(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
H02K13/00 T
(21)【出願番号】P 2021554099
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031372
(87)【国際公開番号】W WO2021084855
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2019196089
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】水上 裕文
(72)【発明者】
【氏名】内田 保治
(72)【発明者】
【氏名】遠矢 和雄
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】実公平07-021093(JP,Y2)
【文献】特開平07-336957(JP,A)
【文献】特開2013-005632(JP,A)
【文献】特開2008-278722(JP,A)
【文献】特開2009-131078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有する回転子と、
前記回転軸に取り付けられた整流子と、
前記整流子に接する第1端部及び前記第1端部とは反対側に位置する第2端部を有する長尺状のブラシと、
前記第2端部に接し、前記ブラシを前記整流子に押し付けるコイルバネと、
前記ブラシを収納するブラシ収納部及び前記コイルバネを収納するバネ収納部を有するブラシ箱と、を備え、
前記ブラシ箱を前記ブラシの長手方向を垂線とする平面で切断したときの断面を横断面とすると、
前記バネ収納部は前記横断面の形状が矩形となるように4つの側板で構成されており、
前記バネ収納部は、前記4つの側板のうち2つに傾斜部を備えることによって、前記ブラシ箱の前記整流子側とは反対側の端部である後端部における前記横断面の面積が前記バネ収納部での前記後端部とは異なる他の部分における前記横断面の面積よりも小さくなるように構成されており、
前記他の部分における前記コイルバネのコイル径は、前記後端部における前記コイルバネのコイル径よりも大きく、
前記ブラシ箱における前記ブラシ収納部の横断面での内形の形状及びサイズは、前記ブラシ収納部に収納される前記ブラシの横断面での外形の形状及びサイズと実質的に同等である、
電動機。
【請求項2】
前記コイルバネのコイル径は、前記ブラシに向かって漸次大きくなっている、
請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
回転軸を有する回転子と、
前記回転軸に取り付けられた整流子と、
前記整流子に接する第1端部及び前記第1端部とは反対側に位置する第2端部を有するブラシと、
前記第2端部に接し、前記ブラシを前記整流子に押し付けるコイルバネと、
前記ブラシを収納するブラシ収納部及び前記コイルバネを収納するバネ収納部を有するブラシ箱と、を備え、
前記ブラシ箱を前記ブラシの長手方向を垂線とする平面で切断したときの断面を横断面とすると、
前記バネ収納部は前記横断面の形状が矩形となるように4つの側板で構成されており、
前記バネ収納部は、前記4つの側板のうち2つに傾斜部を備えることによって、前記ブラシ箱の前記整流子側とは反対側の端部である後端部における前記横断面の面積が前記バネ収納部での前記後端部とは異なる他の部分における前記横断面の面積よりも小さくなるように構成されており、
前記コイルバネのコイル開口形状は、長尺状で、
前記ブラシ箱における前記ブラシ収納部の横断面での内形の形状及びサイズは、前記ブラシ収納部に収納される前記ブラシの横断面での外形の形状及びサイズと実質的に同等である、
電動機。
【請求項4】
前記コイルバネの素線の断面形状は、長円である、
請求項3に記載の電動機。
【請求項5】
前記コイルバネの素線の断面形状は、楕円形である、
請求項4に記載の電動機。
【請求項6】
前記コイルバネの素線の断面形状は、レーストラック形状である、
請求項4に記載の電動機。
【請求項7】
前記ブラシ収納部及び前記バネ収納部の前記横断面の形状は、矩形であり、
前記バネ収納部の前記横断面の短辺の長さは、前記ブラシ収納部の前記横断面の短辺の長さよりも短い、
請求項1~6のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項8】
前記ブラシ収納部及び前記バネ収納部の前記横断面の形状は、矩形であり、
前記バネ収納部の前記横断面の長辺の長さは、前記ブラシ収納部の前記横断面の短辺の長さよりも短い、
請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項9】
前記ブラシ収納部及び前記バネ収納部の前記横断面の形状は、正方形である、
請求項3~6のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項10】
前記ブラシ箱は、前記横断面の形状が矩形となるように4つの側板で構成されており、
前記バネ収納部において、前記4つの側板のうちの少なくとも1つは、前記他の部分から前記後端部に向かって前記バネ収納部の前記横断面の面積が漸次小さくなるように形成された傾斜部を有する、
請求項1~9のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項11】
前記コイルバネが前記ブラシの前記第2端部に接する部分において、
前記コイルバネのコイル径又はコイル長径は、前記ブラシの前記横断面の短辺の長さの90%以上である、
請求項1~10のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項12】
前記コイルバネが前記ブラシの前記第2端部に接する部分において、
前記コイルバネのコイル径又はコイル長径は、前記ブラシの前記横断面の短辺の長さの9
5%以上である、
請求項1~10のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項13】
前記コイルバネは、伸縮方向における両端部の一方に、2巻き以上の座巻き部を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、電気掃除機等の家庭用電気機器分野をはじめとして、自動車等の電装分野にも広く用いられている。例えば、自動車では、ESC(Electronic Stability Control)又はエアサスペンション等に電動機が用いられている。電動機としては、ブラシ付きの整流子電動機(整流子モータ)又はブラシを用いないブラシレス電動機が知られている。
