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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】車両用空調ダクト装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B60H1/00 102L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021043255
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022142959
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 真
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-39840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313015(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00ー3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる車両用空調ダクト装置であって、
空調ユニットの吹出口の下流側に接続され上記吹出口から吹き出した空調風が流れる空気流路を有するダクト部材と、
厚み方向に貫通する多数の貫通孔を有し上記ダクト部材の上記空気流路に上記多数の貫通孔を通じて空調風が通過可能となるように設けられた消音用のシート部材と、
を備える、車両用空調ダクト装置。
【請求項2】
上記ダクト部材の上記空気流路は屈曲部で屈曲しており、上記シート部材は、上記空気流路のうち空調風の流れ方向について上記屈曲部の上流側に設けられている、請求項1に記載の車両用空調ダクト装置。
【請求項3】
上記シート部材は、空調風の流れ方向に対して傾斜した傾斜部を有し、上記傾斜部に上記多数の貫通孔が設けられている、請求項1または2に記載の車両用空調ダクト装置。
【請求項4】
上記シート部材は、上記多数の貫通孔のそれぞれが網目として形成された網目スクリーンとして構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用空調ダクト装置。
【請求項5】
上記ダクト部材の上記空気流路のうち空調風の流れ方向について上記シート部材の下流側に設けられた多孔質の吸音材を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用空調ダクト装置。
【請求項6】
上記ダクト部材の上記空気流路は、空調風が上記シート部材の上記多数の貫通孔を通過して流れる第1流路と、空調風が上記シート部材の上記多数の貫通孔を通過することなく流れる第2流路と、を有し、上記第1流路と上記第2流路の両方に空調風を流す第1空調モードと上記第2流路のみに空調風を流す第2空調モードのいずれかによる選択的な使用が可能とされており、上記吸音材を第1吸音材としたとき、上記第1流路に上記第1吸音材が設けられ、上記第2流路に上記第1吸音材とは別の多孔質の第2吸音材が設けられている、請求項5に記載の車両用空調ダクト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる空調ダクト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車や電気自動車のように、一般的なエンジン車に比べて車室外の騒音源の影響が抑えられた車両の普及に伴い、静粛性の高い快適な車室空間が求められている。このために、騒音の要因の1つである空調ユニットから出る音を抑えたいという要請が高い。
【0003】
一般的に、空調ユニットから吹き出した空調風は、その吹出口からダクト部材に流入してダクト部材を流通したのち、センターレジスタ吹出口、デフロスタ吹出口、フェイス吹出口、フット吹出口などの吹出口から車室内に吹き出される。このとき、例えばセンターレジスタ吹出口のように乗員に比較的近い位置に配置される吹出口について、この吹出口まで空調風を供給するためのダクト部材の空気流路が短く、空調ユニットの吹出口からの距離が近いような構造の場合には、空調ユニットから出る音がダクト部材の空気流路を通じて伝わり直接乗員の耳に届き易くなる。
【0004】
