は、JIS C2139に従い、株式会社三菱ケミカルアナリテック社製ハイレスタUXMCP-HT800及び、ロレスタ-GP(MCP-T610)を用いて、23±1℃の条件にて測定される。測定に際しては、熱可塑性樹脂組成物を160~200℃にてプレス成型し、2.5cm×2.5cm、厚さ1.0mmの樹脂シートに加工し、表面に導電層を形成した検体を用いて評価される。
【0043】
本発明の一実施形態において、基材層及び導電層のいずれも一定以上の全光線透過率を有しており、模擬血管としても70%以上の全光線透過率を有している。より好ましくは、模擬血管は、75%以上の全光線透過率を有しており、さらに好ましくは80%以上の全光線透過率を有している。
本実施形態において、全光線透過率は、JIS K 7136-1に従い、日本電飾工業社製 ヘイズ Meter「NDH7000」を使用して測定することができる。測定に際しては、熱可塑性樹脂組成物を1.0mm厚の樹脂シートに加工し、表面に導電層を形成した検体を用いて評価される。
【0044】
(模擬血管の製造方法)
本実施形態の模擬血管は、熱可塑性樹脂組成物を押出成形することによって基材層を製造し、基材層の外側表面に導電性ポリマーが分散媒中に分散された分散液を塗工することによって製造される。別の実施形態にいては、模擬血管は導電性ポリマー分散液に浸漬させる方法等することによって形成される。
導電性ポリマー分散液を塗工するに前には、前記基材層にコロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理等を施し、基材層表面の親水基(ヒドロキシル基、カルボニル基等)を形成させることが好ましい。基材層が親水化処理されていると、導電層の接着性をさらに向上させることができる。
【0045】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態にかかる潰瘍モデル101は、対向する上面S1及び下面S2と、前記上面S1及び前記下面S2の間に設けられた第1実施形態の模擬血管5とを有する。図2は、本実施形態の潰瘍モデルの断面を示す図であり、図3は、潰瘍モデル101の一実施形態を示す上面図である。図2及び図3に示す潰瘍モデル101は、対向する略円形の上面S1及び下面S2と、上面S1及び下面S2の外縁同士を連続的に連結する外周側面S11と、上面S1及び下面S2の間に設けられた、入口開口部5a及び出口開口部5bを有する管状の模擬血管5とを有するモデル本体部10を備える。上面S1が、モデル本体部10の厚み方向に隆起した環状の隆起面S10と、隆起面S10に囲まれた凹部の底面である模擬潰瘍面S20とを含む。ここで、環状の隆起面S10の形状は、図1のように上面S1側から見たときに円形に沿う形状であってもよいが、模擬潰瘍面S20を取り囲む形状であれば、特に制限されない。例えば、隆起面S10を上面S1側から見たときに、隆起面S10の外周及び内周が、それぞれ独立に、円形、楕円形、多角形又は不定形から選ばれる任意の形状を有することができる。同様に、模擬潰瘍面S20を上面S1側から見たときに、模擬潰瘍面S20の外周が、例えば円形、楕円形、多角形又は不定形から選ばれる任意の形状を有することができる。模擬血管5が、モデル本体部10の外周側面S11から模擬潰瘍面S20にかけて、出口開口部5bが模擬潰瘍面S20側に位置する向きでモデル本体部10の内部に延在している。図2に示される潰瘍モデル102のように、模擬血管5が1箇所以上で屈曲していてもよい。
【0046】
図3に示される実施形態におけるモデル本体部10は、模擬潰瘍面S20を含む平板状の基体部10aと、基体部10a上に設けられ隆起面S10を形成している隆起部10bとから構成される。基体部10a及び隆起部10bは、同一又は異なる成形材料の成形体であることができる。基体部10a及び隆起部10bの硬さ等の特性は、想定する消化管の種類等に応じて選択することができる。例えば、隆起部10bを形成している成形体の硬度が、基体部10aを形成している成形体の硬度と比較して、同程度であってもよいし、より低くてもよい。図3に示されるように、模擬血管5が複数あってもよい。
【0047】
モデル本体部10の厚み方向に直角な方向におけるモデル本体部10の最大幅は、一般的な潰瘍の広がりに対応する範囲であればよく、例えば10~150mmの範囲であってもよい。
【0048】
模擬潰瘍面S20は、典型的には上面S1の中央に位置する平坦面である。ただし、模擬潰瘍面S20は、後述するように微小な突起部を含み得る。模擬潰瘍面S20は、粘膜層が欠損して粘膜下層に相当する部分が露出した潰瘍部を模した部分であり、上面S1における凹部の底面に相当する。模擬潰瘍面S20の最大幅は、例えば3~100mmの範囲であってもよい。