【0003】
整流子電動機では、ブラシを整流子に押し当てるために、ブラシバネが用いられる。ブラシバネは、バネ弾性を利用してブラシに所定の荷重を付与する。整流子電動機のブラシバネとしては、コイルバネ又はトーションバネが用いられる。例えば、特許文献1には、ブラシバネとしてコイルバネを用いた整流子電動機が開示されている(特許文献1を参照)。
【0004】
ブラシバネとしてコイルバネを用いる場合、コイルバネは、直方体のブラシとともにブラシ箱に収納される。例えば、ブラシ箱は、全体が角筒状に構成されている。ブラシ箱は、ブラシが収納されるブラシ収納部と、概略外形が円柱状のコイルバネが収納されるバネ収納部とを有する。
【0005】
ブラシ箱をブラシの長手方向を垂線とする平面で切断したときの断面を横断面とすると、ブラシ箱におけるブラシ収納部の横断面での内形の形状及びサイズは、ブラシ収納部に収納されるブラシの横断面での外形の形状及びサイズと実質的に同等にするとよい。このため、ブラシへの通電電流を大きくするためにブラシの横断面での幅又は厚みを大きくしてブラシの横断面の外形のサイズを大きくすると、ブラシ箱におけるブラシ収納部の横断面の内形のサイズも大きくなる。よって、ブラシ箱が大型化する。
【0006】
この場合、ブラシバネによるブラシ端面の接圧を維持するために、ブラシの横断面の外形のサイズに合わせてコイルバネのコイル径も大きくできればよい。しかし、電動機の外形形状の制約等によって、バネ収納部におけるブラシ箱の後端部の開口サイズを大きくすることができず、コイルバネのコイル径を大きくすることができない場合がある。
【0007】
これにより、大型化したブラシ箱が有するバネ収納部におけるブラシ収納部側の部分に無駄なスペースが生じる。コイルバネは、ブラシ箱が有するバネ収納部内で蛇行する等して不安定な状態になってしまう。この結果、コイルバネのコイル端面がブラシの後端面に正常に接触せずに、ブラシバネによって所定の荷重(押圧)をブラシに付与することができなくなるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものである。本開示は、横断面の面積が後端部よりも大きい部分を含むバネ収納部を有するブラシ箱を備える電動機であっても、コイルバネによって所定の荷重をブラシに付与することができる電動機及びこれを備えた電気機器を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本開示に係る電動機の一態様は、回転軸を有する回転子と、回転軸に取り付けられた整流子と、整流子に接する第1端部及び第1端部とは反対側に位置する第2端部を有する長尺状のブラシと、第2端部に接し、ブラシを整流子に押し付けるコイルバネと、ブラシを収納するブラシ収納部及びコイルバネを収納するバネ収納部を有するブラシ箱と、を備え、ブラシ箱をブラシの長手方向を垂線とする平面で切断したときの断面を横断面とすると、バネ収納部は、ブラシ箱の整流子側とは反対側の端部である後端部における横断面の面積がバネ収納部での後端部とは異なる他の部分における横断面の面積よりも小さくなるように構成されており、他の部分におけるコイルバネのコイル径は、後端部におけるコイルバネのコイル径よりも大きい。
【0011】
本開示によれば、横断面の面積が後端部よりも大きい部分を含むバネ収納部を有するブラシ箱を備える電動機であっても、コイルバネによって所定の荷重をブラシに付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る電動機の断面図である。
【
図2A】
図2Aは、実施の形態1に係る電動機におけるブラシ箱の斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、実施の形態1に係る電動機におけるブラシ箱の断面斜視図である。
【
図2C】
図2Cは、実施の形態1に係る電動機におけるブラシ箱のXY断面での断面図である。
【
図2D】
図2Dは、実施の形態1に係る電動機におけるブラシ箱のXZ断面での断面図である。
【
図3A】
図3Aは、実施の形態1に係る電動機におけるブラシバネの斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、実施の形態1に係る電動機におけるブラシバネの側面図である。
【
図4】
図4は、比較例の電動機において、ブラシ箱に収納されるブラシバネの状態を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、実施の形態1の変形例に係る電動機におけるブラシバネの斜視図である。
【
図5B】
図5Bは、実施の形態1の変形例に係る電動機におけるブラシバネの側面図である。
【
図6A】
図6Aは、実施の形態2に係る電動機におけるブラシ箱の斜視図である。
【
図6B】
図6Bは、実施の形態2に係る電動機におけるブラシ箱の断面斜視図である。
【
図6C】
図6Cは、実施の形態2に係る電動機におけるブラシ箱のXY断面での断面図である。
【
図6D】
図6Dは、実施の形態2に係る電動機におけるブラシ箱のXZ断面での断面図である。
【
図7A】
図7Aは、実施の形態2に係る電動機におけるブラシバネの斜視図である。
【
図7B】
図7Bは、実施の形態2に係る電動機におけるブラシバネの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0014】
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0015】
また、本明細書及び図面において、X軸、Y軸及びZ軸は、三次元直交座標系の三軸を表している。つまり、X軸及びY軸は、互いに直交し、かつ、いずれもZ軸に直交する軸である。
【0016】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1に係る電動機1の全体の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施の形態1に係る電動機1の断面図である。
【0017】
電動機1は、整流子電動機である。電動機1は、
図1に示すように、固定子10と、回転子20と、第1軸受31及び第2軸受32と、整流子40と、ブラシ50と、ブラシバネ60と、ブラシ箱70と、第1ブラケット81及び第2ブラケット82とを備える。