このような問題を解消するためには、空調ユニットから出る音が車室まで届きにくくするための構造が有効である。この構造の一例が、下記の特許文献1に開示されている。この構造は、空調ダクト内に設けた吸音部材を利用し、空調ユニットから吹き出した空調風がその下流の空調ダクト内を流れるときに、吸音材に空調風を接触させることによって消音効果を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-335124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記構造の場合、空調ユニットから吹き出した空調風が吸音材に接触するときの風圧によって消音効果が低下するため、所望の消音レベルに到達するのが難しい。また、吸音材が空調風の流れの邪魔になると空調風の風量が低下するという問題が生じ得る。そこで、空調風を車室内へ供給するための空調ダクト装置の設計に際しては、ダクト内における空調風の風量の低下を抑えつつ高い消音レベルを得るのに有効な技術が必要とされている。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、空調風の風量を確保するとともに高い消音効果を得ることができる車両用空調ダクト装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
車両に設けられる車両用空調ダクト装置であって、
空調ユニットの吹出口の下流側に接続され上記吹出口から吹き出した空調風が流れる空気流路を有するダクト部材と、
厚み方向に貫通する多数の貫通孔を有し上記ダクト部材の上記空気流路に上記多数の貫通孔を通じて空調風が通過可能となるように設けられた消音用のシート部材と、
を備える、車両用空調ダクト装置、
にある。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様の車両用空調ダクト装置において、空調ユニットの吹出口から吹き出した空調風は、その下流側に設けられたダクト部材の空気流路を流れる。ダクト部材の空気流路には消音用のシート部材が設けられており、このシート部材を厚み方向に貫通する多数の貫通孔を通じて空調風が流れる。このとき、空調風は風圧と風量が低下した状態でダクト部材の空気流路をシート部材の下流側へと流れる。
【0010】
上記構成のシート部材によれば、多数の貫通孔において空調風の通過を許容しつつも、空調ユニットから出る音を多数の貫通孔以外の部位で遮蔽することができる。多数の貫通孔を通じて空調風が流れるとき、空気が貫通孔の中で振動するときに摩擦により生じる摩擦熱として空気の流体エネルギーを消費させることで消音効果を得ることができる。このため、空調風を通過させずに単なる空気の反射によって吸音効果を得るような吸音材を単独で使用する場合に比べて、必要な風量を確保しつつ消音効果を向上させることが可能になる。
【0011】
以上のごとく、上述の態様によれば、空調風の風量を確保するとともに高い消音効果を得ることができる車両用空調ダクト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1にかかるインストルメントパネル構造を車室側から視た図。
図2】実施形態1の車両用空調ダクト装置の図1中のII-II線矢視断面図。
図3図2中のシート部材の斜視図。
図4図2のIV-IV線矢視断面図。
図5図2において第1空調モード時の空調風の流れを示す断面図。
図6図2において第2空調モード時の空調風の流れを示す断面図。
図7】実施形態2の両用空調ダクト装置について図2に対応した断面図。
図8】実施形態3の両用空調ダクト装置について図4に対応した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0014】
上述の態様の車両用空調ダクト装置において、上記ダクト部材の上記空気流路は屈曲部で屈曲しており、上記シート部材は、上記空気流路のうち空調風の流れ方向について上記屈曲部の上流側に設けられているのが好ましい。
【0015】
この空調ダクト装置によれば、屈曲部の上流側にシート部材を設けることにより、空気流路に屈曲部を有するダクト部材の場合、空気が反響し易い屈曲部に空調風が達する前にシート部材による消音効果を得ることができる。
【0016】
上述の態様の車両用空調ダクト装置において、上記シート部材は、空調風の流れ方向に対して傾斜した傾斜部を有し、上記傾斜部に上記多数の貫通孔が設けられているのが好ましい。
【0017】
この空調ダクト装置によれば、空調風がシート部材の傾斜部の多数の貫通孔を通過するときに消音効果が得される。このとき、傾斜部の多数の貫通孔の中には空調風が通過するタイミングが互いに異なる貫通孔が存在する。このため、空調風が多数の貫通孔を同時に通過するのに比べて、空調風の風圧及び風量を徐々に下げることができ、シート部材の前後で急激な変動が生じるのを抑制することが可能になる。
【0018】
上述の態様の車両用空調ダクト装置において、上記シート部材は、上記多数の貫通孔のそれぞれが網目として形成された網目スクリーンとして構成されているのが好ましい。
【0019】
この空調ダクト装置によれば、シート部材に汎用性の高い網目スクリーンを用いることによって、シート部材に要するコストを低く抑えることができる。
