(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】プレス機器
(51)【国際特許分類】
B30B 13/00 20060101AFI20240822BHJP
B30B 15/14 20060101ALI20240822BHJP
B30B 15/26 20060101ALI20240822BHJP
B30B 15/00 20060101ALI20240822BHJP
B21D 43/02 20060101ALI20240822BHJP
B30B 15/06 20060101ALI20240822BHJP
B30B 15/28 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B30B13/00 C
B30B15/14 B
B30B15/26
B30B15/00 B
B21D43/02 D
B30B15/06 Z
B30B15/28 N
(21)【出願番号】P 2023533190
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2022026990
(87)【国際公開番号】W WO2023282332
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021113520
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(73)【特許権者】
【識別番号】000128876
【氏名又は名称】株式会社アマダプレスシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】五島 紘一
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-245800(JP,A)
【文献】特開2005-021934(JP,A)
【文献】特開2017-013093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 13/00
B30B 15/00 - 15/28
B21D 43/02 - 43/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り装置から間欠的に送り出されて加工位置にある材料をプレス加工する金型が取り付けられ、垂直方向に移動可能なスライドと、
駆動部から伝達された回転により回転運動するクランク軸と、
回転中心から偏心した位置にある前記クランク軸の偏心部に連結され、前記クランク軸の回転運動を直線運動に変換することで前記スライドを垂直方向に往復運動させるコネクティングロッドと、
前記スライドが前記材料を加工可能な加工領域と、前記加工領域を除く非加工領域とが前記クランク軸の回転角度を基準に定義され、前記クランク軸の回転角度に基づいて前記クランク軸の回転速度を制御する制御部と、
前記非加工領域を前記クランク軸が回転している間に前記加工位置に送られる前記材料の送り量に対応する物理量が設定される設定部と、
前記設定部に設定された前記物理量に対応する前記材料の前記加工位置への送り時間と、前記クランク軸の回転角度が前記非加工領域において前記加工位置に対する前記材料の送り開始時の位置から前記スライドと前記材料との干渉チェック位置まで回転するのに要する干渉チェック時間とを演算する演算部と、
前記送り時間が前記干渉チェック時間を超える場合に、前記干渉チェック時間が前記送り時間以上となるように、前記非加工領域において前記クランク軸が回転している間に前記制御部によって実行される前記クランク軸の回転速度に対する制御の内容を決定する決定部と、を備え
、
前記決定部が決定した前記クランク軸の回転速度に対する制御の内容は、前記駆動部による前記クランク軸の回転の動作倍率Rの値であり、前記決定部は、前記動作倍率Rの値を、前記送り時間Tが前記干渉チェック時間T′以下となる場合よりも低い値に決定し、
前記クランク軸の停止時間Tsが設定されている場合に、前記動作倍率Rの値は、
R≦T′/(T-Ts)×100
を満たす値となるプレス機器。
【請求項2】
送り装置から間欠的に送り出されて加工位置にある材料をプレス加工する金型が取り付けられ、垂直方向に移動可能なスライドと、
駆動部から伝達された回転により回転運動するクランク軸と、
回転中心から偏心した位置にある前記クランク軸の偏心部に連結され、前記クランク軸の回転運動を直線運動に変換することで前記スライドを垂直方向に往復運動させるコネクティングロッドと、
前記スライドが前記材料を加工可能な加工領域と、前記加工領域を除く非加工領域とが前記クランク軸の回転角度を基準に定義され、前記クランク軸の回転角度に基づいて前記クランク軸の回転速度を制御する制御部と、
前記非加工領域を前記クランク軸が回転している間に前記加工位置に送られる前記材料の送り量に対応する物理量が設定される設定部と、
前記設定部に設定された前記物理量に対応する前記材料の前記加工位置への送り時間と、前記クランク軸の回転角度が前記非加工領域において前記加工位置に対する前記材料の送り開始時の位置から前記スライドと前記材料との干渉チェック位置まで回転するのに要する干渉チェック時間とを演算する演算部と、
前記送り時間が前記干渉チェック時間を超える場合に、前記干渉チェック時間が前記送り時間以上となるように、前記非加工領域において前記クランク軸が回転している間に前記制御部によって実行される前記クランク軸の回転速度に対する制御の内容を決定する決定部と、を備え、
前記決定部が決定した前記クランク軸の回転速度に対する制御の内容は、前記駆動部による前記クランク軸の回転の動作倍率
Rの値であり、前記決定部は、前記動作倍率
Rの値を、前記送り時間
Tが前記干渉チェック時間
T′以下となる場合よりも低い値に決定
し、
前記クランク軸の停止時間Tsが設定されている場合に、前記動作倍率Rの値は、
R≦(T′+Ts)/T×100
を満たす値となるプレス機器。
【請求項3】
前記制御部は、
前記非加工領域において前記クランク軸が回転している間、前記決定部が決定した前記クランク軸の回転速度に対する制御の内容で前記駆動部を制御し、
前記加工領域において前記クランク軸が回転している間、前記決定部が決定した前記クランク軸の回転速度に対する制御でなく通常制御の内容で前記駆動部を制御する請求項1又は2に記載のプレス機器。
【請求項4】
前記決定部が決定した前記クランク軸の回転速度に対する制御の内容は、前記非加工領域において前記クランク軸が回転している間の前記クランク軸の最高回転速度であり、前記決定部は、前記最高回転速度を、前記送り時間が前記干渉チェック時間以下となる場合よりも低い速度に決定する請求項1又は2に記載のプレス機器。
【請求項5】
前記駆動部は、前記クランク軸を限定された一部の回転角度範囲で正転と逆転とを連続して往復させて、前記スライドを垂直方向に往復運動させる請求項1~4のいずれか1項に記載のプレス機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、送り装置から送り出された材料をプレス機器のスライドに取り付けた金型で加工する加工システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
送り装置内の材料は、送り装置の能力に対応した送り速度でプレス機器に送られる。送り装置からプレス機器への材料の送り量は、プレス機器が材料を加工して製造する製品サイズによって設定される。プレス機器の加工速度と比較して、製品サイズに拘わらず材料の送り速度が遅い場合、あるいは、製品サイズにより材料の送り量が大きく材料の送り速度では間に合わない場合、プレス機器のスライダが材料の非加工領域において昇降している間に、送り装置が材料を送り終えることができなくなる可能性がある。
【0005】
スライダの非加工領域における昇降中に送り装置が材料を送り終えることができない場合、操作者はプレス機器のモーションの設定を変えて対処することができる。但し、操作者がモーションの設定をどのように変えるかは、熟練者の経験に頼るか、あるいは、設定を変えた結果を見ながら設定の変更内容を見直す試行錯誤を繰り返して決めざるを得ない。モーションの設定変更は操作者にとって大きな負担となる可能性がある。つまり、プレス機器の加工速度と比較して材料の送り速度が遅い場合、操作者或いはプレス機器は、そのプレス機器のモーションを最適化するパラメータを容易に得ることができない。
【0006】