【0018】
電動機1は、直流により駆動する直流電動機(DC(Direct Current)モータ)である。電動機1は、固定子10として磁石11が用いられているとともに、回転子20として巻線コイル22を有する電機子が用いられている。電動機1は、例えば自動車のESC(Electronic Stability Control)又はエアサスペンション等に用いられる。以下、電動機1の各構成部材について詳細に説明する。
【0019】
固定子10(ステータ)は、回転子20に作用する磁力を発生させる。固定子10は、電機子である回転子20とともに磁気回路を構成している。固定子10は、周方向に沿って回転子20とのエアギャップ面にN極とS極とが交互に存在するように構成されている。固定子10は、トルクを発生するための磁束を作る界磁である。固定子10は、例えば複数の磁石11(マグネット)によって構成されている。磁石11は、例えばS極及びN極を有する永久磁石である。
【0020】
固定子10を構成する複数の磁石11は、周方向に沿ってN極とS極とが交互に均等に存在するように配置されている。固定子(磁石11)が発生する主磁束の向きは、回転軸21の軸心Cと直交する方向である。複数の磁石11は、回転子20を囲むようにして周方向に沿って等間隔で配置されている。複数の磁石11は、回転子20における回転子鉄心23の径方向の外周側に位置している。具体的には、N極及びS極が着磁された複数の磁石11が、N極の磁極中心とS極の磁極中心とが周方向に沿って等間隔となるように配置されている。一例として、複数の磁石11の各々は、上面視において、厚さが実質的に一定の円弧形状である。複数の磁石11は、第2ブラケット82に固定されている。
【0021】
回転子20(ロータ)は、固定子10に作用する磁力を発生させる。回転子20が発生する主磁束の向きは、回転軸21の軸心Cと直交する方向である。回転子20は、固定子10の磁力によって回転軸21を回転中心として回転する。
【0022】
回転子20は、インナーロータであり、固定子10の内側に配置されている。具体的には、回転子20は、固定子10を構成する複数の磁石11に囲まれている。回転子20は、固定子10とエアギャップを介して配置されている。
【0023】
回転子20は、回転軸21を有する。回転子20は、電機子であり、さらに、電機子巻線である巻線コイル22と回転子鉄心23とを有する。
【0024】
回転軸21は、回転子20が回転する際の中心となるシャフトである。回転軸21は、軸心Cが延伸する方向(本実施の形態ではZ軸方向)である長手方向に延伸している。回転軸21は、例えば金属棒であり、回転子20に固定されている。具体的には、回転軸21は、回転子20の両側に延在するように回転子20が有する回転子鉄心23の中心を貫いた状態で、回転子鉄心23に固定されている。回転軸21は、回転子鉄心23の中心孔に圧入したり、焼き嵌めしたりすることで回転子鉄心23に固定されている。
【0025】
回転軸21の第1部位21aは、回転子鉄心23の一方から突出している。第1部位21aは、第1軸受31に支持されている。回転軸21の第1部位21aは、回転軸21の出力側の部位である。具体的には、回転軸21の第1部位21aは、第1軸受31から突出しており、第1軸受31から突出した回転軸21の先端部(出力側の端部)に、例えば負荷が取り付けられる。
【0026】
一方、回転軸21の第2部位21bは、回転子鉄心23の他方から突出している。第2部位21bは、第2軸受32に支持されている。回転軸21の第2部位21bは、回転軸21の反出力側の部位である。
【0027】
一例として、第1軸受31及び第2軸受32は、回転軸21を回転自在に支持するベアリングである。このように、回転軸21は、回転自在な状態で第1軸受31と第2軸受32とに保持されている。第1軸受31は、第1ブラケット81に固定されている。第2軸受32は、第2ブラケット82に固定されている。
【0028】
回転子20は、複数の巻線コイル22を有する。各巻線コイル22は、インシュレータ24を介して回転子鉄心23に巻回されている。インシュレータ24は、絶縁樹脂材料等によって構成されており、巻線コイル22と回転子鉄心23とを電気的に絶縁する。巻線コイル22は、回転子20のスロットごとに設けられている。具体的には、回転子鉄心23は、複数のティースを有しており、巻線コイル22は、回転子鉄心23の複数のティースの各々に巻回されている。回転子鉄心23(ロータコア)は、複数の電磁鋼板が回転軸21の軸心Cが延伸する方向に積層された積層体である。回転子鉄心23の外周面と各磁石11の内面との間には微小なエアギャップが存在する。各巻線コイル22は、整流子40と電気的に接続されている。具体的には、各巻線コイル22は、整流子40の整流子セグメント41と電気的に接続される。整流子40を介して巻線コイル22に電流が流れることで、回転子20は、固定子10に作用させる磁力を発生させる。なお、回転子鉄心23は、電磁鋼板の積層体に限るものではなく、磁性材料によって構成されたバルク体であってもよい。
【0029】
整流子40は、回転軸21に取り付けられている。したがって、整流子40は、回転子20が回転することで回転軸21とともに回転する。整流子40は、回転軸21の第1部位21aに取り付けられている。
【0030】
整流子40は、複数の整流子セグメント41を有する。複数の整流子セグメント41は、回転軸21の周方向に沿って配置されている。具体的には、複数の整流子セグメント41は、回転軸21を囲むように円環状に等間隔で配列されている。複数の整流子セグメント41の各々は、例えば銅等の金属材料によって構成された導電端子である、複数の整流子セグメント41の各々は、回転子20が有する巻線コイル22と電気的に接続されている。一例として、整流子40は、モールド整流子であり、複数の整流子セグメント41が樹脂モールドされた構成になっている。この場合、複数の整流子セグメント41は、表面が露出するようにモールド樹脂に埋め込まれる。複数の整流子セグメント41は、互いに絶縁分離されているが、例えば、隣り合う2つの整流子セグメント41同士は、巻線コイル22によって接続されている。
【0031】
整流子40には、ブラシ50が接している。具体的には、ブラシ50は、整流子40の整流子セグメント41に摺接する。ブラシ50は、回転子20の巻線コイル22に電力を供給する給電ブラシ(通電ブラシ)である。具体的には、ブラシ50には、電源から供給される電流が流れるピグテール線等の電線が接続されている。ブラシ50が整流子セグメント41に接することで、電線を介してブラシ50に供給される電流(電機子電流)が整流子セグメント41を介して回転子20の各巻線コイル22に流れる。