【0020】
上述の態様の車両用空調ダクト装置は、上記ダクト部材の上記空気流路のうち空調風の流れ方向について上記シート部材の下流側に設けられた多孔質の吸音材を備えるのが好ましい。
【0021】
この空調ダクト装置によれば、ダクト部材の空気流路を流れる空調風は、シート部材の多数の貫通孔を通過した後に、このシート部材の下流側に設けられた多孔質の吸音材に接触する。このとき、多孔質の吸音材の中に音が入り込み、その中で音が大きく拡散するときに吸音効果が得られる。シート部材の下流側に多孔質の吸音材を配置することで、シート部材の多数の貫通孔の中で生じる摩擦音を多孔質の吸音材で吸音できるため、摩擦音がダクト部材の空気流路の下流側へ伝わるのを抑制することができる。また、このとき、空調風をシート部材の多数の貫通孔によって整流し拡散させた状態で多孔質の吸音材に接触させることができる。
【0022】
上述の態様の車両用空調ダクト装置において、上記ダクト部材の上記空気流路は、空調風が上記シート部材の上記多数の貫通孔を通過して流れる第1流路と、空調風が上記シート部材の上記多数の貫通孔を通過することなく流れる第2流路と、を有し、上記第1流路と上記第2流路の両方に空調風を流す第1空調モードと上記第2流路のみに空調風を流す第2空調モードのいずれかによる選択的な使用が可能とされており、上記吸音材を第1吸音材としたとき、上記第1流路に上記第1吸音材が設けられ、上記第2流路に上記第1吸音材とは別の多孔質の第2吸音材が設けられているのが好ましい。
【0023】
この空調ダクト装置によれば、ダクト部材の空気流路のうち空調風がシート部材の多数の貫通孔を通過して流れる第1流路には、シート部材の下流側に多孔質の第1吸音材が設けられている。ダクト部材の空気流路のうち空調風がシート部材の多数の貫通孔を通過することなく流れる第2流路には、多孔質の第2吸音材が設けられている。第1空調モードが選択されると第1流路と第2流路の両方に空調風が流れる。これに対して、第2空調モードが選択されると第2流路のみに空調風が流れる。このため、第1空調モードは、第2空調モードに比べるとシート部材を使用することで消音効果に優れている。第2空調モードは、第1空調モードに比べるとシート部材を使用しないことで圧力損失を抑えることができ風量を確保するのに有利である。
【0024】
(実施形態1)
以下、車両に設けられる空調ダクト装置の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
この実施形態の説明のための図面において、特に断りのない限り、車両後方を矢印RRで示し、車両上方を矢印UPで示し、車両内方を矢印INで示すものとする。なお、これらの方向はそれぞれ、この車両に設けられる空調ダクト装置における当該方向と一致している。
【0026】
図1に示されるように、実施形態1にかかるインストルメントパネル構造は、インストルメントパネル2と、空調ダクト装置10と、を備えている。
【0027】
インストルメントパネル2には、車両1に関連する情報を出力するためのディスプレイ3、空調風を車室内へ吹き出すための複数の吹出口、各種のメーターやスイッチなどの計器類などが適宜に配置されている。
【0028】
インストルメントパネル2の複数の吹出口には、中央に配置された2つのセンターレジスタ吹出口4、左右に配置されたフェイス吹出口、前部や左右に配置されたデフロスタ吹出口、フット吹出口、RR席(後席)用の吹出口などが含まれている。
【0029】
車両1に設けられる空調ダクト装置10は、空調ユニット20で生成された空調風をインストルメントパネル2の複数の吹出口を通じて車室内へ案内するためものである。この空調ダクト装置10は、概して、ダクト部材11と、シート部材13と、吸音材17,18と、を備えている。
【0030】
図2に示されるように、ダクト部材11は、空調風をインストルメントパネル2の複数の吹出口に供給するためのものであり、空調ユニット20の吹出口21の下流側に接続されるように構成されている。このダクト部材11は、樹脂材料を主要な材料として構成されている。
【0031】
ダクト部材11は、空調ユニット20の吹出口21に連通する流入口11aと、各センターレジスタ吹出口4に連通する流出口11bと、空調ユニット20の吹出口21から吹き出した空調風が流れる空気流路12と、を有する。空気流路12は、2つのセンターレジスタ吹出口4のそれぞれに対して設けられている。
【0032】
ダクト部材11は、流入口11aと流出口11bとの間に屈曲筒部11cを有する。このため、ダクト部材11の空気流路12は、屈曲部12cで屈曲しており、空気流路12を流れる空調風の方向が屈曲部12cで変わるようになっている。
【0033】
