(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C07D 275/04 20060101AFI20240822BHJP
C07C 323/62 20060101ALI20240822BHJP
C07C 319/14 20060101ALI20240822BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C07D275/04
C07C323/62
C07C319/14
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2023526303
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2021000131
(87)【国際公開番号】W WO2022089774
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-28
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503071691
【氏名又は名称】トール ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】バウム,リュディガー
(72)【発明者】
【氏名】ビッターマン,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジェンハオ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チャオチャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チャンファ
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,チンリン
(72)【発明者】
【氏名】ファルーク,アシュラフ
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/127996(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/055293(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07C
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
にかかる1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための方法であって、
(a)一般式(II):
【化2】
(式中、Xは、塩素または臭素である)
の2-ハロベンゾニトリル化合物を、
(i)アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに
(ii)以下の一般式(III):
R
1X(III)
(式中、R
1は、非置換または少なくとも一置換のC
1~C
10アルキル、非置換または少なくとも一置換のC
5~C
14アリール、および非置換または少なくとも一置換のC
7~C
18アラルキルからなる群から選択され、
置換基は、F、Cl、Br、I、OH、NH
2、C
1~C
8アルキルおよびOR
2からなる群から選択され、
R
2は、水素またはC
1~C
4アルキルであり、Xは、塩素または臭素である)
により表されるハロゲン化アルキル化合物
を含む反応混合物と反応させて、一般式(IV):
【化3】
(式中、R
1は、上で定義されている通りである)
の中間体を形成するステップと、
(b)ステップ(a)で得られた一般式(IV)の中間体を、ハロゲン化剤または酸化剤と反応させ、続いて2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを酸と反応させて、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式(V):
R
1X(V)
(式中、
R
1は、
上で定義されている通りであり、Xは、塩素または臭素である)
のハロゲン化物化合物を形成するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)に使用されるハロゲン化アルキル化合物が、塩化ブチルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)に使用されるアルカリ金属硫化物(i)が、硫化ナトリウム(Na
2S)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プロセスステップ(b)において、ステップ(a)で得られた一般式(IV)の中間体を、ハロゲン化剤と反応させて、一般式(I)の1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式(V)のハロゲン化物化合物を含む反応混合物を形成することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)において、ハロゲン化剤が、塩素、臭素、塩化スルフリルおよび臭化スルフリルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
プロセスステップ(b)において、ステップ(a)で得られた一般式(IV)の中間体を、ペルオキソ化合物と反応させて、一般式(VI):
【化4】
(式中、R
1は、上で定義されている通りである)
の2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを形成し、続いて酸と反応させて、一般式(I)にかかる1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式(V)のハロゲン化物化合物を形成することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)で得られた一般式(V)のハロゲン化物化合物が、反応混合物から少なくとも部分的に分離され、プロセスステップ(a)に供給されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一般式(IV):
【化5】
(式中、R
1は、
非置換または少なくとも一置換のC
1
~C
10
アルキル、非置換または少なくとも一置換のC
5
~C
14
アリール、および非置換または少なくとも一置換のC
7
~C
18
アラルキルからなる群から選択され、
置換基は、F、Cl、Br、I、OH、NH
2
、C
1
~C
8
アルキルおよびOR
2
からなる群から選択される)
にかかる2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物を調製するための方法であって、ステップ(a)において、一般式(II):
【化6】
(式中、
Xは、塩素または臭素である)
の2-ハロベンゾニトリル化合物を、
(i)アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに
(ii)以下の一般式(III):
R
1X(III)
(式中、R
1は、上で定義されている通りである)
により表されるハロゲン化アルキル化合物
を含む反応混合物と反応させるステップを含む、方法。
【請求項9】
ステップ(a)が、不活性ガス雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)が、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩およびクラウンエーテルからなる群から選択される、少なくとも1種の相間移動触媒の存在下で行われることを特徴とする、請求項1から7および9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)において、一般式(II)にかかる2-ハロベンゾニトリル化合物、ならびにアルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素を最初に入れ、一般式(III)にかかるハロゲン化アルキル化合物が添加されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