【0032】
一例として、ブラシ50は、カーボンによって構成されたカーボンブラシである。具体的には、ブラシ50は、銅等の金属を含むカーボンブラシである。例えば、ブラシ50は、黒鉛粉と銅紛とバインダー樹脂と硬化剤とを混錬した混錬物を粉砕して実質的に直方体に圧縮成形して焼成することで作製することができる。ブラシ50は、長尺状の棒状部材である。ブラシ50は、長尺状の実質的な直方体(つまり四角柱)である。ブラシ50は、軸心Cに沿った断面の形状、すなわち、Y軸及びZ軸で規定される断面の形状が、Y軸長さよりもZ軸長さのほうが長い断面形状であるほうが好ましい。
【0033】
ブラシ50は、その長手方向が回転軸21の軸心Cと直交する方向(つまり回転軸21の回転の径方向。本実施の形態ではX軸方向)となるように配置されている。ブラシ50は、回転軸21の軸心Cと直交する方向に移動可能に配置されている。ブラシ50は、後述するブラシバネ60からの押圧力を受けて、整流子40と常に摺接するように取り付けられている。つまり、ブラシ50は、ブラシバネ60によって整流子40に押し付けられている。
【0034】
ブラシ50は、整流子40に接する第1端部である前端部51と、ブラシ50の長手方向において前端部51の反対側に位置する第2端部である後端部52とを有する。
【0035】
ブラシ50の前端部51は、ブラシ50の長手方向の一方の端部である。具体的には、ブラシ50の前端部51は、ブラシ50の長手方向における整流子40側(内側)の先端部である。前端部51は、整流子40が有する整流子セグメント41に接触する接触面として前端面を有する。ブラシ50の前端部51が含む前端面は、ブラシバネ60からの押圧力を受けて常に整流子セグメント41に接触する状態になっている。
【0036】
ブラシ50の後端部52は、ブラシ50の長手方向の他方の端部である。具体的には、ブラシ50の後端部52は、ブラシ50の長手方向における整流子40側とは反対側(外側)の先端部である。後端部52は、ブラシバネ60に接触する接触面として後端面を有する。ブラシ50の後端部52の後端面は、ブラシバネ60に常に接触している状態になっている。
【0037】
本実施の形態において、ブラシ50は、整流子40を挟むように一対設けられている。つまり、一対のブラシ50は、整流子40を間にして対向して配置されている。具体的には、一対のブラシ50は、回転軸21の軸心Cを通る面に対して対称となる位置に配置されている。一例として、一対のブラシ50は、ハの字のように、各々のブラシ50が移動する方向に延長した線が交差する位置に配置されていてもよい。
【0038】
ブラシバネ60は、ブラシ50を整流子40に押し付けている。具体的には、ブラシバネ60は、バネ弾性力(バネ復元力)によってブラシ50に押圧(バネ圧)を付与し、ブラシ50を整流子40に向けて付勢している。本実施の形態において、ブラシバネ60は、コイルバネである。具体的には、ブラシバネ60は、圧縮コイルバネである。
【0039】
ブラシバネ60は、ブラシ50の個数に応じて配置されている。本実施の形態では2つのブラシ50が配置されている。したがって、ブラシバネ60も2つ配置されている。
【0040】
ブラシ50及びブラシバネ60は、ブラシ箱70に収納されている。ブラシ箱70は、ブラシ50及びブラシバネ60を収納する筐体である。ブラシ箱70は、ブラシ50の長手方向に沿って長尺状である。ブラシ箱70の長さは、ブラシ50の長さよりも長い。なお、ブラシ箱70は、第1ブラケット81に固定されている。
【0041】
ブラシ箱70に収納されたブラシバネ60は、ブラシ50の後端部52に接している。具体的には、コイルバネであるブラシバネ60の伸縮方向の一方の端部がブラシ50の後端部52の後端面に接している。ブラシ箱70に収納されたブラシ50は、ブラシバネ60によって押し付けられることでブラシ箱70内を摺動する。したがって、ブラシ箱70とブラシ50との間には、ブラシ50がブラシ箱70内を摺動できるように適度な隙間が設けられているとよい。ブラシバネ60によって押し付けられたブラシ50は、ブラシ50の前端部51が摩耗するにつれて、ブラシ箱70内を整流子40に向かって移動する。
【0042】
なお、ブラシバネ60及びブラシ箱70の詳細な構造については後述する。
【0043】
第1ブラケット81は、第1軸受31を保持している。第1ブラケット81は、板状の蓋体である。第1ブラケット81は、第2ブラケット82の開口部を覆っている。第1ブラケット81には、回転軸21が貫通する貫通孔が設けられている。一例として、第1ブラケット81は、樹脂材料によって構成されているが、金属材料によって構成されていてもよい。
【0044】
第2ブラケット82は、第2軸受32を保持している。第2ブラケット82は、固定子10及び回転子20を収納する筐体(ケース)である。具体的には、第2ブラケット82は、有底円筒状のフレームである。一例として、第2ブラケット82は、アルミニウム又は鉄系材料等の金属材料によって構成されているが、樹脂材料によって構成されていてもよい。
【0045】
本実施の形態において、第1ブラケット81及び第2ブラケット82は、電動機1の外郭筐体を構成している。なお、第1ブラケット81及び第2ブラケット82で構成される外郭筐体には、固定子10及び回転子20だけではなく、整流子40、ブラシ50、ブラシバネ60及びブラシ箱70も収納されている。
【0046】
以上のように構成される電動機1では、ブラシ50に供給される電流が電機子電流(駆動電流)として整流子40を介して回転子20が有する巻線コイル22に流れる。これにより、回転子20に磁束が発生する。回転子20に生じた磁束と固定子10から生じる磁束との相互作用によって生成された磁気力が回転子20を回転させるトルクとなる。このとき、整流子セグメント41とブラシ50とが接する際の位置関係によって電流が流れる方向が切り替えられる。このように、電流が流れる方向が切り替えられることで、固定子10と回転子20との間に発生する磁力の反発力と吸引力とで一定方向の回転力が生成され、回転子20が回転軸21を中心として回転する。
【0047】
次に、本実施の形態に係る電動機1におけるブラシバネ60及びブラシ箱70の具体的な構造について、
図1を参照しつつ、
図2A~
図2D、
図3A及び
図3Bを用いて詳細に説明する。
