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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】モータ駆動装置およびこれを用いた冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/02 20060101AFI20240823BHJP
   F25D 19/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
F04B49/02 331B
F25D19/00 540A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021554256
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038070
(87)【国際公開番号】W WO2021085066
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019196072
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 義典
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 好正
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-214486(JP,A)
【文献】特開平01-249967(JP,A)
【文献】特開2005-106454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/02
F25D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシプロ型圧縮機と、
前記圧縮機が圧縮動作を行う駆動源となるブラシレスDCモータと、を備え、
起動前に前記圧縮機のピストンの下死点を探索し移動させる下死点探索部と、前記ピストンを下死点から起動し、上死点に到達するまでの時間が、起動時に発生する振動の周期と一致するように前記ブラシレスDCモータの起動トルクを決定するトルク決定部と、を有し、前記圧縮機の運転開始時の振動と、負荷トルクの減少による振動とが、打ち消しあうように、前記下死点探索部により前記ピストンを下死点に移動させたのち、前記ブラシレスDCモータを回転開始位置に移動させ、前記トルク決定部は、前記下死点探索部で決定される回転開始位置を下死点とし、起動トルクを決定して、
前記ブラシレスDCモータの起動トルクと回転開始位置を決定する、
モータ駆動装置。
【請求項2】
前記圧縮機は、上死点を基準としてみた場合、正転と逆転ともに、非圧縮ステップであり、下死点を基準としてみた場合、正転と逆転ともに、圧縮ステップを含み、
前記下死点探索部は、前記ブラシレスDCモータを正転と逆転をさせるステップを有する、
請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のモータ駆動装置を備える、
冷蔵庫。
【請求項4】
前記圧縮機を、筐体上部に備える、
請求項3に記載の冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機のブラシレスDCモータを駆動するモータ駆動装置およびこれを用いた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、従来の圧縮機のブラシレスDCモータを駆動する冷蔵庫用のモータ駆動装置を開示する。モータ駆動装置で駆動する圧縮機を搭載した冷蔵庫などの冷凍装置は、冷却運転停止時、冷凍サイクルを高圧側と低圧側とにサイクル上分離して、冷媒の流れ込みを防いで、省エネルギ化を図っている。
【0003】
しかしながら、上記構成の場合、圧縮機の内部で、吸入圧力と吐出圧力とに大きな差が残る。そのため、圧縮機の起動時、圧縮ステップを乗り越えるために大きなエネルギが必要となる。
【0004】
そこで、従来の圧縮機駆動用のモータ駆動装置は、起動前の圧縮機のピストンの位置を、上死点から下死点の間の、上死点隣(あらかじめ決められた位置中で、上死点ではない上死点に最も近づく位置に相当)まで移動させる。そして、上死点隣の位置から、モータ駆動装置を起動させる。これにより、圧縮機のピストンに大きな加速を与え、エネルギを蓄えて、圧縮ステップを乗り越え、圧縮機の起動を行うように構成される。
【0005】
以下、上記特許文献1に記載の従来のモータ駆動装置について、図6を用いて、説明する。
【0006】
図6は、上記特許文献1に記載の従来のモータ駆動装置のブロック図である。
【0007】
図6に示すように、従来のモータ駆動装置は、ブラシレスDCモータ201と、圧縮機203と、制御部204と、インバータ205などから構成される。圧縮機203は、ブラシレスDCモータ201、およびブラシレスDCモータ201のロータに連結されたピストン202を有する。制御部204は、モータを下死点に移動させる初期整列段階と、吸入ステップ内の上死点隣に起動位置を移動させる強制整列段階と、ブラシレスDCモータ201の回転子を加速させる加速段階などの制御動作を含む。インバータ205は、制御部204からの駆動信号に基づいて、ブラシレスDCモータ201に電力を供給する。
【0008】
上記構成のモータ駆動装置は、圧縮機203の停止時において、ピストン202が圧縮ステップ手前で停止する確率が高く、下死点付近にピストン202が停止しやすい。そのため、制御部204は、初期整列段階において、ピストン202が下死点の位相となる信号をインバータ205に送る。そして、インバータ205は、電流をブラシレスDCモータ201のステータに流して、ブラシレスDCモータ201のロータを回転させる。これにより、ピストン202が、下死点に移動する。
【0009】
つぎに、制御部204は、強制整列段階において、ピストン202の下死点の位相から、逆転方向に、順次切り替わるような信号を、インバータ205に送る。これにより、ピストン202の位置を、吸入ステップ側の上死点隣まで移動させる。
【0010】
そして、制御部204は、加速段階において、ブラシレスDCモータ201を起動して、加速させるための信号をインバータ205に送る。これにより、ブラシレスDCモータ201が回転する。つまり、ピストン202を上死点近傍から加速させるため、圧縮ステップでの速度が大きくなる。その結果、圧縮ステップを乗り越え、圧縮機駆動用のモータ駆動装置の容易な起動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-107523号公報
【発明の概要】