【0049】
隆起面S10は、モデル本体部10の厚みが最も大きい部分を頂部10Hとして含む。頂部10Hにおけるモデル本体部10の厚み(すなわち、モデル本体部10の最大厚み) は、特に制限されないが、1~30mm程度、又は2~20mm程度であってもよい。
【0050】
頂部10Hの位置におけるモデル本体部10の厚みと模擬潰瘍面S20におけるモデル本体部10の厚みとの差( 隆起面S10の頂部10Hと模擬潰瘍面S20との高低差) は、任意であるが、頂部10Hにおけるモデル本体部10の厚みに対し概ね10~90%の範囲であってもよい。
【0051】
模擬血管5は、止血の練習に際して模擬血液を模擬潰瘍面S20に供給するための経路であって、モデル本体部10を貫通している。模擬血管5は入口開口部5a側でモデル本体部10の外側に突き出ていてもよい。模擬血管5の出口開口部5bは、模擬潰瘍面S20まで達することなく、模擬潰瘍面S20の内側の近傍に配置されていてもよい。出口開口部5bが模擬潰瘍面S20に達していなくても、手技練習前に、出口開口部5b近傍の部分を切除する、針を刺す、又はピンセット等でつまむ等の手法によって、模擬血管5を模擬潰瘍面S20に容易に連通させることができる。出口開口部5bは、例えば、模擬潰瘍面S20から0.1~5mm程度の深さの位置に配置されていてもよい。
【0052】
模擬血管5の端部は、模擬血液が充填された注射器と接続されていてもよく、その場合は注射器から模擬血液が模擬血管5内へ供給される。注射器に代えて、模擬血液を供給できる任意の装置、器具又は設備、例えばチューブラーポンプを用いてもよい。
【0053】
本実施形態の潰瘍モデル101での利用に際し、目的を阻害しない範囲で、例えば、顔料、染料等の着色剤、香料、酸化防止剤、抗菌剤等の添加剤を使用してもよい。本実施形態の潰瘍モデル101を生体の臓器に近似させるために、着色剤により生体の臓器に近似した色に着色してもよい。
【0054】
本実施形態の潰瘍モデル101においては、適切な硬度を有する層を形成するための樹脂として、例えば、ポリビニルアルコール及び水を含有する含水ポリビニルアルコール系材料、又は、親油性樹脂及びオイルを含有する炭化水素系樹脂材料を用いることができる。例えば、含水ポリビニルアルコール系材料の水分量、炭化水素系樹脂材料におけるオイルの量、及び/又はイオン液体の量によって、成形体の硬度を適切に調整することができる。
【0055】
本実施形態に係る潰瘍モデル101は、通常の成形方法によって製造することができる。例えば、上面S1及び下面S2に対応する形状の型のキャビティ内に、模擬血管5となるチューブを設置してから成形することによって製造することができる。
【0056】
含水ポリビニルアルコール系材料の成形体は、例えば、ポリビニルアルコール、架橋剤(硼酸等)及び水、イオン液体等を含有する成形用組成物を型に注ぎ込んでからゲル化させる方法、又は、同様の成形用組成物を型に注ぎ込んでから、融点以下への冷却による凍結、及び融点以上への加熱による溶解を繰り返してゲル化を促進する方法によって形成することができる。炭化水素系樹脂材料の成形体は、例えば、押出、注形、真空成形、多色を含む射出成形のような成形方法によって形成することができる。
【0057】
潰瘍モデル101は、上部消化器(胃、食道、十二指腸)模型に装着して、内視鏡的止血術等の訓練に用いることができる。消化器模型に設けられた模型装着部に潰瘍モデルを嵌め込んでもよいし、消化器模型の内壁に潰瘍モデルを貼り付けてもよい。消化器模型の模型装着部は、壁が一部欠損して形成された枠又は凹みであってもよいし、模型装着用の冶具が消化器模型の内壁に取り付けられていてもよい。潰瘍模型は、接着剤、粘着剤、両面テープ等を用いて内壁に貼り付けることができる。
【0058】
止血を含む手技の例としては、出血した潰瘍部位への止血鉗子又はクリップで把持するような、いわゆる機械法、及び、エネルギーデバイスを用いた熱凝固法等の熱凝固法がある。エネルギーデバイスとしては、電気メス、超音波メス、高周波ラジオ波メス等が挙げられる。
【実施例
【0059】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0060】
実施例等で用いた各種原料及び製造方法は以下の通りである。
(A)基材層
・エチレン-酢酸ビニル系樹脂(EVA):エバフレックスEV170、三井・ダウポリケミカル社製
・エチレン-酢酸ビニル系樹脂(EVA):ウルトラセン640、東ソー社製
・熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂(ウレタン):エラストランET880、BASF社製
・塩化ビニル樹脂(PVC):TH-1000、大洋塩ビ社製