一般的に、2つのセンターレジスタ吹出口4は、ディスプレイ3の直下の位置のように、インストルメントパネル2の複数の吹出口の中で乗員に最も近い位置に配置される。このため、空調ユニット20から出る音(例えば、空調ユニットで生じる作動音や空調風の吹き出し音)がダクト部材11の空気流路12からセンターレジスタ吹出口4を通じて伝わり乗員の耳に届き易い。そこで、本実施形態では、空調ユニット20から出る音の影響を抑えるために、ダクト部材11の空気流路12にシート部材13と吸音材17,18を設けている。
【0034】
シート部材13は、厚み方向に貫通する多数(「複数」ともいう。)の貫通孔13aを有する薄板状の空気透過部材である。このシート部材13は、消音用或いは遮音用としてダクト部材11の空気流路12に多数の貫通孔13aを通じて空調風が通過可能となるように設けられている。
【0035】
シート部材13は、空気流路12のうち空調風の流れ方向Dについて屈曲部12cの上流側に設けられている。より具体的には、空調ユニット20の吹出口21とダクト部材11の流入口11aとの合わせ面(図2中の仮想線で示す位置にある面)Aで合わせられており、この合わせ面Aからダクト部材11側に若干オフセットした位置にシート部材13が配置されている。
【0036】
ダクト部材11の空気流路12は、空調風の流れ方向Dに直交する方向の流路断面について、空調風がシート部材13の多数の貫通孔13aを通過して流れる第1流路12aと、空調風がシート部材13の多数の貫通孔13aを通過することなく流れる第2流路12bと、を有する。このとき、第1流路12aは、空気流路12の上記流路断面の一部を使用するものであり、第2流路12bは、空気流路12の上記流路断面の残部を使用するものである。シート部材13は、第1流路12aを遮蔽するように設けられている。
【0037】
空気流路12は、第1空調モードと第2空調モードのいずれかによる選択的な使用が可能とされている。特に図示しないものの、乗員が気流偏向ドア(図示省略)を第1空調モードに対応した位置に切り替える操作を行うことによってこの第1空調モードが選択され、乗員が気流偏向ドア(図示省略)を第2空調モードに対応した位置に切り替える操作を行うことによってこの第2空調モードが選択される。
【0038】
ここで、第1空調モードは、空気流路12の第1流路12aと第2流路12bの両方に空調風を流す空調モードである。この第1空調モードには、フェイス吹出口を空調風の吹出口とするフェイスモードや、デフロスタ吹出口を空調風の吹出口とするデフモードなどがある。この第1空調モードによれば、ダクト部材11に空調風を流すのに、空気流路12の流路断面の全体が使用される。
【0039】
これに対して、第2空調モードは、空気流路12において第1流路12aを使用することなく第2流路12bbのみに空調風を流す空調モードである。この第2空調モードは、フット吹出口を空調風の吹出口とするフットモードがある。この第2空調モードによれば、ダクト部材11に空調風を流すのに、空気流路12の流路断面の一部のみが使用される。
【0040】
各空気流路12において、第1流路12aにはシート部材13と第1吸音材17が設けられ、第2流路12bには第1吸音材17とは別の第2吸音材18が設けられている。第1吸音材17は、ダクト部材11の空気流路12のうち空調風の流れ方向Dについてシート部材13の下流側に設けられている。
【0041】
吸音材17,18は、多孔質型の吸音材を適宜に使用することによって構成されるのが好ましい。多孔質型の吸音材として、典型的には、マイクロファイバーからなる不織布素材、ウレタンスポンジ、グラスウール、フェルト、ポリエステル繊維等のような部材が挙げられる。このような多孔質型の吸音材は、使い勝手がよく安価であるという利点を有する。
【0042】
第1吸音材17は、空調風の流れ方向Dに対して傾斜した状態で空調風に接触する接触面17aを有する。このため、空調風が第1吸音材17の接触面17aに接触するときにこの接触面17aで音が反射され吸音される。第2吸音材18は、第1吸音材17と同様に、空調風の流れ方向Dに対して傾斜した状態で空調風に接触する接触面18aを有する。このため、空調風が第2吸音材18の接触面18aに接触するときにこの接触面18aで音が反射され吸音される。
【0043】
吸音材17,18における吸音については、多孔質な吸音材料に音が入り込み、その中で音が大きく拡散することにより、その空気振動が直接内部の気泡部分の空気に伝わる。その際に気泡の面では空気の粘性摩擦が生じ、音のエネルギーの一部が熱のエネルギーに変換されることで反射音が小さくなる。これにより、空調風による伝わる音が吸音される。
【0044】
シート部材13の下流側に多孔質の第1吸音材17を配置することで、シート部材13の多数の貫通孔13aの中で生じる摩擦音を第1吸音材17で吸音できるため、摩擦音がダクト部材11の空気流路12の下流側へ伝わるのを抑制することができる。また、このとき、空調風をシート部材13の多数の貫通孔13aによって整流し拡散させた状態で第1吸音材17に接触させることができる。