一般式(III)にかかるハロゲン化アルキル化合物が、10から40時間の期間にわたり連続して添加されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)が、60℃から80℃の範囲の温度で行われることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
一般式(III)または(V)にかかるハロゲン化アルキル化合物が、1-クロロブタンであることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)にかかる1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための方法であって、(a)一般式(II)の2-ハロベンゾニトリル化合物を、(i)アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに(ii)一般式(III):R1X(III)により表されるハロゲン化アルキル化合物を含む反応混合物と反応させて、一般式(IV)の中間体を形成するステップと、(b)ステップ(a)で得られた一般式(IV)の中間体を、ハロゲン化剤または酸化剤と反応させ、続いて2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを酸と反応させて、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式(V)R1X(V)のハロゲン化物化合物を形成するステップとを含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、エマルション塗料、ワニス、接着剤、洗剤、燃料中に、また製紙の際に防腐剤として使用される殺生物剤である。詳細には、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物は、塗料の缶内保存に使用される。
【0003】
従来技術は、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンおよびその誘導体を調製するための様々な方法を開示している。
【0004】
例として、US4,736,040は、水性アルカリ性媒体の存在下で、2,2’-ジチオベンズアミドを、酸素化剤と反応させることにより、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための方法について記載している。2,2’-ジチオベンズアミドは、アントラニルアミドのニトロソ化、続いて触媒の存在下で、得られた生成物を二酸化硫黄と反応させることにより調製される。この1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための方法は両方とも、多くの反応ステップが必要とされるので、時間がかかり、かつコストがかかる。
【0005】
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するためのより簡潔な方法は、EP2687519に記載されている。EP2687519にかかる方法では、2-ハロベンゾニトリルを、最初に1から4個の炭素原子を有するアルキルチオールと反応させて、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルを形成する。次いで、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルを水の存在下でハロゲン化剤と反応させて、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを得る。この方法の状況において、中間体、例えば、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの調製で得られる、生じた塩化メチルをリサイクルすることは、その揮発性のため困難である。
【0006】
さらに、欧州特許明細書EP2949650B1は、2-ハロベンゾニトリル化合物を、5から15個の炭素原子を有するチオール化合物と反応させて2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルを形成し、続いてハロゲン化剤と反応させて1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを得ることによる、BITを調製するための方法について開示する。この公報で開示されている方法は、様々な欠点も有し、例えば、さらなる使用に投入できない大量のアルキルチオエーテルが、BIT調製における副生成物として得られるハロゲン化物化合物の、記載されている後処理でもたらされる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の基礎となる目的は、したがって、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための、改善された方法を提供することである。この方法は、上で言及されている従来技術の欠点を有さない、またはそれらを著しく低い規模までにしか有さないことが意図される。前記方法は、従来技術に記載されている、より簡潔で、より信頼性が高く、よりコスト効率的な手段で行うことができることも意図される。
【0008】
この目的は、式(I):
【化1】
にかかる1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための方法であって、
(a)一般式(II):
【化2】
(式中、Xは、塩素または臭素である)
の2-ハロベンゾニトリル化合物を、
(i)アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに
(ii)以下の一般式(III):
R
1X(III)
(式中、
R
1は、非置換または少なくとも一置換のC
1~C
10アルキル、非置換または少なくとも一置換のC
5~C
14アリール、および非置換または少なくとも一置換のC
7~C
18アラルキルからなる群から選択され、
置換基は、F、Cl、Br、I、OH、NH
2、C
1~C
8アルキルおよびOR
2からなる群から選択され、
R
2は、水素またはC
1~C
4アルキルであり、Xは、塩素または臭素である)
により表されるハロゲン化アルキル化合物
を含む反応混合物と反応させて、一般式(IV):
【化3】
の中間体を形成するステップと、
(b)ステップ(a)で得られた一般式(IV)の中間体を、ハロゲン化剤または酸化剤と反応させ、続いて2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを酸と反応させて、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式(V)R
1X(式中、R
1は、上で定義されている通りである)のハロゲン化物化合物を形成するステップと
を含む、方法により達成される。
【0009】
本発明にかかる方法は、2-ハロベンゾニトリル化合物から出発し、ハロゲン化アルキル化合物を使用して、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを高い収率で、特に経済的に実行可能な方法で得ることを可能にする。
【0010】