・水添スチレン-ブタジエンエラストマー樹脂(HSBR):JSR DYNARON1320P、JSR社製
・1,2―ポリブタジエンエラストマー樹脂(BR):JSR RB810、JSR社製
・低密度ポリエチレン樹脂(LDPE):UBEポリエチレン B128、宇部丸善ポリエチレン社製
・水添スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック樹脂(SEBS):JSR DYNARON8300P、JSR社製(DYNARON8300Pは、疑似架橋を形成するため明確な融点を示さなかった。)
(B)導電層
・ポリチオフェン系導電性高分子分散液(デナトロンPT-436、ナガセケムテックス株式会社製、純粋/アルコール分散液)
(C)潰瘍モデルの本体部
(C-1)水添スチレン系熱可塑性エラストマー
・SEEPS(SEPTON 4055、クラレ社製)(MFR(温度230℃、荷重2.16kg)0.0g/10分、スチレン含有量30質量%、水添率90モル%以上)
(C-2)オイル
・パラフィンオイル(ダイアナプロセスオイルPW90、出光興産社製)
【0061】
[実施例1]
(模擬血管の製造)
熱可塑性樹脂組成物としてエチレン-酢酸ビニル系樹脂(エバフレックスEV170、三井・ダウポリケミカル社製)を用いて、押出成形により直径1.0mm、厚み0.25mmの管状の構造体を作製し、基材層とした。基材層表面はコロナ処理による表面改質を行った。春日電機株式会社製のコロナ表面改質評価装置(TEC-4AX)を用いて、出力80W、速度0.5m/min、電極と基材とのクリアランスを5mmの条件で行った。
次いで、導電層としてポリチオフェン系導電性高分子分散液デナトロンPT-436(ナガセケムテックス株式会社、純粋/アルコール分散液)を準備し、基材層の外側表面に塗工し、室温環境下で24時間乾燥させ、厚み180nmの導電層を有する模擬血管とした。
【0062】
(潰瘍モデルの製造)
水添スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対し、300質量部のオイルを滴下し、十分に染みこませた。24時間23℃±1℃環境下で静置後、ブラベンダープラスチコーダー(ブラベンダー社製PL2000型)を使用し、180℃、回転速度100回/分、10分間混練した。
金型に水添スチレン系熱可塑性エラストマーとオイルとを混合させた熱可塑性樹脂組成物を充填させ、160℃で5分間、圧力10Mpaで溶融成形した。
成形した潰瘍モデルに模擬血管を図2及び図3図4のように設置した。
次いで、模擬血管の端部に疑似血液が充填された注射器をつなぎ合わせた。
【0063】
[実施例2~6]
基材層の直径及び厚みを変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0064】
[実施例7]
基材層の熱可塑性樹脂組成物をエチレン-酢酸ビニル系樹脂(ウルトラセン640)に変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0065】
[実施例8]
基材層の熱可塑性樹脂組成物を熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂(エラストランET880)に変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0066】
[実施例9]
基材層の熱可塑性樹脂組成物を、塩化ビニル樹脂(TH-1000)100質量部に対して、アジピン酸系ポリエステル化合物(アデカサイザーPN-9302)を45部配合した樹脂組成物に変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0067】
[実施例10]
基材層の熱可塑性樹脂組成物を水添スチレン-エチレンブタジエンブロック共重合体(DYNARON1320P)に変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0068】
[実施例11]
基材層の熱可塑性樹脂組成物を1,2―ポリブタジエンエラストマー樹脂(RB810)に変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0069】
[比較例1]
導電層を形成しなかった以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0070】
[比較例2]
基材層の熱可塑性樹脂組成物を低密度ポリエチレン樹脂(B128)に変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0071】
[比較例3]