図2Aは、実施の形態1に係る電動機1におけるブラシ箱70の斜視図である。
図2Bは、同ブラシ箱70の断面斜視図である。
図2Cは、同ブラシ箱70のXZ断面での断面図である。
図2Dは、同ブラシ箱70のXZ断面での断面図である。
図3Aは、同ブラシバネ60の斜視図である。
図3Bは、同ブラシバネ60の側面図である。
【0048】
図2A~
図2Dでは、ブラシ50及びブラシバネ60を収納した状態でのブラシ箱70が示されている。
図2A~
図2Dでは、ブラシ50により付勢されて縮んだ状態のブラシバネ60が示されている。
図3A及び
図3Bでは、応力が与えられておらず、縮んでいない状態のブラシバネ60が示されている。
【0049】
図1、
図2A~
図2Dに示すように、ブラシ箱70は、整流子40側(内側)の第1端部である前端部71と、整流子40側とは反対側(外側)の第2端部である後端部72とを有する。ブラシ箱70の前端部71は、長尺状のブラシ箱70の長手方向の一方の端部である。ブラシ箱70の後端部72は、ブラシ箱70の長手方向の他方の端部である。ブラシ箱70の後端部72の開口形状は、Y軸長さとZ軸長さが等しい、正方形である。
【0050】
ブラシ箱70は、ブラシ50を収納するブラシ収納部70aと、ブラシバネ60を収納するバネ収納部70bとを有する。ブラシ収納部70aは、ブラシ箱70における整流子40側(内側)の部分である。バネ収納部70bは、ブラシ箱70における整流子40側とは反対側(外側)の部分である。つまり、バネ収納部70bは、ブラシ収納部70aよりも、回転軸21の回転の径方向(X軸方向)における外側(後ろ側)に位置している。詳細は後述するが、ブラシ収納部70aの形状とバネ収納部70bの形状とは異なる。
【0051】
ブラシ箱70をブラシ50の長手方向を垂線とする平面(本実施の形態では、YZ断面)で切断したときの断面を横断面(「横断面」については、以下同様)とすると、ブラシ箱70は、この横断面の形状が矩形となるように4つの側板73で構成されている。
【0052】
具体的には、ブラシ箱70は、全体が角筒状に構成されている。ブラシ箱70は、4つの側板73として、第1側板73a、第2側板73b、第3側板73c及び第4側板73dを有する。第1側板73a及び第4側板73dは、回転軸21の軸心Cの方向(Z軸方向)において対向している。第1側板73aは、第1ブラケット81側に位置している。第4側板73dは、第2ブラケット82側に位置している。第2側板73b及び第3側板73cは、回転軸21の軸心Cと直交する方向(Y軸方向)において対向している。
【0053】
ブラシ箱70は、前端部71及び後端部72の各々に開口を有する。ブラシ箱70が有する前端部71の開口は、ブラシ50が出入りできる形状である。
【0054】
ブラシ箱70は、金属材料によって構成されている。例えば、ブラシ箱70は、鋼板等の金属板を所定形状に成形することにより作製される。この場合、4つの側板73は、金属板によって構成される。
【0055】
ブラシ収納部70aは、ブラシ箱70の長手方向において横断面の面積が一定である。つまり、ブラシ箱70の後端部72における横断面の面積は、バネ収納部70bでのブラシ箱70の後端部72とは異なる他の部分における横断面の面積と同じである。
【0056】
ブラシ収納部70aの横断面の形状は、矩形である。具体的には、ブラシ50の横断面の形状は、横方向(Y軸方向)の長さが縦方向(Z軸方向)の長さよりも短い長方形(縦長矩形)である。よって、ブラシ50が収納されるブラシ収納部70aの横断面の形状も、横方向(Y軸方向)の長さが縦方向(Z軸方向)の長さよりも短い長方形(縦長矩形)である。つまり、ブラシ50及びブラシ箱70の横断面では、横方向に延在する辺が短辺であり、縦方向に延在する辺が長辺である。
【0057】
バネ収納部70bの横断面の形状は、ブラシ収納部70aと同様に、矩形であるが、バネ収納部70bは、横断面の面積がブラシ収納部70aよりも小さい部分を有する。つまり、バネ収納部70bでは、矩形の横断面の面積が部分的に異なっている。バネ収納部70bは、ブラシ箱70の後端部72における横断面の面積がバネ収納部70bでのブラシ箱70の後端部72とは異なる他の部分における横断面の面積よりも小さくなるように構成されている。具体的には、バネ収納部70bでは、ブラシ箱70の後端部72での横断面の面積が最も小さくなっている。バネ収納部70bのブラシ収納部70aとの接続部分での横断面の面積は、ブラシ収納部70aの横断面の面積と同じである。したがって、ブラシ箱70の後端部72の開口面積は、ブラシ箱70の前端部71の開口面積よりも小さくなっている。
【0058】
具体的には、バネ収納部70bにおける側板73に傾斜部74を設けることで、バネ収納部70bでの横断面の面積を部分的に小さくしている。より具体的には、バネ収納部70bにおいて、4つの側板73のうちの少なくとも1つは、バネ収納部70bでのブラシ箱70の後端部72とは異なる他の部分からブラシ箱70の後端部72に向かって(つまり外側に向かって)バネ収納部70bの横断面の面積が漸次小さくなるように形成された傾斜部74を有する。傾斜部74は、側板73の後端部72が、対向する反対側の側板73に近づくように側板73を折り曲げることで形成されている。
【0059】
本実施の形態では4つの側板73のうちの2つに傾斜部74が設けられている。具体的には、第1側板73aに第1傾斜部74aが設けられている。第1側板73aに立設する第2側板73bに第2傾斜部74bが設けられている。
【0060】
したがって、傾斜部74が設けられた部分において、バネ収納部70bの横断面の短辺の長さ及びバネ収納部70bの横断面の長辺の長さは、いずれもブラシ収納部70aの横断面の短辺の長さよりも小さくなっている。
【0061】
なお、ブラシ箱70には、ブラシ箱70を第1ブラケット81に固定するための複数の突起75が形成されている。本実施の形態では、板状の3つの突起75は第4側板73dに立設するように形成されている。各突起75は、第2側板73b又は第3側板73cの外側に形成されており、また、回転軸21の軸心Cが延伸する方向に延在している。突起75を第1ブラケット81に嵌め込むことでブラシ箱70を第1ブラケット81に固定することができる。突起75は、第4側板73dと一体であり、例えば金属板の一部を折り曲げることで形成することができる。
【0062】
ブラシ箱70に収納されるブラシバネ60は、金属線材によって構成されたコイルバネである。ブラシバネ60は、
図2A~