有利には、一般式(II)にかかる2-ハロベンゾニトリル化合物の1種を、(i)アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに(ii)一般式(III)にかかるハロゲン化アルキル化合物を含む反応混合物と反応させることにより、EP2949650B1に記載されている方法と比較して、副生成物としてもたらされるチオエーテルの量の著しい減少が生じる。本発明にかかる方法は、従来技術に記載されている方法と比較して、メルカプト化合物のより少ない排出も特徴とする。
【0011】
第3の利点は、方法のステップ(b)で副生成物として得られるハロゲン化アルキル化合物は、直接再使用でき、従来技術のように最初にアルカンチオール化合物に変換する必要がないことである。結果として、本発明にかかる方法が、副生成物であるチオエーテルを、従来技術で公知の10%から25%に比べて著しく少量生成するので、ハロゲン化アルキル化合物の再使用もさらに経済的に実行可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための、本発明にかかる方法の第1のプロセスステップ(a)では、一般式(II):
【化4】
(式中、Xは、塩素または臭素であり、好ましくは塩素である)
にかかる2-ハロベンゾニトリル化合物を、
(i)少なくとも1種のアルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに
(ii)以下の一般式(III):R
1X(式中、R
1は、非置換または少なくとも一置換のC
1~C
10アルキル、非置換または少なくとも一置換のC
5~C
14アリール、および非置換または少なくとも一置換のC
7~C
18アラルキルからなる群から選択され、置換基は、F、Cl、Br、I、OH、NH
2、C
1~C
8アルキルおよびOR
2からなる群から選択され、R
2は、水素またはC
1~C
4アルキルであり、Xは、塩素または臭素である)により表される、少なくとも1種のハロゲン化アルキル化合物
を含む反応混合物と反応させて、一般式(IV):
【化5】
(式中、R
1は、上で定義されている通りである)
の中間体を得る。
【0013】
好ましい実施形態によれば、使用される2-ハロベンゾニトリル化合物は、2-ブロモベンゾニトリルおよび/または2-クロロベンゾニトリル、特に好ましくは2-クロロベンゾニトリルである。
【0014】
一般式(II)にかかる2-ハロベンゾニトリル化合物は、プロセスステップ(a)において、(i)少なくとも1種のアルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに(ii)一般式(III)の少なくとも1種のハロゲン化アルキル化合物と反応させて、一般式(IV)の中間体を形成する。
【0015】
アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素は、一般的に、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化ナトリウムおよび硫化カリウムからなる群から選択される。本発明の好ましい実施形態によれば、硫化ナトリウムは、プロセスステップ(a)において使用される。本発明の好ましい実施形態によれば、無水硫化ナトリウムは、プロセスステップ(a)において使用される。無水硫化ナトリウムは、本明細書では、90重量%超、好ましくは95重量%超のNa2S含有量を有する生成物を意味する。例えば、60重量%のNa2S含有量を有する水和硫化ナトリウムと比較すると、無水/乾燥硫化ナトリウムの使用により、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの収率の改善が生じる。
【0016】
一般式(III):R1Xにかかるハロゲン化アルキル化合物は、一般的に上で定義されている化合物(複数可)であり、好ましくは、R1が、分岐または非分岐C1~C10アルキルからなる群から選択され、Xが、塩素または臭素である一般式(III)の化合物である。特に好ましくは、ハロゲン化物化合物は、塩化メチル、臭化メチル、塩化エチル、臭化エチル、塩化n-プロピル、臭化n-プロピル、塩化イソプロピル、臭化イソプロピル、塩化n-ブチル、臭化n-ブチル、塩化sec-ブチル、臭化sec-ブチル、塩化イソブチル、臭化イソブチル、塩化tert-ブチル、臭化tert-ブチル、塩化n-ペンチル、臭化n-ペンチル、塩化イソペンチル、臭化イソペンチル、塩化sec-ペンチル、臭化sec-ペンチル、塩化ネオペンチル、臭化ネオペンチル、塩化1,2-ジメチルプロピル、臭化1,2-ジメチルプロピル、塩化イソアミル、臭化イソアミル、塩化n-ヘキシル、臭化n-ヘキシル、塩化イソヘキシル、臭化イソヘキシル、塩化sec-ヘキシル、臭化sec-ヘキシル、塩化n-ヘプチル、臭化n-ヘプチル、塩化n-オクチル、臭化n-オクチル、塩化n-ノニル、臭化n-ノニル、塩化n-デシル、臭化n-デシルからなる群から選択される。とりわけ好ましいのは、塩化n-プロピル、塩化n-ブチル、塩化n-ペンチルおよび塩化n-ヘキシルからなる群から選択されるハロゲン化物化合物である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、ハロゲン化物化合物は、塩化n-プロピル、塩化n-ブチル、塩化n-ペンチルおよび塩化n-ヘキシルからなる群から選択される。本発明の特に好ましい実施形態によれば、プロセスステップ(a)に使用されるハロゲン化アルキル化合物は、塩化n-ブチルである。
【0018】
本発明にかかる方法は、好ましくは、ステップ(b)で得られる一般式(V)のハロゲン化物化合物が、得られた反応混合物から少なくとも部分的に分離され、プロセスステップ(a)に供給されることを特徴とする。副生成物として得られたハロゲン化物化合物の返還と再使用は、従来技術、例えばEP2678520A1に既に記載されている。1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、本明細書では、2-メチルチオベンゾニトリルの環化により調製され、ハロゲン化物化合物として、高度に揮発性物質であり、取扱いが困難な塩化メチルが副生成物として得られる。
【0019】
出願時に、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンが、2-メチルチオベンゾニトリルの環化により産業規模で調製されたという証拠は、様々な製造業者から現在市販されている1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンのバッチの分析により得られる。以下で例証されている表から明らかなように、副生成物メチル-1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン(m-BIT)およびメチルチオ安息香酸(MTBA)は、すべてのバッチで検出され得る。例えば1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンも、2-ブチルチオベンゾニトリルから調製されるという指標はなく、副生成物ブチルチオ安息香酸は、いずれのバッチでも検出不可能であり(n.d.)、検出限界は10ppmであった。
【0020】
【表1】
(1) Hikal Ltd., India;
(2) Dafeng Yuelong, China;
(3)販売代理店: GBT, 製造業者: Weifang Runan, China;
(4) 販売代理店: Hongkong Hongtai, 製造業者: Shouguang Syntech Fine Chemical Cpo. Ltd, China;
(5) Linva (Shanghai), 製造業者: Shouguang Syntech Fine Chemical Cpo. Ltd, China;
(6) Scale Chemical Corporation, 製造業者: Dalian Biochem, China;
(7) Suzhou Guoxin Group Fengyuan, 製造業者: Lianyungang Sunlion, China.