【0012】
本開示は、吸入圧力と吐出圧力との差がある負荷トルクの変動が大きな圧縮機でも、安価で、かつ、振動を抑制しながら安定した起動が可能なモータ駆動装置を提供する。
【0013】
本開示のモータ駆動装置は、圧縮機と、圧縮機が圧縮動作を行う駆動源となるブラシレスDCモータを備える。そして、モータ駆動装置は、圧縮機の運転開始時の振動と、負荷トルク減少による振動とが、打ち消しあうようにブラシレスDCモータの起動トルクと回転開始位置を決定するように構成される。
【0014】
本開示のモータ駆動装置は、運転開始時に発生する振動振幅のピークと、負荷トルクの減少による急加速によって発生する振動振幅のピークと、を打ち消すように構成される。そのため、上記それぞれの振動振幅のピークが単独で発生する場合と比べて、振動振幅のピークが打ち消されて、小さくなる。これにより、圧縮機から発生する振動を小さく抑制して、安価で、安定して圧縮機を起動できるモータ駆動装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施の形態におけるモータ駆動装置のブロック図である。
図2A図2Aは、同実施の形態において、被駆動体となる圧縮機のピストンの下死点における回転子との関係を表す略式図である。
図2B図2Bは、同実施の形態において、被駆動体となる圧縮機のピストンが下死点から正転方向に90度回転した状態のピストンと回転子との関係を表す略式図である。
図2C図2Cは、同実施の形態において、被駆動体となる圧縮機のピストンの上死点における回転子との関係を表す略式図である。
図2D図2Dは、同実施の形態において、被駆動体となる圧縮機のピストンが上死点から正転方向に90度回転した状態のピストンと回転子との関係を表す略式図である。
図3A図3Aは、同実施の形態において、運転開始時に発生する被駆動体としての圧縮機の振動を表す波形図である。
図3B図3Bは、同実施の形態において、運転開始から最初に圧縮ステップを乗り越えた際に発生する被駆動体としての圧縮機の振動を表す波形図である。
図3C図3Cは、同実施の形態において、運転開始時の振動と圧縮ステップを乗り越えた際の振動を合成した被駆動体としての圧縮機の振動を表す波形図である。
図4A図4Aは、同実施の形態における上死点到達までの時間が運転開始時の振動の周期より30度位相がずれた際の、運転開始時に発生する被駆動体としての圧縮機の振動を表す波形図である。
図4B図4Bは、同実施の形態における上死点到達までの時間が運転開始時の振動の周期より30度位相がずれた際の、運転開始時から最初に圧縮ステップを乗り越える際に発生する被駆動体としての圧縮機の振動を表す波形図である。
図4C図4Cは、同実施の形態における上死点到達までの時間が運転開始時の振動の周期より30度位相がずれた際の、運転開始時と圧縮ステップを乗り越える際に被駆動体としての圧縮機に発生する合成の振動を表す波形図である。
図5図5は、同実施の形態における下死点探索部が下死点を探索するフローチャートである。
図6図6は、従来のモータ駆動装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、特許文献1に記載されたモータ駆動装置があった。モータ駆動装置は、圧縮機の吸入圧力と吐出圧力とに差があるため、負荷トルクの変動が大きく、振動を抑制しながら、安定して起動することが困難であった。すなわち、特許文献1の構成の場合、圧縮ステップを乗り越える速度は、十分に出るが、圧縮ステップを乗り越え、吸入ステップになった際に、急加速するため、振動が発生しやすい。また、モータ駆動装置は、圧縮機の停止時において、ピストンが下死点付近に停止することを前提に、圧縮機に電圧を印加する。これにより、ピストンが下死点へ移動される。そのため、ブラシレスDCモータの極数が2極以外の構成の場合、ピストンが上死点付近に停止した場合、想定したピストンの位置から円滑に起動できず、振動の発生や起動不良などが発生する、という課題があった。発明者らは、上記課題を見出し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0017】
つまり、本開示は、負荷トルクの変動が大きな圧縮機でも、振動を抑制しながら、安定して起動できるモータ駆動装置を提供する。
【0018】
以下、図面を参照しながら、実施の形態、この場合は冷蔵庫に搭載した圧縮機のモータ駆動装置を例に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は、省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0019】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0020】
(実施の形態)
以下、本実施の形態のモータ駆動装置について、項分けして、説明する。
【0021】
[1-1.構成]
まず、本実施の形態のモータ駆動装置30の構成について、図1から図2Dを参照しながら、説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態におけるモータ駆動装置30のブロック図である。図2Aから図2Dは、同実施の形態の被駆動体となる圧縮機17のピストン17bと回転子5aとの位置関係を表す略式図である。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態のモータ駆動装置30は、交流電源1に接続され、ブラシレスDCモータ5を駆動する。ブラシレスDCモータ5の回転子5aは、図2Aから図2Dに示すように、クランクシャフト17a、ピストン17bおよびシリンダ17cなどと、レシプロ型の圧縮機17を構成する。圧縮機17は、本実施の形態では、冷蔵庫22に搭載され、冷凍サイクルの一部を構成する。
【0024】
交流電源1は、一般的な商用電源で、日本においては、実効値100Vの50Hzまたは60Hzの電源である。
【0025】
以下、モータ駆動装置30の構成について、具体的に、説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態のモータ駆動装置30は、整流回路2、平滑部3、インバータ4、位置検出部6、速度検出部7、電圧検出部8、ドライブ部9、出力決定部10、下死点探索部11、トルク決定部12などから構成される。
【0027】
整流回路2は、交流電源1を入力として、入力される交流電力を、直流電力に整流する。整流回路2は、ブリッジ接続された4個の整流ダイオード2a、2b、2c、2dで構成される。
【0028】
平滑部3は、整流回路2の出力側に接続され、整流回路2の出力を平滑する。平滑部3は、平滑コンデンサ3eと、リアクタ3fなどから構成される。平滑部3からの出力は、インバータ4に入力される。