本発明の一態様は、
送り装置から間欠的に送り出されて加工位置にある材料をプレス加工する金型が取り付けられ、垂直方向に移動可能なスライドと、
駆動部から伝達された回転により回転運動するクランク軸と、
回転中心から偏心した位置にある前記クランク軸の偏心部に連結され、前記クランク軸の回転運動を直線運動に変換することで前記スライドを垂直方向に往復運動させるコネクティングロッドと、
前記スライドが前記材料を加工可能な加工領域と、前記加工領域を除く非加工領域とが前記クランク軸の回転角度を基準に定義され、前記クランク軸の回転角度に基づいて前記クランク軸の回転速度を制御する制御部と、
前記非加工領域を前記クランク軸が回転している間に前記加工位置に送られる前記材料の送り量に対応する物理量が設定される設定部と、
前記設定部に設定された前記物理量に対応する前記材料の前記加工位置への送り時間と、前記クランク軸の回転角度が前記非加工領域において前記加工位置に対する前記材料の送り開始時の位置から前記スライドと前記材料との干渉チェック位置まで回転するのに要する干渉チェック時間とを演算する演算部と、
前記送り時間が前記干渉チェック時間を超える場合に、前記干渉チェック時間が前記送り時間以上となるように、前記非加工領域において前記クランク軸が回転している間に前記制御部によって実行される前記クランク軸の回転速度に対する制御の内容を決定する決定部と、
を備えるプレス機器である。
【0007】
本発明の一態様では、駆動部は、クランク軸及びコネクティングロッドを介して、材料をプレス加工する金型が取り付けられるスライドを垂直方向に往復運動させる。プレス加工する材料を送り装置から金型による加工位置に間欠的に送るのに要する、材料の送りの開始から終了までの送り時間が、設定部に設定される物理量により求まる。材料の非加工領域をスライドが垂直方向に往復運動している間に、クランク軸が材料の送り開始時の位置からスライドと材料との干渉チェック位置まで回転するには、干渉チェック時間を要する。設定部の物理量から求めた送り時間が干渉チェック時間を超えると、非加工領域を回転しているクランク軸に伴って、非加工領域を垂直方向に往復運動中のスライドが、干渉チェック位置において、送り中の材料と干渉することになる。
【0008】
送り時間が干渉チェック時間を超える場合、クランク軸が非加工領域を回転している間にクランク軸の回転速度に対する制御の内容を変更することで、材料の送り開始時の位置から干渉チェック位置までのクランク軸の回転に要する時間を増やすことができるので、干渉チェック時間が長くなる。クランク軸の回転速度に対する制御の内容次第で、干渉チェック時間を、送り時間以上の長さにすることもできる。送り時間が干渉チェック時間を超える場合に決定部が決定する、クランク軸の回転速度に対する制御の内容は、その内容で駆動部がクランク軸を回転させることで、送り時間以上の長さに干渉チェック時間を長くすることができる内容となる。
【0009】
本発明の一態様によれば、プレス機器の加工速度と比較して材料の送り速度が遅い場合であっても、操作者の経験に頼ることなく、プレス機器がそのプレス機器のモーションを最適化するパラメータを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態に係るプレス機器を備えるプレス加工システムの説明図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aのプレス加工システムのプレス機器及び送り装置の制御系の構成の概略を示すブロック図である。
【
図2A】
図2Aは、
図1Cのクランク軸の回転角度とプレス機器の加工工程との関係を一方向に回転するモーションの場合について示す説明図である。
【
図2B】
図2Bは、
図1Cのクランク軸の回転角度とプレス機器Sの加工工程との関係を正転と逆転を連続して行うモーションにおける第1モーションの場合について示す説明図である。
【
図2C】
図2Cは、
図1Cのクランク軸の回転角度とプレス機器Sの加工工程との関係を正転と逆転を連続して行うモーションにおける第2モーションの場合について示す説明図である。
【
図3A】
図3Aは、
図1Aの送り装置からプレス機器への金属材料の送り速度と送り時間との関係を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、
図1Aの送り装置からプレス機器への金属材料の送り速度と送り時間との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
図1Aのプレス機器のモーションパターンとクランク軸の動作とを示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図4の非加工領域におけるクランク軸の動作パターンをクランク軸の回転動作の動作倍率を変更する前と変更した後とで比較して示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、
図1Bのプレス機器の演算装置が行う処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6B】
図6Bは、
図1Bのプレス機器の演算装置が行う処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一あるいは同等の部位、又は構成要素には、同一の符号を付している。
【0012】
以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものである。この発明の技術的思想は、各構成要素の材質、形状、構造、配置、機能等を下記のものに特定するものでない。
【0013】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るプレス機器を説明する。
図1Aは、本発明の実施形態に係るプレス機器Sを備えるプレス加工システムの説明図である。
図1Bは、
図1Aのプレス加工システムのプレス機器S及び送り装置FDの制御系の構成の概略を示すブロック図である。
図1Cは、
図1Aのプレス機器Sの構成の概略を示す説明図である。
図1A~1Cに示すように、本発明の実施形態に係るプレス機器Sは、
送り装置FDから間欠的に送り出されて加工位置にある材料WSをプレス加工する金型3aが取り付けられ、垂直方向に移動可能なスライド12と、
駆動部4から伝達された回転により回転運動するクランク軸8と、
回転中心から偏心した位置にある前記クランク軸8の偏心部に連結され、前記クランク軸8の回転運動を直線運動に変換することで前記スライド12を垂直方向に往復運動させるコネクティングロッド10と、
前記スライド12が前記材料WSを加工可能な加工領域と、前記加工領域を除く非加工領域とが前記クランク軸8の回転角度を基準に定義され、前記クランク軸8の回転角度に基づいて前記クランク軸8の回転速度を制御する制御部と、
前記非加工領域を前記クランク軸8が回転している間に前記加工位置に送られる前記材料WSの送り量に対応する物理量が設定される設定部と、
前記設定部に設定された前記物理量に対応する前記材料WSの前記加工位置への送り時間と、前記クランク軸8の回転角度が前記非加工領域において前記加工位置に対する前記材料WSの送り開始時の位置から前記スライド12と前記材料WSとの干渉チェック位置まで回転するのに要する干渉チェック時間とを演算する演算部と、
前記送り時間が前記干渉チェック時間を超える場合に、前記干渉チェック時間が前記送り時間以上となるように、前記非加工領域において前記クランク軸8が回転している間に前記制御部によって実行される前記クランク軸8の回転速度に対する制御の内容を決定する決定部と、
を備える。
【0014】
以下、本実施形態のプレス機器Sの詳細について説明する。
【0015】
図1Aに示すプレス加工システムにおいて、送り装置FDは、フープ材(金属材料)WSをプレス機器Sに送り出す。プレス機器Sは、送り装置FDからフィードされた金属材料WSをワークWとして、金型によるプレス加工を行う。
【0016】
送り装置FDは、例えば、アンコイラ(Uncoiler)31とレベラフィーダ(Straightener Feeder)32とを有する構成とすることができる。アンコイラ31には、金属材料WSをコイル状に巻きつけたコイル材が装着される。アンコイラ31に装着されたコイル材の金属材料WSは、コイル材の端部から繰り出されてレベラフィーダ32に送られる。レベラフィーダ32では、金属材料WSの巻き癖が平らにならされる。平らにならされた金属材料WSは、レベラフィーダ32からプレス機器Sに送られる。