【0021】
既に上記のように、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの調製において2-メチルチオベンゾニトリルを使用することが可能であるが、本発明の特に好ましい実施形態によれば、プロセスステップ(a)に使用されるハロゲン化アルキル化合物は、塩化n-ブチルである。有利には、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための本発明にかかる方法の状況における塩化n-ブチルの使用は、プロセスステップ(b)で得られる反応混合物から塩化ブチルの、プロセス技術の観点から完遂しやすい分離を可能にする。その沸点が約78℃という理由で、例えばプロセスステップ(b)で得られる反応混合物からの蒸留によって、容易に除去でき、かつ吸収または回収でき、また、プロセスステップ(a)において少なくとも部分的に再使用できる。
【0022】
プロセスステップ(a)では、アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素は、一般的に、2-ハロベンゾニトリル化合物1モル当たり1から1.4molの量で、好ましくは1から1.2molの量で使用される。
【0023】
プロセスステップ(a)は、好ましくは、より円滑な反応プロセスをもたらす好適な溶媒で行われる。2-ハロベンゾニトリル化合物、ならびにアルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素は、この場合には、好ましくは最初に反応容器中の溶媒に入れられ、任意選択で溶媒に溶解したハロゲン化アルキル化合物が添加される。
【0024】
本明細書で使用される溶媒は、反応に好適である限り、いかなる非水性有機溶媒であってもよい。使用可能な有機溶媒は、いかなる特定の制約も受けず、炭化水素、例えばn-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン、ならびにハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼンおよびジクロロベンゼンを含む。好ましい溶媒は、クロロベンゼンである。使用される溶媒の量は、普通は2-ハロベンゾニトリルの重量の1から10倍、好ましくは1から3倍である。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、プロセスステップ(a)は、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは窒素雰囲気下で、反応溶媒に対して10重量%未満の水分量を有する低水分反応溶媒中において行われる。水分量が低いと、有利なことに、一般式(IV)にかかる中間体が比較的高い収率で生じる。
【0026】
反応ステップ(a)は、好ましくは、反応を促進するために溶媒系に添加される少なくとも1種の相間移動触媒の存在下で行われる。この目的に使用され得る相間移動触媒は、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩およびクラウンエーテルからなる群から選択される。好ましい相間移動触媒は、第四級アンモニウム塩、例えば臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリエチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化オクチルトリエチルアンモニウム、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素、塩化テトラエチルアンモニウムおよび塩化トリオクチルメチルアンモニウム;第四級ホスホニウム塩、例えば臭化ヘキサデシルトリエチルホスホニウム、塩化ヘキサデシルトリブチルホスホニウム、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム、塩化テトラ-n-ブチルホスホニウム、臭化トリオクチルエチルホスホニウムおよび臭化テトラフェニルホスホニウム;ならびにクラウンエーテル、例えば18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6およびジシクロヘキシル-18-クラウン-6を含む。経済的な見地から、第四級アンモニウム塩、例えば臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素および塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムは、好ましくは使用可能である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、相間移動触媒は、第四級アンモニウム塩、例えば臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素および塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムの群から選択される。
【0028】
相間移動触媒を使用する場合には、相間移動触媒の使用される量は、通常は2-ハロベンゾニトリルの重量の0.005から0.5倍、好ましくは0.01から0.2倍である。使用される相間移動触媒の量が、2-ハロベンゾニトリルの重量の0.005倍未満である場合、満足すべき触媒効果を得ることはできない。
【0029】
プロセスステップ(a)における上の反応に対する反応温度は、普通は60℃から80℃、好ましくは70℃から75℃の範囲である。反応時間は、反応温度、ならびに使用される相間移動触媒および溶媒のタイプ、反応器の形状および使用される撹拌技術に応じて変動し、一般化できない。しかし、普通は1から40倍の範囲である。
【0030】
一般式(II)にかかる2-ハロベンゾニトリル化合物は、プロセスステップ(a)で、(i)少なくとも1種のアルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに(ii)一般式(III)の少なくとも1種のハロゲン化アルキル化合物と反応させて、一般式(IV)の中間体を形成する。本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(II)にかかる2-ハロベンゾニトリル化合物、ならびにアルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素は最初に、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは窒素雰囲気下で、好適な溶媒中に入れ、任意選択で同一の溶媒に溶解した一般式(III)にかかるハロゲン化アルキル化合物を添加する。一般式(III)にかかるハロゲン化アルキル化合物は、10から40時間の期間にわたり、好ましくは15から30時間の期間にわたり添加する。ハロゲン化アルキル化合物が添加される量は、一定の添加速度で、または可変速度で遂行される。ハロゲン化アルキル化合物が可変速度で添加される場合には、反応の終わりよりも反応の始まりに、単位時間当たりでより多くの量が添加される。