【0029】
なお、リアクタ3fは、交流電源1と平滑コンデンサ3eとの間に挿入されるため、整流ダイオード2a~2dの前後のどちらに設けてもよい。また、リアクタ3fは、高周波除去部を構成するコモンモードフィルタが回路に設けられる場合、高周波除去部のリアクタンス成分との合成成分を考慮して構成することが望ましい。
【0030】
インバータ4は、平滑部3からの入力される電圧に、交流電源1の電源周期の2倍周期で大きなリプル成分を含んだ直流電力を、順次切り替えて、3相の交流電力に変換する。インバータ4は、6個のスイッチング素子4a、4b、4c、4d、4e、4fを、3相のブリッジ接続により構成される。このとき、6個の還流電流用ダイオード4g、4h、4i、4j、4k、4lが、それぞれのスイッチング素子4a~4fに、逆方向に接続される。
【0031】
なお、上記ブラシレスDCモータ5は、永久磁石を有する回転子5aと、3相巻線を有する固定子5bなどから構成される。そして、インバータ4により作られた3相交流電流は、ブラシレスDCモータ5の固定子5bの3相巻線に供給される。これにより、ブラシレスDCモータ5の回転子5aが回転する。
【0032】
位置検出部6は、固定子5bの3相巻線に発生する誘起電圧、ならびに、固定子5bの3相巻線に流れる電流および印加電圧などから、ブラシレスDCモータ5の固定子5bの磁極位置を検出する。
【0033】
本実施の形態では、位置検出部6は、ブラシレスDCモータ5の端子電圧を取得し、ブラシレスDCモータ5の回転子5aの磁極の相対位置を検出する。具体的には、位置検出部6は、固定子5bの3相巻線に発生する誘起電圧に基づいて、回転子5aの相対的な回転位置を検出する。さらに、位置検出部6は、誘起電圧と、基準となる電圧とを比較し、ゼロクロスを検出する。なお、誘起電圧のゼロクロスの基準となる電圧は、3相分の端子電圧から仮想中点の電圧を作り、その電圧としてもよい。また、直流母線電圧を取得し、その電圧を、誘起電圧のゼロクロスの基準となる電圧としてもよい。本実施の形態では、仮想中点の電圧を、誘起電圧のゼロクロスの基準となる電圧とする。
【0034】
なお、本実施の形態では、位置検出部6は、ブラシレスDCモータ5の固定子5bの磁極の相対位置を、誘起電圧で検出する方式を例に説明しているが、これに限られない。例えば、ブラシレスDCモータ5に流れる電流から、磁極の相対的な位置を検出してもよい。この場合、電流は、インバータ4の直流母線に配されたシャント抵抗に生じる電圧を検出し、シャント抵抗の抵抗値から、直流母線に流れる電流を算出し、さらに、モータへの通電状態から各相に流れる電流を分離し、検出する方式でもよい。また、3相のそれぞれの電流をセンサーやシャント抵抗などを配して、個別に電流を検出する方式でもよい。しかしながら、上記電流を検出する方法を比較した場合、直流母線の電流値から検出する方式は、安価な構成となるが、各相の電流を分離するために、波形にひずみが生じる場合がある。そのため、回転子5aの磁極の相対位置を検出する場合、電流から位置を推定する方法よりも、誘起電圧で検出する方法が、より好ましい。なぜなら、誘起電圧から検出する方式は、計算量が少なく、構成が簡単で、より安価に実現できるからである。また、3相それぞれの電流を個別に検出する方式は、回路部品が多くコストが高くなり、誘起電圧を検出する方式の方が安価に構成することができる。
【0035】
速度検出部7は、位置検出部6で検出した磁極の位置情報から、ブラシレスDCモータ5の、現在の駆動速度を計算する。具体的には、本実施の形態では、速度検出部7は、誘起電圧のゼロクロスの検出からの時間を測定し、測定した時間から、現在の速度の計算を行う。これにより、速度検出部7は、ブラシレスDCモータ5の駆動速度を計算する。
【0036】
電圧検出部8は、インバータ4の直流母線間の電圧を検出する。一般的には、まず、インバータ4の直流母線間を抵抗で分圧し、検出する電圧を140V程度から5V以下の、マイコンで扱える範囲の電圧に分圧する。そして、分圧により検出した電圧から、マイコンで逆算し、元の直流母線間の電圧を算出する。なお、本実施の形態では、例えば、電圧を100分の1に分圧した値を用いる。
【0037】
下死点探索部11では、外部から入力される目標速度が、0(ゼロ)から0(ゼロ)以外の値に変化した時に、ブラシレスDCモータ5を駆動し、圧縮機17のピストン17bの下死点を探索する。具体的には、下死点探索部11は、下死点を探索させるために、予め決められたパターンの駆動波形をブラシレスDCモータ5に出力し、ピストン17bを下死点近傍まで移動させる。つまり、下死点に相当する通電のパターンを、ブラシレスDCモータ5に出力し、ピストン17bを下死点へと移動させる。そして、一旦、ピストン17bを下死点へ移動させた後、下死点探索部11は、起動開始の位置までピストン17bを移動させるパターンを、ブラシレスDCモータ5に出力する。なお、本実施の形態においては、起動開始の位置を下死点とするため、下死点移動後の起動位置までピストン17bを移動させるステップを、特に、設ける必要はない。そして、下死点探索部11は、次に目標速度が0(ゼロ)から0(ゼロ)以外に変化するまで、ブラシレスDCモータ5への出力を停止する。
【0038】
トルク決定部12は、外部から入力される目標速度が、0(ゼロ)から0(ゼロ)以外に変化した際に、まず、下死点探索部11で圧縮機17のピストン17bの下死点を探索する際に必要なトルクを出力する。なお、下死点方向への移動は、ピストン17bが圧縮の仕事を行わないため、負荷条件によって、ほとんど影響されない。そのため、下死点方向への移動に必要なトルクは、運転開始のトルクに比べて、小さく、一定のトルクとなる。そして、トルク決定部12は、最後に、ピストン17bを下死点に移動させる際において、下死点を探索するよりも大きなトルクとなるように、ブラシレスDCモータ5へ出力する。さらに、トルク決定部12は、下死点探索後において、圧縮機17のピストン17bを起動位置まで移動させる時間があれば、その期間に必要なトルクを、ブラシレスDCモータ5へ出力する。つまり、本実施の形態では、モータ駆動装置30は、ピストン17bを下死点から起動するように制御する。そのため、トルク決定部12は、下死点への出力の時間が終了した際に、下死点からの運転開始に必要なトルク(起動トルクに相当)を決定する。このとき、トルク決定部12は、ピストン17bを下死点から起動し、上死点に到達するまでの時間が、起動時に発生する振動の周期と一致するように決定した、トルクを出力する。
【0039】