【0045】
図3に示されるように、シート部材13は、多数の貫通孔13aのそれぞれが網目として形成された網目スクリーン(「メッシュ状のネット」ともいう。)として構成されている。この網目スクリーンは、共鳴器型の消音材に相当するものであり、空気が貫通孔13aを通る際に貫通孔13aの中で振動し、貫通孔13aまわりの網線との摩擦による生じる摩擦熱として空気の流体エネルギーを消費させることで、消音効果を得るものである。
【0046】
なお、網目スクリーンのメッシュや線径については特に限定されるものではなく、所望の消音レベル、風圧、風量などの設計条件に応じて適宜に選択されるのが好ましい。一例として、メッシュが5~20程度の範囲中から適宜に選択されたメッシュの網目スクリーンや、0.1~2.0mm程度の範囲中から適宜に選択された線径の網目スクリーンを使用することができる。
【0047】
なお、網目スクリーンに代えて或いは加えて、同種の鳴器型の消音材である、パンチングメタル、防音防振ネット等をシート部材13に適宜に使用してもよい。
【0048】
図3及び図4に示されるように、シート部材13は、空調風の流れ方向Dに沿った2つの平面部14と、2つの平面部14の間で空調風の流れ方向Dに対して傾斜した2つの傾斜部15と、2つの傾斜部15の境界に形成された突出部16と、を有する。
【0049】
シート部材13は、2つの傾斜部15によって空調風の流れ方向Dの上流側に向けて凸となる略V字形状をなすように構成されている。シート部材13の略V字形状は、このシート部材13の突出部16が空調風の流れ方向Dの下流側から保持部19によって押圧されることで保持されるようになっている。
【0050】
このシート部材13において、各傾斜部15に到達した空調風は、この傾斜部15に設けられている多数の貫通孔13aを流れ方向Dに通過する。このとき、傾斜部15の多数の貫通孔13aの中には空調風が通過するタイミングが互いに異なる貫通孔13aが存在する。このシート部材13によれば、空調風が多数の貫通孔13aを同時に通過するのに比べて、2つの傾斜部15のそれぞれにおいて空調風の風圧及び風量を徐々に下げることができ、シート部材13の前後で急激な変動が生じるのを抑制することが可能になる。特に、空調風を流れが速い中心部の貫通孔13aに先に通過させることによって、この貫通孔13aで生じた摩擦音が減衰するまでの距離をかせぐことができる。
【0051】
ここで、第1空調モード時及び第2空調モード時の空調風の流れについて図5及び図6を参照しながら説明する。
【0052】
(第1空調モード)
図5に示されるように、第1空調モードが選択されることによって、ダクト部材11の空気流路12において第1流路12aと第2流路12bの両方を通じて空調風が流れる。このとき、第1流路12aでは、シート部材13の貫通孔13aを通過したのち吸音材17,18に接触することなく空気流路12をそのまま下流へと流れる空気流Faと、空調風がシート部材13の貫通孔13aを通過したのち、さらに第1吸音材17の接触面17aに接触して空気流路12を下流へと流れる空気流Fbと、が形成される。一方で、第2流路12bでは、シート部材13の貫通孔13aを通過することなく、第2吸音材18の接触面18aに接触して空気流路12を下流へと流れる空気流Fcが形成される。この第1空調モードは、第2空調モードに比べるとシート部材13を使用することで消音効果に優れている。
【0053】
(第2空調モード)
図6に示されるように、第2空調モードが選択されることによって、ダクト部材11の空気流路12において第2流路12bのみを通じて空調風が流れる。このとき、第1流路12aでは、上記の第1空調モードにおける空気流Fa,Fbは形成されない。これに対して、第2流路12bでは、第1空調モードの場合と同様の空気流Fcが形成される。この第2空調モードは、第1空調モードに比べるとシート部13材を使用しないことで圧力損失を抑えることができ空調風の風量を確保するのに有利である。
【0054】
以下に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
【0055】
実施形態1の空調ダクト装置10において、空調ユニット20の吹出口21から吹き出した空調風は、その下流側に設けられたダクト部材11の空気流路12を流れる。ダクト部材11の空気流路12には消音用のシート部材13が設けられており、このシート部材13を厚み方向に貫通する多数の貫通孔13aを通じて空調風が流れる。このとき、空調風は風圧と風量が低下した状態でダクト部材11の空気流路12をシート部材13の下流側へと流れる。
【0056】