【0017】
図1Bに示すように、送り装置FDは、モータ33を有している。モータ(motors)33とアンプ(amplifiers)35は、図中では1つのブロックで示されているが、アンコイラ31及びレベラフィーダ32にそれぞれ設けられたモータとアンプを表している。モータ33は、アンコイラ31及びレベラフィーダ32による金属材料WSの送り動作の動力源である。
【0018】
送り装置FDは、演算装置34及びアンプ35を有している。演算装置34は、例えば、数値制御を行うコントローラを用いて構成することができる。演算装置34は、アンプ35を介してモータ33の回転速度を、金属材料WSの送り速度に合わせて制御する。金属材料WSの送り速度は、演算装置34に入力される送りパラメータにおいて設定することができる。
【0019】
送りパラメータは、プレス機器Sから演算装置34に入力することができる。送りパラメータは、送り装置FDの記憶装置36に記憶させることができる。プレス機器Sから入力された送りパラメータは、記憶装置36から読み出して送り装置FDの表示装置37に表示させることができる。
【0020】
送りパラメータは、表示装置37に表示させながら、送り装置FDの入力装置38から演算装置34に入力し、記憶装置36に記憶させてもよい。送りパラメータを入力装置38から演算装置34に入力する場合、演算装置34は、記憶装置36に記憶させた送りパラメータをプレス機器Sの演算装置14に出力する。
【0021】
送り装置FDは、プレス機器Sとの間で同期用のデジタル信号を受け渡すためのDI(Digital Input)ポート39及びDO(Digital Output)ポート41を有している。
【0022】
送り装置FDは、その送り装置FD、アンコイラ31及びレベラフィーダ32の能力に対応した一番遅い送り速度で金属材料WSを送り出し、プレス機器Sに供給する。
【0023】
図1Cに示すように、プレス機器Sは、筐体2の内外に、モータ4、伝達機構6、クランク軸8、コネクティングロッド10、スライド12、演算装置14、記憶装置15、表示装置16、入力装置18及びボルスタ22を有している。
【0024】
モータ4は、後述するスライド12を垂直方向に往復運動させる駆動部として機能する。モータ4は、例えば、サーボ制御されるサーボモータである。モータ4は、回転角度及び回転速度が制御されつつ、伝達機構6、クランク軸8、コネクティングロッド10を介してスライド12を垂直方向に往復運動させる。モータ4は、伝達機構6を介して、クランク軸8を回転させる。モータ4には、回転角度と回転速度を検知するためのエンコーダ25が設けられている。
【0025】
伝達機構6は、例えば、ギア及びベルト等の伝達部材を有しており、モータ4のトルクをクランク軸8へ増幅して伝える減速機の役割を持っている。モータ4への制御信号は演算装置14から送られる。伝達機構6にも、回転角度と回転速度を検知するためのエンコーダ25を設けることができる。
【0026】
クランク軸8及びコネクティングロッド10は、伝達機構6により伝達された回転をクランク軸8の偏心部を介して垂直方向の往復運動に変換して、スライド12に伝達する。なお、コネクティングロッド10の一端は、クランク軸8の偏心部に連結されている。変換された垂直方向の往復運動は、コネクティングロッド10の他端に連結された連結部材11を介してスライド12に伝達される。スライド12は、コネクティングロッド10から伝達される力で垂直方向に往復運動する。
【0027】
図1Dは、
図1Cのクランク軸8のエキセントリック構造を説明するための図である。
図1Dにおいて、モータ4は、伝達機構6を介してクランク軸8を回転させる。一般的には、エキセントリック構造とは、クランク軸8の回転中心8aが中心位置Cから偏心して回転可能な構造も指すが、本発明では、クランク軸8の回転中心8aが中心位置Cから偏心せず回転する構造を指す事を前提に説明する。以下の説明では、クランク軸8の偏心部8bがクランク軸8の回転中心よりも上方にあり、かつコネクティングロッド10がクランク軸8の回転中心を通るように垂直方向に沿っている状態を、クランク軸8の回転角度が0度であると定義する。コネクティングロッド10の上端は、クランク軸8の偏心部8bに回転自在に連結されている。コネクティングロッド10の下端には、スライド12との連結部材11が取り付けられ、連結部材11の下部にスライド12が連結されている。連結部材11は、支点13により垂直方向に往復運動可能に支持されている。
【0028】
図1Dにおいてモータ4が駆動し、クランク軸8が時計回り方向DRに回転すると、クランク軸8の偏心部8bに連結されているコネクティングロッド10は、クランク軸8の回転、即ちクランク軸8の回転運動を、垂直方向の往復運動に変換し、連結部材11に伝達する。コネクティングロッド10に連結された連結部材11は、垂直方向に往復運動する。連結部材11の往復運動に伴って、連結部材11に連結されているスライド12も垂直方向に往復運動する。スライド12の垂直方向の位置は、クランク軸8の回転角度に対応する。クランク軸8の回転角度が0度となるときに、スライド12が上死点となる。クランク軸8の回転角度が180度となるときに、スライド12が下死点となる。クランク軸8が時計回り方向DRに回転して、0度から180度まで回転すると、スライド12が上死点から下死点に移動する。クランク軸8がさらに時計回り方向DRに回転して、180度から360度(0度)まで回転すると、スライド12が下死点から上死点に移動する。スライド12は、上死点から下死点までの範囲を最大の可動範囲として、この可動範囲の中で往復運動することができる。
【0029】
なお、クランク軸8の回転によるスライド12の垂直方向の移動速度は、一定ではない。例えば、クランク軸8が0度及び180度を通過する際には、スライド12の垂直方向の移動速度が遅くなる。
【0030】
上述したクランク軸8のエキセントリック構造により、演算装置14は、モータ4の回転角度及び回転速度、即ちクランク軸8の回転角度及び回転速度を制御して、スライド12の垂直方向の往復運動を制御することができる。
【0031】
ボルスタ22は、スライド12の下方に配置されている。スライド12の下面には金型3の上型3aが取り付けられ、ボルスタ22の上面には金型3の下型3bが取り付けられる。上型3aと下型3bとの間には、送り装置FDにより金属材料WSがワークWとして送り込まれる。送り込まれたワークWは、垂直方向に往復運動する上型3aと下型3bとによりプレス加工される。
【0032】
図1Bに示すように、プレス機器Sの演算装置14は、例えば、数値制御を行うコントローラを用いて構成することができる。演算装置14は、アンプ21を介してモータ4の回転角度(rotation angle)と回転速度(rotational velocity)を、プレス機器Sによるプレス加工の工程に応じて制御する。演算装置14は、エンコーダ25から入力されるフィードバック用のエンコーダパルスにより、演算装置14の制御により回転したモータ4の回転角度及び回転速度を検出することができる。
【0033】
演算装置14は、プレス機器Sによるプレス加工の工程に応じてモータ4の回転速度を制御するために、モーションプログラムを実行する。記憶装置15は、モーション(motion)の種類毎のモーションプログラムを記憶し管理する。入力装置18は、モーションの種類を選択する際に操作される。入力装置18は、選択されたモーションの種類に対応するモーションプログラムに対するパラメータを設定する際にも操作される。
【0034】
モーションの種類は、一方向に回転するモーション及び正転と逆転を連続して行うモーションを含んでいる。一方向に回転するモーションでは、クランク軸8が一方向に1回転する間にスライド12が1サイクルの垂直方向の往復運動を行う。正転と逆転を連続して行うモーションでは、クランク軸8が、限定された一部の回転角度範囲で正転と逆転とを連続して往復する。正転と逆転を連続して行うモーションには、クランク軸8が始動位置から下死点を経由して正転と逆転とを連続して往復する第1モーションと、クランク軸8が上死点から下死点までの180度以内の限定された一部の回転角度範囲で往復する第2モーションとがある。第1モーションでは、クランク軸8の往路の回転中に、スライド12が1サイクルの垂直方向の往復運動を行い、さらに、クランク軸8の復路の回転中に、スライド12が1サイクルの垂直方向の往復運動を行う。一方、第2モーションでは、クランク軸8の往路の回転中と復路の回転中とに、スライド12が1サイクルの垂直方向の往復運動を行う。プレス機器Sは、スライド12が1サイクルの垂直方向の往復運動を行う時間内に、金属材料WSの搬入および搬出とワークWのプレス加工とを実行する。モーション設定は、どの種類のモーションでプレス加工をするのかを決定することを指す。