さらに、トルク決定部12は、下死点探索部11からの出力が停止する時間が経過したのちに、通常の運転を行うためのトルクも決定する。その際、トルクは、速度検出部7から入力される現在のブラシレスDCモータ5の速度と、外部から入力される目標速度とを比較して、決定される。つまり、目標速度に対して、現在の速度が不足していれば、出力するトルクを上昇させる。一方、目標速度に対して、現在の速度が上回っていれば、出力するトルクを減少させる。これにより、ブラシレスDCモータ5の速度を、目標速度に到達させる。
【0040】
出力決定部10は、トルク決定部12で決定されたトルクからブラシレスDCモータ5のトルク定数、誘起電圧定数、および抵抗値などから、印加電圧を決定する。そして、出力決定部10は、決定した印加電圧と、電圧検出部8で検出された直流母線間の電圧に基づいて、インバータ4を駆動する、PWMデューティ幅を計算する。
【0041】
また、出力決定部10は、位置検出部6および速度検出部7からの情報、または下死点探索部11からの出力に基づいて、3相のブラシレスDCモータ5の、どの相に通電するかを決定する。このとき、下死点探索部11からの入力信号がある場合、出力決定部10は、下死点探索部11から入力される信号を利用して、通電する相を決定する。一方、下死点探索部11からの入力信号がない場合、出力決定部10は、位置検出部6の位置情報と、速度検出部7の速度情報とに基づいて、出力する信号を決定する。
【0042】
ここで、ブラシレスDCモータ5を駆動する駆動波形としては、例えば、矩形波および正弦波などがあるが、特に、限定されない。矩形波の場合、単純な構成、かつ計算が簡易であるため、安価なマイコンで対応できる。そのため、出力決定部10を、低コストで実現できる。また、正弦波の場合、複雑な計算や電流検出などが必要となるが、より細かくモータの位置の検出が可能となる。そこで、本実施の形態においては、より低コストで実現可能な矩形波駆動を採用して、ブラシレスDCモータ5を駆動する。
【0043】
具体的には、本実施の形態では、モータ駆動装置30は、120度通電の矩形波で駆動される。そのため、インバータ4の上側アームのスイッチング素子4a、4c、4eに、それぞれ120度ずつ、ずらした駆動波形で通電している。同様に、インバータ4の下側アームのスイッチング素子4b、4d、4fにも、それぞれ120度ずつ、ずらした駆動波形で通電している。これにより、スイッチング素子4aと4b、4cと4d、および、4eと4fは、それぞれ、互いの通電期間の間に、60度ずつのオフ期間が存在することになる。
【0044】
ドライブ部9は、出力決定部10で決定されるオン比率と、ブラシレスDCモータ5の電力供給タイミングと、予め決定されているPWM周期に基づいて、インバータ4のそれぞれのスイッチング素子に、ドライブ信号を出力する。
【0045】
ドライブ信号は、インバータ4のスイッチング素子4a~4fを、オンまたはオフする。これにより、ブラシレスDCモータ5の固定子5bに最適な交流電力が印加される。その結果、ブラシレスDCモータ5の回転子5aが回転し、ピストン17bが駆動される。
【0046】
以上のように、モータ駆動装置30は構成される。
【0047】
つぎに、本実施の形態のモータ駆動装置30を用いた冷蔵庫22について、図1から図2Dを参照しながら、説明する。以下の説明では、冷蔵庫22を例に説明するが、冷凍装置でも同じである。
【0048】
冷蔵庫22は、圧縮機17が搭載される。圧縮機17は、レシプロ型で構成される。つまり、圧縮機17は、ブラシレスDCモータ5、クランクシャフト17a、ピストン17bおよびシリンダ17cなどを含む圧縮機構で構成される。ブラシレスDCモータ5の回転子5aの回転運動は、クランクシャフト17aにより、往復運動に変換される。そして、クランクシャフト17aに接続されたピストン17bは、シリンダ17c内を往復運動する。この往復動作により、シリンダ17c内に冷媒が吸い込まれ、吸い込んだ冷媒が圧縮される。
【0049】
なお、レシプロ型の圧縮機17は、吸入ステップおよび圧縮ステップにおいて、トルクの変動が大きく、速度および電流値が大きく変動する。
【0050】
圧縮機17で圧縮された冷媒は、凝縮器19、二方弁18、減圧器20および蒸発器21を順に通って、再び、圧縮機17に戻るという冷凍サイクルを流れる。このとき、凝縮器19では放熱が行われ、蒸発器21では吸熱が行われる。これにより、冷蔵庫22内の冷却および加熱を行うことができる。つまり、冷蔵庫22は、上記冷凍サイクルを実現する圧縮機17を搭載して構成される。
【0051】
二方弁18は、通電によって開閉動作が可能な電磁弁などが用いられる。二方弁18は、圧縮機17の運転中において、開状態とし、凝縮器19と減圧器20とを連通させて、冷媒を流す。一方、圧縮機17の停止中において、二方弁18を閉状態とし、凝縮器19と減圧器20の間を閉塞させて、冷媒が流れないようにする。
【0052】
以上のように、モータ駆動装置30を用いた冷蔵庫22は構成される。
【0053】
[1-2.動作]
以上のように構成された冷蔵庫22に搭載されたモータ駆動装置30の動作について、図2A図4Cを用いて説明する。
【0054】
図3A図4Cにおいて、横軸は時間を表し、縦軸はピストン17bの往復方向と垂直、かつブラシレスDCモータ5の回転軸と垂直の方向の振動振幅を表している。
【0055】
図2Aに示すピストン17bが下死点からブラシレスDCモータ5の回転子5aが正転(時計回り)した場合、図2Bに示すように、ピストン17bの上昇に伴い、シリンダ17cの容積が減少する。これにより、シリンダ17c内に吸い込まれた冷媒が圧縮される。そこから、回転子5aが、さらに回転すると、シリンダ17c内の冷媒の圧力が、凝縮器側の圧力まで上昇する。そして、冷媒の圧力が凝縮器側の圧力まで上昇すると、図2Cに示すように、冷媒を吐き出しながら、ピストン17bが上死点へと到達する。これにより、シリンダ17cの圧縮された冷媒の吐出が完了する。その後、さらに回転子5aが回転すると、図2Dに示すように、ピストン17bが下死点方向に移動する。これにより、シリンダ17c内の容積が増加し、蒸発器21から低圧の冷媒が吸い込まれる。そして、さらに回転子5aが回転すると、再び、ピストン17bが図2Aに示す下死点に到達し、シリンダ17c内の冷媒の圧縮が始まる。以上により、冷媒の吐出および吸引の動作が、繰り返し実行される。
【0056】
一方、図2Aに示す下死点の状態から図2Dで示す状態へと、逆転(反時計回り)した場合においても、上記時計回りと同様に、シリンダ17cの容積は減少して、冷媒が圧縮される。そして、図2Cで示す上死点へとピストン17bが到達するまでに、冷媒の圧縮が行われる。さらに、図2Cの状態からピストン17bが逆転すると、図2Bに示す状態となる。これにより、図2Cに示す冷媒の吐出が完了した状態から、シリンダ17c内へ冷媒が吸い込まれる。その後、さらにピストン17bの逆転が継続されると、図2Aに示す下死点まで、シリンダ17c内への冷媒の吸入が継続される。そして、下死点から上死点に向かってピストン17bが移動する際に、冷媒が圧縮されることとなる。