【0031】
一般式(III)にかかるハロゲン化アルキル化合物を連続して添加すると、副生成物の形成、特にチオエーテルの形成はさらに最小限になる。チオエーテルが形成される間のハロゲン化アルキル化合物の不足は、したがって10%未満に抑制され得る。
【0032】
反応が終了した後で、得られた一般式(IV)にかかる中間体は、通常の手段で単離および精製され得る。これは、反応混合物を、例えば水で洗浄すること、ならびに、有機相が分離されたら、それに分別蒸留を施して、有機溶媒、および底に存在する、一般式(IV)にかかる中間体から形成された一定のチオエーテルを、最も純粋な形態で得るために分離することを含み得る。
【0033】
本発明は、一般式(IV):
【化6】
(式中、R
1は、上で定義されている通りである)
にかかる2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物を調製するための方法であって、ステップ(a)において、一般式(II):
【化7】
(式中、R
1は、上で定義されている通りである)
の2-ハロベンゾニトリル化合物を、
(i)アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属硫化水素、ならびに
(ii)以下の一般式(III):
R
1X(III)
(式中、R
1は、上で定義されている通りである)
により表されるハロゲン化アルキル化合物を含む反応混合物
と反応させるステップを含む、方法にも関する。
【0034】
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための本発明にかかる方法の第2のプロセスステップ(b)では、プロセスステップ(a)で得られる一般式(IV)にかかる中間体は、反応させて、または環化させて、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを形成する。そのような方法は、当業者に公知であり、例えば、EP2687519A1およびWO2015/055293A1に記載されており、その全体の内容は、参照により本明細書に組み込む。
【0035】
プロセスステップ(a)で得られる一般式(IV)にかかる中間体を反応または環化させての、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの形成は、異なる手法:
(b1)水の存在下でハロゲン化剤を用いて、または
(b2)酸化剤を用いて、続いて2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを酸との反応により、
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式R1X(式中、R1は、上で定義されている通りであり、Xは、塩素または臭素である)のハロゲン化物化合物を形成できる。
【0036】
(b1)一般式(IV)の中間体である2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物をハロゲン化剤で環化しての、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの形成
プロセスステップ(b1)では、プロセスステップ(a)で得られる一般式(IV)の中間体である2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物はハロゲン化剤と、好ましくは水の存在下で、任意選択で反応溶媒を使用して反応させ、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式(V)のハロゲン化物化合物を含む反応混合物を形成する。ハロゲン化剤は、好ましくは本明細書では、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物1モル当たりの約0.8から3molの量で、より好ましくは約1から2molの量で使用される。好適なハロゲン化剤は、塩素、臭素、塩化スルフリルおよび臭化スルフリルを含む。プロセスステップ(b1)に使用されるハロゲン化剤は、好ましくは塩素である。
【0037】
水は、好ましくは、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物1モル当たり、約0.8から5molの量で、より好ましくは約1から3molの量で使用される。水量がこの範囲外である場合、若干の副反応が起きる。
【0038】
水は、鉱酸を水に添加することにより、鉱酸水溶液の形態で使用され得る。鉱酸の例は、塩酸、硫酸および硝酸を含む。鉱酸水溶液の濃度は、広い範囲にわたって変動し得る。塩酸の場合には、一般的に使用される好ましい範囲は、10重量%から飽和濃度の範囲である。硫酸または硝酸の場合には、10重量%から50重量%が、好ましくは使用される。鉱酸を水に添加すると、反応中に選択性が改善され、副生成物の形成が抑制される。
【0039】
本発明のプロセスステップ(b1)において、反応溶媒の使用は常に必須ではないが、必要とされる場合は反応溶媒を使用してよい。
【0040】
本明細書で使用される溶媒は、反応に好適な限り、いかなる非水性有機溶媒でもよい。使用可能な有機溶媒は、いかなる特定の制約も受けず、炭化水素、例えばn-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン;ならびにハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼンおよびジクロロベンゼンを含む。好ましい溶媒は、クロロベンゼンである。使用される溶媒の量は、普通は、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物の重量の1から10倍、好ましくは1から2倍である。
【0041】