図2Dに示すように縮んだ状態(圧縮した状態)でブラシ箱70のバネ収納部70bに配置される。
【0063】
図2A~
図2D及び
図3A及び
図3Bに示すように、ブラシバネ60は、ブラシ50の後端部52に接する第1端部である前端部61と、前端部61とは反対側の第2端部である後端部62とを有する。
【0064】
ブラシバネ60の素線の断面形状は、円形である。バネ収納部70bでのブラシ箱70の後端部72とは異なる他の部分におけるブラシバネ60のコイル径は、ブラシ箱70の後端部72におけるブラシバネ60のコイル径よりも大きい。具体的には、ブラシバネ60のコイル径は、一方の端部から他方の端部に向かって漸次大きくなっている。つまり、ブラシバネ60は、全体としてラッパ形状となるように構成されている。なお、ブラシバネ60の前端部61及び後端部62のコイル径は、ブラシ50の後端部52の後端面の高さ及び幅よりも小さくなっている。
【0065】
ブラシバネ60の全体のコイル径は、後端部62から前端部61に向かって漸次大きくなっている。つまり、ブラシバネ60のコイル径は、ブラシ50に向かって漸次大きくなっている。したがって、
図3Bに示すように、ブラシバネ60の前端部61のコイル径φ1は、ブラシバネ60の後端部62のコイル径φ2よりも大きい。
【0066】
ブラシバネ60は、伸縮方向における両端部の一方に、2巻き以上に密巻した座巻き部60a(密巻部)を有する。座巻き部60aは、ブラシバネ60の後端部62に設けられている。つまり、ブラシバネ60のブラシ50側とは反対側の部分に座巻き部60aが設けられている。一方、ブラシバネ60のブラシ50側には、座巻き部60aが設けられていない。
【0067】
以上のように、本実施の形態の電動機1は、回転軸21を有する回転子20と、回転軸21に取り付けられた整流子40と、整流子40に接する第1端部51及び第1端部51とは反対側に位置する第2端部52を有する長尺状のブラシ50と、第2端部52に接し、ブラシ50を整流子40に押し付けるブラシバネ60に相当するコイルバネと、ブラシ50を収納するブラシ収納部70a及びコイルバネを収納するバネ収納部70bを有するブラシ箱70と、を備え、ブラシ箱70をブラシ50の長手方向を垂線とする平面で切断したときの断面を横断面とすると、バネ収納部70bは、ブラシ箱70の整流子側とは反対側の端部である後端部52における横断面の面積がバネ収納部での後端部52とは異なる他の部分における横断面の面積よりも小さくなるように構成されており、他の部分におけるコイルバネのコイル径は、後端部52におけるコイルバネのコイル径よりも大きい。
【0068】
これにより、横断面の面積が後端部52よりも大きい部分を含むバネ収納部70bを有するブラシ箱を備える電動機1であっても、コイルバネによって所定の荷重をブラシ50に付与することができる。
【0069】
次に、本実施の形態に係る電動機1の特徴について、本開示に至った経緯を含めて説明する。
【0070】
ブラシ箱にブラシとブラシバネであるコイルバネとが収納されている電動機において、ブラシの通電電流を大きくするためにブラシの横断面での幅又は厚みを大きくしてブラシの横断面の外形のサイズを大きくすると、ブラシ箱におけるブラシ収納部の横断面の内形のサイズも大きくなり、ブラシ箱が大型化する。
【0071】
この場合、ブラシバネによるブラシ端面の接圧を維持するために、ブラシの横断面の外形のサイズに合わせてコイルバネのコイル径も大きくできればよい。しかし、バネ収納部におけるブラシ箱の後端部の開口サイズ(横断面の面積)を大きくすると電動機の外形サイズが大きくなる等の不具合が生じることがある。このため、バネ収納部におけるブラシ箱の後端部の開口サイズを大きくすることができず、コイルバネのコイル径を大きくすることができない場合がある。
【0072】
図4は、比較例の電動機において、ブラシ箱に収納されるブラシバネの状態を示す図である。例えば、
図4に示されるブラシ箱70のように、後端部72の横断面の面積が前端部71の横断面の面積よりも小さくなってしまう。なお、
図4に示されるブラシ箱70は、本実施の形態における電動機1に用いられるブラシ箱70と同じである。
【0073】
この場合、ブラシ箱70が有するバネ収納部70bにおけるブラシ収納部70a側の部分に、ブラシ箱70の後端部72よりも横断面の内形のサイズが大きい箇所が存在することになる。しかも、コイルバネであるブラシバネ60Xのコイル径は、バネ伸縮方向において一定であるので、ブラシ箱70のバネ収納部70bにおけるブラシ収納部70a側の部分の内形のサイズよりも小さくなってしまう。
【0074】
これにより、ブラシ箱70のバネ収納部70bにおけるブラシ収納部70a側の部分(ブラシ50とブラシバネ60Xとが接触する部分の近傍)に、無駄なスペースSが生じることになる。
【0075】
この結果、ブラシバネ60X及びブラシ50を収納したブラシ箱70を電動機1に組み込んだときに、ブラシバネ60Xは、ブラシ箱70が有するバネ収納部70b内で蛇行したり、折れ曲がったり、ブラシバネ60Xのコイル端面の位置がブラシ50の端面で偏ったりする等して不安定な状態になってしまう。このため、ブラシバネ60Xの前端部61の端面がブラシ50の後端部52の端面に正常に接触しなくなる。例えばブラシバネ60Xのコイル端面がブラシ50の端面に接圧できない状態が発生する場合がある。これにより、ブラシバネ60Xによって所定の荷重(押圧)をブラシ50に付与することができなくなるという問題がある。
【0076】
そこで、本願発明者らが鋭意検討した結果、コイルバネであるブラシバネの形状を工夫することで、上記問題を解決できることを見出した。つまり、横断面の面積が後端部よりも大きい部分を含むバネ収納部を有するブラシ箱を備える電動機であっても、コイルバネの形状を工夫することで、コイルバネによって所定の荷重をブラシに付与することができることを見出した。
【0077】
具体的には、本実施の形態に係る電動機1では、バネ収納部70bの当該他の部分におけるブラシバネ60のコイル径は、ブラシ箱70の後端部72におけるブラシバネ60のコイル径よりも大きくなっている。本実施の形態において、コイルバネであるブラシバネ60は全体がラッパ形状であり、ブラシバネ60のコイル径は、ブラシ50に向かって漸次大きくなっている。
【0078】
この構成により、本実施の形態におけるブラシ箱70のように、ブラシ箱70のバネ収納部70bがブラシ箱70の後端部72における横断面の面積がバネ収納部70bでの後端部72とは異なる他の部分における横断面の面積よりも小さくなるように構成されていても、