【0057】
つまり、レシプロ型である圧縮機17は、回転子5aが正転、あるいは逆転でも、ピストン17bは、同様に、シリンダ17c内を往復運動する。そのため、ピストン17bが下死点の状態から正転、あるいは逆転方向に回転した場合、同様に、冷媒の圧縮・吐出ステップが実行される。また、ピストン17bが上死点の状態から正転、あるいは逆転方向に回転した場合、同様に、ピストン17b内に冷媒を吸い込む吸入ステップが実行される。
【0058】
つまり、蒸発器21と凝縮器19との間に圧力差がある状態においては、ピストン17bを上死点方向に動かすには、大きなトルクが必要となる。一方、下死点方向にピストン17bを動かす場合、わずかなトルクでの動作が可能となる。
【0059】
そこで、本実施の形態のモータ駆動装置30は、上記特性を利用して、まず、下死点探索部11は、上死点から下死点へと正転方向に180度回転させるパターンを、ブラシレスDCモータ5に出力する。その後、下死点探索部11は、逆転方向に、同様に、上死点から下死点へと180度回転させるパターンを、ブラシレスDCモータ5に出力する。一方、トルク決定部12は、下死点探索部11で下死点探索を行っている際のトルクを予め決定している。つまり、トルク決定部12は、冷蔵庫22の庫内が十分に冷却された状態で停止した際の圧力条件で停止し、起動した際に、ピストン17bの回転子5aが下死点から60度未満しか圧縮方向に回転しないトルクに決定している。
【0060】
例えば、ピストン17bの停止位置が上死点の手前であれば、トルク決定部12で決定したトルクは、圧縮方向であるため、正転方向へ回転できない。しかし、次の逆転方向に180度回転させる場合は、吸入ステップであるため、トルクがほぼ必要ない。そのため、トルク決定部12で決定した小さなトルクでも、ピストン17bを下死点方向へ回転させ、下死点へと移動させることができる。
【0061】
一方、ピストン17bが上死点を乗り越えたところで停止していた場合、ピストン17bを正転方向に上死点から180度回転させる場合、吸入ステップで、回転が可能である。そのため、ピストン17bは、下死点まで移動する。しかし、逆転方向では、下死点から60度の位置まで回転して、ピストン17bが停止する。そして、最後に、出力決定部10で、下死点に相当する位相を出力する。これにより、下死点付近にある回転子5aは、ピストン17bが下死点に移動する位置まで回転する。つまり、出力決定部10が下死点に相当する位相を出力した場合、ピストン17bは、下死点に近い方向に回転する。例えば、本実施の形態のように4極構成のブラシレスDCモータ5の場合、上死点と下死点に移動するための位相が、同じ位相となる。しかし、ピストン17bは、下死点の方に近い位置にあるため、下死点側に移動することとなる。また、6極構成のブラシレスDCモータ5の場合、下死点と同じ位相は、下死点から120度、上死点方向に回転した位置となる。そのため、回転子5aは、60度未満までしか回転していないので、ピストン17bは、下死点方向に移動する。さらに、8極構成のブラシレスDCモータ5の場合、下死点からの回転可能な範囲を45度未満とするトルクを印加することにより、上記下死点方向への移動が可能となる。さらに大きな極数に関しては、回転子5aの回転の範囲、360を極数で割った値、未満とする。これにより、同様に、上記下死点方向への、ピストン17bの移動が可能となる。
【0062】
ここで、圧縮機17は、振動の発生の要因として、運転開始の際に生じる振動がある。また、圧縮機17は、運転開始後、圧縮から吐出が完了し、吸入へと切り替わる動作において、トルクが急激に減少するために加速が発生し、振動が発生する場合がある。ブラシレスDCモータ5の回転子5aの運動エネルギは、角速度の2乗に比例する。そのため、回転子5aの速度が低いほど、速度の低下と上昇が大きくなるので、発生する振動が大きくなる。
【0063】
一方、圧縮機17は、吸入と吐出の圧力差がある起動において、大きなトルクがかかっている。そのため、回転子5aの速度を上げて、運動エネルギを大きくすることにより、運転開始から通常運転を行う速度までに発生する振動は、ある程度抑制できる。しかし、圧縮機17の運転の開始から上死点を、初めて乗り越えた際には、回転子5aの速度が最も低くなるため、最も振動が発生しやすい。
【0064】
さらに、回転子5aは、クランクシャフト17aが連結されている。そのため、ピストン17bが下死点から回転を開始した際、イナーシャにより、ピストン17bの往復方向と垂直、かつブラシレスDCモータ5の回転軸と垂直の方向に、振動が発生する。また、ピストン17bが上死点を乗り越えた際、急激な加速が発生する。そのため、イナーシャにより、ピストン17bの往復方向と垂直、かつブラシレスDCモータ5の回転軸と垂直の方向に、振動が発生する。この場合、下死点から起動と同様に、加速により発生する振動のため、ピストン17bの下死点および上死点から回転子5aの回転方向に対して発生する振動は、同じ方向である。しかし、圧縮機17から見た場合、クランクシャフト17aは、回転子5aの回転軸を中心に対称の位置となるため、発生する振動は、逆方向となる。
【0065】
以下、上記振動の発生について、図3Aおよび図3Bを用いて、説明する。
【0066】
図3Aは、ピストン17bの下死点からの運転開始時に発生する振動を表す図である。図3Bは、ピストン17bの上死点を乗り越えた際に発生する振動を表す図である。つまり、図3Aおよび図3Bに示すように、ピストン17bの下死点からの回転と、ピストン17bの上死点からの回転において、振動発生開始の方向は、逆の位相となる。
【0067】
そこで、トルク決定部12では、ピストン17bの下死点からの起動した際の振動の周期のタイミングで、上死点を乗り越えるようにトルクを決定する。このとき、ピストン17bの下死点からの起動の振動の周期は、圧縮機17を構成する部品の複合的な固有振動によって決定される。なお、固有振動は、予め、例えばハンマリング試験などで調べておく。
【0068】
また、到達までの時間は、圧縮機17の圧縮仕事と、ブラシレスDCモータ5に発生するトルクと、回転子5aおよび回転子5aに連結された部品のイナーシャに基づいて、計算する。このとき、イナーシャは固定(一定)で、圧縮機17の圧縮仕事は変化する。一方、ブラシレスDCモータ5に発生するトルクは、冷蔵庫22の庫内が十分に冷却された状態の通常運転範囲において、中央となる負荷条件の選択により決定できる。具体的には、選択した負荷条件で、予め、ブラシレスDCモータ5にかかるトルクを計算し、保持する。これにより、トルクをリアルタイムで計算する制御系の負荷を、軽減できる。そのため、性能の低いマイコンでも、上記到達までの時間を容易に計算できる。その結果、制御系に関するコストを、低減できる。