【0035】
図2Aは、
図1Cのクランク軸8の回転角度とプレス機器Sの加工工程との関係を一方向に回転するモーションの場合について示す説明図である。一方向に回転するモーションでは、
図2Aに示すように、クランク軸8の回転角度が0度のときに、モーションの始動位置STとなる。一方向に回転するモーションの始動位置STはスライド12の上死点となる。
【0036】
図2Aに示す例では、クランク軸8が時計回り方向DRに回転して120度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度がワークWの非加工領域NPAから加工領域PAに移り、プレス機器Sは、ワークWをプレス加工する。クランク軸8が時計回り方向DRに回転して、180度の回転角度(スライド12の下死点)を経由して240度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度が加工領域PAから非加工領域NPAに移る。非加工領域NPAにおいて、クランク軸8の回転角度が送り区間FSに移ると、送り装置FDは、金属材料WSをプレス機器Sに供給する。
【0037】
一方向に回転するモーションでは、送り装置FDが金属材料WSをプレス機器Sに送る送り区間FSは、時計回り方向DRに回転するクランク軸8が、始動位置STを挟んで240度から120度までの回転角度にいる間に設定される。送り区間FSは、クランク軸8の回転角度が非加工領域NPAにいる間であって、スライド12が送り装置FD、金型3、ワークWの何れかの干渉を避けられる位置となるような回転角度の範囲に設定される。
【0038】
図2Bは、
図1Cのクランク軸8の回転角度と、プレス機器Sの加工工程との関係を正転と逆転を連続して行うモーションにおける第1モーションの場合について示す説明図である。正転と逆転を連続して行うモーションでは、
図2Bに示す例の場合、クランク軸8が、60度の回転角度と300度の回転角度との間で、180度の回転角度(スライド12の下死点)を経由して往復する。
図2Bに示すモーションでは、クランク軸8が往復する切り返し点である60度及び300度の各回転角度にいるときに、モーションの始動位置STとなる。正転と逆転を連続して行うモーションの始動位置STは、モーションの初回サイクルのみスライド12の上死点となるが、2回目以降のサイクルでは、スライド12の上死点ではない位置となる。
【0039】
図2Bに示す例では、往路において、クランク軸8が60度の始動位置STから時計回り方向DR1に回転して120度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度が非加工領域NPAから加工領域PAに移り、プレス機器Sは、ワークWをプレス加工する。往路において、クランク軸8が時計回り方向DR1に回転して下死点を経由して、240度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度が加工領域PAから非加工領域NPAに移り、送り装置FDは、金属材料WSをプレス機器Sに供給する。
【0040】
図2Bに示す例では、復路において、クランク軸8が300度の始動位置STから反時計回り方向DR2に回転して240度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度が非加工領域NPAから加工領域PAに移り、プレス機器Sは、ワークWをプレス加工する。復路において、クランク軸8が反時計回り方向DR2に回転して120度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度が加工領域PAから非加工領域NPAに移り、送り装置FDは、金属材料WSをプレス機器Sに供給する。
【0041】
図2Bに示す正転と逆転を連続して行う第1モーションでは、送り装置FDが金属材料WSをプレス機器Sに送る送り区間FSは、往路から復路にかけて、クランク軸8が240度の回転角度から300度の始動位置STで切り返して240度の回転角度に戻るまでの間と、復路から往路にかけて、クランク軸8が120度の回転角度から60度の始動位置STで切り返して120度の回転角度に戻るまでの間に設定される。なお、
図2Bでは、往路から復路にかけての送り区間FSのみを図示し、復路から往路にかけての送り区間の図示は省略している。
【0042】
図2Cは、
図1Cのクランク軸8の回転角度と、プレス機器Sの加工工程との関係を正転と逆転を連続して行うモーションにおける第2モーションの場合について示す説明図である。
図2Cに示す例の場合、クランク軸8が、30度の回転角度と150度の回転角度との間で正転と反転を繰り返し、180度の回転角度(スライド12の下死点)を経由しない。
図2Cに示すモーションでは、クランク軸8の偏心部が30度の回転角度にいるときに、モーションの始動位置STとなる。正転と逆転を連続して行うモーションの始動位置STは、モーションの初回サイクルのみスライド12の上死点となるが、2回目以降のサイクルでは、スライド12の上死点ではない位置となる。
【0043】
図2Cに示す例では、往路において、クランク軸8が30度の始動位置STから時計回り方向DR1に回転して90度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度が非加工領域NPAから加工領域PAに移り、プレス機器Sは、ワークWをプレス加工する。
【0044】
図2Cに示す例では、往路において、クランク軸8が150度の回転角度で切り返す。復路において、クランク軸8が150度の回転角度から反時計回り方向DR2に回転して90度の回転角度を通過すると、クランク軸8の回転角度が加工領域PAから非加工領域NPAに移り、送り装置FDは、金属材料WSをプレス機器Sに供給する。
【0045】
図2Cに示す正転と逆転を連続して行う第2モーションでは、送り装置FDが金属材料WSをプレス機器Sに送る送り区間FSは、復路から往路にかけて、クランク軸8が45度の回転角度から30度の始動位置STで切り返して45度の回転角度に戻るまでの間に設定される。
【0046】
演算装置14には、入力装置18の操作により、選択するモーションの種類が設定される。演算装置14は、設定されたモーションの種類に対応するモーションプログラムを、記憶装置15から読み出し実行する。演算装置14には、入力装置18の操作により、モーションプログラムの実行に必要なパラメータが設定される。
【0047】
演算装置14に設定されるパラメータは、プレス機器Sのモーションパラメータ、カム設定パラメータ、送りパラメータ及び機能設定パラメータを含んでいる。入力装置18の操作により設定された各パラメータは、記憶装置15に記憶させることができる。
【0048】
モーションパラメータは、モーションの始動位置ST、モーションの加工開始位置、モーションのアプローチ速度、モーションの加工終了位置、及び、加工領域におけるモーションの動作設定、及びモーションの加工終了位置を含んでいる。
【0049】
モーションの始動位置STは、
図2A~
図2Cを参照して説明した始動位置STのことである。すなわち、モーションの始動位置STは、クランク軸8の偏心部が始動位置STとなるときの、クランク軸8の回転角度である。
【0050】
モーションの加工開始位置は、クランク軸8の回転角度が非加工領域NPAから加工領域PAに移る境界位置となるときのクランク軸8の回転角度である。
【0051】
モーションのアプローチ速度は、クランク軸8の偏心部が始動位置STから加工開始位置に近づくときのクランク軸8の回転速度である。
【0052】
モーションの加工終了位置は、クランク軸8の回転角度が加工領域PAから非加工領域NPAに移る境界位置となるときのクランク軸8の回転角度である。
【0053】
加工領域PAにおけるモーションの動作設定は、例えば、加工領域PAにおけるクランク軸8の回転速度(加工速度)、すなわち、クランク軸8の回転角度が加工開始位置から加工終了位置まで移動するときのクランク軸8の回転速度を含んでいる。また、加工領域PAにおけるモーションの動作設定は、例えば、クランク軸8の回転角度が加工終了位置から始動位置STまで回転するときのクランク軸8の回転速度を含んでいる。