上記構成のシート部材13によれば、多数の貫通孔13aにおいて空調風の通過を許容しつつも、空調ユニット20から出る音を多数の貫通孔13a以外の部位で遮蔽することができる。多数の貫通孔13aを通じて空調風が流れるとき、空気が貫通孔13aの中で振動するときに摩擦により生じる摩擦熱として空気の流体エネルギーを消費させることで消音効果を得ることができる。このため、空調風を通過させずに単なる空気の反射によって吸音効果を得るような吸音材を単独で使用する場合に比べて、必要な風量を確保しつつ消音効果を向上させることが可能になる。
【0057】
以上のごとく、上述の実施形態1によれば、空調風の風量を確保するとともに高い消音効果を得ることができる空調ダクト装置10を提供することができる。
【0058】
実施形態1の空調ダクト装置10によれば、屈曲部12cの上流側にシート部材13を設けることにより、空気流路12に屈曲部12cを有するダクト部材11の場合、空気が反響し易い屈曲部12cに空調風が達する前にシート部材13による消音効果を得ることができる。
【0059】
実施形態1の空調ダクト装置10によれば、シート部材13に汎用性の高い網目スクリーンを用いることによって、シート部材13に要するコストを低く抑えることができる。
【0060】
なお、実施形態1に特に関連する変更例では、シート部材13の傾斜部15の数を1つ或いは3つ以上に変更した構造を採用することもできる。
【0061】
次に、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、上述の実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0062】
(実施形態2)
図7に示されるように、実施形態2の空調ダクト装置110は、ダクト部材11の空気流路12の第1流路12aにシート部材13を備える点で実施形態1の空調ダクト装置10と一致し、吸音材17,18に相当する構成要素を備えてない点で実施形態1の空調ダクト装置10と相違している。
【0063】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0064】
実施形態2によれば、吸音材17,18に相当する構成要素が省略されているため、空調ダクト装置110の構造を簡素化できる。
【0065】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0066】
なお、実施形態2に特に関連する変更例では、空調ダクト装置110において、2つの吸音材17,18に相当する構成要素のいずれか一方が追加された構造を採用することができる。
【0067】
(実施形態3)
図8に示されるように、実施形態3の空調ダクト装置210は、シート部材213の構造について、実施形態1のシート部材13のものと相違している。シート部材213は、2つの傾斜部15によって空調風の流れ方向Dの下流側に向けて凸となる略V字形状をなすように構成されている。
【0068】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0069】
実施形態3のシート部材213によれば、実施形態1のシート部材13の場合と同様に、2つの傾斜部15のそれぞれにおいて空調風の風圧及び風量を徐々に下げることができ、シート部材213の前後で急激な変動が生じるのを抑制することが可能になる。
【0070】
本発明は、上記の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0071】
上述の実施形態では、シート部材13,213をダクト部材11の空気流路12のうち屈曲部12cの上流側において第1流路12aを遮蔽するように設ける場合について例示したが、シート部材13,213を設ける位置はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更が可能である。例えば、所望の風量を確保できる場合には、シート部材13,213を第1流路12aと第2流路12bの両方を遮蔽するように設けることもできる。
【0072】
上述の実施形態では、車両1のインストルメントパネル2に設けられた吹出口に空調風を供給するダクト構造について例示したが、このダクト構造を、車両1においてインストルメントパネル2以外の部位に設けられた吹出口に空調風を供給するダクト構造に適用することもできる。
【符号の説明】
【0073】
1 車両
2 インストルメントパネル
10,110,210 空調ダクト装置(車両用空調ダクト装置)
11 ダクト部材
12 空気流路
12a 第1流路
12b 第2流路
12c 屈曲部
13,213 シート部材
13a 貫通孔
15 傾斜部
17 第1吸音材(吸音材)
18 第2吸音材(吸音材)
20 空調ユニット
21 吹出口
D 空調風の流れ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8