基材層の熱可塑性樹脂組成物を水添スチレン-ブタジエンブロック共重合体(DYNARON8300P)に変更した以外は、実施例1と同様に模擬血管及び潰瘍モデルを作製した。
【0072】
実施例等で用いた熱可塑性樹脂組成物についての各種特性の評価方法は以下の通りである。
【0073】
(1)引張弾性率
JIS K7127のプラスチックの引張試験方法に従って、1.0mm厚シートを試験片タイプ5の形状に打ち抜き、23±1℃の環境下にて、引張試験機(島津製作所製、オートグラフAG-Xplus)を用い、引張速度50.0mm/minの条件にて測定した。引張弾性率は、応力-ひずみ曲線における初期の直線の傾きから算出した。
【0074】
(2)水の接触角
JIS K 6768に従い、23±1℃の条件にて英弘精機株式会社社製の自動接触角測定装置OCA20を用いて、基材層表面に水(純水)を1μL滴下し、30秒後の接触角を測定した。なお、測定に際しては、実施例等の熱可塑性樹脂組成物を160~200℃にてプレス成型した厚さ1.0mm厚の樹脂シートに加工し、表面にコロナ処理を行った検体を評価に用いた。コロナ処理は、春日電機株式会社製のコロナ表面改質評価装置(TEC-4AX)を用いて、出力80W、速度0.5m/min、電極と基材とのクリアランスを5mmの条件で行った。
【0075】
(3)融点
融点を、示差走査熱量計(DSC;METTLER TOLEDO社製、DSC 3+)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて測定した。
【0076】
実施例等で作製した模擬血管についての各種特性の評価方法は以下の通りである。
【0077】
(4)導電性評価
JIS C2139に従って、23±1℃の条件にて株式会社三菱ケミカルアナリテック社製ハイレスタUXMCP-HT800及び、ロレスタ-GP(MCP-T610)を用いて、23±1℃の条件にて表面抵抗率を測定した。測定に際しては、実施例等の熱可塑性樹脂組成物を160~200℃にてプレス成型し、2.5cm×2.5cm、厚さ1.0mmの樹脂シートに加工し、表面に導電層を形成した検体を評価に用いた。比較例1については、導電層を形成していない検体を用いた。
表面抵抗率1.0×10以上、1.0×10Ω/□以下の場合を優、表面抵抗率1.0×10より大きく、1.0×10Ω/□以下の場合を良、表面抵抗率1.0×10Ω/□より大きい場合を不可とした。
【0078】
(5)全光線透過率
JIS K 7136-1に従い、23±1℃の条件にて日本電色工業社製 ヘイズ Meter「NDH7000」を使用し、測定した全光線透過率をもとに、以下の基準に従い判定した。なお、測定に際しては、実施例等の熱可塑性樹脂組成物を1.0mm厚の樹脂シートに加工し、表面に導電層を形成した検体を評価に用いた。比較例1については、導電層を形成していない検体を用いた。
【0079】
実施例等で作製した模擬血管を用いた潰瘍モデルについての各種特性の評価方法は以下の通りである。
【0080】
(6)模擬血管部の把持性評価
モデル本体部から突き出た模擬血管を電気メス(エルベ社製 高周波手術装置:VIO100C、条件:バイポーラー、凝固モード、60W)でつまみ把持した状態で、模擬血液を溶出するか否かを目視で評価した。溶出しない場合を優、溶出する場合を不可とした。
【0081】
(7)止血操作性の再現性評価
模擬血液が溶出している模擬血管に対して電気メス(条件:バイポーラー、凝固モード、60W)を用いて止血操作を行い、止血操作における模擬血液の溶出度合いを目視で評価した。止血操作による止血が再現されている場合は優、再現されていない場合は不可とした。
【0082】
結果を表1に示す。
【表1】
【0083】
表1から解るように、実施例の模擬血管は出血を再現可能であって、エネルギーデバイスを用いた止血術の練習に用いることができることが示された。一方、導電層を有していない比較例1、高い引張弾性率を有する熱可塑性樹脂を用いた比較例2、明確な融点を有していない熱可塑性樹脂を用いた比較例3の模擬血管では、特に止血操作による止血の再現性が不十分であり、エネルギーデバイスを用いた止血術の練習には適していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の模擬血管及び潰瘍モデルは、エネルギーデバイスを用いた止血術の訓練具として利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
5 模擬血管
5a 入口開口部
5b 出口開口部
10 モデル本体部
10H 隆起面の頂部
10a 基体部
10b 隆起部
101 潰瘍モデル
S1 上面
S2 下面
S10 隆起面
S11 外周側面
S20 模擬潰瘍面
図1
図2
図3
図4