【0054】
カム設定パラメータは、モータ4に取付けられているエンコーダ25からモータ4の回転角度や回転速度を読み取り、クランク軸8の回転角度が送り開始位置及び干渉チェック位置となったときのモータ4の回転角度及び回転速度をフィードバック制御するためのパラメータである。カム設定パラメータはクランク軸8の回転角度が送り開始位置となるときのクランク軸8の回転角度と、クランク軸8の回転角度が干渉チェック位置となるときのクランク軸8の回転角度とを含んでいる。送り開始位置は、送り装置FDによる金属材料WSのプレス機器Sに対する送り開始時におけるクランク軸8の回転角度である。クランク軸の回転動作を、開閉または往復動作の開始信号に変換する事を、カムと便宜上表現する。
【0055】
送り開始位置は、送り装置FDが金属材料WSの1サイクルの送りを開始するときのクランク軸8の回転角度のことである。送り開始位置は、クランク軸8が非加工領域NPAをアプローチ速度で回転している間に設定される。
【0056】
一方向に回転するモーションの
図2Aに示す例では、クランク軸8が270度の回転角度にいるときを、送り開始位置としている。正転と逆転を連続して行うモーションの
図2Bの例では、例えば、往路において時計回り方向DR1に回転したクランク軸8が270度の回転角度にいるときを、送り開始位置としている。正転と逆転を連続して行うモーションの
図2Cの例では、例えば、往路において時計回り方向DR1に回転したクランク軸8の回転角度が130度となる位置を、送り開始位置としている。
【0057】
干渉チェック位置は、クランク軸8が非加工領域NPAを回転中に、演算装置34が干渉チェックを行うときのクランク軸8の回転角度のことである。干渉チェックとは、プレス加工を行う前後の時間においてミスを検出することであり、具体的には少なくとも以下5つを検出する。
(1)材料末端検出:光線センサーにより材料切れを検出
(2)材料波動検出:材料波動により材料とタッチセンサーとの接触を検出
(3)スクラップ検出:抜き加工されたスクラップが通過しているかを検出
(4)加工品排出ミス検出:加工品がライトセンサーを通過して排出されているかを検出
(5)材料送りミス検出:材料送りが完了してタッチセンサーと接触しているかを検出
【0058】
例えば、非加工領域NPAにおいてクランク軸8がアプローチ速度での回転を終えるまでに、金属材料WSの1サイクルの送りが終了しない場合は、送り装置FDが送り中の金属材料WSが、非加工領域NPA内を垂直方向に往復運動中のスライド12と干渉する。干渉チェック位置は、非加工領域NPAにおいてクランク軸8がアプローチ速度で回転を終える前に到達する位置に設定される。
【0059】
演算装置14は、クランク軸8の回転角度が送り開始位置になると、金属材料WSの送り開始を指示するデジタル信号を送り装置FDに出力する。演算装置14は、クランク軸8の回転角度が干渉チェック位置になると、干渉チェックを指示するデジタル信号を送り装置FDに出力する。演算装置14は、例えば、不図示のカムポジショナから入力されるパルス信号に基づいて、各デジタル信号を送り装置FDに出力することができる。
【0060】
プレス機器Sは、送り装置FDとの間で電気的な信号を受け渡すためのDI(Digital Input)ポート27及びDO(Digital Output)ポート29を有している。演算装置14は、スライド12の送り開始位置及び干渉チェック位置の各電気的な信号を、DOポート29から送り装置FDのDIポート41に出力する。
【0061】
送り装置FDの演算装置34は、送り開始を指示する電気的な信号がDIポート39から入力されると、送り装置FDが送り動作を行う条件が整ったとして、金属材料WSの送りを開始させることができる。
【0062】
演算装置34は、クランク軸8が干渉チェック位置を通過すると、干渉チェックを実行する。演算装置34は、干渉チェックを指示するデジタル信号の入力時に、送りパラメータの内容に応じた金属材料WSの1サイクル分の送りが終了していない場合に、エラーが発生したものとして金属材料WSの送りを緊急停止させることができる。この緊急停止により、1サイクル分の送りが完了していない状態で金属材料WSに対する加工が開始されて、加工不良の製品が製造される事象、あるいは、金型3(上型3a、下型3b)の損傷につながる事象が発生するのを防ぐことができる。
【0063】
送りパラメータは、送り装置FDの演算装置34に入力する金属材料WSの送りに関するパラメータである。送りパラメータは、プレス機器Sの演算装置14に設定され、同じ値の送りパラメータが、ネットワーク通信などを介して送り装置FDの演算装置34に転送される。送りパラメータは、送り速度、送り加減速時間、送り量を含んでいる。
【0064】
送り速度は、送り装置FDにより金属材料WSをプレス機器Sに送る際の指令速度のことである。送り加減速時間は、送り装置FDにより金属材料WSを送り、送り装置FDが退避するまでの1サイクル間において、金属材料WSを送る際に、金属材料WSを送る速度を指令速度まで加速させる時間、及び金属材料WSを送った後に退避する際に、金属材料WSを送る速度を指令速度から減速させる時間のことである。ただし、送り速度の減速時間と加速時間とは、必ずしも同一である必要はない。金属材料WSの重さ及び大きさ、あるいは、指令速度次第では、送り速度の減速時間と加速時間とを異ならせる場合もある。送り速度及び送り加減速時間は、固定値でもよく可変値でもよい。
【0065】
送り量は、送り装置FDがプレス機器Sに送る1サイクル分の金属材料WS長さのことである。送り量は、プレス機器SでワークWを加工して製造する製品に対応した長さの可変値となる。
【0066】
送りパラメータが設定される演算装置14は、設定部として機能する。演算装置14に送り量を含む送りパラメータを設定することで、ワークWが加工されない非加工領域におけるクランク軸8の回転角度範囲中に加工位置に送られる金属材料WS(材料)の送り量に対応する物理量(1サイクルのワークの送り長さ)を、設定部に設定することができる。演算装置14は、送りパラメータが設定されると、設定された送りパラメータを送り装置FDの演算装置34に転送する。
【0067】
機能設定パラメータは、送り装置FDによる金属材料WSの送りにプレス機器Sの1サイクル動作を同期させる同期制御の無効、有効を示すフラグに関するパラメータである。例えば、同期制御の無効を示すパラメータを「0」、有効を示すパラメータを「1」とすることができる。
【0068】
演算装置14は、選択するモーションの種類と上述した各パラメータとが設定されると、クランク軸8のモーションの計算、クランク軸8の速度指令の出力、クランク軸8の速度指令のオーバーライド(Override)制御を行う。なお、本実施形態におけるオーバーライド制御とは、送り開始回転角度から干渉チェック回転角度まで、指令されたクランク軸8の回転速度で回転中に、1サイクル分の金属材料WS長さを送り切れない場合に、クランク軸8の指令回転速度を100%としたときのパーセンテージで減速指令制御することである。
【0069】
演算装置14は、クランク軸8のモーションの計算の前提となる、送りパラメータの指令速度に対応した、送り装置FDによる金属材料WSの1サイクルの送り長さ(送り量)に要する送り時間Tを計算する。
【0070】
例えば、送り速度及び送り加減速時間が、予め定められた固定値である場合、金属材料WSの1サイクルの送り長さに要する送り時間Tは、可変値である送り量によって決まる。
【0071】
図3Aは、
図1Aの送り装置FDからプレス機器Sへの金属材料WSの送り速度と送り時間との関係を示すグラフである。
図3Aは、送りパラメータで設定された送り量(面積)Y[mm]が、送り加減速時間Ta[s]に指令速度F[mm/s]を乗じた移動距離(面積)以上となる場合を示しており、指令速度の一定速度で移動可能な状態を示している。なお、
図3Aのグラフの縦軸は金属材料WSの送り速度[mm/s]、横軸は金属材料WSの送り時間[s]を示す。送り速度の指令速度F及び加減速時間Taは、いずれも固定値とする。
【0072】
送り装置FDが指令速度F及び加減速時間Taで金属材料WSをプレス機器Sに送る場合の送り量は、