反応ステップ(b1)は、任意選択で、少なくとも1種の相間移動触媒の存在下で行われ、好適な相間移動触媒は、プロセスステップ(a)に使用され得るものに相当する。相間移動触媒を使用する場合には、相間移動触媒の使用される量は、通常は、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物の重量の0.005から0.5倍、好ましくは0.01から0.2倍である。
【0042】
プロセスステップ(b1)における環化反応に対する反応温度は、普通は20℃から80℃、好ましくは40℃から50℃の範囲である。反応時間は、反応温度、反応溶媒などによって決まり、一般的に約1から40時間である。
【0043】
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、慣用の結晶化技術を用いて、または抽出後の再結晶化を用いて、上のプロセスにより得られる反応混合物から単離され得る。これは、アルカリ性水溶液に溶解し、そこから沈殿させてもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、反応混合物を冷却することにより結晶化し、濾過により単離され、任意選択で洗浄される。
【0044】
環化で得られ、また、一般式R1X(式中、R1は、上で定義されている通りであり、Xは、塩素または臭素である)のハロゲン化物化合物は、好ましくは後処理(work up)または精製され、プロセスステップ(a)で少なくとも部分的に再使用される。
【0045】
(b2)一般式(IV)の中間体である2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物を、酸化剤で環化させての、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの形成
プロセスステップ(b2)では、プロセスステップ(a)で得られる一般式(IV)の中間体である2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物を、酸化剤と反応させ、続いて2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを酸で環化させて、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、および一般式R1X(式中、R1は、上で定義されている通りであり、Xは、塩素または臭素である)のハロゲン化物化合物を形成する。
【0046】
これは、第1のプロセスステップにおいて、少なくとも1種のペルオキソ化合物を使用して、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルから出発して、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを生成する。
【0047】
ペルオキソ化合物は、-O-基が-O-O-基により置換される化合物を意味すると理解される。この基の最も簡潔かつ好ましい典型は、過酸化水素(H2O2)である。ペルオキソ化合物のさらなる典型は、金属過酸化物、特にアルカリ金属およびアルカリ土類金属過酸化物、例えば過酸化ナトリウムおよび過酸化カリウム;ペルオキソ水和物、すなわちボレート、カーボネート、尿素およびホスフェートとの過酸化水素付加化合物、例えばホウ酸ナトリウムペルオキソ水和物(過ホウ酸ナトリウムとも呼ばれる)、炭酸ナトリウムペルオキソ水和物(過炭酸ナトリウムとも呼ばれる)、尿素ペルオキソ水和物およびリン酸塩ペルオキソ水和物;ペルオキソ酸、例えばペルオキソ安息香酸、メタクロロペルオキソ安息香酸、ペルオキソリン酸およびペルオキソ硫酸である。「ペルオキソ化合物」という用語は、通例ペルオキシ化合物といわれる有機過酸、例えば過酢酸、過ギ酸または過プロピオン酸も含むようにさらに意図されている。さらに、アルキルヒドロペルオキシド、例えばtert-ブチルヒドロペルオキシドは、ペルオキソ化合物としても理解されるべきである。
【0048】
2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルの調製では、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルを、好ましくは酸化剤の添加前に、カルボン酸、例えば酢酸、ギ酸、マレイン酸、安息香酸、メタクロロ安息香酸、アジピン酸、オレイン酸、酪酸、クエン酸およびアクリル酸中に、特に好ましくは酢酸、ギ酸およびマレイン酸中に溶解することが好ましい。硫酸は、平衡の確立を加速させるために、触媒量で添加され得る。他の好適な酸も、硫酸に加えて使用してよい。あるいは、過酸も酸化剤として直接使用してよいが、多くの場合そのin situ生成物がより簡潔である。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によれば、ペルオキソ化合物は、過酢酸、過ギ酸、過酸化ナトリウム、過酸化カリウムおよび過酸化水素からなる群から選択され、経済的な観点から、過酸化水素が特に好ましい。
【0050】
「ある/1種のペルオキソ化合物」は、純粋な形態の1種のペルオキソ化合物であってもよく、または上の定義にかかる複数のペルオキソ化合物の混合物であってもよい。純粋な形態のペルオキソ化合物を使用することが好ましい。
【0051】
過酸化水素が好ましいペルオキソ化合物として使用される場合、一般的に過酸化水素溶液の形態で使用される。過酸化物溶液の濃度は重要ではないが、できるだけ少ない水が反応媒体中に導入されるように選択される。一般に、少なくとも20重量%のH2O2を有する過酸化水素水溶液、好ましくは50重量%を有するものが使用される。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルから出発して、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを調製する状況において、できるだけ無水の、すなわちできるだけ少ない水分量を有する酸化剤が使用される。そのような酸化剤の使用は、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルのさらなる反応に必要なことがある水量の添加を可能にして、副生成物の形成がさらに最小限になるように1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを形成し、その結果として、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、より一層高い収率で得られる。
【0053】