【0069】
そして、上記の方法で予め決定したトルクにより、ピストン17bを下死点から起動した際の振動である図3Aの波形と、上死点を乗り越えた際の振動である図3Bの波形は、タイミング(イ)に示すように、振動周期の開始位置が一致し、逆位相となる。そのため、図3Aの振動と図3Bの振動が、互いに打ち消し合う。これにより、図3Cに示すように、運転開始時の振動と、上死点を乗り越えた時の振動の合成の振動が、図3Aに示す起動時の振動のピークと比較して、約50%程度まで、抑制される。
【0070】
なお、冷蔵庫22の状態が変化した場合、一定のトルクでは、振動の周期が一致しない。しかし、冷蔵庫が十分冷却された状態での負荷は、電源投入時と比較して変化が小さく、振動位相の変化は、±30度以内に収まる。
【0071】
上記状態について、図4Aから図4Cを用いて、説明する。
【0072】
図4Aは、図3Aと同様に、ピストン17bを下死点から起動した際の振動振幅を表す図である。図4Bは、ピストン17bが上死点を乗り越えた際の振動を表す図である。なお、図4Bは、運転開始の振動の周期から位相が、+30度遅れた際の波形を表している。図4Cは、図4A図4Bの合成の振動波形を表す図である。
【0073】
つまり、冷蔵庫22が温まり、負荷状態が重くなると、図4Bに示すように、ピストン17bの上死点までの到達の時間が遅れ、位相がずれる。一方、冷蔵庫22が冷却され、負荷状態が軽くなると、ピストン17bの上死点までの到達の時間が早くなる。そのため、上記位相が、マイナス側にずれることとなる。
【0074】
例えば、図4Aのタイミング(ロ)が示すように、ピストン17bが上死点を乗り越えた際の振動の開始が、30度ずれている。しかしながら、位相のずれが30度でも、図4Cに示すように、図4Aの振動のピークの6割程度の振動ピーク値となる。そのため、位相のずれが発生しても、十分な振動の抑制効果が得ることができる。
【0075】
以下、モータ駆動装置30の下死点探索部11が、下死点を探す制御の詳細に関して、図5を用いて、説明する。
【0076】
図5は、下死点探索部11が下死点を探すフローチャートである。
【0077】
図5に示すように、まず、下死点探索部11は、前回この処理に入ってきたときの外部から入力される目標速度が0(ゼロ)であったか否かを確認する(STEP201)。このとき、目標速度が0(ゼロ)ならば(STEP201のYes)、STEP202へ、目標速度が0(ゼロ)以外ならば(STEP201のNo)、STEP203へ移行する。ここでは、前回の目標速度が0(ゼロ)であるとして、STEP202へ移行する。
【0078】
つぎに、現在の外部から入力される目標速度が、0以外か否かを確認する(STEP202)。このとき、目標速度が0以外であれば(STEP202のYes)、STEP204へ、目標速度が0であれば(STEP201のNo)、STEP203へ移行する。つまり、前回の処理から今回の処理の間に、停止状態から起動するように目標速度が変化したか否かを、判定している。ここでは、現在の目標速度が0以外であるとして、STEP204へ移行する。
【0079】
つぎに、下死点探索部11は、下死点探索のために回転子5aを、どれだけ回転させたかを記録する位相変更量に0(ゼロ)をセットし、現在の出力位相を上死点であるとして初期化する(STEP204)。
【0080】
つぎに、下死点探索部11は、下死点探索のために回転子5aを回転させた量である位相変更量が180未満か否を判定する(STEP205)。このとき、位相変更量が180未満であれば(STEP205のYes)、STEP206へ、位相変更量が180以上ならば(STEP205のNo)、STEP207へ移行する。
【0081】
つぎに、現在の出力位相から30度正転方向に回転した位相を新たな出力位相として出力する(STEP206)。さらに、下死点探索部11で回転子5aをどれだけ回転させたかを記録した位相変更量に回転させた角度と等しい30を加算する(STEP206)。そして、100ms待機した後、STEP205へ移行する。なお、100msの待機は、回転子5aが確実に回転する時間を待っている時間である。なお、この待機時間には、実際に動作を確認しながら、予め決定した値を利用する。
【0082】
そして、STEP205とSTEP206を、それぞれ、6回実行する。その後、STEP205へ戻ってきた際には、位相変更量は180となっているため(STEP205のNo)、STEP205からSTEP207へ移行する。
【0083】
また、STEP204からSTEP206を実行し、STEP207へ移行するまでに、上死点から180度回転する位相が出力される。このとき、クランクシャフト17aと回転子5aの連結部が、上死点から正転時方向の下死点の間にある場合、正転は、吸入ステップに対応する。そのため、微小なトルクでも、正転方向に回転子5aを回転させることが可能となる。これにより、下死点までピストン17bが移動する。一方、クランクシャフト17aと回転子5aの連結部が、下死点から正転方向の上死点の間にある場合、圧縮・吐出ステップに対応する。そのため、ピストン17bが下死点付近にある場合を除き、ほとんど正転方向に回転することができない。これにより、ピストン17bは、下死点から上死点の間にとどまることとなる。
【0084】
なお、本実施の形態では、ブラシレスDCモータ5を、4極、かつ120度の矩形波で駆動する構成としたので、出力位相の変更量を30度回転するとしている。これは、120度の矩形波は、電気的には、60度ずつ位相を変更することに相当し、6種類の出力パターンで1回転となる。また、ブラシレスDCモータ5は、4極構成であるため、回転子の1回転で、電気的に360度を極対数と等しい2周期を出力することとなる。つまり、120度の矩形波の出力位相変更は、回転子の角度に直すと、30度となるためである。一方、6極構成であれば、回転子が1回転するためには、電気的に360度を極対数と等しい3周期出力することとなる。そのため、出力位相の1回の変更に対して、回転子は、20度回転することとなる。つまり、図5に示すSTEP206の変更量は、360を、モータの極対数と転流パターンの数6で除算した結果となる。
【0085】
つぎに、下死点探索部11が下死点探索のために回転子5aを逆転でどれだけ回転したかを記録するために、位相変更量を0にセットし、現在の出力位相を上死点であるとして、初期化をする(STEP207)。
【0086】