図3Aに示すように、横軸と送り速度の波形とで囲まれる台形の部分の面積に相当する。送りパラメータにおいて設定された送り量Yの金属材料WSをプレス機器Sに送るのに要する送り時間T[s]は、台形の面積を求めるときの一般式を利用すると、以下の(1)式から求めることができる。
T=(Y-F×Ta)/F+2×Ta・・・(1)
【0073】
図3Bは、
図1Aの送り装置FDからプレス機器Sへの金属材料WSの送り速度と送り時間との関係を示すグラフである。
図3Bでは、送りパラメータで設定された送り量Yが、送り加減速時間Ta[s]に指令速度F[mm/s]を乗じた移動距離よりも短い、送り加減速時間t[s]に速度f[mm/s]を乗じた移動距離の送り量である場合を示している。
図3Bのグラフでも、縦軸は金属材料WSの送り速度[mm/s]を、横軸は金属材料WSの送り時間[s]を示す。送り速度の指令速度F及び加減速時間Taは、いずれも固定値とする。
【0074】
送り装置FDが、送り速度fをピークとする金属材料WSの送り動作を、加速及び減速にそれぞれ経過時間tをかけて行う場合、金属材料WSの送り量Yは、
図3Bに示すように、横軸と送り速度の波形とで囲まれる二等辺三角形の部分の面積に相当する。送りパラメータにおいて設定された送り量Yの金属材料WSをプレス機器Sに送るのに要する送り時間Tは、二等辺三角形の面積を求める一般式を利用すると、以下の(2)式から求めることができる。
T=2√(Y/(F×Ta))・・・(2)
【0075】
演算装置14は、以上に説明した方法で、金属材料WSの送り時間Tを計算することができる。演算装置14は、計算した送り時間Tに合わせて、クランク軸8の回転速度指令の数値制御値を計算し、計算した数値制御値をクランク軸8の回転速度指令として、アンプ21を介してモータ4に出力する。
【0076】
演算装置14は、送りパラメータで設定された送り量Yに基づいて計算した、送り装置FDによる金属材料WSの1サイクルの送り時間Tが、干渉チェック時間T′を超える場合(T>T′)に、干渉チェック開始までに1サイクル分の長さの金属材料WSを送り切れておらず、干渉チェックする時期を遅らせる必要がある。そのため、クランク軸8の回転速度のオーバーライド制御を行う。なお、干渉チェック時間T′とは、演算装置14が送り開始位置信号を送り装置FDへ送出してから、干渉チェック位置信号をONするまでの時間であり、この間に送り装置FDが1サイクル分の長さの金属材料WSを送り終え、プレス機器Sの干渉チェックが開始可能となるまでの時間である。演算装置14は、演算装置14に設定されたプレス機器Sのモーションパラメータ及びカム設定パラメータと、送り装置FDの送りパラメータに基づいて、干渉チェック時間T′を算出することができる。
【0077】
図4は、
図1Aのプレス機器Sのモーションパターンとクランク軸8の動作とを示すグラフである。金属材料WSの送り時間Tと干渉チェック時間T′との関係を、
図4を用いて説明する。説明を容易にするために、以後は、モーションの種類が一方向に回転するモーションである場合の例を中心に説明し、必要に応じて、モーションの種類が正転と逆点を連続して行うモーションである場合にも触れることとする。
図4のグラフの縦軸はクランク軸8の回転速度、横軸は時間を示す。
【0078】
図4に示すモーションパターンは、始動位置STから次の始動位置STまで、クランク軸8の回転によりクランク軸8に1サイクルの回転動作を行わせるものである。クランク軸8偏心部の1サイクルの回転動作は、次の(1)~(6)の動作を含んでいる。
【0079】
(1)非加工領域NPAの始動位置STからクランク軸8の回転を開始させて、クランク軸8の回転速度をアプローチ速度V1まで加速させる。クランク軸8の回転速度がアプローチ速度まで到達すると、その後はクランク軸8をアプローチ速度で回転させる。
(2)加工開始位置P1の手前でクランク軸8の回転速度の減速を開始する。
(3)クランク軸8の回転速度が加工速度V2に減速された加工開始位置P1で、クランク軸8の回転角度が非加工領域NPAから加工領域PAに移ったら、加工終了位置P2までの加工領域PAで、クランク軸8を加工速度V2で回転させる。
(4)クランク軸8の回転角度が加工終了位置P2に到達し、クランク軸8の回転角度が加工領域PAから非加工領域NPAに移ったら、クランク軸8の回転速度を加工速度V2からアプローチ速度V1に加速させる。
(5)アプローチ速度V1でクランク軸8が回転する区間中で、クランク軸8が金属材料WSの送り開始位置P3を通過した後、次の始動位置STの手前からクランク軸8の回転速度の減速を開始する。
(6)クランク軸8が次の始動位置STとなる回転角度でクランク軸8の回転を停止させる。
【0080】
図4に示すように、クランク軸8の1サイクルの回転動作において、金属材料WSの送り時間Tと干渉チェック時間T′との起算点は、いずれも、送り装置FDによる金属材料WSの送り開始位置P3とする。
【0081】
送り時間Tが干渉チェック時間T′以下(T≦T′)ならば、非加工領域NPAのクランク軸8がアプローチ速度V1での回転を終えるまでに、金属材料WSの1サイクルの送りが終了する。この場合、送り中の金属材料WSは、非加工領域NPAを垂直方向に往復運動中のスライド12と干渉しない。
【0082】
金属材料WSとスライド12とが干渉しない場合、演算装置14は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転動作の動作倍率Rを「100%」とする。動作倍率Rとは、モーションパターンから導き出されるクランク軸8の指令回転速度を100としたとき、オーバーライド制御によって変更するクランク軸8の指令回転速度を百分率で表した値である。動作倍率Rが「100%」の場合、演算装置14は、スライド12の速度指令のオーバーライド制御を行わない。
【0083】
図4に示すように、送り時間Tが干渉チェック時間T′よりも長い(T′<T)と、非加工領域NPAのクランク軸8がアプローチ速度V1での回転を終えるまでに、金属材料WSの1サイクルの送りが終了しない。この場合、干渉チェックでエラーが発生する。
【0084】
送り時間Tが干渉チェック時間T′よりも長い場合、演算装置14は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の動作倍率Rを算出する。演算装置14は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の動作倍率Rを100%未満の値とする。なお、送り時間Tが干渉チェック時間T′以下の場合には、演算装置14は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の動作倍率Rを100%とする。
【0085】
演算装置14は、クランク軸8の速度指令のオーバーライド制御において、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度(アプローチ速度)を通常の速度より低い速度(V1×R/100)に減速させる。
【0086】
また、演算装置14は、クランク軸8の速度指令のオーバーライド制御において、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の加速度を通常の速度より低い加速度に減速させる。
【0087】
演算装置14は、クランク軸8の速度指令のオーバーライド制御を行う場合でも、加工領域PAにおけるクランク軸8の回転速度(加工速度V2)を変更せず、クランク軸8の回転動作を通常制御する。
【0088】
演算装置14は、クランク軸8の速度指令のオーバーライド制御において、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の減速制御を行う際には、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転動作の動作倍率Rを、減速制御の内容として決定する。
【0089】
図5は、
図4の非加工領域NPAにおけるクランク軸8の偏心部の動作パターンをクランク軸8の回転動作の動作倍率Rを変更する前と変更した後とで比較して示すグラフである。
図5の想像線(二点鎖線)は、動作倍率Rの変更前(R=100%)の動作パターンM1を示し、実線は、動作倍率Rの変更後(R<100%)の動作パターンM2を示す。
【0090】
動作倍率Rの変更前(R=100%)の動作パターンM1では、干渉チェック時間T′が送り時間Tよりも短くなる。この動作パターンでは、非加工領域NPAのクランク軸8がアプローチ速度V1での回転を終えるまでに、金属材料WSの1サイクルの送りが終了しない。この場合、干渉チェックでエラーが発生する。干渉チェックでエラーが発生すると計算された場合、演算装置14は、干渉チェック時間T′が送り時間T以上となる動作倍率R(R<100%)を計算する。