図4のブラシバネ60Xを用いる場合と比べて、ブラシバネ60の前端部61のコイル面とブラシ50の後端部52の後端面との接触面積を大きくすることができる。
【0079】
これにより、ブラシバネ60の前端部61及び後端部62のコイル径がブラシ50の後端部52の後端面の高さ及び幅よりも小さい場合であっても、ブラシバネ60の前端部61のコイル端面がブラシ50の後端部52の後端面に安定した接圧を付与することができる。また、ブラシバネ60がブラシ箱70のバネ収納部70b内で蛇行する等して不安定な状態になってしまうことを抑制できる。したがって、ブラシバネ60によって所定の荷重をブラシ50に付与することができる。
【0080】
この場合、ブラシバネ60がブラシ50の後端部52に接する部分において、ブラシバネ60のコイル径がブラシ50の横断面の短辺の長さの90%以上であるとよく、好ましくは、95%以上であるとよい。
【0081】
これにより、ブラシバネ60によってさらに安定した荷重をブラシ50に付与することができる。
【0082】
また、本実施の形態に係る電動機1において、ブラシバネ60の前端部61に座巻き部60aが設けられている。
【0083】
このように、ブラシ50の後端部52と接するブラシバネ60の前端部61に座巻き部60aが設けられていることで、ブラシバネ60の折れ曲がる等の不具合を抑制することができる。したがって、ブラシバネ60によって一層安定した荷重をブラシ50に付与することができる。
【0084】
しかも、本実施の形態では、ブラシバネ60の後端部62に座巻き部60aが設けられている一方で、ブラシバネ60の前端部61に座巻き部60aが設けられていない。つまり、ブラシバネ60は、伸縮方向における両端部の一方に座巻き部60aを有する。
【0085】
この構成により、ブラシバネ60の向きが間違った状態でブラシバネ60がブラシ箱70に収納されてしまうことを防止できる。つまり、本実施の形態における電動機1では、ブラシバネ60は、コイル径の大きい方の端部(前端部61)をブラシ50側となるように配置する必要があり、逆向きの状態でブラシバネ60をブラシ箱70に収納すると、安定した荷重をブラシ50に付与することができなくなる。そこで、ブラシ箱70にブラシバネ60を収納したときに、ブラシ箱70の側面に設けられたスリットを介してブラシバネ60の座巻き部60aの位置を確認することで、ブラシバネ60が正しい向きでブラシ箱70に収納されているか否かを確認することができる。
【0086】
なお、本実施の形態におけるブラシバネ60では、前端部61及び後端部62のうち後端部62のみに座巻き部60aを設けたが、これに限るものではない。
図5Aは、実施の形態1の変形例に係る電動機におけるブラシバネの斜視図である。
図5Bは、実施の形態1の変形例に係る電動機におけるブラシバネの側面図である。例えば、
図5A及び
図5Bに示されるブラシバネ60Aのように、前端部61及び後端部62のうち前端部61のみに座巻き部60aを設けてもよい。この構成でも、座巻き部60aの位置を確認することで、ブラシバネ60が正しい向きでブラシ箱70に収納されているか否かを確認することができる。
【0087】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について、
図6A~
図6D、
図7A及び
図7Bを用いて説明する。
図6Aは、実施の形態2に係る電動機におけるブラシ箱70Bの斜視図である。
図6Bは、同ブラシ箱70Bの断面斜視図である。
図6Cは、同ブラシ箱70BのXY断面での断面図である。
図6Dは、同ブラシ箱70BのXZ断面での断面図である。
図7Aは、同ブラシバネ60Bの斜視図である。
図7Bは、同ブラシバネ60Bの側面図である。
【0088】
図6A~
図6Dでは、ブラシ50及びブラシバネ60Bを収納した状態でのブラシ箱70Bが示されている。
図6A~
図6Dでは、ブラシ50により付勢されて縮んだ状態のブラシバネ60Bが示されている。
図6C及び
図6Dは、
図6AのVI-VI線に沿って切断したときの断面を示している。
図7A及び
図7Bでは、応力が与えられておらず縮んでいない状態のブラシバネ60Bが示されている。
【0089】
本実施の形態における電動機と上記実施の形態1に係る電動機1とが異なる点は、ブラシバネ60Bの形状及びブラシ箱70Bの構造である。
【0090】
図6A~
図6Dに示すように、本実施の形態におけるブラシ箱70Bは、上記実施の形態1におけるブラシ箱70と同様に、横断面の形状が矩形となるように4つの側板73で構成されている。しかし、ブラシ箱70Bと上記実施の形態1におけるブラシ箱70とは、後端部72の開口形状が異なる。具体的には、上記実施の形態1におけるブラシ箱70では、後端部72の開口形状が正方形であった。しかし、ブラシ箱70Bでは、後端部72の開口形状が横長矩形である。つまり、後端部72の開口形状は、横方向(Y軸方向)の長さが縦方向(Z軸方向)の長さよりも長い、横長矩形となっている。
【0091】
具体的には、上記実施の形態1におけるブラシ箱70では、4つの側板73のうち第1側板73a及び第2側板73bの各々に傾斜部74が設けられていた。しかし、ブラシ箱70Bでは、4つの側板73のうち第1側板73aのみに傾斜部74(第1傾斜部74a)が設けられている。したがって、本実施の形態では、第2側板73bBには、傾斜部が設けられていない。
【0092】
なお、ブラシ箱70Bは、横断面の形状が異なることと第2側板73bBに傾斜部74が設けられていないこと以外は、上記実施の形態1におけるブラシ箱70と同じ構造である。
【0093】
また、本実施の形態におけるブラシバネ60Bは、上記実施の形態1におけるブラシバネ60と同様に圧縮コイルバネである。しかし、
図6A~
図6D及び
図7A及び
図7Bに示すように、ブラシバネ60Bのコイル開口形状は、上記実施の形態1におけるブラシバネ60と異なり、長尺状である。
【0094】
具体的には、本実施の形態におけるブラシバネ60Bの素線の断面形状は、長円である。より具体的には、ブラシバネ60Bの素線の断面形状は、レーストラック形状であり、対向する一対のストレート部と、対向する一対の円弧部とを有する。なお、本実施の形態において、ブラシバネ60Bの横断面の形状及び大きさは、バネ伸縮方向において、一定である。
【0095】
以上、本実施の形態に係る電動機では、ブラシバネ60Bのコイル開口形状は、長尺状である。具体的には、ブラシバネ60Bの素線の断面形状は、長円である。