つぎに、下死点探索部11が下死点探索のために回転子5aを逆転でどれだけ回転したかを記録した位相変更量が180未満か否かを判定する(STEP208)。位相変更量が180未満であれば(STEP208のYes)、STEP209へ、位相変更量が180以上であれば(STEP208のNo)、STEP210へ移行する。ここでは、STEP207で位相変更量を0に初期化した直後なので、STEP209へ移行する。
【0087】
つぎに、現在の出力位相から30度逆転方向に回転した位相を新たな出力位相として出力する(STEP209)。さらに、下死点探索部11で回転子5aをどれだけ逆方向に回転させたかを記録した位相変更量に回転させた角度と等しい30を加算する(STEP209)。そして、100ms待機した後、STEP208へ移行する。
【0088】
そして、STEP208とSTEP209を、それぞれ、6回実行する。その後、STEP205へ戻ってきた際には、位相変更量は180となっているため(STEP208のNo)、STEP208からSTEP210へ移行する。
【0089】
また、STEP207からSTEP209を実行し、STEP210へ移行するまでに、上死点から逆転方向に180度回転する位相が出力される。このとき、クランクシャフト17aと回転子5aの連結部が、上死点から逆転時方向の下死点の間にある場合、逆転では吸入ステップに対応する。つまり、正転方向の圧縮・吐出ステップで、STEP204~STEP206において、ピストンが下死点に移動していない場合、逆転では吸入ステップに対応する。そのため、微小なトルクでも、正転方向に回転子5aを回転させることが可能となる。これにより、下死点までピストン17bが移動する。一方、クランクシャフト17aと回転子5aの連結部が、すでに下死点に移動している場合、圧縮・吐出ステップに対応する。そのため、ピストン17bは、ほとんど逆方向に回転することができない。これにより、ピストン17bは、下死点付近にとどまることとなる。
【0090】
つぎに、下死点付近にあるピストン17bに、下死点に相当する位相を出力する(STEP210)。これにより、ピストン17bが、確実に下死点へと移動する。
【0091】
つぎに、今回の目標速度を前回の目標速度として記録し、処理を終了する(STEP211)。
【0092】
なお、上記フローが終了後、再び、図5のフローの処理が開始された場合、まず、STEP201における前回の目標速度が0(ゼロ)ではないため(STEP201のNo)、STEP203へと移行する。
【0093】
そして、STEP203では、何も出力せず、STEP211へ移行し、STEP211において、目標速度を更新した後、処理を終了する。
【0094】
また、冷蔵庫22は、庫内が十分に冷却されると、冷凍サイクルを止める。そのため、目標速度が0(ゼロ)となる。この状態で、図5に示す処理を、再び実行すると、前回の目標速度が0(ゼロ)ではないため、図5に示す、STEP201、STEP203、STEP211と、運転中のフローと同じ処理が実行される。そのため、STEP211において、前回の目標速度を更新する際に、目標速度を0(ゼロ)として記録する。
【0095】
そして、再度、図5に示すフローの処理が実行されると、STEP201において、前回の目標速度が0(ゼロ)と記録されているため、STEP202へと移行する。
【0096】
さらに、STEP202においては、今回の目標速度が0(ゼロ)であるため(STEP202のNo)、STEP203を処理後、STEP211へと移行する。つまり、STEP203では、何も出力せず、STEP211において、前回の目標速度が、再度、0(ゼロ)に更新される。
【0097】
以上のように、図5に示すフロー処理を定期的に呼び出して処理することにより、ブラシレスDCモータ5に流れる電流や誘起電圧を検出しない同期運転において、ピストン17bを下死点へと移動させて、起動させることができる。これにより、圧縮機17の吸入と吐出の圧力に差があっても、圧縮機17で発生する振動のピークを抑制して、振動の低減が可能となる。
【0098】
つぎに、本実施の形態のモータ駆動装置30を圧縮機17に用いて、冷蔵庫22に搭載した場合について、図1を参照しながら、説明する。
【0099】
まず、圧縮機17の起動と同時に、二方弁18を開状態とし、減圧器20と凝縮器19とを連通させる。なお、上記では、圧縮機17の起動と同時に、二方弁18を開状態にする例で説明としたが、時間的に多少前後しても問題とはならない。
【0100】
つぎに、圧縮機17の駆動が継続されると、凝縮器19は高圧となる。一方、蒸発器21は、減圧器20で減圧されて、低圧となる。このとき、圧縮機17の凝縮器19につながる吐出側が高圧に、蒸発器21につながる吸入側が低圧となる。
【0101】
ここで、冷蔵庫22の庫内温度が低下し、圧縮機17を停止させた状況を想定する。この場合、二方弁18を開状態で維持すると、徐々に、凝縮器19と蒸発器21との圧力が、バランスしていく。このとき、圧縮機17の吸入側と吐出側との間の圧力差が0.05MPa以下、すなわちバランスしたといえる状態になるまで、冷蔵庫22のシステム構成にもよるが、10分程度かかる。
【0102】
一方、圧縮機17の停止と同時に、二方弁18を開状態から閉状態に移行させると、凝縮器19と蒸発器21との圧力差が、ほぼ維持される、これにより、圧縮機17の吸入側と吐出側に圧力差が残る。
【0103】
ここで、冷蔵庫22の庫内温度が上昇し、再び、圧縮機17を起動させる際に、圧縮機17の停止中に二方弁18を閉めて、圧力差が保持された状態と、圧力がバランスした状態から起動させる場合とを比較する。この場合、二方弁18を閉めて、圧力差を保持した状態で圧縮機17を起動させる方が、凝縮器19と蒸発器21との間に、再び、圧力差を設けるための電力が小さくなる。そのため、冷蔵庫22の省エネルギ化を実現できる。
【0104】
また、圧縮機17の停止中も二方弁18を開状態のままにする場合、および、二方弁18が設けない冷蔵庫の動作について、考察する。
【0105】
具体的には、圧縮機17の停止から圧力がバランスするまでの10分程度が経過する前に、庫内温度が上昇した場合を考察する。この場合、従来の構成であれば、圧縮機17の吸入側と吐出側との圧力差が0.05MPa以下でしか、モータ駆動装置30を起動させることができない。そのため、上記状態においては、10分が経過するまで、モータ駆動装置30の起動を待つ必要がある。
【0106】
しかしながら、本実施の形態の冷蔵庫22は、0.05MPaより大きな差圧でもモータ駆動装置30を起動させることが可能となる。そのため、庫内温度が上昇した場合、圧縮機17の運転が必要なタイミングで、モータ駆動装置30を起動させることができる。これにより、圧縮機17の吸入側と吐出側との圧力がバランスした状態で起動させる場合に比べて、凝縮器19と蒸発器21との間に圧力差を設けるための電力を低減できる。そのため、さらに、冷蔵庫22の省エネルギ化が可能となる。