【0091】
動作倍率Rを100未満の値に変更した動作パターンM2では、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転動作にかかる時間が100/R倍(1よりも大きい値)に長くなり、干渉チェック時間が、動作倍率Rを変更する前のT′からT′×100/Rに増える。干渉チェック時間T′×100/Rが送り時間T以上の時間になれば、送り中の金属材料WSが垂直方向に往復運動中のスライド12と干渉しなくなる。
【0092】
演算装置14が動作倍率Rを100%未満の値に変更すると、クランク軸8の回転速度が遅くなり、プレス機器Sのスライド12が垂直方向に往復運動する速度を落とすことが可能となる。
【0093】
送り開始位置P3から始動位置STまでの区間における金属材料WSの送り量Yは、その区間における
図5のグラフの横軸と送り速度の波形とで囲まれる台形の部分の面積A1に相当する。始動位置STから送り終了位置P5までの金属材料WSの送り量Yは、その区間における横軸と送り速度の波形とで囲まれる台形の部分の面積A2に相当する。
【0094】
演算装置14が、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の動作倍率Rの値を、例えば80%にすると、アプローチ速度V1が0.8倍になる他、加えて、加減速の加速度も0.8倍になる。その代わり、動作にかかる時間が1.25倍(=100÷80)になる。
【0095】
動作倍率Rの変更の前後では、横軸と送り速度の波形とで囲まれる台形の部分の上底及び下底が1.25倍になり、高さが0.8倍になる。
【0096】
送り開始位置P3から始動位置STまでの区間において、動作倍率Rの変更前における台形の下底に相当する送り時間t1′は、動作倍率Rの変更後における台形の下底に相当する送り時間t1′×100/Rの0.8となる。始動位置STから送り終了位置P5までの区間でも、動作倍率Rの変更前における台形の下底に相当する送り時間t2′は、動作倍率Rの変更後における台形の下底に相当する送り時間t2′×100/Rの0.8倍となる。台形の上底についても下底と同じである。
【0097】
送り開始位置P3から始動位置STまでの区間と始動位置STから送り終了位置P5までの区間とのどちらも、動作倍率Rの変更の前後で面積A1,A2の大きさは変わらない。面積A1,A2の合計に相当する金属材料WSの送り量Yも、動作倍率Rの変更の前後で変わらない。
【0098】
演算装置14は、干渉チェック時間T′が送り時間T以上となる動作倍率R(R<100)を、次のようにして計算する。
【0099】
干渉チェック時間T′と送り時間Tとは、干渉チェック時間T′に動作倍率Rを適用する(干渉チェック時間T′を動作倍率R/100で割る)と
T′×100/R≧T
の関係を満たすので、求める動作倍率Rの値は、
R≦T′/T×100
を満たす値となる。
【0100】
この計算は、プレス機器Sのモーションの種類が一方向に回転するモーションである場合の計算内容である。正転と逆転を連続して行うモーションでは、始動位置STにおけるクランク軸8の偏心部の切り返しに対して停止時間Tsが設定されることがある。停止時間Tsが設定されている場合は、干渉チェック時間T′に動作倍率Rを適用した時間と停止時間Tsとを足した時間が、送り時間T以上の長さである必要があるので、
(T′×100/R)+Ts≧T
となり、求める動作倍率Rの値は、
R≦T′/(T-Ts)×100
を満たす値となる。なお、
図5に示された一方向に回転するモーションにおいても、上死点で一時停止しているので、同様に停止時間Tsが設定されることも想定され得る。
【0101】
プレス機器Sでは、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の偏心部の回転動作に対して動作倍率Rを設定すると、設定された動作倍率Rが停止時間Tsにも適用される場合がある。この場合は、
(T′+Ts)×100/R≧T
となるので、求めるRは、
R≦(T′+Ts)/T×100
を満たす値となる。
【0102】
動作倍率Rの設定が停止時間Tsに適用されるか否かは、プレス機器Sのモーションパラメータ、カム設定パラメータ、送り装置FDの送りパラメータ及び機能設定パラメータの設定に依存するので、それに合わせて動作倍率Rを求めればよい。加工領域PAではクランク軸8の回転速度(加工速度)の減速制御を行わず通常制御を行うので、加工領域におけるクランク軸8の回転動作の動作倍率Rは、
図5に示すように、「100%」のままとする。
【0103】
演算装置14は、自身に設定された送り量Yを含む送りパラメータに対応する金属材料WSの送り時間Tが、送り開始位置P3から干渉チェック位置P4までクランク軸8が回転する干渉チェック時間T′を超える場合に、減速制御の内容を決定部として決定する。決定する減速制御は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度に対するもので、干渉チェック時間T′を送り時間T以上の長さとする内容の減速制御である。
【0104】
演算装置14は、クランク軸8の非加工領域NPAにおける回転中に、決定部として演算装置14が決定した減速制御に基づいて、駆動部としてのモータ4を制御する制御部として機能する。演算装置14は、金属材料WSの加工領域PAにおけるクランク軸8の回転中に、減速制御でなく通常制御の内容で前記駆動部を制御する制御部としてさらに機能する。
【0105】
以上を前提に、プレス機器Sの演算装置14が行う処理の手順の一例を、フローチャートによって説明する。
図6A及び
図6Bは、
図1Bのプレス機器Sの演算装置14が行う処理の手順の一例を示すフローチャートである。演算装置14は、入力装置18の操作により入力されたモーションパラメータを設定する(ステップS1)。また、演算装置14は、入力装置18の操作により入力されたカム設定パラメータを設定する(ステップS3)。モーション設定及びカム設定の各パラメータの取得順は、どちらか一方が先で他方が後でもよく、同時でもよい。
【0106】
演算装置14は、取得した各パラメータから、干渉チェック時間T′を計算により算出し(ステップS5)、送り設定を行う(ステップS7)。送り設定とは、演算装置14が、入力装置18の操作により入力されたプレス機器Sで製造する製品に応じた送り量を含む送りパラメータを設定することを指す。演算装置14は、設定した送りパラメータの内容を、送り装置FDの演算装置34に転送する。
【0107】
演算装置14は、設定した送りパラメータの内容から、金属材料WSの1サイクルの送り時間Tを算出する(ステップS9)。また、演算装置14は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の動作倍率Rを「100%」に設定する。
【0108】
図6Bに示すように、演算装置14は、送り時間Tが干渉チェック時間T′よりも長い(T′<T)か否かを確認する(ステップS11)。送り時間Tが干渉チェック時間T′よりも長い場合は(ステップS11でYES)、送り時間Tが干渉チェック時間T′以下となる動作倍率Rの値(R<100%)を算出し(ステップS13)、ステップS9で設定した動作倍率Rを、「100%」から算出した値(R<100%)に変更する。
【0109】
演算装置14は、上述したステップS11において、送り時間Tが干渉チェック時間T′以下の場合は(ステップS11でNO)、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の偏心部の動作倍率Rを「100%」から変更しない。
【0110】
演算装置14は、動作倍率Rを含む各種の条件の情報を、表示装置16に表示させる(ステップS15)。演算装置14は、プレス機器Sの運転を開始する(ステップS17)。
【0111】
演算装置14は、クランク軸8が非加工領域NPAを回転しているか否かを確認する(ステップS19)。演算装置14は、クランク軸8が非加工領域NPAを回転している場合(ステップS19でYES)、演算装置14は、クランク軸8の回転角度が送り開始位置となったか否かを確認する。クランク軸8の回転角度が送り開始位置となったときに、演算装置14は、クランク軸8の回転角度が送り開始位置となったことを示す送り開始位置信号を送り装置FDに送信する(ステップS21)。クランク軸8が非加工領域NPAを回転していない場合は(ステップS19でNO)、ステップS19にリターンする。