ペルオキソ化合物は、通常は、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル1モル当たり0.8から1.6mol、好ましくは1.0から1.4molの量で使用される。ペルオキソ化合物の量が、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルの0.8mol未満である場合、未反応の2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルの量は、増加する傾向がある。一方、使用されるペルオキソ化合物の量が1.6molを超える場合、副反応が起き、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルの収率は著しく低下する。
【0054】
2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを調製するための方法は、反応が、少なくとも1種のペルオキソ化合物の存在下で、不均一な溶媒系中において行われることを特徴とする。反応物として使用される2-アルキルチオベンゾニトリルとペルオキソ化合物の反応は、2-アルキルチオベンゾニトリルが水に不溶性なので、好ましくは二相溶媒系中で行われる。この場合には、相間移動触媒は、好ましくは反応を促進するために溶媒系に添加される。この目的に使用され得る相間移動触媒は、第四級アンモニウム塩、例えば臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリエチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化オクチルトリエチルアンモニウム、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素、塩化テトラエチルアンモニウムおよび塩化トリオクチルメチルアンモニウム;第四級ホスホニウム塩、例えば臭化ヘキサデシルトリエチルホスホニウム、塩化ヘキサデシルトリブチルホスホニウム、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム、塩化テトラ-n-ブチルホスホニウム、臭化トリオクチルエチルホスホニウムおよび臭化テトラフェニルホスホニウム;ならびにクラウンエーテル、例えば18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6およびジシクロヘキシル-18-クラウン-6を含む。
【0055】
相間移動触媒は、好ましくは第四級アンモニウム塩、例えば臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素および塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムの群から選択される。本発明の特に好ましい実施形態によれば、相間移動触媒は、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素である。
【0056】
相間移動触媒を使用する場合には、相間移動触媒の使用される量は、普通は、2-アルキルチオベンゾニトリルの重量の0.005から0.5倍、好ましくは0.01から0.2倍である。使用される相間移動触媒の量が、2-アルキルチオベンゾニトリルの重量の0.005倍未満である場合、適切な触媒効果を得ることができない。使用される相間移動触媒の量が、使用される2-アルキルチオベンゾニトリルの重量の0.5倍を超える場合でさえも、追加の効果は予想できず、これはしたがって経済的な理由で有利ではない。
【0057】
本発明の好ましい実施形態によれば、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルの調製は、溶媒中で行われ得る。しかし代替実施形態によれば、調製は、溶媒の添加なしで、調製に必要とされる成分(2-アルキルチオベンゾニトリル、水および酸化剤)のみを使用しても遂行してよい。
【0058】
2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルを調製するための方法に使用される溶媒は、反応に関して不活性である限り、いかなる特定の制約も受けない。反応に使用可能な溶媒の例は、炭化水素、例えばn-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン、ならびにハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレン、1,2-ジクロロエタンおよびクロロベンゼンを含む。クロロベンゼンは、本発明の状況において特に好ましいと証明された。使用される溶媒の量は、普通は、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルの重量の1から30倍である。
【0059】
2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルの調製では、反応温度は、普通は0℃から90℃の範囲、好ましくは50℃未満の温度である。反応時間は、反応温度および反応溶媒に応じて変動し、普通は1から40時間の範囲である。
【0060】
上記のように2-(アルキルチオ)ベンゾニトリルの酸化は、好ましくは触媒の存在下で行われる。本明細書で有用な触媒は、アルキルチオエーテルの酸化に使用され得る当業者に公知のすべての触媒である。この触媒は、好ましくはホスホン酸、例えばフェニルホスホン酸、タングステン触媒およびモリブデン触媒、例えばNa2WO4;バナジウム触媒、例えばNaVO3、NH4VO3およびV2O5;H2SO4およびチタン複合体からなる群から選択される。特に好ましい触媒は、ホスホン酸、または複数のホスホン酸の混合物である。きわめて特に好ましい触媒は、フェニルホスホン酸である。
【0061】
使用される触媒の量は、一般的に、2-(アルキルチオ)ベンゾニトリル1モルに対して約0.01から10mol%、好ましくは約0.05から5mol%、特に好ましくは約0.1から0.5mol%である。
【0062】
第1のプロセスステップに調製した2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルは、第2のプロセスステップにおいてさらに反応させて、事前プロセスの有無を問わず1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを形成できる。好ましい実施形態によれば、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルは、さらに反応させて、さらなるプロセスなしで1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを形成する。