【0096】
この構成により、ブラシ箱70Bのバネ収納部70bがブラシ箱70Bの後端部72における横断面の面積がバネ収納部70bでの後端部72とは異なる他の部分における横断面の面積よりも小さくなるように構成されていても、
図4のブラシバネ60Xを用いる場合と比べて、ブラシバネ60Bの前端部61のコイル面とブラシ50Bの後端部52の後端面との接触面積を大きくすることができる。
【0097】
これにより、ブラシバネ60Bの前端部61及び後端部62のコイル径がブラシ50Bの後端部52の後端面の高さ及び幅よりも小さい場合であっても、ブラシバネ60Bがブラシ箱70Bのバネ収納部70b内で蛇行する等して不安定な状態になってしまうことを抑制できる。したがって、ブラシバネ60Bによって所定の荷重をブラシ50に付与することができる。
【0098】
この場合、本実施の形態においても、上記実施の形態1と同様に、ブラシバネ60Bがブラシ50Bの後端部52に接する部分において、ブラシバネ60Bの楕円を成す長径がブラシ50Bの横断面の短辺の長さの90%以上であるとよく、好ましくは、95%以上であるとよい。
【0099】
これにより、ブラシバネ60Bによってさらに安定した荷重をブラシ50Bに付与することができる。
【0100】
また、本実施の形態に係る電動機において、ブラシバネ60Bの素線の断面形状は、レーストラック形状である。
【0101】
この構成により、ブラシバネ60Bの前端部61のコイル部分にストレート部が存在する。したがって、ブラシバネ60Bによってさらに安定した荷重をブラシ50Bに付与することができる。
【0102】
なお、本実施の形態において、ブラシバネ60Bの素線の断面形状は、レーストラック形状としたが、これに限らない。例えば、ブラシバネ60Bの素線の断面形状は、楕円形等のその他の長円形状であってもよい。
【0103】
また、本実施の形態におけるブラシバネ60Bは、バネ伸縮方向において横断面の形状及び大きさは一定であるので、左右の方向性がない。したがって、ブラシバネ60Bには、上記実施の形態1におけるブラシバネ60のように座巻き部60aを設ける必要はない。しかし、本実施の形態でも、ブラシバネ60Bに座巻き部60aを設けてもよい。
【0104】
以上のように、本実施の形態の電動機は、回転軸21を有する回転子20と、回転軸21に取り付けられた整流子40と、整流子40に接する第1端部61及び第1端部61とは反対側に位置する第2端部62を有するブラシ50Bと、第2端部62に接し、ブラシ50Bを整流子40に押し付けるブラシバネ60Bに相当するコイルバネと、ブラシ50Bを収納するブラシ収納部70a及びコイルバネを収納するバネ収納部70bを有するブラシ箱70Bと、を備え、ブラシ箱70Bをブラシ50Bの長手方向を垂線とする平面で切断したときの断面を横断面とすると、バネ収納部70bは、ブラシ箱70Bの整流子側とは反対側の端部である後端部62における横断面の面積がバネ収納部70bでの後端部62とは異なる他の部分における横断面の面積よりも小さくなるように構成されており、コイルバネのコイル開口形状は、長尺状である。
【0105】
これにより、ブラシバネ60Bの前端部61及び後端部62のコイル径がブラシ50Bの後端部52の後端面の高さ及び幅よりも小さい場合であっても、ブラシバネ60Bがブラシ箱70Bのバネ収納部70b内で蛇行する等して不安定な状態になってしまうことを抑制できる。したがって、ブラシバネ60Bによって所定の荷重をブラシ50に付与することができる。
【0106】
(変形例)
以上、本開示に係る電動機について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0107】
例えば、上記実施の形態1では、ブラシ50及びブラシ箱70の横断面の形状を横長矩形としたが、これに限らない。具体的には、上記実施の形態1において、ブラシ50及びブラシ箱70の横断面の形状は、正方形又は縦長矩形等であってもよい。
【0108】
また、ブラシ収納部70a及びバネ収納部70bの横断面の形状は、正方形であってもよい。
【0109】
上記実施の形態2では、ブラシ50B及びブラシ箱70Bの横断面の形状を正方形としたが、これに限らない。具体的には、上記実施の形態2において、ブラシ50B及びブラシ箱70Bの横断面の形状は、横長矩形又は縦長矩形等であってもよい。
【0110】
上記実施の形態1、2において、固定子10は、磁石11によって構成されていたが、これに限らない。例えば、固定子10は、固定子鉄心(ステータコア)と固定子鉄心に巻回された巻線コイルとによって構成されていてもよい。
【0111】
上記実施の形態1、2において、回転子20は、コアを有していたが、これに限らない。つまり、上記実施の形態1、2における電動機1は、コアを有さないコアレスモータに適用することもできる。
【0112】
上記実施の形態1、2において、電動機は、自動車に用いられる場合について説明したが、これに限らない。例えば、上記実施の形態1、2における電動機は、電気掃除機又はエアタオル等に搭載される電動送風機等の家庭用電気機器に用いてもよいし、自動車以外の他の産業用機器に用いてもよい。
【0113】
その他、上記実施の形態1、2に対して当業者が思い付く各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態1、2における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示の技術は、自動車等の電装分野及び家庭用電気機器分野の製品をはじめとして、電動機が搭載される種々の製品に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 電動機
10 固定子
11 磁石
20 回転子
21 回転軸
21a 第1部位
21b 第2部位
22 巻線コイル
23 回転子鉄心
24 インシュレータ
31 第1軸受
32 第2軸受
40 整流子
41 整流子セグメント
50、50B ブラシ
51、61、71 前端部(第1端部)
52、62、72 後端部(第2端部)
60、60A、60B、60X ブラシバネ
60a 座巻き部
70、70B ブラシ箱
70a ブラシ収納部
70b バネ収納部
73 側板
73a 第1側板
73b、73bB 第2側板
73c 第3側板
73d 第4側板
74 傾斜部
74a 第1傾斜部
74b 第2傾斜部
75 突起
81 第1ブラケット
82 第2ブラケット