【0112】
演算装置14は、プレス機器SによりワークWから製品(図示せず)を生産することが終了したか否かを確認する(ステップS23)。製品の生産が終了している場合は(ステップS23でYES)、演算装置14は、
図6Bの処理を終了する。製品の生産が終了していない場合は(ステップS23でNO)、演算装置14は、干渉チェック時間T′となったか否かを確認する(ステップS25)。干渉チェック時間T′となった場合は(ステップS25でYES)、ステップS27に進み、演算装置14は、干渉チェックを行う(ステップS27)。干渉チェック時間T′となっていない場合は(ステップS25でNO)、ステップS25にリターンする。
【0113】
演算装置14は、製造する製品の切り替え等による送り設定の変更があったか否かを確認する(ステップS29)。送り設定の変更がない場合は(ステップS29でNO)、ステップS17にリターンし、送り設定の変更がある場合は、運転を一時停止して(ステップS31)、
図6AのステップS7にリターンする。なお、モーションパラメータ及びカム設定パラメータにも変更がある場合には、運転を一時停止して、
図6AのステップS1にリターンする。
【0114】
本実施形態では、送り装置FDからプレス機器Sの上型3aと下型3bとの間に、金属材料WSをワークWとして送り込む1サイクルの送り時間Tを、演算装置14に設定される送り量Y(物理量)に基づいて、演算装置14が算出する。金属材料WSの送り開始位置P3から干渉チェック位置P4までクランク軸8が回転するのに要する干渉チェック時間T′を送り時間Tが超える場合、演算装置14は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の減速制御を行う。この減速制御において演算装置14は、送り時間Tが干渉チェック時間T′以下となるように、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転動作の動作倍率Rを100%未満の適切な値に設定する。
【0115】
本実施形態では、プレス機器Sで製造する製品に応じた金属材料WSの送り量が大きい場合であっても、送り中の金属材料WSが垂直方向に往復運動中のスライド12と干渉せずプレス機器Sのモーションが最適化されるパラメータを、容易に得ることができる。
【0116】
プレス機器Sにおいて、減速制御の内容は、駆動部によるクランク軸8の回転の動作倍率の値であり、決定部は、動作倍率の値を、送り時間Tが干渉チェック時間T′以下となる場合よりも低い値に決定してもよい。
【0117】
詳しくは、金属材料WSの送り時間Tが干渉チェック時間T′を超える場合に、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転動作の動作倍率Rを、送り時間Tが干渉チェック時間T′以下となる値に変更して、クランク軸8の回転速度の減速制御を行ってもよい。動作倍率Rの変更は、モーションパラメータを再度設定することによるのではなく、オーバーライド制御によって行うことができるので、プレス機器Sにモーションパラメータを設定するユーザに、減速制御の際にモーションパラメータを再度設定する負担を負わせずに済む。
【0118】
プレス機器Sは、制御部をさらに備えていてもよい。制御部は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転中に、決定部が決定した減速制御の内容で駆動部4を制御する。また、制御部は、材料WSの加工領域PAにおけるクランク軸8の回転中に、減速制御でなく通常制御の内容で駆動部4を制御する。
【0119】
詳しくは、制御部を構成する演算装置14は、金属材料WSの送り時間Tが干渉チェック時間T′を超える場合でも、加工領域PAでは、駆動部4として機能するモータ4によるクランク軸8の回転速度(加工速度)を通常制御する。加工領域PAでは、クランク軸8の回転速度が減速されないので、プレス機器SにおけるワークWの加工時間が無用に長時間化されるのを防ぐことができる。
【0120】
減速制御の内容は、クランク軸8の非加工領域における最高回転速度であってもよく、決定部は、非加工領域における最高回転速度を、送り時間が干渉チェック時間以下となる場合よりも低い速度に決定してもよい。
【0121】
詳しくは、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の減速制御は、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の最高回転速度(アプローチ速度V1)の変更によって行ってもよい。変更後のアプローチ速度V1は、金属材料WSの送り時間Tが干渉チェック時間T′以下となる値であればよい。
【0122】
本実施形態では、
図5に示すように、演算装置14が、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転動作の動作倍率Rを変更した結果、非加工領域NPAにおけるクランク軸8のアプローチ速度V1がアプローチ速度V1×R/100に減速された。金属材料WSの送り時間Tが干渉チェック時間T′を超えた場合に、動作倍率Rを変更する代わりに、演算装置14が非加工領域NPAにおけるクランク軸8のアプローチ速度V1を変更させてもよい。アプローチ速度V1を通常よりも低い値に変更することで、金属材料WSの送り時間Tが干渉チェック時間T′以下となるようにすることができる。変更後のアプローチ速度V1は、演算装置14が計算して求めることができる。
【0123】
非加工領域NPAにおけるクランク軸8のアプローチ速度V1を直接的に減速させる場合は、モーションパラメータの再設定において、アプローチ速度V1のパラメータのみを変更すればよい。アプローチ速度V1の変更に合わせて他のパラメータを変更する必要はない。クランク軸8のアプローチ速度V1を減速させる減速制御では、モーションパラメータの再設定が複雑な内容になるのを抑制することができる。
【0124】
駆動部4は、スライド12が連結されるクランク軸8を一部の回転範囲で繰り返し正転及び逆転させて、スライド12を昇降させてもよい。
【0125】
金属材料WSの送り時間Tが干渉チェック時間T′を超えた場合に、演算装置14が、非加工領域NPAにおけるクランク軸8の回転速度の減速制御を行う構成は、本実施形態の中でも説明したように、モーションの種類が正転と逆転を連続して行うモーションであっても実現できる。正転と逆転を連続して行うモーションでは、クランク軸8が限られた回転角度の範囲を往復するので、クランク軸8の往路と復路との切り返し地点の前後で、一方向モーションにはないモーションが発生する。
【0126】
正転と逆転を連続して行うモーションをプレス機器Sが行う場合に本実施形態の構成を適用することで、演算装置14は、正転と逆転を連続して行うモーションにおける複雑な内容のモーションに対して、金属材料WSの送り時間Tが干渉チェック時間T′以下となる減速処理を容易に実行することができる。
【0127】
演算装置14は、モーションパラメータの再設定で変更されたアプローチ速度V1で、非加工領域においてクランク軸8を回転させる場合に、クランク軸8の回転速度の減速制御を行う制御部として機能することができる。
【0128】
アプローチ速度V1を変更するモーションパラメータの再設定は、例えば、入力部である入力装置18の操作により、ユーザが行うことができる。演算装置14は、変更後のアプローチ速度V1の値を自動計算し、変更後のアプローチ速度を、例えば、表示装置16に表示させてユーザに報知することができる。変更後のアプローチ速度V1の値を表示によりユーザに報知する場合、表示装置16は、決定部としての演算装置14が決定した変更後のアプローチ速度V1を、操作者としてのユーザに報知する報知部として機能する。
【0129】
変更後のアプローチ速度V1の値を表示装置16に表示させることで、ユーザは、変更後のアプローチ速度V1を、表示装置16の表示で容易に把握して、モーションパラメータの再設定を入力装置18の操作のみで容易に済ませることができる。
【0130】
本願の開示は、2021年7月8日に出願された特願2021-113520号に記載の主題と関連しており、それらの全ての開示内容は引用によりここに援用される。