【0107】
また、二方弁18は、三方弁または四方弁に比べ、冷蔵庫などのシステム構成を簡略にできる。さらに、二方弁18は、圧縮機17の吸入側と吐出側との圧力差を、より確実に維持できる。
【0108】
また、本実施の形態の冷蔵庫22は、圧縮機17を冷蔵庫22の上部に配置してもよい。この場合、手が届きにくい、上部のデッドスペースが小さくなるため、使いやすくなるとともに、庫内体積を拡大できる。一方、圧縮機17の上部への配置により、冷蔵庫22は、加振源である圧縮機17が最も遠い位置に配置される。そのため、冷蔵庫22は、床を支点として、てこの原理で圧縮機17の振動が伝わりやすくなる。しかし、本実施の形態の冷蔵庫22は、圧縮機17の振動のピークを、効果的に抑制できる。そのため、圧縮機17を上部へ配置しても、冷蔵庫22から発生する振動や騒音を小さくできる。
【0109】
[1-3.効果等]
以上で述べたように、本実施の形態のモータ駆動装置30は、圧縮機17と、圧縮機17が圧縮動作を行うためのブラシレスDCモータ5を備える。モータ駆動装置は、圧縮機17の運転開始時の振動と、負荷トルク減少による振動とが、打ち消しあうようにブラシレスDCモータ5の起動トルクと回転開始位置を決定するように構成される。この構成により、モータ駆動装置30は、運転開始時に発生する振動振幅のピークと負荷トルクの減少による急加速によって発生する振動振幅のピークと、を打ち消すように構成される。そのため、上記それぞれの振動振幅のピークが単独で発生する場合と比べて、振動振幅のピークが小さくなる。これにより、圧縮機17から発生する振動を小さく抑制できる。
【0110】
また、本実施の形態のモータ駆動装置30は、圧縮機17のピストン17bの下死点を探索し移動させる下死点探索部11を備え、下死点探索部11により、ピストン17bを下死点に移動させたのち、ブラシレスDCモータ5を回転開始位置に移動させるように構成される。この構成により、モータ駆動装置30は、圧縮機17のピストン17bの位置を把握して、圧縮ステップを乗り越えるために、十分な速度を得る加速期間を確保できる。これにより、圧縮機17の安定した起動が可能となる。
【0111】
また、本実施の形態のモータ駆動装置30は、トルク決定部を12備え、トルク決定部12は、下死点探索部11で決定される回転開始位置を下死点とし、起動トルクを決定する。この構成により、モータ駆動装置30は、運転開始時に発生する振動の方向と、上死点で負荷トルクの減少による振動の発生開始の方向とが逆方向となる。そのため、互いの振動が相殺される。これにより、圧縮機17で発生する振動を、より効果的に抑制できる。
【0112】
また、上記構成により、モータ駆動装置30は、ピストン17bを下死点へ移動したのち、運転開始位置へ、さらに移動させる必要がない。これにより、モータ駆動装置30を、より単純な構成にできる。そのため、能力の低い安価なマイコンでの構成が可能となるため、製品のコストの低減できる。
【0113】
さらに、上記構成により、モータ駆動装置30は、ピストン17bの起動開始位置が固定となる。そのため、起動トルクの決定のための計算が単純となる。これにより、事前に起動トルクを決定する場合、開発期間を短縮できる。一方、起動トルクをリアルタイムに決定する場合でも、安価なマイコンで、短時間で計算できる。
【0114】
また、本実施の形態のモータ駆動装置30は、圧縮機17を、上死点を基準としてみた場合、正転と逆転ともに、非圧縮ステップであり、下死点を基準としてみた場合、正転と逆転ともに、圧縮ステップを含む。下死点探索部11は、ブラシレスDCモータ5を正転と逆転をさせるステップを有するように構成される。この構成により、モータ駆動装置30は、検出することが難しい低速でのブラシレスDCモータ5の位置を、電流や誘起電圧などから検出する必要がない。つまり、モータ駆動装置30は、ブラシレスDCモータ5を同期運転で回転させることにより、ピストン17bを下死点へ移動させることができる。これにより、安価なマイコンで、確実に圧縮機17のピストン17bの位置を把握できる。
【0115】
また、本実施の形態の冷蔵庫22は、上記モータ駆動装置30を備えて構成される。この構成により、負荷トルクが大きく変動する状態から、圧縮機17を起動できる。そのため、冷蔵庫22が停止と、再度、運転を再開するまで間に、圧縮機17の吸入圧力と吐出圧力がバランスするまでの待ち時間が不要となる。これにより、停電や冷蔵庫22の移動などにおける電力の供給停止から復帰した際において、即座に、冷蔵庫22の庫内の冷却の再開が可能となる。
【0116】
また、本実施の形態の冷蔵庫22は、圧縮機17を、筐体上部に備えて構成される。この構成により、冷蔵庫22は、筐体上部に設置される圧縮機の運転開始時に発生する振動が、てこの原理により大きくなっても、モータ駆動装置30の駆動により、筐体への振動の伝達が抑制される。これにより、静粛性の高い冷蔵庫22を提供できる。また、筐体上部のデッドスペースとなりやすい部分に、圧縮機が配置される。そのため、実際に使用できる庫内の収容容積が広がる。これにより、有効収容容積の広い、使いやすい冷蔵庫を提供できる。
【0117】
以上、本開示の技術を、上記実施の形態を用いて説明したが、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲、またはその均等の範囲において、種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本開示は、負荷トルクの変動が大きな圧縮機を起動するためのモータ駆動装置に使用できる。そのため、モータ駆動装置で起動される圧縮機を用いた冷蔵庫、冷凍庫、ショーケース、その他の各種冷凍装置に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0119】
1 交流電源(電源)
2 整流回路
2a,2b,2c,2d 整流ダイオード
3 平滑部
3e 平滑コンデンサ
3f リアクタ
4,205 インバータ
4a,4b,4c,4d,4e,4f スイッチング素子
4g,4h,4i,4j,4k,4l 還流電流用ダイオード
5,201 ブラシレスDCモータ
5a 回転子
5b 固定子
6 位置検出部
7 速度検出部
8 電圧検出部
9 ドライブ部
10 出力決定部
11 下死点探索部
12 トルク決定部
17,203 圧縮機
17a クランクシャフト
17b,202 ピストン
17c シリンダ
18 二方弁
19 凝縮器
20 減圧器
21 蒸発器
22 冷蔵庫
30 モータ駆動装置
204 制御部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6