【0063】
2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルの調製に続く第2のプロセスステップでは、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、次いで、少なくとも1種の酸を使用して上記のように調製した2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルから出発して調製される。
【0064】
このプロセスステップに使用可能な酸の例は、当業者に公知のすべての強酸を含む。酸は、純粋な形態、およびそれらの混合物の形態の両方で使用され得る。酸を純粋な形態で使用することが好ましい。
【0065】
本明細書で使用される酸は、塩酸および/または臭化水素酸である。本発明の好ましい実施形態によれば、使用される酸は、塩酸である。
【0066】
酸は、通常は、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリル1モル当たり0.8から3.0mol、好ましくは1.0から2.0molの量で使用される。酸は、一段階で、または複数段階で添加され得る。本発明の好ましい実施形態によれば、酸の10%が第一段階で添加され、酸の100%のうちの残りが第二段階で添加される。例えば、この実施形態によれば、0.1モル当量の酸(ベンゾニトリルに対する酸)が反応の始まりに添加され、後の時点で1.0モル当量のうちの残りが添加される。
【0067】
2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルから出発して、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを調製するための方法に使用される溶媒は、反応に関して不活性である限り、いかなる特定の制約も受けない。反応に使用可能な溶媒の例は、炭化水素、例えばn-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン、ならびにハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼンおよびジクロロベンゼンを含む。クロロベンゼンは、特に好ましいと証明された。使用される溶媒の量は、普通は、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルの重量の1から30倍である。
【0068】
第2のプロセスステップの反応温度は、2-(アルキルスルホキシ)ベンゾニトリルから出発して、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンが調製される状況において、通常は50℃から90℃の範囲、好ましくは70℃から80℃の範囲の温度である。反応時間は、反応温度および反応溶媒に応じて変動し、普通は1から40時間の範囲である。
【0069】
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、慣用の結晶化技術を用いて、または抽出後の再結晶化を用いて、上のプロセスにより得られる反応混合物から単離され得る。これは、アルカリ性水溶液に溶解し、そこから沈殿させてもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、反応混合物を冷却することにより結晶化し、濾過により単離され、任意選択で洗浄される。
【0070】
環化で得られ、また、一般式R1X(式中、R1は、上で定義されている通りであり、Xは、塩素または臭素である)のハロゲン化物化合物は、好ましくは後処理または精製され、プロセスステップ(a)で少なくとも部分的に再使用される。
【実施例】
【0071】
以下の例は、本発明をさらに例証する役割を果たす。
【0072】
プロセスステップ(a):2-クロロベンゾニトリル(2-CBN)、1-クロロブタンおよび硫化ナトリウムからの2-(n-ブチルチオ)ベンゾニトリル(BTBN)の調製
2-クロロベンゾニトリル(56.2g、0.40mol)、粗粉砕した無水硫化二ナトリウム(硫化二ナトリウム含有量93%、40.3g、0.48mol)、臭化テトラブチルアンモニウム(3.2g、0.01mol)およびクロロベンゼン(60.0g)を、窒素雰囲気下で、500ml丸底フラスコ中において混合した。混合物を70℃から75℃(内部温度)で激しく撹拌した。クロロベンゼン(55.0g)中の塩化ブチル(39.1g、0.42mol)の溶液を、0.065g/分の連続計量速度で混合物にゆっくり添加し、添加の完了に約24時間を必要とした。反応の終了後に、反応混合物を水(200g)で、次いで水中5%NaCl(100g)で洗浄し、水性相を廃棄した。クロロベンゼンを回収するために、有機相に減圧下で蒸留を施した。副生成物として形成された硫化ジブチル(2.2g、0.015mol)も、底でできるだけ純粋なBTBNを得るために、蒸留により除去した。
【0073】
プロセスステップ(b):2-(n-ブチルチオ)ベンゾニトリルBTBNからの、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン(BIT)の調製
プロセスステップ(a)からのBTBN(0.39molの計算最大値)を、500ml丸底フラスコ中に移した。クロロベンゼン(133.0g)、塩酸(35重量%、19.9g、0.19molの塩化水素、0.71molの水)、および臭化テトラブチルアンモニウム(3.2g、0.01mol)を添加した。混合物を40℃から50℃で勢いよく撹拌しながら、塩素を125ml/分の流量で導入した。BTBNの含有量を、全体のプロセス中にHPLCによってモニターし、すべてのBTBNが消費されるまで塩素化を続けた。反応混合物を続いて70℃で1時間撹拌し、続いて150gの水を添加し、90℃に加熱した。1-クロロブタンを次いで混合物から蒸留により回収した。蒸留が完了し、1時間撹拌した後で、混合物を周囲温度に冷却した。
【0074】
得られた無色結晶を濾過によって分離し、クロロベンゼンおよび水で洗浄し、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを得るために50℃で乾燥させた。さらなるBITを、希釈水酸化ナトリウム溶液で抽出することにより、濾液の有機層から回収した。2-CBNに対する全収率(固体BITおよびBITナトリウム塩水溶液を含む)は、90%である。